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ヒト乳頭腫ウイルスの関連が疑われた口腔内白板症の2例 ただいま

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ヒト乳頭腫ウイルスの関連が疑われた口腔内白板症の2例 ただいま
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日皮会誌:99
(4),
463―467, 1989 (平元)
ヒト乳頭腫ウイルスの関連が疑われた口腔内白板症の2例
なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表
池田美智子*
前口 瑞恵*
菊池 りか*
示されます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。
川島 真*
肥田野 信*
安藤
智博**
要 旨
から検討を加え,若干の知見を得たので報告する.
舌に生じた口腔内白板症2例において,抗パピロー
症 例
マウイルス抗体を用いた免疫組織化学的検討および電
症例1
顕学的検討を行なった.その結果,2例ともその有煎
初診:昭和62年3月26日.
層の中∼上層においてパピローマウイルス抗原の存在
家族歴:特記すべきことなし.
が認められ,また電顕学的にも細胞核内に直径約
既往歴:41歳時,肋骨骨折,外傷性肋膜炎.61歳時
30∼40nmの電子密度の高い粒子が集族した像が観察
より慢性腎炎.69歳時,左鎖骨下動脈狭窄を指摘され,
され,成熟したウイルス粒子とは異なるものの,未熟
チクロピジソ(パナルジソ),エラスターゼES(エラ
なウイルス粒子の可能性も含め,パピg一々ウイルス
スチーム)を内服中.総入れ歯で,約35年間40本/日の
に関連した構造物と考えた.本邦での報告は自験2例
喫煙歴あり.
が最初と思われるが,欧米からも同様の報告が見られ
現病歴:昭和62年1月頃,舌右縁に自覚症状のない
:71歳,男.
ることから,口腔内白板症の一部においてはヒト乳頭
白色病変が出現し,徐々に拡大したため近医を受診し,
腫ウイルスがその発生に関与している可能性が高いと
当科を紹介された.
思われる.
現症:舌右縁に12×10mmの扁平で軽度に隆起した
表面ベルペット状の白色病変を認め,周囲に径1∼2
緒 言
口腔内白板症(oral
leukoplakia
mm大の衛星病巣を伴っていた(第1図,
: OLP)は,扁平
A).口腔内
には他に著変を認めなかった.
苔癖やカンジダ症などに基づく症候性のものと,特定
検査成績:慢性腎炎による異常検査値以外には特記
の疾患に分類し得ず,外的刺激などが誘因とされる白
すべきことなし.
色角化症(leukokeratosis
症例2
:LK)に大別されるが,後
:62歳,女.
者の一部は癌化する事も知られている.また前癌状態
初診:昭和62年9月1日.
である口腔内ボーエソ病,紅色肥厚症も白色角化性局
家族歴:特記すべきことなし.
面を示すことがあり,0LPは病名とするよりは症状名
既往歴:34歳時,絨毛上皮腫にて子宮部分摘出術.
ととらえるべきものである1).
54歳時,糖尿病を指摘され.現在インスリン療法中.
近年,0LPの一部(LKと考えるべき群)で,ヒト
57歳時,子宮頚癌で子宮全摘.60歳時,十二指腸潰瘍.
乳頭腫ウイルス(human
総入れ歯あり.喫煙歴なし.
papillomavirus
:HPV)が関
与している可能性を示す報告2)3)があり,またHPVの
現病歴:昭和62年3月,舌右縁の白色病変に気づき,
一部のタイプは発癌能を有する4)ことも疑われている
近医で口腔内カンジダ症を疑われ,抗真菌剤含漱,ピ
ことから,0LPの発生および癌化過程においてHPV
オクタニソ外用を受けたが,拡大したため,当科を受
が重要な役割を有しているのではないかとする報告3’
診した.
もある.
現症:舌右縁に幅5mm,長さ4cmの線状で軽度隆起
最近我々は,舌に生じたOLPの2例を経験し,免疫
した白色局面があり,表面は細穎粒状を呈していた(第
組織化学および電顕学的にHPVの関与の有無の観点
1図,
B).
検査成績:尿糖(3十),BUN,AI・Pの軽度上昇あ
*東京女子医科大学皮膚科
**東京女子医科大学口腔外科
昭和63年6月29日受付,昭和63年11月29日掲載決定
り.
組織学的検討
別刷請求先:(〒162)東京都新宿区河田町8番1号
生検組織のHE所見では,症例1,2ともほぼ同様
東京女子医科大学皮膚科 池田美智子
で,粘膜上皮の著明な肥厚と一部乳頭腫症を認めた.
池卜げ智μまか
464
B:症例2
A:症例1
第1図 臨床像
A:症例1
B:症例2
第2図 組織学的所見
個々の上皮細胞に異型性は認められず,また配列の乱
治療および経過
れも見られなかった(第2図,
両例ともOLP,なかでもLKと診断し,C02レー
A).
粘膜上皮の中∼上層では空胞化を示す細胞もみら
ザーによる焼灼術を開始した.現在までに3回施行し
れ,不全角化を示す部位も認められた(第2図,B).
一部に再発を認めているが,悪性化の兆候はみられて
いない.
465
ロ腔内白板症とHPV
第3図 パピローマウイルス抗原陽性所見.粘膜上皮の中∼上層の一部の細胞核に一
致して,弱いHPV抗原陽性所見が認められる(症例1).
免疫組織化学的検討
考 按
抗パピローマウイルス抗体を川いたABC法によ
狭義のOLP,すなわちLKは,口腔粘膜における前
り,パピローマウイルス抗原の有無を検索した.方法
癌病変として古くから注目されてきた病変である.現
の詳細は既に報告してある5).その結果,2例とも,肥
在では,臨床的にも病理学的にも他の疾患の特徴を示
厚した粘膜上皮の中∼上層の空腔化細胞を含む一部の
さない白色病変で異型性の有無は問わないと定義され
細胞の核に一致して,淡褐色の弱いながら陽性と考え
ている.井上ら6)によると,10年以上観察したLK例に
られる所見が得られた(第3図).
おける癌発生率は9.7%であり,また可動性粘膜に発生
電顕学的検討
したり,直径1cm以上でdysplasiaを伴うLKは,癌の
生検材料の一部を型通り,固定,脱水,包埋後,超
発生する危険性が高くなることを指摘している.
薄切片を作製し,目立HU12A透過型電子顕微鏡で観
LKの発症要因として,タバコ,鋭利な歯牙,義歯,
察した.症例1,2と払粘膜上皮中∼上層の変性し
アルコール等が考えられている1)が,近年免疫組織化
た核内に,直径約3(卜40nm,球状の電子密度の高い粒
学的に乳頭腫ウイルス抗原陽性を示し2),blot-
子が散在あるいは集族した像を認めた(第4図,A).
hybridization法によりHPV
一部には,尋常性比贅等でみられる格子状配列の形成
があり,LKの病因の1つとしてHPVの関与も疑わ
段階と思われるものも見られた(第4図,
A, inset).
またやや電子密度が低くhaloを伴う粒子も散見され
た(第4図,
B).
DNAを証明した報告3)
れている.
自験2例のOLP(LK)について,免疫組織学的及び
電顕学的検討の結果をまとめると以下の様になる.
D2例とも,乳頭腫ウイルス抗原が陽性であった.
池田美智fほか
466
A:症例1の粘膜上皮上層の細胞核内に認められたHPV様粒子(12,000倍).
B:症例2の不全角化細胞核内にみられたHPV様粒子.
Haloを伴う粒子(4)を混
在している(25,000倍).
第4図 電顕学的所見
その局在は,空胞化細胞を含む粘膜上皮中∼上層の細
粒子は,直径約30∼40nmで,
haloを伴うものもあり,
胞核に一致していた.
haloを伴うものは直径約50nmと成熟したHPVの大
2)2例とも,電顕学的に,変性した上皮細胞の核内
きさに一致していた.この粒子様構造物は,
HPV感染
に,同様の乳頭腫ウイルス様粒子を見いだした.その
によるとされる.尖圭コンジローム,
Bowenoid
467
ロ腔内白板症とHPV
papulosis,一部のBowen病などで観察されている
が関与していることが強く疑われた.
HPV様粒子と酷似している5)7)8)ことから,尋常性琵贅
ると, leukoplakia
などで見られる成熟したHPV粒子とは異なるもの
ないし11が検出されている.自験例についても,さら
の,未熟なHPV粒子の可能性も含め,HPVに関連し
にDNAレベルでの解析を加えることにより,形態学
た構造物であると考えた.この点に関しては,免疫電
的に示されたHPV感染の可能性を確認したい.
頭学的検討により,さらに明らかになるものと思われ
本研究の一部は,昭和62年度基礎医学研究費(資生堂寄
る.以上より,自験2例においては,その発症にHPV
付)の補助による.
文
献
1)上野賢一:上皮性腫瘍.現代皮膚科学大系第9巻,
5)金 恵英,川島 真,中川秀己,石橋康正,古川裕
189-192,中山書店,東京,
之,松倉俊彦:邦人男子の尖圭コソジp−ムの臨
1980.
LOningら3)によ
5例中4例にHPV
DNA
type 16
2) Loning TH, Reichart P,Staquet MJ, Becker J,
床,組織および分子生物学的検討,日皮会誌,98:
Thivolet
structural antigens in oral papillomas and leu・
547-559, 1988.
6)井上哲生,坂本穆彦,内田正興,鎌田信悦:ロ腔白
koplakias, / OralPaihol13
板症の悪性化,日癌治,20
J : Occurrence
of papilloma
virus
: 155-165, 1984.
: 18-24, 1985.
3) LOning Th, Ikenberg H, Becker J, Gissmann L,
7)鈴木秀明,森嶋隆文:Bowenoid papulosisと
Hoepfer
Bowen病における乳頭腫ウイルス抗原の免疫組
l,zur Hausen
H : Analysis of oral
papillomas, leukoplakias, and
cinomas
for human
DNA,JID.84
invasive car・
織化学的研究,日皮会誌,97
papillomavirus type related
: 1193-1200, 1987.
8)小松威彦,木村俊次,原田玲子,稲本伸子:
: 417-420, 1985.
Bowenoid
4)川島 真:ヒト乳頭腫ウイルスの発癌能,日皮会
papulosis―高齢男子例の蛍光抗体法
的検索−,臨皮,96
: 361-365, 1982.
誌,96 : 1339-1342, 1986.
Two Cases of Oral Leukoplakia Possibly Associated with
Human Papillomavirus
Michiko
Ikeda*, Mizue
Akira
Maeguchi*,
Hidano*
Rika Kikuchi*,
and Tomohiro
Makoto
*Department
of Dermatology, Tokyo Women's
**Department
of Oral Surgury, Tokyo Women's
Medical College
Medical College
(Received June 29, 1988; accepted for publicationNovember
Two
cases of oral leukoplakia
biotin peroxidase
cells of middle
Further
complex
and upper
evidence
were
technique
layers was
GpnJ
Key
Dermatol
words: oral
observed
for the presence
revealed virus-like particles (30∼40
studied immunohistologically
using papillomavirus
nm
human
and
specific antibody,
29, 1988)
ultrastructurally.
distinct nuclear
By
means
of avidin-
staining of epithelial
in both cases.
of human
papillomavirus
in diameter)
within
99:463∼467,1989)
leukoplakia,
Kawashima*,
Ando**
papillomavirus
was
obtained
the nucleus.
by the electron micrograph,
which
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