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平成 21 年度 「緑の回廊」 整備特別対策事業 (モニタリング調査)
平 成 21 年 度 「緑 の回 廊 」 整 備 特 別 対 策 事 業 (モニタリング調 査 ) 一巡目調査結果とりまとめ (鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊) 平成 22 年 3 月 東 北 森 林 管 理 局 社団法人 日本森林技術協会 目 次 1. はじめに ......................................................................................................................... 1 2. 取りまとめ対象地 ............................................................................................................. 1 3. 緑の回廊の概要 .............................................................................................................. 2 4. モニタリング調査地点の概要 ............................................................................................. 4 5. モニタリング調査結果の概要 ............................................................................................. 5 6. 分析に当たっての基本的な考え方 ...................................................................................... 6 6-1 分析に当たって留意すべき基本的事項 .......................................................................... 6 6-2 森林環境と野生動物との関係の把握 ............................................................................ 7 7. 調査結果 ........................................................................................................................ 10 7-1 森林環境と植物種数 ................................................................................................... 10 7-2 森林環境と哺乳類及び鳥類確認種数 ............................................................................ 18 8. 考察 ............................................................................................................................... 28 8-1 森林環境と野生動物の生息環境 .................................................................................. 28 8-2 緑の回廊の森林施業について ..................................................................................... 29 9. 調査方法の見直し、調査項目の追加等の検討 ...................................................................... 29 【巻末資料】 表 1 鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊モニタリング調査地点の概要 表 2 鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊モニタリング調査結果の概要 表 3 鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊モニタリング調査における確認種一覧(植物) 表 4 鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊モニタリング調査における確認種一覧(動物) 1. はじめに 「緑の回廊」整備特別対策事業 (モニタリング調査) (以下、モニタリング調査) は、緑の回廊に おける森林の状態とそこに生息する野生動植物種の生息・生育実態の正確なデータの蓄積により、 その関係を把握し、緑の回廊の有効性の検証を行うことを目的として行われている。 本報告書は、本年度で現地調査が一巡する 「鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊」 について、平成 17 年度から 21 年度までの 5 年間に実施したモニタリング調査の成果を総合的に分析し、今後のモ ニタリング調査が適切かつ円滑に実施できるよう、調査方法の見直し、調査項目の追加等を検討 するものである。 2. 取りまとめ対象地 本報告書で取りまとめ対象とした 「鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊」 モニタリング調査地点の位 置を図 3-1 に示す。各調査地点の調査年度、調査地点名、管轄する森林管理署名、林小班名等 は表 2-1 に示すとおりで、調査地点数は計 26 地点である。 表2-1. 鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊モニタリング調査地点一覧 調査 調査地名 管理署名 林小班名 No. 年度 1 17 No.30 栂峰・飯森山 置賜 233ほ 2 17 No.31 白布峠 置賜 224の1 3 17 No.32 吾妻山 置賜 220と1 4 17 No.33 板谷 置賜 206や 5 17 No.34 二井宿 仙台 402い 6 18 No.22 朝日山地(旧朝日村) 庄内 113い 7 18 No.23 朝日山地(大江町) 山形 56り 8 18 No.24 小国・蓬平 置賜 32Ⅱろ 9 18 No.27 赤芝峡 置賜 30ろ 10 18 No.28 飯豊山 置賜 125い 11 19 No.16 板敷山 最上 2208か 12 19 No.17 板敷山 最上 2208い 13 19 No.18 月山 庄内 28ろ1 14 19 No.19 月山 山形 112ろ 15 19 No.20 月山 山形 112い 16 19 No.21 月山 山形 112い3 17 20 No.7 鳥海山 庄内 1022は 18 20 No.10 青沢越 庄内 1054の 19 20 No.11 青沢越 庄内 1054ほ 20 20 No.13 最上峡 最上 2197く 21 20 No.14 最上峡 最上 2200つ 22 21 No.1 神室山 最上 113い1 23 21 No.3 雄勝峠 湯沢 81い 24 21 No.4 甑山 最上 91わ 25 21 No.5 丁岳 由利 1012ふ 26 21 No.6 丁岳 由利 1059ち 市町村名 発達段階区分 林相 山形県飯豊町 老齢段階 天然林 山形県米沢市 老齢段階 天然林 山形県米沢市 老齢段階 天然林 山形県米沢市 成熟段階 人工林 宮城県七ケ宿町 成熟段階 天然林 山形県鶴岡市 老齢段階 天然林 山形県大江町 老齢段階 天然林 山形県小国町 老齢段階 天然林 山形県小国町 老齢段階 天然林 山形県小国町 老齢段階 天然林 山形県戸沢村 若齢段階 人工林 山形県戸沢村 老齢段階 天然林 山形県庄内町 老齢段階 天然林 山形県西川町 老齢段階 天然林 山形県西川町 若齢段階 人工林 山形県西川町 若齢段階 天然林 山形県酒田市 老齢段階 天然林 山形県酒田市 老齢段階 天然林 山形県酒田市 若齢段階 人工林 山形県戸沢村 老齢段階 天然林 山形県戸沢村 老齢段階 天然林 山形県真室川町 若齢段階 人工林 秋田県湯沢市 老齢段階 天然林 山形県真室川町 非老齢攪乱段階 天然林 秋田県由利本庄市 若齢段階 人工林 秋田県由利本庄市 老齢段階 天然林 なお、本報告書で使用した調査地点名は、モニタリング調査計画策定時の 「平成 14 年度 緑 1 の回廊整備特別対策事業 鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊モニタリング調査報告書」 (東北森林 管理局, 平成 15 年 3 月) の記述と同じとした。 3. 緑の回廊の概要 「鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊」は、図 3-1 に示すとおり、関東森林管理局と連携して、山形県 内を一巡する形で、秋田、新潟、福島、宮城県境沿いに、奥羽山脈緑の回廊の神室山から、鳥海 山 、月 山 、朝 日 山 地 、飯 豊 山 、吾 妻 山 を経 由 し、蔵 王 山 に至 る地 域 に約 2km 以 上 の幅 で約 260km である。設定面積は約 64,000ha で、連結される保護林は約 126,000ha である。 設定区域は、東北森林管理局の秋田森林管理署湯沢支署、由利森林管理署、庄内森林管理 署、山形森林管理署、山形森林管理署最上支署、置賜森林管理署、仙台森林管理署の林小班 が該当し、約 46,700ha である。 また、「鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊」に関係する市町村は、秋田県の湯沢市、由利本荘市、 山形県の酒田市、鶴岡市、上山市、米沢市、庄内町、西川町、真室川町、小国町、飯豊町、高畠 町、鮭川村、大蔵村、戸沢村、宮城県の七ヶ宿町の 3 県 6 市 7 町 3 村である。 この区間に「雄勝峠スギ植物群落保護林」、「鶴間池モリアオガエル特定動物生息地保護林」、 「山の内スギ林木遺伝資源保護林」、「月山植物群落保護林」、「朝日山地森林生態系保護地域」、 「小国白い郷土の森」、「飯豊山周辺森林生態系保護地域」、「栂峰・飯森山植物群落保護林」、 「吾妻山周辺森林生態系保護地域」などの保護林を連結している。 2 3 4. モニタリング調査地点の概要 各調査地点の概要として、巻末資料表 1 に林分の発達段階区分、林相、林齢、機能類型、法 的規則 (公園、保安林、鳥獣保護区、保護林)、施業履歴、地況 (地形、傾斜、方位、標高) をま とめた。 調査地点数は 5 年間で計 26 地点であるが、そのうち天然林は 20 地点で、人工林は 6 地点で ある。天然林は、山地帯のブナ林が 15 地点のほか、ケヤキ林 (2 地点) やサワグルミ林 (1 地点)、 ヤナギ林 (1 地点) といった渓畔林と、亜高山帯の針葉樹林であるアオモリトドマツ林 (1 地点) も 含まれている。一方、人工林はすべてスギの植林によるものであるが、広葉樹が多く入り込んできて おり、複層林化が進んできている。 調査地点の林齢は、32 年生から 211 年生と様々である。発達段階の区分 (後述の表 6-2-1 参照) でみると、若齢段階が 6 地点、成熟段階が 2 地点、老齢段階が 17 地点、非老齢攪乱段階 が 1 地点となっている。なお、若齢段階 6 地点のうち、5 地点は人工林である (人工林の残り 1 地 点は成熟段階)。 4 5. モニタリング調査結果の概要 モニタリング調査では 「林分構造調査に基づく森林調査」、「地上性の哺乳類を主体とした動物 調査」 及び 「鳥類調査」 を実施している (下表参照)。これらの調査結果から植物については林 分構成種の種数を、動物については哺乳類と鳥類の種数を、それぞれ集計して巻末資料表 2 に 示した。また、各調査地点で確認した植物の種名を巻末資料表 3 に、動物 (哺乳類・鳥類) の種 名を巻末資料表 4 に示した。なお、参考までに確認した両生・爬虫類についても巻末資料表 2 及 び表 4 に合わせて示している。 動物調査のうち、フィールドサイン調査で確認された哺乳類は、食痕や糞が確認できやすいネズ ミ類やニホンリス、トウホクノウサギ、カモシカなどが多くなっている。自動撮影調査では、フィールド サイン調査で確認できにくいコウモリ類やホンドテンなどの夜行性の種も多く確認されている。 鳥類のプロットセンサスやラインセンサスでは、ヤマガラなどのカラ類やアカゲラ・コゲラなどのキツ ツキの仲間など、森林性の種が多く確認されている。 【モニタリング調査内容】 ○ 森林調査 (林分構造調査) ○ 動物調査 (自動撮影調査とニオイステーション調査の組み合わせ調査) ○ 動物調査 (フィールドサイン調査 (直接観察/痕跡調査) ) ○ 動物調査 (プロットセンサス/ラインセンサス調査) 5 6. 分析に当たっての基本的な考え方 6-1 分析に当たって留意すべき基本的事項 分析に当たって留意すべき基本的事項としては、① 国有林野で設定した「緑の回廊」の特徴、 ② 森林施業と野生動物の生息実態 (移動実態) との関係把握に関する事項の 2 点がある。 (1) 「緑の回廊」の特徴について 国有林野で設定した「緑の回廊」について、その特徴は次のように整理することができる。 ① 国有林野に設定した「緑の回廊」は、既設の保護林と保護林を連結するものである。 ② 諸外国の回廊 (コリドー) と異なり、森林 (国有林野) の中に設けられている。したがって、 「緑の回廊」の外側も連続した森林という箇所がほとんどで、隣接する森林の質等についても 「緑の回廊」と土地利用や森林タイプが異なるというものではない。 ③ 保護林はそれぞれの設定目的に応じて管理され、原則的には、伐採等の行為は行われな い。一方、回廊では、「緑の回廊」としての機能の発揮を図りつつ、森林整備を行うことを原則 としている。 (2) 森林施業と野生動物の生息実態調査 (移動実態) との把握について 回廊 (コリドー) は、分断化された野生動物の生息地を相互に連結する帯状の生息地のことで、 野生動物の移動や孤立した個体群の相互交流を促し、地域個体群の存続や生物多様性の維持 を図る目的がある。したがって、欧米諸国で設定されたコリドーでは、絶滅危惧種、ないしは近年個 体数が激減している種をターゲット種として設定されることが多く、コリドー設定においてはまずター ゲット種ありきといえる。大規模なコリドー設定の場合には、ターゲット種は大型のアンブレラ種とな る可能性が高い。我が国でコリドーを設定する場合、ツキノワグマとカモシカがターゲット種として考 えられる。しかし、これらの動物の分布は限られており、全国にコリドーを設定する際に、有力なター ゲット種が生息しない場合も十分にあり得る。一方、我が国の山地の地形は急峻で、起伏に富んで いる。さらに、我が国は台風や集中豪雨などの自然災害を受けやすいため、尾根筋に十分な幅を 持った緑の回廊を設定することは尾根筋の森林の監視が行き届き、維持管理に寄与し、場所によ っては保護樹帯の機能強化につながり、多様な野生動植物の生息環境を提供することにつなが る。 このように、コリドーを設定した場所でターゲットとなるアンブレラ種が不在の場合が想定されるこ と、さらに森林施業と野生動物の移動実態の関係についての知見は極めて少なく、大型野生動物 の移動調査は実施が難しい上に、実施した場合、時間的、金銭的コストが莫大なものになることか ら、現時点では、① 森林施業と野生動植物の移動実態とその因果関係を把握すること、② 緑の 回廊における野生動植物種相互間の関係を把握することは大変難しい。 6 そのため、現段階では森林施業との因果関係が深い森林環境 (林分構造や配置など) と野生 動物の生息実態との関係を把握することが現実的であると考えられる。 6-2 森林環境と野生動物との関係の把握 森林環境と野生動物の生息実態との関係を把握する場合、森林を同質と考えられる森林 (区 分された単位森林を「林分」とする) に区分して、森林を捉えることが必要である。林分に区分する カテゴリーは、林分の生態的な構造と密接に関連し、かつ、施業との関連も把握できるものであるこ とが重要である。林分の発達段階で森林を捉えることは、森林の動態を 200~300 年程度の範囲で 具体的に捉えることができ、かつ、施業との関連を把握することが可能であることから、モニタリング 調査ではこれを森林区分の主な枠組みとしている。 林分の発達段階は、藤森隆郎氏によれば、天然林については、林分成立段階、若齢段階、成 熟段階、老齢段階の 4 段階に区分され、若齢段階と成熟段階の変型として非老齢攪乱段階が加 えられている。また人工林については、林分成立段階、若齢段階、成熟段階の 3 段階に区分され、 若齢段階と成熟段階の変型として非老齢攪乱段階が加えられている (図 6-2-1、表 6-2-1 参照)。 なお天然更新によって成立した森林で、保育作業が加えられ収穫も行われる林分は、大径の衰退 木、枯死木、倒木がないのが普通であることから、人工林と同じグループに加えられる。 さらに半人工 (半天然) 林についても、上記と同様な段階区分が加えられている。 7 図 6-2-1. 多様な攪乱様式を含めた林分の発達段階 Franklin and Spies (1991) 、Oliver and Larson (1990) (藤森, 1997 を改訂) の天然林に対する考えを参考にして、それを発展させて描く。若齢 段階は林床植生が乏しく、成熟段階は草本層、低木層が発達するのが特色。老齢段階は優勢木の枯死木が出現し、階層構造 が複雑になる。 8 表 6-2-1. 各段階における林分 (森林) の概況 林 種 天 然 林 段階 概況 林分成立段階 大径の枯死木、倒木が多く、それらが老齢段階の生態系の重要な要素を残しており、急 激で厳しい気象変化に対して弱い耐陰性の前生樹を保護している。また、進入してくる陽 性の樹種との混交林形成のポテンシャルを有している。草本類、木本類が激しく競争して いる段階。 若 齢 段 階 高木性の樹種が林冠を形成し、樹冠が相対的に小さく、林冠の閉鎖度合いが強く、新たな 植生が侵入しにくく、下層植生の乏しい段階である。上層から下層まで林冠層が明確に区 別しにくく、林冠が連続層的な林分もある。 成 熟 段 階 樹冠同士の間に隙間が生ずるようになり、林床に植生が発達し得る状況で、草本層と低木 層は発達するが、照度に制約があるため、高木性の樹種が下層で生育しても低木層を抜 けて大きくなることはなかなかできない段階。低木層の樹種はある程度大きくなると限られ た光環境でその樹体を維持しきれなくなり、枯れてはまた新たな個体を発生させることを繰 り返す。二段林的な林分構造は成熟段階の典型的なものである。 老 齢 段 階 若い木から老齢の木まで様々な大きさの木があり、また、成長の旺盛な木から衰退木、枯 死木、倒木まで様々な木と構造物で構成されている。独立的な大きな樹冠が目立ち、 ギャップが所々に見られる。 若齢段階か成熟段階で中程度の攪乱を受け、その影響の残っている段階。中程度の攪 乱を頻繁に受けた林分の構造はかなり複雑である。老齢段階ではないが攪乱により構造 非老齢攪乱段階 の複雑な林分を指す。老齢段階の林分が帯状の保護樹帯として残され、それがほころび て細り、若齢部分や成熟部分に囲まれているような林分は非老齢攪乱林分とする。老齢段 階の部分の生態的影響力が小さいからである。 裸地からスタートするので、階層構造が乏しく、陽性植物の比率が高い。天然林のように大 林分成立段階 径の倒木、枯死木を欠いていることが多い。日本では下刈りの必要段階に相当する。 若 齢 段 階 人 工 林 植栽された樹種が林冠を閉鎖し、林床の照度が低く、下層植生の乏しい段階である。 林冠に空間ができ始め、林内の光環境が改善されて、草本層と低木層が発達してくる。し かし、林内の光条件は一定の範囲内に止まるために、階層構造は二段林の状態が長く続 成 熟 段 階 く。低木層の木は、ある大きさに達して枯死し、また更新することを繰り返していることが多 い。 若齢段階、成熟段階で気象災害などにより中程度の攪乱を受けた後で、または強度のあ 非老齢攪乱段階 るいは頻繁な間伐を行った後でギャップに後継樹を成立させた林分。人工の複層林はこ れに相当する。 スタートは人工林と同じだが、下刈りなどの管理が不十分で、植栽木と天然更新木がそれ ( 半 人 工 ) 半 天 然 林 林分成立段階 ぞれ30%程度以上の比率であるもの。 若 齢 段 階 植栽された樹種と天然更新木とで林冠を閉鎖し、林床の照度が低く、下層植生の乏しい 段階である。針広混交林であることが普通。 成 熟 段 階 林冠は植栽木と天然更新木の混交。針広混交が普通。その他は人工林と同じ。 老 齢 段 階 手をつけないで林分が発達を続けると大径の衰退木、枯死木、倒木が林分構造の一部を 構成するようになる。これが老齢段階で、老齢段階に達したものは天然林の範疇に入る。 育成林(人工林)として扱っていけば大径の衰退木や枯死木は発生せず、老齢段階はな い状態で林分の発達段階は回転する。 非老齢攪乱段階 若齢段階か成熟段階で中程度の攪乱を受け、その影響で構造が複雑になっている段階。 出展: 林野庁・日本林業技術協会:緑の回廊及び保護林における森林施業と野生動物の移動実態との因果関係の把握手法に 関する調査報告書. (2002) 注: この場合の半人工(半天然)林とは、植栽地の林分成立段階において天然更新した木が混ざり込んで、林冠の30%程度以 上を植栽木か侵入木が占めている混交林をいう。針広混交林であることが普通。また、人工林の若齢段階か成熟段階で中程 度の攪乱を受け、階層構造が複雑になった林分で、植栽木が上層の30%程度以上を占めていて、面積比率で30%程度以上 のギャップが天然更新している林分。 9 7 調査結果 5 年間の調査で蓄積された 26 地点のデータをもとに、取りまとめを行った結果を以下に示す。 7-1 森林環境と植物種数 林分構造調査の結果をもとに高木層から草本層に生育する木本・草本・シダ植物の種数 (=林 分全体の種数) を集計し、森林環境 (林相・保護林指定の有無・林分発達段階・森林施業の有 無等) 別に整理を行った。 はじめに天然林と人工林の林相別にみると (図 7-1-1)、植物種数が最も多かった調査地点は 天然林で 88 種であったが、平均種数では天然林が 47.7 種であったのに対して、人工林では 58.2 種と天然林よりも約 10 種多かった。これは、調査対象の人工林がすべてスギ植林であり、土壌に適 度の湿り気のある生産性の高い立地にある林分と考えられ、そのため種数が増加したものと推察さ れる。 各調査地の種数 林相別の平均種数 植物確認種数 100 80 60 58.2 47.7 40 20 0 天然林 人工林 図 7-1-1. 林相別植物確認種数 表 7-1-1. 林相別植物確認種数 平均 最少 最多 天然林 (20 地点) 47.7 24 88 人工林 (6 地点) 58.2 38 69 10 保護林部と回廊部とで比較してみると (図 7-1-2)、保護林部では平均 51.7 種、回廊部では平 均 49.1 種と大きな違いは見られなかった。 各調査地の種数 林相別の平均種数 植物確認種数 100 80 60 51.7 49.1 40 20 0 保護林部 回廊部 図 7-1-2. 保護林部と回廊部の植物確認種数 表 7-1-2. 保護林部と回廊部の植物確認種数 平均 最少 最多 保護林部 (10 地点) 51.7 24 88 回廊部 (16 地点) 49.1 27 69 次に、回廊部に設定された調査地についても林相 (天然林と人工林) の違いで比較してみると (図 7-1-3)、平均確認種数が天然林 (43.7 種) よりも人工林 (58.2 種) で約 15 種ほど多かった。 植物確認種数 80 各調査地の種数 林相別の平均種数 60 40 58.2 43.7 20 0 天然林 人工林 図 7-1-3. 回廊部内林相植物確認種数 表 7-1-3. 回廊部内林相植物確認種数 平均 最少 最多 天然林 (10 地点) 43.7 27 61 人工林 (6 地点) 58.2 38 69 回廊部 11 保護林部と回廊部の林相別の平均種数をまとめると表 7-1-4 のとおりで、回廊部の人工林が 58.2 種と最も多く、次いで保護林部の天然林 (51.7 種) で、最も少なかったのは回廊部の天然林 (43.7 種) であった。 表 7-1-4. 保護林部と回廊部における林相別平均確認種数 平均 天然林 (10 地点) 51.7 人工林 (0 地点) - 天然林 (10 地点) 43.7 人工林 (6 地点) 58.2 保護林部 回廊部 ※保護林部は人工林なし 林分の発達段階別にみると (図 7-1-4)、植物の平均確認種数が最も多かったのは成熟段階で、 56.5 種であった。次いで若齢段階 (54.7 種)、非老齢攪乱段階 (54.0 種) の順で少なくなり、最も 少なかったのは老齢段階の 47.5 種で、最も多い成熟段階よりも 9 種少ない結果となった。 植物確認種数 100 各調査地の種数 林相別の平均種数 80 60 56.5 54.7 47.5 54.0 40 20 0 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 老 齢 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 図 7-1-4. 林分発達段階別植物確認種数 12 表 7-1-5. 林分発達段階別植物確認種数 平均 最少 最多 林分成立段階 (0 地点) - - - 若齢段階 (6 地点) 54.7 31 69 成熟段階 (2 地点) 56.5 52 61 老齢段階 (17 地点) 47.5 24 88 非老齢攪乱段階 (1 地点) 54.0 54 54 天然林の保護林区分別等に見ると(図 7-1-5)、平均種数が最も多かったのは森林生態系保護 地域で、60.3 種であった。次いで郷土の森(53.0 種)、植物群落保護林(44.6 種)の順で少なくなり、 最も少なかったのは緑の回廊(43.7 種)であった。植物群落保護林については、特定の群落を保 護するためのものであることから植物種数が少なくなっていると推定される。図 7-1-6 において、緑 の回廊を群落別に見ると、ヤナギ林やスギ林において平均種数は 60 種以上であったのに対し、ブ ナ林(45.6 種)やアオモリトドマツ林(24.0 種)といった地点も含まれていた。これは、アオモリトドマツ 林やブナ林の一部で下層植生がササ類で覆われて他の草本が少ない地点があり、平均種数を下 げてからである。 100 80 植物確認種数 植物確認種数 80 保護林← →緑の回廊 60.25 60 53 44.6 40 各調査地の種数 林相別の平均種数 100 各調査地の種数 林相別の平均種数 43.7 72.0 60 45.6 40 20 20 0 0 54.0 50.0 植 物 群 落 保 護 林 郷 土 の 森 緑 の 回 廊 ブ ナ 林 図 7-1-5. 天然林保護林区分別等植物確認種数 ブ ナ ・ 天 ス ギ 林 ア オ モ リ ト ド マ ツ 林 ケ ヤ キ 林 サ ワ グ ル ミ 林 ヤ ナ ギ 林 →人工林 ス ギ ・ ブ ナ 林 ス ギ 林 図 7-1-6. 緑の回廊群落別植物 確認種数 13 50.0 24.0 天然林← 森 林 生 態 系 保 護 地 域 62.3 57.0 表 7-1-6. 天然林指定別植物確認種数 平均 最小 最大 60.3 24 88 (5地点) 44.6 31 60 (1地点) 53.0 53 53 (10地点) 43.7 27 61 森林生態系保護地域 (4地点) 保護林部 植物群落保護林 郷土の森 緑の回廊部 表 7-1-7. 緑の回廊群落別植物確認種数 平均 最小 最多 ブナ林 (13地点) 45.6 27 88 ブナ・天スギ林 (2地点) 50.0 49 51 アオモリトドマツ林 (1地点) 24.0 24 24 ケヤキ林 (2地点) 54.0 47 61 サワグルミ林 (1地点) 57.0 57 57 ヤナギ林 (1地点) 72.0 72 72 スギ・ブナ林 (2地点) 50.0 38 62 スギ林 (4地点) 62.3 52 69 天然林 人工林 14 林分の発達段階を天然林と人工林とに区分した林分構造別に、植物の確認種数を比較してみ ると (図 7-1-7)、調査地点数が限られているため明瞭な傾向とはいえないが、天然林では成熟段 階が、人工林では若齢段階で種数が多いといった結果となった。 各調査地の種数 林相別の平均種数 植物確認種数 100 天然林← 80 61.0 →人工林 59.4 54.0 60 52.0 47.5 40 31.0 20 0 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 老 齢 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 図 7-1-7. 林分構造別植物確認種数 表 7-1-8. 林分構造別植物確認種数 天然林 平均 最少 最多 林分成立段階 (0 地点) - - - 若齢段階 (1 地点) 31.0 31 31 成熟段階 (1 地点) 61.0 61 61 老齢段階 (17 地点) 47.5 24 88 非老齢攪乱段階 (1 地点) 54.0 54 54 林分成立段階 (0 地点) - - - 若齢段階 (5 地点) 59.4 38 69 成熟段階 (1 地点) 52.0 52 52 非老齢攪乱段階 (0 地点) - - - 人工林 15 鳥獣保護区指定の有無別にみると (図 7-1-8)、指定地では平均で 40.3 種と、指定されていな い地点の平均 53.1 種よりも 13 種ほど少なかった。これは、鳥獣保護区指定地の 6 地点すべてが、 種数の少ない天然林の老齢段階の林分であるためといえる。 植物確認種数 100 各調査地の種数 林相別の平均種数 80 60 53.1 40.3 40 20 0 鳥獣保護区 指定なし 図 7-1-8. 鳥獣保護区指定の有無と植物確認種数 表 7-1-9. 鳥獣保護区指定の有無と植物確認種数 平均 最少 最多 鳥獣保護区 (6 地点) 40.3 24 72 指定なし (20 地点) 53.1 31 88 人工林について施業履歴の有無別にみると (図 7-1-9)、施業履歴のある林分では平均 54.5 種 であったのに対して、履歴なしの林分では 65.5 種と約 10 種多かった。 植物確認種数 100 各調査地の種数 林相別の平均種数 80 60 65.5 54.5 40 20 0 人工林 (施業履歴あり) 人工林 (施業履歴なし) 図 7-1-9. 人工林施業履歴の有無と植物確認種数 16 表 7-1-10. 人工林施業履歴の有無と植物確認種数 平均 最少 最多 施業履歴あり (4 地点) 54.5 38 69 施業履歴なし (2 地点) 65.5 62 69 人工林 これを、施業履歴の有無別に階層ごとの平均種数でみると (表 7-1-9)、履歴のある林分では、 高木層及び亜高木層において履歴のない林分よりも種数が少なくなっていた。これは、除伐や間 伐時に伐採されたことにより減少したものと考えられる。 一方、低木層においては履歴のある林分で種数が多くなっていたが、これは施業によって林内 の光環境が好転したことで、林床の植物が成長、または新たに出現・定着した種が増えたためと考 えられる。 なお、人工林の施業履歴の有無による植物種数の比較については、調査箇所数が少ないこと から今後ともデータの蓄積が必要と考えられる。 表 7-1-10. 人工林における施業履歴の有無及び階層別平均種数 施業履歴の有無 履歴あり (4地点) 人工林 履歴なし (2地点) 階層区分 平均種数 最少種数 最多種数 高木層 2.0 1 4 亜高木層 4.3 1 13 低木層 20.3 15 24 草本層 40.8 22 51 高木層 6.0 4 8 亜高木層 14.0 10 18 低木層 14.5 11 18 草本層 50.0 44 56 17 7-2 森林環境と哺乳類及び鳥類確認種数 森林環境と野生動物の生息に関する研究の事例として、由井正敏氏、石井信夫氏の研究があ る。由井氏は、主として鳥類に関する研究成果に基づき、野生生物との共存の視点から見た望まし い森林環境の指標として、① 森林の広がり、② 森林の連続性、③ モザイク状態、④ 構成樹種 の多様性、⑤ 階層構造、⑥ 潤沢な餌資源、⑦ 繁殖・ねぐら・休息・避難場所の確保、⑧ 複雑 な地形・水系の保全を指摘している。石井氏は、哺乳類の視点から、望ましい森林環境の指針とし て、① 林相と発達段階、② 森林の構成要素 (樹洞木・枯損木・倒木、林縁、水系・河辺帯、地 形特性) を挙げている。 そこで、緑の回廊で確認された哺乳類及び鳥類の種数を森林環境 (林分全体の植生種数・林 相・林分発達・森林施業の有無等) の視点から整理することにした。ここで示した鳥類・哺乳類の 種数は、各調査地点で実施した「自動撮影調査とニオイステーション調査の組み合わせ調査」・「フ ィールドサイン調査」・「プロットセンサス調査」・「ラインセンサス調査」の結果を基に集計したもので ある。なお、緑の回廊は連続的に広がって (分布して) おり、回廊の周囲も森林地帯であることが 多いことから、ここでは森林の広がりや連続性については考慮していない。 (1) 森林環境と鳥類確認種数の関係 哺乳類及び鳥類の確認種数と植物種数 (高木層から草本層までを含めた林分全体での種数) との関係をみると (図 7-2-1)、哺乳類の確認種数は植物種数が多いほど増加する有意な正の相 関が示された。一方、鳥類では、植物種数の多少によって確認種数が有意に変化するといった傾 向は示されなかった。 15 25 2 R = 0.0004 (ns ) 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 2 R = 0.2816 (p < 0.01) 10 5 20 15 10 5 0 0 0 20 40 60 植物種数 80 100 0 20 40 60 植物種数 図 7-2-1. 各調査地の植物種数と哺乳類・鳥類確認種数 18 80 100 哺乳類と鳥類の確認種数を、天然林と人工林とで比較してみると (図 7-2-2)、哺乳類では天然 林が平均 6.4 種、人工林が平均 7.7 種とその差は 1.3 種で大きな違いは見られなかった。また鳥 類についても、天然林で平均 12.3 種、人工林で平均 11.7 種と大きな差はなく、哺乳類及び鳥類 ともに林相により種数が異なるといったことはなかった。 各調査地の種数 林相別の平均種数 各調査地の種数 林相別の平均種数 25 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 10 7.7 6.4 5 20 15 12.3 11.7 10 5 0 0 天然林 天然林 人工林 人工林 図 7-2-2. 林相別哺乳類・鳥類確認種数 表 7-2-1. 林相別哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 平均 鳥類 最少 最多 天然林 (20 地点) 6.4 1 9 12.3 3 21 人工林 (6 地点) 7.7 4 13 11.7 7 16 19 次に、保護林部と回廊部とで比較してみると (図 7-2-3)、哺乳類の平均確認種数は、保護林部 が 6.3 種、回廊部が 6.9 種と差は見られなかった。鳥類においては、保護林部で平均 13.8 種であ ったのに対して、回廊部では平均 11.1 種と保護林部に比べて 2.7 種少なかった。しかし、調査地 間での確認種数のバラツキの程度が重なっており、明瞭な違いとはいえず、保護林部と回廊部とで は動物種の生息環境として大きな差がないことを示しているものと考えられる。 各調査地の種数 林相別の平均種数 各調査地の種数 林相別の平均種数 25 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 10 6.9 6.3 5 20 15 13.8 11.1 10 5 0 保護林部 0 回廊部 保護林部 回廊部 図 7-2-3. 保護林部と回廊部の哺乳類・鳥類確認種数 表 7-2-2. 保護林部と回廊部の哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 保護林部 (10 地点) 6.3 3 回廊部 (16 地点) 6.9 1 20 平均 鳥類 最少 最多 9 13.8 3 20 13 11.1 4 21 回廊部内に設定された調査地についても同様に天然林と人工林とに区別して種数を比較して みると (図 7-2-4)、哺乳類については天然林で平均 6.4 種であったのに対して、人工林では 7.7 種と 1.3 種のみの違いであった。また、鳥類においても、天然林より (平均 10.5 種)、人工林 (平均 12.4 種) において約 2 種ほどの差しかなく、回廊部内においても天然林と人工林とで種数が異な るといったことはなかった。 各調査地の種数 林相別の平均種数 25 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 10 7.7 6.4 5 各調査地の種数 林相別の平均種数 20 15 12.6 10.5 10 5 0 天然林 0 人工林 天然林 人工林 図 7-2-4. 回廊部内林相別哺乳類・鳥類確認種数 表 7-2-3. 回廊部内林相別哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 平均 鳥類 最少 最多 天然林 (10 地点) 6.4 1 9 10.5 4 21 人工林 (6 地点) 7.7 4 13 12.6 7 16 回廊部 21 保護林部と回廊部の林相別の平均種数をまとめると (表 7-2-4)、最も多かったのは、哺乳類で は回廊部の人工林で、鳥類では保護林部の天然林であったが、最も少なかったのは哺乳類・鳥類 ともに回廊部の天然林であった。 表 7-2-4. 保護林部と回廊部における林相別平均種数 哺乳類 平均 鳥類 平均 天然林 (10 地点) 6.3 13.8 人工林 (0 地点) - - 天然林 (10 地点) 6.4 10.5 人工林 (6 地点) 7.7 12.6 保護林部 回廊部 ※保護林部は人工林なし 林分発達段階別にみると (図 7-2-5)、哺乳類では、確認種数が最も多かった調査地点は成熟 段階の林分で 13 種であった。逆に、最も少なかった調査地点は老齢段階の林分で 4 種であった。 確認種数を平均値で比較してみると、成熟段階が 11.0 種と最も多く、次いで非老齢攪乱段階の 7.0 種、若齢段階の 6.7 種とつづき、最も低かったのが老齢段階の 5.8 種であった。 一方、鳥類においても平均確認種数で比べてみると、成熟段階で 14.5 種と最も多く、次に老齢 段階の 12.3 種、若齢段階の 12.0 種の順となり、最後は非老齢攪乱段階 (6.0 種) であった。つま り、哺乳類及び鳥類ともに成熟段階において確認種数が多くなるといった傾向が示された。 各調査地の種数 林相別の平均種数 25 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 11.0 10 6.7 7.0 6.1 5 各調査地の種数 林相別の平均種数 20 15 14.5 12.3 12.0 10 6.0 5 0 0 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 老 齢 段 階 林 分 成 立 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 図 7-2-5. 林分発達段階別哺乳類・鳥類確認種数 22 老 齢 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 表 7-2-5. 林分発達段階別哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 平均 鳥類 最少 最多 林分成立段階 (0 地点) - - - - - - 若齢段階 (6 地点) 6.7 4 9 12.0 7 16 成熟段階 (2 地点) 11.0 9 13 14.5 14 15 老齢段階 (17 地点) 6.1 1 9 12.3 3 21 非老齢攪乱段階 (1 地点) 7.0 7 7 6.0 6 6 天然林の保護林区分別等に見ると(図 7-2-6)、哺乳類で平均種数が最も多かったのは森林生 態系保護地域の 7.3 種であった。次いで緑の回廊(5.8 種)、植物群落保護林(5.4 種)の順で少な くなり、最も少なかったのは郷土の森(5.0 種)であった。哺乳類に関しては保護林と緑の回廊にお いて差は見られなかった。 鳥類において平均種数が最も多かったのは郷土の森の 16.0 種であった。次いで森林生態系保 護地域(14.5 種)、植物群落保護林(12.8 種)の順で少なくなり、最も少なかったのは緑の回廊 (10.5 種)であったが、調査地間での確認種数のバラツキの程度が大きく、明瞭な違いと言えなか った。 各調査地の種数 25 各調査地の種数 林相別の平均種数 林相別の平均種数 20 保護林← 10 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 →緑の回廊 7.3 5.4 5 5.8 5.0 15 16.0 14.5 12.8 10.5 10 5 0 森 林 生 態 系 保 護 地 域 植 物 群 落 保 護 林 郷 土 の 森 保護林← →緑の回廊 0 緑 の 回 廊 森 林 生 態 系 保 護 地 域 植 物 群 落 保 護 林 郷 土 の 森 図 7-2-6. 天然林の保護林区分別等哺乳類・鳥類確認種数 23 緑 の 回 廊 表 7-2-6. 天然林の指定別哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最小 最大 平均 鳥類 最小 最大 7.3 6 8 14.5 12 17 (5地点) 5.4 3 7 12.8 3 20 (1地点) 5.0 5 5 16.0 16 16 (10地点) 5.8 1 9 10.5 4 21 森林生態系保護地域 (4地点) 保護林部 植物群落保護林 郷土の森 緑の回廊部 緑の回廊を林相別に見ると(図 7-2-7)、哺乳類で平均種数が最も多かったのはケヤキ林とスギ 林で 8.5 種、次いでヤナギ林(8.0 種)、サワグルミ林(7.0 種)、ブナ・天スギ林(6.5 種)、アオモリト ドマツ林(6.0 種)、スギ・ブナ林(5.5 種)の順で少なくなり、最も少なかったのはブナ林の 5.2 種であ った。鳥類において最も平均種数が多かったのは、アオモリトドマツ林の 17.0 種、次いでサワグルミ 林とスギ・ブナ林(15.0 種)、ケヤキ林(14.5 種)、ブナ・天スギ林(12.5 種)、ヤナギ林(12.0 種)、ブ ナ林(11.2 種)の順で少なくなり、最も種数が少なかったのはスギ林の 10.5 種であった。 哺乳類の平均種数が多いケヤキ林やサワグルミ林、ヤナギ林、スギ林は沢など水場が近いこと が多く、餌となる植物の成長も良いためと考えられる。また、泥や砂、岩はフンや足跡などの痕跡を 見つけやすいことも調査結果と関係している。鳥類ではアオモリトドマツ林で最も平均種数が多か ったが、通常の森林性鳥類に加え、亜高山・高山の鳥類が確認できたこと、また秋季に渡る鳥類が 確認できたためである。 25 各調査地の種数 林相別の平均種数 天然林← 10 6.5 8.5 8.0 7.0 6.0 5.2 5 林相別の平均種数 →人工林 8.5 各調査地の種数 20 5.5 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 17.0 15 14.5 11.2 10 15.0 12.5 15.0 12.0 10.5 5 0 天然林← 0 ブ ナ 林 ブ ナ ・ 天 ス ギ 林 ア オ モ リ ト ド マ ツ 林 ケ ヤ キ 林 サ ワ グ ル ミ 林 ヤ ナ ギ 林 ス ギ ・ ブ ナ 林 ス ギ 林 ブ ナ 林 ブ ナ ・ 天 ス ギ 林 ア オ モ リ ト ド マ ツ 林 ケ ヤ キ 林 サ ワ グ ル ミ 林 図 7-2-7. 緑の回廊の群落別哺乳類・鳥類確認種数 24 →人工林 ヤ ナ ギ 林 ス ギ ・ ブ ナ 林 ス ギ 林 表 7-2-7. 緑の回廊の群落別哺乳類・鳥類確認種数 平均 最小 最大 平均 最小 最大 ブナ林 (13地点) 5.2 1 8 11.2 3 21 ブナ・天スギ林 (2地点) 6.5 6 7 12.5 9 16 アオモリトドマツ林 (1地点) 6.0 6 6 17.0 17 17 ケヤキ林 (2地点) 8.5 8 9 14.5 14 15 サワグルミ林 (1地点) 7.0 7 7 15.0 15 15 ヤナギ林 (1地点) 8.0 8 8 12.0 12 12 スギ・ブナ林 (2地点) 5.5 4 7 15.0 14 16 スギ林 (4地点) 8.5 6 13 10.5 6 14 天然林 人工林 調査地点数が限られているため正確な解析とはいえないものの、林分構造別に確認種数を比 較してみると (図 7-2-8)、哺乳類と鳥類のどちらも、天然林・人工林とも成熟段階において種数が 多いといった結果となった。 各調査地の種数 林相別の平均種数 13.0 天然林← →人工林 10 9.0 7.0 7.0 各調査地の種数 林相別の平均種数 25 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 6.6 6.1 5 20 天然林← →人工林 15.0 15 14.0 13.0 12.3 11.8 10 6.0 5 0 0 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 老 齢 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 老 齢 段 階 図 7-2-8. 林分構造別哺乳類・鳥類確認種数 25 非 老 齢 攪 乱 段 階 林 分 成 立 段 階 若 齢 段 階 成 熟 段 階 非 老 齢 攪 乱 段 階 表 7-2-8. 天然林 林分構造別哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 平均 鳥類 最少 最多 林分成立段階 (0 地点) - - - - - - 若齢段階 (1 地点) 7.0 7 7 13.0 13 13 成熟段階 (1 地点) 9.0 9 9 15.0 15 15 老齢段階 (17 地点) 6.1 1 9 12.3 3 21 非老齢攪乱段階 (1 地点) 7.0 7 7 6.0 6 6 林分成立段階 (0 地点) - - - - - - 若齢段階 (5 地点) 6.6 4 9 11.8 7 16 成熟段階 (1 地点) 13.0 13 13 14.0 14 14 非老齢攪乱段階 (0 地点) - - - - - - 人工林 鳥獣保護区指定の有無別にみると (図 7-2-9)、哺乳類では指定地が平均 4.8 種であったのに 対して、指定されていない林分では 7.2 種と指定地よりも 2.4 種多いという結果になった。また、鳥 類においても、指定地の平均 10.8 種に対し、指定されていない林分では 12.5 種と指定地よりも 1.7 種多かった。 各調査地の種数 林相別の平均種数 10 7.2 5 各調査地の種数 林相別の平均種数 25 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 15 20 15 12.5 10.8 10 4.8 5 0 鳥獣保護区 0 指定なし 鳥獣保護区 指定なし 図 7-2-9. 鳥獣保護区指定の有無と哺乳類・鳥類確認種数 表 7-2-9. 鳥獣保護区指定の有無と哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 平均 鳥類 最少 最多 鳥獣保護区 (6 地点) 4.8 1 8 10.8 3 17 指定なし (20 地点) 7.2 4 13 12.5 4 21 26 人工林について施業履歴の有無別にみると (図 7-2-10) 、哺乳類では、施業履歴のある林分 が 8.0 種、履歴のない林分が 7.0 種と、両者で大きな違いは見られなかった。 一方、鳥類では、履歴のない林分が 15.0 種と、履歴のある林分の 10.5 種よりも 4.5 種多かった。 これは、除伐や間伐による施業によって、高木層や亜高木層の植物種が減少していたことと関係し ているものと推察された。 なお、人工林の施業履歴の有無による動物種数の比較については、調査箇所数が少ないことか ら今後ともデータの蓄積が必要と考えられる。 鳥類確認種数 哺乳類確認種数 25 各調査地の種数 林相別の平均種数 15 10 8.0 7.0 各調査地の種数 林相別の平均種数 20 15.0 15 10.8 10 5 5 0 人工林 (施業履歴あり) 0 人工林 (施業履歴なし) 人工林 (施業履歴あり) 人工林 (施業履歴なし) 図 7-2-10. 人工林施業履歴の有無と哺乳類・鳥類確認種数 表 7-2-10. 人工林施業履歴の有無と哺乳類・鳥類確認種数 平均 哺乳類 最少 最多 平均 鳥類 最少 最多 施業履歴あり (4 地点) 8.0 4 13 10.8 7 14 施業履歴なし (2 地点) 7.0 7 7 15.0 14 16 人工林 27 8. 考察 8-1 森林環境と野生動物の生息環境 今回の調査地点数は 26 箇所と、詳細な解析を行うには十分な地点数とはいえないものの、いく つかの特徴的な結果が示された。 【 植生 】 ・ 確認種数は、人工林で天然林よりも多いといった傾向が示されたが、これは人工林がすべてス ギ植林で、比較的肥沃な立地にある林分のものと考えられ、それが種数の増加につながった ものと推察された。 ・ 林分の発達段階と植物種数との関係では、天然林では老齢段階よりも成熟段階で多く、また 人工林では若齢段階で成熟段階よりも種数が多いといったように、植物種数が必ずしも林分 構造の発達とともに増加するといった単純な傾向を示されなかった。これは、比較する地点数 が少ないといった問題はあるものの、調査地の微地形や気候条件などといった他の環境要因 が影響している可能性が考えられる。 ・ 人工林では、施業が実施されると光環境が好転することから、一般には植物種数は増加する ものと考えられるが、除伐や間伐によって主林木 (主にスギ) 以外の樹木 (特に広葉樹) は 伐採されてしまうためか、林分の上層では種数が低下していた。 なお、人工林の施業履歴の有無による種数の比較については、調査データが少なくさらに データの蓄積が必要と考えられる。 【 哺乳類 】 ・ 哺乳類の確認種数は、植物種数が増加するにつれて多くなるといった傾向が示されたが、こ の結果は、例えば植物種数の少ない単純な人工林において、種数を増加させるような森林施 業を行うことで、哺乳類の利用効果を高くすることが出来ることを示唆するものといえる。 ・ 林分の発達段階では、林分構造が比較的複雑と考えられる老齢段階よりも成熟段階で確認 種数 (平均種数) が多かったが、これは哺乳類の種数が林分構造だけでなく、植物種数や地 形要素などといった他の要因にも影響されていることを示しているものと考えられる。 【 鳥類 】 ・ 鳥類の確認種数は、哺乳類の場合とは異なり、植物種数との間に明瞭な関係は見られなかっ た。これと同様の結果は、白神八甲田・奥羽山脈・北上高地緑の回廊の一巡目調査結果を取 りまとめた 「平成 19 年度「緑の回廊」整備特別対策事業(モニタリング調査)」 (平成 20 年 3 月) のなかでも示されており、鳥類については、行動範囲が広く、また調査時の気象状況 (天 候や気温など) に確認種数が左右されやすいためなどの理由が考えられる。 ・ 林分構造別では天然林・人工林ともに成熟段階で確認種数 (平均種数) が多く、哺乳類の 場合と同様に、林分構造が比較的複雑な老齢段階や非老齢段階において必ずしも種数が多 くなることはないことが示された。この原因としては、沢筋や尾根沿いといた立地環境による違 28 いや、生育する植物の種類との関係などが考えられる。 ・ また、人工林においては、施業履歴のある林分で確認種数 (平均種数) が少なくなったが、こ れは、鳥類の利用空間である林分上層の高木層・亜高木層の種数が減少していたことと関係 している可能性が高いと考えられる。 なお、人工林の施業履歴の有無による種数の比較については、調査データが少なくさらに データの蓄積が必要と考えられる。 8-2 緑の回廊の森林施業について 一般に、多様な植生で構成され、樹齢や階層構造・ギャップなどが複雑な構造をもつ林分がモ ザイク状に分布している林地は、野生動物 (鳥獣) にとって良好な生息環境であることが知られて いる。今回の結果においては、成熟段階で動植物ともに種数が多く、林分構造の発達との関係は 見出せなかった。今回は、調査地点数が限られており、十分な解析結果とはいえないため、林分 構造と種数との関係については今後さらなる検討が必要といえる。 天然林の場合、自然の推移に委ねていれば、いずれ林分構造の発達した森林になることが予 想される。人工林でも長い時間が経てばこのような森林に移行すると考えられるが、除間伐等の森 林施業を適切に実施することで、目的とする森林の状態に誘導する時間を短縮することが可能で ある。また、人工林は放置すれば、気象被害や他樹種との競争等により林地の荒廃を招くこともあ り、積極的に手を加えることが必要である。 緑の回廊において伐採を行う場合は 「森林生態系への影響を最小限とするため、原則として 択伐、漸伐又は複層伐とすることとし、皆伐を行う場合は、伐区を小規模かつ分散させるとともに伐 期の長期化に努めること」 とされている。今回の調査結果では、人工林においては除伐や間伐に よって上層の種構成が単純化したことが、一時的な要因とは思われるものの、鳥類の種数の多少 に影響を及ぼしていることが推察された。今後、施業の実施にあたっては、鳥類などの利用効果を あげるために広葉樹を少しでも残すような配慮が必要であると考えられる。 なお、人工林については、天然林と比較してデータ数が少なくさらにデータの収集が必要と考え られる。 「緑の回廊」 整備特別対策事業で行われている間伐は、定性間伐と列状間伐とがあるが、いず れの場合もオープンスペースが確保できるため、複雑な林分構造となり、動植物種の生息・生育環 境の創出につながり、さらには生物多様性も誘導できることから施業は有効であるといえ、今後とも 積極的に推進していくべきといえる。 9. 調査方法の見直し、調査項目の追加等の検討 緑の回廊モニタリング調査は、5 年目で調査地を一巡し、野生動植物に関する貴重なデータを 記録し続けているが、今回の 「鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊」モニタリング調査においては平成 29 17 年度から 21 年度にわたり実施され、一巡となった。今後もモニタリング調査を実施してデータを 蓄積することで、一巡目の結果との比較が可能になり、様々な知見が得られるとともに、緑の回廊 の有効性の検証においても総合的な判断が可能になるものと期待できる。 調査方法の見直しについては、調査方法を変更するとデータの比較が困難になることから、現 在の調査方法を継続することが適切と考えられる。しかしながら、年度によって調査実施者が変わ ることが想定されることから、モニタリングとしてのデータ精度を上げるために、哺乳類では踏査ルー トを前回調査の時と可能な限り同じとすることや、鳥類であれば調査開始時間などに配慮して実施 する必要がある。 また、自動撮影カメラ調査については、夜行性動物の生息状況のほか、調査地付近に生息また は出現していても現地調査時に姿や声・痕跡を確認できなかった鳥獣を確認できるので有効な方 法といえ、今回の調査においても大きな成果をあげていることから、今後も活用すべきである。調査 の効果をより向上させるためには、設置台数を増やしたり、撮影期間を延ばす (途中、フィルム交 換は必要) などの工夫も必要と考えられる。 特定の動物種については、新しい調査項目の追加も考えられる。移動距離の長い大型哺乳類 のカモシカやツキノワグマについては、回廊内における個体群の連続性や個体数の推定など把握 していくことが今後の課題といえ、これにはヘアートラップ法とともに遺伝子解析などを行うことが有 効である。これにより、生息状況を広域にわたり面的に把握することができ、これまで蓄積されてき た調査結果と併せることで、緑の回廊の生息環境整備に役立てられるものと期待できる。 また、緑の回廊内には樹洞ができやすい大径木が多いことから、緑の回廊は里山よりも樹洞を 利用する動物の保全に優れているといえる。ムササビやフクロウ類、コウモリ類 (特にヤマコウモリ) などの樹洞性の動物の生息状況を確認するため、夜間の鳴き声確認調査などを追加して実施す ることも考えられる。 今後モニタリング調査を続けていく中で、林分構造などの森林環境は短期間では大きく変化し ないことから、調査地を二巡、三巡した程度 (5~10 年経過した程度) では得られたデータから明 確な傾向を把握しにくいことも考えられる。そのため、林分構造などの違いによる比較解析が十分 行えるように、調査地点数を増やすことも必要である。 森林施業のあり方については 「対照試験を行う等実証的なデータを得るように努めるものとす る」 とされているが、現在は施業実施前後のモニタリング調査は実施されていないため、今後、新 たに列状間伐・複層伐等の森林施業を実施する場合は、下層植生の生育状況、動物 (ノウサギ 等) の生息密度、開空率等を施業実施前後で調査し、新たなモニタリング調査地点として追加す る必要といえる。 また、現在得られている調査結果をできるだけ有効に活用するため、緑の回廊森林施業を既存 の調査地の森林で行う計画がある時は、調査年度に該当していなくても施業後の調査を実施して、 変化 (影響) をモニタリングすることは効果的である。また、地すべりや森林火災、風倒害など比較 的規模の大きい森林被害が生じた際の動植物の回復状況等については、既存のデータが少なく、 モニタリングを行うことで様々な知見が得られると考えられる。 30