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ヒト乳頭腫ウイルスの関連が疑われた口腔内白板症の2例 ただいま
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DNAを証明した報告3) れている. 自験2例のOLP(LK)について,免疫組織学的及び 電顕学的検討の結果をまとめると以下の様になる. D2例とも,乳頭腫ウイルス抗原が陽性であった. 池田美智fほか 466 A:症例1の粘膜上皮上層の細胞核内に認められたHPV様粒子(12,000倍). B:症例2の不全角化細胞核内にみられたHPV様粒子. Haloを伴う粒子(4)を混 在している(25,000倍). 第4図 電顕学的所見 その局在は,空胞化細胞を含む粘膜上皮中∼上層の細 粒子は,直径約30∼40nmで, haloを伴うものもあり, 胞核に一致していた. haloを伴うものは直径約50nmと成熟したHPVの大 2)2例とも,電顕学的に,変性した上皮細胞の核内 きさに一致していた.この粒子様構造物は, HPV感染 に,同様の乳頭腫ウイルス様粒子を見いだした.その によるとされる.尖圭コンジローム, Bowenoid 467 ロ腔内白板症とHPV papulosis,一部のBowen病などで観察されている が関与していることが強く疑われた. HPV様粒子と酷似している5)7)8)ことから,尋常性琵贅 ると, leukoplakia などで見られる成熟したHPV粒子とは異なるもの ないし11が検出されている.自験例についても,さら の,未熟なHPV粒子の可能性も含め,HPVに関連し にDNAレベルでの解析を加えることにより,形態学 た構造物であると考えた.この点に関しては,免疫電 的に示されたHPV感染の可能性を確認したい. 頭学的検討により,さらに明らかになるものと思われ 本研究の一部は,昭和62年度基礎医学研究費(資生堂寄 る.以上より,自験2例においては,その発症にHPV 付)の補助による. 文 献 1)上野賢一:上皮性腫瘍.現代皮膚科学大系第9巻, 5)金 恵英,川島 真,中川秀己,石橋康正,古川裕 189-192,中山書店,東京, 之,松倉俊彦:邦人男子の尖圭コソジp−ムの臨 1980. LOningら3)によ 5例中4例にHPV DNA type 16 2) Loning TH, Reichart P,Staquet MJ, Becker J, 床,組織および分子生物学的検討,日皮会誌,98: Thivolet structural antigens in oral papillomas and leu・ 547-559, 1988. 6)井上哲生,坂本穆彦,内田正興,鎌田信悦:ロ腔白 koplakias, / OralPaihol13 板症の悪性化,日癌治,20 J : Occurrence of papilloma virus : 155-165, 1984. : 18-24, 1985. 3) LOning Th, Ikenberg H, Becker J, Gissmann L, 7)鈴木秀明,森嶋隆文:Bowenoid papulosisと Hoepfer Bowen病における乳頭腫ウイルス抗原の免疫組 l,zur Hausen H : Analysis of oral papillomas, leukoplakias, and cinomas for human DNA,JID.84 invasive car・ 織化学的研究,日皮会誌,97 papillomavirus type related : 1193-1200, 1987. 8)小松威彦,木村俊次,原田玲子,稲本伸子: : 417-420, 1985. Bowenoid 4)川島 真:ヒト乳頭腫ウイルスの発癌能,日皮会 papulosis―高齢男子例の蛍光抗体法 的検索−,臨皮,96 : 361-365, 1982. 誌,96 : 1339-1342, 1986. Two Cases of Oral Leukoplakia Possibly Associated with Human Papillomavirus Michiko Ikeda*, Mizue Akira Maeguchi*, Hidano* Rika Kikuchi*, and Tomohiro Makoto *Department of Dermatology, Tokyo Women's **Department of Oral Surgury, Tokyo Women's Medical College Medical College (Received June 29, 1988; accepted for publicationNovember Two cases of oral leukoplakia biotin peroxidase cells of middle Further complex and upper evidence were technique layers was GpnJ Key Dermatol words: oral observed for the presence revealed virus-like particles (30∼40 studied immunohistologically using papillomavirus nm human and specific antibody, 29, 1988) ultrastructurally. distinct nuclear By means of avidin- staining of epithelial in both cases. of human papillomavirus in diameter) within 99:463∼467,1989) leukoplakia, Kawashima*, Ando** papillomavirus was obtained the nucleus. by the electron micrograph, which