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家庭的養育支援ネットワークと心のケア事業

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家庭的養育支援ネットワークと心のケア事業
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はじめに
わが国の社会的養護制度は、施設養護から家庭養護へと大きく動き出しています。
特に、2011 年 3 月に「里親委託ガイドライン」で示された「里親委託優先の原則」は、この転換を支える
画期的なものでした。しかし、わが国の里親委託率は未だ 13%にすぎず、今後の家庭養護の拡充には
様々な課題が横たわっています。
その中で、わが国の社会的養護で、里親とともに大きな役割を担うにもかかわらず、専門的な研修が行
われていない「ファミリーホーム養育者」の人材養成は急務と言えます。
わたしたちは、 (独行)福祉医療機構の助成を受けて、2010 年に「家庭的養護の人材養成プログラム開
発事業」、2011 年には「続・家庭的養護の人材養成プログラム開発とネットワークづくり」を行ってきました
が、その中でも特に、「ファミリーホーム養育者」の専門研修に焦点を当てた研修プログラム開発と試行を
行ってきました。研修内容とともに、「ケア・スタディ」という新しい研修手法が里親研修の中に普及すること
を願うものです。
また、2011 年度からは、研修プログラム開発と並行して、福岡市児童相談所、福岡地区小児科医会、
(特)そだちの樹(弁護士を中心にした子どもシェルター「ここ」を運営)、福岡県精神科病院協会、福岡市里
親会、福岡市乳児院・児童養護施設協議会とともに支援ネットワークをつくる事業を行っています。
さらに今年度は、東日本大震災の被災地である宮城県の関係者(宮城県、仙台市、宮城県里親会、仙
台市里親会、県内の児童相談所、子どもの村東北)ともネットワークをつくり、7者協働による里親普及・支
援事業「もうひとつの絆プロジェクト」が始まり、東北に家庭養護を普及する活動につながってきました。
社会的養護では、従来、里親と施設、市町村や地域の人材とのネットワークが十分ではなく、専門機関
である小児科医、精神科病院、また民間の NPO との関係は皆無と言っていい状況です。今回の報告書で
は、特に、「家庭養護・家庭的養護を支える多分野ネットワークづくり」を焦点にお読みいただければ幸い
です。
終わりに、(独行)福祉医療機構をはじめ、関係の皆様には、わが国の家庭養護の発展を目指す「子ども
の村福岡」の活動にご支援いただき、心より感謝申し上げます。
2013 年 3 月
特定非営利活動法人 子どもの村福岡
副理事長 坂本雅子
「子どもの村福岡」は、福岡市における市民と児童相談所の協働による里親普及・支援事業「新しい絆プ
ロジェクト・ファミリーシップふくおか」の中から生まれました。
「すべての子どもに愛ある家庭を」の
スローガンのもと、世界 133 カ国で展開されている「SOS 子どもの村」のわが国で最初の『子どもの村』
です。2010 年の「子どもの村福岡」の設立に始まり、昨年 6 月には「子どもの村東北」が、8 月には「日
本 SOS 子どもの村」が NPO 法人として設立されました。
<執筆者一覧>
見元 伊津子(乙金病院 理事長 ― 精神科医)
高井 美和(セラプレイカウンセリングセンター東京所長 ― 公認セラプレイセラピスト&トレーナー)
藤澤 陽子(国立武蔵野学院 ― 臨床心理士)
木村 康三(たんぽぽホーム )
廣瀬 志歩(NPO 法人日本 SOS 子どもの村)
坂本 雅子(NPO 法人子どもの村福岡 副理事長・村長 ― 小児科医)
田代 多恵子(福岡県看護協会 専務理事 ― 保健師)
山本 裕子(西南学院大学社会福祉学科 教授 ― 社会福祉士)
松﨑 佳子(九州大学大学院人間環境学研究院 教授 ― 臨床心理士)
廣岡 逸樹(NPO 法人子どもの村福岡 子ども家庭支援室長 ― 臨床心理士)
溝上 由紀子(音楽療法士)
橋本 愛美(NPO 法人子どもの村福岡 ― 臨床心理士)
目 次
Ⅰ.家庭養護・家庭的養護を支える多分野ネットワークづくり
05
1.家庭養護をともに支えるために~多分野ネットワークと連携をめざして~
06
2.福岡におけるネットワーク連携事業
16
「精神科医療と子ども福祉の連携について」
(福岡県精神科病院協会 見元伊津子)
18
「家族と暮らせない子どもたちを社会全体で支えていくために」
(日本 SOS 子どもの村 廣瀬志歩)
Ⅱ.家庭的養育の人材養成プログラム開発
1.子どもの村福岡 2012 年度里親・FH 専門研修の概要
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21
22
2.専門研修について
研修要約「愛着形成に課題を持つ子どもとの関係づくり~セラプレイ技法に学ぶ~」
24
「愛着の再形成をセラプレイ的な視点で」(セラプレイカウンセリングセンター東京 高井美和)
26
研修要約「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク~基礎編~」
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研修要約「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク~実践編~」
28
「生活の中で行うライフストーリーワークとケア・スタディ」(国立武蔵野学院 藤澤陽子)
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SOS 子どもの村におけるライフストーリーワークについて
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研修要約「私は育てられた、私は育てる~宿泊研修~」
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「『子どもの村福岡専門研修』を終えて」
(たんぽぽホーム 木村康三 氏)
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「家庭養護の養育者に求められる自己覚知」(九州大学大学院人間環境学研究院 松﨑佳子)
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Ⅲ.子どもプログラム(遊びを通した里子のケアプログラム)
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Ⅳ.東北における家庭養護を支えるネットワークづくり
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「家庭的養育支援ネットワークと心のケア事業」を終えて
Ⅴ.
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Ⅵ.資料
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1.研修当日資料 「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク」
2.ケア・スタディ誓約書と報告用シート
3.論文「社会的養護で育てられた子どもたちに対するバイオグラフィワーク」
人格育成のための効果的な援助
Ⅰ.家庭養護・家庭的養護を支える多分野ネットワークづくり
1.家庭養護をともに支えるために
~多分野ネットワークと連携をめざして~
*これは、2 月 17 日に行った公開フォーラムと、拡大ネットワーク会議の記録をまとめたものです。
≪はじめの挨拶≫
子どもの村福岡では、福岡市里親会や福岡地区小児科医会、(特)そだちの樹、
福岡県精神科病院協会、福岡市児童相談所とともに、家庭養護を支える「多分野
ネットワーク」づくりをめざしてきました。「多分野ネットワーク」を考える際には、2 つ
のキーワードがあると思います。
1つは、「だれのためのネットワークか」ということ。小児科医として医療現場では、
子どもの村福岡
満留 理事長
チーム医療としてチームで取り組むわけですが、ややもすると働く人たちのための
チーム医療になりがちです。患者である子どものためのチーム医療ですよ、という
ことをしっかりとベースに持っておかないといけない。これと同じことが、家庭養護を支えるネットワークに
ついても言えるのではないでしょうか。
もう1つは、「アンダースタンディング(understanding)」という言葉です。多分野から人が集まった時に
はそれぞれの立場を尊重しないとチームは組めません。様々な専門分野の人がお互いに相手を理解し、
相手の立場を尊重するということが大切になります。そして、その土台にあるのは常に「子どもの権利」で
す。
さて、これから、西南学院大学の山本先生に「子どもの権利」についてお話しいた
だくとともに、里親、小児科医、弁護士、子どもの村福岡、それぞれの分野で子ど
もの権利実践に取り組んでいる皆さんのお話しの中から、新しい社会的養護や
子育てを支える多分野チームをどう組み立てていくかを考えていきたいと思いま
す。
九州大学大学院
松﨑 教授
≪ライフストーリーワークを通して考える子どもの権利≫
子どもの村が開村する 2010 年前後は、児童福祉法の改正、里親委託ガイド
ライン、里親およびファミリーホーム養育指針などが出され、児童福祉分野の大
きな改革が目白押しでした。そのような中、子どもの村福岡でも「国連子どもの代
替養育に関するガイドライン」を翻訳出版し、子どもの権利をどのように私たちの
実践の中で促進していくかということに、一段と強い意識が芽生えました。
今年、子どもの村福岡では、国立武蔵野学院の藤澤陽子先生をお招きし、
西南学院大学
山本 教授
2012 年 11 月と今年 2 月に、「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワー
ク」という里親・ファミリーホーム(以下、FH)のための専門研修を行いました。「里
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親・ファミリーホームの養育指針」にも、子どもの自己形成におけるライフストーリーワークの重要性が言
及されています。「自己をつむぐ」という作業は全ての人間にとってとても大事なものですが、特に社会的
養護の子どもたちにとっては、自分がどこで生まれ、どのように育ってきたのかというライフスト-リーを紡
ぐ作業をすることは人格形成上でも有効であると書かれています。
イギリスの養子縁組児童法では、ライフストーリーワークの実施は法律で規定されています。したがって、
行政機関は子どもや里親にきちんと情報を開示しなければならないとされ、そして情報を適切に開示し
ているかどうかを、独立した監査機関が定期的にチェックするシステムになっています。子どもの「自分の
出自を知る権利」が保障されているんですね。
今回のライフストーリーワークの研修会では、ケア・スタディ手法をとりいれました。ケア・スタディとは、参
加者が秘密保持義務を負い、安心して自らの経験と思いを話し、それらを率直に分かち合える場を提供
する子どもの村福岡の開発した研修手法です。子どもの何が問題かを語り合うのではなく、課題に向き
合ったその時の自分の経験を出し合い、お互いによりよいケア(養育)をめざして学ぼうというものです。そ
の日の研修から家に帰って、子どもにどう向き合うかという日々の生活につながるような研修を心がけて
います。
この研修では、子どもが自分のライフストーリーを知りたくなった時のために、児童相談所から情報を
もらうよう働きかけること、情報がないと思っている子どもでも、諦めずに養育先を訪ねて情報を集め続け
ること、また、子どものアルバムは子どものものであり、プライバシーを尊重し、子どもと同じように、大切に
扱われる必要があること、子どもの過去の体験が過酷なものであった場合も、嘘やごまかしはせずに、そ
の子どもの年齢や発達に応じた伝え方をすること、
実親の肯定的な側面を伝えていくこと、子どもの
記録や養育記録は子どもにも見せることができる
形で残すことなどが、参加された里親さんたちの
実践をもとに話し合われました。日常の実践がい
かに子どもの権利擁護につながるかということを
共に確認していける、このような研修会によって
子どもの権利に対する私たちの認識は高められ
ていくのだと実感させられました。
≪親とともに社会で子どもを育む「社会教育者」~教育と福祉をつなぐ新たな専門性~≫
話はかわって、子どもの村福岡は、里親・FH のための人材養成プログラムの開発を続けていますが、
日本における里親研修や専門里親研修を参考にしながらも、SOS 子どもの村インターナショナルの持つ
「家庭教育者(Family Pedagogy)」養成プログラムを学び、試行しています。
オーストリアには、SOS 子どもの村が運営する「家庭教育者(Family Pedagogy)」養成カレッジがあり、
そこで 2 年間の研修を受けた方がプロのお母さんである「家庭教育者」となります。「家庭教育者」は、
SOS 子どもの村独自の専門職です。
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家庭のなかで子どもたちを養育する「家庭教育者」に加えて、SOS 子どもの村には、「社会教育者
(Social Pedagogy)」がいます。オーストリアでは、「社会教育者」が在宅の地域の家庭支援機関、緊急
一時保護センター、青少年センター・自立支援センター等で活躍しています。「家庭教育者」は日本でい
えば FH の養育者にあたりますが、地域の家族支援や子どもの自立支援をしているのはほとんど「社会
教育者」です。
「 Pedagogy( ペ ダ ゴ ジ ー ) 」 の 語 源 は ギ リ シ ャ 語 の 「 子 ど も を 導 く 」 と い う 言 葉 だ そ う で す 。 こ れ に
「Social(ソーシャル)」と接頭語をつけてあります。つまり、子どもを育てる、育む、導くのは親だけではなく
て、親とともに社会がその責任を分かち合うということを強調する言葉で、その専門家が「社会教育者」で
あるとされています。
また、幼児教育や保育、教育学のご専門である汐見俊幸先生が、子ども家庭福祉学会の特別講演「教
育と福祉の架け橋、国の方向性を踏まえて」のなかで、「教育というのはもともと一定の水準に子どもを到
達させることを目的にしている。福祉というのは、クライアントのニーズに沿って支援する。だから、一定の
目的まで来なさいよという教育学と、ひとり一人違うそれぞれのニーズに沿って、あらゆる方法を使って支
援する社会福祉、この二つが統合されて初めて現代で求められる良い支援ができる」と言っておられまし
た。
日本の児童福祉法には「子どもが自立するのを支援する」とは書いてありますが、子どもの自立がどの
ようなものかは具体的には書いていません。ヨーロッパや、SOS 子どもの村では「子どもたちがひとりの市
民として自立し、地域社会に貢献できる人となるように育くむ」と、はっきりと謳われています。
また、厚生労働省の「社会的養護の共通課題と将来像」の中でも親子関係の再構築支援のことが挙げ
られています。こういう支援は社会福祉職だけでもやれないし、教師だけでもやれないのではないでしょ
うか。親と子の両方に寄り添い、親とともに子どもを育み、子どもがひとりの市民として自立し、地域社会に
貢献できる人となるように導いていける新しい専門家像、専門家養成のイメージをつくる時、この「社会教
育者像」は参考になるのではないでしょうか。
≪「子ども自身が権利を行使する力」を社会的養護の中で育む≫
「子どもの権利行使を社会的養護で育む」ということで、ここで、ユニセフが出している子ども向けの子ど
もの権利の小さなシートを紹介します。この中に、社会的養護の子どもたちは「家族と暮らす権利」を奪
われている子どもたちです、とあります。普段、権利や人権は、奪われて初めてその必要性に気がつく。
奪われて初めて自分の権利を主張する闘いに目覚めるというのが長い人間の歴史です。社会的養護の
中にいる子どもたちこそ、痛みを感じとっている人たちだからこそ、自分たちの権利を主張できる、権利を
行使できる力を持つのではないかと思います。
子どもの権利条約について書かれたこの子ども向けのパンフレットの中では、「だれの権利のこと?」と
子どもの権利について言及する一方で、「だれの責任なの?」と子どもたちの責任にも言及されています。
子どもは自分たちの権利を行使する責任があり、他者の権利も大事にし、そして特に、親の権利も尊重
する責任があると書かれています。
私たちは子どもの権利条約の権利主体を子どもであると常に言いながら、守ってやらなければならない
8
対象として子どもに向き合ってはいないでしょうか。しかし、権利を行使することでしか権利は守れないこ
ともありますので、子ども自身に「あなたたちが守られているなら、あなたたちにも権利を守る、権利条約
を守る責任がある」ということも伝えていかなければならないと感じています。
権利を奪われている子どもたちは、このことについて、より理解を深めてくれるのではないかと思います。
大人も学び子どもも学び、そして権利を促進していくことが社会的養護の中で、特に日々子どもたちに寄
り添い、生活をともにしながら子どもの権利擁護の実践を担う養育者には求められるのではないでしょう
か。
ファミリーホームにやってくる幼児から高校生までの子どもたちすべてに、学習支援が必要だと感
じています。ただ、家を奪われる、食べ物も得られないという、それ以前の問題もたくさん抱えてや
ってきていますので、まず、に安心できる家が必要になります。次に、人間の土台づくりが十分に
できていない部分を修復していく環境づくりが必要になります。
幼稚園や小学校の先生たちとの連携は不可欠ですが、この分野の子どもたちへの理解がなか
なか十分でないことも多い。ネットワーク先としては大切な分野です。幸い私の校区には児童養護
施設もあり、社会的養護の子どもたちへの理解がありました。ともに学んだり、時にはイベントをし
たり、関係を積み重ねながら、教育と福祉が連携していくことが大きな課題だと思っています。
(ファミリーホーム事業者)
子どもの学びと居場所作りまなび舎を昨年の12月から始めました。生活環境の厳しい子どもた
ち、学力が遅れている子どもたちの心の居場所、学習支援を行う取り組みです。これは、学校の
協力、スクールソーシャルワーカーの協力なしには出来ない事業です。
子ども時代のほとんどを過ごす学校教育の現場は、外からは入りにくく、自分たちが手を出せな
いところとだと思ってしまうんですが、私たちも学校とのネットワークをつくっていかないといけないと
痛感しているところです。子どもを中心に考えると、教師だけでなく民生委員さんなど色んな人たち
が関わっている。一人の子どもを中心に見ていくと、学校や地域とも手を繋げるなという実感があり
ます。このような専門家のネットワークと、学校関係との繋がりをつくっていけると、もっと広がりのあ
るネットワークになるのではないでしょうか。
(NPO関係者)
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家庭で子どもたちを育む里親・FH の養育者、家庭を支援し、社会の中で親とともに子ど
もを育む支援者が、それぞれ立場は違っても「子どもの権利擁護の実践」という共通の
視点を持つことが重要なのだと思います。次は、地域に根付いたファミリーホームを運営
している福岡市里親会の木村さんのお話です。
≪地域コミュニティのネットワークの中で営むファミリーホーム≫
施設で生活している子どもたちが自分のことをポイ児と呼ぶのを聞き、何だろうと思っ
ていたけれど、親からポイっと捨てられた要らない子という意味でした。子ども同士の
会話でも飛び交っています。
ファミリーホームを運営して感じているのは、私たちが体験したことがないような、子
どもたちの絶望的な世界があり、わたしたちはそのような子どもたちの厳しく奥深い世
たんぽぽホーム
木村康三 氏
界とどう向き合っていくのかということです。
一方で、それは非常に豊かな世界への入口に立たされているとも感じています。子どもとの出会いから
始まる多面的な世界体験、そのプロセスで出会うさまざまな人や機関、社会資源と向き合い、多様な関
係と結びあうことから生まれる新たな価値体系。その社会関係を共有し、互酬することで得られるエンパ
ワメント。こちらから与えるではなく、子どもからもらっていると感じています。
私が里親をやるなかで新たに生まれてきた社会的関係性として、2つの社会的ネットワークがあると考え
ています。1つは、福岡市にある9つあるファミリーホームのネットワーク。それぞれのファミリーホームが繋
がり、大人のつながりだけでなく、子ども同士もつながってきています。そういう社会とのネットワークが子
どもたちを支え、その積み重ねが子どもの自尊感情を高めることにもつながっていると感じます。
もう1つは、地域コミュニティのネットワークです。私のファミリーホームがある地域は、様々な農村伝統
行事がある地域です。年に何度も地域の方と関わる機会があります。そして、子どもたちのことを本当に
大切にするという伝統のある地域です。それを私は有用かつ貴重な社会資源ととらえています。
子どもをつつみこむ、そういう豊かな人間関係の中で、子どもたちが育っていっていると感じています。
私たち里親養育の営みを農業の「耕す」ということに例えて、荒れ果てた土地を耕すこという感覚を持っ
ています。耕作放棄の期間が長ければ長いほど耕すのも大変なのですが、耕すプロセスとともに自分も
耕されていると感じています。
いま、子どもたちが社会自立をするまで支え、それを地域全体で保障していくという子どもの最大の利
益のために、里山と子どもプロジェクトに取り掛かっているところです。そういう地域コミュニティの伝統的
な人間の営みこそ、今後再構築していくべき社会資源ではないでしょうか。子どもたちが自分の家を持
つと同時に、故郷というか、地域の自然環境や人との関係性を含む風土を心の中に刻み込むことができ
るような体験の機会をつくっていきたいと思います。
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里子との出会いが、新たな世界や価値観の創造につながっていることをお話しいた
だきました。同じ課題を共有する当事者同士のネットワークに、元々その地域に根付い
ている伝統的なネットワークが加わり、さらに豊かな子どもたちを育む環境をつくりだし
ていますね。次は、福岡地区小児科医会会長の進藤先生に弁護士さんとのパートナ
ーシップについてお話しいただきます。
≪医師と弁護士のパートナーシップでめざす子どもへの最善の支援 ≫
福岡市小児科医会では弁護士会との「パートナーシップ委員会」を5年近くやっ
てきました。近年、医療の現場では医師やナース、コメディカルだけでは解決でき
ない問題が出てきています。新聞では医療裁判などの問題もよく取り上げられ、
弁護士と医師が裁判で対立するという報道のされかたもありますが、医師と弁護
士で一緒にやれることは何かないかと考え、だいたい2ケ月に1回、弁護士と医師
福岡地区小児科医会
進藤 会長
会、子どもの虐待防止センター、福岡市こども総合相談センター(児童相談所)な
どの10名程度のメンバーが集まり、虐待などの問題をテーマに学び、話し合って
いくということからはじめました。
虐待問題についての県や市の取り組みや、福岡市児童相談所に来てもらっての学習会や、虐待防止
月間の取り組みとして街頭活動をしたり、虐待死亡例の報告と検討を弁護士や医師の立場から行う事例
検討会をしたり、シェイクンベイビーの問題、0歳児の虐待を防ぐために、産婦人科の医師に入ってもらっ
たこともありました。親権制度や虐待死亡事例に関する裁判員裁判について弁護士に学ぶ学習会、民
法改正などについても学びました。発達障害についても、医師や弁護士がそれぞれの専門性をお互い
に学びあう機会となっています。これらの学習会には看護師やコ・メディカルスタッフも参加するようにな
っています。
われわれ医師だけでなく、一人の患者、子どもを中心に、その子にとって何が一番大切か、そこに関わ
っている人たち、医師、看護師、ソーシャルワーカー、学校の先生、町内の民生委員など、その子にとっ
て何が最善の支援か、それぞれの分野で何ができるか、一堂に集まって考えることが大切だと考えてい
ます。
このパートナーシップのなかで感じたことは、日頃か
らFace to Faceで顔を合わせてコミュニケーションをと
っておくことが大事だということです。そのような関係を
日頃からつくり、情報を共有しておくことで、毎日の医
療実践の中で子どもの問題にであった時に、スムー
ズに問題を解決できる経験につながっています。
11
この 6 年間で医師会と弁護士会が丁寧にパートナーシップの関係をつくってきたこ
とが、コ・メディカルスタッフにまで広がってきているのですね。顔の見える関係をつくっ
ていくこと、お互いの専門分野についても互いに学び理解を深め合うことが、異分野
のネットワークをつくることでは不可欠だとわかりました。
次は、弁護士会から橋山弁護士のお話です。
≪子どもたちの自立を支えるシェルターの多機関連携≫
もともと弁護士会には、虐待防止を考える子どもの権利委員会があり、虐待防止、
非行少年への対応、子どもの人権担当という 3 つのセクションで構成されています。
私は非行少年の付添人活動をしてきたのですが、そのなかで、非行少年の背景に
ある虐待に根付いた家庭問題が見えてきたところもあり、そこからシェルター設立に
結びついていきました。
福岡県弁護士会
橋山 副会長
非行少年が逮捕され、家庭裁判所で審判をうけ、少年院に入るという過程で、弁
護士会の独自の資金で弁護士が関わり、子どもたちの社会復帰を目指す活動を付
添人活動と言います。その活動のなかで、非行や交通妨害をした子らは加害者でもあるけれど、実は被
害者ではないかと強く感じるようになりました。少年院に入所している子どもたちの6割が被虐待児である
という話もあります。非行や、非行でなくても家庭で苦しい思いをしているその子どもらをどうにか救済して
いく道はないかと考えたのがきっかけです。
虐待されて、家にいることができない、または、家族からあまりに強く拘束され、家から出られない子ども
たちを、短期間施設で支援し、自立に向けて援助することがシェルターの役割です。義務教育が終わっ
てから19歳くらいまでが対象となっています。18~19歳というのは児童福祉法の対象ではありませんが
未成年であり、親の親権から逃れられず、保護が手薄になっている子どもたちです。
シェルターでは、そんな子どもたちや、家から逃げてきた子をかくまい、安心して生活してもらいます。
福祉の分野のなかに、異質な弁護士が入るわけですが、親権を持った親との対立や、自立に向けた行
政との関わりなど、弁護士だから対応できる関わりがあります。しかし、これまで受け入れてきた8人の子
どもたちはそれぞれ色々な課題を抱えていました。施設でも馴染めずどこにもいけなかった子、幼いころ
に親に捨てられ、いろんな施設を渡り歩いているような子どもたちが、このようなシェルターに来たからと
いってすぐに変わり、自立に向けて進んでいくということはありません。心理的なケアも必要で、精神科医
や臨床心理士との連携も考えなければなりません。学生ボランティア10名ほどにも、夜間を中心に入っ
てもらっています。その他、ホームレス支援機構や女性相談所、自立援助ホームなどの各関係機関とも
連携しながら子どもたちの自立援助をしている現状です。
東京のシェルター『カリヨン』のホームページには、「あたたかいご飯をたべ、ゆっくり寝て、料理や散歩、
キャッチボールをしながら普通の生活をしています」とあります。そういった普通の家庭体験をしてこなか
った子どもたちに、普通の家庭の体験をしてもらい、自分を取り戻し、自分も大事にされていいんだと感じ
てもらう、そこからしか次のステップに進めないと考え、スタッフ一同関わっています。
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福祉分野に、弁護士が入り、苦労しながら、さまざまなネットワークをつくってこら
れました。福岡市こども総合相談センター(児童相談所)のこども緊急支援課にも
弁護士がおられます。福祉分野に弁護士が入ることで、子どもへの支援の在り方
は、子どもの権利という視点で、さらに多様になってきたと感じます。
次は、子どもの村福岡の坂本村長のお話です。
≪子どもの村福岡がめざす多分野ネットワーク≫
子どもの村福岡は、2006年に世界に広がるSOS子どもの村を日本で初めて
つくろうと出発し、2010年開村しました。世界で最初のSOS子どもの村ができ
て60年がたっていますが、そのポリシーは「すべての子どもが家庭で育ち、愛さ
れ、尊重され守られる」ということです。SOS子どもの村は世界518ヶ所に在り、
133か国で福祉・医療・教育など、広く活動を展開していますが、子どもの村福
子どもの村福岡
坂本 村長
岡は、「わが国の家庭養護モデル」としてつくっていこうと考えました。里親が家
庭のなかで子どもたちを育み、村長やソーシャルワーカー、そして保育士など
のファミリーアシスタントが家庭養育を支え、また様々な専門家、地域とのネットワークの中で子どもたち
を育てようという構想でした。
現在4人の里親(=育親)が、14人の子どもたちと生活しています。開村から3年になりますが、たくさん
のネットワークで支えられて、建設から運営へと進んできました。
子どもの村福岡誕生のきっかけにもなった「新しい絆プロジェクト~ファミリーシップふくおか」は児童相
談所、NPO、里親会、小児科医会、子どもの虐待防止センターなどが協働し、社会的養護を市民の課
題にしていく取り組みです。福岡には、また「子どもにやさしいまちづくりネットワーク」がありますが、「子ど
もの声を社会へ」ということで、ユニセフが提唱する子どもにやさしいまちづくりをめざして、多くの子ども
に関わる個人・団体が、参加しています。子どもの健全育成から社会的養護までを支える幅広いネットワ
ークへと発展してきました。
子どもの村の設立には地域の反対もありましたが、一年半ほど地域の人と話し合い、また、地域の伝統
行事にも参加し、地域の方のための子育て支援事業などを行いながら、今では地域と一体になって子ど
もたちを育んでいく関係ができてきています。
村の運営は、多くの個人・企業会員からの支援、多くのボランティアの協力で支えられています。さらに、
里親会とは専門研修とそのプログラム開発を行っています。小児科医の寄付でできた家族の家もありま
す。「多くの小児科医が虐待を受けた子どもたちを社会的養護の汽車に乗せたが、その後その汽車がど
こにいったのかは関心がなかった」と子どもの村を支援する小児科医の会の豊原先生はおっしゃいまし
た。わが国では、子どもの虐待へは国民的関心が寄せられるようになりましたが、社会的養護の子どもた
ちへの関心は、小児科医でさえまだ十分ではありません。
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また、里親会と弁護士会と協力して「弁護士に聞く 里親として知っておきたいこと(法律Q&Aハンドブ
ック)」をつくりましたが、全国的にも評判となり多くの里親さんや里親支援者に提供され広まっています。
私たちのモデルである、「SOS子どもの村インターナショナル」も、国連を中心として様々な関連機関と
連携しながら活動しています。2011年には、代替養育の質の向上をめざした国際カンファレンスを様々
なNGOとともにプラハで開催していますし、また、多くの関連機関とともにその策定に関わった「国連子ど
もの代替養育に関するガイドライン」は、社会的養護の子どもたちを養育していく世界の基本方針として、
その普及をSOS子どもの村の活動の柱としています。2011年、ニューヨークで行われた、「ガイドライン採
択2周年の記念シンポジウムで、国連の代表が次のように述べています。
「子どもたちの協力なしには、このガイドラインを推し進めることはできません。子どもたちは、
何が機能し、何がうまくいっていないのか、代替養育は何が一番なのかをよく知っています」
この多分野ネットワークが何のためにあるのか、それは、この言葉のように「子どもが主役でつくられるネ
ットワーク」だと言えるのではないでしょうか。
子どもにやさしいまちづくりとは、自治体レベルでの子どもの権利の実現、そのシステムづくりをめざ
すものです。今回、子どもの村福岡で提案されているのは、「家庭養護を支える多分野ネットワーク」
ですが、福岡の「子どもにやさしいまちづくりネットワーク」と、繋がっている話だと思って聞いていまし
た。
「ネットワーク・連携」はどこへ向かっていくのか、ということですが、一人の子どもに向かって、その
子が生きていく上で必要とされることを、大人たちが繋がり合って支えていくということではないかと
考えています。
社会的養護の子どもなど特別な子どもたちだけではなく、一人の子どものために、地域の大人
や、多様な専門家のつながりによる支えが必要になることは数多くあります。子どもの村福岡がイメー
ジする社会のしくみは、すべての子ども一人ひとりを支えることのできる大きなネットワークが構築さ
れることではないかと思っています。
(子どもの村福岡 専務理事)
14
長年の私の夢だったのですが、施設から自立し、結婚し、出産して
里帰りに施設に来てくれた子がいました。狭いマンションの中で赤
ちゃんが泣き止まずに少し疲れていましたが、園にいると赤ちゃん
も泣きません。「お母さんがゆったりした気持ちでいるから赤ちゃん
も落ちつくんだよ」という話をしました。同じく結婚して近くに住んで
いる子の家にいくと、家もきれいにしてあり、お風呂場には掃除用
の重層が置いてありと、とても嬉しく思うことが最近ありました。
ただ、この二人の卒業生を例にとっても、園を出た子どもたちには手本とする家庭がないんです。ど
ちらも虐待を受け、あたたかい家庭を知りません。この子たちが今から子どもを育てていくのにどうや
って学んでいくのかと、それに胸を痛め、私が出来ることは何でもしてやろうというのが今の率直な気
持ちです。これからの園はその手本となる家庭にしていかなければならいと思っています。多くの関
係者とつながりながら、おばあちゃん的な役割で、職員を育てていきたいです。
(児童養護施設 園長)
≪松﨑≫
子ども一人ひとりのニーズに応じてということで言えば、ひとつは、乳児から18才、18才を越して自立
に向かう時期など、子どもの年齢や発達年齢に応じて必要とされること、また、子どもそれぞれが抱えて
いる事情に応じることができるネットワークが必要だということですね。
子ども自身の発達や障害の問題も含めて、子ども一人ひとりが抱えているニーズと、その子どもを抱え
ている家族のニーズがある、その両面のニーズに応じることができる様々な専門家のつながり、地域のつ
ながりなど、いくつものネットワークがさらにつながり、重層的な多次元のネットワークになっていくといい
ですね。
子どもの村福岡
新しい絆プロジェクト
多分野ネットワーク
児童相談所・行政・里親・
企業・小児科・精神科病院
児童養護施設・NPO
里親会・乳児院・児童養護施設
の協働による
弁護士会・地域・ボランティア
里親普及・支援事業
子ども
による家庭養護を支える
多分野ネットワーク
子どもにやさしい
まちづくりネットワーク
子どもに関するNPO・団体・小児科医会・
弁護士会などが参加し、
ユニセフ提唱「子どもにやさしいまち」
をめざす
15
2.福岡におけるネットワーク連携事業
社会的養護の子どもたちを支えるためには、子ども福祉領域だけではなく、小児医療、精神医療、司
法、教育など、さまざまな領域がネットワークをつくり、子どもひとり一人のニーズに応じることができる支
援をしていかなければなりません。
子どもの村福岡は、開村以降、福岡市における「家庭養護・家庭的養護を支える多分野ネットワーク
づくり」を進めています。協働事業に取り組むなかで、関係領域がそれぞれの役割を認識し、さらにネッ
トワークを強化していくことを目指しています。
(1) 家庭養護・家庭的養護を支えるネットワーク会議の開催(年2回)
以下の関係団体と連携し、領域ごとの活動を充実させるとともに、家庭養護・家庭的養護の課題を共
有し、人材養成プログラムについての検討を行いました。
≪福岡市における連携団体≫
・福岡市こども総合相談センター
・福岡市里親会・福岡地区小児科医会
・福岡県精神科病院協会
・(特)そだちの樹(弁護士を中心に、子どもシェルター「ここ」を運営)
・福岡市乳児院・児童養護施設協議会
(2) 各連携団体の協働事業内容
1) 福岡市こども総合相談センター(福岡市児童相談所)
福岡地区小児科医会、福岡県精神科病院協会、共催フォーラムへ講師を派遣するだけでなく、その
他の協働事業や、多分野ネットワークづくりについても強力な後押しとなる意見提供などをいただい
ています。
2) 福岡市里親会
専門研修プログラム開発への意見提供、研修会への参加呼びかけへの協力、研修会(ケア・スタディ)
での養育実践の報告、「弁護士に聞く 里親として知っておきたいこと」製作への参加など、他の里親
支援にもつながるような里親会の活発な動きが生まれてきています。
3) 福岡地区小児科医会
①研修会「子ども虐待からみた思春期~いま、小児科医に求められるもの」の共催
子ども虐待がいかに子どもたちの思春期に深刻な影響をもた
らし、幼少期にどのようなケアが必要かを伝え、地域に点在する
里親家庭の支援者として小児科医を捉え、児童虐待の後に続
く社会的養護の現状、子どもたちの抱える課題や里親家庭の
抱える困難さへの理解を深めるための研修会の第2弾です。
[内容]
講演①「アタッチメント障害の診断とケア」講師:藤林武史(福岡市こども総合相談センター所長)
講演②「子ども虐待からみた思春期の子どもたち」講師:相澤仁(国立武蔵野学院
16
院長)
[日時] 2013年1月18日(金)
[会場] アクロス福岡
[参加] 福岡県下の小児科医、コ・メディカルスタッフ・福祉関係者 39名
②乳児院嘱託医による意見交換会(1回)の開催
社会的養護の子どもたちが抱える医療的課題を検討しました。
[日時] 2012年10月5日(金)
[会場] 子どもの村福岡
[参加] 小児科医5名、臨床心理士2名
4) 福岡県精神科病院協会
学術講演会「子ども福祉と精神科医療の連携」・意見交換会の共催
社会的養護の子どもの実家族を支援する観点から、社会的養護の子どもたちの現状や実親の状況
への理解を深め、子ども福祉と精神科医療の連携をめざす学術講演会です。第2回目の今回はさら
にネットワークを広げ、九州精神科病院協会も加えた三者での共催となりました。
[内容]
講演①「虐待や暴力を受けた患者の精神科治療」講師:田中究(神戸大学
講演②「虐待や暴力を受けた子どもと親の支援」講師:藤林武史 (福岡市こども総合相談センター所長)
[日時] 2013年3月21日(木)
[会場] ホテルセントラーザ博多
[参加] 九州内の精神科病院勤務の医師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士など 150名
5) (特)そだちの樹(弁護士を中心に、子どもシェルター「ここ」を運営)
昨年度製作した、「弁護士に聞く、里親として知っておきたいこ
と(法律Q&Aハンドブック)」が全国的に大きな反響を呼び、他県
の自治体や里親会からの注文が多く寄せられました。
今年度は、年3回の意見交換会と、5回の検討会を実施し、冊
子の内容をさらに深く検討しています。新たにいくつかの項目も
追加して改訂版を発行しました。今回の冊子改訂のための意見
交換会には、福岡県児童相談所、福岡県里親会、福岡市里親会、
(特)そだちの樹の弁護士有志が参加しました。
6) 福岡市乳児院・児童養護施設協議会
里親会とともに行っている専門研修会に、施設グループホームの担当職員も参加しています。家
庭的な環境で子どもたちを育む時の課題を里親やFHとも共有し、ともに学んできました。また、共催
フォーラムでは、指定発言者としても参加しています。
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「精神科医療と子ども福祉の連携について」
福岡県精神科病院協会
乙金病院 理事長 見元伊津子
臨床の場で子どもを診察する際、その成因を理解するにしても、そして治療を進めていくうえでも家族の
問題を考えないとはじまらない。同様に相手が青年~成人~中高年であっても、精神科医療においてそ
の生育歴つまり背景を理解することは欠くことができない重要な点である。
安全が保証されている、いわゆる「安心」の中で、くり返し愛されていることを感じ取れる経験の積み重ね
によって得られる力、つまり自分や他人を「愛する力」「信じる力」などが成長と共にどの程度育まれてきて
いるかということは、発症機序にも治療過程にも、また、そもそも治療関係が成立維持できるか否かにも多
大な影響を与えるものである。
昨年私は、「子どもの村福岡」で行われている『家庭的養護を支えるネットワーク会議』に参加する機会を
得た。家庭的養護を実践するための人材養成プログラムやネットワークづくりについて熱心な話し合いがさ
れていた。現状の基盤を更に発展させて里親養育の質を向上させていくと共に、その周囲に支援者を養
成していく必要性とその方法について協議されており、その熱意と真剣な取り組みに胸が熱くなる思いがし
た。
現在の日本の子ども福祉の状況を知るにつけ、「子どもの村福岡」が取り組んでいる多分野のネットワー
クづくりによって生み出されるであろうサポート力には大きな期待が寄せられよう。日々の診療の中で、子ど
も本人や母親などの家族と、あるいは、教師やスクールカウンセラーと出会う。そして共にその子どもがそ
の子らしさにおいて調和のとれた発達をしていけるように力を尽くしているのだが、私たち精神科医もその
ネットワークの一員としての役割を自覚して連携してゆくことが求められている。今後更にニーズは高まるだ
ろう。
大人は誰しも例外なく、自分自身も子ども時代を経て今にいたっているにも関わらず、過ぎ去った子ども
時代の心理を忘れてしまっている。「子どもの身になって、子どもの視点で」と言いながらも、子どもの感覚
を理解できなくなっている大人の頭で理解した状況の中から子どもの不安や苦悩をくみ取ろうとするのだか
ら、難しい。
難しいが、関わりの中のその一人ひとりの大人が子どもと向き合い、素直に子どもの気持ちに共感し、子
どもの生きづらさや喜びや、その驚くほどに鋭い感受性を受け止めて包み込んであげることが、全ての前
提であり、出発点なのであろうと思う。
子どもとは未来そのものであると共に、希望でありかけがえのない存在である。暖かく育んでゆける環境
をつくることが、大人も救われる社会につながってゆくだろう。
今般連携団体の一員として啓発される機会を得られて再認識させられることも多く、大変勉強になった。
心から感謝申しあげたい。
18
(3) 共催フォーラム「すべての子どもに愛ある家庭を」の開催
上記の連携団体との共催フォーラムを福岡で開催しました。さらに、全国里親会、日本ファミリーホーム
協議会、(特)日本SOS子どもの村、(特)子どもの村東北とともに、東京でのフォーラムを開催しました。
●福岡フォーラム「家庭養護をともに支えるために~多分野ネットワークと連携をめざして」
福祉、医療、司法、行政などさまざまな分野がネットワークをつくり、子ども一人ひとりのニーズに応じた
支援ができる関係づくりをめざすため、基調講演とシンポジウムを開催しました。
[内容]
日時:2013年2月17日(日)
会場:あいれふ10F
・基調講演「子どもの権利と家庭養護」 講師:山本裕子(西南学院大学 教授)
・シンポジウム「家庭養護を支える多分野ネットワーク」
パネリスト:木村康三(福岡市里親会 前会長)
進藤静生(福岡地区小児科医会 会長)
橋山吉統 (福岡県弁護士会 副会長)
坂本雅子(子どもの村福岡 村長)
コーディネーター:松崎佳子(九州大学大学院 教授)
[参加] 56名 (各領域の専門家、里親、市民、ボランティアなど)
●東京フォーラムの開催「家族と暮らせない子どもたちを社会全体で支えていくために」
家庭養護の推進には、人材養成や支援のしくみだけではなく、家庭養護を支える地域づくりや様々
な支援ネットワークづくりが必要であることを、子どもの村福岡の実践を通して全国に訴えると同時に、
東日本大震災以降の家庭養護を必要とする子どもたちの状況を報告し、東北の子どもたちや親族里
親への支援をあわせて訴えていくための基調講演とシンポジウムを開催しました。
[内容]
日時:2013年3月17日(日)
会場:どもの城
・基調講演①「子どもの未来をつくる愛着の絆」講師:渡辺久子(慶應義塾大学医学部小児科専任講師)
・基調講演②「これからの社会的養護」講師:柏女霊峰(淑徳大学教授)
・シンポジウム「家族と暮らせない子どもたち」を社会全体で支えていくために」
パネリスト:木ノ内博道(全国里親会副会長)・卜蔵康行(日本ファミリーホーム協議会会長)
坂本雅子(子どもの村福岡村長)
コーディネーター:藤林武史(福岡市こども総合相談センター所長)
[参加] 全国の施設関係者、里親関係者、子育て支援者、研究者など 160名
左)渡辺久子先生
右)柏女霊峰先生
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「家族と暮らせない子どもたちを社会全体で支えていくために」
日本 SOS 子どもの村
廣瀬 志歩
2013 年 3 月 17 日(日)に開かれたフォーラム「すべての子どもに愛ある家庭を」には、全国各地、さまざ
まな分野から約 160 名が参加しました。
基調講演で講師の渡辺久子氏(慶應義塾大学医学部専任講師)は、 「愛着は、今ここで生きている瞬間
の安心感と安全感と生きる喜びを心の中の身体記憶としておしみなく与えていく、その営みです」と熱く語
り、大人になって色々なものを乗り越えていけるように育つには、子ども時代に「安心できること、ありのまま
でいれること」が必要だと話しました。そのために周りの大人がオーケストラをつくりハーモニーを生み出す
ことが重要だと強調し、子どもの村のありようをこのオーケストラに例えました。
柏女霊峰氏(淑徳大学総合福祉学部教授)は、変わりつつある社会的養護の流れの中で、多様な実践
モデルが必要だと話し、そのモデルのひとつに子どもの村福岡の実践を取り上げて、「市民参加」が最大
の特徴だと評価しました。また、モデルになる要素として、以下の 5 点を挙げられました。
① 家庭養護を社会全体に広げるという明確なミッションがあること
② 家庭養育者、専門職、レスパイト支援が一体的に実施されていること:村長や専門職(医師や臨床心理
士)による治療的養育や、里親の日々の生活を支援する保育士がいることによるレスパイト支援が里親
を支えています。
③ 市民が広く参画していること :医師会や地元企業など幅広い分野から活動に参画しています。
④ 行政と連携しながら支援を行なっていること
⑤ 里親同士の交流、互助が行われていること :孤立して閉鎖的になってしまうという家庭養護の最大の
デメリットを防ぐことができます。
後半のシンポジウムでは、社会的養護のさまざまな実践者の立場から報告がなされました。全国里親会
副会長の木ノ内博道氏は、行政・地域社会・社会的養護の実践者がどのようなネットワークを構築するべき
かを語り、日本ファミリーホーム協議会会長の卜藏康行氏は、自立支援のためのネットワークづくりと、子ど
もの村東北における震災遺児とその家族への継続的な支援のしくみづくりについて報告しました。日本
SOS 子どもの村の常務理事であり、子どもの村福岡の村長でもある坂本雅子氏は、子どもの村の実践の
中でいかに多分野のネットワークが活かされているのかをいきいきと語りました。
今回の取り組みは、まさに柏女氏の言う「社会的養護を社会に開く」活動です。卜藏氏はシンポジウムで
「社会的養護は遠いところの話ではないのだと震災を通じて痛切に感じた」とも語りました。家族と暮らせな
い子どもたちを社会全体で支えること。子どもたちに幸せな子ども時代を保障していくこと。日本 SOS 子ど
もの村をはじめとする子どもの村全体で取り組んでいく課題です。
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Ⅱ.家庭的養育の人材養成プログラム開発
1.子どもの村福岡 2012 年度里親・FH 専門研修の概要
福岡市里親会と協働で家庭的養護の人材養成プログラム開発を行っています。今年度は、
福岡市のファミリーホーム事業者や里親、グループホーム職員らとともに、以下の 3 つのテーマ
にしぼって研修を行い、その内容を検討しました。研修は、専門的講義、体験ワーク、ケア・スタ
ディを組み合わせて実施しました。
(1) 専門研修がめざすもの
単に、子どもの養育というだけではなく、被虐待体験により心に深い傷を負った子どもを、家
庭や家庭的な環境で育てていくために必要な力をつけながら、子どもと誠実に向き合っていく
「人間」としての総合的な成長をめざします。
(2) 実施研修の一覧
テーマ① 「愛着形成に課題を持つ子どもとの関係づくり~セラプレイ技法に学ぶ」
講
師
日時/場所
目
的
高井 美和(セラプレイカウンセリングセンター東京 所長)
2012 年 10 月 7 日(日)13:00~17:00 / 子どもの村たまごホール
発達障害や、愛着障害などにより、関係づくりの難しい子どもとの関わりについて、セラ
プレイの理論や技法に学ぶ。
参加者
15 名 (内訳:里親 4、FH 事業者 3、里親支援者 7、その他 1)
テーマ② 「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク~基礎編~」
講
師
日時/場所
目
的
藤澤 陽子(国立武蔵野学院・心理療法士)
2012 年 11 月 18 日(日)13:00~17:00 / 子どもの村たまごホール
里親委託の前と後、施設入所の前と後などで途切れがちな子どものライフストーリー
を、里親や職員が丁寧につなげていくことが、子どもの成長やアイデンティティ形成に
いかに重要であるかを学ぶ。
参加者
35 名 (内訳:里親 16、FH 事業者 6、里親支援者 10、施設職員 2、その他 1)
テーマ③ 「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク~実践編~」
講
師
日時/場所
目
的
藤澤 陽子(国立武蔵野学院・心理療法士)
2013 年 2 月 2 日(土)13:00~17:00 / 子どもの村たまごホール
実際に子どもとの間で直面したライフストーリーにまつわる課題をケア・スタディしてい
く。
参加者
28 名 (内訳:里親 10、FH 事業者 8、里親支援者 9、その他 1)
テーマ④ 「私は育てられた、私は育てる~合宿研修~」
講
師
日時/場所
森 茂起(甲南大学 教授)
2013 年 3 月 2 日(土)13:00~21:00・3 日(日)9:00~16:00
/ さわやかトレーニングセンター
目
的
参加者
22
自分の育ちを振返り、自分自身を見つめることを通して、日々の養育を見直していく。
23 名 (内訳里親 9、FH 事業者 6、里親支援者 8)
(3) ケア・スタディについて
『ケア・スタディ』とは、家庭養護および家庭的養護(里親、ファミリーホーム、グループホーム
など)の養育者が、日々の子どもの養育について振り返り、より良い養育(ケア)をめざすため
に子どもの村福岡が考案した独自の手法です。
≪方法≫
参加者は守秘義務を負い、誓約書(資料Ⅵ参考)を提出します。テーマに沿ってケア・スタ
ディシート(Ⅵ資料 2 参考)による報告を 10~15 分程度してもらいます。
参加者は、報告者のケア(養育)実践例を批判的に捉えるのではなく、自身の体験と重ねな
がら考え、全員で経験や課題を共有し、より良いケア(養育者の関わり)について検討していき
ます。講師も参加者と一緒になって検討し、助言などをしていきます。
この時、報告者だけでなく、参 加者全員が「話しても大丈夫だ」という安心感と信頼感の持
てる関係が重要になります。
≪ケア・スタディの名称について≫
事例検討(ケース検討)は、専門家などの間では一般的ですが、里親や児童養護施設
職員の間ではまだ一般的とは言えません。また、医療機関や児童相談所のケースとは違
い、毎日の生活の中で起こる様々な養育上の課題を解決していかなければならない里親
やファミリーホームの場合には「事例(ケース)」という言葉が馴染まないと考え、お互いの
体験を共有し、より良いケア(養育者の子どもとの関わり)を、講師を含む参加者全員で模
索していくという意味で、『ケア・スタディ』という名称にしました。
23
2.専門研修について
(1) 研修要約:テーマ①
「愛着形成に課題を持つ子どもとの関係づくり
~セラプレイ技法に学ぶ~」
高井美和 先 生
(セラプレイカウンセリング
センター東 京 所 長 )
セラプレイはアタッチメント(愛着)や関わりを深め、自尊心と他者への信頼を高めることを目的
とする心理療法の一つであり、その適応は種々の子どもの「問題行動」、「親子関係の再構築 」、
「発達障がいをもつ子どもとの関係性構築」など多岐にわたっています。
セラプレイは以 下 の 5 つの柱 からなります。
枠組み(structure) :「世界は安全で、頼れるものである」こと、「予測できるものだ」という感情
を子どもに与えます。衝動的で自己コントロール力の弱い子どもには、重要な要素です。
養育(nurture) :すべての子どもに必要な基本的な要素です。食べさせる、お風呂に入れる、
ローションを塗る、なでる、抱きしめる、あやす、歌う、ほめるなど、そのいずれもが子どもがどれほ
どすばらしい存在であるかを伝えています。無条件の受容の感覚につながります。
関わり(engagement) :向き合って視線を合わせ、お互いに話したり触れあったり、遊んだり、
関わりあいます。子どもの活力や意欲を高め、対人関係の技術を学ぶことができます。
挑戦(challenge) :今できることを適切に評価して、半歩先の、成功可能な課題に挑戦させ、
うまくいくように支えます。一つ一つ成功することで子どもは自信を深めていきます。
楽しみ(playful) :心と身体のふれあいを大切にしながら楽しく遊びます。
今回の研修では、関係性が充分につくれていない親子や里親子の関わり方について、非言語
的コミュニケーションという視点から学 びました。自分や相手がどんな非言語メッセージ(アイコンタ
クト・タッチ・声のトーン・距離感など)を出し、その時にどんな気持ちになるのか、自分は相手との
距離がどのくらいだと心地いいのか、どんなことでイライラするのか、などを2人組やグループで、ア
イコンタクト・タッチ・リズム・歌を通して「楽しく遊び」ながら、自分の感覚を知まなびました。
そのうえで、日々関わる子どもたちにも同じように心地よい距離感があり、されたいタッチの仕方
があるということを考える機会となりました。
(廣岡逸樹)
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≪参加者の感想≫
どこにでもあるもので、色々なあそびができるとわかったと同時に、自分があそべないなぁーと実
感しました。もう少し、子ども達と楽しく遊ぶことができると、スムーズに関係がつくれるだろうと思
います。
色々と問題を抱えた子ども達を前に、何かしなくてはならないと充分 わかっているのに、今日学
習したような視点を忘れて日々過ごしていたことに気づかされました。
今日参加予定だった男の子が、ささいなことでトラブり、つれて来れなくなりました。この子のことを
ずーっと想いながら、こういう関わりを求めているのに、と反省しました。
すてきな時間を過ごすことができました。大人がリードするが指示はしない。子どもと一緒に楽し
むこと。今、ここを大切にすること。大切なことを再確認させて頂きました。
ローション遊びは、これから風呂上がりにできるのではないかと思います。というのは、寝つきが
悪く悪夢を見ることが多い女の子と生活しているからです。また、コットンボールの遊びは、力づ
くで“好き”という感情を表現して来る5才の男の子とやってみたいと思いました。
何かと問題行動のある子どもたちとの生活、ついつい私も、心すさんでいるように思います。今
日教えて頂いたことは、私に「ていねいに優しく子どもたちに向き合える心」を、気づかせて下さ
いました。私がゆとりを持って、今日のふうせん遊びなどして楽しみたいです。
声のトーンは、自分の課題です。けさ、里父が、小さい声競争してみようか?と提案し、なかなか
面白かったのでそういうこともとり入れたいです。
最後のビデオ中のお父さんのように、何でも励ましてみたり、お母さんのように口数多く言ってみ
たりは、自分の中にもあることだと思いました。子どもが話していること(気持ち)に沿い、子どもの
行動を待つことも必要なので、そういったことを意識していこうと思いました。
手をつなぐこと、絵を描くことにおいても、子どものつなぎ方や子どもの目線を考えて関わるよう
にしたい。それらのことを自然にできるようにしていきたいと思いました。
25
「愛着の再形成をセラプレイ的な視点で」
子どもと家族の相談室
セラプレイ カウンセリングセンター東京 高井美和
セラプレイ(Theraplay®)とは、愛着(アタッチメント)、自尊心(セルフ・エスティーム)、他者への信
頼を高め、喜びに満ちた関わりを促進し、向上させるために考案された子どもと家族のための心理
療法・遊戯療法(プレイセラピー)の1つです。セラピストのガイドのもとで、親と子がワクワクするような
楽しい遊び、その子どもの発達に応じた挑戦、そして、優しく慈しみあふれるアクティビティを行いま
す。このような心と身体のふれあいと相互関係性の促進を通して、親が子どもの言動を適切に制御し
つつ、愛情、楽しさ、安全性を子どもに伝える事ができます。それにより、子どもは安心して、繋がりの
中で自分の価値を感じながら、他者・世界と繋がることへの価値をも見出していきます。
セラプレイは、アメリカ シカゴで開発され、長年に渡って養子とその家族の支援に使用されてきた
歴史があります。海外のSOS子どもの村では、子ども達が新しい家族環境に馴染む事を手助けする
ためのプログラムとして定着しています。
例えば、里親との愛着の再構築を支援するため、里親向けの研修や、里親子でのセラプレイ実施
、フィンランドのSOS子どもの村では、セラプレイ・セラピストが各地のSOS職員に里親教育の指導及
び家族の支援を行っています。このプログラムでは、子どもは安全な守られた空間の中でセラピスト
が提供する楽しい遊びを通して、大人はセラピストと共に子どもが表現する言語や非言語のメッセー
ジに注意を払い、子どもの理解を深めて、お互いが心地よくいられる方法 を見出していきます。
しかし、子どもたちの表現方法は、必ずしも大人が思っているような言葉や、ストレートな表現でな
いこともあります。今回の研修のなかで、参加者から「タッチ」についてのお話がありました。実子を育
て上げた里親さんにとって、初めての男の子だったそうです。子どもは、ママが大好きで、嬉しくて、
飛びついてくる。乱暴で予測できない子どもの行動に、身構えてしまうようになった、と。子どものタッ
チとお母さんのタッチの間に、お互いが心地よくいられる「タッチ」を存在させることが必要だったよう
です。
この研修では、自分自身が心地よい距離や、心地よいタッチがどのようなものなのかを再認識し、
子どもが心地よいと感じる距離や関係性について考える機会を持ちました。
セラプレイは、子どもたちが里親との間に新たな愛着を形成しようとする際に、非常に重要な役割
を担う事ができます。家族が暮らす家、特定の養育者の存在、地域との交流のような具体的な生活
環境こそが、子どもたちの安全基地の獲得と安定 、愛着の再形成のための最大の装置です。そして
、これらの装置とセラプレイのような様々な心理療法が連動することによって、更に大きな効果が発揮
されるのではないでしょうか。
注)TheraplayⓇは、1976年にThe TheraplayⓇ Institute:TTI(セラプレイ国際本部 1840 Oak Ave.,
Suite 320 Evanston, IL 60201)によりサービス・マークとして登録されており、現在、セラプレイ セラピスト
の資格を取得するためには、TTIの定めたトレーニングを経て協会が認定している。
26
(2) 研修要約:テーマ②
「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク~基礎編~」
藤澤陽子 先生
(国立武蔵野 学院
・心理療法士)
基礎編では、ライフストーリーワークの基本的な考え方を学びました。藤澤先生は児童養護施設に
10年間勤務された経験があります。社会的養護の子どもたちは、「自分はどのように生まれのか」「な
ぜここにいるのか」「自分はいらない子どもだったのか」と疑念を抱き、真実を希求 してきます。藤澤先
生は、この子どもたちと共にライフストーリーをつむぐ実践(ワーク)を行い、2010年より「社会的養護
における『育ち』『育て』を考える研究会」を現職場で立ち上げて、普及啓発、研究活動にも取り組ま
れています。
社会的養護の中にいる子どもは、大人の都合で、生い立ちの記録や記憶が分断されていることが
多いのです。記録を集め、ライフストーリーワークを通して生きてきた記憶を紡ぐことは、子どもが真実
と向き合い、実家族と暮らせない理由を理解していく事にも繋がっていきます。
また、子どもの人格形成の上でも、困難を乗り越えて生きてきた自らの物語を知ることで、自己肯定
感や自尊感情を育むことができます。しかし、いつ、だれが、どこで、どのようにライフストーリーワーク
を行うかについては、適切にアセスメントがなされ、関係者による十分な準備も必要 となります。
講義後のグループディスカッションでは、里親委託の際に、児童相談所からは子どもの育ちの記録
がほとんど提供されないことや、思い出の写真がない子どもがいることなど、記録収集の困難さにつ
いて、多くの意見が述べられました。「子どもの記録を開示してもらう」「諦めないで、写真を見つける」
といったことがライフストーリーワークに必要不可欠であることを認識することができました。
また、里親、ファミリーホームの方、子どもの村の育親、特別養子縁組を終えた方など、立場によ
って、子どものライフストーリーに向き合う際の感情に微妙な差異がありました。
(山本裕子)
27
(3) 研修要約:テーマ③
「子どもの人生をともにつむぐライフストーリーワーク~実践編~」
基礎編に引き続き、藤澤陽子先生(国立武蔵野学院)をお招きし、実践編では、ケア・スタディを
行い、次の 2 つのテーマについて、活発な意見交換を行 いました。この研修は直ぐに役立つ経験
談が多く示されたことで、参加者は大いにエンパワーされ、実り多いものとなりました。
* ケア・スタディとは、子 どもの村 福 岡 が考 案 した研 修 手 法 であり、 参 加 者 が 自 らの経 験 と思 いを率
直 に語 り合 い、養 育 経 験 を共 有 し、子 どもたちのための普 遍 的 なより良 い養 育 をめざしていくこと
を目 的 としています。参 加 者 は 誓 約 書 を提 出 し、秘 密 保 持 義 務 を確 認 したうえで実 施 します。
養 育 実 践 例 (1) 実親のことや来歴を子どもに急に問われた際の対応について。
特に子どもに伝えたくない悲惨な過去をどのように伝えるのか。
養 育 実 践 例 (2) 子どもたちが作っている[思い出アルバム]の紹介と、子どもの記録を集めた体
験や、子どもが来歴を尋ねてきた場合の応答について紹介。
(他 の参 加 者 からの発 言 )
・ 里 親 さんから、写 真 がないのでまずは写 真 がほしい。必 要 な情 報 がなく、学 校 に提 出 す
る「育 ち」の記 録 に悩 んでいる。児 童 相 談 所 で親 と会 った時 に 写 真 を撮 ってもらえるとい
い。
・ 過 酷 な過 去 を知 れば本 人 が苦 しむと思 い、伝 えきれない。どう伝 えるといいのか。
・ 子 どもの了 解 を得 てアルバムを持 ってきた。作 成 も子 どもの自 主 性 を尊 重 している。
・ 最 近 では、児 童 相 談 所 に提 出 する報 告 書 の子 どもに関 する記 録 は、子 どもとも共 有 でき
るような書 き方 して、子 どもたちにも見 せている。子 どももそれをアルバムに保 管 している。
(講 師 ・参 加 者 とのディスカッションから)
・ 突 然 実 親 のことを聞 かれた時 には、「大 事 なことだから後 できちんと話 そう」と、一 呼 吸 お
いて、早 い時 期 に落 ちついて話 すことも1つの方 法 。いつ聞 かれてもいいように、伝 え方
をその時 の子 どもの年 齢 や状 況 に応 じて準 備 しておくことは必 要 。
・ 親 が別 にいるということは早 めに伝 えるが、写 真 や過 酷 な状 況 をどこまでいつ伝 えるかに
ついては、発 達 年 齢 などに応 じて、伝 え方 をつねに考 えておく。
・ 写 真 は、本 人 が見 たいという時 に見 せられる状 態 にしておくことが必 要 。養 育 者 は情 報
の収 集 をあきらめてはいけない。
・ ライフストーリーブック、あるいは、思 い出 アルバムは、子 ども自 身 が所 有 する記 録 である。
保 管 や閲 覧 の際 は、子 どもの了 解 を求 めて実 施 されなければならない。
(田 代 多 恵 子 )
28
≪ 参 加 者 の感 想 ≫
日々、子どもたちが話す家族のことなどを聞きながら、どう整理していくか考えながら生活してい
ます。折を見てきちんと整理できたらと思いながら聞いていました。子どもが体験した怖いことも、
それを乗り越えた強みも一緒に引き取っていくという話に納得しました。嫌なことを思い出して
も、側にいて共有してあげられる存在でいたいと感じました。
施設に入所してくる子は、自分の置かれた環境はもちろん、これからどうなっていくのか等、何も
わからないままに入所する為、振り返ってみると、とても無理があると思った。今までは、振り返る
時間もなく、時間が経てば慣れていくだろうぐらいにしか考えていなかったと思う。なかなか継続
的にはできないが、ライフストーリーワークには取り組んでいきたいと思う。
今、現在はまだ子どもが小さいのですが、子どもが生い立ちについて知りたいといえば里親とし
ての準備だけはしてないといけないのだと改めて問題意識を持つことが出来ました。
子どもが知りたいと思った時に、その準備をしておくことが大切。無理やり伝えない。児相として
できることの整理が必要だと思いました。継続したほどよい関係を意識しながら、あらゆる相談関
係にあたろうと思います。里親支援のフレームも作っていきたいと思います。
子どもの今までの人生をある程度まとめておく事の重要性がわかりました。子どもにとっては、つ
らく認めたくない事実も明らかになるかも知れませんが、子どもの「知る権利」を重んじると、やむ
を得ないのかもしれません。
子ども一人ひとり、状況が違うので何が良いとか、いつが良いとか決定的には言えなくても、こう
いう話し合いの場や、専門家の話を聞いておくことで、子どもから生育歴のことを聞かれた時に
きちんと応えることができるように、いろんなパターンの話を聞いておくことは有意義だと思いまし
た。
日常の生活の中で、生育歴に関わることが交わされることがあり、その折々に動揺せずに伝えら
れる心の準備、正しい情報を把んでおくことの大切さを改めて感じました。
里親は 24H、毎日一緒に過ごしていることで、わざわざ話の場を設定しなくても、随時守りなが
ら話される強みがあるということに勇気づけられました。空白の部分があっても OK ということに、
それからスタートすればいいんだ、ということを改めて感じました。
子どもが話す内容について修正せずに聞いていく大切さ。(間違っていたり、作り話でも)つい
つい修正してしまいそうな自分がいたので、先生のケースのお話 からヒントを頂けました。つらい
出来事も、苦しみや傷をそのままストーリーにするのではなく、その中を生き抜いた子どもの力
や、その力のすばらしさを伝える視点を変えていく作業ができる関わりが、今後できる大人を目
指したいと思いました。
里親家庭では日常の何気ない会話の中で、子どもが記憶を語ることが多いので、こちらも普段
から心構えを持っておき、記録も残しておきたいです。24 時間の生活の中でいつでも子どもを
フォローしていけるのは里親の強みだと思いました。
29
「生活の中で行うライフストーリーワークとケア・スタディ」
国立武蔵野学院
心理療法士 藤澤陽子
参加された里親さんたちがこんなに活発にご自身の体験や意見を出して頂けたことが嬉しく、驚き
もしました。こういう実践を普段から積み重ねてきたということ自体がすごいことだと感じたのと、普段
から悩みながら、実践し、その中で工夫し、一生懸命に子どものことを考えているからこそ活発な議
論にもなるのだと思います。今回は、皆さんの体験を共有することで、それぞれが持って帰れるもの、
勇気とか、「自分がやっていることでよかったのだ」という感覚などもあったのではないでしょうか。
今回の話に出ていましたが、兄弟でもライフストーリーは異なるものです。里親さんやファミリーホー
ムの方々が、一人ひとりの子どもたちを細かく見てくださり、お話をしてくださるからこそ、その違いが
わかりました。
ライフストーリーとは子ども一人ひとりがつむぐものです。兄弟でも違う生い立ちの記憶や実親さん
のイメージを抱いていますから、里親さんはそれらを否定するのではなく、一緒につむいでいかれて
いるのですね。生きていく間はずっとつむがれていって、振り返ってみたら大きなストーリーになって
いるのだと思います。
施設と里親、里親と養子縁組、共通の部分とまた違うというところがあると思います。ただ、今回、
ケア・スタディをやらせて頂き、施設や里親さんの枠を超えて共通している、養育者としての在り方や
お子さんへの接し方を共有し、それについて考えていくことができるのだと感じました。
(私が考える)ケース・スタディというのは、子どもの今の状態をより理解していくために、その子が何を
背景にしていて、今どういう状態で、何を求めていて、何が出来るのかをみんなで考え、話しあってい
くような感じです。
子どものことをより理解していくということと、よりよい養 育の在り方(ケア)を考えていくこと、その両
面が揃ったときに、きっと本当にその子に必要なケアができるのではないかと思います。
皆さんが日々の生活の中でされていることを意識的に語ってもらい、意識的に働きかけるというこ
とを積み重ねていくと、普段さりげなくやっていることが理論的にも納得できるものとなり、どのような子
どもへの支援にも繋がっていくのだと思います。
色々な研修プログラムがある中で、時々こうやって集まり、理論的にまとめてみる体験をしたり、皆
さんの意見を聴いたりすることを重ねていくうちに、さまざまな研修で学 んだことを日常に活かしていく
ための視点が育っていくのではないでしょうか。
そして、こういった研修会は、里親さんたちが普段すでにされていることを、How toや理論で裏付
けていくものとして捉えられるといいのではないでしょうか。
こういう経験を積み上げた里親さんが増え、これから里親をやっていこうという人たちにも、こういう
取り組みが紹介されていくと、それは他の方のパワーや支援にもなっていくのだと思います。
30
(4) SOS 子どもの村におけるライフストーリーワークについて
オーストリアにあるSOS子どもの村の「家庭教育者養成カレッジ」研修プログラム(2010年度版)
では「家族システムにおける関係性力動」の中で、『バイオグラフィワーク(人生の記述)』が取り
入れられています。ライフストーリーワークは、『バイオグラフィワーク』の手法の一つであり、子ども
たちが自分の中の失った部分に再びつながりを取り戻し、自分が完全な価値ある人間であると
感じることに貢献すると位置づけています。
以下にご紹介する、イルメラ・ヴィーマン(Irmela Wiemann)の論文では、『バイオグラフィワ
ーク』は、子どもが自分自身について語ることができるための枠組みをつくることであり、ともに作
成し、資料を整え、傍らにいる人と出来事について話し合うプロセスが大切であるということが、
非常に丁寧に例を示しつつ記載されています。
今年度の子どもの村福岡専門研修においても、里親さん自身が現在作成しているアルバムが
紹介されましたが、創造的で楽しいライフブックになっていました。子どもと里親がともに作成して
いることが重要だと思います。子どもにとって、里親に見守られつつ自身の足跡を形にしていく
作業は、里親との新しい関係を紡ぐ作業でもあったのではないでしょうか。
現在をともに語り、綴り、つなぐ作業や日常生活のなかで、実の家族のことや里親宅へ来ること
になった経緯など、子どもが問いかけてきた時、里親・養育者はそれを避けることなく、子どもの
発達に応じた言葉で応えていくことできるよう準備することが大切です。今後も、より体験的・実
践的な研修を重ねていくことが必要となるでしょう。
(松﨑佳子)
「社会的養護の子どもたちへのバイオグラフィワーク ―人格形成のための効果的援助」
イ ル メ ラ ・ ヴ ィ ー マ ン ( Irmela Wiemann) 翻 訳 : 溝 上 由 紀 子
要約(資料Ⅵに全文掲載)
ⅰ) バイオグラフィワークとは
・ 子どもが自分自身の過去と現在とを結び付けられるようになることは、子どもにとっては別の新た
な価値を得る事でもあり、「子どもにとってのライフストーリーを再び獲得し、それを通してアイデ
ンティティと自己信頼性を手に入れようとする試み」です。
・ 関係性の断絶を経験した子ども(社会的養護にある子ども、ひとり親家庭、継父母家庭で育つ
子どもなど)への活用が適しています。
・ 適切な時期はいつか―就学前や思春期は、子どもが自分の人生の歴史に興味を示す時期で
す。環境の変化があった時などもバイオグラフィワークを使ってその流れに順応することもありま
す。いち早く取組むほど子どもの発達には有効です。ただし、遅すぎるということはありません。
31
・ 誰が行うとよいのか―子どもと親密な間柄の養育 者(里 親、施 設養 育者、児童 相 談所の専門
家など)と共に作業することが有意義です。
・ 大人は、子どもが述べようとすることへの感性をもち、ふさわしい反応ができるよう養成を受ける
必要があります。子どもに発言させようと仕向けないこと、子どもが発言したいと思っていること
をさけないことが重要です。
・ 少しずつ、定期的に、継続して作業されることが子どもの安心感に繋がります。それは常に更
新できるものです。
・ ライフブック(アルバム)は、本来子ども個人が所有するものであり、いつでも手の届くようにある
べきですが、プライバシーを守るためにも、大人が安心できる場所に保管しておくことが望まし
いでしょう。
ⅱ) 社会的養護の子どもたちにとって、なぜバイオグラフィワークは特別な価値があるのか
実家族から離れて暮らす子どもの多くは、元の世界と新しい養育者、そして、その生活の繋がり
のなかで、忠誠心の葛藤状態(Royalty Conflict)に陥ります。バイオグラフィワークに取組むこと
を通して、子どもは実家族を想う余地を与えられ、タブー視しない気持ちとその正当性を受け取
ることができます。自分の歴史を知ることは経験領域と自尊心を広げ豊かにしていきます。
バイオグラフィワークは、ある生活空間 と他の生活空間を繋ぐ架け橋となります。子どもとともにラ
イフブック作成に取組むことが、昔の生活と新しい生活の間を結びつけていきます。実の親を誇ら
しく思う機会を与えられなかった子どもは、自分自身に対してもポジティブに未来を切り開くことが
難しいでしょう。バイオグラフィワークはネガティブなアイデンティティを緩和する一つの手段です。
子どもとバイオグラフィワークを行う大人は、なぜ実親が困難で危機的な状況に陥ってしまったの
か説明できなければなりません。
ⅲ) バイオグラフィワークの多様なメソッド
ジェノグラム,家族年表,公的書類,実親・兄弟・祖父母・叔父叔母・ホームの養育者・友人な
ど、その時々の子どもの記述・関心 事,思い出の箱,手形・足形,インタビュー,重要な場所へ
の旅,日記,手紙など
児童相談所など子ども担当の専門家から委託についての説明 があること、また、それが子ども
にふさわしい方法で記述されていることも有益です。
「あなたの最初のパパとママはあなたにいのちを与えることはできましたが、わが家を与えること
はできませんでした。子どものためにそばにいることができない親は、替わりに助けてくれる人を必
要とします。青少年局ではあなたの里親さんをさがしだしました。里親さんは日々あなたと共に過
ごすことによって実の両親を助けているのです。あなたは里親さんと共に暮らし彼らを愛しく思っ
ていますね。あなたにはふたつの親がいます。あなたにいのちを与えた親とあなたを実の両親と
同じように愛しく思っている里親さんです。」
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ⅳ) 子どもにわかりやすい親子関係の4つの次元
実親
:すべての子どもはこの両親から命を与えられます
法律上の親
:子どもの人生における大きな決断に関わり決定します
心理・社会的な親
:子どもと日々を共に過ごします
経済的な親
:子どもが生きていくうえで必要なお金を与えます
ⅴ) ワークを行うプロセスで生じる可能性のある困難な状況
<養育者の知っている情報が少なすぎる 時>
子どものバイオグラフィに空白部分があることを受け入れます。そのこと自体が、子どもが今の
生活を送ることになった事情の結果なのですから。子どもの行動、子ども自身が情報源 です。
<特別に難しい問題を抱えた場合のバイオグラフィとの関わり >
タブーや家族の秘密に触れる時で、実親やその他の家族が、子どもに話したくないと
考えていることについては、実家族とそのことを話し合うという下準備が必要なこと
もあります。
<以前の身体的・性的虐待との関わり がある時 >
身体的・性的虐待の有無は、バイオフラフィワークの阻害要因にはなりません。むしろ、ワーク
を行う大人自身が、子どもの体験に対してきたことに対する怒りや憎しみなど自身の感情を克
服し、悲しみへと変化していることが重要です。
<虐待の可能性 との関わり >
子どもが受けた昔の虐待をただ推測するだけで、実際に起こったかどうかを証明でき
ない場合です。そのことをよく把握しておく必要があります。
里親、施設の養育者、SOSマザーに、子どもたちの痛み(親を失ったことへの悲しみ、怒り、恥
ずかしさ)を取り除くことはできません。しかし、気持ちを整理することを助けたり、慰めたりすること
ができます。
この痛みを子どもが人生における中心的テーマとして抱き続けることを認識し、認めることが
できます。このことを通して、子どもたちはわかってくれたと感じ、ハンディのある状況と共に生き
ていくことを学びます。ワークを行う大人は、専門的知識とともに共感する能力、中立的な言葉
、実家族や子どもの過去における重苦しい出来事 への調和の取れた内なる態度を必要としま
す。
Wiemann Irmela
"Biografiearbeit mit fremdplatzierten Kindern und Jugendlichen - eine wirkungsvolle Hilfe
zur Persönlichkeitsentwicklung" in: "Familien-Pädagogik, Familiäre Beziehungen mit
Kindern professional gestalten", Rosa Heim, Christian Posch (Hrsg.) 2003
33
(5) 研修要約:テーマ④
「私は育てられた、私は育てる~宿泊研修~」
森茂起先 生
(甲南大学教 授)
自分の育ちを振返り、自分自身を見つめることを通して、日々の養育を丁寧に見直 すセミナーで
す。里親自身の過去の体験が内的に整理されていくことで、日常の養育姿勢や子どもとの向き合
い方が変化し、養育の質の向上につながることをめざしています。昨年とは違うメンバーでグループ
(4~5 人)を構成し、2 日間同じグループでセミナーを受けました。
セミナー① 『自己紹介(今の気分を絵や文字で表現、この研修に期待すること)』の後、『ほめられ
体験』をグループで共有します。自分の「子どもの時のほめられ体験」を語り、他のメンバーは質問
しながらも、じっくりと聴きます。さらに、「ほめられ体験」を思い出す中で気付いたことを共有し、最
後にグループで話された内容を全体で共有しました。
セミナー② 『子どもの時のつらかった体験』 セミナー①と同様に、死別体験は除いた「つらかった
体験」をグループで共有しました。昨年も参加した方は、別の体験を取り上げます。
セミナー③ 『子ども時代の戸棚』 自分の子ども時代のどの時期が、どんな戸棚に、どんな風にし
まってあるかを描きます。参加者は思い思いの戸棚を描きながら、イメージを用いて自分史を整理
します。整然と整理できている人もいれば、現在に近づくにつれて少しずつ整理されてきている人も
います。押入の奥に仕舞い込んで取り出せない時期があったり、ある時期はきれいにラッピングされ
ていたり。つらかった時期が下に、良かった時期が上にあったり・・・そのしまい方も様々です。
セミナー④ 『人生の花と石』 セミナー③で描いた戸棚の中に、人生の良かった思い出を「花」で、
つらい思い出を「石」で表現し、戸棚の中に付け足して描きます。
セミナー⑤ 『一晩明けた今の気分』と『つらい体験にどう対処してきたか』 「つらかった体験」や自
分史を振り返った前日から一晩明けての気分を共有し、それぞれがつらい体験をどう乗り越えてき
たのかを話し合います。安心できる場所・時間で人に話す、その体験の良かったところを探す、早
い段階で誰かに「きつい」と発信する、楽しいことを増やすなど、様々な乗り越え方が出ました。
セミナー⑥ 『つらかった中でもよかった体験』 最 後 に、『この研 修 で印 象 に残 っていること』『こ
れからの人 生 (の展 望 )』を共 有 して 2 日 間 の研 修 を終 えました。
(橋 本 愛 美 )
34
≪ 講 師 のコメン トより≫
・ 「石 (つらかった体 験 )」の取 り扱 いは、大 きな石 ではなく、 小 さな石 からやっていくと、大 きな
石 も取 扱 いやすくなります 。いい機 会 があれば、大 きな石 に取 り組 むといいでし ょう。大 きな
石 が整 理 されていくと、小 さな石 も整 理 されていきます。
・ ただし、つらい体 験 は話 す ことは大 きな負 荷 がかかり、危 険 もあります。 守 られた場 所 ・関 係
の中 で、聞 いてもらえる、支 えられているという信 頼 感 や関 係 があることが 重 要 です。そのよ
うな場 所 では「(つらい体 験 を)話 しても思 ったより大 丈 夫 だった」という体 験 になり、さらにそ
の体 験 が整 理 されていきます。
・ また、つらい体 験 であっても、その他 に 良 い体 験 が たくさんあれば 乗 り越 えていけるものです。
虐 待 などの厳 しい環 境 を生 き抜 いてきた子 どもに良 い体 験 をしてもらうことの意 味 はここに
あります。
・ 今 回 、「石 」ばかりだと思 っていたのに、「花 」があったのだと気 づかれた方 がいるように、 つら
い体 験 を見 ないようにして おけば、そこにある「ちょっと良 かった体 験 」も見 ないことにもなる
わけです。
・ 体 験 を話 すことは話 し手 だけではなく、聞 き手 の役 にも立 つことを体 験 されたのではないで
しょうか。自 分 の体 験 を人 に伝 えることは人 の役 にも立 つものです。
・ 里 親 養 育 というのは、自 分 のつらい体 験 をつぼに入 れて熟 成 させていいものに変 え、子 ど
もたちに提 供 しているという営 みなのだと感 じました。
≪ 参 加 者 の感 想 ≫
つらいことも、楽しいことも共有できるスペースが必要であり、話すことの大切さ、共有する、話を聞
く中で、癒されたり力になったりする体験ができました。誰かと一緒に自分史をふりかえることで、辛
い中にある花に気づくこともでき、心が温まりました。「人を信頼する。人から信頼される。」という時間
は快いものですね。自分史を振返ることで心の平常心を昨年以上に見い出すことができたような気
がします。理論的なことは講義で身につくけど、日々の生活に即結びつくのは、心の中の整理なの
かもしれないと気づいた2日間でした。
ゆっくりと考え、思い出し、話し、聴き、ほっこりした2日間でした。過去と現在のつながりを発見した
機会でもありました。知らなかった自分を知って改めて自分と向き合いました。良い体験、つらい体
験も見方を変えれば、今の自分を作りあげる材料だったのだと発見ができて良かったです。又、苦し
い体験や変えられないものを無理に変えなくても、時が経てば変えられる時が来るのだという“待つ”
ということも大切だと思いました。
昨年と同じような手法でしたが、昨年とは少し自分が変わっていて、人生の花、人生の石の中にも
新たな大きな花を見つけられたことが感動でした。ここで話したこと以外にも、自分の人生の中での
つまずきや体験が過去の出来事と、どこかつながっているのでは?と感じました。子ども達から辛い
体験を話される時に準備するための研修にもなりました。わたしが育てられた中でのよいことを子ども
たちの関わりになかで発信していきたいなと改めて思いました。
里子たちと共有できる世界がたくさんあることを願い、土に栄養をため春に向かう準備をしたいと思
います。里子の存在がとても大きくなる人生を送っている自分は世の中に感謝です。リフレッシュで
き、新鮮にまた子どもに接することが出来そうです。昨晩の研修後の里親同士のおしゃべりにもパワ
ーをいただきました。
35
「子どもの村福岡」専門研修を終えて
たんぽぽホーム
木村康三
2年目の専門研修が終わった。昨年同様、最終は合宿研修だった。甲南大学の森茂起先生のコ
ーディネートにより、4,5人ずつの5班編成で『私は育てられた、私は育てる』をテーマに10時間に及
ぶセミナーを受けた。虐待を受けた子どもたちの心に寄り添うことは、一人ひとりの子どもの物語に耳
を傾けることから出発する。その体験でもあると思った。
里親が研修の中で子どものことを語り合うのではなく、自分自身の成育史についてとことん語ること
は、おそらく初めての経験ではないか。昨年の同じテーマの研修の後には、どっと疲れた、という里親
が多くいた。今回はその声を聴かなかった。それどころか、夜、子どもたちが寝込んだ後、深夜まで自
主的に懇親会が持たれ、盛り上がった。
日々の養育の中の無意識の領域に、自分自身の育ちが影響を与えていることに気づかされる。
また、意識深くに閉じ込められたトラウマ(傷つき体験)が処理されないまま残されていることにも気
づく。虐待の再現メカニズムがここにあると感じた。同じ志を持つ仲間の中で、自分を語りさらけ出す
ことは、精神のカタルシス効果を持つ。その浄化作用によって気持ちが軽くなり、ストレスが軽減され
るという体験となった。
虐待を受けた子どもや、機能不全家庭の中で健全な育ちを奪われた子どもと向き合う里親養育は
ストレスフルな日々の連続である。その中にあって「子どもの村福岡」が提供するこのような合宿研修
は、砂漠の中のオアシスであると同時に、里親への目に見える直接的な支援と言える。
加えて、年間4回のこの専門研修に、里親が安心して参加できるのは、並行して準備された「子ども
プログラム」の存在が大きい。子どもたちも共に学んでいるのである。2年目が終わり、今ではすっかり
定着した「子どもプログラム」は、多くのボランティアによって支えられている。子どもの人数以上のボラ
ンティアスタッフが手弁当で参加している。今回は、事前に合宿ミーティングを持ったというから、その
情熱は半端ではない。
上記のような里親の専門研修を縁の下で支えるスタッフが、当日は直接子どもたちと向き合うのであ
る。そこでは普段里親に見せないような愛着行動を示すこともある。彼らは事前のセミナーを受けるこ
とで、それをしっかりと受け止められるように準備しているそうだ。
今回「子どもプログラム」は、広いトレーニングルームの床面一杯にシートを敷き、その上で、いろん
な材料を使って創作し、子どもの星「コプロ」を自分たちの手で作り上げるというプロジェクトであった。
皆が驚くほどに子どもたちはその活動に熱中した。終わった後の彼らの紅潮する頬に、いつにない達
成感を感じることができた。この子らの未来を拓く彼らの若い情熱に、頭が下がる思いである。社会的
養護の中での里親子を支える新しい仕組みがここに誕生したように思う。
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「家庭的養護の養育者に求められる自己覚知」
九州大学大学院人間環境学研究院
教授 松﨑 佳子
(子どもの村福岡 常任理事)
子どもの村福岡では、家庭的養護を担う人材養成は、社会的養護や子どもの発達や障害、虐待
等に関する基礎的・専門的知識研修に加えて、①養育者の自己開示力、相談する力、自分を振り
返る力など、『自己覚知・自己洞察』を深めるものであること ②養育実践の振り返りを大事にするこ
と ③養育実践を話すことは、自分をさらけ出すことでもあるため、自分をさらけ出せる場の保障がな
されていること ④家庭での生活の質を高めるものであること ⑤養育者や子どもの人生の質を高め
るものであること が必要と考え取り組んできました。
2011年、2012年度と継続して宿泊形式で行った「私は育てられた、私は育てる」という自分のライ
フストーリーを振り返る本研修は、「今まで気にしていなかったことに気づいた」「日々の生活に結び
つくのは、心の中の整理かもしれないと気づいた」などの参加者の感想にもあるように、自身の過去
の体験を振り返ることが、今の養育実践 と繋がっていることに気づくなどの体験となったようです。
自己の内面に向かうこのような研修は、一方では、伏せていた過去に向き合うため、危険も伴うも
のです。安心して自分の内面を話せる場の保障、非日常の確保、さらに安心して日常にもどることが
できる研修のしかけをしていくことが不可欠です。今回の研修で、「人を信頼する、人から信頼される
ことは心地よい体験であった」との感想がみられたことは、ある程度その保 障ができた場であったと考
えられます。
今年度の専門研修は4回シリーズとし、本研修の前に「愛着形成に課題を持つ子どもとの関係づ
くり」「ライフストーリーワークⅠ・Ⅱ」という、子どもと養育者の関係性に主眼を置いた研修 に組んでき
ました。その際、講師の講義・ワークに加えて、昨年度から行っているケア・スタディを取り入れました
。これは、報告者の養育実践報告というだけでなく、参加者それぞれの養育 実践が語られる場となり
、子どもの村関係者、参加者、講師が共に守秘義務を守りながら相互関係のなかで話を深める場と
なっています。
この3回の研修を積み重ねていく中で、自己の養育を語る体験、自己を語る場の共有化がなされ
る土壌の形成ができてきたと感じています。
さらに、宿泊研修に子どもプログラムを並行して実施したことで、子どもが楽しんでいる姿を感じな
がら参加できたことは、里親が「後ろめたさをもたずに」安心して自分も研修に打ちこむことができる、
楽しむことができる環境を提供していたと言えるでしょう。
自己のこころの中を探検し、現実に戻ってくるには一泊研修は、長いようで短いです。時間の組み
方、研修内容の工夫がさらに必要です。また、研修後、参加者からのニーズがある場合、フォローが
できる体制をつくっておくことも重要 だと考えています。
37
Ⅲ.子どもプログラム
(遊びを通した里子のケアプログラム)
1.子どもプログラムとは
子どもの村福岡では、里親・FH 養育者のための専門研修会を実施する際に、里親に同行してくるた
くさんの里子たちのための遊びプログラム「子どもプログラム」を 2011 年度から始めました。
子どもプログラムでは、子どもたちが、里親以外の大人との安定した関係の中で、喜びや不安、怒りな
ど、さまざまな情緒を感じながら、以下のような体験ができることを目指していました。
I. 参加する子どもたちの心と体が守られながら開かれ、一人ひとりが大切にされている
と感じることができること。
II. そのなかで、達成感や他の子とつながることの心地よさを感じられること。
さらに、これらの体験を通して、里子同士が成長過程の中でお互いに支えあえる関係をつくり、子ど
もたちが抱える心的外傷を癒すプログラムとなることを目指します。
子どもプログラムでは、固定化したプログラムがありません。子どもたちのその時の気分、関係性、
場の状態などによって、遊びの内容も柔軟にかわっていきます。子どもたちが主体的に遊びながら、
他の子どもとの関係を築いていけるよう、変化していく遊びの流れに、養成研修を受けたサポーターが
寄り添い、時にサポートしていきます。
子どもプログラムでは、『参加するおとなのルール』を設け、サポーター一人ひとりが大切にするべ
き指針を、自分たちでつくりあげていくことにしています。以下のⅣ以降は、プログラムを実施するなか
で、サポーターが議論しできてきたルールです。
Ⅰ.子どもと一緒に心から楽しむこと。
Ⅱ.不快な気持ちや、
「やりたくない」気持ちも大事にすること。
Ⅲ.子どものチャレンジしたい気持ちを最小限の手助けで最大限応援すること。
Ⅳ.子どもとの関わり方はいろんなおとながいて OK だけど、疑問に思った時は、
皆で話し合うこと。子どもの意見を聞いてみること。
Ⅴ.子どもが持ってくるゲームやオモチャは、子どもの居場所として考えること。
Ⅵ.子どもの暴力的なコミュニケーションについて
-その子のコミュニケーションのひとつの形である可能性を考え、その行動の
意味を受けとめる。ただし、無理はせずに、受け入れることのできる限界は、
子どもにもきちんと伝えていくこと。
40
2.
「Project Joy」に学ぶ子どものケア
宮城県内で被災した子どもをケアする、宮城県こども総合センター本間博彰所長を中心とした「子
どもの心のケア・チーム」が招聘し Steve Gross 氏による「Project Joy」を学びました。「Project Joy」
は、虐待を受けた子どもや不適切な養育を強いられた子どもにも適用できるプログラムであり、子ども
の村福岡では、子どもプログラムやサポーター養成に、その考え方を取入れています。
*「Project Joy」:ボストン小児病院のケア・チームにより、脳科学の知見を基盤とし、傷ついた子どもたちの回復を
目的に考案され、適切に訓練を受けた敏感で思いやりのある大人のリードによって実施されるものです。
(1) 「Project Joy」セミナーへの参加
2012 年 4 月 29 日より 3 日間、宮城県気仙沼で行われた「Play Maker プロジェクト~Project Joy
セミナー(講師:Steve Gross 氏・Life is good 社 PLAYMAKERS チーム チーフプレイメーカー)」に、子どもの
村福岡子どもプログラムのメンバーも参加しました。
トラウマが子どもの遊びにおよぼす影響、どのような遊びによって子どもたちの持つ力が発揮され、
癒しや学びにつながるのか、などを理論的な背景を学びながら、実際に被災地の子どもたちと一緒に
Project Joy を体験しました。
Project Joy では、子どもたちの持つ特性のなかで、「Playfulness(陽気な遊び心)」を最も重視し
ています。遊びの中で子どもの「Playfulness」が最大限発揮されるために、以下の 4 つの要素が遊
びの中に取り入れられています。
「Joyfulness(歓びに満ちた心)」 :子どもの愛情、達成感、
希望の感覚が、元気いっぱいに喜びを伴って表現されたも
の。幸福感のように、体外的な事柄に左右されない。
「Active Engagement(積極的関与)」 :積極的な関与とは、
子どもが一つの活動に熱心に完全に没頭すること。
「Internal Control(自制力)」 :子どもが自分を取り巻く世
界と関わることができるための、安全感・自己価値感・有能
であるという感覚。
「Social Connection(社会的つながり)」 :子どもが自分を
取り巻く人々やその地域と協力的に関わっていくこと。
≪Project Joy に学ぶ「ケアにつながる遊び」に必要なもの≫
・ 音楽、リズムなどを多用し、子どもたちの五感をフルに活用できる遊び。
・ 子どもたちの年齢、発達状況、関係性、コミュニケーション力などに応じて対応できる可変的なプログ
ラム構造(枠組み)。
・ その枠組みをつくるために必要な、子ども個人や集団をアセスメントし、ファシリテートする力。
・ 子どもたちが遊び心を最大限に発揮できるよう寄りそえるサポーター。
41
3.子どもプログラムがめざすもの
「Project Joy」を参考に、昨年行った子どもの村子どもプログラムを再評価し、その中で確認された
課題から、①プログラムサポーター養成の強化
②プログラムの枠組みの再検討を行いました。
今年度は、サポーター養成として、1)プログラム体験セミナー(全 4 回・参加のべ 47 名)、2)
「Project Joy」体験セミナー(参加 18 名) を行い、本プログラム(全 4 回、うち 1 回は 1 泊 2 日の宿
泊プログラム)を実施しました。
本プログラムでは、里親専門研修時に同行してやってくる 20~30 名(4~12 歳)の里子と、10~15
名(20~60 代)のボランティアサポーターがとにかく遊びます。昨年度に参加している子どもと、今年
度初めての子どもがいるため、宿泊プログラムまでの 3 回(各回 4 時間程度)は自由遊びの中で、子
どもたちの状態や関係性を把握するとともに、サポーターと子どもたちの関係づくりを行いました。
宿泊プログラムでは、この 2 年間のプログラムで初めてとなるファンタジー設定(惑星コプロの開拓)を
行いました。昼間は屋外の自由遊びで関係を慣らし、夜の部から“惑星コプロの開拓”プログラムを開始
しました。2 日間にわたる惑星コプロ開拓は、ファンタジーの中で夢中に遊ぶ子どもたちの高揚したエ
ネルギーに、大人であるサポーターや里親たちが驚くほどのプログラムとなりました。一人ひとりのオリ
ジナリティ溢れる家ができ、それがやがて集まりだし、川には魚が泳ぎ、電車や車が走る大きな街へと
変化していきました。限られた資源(段ボール、テープ、キラキラした装飾用材料など)をゆずりあい、工
夫しながら創られていった惑星コプロを、子どもたちは研修を終えた里親たちに誇らしげに見せていま
した。
この 2 年間の子どもプログラムを終え、社会的養護の子どもをケアするプログラムとして、以下のこと
が重要であると考えています。
(子どもプログラムの中で・・・)
・ 子どもの主体性が徹底して尊重される(待たれる、伴走される)ことによって子どもたちの創造的な遊
びのエネルギーが生まれていきます。
・ サポーター同士の信頼感や安心して頼りあえる関係性が、子どもたちが安心して遊ぶことのできる枠
組みとなり、対人関係やコミュニケーションのモデルにもなっていきます。
・ 子どもたちはワクワクドキドキや、時には悲しんだり腹を立てたりしながら、心から遊びを楽しみ、その
中で、自尊心や自己効力感を高め、他者とつながることや、他者と支えあうことの心地よさを体験して
いきます。
・ 子どもたちは、他の里子や大人(サポーター)と時間と場所を共有するとともに、上記のような感情体
験を共有し、里親家庭や学校以外の豊かな人間関係をつくっていきます。
(今後の子どもプログラム…)
・ 子どもたちの持つレジリエンス(強み、回復力、弾力性、しなやかさ)を最大限に発揮させること
・ 厳しい環境を生き抜いてきた子どもたちが持つ力強いエネルギーを、創造的な遊びに変えていくこと
が、子どもたちのケアにつながっていくのではないかと考えています。
(橋本愛美)
42
Ⅳ.東北における家庭養護を支えるネットワークづくり
「もう一つの絆プロジェクト」
「子どもの村東北」
両輪ですすむ家庭養護の支援ネットワーク
子どもの村福岡は、開村以降、福岡市における「家庭養護・家庭的養護を支える多分野ネットワークづく
り」を進めてきました。
今年度は、さらに東日本大震災で親を失くした子どもたちへの長期的支援や、宮城県における家庭養
護推進のために、宮城県や仙台市、宮城県里親会、仙台市里親会、(特)子どもの村東北らとともに、里親
普及啓発のフォーラム、里親専門研修会などを協働開催しながら、東北における家庭的養護を支えるネッ
トワークづくりを行いました。
福岡では、市民と児童相談所が協働で行う里親普及・支援事業「新しい絆プロジェクト・ファミリーシップ
ふくおか」をきっかけに、『子どもの村福岡』が設立されました。
「里親を普及させていくためには、社会的養護を行政の課題から市民の課題とし、市民や地域の里親へ
の理解、そして里親・里子を支える支援のしくみづくりが必要である」。これが、福岡の取り組みで明らかに
なってきたことです。このため、子どもの村福岡では、里親・里子の相談事業と里親やファミリーホーム養育
者対象の専門研修会を、里親支援と位置づけて行っています。
この福岡の取り組みをモデルに、東北では「もう一つの絆プロジェクト」が始まりました。このプロジェ
クトは、宮城県、宮城県里親連合会、宮城県児童相談所、仙台市、仙台市里親会などと協働で取り組ん
でいます。
同時に、この里親普及の取り組みと、大震災で親を亡くした子どもや、要支援家庭を支援する『子
どもの村東北』の設立準備も進んでいます。これらの活動は、また、宮城県の各児童相談所と仙台市
児童相談所とで「連絡会」をつくって連携しています。
福岡で始まった、里親普及と家庭養護を支える多分野ネットワークが今、東北へとつながり、SOS
子どもの村の「すべての子どもに愛ある家庭」を保障する社会を目指して、広がってきています。
(坂本雅子)
44
Ⅴ.「家庭的養育支援ネットワークと心のケア事業」を終えて
1.家庭的養護の人材養成プログラム開発と支援ネットワークづくり(福岡市)
(1) 家庭的養護を支える関係者のネットワークづくり
昨年に引き続いて行った協働事業を通し、多領域の関係団体とも社会的養護の課題を共有し、各領
域の役割認識を強化していきました。
1)福岡市里親会 ―地域の子育て支援の中で重要な役割を担う―
福岡市里親会は、近年、新規登録里親やファミリーホームが増え、組織が大きくなるととともに、積極
的に会の運営強化が進んでいます。また、福岡市で行われている「虐待死ゼロのまちづくり推進」や
「子どもにやさしいまちづくり」「新しい絆プロジェクト」など、関係者のネットワーク事業にも積極的参加し、
発言を行い、地域の子育て支援の中で重要な役割を担ってきています。
今回の専門研修の中では、「ケア・スタディ」で養育実践を提供するなど中心的な役割を果たし、研修
の質の向上に取り組んで下さいました。宮城県や仙台市の里親会との交流も始まっており、両地域の
先進的な部分をお互いに活かす取り組みが期待されます。
2)福岡地区小児科医会 ―社会的養護への支援活動を全国へ―
福岡地区小児科医会は、「子どもの村福岡」に家を一軒寄付したことをきっかけに、社会的養護の子
どもたちの養育に関心を深め、継続的に子どもの村福岡の支援を行ってくださっています。
現在、里子の多くが地域の小児科医院を受診している中で、小児科医への啓発は必須であり、今年
度も小児科医への社会的養護の理解を深める研修を行いました。
福岡地区の小児科医会は、2013 年 8 月開催の「全国外来小児科学会」で、子どもの村福岡と子ども
の村東北への支援活動を行う予定であり、さらに、日本小児科医会は、子どもの村東北へ、家一軒の
寄付を行うなど、積極的な活動を全国的に波及させています。
3)(特)そだちの樹(福岡県弁護士会子どもの権利委員会有志) ―子どもの権利尊重の中心として―
福岡県弁護士会の有志による子どもの権利尊重のさまざまな活動、特に子どもシェルター「ここ」の開
設運営と、福岡市医師会との「子どもの虐待防止パートナーシップ委員会」活動などは、福岡市におけ
る社会的養護の子どもを取り巻く活動団体のネットワークの中で、重要な役割を果たしています。
昨年、共同発行した、「弁護士に聞く、里親として知っておきたいこと(法律 Q&A ハンドブック)」は、
全国的に注目され、里親会の研修などにも利用されました。今年度は、全国の里親や関係者からご意
見をいただき、さらに、検討を重ね、改訂版を発行しました。
しかし、この議論のなかでも、里親養育上の子どもの守秘義務と情報提供の問題、里子の事故や賠
償責任の問題、実親との連携などについては、「国連子どもの代替養育に関するガイドライン」が示す
指針と現状との間にはまだまだかい離があり、今後とも十分な議論、検討を行う必要を感じました。
46
2) 「ケア・スタディ」という研修手法を広げる
研修手法としては、昨年に引き続き、「ケア・スタディ」手法を試みました。この手法は、福岡市こども総
合相談センター(児童相談所)の専門里親の継続研修にも取り入れられました。
この手法では、ケア(養育)実践報告を提供する里親、進行する司会者、スーパーバイザーなどに、一
定の専門力と、守秘義務を守るルールづくり、安心感を持って体験を共有できる関係づくりなどが必要
ですが、研修内容を深めるだけではなく、参加者と企画者と講師の一体感が生まれるなど、優れた研
修効果があります。今後、全国の里親、またファミリーホーム研修の中に採り入れられることを期待しま
す。
3) 子どもプログラムの深まり
昨年度に引き続き、里親研修の際に並行して行う「子どもプログラム(里子のための遊びを通したケア
プログラム)」は、宮城県で行われた国際的な遊びを通した子どものケアプログラムである「Project Joy」
を体験することによって、これまで試行してきたプログラムが、国際的にも共通するプログラムに近づい
ているという自信につながった。
現在、里親会や里親研修の時には、全国的に「託児」が行われていますが、その中で、このような子
どもを中心に考えたプログラムが工夫されることが必要かと思われます。
2.家庭的養育の人材養成と家庭的養育支援ネットワーク(宮城県)
東日本大震災をきっかけに、宮城県では「子どもの村福岡」の提案によって、「子どもの村東北」
を設立するための NPO 法人が立ち上がり、建設準備が始まっています。
それと同時に、福岡市で成果をあげて来た、里親普及・支援事業「新しい絆プロジェクト・ファミリ
ーシップふくおか」を参考にした活動として、「もうひとつの絆プロジェクト」が、宮城県、仙台市、宮
城県里親会、県内児童相談所、仙台市里親会、子どもの村東北、子どもの村福岡の7者の協働
事業として始まりました。
「もうひとつの絆」と子どもの村東北のネットワーク会議
このネットワークづくりは、子どもの村東北設立準備と両輪の活動として行われています。今年度
2 回の「里親普及フォーラム」と「里親研修」が行われました。その都度、子どもの村福岡も東北を
訪れ、ネットワークづくりのための会議を開きました。
「里親普及フォーラム」や「里親研修」は宮城県にとっては、初めての活動でしたが、予想外に多
数の参加者があり、参加者からは事業への期待が述べられています。福岡の経験が関係者のネ
ットワークづくりの面でも、またフォーラムや研修手法の中でも活かされています。
研修講師は、全国の専門家にご支援をいただいており、被災地への多くの好意に支えられなが
ら進んでいます。
(坂本雅子)
47
Ⅵ.資 料
2012/11/18
生い立ちが分断されること
子どもの村福岡専門研修
○社会的養護に関わる子どもの生い立ちが
分断される要因
関わる大人の交代・別れ
子どもの生い立ちを繋ぐ
*家族からの分離(親の離婚・死別など)
*養育者の交代(施設での担当変更など)
*児童相談所CWの交代
生活する場の移動
国立武蔵野学院
藤澤 陽子
[email protected]
*転居・転校
*措置変更
生い立ちの分断が
子どもに与える影響
2
生い立ちの物語を紡ぐ必要性
物理的な影響
• 愛着対象が定まらない→安心・安全
• 思い出を語り合う人がいない→記憶・繋がり
• これまでの生い立ちに意味付けをする
• 「あなたのせいではない」「あなたは悪くない」
家族と離れた理由を知る
• 自分がどのように生まれ、なぜここにいるの
か分からない→自尊感情・自己肯定感
• 自分らしさを持てない
心理的な影響
• トラウマ記憶による安心感のなさ
• 自分はいらない子という気持ち
など
家族と離れたことを自分の責任と考える子ども:約60%
(児童養護施設入所時)
• 自分や家族の持つ「力・強み」に気付く
• 周囲の人との繋がりや時間の繋がりに気付く
3
4
アセスメントと準備
ライフストーリーワークとは?
<子ども>
ライフストーリーワーク(イギリス)
個人史を扱うことが子どもにとって有益か?
タイミングは適切か?
1950年代~ 里親委託・養子縁組の準備
SWが子どもの歴史を記す
1970年代~ ライフストーリーブック
2000年以降 大人が一方的に作成することへの批
判が高まる
2002年
ライフストーリーワークが重視される
(入所時・発達に合わせて・子どもから話が出たとき・
進学や就職 など)
今どのような関係性を子どもと築けているか?
子どもが知りたいこと・ニーズは何か?
<おとな>
①情報の収集
②内在化
③ライフストーリーブックの作成
5
子どもにとって必要な情報を集めているか?
揺れに対応する準備ができているか?
子どもの状況を把握できているか?
6
50
1
アセスメント
• トラウマ記憶と安心の記憶 →健康的で温かみの
現在の子どもの状態を多面的に把握し、生い
立ちを扱うことの可否やタイミング、伝える内容
などを考える。
ある生活の中で安全・安心を積み重ねていく
• 身体症状の有無 →身体症状・悪夢・排泄・食事
<身体・心理・行動面>
• 発達(知的・情緒的)→理解できる内容や言葉を選ぶ
• 認知(生い立ちや家族と離れた理由などへの認知)→
<社会・環境面>
• 友人などの対人関係
• 学校や地域の状況
• 施設や里親家庭などの生活環境
認知の歪みや程度の把握と対応
• 行動→行動パターンの把握・理由やきっかけを理解す
る
7
8
準備
• チームを作る
• 発達に合わせて質問や言葉を選ぶ
子どもの年齢
誰?
Who
3
4-6
7-8
9-10
11-12
何?
What
どこ?
where
いつ?
when
順序
児童相談所・施設や里親等の関係者が
チームを作り、アセスメントや収集された情報を
もとに協議する。
詳細
• 子どもと共に作業を進める人を決める
子どもにとって安心できる人・養育者・担当
CW・担当心理 など
1対1 1(子ども)対2(おとな)
• 場所や時間を決める
©Corner House 2008
子どもにとって安心できる場所や空間
10
育てノート
①情報の収集
• 家族(親戚)の状況
(居住・仕事・対人関係・健康・戸籍等)
• 生まれたときの状況
• 家族と子どもの成育歴
•
•
•
•
•
(記録・母子手帳・聞き取り等)
施設や里親等へ行くまでの経緯
病歴・通(入)院歴・投薬・予防接種
養育者・担任・担当CW
写真・手紙・絵などの品々
など
11
51
2
②生い立ちを扱う(内在化)
③生い立ちの物語を紡ぐ
• 子どもが既に持っている自己物語を知る
• ジェノグラムや家族の似顔絵
• 家の見取り図
(ライフストーリーブックの作成等)
•
•
•
•
• ライフストーリーブック(才村,2009)
My Life and Me(J.Camis,2001)
生い立ちの年表作り
エコマップ (子どもを中心に取り巻く人を図示する)
写真から回想する (育ちを繋げるアルバム作成など)
子どもにとって重要な場所の訪問
章立て:わたしについて知っていること・わたしの健康・
わたしの生まれた家族・生みの親と家族に連絡をとる・
地図と移動・わたしの考えと気持ち・特別な思い出・
今の私について・私の学校・わたしと私の体・
私の生まれたところと今住んでいるところ・
私のある一週間の生活・未来・
役に立つ住所と電話番号
出来事の理解・感情の表出・家族力動の理解
13
14
~育てノート・育ちアルバムの作成~
• ことばと絵(Turnell & Essex,2006)
分かち合う説明を作る
子どものための
生い立ちの記録
ライフヒストリー
• 育ちアルバム
育ち
アルバム
子どもの
歩みを
つなげる
(社会的養護における「育ち」「育て」を考える研究会,2012)
養育のための
生い立ちの記録
ライフヒストリー
育て
ノート
健やかな
育ち・
育ての
保障
ライフストーリー
自己肯定感・自尊心の向上
年に1回作成し、毎年積み重ねる
第5章 ことばと絵によってばらばらの話から
15
52
3
子どもの村福岡報告集 2013.3 資料2
A Loving Home for Every Child
ケア・スタディとは
参加者が、それぞれの養育の経験を共有し、相互に検討し合い、
時には専門家のアドバイスをうけながら、子どもたちのための、
普遍的なよりよい養育をめざしていくことを目的とします。
誓
約
書
1. ケア・スタディの提供者と、その子どもの個人情報については、
子どもの福祉に携わる者としての守秘義務を遵守します。
2.ここで検討された、子どもへのよりよいケア(養育者との関わり)
については、その子の養育に携わる人たちと情報を共有し、活かして
いきます。
年
月
日
署名
Children’s Village Fukuoka
53
子どもの村福岡報告集 2013.3 資料2
A Loving Home for Every Child
子どもの村 福岡
ケア・スタディ シート No.
子どもの気になった出来事・困った出来事
子どもの背景や、年齢については個人が特定されないように配慮が必要です。
この欄には、テーマに関する子どもの気になる言動、困った出来事について具体的に
記入してください。
年齢については、乳幼児、低学年、高学年、思春期前期・後期などのざっくりと示し
てください。年齢や子どもの背景は簡略に口頭でお願いします。
それにどう対応したか?
ケア・スタディのルール
*ここで検討された、子どもへのよりよいケア(養育者との関わり)については、その子の
養育に携わる人たちと情報を共有し、活かしてください。
*しかし、子どもの細かな個人情報については、子どもの福祉に携わる者としての守秘義務
を遵守してください。
Children’s Village Fukuoka
54
子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
イルメラ ヴィーマン
社会的養護で育てられた子どもたちに対するバイオグラフィワーク-
人格育成のための効果的な援助
私たちの言葉をひとつにまとめましょう。そしてそれを書き記しましょう。もしかしたらそれ
は私たちが一度言葉にしたものからこぼれ落ちたものかもしれません。あるいは私たち自身が
一歩後ずさってしまうようなものかもしれません。もしもそれがうまくいったら、すべてに含
まれている痛みが治まってくるかもしれません。
(ハンナ ヤンセン)
1.導入
5 歳のマルティンはほぼ 3 歳になるまで母親とふたりで暮らしていました。この母親は身体的には面倒をみ
ていましたが、心理・社会的にはひどく放任していました。里親はこの母親と知り合うことはありませんでし
た。子どもが引き取られた後、母親は完全に身を引いてしまいました。里親はマルティンのためにフォトア
ルバムを作成しました。そこには児童ホームからのものと、ここに来てから関わりを築いている時間が含まれ
たものでした。これらの時以前のものはほとんど分かりませんでした。マルティンはアルバムを見るのが大好
きで、彼の里親である父親が“それ以前はママのところにいたんだよ”と言ったとき、マルティンは児童ホー
ムのリサが僕の最初のママだと言い張りました。そして“このテーマに関してはもう話さないで”とはっきりと
意思表示をしたのです。
マルティンは以前の生活と現在の生活を結びつけることが出来ませんでした。彼の忘却と抑圧はトラウマ
の後遺症なのです。馴染みの環境と母親の喪失は、マルティンの人生における激しい断絶なのです。同
時に児童ホームと里親への移行は彼にとっては良い時の始まりでした。さしあたり母親を恋しがったでしょ
う。しかし母親によって他のところへ手放されたことは、マルティンの心を痛め、そのため母親の記憶をすべ
て消してしまうものでした。その間マルティンは里親のもとで居場所を感じ、そしておそらくは無意識の忠誠
心の葛藤が、昔の生活と実母のことをマルティンの意識から締めだしていたのでしょう。もしもマルティンが
ママ(実母)の子どもとして感じているならば、両親たち(里親)にまだ愛して貰えるのでしょうか。ひょっとする
とマルティンにとって彼の母親が大切であることを示してしまったならば、両親たちは彼をもう置いておきた
くなくなってしまうのではないのでしょうか。しかし恐れもまたある役割を果たすのかもしれません:もしもママ
がまだいるのだという事を認めてしまうと、また彼女との寂しい生活に戻らなければならないのではないでし
ょうか。マルティンの忘却もまた、はじめの 3 年間は彼の人生を積極的にコントロールし、再び無力感に苛
まされないようにするための試みなのかもしれません。
里親は、ここ最近になって青少年局の職員が彼らの為に取り寄せたマルティンの母親の写真を貰いまし
た。彼らはこの写真を突然にマルティンに見せたらショックを受けるだろうと心配をしていました。
この用心深さは適切で当然のことでした。抑圧と防衛には常に守る機能があります。しかしながら抑圧は、
1
55
子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
こころのエネルギーを成熟や情緒的な成長にではなく、また学習や行動をもたらさないものに結びつけて
しまいます。養育者によってトラウマをもたらされてしまった子どもにとっては、それはこころの傷であり、同
時に脇へ押しやることも出来ない人間と関わりを持つことは、危険な綱渡りのようなものです。
マルティンの里親は、母親の養育権剥奪を申請した専門職員とコンタクトをとりました。里親は、実の母親
が家の中に沢山の猫を飼っており、マルティンはほとんどをベッドの上で過ごさなければならず、十分な食
事とオムツの交換以外は、ほとんど愛情を受けてこなかったことを聞きました。母親が専門職員に写真を渡
した時に、マルティンが他の人に育てられていることについて、実は正しい選択だったと思うんですと述べ
ました。マルティンとの連絡については、彼女は知りたがりませんでした。マルティンにもう一度会うことは彼
女には耐えられなかったのです。
そうしてこの里親は、絵の上手な知り合いに、絵本をつくって貰いたいとお願いをしました:まずはじめに、
ある女性と男性がいました。そこでは沢山の猫がいて一緒に暮らしていました。それから猫たちの中で赤ち
ゃんを腕に抱いている両親の絵を示しました。それから父親がスーツケースを持って家から出て行っている
様子、小さな赤ん坊がひとりベッドの中にいてその周りを猫たちに囲まれている様子、それから母親が青少
年局のソーシャルワーカーと話をし、しまいにはそのソーシャルワーカーがどのようにその子どもを児童ホ
ームへと連れて行ったのかの様子などが続きました。それから児童ホームからの写真が続き、最後のペー
ジに母親の写真を貼り付けました。写真の下には「あなたの初めのお母さん、レニーお母さんは今このよう
な顔をしています。私たちは彼女が私たちのところにいることを了解してくれて有難く思います。レニーお
母さんは、毎日小さな男の子のために傍に居てやれるだけの十分な力が自分にはないと感じました。レニ
ーお母さんは、あなたが私たちのところでうまくやっていることを願っています。彼女は今もまだ猫たちと一
緒に暮らしています。マイヤーさん(ソーシャルワーカー)はレニーお母さんに私たちと会ってみませんかと
尋ねましたが、彼女は断りました。それはあなたに原因があるのではなく、レニーお母さん自身の問題なの
です:レニーお母さんは、あまりにも悲しくなってしまうのではないかと不安がっているのです。彼女は今の
ような状態が続くように願っています」。マルティンはこの本を枕の下に置き、何度も取り出していました。彼
は突然、里親に、むかし家にいた時の多くの事柄を語り出し始めました。そして「レニーお母さんは僕のこと
を忘れていないんだ。レニーお母さんはおもちゃを持っていなかった。あなたたちは持っているよね」と里
親に断言しました。そして里親は、レニーお母さんがマルティンのことを愛しているということと、マルティン
が新しい両親を得ることを受け入れたことは、レニーお母さんにとってとても大きな事を成し遂げたのだと支
持しました。マルティンは里親に心を開き始め、長い間遊ぶようにもなり、拒絶することもほとんど無くなりま
した。
作成した絵本を見ることは、マルティンに治癒的な効果をもたらし、過去と現在との生活を統合することを
可能にしました。しかし実の母親に対し、里親の中で移り変わる内なる態度もマルティンには感じ取れるも
のでした。里親は、マルティンが質問しなかったことに答えることを通して、マルティンの人生の中に、実の
母親や父親の居場所を確保する正当性を与えたのです。里親はマルティンが持っているであろうと思われ
るロイヤリティコンフリクト(忠誠心の葛藤)から解放したのです。そして彼らはマルティンに実の母親がまだ
居ること、どこに彼女が住んでいるのか、なぜマルティンを訪ねに来ないのかなどを明確にしました。里親
56
2
子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
はマルティンの実の父親についても同じような方法で行いました。子どもの既往歴についての絵本作成は
小さな子どものバイオグラフィワークで数多くあるメソードのうちのひとつです。
2.バイオグラフィワークとは
バイオグラフィ(ギリシア語=人生の記述)に取り組むことは、子どもたちが自分の中の失った部分に再
び繋がりを取り戻し、自分が完全な人間であると感じることに貢献します。アングロサクソン系からきた“ライ
フストーリーワーク”は“子どもが過去に向き合い、克服する手助けをする際における構造と一定の方法を
兼ね備えた手ほどき”に関わることです。(Lattschar, Birgit: Vorwort in: Ryan/Walker 1997, S.7).
„バイオグラフィワークは、自分自身について語ることに関し構造を与え、納得できるような機会“を子どもた
ちに提供し、憂慮すべき理想化されたファンタジーのあるところに明白さを与えます。子どもがいつでも見
ることができ、[子どもの]許可のもと、彼らを特に危機的な状況下で世話してくれる人たちにも見せることの
できる記録が、一度作り上げられ存在することになるのです。(Ryan/Walker 1997, S.15)
このバイオグラフィワークを行う際に大切なことは、共に作成し、資料などを揃え、傍にいる人と特定の出
来事に関して話し合うプロセスにあります。それはこのような方法で過去に関わった人間や経験が、再び生
き生きとなるようにするためのものです。その他にも何度でも取り扱い、見ることのできる具体的な成果、記
録、作品などが作られるよう意図されているものです。ライフブック(Life-Story-Book)には証明書類や、手
紙、写真、ビデオ、カセット、作成された絵、グラフィック、年表、年代記、ジェノグラム、地図(Landkarten)な
どのファイルを含みます。
子どもが自分自身の過去と現在とを結びつけられるようになることは、彼らにとっては、また別の価値を得
ることでもあります。“バイオグラフィワークの目的は、子どもたちと共に、彼らの人生物語に対する真実どお
りの、現実的で、そして理解可能なイメージに基づき、それに従事することです。このイメージは自分自身
を理解することを助けてくれるはずです”(Fock 2002,p.22-23)“バイオグラフィワークは、子どもにとって自
身の人生物語を再び‘獲得し’、それを通してアイデンティティと自己信頼性を手に入れようとする試みなの
です”(Maywald 2001,p.235)
子どものライフストーリーをまとめ、描き、記録をつくることは、大人がイニシアチブ(主導権)を取ること、そ
して子どもが過去のことについて尋ねるのかどうかを待たないこともひとつの方法です。というのは多くの子
どもたちには、このテーマに関して話をすることにためらいがあるからです。子どもたちは、痛みを伴う、傷
つくような出来事を把握したいと思うのか、或いはこの難しい現実から逃れたいのか、内に葛藤を抱えるこ
とになります。もしも子どもがこのことを脇へ追いやる方を選んだならば、傍にいる養育者のイニシアチブ無
しには、自分の過去について把握することはほとんどないでしょう。バイオグラフィワークでは、子どもの記
憶へ入り込む入口の敷居を低くする方法が探し求められ示されます。まずは表面的なデータや出来事が
収集されます。これは子どもにとってあまり脅威的ではありません。子どもは[作業の]テンポやその配分を
決めることが出来ます。
3
57
子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
どのような子どもにバイオグラフィワークは適しているのか
ライフストーリーの中で関係性の断絶を経験したすべての子どもは、傍にいる大人を通して人生を記録
する手助けを得ることにより、成熟し成長することが可能となります。そのような意味でバイオグラフィワーク
は、特に家族から離れなければならなかった子どもたちに大変適しています。例えば養育里親や養子縁
組、教育施設、青少年福祉による児童‐青少年施設(グループホーム、児童ホーム、子どもの村など)。こ
れらの枠を超えて古典的な意味で普通の家庭に育っていないすべての子どもたちへの活用も可能です。
それは例えば、ひとり親家庭で子どもが片親について知らない場合や、[連れ子など]血のつながりのない
家庭で育つ子ども、祖父母のもとで育つ子供などです。例えば家族の重い病気、死などによる喪失、両親
の離婚による別れなどにもこのバイオグラフィワークは大変有益です。
いつバイオグラフィワークを行うと良いのか
就学前や思春期は、子どもが自分の人生の歴史にとても興味を示す時期です。そして外側からやってく
る転機(転校、環境の変化など)に、バイオグラフィワークを使ってよりよく人生の流れに順応することもたび
たびあります。こんにち、すでに乳幼児期から子どもたちの人生の真実を説明したり、話して聞かせたりす
るときに、参考となる良い経験が既にあります。たとえ言葉としてすべてを理解していなくても、子どもたち
は大人の感情豊かなメッセージを受け取り、彼らの特別な生活状況に自然に馴染んできます。それがたと
えいつの日か“告知”や“解明”される時が来ようとも。バイオグラフィワークにいち早く取り組むほど、子ども
の発達にとってはより有益です。しかし、これを始めるのに遅すぎるという時もありません。私たちは、かつ
てバイオグラフィワークに取り組んだ青年や大人たちから、パーソナリティが強まり、自分自身とより良く関
わりを持つことが出来るようになったと感じていることを聞いて知っています。バイオグラフィワークは、どの
年齢層にも効果的なメソードであり、既にずいぶん前から高齢者のワークにも活用されています。
誰がバイオグラフィワークは行うと良いのか
子どもたちと親密な間柄の養育者と作業を行うことは最も有意義です。それには養育里親、養父母、施
設養育者、青少年福祉施設の教育担当職員などが含まれます。しかしまた養育相談所の専門家、里親・
養子縁組仲介所などでも子どもたちのために、そのバイオグラフィを記録(document)することが出来ます。
一時的に保護されている場合であっても、例えば一時預かりの里親や緊急一時支援施設の中でも、子ど
もたちが厳しい状況に置かれていてもそこにいる養育者と一部、バイオグラフィー的な作業をすることが出
来ます。大切なことは、子どもが人生の記述する作業に関わる大人と信頼関係を持てているということです。
その大人は信用を置くことが出来、精神的に安定していて共感できるようでなくてはなりません。そして約
束した日程や予定していること(例えば昔の幼稚園を訪れることなど)きちんと守れるようでなくてはなりませ
ん。子どもにとって心を動かされるような、たびたび人生物語の中で痛みを伴う側面を共に分かち合い、そ
の終結へ向けた共同プロセスを子ども自身の意向に沿って行い続けることは必要不可欠です。
療法的な養成を受ける必要はありません。バイオグラフィワークは、訓練を受けたセラピストによるセラピ
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
ーに取って代わることは出来ませんし、その必要もありません。しかしながら専門的なセラピーにうまく組み
込まれることはあり得ます。
子どもとバイオグラフィワークを行う大人に要求されるもの
バイオグラフィワークを行う大人には一定の専門能力が必要とされます。この大人たちは追加養成やコ
ースを受けて、この作業へ向け綿密に準備されるべきです。Maywald はこの大人が鋭い感性を必要とする
ことを強調しています:「感性は、最終的には正確に感じ取ること(知覚)と解釈することと関連し、そしてま
た子どもが述べることすべてに対し、ふさわしい反応をすることにも関連してきます。ここに含まれるのは子
どもに発言させようと仕向けないことや同時に子どもが発言したいと思っていることについて話すことを避け
ないことも含まれています」(Maywald 2001,p.236)Lattschar がバイオグラフィを行う人たちへのスーパービ
ジョンや、やり取りの中で忠告し強調しているのは「価値判断を下すことなく子どもの両親について語ること
は、バイオグラフィワークの原則であり、その大人に最大限の専門性と内なる距離感を要求するもの」という
ことです。(Lattschar 2002,p.209)
子どもたちの実家族のなかでは、おそらく暴力、虐待、貧困、犯罪、薬物依存、精神病、アルコール依
存などがあったでしょう。もしもバイオグラフィワークを行う大人が自分の感情に囚われたままであったり、こ
の「ひどい出来事」や「悪い行い」といったものから距離をとったりするのであれば、子どもたちの助けになら
ないでしょう。子どもたちは、ここではそのような危機的状態の原因を理解できるようアシストして貰えること
を必要としているのです。
バイオグラフィワークの枠、範囲、期間
少しずつ小さな単位で取り組み、こどもの人生を一気にまとめ上げてしまわないことが大切です。幾つか
のデータを取り上げ、それについて話をしたり、ひとつの絵に取り組んだり、ライフブックの 1 ページに書き
込んだりすることで十分なのです。ここでは養育者側から定期的にライフブック作成のために会うことが提
案されるべきなのです。子どもは、取り組み始めた作業が継続して行われるということと、いつの日か終了
すると感じられる安心感が必要なのです。ワークは週に 1 回 30 分の割合、固定で設定することで充分です。
兄弟のグループでも一緒に取り組むことができますが、それぞれの子どもは個別のライフブックや、独自の
記録ファイルを与えられるべきです。情報を探し求め、集め、話し合い記録するまでに半年から1年かかる
かもしれません。バイオグラフィワークの他の要素で、あまり時間を必要としないものもあります。例えば、子
どもが自分自身のために書き込むことができる簡単な人物描写や、児童ホームにいた時のフォトアルバム
等です。
日々交友関係にある人々をまとめたものや、それぞれのページにあらかじめ書き込まれていた質問など
も、‐例えば、「健康と病気」「わたしが大きくなったらこのように暮らしてみたい」など‐1度きり、なおかつ関
連したプロセスなしで取り組むことができます。
子どもたちの多くは、大人たちに何かを書いてもらうことを楽しみます。或いは双方とも情報を交代で PC
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
に打ち込むかもしれません。そのようにして文書を作成したり、思い出を書きとめたりする時、書く気のなさ
を克服できる子どもたちもいるかもしれません。
バイオグラフィワークは人生のある時期に1度きりと限定されるべきではなく、常に更新できます。例えば
子どもが里親のもとに来たり、養子縁組となって来たりした日、或いは青少年福祉施設に来た日などを年
に1度祝う時や、実親や兄弟姉妹の誕生日等は、ドキュメントを再び取り出して見直し、補足する良いきっ
かけとなるかもしれません。
誰がバイオグラフィワークのドキュメントを保管するのか
バイオグラフィワークで出来たものは、子ども個人が所有するものです。子どもとは仕上げたもの[ライフ
ブックなど]とどのように関わるかについて、あらかじめ取り決めておかなければなりません。例えば、それは
いつでも手が届くようであるべきであるが、子どものプライベートを守るため、また子どもが失望した時や破
滅的な状態に陥っている時にライフブックやフォトアルバム、ドキュメントが壊されてしまわないためにも大
人が、その思い出の箱やドキュメントファイル、ライフブックを安心できる場所に保管しておくべきです。もし
も可能であれば、子どもが自分でとっておけるようコピーを手渡しても良いでしょう。
3.なぜバイオグラフィワークが社会的養護で育てられている子どもたちにとって
特別な価値があるのか
実の家族や両親と一緒に暮らすことができない子どもたちは、人格形成の実存的基盤が欠けています。
他の国からやってきた子どもたちは、その国、言語、文化、その子どもと見た目が似ている人たち等と関わ
る手がかりを失っていることがよくあります。バイオグラフィワークは、子どもたちに、彼らの歴史や国、昔住
んでいた場所、失った家族やその祖先などを少なくともシンボル的に返します。
・ 実家族から離れて暮らす子どもたちの多くは、もとの世界と新しい養育者、そしてその生活の繋がりに
おいて忠誠心の葛藤状態に陥ります。バイオグラフィに取り組むことを通して、子どもは実家族を思う余
地を与えられ、タブー視しないという感情的な許可と正当性を受け取ります。
・ バイオグラフィワークを通して子どもたちは、実の両親のポジティブでありネガティブな両側面をも自ら
の人生に組み込むことを学びます。子どもたちは、なぜ彼らの両親が離れて暮らさなければならない人
間となったのかをより良く理解できるようになります。
・ 自分の歴史を知ることは経験領域と自尊心を広げ豊かにします。抑圧と拒絶の中では精神的なエネル
ギーはあまり流れません。多くの場合、以前のものと結びつくことによって子どものパワーは自由になり
ます。
・ バイオグラフィワークを用いて私たちは、子どものうちなる混乱(Chaos)に僅かばかりでも秩序を与えら
れるよう援助します。多くの里親は、子どもたちが初めてよく聞いてくれるようになったと報告しています。
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
子どもたちはまた違った時間感覚を身に着け、時折、より良くプランを立て、調整することが出来るよう
になります。
・ 加えて、新たに側にいる養育者が、子どもたちの過去を見、敬意を払うこと、失った人や過去が「いま」
の子どもの一部として当たり前に存在し、そうあり続けることを支え ることで信頼を強めるのです。
バイオグラフィワークは人生における過渡期を克服するのを助ける
“子どもの生活環境が変わり、里親家庭や児童ホームに受け入れられた時、バイオグラフィワークは、ある
生活空間から他の生活空間へと繋ぐ架け橋となる役割を果たすことになります”(Lattschar 2002,p.209)。
英国の里親は、数年前から里子を受入れる前に、自分自身とそのファミリーの写真、その歴史、好きなもの、
習慣などをまとめたライフブックを作成するよう奨励されています。この本は、準備期間や新しく知りあう人
間をより良く知っていく時に役に立ちます。同様に、子どもと共にライフブックに取り組みます。そこには[子
どもの]すべてのデータや、歴史、両親の歴史、これまでの人生段階など受け取ったものを含みます。しか
しまた子どもが好きな遊び、出来ること、或いは好きな食べ物などここに書き込まれます。子どもは知り合っ
ていく時期に双方のライフブックを受け取ります。ひとつは里親家族のもので、もうひとつは自分自身のも
のです。このような方法で昔の生活と新しい生活との間を結びつけることが出来ます。
バイオグラフィワークはアイデンティティ解明を助ける
実親或いはひとり親家庭で育つことは、私たちの文化では当然のこととなっています。子どもは親族のう
ち最も若い世代の一員となります。子どもは「…この部分は父親、叔母、祖母、兄(姉)から来たのね」など、
家族の誰かに似ていると言われます。子どもは家族を通して、自分が誰であるのかを知り、他者と置き換え
ることのできない独自性(identity、ラテン語=同一人、同一)を得ます。社会的養護を受けている子どもの
ほとんどが、新しい養育環境下にいるにもかかわらず、かれらの実家族の一部としての濃い結びつきがよく
みられます。その子どもたちは意識しているかいないかに関わらず[実の両親の]子どもであることを示しま
す。この子どもたちは、社会的に受け入れられないような家庭から里親、養子縁組、施設の養育者などのも
とへとやってきます。
したがって、多くの社会的養護を受けている子どもたちの多くは低い自己価値観を持っています。ある
子どもたちは無意識にアイデンティティを確かめようとすることからネガティブな行動様式を繰り返し、彼ら
の実の両親と同じであると証明しようとします。社会的養護の子どもたちにとって里親家庭、施設、キンダー
ドルフほど「癒してくれる(Cure)世界」はありません。実親を恥じる子どももいます。そして同時に自分自身
の一部を恥じるのです。実の両親を誇らしく思う機会を得られなかった子どもたちは、自分自身に対しても、
ポジティブに未来を切り開くことができるとみることがなかなか出来なくなります。
バイオグラフィワークはネガティブなアイデンティティを緩和するひとつの手段です。子どもとバイオグラフ
ィワークをやろうとする大人は、なぜ子どもの実の両親が困難で危機的状況に陥ってしまったのかを説明
できるようでなければなりません。もしも養育者が子どもの以前のストーリーと実親の厳しい側面とポジティ
ブな面との双方を一緒に見ることが出来れば、子どもは、生きていく道のりの中で実親から得た自分自身
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
の“良い面”に気付き、受け入れるチャンスを得ることになるのです。
4.バイオグラフィワークにおける多様なメソード
子どもとともにその人生と人格の成長に取り組む方法は、遊びを通したり、創造的な活動を通したり、記
録(ドキュメント)を通したものなど様々なものが限りなくあります。
・ 家族再構築の家族療法的手法からは、ジェノグラムワークが国際的に知られています。これはすべての
データや家族関係をグラフィックで表したものです。
・ 同様に家族再構築からは、家族年代記(chronicle)の作成、年表に沿って重要な出来事を記載したも
の:誕生、居住地の変更、結婚、病気、死亡、卒業、試験、仕事の開始、特別な旅行等。
・ 資料ファイルの中には公的な記録・文書、手紙、子どもや両親に関わる証明書等、写真のコピーなどが
保管でき、子どもに与えられます:出生証明書、両親の家系図の概要、結婚証明書、離婚決定、受洗証
明書、生徒身分証明書、青少年局と施設との契約、支援プラン、運転免許証、成績証明書、予防接種証
明書、堅信-信仰確認式証明書、労働組合加入証明、スポーツ協会会員証明等、これらの収集は子ど
もにとって生きてきたことの証であり、彼らの存在理由を意味します。
・ 重要な政治的出来事や災害、戦争なども個人的なバイオグラフィ、或いはその前の世代の一部となりま
す。海外からやって来た子どもにとっては、彼らの祖国の歴史の重要な出来事であり、指標となるもので
あり、アイデンティティ獲得の助けとなるものです。新聞の切り抜きを保管したり、その国に関する写真や
テレビの報道など録画したりもできます。
・ ライフブックを通して、家族と離れ離れになった子どもの人生における段階、その経過(断絶や変化)、別
れの経験などに関し系統的に取り組むことになります。特に重要なのは、ここでは実の両親だけではなく、
兄弟姉妹や両親の他のパートナーによる異母(父)兄弟姉妹、祖父母、叔父叔母、例えば幼稚園・昔の
学校・児童ホームや一時預かりの里親、或いは友人たちなども含まれます。また重視されるのは今までの
人生で関わった場所です:国、昔住んでいた場所等。ライフブックは個別に制作することも出来ますし、
書き込まれた質問事項や既に印刷されたものを基に制作することも出来ます。これらは客観的なデータ
や過去の事実などから始めます(誕生日、名前、出生地、兄弟姉妹の誕生日と名前、誰からその名前を
授かったのか、また誰と似ているのか等)そして徐々に子どもの「気持ち」についてのテーマ領域に近づ
いていきます:「どんな時が嬉しい?どんなことに対して腹が立つの?」等。
・ ライフブックは、子どもがどのように自分自身を見ているのかに関するその時々の子どもによる記述も常に
含みます:容姿、気に入っているもの、長所と欠点、趣味等。引き続き滞在地、データ、現在の養育グル
ープ(兄弟姉妹、里親家族、グループホーム、子どもの村ファミリーなど)子どもの現在の生活状況のテ
ーマが続きます。将来に関する観点からもテーマとして取り上げられます(「私は将来どうなるの?」「どの
ような生活をしてみたい?」等)個人的なライフヒストリーとなるこの本は年表、年代記、図表(ダイアグラ
ム)、写真、或いは子ども自身によって描かれた絵などが集められます。
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
・ ライフブック作成のためには多くの情報を収集し調査する必要があります。役所(青少年局)、後見人、両
親やその他の親戚たちとの手紙のやり取りも時には必要です。もしも可能ならば両親や他の親類、或い
は青少年局にいる専門家など実家族について多くを知っている人たちと共にライフブックの一部を作成
することが出来ます。
・ 或いはまた兄弟姉妹グループのうち、より年長の子どもたちは両親の履歴も作成します。ここでは実の両
親もまた容易ではない子ども時代を過ごし、その人生の初期における困難な経験が後に我が子を、社会
的養護を必要とする危機へと追いやってしまったことを伝えることが出来るのです。
・ 思い出の箱は、既に小さな子どもにとってもとても喜ばしいものとなります。それは病院の産婦人科からの
録画テープかもしれませんし、初めてのロンパース、最初のおしゃぶり、初めての抱っこ人形、昔好んで
いた遊具、父親や母親の装身具、家族から離れなければならないときに来ていた洋服などかもしれませ
ん。しかしまた子どもが描いた絵や幼稚園での工作、初めて用いた雑記帳なども思い出の箱に含まれま
す。
・ 子どもの人生における過去と連続性、成長を記録するためのすばらしい儀式として手や足の型をとったり
描いたりし、2 年おきに新たに描き直して比較することも出来ます。
・ 幼児期に好んで聞いた音楽や、昔良く知っていた子ども用の曲が入っているカセットなどは過去へ向け
た情緒的なツールとなり記憶を甦らせるかもしれません。
・ インタビューは、バイオグラフィワークの中でも生き生きとした、心を打つひとつの方法であるかもしれませ
ん。ここでは実の母親や父親に関する過去の詳細に関して質問するために親戚や、昔近所に住んでい
た人、年長の兄弟姉妹、叔父叔母、祖父母などが探し求められます。子どもたちには「インタビューの手
引き」が用意され、質問を受ける人と協力しながらインタビューをビデオに収めたりします。
・ バイオグラフィのなかで重要な場所である過去へ旅することは子どもたちにとって大変意義深いことであ
り、歴史を持つ人間としての感覚を与えます。訪問する場所として考えられるのは、子どもが生まれた病
院、両親の出生地、自分自身の出生地、昔住んでいた通り、昔通った幼稚園、昔住んでいた児童ホーム
等。これらの旅は常に写真やビデオに記録されるべきです。また亡くなった家族の一員のお墓を訪ねる
ことも出来ますし、そうされるべきです。私は、実の母親がずいぶん前に亡くなったという養子縁組にいっ
たある大人の方を知っています。彼は実の母親が子ども頃住んでいたという場所を訪れました。彼はこの
小さな町の人々にインタビューをし、母親が小さいころに通っていた小学校や見習いとして働いていたパ
ン屋をビデオに収めたりして母親と彼の過去の存在を具体的な証明として創りだすことが出来ました。
・家族療法から借用したもので子どもとのワークに適していると思われるのが積み木彫刻
(Klötzchenskulpturen)です。材料としては様々な形と大きさの顔が描かれた積み木を用います。子ども
にはまず自分の積み木を選びテーブルの真ん中に置くように言われます。「これが君だと想像してみよう。
これから君が重要と感じる人たちを僕たちは一緒にここに積み上げていきたいと思うんだ。君はこの人た
ちを君が感じるままに遠くに追いやったり近くに置いたりできるんだよ」そして「どこに君のお父さんはいる
のかな」などと尋ねてみたりするのは助けになるかもしれません。結果として話し合いを通して多くの対話
の糸口が出てくるでしょう。私は里親家庭にいる子どもたちの多くが 2 つの積み木を表すのを見てきまし
た:ひとつは近くに実家族を、もうひとつ近くに里親家族を置くのです。ここで子どもと対話の糸口を掴み、
お互いにあまり関わりのない 2 つの家庭に属しているという現実についてどのように感じているのか話し
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
合うことも出来ます。積み木を一緒に片付ける前に写真を撮り、それをライフブックの添付ファイルとして
或いはドキュメントファイルにとじて整理することが可能です。
・ 文章完成法は心理学的診断よりずいぶん前から知られています。子どもたちは未完成の文章を完成す
るよう求められます。そのような質問用紙は集めることができますが、子どもと話し合いを始める良い機会
として活用できます。しかしながら答えについて解釈をしたり更なる質問にコメントをするべきではありませ
ん。例えば次のような「私が良く願うのは・・・もっと沢山友達がいたら」という文章に対し「すると誰が友達
なのかな」或いは「どうして十分に友達がいないと思うの」などと尋ねてはなりません。さもないと子どもは
自分をオープンにしたことに対し不安に感じます。例えば「そう。分かるよ」などのように関心を示し受け入
れ、読むだけで十分なのです。
ここに様々な子どもが答えている未完成の文章を幾らか紹介します。
もしも他の子どもたちが君を遊び仲間に入れなかったら… 腹立たしい。
大人になったら… 買いたいものは何でも買う。
私があまり考えたくないことは… 怒らせてしまうこと。
多くの母親は… 親切だ。
私が嫌だと思うことは… 両親がいつも私を叱ること。
私のお母さんが… いつも私のために居てくれると いいのに。
お父さんは… 僕と連絡をとらなかった。
私が不安に感じることは… また誰かを失ってしまうこと。
大きくなったら… スポーツ選手になってみたい。
先生を… 時々嫌いになる。
暗闇では… 何かを見ることもある。
大人は… 時々癪に障る。
全くバカだと思うことは… いつも何かをやらかしてしまうこと。
私がひとりの時はいつも… テレビを見ている。
落第したと知った時 …私は悲しかった。
私が恥ずかしいと思うことは… 夜にちょっぴり不安を感じること。
私がよく願うことは… ママのもとへ行くこと。
僕は悲しい… なぜならママが恋しいから。
僕のパパが… 億万長者
だったらいいのにと思う。
・日記はバイオグラフィワークでは定評のあるひとつの手段です:日記には事実、経験、出来事、気持ち
などを留めておくことができます。これらは日記を書く人本人により成され整理されます。そして後にな
って再び取り出し、新たにすることも出来ます。定期的に日記を書く人は、人生における出来事の年代
順に沿った感情的なプロセスを俯瞰し洞察を保つことができます。特に子どもたちにとって助けとなる
のは、里親や施設の養育者が子どもに日記を書くよう手ほどきをすることです。
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
・ カレンダーにその日の、或いはその週の重要な出来事を書き記すよう子どもに勧めることは大変意義深
く、日記にも続けて書き足すことができます。
・ 子どもの人生のうち短期間だけを支える養育者は、子どもと共に過ごした時間を例えば「私たちが共に経
験したこと」といったテーマで、子ども宛ての手紙という形で記録に残すことが出来ます。これは後になっ
て大変貴重な記録となるでしょう。ここでは大人は共に経験したことや特別な出来事をもう一度要約する
ことができ、素晴らしい将来へ向けての願いを贈ることができるのです。
・ 読み聞かせの本や絵本などは、子どもにとって過去、現在、未来と向き合う貴重なバリエーションとなりま
す。子どもの人生のうち特別に辛い出来事は、養育者が子どものために手紙や履歴のなかに組み込む
ことができます。
・ 子どもを担当した専門家が「子ども書類」を手渡すことは有益であると証明されています。そのドキュメント
には、その子どもが実家族にとどまることができなかった理由、そして実家族と青少年局、青少年保護機
関(里親、施設)との間で取り交わされた契約関係について子どもに相応しい方法で記述されます。すで
に 5 歳以上になっている子どもに例えば以下のような文章を読み上げることは大変役に立ちます:「あな
たの最初のママと最初のパパは、あなたにいのちを与えましたが我が家を与えることはできませんでした。
子どもためにそばに居ることができない親は、代わりに助けてくれる人を必要とします。青少年局ではそ
の親を助け、あなたの里親さん(子どもの村 etc.)を探し出しました。そしてあなたの里親さんは今、日々
あなたと共に過ごすことによって実の両親を助けているのです。あなたは里親さんと共に暮らしており、彼
らを愛しく思っていますね。あなたには2つの親がいます:あなたにいのちを与えた親と、あなたを実の両
親と同じように愛しく思っている里親さんです」
5.親子関係のダイアグラム
「私たちは子どもに社会的養護について説明するメソードを発展させました。… 私たちはどの子どもが
生まれる時にも親がいるのだと言います。生みの親は取り替えることができません。どの子どもにも実の母
親と実の父親がいて、誰も決してこの状況を変えることはできないのです。私たちの社会におけるすべての
子どもが法律上の親も持ちます。法律上の親は子どもの人生の重要な決定に関わります。面倒を見てくれ
る両親は、子どもの養育に関するニーズに応えるために日々を共に過ごす人です」(引用:Vera Fahlberg
In:Ryan/Walker 1997, S.84)Fahlberg、Ryan、Walker は法的な両親の「財政上の責任」と分類しました。こ
れはしかし私の経験上 4 つ目の親子関係の次元に相当するのです。実の親或いは法的な親がお金を支
払うのではなく役所や青少年福祉から支払われることがしばしばあります。そして法的かつ経済的親子関
係が、異なる人々や機関に委ねられていることが時折あるのです。この4つの親子関係の次元を以下に挙
げるように人生における構成要素として表すと子どもにとってはるかに分かりやすくなります。
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
・実の親子関係
(Die leibliche Elternschaft):「彼らはあなたに命を与え、いつまでも生み
の親のままなのです」
・法的な親子関係
(Rechtliche Elternschaft):「あなたの後見人(或いはあなたの母親、
父親)は、あなたの人生で起こる重要な出来事を[最終的に]決定します」(「あなたが私
たちのところに来ることを、彼/彼女(後見人[或いは母親、父親])が決めたのよ」
(„Er/Sie hat bestimmt, dass du bei uns wohnst“)
・心理‐社会的な親子関係
(Seelisch-soziale Elternschaft):「私たちはもう長い間、毎日
家族として暮らしているから私たちの日常的親子関係(Jeden-Tag-Eltern-Kindschaft)
は掛け替えのないものなのよ」
・経済的な親子関係
(Die zahlende Elternschaft):「私たち里親は青少年局を通して
あなたの生活費を受け取るの。このお金は[生活費の負担を]軽減するもので、私たちが
あなたの親となったこと、あなたと共に住むと青少年局と約束したことを思い出させて
くれるの」
実親:
心的‐社会的親:
すべての子どもはこの両親から
子どもと日々を共に
命を与えられます
過ごします
子ども
法律上の親:
経済に関わる親:
子どもの人生における
子どもが生きていくうえで
大きな決断に関わり決定します
必要とするお金を与えます
経済的親子関係の意味
誰が自分のために費用を持ち生計の面倒をみてくれるのかを知ることは子どもにとって重要なことです。こ
のことは曖昧なままにしておくべきではありません。子どもにはまだ経済に関わる親がいるのでしょうか。そ
のことを知ることもまた大変重要なことなのです。もしかしたら子どもは次のように言われたことがあるかもし
れません「君のお父さんは働いていて法律で定められている通り青少年局に毎月[君の生計のための]お
金を支払っているんだ。君も分かっている通りお父さんは、お金に関する親の役割を果たしており、経済的
な責任を君のために果たしているんだよ」と。
里親家族には、しばしば「普通の家庭」として理解されてしまうという矛盾があります。そしてまた同時に
(彼らの活動の割に少ない)お金を公的に受け取っているのです。里子が、里親が「お金」をその子のため
に受け取っていると知った時にしばしば「あなたたちは僕を引き取ったのは愛情からなの、それともお金の
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
ためなの?」と尋ねるかもしれません。そのため子どもたちにはお金と愛情の価値観について例えば次の
ように話をしておくべきです。「私たちは家族として暮らしていてお互いに思いあっています。私たちはあな
たのために僅かばかりお金を受け取っているけれど、これはあなたが実の両親と青少年局から委託されて
ここにきて生活していることを思い出させてくれるの。でもね、この気持ちと家庭の中でいつも一緒にいるこ
とはお金では買えないくらい貴重なことなの」
子どもの村の子どもたちも、養育者[マザー]が子どもたちとの生活を支えるためのお金を誰から受け取っ
ているのか(両親、青少年当局)、そしてまた彼らの養育者として個別の結びつきと愛情なしにはこの職務
を果たすことができないことなどを知るべきです。施設にいる子どもたちも、彼らの養育者は施設に勤めて
おり、彼らもまた余暇や休暇をとる権利があることを知っておくことは当然のことです。同時にまた養育者は
子どもにとってとても個人的な、かけがえのない情緒的な結びつきのある人なのです。
6.バイオグラフィワークを行うプロセスで生じる可能性のある困難な状況
養育者の知っている情報が“少なすぎる”とき
バイオグラフィワークに関係する里親や養子縁組の親、また家庭に近い施設に勤める専門職員などから
「どのように子どもとバイオグラフィワークを行ったらよいのでしょうか。私はまだよく知らないのです」と最もよ
く尋ねられます。私はそれから続けて「子どもの両親の名前は」「彼らには何人の子どもがいるのでしょう」
「そのご両親はどこに暮らしているの」「そのご両親は離婚しているの、それとも一緒にいるの」などと質問す
ると「ええ。すべて知っています」という答えが返ってくるのです。彼らはつまりバイオグラフィワークを始める
のに十分に情報を持たない人たちではないのです。しかしながら子どものバイオグラフィの中にある空白
部分を良く知らない大人は、まずそのことを受け入れることを学ばなければなりません。それは子どもの今
の生活状況とそのきっかけとなった事情の結果なのです。
もしも、子どもとバイオグラフィワークを行う養育者が、まず最初に欠けているところや不足している部分
から取りくみはじめるならば、子どもを元気にするものとはならないでしょう。バイオグラフィワークはただ単
に検証できるデータを並べ立てたり、過去に関する空白のないドキュメントを作成したりすることではありま
せん。「より重要なのは検証可能な外側にある[客観的な]データと、移り変わる内なるイメージとを大きな喪
失なしに有意義に統合すること。そしてそれらを通して完全な自己像を作り上げていくこと。これは自分自
身を確かめ、意識して将来に向けて対処できるようになるために自身のバイオグラフィを何度も新たに作り
上げていくことなのです。(Maywald 2001, S.235-240).
子どもの過去を事細かに描写するだけでは、ほとんど何もたらさないことが数多くあります。このことは青
少年局でもあまり知られていません。どれほど子どもたちが家庭の中で希望を失い、ひとりぼっちで、放置
されてきたのか、そしてまた虐待を受けたのか、取り返しのつかないことが多々あります。同様に素晴らしい
経験や出来事もまた知られていません。それでも子どもにかつて存在した感覚を与えるため、僅かばかり
知るだけで十分なのです。
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
最も大切な情報源は子ども自身です。小さな子どもからは、彼らの身に以前何が起こったのかを察知す
ることが出来ます。私たちは、子どもがよく悪夢にうなされることから以前ひどい経験をしたことがあるに違い
ないと言うかもしれません。或いは子どもが以前男性に不安を感じたことで、もしかしたらひとり或いは複数
の男性からひどい扱いを受けショックを受けたので不安を感じているに違いないと知っています。重要なこ
とは私たちが当時の子どもの行動様式を「客観的な」事実として捉え、そのことから私たちが結果として導き
出したものを明確に推論することです。
ここに 2 歳の頃、母親と離れなければならなかったある女の子のライフブックの概要があります。この生ま
れてからの 2 年間に関しては養育者をほとんど知りませんでした:
「あなたが 2 歳で一時預かりの里親(マリアとペーター)のところに来た時、まだ歩くことができませんでし
た。話すことができたのは「ひとつ」という言葉だけでした。そしてそれはたいてい「クッキー」を意味していま
した。あなたのミヒャエラお母さんは一度訪問に来て、あなたの当時の里親さんにあなたがよくクッキーをせ
がんだことを話しました。ミヒャエラお母さんは「でもひとつだけよ」と答えていたので、あなたはクッキーのこ
とを「ひとつ」と言っていました。それ以外最初の 2 年間、何をあなたが経験してきたのか私たちにはわかり
ません。なぜならミヒャエラお母さんはそれ以上は何も話をしてくれなかったからです。けれども私たちはあ
なたから、その話しぶり、遊び方、表情などからかなり多くのことを知り、そのようにして昔のことも分かるの
です。あなたは最初笑いませんでした。あなたは以前バイク、騒音そのものをひどく怖がっていました。あな
たはよく怯えていました。それにより私たちは、あなたが騒音と共になにかひどい経験をしたに違いないと
結論づけたのです」
すでに話すことの出来る子どもたちは始めの頃、以前のことを沢山語ります。この語られたことを養育者
は真実を確かめようとせずに記録に残しておくべきです。「あなたが 4 歳の頃一度このように話をしたことが
あるのよ…」などというのは子どもへ向けた客観的な情報なのです。
バイオグラフィワークは可能な限り完璧なデータや情報を揃えるものと制限されてはなりません。それは
時折子どもにとっては自分自身の礎を後から築き上げることに関わるのです。実の父親や母親の名前と年
齢を知るだけで十分なのです。私たちはこの人たち(実親)が日々子どもの傍にいることが出できないものと
あらかじめ割り切って考えることができます。私たちに知らない個所があれば、一般化してとらえると子ども
を安心させるように思われます:「子どもと共に暮らせないパパやママは沢山いるのよ。なぜなら彼ら自身が
子どもの頃、愛情深く接してくれる人がおらず、子どもを日々きちんと育てられるようにならなかったの。これ
はあなたの両親にもおそらくあてはまるでしょう」子どもにとって助けとなることは、このことを話す養育者自
身の衝撃を伝えることです。例えば「もしも私があなたのような年齢で同じようなことを経験したら、かなり気
持ちがかき乱されるでしょうね。悲しくて、腹立たしくて、ひとりぼっちのように感じるでしょう」更に助けとなる
ことは、実の両親と共に暮らせないことは子どもにとって大きな心の苦しみであることを何度も言葉に表して
あげることです。
私たちが一度も両親の名前や身元を知ることがない場合(例えば捨て子など)は次のように断言すること
ができます。「すべての子どもには、お父さんとお母さんがいて、彼らから生まれてきているのです。あなた
の場合もそうです。あなたは、あなたのお母さんとお父さんがこの世界のどこかで育んだ証なのです。そう
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
でなければあなたは存在しないでしょう。あなたの母親からはおそらく音楽的な部分を、あなたの父親から
はひょっとしたらもじゃもじゃの髪を受け継いでいるかもしれないわね。あなたの両親について想像してみ
て絵を描いてみましょうか」。子どものバイオグラフィは、事実をもとに作成されるものではなく、一般的基礎
知識を基に作成されることがたまにあります。このことは特に感情的な正当性を子どもに与えることに関わ
るのです。つまり両親は子ども自身の一部であるということ、そして子どもの人生に属しているという感覚で
す。人生の物語の中で空白があるところは、その空白を嘆き悲しむことに従事することを意味します。このよ
うな「よりどころを失った」人は、何年もかけて彼らの痛ましいものとして残っている空白を人生に属するもの
として統合することを、ゆっくりとしたプロセスで完成させていきます。
特別に難しい問題を抱えた場合のバイオグラフィとの関わり
時折、タブーや家族の秘密に触れられることがあります。そして養育者に対し子どもへ黙っていてほしいと
求める実親やその他の家族‐例えば父親が刑務所にいることや、別の父親がいる子どもなど‐へは全面的
なカウンセリングを必要とします。子どもとバイオグラフィを行おうとする大人は 2 つの可能性を持っていま
す:ひとつは黙っていてもらいたいと願い遠くに住んでいる両親の一方に対しそれに忠実に従うか、或いは
この親と向き合い、もしもこの親が子どもに事実を自ら伝えないならば、日々を共に暮らしている者が子ども
に話すことを伝えることです。そのような解明や話し合いを子どもの家族と行うことはバイオグラフィワークの
下準備であり付随する活動です。
バイオグラフィワークは子どもにしばしば苦痛や無力感をもたらすものであり、トラウマ的な出来事が暴か
れることが多々あります。虐待状況は再び思い出されます。自らの価値とこのひどいことを行った両親の価
値は繋ぎ合わされます。このような厳しい運命をもつ子どもとバイオグラフィワークを行う養育者はいずれに
しても自らの行動・振る舞いを相談したり話し合ったりできる関連グループを持つべきです。
9 歳になるサーシャは彼の 7 歳年上の兄と共にキンダードルフに 4 年間住んでいます。以前は母親と共
に暮らしていました。父親とは 4 歳の頃にすでに別れていました。母親は深刻な薬物‐アルコール依存を抱
えていました。母親は錠剤を過剰摂取しました。子どもたちは朝になって母親がリビングルームで哀れに死
んでいる姿を発見したのです。父親は子どもを育てられるかを尋ねられましたが拒否しました。この父親は
決して自分の息子たちと連絡を取ろうとしなかったのです。
サーシャとその兄は揺さぶられるような辛い経験を数多く背負っていました。彼らは深刻なトラウマを受け
たのです。彼らは母親を 4 年前に突然失い亡くなるのを防げなかったという無力感と驚愕で殻の中に閉じ
こもってしまいました。また父親からは拒絶されたと感じました。
この兄弟にとってバイオグラフィワークは包括的な悲嘆のワークを意味していました。このワークは兄弟共
に行われました。里親はこの兄弟と共に母親のお墓参りに行きました。兄の方はより多くの記憶があり、そ
れは弟にとって貴重なものでした。弟の方はなぜ薬物依存に陥ってしまったのかをより良く理解するため、
母親の履歴を作成しました。彼らは親戚に手紙を書き母親の子ども時代についての詳細を尋ねました。
サーシャと兄の養育者は薬物依存の悪循環を知るエキスパートに合わせました。子どもたちはライフブッ
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
クの中に薬をテーマにした新聞記事を貼りました。キンダードルフ・マザーは次のような説明文を書きまし
た。
「あなたのお母さんは薬が必要でした。これは一時のあいだ気分が良くなるためにお母さんを助けるもので
した。しかし効果はすぐになくなり、身体はまたもとの状態に戻ってしまうのです。薬がないとお母さんはみ
じめで病気であるように思い、苦痛を感じました。時折お母さんは子どもたちのことを気にかけていました。
あなたたちのお母さんは自分をコントロールすることが出来なくなってしまったの。薬がお母さんを支配して
しまったのね」
サーシャは話し合いの中で言いました。「でも僕は小さかったんだ。お母さんは僕の面倒を見てもよかった
のに」里親は「もちろんお母さんはあなたを愛していましたよ。でも薬から離れる力が足りなかったの。薬を
やめられなかったのはあなたのせいではないのよ。多くの人は薬をなかなかやめることが出来ません。これ
は家族、特に子どもにとっては大変辛いことです」この話し合いに関してもライフブックに書き留められまし
た。
父親のバイオグラフィもまた調べられました。お父さんは重いアルコール依存でした。キンダードルフ・マ
ザーは、兄の記憶からお父さんに関する情報を集め、父親を担当したソーシャルワーカーとも連絡をとりま
した。そしてどうして父親が息子たちと会おうとしないのかの仮説が立てられました:「お父さんはアルコー
ル依存症であることを恥ずかしく思っています。彼は息子たちにそのような自分の姿を見せる勇気がありま
せん。これは子どもたちのせいではありません。もしもお父さんが今日のあなたたちを見ることが出来たなら
ば大変誇らしく思うでしょう」里親はこの子どもたちのために更に書きました:「子どもを自分の人生に取り入
れることのできない父親を持つのは大変つらいことです。しかしながら彼はあなたたちのお父さんであり、
彼を通してあなたたちはこの世に生まれてきたのです。お父さんなしにはあなた達も存在しないのです。愛
ある側面もあったに違いありません。そうでなければお母さんは、お父さんを見つけ出さなかったでしょう。
お父さんは、子どもの頃家族から子どもが必要とするものを与えられなかったため成長するための良いチャ
ンスを得られませんでした。あなたたちは今、子どもが必要とするものをたくさん得ています。従ってあなた
たちはお父さんとは違うようになるチャンスがあります。あなたたちのお父さんは、あなたたちに引き継いだ
良い素質を持っていたに違いありません。そうでなければ二人ともこんなに素晴らしい少年にならなかった
でしょう?」
以前の身体的または性的虐待との関わり
特にトラウマを引き起こすような出来事は、ほとんどすべての社会的養護を受ける子どもたちの構成要素と
なっています。身体的或いは性的虐待は、子どもたちとバイオグラフィワークを行う阻害要因とはなりません。
子どもたちはひどい出来事を経験し、生き残ってきたのです。もしも特別に難しいテーマを脇に置いておこ
うと思ったり、子どもの方からこのテーマに関し心を開くべきと判断したりした時は、少し子どもをそっとして
おきましょう。このような子どものバイオグラフィワークは大変長いプロセスが必要なのです。このバイオグラ
フィワークは心理療法の前準備、或いは構成要素ともなり得ます。
バイオグラフィワークを行う大人は綿密に準備をする必要があり、それぞれのテーマのエキスパートとなら
なければなりません。ワークを行う量や関連事項の組み込み方など大きな意味を持ちます。大切なことは
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
大人が子どもの性的・身体的虐待に関する情報を得ていることを自ら話すことです。更に重要なことは情
報源を正確に述べることと、性的な行いに関する[明確な]言葉を持つことです。例えば次のように:「あなた
のお姉さんは 1998 年 11 月 12 日に先生にお話ししたの。あなたたちのお父さんが夜に毛布を握ってベッ
ドに座っていてお姉さんの下半身を激しく触って痛い思いをさせたって。他の手はズボンを握っていて素
早く動いたって。あなたのお姉さんは当時あなたにも同じようなことをしているのではと思っていたそうよ」身
体的・性的虐待を受けた子どもとバイオグラフィを行う前提として大人が、憎しみや怒りなど自身の感情を
克服していること。そして悲しみへと変化していることです。「性的虐待を受けた子どもたちは加害者に対し
肯定的かつ否定的な感情を持っている可能性があります。子どもたちが抱える如何なる感情に対しても、
あなたはそれを強め、避けもし、子どもが加害者やその他の家族の成員に対して抱くと思われる気持ちを
受け入れなさい。どのようにあなた自身が現在感じているのかについて[ありのままに]把握し書き留めること
は有効でしょう。これは将来的に、気持ちが変容するための余地を子どもに与えるのです」( Smith
1997,S.121)
虐待の可能性との関わり
特に複雑なのは、養育者が子どもが受けた昔の虐待をただ推測するだけで、実際に起こったかどうかを証
明できない場合です。このテーマはまた除外されるべきではありません。ここでは起こったこととして仮説を
立てて取り組むこともできますが、そのような問題に対して良く把握していなければなりません:
妹と共に 2 年前にキンダードルフ・ファミリーにやってきたある 5 歳になる女の子は、身体の下半身領域に
白いしみ、つまり傷口の瘢痕化が指摘されました。キンダードルフ・マザーが医師に診せると、この子どもが
意図的に傷つけられ虐待されていたか、或いは虫刺されによりひどく化膿した跡ではないかという事でした。
お風呂に入っているときに子どもはキンダードルフ・マザーにこのしみはどこから来たのか尋ねました。
養育者が「うそ偽りなく」話す場合「分からない」と答えるでしょう。しかしこれは子どもを不安にさせるもの
です。加えて「知らない」という答えは真実のほんの一部を反映したものでしかありません。この返答には、
どこからこのしみが出来たのか、そしてこれが出来た時にいずれにしても子どもにとって不快なことが起こっ
たであろうことを説明することが含まれているべきです。そしてこの説明はキンダードルフ・マザーにとっても
重要なことなのです。
このキンダードルフ・マザーは包括的な素晴らしい答え方をしました:「あなたがここに来た時にはもうすで
にこのしみはあったのよ。お医者さんはあなたが小さかった頃に誰かがとても痛い思いをさせたか、或いは
虫に刺されてひどく膨れ上がって傷跡を残したのかもしれないと言ったの。誰かがあなたを痛めつけてい
たのならば、あなたはとてもびっくりして怖くなったに違いないわね。或いはもしも虫に刺されていたのなら
ば、それもまた痛ましいことね。いずれにしてもこのしみは小さな女の子が当時とても苦しい思いをしたこと
を示すものなの」
ここでキンダードルフ・マザーは自分が受け取った知識を子どもに伝えたのです。彼女はいつの時点でこ
のしみができたのか、そしてこのしみができた時にどのような出来事や感情と結びついたと思われるのかに
関して確かな感覚を与えたのです。このことから更に子どもがまだ質問していないことに対して答えたり書
き留めたりするきっかけが生まれました:
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子どもの村福岡報告集 2013.3 資料3
「あなたのパパやママが痛い思いをさせていたら、それは大変痛ましいことだと思います。もしかしたらそ
れは誰か他の人でパパやママはあなたを守ることができなかったのかもしれません。それもまた辛いことだ
けれど。あなたのパパやママには 2 つの側面があります:ひとつは愛でそれによってあなたは生まれたの。
そしてあなたがここにいることは素晴らしいことなのです。もうひとつは、あなたが必要とするようなパパやマ
マでいられなかったこと。だからあなたは児童ホームに来たの。両親が二つの側面を持つことは子どもにと
ってとても辛いことです。でもね、あなたは彼らから多くの良い部分も引き継いでいると思いますよ。そうで
なければあなたはこんなに素晴らしく歌い、話し、絵を描くことはできなかったでしょう。そしてあなたはパパ
やママからもらったあなたの人生があるの。そのことについて私たちは喜ばしく思っているのです」
里親、施設の養育者、SOS キンダードルフ・マザー達は、子どもたちの痛み‐自分の両親を失ったことや、
両親に対して悲しかったり、腹立たしく感じたり、恥ずかしく思う気持ち‐を取り除くことはできません。これら
の養育者たちはすべての愛情や専門的な介入を通しても、自らの親から脅迫されたり、虐待を受けたり、
離されたりした子どもの人生における痛ましい事実を「再び良くする」ことはできません。しかしながら養育
者たちは気持ちを整理するのを助けたり、慰めたりすることができ、そして子どもがよそに託されたという苦
しみ、或いは実の両親に対する怒り、恥ずかしさ、悲しみなど子どもの人生における中心的なテーマとして
抱き続けるということを認識し認めることができます。養育者がこの困難を認めることを通して、子どもたちは
より良く分かってくれたと感じ、このハンディのある状況と共に生きていくことを学ぶのです。
7.まとめ
バイオグラフィワークは、子どもたちが過去を再構築するモダンな方法で、姿を消した家族や消え失せた時
間に再び繋がりを取り戻すのを助けます。そしてそのようにして子どもたちの心的な成熟と更なる成長を促
し、彼らに[自分は]完全な価値ある人間であるという感覚を伝えるものです。里親・養子縁組の親、施設や
キンダードルフなどの養育者は、子どもたちとバイオグラフィ的な関わりを持つことが出来ます。この関わり
の結果として、こどもたちのために、或いは子どもたちと共に記録し保管されます。バイオグラフィワークに
は外からの情報やデータ、場所などを書き留めるなど僅かな課題ですむこともあれば、ライフストーリーワ
ーク、また人生の手紙、或いはライフブックの作成など感情的に深い領域まで達するメソードがあります。バ
イオグラフィワークのより集中的な形態では、養育者の良心的な準備が欠かせません。このワークを行う大
人は、専門知識と共に感情移入能力、しかしまた中立的な言葉、そして実の家族や子どもの過去における
重苦しい出来事に対する調和のとれた内なる態度を必要とします。もしも子どもたちが昔の事実、出来事、
経験などを信頼のおける人と共に思い出し、過去に属する人を今日における人生に統合するというチャン
スを得たならば、子どもたちは自己へ対する信頼を促され、意識して未来へと歩んでいくことが出来るよう
になるでしょう。
(Translated by Yukiko Mizokami)
Wiemann Irmela
"Biografiearbeit mit fremdplatzierten Kindern und Jugendlichen - eine wirkungsvolle Hilfe zur
Persönlichkeitsentwicklung" in : "Familien-Pädagogik, Familiäre Beziehungen mit Kindern professional gestalten", Rosa Heim,
Christian Posch (Hrsg.) 2003
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