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経済分析 第76号 - 内閣府経済社会総合研究所
<分析4> 製造業の価格変動要因分析 楠田 義・池 俊広 経済においては不断に技術革新が行われ,資 I は じ め に 本係数は断えず変化するものと考えらるが, 1 本研究のねらい 静態的理論モデルによって時点間比較を行っ 本研究は製造業の市場構造を構成する主要 ても,資本係数の変化の影響は分析結果に明 な要素である生産集中度が企業の価格決定ビ 示されえない。本研究では,静態的理論モデ ヘイビアをとおして価格動向にどのような影 ルによって計測を行うとともに,このような 響を与えているかについて計量的に分析する 問題に接近するため,ラストガーテンのモデ のがねらいである。 ルによって計測を行い,その差異について分 先進国経済では製造業は多かれ少なかれ寡 析を行った。このほか,本研究では, (1)単位 占的市場構造を持っているといわれている。 当りの減価償却費,純支払金利等の企業会計 高度成長経済のもとでは,需要の増加が企業 で損金処理される単位資本経費の変化がどの を販売シェア拡大に志向させ競争を助長する ように価格変化倍率に効果を及ぼすか, (2)技 方向に働いたであろうと考えられるが,安定 術の水準,事業所当りの有形固定資本の規模 成長期に入ると相対的に寡占的相互依在性が の変化が,長期間の価格変化倍率にどのよう 強くなり,協調的行動に向う傾向がでてきは な効果を及ぼすかについて分析した。 なお,本研究では,計測の精度の向上のた しないかどうか懸念されよう。製造業の価格 形成が適切に行なわれているかどうかは国民 め,次のような配慮を行った。 (1)出来るだけ大きい標本によって計測を行 生活および資源の配分上重要な問題である。 本研究は, (1)生産集中度の高低によって価 う(最大148サソプル) , (2)工業統計表の四桁 格の変動頻度,分散および価格変化倍率にど 産業分類を基準にとり,費用変数,卸売物価 のような差があるか, (2)費用要因や需給状況 指数,生産集中度等を総て対応させた。 (3)単 が変化したとき生産集中度の高低によって価 位原材料費の計算に当り,″製造品出荷額 格変化倍率にどのような差違が生ずるかにつ に含まれる内国消費税(ICDとする) ″を加 いて分析を行った。 算した。これは,却売物価指数が市場の価格 従来,この種の研究は,主として価格変化 で調査されているため,費用変数について 倍率を生産集中度のほかに,費用要因や需給 もICDを加え,概念調整を 注1行ったものであ 状況の変化倍率によって説明するワイスない る。 しダルトンの価格変動要因分析モデルによっ て分析が行われてきた。静態的理論モデルで あるダルトン型のモデルによる計測では,技 術革新による価格抑制の効果を,原燃料費の 注 1.製造品出荷額等に占めるICDの割合は,砂 糖,ビール,清酒,蒸留酒,混成酒,石油精 製等の産業では非常に大きい。これ等の産業 の生産集中度は非常に高いものと低いものが 原単位の節約および労働単位の節約によっ 混在しているので,費用変数にICDを加算し て説明する。しかし,わが国のような高度成長 ないで計測を行うと,標本の選び方によって - 91 - は生産集中度の計測結果の係数( t −値)を正 年までの期間について最大62の標本について 実証分析を行った。 にシフトさせたり, 逆 に 負にシフトさせたり (2) する。 新庄浩二〔24〕は1961年から1971年までの期間 について暦年ごと,景気変動別に約50の標本に 2 実証分析例 価格変動要因分析についての実証分析は, 多くはミーンズ(gardiner C. means)の 管 理インフレーション仮説に対する批判から出 発した。 ディポウドウィンとセルデン(Depodwin & selden〔6〕)は1963年価格管理の程度が 産業集中の高低によって計測できるという仮 定のもとに初めて価格変化倍率と生産集中度 の単相関回帰分析を行った。 次いで,ワイス(Leonard W. Weiss〔7〕) は,1966年に生産集中度の低い産業も生産集 中度の高い産業も共に,費用要因と需給状況 の変化が価格変化の主な要因となっているこ とに着目し,価格変動要因の分析に生産集中 度とともに費用要因,需給状況の変化を考慮 したモデルによって包括的実証分析を行っ た。ワイス・アプローチによる分析はE.E.C. 諸国について実証を行ったフリップス(phlips 〔10〕 ,1969年),カナダについて実証分析を行 ったセルカーツ・レサージ(sellekaerts & Lesage〔18〕,1973年)等がある。 またダルトン(James A. Dalton〔16〕 )は 1973年に費用要因を構成する費用要因変数が 価格変化倍率に及ぼす効果は費用合計に対す るそれぞれの費用変数の重要度によってきま ることに着目し,費用変数にウェイト付をし たモデルによって実証分析を行った。 さらにラストガーテン(Steven Lustgarten 〔22〕 )は,1975年に使用総資本(有形固定資 産で代用)の変化を考慮に入れたモデルによ って実証分析を行った。 国内においては富田輝博 注1〔23〕1975年7 月,新庄浩二注2〔24〕1975年11月のダルトン型 モデルによる実証分析例等注3がある。 注(1) 富田輝博〔23〕はワイス型モデルによる計測 ついてウェイト付費用変数を用いたモデルに よって実証分析を行った。 (3) この他国内について次のような実証分析例 がある。 価格の変動頻度と生産集中度の単 相 関分析 について小林好宏〔14〕1973年,価格変化倍率 と生産集中度の単相関分析について小林好宏 〔14〕,中城吉郎〔27〕 ,ワイス型モデルによる 実証分析について西川俊作〔20〕1971年7月お よび富田輝博〔23〕1975年の研究がある。 3 対象業種およびデータ 本分析には,次の二種類のデータ群が使用 されている。これ等はそれぞれの統計を産業 別あるいは品目別に対応させ整理したもので ある。 イ) 卸売物価指数(月次系列) (日本銀行)と 生産集中度 (公正取引委員会) ロ) 卸売物価指数,生産集中度,工業統計表 (通商産業省)の主要項目,その他 イ)のデータ群については,主要産業におけ る「累積生産集中度とハーフィソダール指数 の推移(35年∼47年)」 (公正取引委員会,50 年7月)に収録されている品目のうち,製造業 の364品目を基準として,これに対応する卸売 物価指数の品目指数を選定した。 昭和35年1月から52年12月までについて卸売 物価指数の再分類を行ったが,この間基準年 が,35年,40年,45年と違っているので,品 目指数の選定はそれぞれの基準年の指数ごと に行い,次のような方法で45年基準指数に系 列化した注4。 注(4) 名系列のオーバラップする年次の指数から リンク係数を推計し,45年基準指数に系列化 する。 〔リンク方法〕 P (指数系列) 基準 時 R (リンク係数) P1 昭35∼40年 35年 r1 × r2 = R1 P2 昭40∼45年 40年 r2 = R2 を主としたが , ダ ル トン型 モデルに よ っ て も1963年から1966年までと,1966年から1971 - 92 - 修正系 列 P1 × R1 P2 × R2 P3 45年 昭45∼ (注) r1 = 40 P2 40 P1 r2 = 45 P3 45 P2 P3 なお,分析では工業統計表は,昭和35年か ら50年までの期間については20人以上規模調 査を用いていたが,51年から20人以上規模調査 が行われなくなったので,51年を含む期間に なお,品目指数のうち輸入品目については 除外した。また生産集中度の品目分類と対応 範囲を合わせるため,多くの品目で,選定し た卸売物価指数の品目をそれぞれの基準年の 卸売物価指数の品目別ウェイトを用いて加重 平均することによって対応させた。 以上のような方法で,最大約282品目につい て,卸売物価指数(月次系列)と生産集中度 の品目別対応指数を作成した。このデータ群 は,価格変化倍率と生産集中度との単相関分 析および月次系列グラフの原データとして使 用した。 ロ)のデータ群については,工業統計表の4 桁分類産業を基準として対応する卸売物価指 数と生産集中度の品目をイ) のデータ群の中か ら選定し,対応させた。工業統計表の調査産 業は年によって小さい修正があるが,加減法 によって調整のできる産業については,時系 列連結を行った。工業統計表が業種ベースで あるのに対し,卸売物価指数と生産集中度が 品目ベースであるので対応は容易でないが, 最大148業種について対応させた。 ついて行なう回帰分析には30人以上規模調査の データを使用した。 4 対象期間 対象期間 については,工業統計表(通商産 業省)が昭和51年まで利用できるので,原則 として昭和35年から51年までとした。 分析は主として景気変動局面別に行った。 景気変動の期間の区分は景気動向指数 (diffusion Index)(経済企画庁)に準 拠 し た。景気変動の基準日付をもとにして,景気 循環変動の異った局面ごとに期間をくぎり, 谷から山までの期間を景気拡張期とし,山か ら谷までの期間を景気収縮期として,一つの 景気循環期を景気拡張期と景気収縮期の二つ の異った局面をもつ期間に分離し分析を行っ た。ただし,分析に用いる生産集中度調査と 工業統計表が年次データなので景気動向指数 の景気変動の基準日付(四半期別)と必ずし も一致せず,多分に近似的にならざるを得な かった。 景気動向指数による景気変動の基準曰付 谷 山 第1循環 期 谷 拡 36年12月 37年10月 張 間 収 縮 全 循 環 10カ月 52カ月 第2循環 37年10月 39年10月 40年10月 24カ月 12カ月 36カ月 第3循環 40年10月 45年 7月 46年12月 57カ月 17カ月 74カ月 第4循環 46年12月 48年11月 50年 3月 23カ月 16カ月 39カ月 経済企画庁調査局資料 (1) 景気変動別価格変動要因分析の期間の区分 イ) 37年/36年 景気収縮期 ロ) 39年/37年 景気拡張期 さらに,景気変動別分析を補完するため ハ) 40年/39年 景気収縮期 次のような期間区分による分析等も合わせ ニ) 45年/40年 景気拡張期 おこなう。 ホ) 46年/45年 景気収縮期 ヘ) 48年/46年 景気拡張期 ト) 49年/48年 景気収縮期 チ) (2) - 93 - 景気拡張期 短期価格変動要因分析の期間区分 イ) (3) 51年/49年 35年から51年までの各暦年ごと 長期価格変動要因分析の期間区分 イ) 48年/38年の長期スパン ロ) 50年/35年の長期スパン (4) 中期価格変 動 要 因 分析の期間区 分 イ) 40年/35年 高度成長前期 ロ) 48年/40年 高度成長後期 (5) II 1 は じ め に 価格変動の頻度を価格管理の度合の尺度と して利用したのはミーンズに始まる。市場支 石油ショック前後の価格変動要因分析の 配力の強い産業の価格は相対的に時々の需給 期間区分 イ) 48年 /35年 石油ショック前 ロ) 51年 /49年 石油ショック後 状況の変化に敏感に反応しにくく,価格は硬 直的となる傾向があり,反対に市場支配力の 弱い産業の価格は伸縮的な傾向があるといわ 短期の価格要因変動分析は,景気変動別 れている。ここでは価格変動の頻度,不偏分 の価格変動要因の動向をさらにこまかく分 注5 散等と生産集中度がどのような関係にあるか 析するためである。長期および中期の分析 を分析した。 は中長期の産業構造の変化が価格変動要因 イ) にどのように影 響 す る かを 分 析 し,石油 分析対象期間 分析対象期間を昭和35年1月から52年12月 ショック前後に区分しての分 析 は ,高度成 までとし,景気動向指数(経済企画庁) 長期と安定成長期による期間区分と一致す による景気変動局面別の期間,石油ショッ る。 第1表 項 期 目 間 35. 1∼36.12 37. 1∼37.10 景 37.11∼39.10 気 39.11∼40.10 変 40.11∼45. 7 動 45. 8∼46.12 47. 1∼48.11 別 48.12∼49.12 50. 1∼52.12 35. 1∼52.12 長 期 間 35. 1∼48. 9 48.10∼52.12 (注) 価格の変動頻度等と生産集中 度について 変 動 価格の変動頻度等と生産集中度の単純回帰 頻 0.2%以上 0.4%以上 0.6%以上 0.8%以上 1.0%以上 0.2013 (−5.29) 0.1237 (−4.07) 0.1668 (−5.26) 0.1226 (−4.41) 0.0860 (−4.86) 0.0484 (−3.90) 0.0917 (−5.41) 0.0219 (−2.70) 0.0489 (−3.87) 0.0974 (−5.07) 0.1266 (−5.75) 0.0498 (−3.89) 0.1991 (−5.25) 0.1237 (−4.07) 0.1673 (−5.26) 0.1248 (−4.45) 0.0785 (−4.63) 0.0505 (−3.99) 0.1185 (−6.22) 0.0308 (−3.15) 0.0671 (−4.53) 0.1113 (−5.45) 0.1276 (−5.77) 0.0686 (−4.56) 0.1938 (−5.17) 0.1048 (−3.73) 0.1417 (−4.79) 0.1479 (−4.89) 0.0729 (−4.46) 0.0508 (−4.00) 0.1220 (−6.32) 0.0320 (−3.21) 0.0732 (−4.73) 0.1121 (−5.47) 0.1236 (−5.67) 0.0753 (−4.79) 0.1694 (−4.78) 0.1139 (−3.89) 0.1259 (−4.49) 0.1410 (−4.76) 0.0565 (−3.92) 0.0505 (−3.99) 0.1344 (−6.67) 0.0355 (−3.37) 0.0774 (−4.87) 0.1120 (−5.47) 0.1160 (−5.48) 0.0824 (−5.02) 0.1398 (−4.29) 0.0904 (−3.45) 0.1265 (−4.50) 0.1396 (−4.74) 0.0475 (−3.60) 0.0410 (−3.60) 0.1448 (−6.96) 0.0343 (−3.31) 0.0743 (−4.77) 0.1096 (−5.40) 0.1066 (−5.23) 0.0809 (−4.97) 1.上段は自由度修正済決定係数,下段の( 度 正の方向(上方) 負の方向(下方) の変動頻度 0.2359 (−5.83) 0.1548 (−4.60) 0.1982 (−5.82) 0.0432 (−2.64) 0.1040 (−5.37) 0.0526 (−4.07) 0.0756 (−4.89) 0.0175 (2.45) 0.0297 (−3.05) 0.0906 (−4.88) 0.1565 (−6.48) 0.0077 (−1.75) の変動頻度 0.1085 (−3.74) 0.0274 (−2.03) 0.047 (−2.76) 0.0545 (−2.93) 0.0252 (−2.69) 0.0150 (−2.30) 0.0027 (0.51) 0.0782 (−4.98) 0.0044 (−1.48) 0.0423 (−3.33) 0.0525 (−3.64) 0.0220 (−2.66) )の中は t −値である。 - 94 - ク前の期間,石油ショックの後の期間およ ある。 2 モデルのスペシフィケーション び全期間について計測を行う。 ロ) 分析対象品目 (1) 価格の変動頻度と生産集中度の単純回帰 分析対象品目はそれぞれの計測期間で生 分析 産集中度の品目別分類を基準として卸売物 一定の期間の価格の変動頻度と生産集中 価指数が対応する総ての品目とする。 度を品目間のクロスセクションによる単純 ハ) 季節調整等 回帰分析を行う。 原系列および季節調整済の月次時系列 CH (i ) = f (CR (i )) データによって分析を行うが,季節調整は CH:一定期間の価格の変動頻度 季節性の強い品目に限定してセンサス法に CR:四社生産集中度 よって行った。 注 i: 品目 5. 価格変動の頻度の分析については,卸売物 ただし,変動頻度は,変動の幅がそれぞ 価指数と実際の取引価格との間にづれがある とか,品目の性質により価格変更を行ない易 れの前月比で,各々0.2%,0.4%,0.6%, いものと行ないにくいものがあるから,期間 0.8%および1.0%を越えるものについて, 当りの変動頻度を比較して直ちに価格が伸縮 変動の頻度を計測したものである。さら 的であるか硬直的かの判断はできないのでは に,変動幅と関係なく,正および負の方向 ないかという批判がある点に留意する必要が への変動の回数も合わせて計測を行った。 分析結果−自由度修正済決定係数( t 値) (原系列データ使用) 正の方向(上 負の方向(下 方)への変動 方)への変動 幅の累積値 幅の累積値 0.0219 0.0070 (−1.84) (0.51) 0.0257 −0.0088 (−1.97) (−0.20) 0.0393 −0.0050 (−2.54) (−0.58) 0.0342 0.0161 (−2.38) (−1.78) 0.0575 0.0060 (−3.95) (−1.56) 0.0490 0.0183 (−3.93) (−2.49) 0.1722 0.0318 (−7.70) (−3.20) 0.0034 0.1101 (−1.40) (−5.98) 0.0494 0.0399 (−3.88) (−3.50) 0.1452 0.0544 (−6.32) (−3.77) 0.1268 0.0066 (−5.75) (−1.57) 0.0629 0.0990 (−4.36) (−5.53) 不偏分散 −0.0045 (0.72) −0.0046 (0.70) −0.0073 (−0.20) −0.0075 (−0.12) 0.0021 (−1.23) 0.0154 (−2.32) 0.1156 (−6.13) 0.0353 (−3.36) −0.0003 (−0.96) 0.0290 (−2.80) 0.0028 (0.62) 0.0222 (−2.67) グラフの 線の長さ −0.0092 (0.17) −0.0066 (−0.53) 0.0012 (−1.08) 0.0157 (−1.76) 0.0203 (−2.44) 0.0409 (−3.60) 0.1331 (−6.63) 0.0700 (−4.70) 0.0534 (−4.04) 0.1025 (−5.21) 0.0413 (−3.24) 0.1031 (−5.65) - 95 - 価 格 の 変化倍率 0.0050 (−1.24) −0.0075 (−0.43) 0.0762 (−3.46) −0.0057 (0.51) 0.0465 (−3.56) −0.0024 (−0.56) 0.1524 (−7.17) 0.0213 (2.67) −0.0033 (0.32) 0.0554 (−3.80) 0.1409 (−6.10) −0.0020 (0.68) サンプル数 備考(景気動向) 108 拡張期 111 収縮期 134 拡張期 133 収縮期 241 拡張期 281 収縮期 281 拡張期 282 収縮期 272 拡張期 230 全期間 222 石油ショック前 270 石油ショック後 (2) 価格の不偏分散等と生産集中度の単純回 スセクションによる単純回帰分析を行う。 S (i ) = f (CR (i )) S (正の方向の変動幅の累積値): 帰分析 価格変動の測度として,一定期間の価格 の不偏分散をとり,生産集中度と品目間の クロスセクションによる単純回帰分析を行 う。 S ′(i ) = f (CR (i )) S ′(負の方向の変動幅の累積値) : 2 S ( i ) = f ( CR( i )) − Pi −1 ) | P :月次卸売物価指数 P :一定期間の卸売物価指数の算術平 (3) グラフを画いたときの線の長さと生産集 中度との単純回帰分析 均値 昭和35年1月から52年12月までの品目別卸 t :期(月) n :標本数 売物価指数を最も上下の変動幅の大きい品 目の指数がA4版のグラフ用紙一ぱいに画 また,正または負の方向への変動幅の累 けるように上下および横の目盛を定め,各 積値を計算し,生産集中度と品目間のクロ 品目の線の長さと生産集中度とを品目間 第2表 項 期 間 35. 1∼36.12 37. 1∼37.10 景 気 変 動 別 37.11∼39.10 39.11∼40.10 40.11∼45. 7 45. 8∼46.12 47. 1∼48.11 48.12∼49.12 50. 1∼52.12 35. 1∼52.12 長 期 間 35. 1∼48. 9 48.10∼52.12 (注) 変 目 動 価格の変動頻度等と生産集中度の単純回帰 頻 0.2%以上 0.4%以上 0.6%以上 0.8%以上 1.0%以上 0.1621 (−4.66) 0.0956 (−3.55) 0.1307 (−4.58) 0.1023 (−4.00) 0.0736 (−4.48) 0.0386 (−3.50) 0.0677 (−4.62) 0.0171 (−2.42) 0.0410 (−3.55) 0.0813 (−4.61) 0.1114 (−5.36) 0.0411 (−3.54) 0.1641 (−4.69) 0.0921 (−3.49) 0.1356 (−4.68) 0.1105 (−4.17) 0.0768 (−4.58) 0.0534 (−4.10) 0.0918 (−5.41) 0.0294 (−3.09) 0.0572 (−4.18) 0.1006 (−5.16) 0.1182 (−5.53) 0.0589 (−4.22) 0.1667 (−4.73) 0.0807 (−3.26) 0.1250 (−4.47) 0.1251 (−4.46) 0.0688 (−4.33) 0.0547 (−4.15) 0.1043 (−5.80) 0.0347 (−3.33) 0.0659 (−4.48) 0.1066 (−5.32) 0.1150 (−5.45) 0.0690 (−4.58) 0.1517 (−4.49) 0.0924 (−3.49) 0.1150 (−4.28) 0.1087 (−4.14) 0.0542 (−3.84) 0.0544 (−4.14) 0.1248 (−6.40) 0.0403 (−3.58) 0.0717 (−4.68) 0.1080 (−5.36) 0.1089 (−5.29) 0.0781 (−4.88) 0.1328 (−4.17) 0.0700 (−3.05) 0.1105 (−4.19) 0.1188 (−4.33) 0.0460 (−3.55) 0.0490 (−3.93) 0.1453 (−6.97) 0.0347 (−3.33) 0.0747 (−4.78) 0.1080 (−5.36) 0.1021 (−5.11) 0.0807 (−4.96) 1.上段は自由度修正済決定係数,下段の( 度 正の方向(上方) 負の方向(下方) の変動頻度 0.1618 (−4.65) 0.1536 (−4.58) 0.1592 (−5.12) 0.0345 (−2.39) 0.0843 (−4.81) 0.0343 (−3.31) 0.0652 (−4.53) 0.0215 (2.68) 0.0165 (−2.36) 0.0643 (−4.09) 0.1288 (−5.80) 0.0010 (−1.13) の変動頻度 0.0567 (−2.73) 0.0028 (−1.14) 0.0101 (−1.53) 0.0200 (−1.92) 0.0085 (−1.75) 0.0055 (−1.60) 0.0002 (0.97) 0.0769 (−4.94) 0.0064 (−1.66) 0.0247 (−2.61) 0.0270 (−2.67) 0.0249 (−2.80) )の中は生産集中度の t −値である。 - 96 - のクロスセリションによる単純回帰分析に (1) 価格の変動頻度と生産集中度について よって解くものである。 価格の変動頻度と生産集中度との関係に k (i ) = f (CR (i )) k (グラフの線の軌跡の長さ): ついての計測は,価格の変動幅が各々0.2 %,0.4%,0.6%,0.8%および1.0%をこえ るものについて行ったが,景気動向に関係 なく,計測した全ての期間で,生産集中度 と価格の変動頻度の間には負で有意な相 a :月ごとの価格の上下の変動幅 i :品目 関がみられた。これは生産集中度の高い品目 この計測のねらいは次のとおりである。 価格が流動的であるか,硬直であるかどう かは,グラフを画き,目視すればおおむね 直感的な見当がつくが,ここではグラフの 線の長さを計数化し,客観的に判定しよう とするものである。一般に,価格が流動的 な品目のグラフの線は長くなり,価格が硬 直的な品目のグラフの線は短くなる。 3 計測結果 の価格の変動頻度は,生産集中度の低い品 目のそれより相対的に小さいことを示して いる。 (2) 上方または下方への価格の変動頻度と生 産集中度について 上方または下方への価格の変動頻度は方 向にかかわりなく,生産集中度との間に負 の有意な相関があり,生産集中度の高い品 目の価格ほど上方にも下方にも変動する回 分析結果−自由度修正済決定係数( t −値) (季節調整済データ使用) 正の方向(上 負の方向(下 方)への変動 方)への変動 幅の累積値 幅の累積値 0.0209 0.0067 (−1.81) (−0.54) 0.0312 −0.0091 (−2.13) (−0.07) 0.0356 −0.0062 (−2.43) (−0.43) 0.0291 0.0105 (−2.23) (−1.55) 0.0592 0.0050 (−4.01) (−1.48) 0.0531 0.0212 (−4.09) (−2.66) 0.1749 0.0309 (−7.77) (−3.15) 0.0034 0.1150 (−1.40) (−6.12) 0.0497 0.0417 (−3.90) (−3.58) 0.1465 0.0539 (−6.35) (−3.75) 0.1304 0.0054 (−5.84) (−1.49) 0.0630 0.1048 (−4.37) (−5.70) 不偏分散 −0.0046 (0.72) −0.0047 (0.69) −0.0074 (−0.13) −0.0076 (0.01) 0.0018 (−1.20) 0.0158 (−2.34) 0.1168 (−6.17) 0.0354 (−3.36) −0.0006 (−0.92) 0.0290 (−2.80) 0.0028 (0.62) 0.0220 (−2.66) グラフの 線の長さ −0.0091 (0.20) −0.0068 (−0.50) 0.0003 (−0.98) 0.0114 (−1.59) 0.0207 (−2.46) 0.0485 (−3.91) 0.1360 (−6.71) 0.0721 (−4.78) 0.0560 (−4.13) 0.1045 (−5.27) 0.0414 (−3.25) 0.1064 (−5.75) - 97 - 価 格 の 変化倍率 0.0056 (−1.27) −0.0049 (−0.68) 0.0766 (−3.47) −0.0064 (0.40) 0.0481 (−3.62) −0.0027 (−0.51) 0.1551 (−7.24) 0.0213 (2.67) −0.0034 (0.29) 0.0557 (−3.81) 0.1425 (−6.14) −0.0018 (0.71) サンプル数 備考(景気動向) 108 拡張期 111 収縮期 134 拡張期 133 収縮期 241 拡張期 281 収縮期 281 拡張期 282 収縮期 272 拡張期 230 全期間 222 石油ショック前 270 石油ショック後 数が少ないことを示している。 関係について鳥かんする。 ただし,石油ショック直後の昭和48年12 一定期間の価格変化倍率と生産集中度とを 月∼49年12月期については,生産集中度の 品目間のクロスセクションによる単紙回帰分 高い品目の上方への価格の変動頻度が相対 析を行う。モデルのスペシフィケーションは 的に多く,下方への変動頻度は相対的に少 次のとおりである。 P(i ) = f (CR (i )) P :価格変化倍率 CR :四社生産集中度 i :品目 なかった。さらにこの期の下方への変動頻 度の負の有意性は計測を行ったどの期より も高かった。 (3) 上方または下方への価格の変動幅の累積 価格変化倍率と生産集中度の関係を直接計 値と生産集中度について 上方または下方への価格の変動幅の累積 量する単純明解な方法であるが,価格変化 値と生産集中度の間にはおおむね負の有意 倍率の主要な要因である費用要因,需給状 な相関があった。ただし,昭和30年代の価格 況の変化倍率等を説明変数に採用していな 安定期には負の方向への価格の変動幅の累 いので,ダルトンのモデルによる分析の結 積値と生産集中度の間には有意な相関がな 果としばしば差異を生じる。 分析は主として景気変動局面別に全品目 かった。 (4) および次のような階層別に分けて行う。 価格の不偏分散と生産集中度について 昭和40年以前の価格安定期には価格の不 イ) 生産集中度と卸売物価指数が対応する全 品目 偏分散と生産集中度の間に有意な相関はみ ロ) 生産集中度水準別(高集中,中集中およ られなかったが,他の期間については,負 び低集中について) の有意な相関があった。 ハ) 用途別(投資財,生産財および消費財に (5) グラフの線の長さと生産集中度について ついて) グラフの線の長さは,もともと昭和35年1 ニ) 広告宣伝費比率別(ブランド商品および 月から52年12月までの期間について,A 4版のグラフ用紙一ぱいにグラフを図くこと III その他の商品について) を前提として横軸および縦軸の目盛を定め, ホ) 参入障壁水準別(高,中,低の水準別) これを基にして計算したものである。グラ ヘ) 成長率水準別(高,中,低の水準別) フの線の長さと生産集中度の間には長い期 2 計 測 結 果 間をとると負の有意性は高い。景気変動別 (1) 全品目についての分析 にみると,昭和35年代の価格安定期には有 季節調整済月次系列を用いての価格変化 意な相関は計測されないものの,他の期間に 倍率と生産集中度の回帰分 析 結 果(第3 ついてはほとんど負の有意な相関があった。 表)によると,石油ショック以前(昭和48 価格変化 倍 率 と生 産 集 中 度 につ いて 年11月以前)については,次のようなこと がいえる。 1 は じ め に イ) 景気拡張期には例外なく係数の符号が 負 で , t − 値は1%の水準で有意であ 市場構造を構成する主要な要素である生産 る。 集中度と価格変化倍率がどのような関係にあ ロ) 景気収縮期には,係数の符号は負のこ るか分析する。 とが多いいが t −値は総て有意でない。 市場構造を構成する種々の階層ごとの価格 石油ショック後(昭和48年12月以後)をみ 指数グラフを画き,市場構造と価格の動向の - 98 - 第3表 価格変化倍率と生産集中度の回帰分析結果(月次データ使用) P( i )= f ( CR( i ) R2 期間 1 37.1 ∼37.10 −0.0049 2 37.11∼39.10 0.0766 3 39.11∼40.10 −0.0064 4 40.11 ∼ 4 5. 7 0.0481 5 45. 8 ∼ 4 6.12 −0.0027 6 47. 1 ∼ 4 8.11 0.1551 7 48.12∼49.12 0.0213 8 50. 1 ∼ 52.12 −0.0034 9 35. 1 ∼ 52.12 0.0557 10 35.1∼ 48.9 0.1425 11 48.10∼52.12 −0.0018 (注)1. 2. 3. 4. Constant 97.070 (59. 1 5) 107.354 (50. 4 6) 98.163 (68. 7 8) 116.545 (33. 3 0) 99.253 (55. 6 1) 149.894 (38. 8 6) 111.112 (25. 6 1) 104.189 (38. 6 6) 212.974 (18. 2 3) 163.976 (19. 8 1) 138.453 (19. 1 6) CR −0.017 (−0. 6 8) −0.111 (−3. 4 7) 0.009 (0. 4 0) −0.192 (−3. 6 2) −0.014 (−0. 5 1) −0.424 (−7. 2 4) 0.175 (2. 6 7) 0.012 (0. 2 9) −0.669 (−3. 8 1) −0.783 (6. 1 4) 0.077 (0. 7 1) サンプル数 111 備 Down 考 134 Up 133 Down 241 Up 281 Down 281 Up 282 Down 272 Up 230 全期間 222 石油ショック前 270 石油ショック後 卸売物価について季節性のある品目について,センサス法による季節調整済系列を用いた。 Downは景気収縮期,Upは景気拡張期である。 R 2 は自由度修正済の決定係数,上段は係数,( CR は4社生産集中度 ると, イ) 石油ショック直後の景気収縮期(昭和 48年11月∼49年12月)に,景気収縮期とし て初めて係数の符号が正となり, t −値 は1%の水準で有意となった。 ロ) 景気上昇期(昭和50年1月∼52年12月)につ いては, t 値は有意でなかった。 この結果は,景気拡張期には生産集中度 は価格変化倍率との間に負の有意な相関が あり ,生 産 集中度の高い品目の価格ほど安 定し,生産集中度 の 低 い品目ほど価格の上 昇が大きかったことを示している。こ れ は インフレーション期において需給曲線は右 に移動するとき,生 産 集 中 度の高い産業の 価格ほど価格調整の遅れから全般的な価格 の上昇に遅れをとるというラグ理論に合致 する。 景気収縮期には石油ショック直後の昭和 )の中は t −値である。 48年11月∼50年3月を除いて,生産集中度は価 格変化倍率とは無相関である。したがっ て,少なくとも生産集中度と価格変化倍率 という二つの変数に限定した回帰分析結果 からは,景気収縮期において需給曲線が左 に移動するとき,生産集中度の低い産業の 価格はすぐ下降に向うが,生産集中度の高 い産業の価格ほど全般的な価格の下降に遅 れるというキャチアップ理論を否定する結 果がでている。 (2) 階層別分析 イ) 生産集中度水準別 グラフ1によって生産集中度水準(高, 中,低)別に生産集中度と価格動向につ いて長い期間について観察すると,生産 集中度の高い品目グループの価格の上昇 がもっとも低く,反対に生産集中度の低 い品目グループの価格の上昇がもっとも - 99 - 第4表 価格変化倍率と生産集中度の回帰分析結果(年次データ使用) P( i )= f ( CR( i ) R 2 1 37 / 3 6 −0.0161 2 39 / 3 7 0.1904 3 40 / 3 9 −0.0133 4 45 / 4 0 0.1151 5 46 / 4 5 −0.0020 6 48 / 4 6 0.2127 7 49 / 4 8 −0.0062 8 51 / 4 9 0.0200 Constant 98.051 (36. 1 8) 107.889 (47. 3 6) 98.664 (46. 1 8) 119.643 (33. 0 4) 99.633 (52. 9 9) 136.405 (35. 5 9) 131.390 (26. 7 1) 100.811 (27. 3 2) CR −0.006 (−0. 1 4) −0.136 (−3. 9 8) 0.008 (0. 2 5) −0.229 (−4. 0 4) 0.025 (0. 8 5) −0.376 (−6. 3 8) 0.023 (0. 3 1) 0. 113 (1. 9 9) サンプル数 63 備 Down 64 Up 72 Down 119 Up 140 Down 148 Up 148 Down 147 Up 考 (注)1.Upは景気拡張期,Downは景気収縮期を示す。 2 2. R は自由度修正済の決定係数,上段は係数,( )の中は t 一値である。 3. CR は4社生産集中度 高いことがわかる。 のような結果から,価格変化倍率と生産 さらに前出の全品目についての価格変 集中度と間の関係は,生産集中度の全て 化倍率と生産集中度との間の回帰分析で の水準をとおして連続的なものではない は,景気の拡張期には計測を行ったほと ことを実証している。 んどの期間で,価格変化倍率と生産集中 ロ) 用 途 別 度との間には負の有意な相関があったも グラフ2は,投資財,生産財,消資財の のの,収 縮 期 には有意な相関は な かっ 階層別に価格の動向を表わしたものであ た。この結果はグラフからよみとれる価 るが,長期的には(全期間をとおしては) 格動向と矛盾しない。 消費財の価格の値上りが最も小さい。 要約すると,グラフは生産集中度の高 石油ショック前は投資財,消費財,生 い品目グループの価格の上昇は生産集中 産財の順に価格上昇が大きく,石油ショ 度が中位または低い品目グループのそれ ック後には生産財,投資財,消費財の順 よりも低いことを示しており,さらに全 に価格上昇が大きかった。 品目をとおしての回帰分析結果は生産集 回帰分析結果をみると(第6表),消費 中度が高い品目ほど価格の上昇が相対的 財については40/39期と51/49期では価格 に低いことを示している。 変化倍率と生産集中度の間は有意な結果 しかし,生産集中度の高い階層につい は得られなかったが,その他の期では景 ての価格変化倍率と生産集中度との回帰 気変動をこえて生産集中度と価格変化率 分析結果では(第5表),価格変化倍率と との間で有意な負の相関があった。消費 生産集中度との間には正の有意な相関が 財については長い期間をとおしておおむ 観測された。これは生産集中度の高い階 ね生産集中度の高い品目の価格の上昇が 層の中では生産集中度の高い品目の価格 相対的に低かったことを示している。 ほど上昇率が高いことを示している。こ 全品目についての回帰分析結果でみら - 100 - (注) WPI (45年基準)を生産集中度の水準別に高(CR ・75−100),中(CR ・50−75),低(CR ・0−50)の階 層に分け,各階層に属する品目の WPI について45年基準指数のウェイトで加重平均した価格指数をグ ラフに書いたものである, - 101 - 第5表 価格変化倍率と生産集中度の回帰分析結果(生産集中度水準層別) P( i )= f ( CR( i ) 生産集中度0∼50 期間 (年) R2 1 37/36 −0.0476 2 39/37 0.0584 3 40/39 −0.0161 4 45/40 0.0036 5 46/45 −0.0221 6 48/46 0.0905 8 49/48 0.1708 9 51/79 0.0032 生産集中度50∼75 CR の係数 ( t −値) 0.004 (0.03) −0.195 (−1.56) −0.103 (−0.77) −0.218 (−1.07) 0.006 (0.06) −0.644 (−2.49) 1.025 (3.42) 0.231 (1.08) 2 R2 CR の係数 ( t −値) 0.409 (0.94) −0.470 (−1.28) −0.179 (−0.96) −0.153 (−0.46) −0.079 (−0.49) −0.201 (−2.34) 0.750 (2.34) −0.044 (−0.17) −0.0070 0.0412 −0.0037 −0.019 −0.0164 0.0001 0.0838 −0.0202 生産集中度75∼100 R2 CR の係数 ( t −値) 0.0007 0.118 (0.99) 0.232 (1.47) 0.184 (1.13) 0.323 (1.25) 0.153 (0.88) −0.644 (−3.91) −0.115 (−0.34) 0.183 (0.42) 0.0479 0.0117 0.0170 −0.0063 0.2452 −0.0206 −0.0190 全 品 R2 目 CR の係数 ( t −値) 備 考 −0.006 (−0.14) −0.0136 (−3.98) 0.008 (0.25) −0.229 (−4.04) 0.025 (0.85) −0.376 (−6.38) 0.023 (0.31) 0.113 (1.99) Down −0.0161 0.1904 −0.0133 0.1151 −0.0020 0.2127 −0.0062 0.0200 Up Down Up Down Up Down Up (注)1. R は自由度修済正決定係数 2. CR は4社生産集中度 3.Upは景気拡張期,Downは景気収縮期を示す。 第6表 価格変化倍率と生産集中度の回帰分析結果(用途別:階層別) P( i )= f ( CR( i ) 投 期間 (年) 〔サンプル 数〕 R2 1 37/36 〔17〕 −0.0665 2 39/37 〔17〕 −0.0652 3 40/39 〔18〕 −0.0544 4 45/40 〔35〕 0.0688 5 46/45 〔38〕 0.1207 6 48/46 〔39〕 0.1766 7 49/48 〔39〕 −0.0239 8 51/49 〔39〕 −0.0565 資 財 CR の係数 ( t −値) −0.007 (−0.05) −0.0116 (−0.14) 0.030 (0.35) −0.232 (−1.87) 0.192 (2.47) −0.415 (−3.03) −0.047 (−0.33) 0.332 (1.81) 生 〔サンプル 数〕 R2 〔30〕 −0.0357 〔30〕 0.2888 〔34〕 −0.0288 〔53〕 0.1084 〔66〕 −0.0143 〔70〕 0.2260 〔70〕 0.0100 〔70〕 −0.0145 産 財 CR の係数 ( t −値) −0.001 (−0.02) −0.201 (−3.57) 0.013 (0.28) −0.240 (−2.71) 0.010 (0.29) −0.442 (−4.60) 0.161 (1.30) 0.009 (0.11) - 102 - 消 〔サンプル 数〕 R2 〔17〕 0.0832 〔17〕 0.2134 〔20〕 −0.0448 〔31〕 0.1298 〔36〕 0.0358 〔39〕 0.4053 〔39〕 0.0490 〔39〕 −0.0014 費 財 CR の係数 ( t −値) −0.088 (−1.57) −0.106 (−2.31) −0.021 (−0.43) −0.214 (−2.34) −0.058 (−1.52) −0.244 (−5.19) −0.185 (−1.72) 0.068 (0.97) 生 〔サンプル 数〕 R2 〔63〕 −0.0161 〔64〕 0.1904 〔72〕 −0.0133 〔119〕 0.1151 〔140〕 −0.0020 〔148〕 0.2127 〔148〕 −0.0062 〔147〕 0.0200 産 財 CR の係数 ( t −値) 備 考 −0.006 (−0.14) Down −0.131 (−3.98) Up 0.008 (0.25) −0.229 (−4.04) 0.025 (0.85) −0.376 (−6.38) 0.023 (0.31) 0.113 (1.99) Down Up Down Up Down Up - 103 - - 104 - - 105 - - 106 - れなかった景気収縮期における正の相関 が投資財の46/45期と生産財の49/48期にみ られたが,これらの階層の特定の期につ いてはキャッチアップ理論の想定する結 果と一致する。 ハ) 広告宣伝費比率別 広告宣伝費は,もともと産業の内部で 企業の製品にある程度の差があり,買手 が多数にのぼるとき,企業が自社の製品 の差別を強調し,ある一つの製品を他の 競争製品よりも買手に強調するために支 出さ れ る 。 売 手 に と っ て は 製 品 差 別 化 は,非価格競争力を高め一般に市場支配 力を強める。 ここでは広告宣伝費販売高比率(産業 連関表より推計)を,製品差別があるか ないかの判別指標として用いる。 これは概念的には正しい指標であると 第7表 考えられるものの,次のような問題点が ある。 a 広告 宣 伝 費 比 率 のど こ か ら どこ ま で の水 準 が 製品 差 別 化 製品 で あ り ,ま た はそ う で ない の か , 区分 が 難 し い。 た とえ ば , 生 産 集 中 度 が 非 常 に 高 く , 製 品差 別 化 の 進 ん で い る 品 目 に も か か わ らず ,か えっ て 広 告 宣伝 費 比 率 が小 さ いもの(ビール等)があること。 b 産業 連 関 表 の 広 告宣 伝 費 は もと も と 企業 別 の 広 告 宣 伝 費 を 販 売 高 の 構 成比 で産 業 別 に 分 割 し た も の で , 一 社 で多 種の 品目 を生 産 し て いる ば あ い ,本 来 広告 宣 伝 費 を 支 出 し て い な い 品 目 に広 告宣 伝 費 が 配 分 さ れ て い る 可 能 が あ る。 (注) 広告 宣 伝 費 比 率 は , 45年 産 業 連 関 表 によ っ て , 広 告 宣 伝 費 販 売 高 比 率 と し て 価格変化倍率と生産集中度の回帰分析結果(広告宣伝費比率別:階層別) P (i ) = f (CR (i ) AD/VS 0.748未満 AD/VS 0.748以上 全 産 業 期間(年) 〔サンプル数〕 CRの係数 〔サンプル数〕 CRの係数 〔サンプル数〕 CRの係数 R2 1 37/36 〔45〕 −0.0082 2 39/37 〔46〕 0.1751 3 40/39 〔50〕 −0.0122 4 45/40 〔82〕 0.1590 5 46/45 〔99〕 0.0099 6 48/46 〔104〕 0.2574 7 49/48 〔104〕 0.0033 8 51/49 〔104〕 0.0155 ( t −値) −0.032 (−0.80) −0.131 (−3.25) 0.022 (0.64) −0.282 (−4.04) 0.055 (1.41) −0.453 (−6.06) 0.109 (1.16) 0.134 (1.62) R2 〔18〕 −0.0465 〔18〕 0.1775 〔22〕 −0.0463 〔37〕 0.0559 〔41〕 0.0053 〔44〕 0.1125 〔44〕 0.0149 〔44〕 −0.0232 - 107 - ( t −値) 0.052 (0.49) −0.147 (−2.16) −0.019 (−0.27) −0.149 (−1.77) −0.034 (−1.10) −0.212 (−2.54) −0.152 (−1.29) −0.013 (−0.16) R2 〔63〕 −0.0161 〔64〕 0.1904 〔72〕 −0.0133 〔119〕 0.1151 〔140〕 −0.0020 〔148〕 0.2127 〔148〕 −0.0062 〔147〕 0.2200 備考 ( t −値) −0.006 (−0.14) Down −0.131 (−3.98) Up 0.008 (0.25) −0.229 (−4.04) 0.025 (0.85) −0.376 (−6.38) Down Up Down Up 0.023 (0.31) Down 0.113 (1.99) Up - 108 - - 109 - - 110 - 推計したものである。 グラフ6についてみると,広告宣伝費率 が 高 い 品 目 ( 0.748 % 以 上 ) の グ ル ー ブ (Brand Commodityとする)では,低い品目 ( 0.748 未 満 ) の グ ル ー プ ( No-Brand Commodity) と 比 較 し て , グ ラ フ は 景 気変動に対してフラットでかつ長期的に 見て価格の上昇が低い。 またグラフ7および8をみると,特に広 告宣伝費率の高い品目(Brand Commodity) の う ち 生 産 集 中 度 の 高 い 品目 グル ー ブ の 価 格 上 昇 は 他 と 比 較 し て 低 く, 期 間 に よ っ て は 低 下 さ え し て い る。 中位の品目グループの価格上昇率がそれ に続いて低く,生産集中度が低くなるほ ど,価格上昇率は高くなる。 広告 宣 伝 費 の 比 率 の 低 い 品 目 ( NoBrand Commodity)についてみると, 生産集中度の高い品目グループほど価格 の上昇率は低いが,広告宣伝費比率の高 い品目グループ(Brand Commodity) の場合ほどはっきりした差異はない。 回帰分析結果(第7表)によると,広告 宣伝費比率の高い品目は37/36期を除き, 多くの期で価格変化倍率と生産集中度の 間には負の有意な相関がある。したがっ て広告宣伝費比率の高い品目(製品差別 化の強い品目)のうちでも,生産集中度 の高い品目ほど価格の上昇率が相対的に 小いことを示している。 ニ) 参入障壁水準別 参入障壁の水準は企業の価格決定ビ ヘ イビアに影響 を及ぼすも のと考えら れて いる 。 参 入 障 壁 の 要 因 は , 産 業 ご と に異 なり , 産 業 の 持 つ 特 性 に 影 響 さ れ る であ ろう。産業全般を通しての参入障壁の水 準の標準的尺 度を定める ことは容易 では ない。ここでは,次のような四種の参入 障壁となり得る要因を選定し,これ等の 要因 が 個 々 の 産 業 に と っ て 等 し く 対等の - 111 - 参入 障 壁 の 要 因 と な る と い う 仮 定 を 置 く 。さらに個々の要因ごとに,計数の大 きいものから産業に順位をつけ,四つの 要因 の 順 位 を 総 合 し て , 上 位 に 属 す る産 業を高 参 入障 壁 産 業,中 位 を 中参入 障壁 産業, 低 位を 低 参 入障壁 産 業 とそれ ぞれ 区分けした注6。 i 研究 開 発 費 販 売 高 比 率 ま た は 事 業 所 当り特許保有件数 ii 適正 規 模 指 数 ―― 4桁 産 業 別 に 従 業員 規 模 別 出 荷 額 を 上 位 か ら 累 算 し ,全 出 荷 額 の 50% に に 達 す る 規 模 の 事 業 所当 り 出 荷 額 を も と め ,そ れ を 全 出 荷 額 で 除した。 iii 広告宣伝費販売高比率 iv 事業所当り有形固定資産残高 参入 障 壁 の 水 準 は , 新 な 潜 在 的 参 入 の 難易 を 表 わ す も の で あ り , 産 業 の 排 他 的 市場支配力の強弱を示 す。ここでとりあ げた四つの参入障壁の要因はそれぞれ マー ジ ン 率 ( PCM) と 正 の 有 意 な 相 関 があると言われている。 しか し ,一 方 に お い て 参 入 障 壁 の 高 い 産業 は 相 対 的 に 事 業 所 規 模 が 大 きく, 一事 業 所 当 り の 有 形 固 定 資 産 残 高 は 大 きく ,技 術 開 発 能 力 は 高 い で あ ろ う 。わ が国 の よ う に 高 度 成 長 経 済 の も と で は, これ 等 の 産 業 が 資 本 と 技 術 開 発 能 力を基 盤と し て ,技 術 革 新 を と も な う 設 備 投 資 を行 い ,生 産 技 術 の 更 新 と 規 模 の 利 益を 享受 し ,こ れ が 価 格 の 抑 制 に 寄 与 す るこ とが考えられよう。 参入 障 壁 が 卸 売 物 価 と ど の よ う な 関係 があるかを見るため,参入障壁水準別の グループごとに卸売物価指数のグラフを 画くと(グラフ9),石油ショック以前に は参入障壁の高い産業グループの価格の 上昇が最も低く,反対に参入障壁の低い 産業グループの価格の上昇が最も高い。 石油ショック後においても参入障壁の 高い産業のグループの価格の上昇が相対 - 112 - - 113 - - 114 - - 115 - - 116 - 的に低いのは変らないが,参入障壁の中 位の産業グループの産業の価格の上昇が 低い産業グループの価格の上昇よりも高 くなった。しかし,石油価格の高騰が費 用に与える効果は,産業ごとに異なると 考えられるので,これをもって参入障壁 の中位グループに属する企業の価格決定 ビヘイビアに転換があったと即断はでき ないであろう。 さらにグラフによると参入障壁水準別 グループの価格の動向は明らかになるも ののそれぞれのグループの利益率(水準) についての情報はない。 それぞれの参入障壁水準別産業グルー プの利益率(水準)が長期的に変化がな いとすれば,少なくともここで取り上げ た参入障壁要因の基準によって区分した グループ別の価格動向グラフをみるかぎ り,参入障壁の高さによる市場支配力が 価格変化に及ぼす正の効果よりも,参入 障壁 の 高 い 産 業 の グ ル ー プ の 恐 ら く は (実証は出来ないが)生産技術の更新と 規模の利益の享受による価格の抑制の効 果の方が大きかったであろうことが推測 される。 第8表 高 成 R2 1 37/36 −0.0137 2 39/37 0.2068 3 40/39 −0.0347 4 45/40 0.0555 5 46/45 −0.0055 6 48/46 0.1356 7 49/48 −0.0053 8 51/49 0.0730 注6 参入 障 壁 の 水 準 の 区 分 に つ い て は 75ペ ー ジ 表5 わ が 国 製 造 業 に お け る 参 入 障 壁 の 水 準によ る。 ホ) 成長率水準別 一般に生産集中度と成長率(製品出荷 高変化倍率)注7との間には,正の有意な 相関があり,成長率は価格変化倍率との 間に負の有意な相関があるといわれてい る。これは生産集中度の高い品目が相対 的に成長率が高く,成長率の高い品目の 価格の上昇が相対的に小さいことを意味 する。成長率の高い品目ほど規模の拡大 や技術革新による利益を享受し,それが 景気の拡張期に価格の抑制効果として働 くのであろう。 昭和35年から50年までの期間の成長率 が500%をこえる品目を高成長,499%か ら200%までの品目を中成長,200%未満 の品目を低成長とよぶこととし,それぞ れの階層に属する品目の平均価格の時系 列グラフを画くとともに,階層別のクロ スセクションにより価格変化倍率を生産 集中度によって説明する回帰分析を行っ た。回帰分析結果(第8表)によると景気 の拡張期には概ね価格変化倍率と生産 成長率階層別:価格変化倍率と生産集中度の回帰分析結果 長 CRの係数 ( t −値) −0.085 (−0.83) −0.176 (−2.65) −0.022 (−0.26) −0.193 (−1.85) 0.057 (0.87) −0.257 (−2.78) −0.113 (−0.88) 0.223 (2.09) 中 成 R2 −0.0450 0.1235 −0.0346 0.0429 −0.0116 0.1716 −0.0094 0.0208 長 低 CRの係数 R2 成 長 CRの係数 全 R2 ( t −値) ( t −値) 0.003 −0.0719 0.033 −0.0161 (0.10) (0.36) −0.106 0.0259 −0.079 0.1904 (−2.06) (−1.17) 0.016 −0.0364 0.046 −0.0133 (0.36) (0.66) −0.136 0.1821 −0.306 0.1151 (−1.83) (−2.34) 0.022 0.0133 0.078 −0.0020 (0.61) (0.013) −0.219 0.3657 −0.787 0.2127 (−3.63) (−3.78) 0.064 0.3680 0.732 −0.0062 (0.68) (3.79) 0.100 −0.0177 0.123 0.0200 (1.49) (0.77) - 117 - 品 目 CRの係数 ( t −値) −0.006 (−0.14) −0.136 (−3.98) 0.008 (0.25) −0.229 (−4.04) 0.025 (0.85) −0.376 (−6.38) 0.023 (0.31) 0.113 (1.99) 備考 Down Up Down Up Down Up Down Up 集中度の間には負の有意な相関がある が,景気の収縮期にはおおむね相関はな かった。ただし,石油ショック直後の景 気収 縮 期 ( 49/48期 ) に 低 成 長 の 階 層 で,景気拡大期の51/49期に高成長の階 層でそれぞれ正の有意な相関があった。 ただし,景気の拡張期における負の有意 性は全品目のそれよりもおおむね小さか った。 グラフ13によって各階層ごとの平均価 格の動向をみると高成長ほど価格の上昇 が小さかった。 景気の拡張期における成長率水準別階 層の価格変化倍率と生産集中度との間の 負の有意性は全品目のそれに比較して若 干小さくなる。これは成長率の水準によ って区分したために,それぞれの階層の 中での品目ごとの成長率の差が小さくな り,成長による価格の抑制効果の差が少 さくなったことと関連があろう。 注7. 50年/35年期において生産集中度と成長率との 間の相関係数は0.2063であり,48年/38年期におい て成長率と価格変化倍率との間の決定係数は0.2329 である。 IV 多重回帰分析モデルのスペシ フィケーション 1 モデルの選定のための検討 (1)はじめに 価格変動要因についての実証分析が米国 を始めとする諸外国で数多くの実績がある ことは周知のとおりである。生産集中度が 価格変化倍率に与える効果,あるいは管理 インフレーション仮説についての数多くの 実証分析が行われてきた。しかし同じデー タ・ソースを用いて,類似の手法によって 同じ理論に基づいて行われた研究が,往々 にして正反対のテスト結果を報告してい る。このような差異はこの種の研究がデー タの統計処理がやっかいなことからくるバ イアスのみならず,採用するモデルのスペ - 118 - シフィケーションの相違に起因することが 多いとされている。 本研究では出来るかぎり精度の高い計測 を行うため,モデルのスペシフィケーショ ンを行うにあたり費用変数のウェイト付け について検討を行う。 (2)費用変数のウェイト付けについて 研究者による分析結果の相違は,デー タ処理等に起因するものを除けば,多くは 費用変数にウェイト付けをしていないワイ ス型モデルを選定したが,費用変数にウェ イト付けをしたダルトン型モデルを選定し たかによって生ずるものと考えられる。ダ ルトンのモデルが理論的スペシフィケー ションに合致すると考えるが,二つのモデ ルによって,生産集中度の係数( t −値)に どのような差違が生ずるか試算を行った。 イ)費用変動のウェイト付けの理論 ダトルン〔9〕は,1973年に費用変数に ウェイト付けをすることによってワイス の開発した価格変動決定要因分析モデル に修正を加えた。彼のモデルはそれぞれ の産業の価格変化倍率を費用要因と需給 要因の変化倍率および生産集中度の水準 によって説明するものであるが,費用変 数にウェイト付けをした点以外は基本的 にワイス・モデルのスペシフィケーショ ンと変らない。 しかし,彼のこの小さな修正は,この 種のモデルのスペシフィケーションの理 論性を精緻なものとした。 ダルトンのモデルは次の函数を産業間 のクロスセクションによる回帰分析に よって解くものである。 o P(i ) = f (WMC (i ) ,WLC (i ) ,Q ( i ) , Loc , CR (i )) (第3式) P(i ) = f (WMC (i ) , WW (i ) ,, Loc , CR (i )) (第4式) ただし,P:価格変化倍率 WMC :単位原材料費変化倍 率(ウェイト付)