...

大鐘 悠

by user

on
Category: Documents
5

views

Report

Comments

Transcript

大鐘 悠
CSR が及ぼす力
―企業と NPO の連携―
リベラルアーツ学群
国際協力専攻
牧田 東一ゼミ
学籍番号:207d0163
大鐘 悠
1
目次
序章-------------------------------------------------------------------------------------------------------------3
第 1 章 CSR とは-------------------------------------------------------------------------------------------4
第1節
世界の CSR の経緯--------------------------------------------------------------------------4
・ヨーロッパにおける CSR
・アメリカにおける CSR
・日本における CSR
第2節
国際的な動き----------------------------------------------------------------------------------6
第3節
CSR に共通する要素------------------------------------------------------------------------8
第2章
CSR の必要性------------------------------------------------------------------------------------10
第1節
CSR の例---------------------------------------------------------------------------------------10
・ボルヴィック×UNICEF
・コカ・コーラ×UNICEF
・ユニクロ×UNHCR×NPO 法人日本救援衣料センター
第2節
企業の CSR を促進する力-----------------------------------------------------------------12
第3節
企業と NPO のパートナーシップ--------------------------------------------------------13
第3章
CSR の実態---------------------------------------------------------------------------------------15
第1節
NPO と企業の関係---------------------------------------------------------------------------15
第2節
CSR の現状
インタビューをもとに---------------------------------------------------17
・アクションポート横浜(NPO 法人)
・コンサベーション・インターナショナル(NGO)
終章-------------------------------------------------------------------------------------------------------------22
参考文献リスト----------------------------------------------------------------------------------------------24
2
序章
現在、CSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)によってもたらされる影響力は
高いとされ、注目されている。CSR とは、企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ
与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダー(企業の利害関係者)からの要求に対して適切
な意思決定をするということを示している。商品のパッケージや TV など様々なものに目を向け
てみると、企業における社会貢献の様子を知る機会が身近にある。
筆者は大学の授業で、企業の変革についての文献を読んだ時、
「ユニクロはなぜ経済成長してい
るのか?」という話題が出て興味を持った。ちょうど筆者たちが小学生だった頃、ユニクロとい
う企業が人気を出し、筆者たちとともに成長してきたという印象が強くあったために身近な企業
という意識が強く、ユニクロが海外進出していくということに驚いた。さらにユニクロは商品を
回収しリサイクルして、途上国に住む人々へ送るといった難民支援も行っている。大量生産でコ
ストを削減し、リサイクルすることによって無駄をなくし、そのうえ、途上国への支援も同時に
行っているのである。
筆者は、現地からではなく日本から行える援助に関心があったために、企業の力はどのような
ものなのか、どの程度役割を果たすことができるのか、調べていきたいと思った。企業という一
つの組織が、技術を生かし利益目的ではなく社会貢献するという活動が国際協力に大きな力を与
える新しい方法であると考える。
最近では CSR による社会貢献のみにとどまらず、ステークホルダーとの連携によってさまざま
な社会の課題を解決し、企業と社会の持続可能な発展を目指すといった考えがある。企業が社会
の課題解決に貢献するためには、それぞれの分野で専門的に取り組んでいる NPO・NGO を支援
し、さらに社会貢献のパートナーとして協働で活動することが効率的であるとされている。日本
経団連のメンバー企業に対する調査(2006 年 12 月発表)では、57%の企業が NPO を社会貢献活動
推進のパートナーとして認識している [日経 CSR プロジェクト HP 2009.10.8] 。
NPO・NGO は、第三者として企業を監視する役割も担っている。かつてスポーツ用品メーカー
の NIKE が、アジア各国の下請工場の卑劣な労働条件の実態を報道され、NGO から批判を受け
欧米で不買運動が起こった。それをきっかけに労働条件の改善が行われたのである。企業は、専
門知識を持った NGO・NPO と課題解決のためのパートナーとして取り組み、また監視役として
連携していく必要がある。
NGO 側からの意見はどうであるかというと、筆者が大学 3 年の夏に行った NGO 団体でのイン
ターンで、団体の方に CSR について話を伺ってみると、近いうちに企業と手を結びたいと話し、
企業と協力し合うことに関心を持っていた。
これらをふまえて、まずは CSR について研究し、国内外の企業の CSR 活動の成果、信憑性を
調べていきたい。また、企業と NGO のパートナー体制について、現状とその成果・問題点を調
べていきたい。
3
第1章
CSR とは
CSR とは“Corporate Social Responsibility”の略であり日本語では“企業の社会的責任”を
意味している。近年、国内外に問わずよく耳にする言葉となった。社会的責任とはどういうこと
か。CSR はそれぞれの団体がさまざまに定義しているが、基本的には「企業がその事業活動やス
テークホルダーとの関係の中で、社会的、環境的問題を経営活動の中で自主的に取り組んでいく
こと[梅田 2006:66]」と示すことができる。
第1節
世界の CSR の経緯
経済のグローバル化とともに、企業の影響力は飛躍的に強くなってきている。それと同時に先
進国において企業不祥事が多発し、信頼性を失い世界経済の持続的成長に影がかかり始めた。ま
た途上国での貧困や労働問題、環境問題は一国のみで解決できることではなく、多国間の政府、
企業の協力が必要不可欠なってきている。
現在では世界的に注目されている CSR であるが、CSR の始まりは各国によってさまざまであ
る。ここでは、ヨーロッパ・アメリカ・日本に分けて CSR が重要視されていく背景を書いていき
たい。
ヨーロッパにおける CSR
まずはヨーロッパを取り上げる。ヨーロッパでは 1980 年代以降急速に環境意識が高まった。
1993 年発行のマーストリヒト条約で「持続可能な発展(sustainable development)」という概念が
明文化され、EU を主導とした具体的施策が様々遂行されていった [白鳥・萩原 2005:13] 。
さらに大きな問題となったのが失業問題である。90 年代を通じてアメリカの経済は 80、90 年
代ともに失業率を改善したのに対し(表1参照)、特に EU では伝統的な産業が衰退したが、その
ような産業が市場から出ていくことを拒み、失業が続いた。また世界市場での輸出があまり成功
せず、雇用の増加がなかった。EU 加盟国のすべては 1961 年から 73 年の「黄金時代」の失業率
は低く、それ以降激しく上昇した。雇用者側は、税金増大を通じて余分な労働者を雇用したが、
需要に応じて雇ったり首にしたりすることが自由にできなくて国際競争上で不利になった。労働
者側は、低所得者に比較的高い税金がかけられたので、彼らは依然として困窮にあえいだ。
EU の失業の第一の特徴は、長期失業(1 年以上継続して失業)と約 250 万人の 15 歳から 24 歳の
若者の失業率の高さが指摘できる。理由のひとつは、手厚い社会保障制度にあるといわれる。独
仏では、失業前の賃金、または基準賃金の 60~70%が失業保険の年齢などに応じて最長で 3~4
年支給されるため、適した職が見つかるまで長期失業者になる傾向がある。第二の特徴として、
就業率(employment rate:労働力化率)が、日米は 70%を上回っているのに対し、EU では 60%台
前半と低いことである。高齢層(55~65 歳)に対しては、早期勧奨退職制度が広く利用されたため、
若年層と高齢層との格差は大きい[田中・長部・久保・岩田 2001:210-212]。90 年代終盤以降、失
業問題は改善していくが、依然として多くの国で若年失業、フリーターの増大といった問題を抱
えている。
失業問題は犯罪の増加による治安の悪化、家庭の崩壊などを通じて、社会そのものの土台を蝕
んでいく。さらに経済問題の域を超え、社会的一体性を崩壊させるのではないか、という危機感
4
を醸成した。各国政府だけでの解決はできない課題が表面化され、企業を含む政府以外の主体が
公の役割を果たすことへの期待が膨らんでいった。こうした背景を持つヨーロッパの CSR の特徴
として、2001 年「CSR 担当大臣」がイギリスで設置され、国際競争力のある経済と持続可能な
社会の実現に結びつくという考え方から、積極的に CSR の推進を行っている [白鳥・萩原
2005:13] 。
表 1 ヨーロッパ・アメリカ・日本の失業率
(出典:Employment in Europe 2004、Recent Trends and Prospects)
アメリカにおける CSR
アメリカのCSRはヨーロッパと違い、利益の一部を寄付する利益処分の方法であるフィランソ
ロピー 1 の考え方である。アメリカでは、社会的に責任を持つことが結局はその企業の利益につな
がるという説明がされ、アメリカほどフィランソロピーが文化的に浸透し、影響を及ぼしている
国は他にない。
さらに、アメリカは地域社会とのつながりを重視している。国家が成立するまでに、まず地域
社会が成立し、州ができ、最後に国家が成立した。アメリカの地域社会に対する思い入れの程度
は欧州や日本からは理解が難しい。企業は政治的な発言力を維持強化するためにも、地域社会と
のつながりを強くし、また企業と地域社会との関わりは経済活動の延長であるといった考え方を
もっている。そして背景には企業とフィランソロピーとの密接な関係がある。
1951 年、A・P・スミス社の取締役会がプリンストン大学へ 1500 ドルの寄付を行う決議をした。
この行為は同社の利益につながるとの判断のもとであったが、これに対し株主からは異議が唱え
られ、最終的に会社側から確認判決を求める訴訟が提起された。原告会社は、私立の教育機関へ
の寄付は権限内の行為であると主張したのに対し、被告株主側は、その寄付は会社の資金を不当
に流用することになり、株主の財産権を侵害していると反論した。ニュージャージー最高裁判所
は、原告側の主張を全面的に支持する判決を下し、会社には慈善的寄付をする権限が存在するも
のとみなした。企業とフィランソロピーは、1950 年ごろから密接に結びついている。私立大学へ
1
慈善、博愛、慈善活動を示し、特に企業の行うもの
5
の寄付は企業の自己利益になり、社会的責任を果たすことにもつながる[丹下 1999:15-17]。
アメリカでは戦略的フィランソロピーという概念が使われており、米国企業の経営者の見解に
よると、“philanthropy is good business”という概念があり、長期的に企業にプラスになる戦略
でなければならない。単に生産・販売の成功によって利益を得る会社よりも、
「良い会社」と評価
され、
「従業員、顧客、社会から尊敬される会社」になることが目標であり、それが長期的な企業
の安定成長と成功につながると考えられている [丹下 1999: 142-143] 。
日本における CSR
日本において企業の社会的責任という言葉は、70 年代から存在していた。1974 年 8 月に日本
経済新聞社が編集出版した「企業の社会的責任ハンドブック」よると、企業の社会的責任とは、
第一に、「社会に迷惑をかけないこと」、第二に、「企業の本来の機能を全うすること」、第三に、
「企業の本来の機能の枠を超えて、社会的な諸問題の解決に参加、協力するなど、広く社会環境
の改善、向上に積極的に貢献すること」の3つである[梅田 2006.31]。30 年前に提示された考え
方は、現在言われている CSR と大きな差はないということが分かる。
1960 年代は四日市ぜんそくや水俣病などに代表される産業公害や薬害の問題が浮上し、企業の
無過失責任が問われる時代となり、ベトナム戦争に伴う反戦運動や全国の大学で起こった学園紛
争がなども広まり、混乱は増幅された。1973 年に起きた石油ショックで社会に再び不安が押し寄
せ、反企業ムードが高まった。そして 1990 年代、バブル崩壊とともに不祥事が次々と起こり、
コンプライアンス(法令遵守)、コーポレートガバナンス(企業統治)の欠如があらわになった[古賀
2005:66‐69]。一般企業の間でもコンプライアンス体制を確立することへの関心が広がり、90 年
代終盤以降、日本企業の間で、企業倫理の制度化やコンプライアンス体制の構築が急速に進んだ。
同様に 90 年代では、アメリカで行われていたフィランソロピーやメセナという言葉が広く普及す
るようになった。社会貢献活動に質的な変化がはっきりと見られるようになり、金銭的寄付だけ
ではなく、施設・設備、人材といったほかの経営資源を社会に提供することを考える企業が増え
ていき、
“利益還元型”から“経営戦略型”へ移行し始めていった。従業員の自己実現の機会を増
やす狙いから、休職制度やボランティア支援制度を整備する企業が増え、また、企業が NGO と
手を組み実践的な活動を展開するといった事例も増えたことが、90 年代後半の社会貢献活動の特
徴である[梅田 2006:36‐49]。
第2節 国際的な動き
国連グローバル・コンパクト
これらの世界的状況のなかで、1999 年 1 月、世界経済フォーラムに出席した国連のコフィーア
ナン事務総長は、世界各国から集まった財界指導者の前で国連と企業との間に新たな関係を築く
9 つの提案を行った。これは現在 10 の原則を中核に国連グローバル・コンパクトとして公式化さ
れ、地球環境にやさしくバランスの取れた持続可能な発展を目指すことを目的としたプログラム
になっている [梅田 2006:187] 。
国連による企業に対するこのような要請は珍しく、日本の外務省は「世界の経済界と国連が地
球規模の協力を推進することで、コンパクトの原則の促進」を目指す象徴的な出来事であるとし
6
ており、そのキーワードが CSR なのである [古賀 2005:91] 。
国連グローバル・コンパクトの内容は以下の通りである。
国連グローバル・コンパクトの 10 原則
人権
原則 1 企業はその影響の及ぶ範囲内で個々最適に宣言されている人権の擁護を支持し尊重する
原則 2 人権侵害に加担しない
労働
原則 3 結社の自由および団体交渉の権利を実効あるものにする
原則 4 あらゆる形態の強制労働を撤排除する
原則 5 児童労働を実効的に廃止する
原則 6 雇用と職業に関する差別を撤廃する
環境
原則 7 環境問題の予防的なアプローチをする
原則 8 環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブをとる
原則 9 環境にやさしい技術の開発と普及を促進する
腐敗防止
原則 10 強要と贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗を防止するために取り組む
アナン事務総長の提案は、2000 年 7 月に、世界の企業約 50 社の賛同を得てニューヨーク国連
本部で正式に実現された。年々参加団体は増加し、多国籍企業のみならず各国の経済団体、労働
組合、市民組織へと拡大し、インドやフィリピンなどの途上国の団体も参加している[古賀
2005:91]。国内企業で初めて参加したのはキッコーマンであり、2009 年 11 月現在では 99 社が参
加している[UNIC HP 2009,12.6]。しかし、他の欧米などの先進国と比べると極めて少ない数で
あり、日本企業の企業倫理への消極性が指摘されている。
グローバル・コンパクトの正式な運用を決めたニューヨークの会議には、NGO も招かれた。ア
ムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権擁護団体や環境保
護団体などが、アナン事務総長のイニシアチブに賛同を表明した。その一方で、グリンピースを
はじめとする一部の NGO 団体は、グローバル・コンパクトに参加することにより「国連の青旗で
身を包み悪事を覆い隠す[梅田 2006:194]」ことになるだけという理由で参加を見送った。
確かに、グローバル・コンパクトには原則に違反した企業に制裁や手続きを加えるメカニズム
は存在しない。しかし、アナン事務総長が「法律が制定される前に自己の行動を変えよ [梅田
2006:195]」と訴えたように、法的制裁のようなかたちで企業行動を規制することが、グローバル・
コンパクトの基本にある企業倫理や CSR の概念の中核的意味と、両立しうるか考える必要がある
のではないだろうか[梅田 2006:194-195]。
地球的課題の解決に向けて協働していくといった共通の理念の下に行動することを想定してい
るが、今日ではミレニアム開発目標 2 がグローバル・コンパクトと軸を一にして重要な目標である
2
2000 年 9 月にニューヨークで開催された国際ミレニアム・サミットで 21 世紀の国際社会の目標として採択さ
7
と認識されている。
CSR の国際規格
2004 年 6 月に開かれた国際標準化機構(ISO)の会合で、世界の CSR の規格統一が実現した。
そもそも、企業の社会的責任は規格化と馴染みが少ないようにみえるが、なぜ国際的な統一性を
議論したのか。
ISO はスイスのジュネーブに本部を置き、電気や電子分野を除く規格や用語の国際標準を制定
している。国際化が進み製品の移動が国境をこえるようになり、各国の製品の規格がバラバラで
は不都合な点が多いことが認識されてきた。標準化が図られれば、このような問題が一気に解決
するのである。
ISO9000 シリーズ 3 、ISO14000 4 シリーズで知られる環境に関する規格は、国際的な保証規格
であり、これらができたことによって品質や環境のマネジメントが整備された。さらに関心が高
まっているCSRについての議論は、国連グローバル・コンパクトなどで協議が進み必要性が認識
されていた。規格化されればグローバルスタンダードになり、途上国や先進国問わず一定の認知
度を得ることが可能になった[古賀 2005:206]。
ISO において 2001 年から検討が始まった、企業に限らず組織の“社会的責任”に関する第 3
者認証を目的としない国際ガイダンス規格 ISO26000 は、2010 年までに成立が見込まれている。
政府、産業界、労働界、消費者団体、NPO/NGO、専門家、その他(サービス、サポート、研究及
びその他)の六者のステークホルダーが参加し、協議をする。日本も含め各国に国内委員会が設置
され、国際労働機構(ILO)、国連グローバル・コンパクト、経済協力開発機構(OECD)と覚書を交
わし、協力・連帯をしていく予定である[JANIC HP 2009,12.6]。
第3節
CSR に共通する要素
どの定義を見ていても共通する要素があることがわかる。第 1 は、ステークホルダーである。
ステークホルダーとは、利害関係者とも言われ、従業員や消費者、政府、株主、NGO など、企業
と繋がりのあるものすべてを示している。ステークホルダーとのコミュニケーションによって、
アカウンタビリティ(説明責任)を果たすことにより、信頼を獲得することが必要不可欠である。か
つてはステークホルダーが大きな影響力を持っているとは認識されていなかったが、現在ではそ
の見方が変わってきている[白川・萩原 2005:16-17]。
従業員であれば、企業から選ばれるだけでなく、労働環境や企業不祥事などをふまえ、世間か
ら尊敬される企業を求めるようになり、企業と従業員の関係も大きく変わり、企業には多様なス
テークホルダーに配慮した企業活動を行うことが求められるようになった。また消費者であれば、
企業に対して向けたクレームは 10 年前とは大きく変わり、企業の評判を損ねる事態も起きている。
企業不祥事によって消費者の信頼を損ね、企業が解散に追い込まれてしまったケースもある[白
川・萩原 2005 :27-28]。表 2 のように現在でも消費者の企業に対する肯定的な信頼度は半分にも
満たない。今後企業が各々の事業を成功させ社会的責任を果たすことが、信頼度の上昇につなが
3
4
れた国連ミレニアム宣言。平和と安全、開発と貧困、環境、人権などを課題として掲げている。
国際標準化機構による品質を管理・監督する国際規格群。
国際標準機構による環境マネジメントシステムに関する国際規格の総称
8
るはずである。
(経
済広報センターHP「生活者の企業観に関するアンケート調査報告書 2008」より筆者作成)
第 2 に、トリプルボトムラインである。この言葉は、英サステナビリティ社代表のジョン・エ
ルキントンが提唱した概念で、経済・環境・社会の 3 つ意味する。従来企業は、利潤を追求する
ことが主体であり、経済的な観点から評価されていたが、社会的・環境的な観点からも評価し、
バランスの取れた成長をする必要があるという考えが、CSR の基本的な考え方となっている。現
在 CSR 報告書を発行する企業が増え、経済・環境・社会の三つの側面から報告を行う企業が増え
てきている。
EU 委員会は、CSR を「企業が社会及び環境に関する配慮を企業活動及びステークホルダーと
の相互作用の中に自発的に取り入れようとする概念 [古賀 2005:43] 」と定義し、日本の経済産
業省も 2004 年の通商白書で「企業が法律遵守にとどまらず、市民、地域、及び社会等の企業を
取り巻くステークホルダーに利するような形で、自ら、経済、環境、社会問題においてバランス
の取れたアプローチを行うことにより事業を成功させること [古賀 2005:43-44] 」としている。
第 3 に、SRI(社会的責任投資)である。一般の投資は「スクリーニング」と呼ばれ、企業の成長性
や事業戦略など、投資家が大事だと考える要素・基準に基づき投資先企業を絞り込む。SRI はそ
れに加えて、その企業が社会的責任を果たしているか、環境への配慮をした事業を行っているか、
人権に配慮して経営しているかといった社会的、倫理的な観点からもスクリーニングを行ってい
る。もうかるか、もうからないかという観点だけでなく、さまざまな観点から評価を行い、株主
の立場から社会的責任を果たすために企業行動の改善を働きかけている。長期的に見ると、CSR
に積極的に取り組む企業は企業不祥事を起こすリスクが少なく、社会的に信頼もある企業である
ために、そうでない企業に比べると高いリターンが期待できる。また、よりよい社会を作るため
に、CSR に積極的な社会や環境に配慮した事業を行う企業の株を買う SRI 投資家が増えている[白
川・萩原 2005:142-144]。
9
第2章
CSR の必要性
この章では CSR を促進することで社会にどのような結果をもたらしたのか、いくつか例を挙げ
て紹介する。
第1節
CSR の例
ボルヴィック×UNICEF [企業×国連]
ボルヴィックは売り上げの一部をユニセフに寄付し、そのお金からアフリカに井戸を新設し、
その結果1L につき 10L の清潔な水を誕生させる「1L for 10L プログラム」を実施している。従
来からボルヴィックは世界各国で社会貢献をおこない、寄付だけに止まらず、ボルヴィックの販
売元であるダノン社によって貧困層向けの低価格栄養補助食品を開発した。同時にその生産・販
売を通じて現地雇用などを生み出し、子どもたちの健康や安全の確保に取り組んでいる。1L for
10L プログラムは 2005 年にドイツで開始された取り組みであり、2006 年にフランス、2007 年
に日本で実施されたのちアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどもプログラム実施国
に加わった。
2009 年、1L for 10L プログラムは 6 億 3425 万 L の水をマリ共和国に生みだした。アフリカ
にあるマリ共和国は、国土約 124 万平方キロメートル(日本の約 3.3 倍)に、1,237 万人が暮らして
いる。清潔な水を利用できる人は農村部で 2.4 人に 1 人にとどまり、半数以上が泥や池の水や人
手で掘った浅い井戸の水を使用しながら生活している。マリ共和国での 5 歳未満の子どもたちの
死亡率は出生 1000 人当たり 194 人と高く、死亡原因の約 15%は下痢性の病気である。これらの
不衛生な水が下痢や馴染め虫病、コレラなどを引き起こし多くの子供たちの命を危険にさらして
いる。ユニセフは、コミュニティ・学校・環境づくりの 3 つの柱をマリ共和国での水と衛生事業
において大切にしている。地域の人々が積極的に活動に参加し、持続的に保ち運営していくこと
が必要不可欠であった[ボルヴィック HP 2010.2.4]。
表 3 1L for 10L プログラム
実施国
過去の実績
開催時期
支援国
概要
井戸掘削
ドイツ
2005 年~
エチオピア
井戸メンテナンス、トレーニング
スペア部品提供
実績・3 年間で 92 基の井戸を新設
・今後 10 年で 4 万 6 千人に清潔で安全な水を供給可能
井戸掘削
フランス
2006 年~
ニジェール
井戸メンテナンス、ストレーニング
スペア部品提供
実績・2 年間で 60 基の井戸新設
・今後 10 年で 3 万人に清潔で安全な水を供給可能
(出典:ボルヴィック HP 2010.2.4 )
10
コカ・コーラ×UNICEF[企業×行政]
コカ・コーラ社は世界を担う子どもたちを対象に、環境教育・保全プログラムを中心とする「森
を学ぼう」プロジェクトを環境省、林野庁の後援のもとで 2006 年展開している。コカ・コーラが
世界規模で取り組む水資源保護活動の一環としても位置付けられ、「水」とその水を育む森林を
テーマに、自然保護の大切さを理解することを目指している。活動イベントのほかに web サイト
にて森と資源に関する情報を提供し、各種プログラムへの参加、あるいは web サイトで展開して
いる認定テストに合格すると「森の博士」として認定される。2008 年 12 月時点で約 3 万人の「森の
博士」が全国に誕生している。
また、小中学生を対象に、地域社会の環境教育に関する活動の発展を助成するためにコカ・コー
ラ環境教育賞を設立し、環境教育に関する活動が顕著である団体・個人を顕彰している。子ども
たちに環境に対して興味を持ってもらうと同時に、環境保護の大切さや必要性を学ぶ機会を提供
し子どもたちの意識を変えていくプログラムである[コカ・コーラ HP 2010.1.24] 。
ユニクロ×UNHCR×NPO(NPO 法人日本救援衣料センター)[企業×国連×NPO]
表 4 ユニクロの CSR の成果
2008 年度全商品リサイクル活動によって支援された国
1 月:エチオピア
シメルバ難民キャンプ…10 万 5,000 着
5 月:ミャンマー
サイクロン被災地…20 万着
6 月:エチオピア
ケブリヤ・アウパレ難民キャンプ…4 万 5,000 着
シメルバ難民キャンプ…10 万 5,000 着
11 月:ウガンダ
オヤム・リラアドワリ難民キャンプ…14 万着
タンザニア リグフ難民キャンプ…8 万着
(出典:ユニクロ CSR レポート HP 2010.1.25)
ユニクロは「高い倫理観を持った地球市民として行動したい」といった企業倫理に基づいた考え
方から、2006 年から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と協力し、服を通じた支援活動を世界
規模の社会問題である難民問題に対して行っている。そのプロジェクトは「全商品リサイクル活
動」と言われ、不要になった商品を消費者から店舗で預かりリユースあるいはリサイクルをする活
動を推進している。2008 年度、回収した服は約 134 万点になり、その 2%(2 万 6,800 枚分)は繊
維化リサイクル、5%(6 万 7,000 枚分)は燃料化リサイクル(電気エネルギー化)、そして 93%(124
万 6,200 枚分)はリユースし救護医療としてエチオピア、ウガンダ、タンザニアなどへ寄贈した。
UNHCR の駐在事務所副代表である岸守一氏は、「国際機関では手の届きにくい衣料支援におい
て、着なくなった自分の服が誰かの役に立つという点が、実に家族的な支援であり、正装した外
11
交でもなく、作業着を着た井戸掘りでもなく、まさに“普段着の難民支援”と言えます[ユニク
ロ CSR レポート 2009HP 2010.1.25]。」と述べ、今後も継続的な支援を期待している。UNHCR
の協力のもとで、難民キャンプにおける衣料に対するニーズの高さや役割を認識し、リサイクル
からリユースを中心とした活動へとシフトしていった[ユニクロ HP 2010.1.25]。
第2節 企業の CSR を促進する力
CSRの活動は、その企業のみで行うものやステークホルダーと連携して社会貢献をしていくも
のがある。企業とステークホルダーの関係は様々であり、CSR事業を進めるうえで特に重要になっ
てくる。従業員、消費者、地域社会、株主など企業を取り巻くステークホルダーが存在すること
により、企業のCSRの促進あるいは企業に対する批判などを行う役割を持っている。このような
役割を果たす側面を捉えて、
“ステークホルダー・アクティビズム”と呼んでいる。現在確認され
ているアクティビズムは、
「①株主行動主義(shareholder activism) 5 、②消費者行動主義(consumer
activism) 6 、③労働者行動主義(labor activism) 7 、④調達サイド行動主義(procurer activism) 8 、⑤
市民社会行動主義(civil society activism)、⑥規制当局行動主義(regulator activism) 9 [梅田
2006:92-93]」の6つが確認されていると梅田は述べている。
筆者がここで特に注目したのは、市民社会行動主義である。市民社会団体とは、非政府組織
(NGO)と呼ばれる団体を示す言葉であり、欧米には企業行動を監視する活動を展開している市民
団体がいくつか存在している。児童労働、環境破壊などとの関連で問題のある企業の製品をボイ
コットする団体や、企業や政府と手を組んで監視する役割を果たしているものまである。企業と
共同で社会的な課題の解決にむけての取り組みは、その成果が高く評価されている。
日本では、諸外国に比べると NGO の活動が活発であるとは言えない。しかし 1998 年の NPO
法制定以来、NPO の存在は高まり、企業との関係も対峙するよりむしろコラボレーションの相手
として存在意義を高めている。企業にとって実践的な社会貢献プログラムを展開しようとする場
合、NPO の経験やノウハウは必要不可欠なものになりつつある。NPO 側にとっても経済的、社
会的、政治的領域においても、さらに重要な役割を果たしていく可能性がある。
企業と NPO の連携に対する批判
企業と NPO が連帯することによって、社会貢献に繋がるといったイメージが定着しているが、
もちろん批判されるケースも多くある。どのように協働の対等性や倫理性が失われてしまうのか、
検討し理解を深めていく。
まず第1に、「不均衡な力関係」が挙げられる。企業と NPO を比較すると、資金力、規模、政
治的影響力などの点から企業の方が優位的に見られ、企業の利益が最優先されがちであると考え
られる。NPO の持つ専門的知識やノウハウを自社のマーケティングに利用し、NPO に対してサ
5
6
7
8
9
大量株主取得や経営統一によって機関投資家や個人株主が議決権を行使するようになっている現象
問題を解決しようとする消費者の意識の変化が見られ消費者が選択権を担うようになった
労働組合が積極的に CSR を促進し、従業員の自発的な CSR プログラムの運営を行う
グリーン調達(国や自治体、企業が資材や資料を調達する際に環境に配慮した物品を優先的に選択すること)重視
の企業の増加
監視の強化。独占禁止法研究会による独占禁止法の実効性を確保するための勧告など
12
ポートする資金的支援ができず、単なる企業の下請的存在になる可能性がある。
第2に、「成果配分の偏在」が挙げられる。協働事業の結果によって生み出された成果が第 3 者
のステークホルダーへ正当に配分されていない場合がある。企業と NPO は、協働事業が目的と
するところの成果が適正に受益者へ分配されるように見守るともに、どの程度達成されているか
共同の責任を負っている。しかし、パートナー同士がメリットを享受するのに比べ、地域社会へ
の結果は予想し難く、明確ではない。それぞれの役割分担を明確にし、成果の把握と改善が常に
必要である。
第3に、「NPO の独立性への脅威」である。NPO が企業と協調的な関係になり対等な姿勢にな
ればなるほど、企業に反したキャンペーンの展開をしづらくなり、自由な発言が出来ずに独立性
を失うといった批判がある。NPO の力を借り、環境や労働問題を抱えた企業の活動を正当化する
傾向があり、NPO は安易に利用されないように注意を払う必要がある。互いのミッションを尊重
しながらも、持続可能な成長を遂げられるかが重要である。
第3節 企業と NPO のパートナーシップ
企業と NPO が関わっている内容として、寄付金の提供や企業として会員に加入という理由が
多く、資金の少ない NPO にとっては、寄付を受ける事そのものがある意味で社会的認知度の証
明ともなり、営利を目的としている企業に対してそれを求めていることも多くある。一方企業側
も利益の一部を資金提供することは、社会貢献の初期段階ではもっとも分かりやすい活動として
受け入れられてきた。企業が NPO に提供できるものは、お金以外に物資、人、技術、施設、情
報の提供が可能である。
NPO と企業の関係は、NPO 側からの働きかけが多いが、それに応じている企業は少ない。NPO
は企業に対し、連帯の必要に対する理解、NPO 理解についての社内合意などを求めているが、企
業はまだ NPO に対する不安感が残り、NPO に対し専門知識や経験の提供、あるいは具体的な提
携案の掲示を求めたうえで協働事業を推進しようというように、みずからの積極的な要素はまだ
低いのが現状である。また、かかわりを持っていない企業側の理由として、自社の人的資源に制
約がある、財政的余裕がないなどが挙げられた[岸田・高浦 2005:38-44]。
企業と NPO のパートナーシップとはどういったものなのか。パートナーとは互いに補い合っ
て一つのモノを作り上げていくこを指し、当然パートナーは互いが不完全なもの同士である。一
つのモノを作り上げる上で当然互いの意見の不一致が生じる事もある。しかしそれをうまく行か
せるために考える事がパートナーシップの条件である。その条件は「①違いを認め合うこと、②対
等であること、③互いの合意のうえで役割分担をする[岸田・高浦 2005:29]」という3つの要素
が必要であるといわれている。
パートナーシップの3つのタイプ
企業と NPO が連携することは、企業側の宣伝目的や利益目的であるように見られがちである。
当然、社会貢献をしているということはイメージアップにも繋がり、利益が上がるように感じる。
企業と NPO のパートナーシップについて、アメリカの NPO 関連財団などにより 3 つのタイプに
分けられる。第 1 段階の「チャリティ型」(フィランソロピー型)は、企業側がチャリティという概
13
念で NPO へ寄付という形で資金による支援を行うのみで、互いの事業は独立し、企業が NPO に
求める期待度は低く限られた範囲での協働になる。第 2 段階の「トランザクション型」は、NPO と
企業が個々にパートナーシップを持ち、リーダーのレベルで強いつながりがある。互いにパート
ナーという意識が生まれ、相互理解と信用により双方にメリットのある関係をつくっている。第
3 段階の「インテグレーション型」は、NPO と企業がパートナーシップにおいて共通の目的を持ち、
かつそれが地域社会に対して一定の役割を果たしている。それによってプロジェクト開発やサー
ビス提供を行い、企業の様々な人材が関わる機会を提供され、人間関係の構築と相互の組織文化
に影響を与えることも可能になる。
日本と企業の NPO と企業のパートナーシップの現状はチャリティ型が圧倒的に多く、少しず
つトランザクション型に移行している。チャリティ型は NPO の独自性を追求し自由度の高い事
業をつくりだす可能性があるが、協働関係を発展させるといった点では限界がある。今後、NPO
と企業がともに事業を行うインテグレーション型をいかに増やしていくかが大きな課題になって
いる[岸田・高浦 2005:30-34]。
次の例は NPO 側からの働きかけで双方が役割を果たし大きな事業を成功させたものである。
NPO 法人 子供地球基金×三井住友海上火災保険[NPO×企業]
1988 年に設立された子供地球基金(KIDS EARTH FUND)は、「病気や戦争、災害などで心に傷
を負った世界中の子供たちへ画材や絵本、医療品のなどの寄付を続けて[地球子供基金 HP
2010.1.24]」おり、物やお金だけでなく、ぬくもりや希望を届けることも目的としている。共同事
業は 1991 年ごろから始まった。住友海上(当時)の社内報に子供地球基金から“地球にやさしい企
業”として表彰されたという記事が載ったことをきっかけに、1 人の社委員が興味を持ち子供地
球基金の資料を取り寄せ、新たなアイディアを出した。「バレンタイン・デーに、日ごろの感謝を
こめてチョコレートを贈っても、男性社員の方々はあまり召しあがらない。…そこで、子供地球
基金の絵でチャリティ・カードをつくり、贈ってはどうだろうかと思いついたのです。[岸田・高
浦 2005:99]」といったものだった。
カード 1 枚の値段を 200 円と設定し、チョコの代わりにカードを買うことを女性社員に勧め、
印刷代を除いた収益金は 8 万 6,000 円にのぼった。この活動がオリムパス製絲にも影響を与え、
その後の作られたクリスマスカードの収益金の一部がオリンパス製絲の毛糸に変わり、社内外の
ボランティアによって作られた手編みのセーターが紛争・被災地域の子どもたちへ寄付されるよ
うになった。2000 年の収益金約 230 万円が 377 着のセーターに変わり、その他、子供地球基金
がクロアチアに開設したオープンハウス 10 などに寄付された。
この協働事業は子供地球基金にとって組織のミッションそのものであり、NPO に不足している
マネジメント・スキル、資金と、企業に不足している現場での対応、行動力、機動性といった両
者の欠点を補い合った事業となった。NPO がフロント・企業が後方支援といった役割分担のなか
で、互いに期待以上の役割を果たしている[岸田・高浦 2005:96-104]。
10
戦争で精神的に深い傷を負った子どもやストリートチルドレン、HIV に母子感染した子どもに衣食住と医療・
教育などを通じて再び豊かな心を戻せるように精神サポートをする施設
14
第3章
CSR の実態
NPO や企業の人々は、各々と連携を取ることにどういった考えを持っているのだろうか。この
章では文献や筆者が行ったインタビューをもとに、NPO と企業の連携における現状を述べていく。
第1節
NPO と企業の関係
NPO が必要とする経営資源は、「ヒト、モノ、カネ、情報」で考えることができる。人に関し
て言えば、理事、スタッフ、ボランティア、会員といった形が考えられ、さらにそれらを常勤・
非常勤、有給・無給といったようなタイプで細分化することができる。NPO とは何らかの社会課
題解決に関わっている組織であり、多種多様なステークホルダーと上手に関係を構築しなければ
ならないのである。
かつて NPO と企業は「水と油」の関係であると言われていたように、協力関係もあれば緊張
関係もある。協力関係でいえば、寄付や協賛、会費・賛助会費といった金銭的資源による支援が
ある。また、企業に対して助言や提言を行う活動もある。NPO・NGO の専門性を生かしてコン
サルテーションの一環として企業にアドバイスする活動であり、情報的資源を企業に提供してい
ることになる[吉田 2006:85]。
実際に企業側は、NPO を必要としているのだろうか。勤労者ボランティアセンターの 2001 年
の調査(上場企業と資本金 5,000 万円以上の企業を対象にしたアンケート調査、有効回答 1,165 社)
では、次のような結果が出ている。企業の NPO との関係構築に対する考え方は、「NPO との関
係はあまり考えていない」が 40,1%にものぼることが分かった。「すでに協力関係がある」が 4.0%、
「今後密接な関係を築いていきたい」は、1.8%と、積極的な関係構築の姿勢を見せている企業は
5.8%にすぎなかった。その理由として、「NPO に関する情報不足」が 44.3%と最も多く、次いで「経
営で手一杯であり、NPO との関係を考える余裕がない」が 41.5%、「今のところ必要性やメリット
がない」が 34.5%となっている[吉田 2006:98-99]。また NPO 側の考える問題点として、性格の相
違、対等性が保てない、企業側の関心の低さがあげられている。
NPOと関係がある企業とない企業ではどのような違いがあるのだろうか。表 5 を見て分かるよ
うに、NPOとの関わりがあることで、寄付先や物品提供先など具体的に関係が持ちやすく地域貢
献活動がより活発かつスムーズに進められるのではないかと考えることができる。また、NPOと
関わりのある企業のうち環境分野のNPOと関わっている企業は 4 割 11 を超えていた。企業自身が
ISO14001 の取得をはじめ社会的要請に応え環境問題に取り組まなければならないという問題が
背景にあると考えられる。次いで国際協力分野のNPOと関わっている企業が 2 割に及んだ[岸田
2006:35-38]。
11
NPO との関わりがある企業 49 社のうち、NPO の活動分野が明白だった数は 124 であり、具体名のあがって
いない場合は複数の場合も考えられるため 124+αとなる。また、分野が不明なものを加えると 135+αの団体
が企業と関わっていることになる。[企業と NPO のパートナーシップ CSR 報告書 100 社分析 岸田眞代
2006:37]より
15
表 5 NPO と関わりの有無別地域貢献活動
([企業と NPO のパートナーシップ
CSR 報告書 100 社分析
岸田眞代 2006:36]より筆者作成)
数多くある NPO と連携を結ぶにあたり、どういった基準で企業は NPO を選んでいるのだろう
か。2005 年度の社会貢献活動実績調査(回答数 477 社)において NPO を支援・連携する際に重視
する点を聞いたところ[鈴木 2008:80]、第 1 位が運営の透明性(66.7%)、第 2 位が活動実績(50.8%)、
第 3 位が自社の基本方針・分野との一致(47.2%)という結果となった。NPO に関する知識が薄い
企業側にとって、NPO のプログラム企画・提案力、専門性、ネットワークがカギとなってくる。
コーズ・リレイティッド・マーケティング
企業が NPO と協働したり、社会的課題に取り組む方法として、コーズ・リレイティッド・マー
ケティング(Cause Related Marketing、以下 CRM)というスタイルがある。CRM とは、企業と
NPO などが手を組み、製品やサービスなどを社会や環境に貢献する活動を広め、これによって運
動を促進する団体、運動を支援する企業、商品を購入する消費者の三社がメリットを受けるマー
ケティングの仕組みの事を示している(SONY-CSR HP 2010.11.20)。CRM の有名な事例としては、
化粧品会社エイボン・プロダクツによる「乳がん撲滅キャンペーン」があり、中心的なステークホ
ルダーである女性にターゲットを絞りおこなった。コミュニティに対しては医療サービスを受け
られない女性への支援活動を実施、従業員に対してはキャンペーンへのボランティア活動を促し、
消費者に対しては乳がんキャンペーンの象徴であるピンクリボンの印を商品に付け、売り上げの
一部を寄付するといった多層的な取り組みを行っている。この取り組みはアメリカやイギリスだ
けでなく、世界 50 カ国以上に広がりをみせている[谷本 2006 :217-221]。
ステークホルダーの中で社会的責任を果たしバランスのとれた経営を行う CSR とは違い、商品
の売り上げ拡大を図る意図のもとおこなわれる CRM は、企業のマーケティング戦略でありなが
ら社会貢献活動にも今後さらに繋がるだろう。
16
第2節
CSR の現状
インタビュー結果をもとに
NPO と企業の連携が批判されている一方で、前章の最後に述べたように NPO がフロントに立
ち企業が後方支援をする形を取っている連携方法も実際にある。各々はどういったアクションを
起こし、連携し、成果を出すまでに至るのか。筆者が行ったインタビューをもとに連携を取るきっ
かけから相互のメリット・課題まで調査した結果を述べていく。
インタビュー1:アクションポート横浜(NPO 法人)
まず筆者がインタビューを行った相手は、アクションポート横浜 12 というNPO団体である。こ
の団体は、2000 年に横浜市市民活動支援センター 13 が設置されて以降、横浜の地域課題の解決の
ためにセクター間の連携を支援し、自らも先駆的なモデル事業に取り組む新たなNPOとして立ち
上げられた。1.市民と企業の連携によるエコシティの実現、2.多様な文化・属性を持つ人たちの生
活や人権が保障される共生都市の実現。3.市民とNPOが支える地域社会の実現、の3つのミッショ
ンが掲げられており様々な事業を行っている。
アクションポート横浜では、企業・NPO・市民が参加できるプロジェクトをいくつか行ってい
る。その一つが、「横浜サンタプロジェクト」である。横浜に笑顔をプレゼントするというのがプ
ロジェクトのテーマであり、多くの人にとって活動の一歩になり一緒に活動することで連帯感が
生まれることを目的としている。活動内容は、オープンカー等で各地の福祉施設をサンタが訪問
しプレゼントを渡す訪問サンタ、子どもを対象にオープンカーのミニドライブ体験を行うドライ
ブサンタ、広場に集合し子どもたちがサンタとなる広場サンタ、清掃活動を行う清掃サンタの4
つである。このプロジェクトはそもそも、企業が行っていたチャリティ活動が発展したものであっ
た。
筆者の土屋真美子氏、高城芳之氏、小野亜衣氏へのインタビュー(2010 年 11 月 1 日実施)によ
ると、マツダ株式会社 14 (マツダ株式会社R&Dセンター横浜)からアクションポート横浜に、会社
が行っていたチャリティ活動に関する相談があった。企業が出来る事は施設へ行きプレゼントを
渡すことだけであったが、NPOの専門性を活かすことで別な活動も出来るということが分かり、
上記の 4 つの活動が可能となった。清掃活動を行った学生ボランティアや企業からの協力で得た
プレゼントなど、組織の枠を超え一つのプロジェクトが行われた。同じ目的を持って活動してい
るため、個人対個人として顔の見える横のつながりができネットワークが広がるのである。
アクションポート横浜事務局スタッフの小野亜衣氏は、かつてこのプロジェクトに参加してい
る株式会社大川印刷の社員であった。企業の目線から CSR を考えると、確かに会社の名を広める
ためのいい方法であるのも事実であるという。しかし、参加することで地域社会の一員である事
12横浜市市民活動支援センター運営委員会有志、横浜市の
NPO 関係者、企業関係者、大学研究機関関係
者、有識者等が集まり立ち上げられた NPO 団体
13市民と行政の協働により市民活動が活発に行われる環境を整備し、市民の相互連携を促進するとともに、
様々な主体が公共を担う社会の形成に寄与することを目的(横浜市市民活動支援センターHP2010.10.30)として
いる
14〈概要〉資本金:1864 億 9973 万 6762 円 売上高:21,639 億円
従業員数:単体 22,046 名/連結 38,987 名 (マツダ株式会社 HP2011.1.5)
※研究開発拠点の一つとしてマツダ R&D センター横浜が存在する
17
が自覚でき、社会の見え方が変わるのも事実であると話した。成果や利益を出す事が企業人にとっ
て最大の目的であるが、必死でやることで周りが見えなくなり、モチベーションを維持すること
が難しくなる。しかし、こういった地域のプロジェクトに参加することで社会の一員である事を
認識することが出来たという。また、プロジェクトが行われたことで社内のコミュニケーション
が増え組織の成長にも繋がった。
連携を取ることで課題になることは、プロジェクトそのものばかりが注目されるため経緯や背
景を理解してもらうのが難しいことである。なぜこのプロジェクトが行われたのか、どういった
組織が主催しているのか、また連携を結ぶことで生まれる可能性をほとんどの人が知らないのも
事実である。企業は企業、NPO は NPO で固まり、歩み寄らないことで可能性は減ってしまうの
である。また、個人対個人の繋がりは強まるが、その個人が、所属する組織全体を納得させるの
は難しいという。前年度参加していた組織が個人の部署異動で今年度は組織として参加すること
が出来なくなったという例もあった。
金銭面でも筆者の想像していたものとは違う答えが返ってきた。筆者は企業が NPO へ多額の
寄付をしているものと思っていたが、企業側は金銭面であまり力になれないのが事実であった。
NPO から期待されているという事も承知しているようであったが、企業も NPO もお金のためで
はなく一つの目標を達成するために連携を取っているということが明確になった。また、それぞ
れの組織によってもともとのミッションは異なり文化も違う。例えば、企業は利益を出すことを
目的に1分1秒でも仕事を早く進めようとスピーディーに事を済ますが、NPO はこういった考え
方ではない。メールが出来ない団体もいるほど、企業よりもスキルが低く時間軸も異なるのであ
る。
普段は違うフィールドにいるため、価値観が異なりミッションを共有することが難しくなって
しまう。しかし、もとのフィールドが違うからこそ新しい可能性が生まれるのである。ただプロ
ジェクトを楽しむだけではなく、その存在価値が社会に広まることで、企業と NPO が連携をと
ることに意味があるのではないかと筆者は考える。
インタビュー2:コンサベーション・インターナショナル(NGO)
次にインタビュー(2010 年 11 月 25 日実施)を行った相手は、コンサベーション・インターナショ
ナル 15 (以下CI)という国際的NGOのスタッフ名取洋司氏である。CIのミッションは、科学・パー
トナーシップ・世界各地での実践に基づき、次世代に豊かな自然を引き継いでいく社会を実現し
人類の幸福を豊かにすることである。環境保全への支援・参画を積極的に進める企業とのパート
ナーシップを重視しており、スターバックスやマクドナルドなど大手企業と連携を取り活動して
いる。
企業と連携を取るようになったきっかけは、CIのミッションの一つがパートナーシップである
からだ。CIからアクションを起こすのではなく、企業側から活動の一環として環境に関して負荷
を下げたいという依頼もある。その依頼に適した案を提供している。CIが連携を取っているトヨ
タ自動車株式会社 16 (以下トヨタ)も設立 70 周年記念をきっかけに社会貢献をしたいとCIへ依頼が
15
自然生態系と人のかかわりを重視して環境問題を解決することを目的に設立された NGO 団体。
億 5000 万円 売上高:189,509 億円(平成 21 年 4 月~22 年 3 月)
16〈概要〉資本金:3,970
18
あった。CI側はまず、上辺だけで環境に取り組む“グリーンウォッシュ企業”ではないか、金銭
面はどうか(少額すぎるとプロジェクトは行えない)、メディア性はあるかなど、様々な角度から相
手を知り活動方針やミッションを知ったうえで連携を取るのである。誰とでもパートナーシップ
を取るのではなく、パートナーになることでどれだけ効果があるか、相手の活動を知ることから
始めるという。
CI と企業の連携の中で課題もいくつか上がった。イメージアップのために連携を取ろうとする
企業があるのではないかと筆者も思っていたが、実際にそういった考えを持つ企業も存在すると
いう。また、お金があるから CSR をやろうとする企業も多いというが、CSR とはそもそも各々
の企業が持たなければいけない責任である。お金があるからやるのではなく、常に責任を持って
いてほしいと、名取氏は話した。さらに、連携を取ってプロジェクトを行う時「成功させたい」
という思いがある中で「何が成功といえるのか」と考えることがあるという。CI と企業それぞれ
の思い描く成功が違っていることもあり、共存することが難しい。ミッションがバラバラであっ
てもお互いが納得できるものであれば、それも成功と言える。CI からしても、企業から資金をも
らい、後は任せてもらうといったやり方のほうがやりやすいのは確かである。
また以下で詳しく述べるトヨタの例で言うと、目的は”持続可能な森林再生”であるが、手段で
ある住民の所得向上など、数値でわかる地域活性化に目が向けられてしまうのは好ましいことで
はないという。ミッションのゴールがぶれてしまうことによって本来の目的が明白でなくなって
しまうからである。
次はトヨタとの連携を例にメリットを述べる。CI とトヨタは、フィリピン共和国のルソン島に
おいて 2007 年から熱帯林再生プロジェクトを実施している。「住民と共生する持続可能な植林」
を目指し、熱帯林の再生と果樹(マンゴー)による住民の所得向上、森林伐採に頼らない経済的自立
のモデルづくりとともに、外からの支援終了後もモデルが継続されていくための取り組みを行っ
ている。
“植林活動”と“車”と考えると何も繋がりがないように感じる。しかし、車を作る上で最低
限の環境配慮を行い、かつ社会貢献として気候変動を意識し植林活動を行うようになった。トヨ
タは資金援助だけではなく、バイオ緑化事業部の社員 2 人が定期的にフィリピンに行き現場を視
察している。筆者は、企業側は直接現場に出向くことはないと思っていたが、それは違っていた。
フィリピンの地元行政や政府もこの事業に関わり、意見の相違が起きることもあるなかで同じ目
標を掲げてプロジェクトを進めているという。
また、パートナーシップを結ぶことによって、企業側はゼロからスタートしなくても済むよう
になる。CI の専門知識を生かし、ゼロから1に進むまでの資金をほかの面に回すことが出来るの
である。CI の現地スタッフがプロジェクトをコーディネートしているが、科学者や社会経済学者
も立ち会い、持続可能にするために多方面からプロジェクトが進められている。
このプロジェクトは、温室効果ガスを吸収し、絶滅危惧種の自然生息地を拡大し、地元の人々
の生計の助けになるように設計されているということが評価され、2009 年 12 月にCCB認証 17 を
従業員数:連結 320,590 人 (トヨタ自動車株式会社 HP2011.1.5)
CCBA(Climate, Community & Biodiversity Alliance/気候変動対策におけるコミュニティ及び生物多様性へ
の配慮に関する企業・NGO 連合)が 2003 年に設立され、政策や市場に働きかけて、質が高く多面的便益をもたら
す土地利用に関連する炭素固定・吸収プロジェクトを通じて、森林保護、再生あるいはアグロフォレストリーの
17
19
ゴールド・レベルで取得した。CCB認証は、森林カーボン・プロジェクトにおいて、温室効果ガ
ス排出削減・吸収する効果と合わせ社会及び環境への追加的便益を促進する実証可能な基準を示
すものである。
トヨタが大手企業ということもあり、プロジェクトの規模も大きく資金額も相当であると予想
できる。しかしこのプロジェクトをおこなう両者は対等な立場で意見交換を行い、プロジェクト
が終了(2013 年終了予定)するまで企業側にオーナーシップがあるという。筆者は CI とトヨタの
信頼関係が構築され目的を共有していることが成功に繋がっていると考える。
二つのインタビュー結果より共通して言えるメリットは以下の通りであると筆者は考える。
①NPO(NGO)と企業それぞれの特性を生かすことができる
②対等な立場で意見交換を行う
③企業や NPO(NGO)だけでなく現地の人々との繋がりも深い
④良好な信頼関係を構築しパートナーシップがあることで成功に繋がる
また課題は以下の通りである。
①イメージアップのために活動を行う企業も未だにある
②ミッションの共有が難しい場合がある
③プロジェクトの目的を伝えるために PR の仕方に工夫が必要となる
地域レベルの協働事業であるアクションポート横浜と、国レベルに大きな取組を行っている CI
とでは、パートナーとなる相手の規模が違っていることが分かる。組織の大きさでパートナーシッ
プの取り方も変わってくる。例えば、アクションポート横浜が TOYOTA と国際的な規模の事業
を行おうとするだろうか、と考えてみると筆者はそうは考えられない。自らの事業に合った活動
をするにあたり、規模の大きい企業ばかりとパートナーになりたいとは考えていないだろう。そ
れよりもパートナーシップに必要なことは、ネームバリューや利益を目的にするのではなく、お
互いのミッションが合致することが重要である。
では二つのインタビューで登場した団体は、どういったミッションや思想を持っているのだろ
うか。インタビューした2団体とパートナーとなった2企業のミッションや経営者の思想を以下
の通り一覧にした。
表6
インタビューを行った4団体の思想・ミッション
思想
アクションポート横浜
横浜市の NPO がさらに力を高めていくとともに、企業、大学、
行政等と連携した取り組みを行っている。
マツダ株式会社
新しい価値を創造し、最高のクルマとサービスにより、お客さ
事業形成を促進することを目指している。CCB スタンダードは、プロジェクトの計画、実施、モニタリングの全
ての段階において重要な役割を果たすことができ、14 の必須項目すべてをクリアしなければならない。
20
まに喜びと感動を与え続ける
コンサベーション・イン
自然生態系と人とのかかわりを重視して環境問題を解決するこ
ターナショナル
とを目的としている。
トヨタ株式会社
社会貢献…事業活動をおこなうあらゆる地域において、独自に
またはパートナーと協力して、コミュニティの成長と豊かな社
会づくりを目指し、社会貢献活動を積極的に推進する
ミッション
アクションポート横浜
-市民と企業の連携によるエコシティの実現
⁻多様な文化・属性をもつ人たちの生活や人権が保障される共生
都市の実現
⁻市民と NPO が支える地域社会の実現
マツダ株式会社
私たちは情熱と誇りとスピードを持ち、積極的にお客様の声を
聞き、期待を上回る相違に富んだ商品とサービスを提供する
コンサベーション・イン
科学、パートナーシップ、世界各地での実施に基づき、次世代
ターナショナル
に豊かな自然を引き継いでいく社会を実現し、人類の幸福に貢
献する
トヨタ株式会社
⁻豊かな21世紀社会への貢献
⁻環境技術の追求
⁻自主的な取り組み
⁻社会との連携・協力
(出典:各組織、企業の HP 2011.1.5)
アクションポート横浜とマツダに共通していることは、両者とも“市民の声を積極的に取り入
れ、連携してサービスを提供する”ことである筆者は考える。大きな規模で社会を見るのではな
く、地域社会に密着した社会貢献をする考えが両者にある。また、思想で異なる点は、アクショ
ンポートの場合、今ある力を更に高めていこうとしているが、マツダは新しい価値を創造するこ
とに重点を置いている。企業は他者が行っていることを真似るのではなく、新しいアイディアを
生みだすことが求められる。逆に NPO は今社会にある問題を解決することが求められる。新し
い価値を生み出すものとその課題を解決するものの両者がうまく連携を取れていると筆者は感じ
た。
CI とトヨタの場合、共通している部分が多くある。人との関わりを重視し社会との連携・パー
トナーシップを取ること、豊かな自然を次世代に引き継ぎ環境問題を解決すること、である。ま
た、CI は“世界各地での実施“をミッションの一つとして掲げているため、国内で地域に密着し
た活動というよりも国際的に大規模な活動を主にしていることが分かる。トヨタ自動車株式会社
の社長である豊田章男は「地球環境問題、エネルギー問題が人類にとって喫緊の課題となる中で、
クルマが“次の 100 年も人々や社会から必要とされる乗り物”であり続けるためには、
“次世代環
境車の開発と普及”が大変重要なテーマとなります(トヨタ自動車株式会社 HP2011.1.5)」と述べ
21
ているように、環境に重点を置いていることも分かる。”自主的な取り組み”も社員が自ら足を運
び現場で活動を行っている事に繋がるのである。
共通点・相違点をみてもそれぞれにとって最良のパートナーであると考えられる。共通である
考えをより一層深め、相違した部分をお互いが補う合う事で一つのミッションを達成している。
しかしその中でも、前者のインタビューであったように企業の組織的取り組みよりも社員の個人
的イニシアティブによる部分が大きいというのも課題となる。人の異動によってミッションを達
成できない状態では、継続力が乏しい。社員一人一人の社会貢献に対する意識も大切だが、専門
の部署を設けて持続的に取り組むことが必要だと筆者は考える。
終章
私たちにとって企業はとても身近にあるが、その実態を把握することは難しい。社会的責任を
果たしているように見えて、本来の目的は利益追求のために行われている活動であるかもしれな
い。逆に、社会貢献のための活動が利益追求のため・社会的価値のある企業に見せるためと思わ
れている可能性も少なくはない。また、目的は社会的責任を果たすことでありその過程で利益が
出るという場合もある。どの活動も、どういった目的があり、信憑性があるものかどうかは、活
動の意義を深く知ることが大事であると筆者は感じた。ただ単に社会に注目されるために、お金
をかけて活動を行っているわけではない。その背景には様々な理由や目的があるはずである。
活動する目的や意義が明確であり社会のための活動になるのであれば、手段は様々であれ、CSR
の活動は必要なものであるといえないだろうか。例に挙げたトヨタは大企業の一つであるが、そ
の社長豊田氏も「トヨタもかつては“ベンチャー企業”として生まれ、成長してきた(トヨタ自動
車株式会社 HP 2011.1.6)」と述べているように、企業や活動の規模は問わず、地域社会のためであ
ろうが国際社会のためであろうが、結果的には市民のためになり社会のためになる活動であるこ
とが言える。大小様々な企業が社会的責任を果たすことが必要になるのである。
企業と NPO・NGO との連携についても同じようなことが言える。NPO・NGO などの民間組
織は非営利での社会活動や慈善活動を行う市民団体である。その反面、企業とは生産・営利の目
的で、生産要素を総合し継続的に事業を経営することである。最大の目的が利益を出すことなの
だ。両者は社会にとって必要不可欠な存在となっている。社会的役割や目的が異なる二者が連携
することは難しいものとも思えるが、異なるからこそ違った観点を持ち新たな結果を出すことが
できるのである。
インタビューを通じて筆者が感じた事は、NPO・NGO 側の社会的立場である。世間からは企
業の下に立っていると思われがちだが、決してそうではなかった。社会のためになることが
NPO・NGO の仕事でありそのためなら妥協はない。
“企業を相手にしても対等な立場で意見交換
を行う”と CI の名取氏の話が印象的だった。連携を取るのは組織と組織であるが、話を進めるの
は個人と個人であり立場に上も下もないのである。
社会を構成する様々な役割を持った組織が、様々な分野の相手とパートナーシップを持つが、
その活動の本来の目的を全て把握することはできない。悪徳であったり非合法であってもあらゆ
るものがビジネスになるこの時代に、全てが社会のためであるものとは捉えることができない。
正当性があるかどうかは、一般的には判断し難いのが現状である。とは言っても、良し悪しを判
22
断するのは社会であり個人である。可能性のある CSR 活動を見定めて目を向けていきたい。また、
企業は私たちにとって身近なものであると述べたように、他人事ではなく関わっている市民の一
人として考えていきたいと筆者は考える。同時に NPO・NGO の存在もより身近な存在であると
捉え、共に社会貢献できる環境が整えられれば、CSR の可能性もより一層広がるのではないだろ
うか。
23
参考文献
Aldcroft, Derek Howard (2002)
『20 世紀のヨーロッパ経済』
藤井敏彦 (2006) 『グローバル CSR 調達』
岸田眞代 (2006)
晃洋書房
日科技連出版社
『企業と NPO のパートナーシップ
CSR 報告書 100 社分析』
同文館
出版
岸田眞代・高浦康有 (2005)
『NPO と企業
協働へのチャレンジ:ケース・スタディ 11 選』
同文館出版
古賀純一郎(2005)
『CSR の最前線』NTT 出版
日本経団連社会貢献委員会(2008)
『CSR 時代の社会貢献活動:企業の現場から』日本経団
連出版
白鳥わか子・萩原美穂(2005)
『最新 CSR(企業の社会的責任)がよーくわかる本』秀和シス
テム
『企業と NPO の協働と倫理 - 対等なパートナーシップ関係の構築に向
高浦康有(2006)
けて』東北大学研究年報「経済学」研究ノート
田中素香・長部重康・久保広正・岩田健治(2001)
丹下博文(1999)
『検証・社会貢献志向の潮流
『現代ヨーロッパ経済』有斐閣
―フィランソロピーの新しい方向性を探る』
同文館出版
谷本寛治(2006)
『CSR 企業と社会を考える』
NTT 出版株式会社
梅田徹(2006) 『企業倫理をどう問うか』NHK ブックス
横山恵子(2003)
ップ』
『企業の社会戦略と NPO:社会的価値創造に向けての協働型パートナーシ
白桃書房
吉田民雄・杉山知子・横山恵子(2006)
『新しい公共空間のデザイン
NPO・企業・大学・
地方政府のパートナーシップの構築』東海大学出版会
参考 HP
アクションポート横浜HP(2011.1.5) http://actionport-yokohama.org/
CCB standards HP(2010.11.28)
コカ・コーラ HP(2010.1.24)
http://www.climate-standards.org/
http://www.cocacola.co.jp/
Conservation International HP(2010.11.28)
Global Compact Network Japan HP
経済広報センターHP
(2009.12.7)
http://www.conservation.or.jp/
(2009.12.5)
http://www.ungcjn.org/
http://www.kkc.or.jp/
マツダ株式会社HP(2011.1.5) http://www.mazda.co.jp/
トヨタ自動車株式会社HP(2011.1.5) http://toyota.jp/
ユニクロHP(2010.1.25)
http://www.uniqlo.com/jp/corp/
ボルヴィック HP(2010.1.24)
http://www.volvic.co.jp
24
Fly UP