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福島の子ども達を健康に導く運動プログラム“BALL GAME”

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福島の子ども達を健康に導く運動プログラム“BALL GAME”
平成 26 年度 文部科学省委託事業
東日本大震災からの復興を担う専門人材育成支援事業
≪福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業≫
福島の子ども達を健康に導く
運動プログラム“BALL GAME”
【指導者育成講座テキスト】
【監 修】
東 英樹 (株式会社日本プロバスケットボールリーグ 取締役)
大内 郁弥 (特定非営利活動法人エストレージャス 理事)
山口 裕貴 (桜美林大学 健康福祉学群)
西廣 雄貴 (福島ファイヤーボンズ アスレティックトレーナー)
近藤 千紘 (一般社団法人 bj リーグアカデミー)
株式会社 明治
学校法人 新潟総合学院 郡山情報ビジネス専門学校
【目
次】
第1章
福島の子ども達を健康に導く運動プログラム“BALL GAME”
…
【監 修】
東 英樹 (株式会社日本プロバスケットボールリーグ 取締役)
大内 郁弥 (特定非営利活動法人エストレージャス 理事)
第2章
運動遊びの支援のあり方
…
【監 修】
山口 裕貴 (桜美林大学 健康福祉学群)
第3章
コンディショニング・メディカル
…
【監 修】
西廣 雄貴 (福島ファイヤーボンズ アスレティックトレーナー)
近藤 千紘 (一般社団法人 bj リーグアカデミー)
第4章
スポーツ栄養学の基礎
…
【監 修】
株式会社 明治
第5章
マネジメント
附 録
…
…
はじめに
本書は、平成 25 年度文部科学省委託、東日本大震災からの復興を担う専門人材育成支援事
業、福島の子ども達を健康に導く運動プログラム開発と指導者育成事業において開発された、
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム“BALL GAME”」の指導者育成を目的としたテキスト
である。
震災以降、福島県の子ども達の健康面において肥満傾向児の増加と運動能力の低下が問題
視されているものの、なかなか状況の改善までには至っていない。また全国的にも、子どもの運
動不足を懸念する声は多い。
5 歳から 9 歳の子ども達を対象としたこの運動プログラムを正しく理解し、子どもやその保護者
に運動や健康に関する正しいアドバイスのできる人材を多数輩出することは、子どもの健康的な
生活に貢献する上で重要なことであると考える。
福島県内の幼稚園や保育園、小学校、各行政機関では、子どもにとって効果的な運動の機会
を提供すべく様々な取り組みがなされている。しかし、大きな改善に至らないのは何故か。
子どもの健康的な生活を支えていくのは、第一に保護者である。保護者が我が子の運動量をし
っかり管理することが可能であれば、子どもの運動不足を解消する上で非常に心強い。保護者に
正しい知識を伝えていく人材、それこそ、この運動プログラムの指導者なのである。
臆することなく親子に運動プログラムをアドバイスできる人材を日本中に育成し、それらの人材
からアドバイスを得た多くの保護者達が子どもと毎日楽しく体を動かしていく。このような民間レベ
ルでの子ども達を健康に導く取り組みを、福島から全国へ広げていくことが我々の目標である。
本書を通して、それぞれの年代の子ども達にふさわしい運動について、動機づけについて、指
導者に最低限必要なコンディショニングやメディカルの知識について、スポーツ栄養学について、
イベントの企画方法について是非学んでいただき、福島の子ども達、全国の子ども達を健康に導
く活動に積極的に携わっていただきたい。
最後に、本書の編集にあたり多大なご協力を賜りました多くの皆様に厚く御礼申し上げ、はじめ
の言葉としたい。
編者
第1章
福島の子ども達を健康に導く
運動プログラム“BALL GAME”
監修:東 英樹(株式会社日本プロバスケットボールリーグ 取締役)
大内 郁弥 (特定非営利活動法人エストレージャス 理事)
1.福島の子ども達を取り巻く現状
福島県の子ども達の発育に関して、以下の 2 つが大きな問題となっている。
①肥満傾向児の出現率の高さ
②運動能力の低下
肥満傾向児の出現率については、(表‐1)文部科学省学校保健統計調査における福島県の肥
満傾向児出現率の変化を見ていただきたい。福島県の肥満傾向児の出現率は、平成 22 年度の
状況の通り、元々低かったわけではない。しかし、平成 23 年 3 月 11 日に起こった東日本大震災
後、7 つの年代で出現率が全国で 1 位となった。平成 26 年度には、若干の改善はあるものの、ほ
とんどの年代が全国順位の上位 5 位以内に入っている。震災を境に、状況は急激に悪化したの
である。
(表‐1)文部科学省学校保健統計調査における福島県の肥満傾向児出現率の変化
平成 26 年度
平成 25 年度
出現率
平成 24 年度
全国順位
出現率
平成 22 年度
出現率
全国順位
全国順位
出現率
全国順位
5歳
5.80%
2位
4.70%
2位
4.90%
1位
4.60%
3位
6 歳(小 1)
7.90%
1位
7.60%
1位
9.70%
1位
5.00%
18 位
7 歳(小 2)
9.60%
1位
8.80%
3位
9.90%
1位
6.90%
13 位
8 歳(小 3)
10.70%
3位
11.70%
1位
13.50%
1位
8.40%
15 位
9 歳(小 4)
15.10%
1位
12.80%
2位
14.00%
1位
11.20%
8位
10 歳(小 5)
12.20%
7位
16.70%
1位
14.00%
2位
11.10%
11 位
11 歳(小 6)
14.40%
1位
14.00%
2位
14.50%
2位
13.80%
2位
12 歳(中 1)
14.50%
1位
13.70%
2位
12.40%
5位
14.00%
3位
13 歳(中 2)
14.40%
1位
13.30%
1位
9.70%
16 位
12.10%
4位
14 歳(中 3)
10.10%
5位
12.00%
2位
11.50%
1位
10.90%
6位
15 歳(高 1)
13.60%
6位
15.50%
1位
13.20%
5位
14.90%
1位
16 歳(高 2)
12.50%
2位
12.40%
4位
9.10%
26 位
12.00%
7位
17 歳(高 3)
13.10%
2位
14.10%
1位
14.10%
1位
12.70%
2位
※平成 23 年は震災の影響で調査が実施されていない
さらに、(表‐2)平成 26 年度福島県と全国の年齢別肥満傾向児の割合によると、標準体重よりも
20%以上重い肥満傾向児の割合が、福島県ではすべての年代で上回っている。また、改善は見ら
れるものの、5 歳から 10 歳の年代では、全国の割合の 2 倍前後という数値になっており、より幼
い年代における肥満傾向児の増加が問題であることが分かる。
(表-2)平成 26 年度福島県と全国の年齢別肥満傾向児の割合(単位は%)
福
島
県
男
区
分
女
26 年
25 年度
幼稚園
(B)
26 年
25 年
度
度
(C)
(D)
差
度
(A)
全国
(A-B)
差
全国との差
男
女
26 年度
26 年度
(C-D)
(E)
男
女
(A-E)
(C-F)
(F)
5歳
5.81
4.93
0.88
5.71
4.38
1.33
2.55
2.69
3.26
3.02
6歳
8.62
8.12
0.5
7.07
7.12
-0.05
4.34
4.15
4.28
2.92
7歳
9.00
9.73
-0.73
10.29
7.85
2.44
5.45
5.41
3.55
4.88
8歳
10.86
13.9
-3.04
10.42
9.41
1.01
7.57
6.24
3.29
4.18
9歳
17.34
16.13
1.21
12.68
9.27
3.41
8.89
7.36
8.45
5.32
10 歳
14.85
21.27
-6.42
9.39
11.85
-2.46
9.72
8.40
5.13
0.99
11 歳
15.12
15.57
-0.45
13.71
12.4
1.31
10.28
8.56
4.84
5.15
12 歳
15.76
14.83
0.93
13.12
12.48
0.64
10.72
7.97
5.04
5.15
13 歳
15.02
14.54
0.48
13.78
12.01
1.77
8.94
7.89
6.08
5.89
14 歳
9.83
12.65
-2.82
10.32
11.24
-0.92
8.16
7.68
1.67
2.64
15 歳
17.26
18.3
-1.04
9.71
12.51
-2.8
11.42
8.35
5.84
1.36
16 歳
14.31
11.68
2.63
10.55
13.19
-2.64
10.16
7.44
4.15
3.11
17 歳
13.41
13.1
0.31
12.81
15.16
-2.35
10.69
8.25
2.72
4.56
小学校
中学校
高 校
※肥満傾向児とは、性別・年齢別・身長別標準体重から肥満度を求め、肥満度が 20%以上の子ども
(肥満度%)={(実測体重)-(身長別標準体重)}/(身長別標準体重)×100
※福島県統計課編 平成 26 年度学校保健統計調査報告書から抜粋
子どもの運動能力についても、(表‐3)文部科学省全国体力・運動能力、運動習慣等調査にお
ける福島県の都道府県別順位の変化の通り、小学 5 年の男女の全国ランクは、震災前より大きく
下がり、回復できていない。
(表‐3)文部科学省全国体力・運動能力、運動習慣等調査における福島県の都道府県別順位の変化
平成 26 年度
平成25 年度
平成 24 年度
平成 22 年度
小 5 男子
43 位
45 位
45 位
32 位
小 5 女子
27 位
29 位
30 位
19 位
中 2 男子
41 位
34 位
34 位
37 位
中 2 女子
37 位
34 位
34位
35 位
※平成 23 年は調査が実施されていない
実際の数値については、(表‐4)文部科学省全国体力・運動能力、運動習慣等調査における新
体力テスト合計点の変化にてご確認いただきたい。調査対象すべてにおいて全国平均を下回っ
ている。震災前に全国平均より高い数値を示していた小学 5 年の女子も回復できていない。
(表‐4)文部科学省全国体力・運動能力、運動習慣等調査における新体力テスト合計点の変化
平成 26 年度
平
均
福
島
県
平
均
全
国
平成25 年度
平
均
福
島
県
平
均
全
国
平成 24 年度
平
均
福
島
県
平
均
全
国
平成 22 年度
平
均
福
島
県
平
均
全
国
小 5 男子
52.62
53.91
52.33
53.87
52.52
54.07
53.71
54.36
小 5 女子
54.85
55.01
54.36
54.70
54.45
54.85
55.41
54.89
中 2 男子
40.56
41.74
41.04
41.78
41.40
42.32
40.74
41.71
中 2 女子
47.74
48.66
47.50
48.42
47.57
48.72
47.12
48.14
※平成 23 年は調査が実施されていない
東日本大震災を境に、何故このような変化が起きたのか。考えられる原因のひとつに、高い放
射線量を懸念して子どもの外遊びを制限している、あるいは禁止している家庭が多いという点が
指摘されている。
昨年度、本事業にて行った保護者へのアンケート調査の結果によると、実に 78%の保護者が子
どもの外遊びに制限をかけていた。理由はもちろん、高い放射線量に対する懸念である。幼児や
小学生低学年という幼い年代ほど外遊びを制限されている割合が高い状況だ。幼い年代のほう
が放射線の影響を受けやすいという報道も多くあり、警戒する保護者が多いのもうなずける。
子どもの頃の運動量は、その後の身体的能力や精神的な成長に大きな影響を及ぼす。成長過
程に応じた様々な運動遊びの経験を積み重ねていかねばならない子どもたちがその機会を奪わ
れている現状は、何とか打破していかねばならない。
現在、福島県内の幼稚園や保育園、小学校などの教育現場や様々な行政機関において、子ど
も達の運動不足を解消するために様々な取り組みがなされている。しかし、大きな効果が上がっ
ていないのは前述の通りである。
教育現場からの声として上がっているのは、土日や祝日における子ども達の運動量が少ないと
いう懸念である。学校が休みの日に、保護者がいかにして子どもの運動量を管理していくのか、こ
の点は大きな課題である。しかし、子どもにどんな運動をさせればよいのか、どれくらい体を動か
せばよいのか、我が子のことを心配しながらも、その効果的な対策が分からず悩んでいる保護者
は多いのではないだろうか。あるいは、自分自身がいわゆる運動音痴だからと、はじめから子ども
に運動のアドバイスなど不可能だと決めつけている方もおられるかもしれない。
この悩みを解消するツールとして、屋内の限られたスペースで、親子で楽しく取り組める、「福島
の子ども達を健康に導く運動プログラム“BALL GAME”」は開発された。対象年齢は放射線の影
響を受けやすいとされる幼い子ども、5 歳から小学 3 年生(8~9 歳)である。
2.スキャモンの発達・発育曲線と調整力を鍛えるトレーニング
(1)桜木花道の 2 万本シュート
湘北高校のバスケットボール部に入部した、バスケットボール未経験者の桜木花道は、どうして
も決められないジャンプシュートを 1 週間で 2 万本打つよう、監督の安西光義に命じられる。
有名な漫画『スラムダンク』の一節である。桜木は、安西先生に言われたとおり 2 万本に及ぶジ
ャンプシュートの練習に励み、ついにその動きを体得するわけだが、これは極めて現実的なエピソ
ードなのである。
特訓前の桜木はどうしてジャンプシュートを決められなかったのか。ケンカに明け暮れていた桜
木には、幼い時期にジャンプシュートに必要な体の動きの経験・蓄積が無かった可能性があると
いうことだ。
子どもは、大人の動きを真似るのがとても上手い。逆に、大人は動きを真似るのが苦手で、でき
るまでに時間がかかってしまう。同じような例として、子どもの頃に野球をする機会の少ない女性
の多くは、投げることを不得意にしている場合が多い。子どもの頃に経験していない“投げる”とい
う動作に、成長してから挑戦しても上手くはいかないのである。
成長してからの動きの習得には時間も労力もかかる。安西先生が桜木に課した 2 万本シュート
は、桜木にとっては必要不可欠な特訓だったというわけである。
(2)スキャモンの発達・発育曲線
子供の発育・発達に関して、スキャモンの発達・発育曲線がよく知られている。20 歳の発達・発
育レベルを 100%とし、各体組織の発育の特徴を①一般型、②神経系型、③リンパ系型、④生殖器
系型の 4 つのパターンに分け、年齢に応じたそれぞれの発達・発育の度合いをグラフ化したもの
である。
①一般型
身長、体重、肝臓や腎臓などの胸腹部
臓器の発育の度合いを示す。
②神経系型
器用さやリズム感を担う神経系の発達
の度合いを示す。
脳の重量や頭囲で計る。
③リンパ系型
扁桃、リンパ節などのリンパ組織の発達
の度合いを示す。
④生殖器系型
男児の陰茎・睾丸、女児の卵巣・子宮などの発育の度合いを示す
スキャモンの発達・発育曲線によると、神経系統の発達は生まれてから 5 歳頃までに 80%の成
長を遂げ、12 歳でほぼ 100%に達する。この時期は神経系統の発達が著しく、様々な神経回路が
形成されていく。しかも、一度できあがった回路はなかなか消えない。子どもの頃に乗れるように
なった自転車に長年乗っていなくても、いつでもスムーズに乗れるのはこのためである。
この時期に、神経回路へ刺激を与え、その回路を張り巡らせるために多種多様な動きを経験さ
せることは非常に大切なことなのである。
子どもの成長において、器官や機能はまちまちの発達をしていく。したがって、あるひとつの課
題に対しては、吸収しやすい時期と吸収しにくい時期が存在する。子どもの発達段階に応じて、そ
の時期に最も吸収しやすい課題を与えていくことが重要だということをしっかり押さえておこう。
(3)コーディネーショントレーニング(Coordination training)
コーディネーショントレーニングとは、カラダを巧みに動かす能力のことで、旧東ドイツの運動学
者マイネルのスポーツ運動学を基盤に、シュナーベルが中心となってコーディネーションの基本的
概念を体系化した理論である。その後、各競技のスポーツ指導の現場にて研究と実践が重ねら
れ、各競技における選手育成のためのプログラム開発の基礎が築かれた。日本では調整力と呼
ばれ、カラダの動きをコントロールする情報系・神経系のトレーニングとして位置づけられている。
コーディネーションには、以下の 7 つの能力がある。
①リズム能力
真似したり、リズムを作ったり、タイミングをつかむ能力
②バランス能力
空間や移動中における身体のバランスを維持し、崩れを素早く回復する能力
③連結能力
タイミングを合わせ、カラダの各部位を正確に無駄なく同調させる能力
④定位能力
自分のカラダの位置を時間的・空間的に正確に決める能力
⑤反応能力
合図に素早く正確に対応する能力
⑥変換能力
予測した状況の変化に対して、動作を切り替える能力
⑦識別能力
手や足、用具などを精密に操作する能力
これらの能力ひとつひとつが単独で機能するのではなく、複数の能力が組み合わされ、相互に
関連しながら運動は行われているのである。
(4)バルシューレ(Ballschule)
有能な選手の育成を目的として、バスケットボール、バレーボール、野球、テニス、サッカーなど、
それぞれの競技に対応したコーディネーショントレーニングが存在する。各競技において必要とな
る神経系を刺激し、その競技の技術を伸ばす目的だ。しかし、このような特定の競技に偏ったコー
ディネーショントレーニングだけでは創造的なプレイのできる選手の育成は難しいとし、ドイツ・ハ
イデルベルク大学のクラウス・ロート教授のアイデアのもとで生まれた運動プログラムが、バルシ
ューレ(ドイツ語でボールゲームの意)である。バルシューレにおいては、子どもは専門家ではなく
オールラウンダーであり、遊びが創造的なプレーヤーを育むとし、特定競技に拘らない、種目横断
的なボールゲーム学習が行われている。
(5)子どもにふさわしい運動
一生に一度の、あらゆる動作を短時間で覚えることができる 9 歳から 12 歳頃の時期を、ゴール
デンエイジと呼ぶ。即座の習得の時期といわれる。
ただし、この即座の習得を可能にするためには、それ以前の年代で様々な動きを経験し、神経
回路がしっかり形成されている必要がある。つまり、5 歳から 8 歳頃の、プレ・ゴールデンエイジと
呼ばれる時期の動きの経験が、その後の運動能力に大きな影響を及ぼすのである。
では、このプレ・ゴールデンエイジの子ども達に経験させたいのはどのような動きなのか。スキャ
モンの発達・発育曲線から分かるように、神経系統が著しく発達していく時期なのであるから、神
経系を刺激する動きの経験が重要である。加えて、特定の競技に偏らない、種目横断的な動き、
遊びの要素も欠かせない。
バルシューレの指導における留意事項の中に、『子どもを小さな大人として扱ってはならない』と
ある。子どもには子どもにふさわしい運動がある。集中力の持続しない子ども達を飽きさせずに楽
しませる、遊びの要素を含んだ、この年代にふさわしい運動プログラムが必要となる。種目横断的
に調整力を鍛え、多面的な基礎づくりを行えば行うほど、ゴールデンエイジ、さらには将来への準
備となる。
第一線で活躍するスポーツ選手は、調整能力が高く、その多くが子どもの頃に人一倍様々な遊
びを体験している。また、遊びに限らず様々なスポーツを経験している者ほど、専門種目を習得す
る際の伸び方に違いが出てくる。様々な遊びやスポーツを通して基本的な動きを経験し、自然と
神経系や感覚器が刺激されているからなのである。
3.運動プログラム“BALL GAME”開発の意図
第 1 章のまとめとして、『福島の子ども達を健康に導く運動プログラム“BALL GAME”』はどのよ
うな意図で開発されたのか、確認しておこう。
≪開発コンセプト≫
①室内の限られたスペースで実施が可能な楽し
いプログラム
高い放射線の影響で外遊びを制限されて
いる福島の子ども達の運動不足解消のツー
ルとして開発。しかし、全国的に子どもの運動
不足は問題視されている。危険だからという
理由で、ボール投げの禁止されている公園も
多数あり、屋内の限られたスペースで取り組
める運動プログラムは、全国の家庭で活用が
可能。
②プレ・ゴールデンエイジを対象とした、神経系
を刺激する多種多様な動きの提供
5 歳から 9 歳の子どもを対象としたのは、こ
の時期の子どもの動きや遊びの経験が、その
後の人生に大きな影響を及ぼすため。福島県
における、高い放射線量の影響を受けやすい
とされる、幼い年代の子ども達の運動不足解消にも有効。
③種目横断的な遊びの要素と各競技のコーディネーショントレーニング、両方の要素を取り
入れたプログラム
バルシューレの提唱するような種目横断的な遊びの要素と、各競技のコーディネーショ
ントレーニングの要素を盛り込んだ内容。運動不足解消の目的だけでなく、将来の一流ス
ポーツ選手育成を目的としたトレーニングにも活用可能な充実のプログラム。
④幼い頃からボールの扱いに親しめるプログラム
日本の子ども達の運動不足の問題点は、投力と握力の低下、運動の得意な子と不得意
な子の二極化。手を使ったボール遊びも足を使ったボール遊びも盛り込み、早くからボー
ルの扱いに慣れ、ボール遊びのポイントである、跳ねるボールの軌道やボールの重心を
捉える練習が可能。
⑤親子のふれあい
親子で楽しく取り組める構成とし、親子に触れ合える機会を提供。他者との触れ合いが、
身体能力の向上に良い影響を与える。
以上を踏まえて、指導者向けテキストを参考にしながら、早速運動プログラム“BALL GAME”
の動きを実際に体験してみていただきたい。なお、使用するボールについては、100 円ショップで
売っているような、柔らかいボールを使っていただきたい。本格的な競技用のボールを使用すると、
突き指などの怪我の原因となってしまう。
第2章
運動遊びの支援のあり方
監修:山口 裕貴(桜美林大学 健康福祉学群)
1.運動遊びにおける支援のあり方
(1)はじめに
子ども達の運動経験や運動時間の減少、運動能力の低下が、全国的な問題として指摘されて
いる。1975 年から 1995 年の間に、小学生の 1 日あたりの総遊び時間は 4.8 時間から 2.6 時間へ、
外遊びについては 1.5 時間から 0.6 時間へと減少している。現在はもっと少なくなっているのでは
ないかと考えられている。
運動経験や運動時間の減少の原因としては、都市化(自然環境の減少)や人口の都市部への
流入、遊び友達の減少、さらには、家庭用ゲーム機の普及などが挙げられる。
また、運動能力において特に深刻なのが握力やボール投げ(投力)である。文部科学省が公表
している『全国体力・運動能力、運動習慣等調査における新体力テスト』の 2014 年度の結果にお
いて、握力と投力は、小学生・中学生ともに過去最低あるいは最低に並んだ。
安全に配慮してボール遊びを禁止している公園が増えているといった環境面の変化、サッカー
人気の影響でキャッチボールの機会の減少などが影響していると考えられている。
以上のような子ども達の運動経験や運動時間の減少、運動能力の低下を食い止めるために、
全国のいたる所で、行政や民間といった様々なレベルで多様な取り組みがなされている。幼稚園
や保育園などでは、保育時間内に運動指導の時間を設定し、専門の指導者が一斉指導を行うこ
とで、子どもの運動時間の量を確保しようという取り組み事例が多い。
しかし、運動指導頻度の高い教育環境に置かれた子ども達よりも、むしろ自由保育を主とした
環境下の子ども達のほうが高い運動能力を有しているという調査結果が残されている。
注目すべき結果は、運動指導を行っていない園の運動能力が最も高く、指導頻度の高
い園ほど低いことである。保育時間内に運動指導をしている園は全体の 70~80%あり、そ
のうち7割強では専門の指導者が体操、水泳、縄跳び、サッカー、マラソン、マット・跳び
箱・鉄棒などを指導している。そこで、園の保育形態を子ども一人ひとりが自由な活動をす
る遊び保育中心の園、クラス全員が指導者の決めた同じ活動をする一斉保育中心の園、
両者ほぼ半々の園に分けて運動能力を比較したところ、一斉指導中心の園が最も運動能
力が低かった。次に、子どもが園で運動するときの運動の種類、運動のやり方、決まりや
ルール、目標や課題の 4 項目について、「ほとんどすべて子どもが決めている」から、「ほと
んどすべて指導者が決めている」までの 5 段階評点で回答を求め、その合計点を「遊び志
向得点」(子どもが決める程度が高いほど高得点)として、対象園を高・中・低の 3 群に分
けて運動能力を比較したところ、遊び志向得点の高い群ほど運動能力が高かった。さらに
また、自由に何をしてもよいとき運動遊びをする頻度と運動能力の関係をみると、運動遊
びをあまりしない群、普通群、よくする群の順に運動能力が高くなっており、その差は非常
に大きい。
提言「子どもを元気にする運動・スポーツの適正実施のための基本指針」より引用
(平成 23 年 8 月 16 日 日本学術会議 健康・生活科学委員会・健康・スポーツ科学分科会)
なぜこのような皮肉とも言える結果となるのか。運動プログラムの指導者として実際に子どもと
接する立場となり、より効果の高い運動指導を実現していくためには、子どもの心身の発達の特
徴を理解しておく必要がある。
(2)幼児期の運動発達の特徴
幼児期の運動発達の特徴は、『運動調整力』が急激に発達する点、基礎的な運動パターンの数
が大人と同等になっていく時期であるという点、以上の 2 点が挙げられる。
①『運動調整力』の急激な発達
運動能力は、『運動体力』(筋力、持久力などの末梢器官機能)と、『運動調整力』(俊敏性、
巧緻性、状況判断などの中枢神経系機能)に大別できるが、幼児期は『運動調整力』の急激
に発達する時期であり、この時期の運動経験が、バランスや柔軟性などの運動センスに大き
く影響する。
②大人と同等になっていく基礎的運動パターンの数
空間的調整(さまざまな方向)、時間的調整(速さ、タイミング)、力量的調整(力の入れ具
合)という三大調整分野から、小分類では約 80 種の運動パターンを人間はもつとされるが、
そのすべてが 7 歳までに現れるという。つまり、走る・跳ぶ・投げる・ぶら下がるなど、動くこと
のできる基礎的運動パターンが、6~7 歳頃までに大人と同じになる。
(3)幼児期の体力面の特徴
体力とは身体的能力を指し、『防衛体力(病気に対する抵抗力)』と『行動体力(運動能力)』とに
分けられる。さらに、『行動体力』のみを体力(運動体力)とすることもある。
幼児期の体力面の特徴は、末梢神経の働きの発達がまだ不十分だという点と、運動能力が未
分化であるという点である。
①末梢神経の働きの発達
筋力(瞬発力)や持久力(呼吸・循環器系能力)といった末梢器官の働きの発達は、10 歳
以後に急激に上昇する。したがって、10 歳以前の子どもが筋力トレーニングや持久力のトレ
ーニングに取り組んでも、その効果は少ない。かえって、これらのやりすぎは成長を妨げる恐
れがあるといわれる。
②運動能力の分化の時期
運動能力の分化が進むのは 10 歳以後である。つまり、それ以前は未分化の状態であり、
運動の各能力間の関係が強いということである。したがって、幼児は様々な運動能力を分化
して鍛える必要がなく、ある種の運動を行うことで全体的な能力発達が見込めるのである。
(4)運動と人格的発達との関係
運動は『自己概念』の形成に大きく寄与している。『自己概念』の形成の過程を簡単にまとめると
以下の通りとなる。
①新生児期
自他未分化状態にある。
②生後 4 か月の乳児
さかんに自分の手足に触れたり、指しゃぶりをしたり、指を噛んだりして、痛いものと痛くな
いもの(自他の区別)について、感覚運動的フィードバックを行う。こうして、1 歳過ぎから 2 歳
頃までには身体的自己概念が成立する。
③3 歳頃
自分自身の身体的特徴や『○○ができる(或いはできない)』といった行為可能性の観点
から、自己概念の形成を始める。具体的には、(1)運動有能感(できる)、(2)知的有能感(わ
かる)、(3)社会的受容(許されている)、(4)行為(行っている)、以上の 4 つの側面から自己
を認識しているとされる。
運動有能感は、次の運動課題に挑戦する意欲ばかりでなく、自信や情緒的安定、積極的
態度といった人格の傾向を生み出す。例えば、勝ち負けや取り組みに対する上手・下手など
の評価を強調すると、反対に無能感や無力感を与えてしまうことにつながり、行動傾向が消
極的になり、おろおろしたり、うろうろしたりと、情緒不安定になる。
また、幼児は自分の運動の成否について自らを客観的に評価することができない。これは
能力概念と努力概念が未分化で、一生懸命に努力することが高い能力と思っているからで
ある。したがって、夢中になって遊ぶことによって子ども達は高い有能感を形成し、肯定的自
己概念を獲得するのである。
(5)運動と知能の関係
発達心理学者のピアジェによれば、2 歳頃までは運動と知的活動が未分化で、知的活動は運
動の形で行われる(感覚的運動知能)としている。その後、言語の獲得が始まり、運動の回数や
順番を数えることで数に対する概念を獲得するとともに、速い・遅いという動きのうえでの時間に
対する概念、前後左右上下の空間に対する概念を獲得していく。こうして運動と知的能力は徐々
に分化していく。
さらに、運動の仕方やルールを工夫することによって思考力や創造力が養われ、友達との会話
のやり取りから言語能力も発達する。
幼児期は自己中心的思考が主となるが、鬼ごっこで鬼と子の役割を交代で行ったり、長縄跳び
で跳ぶ役と回す役を交代したりと、運動遊びを通して『脱中心化』が図られる。
このようにして、成長と共に抽象的思考や間接経験からの類推思考を獲得していくことで、運動
と知的発達の直接的関係は徐々に希薄化していく。
(6)子どもに適した指導や運動とは
これまで述べてきた子どもの心身の発達の特徴等を踏まえると、なぜ運動指導頻度の高い教
育環境に置かれた子ども達よりも自由保育を主とした環境下の子ども達のほうが高い運動能力を
有する結果となったのか、その理由が明確になる。
①子どもの運動に対する意欲の低下
運動指導は一斉指導の形態をとる場合が多く、指導者はひとまず丁寧な運動の説明に時
間をかけることになる。また、一度に子どもの動きをチェックするのに限界があるため、子ども
が実際に体を動かすまでに長い順番待ちの時間が生じる。つまり、運動指導の時間でありな
がら、子どもひとりひとりが実際に体を動かせる時間には制限がかかることになる。
一斉指導における指導者の説明や順番待ちの間、本来は夢中になって自発的に体を動
かしたい筈の子ども達は、じっと待っていなければならない。子ども達は次第にストレスを感
じるようになり、運動に対する意欲を低下させてしまう。
また、一斉指導の場で勝ち負けや取り組みに対する上手・下手などの評価が強調されるこ
とで、無能感や無力感を与えてしまうというのは前述の通りである。
②取り組ませる運動内容の問題
特定のスポーツ種目の実践や体力づくりの指導は、幼児期の運動としてふさわしいとは言
いがたい。運動調整力の急激に発達する幼児期の運動には、特定の種目に偏ることなく、
様々な動きを取り入れることが求められる。
走力だけを見てみても、四方八方への移動、様々なスピードの変化、障害物を避ける動き、
相手の動きに合わせるなど、走るのと同時により多くの動作を経験することが重要となる。例
えば延々と持久走に取り組ませるような内容は、幼児期の子どもにとってふさわしい運動と
は言いがたい。
幼児(小学生低学年も含む)を対象に特定の運動や競技に偏った一斉指導を行うことは、子ど
もの発達的特徴に適合した指導とは言いがたい。子どもの興味や関心に基づいた自発的な遊び
の経験が、子どもの発達的特徴に適合した、効果的な運動経験となることを、指導者はしっかり理
解しておこう。
(7)指導上の留意点
実際に運動プログラムを活用したイベントを行う際は、前述のような問題点を理解しつつも、恐
らくは一斉指導の形態を取らざるをえない場合がほとんどであろう。子ども達に自発的な運動プロ
グラムへの取り組みを喚起できる指導を実現するために、指導者はどのような点に配慮する必要
があるのだろうか。
幼児期運動指針(文部科学省)では、幼児期の運動のあり方として、
①様々な動きが経験できるように様々な遊びを取り入れる
②楽しく体を動かす時間を確保する
③発達の特性に応じた遊びを提供する
ことを示し、これらを推進するために、次のことを配慮事項として挙げている。
○一人一人の発達に応じた援助をする
○幼児が思わず体を動かしたくなる環境の構成を工夫する
○安全に対する配慮をする
○家庭や地域にも情報を発信し、ともに育てる姿勢をもてるようにする
運動プログラムは 5 歳から 9 歳の子どもの発達に応じたもので、上記の幼児期の運動のあり方
に沿っており、しかも親子で楽しむことができるので、子どもの運動量や経験に対する保護者の意
識の向上も期待できる。したがって、運動プログラムの指導においても上記の配慮事項は重要で
あるが、実際の指導の場において具体的に配慮すべきことについて、さらに確認していきたい。
①“楽しむ”ための雰囲気づくり
イベントを開催する際は、会場のレイアウトや進行表などの準備をして当日を迎えること
となるが、開会式や閉会式などの演出において過度に堅苦しい雰囲気を醸しだしたり、会
場に厳密な区画(講師席、仕切られた見学スペースなど)や立ち入り禁止のスペースがあ
ったりと、子どもの動きにあまり制限をかけることのないように配慮しよう。
もちろん、安全面からの配慮としても、子どもが自由に動き回ることを考慮すれば、必要
以上に机や椅子、その他の器具等を並べるのは好ましくない。
ただし、子ども達が会場に設置してある備品等を活用して自発的に遊んでいる際は、怪
我の危険がなければ、共感的な声かけをしてほしい。そうすることで楽しい雰囲気が芽生
えていく。
ひとつの運動イベントに何名の指導者が関わるのかも重要なポイントだ。親子の参加人
数にもよるが、運動の実演等をする者、その隣で運動の説明をする者、親子の取り組み状
況を巡視しながらアドバイスしていく者、応急処置の対応者、複数名で実施するほうが、安
全に、かつ運動時間をしっかり確保したイベントになるであろう。
また、指導者自身も、笑顔や、爽やかでかつ運動に適した姿勢を常に心がけ、子どもが
一緒に運動したいと思うような雰囲気づくりに努めよう。
②『やってみたい』と思わせる人的環境の整備
保育の現場では、保育者自身の運動に対する好悪が子どもの運動能力の高低に大き
な影響を与えることが分かっている。運動を好まない保育者の担当学級の幼児は、運動
能力が低い傾向にあった。このような保育者のもとでは、おままごとやお絵かきなどが無
意識的に増え、幼児の体を動かす時間が減少していたのである。
運動プログラムの動きを実演しながら親子に伝える際、指導者が子どもに最も伝えるべ
きなのは、動きの詳細よりもまず、体を動かすことが「楽しい!」という気持ちである。少々
乱暴な言い方だが、指導者の実演が上手くいかなくても、その動きをすることがとても楽し
いということさえ伝われば、子ども達はその動きに進んで挑戦してみようと、やる気になる
はずだ。楽しそうな実演、これが重要だ。
指導者や周囲の大人たちがまずは楽しみ、その姿を子どもに見せる。そして子どもに
「マネしてみたい!」と思わせること、これこそが子どもに「やってみたい」と思わせる人的
環境の整備といえる。大人が楽しそうに取り組んでいることに対しては、黙っていても子ど
ものほうから関心を示してくるということをしっかり押さえておこう。
③「運動有能感」を味わえる人的環境の整備
子ども達が「できる」「できそう」といった運動有能感を味わえる、人的環境の整備には欠
かせない以下の配慮事項をしっかり確認していただきたい。
○激励や称賛、やればできるという喜びを与える
・「やったね!」「できたね!」「すごいね!」「がんばったね!」(肯定的な声掛け)
・「もっとやりたい」と思わせる
○間接的な関与を重視する
・遠くからうなずく、笑いかける
○個々の運動経験に応じた動きへの挑戦
・できる子には一段上のレベルの動きに挑戦させる
○スポーツ型の指導よりも遊び型の指導
・スポーツは大人の遊戯文化であって、子どもには不適である
・指導者は、子どもの自発的な遊びの援助者である
○勝敗や上手下手を強調しない
・罰ゲーム等は無能感や無力感を与えてしまう
○否定しない、頭ごなしに怒らない
○子どもの発達段階に応じた、様々な動きを取り入れる
運動有能感が、次の運動課題に挑戦する意欲ばかりでなく、自信や情緒的安定、積極的態度
といった人格の形成に大きな影響を及ぼすというのは前述の通りである。指導者は、自身の何気
ない言葉や行為のひとつひとつが子ども達の人格形成に大きな影響を与えていくことをしっかりと
自覚して、責任ある行動を心がけよう。
2.3~4 歳児の運動遊び
(1)運動の発達特性
運動プログラムの体験会等で実際に多くの子ども達の様子を観察していると、俊敏な動きので
きる子どももいれば動きの覚束ない子どもなど、実に様々である。それまでの運動経験等が影響
し、同じ年齢であっても動きに個人差が生じるのである。
基本的な動きの習得には、「動きの多様化」と「動きの洗練化」という二つの方向性がある。
「動きの多様化」とは、「体のバランスをとる動き」「体を移動する動き」「用具などを操作する動き」
といった基本的な様々な動きを、遊びや生活経験などを通して数多く獲得していくことである。
○体のバランスをとる動き
立つ、座る、寝ころぶ、起きる、回る、転がる、渡る、ぶら下がる、など
○体を移動する動き
歩く、走る、はねる、跳ぶ、登る、下りる、這う、よける、すべる、など
○用具などを操作する動き
持つ、運ぶ、投げる、捕る、転がす、蹴る、積む、こぐ、掘る、押す、引く、など
「動きの洗練化」とは、様々な動きを繰り返し経験することで、未熟な動きが年齢とともに減少し、
動き方の質が高まることである。
多様化と洗練化を経て習得していく基本的な動きは、日常生活や労働、スポーツなど、将来の
様々な場面において必要な運動の基礎となる。
(2)3 歳から 4 歳の時期に経験させておきたい動き
この時期の幼児は、毎日の生活や遊びの経験を積み重ねることで、上記の基本的な動きをひ
と通り習得し、繰り返し経験を積み重ねて上達させ、自分の体の動きをコントロールするようにな
っていく。
したがって、この時期の子ども達には、滑り台・ブランコ・鉄棒などの固定遊具や、巧技台・マット
などの遊具の活用した全身を使った遊びを通して、「体のバランスをとる動き」や「体を移動する動
き」を何度も繰り返して経験させたい。
(3)3 歳から 4 歳の運動遊びの実践
3 歳から 4 歳の幼児に求められる「体のバランスをとる動き」や「体を移動する動き」を習得する
際にも、運動プログラムは有効なツールといえる。『ボールなし』の様々なゲームに特化して挑戦
してみていただきたい。『ぐーぱージャンプ』や『けんけんジャンプ』、『バランスタッチ』、『さかあが
り』、『うまとびトンネル』などでは、子どもとペアになっている親が鉄棒や巧技台などの代わりを務
め、生きた遊具となって子どもの動きを支えていることに気付くであろう。
また、回る、転がる、などの動きは布団の上で行うことができるし、大人の腕にぶら下がったり、
床の上で這ってみたりすることも効果的だ。さらに、立つ、座る、寝ころぶ、起きるなどの動きは、
毎日の生活の中で経験を積むことができる。少し工夫をすれば、3 歳から 4 歳の時期に経験させ
ておきたい動きのほとんどを、効率よく習得することは可能なのである。
体験会等のイベント等で「体のバランスをとる動き」や「体を移動する動き」の習得ができていな
い子どもを多く見かけた際は、『ボールなし』のゲームを多く取り入れた内容に切り替えたり、上記
の内容を保護者に伝えたりしていただきたい。
なお、3 歳から 4 歳以外の各年代の幼児に求められる動きについては、幼児期運動指針(文部
科学省)などを参照していただきたい。
※参考資料:運動プログラムの『ボールなし』のゲームより
○ぐーぱージャンプ(手をつなぎながら)
○けんけんジャンプ
○バランスタッチ
○さかあがり
○うまとびトンネル
3.親へのアドバイス
(1)保護者の果たすべき役割
これまで指導上の留意点、運動プログラムの対象年齢の前の年代である 3 歳から 4 歳児の運
動遊びについて確認してきたが、これらの内容は是非保護者にも理解していただきたい。
運動プログラムの体験会等のイベントに 1 回参加したからといっても、それだけで子どもの運動
不足が解消されるわけではない。学んだプログラムを継続して実践していただくことで効果は現れ
るのであって、それには保護者の協力が不可欠である。保護者には、保護者こそ普段の生活の
中で子どもの運動遊びを管理していける身近な指導者になれるのだということを伝え、自発的な
運動遊びを可能にする環境整備に関するアドバイスを積極的にしていこう。
(2)親へ伝えるべきアドバイス
これまでに確認してきた内容も踏まえながら、保護者にアドバイスすべき事柄を以下にまとめて
いく。
①様々な動きの経験
運動プログラムを活用した動きはもちろんだが、その他にも荷物を持つ、荷物を運ぶ、な
どの動きの経験も必要だ。大人が考えるようなスポーツではなく、実はお手伝いの時間も
様々な動きを経験させる有効な手段である。
また、それぞれの動きを洗練化させるには、繰り返して同じ動きに取り組ませる必要も
ある。子どもを褒めて有能感を与えながら、お手伝いをしたいという意欲を喚起することも
必要だ。ただし、子どもの発達の特性に応じた動きに取り組ませるよう注意する。無理をし
て難解な動きばかりに取り組ませていると、子どもは運動嫌いになってしまう。
②毎日、合計して 60 分以上、体を動かす
合計 60 分以上という時間は、多様な動きを獲得するために必要な時間の目安として設
定されていて、世界保健機関(WHO)をはじめ、アメリカやイギリス、オーストラリアなど、多
くの国々で推奨されている。
合計というのは、歩いた時間やお手伝いの時間等も含め、それらの合計が毎日 60 分以
上になるようにということを意味している。60 分というまとまった時間、ずっと体を動かして
いなければならないということではないので、子どもに運動させなければならないと構える
ことなく、気楽に考えてよい。
ただし、『毎日』の継続が難しい。平日であれば幼稚園や保育園、小学校である程度体
を動かしているのでさほど心配はいらないが、休日や祝日に体を動かす時間の確保は、
保護者に委ねられている。
③楽しく体を動かす
子どもにとっての運動は、大人の考えるスポーツではなく、遊びといってよい。したがっ
て子どもが自分で決めて自発的に体を動かしたいと思えるよう、保育者はそのための援助
者として支援していくことが大切である。保護者自身が、運動が得意である必要はない。体
を動かすことが本当に楽しいということを自ら動いて子どもに伝えることで、子どもは「やっ
てみたい」と思うようになる。
また、子どもの取り組みを十分に認めてあげることも大切だ。決して大人の価値基準で
判断せず、個人差や経験の違いを考慮し、もちろん他の子どもと比較などせず、その過程
を重視するように努めていただきたい。
(3)生活習慣と運動
子どもの運動不足の解消のことを案じると、ついつい運動そのものだけに目が行きがちだが、
よい生活習慣があってこその運動であることを忘れてはならない。運動・休養・栄養という三大生
活習慣に対する保護者の配慮も重要だ。子どもに夜型の生活リズムや食習慣の乱れを改善する
には、保護者の努力なしには不可能であろう。
最近の子どもの食習慣の乱れを表す「コケコッコ症候群」という名称がある。ひとりで食事をす
る「孤食」、食事を抜く「欠食」、同じ食卓でもひとりひとり違った内容の食事をとる「個食」、いつも
同じものばかり食べる「固食」。この 4 つの問題とされる習慣の頭文字をつなぎ合わせると「コケコ
ッコ」となる。
乳幼児期の成長は著しい。生後 6 か年で身長が 2 倍、体重は 6 倍以上になる。バランスの良
い食事を与える必要がある。また、空腹感がなければ、美味しいものも美味しくなくなる。体をたく
さん動かしてお腹を空かせ、食べる喜びを味わわせたい。
運動の場面のみならず、日常生活のあらゆる場面から、子どもの運動について考えを新たにす
べきであることを伝えていこう。
※補足
右図は、文部科学省が取りま
とめた、幼児期運動指針(普及
用パンフレット)の表紙である。
この指針は、幼児期に獲得して
おくことが望ましい基本的な動
き、生活習慣及び運動習慣を身
に付けるための効果的な取り組
みなどについての実践研究の成
果をまとめたものである。
表紙の真ん中には、『幼児は
様々な遊びを中心に、毎日、合
計 60 分以上、楽しく体を動かす
ことが大切です!』とある。
この指針のポイントは、以下の
3 点である。
①様々な動きが経験できるよう
に様々な遊びを取り入れる
②楽しく体を動かす時間を確保
する
③発達の特性に応じた遊びを提
【文部科学省
供する
幼児期運動指針普及用パンフレットより】
『合計 60 分以上』という時間は、多様な動きを獲得するために必要な時間の目安として設定さ
れている。この 60 分という目安は、世界保健機関(WHO)をはじめ、アメリカやイギリス、オースト
ラリアなど、多くの国々で推奨されている世界的なスタンダードである。また、『合計』という言葉が
付いているのは、散歩や手伝い等も含め、それらの合計が毎日 60 分以上になることを示してい
る。
具体的な遊びの例なども記載されているので、是非ご一読いただきたい。ガイドブックと普及用
パンフレットが以下のホームページで公開されている。
文部科学省 HP
トップ > スポーツ > 子どもの体力向上 > 幼児期の運動 > 幼児期運動指針について
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/undousisin/1319192.htm
第3章
コンディショニング・メディカル
監修:西廣 雄貴(福島ファイヤーボンズ アスレティックトレーナー)
近藤 千紘(一般社団法人 bj リーグアカデミー)
1.機能解剖の基礎
(1)体の基本構造
運動には怪我のリスクが伴うため、指導者は応急処置などの基本的な知識が求められる。そ
のためにはまず、機能解剖学の基礎的な知識も必要となる。例えば膝(ひざ)は、皮膚・皮下組
織・筋肉・靭帯・血管・神経・骨によって作られているが、それぞれの怪我が、これらのうちの『どれ
が』『どのように』壊れているのかによって、当然ながら名称も処置の仕方も変わってくるからだ。
まずは体の部位と関節の名称について押さえておこう。これらは、怪我の名称を紐解くうえで必
要な知識となる。
(2)骨
骨には、①体を支える、②内臓保護、③運動器、④カルシウムの貯蔵、⑤造血作用、という 5 つ
の働きがあり、206 の骨から全身の骨格が構成される。骨は外側から、骨膜(こつまく)、骨皮質
(こつひしつ)、海綿骨(かいめんこつ)、骨髄腔(こつずいくう)という 4 層構造になっており、各層
の構造の違いによって上記 5 つの働きが可能となる。
(3)関節
骨と骨の連結する部分が関節である。関節は、2 つの骨からなる単関節と 3 つ以上の骨からな
る複関節の 2 種類に分類できるが、機能的に分類すると、軸の数によって 3 つに分類できる。
① 1 軸性の関節
運動軸がひとつで、一方向の運動が可能な関節
例…指などの蝶番関節,足首などの螺旋(らせん)関節,肘などの車軸関節
② 2 軸性の関節
2 つの軸をもち、二方向の運動が可能な関節
例…手首などの顆状関節(楕円関節),親指などの鞍関節
③多軸関節
運動の面と軸が無数にあり、あらゆる方向への運動が可能な関節
例…肩などの球関節(臼状関節),背骨などの平面関節
関節によって 3 種類の動きがあるという点は、しっかり理解しておこう。
また、関節には体重を支える役割もあり、それらを荷重関節(股関節・膝関節・足関節・脊椎)と
いう。体重のかからない関節は非荷重関節(肩関節・肘関節・手関節)という。荷重関節は、立った
り座ったり歩いたりする際にかかる重力や体重を支えるため、関節自体が大きく、関節面も広くな
っている。非荷重関節は、一時的な例外を除いて体重を支え続けることはないため、構造はシン
プルで、動かしやすい関節といえる。
(4)筋肉(骨格筋)
筋肉は、組織学的には骨格筋、平滑筋、心筋の 3 種類に分類できる。ここでは骨格筋について
述べる。
骨格筋とは自らの意識で動かせる筋肉で、筋肉全体の約 40~50%を占め、ほとんどが関節を
またぐように結びついている。形状は様々であるが、骨格筋は、筋線維(筋細胞)が多数束ねられ、
その両端が腱につながり、骨に付着する構造になっている。また、筋肉は伸縮が可能だが、成人
になると長さ自体は変化しないため、伸縮の度合いには限界がある。
骨格筋の役割には以下の 6 つがある。
①身体を動かす
骨と骨を繋いで収縮することで関節を動かす。
②関節の安定
対になる筋肉が同時に収縮することで関節を安定させる。
③エネルギーを作る
体を動かすエネルギーの貯蔵庫。
④熱の発生
筋肉を収縮させることで熱を生み温度調整を行う。
⑤衝撃の吸収
内臓や骨などを衝撃から守る。
⑥ポンプ作用
筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで血液の還流を促進させる。
また、骨格筋があることで関節が安定するため、姿勢の保持を可能にしている。
骨格筋は関節をまたいで複数の骨に付着しているが、1つの関節をまたいでいる筋を単関節筋
(ヒラメ筋や大臀筋など)、複数の関節をまたいでいる筋を多関節筋(ハムストリングスや上腕二頭
筋など)と呼ぶ。
2.スポーツ傷害の種類
(1)外傷と障害の違い
傷害は、外傷と障害に大別される。外傷は、スポーツにおける転倒や衝突など、1回の外力に
より組織が損傷されて発生することで、急性外傷とも呼ぶ。障害は、長期間に繰り返される過度の
運動負荷など、組織が慢性炎症性変化を起こすことで、慢性障害とも呼ぶ。
(2)外傷の症状と代表的な外傷
外傷の症状には、疼痛、熱感、腫脹、発赤、出血、変形、圧痛、感覚障害、筋力低下、異常可
動性などがあり、代表的な外傷には以下の 5 つがある。
○打撲
固い物へぶつける、人どうしが接触するなどにより、人体の一部を激しく強打した状態
○骨折
骨に牽引・圧縮・ねじれなどの力が加わり、構造の連続性が絶たれた状態
連続性が完全に断たれた状態を完全骨折、部分的に断たれた状態を不全骨折という
○脱臼
関節を構成する骨同士の関節面が、正しい位置関係を失っている状態
○捻挫
関節が正常範囲以上に動く力が加わり、関節を包む関節包や骨と骨とを繋ぐ靭帯及び
軟部組織を損傷した状態
○挫傷(肉ばなれ)
筋肉や腱が無理に伸ばされることによって起こる状態
その他、神経損傷、血管損傷、脳震盪、臓器破裂がある。
では、より具体的に、主な外傷について確認していこう。
①捻挫
不自然な形にひねることで関節の靱帯や腱、軟骨、などが傷つく損傷で、多くは患部に
痛みと腫脹、熱感を伴う。足首や指などに多くみられ、突き指も捻挫の一種である。足首の
捻挫を経験したことのある方は多いかと思うが、この足関節捻挫は最も頻度の高いスポー
ツ外傷のひとつで、内返し捻挫(内反捻挫)と外返し捻挫(外反捻挫)の 2 種類がある。
内返し捻挫は、足の裏が内側を向くように足関節をねじることによって発症する。足関節
の外側には前距腓靭帯、踵腓靭帯、後距腓靭帯という 3 本の靭帯があるが、内返し捻挫
においてはそれらの靭帯が過度に伸張され、損傷が生ずる。特に損傷の頻度が高いのは
前距腓靭帯である。軽度な症状のものから、骨折を伴う重度なものまで重症度は幅広い。
外返し捻挫は、足の裏が外側に向くように足関節をねじることによって発症する。本来
足関節は外側に曲がりにくい構造になっているため、より大きな力が外から加わらなけれ
ば発症しにくい。したがって外返し捻挫の大半が重度の捻挫であり、骨折している可能性
もある。
②チャーリーホース(打撲)
大腿部前面の筋肉への打撲とその後の筋肉硬直のことをさす。大腿部前面に強い打撃
が加わり、筋肉が大腿骨の硬い表面と打撃の間にはさまれてしまうことで起こる。サッカー
やラクビーといった、選手同士の接触の多いスポーツでよく起こり、筋肉の硬化現象(骨化
性筋炎)が起こることもある。受傷後数日してから受傷部の下方に内出血がみられる。
③ 関節脱臼
脱臼とは、関節を構成する関節頭と関節窩の関節面が、正常な可動域を越えて接続し
ていた状態を失うことをいう。特に肩関節は可動域の広い多軸関節であるため、全脱臼の
90%を占める。外転位での外旋、水平伸展により受傷し、反復性に移行しやすい。初回脱
臼が 10 代だった者の 90%が、2 度、3 度と脱臼を繰り返してしまう。
(3)障害の症状と代表的な障害
障害の原因は、過使用(over use)と過負荷(over load)に分類され、筋柔軟性の低下、関節弛
緩性、アライメント異常(骨・関節の配列の異常)、フォームやトレーニング方法の誤り、練習の量
や質の問題などが発生の要因となる。
障害の症状には、疼痛、腫脹、圧痛、感覚障害、筋力低下があり、外傷よりは腫脹の症状は出
にくく、外傷よりも治るのが遅いのが特徴である。
代表的な障害には以下の 4 つがある。
○筋・筋膜性腰痛
いわゆる『ぎっくり腰』のこと。頻度の高い傷害で、様々なスポーツ活動などの際に、
腰の筋膜や筋肉の損傷によって起こる腰痛の一種。
○シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
脛骨(スネの内側の骨)の筋付着部分に、多種の原因によって繰り返しストレスが加
わることで発生する。主にランニング動作の多い競技に起こりやすいが、学期の始めや
リハビリからの復帰など、練習量が急に増える時に起こりやすい。
○腸脛靭帯炎
いわゆるランナー膝。膝の外側に緊張や違和感を持ち、その症状が徐々に灼熱感に
変ってくる。過度のランニングやアライメント異常(O 脚)が原因となる。膝の曲げ伸ばし
の動作によって、腸脛靭帯が膝の外側の骨を乗り越えるたびに痛みを伴う。
○疲労骨折
ランニングやジャンプなどによって骨の同じところに繰り返しストレスがかかり、内部に
微細な骨損傷が生じる。その微細な骨損傷が修復する前にそのまま運動を続けること
で新たな微細な骨損傷が生じ、骨折の治癒過程と同じ状態を表す。最終的に完全な骨
折にいたることもある。
○椎間板ヘルニア
脊柱(背骨)の間の椎間板の繊維輪(外側の硬い部分)に亀裂が生じ、髄核(中心部分)
が繊維輪を破って飛び出し膨れてしまう。飛び出した(膨れた)椎間板が神経などを圧迫
する事により、激しい痛みや痺れなどの症状を引き起こす。
※椎間板とは
脊柱を構成している個々の骨の間に存在する円形の線維軟骨のことを椎間板とい
い、ゼリー状で荷重や圧迫などによる衝撃吸収体として働く髄核と、繊維状で年輪
の様な構造になっている線維輪から成り、椎骨にかかる衝撃を吸収する。
(4)骨端症について
成長期にある骨端部が壊死(えし)を起こす病気の総称を骨端症という。
子供の骨(主に手足の長い骨)には骨端発育線と呼ばれる、骨の長さが伸びる部位があるが、
何らかの理由で骨端の血液の循環が悪くなり、骨端核を含めて組織が腐っていき、骨端部に骨壊
死が生じる。
骨端発育線は他の部位に比べて力学的に弱く、スポーツなどでの慢性の負荷により痛みや疲
労性骨折の様な状態になる。
代表的なものとして膝に起こるオスグットシュラッター症や、かかとに起こるシェーバー症などが
あり部位によって好発年齢も変わってくる
3.準備運動・整理運動
(1)準備運動・整理運動の目的と効果
怪我の予防として重要なのは、準備運動と整理運動である。
体を動かすのは筋肉であり、筋肉は伸び縮みすることで動きやすい状態になる。すなわち、①
筋肉の柔軟性を高める、②体が運動を始める準備をする、③体温を上げて怪我のしにくい状態に
する、ために準備運動は必要なのである。
また、筋肉を動かす(力を入れる)と疲労物質がたまり、それをそのまま放置しておくと筋肉は縮
んだまま固まってしまい、筋肉が伸びにくい状態になってしまう。この結果、筋肉が硬くなってしま
うのである。整理運動は、疲労回復のために必要なのである。
運動指導者は、準備運動と整理運動の重要性とその効果を、必要不可欠な知識としてしっかり
理解しておこう。
≪準備運動と整理運動の効果≫
1.関節の可動域(動く幅)を広げ、筋の緊張をとる
2.血液循環を良くし、疲労物質を流す
3.筋痛を和らげる
4.ケガの予防・競技パフォーマンスの向上
(2)準備運動・整理運動の種類
準備運動・整理運動の種類には、静かに筋を伸ばすスタティックストレッチング、動かして伸ば
すバリスティックストレッチングとダイナミックストレッチングの 2 タイプ 3 種類がある。
ダイナミックストレッチングとは、たとえばサッカーでいうブラジル体操のようなものである。その
目的は心拍を上げ、今から運動を始めることを心臓に伝えることにあり、準備運動に適している。
バリスティックストレッチングは反動を使ったストレッチで、小さな反動から少しずつ動きを大きくし、
最終的に関節の可動範囲いっぱいに動かしていくものである。導入には注意が必要だ。
スタティックストレッチングは、例えばヨガのようにゆっくり呼吸を整えながら行うもので、整理運
動に適している。スタティックストレッチングでは、1 箇所を 15 秒から 30 秒かけて伸ばすので、筋
肉が弛緩してリラックスできる。逆に、準備運動で 1 箇所を 15 秒から 30 秒かけて伸ばしてしまう
と、筋肉が緩んでしまうので、その後のパフォーマンスで力が出なくなる可能性がある。
方法
・反動や弾みをつけない
スタティック
ストレッチング
・伸ばした状態を維持する
・30 秒程度かけて行う
利点
欠点
・伸張反射が起きにくいため、
・全身を行うのには時間がか
筋肉痛になりにくい
→クーリングダウンに適している
かってしまう
・運動前に行うと、筋肉がリラッ
クスしすぎて力が出ない可能
性がある
・反動や弾みをつけて行う
バリスティック
ストレッチング
・一般に、同じ動作を 8 回から
12 回程度繰り返す
・筋肉の反応を出すのに短時
間で行える
・関節の動く幅を広げやすい
・急激な反動により、伸張反
射が起こりやすい
・怪我の再発を引き起こす可
能性がある
・相反性神経支配を利用
ダイナミック
ストレッチング
・パフォーマンスを発揮するのに効
・動きの中にストレッチングを混ぜ
て行う
果的
→ウォーミングアップに適している
・正確な動きが必要
・伸張反射を起こす可能性が
ある
・関節可動域が獲得しやすい
※伸張反射:急に引き伸ばされることにより、筋が収縮してしまう反射
※相反性神経支配:前の筋が縮むと反対の裏の筋肉が緩むという現象
子どもは体が柔らかいので、準備運動や整理運動はいらないのではないか、という意見がある。
しかし、子どもが大人になるにつれて体が硬くなるのは、ストレッチをやっていないことも要因にな
る。子どもが運動を始めるときには、是非準備運動としてダイナミックストレッチングを、運動を終
えるときには整理運動としてスタティックストレッチングを行う。次節の『子どもの準備運動と整理
運動』の例を参考にしていただきたい。
(3)子どもの準備運動と整理運動
以下の運動を行う上で重要なのは、体の前後・左右と、バランスよく行うことである。
◎ダイナミックストレッチ(10 分程度時間をかけて行う)
○その場にとどまって行う運動
①伸脚
【目的】
足の内側の筋肉を伸ばす
【実施の際の注意点】
曲げている方の足のつま先と膝の方向を一緒にする
②アキレス腱
【目的】
ふくらはぎ、アキレス腱を伸ばす
【実施の際の注意点】
後ろ足の踵を浮かせない
③前屈
【目的】
腰の筋肉を伸ばす
【実施の際の注意点】
膝をできるだけ曲げない
④上体そらし
【目的】
お腹、胸の筋肉を伸ばす
【実施の際の注意点】
足の幅は肩幅に広げる
⑤腕・手首伸展
【目的】
前腕を伸ばす
【実施の際の注意点】
腕を曲げない
⑥首回し
【目的】
肩から首にかけての筋肉を伸ばす
【実施の際の注意点】
ゆっくり回す
⑦手足ぶらぶら
【目的】
手首足首を伸ばす
【実施の際の注意点】
無理しない程度に大きく動かす
○動きながら行う運動
①前向きジョグ
【目的】
心拍を上げる
【実施の際の注意点】
早く走りすぎない
②後ろ向きジョグ
【目的】
後ろ向きの感覚を取得
【実施の際の注意点】
後ろに壁などがあるときはぶつからないように注意する
③横歩き(左右)
【目的】
横向きの動きの感覚を取得
【実施の際の注意点】
膝とつま先の向きは一緒にする
④前スキップ
⑤後ろスキップ
【目的】
片足で前に蹴る感覚を取得
【実施の際の注意点】
膝とつま先の向きは一緒にする
⑥小ジャンプ・大ジャンプ
【目的】
着地の感覚を取得
【実施の際の注意点】
着地をした際の膝とつま先の向きは一緒にする。
(小ジャンプ)
(大ジャンプ)
◎スタティックストレッチ(5 分程度時間をかけて行う)
①ネコ
【目的】
背部、腰部を伸ばす
【実施の際の注意点】
腰の痛い人は可能な範囲で行う
②オットセイ(20 秒キープ)
【目的】
お腹、胸の筋肉を伸ばす
【実施の際の注意点】
腰の痛い人は可能な範囲で行う
③手足ぶらぶら
【目的】
手首足首を伸ばす
【実施の際の注意点】
無理しない程度に大きく動かす
④親子で前屈
【目的】
親子のコミュニケーションを取る。腰の筋肉を伸ばす
【実施の際の注意点】
柔軟が不足していたら、膝を曲げる
⑤親子で背屈
【目的】
親子のコミュニケーションを取る。背部を伸ばす
【実施の際の注意点】
お尻をついて寄りかかる感覚で行ってもよい
⑥ブリッジ(床から頭が浮く・10 秒キープ) ← 可能であれば
【目的】
肩部の可動域を広げる
【実施の際の注意点】
無理をするとケガをする可能性が高いので、初めは補助者をつけて行う
4.RICE 処置
怪我をした人が医療機関へ行くまでの間、怪我した部位の炎症を最小限にとどめるために行う
応急処置を『RICE 処置』という。この処置が早ければ早いほど、怪我の回復は早くなる。
RICE 処置の R は安静(REST)、I は冷却(ICE)、C は圧迫(COMPRESSION)、E は挙上
(ELEVATION)を意味する。
RICE 処置のやり方は以下の通りである。
①Rest ~患部を動かさないようにして安静に保つ~
怪我をした際は、二次的な悪化を防ぐために怪我人の体や患部を無理に動かさず、ま
た、体重がかからないように安静に保つようにする。テープや厚紙、板きれなど、その場に
あるものを活用して固定する。 上肢はタオルなどで固定する。
②Ice ~患部を冷却(アイシング)して痛みを緩和する~
患部を冷却(アイシング)することで、内出血や炎症(腫れや痛み)を抑える。
アイシングを始めると、患部に感じる『冷たい』という感覚が次第に『痛い』という感覚に
変化し、さらには『温かい』という感覚に至る。この感覚が最終的に無感覚の状態へと移行
する頃が、アイシングを止めるタイミングとなる。
1 回のアイシングにかける時間は、小さい筋肉なら 5~10 分程度、足首や手首のような
中くらいの筋肉なら 15~20 分程度、大腿四頭筋やハムストリング、腰などの大きい筋肉は
30 分程度がよいだろう。40~60 分はアイシングを休む。このサイクルを 24~72 時間、でき
る限り繰り返す。
アイシングの際は、冷やし過ぎによる凍傷に注意しよう。アイシングに適しているのは、
水滴のしたたる溶けかけの氷である。氷に霜があり、指にくっつくような氷は凍傷を起こす
可能性があるので注意が必要である。
また、寒冷じんましんのでる人はアイシングに向かない。かゆみや湿疹のでる人はタオ
ルなどのクッションの上からアイシングを行うのがよい。
アイシングの際は、以下のものを使用する。
・アイスパック … 氷を入れた袋を患部にあてる
・アイスバケツ … 氷水を入れたバケツなどに患部を直接つける
・アイスマッサージ … 紙コップなどに作った氷でマッサージする
・コールドパック … ゲル状のアイスパックを患部にあてて巻きつける
冷湿布は、アイシングにはあまり適さない。冷湿布の種類によっては患部に貼ると、血
行が良くなってしまい内出血が悪化してしまうからだ。
プロスポーツ選手がアイシングの際にラップで巻きつける姿を目にするが、ラップで巻く
と通気性が悪いために冷気がこもってしまい、凍傷する危険がある。慣れない人は、通気
性の高い『アンダーラップ』や『バンテージ』を使用するとよい。
また、子どもがアイシングをする際は、冷却を終えるタイミングは時間で区切ったほうが
よい。早く冷却を終えたい子どもが、患部が『温かくなってきた』、『感覚がなくなってきた』な
どと嘘をつく可能性があるからだ。実際に子どもにアイシングする際の参考にしていただき
たい。
※アイスパックの作り方
1.氷を入れる(分量は完成時の大きさによって異なる)。
2.氷全体を平らにして並べる。この時、一箇所に氷が集まらないよう、
全体にまんべんなく広げる。
3.空気を吸い取り、真空状態を作る。また、口と袋の間に隙間が
できないように工夫する。
4.空気が入ってしまわないように袋のはじを引っ張って紐状にし、
袋の口を結び上げる。
注)真空状態のアイスパックは冷却効率を上げ、熱の伝導率も上昇する。
③Compression ~圧迫して出血や腫れを防ぐ~
患部を圧迫すると、出血や腫れを防ぐことができる。患部を弾性包帯(伸縮包帯)やテー
ピングなどで適度に圧迫しながら巻いていく。
圧迫が強すぎると、血管や神経を傷つけてしまうので、巻いていく際の強さの加減には
十分注意し、また、常に圧迫している部位から先の手足の指の色や感覚を確認しよう。
④Elevation ~患部を心臓より高く保って内出血を防ぐ~
患部を自分の心臓より高い所に持ち上げることで内出血を防ぎ、痛みを緩和させる。ク
ッション、枕、椅子など、手頃な高さのものの上に患部を乗せておく。
アイシングの期間中、入浴はあまり勧めない。湯船につけることで患部が温まってしまい、腫れ
てしまうからだ。入浴をさけてシャワーのみにするとか、患部を浴槽に入れないような工夫が必要
となる。また、2~3 日経っても痛みが引かない際は、骨折や靭帯に問題のある可能性も考えられ
るので、医療機関へ行くべきである。
5.創傷
(1)創と傷
『創』とは、皮膚の破綻を伴う状態のことで、 皮膚に傷がつき、実際に出血している状態である。
『傷』とは、皮膚の破綻を伴わない状態のことで、皮下組織に損傷のあるものである。外傷はある
が、内出血や打撲で皮膚に傷がない状態である。
(2)代表的な創傷の種類
代表的な創傷は以下の通りである。
①擦過傷(さっかしょう)
いわゆる擦り傷のことである。体表に創があるものの、一般的には擦過『傷』と呼ぶ。創面
は不整で、浅く広い事が多い。人工芝や床では火傷状になる事があり、土や砂の入り込みが
多い。痛みは比較的強く、化膿しやすい。
②切創(せっそう)
いわゆる切り傷のことである。鋭利な刃物で切れた線状の損傷で、創面は滑らかである。
深さや位置によっては筋や腱、神経を切る事もある。組織の挫滅は少ない。
③裂創(れっそう)
打撃や皮膚の過度な伸張により裂けた損傷で、外力の加わり方によって様々な形状とな
る。皮膚縫合の適応となる場合が多く、出血は多い。
④刺創(しそう)
いわゆる刺し傷のことである。尖った鋭利な刃物で突き刺した損傷で、創口に比べて創が
深いのが特徴である。外見からは内部の損傷程度を確認するのが難しく、血管や臓器まで
損傷している場合もある。物体が深く刺さったままであれば抜かずに医療機関へ行くようにし、
抜けてしまった場合には深さを確認するようにする。
(3)治癒のメカニズム
治癒の過程を確認しよう。出血直後の炎症期(出血してから 3~4 日)では、血小板などの働きに
より数秒で血が止まった後に滲出液(透明な液体)がにじみ出てくる。その下で白血球などが細菌
や汚染物質を除去していく。
増殖期(炎症期後半から 1~2 週間)では、外気に触れた滲出液が乾いてかさぶたになる。かさ
ぶたの下では、残った滲出液に手助けされて表皮が再生される。コラーゲンや毛細血管などが生
まれ、キズを埋めるように組織がつくられていく。
成熟期(増殖期後半から 1 年以上続く)では、表皮が元どおりに再生するが、表皮の下では元
の状態に戻ろうと細胞が常に活動している。やがて組織が収縮し、傷はだんだんと小さくなる。
(4)創傷への対応・処置
創傷への対応としては、まず傷の状態を観察する。観察の段階で損傷の程度が激しい場合は、
すぐに医療機関へ行くようにする。
創傷の種類や位置、損傷の程度を把握し、手に負える損傷であると判断できる場合には、患部
を洗浄する。これは異物除去や感染防止が目的で、流水か生理食塩水を用いる。その後、衛生
材料を用いて直接圧迫して止血する。最後に、衛生材料や粘着シート・テープ類を用いて患部を
保護する。
6.熱中症
(1)熱中症とは
高温・多湿の環境下で、体温調節や循環機能などの働きに障害が起こり、めまい、失神、頭痛、
吐き気、気分が悪くなる、などの症状の現れるのが熱中症である。日射病とは違い、熱中症は屋
内・屋外を問わず起こるため、室内でも発症するケースも多い。
日本神経救急学会による熱中症の重症度分類と対応は以下の通りである。
・I 度(軽症)
症状…めまいや立ちくらみ、気分が悪い、手足がしびれる、足がつる(こむら返り)、筋肉の
痛みや硬直
対応…日陰で休む、水分を補給する、衣服を緩め、体を冷やす
・II 度(中等症)
症状…頭痛、吐き気・嘔吐、体がだるい、力が入らない
対応…医療機関補液を受ける
・III 度(重症)
症状…返事がおかしい、痙攣する、真っ直ぐ歩けない、体が熱い、意識喪失
対応…救急車で搬送し、入院治療を行う
(2)熱中症の予防
熱中症を予防するために、以下のことに注意を払うようにしよう。
①暑いときの無理な運動
熱中症の発生は、気温や湿度、風速、直射日光の影響によるので、環境条件に応じた
運動、休息、水分補給の計画を立てるようにしよう。
②急な気温上昇への配慮
暑熱環境下で運動する際は約 1 週間かけて徐々に体を暑さに慣れさせていく必要があ
るように、ヒトの体は急な暑さに即座に順応することは難しい。急に暑くなった場合は運動
の予定を減らすなどの対応が必要になる。
③ 失った水と塩分の補給
スポーツ活動中は、発汗を通して体温の上昇を調整している。したがって、失った水分
を補わないと脱水していくので、運動前や運動中、こまめにスポーツドリンクなどで水分を
補給するようにする。運動前は 30 分前までに、運動中は 15 分おきの補給が目安だが、の
どが渇く前に飲むようにしよう。また、水温についても 5~15℃くらいに冷やしてあるとよい。
注意点として、脱水予防のために塩の錠剤だけを摂取するのは止めたほうがよい。発汗
に必要な水分を胃へ集めることになってしまうからだ。塩の錠剤を摂取する際は、必ず水
も飲むようにしよう。
なお、水分補給の詳細については、第 4 章、スポーツ栄養学の基礎を参照していただき
たい。
④体重から分かる健康と汗の量
自分の体重の 2%に相当する量の水分を損失すると、脱水症状が現れてくる。運動によ
る体重減少が 2%を超えないように水分補給を心がけよう。
⑤運動中の衣服について
スポーツ活動中の衣服については、通気性や吸湿性の良いものを選ぶようにする。ま
た、こまめに着替えてきちんと汗を処理すること、休憩中は衣服を緩めてできるだけ熱を逃
がすような配慮も必要だ。
⑥体調不良時の運動
体調不良時には体温調節能力が低下しているので、疲労、発熱、下痢など、体調の悪
い時は無理に運動をしないようにする。 また、肥満傾向の人に熱中症による死亡事故が
多く起きており、その点にも注意が必要である。
(3)熱中症患者への対応の手順
熱中症の予防のために上記のような対策を図ることが肝心だが、もしもの際に備えて、熱中症
患者への対応について簡単にまとめておく。
・熱中症患者への対応手順
①風通しのよい日陰に搬送し、横にする
②衣服を緩め、必要に応じて脱がせる
③バイタルチェック(血圧、脈拍、呼吸、体温)
④水(常温水がよい)をかける、うちわで風を送るなどして体を冷却する
⑤頭部、頸部、わきの下、大腿部の付け根など、太い血管のある部分に氷をあてて
血液を冷やす
⑥失神、顔色蒼白、頻脈の場合は仰向けにして足を 30°挙上する。
⑦水分を補給する。
意識がはっきりとしない状態が続く、頭痛などの自覚症状が続く、吐き気や嘔吐などで水分補
給ができない、その他少しでも異常を感じる場合や上記の手順を経ても症状が改善しない場合に
は、救急車を要請するようにする。もちろん、救急車を待つ間の身体の冷却、意識が消失している
場合には心肺蘇生の試みも忘れないようにしよう。
7.心肺蘇生法
(1)一次救命処置(BLS)
スポーツ現場における救急処置(手当)は、①応急手当のみで終了する場合、②応急手当の後
に病院へ搬送する場合、③現場で救命のための手当を実施すべき場合の 3 つに大別される。
③の現場で救命処置が必要な場合というのは、患者が心肺停止の状態にある時で、最も重要
なのは、早期に除細動を実現することである。そのために実施するのが、一次救命処置(BLS)で
ある。具体的には、心肺蘇生法、AEDを用いた除細動などである。
(2)一次救命処置の具体的な手順
除細動までの時間が 1 分遅れるごとに生存率は 10%低下してしまうと言われる通り、心停止の
際の応急処置は『秒』を争う。倒れている人に反応がない場合、以下の手順を実践してほしい。
≪一次救命処置の手順≫
①意識確認
周囲の安全を確認しながら、倒れている人に「大丈夫ですか?」と肩をたたきながら声を
かけ、意識の確認を行う。
②周囲に助けを求める
動きや返事などの反応が無ければ、「誰か来てください。人が倒れています!」と、大声
で周囲に助けを求める。
③救急車と AED の手配
周囲に人が集まってきたら、「救急車を呼んでください」、「AED を持ってきてください」と
頼み、救急車と AED の手配をする。
④呼吸の確認
普段通りの呼吸ができているか、胸や胸部の動きを 10 秒以内で確認する。
⑤胸骨圧迫(30 回)
普段通りの呼吸ができていない場合は、胸骨圧迫(胸の真ん中)を 30 回行う。胸骨圧迫
は、真っ直ぐに肘を伸ばして体重をかけて押すようにする。
胸骨圧迫のポイントは、①少なくても胸が 5cm 沈むまで強く、②少なくても 100 回/分の
速さで、③絶え間なく続けることである。
子どもの場合は、十分に胸が沈み込む程度(胸の厚さの 1/3 程度)に胸の真ん中、胸骨
の下半分をしっかり圧迫するようにする。
なお、突然心停止となった場合には、息をしているように見えても、ゆっくりとあえぐよう
な死戦期呼吸やけいれんが認められることがある。死戦期呼吸やけいれんの判断が難し
い場合、また、自分の判断に自信がもてない場合も、胸骨圧迫を 30 回行うようにしよう。仮
に心停止ではなかったとしても、胸骨圧迫によって状態を悪化させることはない。
⑥人工呼吸(2 回)
胸骨圧迫の後、1 秒ほどの時間をかけて胸の上りが見える程度の量を 2 回吹き込む。
ただし、口対口の人工呼吸がためらわれる場合や一方向弁付人工呼吸用具がない場
合、血液や嘔吐物などにより感染危険がある場合には、人工呼吸を行わずに胸骨圧迫を
続けるようにする。
⑦胸骨圧迫 30 回と人口呼吸 2 回を繰り返す
胸骨圧迫 30 回と人口呼吸 2 回のセットを繰り返しながら、AED の到着を待つ。
⑧AED を用いた電気ショックを行う
AED とは、「自動体外式除細動器」のことで、心停止状態の心臓に対して電気ショックを
行い、心臓を正常なリズムに戻す医療機器である。AED は、心電図を自動的に解析し、電
気ショックの必要性を判断してくれるので、AED の指示に従いながら落ち着いて救命処置
を進める。
○AED 操作の手順
1.電源を入れる
2.電極パッドを胸に貼る
・パッドを貼る位置は、パッドに書かれている絵を参考にする。
・胸が汗などでぬれている際は拭き取ってから貼る。
・シップ薬など、何かが貼られていたらはがす。
・就学前のこどもには、小児用電極パッドを貼る。無ければ成人用で代用する。
3.AED が自動的に心電図を解析する
・心電図の解析中は、倒れている人から離れ、体に触れないようにする。
4.電気ショックが必要であると AED 判断したら、ショックボタンを押す
・ショックボタンを押す前に、倒れている人に誰も触れていないことを確認する
5.以後は AED の音声メッセージに従う
上記の手順は、倒れている人からの応答、嫌がるなどの動きや目的あるしぐさ、普段通りの呼
吸が出現するか、救急隊に引き継ぐまで続ける。
前述の通り、救命の可能性は時間とともに低下するが、一次救命処置によって救命の可能性
は高まる。行動を起こすことを恐れないでいただきたい。
なお、応急処置の方法は定期的に改正されていくが、本節では東京消防庁のホームページに公
開されている救急アドバイスを参照している。
8.まとめ
(1)子どものケガについて
最後に、子どもに多い主な怪我についてまとめておきたい。
①突き指
突き指とは、指の腱・関節・靭帯等、指の組織をいためる事の総称で、足の指を突き指
することもある。よく、指を引っ張って突き指を治そうとする人がいるが、痛めている腱や靭
帯に更なる負荷をかけることになるため、適切な処置ではない。アイシングによる処置がよ
い。
【主な原因】
ボールを指先で受けてしまった時など
【症状】
受傷部に痛み・腫れ・圧痛が生じる
【合併】
骨折
【復帰】
受傷状態によるが、6 週間程度
②手関節骨折
手関節骨折は、倒れたときに腕を伸ばした状態で手を着くなどして起こる。適切なリハビ
リはもちろん、痛みを伴う動作は避けるように心がける。
手関節骨折との合併症として、肩の脱臼には注意が必要だ。肩は一番脱臼しやすい所
で、簡単に外れてしまう。肩が脱臼した際に、医療機関へ行かずに自分で肩の骨を入れて
しまうことがある。その場合に肩に痛みを残すことがあるが、関節窩を巻き込んで骨が入っ
ていることが原因である可能性が高い。医療機関で一旦骨を抜き、きちんと嵌めなおさな
いと元に戻らなくなってしまう。
【主な原因】
腕をのばした状態で手を地面についた時など
【症状】
圧痛、関節を曲げにくいという症状で、骨折かどうか分かりにくい事がある
【合併】
脱臼
【復帰】
ギプス固定の場合 8〜12 週
③足関節骨折
【主な原因】
方向転換やジャンプの着地において多発する
【症状】
患部に触れただけでも痛みがあり、腫れや変色もある
【合併】
靭帯・筋・血管・神経までも損傷する可能性がある
【復帰】
約 6 週間のギプス固定後にリハビリが必要で、一般的には骨折が治癒しても 6 ヶ月
間は復帰しない方が良い
④脳しんとう
脳しんとうの症状は意識障害である。合併症には急性硬膜下血腫(頭部に衝撃を受け
たときに、頭を切ってしまい、脳の中に血液が溜まってしまうこと)があるので注意が必要
だ。脳への衝撃を和らげるために頸部の筋力を鍛えることが、脳しんとうの有効な予防策
のひとつである。
脳しんとうの患者は、安静にしてその場から動かさない方がいい。意識レベル・呼吸・脈
拍のチェックを行い、頭・頸部をアイシングし、意識が戻ったら、名前・年齢・家族の名前等
について質問するようにする。
【主な原因】
脳に衝撃を受ける事で起こる
【症状】
軽い意識障害(出血がなく、比較的短時間で回復する)
【合併】
急性硬膜下血腫
【復帰】
軽い有酸素運動から初めて、徐々に通常の運動に復帰させる
(2)まとめ
スポーツ活動には常に怪我をするリスクが伴う。そのリスクを軽減するために、準備運動と整理
運動は必ず行うようにしよう。また、怪我をしてしまった人にはいち早く RICE 処置を施し、それでも
痛みがひかなければ医療機関へ行くようにする。心肺蘇生法や AED の知識も人命救助には欠か
せない。指導者として本章の内容をしっかり把握することで、緊急時に確実な処置を施せる準備を
しておこう。
第4章
スポーツ栄養学の基礎
監修: 株式会社 明治
1.幼児期、学童期の特徴
(1)子どもの発育・発達と運動能力
スキャモンの発育・発達曲線で確認した通り、リンパ型、神経型、一般型、生殖型の器官や機能
が、年齢に応じて一様に成長していくわけではない。その年齢に応じた発育・発達の特徴と運動
能力の関係については、宮下充正らによる考え方がある(図 1)。
図 1 発育・発達パターンと年齢別運動強化方針 (宮下充正ら,1986)
図 1 のグラフによれば、一番初めに大きく発達するのは、「動作の習得」(神経系の発達)であ
る。 5 歳から 9 歳の頃に、ボールを投げる、ジャンプするなどの手や足を使った動作を習得して
いく。
次に、中学生の頃に最後まで戦えるような「粘り強さ」(持久力)を習得し、その後「身長」の発達
のピークを迎え、身長の伸びが落ち着いてきた頃に、ようやく「力強さ」(筋力)の発達がみられる。
このように、子どもの運動能力は発育発達段階によって異なるということ、また、高校生の頃ま
では発達が著しい成長期であるということを理解しておく必要がある。
運動プログラムは、プレ・ゴールデンエイジの子どもを対象としているが、この時期はゴールデ
ンエイジへと繋がっていく準備段階であり、また食習慣の形成にも関わる重要な時期である。健全
な発育・発達のため、また正しい食習慣形成のため、食事面からのアプローチも重要となる。
(2)子どもの身体的変化と食環境の変化
震災後、福島県の肥満傾向児の割合が増加している。この問題に対して、食事面から対策を
講じようとしている方もいるかもしれない。しかし、幼児期や学童期に肥満であると判断されたから
といって、単純に食事を削ってダイエットしようとする発想は、実はとても危険である。
幼児期や学童期に食事が偏ると、成長するために必要な栄養素が不足し、背が伸びにくい、カ
ラダが細い、ケガをしやすい、貧血になる、といった様々な問題が生じる可能性が高まる。5 歳か
ら 8 歳の年代は、ゴールデンエイジに向けたカラダづくりの基礎となる時期であるため、成長に必
要な栄養素をバランスよくとることが重要なのである。幼児期や学童期に肥満体型であっても、身
長の伸びが進むにつれて肥満が解消され、標準体型になる例もある。成長期は健全な発育・発
達のため、極端な食事制限はすべきではない。
一方で、肥満になるほど食べているのかというと、近年における子どもの食環境の変化で注目
すべきは、朝食の欠食率が低年齢化している点である(表 1)。
欠食が低年齢化しているにも関わらず、肥満が存在するということは、結局のところ、揚げ物な
ど脂質の多い食事や間食のおやつなどが原因で肥満に繋がっている可能性が高い。その肥満の
解消のために朝・昼・晩の三食の食事を減らしてしまえば、結果として栄養不足となり体調を崩し
やすいなど心身の健全な発育の妨げとなる。
食事のとり方の基本は、朝・昼・晩の三食を欠かさず食べ、成長に必要な栄養素をバランスよく
とることである。特に朝食は、食べないことがイライラ感や集中力、根気といった精神面、運動能
力、さらには学業にも大きく影響するため(表 2、図 2)、幼児期・学童期から朝食をとる習慣付けを
行い、正しい食習慣の形成を促すことが重要である。
表 1 朝食のとり方
1歳
毎日食べる
1 歳 6 か月
2歳
3歳
4歳
5〜6 歳
92.6%
93.3%
91.4%
92.8%
94.5%
95.0%
週に 1〜2 回ぬく
4.6%
3.9%
4.8%
4.8%
3.5%
3.2%
週に 3〜4 回ぬく
0.2%
0.2%
0.6%
0.6%
0.3%
0.2%
週に 1 回〜2 回しか食べない
0.7%
1.0%
0.9%
0.5%
0.8%
0.6%
その他
1.6%
1.3%
1.8%
1.1%
0.5%
0.2%
不明
0.4%
0.3%
0.5%
0.2%
0.5%
0.8%
平成 22 年度幼児健康度調査より抜粋
表 2 朝食を毎朝食べているかと基礎的運動能力の関係
11 歳 男子
50m 走
立ち幅とび
ソフトボール投げ
11 歳 女子
14 歳 男子
14 歳女子
毎日食べる
時々食べない
毎日食べる
時々食べない
毎日食べる
時々食べない
毎日食べる
時々食べない
8.88 秒
8.90 秒
9.21 秒
9.36 秒
7.51 秒
7.69 秒
8.69 秒
8.83 秒
166.95 ㎝
165.20 ㎝
155.66 ㎝
150.38 ㎝
212.18 ㎝
206.69 ㎝
172.33 ㎝
167.04 ㎝
30.55m
29.19m
17.81m
18.84m
24.41m
24.55m
14.75m
14.70m
文部科学省「平成 20 年度 体力・運動能力調査より抜粋
38.7%
41.8%
47.5%
56.3%
63.2%
66.8%
72.4%
80.0%
34.5%
40.0%
37.5%
50.0%
43.2%
52.0%
60.0%
53.2%
70.0%
57.3%
80.0%
63.1%
90.0%
71.3%
小学校6年生
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
国語A
国語B
算数A
算数B
40.3%
42.9%
49.3%
60.1%
46.8%
65.8%
49.5%
50.0%
55.5%
60.0%
58.2%
62.1%
68.7%
77.1%
65.0%
70.0%
67.5%
80.0%
72.5%
90.0%
79.1%
中学校3年生
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
国語A
国語B
数学A
数学B
左から、①毎日食べている、②どちらかといえば食べている、③あまり食べていない、④全く食べていない、を示す。
※「国語 A、算数・数学 A」は主として「知識」に関する問題、「国語 B、算数・数学 B」は主として「活用」に関する問題
文部科学省「平成 21 年度 全国学力・学習状況調査」
図 2 朝食を毎日食べているかと学力の関係
(3)保護者の食に対する知識
子どもは食事を、例えばコンビニエンス・ストアで買うなどして、自分で調達することはあまりな
いだろう。保護者が準備して食べさせることがこの世代の特徴である。つまり、子どもの食習慣は
保護者によって形成されるのだ。では、保護者がどれだけ食に対する知識があるのだろうか。適
切な食品選択や食事準備のために必要な知識があるかどうかを調べたデータがある(図 3)。
< 女性 >
100%
90%
18.2
9.1
4.2
4.0
29.6
80%
43.5
70%
< 男性 >
23.9
19.3
32.8
47.0
60%
50%
57.3
48.5
40%
40.3
20%
0%
51.6
54.1
51.2
まったくない
あまりない
まあまあある
56.0
30%
10%
17.0
十分にある
47.5
22.6
18.6
7.2
4.9
3.6
1.9
15~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳
22.6
23.0
28.1
3.7
3.7
3.3
1.9
15~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳
図 3 適切な食品選択や食事の準備のために必要な知識 (厚生労働省「平成 11 年国民栄養調査」)
子ども世代の保護者のおおよそ半分は、知識が「まったくない」「あまりない」と答えている。この
調査結果は、子どもの肥満解消のために食事面からどのように取り組めばよいか、十分な知識を
持たない保護者が少なからず存在する可能性を示している。そのような保護者に対しては、子ど
もに対する食事面からのアプローチ方法について正しい情報を提供する必要があるだろう。
厚生労働省などの国や専門機関から、親子で学べる食事に関する情報が提供されている。保
護者への情報提供のツールとして、イベントやセミナー等で活用してほしい。
○「早寝早起き朝ごはん」全国協議会
http://www.hayanehayaoki.jp/
○日本医師会キッズクラブ「たべるのはてな?」
http://www.med.or.jp/kids/seika/taberu.html
○日本栄養士会 「あなたの食育みんなの食育」
http://www.dietitian.or.jp/nutriedu/index.html
2.なぜ食べることが大切か
(1)カラダは『食べたもの』でできている
背がなかなか伸びない、集中力が切れやすい、体力がない、貧血ぎみ、カゼをひきやすい、ケ
ガが多い……。これらは、スポーツ選手や保護者がよく訴えるカラダの悩みである。実は、これら
の悩みは、食事の内容を見直すことである程度改善できる可能性がある。
カラダづくりには、栄養(食事)・運動・休養(睡眠)の 3 つの要素が関係している。カラダの材料
は私たちが 『食べたもの』 そのものであり、また、寝ている間に分泌される成長ホルモンの働き
でカラダがつくられていく。しかし、食べたものがすぐにカラダとなるわけではない。現在の自分の
カラダは、半年前、1 ヶ月前、1 週間前といった過去に自分が食べたものでできている。今日食べ
たものは、 1 週間後、半年後、1 年後といった未来の自分のカラダをつくっている。つまり、“現在
の自分のカラダは、食べたものの鏡”であるといえる。
成長が著しい幼児期、学童期は、カラダをつくるための栄養(食事)を十分にとる必要がある。
筋肉、骨、血液など、カラダの材料となる栄養素が不足すると、背が伸びない、体力がつかないな
どの結果を招く恐れがある。すべて栄養(食事)が関係しているのだ。
(2)カラダの組成と肥満について
カラダを構成する身体組成は、「脂肪組織」(いわゆる体脂肪)と、それ以外の「除脂肪組織」の
2 つに分けられる。つまり、「体重」とは、「体脂肪量」と「除脂肪量」の 2 つの合計のことである。
(体重)=(体脂肪量)+(除脂肪量)
肥満とは、体重に占める体脂肪量の割合が高いことである。よって、減量する際に減らすべき
は「体脂肪量」であり、成長期の子どもが絶対減らしてはいけないのは、脂肪以外、つまり筋肉、
骨、血液などの「除脂肪量」である。
脂質の過剰摂取は体脂肪の増加につながる。平成 25 年度国民健康栄養調査を見ると、7~14
歳の脂質の摂取エネルギー比率は 29.8%となっており、食事摂取基準の脂質摂取エネルギー比
率目標量 20~30%のほぼ上限を示している。
食習慣の形成時期でもある小児期から脂質の過剰摂取が習慣化しないよう、体脂肪が多めな
子どもの保護者は食事づくりにひと工夫が必要である。
五大栄養素をバランスよくとり、さらに体脂肪の増加につながる脂質の多い食品や料理(表 3)
を必要以上に摂取しないことが、健全な発育・発達のために重要である。
※18 歳以上は体重の変化と BMI (body mass index)を用いてエネルギーの過不足を評価する。
表 3 食品の脂質比較
脂肪の多いグループ
脂肪の少ないグループ
牛肉
ロース/バラ/サーロイン/ひき肉
牛モモ肉/ヒレ肉/ハラミ
豚肉
ロース/バラ/ベーコン/ひき肉
豚モモ肉/ヒレ肉/ボンレスハム
鶏肉
皮つきの肉
ささみ/胸肉/ターキー(七面鳥)
魚
まぐろ(トロ)/ぶり/さば/ツナ缶/サケ缶
まぐろ(赤身)/あじ/白身魚/ノンオイルツナ缶
パン
デニッシュ/クロワッサン
食パン/フランスパン/ベーグル/ライ麦パン
乳製品
クリームチーズ/普通牛乳
カッテージチーズ/低脂肪・無脂肪牛乳
調味料
ドレッシング/マヨネーズ/タルタルソース
ノンオイルドレッシング/ポン酢/しょうゆ
デザート
ケーキ/アイスクリーム/プリン/パフェ
お饅頭/シャーベット/ゼリー/杏仁豆腐
調理方法
揚げる(フライ・天ぷら・から揚げ)、炒める
煮る、ゆでる、焼く、蒸す、電子レンジ
ごはんもの
牛丼/ビビンバ/チャーハン
鉄火丼/クッパ/雑炊
パスタ
カルボナーラ(クリーム系)
ペペロンチーノ/ボンゴレ/和風
スープ
ポタージュ
コンソメ
卵料理
スクランブルエッグ/オムレツ/卵焼き
ゆで卵/目玉焼き/温泉卵
野菜料理
ポテトサラダ/フライドポテト/ドレッシングをかけたサラダ
肉じゃが/おひたし/煮物/ゴマ和え
外食
洋食、焼き肉(部位による)
和食、しゃぶしゃぶ、鍋料理
五訂食品成分表、『エネルギーを下げる料理のしかた早わかり』女子栄養大学出版部,
『家庭のおかずのカロリーガイドブック』女子栄養大学出版部より筆者加筆
(3)栄養素摂取量の目安
1 日に必要なエネルギー量は、8 歳から 9 歳の子ども(身長 130.4cm/体重 28kg)で、運動して
いる日(身体活動レベルⅢ)は約 2000kcal 程度となる。一方、運動してない大人(身長 170.3cm/
体重 63.2 ㎏)に必要なエネルギー量(身体活動レベルⅠ)は 2300kcal。つまり、身長で約 40cm 高
く、体重で約 35kg 重い大人と、運動している子どもは、ほぼ同等のエネルギー量が必要となる。
また、運動していない子どもでも、10 歳を過ぎると大人と同じくらいの栄養素量が必要となる。
特に、骨の材料となるカルシウムや、血液の材料となる鉄は、大人よりも多く必要である(表 4)。
表 4 カルシウムと鉄の推奨量
カルシウム
鉄
10~11 歳
男
700 ㎎
女
750 ㎎
男
10mg
女(月経有)
10 ㎎(14mg)
30~49 歳
男
650 ㎎
女
650 ㎎
男
7.5 ㎎
女(月経有)
6.5 ㎎(10.5 ㎎)
食事摂取基準 2015 年度版より抜粋
日本骨粗鬆症学会 子どもの骨折予防委員会では、健康な成長のためには 1 日のカルシウ
ム摂取量の目安を小児期で 700 ㎎以上、思春期で 1,000 ㎎以上とすることを提言している。カラダ
をつくる材料であるから、成長期の子どもは大人よりもたくさん摂取する必要があるのだ。
さらに、子どもが運動するときは、成長するために必要な栄養素に加え、運動する分の栄養素
も摂取しなければならない。運動している子どもは、朝・昼・晩の三食を欠かさずとらないと、必要
なエネルギー量や栄養素の確保が難しくなる。欠食はマイナスであるという点を理解しておこう。
(栄養素摂取量)=(成長する分)+(運動する分)
(4)『運動する分』の栄養
運動することで、カラダは以下のような影響を受ける。「運動するだけでカラダからはたくさんの
栄養素等が失われてしまう」ということを押さえておこう。
① 消費されるカラダのエネルギー量が増える
車に例えるならば、走行距離に応じてより多くのガソリンを消費するのと同じで、運動でカラダ
を動かせばそれだけたくさんのエネルギーを消費することになる。運動をしている人としていな
い人では、運動をしている人の方が運動でカラダを動かす分、より多くのエネルギー量が必要
である。
② 筋肉や血液が破壊される
ある一定以上の強度の運動することで筋肉や血液が破壊される。例えば、ジャンプをして着
地をするとき、足には体重の約 3 倍の負荷がかかると言われている。体重 30kg 程度の子ども
がジャンプをしたとすると、足の裏には 100kg 程度の負荷がかかっていることになる。走ったり
ジャンプしたり、運動することでカラダは常にダメージを受けている。
③ 発汗による水分・ミネラルの損失
運動すると汗をかく。その汗はただの水ではなく、様々なミネラルが含まれている。発汗量が
多ければそれだけ汗から様々な栄養素が失われている。
消費したエネルギーとダメージを受けたカラダ、発汗による水分やミネラルの損失、これらをそ
の日のうちに回復(リカバリー)させていかないと、疲れが溜り、ケガの原因につながるだけでなく、
健やかな成長の妨げとなってしまう。カラダを回復させるためには、カラダの材料である栄養(食
事)が必要不可欠なのである。
(5)栄養素の 3 つの働き
栄養素の働きには、大きく分けると 「カラダのエネルギーの源になる」、「カラダづくりの材料に
なる」、「体調を整える」という 3 つの働きがある。以下 10 項目は、栄養素が不足することで、スポ
ーツ活動中に生じやすい状態である。当てはまる項目と不足している栄養素の働きを照らし合わ
せながら、栄養素の 3 つの働きについて確認してみよう。
≪不足している栄養素の働き≫
≪チェック項目≫
□練習がきつくてついていけない
□試合後半のスピードが落ちる、バテやすい
カラダのエネルギー源
□集中力が落ちる
□体重が減ったまま戻らない
□背が伸びない、カラダが細い
□練習をしても体力がつかない
カラダづくりの材料
□ケガをしやすい、貧血と言われた
□いつもだるくて疲れが残っている
□目覚めが悪い、授業中ボーっとしている
体調を整える
□緊張する、風邪をひきやすい
(6)栄養素の 3 つの働きと『五大栄養素』の関係
上記の栄養素の 3 つの働きと、炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミン、いわゆ
る五大栄養素との関係を示す。(表 5)
表 5 五大栄養素と 3 つの働き
五大栄養素
炭水化物(糖質)
エネルギー源
カラダづくり
体調を整える
◎
(ごはん、パン、めん類、いも類、砂糖など)
脂質
○
△
△
◎
(サラダ油、バターなど)
たんぱく質
(肉、魚、卵、チーズ、大豆製品など)
ミネラル
○
○
(乳製品、小魚、貝類、レバー、ほうれん草など)
ビタミン
(緑黄色野菜、果物など)
◎
表 5 からも明らかなように、ひとつの栄養素で、3 つの働きを網羅しているものはない。欠食や
好き嫌いなどで偏った食生活が続けば、健全な成長の妨げとなるだけでなくスポーツ活動中にお
ける様々な不調の原因となる可能性が高い。
「エネルギー源」、「カラダづくりの材料」、「体調を整える」という 3 つの働きを過不足なく摂取す
るためには、五大栄養素の揃ったバランスのよい食事を心がけることが重要である。表 6 に、五
大栄養素の特徴および不足すると起こりやすい状態について示すので確認してほしい。
表 6 五大栄養素の特徴
栄養素
特徴
不足すると
食品例
・スタミナ切れ
炭水化物
(糖質)
・エネルギー源 (1g=4kcal)
・ごはん、パン
・持久力の低下
(グリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられる)
・めん類
・集中力、
・脳の主要なエネルギー源
・いも類
判断力の低下
・エネルギー源 (1g=9kcal)
脂質
たんぱく質
・脂溶性ビタミンの吸収
・植物油
・体脂肪量(貯蔵脂肪)
が悪くなり、肌荒れや
・バター
・脂溶性ビタミンの吸収を助ける
便秘の原因
・マーガリン
・エネルギー源 (1g=4kcal)
・カラダが細い
・肉
・カラダの構成成分(水分以外の除脂肪量)
・貧血、スタミナ不足
・魚
(筋肉、骨、血液、ホルモン、靭帯、髪、爪など)
・怪我の回復の遅延
・卵
・血液中で酸素を運ぶヘモクロビンの材料
・背が伸びない
・大豆製品
《カルシウム》
・牛乳
《カルシウム》
・骨や歯の材料
ミネラル
・ヨーグルト
・疲労骨折
・筋肉の収縮や神経の伝達
・小魚
・足つり、ケイレンを招く
《カルシウム・鉄》
・血液凝固作用にも関係
・レバー
《鉄》
《鉄》
・ひじき
・貧血、スタミナ不足
・血液中で酸素を運ぶヘモクロビンの材料
・あさり
《ビタミンB1》
《ビタミンB1》
・炭水化物(糖質)のエネルギー産生に関わる
・疲労感、食欲不振
《ビタミンB2》
《ビタミンB2》
・脂質と炭水化物のエネルギー産生に関わる
・舌炎、口角炎
《ビタミンB6》
《ビタミンB6》
・たんぱく質の代謝に関わる
・皮膚炎、貧血
《ビタミンC》
《ビタミン C》
・カゼの予防、抗ストレス、コラーゲンの生成
・カゼ、ケガの原因に
・玄米・胚芽米
・豚肉
ビタミン
《B1・B2・B6・C》
・レバー
・納豆・うなぎ
・肉、魚、豆類
・柑橘系果物
・ブロッコリー
五訂食品成分表より筆者加筆
(7)食事のそろえ方
では、五大栄養素をバランスよくとるためにはどうすれば良いのか。ここでは、スポーツ栄養学
を 35 年間普及している株式会社明治のザバスが提案してきた 『食事の型』 を紹介する。
≪「栄養フルコース型」の食事≫
「栄養フルコース型」の食事とは、カラダに必要な 5 大栄養素を簡単に 『フル』 にとることがで
きる食事の型のことである。具体的には ①主食、②おかず、③野菜、④果物、⑤乳製品 の 5 つ
がすべて揃った食事法のことである。
「栄養フルコース型」の食事を子どもの頃から習慣付けることで、自然とバランスのとれた食習慣
が身に付くだろう。
① 主食 …… 脳とカラダを動かすエネルギー源
【 ごはん,パン,うどん,パスタ,もち,いも類など、炭水化物(糖質)を多く含む食材 】
『主食』 となる食材に多く含まれる炭水化物(糖質)は、脳とカラダを動かすエネルギー源とな
るため、集中力やスタミナの維持に欠かせない。炭水化物(糖質)が不足した状態で運動すると
いうことは、ガソリンを入れずに車を走らせるのと同じようなもの。ガス欠状態では、元気がなくな
ったり、集中力が切れたりする。
② おかず …… カラダづくりの材料
【 肉,魚,卵,大豆製品(納豆や豆腐)など、たんぱく質を多く含む食材 】
『おかず』 となる食材には、筋肉や血液などカラダづくりの材料となるたんぱく質が豊富に含
まれる。たんぱく質は、一般的にスポーツをしていない人で 1 日に体重 1kg あたり約 1g 必要だ
が、スポーツ選手はその 2 倍、体重 1kg あたり 2g のたんぱく質が必要となる。必要量のたんぱ
く質を摂取するための目安として、おかずは毎食 2 品目以上揃えると良い。おかずをしっかり食
べる事をジュニア期から習慣付けておけば、より運動量・運動強度が高まるその後の年代にお
いても、カラダづくりを行う上で大いにプラスとなる。
一方、たんぱく質を多く含む食品には、同時に多くの脂質を含むものもあり、脂質はカラダにと
って必要な栄養素とはいえ、摂りすぎには気を付けたい。ジュニアでも体重を調整することが必
要な場合、脂の少ない部位を選択する、湯通しや網焼きなど調理法を工夫する(表 3 参照)、ま
た、肉・魚などの動物性食品と豆腐・納豆などの植物性食品を上手に組み合わせるなどして、
「高たんぱく低脂質」の食事を意識するのが良いだろう。
≪スポーツジュニアのたんぱく質必要量≫ ※体重 1 ㎏あたりたんぱく質 2g/日
子どもの体重
1 日の必要量
例) 10~11 歳 35.6 ㎏のスポーツジュニアの 1 日のたんぱく質必要量は 35.6×2=71.2g/日
≪たんぱく質を多く含む食品≫
五訂食品成分表より筆者加筆
③ 野菜 …… 体調維持や疲労回復
【 緑黄色野菜や海藻類など、ビタミン・ミネラルを多く含む食材 】
『野菜』 にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれており、色の濃い野菜(赤・黄・緑)
や色の薄い野菜、根菜類、海藻などがある。1 日の目安量は手のひら山盛り 1 杯以上である。
特に、ビタミンやミネラルが豊富な色の濃い緑黄色野菜を意識して摂取しよう。野菜は加熱し
た方がカサが減り食べやすくなるため、火を通した料理等も上手に組み合わせよう。
④ 果物 …… 緊張やストレス緩和、カゼ予防、ケガ予防
【 ビタミン C の豊富な甘酸っぱい果物 】
『果物』 には、炭水化物(糖質)、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれている。果物には様々な
種類があるが、含まれる栄養素の違いで大きく 2 つに分類することができる。主食同様に、炭水
化物(糖質)を豊富に含むがビタミン C の少ないもの(バナナ・桃・メロン・りんごなど)、及びビタ
ミン C が豊富に含まれるもの(オレンジ・グレープフルーツなどの柑橘系、イチゴ、キウイフルー
ツなど)の 2 種類である。
ビタミン C には、緊張やストレスの緩和、カゼ予防などの働きがある。さらに、皮膚や腱、靭
帯、軟骨などの結合組織を構成するコラーゲンの合成に必要不可欠なため、ケガの予防として
も重要である。スポーツ選手のコンディショニングに欠かせないビタミン C だが、実はヒトの体内
では合成することができない。また、水溶性のため水分や熱により破壊されやすいものが多く、
さらに一度に大量に摂取しても体内で使いきれない分は尿中に排泄されてしまう。ビタミン C は
体内に蓄えておくことができないため、豊富に含む果物を毎食 1 品は欠かさずとりたい。
⑤ 乳製品 …… 骨の材料、筋収縮、神経の安定を保つ
【 牛乳やヨーグルト、チーズなどカルシウムを多く含むもの 】
『乳製品』 は、カルシウムの宝庫であり、たんぱく質も一緒に摂取できる非常に効率的な食
品である。カルシウムは、99%が骨や歯などに蓄積されており、残り 1%は筋肉の収縮や神経
伝達といったスポーツ選手のパフォーマンスやコンディション維持に重要な役割を果たす。
食事からのカルシウム摂取が不足すると、カラダは骨からカルシウムを放出させることで、体
内のカルシウム量を一定に保とうとする。また、骨密度の高まるピークは 20 歳頃といわれてお
り、成長期にカルシウムを十分に摂っておくことが 20 歳以降の生涯に渡る健康にも影響を与え
ることになる。牛乳であれば、毎食コップ 1 杯を習慣にするとよい。
ただし、乳製品には乳脂肪が含まれているので、気になる場合は低脂肪・無脂肪タイプのも
のを選択すると良い。また、牛乳が苦手という人は、温めて飲む、ヨーグルトを選ぶ、ココアやコ
ーヒーと混ぜるなど、工夫してみよう。
(ザバス栄養講座より:http://www.meiji.co.jp/sports/savas/lecture/nutrition.php? )
3.間食の考え方
(1)間食の活用と選び方
8 歳~9 歳ぐらいの子どもが 2 時間ぐらい運動した日は、おおよそ 2000kcal くらいの食事が必
要になる。注意すべきは、大人よりも 1 食ごとの摂取量の少ない小さな子どもが、実際に 2000kcal
の食事を摂取しようとするのは想像以上に大変であるという点だ。
子どもの消化吸収能力は発達段階で完成していないため、一度に多くのものを食べられないこ
ともある。そこで、『間食』 を成長に必要な栄養素が摂れる食事の機会ととらえ、上手に活用する
ことが重要となる。間食に炭水化物(糖質)と脂質の割合の高い食品(スナック菓子や菓子パンな
ど)を食べていると、肥満につながる可能性が高くなる。間食の役割は、子どもの成長に必要で、
かつ食事では十分摂取できなかった栄養素を補給することである。
以下は、間食に好ましい、成長に必要な栄養素がとれる食品の例である。参考にしてほしい。
≪間食に好ましい食品の例 … 脂質の少ないものを選択する≫
○おにぎり(具は鮭,明太子,昆布,梅など脂質の少ないものが良い)
○肉まん,あんまん
○あんぱん,ジャムぱん
○牛乳
○ヨーグルト(のむヨーグルト)
※脂質が気になる場合は低脂肪タイプが良い
○果汁 100%ジュース
※オレンジやグレープフルーツが良い
○エネルギー補助食品(ゼリーなど)
○たんぱく質補助食品(プロテイン)
出典:ジュニアのためのスポーツ食事学
柴田麗著/学研パブリッシング
(2)間食のタイミング
スポーツジュニアが間食をとる際に、効果的なタイミングが 2 つある。
まずは 『運動前』 のタイミングである。食事をとってから運動を開始するまでに 3~4 時間以上
の時間が空く場合、エネルギー補給を目的とする運動前の間食を推奨する。何も食べないまま運
動を始めると、絶食状態でいる時間が長くなり、脳がエネルギー不足に陥り集中力の低下やカラ
ダのエネルギー切れを招いてしまう。運動する 1 時間前、あるいは食事をしてから 3 時間以上経
過していたら、エネルギー補給のためにおにぎりなどの炭水化物(糖質)を多く含む食品をとるの
が良いだろう。例えば、昼に学校給食を食べ、16 時以降に運動を行う場合などが該当する。
2 つめのタイミングは、『運動後 30 分以内』 である。この時間帯はカラダづくりのゴールデンタ
イムといわれており、ゴールデンタイムに栄養補給をすることで疲労回復、筋肉の修復(リカバリ
ー)が期待できる(図 4)。
図 4 運動後のリカバリーに効果的なタイミング
大人を対象とした実験だが、同量のたんぱく質を運動直後に摂った場合と、運動後 3 時間後に
摂った場合とでは、たんぱく質の生成量に差が出るというデータがある。摂取のタイミングが遅れ
ると筋肉の分解が進み、せっかくの運動の効果が台無しになってしまう。よって、子どもにおいても
運動後、速やかに食事をとることはカラダづくりや疲労回復に効果的と考えられる。
4.水分補給のポイント
(1)子どもの体温調整機能について
子どもは大人と比べて、体温調整機能が未完成だといわれている。また、子どもは体内の水分
の割合が高く、さらに新陳代謝が活発で発汗量も多いため、脱水状態に陥りやすい。
発汗には、体温の上昇を防ぐ体温調整の役割がある。そのため、運動中の発汗に伴う水分補
給は重要である。体内の水分が不足した状態では、体温調整がうまくいかず、熱中症を引き起こ
す可能性が高くなる。子どもが正しい水分補給を行える様サポートすると同時に、子どもに対して
も水分補給の重要性と実践方法を伝えていくことが大切である。
(2)水分減少率と主な脱水症状
運動時の体重に占める水分の減少率は 2%以内に収めるよう留意してほしい。水分の減少量
(発汗量)は、運動前後の体重測定で把握できる。体重の減少量がすなわち発汗による水分の減
少量(発汗量)である。5 歳から 8 歳くらいで体重 30kg ぐらいの子どもの場合、練習後に 24.4 ㎏に
なっていたら、この 0.6 ㎏が 2%に相当する。ペットボトル 1 本分程度の水分が失われると脱水症
状が現れ、運動能力が低下するということになる。体重変動のかなり小さな段階から脱水症状は
発現してしまうことをしっかり覚えておこう。
運動中の子どもには、こまめな水分補給を徹底させることにより、安全なスポーツ活動の実践
が可能となる。特に、熱中症の多発時期である梅雨明け直後は、急激な気温上昇にカラダが順
応していないため、最も注意が必要となる。
尚、以下表 7 に水分減少率と主な脱水症状について示す。
表 7 水分減少率と主な脱水症状
水分減少率(%)
主な脱水症状
※体重に占める減少した水分の割合
2%
のどの渇き
3%
強い渇き、ぼんやりする、食欲不振
皮膚の紅潮、イライラする、
4%
体温上昇、疲労困ぱい、
尿量の減少と濃縮
5%
頭痛、熱にうだる感じ
8~10%
身体動揺、けいれん
環境省「熱中症環境保健マニュアル 2011」
(3)水分補給のポイント
① 練習や試合の前から水分補給
水分補給のポイントとして、まずは運動前から水分を摂取しておくことが大切である。運動を
始める前からあらかじめ水分を補給しておくことで、運動中の脱水を予防することができる。運
動開始の 30 分程度前までに、適度な水分補給を心がける。
② のどが渇く前に、こまめに少しずつ補給する
「喉が渇いた」と感じた時点では、すでに脱水が始まっている。また、カラダは一度に大量の
水分を吸収できないため、一気に飲んでしまうと吸収に時間がかかり効率的な水分補給ができ
ない。水分補給は 「喉が乾く前に、こまめに少しずつ」 行うことがポイントである。気温や湿度、
発汗量にもよるが、15 分ごとにコップ 1 杯程度の摂取が目安である。
③ 運動中は低糖度・ミネラル入りのスポーツドリンクで水分補給
運動中の水分補給には、発汗により失われたミネラルの補給という目的もある。屋内で行う
ゆるやかな運動なら水やお茶でも構わないが、夏場の屋外で運動するような場合や試合時に
は、糖分やミネラルを含んだスポーツドリンクを飲むようにしよう。
ただし、水分の吸収速度には飲料の糖濃度や浸透圧が関係している。糖濃度が高いもの(5
~6%)は体内への吸収速度が遅く、例えばザバススポーツウォーターのような糖濃度が低いも
の(2.5%程度)は水分が速やかに吸収される。また、浸透圧も水分の吸収スピードと関係があ
り、体液よりも浸透圧の低い「ハイポトニック飲料」の方が、アイソトニック飲料よりも水分の吸収
速度は速やかである。
尚、熱中症予防のためには、ナトリウムが 0.1~0.2%(40~80mg/100ml)程度含まれた飲料
が有効である。(日本体育協会 スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブックより)
④ 適度に冷やしておく
運動中の水分補給は、5~10℃程度に冷えた飲料が良い。適度に冷えた飲料の方が、胃か
ら小腸への移動速度が速い(吸収が早い)ことが分かっており、さらに運動中に上昇した体温を
下げるという観点からも運動中の水分補給は冷たい飲料を推奨する。ただし、冷たすぎると胃
腸に負担がかかるので注意が必要である。
水分補給は、熱中症など事故が発生してからでは遅い。予防のためにも、正しい水分補給のポ
イントを理解して、安全なスポーツ活動を実践しよう。
5.サプリメント(栄養補助食品)の活用
(1)目的を持ったサプリメントの活用
朝・昼・晩の三食+間食で「栄養フルコース型」の食事を実践し、成長に必要な栄養素をバラン
スよく摂取することが理想ではあるが、それがなかなか難しいというケースも考えられる。子どもの
食が細い、運動量が非常に多い、食べ物の好き嫌いが激しく栄養素の摂取に偏りがあるなどの
際は、日頃の食事にプラスして、サプリメントの活用も有効である。
サプリメントは、「エネルギー補給」、「たんぱく質補給」、「ビタミン・ミネラル補給」など、目的別
に分類できる。それぞれの目的に合わせて、適切なものを選択することが大切である。
(2)プロテインの活用
プロテインというと、筋肉がモリモリになる、飲むだけでマッチョになる、というようなイメージを持
つ保護者もいるかもしれないが、それは誤りである。プロテインは、「たんぱく質補給」を目的とした
サプリメントである。カラダがダメージを受けた運動直後の間食の際や、食事で必要なたんぱく質
を摂取しきれない場合(おかずを 2 品食べられなかった時など)に活用すると良い。
特に身長や体重が急激に増えていくスポーツジュニアにとって、必要なたんぱく質を食事だけ
でまかなうのは、実際にはかなり困難である場合が多い。不足すれば、スポーツに伴う消耗したカ
ラダの修復材料が足りず、回復が遅れるだけでなく、思うようにカラダが大きくならないという恐れ
もある。
ジュニアプロテインという、たんぱく質に加え成長期の子どもに必要なカルシウム、鉄、ビタミン等
の栄養素が豊富に含まれている子ども向けの商品もある。運動量、運動後の補食の有無、栄養バ
ランスの偏りなどを考慮し、必要であれば活用することもスポーツジュニアにとって有効であろう。
(3)サプリメントを活用する際の留意点
サプリメントは、食事ではとりきれない栄養素を補うものである。したがって、サプリメントを摂取
すれば食事は必要ないということではない。朝・昼・晩の三食+間食で、「栄養フルコース型」の食
事を実践し、その上で不足している栄養素を補うものがサプリメントである。食事からとりきれてい
ない栄養素は何か、どの程度の分量が必要なのか、目的を明確にして活用すべきである。子ども
の食事の様子をよく観察し、運動量、運動強度に合せて活用することが望ましい。
尚、サプリメントを使用する際は、禁止物質が含まれていないか注意する必要がある。ドーピン
グはフェアプレーの精神に反するとして、全世界、スポーツ界全体で禁止されている。禁止物質が
含まれていないことを示す、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)に認定された商品を選択すること
が望ましい。
○公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構
http://www.playtruejapan.org/
第5章
マネジメント
1.イベント企画と準備物
(1)『運動プログラム』のイベントを運営する上で意識すべきこと
スポーツイベントには、参加者が競技等に自ら参加するという直接的なものと、競技の様子を
見学するという間接的なものがある。
『福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム』は、放射線量の高い福島の環境下において、
①親子で、②室内の限られたスペースで、③楽しく、外遊びを制限された子どもたちの運動不足
や肥満傾向の解消を目的に開発されたプログラムである。
この運動プログラムの普及を目的に実施するスポーツイベントは、上記のような性質を持つた
め、イベントに直接参加する親子に楽しんでもらう必要があるのは勿論だが、参加者の家族が間
接的に見学する可能性があることも忘れてはならない。母親と子どもが運動している様子をビデ
オに録画している父親の姿は、イベント実施の際によく目にする光景だ。
参加者にも見学者にも、共に楽しんでいただけるよう、十分な準備をして、イベントを運営してい
ただきたい。
(2)イベント企画
イベントの企画書はなぜ作成しなければならないのか。 イベントを運営するためには、会場や
費用、参加希望者の募集業務、当日の備品等の準備、イベント当日のタイムスケジュール、運営
スタッフの確保など、準備すべきことやモノが非常に多い。これらの様々な準備を同時並行で進め
ながら運営の当日を迎え、参加者に満足していただけるイベントを実施するには、運営に関わる
多くの協力者が必要となる。
仮に、実施を考えているイベントに対して、立案者が明確なイメージを持っていたとしても、それ
を口頭のみで他人に伝えきるのには限界がある。また、イベントの企画が明確に提示できなけれ
ば、その企画を複数のスタッフの共通理解を得ながら運営することは非常に難しく、さらには、企
画を持ちかける相手、運営に必要な資金を提供してくれるスポンサー等の賛同を得られなければ、
イベントの運営すらできないということになりかねない。
以上の点から、イベントを確実に運営し、参加者に満足していただくには、誰が見ても納得でき
る企画書を作成する必要がある。
イベントの企画書に記載すべき必要事項は何か、確認しておこう。
①イベント概要
当日の運営スタッフは勿論、広く一般に告知すべき基本的なイベントに関する情報をま
とめる。イベント告知の際、以下にまとめた情報が広く発信されることになる。
また、以下の情報を各市町村の教育委員会やマスコミ各社に伝え、後援をいただくとい
うことが多いことも押さえておこう。後援に教育委員会やマスコミ各社の名があることで、参
加者は未知の主催団体に対して、多少なりとも安心感を抱くことができるようになる。なお、
教育委員会に後援を申請する際にイベント運営の収支の記載を求められることがあること
も付け加えておく。
・イベント名称
・目的・趣旨(テーマ)
・主催者(団体)
・協力者(団体)
・出演者(運動プログラムの場合は指導者)
・後援,協賛
・開催日時
・場所,会場(会場へのアクセス,施設条件)
・イベント内容
・参加対象者
・募集人数・目標
・広報活動の方法
・参加者への配布物
・費用徴収の有無
②事業内容
イベント概要よりも更に詳細なイベントの内容を把握し、共通認識を図る。イベント当日
の内容を時系列で俯瞰できるような作りにしておくとよい。
・日時
・会場
・参加対象者
・募集人数・目標
・出演者(指導者)
③出演者(指導者)データ
イベントは、多くの方の協力を得て実施するものである。ご協力いただく方々の所属先
や略歴が分かっていると、運営スタッフが失礼な対応をしてしまうようなリスクを回避するこ
とができる。
・出演者(指導者)の所属先
・出演者(指導者)プロフィール等を明確にする。
④役割分担(運営に必要な主な役割)
それぞれの役割を何人で行うのか、誰がいくつの担当を兼任するのか、全スタッフで把
握することは円滑な運営を行う上で非常に重要である。スタッフ個々が自分の役割を全体
の運営の中で理解することで、他者との関係の中で自分の取るべき行動のイメージを膨ら
ますことが可能になる。
・会場設営担当
・参加者の受付担当
・出演者(指導者)の控室管理
・運営スタッフの控室管理
・参加者の控室管理
・参加者の誘導担当
・音響担当
・救急患者への対応担当
・駐車場誘導担当
・全体責任者(休憩や食事など、運営スタッフのスケジュール管理も兼ねる)
⑤会場利用計画
どこに何を置くのか、参加者の動線をイメージした設営を心がける。運動プログラムのイ
ベントでは、安全面への配慮、子どもが楽しむための雰囲気作りも重要である。子どもの
自発的な動きに制限をかけるような設営にならないように配慮する。また、見学者のスペ
ースの確保も忘れないようにしよう。
・会場全体図
・会場画像データ
・会場設営プラン
⑥使用する備品のリスト
イベント会場の設営や運営に必要な備品の全てについて、用途、設置場所、手配先等
も含めて確認する。備品の詳細については後述する。
⑦タイムスケジュール
イベントのスケジュールに合わせて、指導者スタッフ個々の動きも時系列にまとめる。円
滑なイベント運営には欠かせない資料となる。前日から準備等で会場を使用する場合や、
指導者・運営スタッフが前日からイベントに向けて活動(会場への移動など)する必要があ
る際は、そのスケジュールも作成する。
・当日の集合時間からイベント終了、スタッフ解散の時間まで
・複数の会場で実施する場合、すべての会場の動きが把握できる時系列の一覧表
イベントという近い将来に実施される“実体のないもの”に対して必要な資金を確保し、スタッフ
全員の共通理解を得て、当日の運営を成功させるためのツールとして、イベントの企画書は欠か
すことのできない必須アイテムである。
実際に企画書を作成して運営会議などを行うと、運営上必要なスタッフや備品の追加など、他
のスタッフから多くのアドバイスを得ることができるので、運営当日に向けた準備はより盤石なも
のになる。こうして、企画書には変更や修正、追加事項等が反映され、当日の運営資料の一部と
なっていくのである。
参考資料として、実際に運動プログラムの普及を目的としたイベントの運営資料を掲載するの
で、実際にイベントを企画する際の参考にしていただきたい。
なお、企画書に必要な情報として本節の内容をしっかり盛り込むことができれば、運動プログラ
ムに限らず、どんなイベントの企画書でも作り上げることができる。
(3)イベントに向けての準備物
イベントを実施する際に必要な備品は非常に多い。イベント内容や会場設営プランを考慮する
のは勿論、不測の事態も想定してしっかり準備していく必要がある。
イベント当日、実際に設営を始めてから不足している備品があることが発覚すると、最悪の場合、
プラン自体を変更しなければならないような事態を招き、スケジュールにも大きな影響を及ぼして
しまう。まずは、イベント内容や設営する会場・ブースごとに必要な備品をリストアップしていく。
参考までに、勉強会(運動プログラムを指導者や保護者に理解していただくことを目的とする)を
午前中に、体験フェア(運動プログラムの普及を目的とした実際の親子を対象とした体験会)を午
後に実施するイベントを開催する際に使用した備品を、用途ごとに分け、以下に列挙していく。
○勉強会
1.子どもと運動に関する講演会、RICE 処置と AED の使用法に関する講義で使用した備品
・会場設営
ホワイトボードマーカー黒、ホワイトボードマーカー赤、ホワイトボードマーカー青、
ホワイトボード(移動式)、プロジェクタ、プロジェクタ接続コード、延長コード、ノート PC
演台、講師控え席の机と椅子、参加者用の机と椅子、AED(講義に使用)
・参加者への配布物
運動プログラムテキスト、指導者用テキスト、講演・講義の先生方の使用するプリント、
アンケート用紙(バインダーにペンと用紙を挟んで配布、終了後に回収)
2.運動プログラム体験実習で使用した備品
・会場設営
AED、ボールカゴ、カラーボール、指導者控え席の椅子、参加者休憩席の椅子、救急箱、
氷(RICE 処置用)、クーラーボックス(氷をいれておく)、ウォータージャグ(水を入れておく)
・参加者への配布物
ミネラルウォーター(指導者・参加者の運動中の水分補給用)
油性マジック(ペットボトルに氏名を記載するために配布、使用後に回収)
○運動プログラム体験フェア
・会場設営
ボールカゴ、カラーボール、指導者控え席の椅子、参加者休憩席の椅子、救急箱、
氷(RICE 処置用)、AED、ウォータージャグ(水を入れておく)
・参加者への配布物
運動プログラムテキスト、ミネラルウォーター(指導者・参加者の運動中の水分補給用)
油性マジック(ペットボトルに氏名を記載するために配布、使用後に回収)
アンケート用紙(バインダーにペンと用紙を挟んで配布、終了後に回収)
○受付ブース
・ブース設営
長机、椅子、参加者名簿(受付用)、ホチキス、マーカー、クリップ
・参加者への配布物
予定表・諸注意プリント、その他、各種配布物
○その他
会場使用許可書、イベント保険証書、入口看板、各種掲示・案内図、
講師・運営スタッフ弁当とお茶、
荷ヒモ、ハサミ、カッター、セロテープ、ガムテープ、ポリ袋、
カラーボール(予備、空気なし)、ハンドポンプ(空気入れ)、ポケット WIFI
※その他の備品については、掲示物以外を受付に置いて管理した
必要な備品をリストアップしていく際は、用途と設置場所だけでなく、手配先もはっきりしておくよ
うにしておくと、誰が準備するのかが明確になり、ミスが起こりにくい。また、1 人ですべての備品リ
ストを作成するよりも複数人で確認しながら作成したほうが、より確実な準備が可能になる。
なお、ミネラルウォーターを参加者に配布したのは、熱中症対策の一環である。
(4)救急患者への備え
スポーツイベントを運営する際は、怪我や体調不良を訴える救急患者への対応を想定した備え
が必要になる。実際の運営において、以下の準備は必須となる。
○イベント保険
各種行事(レクリエーション)に参加する出演者や運営スタッフ、参加者に対して保険を
かけ、万一の際のトラブルに備える。イベントの開催日数、被保険者数(参加者の名簿の
提出を求められることもある)、イベントの内容を伝えることで、比較的簡単に契約すること
ができる。料金は、補償の内容にもよるが、ひとりあたり 10 円といった、低額なものもある。
○AED
自動体外式除細動器のことで、心肺蘇生には欠かせない。最近では体育館や学校、劇
場等に設置されているが、除細動までの時間の遅れが生存率の低下につながることから、
可能であれば直接イベント会場に持ち込むのがベストである。
○救急箱
RICE 処置や創傷処置に対応できる準備として救急箱には以下のものを準備しておく。
以下の備品以外にも、アイスパックを作るための氷や水も準備しておく。
・冷却スプレー
・テーピング
・絆創膏
・熱をさますシート
・アンダーラップ
・シップ
・消毒液
・小さなビニール袋(アイスパック作成時に使用)
○応急処置担当者
救急患者への対応には、専門家がいると安心だ。イベント会場に医師が待機してくれる
とありがたいが、現実的には難しいだろう。看護師や救急救命の有資格者、スポーツトレ
ーナーなどに待機してもらう準備ができれば安心だ。
また、イベントで使用する会場の救急体制や近隣の医療機関を確認しておくことも重要
だ。患者を救急車で搬送する際の時間を短縮するためだ。
(5)イベント当日の運営
イベントの企画書が推敲され、当日の運営資料になることは先に述べたとおりだ。ただ、それだ
けでは当日の運営に混乱をきたす可能性が高い。アナウンス原稿と各役割の行動のタイミングの
記載された進行表が必要となる。
アナウンス原稿を運営スタッフが把握しておくことで、進行の遅れなどの把握、与えられた役割
の実施のタイミングを計るのに役立つ。
もちろん、何よりも参加していただくお客様に対して失礼のない、充実した運営を実現するため
の必須のツールとして、アナウンス原稿はしっかり準備するようにしよう。
実際に使用した進行表を掲載しておくので、運営資料と併せて参考にしていただきたい。
2.体罰やハラスメント行為に関する問題
(1)体罰
2012 年、大阪市の高等学校に通うバスケットボール部の主将が、部活動の顧問からの執拗な
体罰に耐え切れず自殺した事件は大きく報道された。教育現場での体罰が刑事裁判に発展した
のは異例で、この顧問には執行猶予付きの有罪判決が下された。しかし、注目を浴びたこの事件
以後も、スポーツ指導の現場における体罰の問題は後を絶たない。
学校教育法の第十一条に、『校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大
臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加える
ことはできない』とある。
文部科学省の定義する体罰とは、以下の通りである。
教員等が児童生徒に対して行った懲戒の行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒
の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態
様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要があり、その懲戒の内容が
身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、蹴る等)、被罰者
に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる
等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。
「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」
平成 19 年 2 月 5 初等中等教育局長通知(18 文科第 1019 号)
学校教育法第 11 条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方より
個々の事案ごとに判断が必要としながらも、身体に対する侵害を内容とする懲戒や肉体的苦痛
を与えるような懲戒は体罰であるとしている。
文部科学省の見解を待つまでもなく、体罰は禁止すべき行為である。第 2 章『運動遊びの支援
のあり方』において運動プログラムの指導上の留意点として挙げたのは以下の 3 点である
①楽しむための雰囲気づくり
②『やってみたい』と思わせる人的環境の整備
③『運動有能感』を味わえる人的環境の整備
指導者の求めた動きができなくても、その動きに頑張って挑戦していることを褒めてあげる、指
導者のいうことを聞かない子どもがいても、それは指導者自身の指導力の問題であると考え、効
果的な声掛けなどを研究する、そのような姿勢で指導者として子どもに接していただきたい。
大声での叱責や否定的な声掛けなど、指導者としての資質に欠ける行為は勿論のこと、肉体
的な苦痛を子どもに与えてしまうなどもってのほかである。肝に銘じてほしい。
(2)ハラスメント行為
子どもへの体罰は勿論、ハラスメント行為にも注意が必要だ。親子で楽しむ運動プログラムのイ
ベントを開催する場合、子どものペアとなる保護者への配慮も必要だからである。
ハラスメント行為とは嫌がらせのことで、他人から受ける精神的・肉体的苦痛といえる。ハラスメ
ントの問題で注意しなければならないのは、何らかの行為がハラスメントであると判断するのが被
害者の側であるということだ。
行為を行った者に悪気がなくても行為を受けた側がそれを不快に感じたならば、それはハラスメ
ント行為であったということになるため、誰しもが気付かぬうちに加害者になっている可能性もある。
例えば、住んでいる場所を尋ねることや書類を手渡しする際に近づくことも、場合によってはセク
ハラと思われてしまうことがある。当然、指導者という立場を利用して嫌がらせを行うような行為は
パワハラである。
対策として心がけることは、適度な距離感を保ち、不用意な発言や行為は慎むことである。また、
スポーツ指導の際にどうしても必要である場合を除いて、参加者の体には極力触れないように注
意しよう。さらに、ハラスメント行為は異性間にのみ発生するわけではなく、例えば同性間でのセク
ハラも存在することを忘れてはならない。
以下に、具体的な注意点をまとめておくので参考にしていただきたい。
・依頼のない状況で勝手にマッサージを行うなど、不適切に体に触れる行為
・保護者を下の名前に「ちゃん」付けで呼ぶ、あだ名で呼ぶなど、不適切な名前の呼び方
・住まいなどのプライベートな内容に踏み込んだ質問
・外見や年齢、障害など、参加者の身体的な特徴を口にする発言
・相手を不愉快にしてしまうような冗談やからかい、性的な発言
・人種や宗教などに関する不適切な発言
・何らかの目的を持って場の雰囲気を悪くするような発言(エアー・ハラスメント)
3.指導者の法的責任
スポーツの指導者が問われる可能性のある法的責任には、刑事責任と民事責任、それぞれに
以下のようなものがある。
○刑事責任…暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪、
業務上過失傷害罪、業務上過失致死傷罪など
○民事責任…不法行為責任、使用者責任、債務不履行責任など
刑事責任は、体罰やセクハラ、怪我や死亡につながる事故などの責任に対して問われる可能
性がある。刑事責任ありと判断されて刑罰を科せられる可能性があるのは、構成要件該当性(損
害を発生させた行為が、すでに刑法に規定される犯罪に該当するかどうか)、違法性、責任能力
の有無、これら 3 つの要件をすべて満たす場合である。
民事責任は、事故等によって発生した損害に対して損害賠償を請求される可能性がある。スポ
ーツの指導者が問われる主な責任は、不法行為責任、使用者責任、債務不履行責任などである。
なお、指導者自身の管理している施設等で、その施設の欠陥によって事故が起きた場合は土地
工作物責任が問われる可能性もある。
・不法行為責任…故意または過失によって事故が起きた際の被害者に対する損害賠償責任
・使用者責任…従業員が不法行為を行った際の雇い主の被害者に対する損害賠償責任
・債務不履行責任…当事者間でのとりきめが成就しなかった際の損害賠償責任
なお、ひとつの事案に対して刑事責任と民事責任の両方を問われるケースがあることも付け加
えておく。
以上のような法的責任が指導者に問われる可能性があることをしっかり理解し、指導者の負っ
ている安全配慮義務を怠ることなく、参加者が安全に運動できる環境づくりを心がけてほしい。
《安全なスポーツイベントを運営するために》
・参加者に無理な動きを強要しない
・安全面への配慮を徹底したイベントスケジュールと会場設営、備品のチェック
・救急患者への速やかな応急処置と救急車の要請
・イベント保険への加入
附録
○企画書
○進行表
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く
運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
企画書
(平成○年○月○日版)
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅰ.開催要項(イベント概要)
1 イベント名称
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア
2 目的・趣旨(テーマ)
屋内の限られたスペースでも、親子で楽しく取り組める『運動プログラム』の普及とその指導者
育成を目的とし、福島の子ども達の健康増進に貢献する。
3 主催者(団体)
○○○○
5 協力者(団体)
株式会社○○○○
一般社団法人○○○○
一般社団法人○○○○
株式会社○○○○ 他
6 指導者
○○ ○○
○○ ○○
○○ ○○
○○ ○○
○○ ○○
7 後援(予定)
○○市教育委員会,○○新聞社,××新聞社,
○○テレビ,××テレビ,△△テレビ
8 開催日時
【勉強会】
・平成○○年○月○日(土)9:30~12:30,平成○○年○月○日(日)9:30~12:30
【体験フェア】
・体験フェア①…平成○○年○月○日(土)14:00~15:30
・体験フェア②…平成○○年○月○日(日)14:00~15:30
9 場所,会場
○○市体育館
〒○○○-○○○○ ○○市○○○1丁目○番地
TEL.○○-○○○○-○○○○ FAX.○○-○○○○-○○○○
http://www.○○○.○○○.jp
様(株式会社○○○○ 取締役)
様(一般社団法人○○○○ 理事)
様(一般社団法人○○○○)
様(一般社団法人○○○○)
様(○○大学 教授)
10 イベント内容
【勉強会】
・運動プログラムの普及と、指導者の育成を目標とした基礎的な講座の実施
・内容は以下の通り(内容は1日ごとに完結)
①子どもと運動に関する講演(○日…○○様,○日…○○様)
②応急処置に関する講義(各日ともに○○様)
③運動プログラム体験実習(各日ともに○○様,○○様,○○様,救急対応兼任:○○様)
【体験フェア】
・運動プログラムの普及を目的とした、運動プログラムの体験会
・勉強会参加者で希望する方は、見学可能
11 参加対象者
【勉強会】
・子どもの健康増進に関心のあるすべての方
【体験フェア】
・体験フェア①…5歳~9歳の子どもとその保護者20組40名
・体験フェア②…5歳~9歳の子どもとその保護者20組40名
12 募集人数・目標
・勉強会…30名
・体験フェア①幼稚園コース…親子20組40名
・体験フェア②小学生コース…親子20組40名
13 広報活動
・チラシ○○○○枚(○○市の幼稚園・小学校に発送)
・新聞広告(モノクロ4段1/2サイズ×1回×2紙)
・フリーペーパー広告
・Web広告
14 参加者への配布物
【勉強会参加者】
・福島の子ども達を健康に導く運動プログラムテキスト BALL GAME
・福島の子ども達を健康に導く運動プログラムテキスト 指導者向けテキスト
【体験フェア参加者】
・福島の子ども達を健康に導く運動プログラムテキスト BALL GAME
15 費用徴収の有無
無
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅱ.イベント内容
1.勉強会
日
会
参
加
目
時 平成○○年○月○日(土)9:30~12:30
平成○○年○月○日(日)9:30~12:30
場 ○○市体育館
標 各回30名
【○月○日スケジュール】
9:30~10:30
講演 『子どもと運動』
10:30~11:00
講義 『RICE処置とAEDの使い方』
11:00~12:30
運動プログラム体験実習(イベント企画等の資料も配布)
【○月○日スケジュール】
9:30~10:30
講演 『子どもと運動』
10:30~11:00
講義 『RICE処置とAEDの使い方』
11:00~12:30
運動プログラム体験実習(イベント企画等の資料も配布)
○○様
○○様
○○様,○○様,
○○様,○○様,○○様
(応急処置対応:○○様)
○○様
○○様
○○様,○○様,
○○様,○○様,○○様
(応急処置対応:○○様)
2.体験フェア
日
会
参
参
加
加
対
目
時 平成○○年○月○日(土)14:00~15:30
平成○○年○月○日(日)14:00~15:30
場 ○○市体育館
象 5歳から9歳までのお子様とその保護者
標 子どもとその保護者、各回20組40名
【スケジュール(○日,○日共通)】
14:00~14:02
開会のあいさつ 2分
14:02~14:07
準備体操 5分
14:07~14:27
ボールなしの運動 20分
14:27~14:32
休憩(水分補給) 5分
14:32~14:52
ボールを使った足の運動 20分
14:52~14:57
休憩(水分補給) 5分
14:57~15:22
ボールを使った手の運動 25分
15:22~15:27
整理運動 5分
15:27~15:30
閉会のあいさつ+アンケート 3分
※勉強会参加者のうち、希望者は体験フェアの見学が可能
司会担当者:○○ ○○
○○様
○○様
○○様,○○様,
○○様,○○様,○○様
(応急処置対応:○○様)
司会担当者:○○ ○○
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅲ.講師の皆様と運営メンバー一覧
1
2
3
4
5
6
7
11
12
13
14
15
氏 名
○○ ○○ 様
○○ ○○ 様
○○ ○○ 様
○○ ○○ 様
○○ ○○ 様
○○ ○○ 様
○○ ○○ 様
○○ ○○
○○ ○○
○○ ○○
○○ ○○
○○ ○○
担当
講師
講師
講師
講師
講師
講師
講師
運営
運営
運営
運営
運営
所 属
株式会社○○○○ 取締役
一般社団法人○○○○ 理事
一般社団法人○○○○ 理事
一般社団法人○○○○
一般社団法人○○○○
一般社団法人○○○○
○○大学 教授
郡山情報ビジネス専門学校
郡山情報ビジネス専門学校
郡山情報ビジネス専門学校
郡山情報ビジネス専門学校
郡山情報ビジネス専門学校 (本イベント運営責任者)
Ⅳ.講座・体験フェアにおける講座等担当一覧
氏 名
1 ○○ ○○ 様
2 ○○ ○○ 様
3 ○○ ○○ 様
4 ○○ ○○ 様
5 ○○ ○○ 様
6 ○○ ○○ 様
7 ○○ ○○ 様
担当内容
入り
○日
9:30~10:30 講演 『子どもと運動』
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
○日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
○日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
○日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
○日
10:30~11:00 講師 応急処置に関する講義
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
10:30~11:00 講師 応急処置に関する講義
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
○日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
14:00~15:30 講師 運動プログラム体験フェア
△日
9:30~10:30 講演 『子どもと運動』
11:00~12:30 講師 運動プログラム体験実習
○日夜
○日夜
○日夜
○日夜
○日夜
○日朝
(○○市在住)
○日夜
(○市在住)
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅴ.講座・体験フェアにおける運営担当者役割分担
氏 名
担当内容
入り
1 ○○ ○○
当日会場集合
ビデオ・写真撮影他
2 ○○ ○○
当日会場集合
司会,設営他
3 ○○ ○○
当日会場集合
受付,設営他
4 ○○ ○○
当日会場集合
設営,雑務他
5 ○○ ○○
当日会場集合
運営責任者
Ⅵ.利用会場
【アクセス】
【会場外観】
【住所・電話番号】
○○市体育館
〒○○○-○○○○
○○市○○○1丁目○番地
TEL.○○-○○○○-○○○○
FAX.○○-○○○○-○○○○
http://www.○○○.○○○.jp
※地図や画像にはぼかしを入れています。
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
【会場見取図】
1階
※会場図には、ぼかしを入れています
2階
※会場図には、ぼかしを入れています
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅶ.会場設営プラン
1.勉強会(9:30~11:00)
【使用会場:会議室】
会議室入口
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
演
台
●
2.体験実習(11:00~12:30)及び体験フェア(14:00~15:30)
【使用会場:大体育館】
受
付
①
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
②
※①②はボール入れ
ミネラルウォーター
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅷ.基本設営(使用備品)
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
品名
個数
用途
設置場所
手配先
備考
バインダー
20 アンケート記入
受付
運営担当
ボールペン
30 アンケート記入
受付
運営担当
フェア予定表・諸注意プリント
50
受付
受付
運営担当
受付掲示
1 受付掲示
受付
運営担当
ホチキス
1
受付
受付
運営担当
マーカー
1
受付
受付
運営担当
フェア参加者アンケート
40
受付
受付
運営担当
ポリ袋
20 運営全体
控室
運営担当
掲示用ビラ
1000 会場掲示
受付
運営担当
各種掲示
2 会場掲示
受付
運営担当
会場使用許可書
1 会場使用
責任者携帯 運営責任者
救急箱
1
救急
大体育館
運営担当
クーラーボックス
2
救急
大体育館
運営担当
氷
3
救急
大体育館
運営担当
ウォータージャグ
1
救急
大体育館
運営担当
入口看板
1 玄関掲示
玄関
運営担当
ペットボトル
20 講師・スタッフ用
大体育館
運営担当
弁当
18 講師・スタッフ用
控室
運営担当
会場にてレンタル
長机
21
設営
会議室
会場にてレンタル
椅子
40
設営
受付
会場にてレンタル
長机
21
設営
会議室
会場にてレンタル
椅子
40
設営
受付
荷ヒモ
1
設営
受付
運営担当
ハサミ
3
設営
受付
運営担当
セロテープ
1
設営
受付
運営担当
ガムテープ
1
設営
受付
運営担当
ミネラルウォーター配布所 運営担当
油性マジック
20
フェア
○○サウンドトラックCD
1
フェア
大体育館
運営担当
運動プログラムテキスト
40
フェア
受付
運営担当
ミネラル・ウォーター
100
フェア
大体育館
運営担当
空ペットボトル
30
フェア
大体育館
運営担当 コーンの代用
会場にてレンタル
ホワイトボード(移動式)
1
勉強会
会議室
ホワイトボードマーカー黒
4
勉強会
会議室
運営担当
ホワイトボードマーカー赤
2
勉強会
会議室
運営担当
ホワイトボードマーカー青
2
勉強会
会議室
運営担当
プロジェクタ
1
勉強会
会議室
運営担当
プロジェクタ接続コード
1
勉強会
会議室
運営担当
延長コード
2
勉強会
会議室
運営担当
ノートPC
1
勉強会
会議室
運営担当
運動プログラムテキスト
20
勉強会
受付
運営担当
指導者テキスト
20
勉強会
受付
運営担当
角2封筒
20
勉強会
受付
運営担当
○○様使用プリント
20
勉強会
会議室
運営担当
△△様使用プリント
20
勉強会
会議室
運営担当
会議室・大体育館 運営担当
携帯用AED
1
勉強会
コピー用紙A3
500
勉強会
受付
運営担当
コピー用紙A4
500
勉強会
受付
運営担当
勉強会受講者アンケート
20
勉強会
受付
運営担当
カラーボール(空気無)
50 勉強会・フェア
大体育館
運営担当
カラーボール(空気有)
40 勉強会・フェア
大体育館
運営担当
カラーボール入れ①
1 勉強会・フェア
大体育館
運営担当
カラーボール入れ②
1 勉強会・フェア
大体育館
運営担当
撮影ビデオカメラ一式
1 勉強会・フェア 会議室・大体育館 運営担当
ハンドポンプ
2 ボールへ空気注入
受付
運営担当
55 ビニール袋(小)
100
救急
大体育館
運営担当
56 参加者名簿
1
受付
受付
運営担当
57 講座予定表・諸注意プリント
20
受付
受付
運営担当
58 クリップ
1
受付
受付
運営担当
※救急箱中身…冷却スプレー,テーピング,絆創膏×2,熱をさますシート,ティッシュ,アンダーラップ,シップ,消毒液
※上記の他、ソケットレンチセット・ペンチ等も持参
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム勉強会&体験フェア(○○市会場)
Ⅸ.タイムスケジュール
○○○○様 △△△△様 □□□□様 ○○○○様 △△△△様 □□□□様 ○○○○様 △△△△
17:00
○
18:00
日
□□□□
○○○○
△△△△
□□□□
各自移動
各自移動
各自移動
各自移動
19:00
20:00
( )
21:00
ホテル到着21:00前後)
8:00
○○に集合後、会場へ移動
(8:15出発)
(8:15出発)
(8:15出発)
(8:15出発)
各自移動
(8:15出発)
(8:15出発)
9:00
10:00
会場到着後設営 会場到着後設営 会場到着後設営
会場内撮影
講演
司会
受付
会場到着後設営
各種雑務
講義
○
11:00
運動プログラム体験実習講師
司会
12:00
13:00
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
会場内撮影
昼食
受付
14:00
日
運動プログラム体験フェア
司会
15:00
片付け終了後 片付け終了後 片付け終了後 片付け終了後 片付け終了後
16:00 ホテルへ移動
ホテルへ移動
ホテルへ移動
ホテルへ移動
ホテルへ移動
駅前に移動
17:00
( )
18:00
20:30○○駅到着
19:00
懇親会(19:00~21:00)
※会費:おひとり様○○○○円
※会場:○○
電話:
20:00
21:00
8:00 会場へ移動
(8:15出発)
会場へ移動
(8:15出発)
会場へ移動
(8:15出発)
会場へ移動
(8:15出発)
会場へ移動
(8:15出発)
会場へ移動
(8:15出発)
9:00
各自移動
各自移動
会場到着後設営 会場到着後設営
講演
10:00
司会
会場内撮影
各自移動
各自移動
受付
講義
○
11:00
運動プログラム体験実習講師
司会
12:00
13:00
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
昼食
会場内撮影
○○駅へ移動
昼食
受付
14:00
日
運動プログラム体験フェア
司会
15:00
16:00
( )
17:00
18:00
19:00
解散
解散
解散
解散
解散
解散
片付け終了後 片付け終了後 片付け終了後 片付け終了後
解散
解散
解散
解散
「福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業」
福島の子どもたちを健康に導く運動プログラム体験フェア&勉強会(○○市会場)進行表
Ⅰ.○月○日 進行表
時間 プログラム
進 行 内 容
9:00 講座用
・会場設営プランの通りに会場セッティング
会場設営 ・音響機材のセッティングとチェック
・開講式に向けてマイクのセッティング(本部席・教卓)も行う
9:30 開講挨拶
担当者の名前を記載する
※○○様は、開講挨拶開始より前に、講師控え席に着席して待機
それではお時間となりました。本日はお休みのところお集まりいただき誠にありがとうございます。
只今より、平成○○年度文部科学省委託
東日本大震災からの復興を担う専門人材育成支援事業
福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業
福島の子ども達を健康に導く運動プログラム勉強会を開講いたします。
本日は、
9:30より、○○様のご講演、
10:30より、RICE処置とAEDの使用法に関する講義、
11:00より、体育館にて運動プログラムの体験実習を行ってまいります。
勉強会の終了は12:30を予定しております。
適宜休憩をとりながら進めて参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
運 営
設営
設営+MC準備
受付+設営
雑務
音響、プロジェクタ
録画準備
録画開始
MC
受付9:45まで
勉強会参加
講演
それでは早速始めさせていただきます。
(目安60分) 講演『○○○○○○○○○○○○』
○○様、よろしくお願いいたします。
※○○様、教卓へ移動
講演 『○○○○○○○○○○○○』(○○様)
※○○様、終了後教卓にて待機
○○様、ありがとうございました。
何かご質問などありましたら、挙手をお願いいたします。
~質疑応答~
よろしいでしょうか。それでは東様、ありがとうございました。
※○○様、控え席へ移動
○○様にどうぞ拍手をお願いいたします。
(○○様が着座し、拍手が止んだら)それでは、○○分間の休憩を取ります。
○○時○○分までにお席までお戻りください。
10:30 講座
目安30分
11:00 講座
目安30分
※○○様は、講座開始のMCの開始より前に、講師控え席に着席して待機
それではお時間となりましたので、次の講座を始めます。
講座『RICE処置とAEDの使用法』
○○様でございます。
○○先生、よろしくお願いいたします。
※○○様、教卓へ移動
講座『RICE処置とAEDの使用法』(10:30~11:00)
※○○様、終了後教卓にて待機
○○様、ありがとうございました。
何かご質問などありましたら、挙手をお願いいたします。
~質疑応答~
よろしいでしょうか。○○様、ありがとうございました。
※○○様、控え席へ移動
(○○様が着座してから)それでは、○○分間の休憩を取ります。
なお、運動プログラムの体験実習は体育館にて行いますので、
休憩中のご移動をお願いいたします。
防犯の都合上、貴重品等は男女それぞれの更衣室にございます無料のコインロッカーをご利用ください。
第1会議室に貴重品やお荷物を置き忘れることのないよう、ご協力をお願いいたします。
体験実習は○○時○○分に開始いたします。それまでに体育館にお入りください。
それではお時間となりましたので、運動プログラム体験実習を始めます。
怪我にご注意いただきながら、楽しく取り組んでいただきたいと思います。
それでは本日の先生方をご紹介いたします。
先生方、前のほうへどうぞご移動ください。
※先生方は会場脇から前方に移動、以下の呼名順に整列し、参加者と対面する
向かって左側より、
○○様でございます。
※○○様、一歩前進し、挨拶をひとこと、その後元の位置に戻る
続きまして、○○様でございます。
※○○様、一歩前進し、挨拶をひとこと、その後元の位置に戻る
続きまして、○○様でございます。
※○○様、一歩前進し、挨拶をひとこと、その後元の位置に戻る
続きまして、○○様でございます。
※○○様、一歩前進し、挨拶をひとこと、その後元の位置に戻る
続きまして、○○様でございます。
※○○様、一歩前進し、挨拶をひとこと、その後元の位置に戻る
続きまして、○○様でございます。
※○○様、一歩前進し、挨拶をひとこと、その後元の位置に戻る
録画終了
録画開始
MC
※○○は体育館設営へ
録画終了・ビデオ移動
第1会議室確認
録画開始
MC
体験フェアお土産セット
・テキスト1冊
・ゼリー
・RICE処置冊子
それでは早速始めて参りましょう。先生方、よろしくお願いいたします。
実習『運動プログラム体験実習』(11:00~12:30)
※先生方、終了後前方にて待機
何かご質問などありましたら、挙手をお願いいたします。
~質疑応答~
よろしいでしょうか。それでは先生方、ありがとうございました。
※先生方、会場脇へ移動
(先生方の移動が終わったら)
以上をもちまして、運動プログラム勉強会を終了いたします。
ご参加いただきました皆様におかれましては、大変お疲れ様でした。
この講座で学んだ知識や技術を活かし、
福島の子ども達を健康に導くため、共に頑張っていきましょう。
最後に、お手数ではございますが、アンケートの記入にご協力ください。
記入したアンケートは、受付にお渡しください。
本日は、誠にありがとうござました。
アンケート配布
受付でアンケート回収
なお、午後の体験フェアにも参加される皆様は、
開始時間の14:00までしばらくお待ちください。
なお、ご飲食はロビーでお願いいたします。
また、ゴミは各自お持ち帰りいただきますよう、ご協力をお願いいたします。
12:30
昼食・会場調整
14:00 体験フェア
目安90分
14:02
14:07
14:27
14:32
14:52
14:57
15:22
15:27
みなさーん、こんにちはー!
それでは、運動プログラム体験フェアをはじめまーす。
みんなで楽しく運動しましょうね!
本日、体験フェアの講師を務めるのは、
○○先生でーす! ※○○様、笑顔で手を振るなどしながら、挨拶をひとこと
○○先生でーす! ※○○様、笑顔で手を振るなどしながら、挨拶をひとこと
○○先生でーす! ※○○様、笑顔で手を振るなどしながら、挨拶をひとこと
○○先生でーす! ※○○様、笑顔で手を振るなどしながら、挨拶をひとこと
○○先生でーす! ※○○様、笑顔で手を振るなどしながら、挨拶をひとこと
○○先生でーす! ※○○様、笑顔で手を振るなどしながら、挨拶をひとこと
それでは、さっそく始めましょう!
まずは、準備体操からはじめます。先生方、お願いします!
※準備体操(5分) 14:02~14:07
つぎは、ボールを使わない運動をしてみましょう。先生方、お願いします!
※ボールなしの運動(20分) 14:07~14:27
ではここで、少しお休みしましょう! みなさん、左の机のところからお水をもらって飲んでくださいね!
保護者の皆様にお願いでございます。ペットボトルをお受け取りになる際、お手数ですが皆様のお名前を
それぞれのボトルに記入してください。休憩はあと数回取る予定です。
その時にご自分のボトルを間違えないための措置でございますので、ご協力をお願いいたします。
(5分後)みんなしっかりお水を飲んだかな?ではペットボトルを元の場所に戻しましょう!
(様子を確認しながら)では、そろそろ運動を始めましょう。
つぎは、ボールを使った足の運動をしてみましょう。先生方、お願いします!
※ボールを使った足の運動(20分) 14:32~14:52
ではまた、少しお休みしましょう! しっかりお水を飲んでくださいね!
(5分後)みんなしっかりお水を飲んだかな?ではペットボトルを元の場所に戻しましょう!
飲み終わった人はゴミ袋に入れてくださいね。
(様子を確認して)では、そろそろ運動を始めましょう。
つぎは、ボールを使った手の運動をしてみましょう。先生方、お願いします!
※ボールを使った手の運動(25分) 14:57~15:22
はーい、楽しかったですか? (楽しかった人? 的なアドリブ)
では、最後に体を落ち着かせる運動をしましょう。先生方、お願いします!
※整理体操(5分) 15:22~15:27
今日はたくさん運動しましたね。いっぱい汗をかいたと思いますが、
しっかり汗を拭いて、風邪をひかないようにしてくださいね!
保護者の皆様、本日は運動プログラム体験フェアにご参加いただき誠にありがとうございます。
最後に、お手数ではございますが、アンケートの記入にご協力ください。
記入したアンケートは、受付にお渡しください。
受付では、『福島の子ども達を健康に導く運動プログラム ボールゲーム』を無料で配布しております。
是非ともお持ち帰りいただき、お子様の健康管理にお役立てください。
本日は、誠にありがとうござました。
15:30
MC準備(13:45)
受付(13:15)
体育館警備(13:45)
録画準備
録画開始
MC
2F受付14:15まで
※手の空いた者から体育館
運営補助
録画終了
アンケート配布
アンケート配布
アンケート回収
アンケート回収
撤収作業
撤収作業
撤収作業
撤収
最後に
福島の子ども達を健康に導く運動プログラムテキスト“BALL GAME”の指導者に求められる知
識は多岐にわたるため、はじめは思うようにいかないことも多々あるだろう。しかし、実際に親子
のペアを対象としてこの運動プログラムの指導を行う際、まずは明るく元気に、笑顔で自ら楽しむ
指導者であってほしい。難しいことではない。イベントに参加している子ども達の楽しそうな笑顔を
見ていると、自然と笑顔になれる。
最後に、バスケットボールのスクール事業を全国に展開している、一般社団法人bjリーグアカデ
ミーの行動規範を紹介したい。
bjリーグアカデミーでは、『世界で活躍する選手を育てる』という理念のもと、Safety (セーフテ
ィ,安全)・Passion (パッション,情熱)・Appreciate (アプリシエート,感謝)・Altruism (オルトルイズ
ム,利他) という4つを行動規範とし、それぞれの頭文字をとって“SPAA”と呼んでいる。これらは
優先順位の高い順に並んでおり、その優先順位を守って行動し、多くの人たちに「バスケットボー
ルの楽しさ」を提供するとしている。
“SPAA”
Safety (セーフティ,安全)
子どもにとってもコーチにとっても安全な場所、空間であることを最優先しバスケットボー
ルをプレイすること。
Passion (パッション,情熱)
子どもの無限の可能性を信じ、子どもがいかなる問題に遭遇しても決してくじけることな
く、現状を打破するまでコーチングをし続けること。
Appreciate (アプリシエート,感謝)
バスケットボールをプレイするにあたり、すべての人・物・環境に感謝の気持ちを持って
常に行動すること。
Altruism (オルトルイズム,利他)
自分の利益を顧みず、子どもの成長のために自己の力を尽くすこと。
運動プログラムの指導者も、『福島の子ども達、全国の子ども達を健康に導く』という目標を達
成すべく、指導者としてのスキルを日々高めていただきたい。
〈参考文献〉
(1)木村真知子編 『子どものボールゲーム バルシューレ』 創文企画、2010
(2)井上雄彦 『スラムダンク』 集英社、1994
(3)杉原隆・湯川秀樹編『保育内容 健康』 光生館、2010
(4)幼児期運動指針策定委員会 『幼児期運動指針ガイドブック』 文部科学省、2012
(5)坂井 建雄監訳『プロメテウス解剖学アトラス(、医学書院、2004)
(6)中村 隆一 『基礎運動学 第 5 板』 医歯薬出版株式会社、2002
(7)足立 和隆 『よくわかる筋の機能解剖 第 2 版』 メディカル・サイエンス・インターナショナル、2008
(8)竹内 修二 『解剖生理学』 医学芸術社、2005
(9)『公認スポーツ指導者養成テキスト 共通科目Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』
公益財団法人日本体育協会、2005
(10)『アスレティックトレーナー専門科目テキスト 第 2・3・8 巻』
公益財団法人日本体育協会、2011
(11)ザバス栄養講座 http://www.meiji.co.jp/sports/savas/lecture/nutrition.php?
(最終確認 2015 年 2 月 10 日)
平成 26 年度 文部科学省委託事業
東日本大震災からの復興を担う専門人材育成支援事業
≪福島の子ども達を健康に導く運動プログラム普及と指導者育成事業≫
福島の子ども達を健康に導く運動プログラムテキスト“BALL GAME”
指導者育成講座テキスト
平成 27 年 3 月
第 1 版発行
【監 修】
東 英樹(株式会社日本プロバスケットボールリーグ 取締役)
大内 郁弥(特定非営利活動法人エストレージャス 理事)
山口 裕貴(桜美林大学 健康福祉学群)
西廣 雄貴(福島ファイヤーボンズ アスレティックトレーナー)
近藤 千紘(一般社団法人 bj リーグアカデミー)
株式会社 明治
【モデル】
関根 彩奈
髙田 透帆
関根 郁子(母親)
【写 真】
尾形 淳
【編 集】
郡山情報ビジネス専門学校 (編集代表:岡崎 史紹)
学校法人 新潟総合学院 郡山情報ビジネス専門学校
連絡先:〒963-8002 福島県郡山市駅前 1-12-2
電話:024-934-4405
FAX:024-922-4167
※本書の内容を無断で転記・記載することを禁じます
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