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バイオ・イノベーション研究会 報告書
バイオ・イノベーション研究会 報告書 平成22年6月 経済産業省 製造産業局 はじめに 近年のバイオテクノロジーの発展はめざましく、我が国でも iPS 細胞の発見など世界的 な優れた研究成果が誕生している。バイオテクノロジーの発展の恩恵を国民さらには人類 が享受するには、先端技術が実用化されること、つまりイノベーションが不可欠である。 特に実用化が期待されているのが、医薬品をはじめとする医療分野である。 医薬品は、バイオテクノロジーをはじめとした多くの先端技術の集積であり、科学技術 立国たる我が国にとって、これからの日本経済を牽引する成長産業の柱となりうる産業で ある。我が国のみならず世界的に高齢化が急速に進展し、また新興国の経済成長に伴い、 医療関連の需要は急速に拡大することが見込まれる。昨年12月に閣議決定された「新成 長戦略(基本方針)」でも、ライフ・イノベーションが、重要な柱の一つとして掲げられて いる。さらに、治療法が確立していない医療ニーズは数多く存在しており、革新的な医薬 品を開発することで対応していくことは、経済的な観点のみならず、国民の健康・幸福と いう観点からも極めて重要である。 その一方で、医薬品業界は現在大きな変化の時代に突入しており、バイオ医薬品など、 より高度な技術力が求められる革新的な医薬品の開発において国際競争は激化している。 かかる状況の中、世界市場に占める我が国発の医薬品の比率は低下しつつあり、我が国の 医薬品産業の国際競争力は残念ながら向上しているとは言い難い現状にある。 技術的なポテンシャルを有しながら、実用化で遅れをとっている我が国の医薬品産業が、 国際競争力を高め、今後の成長産業の大きな柱として育つためには、単に研究開発を推進 するだけでなく、実用化やイノベーションを阻害している様々な要因を取り除く全体的な 戦略の構築と規制改革の取り組みが不可欠である。また、バイオ医薬品など、高度化して いる創薬プロセスに対応した技術力の強化や、国内外にある様々な技術シーズや知的財産 を戦略的に取り入れ連携する、いわゆるオープンイノベーションへの対応などを行う必要 がある。 そこで、イノベーションを起こし、バイオ医薬品をはじめとする医薬品産業を発展拡大 させる方策を検討する事に対象を絞り、経済産業省ではバイオ・イノベーション研究会を 立ち上げ議論を重ねてきた。特に、医薬品産業全体の技術力向上につながる基盤の整備や、 オープンイノベーションを支えるバイオベンチャーや周辺産業の育成を進めることで、製 薬企業のみならず広く医薬品産業全体として足腰の強い産業構造を作り、成長産業として の確固たる土台を築くための取り組みを検討した。 本研究会の取りまとめにおいては、バイオ医薬品の現状と課題を示した上で、医薬品産 業の産業構造を強化するための方向性・ビジョンを提示する。その上で産学官が連携して 行っていくべき具体的方策を示すとともに、具体的方策を実施する上で前提となる規制改 革や大学や研究機関における基礎研究の強化についても取り上げた。 今後は、この研究会での検討を踏まえ、経済産業省、厚生労働省、文部科学省などの関係 省や、産業界、学界など産学官の関係機関が連携を図りながら、医薬品産業が真に成長産 業となるための取り組みを行うことが重要であると考えている。 目 次 Ⅰ.バイオ医薬品を取り巻く現状と課題 ........................................ 3 1.世界市場の動向 ......................................................... 3 (1)世界の医薬品市場の推移と今後の見通し .............................. 3 (2)バイオ医薬品の市場成長 ............................................ 4 (3)国際的競争の激化 .................................................. 6 (4)医薬品産業における研究開発効率の低下 .............................. 7 2.国内医薬品産業の現状 ................................................... 9 (1)日本における医薬品産業の位置づけ .................................. 9 (2)規模の小さい日本の医薬品産業 ..................................... 10 (3)国内の新薬開発数の減尐と「2010年問題」 ....................... 11 (4)日本における医薬品産業の輸入超過 ................................. 13 (5)国内の研究開発環境の相対的な低下 ................................. 14 3.創薬プロセスの変化 .................................................... 16 (1)創薬イノベーション ............................................... 16 (2)国際的なオープンイノベーション(ベンチャー・周辺産業の重要性) ... 17 4.社会的なニーズの変化 .................................................. 18 (1)高齢化に伴う疾患構造の変化 ....................................... 18 (2)個別化医療/テーラーメイド医療の進展 .............................. 20 (3)オーファンドラッグ(希尐疾患用医薬品)の必要性 ................... 22 1 Ⅱ.バイオ医薬品分野の目指すべき方向性・ビジョン ....................... 23 1.分子標的薬など新しい創薬を支える基盤技術の開発 ................... 23 (1)目指すべき方向性 ............................................ 23 (2)具体的施策 .................................................. 25 2.日本の強みである高い安全性を生かした医薬品の基盤強化 ............. 28 (1)目指すべき方向性 ............................................. 28 (2)具体的施策 ................................................... 30 3.ベンチャー等の育成を通じたオープンイノベーションの推進 ........... 34 (1)目指すべき方向性 ............................................ 34 (2)具体的施策 .................................................. 37 Ⅲ.官民が連携すべき事項 ............................................... 43 1.医薬品業界全般における規制改革 .................................... 43 2.大学や研究機関等における基礎研究の充実 ............................ 44 終わりに ............................................................... 45 (参考)バイオ・イノベーション研究会の概要 (1)委員名簿 ..................................................... 46 (2)開催経緯 ..................................................... 48 2 Ⅰ.バイオ医薬品分野を取り巻く現状と課題 1.世界市場の動向 (1) 世界の医薬品市場の推移と今後の見通し 1997 年から 10 年間で世界の医薬品市場は約 2.4 倍に成長しており、今後もア ジアを中心に拡大が見込まれる(成長分野)。 世界の医薬品産業の市場規模は 1997 年から 2007 年までの約 10 年間で、2,939 億ドルから 7,148 億ドルへほぼ 2.4 倍に成長した。今後も創薬技術の進歩や高齢 化の進展により、引き続き拡大見込みである。 新興国は、経済発展や技術の進歩により、医薬品市場規模を拡大させており、 特に中国、インドは、国がバイオ医薬品産業の振興を積極的に支援している。 中国は第11次5カ年計画期間中(2006―2010 年)において、バイオ医薬産業 発展のための基礎を築き上げることとしている。先端技術でも国際水準の達成を 目指す等、国際競争力を持った産業の育成を目差している。また、インドは、国 家バイオテクノロジー発展戦略を策定し、関連予算を増額している。医薬品産業 分野では、リード化合物スクリーニングのための分子・化学ライブラリー構築等 インフラ整備を行っている。 さらに、新興国のみならず先進国においても依然として市場が大きく成長して いることが特徴的である。 このように医薬品産業は、成長が見込まれる産業であり、我が国としても重点 的に取り組むことが必要である。 3 (2)バイオ医薬品の市場成長 医薬品の主流はバイオ医薬品等へシフトしている。 ① バイオ医薬品の特徴 バイオ医薬品は、開発・製造に高い技術力が必要だが、従来の医薬品で対応で きない疾患領域(ガンや関節リウマチなど)を得意とし、副作用も尐なく、1製 品当たりの付加価値も高いと言われており、今後の成長も見込まれる。また、低 分子化合物に比べ、医薬品候補を絞りやすく、ベンチャーにとって開発しやすい 面もあると言われており、日本の大手製薬企業は、ベンチャー企業などからもさ かんに導入を行っている。 バイオ医薬品には、タンパク医薬、抗体医薬、核酸医薬、ペプチド医薬等様々 な種類の医薬品がある。それぞれの特徴を示すと下記の通りである。 ○タンパク医薬 タンパク医薬とは、タンパク質を原料とした最も古いタイプのバイオ医薬品で ある。培養細胞や遺伝子組み換え動物を利用して、成長ホルモンやインスリンな どの特定の酵素やホルモンが主流である。 ○抗体医薬 抗体医薬とは、疾患の原因となっているがん細胞などに選択的に結合して、疾 患を治療する医薬品である。日本の開発は欧米に遅れたが、日本でも 2008 年から 2009 年に 40%成長している。抗体医薬の市場の半分以上の対象疾患はがんであり、 これにリウマチを加えると、市場の 8 割以上を占める。なお、大規模な設備が必 要なため、低分子医薬品と比較すると製造コストは高い。 ○ペプチド医薬 ペプチド医薬とは、アミノ酸が連続した構造を取るペプチドを利用して、人体 の生理活性物質を人工的に作った医薬品であり、抗 HIV ウイルス薬、血栓溶解剤、 抗菌薬、慢性疼痛治療薬等の医薬品が開発されている。 ○核酸医薬 核酸医薬は、遺伝子発現を調節し、特定の体内分子にのみ作用するなど多様な 機能を持つ、核酸を利用して作られる医薬品である。 核酸医薬がターゲットとする疾患は、癌、感染症、循環器疾患等である。局所 投与から全身投与が可能になりつつあり、適応疾患の拡大が期待されている。 4 DNA医薬、RNA医薬や遺伝子治療薬などの種類があるが、まだ本格的な実 用化商品は尐なく、次世代の医薬品と注目されている。また、核酸医薬品は抗体 医薬品と異なり、基本的には生物学的な原料に由来せずとも化学合成による製造 が可能であり、抗体医薬と比較して製造コストが抑えられるなど、今後重点的に 研究開発を進めていく必要がある。 ② バイオ医薬品の市場 遺伝子組換え技術等を利用したバイオ医薬品市場は、2007 年で 750 億ドルを超 え、世界の医薬品市場の 10%以上を占めるに至っている。大型医薬品世界売上ラ ンキングをみても上位 10 製品の中でバイオ医薬品は 2000 年の1製品から、2007 年には 4 製品に増加している。また、バイオ医薬品のうち 22 製品が売上 10 億ド ルを超えている。さらに、2014 年には上位 10 製品の中でバイオ医薬品は 8 品目 を占めるとの予測もある。 従来中心であった低分子医薬品は、循環器系疾患や生活習慣病に係る医薬品で 治療貢献度の高い医薬品開発に成功した。これらの疾患領域の治療は引き続き重 要だが、既存医薬品の満足度はかなり高く、それ以上に有効性が高く同時に安全 性も高い医薬品を上市することはかなり難しくなっている。 一方、バイオ医薬品は、個々の疾患では患者数が尐ないが、既存の治療や医薬 品の満足度が低い領域(アンメットメディカルニーズ)を主に対象とする。その 中には癌などの疾患が多いことから、バイオ医薬品の開発は、国民の健康の維持 という点でも大きな意義を有する。 出所:2000 年、2008 年実績はユートブレーン、2014 年予測はトムソンロイターより 5 (3)国際的競争の激化 新興国の参入等により、国際競争が激化している。 新興国の中には、積極的に医薬品開発の参入を進めている国が出てきている。 先進国と新興国の 2002 年及び 2009 年の開発品目数を比較してみると、新興国の 開発品目数は、絶対数では依然として開発品目数が尐ないものの、中国に注目す ると 2002 年の 56 品目から 2009 年には、134 品目と 2.4 倍に増加している。 このように新興国の創薬への参入も増えていることから、革新的医薬品におけ る国際的競争は激化している。 したがって、我が国も効率的な創薬技術の確立等により、一層の国際競争力を 高めていくことが求められている。 新興国での開発品目数 3000 2853 2002 2009 2500 中国に注目すると2002年の56品目 から2009年には、134品目と2.4 倍に増加。 2000 1641 1500 1000 845 511 633 557 500 254 56 134 203 111 132 0 米国 日本 フランス 中国 ブラジル トルコ 出所: Pharmaprojects (2009.10.25 現在) 出典: 医薬産業政策研究所. 「薬効群別にみた中国の医薬品市場」 政策研ニュース No.29(2010 年 1 月) 6 (4)医薬品産業における研究開発効率の低下 世界的な医薬品開発のコスト増大や、安全性基準の厳格化等により研究開発効 率は低下。 臨床試験に必要な症例数の増加等の要因により、世界全体の上市 1 品目あたり の研究開発費は急増している。2003 年には上市 1 品目あたりの研究開発費は約 12.5 億ドルに達しているが、これは 1996 年の 2 倍以上である。 世界全体の上市1品目あたりの 研究開発費 出所:「医薬経済」2006年6月1日号「悪化する市場環境からの脱却(矢吹博隆)」 また、世界的に新薬の成功確率も減尐している。合成化合物段階からの成功率 をみた場合、2003~2007 年の成功率は 2 万分の1以下であり、1996~2000 年のほ ぼ半分になっている。 7 臨床試験に入った後も、フェーズⅠ~フェーズⅡの臨床試験初期段階での成功 率が低下しているが、これは安全性検討、POC(仮説検証)段階での成功率が 低下していることを意味している。臨床試験を開始しても、上市に至るのは 1 割 未満になっている。 このように、医薬品の開発の難易度が高まっていることにより、効率的な創薬 技術の確立が求められている。 【上市されたシーズを1とした場合のフェーズごとの開発候補品数】 上市されたシーズを1とした場合の フェーズごとの開発候補品数 14 12 11.7 フェーズⅡの開 発成功確率が急 速に低下。 10 8 1994~1997 累積成功率18% 6.9 6 5.6 4 2 3.8 1.8 1.9 1.2 1.1 1 1 1998~2000 累積成功率9% 0 出所:「医薬経済」2006年6月1日号「悪化する市場環境からの脱却(矢吹博隆)」 8 2.国内医薬品産業の現状 (1) 日本における医薬品産業の位置づけ 知識集約型の高付加価値産業で、高齢化率世界トップの日本が重点的に取り組 むべき分野である。 医薬品産業は、知識集約型の高付加価値産業であり、技術力を有する我が国が、 優位性を発揮しうる分野と言える。また、健康・長寿社会の実現、国民のQOL (Quality of Life)向上に貢献するものであることから、高齢化が進む我が国に おける医薬品産業の重要性は一層高まると考えられる。 産業別の付加価値(2004年) 産業別のR&D費対売上高比率 出典:日本製薬工業協会 9 (2) 規模の小さい日本の医薬品産業 我が国の製薬企業は欧米に比べ、規模は小さい。 世界の医薬品企業の売上高で見ると、国内売上トップの武田薬品でも世界トッ プのファイザーの売上の約 30%であり、世界の売上高ランキングでも第 17 位で あるのが現状である。 世界の医薬品企業の売上高(単位:100万ドル)(2008年) 50000 ファイザー (世界第1位) 45000 サノフィ・アヴェンティス (世界第2位) 40000 35000 30000 25000 20000 44174 38863 武田薬品 (世界第17位) 15000 アステラス製薬 (世界第20位) 10000 13467 5000 9386 0 10 (3) 国内の新薬開発数の減尐と「2010年問題」 我が国は新薬を創出できる日米欧の10カ国のうち第3位であったが、国内で の新薬開発数は減尐し、特許切れの2010年問題が深刻化している。 日本は世界的に見てもアメリカ、イギリスに次いで新薬を創出できる数尐ない 国であり、米国、英国に次いで世界 3 位の位置を占めている。 オリジン国別品目数(世界売上上位100品目) 45 42 2003 41 2004 39 40 2005 35 30 25 20 19 20 17 15 15 12 13 9 10 10 9 6 6 6 5 0 3 米国 イギリス 日本 スイス フランス 4 2 ドイツ 3 3 3 2 ベルギー デンマーク 2 2 4 4 4 その他 出所: ©2010 IMS Health. IMS World Review・IMS Lifecycle、Pharmaprojectsをもとに作成 (転写・複製禁止) 出典: 医薬産業政策研究所.「製薬産業の将来像~2015年に向けた産業の使命と課題~」 (2007年5月) 11 しかし、日米欧 5 か国における医薬品開発品目数を見ると、日本は 1996 年を1 とした場合に 2006 年までに約 0.6 程度まで減尐しており、開発品目数について、 低下傾向がみられる。 日米欧5ヵ国における開発品目数の推移 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 1996 1997 1998 1999 米国 2000 2001 イギリス 2002 フランス 2003 2004 ドイツ 2005 2006 (年) 日本 注:開発品目はフェーズⅠから申請中までの品目(効能拡大、剤型追加含む)。1996年=1。 なお2001年は申請準備中段階のデータが一部欠如しているため連続性に欠ける。 出所:Pharmaprojects(2007.2.14現在) 出典: 医薬産業政策研究所.「製薬産業の将来像~2015年に向けた産業の使命と課題~」 (2007年5月) また、多くの大手の製薬企業は、大型医薬品の収益に占める比率が高いが、そ れらの医薬品の特許切れが 2010 年前後に集中(いわゆる「2010 年問題」)してお り、新薬の開発が急務になっている。 特許切れブロックバスター製品の例 特許期限 2010 2010 2011 2012 2013 製品名 アルツハイマー治療剤 「アリセプト 」 合成抗菌剤 「クラビット」 糖尿病治療剤 「アクトス」 高血圧症治療剤 「ブロプレス」 抗潰瘍剤 「パリエット」 製造企業 2008年度の売上高 (億円) 企業内の売上高全 製品売上高 体に占める割合 (億円) (%) エーザイ 782 10.0 第一三共 940 11.2 武田薬品 3870 25.2 武田薬品 2303 15.0 エーザイ 445 5.7 出典:各社決算資料等(売上高の一部は推定値) 12 (4)日本における医薬品産業の輸入超過 医薬品は輸入超過であり、年々輸入高が増加する一方、輸出は伸び悩み。 国内の医薬品生産高は 1997 年から 2007 年までの 10 年間で増加傾向にある。 しかし、医薬品の輸出入についてみた場合、輸出はほぼ横ばいで推移している 一方で、輸入は年々増加しており、輸入超過額は増大している(ただし、貿易外 収支を除く) 。 製造拠点のグローバル化という背景があると思われるものの、我が国医薬品産 業の国際競争力強化が喫緊の課題となっている。 国内の医薬品生産高 億円 66,000 64,000 63,907 64,381 64,522 62,000 61,954 60,000 58,000 61,448 61,734 61,212 60,411 59,273 59,113 56,000 56,100 54,000 52,000 50,000 出典: 薬事工業生産動態統計年報 日本の医薬品の輸出入高の推移 億円 12,000 11,424 10,784 10,000 9,912 9,060 8,000 7,692 6,000 6,787 7,165 輸出高 輸入高 4,000 3,830 3,677 3,721 3,744 3,799 3,518 3,688 2,000 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 出典: 財務省貿易統計 13 (5)国内の研究開発環境の相対的な低下 2007 年から製薬企業は多額の資金で外国企業買収(ベンチャー、ジェネリック の買収)。反面、国内では外資系研究所の撤退や、ベンチャーが育たないことな どにより、国内の創薬力の相対的低下を招いている。これが、若手の活躍の場 の減尐にもつながっている。 我が国では、2002 年に大阪大学発のベンチャー「アンジェスMG」のIPOな どを契機に、本格的なベンチャーブームが到来した。しかし、我が国のベンチャ ー数は欧米に比べ相対的に尐ない状況にある。 バイオベンチャーの企業数海外比較 我が国のバイオベンチャーの企業数推移 700 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 531 500 464 440 383 400 1116 1563 316 300 255 209 200 564 うち公開企業 386 13 181 169 149 126 108 100 0 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 出典:E&Y「Global Biotechnology Report 2008」 バイオインダストリー協会「2007年バイオベンチャー統計調査」 1999 社 数 1998 欧州 1997 米国 1996 日本 1995 社数 586 577 569 600 出典:バイオインダストリー協会「2007年バイオベンチャー統計調査」 したがって、国内製薬企業は、研究開発力を補強するため、海外ベンチャーの 買収を活発化させている。また、中国やインドなど新興国の台頭により、外資製 薬企業は、世界的な組織再編の中、日本の研究機能を閉鎖する一方、中国などの アジアに研究機能を移転する事例もある。 このような状況は、国内創薬力の低下を招くものであり、また若手の活躍の場 の減尐にもつながり、これが更なる創薬力の低下につながるという悪循環に陥る ことが懸念される。したがって、国内研究開発環境の改善は急務である。 14 日本から撤退する外資の研究所 国内製薬企業の海外ベンチャー買収例 発表年 買収 元 買収先 買収額 日本から研究所を撤 退させた外資企業 内容等 07年 11月 アステ ラス Agensys 3億8 700万㌦ 癌領域の抗体医薬 社 を専門とするベン (約420億円) チャー企業を買収。 (米国) 08年 04月 武田薬 品 Millenni um社 (米国) 10年 01月 エーザ イ アカラッ 2億5500万㌦ 循環器や婦人科・ クス(米 (約230億円) 小児科の分野に強 国) いベンチャーを買 収。 88億㌦ (約9000億円) がん領域を中心と した多数の開発品 目を有するベン チャーを買収。 15 閉鎖時期 撤退内容 グラクソ・スミスク ライン 2007年 筑波研究所を閉鎖。 (2007年に中国に 研究拠点を新設) ファイザー 2008年 名古屋中央研究所を 閉鎖。 (2005年に中国へ 研究拠点を新設) ノバルティスファー マ 2008年 筑波研究所を閉鎖。 (2007年に中国へ 研究拠点を新設) 万有製薬 (メルクが買収) 2009年 筑波研究所を閉鎖し 大鵬薬品へ売却。 3.創薬プロセスの変化 (1)創薬イノベーション ヒトゲノム解読が終わり、個人のゲノム解読の時代を迎える中で、バイオ医薬 品など広範かつ高度な技術の融合の必要性が増大している。 バイオテクノロジーは、創薬のプロセス自体を大きく変化させている。 特にバイオ医薬品の開発には、従来の創薬よりも、遺伝子工学、細胞工学など、 広範かつ高度な技術を融合していく必要があり、外部との連携のあり方の巧拙が 競争力に影響を与えるようになっている。 創薬プロセスの変化 標的分子同定 従 来 の 創 薬 新薬候補同定 生化学的 スクリー ニング 基礎研究 による成果 リード 化合物 発見 遺伝子工学 細胞工学 分子 生物学 による 成果 標的 分子 の 最適化 リード 化合物 の最適化 薬効・安 全性確認 新薬承認過程 臨床試験 (治験) ゲノム薬理学 新規技術の導入 バイオ インフォマティクス 現 在 の 創 薬 非臨床試験 生化学的 スクリーニン グ 分子イメージング タンパク工学 リード化 合物発見 構造生物学的 スクリーニング リード 化合物 の最適化 薬効・安 全性確認 関連遺伝子や タンパク質の メカニズム確認 出典:(独)理化学研究所創薬基盤プロジェクトホームページより作成 臨床試験 (治験) ゲノム情報に 基づく 薬効・安全性評価 当局に提出する必要のあるデータの増大 16 (2)国際的なオープンイノベーション(ベンチャー・周辺産業の重要性) 世界的に研究開発、製造、治験の外部機関の活用が進展している(国際的なオ ープンイノベーション)。 バイオ医薬品の研究開発を進めるためには、今まで以上に広い領域の研究開発 が必要となっている。 このため、イーライリリー、ロシュ、メルクなど海外のメガファーマは、基礎 研究から販売まで一貫して自社で行う体制から、周辺産業へのアウトソーシング やベンチャーの外部技術を積極的に取り込むオープンイノベーションに向けた体 制の構築を進めている。 他方、世界的にもバイオベンチャーや CRO(臨床試験受託事業者)、ジェネリッ ク製造受託企業など様々な周辺産業のプレーヤーが、新薬の開発に進出しつつあ る。 今後の創薬には、研究開発効率を向上させる技術は製薬企業の外にもあるとい う視点が重要であり、我が国でもベンチャーや周辺産業を効果的に活用して創薬 力を高めることが必要である。 創薬産業を支える周辺産業 非臨 床試 験 基礎 研究 治験 フェー ズⅠ 治験 フェー ズⅡ 治験 フェー ズⅢ 承認 申請 製 造 販 売 製薬企業 バイオ ベンチャー CRO(Contract Research Organization) (治験依頼者の治験業務を支援) <業務例> ・治験データのモニタリング ・データマネジメント、統計解析業務 ・承認申請書類の作成 CSO (Contract Sales Organization) SMO(Site Management Organization) 開発受託 (非臨床試験や検 査等の受託) (治験受託機関の治験業務を支援) <業務例> ・治験事務局、IRB(治験審査委員会)の運営 ・治験の標準作業手順書の作成、 ・治験コーディネーターの教育研修、業務のフォロー CMO(Contract Manufacturing Organizaion) (医薬品製造受託機関、実際の治験で使用される治験薬の製造を受託) コンサルタント機関 17 (委託者の営業・ マーケティング活動 を受託するビジネ ス) 4.社会的なニーズの変化 (1)高齢化に伴う疾患構造の変化 がん、認知症、骨粗しょう症など、高齢化に伴う疾患構造の変化により、治療 満足度の低い疾患領域に対する医薬品の開発ニーズが上昇している。 わが国の人口高齢化は急速に進展しており、65 歳以上の高齢者が全人口に占め る比率は 2005 年には 20%を超え、2030 年には 31.8%まで増加すると予測されて いる。 高齢者は特に循環器系疾患、筋骨格系の疾患で患者数が多い。また、これらに 加えて、新生物(癌を含む)、内分泌、栄養及び代謝疾患、神経、眼の疾患は、全 年齢層の中で、65 歳以上の患者数が全体の半数を超えている。また、認知症、ア ルツハイマー病は、高齢化が進展するにつれ、加速度的に患者数が増加するため、 その対応が必要である。 製薬企業にとっても今まで開発を行っていた生活習慣病など患者数の多い疾患 は、研究開発が難しくなる傾向にあり、市場の大きさだけでなく、いかに付加価 値のある医薬品を生み出していくかも重要な課題である。実際、最近の製薬企業 の医薬品の研究開発においては、治療に対する薬剤の貢献度が低く、治療満足度 が低いがんや認知症、骨粗しょう症、うつ病などの医薬品に関し、多くの研究開 発がなされている。 日本の年齢別疾患発症率 (人口1万人あたりの発症率:2005年度) 160 140 認知症 120 ガン 100 80 心不全 脳梗塞 肺炎 アルツ ハイマー 60 40 20 糖尿病 5 0-54 5 5-59 6 0-64 5- 9 1 0-14 1 5-19 2 0-24 2 5-29 3 0-34 3 5-39 4 0-44 4 5-49 0 1- 4 0 6 5-69 7 0-74 7 5-79 8 0-84 8 5-89 90- リューマチ 年齢 出典:「厚生労働省 患者調査(平成17年度)」より ソニーコンピューターサイエンス研究所 桜田一洋氏作成 18 治療満足度(2005年)別にみた新薬の開発状況(2008年9月時点) 100% 16品目(7.5%) 消化性潰瘍 75品目(35.4%) 90% 痛風 糖尿病 高脂血症 80% 5 アレルギー性鼻炎 70% 60% 慢性B型肝炎 パーキンソン病 2 慢性C型肝炎 50% 21 炎症性腸疾患 脳梗塞 統合失調症 4 40% 糖尿病性腎症 30% COPD エイズ 1 肝硬変 多発性硬化症 20% 3 てんかん 1 糖尿病性神 経障害 10% 3 3 7 アルツハイマー病 4 MRSA IBS 67 4 6 8 心不全 3 1 不整脈 3 SLE 緑内障 9 1 子宮内膜症 82 6 心筋梗塞 3 前立腺肥大症 白血病 ネフローゼ アトピー性皮膚炎 12 骨粗鬆症 過活動膀胱 乾癬 腹圧性尿失禁 慢性糸球体腎炎 3 じょくそう 変形性 慢性腎不全 関節症 3 肺癌 7 9 1 睡眠時無呼吸 肝癌 脳出血 2 2 高血圧症 狭心症 26 2 不安神経症 2 機能性胃腸症 関節リウマチ 喘息 13 2 2 うつ病 4 治 療 に 対 す る 薬 剤 の 貢 献 度 4 結核 前立腺癌 乳癌 5 6 胃癌 1 子宮筋腫 大腸癌 1 子宮癌 2 加齢黄斑変性 血管性痴呆 糖尿病性網膜症 87品目(41.0%) 0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 治療満足度が低い疾患 治療の満足度 出典:医薬産業政策研究所 注:2007 年国内医薬品売上高上位 20 社(アステラス、アストラゼネカ、アボット、エーザイ、大塚、小野、グラクソ・ スミスクライン、サノフィ・アベンティス、塩野義、第一三共、大日本住友、大鵬、武田、田辺三菱、中外、日本ベーリ ンガー、ノバルティス、バイエル、万有、ファイザー)の開発品をピックアップした。 開発品の情報は、2008 年 9 月時点で、各社がホームページで公表している情報、または、製薬協ホームページ「開発 中の新薬」に各社が登録している情報に基づき、第 I 相~申請中の新有効成分含有医薬品、あるいは、新効能医薬品とし た。 開発品は 258 品目あり、このうち、175 品目(のべ 212 品目)が 2005 年度の治療満足度調査の対象となった 60 疾患に 関連するものであった。 出所:ヒューマンサイエンス振興財団.「平成 17 年度国内基盤技術調査結果報告書-2015 年の医療ニーズの展望ー」の 調査結果をもとに作成 出典:医薬産業製政策研究所(2008 年 9 月作成) 19 (2)個別化医療/テーラーメイド医療の進展 技術の進歩により、疾病が遺伝子レベルで理解や分類されるようになり、個人 間の遺伝子等の違いを捉えた、より効果の高い治療の開発へシフトしている。 個人間のわずかな遺伝子の型の違いにより、病気のかかりやすさ、薬剤の効果、 副作用に個人差が生じることも明らかになり、バイオマーカーを利用して罹患リ スク、薬剤効果、副作用を予測することによる、効果的かつ安全な個人に応じた 医療の実現に向けた研究が重要になってきた。また、バイオマーカーなどの研究 開発が進むと、治験の対象患者を絞り込み層別化することで治験の規模を縮小で き、医薬品の開発コストを抑えられる可能性もあるといわれている。 ロシュなどの欧米のメガファーマは、診断法開発企業との間で、診断薬と一体 的に医薬品を開発する共同研究を活発化させており、欧米における製薬企業と診 断法開発企業との共同研究契約件数も増加している。 いかなるメカニズムで疾患または副作用が起きているのかを正確に診断技術と、 そのメカニズムに合わせてどこをターゲットとした薬剤を創製するかを、診断法 開発企業と製薬企業が連携して開発を進めていく必要がある。 対処療法ではない科学的根拠に基づく 新たな医療(診断法)の具体例 遺伝子タイプの違いによる乳がん手術後の 無再発率 •乳癌治療薬のタモキシフェンは、投不された患者の 体内で活性化されて初めて薬としての作用を持つ。 •しかし、日本人の約20%は遺伝子の型の違いによっ てタモキシフェンを活性化することができず、タモ キシフェンを投不しても薬効が現れない。 活性化遺伝子正常タイプ 活性化遺伝子異常タイプ 8年後の再発率は5倍も異なる あらかじめ患者の遺伝子を調べ、タモキシフェン投不 が有効か否かを調べることにより、有効でない患者に は始めから別の治療を行うことができる。 (出典)理化学研究所資料から経済産業省作成 20 21 (3)オーファンドラッグ(希尐疾患用医薬品)の必要性 新薬が出にくくなっていることから、企業がますます手を出し難くなるオー ファンドラッグは、社会的要請から国が関与することは重要。加えて、他の創 薬研究に波及効果がある。 従来、オーファンドラッグをはじめとするニッチ市場は、国民の健康にとって 必要ではあるものの、対象患者が尐ないため、製薬企業にとってビジネス的に進 出しにくい領域であった。 しかし、患者数の多い疾患に対して、すでに多くの医薬品が創出されているこ とから革新的な医薬品の研究開発が難しくなる傾向にある中、患者の尐ない新薬 の権利を買い付け製品化するビジネスに強みを発揮するベンチャー企業が出てく るなどニッチ市場のビジネスとしての重要性が高まってきている。医薬産業政策 研究所の調査によれば、欧州の主要製薬企業は、細分化された薬効領域をターゲ ットとし、競合が尐ないニッチ市場での売上げ占有率を高める戦略を取ることで ブロックバスターへの依存度を低下させていると言われている。 また、希尐疾患の疾患メカニズムを解明することは、他の疾患メカニズムの理 解にもつながることがあり、結果として、創薬力の向上につながりうるとも言わ れている。したがって、産学官が連携してオーファンドラッグの開発を活発化し ていく意義は大きいといえる。 日米欧上位10社企業の売上高に占めるトップ10品目の比率 (2003~2007年累計) 100% 売 上 比 率 ( 2 0 0 3 ~ 2 0 0 7 年 累 計 ) 90% 26.2% 26.8% 80% 42.2% 70% 60% 50% 40% 73.8% 73.2% 30% 57.8% 20% 10% 0% 米国企業上位10社 欧州企業上位10社 売上トップ10品目以外 日本企業上位10社 売上トップ10品目 出所:©2010 IMS Health. IMS World Reviewをもとに作成(転写・複製禁止)。 出典:医薬産業政策研究所. 「研究開発型製薬企業の国際競争力と成長戦略」リサーチペーパー・シリーズNo.49 (2010年3月) 22 Ⅱ.バイオ医薬品分野の目指すべき方向性・ビジョン 1.分子標的薬など新しい創薬を支える基盤技術の開発 (1)目指すべき方向性 ヒトゲノム解読が終わり、個人のゲノム解読の時代を迎える中で、バイオ医薬品 等の分子標的薬が増え、遺伝子工学、細胞工学を始めとする広範かつ高度な技術 の融合が求められるようになってきた。 分子標的薬(疾患細胞が持つ特定の分子にのみ作用し、副作用が尐なく効果の高 い医薬品)は、今後の成長が見込まれるため、分子標的薬を創るために必要な基 盤技術の開発を重点的に進める。 ①新たな創薬ターゲット領域の探索 ヒトゲノム解読が終わり、個人のゲノム解読の時代を迎える中で、核酸、タン パクなど複雑なメカニズムの中で疾患に影響を及ぼす体内の標的を対象とした創 薬ターゲット探索技術の開発が急激に進んできた。しかし、高齢化の進行に伴い 認知症、がん、糖尿病等の疾患への対応が今後ますます重要となる中、これらの 疾患に対する有力な創薬ターゲットは未だに多くは見つけられていない。 このような中で、遺伝子に対する後天的な変異(エピゲノム)が生命現象の根 幹として多くの疾患に影響を及ぼしていることが明らかとなりつつある。このた め、こうした分野を新たな創薬ターゲット領域とした、疾患との関連づけや高精 度解析技術の開発などの創薬基盤技術の開発が重要である。 ②創薬標的の構造解析に基づく候補物質の設計と迅速・精密なスクリーニング 医薬品産業においては、世界的に創薬の成功確率が低下し、革新的な医薬品の 上市までに必要な研究開発費はますます増大している。このため、スパコンなど 高性能なコンピュータの活用により、さらに効率的な医薬品開発を行っていくこ とが求められる。 膜タンパクをはじめとした分子標的タンパクの立体的な機能構造決定に基づく in silico スクリーニングと分子動力学に基づくシミュレーションを基礎とした コンピュータ創薬技術は、我が国産業の強みと言える分野であり、このような分 野の基盤技術の一層の強化を図り、我が国医薬品産業の競争力強化を図ることが 重要である。 23 また、天然化合物にみられるように複雑な構造を有する化合物は生理的活性が 高く、医薬品の候補となるものも尐なくないが、合成が技術的、経済的に困難で あるとの理由から、開発を断念するケースも多く、これが創薬の効率の低下の一 要因ともなっている。このため、我が国が強みを有する有機合成技術を活かし、 複雑な構造の化合物を、生物機能を利用して合成する技術を開発することにより、 これまで設計することのできなかった革新的な医薬品を創出する基盤を構築する ことが重要である。 上記のような取組を支える基盤として、各研究機関で取得するデータの品質を 揃えるために、データを集約して解析し、共有する仕組み作りが必要である。 このためには、インフォームド・コンセントのもとに、臨床試料や臨床情報を 技術開発に利用できる環境を確保する必要がある。また、個人情報保護に留意し つつ、治験データ、診療データ、遺伝子データ、細胞バンク等、創薬力強化を実 現するために必要なデータベース等の標準化を進めるとともに、その整備のあり 方について早急に検討し、構築を進めることが重要である。 24 (2)具体的施策 ① 新薬開発の対象となる標的分子(疾患細胞が持つ特定の分子)を探索する技 術の開発を国の研究開発により行う。 ○生活環境等による遺伝子の後天的な変異(エピゲノム)を検出する解析機器等 を開発し、それにより得られる膨大なデータから、疾患を引き起こす原因とな る遺伝子の変異を探索する情報処理技術等を開発 ② IT等を活用し、標的分子にのみ作用する新薬候補を合理的に設計する技術 の開発を国の研究開発により行う。 ○X線結晶構造解析、電子顕微鏡、核磁気共鳴法等を用いて、標的分子の構造や 作用機構を高精度で解析する手法を開発し、これらの解析情報を基に IT(スパ コン等)によるシミュレーション等で低分子の探索や設計を行う技術の開発 ③ 化学合成が困難な新薬候補の製造を可能とする技術の開発を国の研究開発 により行う。 ○設計された新薬候補のうち、従来の化学合成方法では製造できないものについ て、生物機能を活用して合成する技術の開発 ① 新薬開発の対象となる標的分子(疾患細胞が持つ特定の分子)を探索する技術 の開発を国の研究開発により行う。 近年の解析技術の急速な進展により明らかとなって来た「遺伝子に対する後天 的な変異(エピゲノム)」によって様々な疾患(特に各種のがん)が発生するメカ ニズムを活用し、新たな創薬基盤の開発を行う。 研究開発内容 ①後天的ゲノム修飾と疾患とを関連づける基盤技術開発 ①後天的ゲノム修飾と疾患を関連づけ る基盤技術開発 複数種のがんと正常細胞を比較解析し、疾患との関連を解明。 ○解析等によって得られる情報基盤を用いて疾患と正常の比較分析 ○がん発症に関するエピゲノム異常を引き起こす原因因子を探索 ○新たな創薬・診断の標的分子候補を複数個同定 ②後天的ゲノム修飾 解析技術開発 臨床検体 活用 解析・関連づけ ②後天的ゲノム修飾解析技術開発 ヒストン 情報基盤 修飾マップ 既存の解析技術は産業応用に 課題が 多いため (感度、 特異性 等が 低い)高精度の解析技術を開発し、必 要情報を 抽出。 ○ヒストン修飾酵素用抗体を開発し現状の100倍の高感度を実現 ○がんのヒト臨床サンプルと正常細胞のヒストン修飾因子等の解析 ○系統的なマッピングにより膨大な情報から必要な情報を抽出 DNAメチル化マップ ③探索的実証研究 遺伝子発現 疾患モデル マウス 実証 制御因子の同定、実証 によるシステム検証 本 プ ロ ジェ ク トでの 成 果 の 「 技 術」 と「 デ ータ」 を 創 薬 基 盤 とし て普 及 させ る ③探索的実証研究 各種のエピゲノムと関連 する 疾患に 対して医 薬品や 診断法を 効率 的に開発するために、多数の試験サンプ ルに適 応可能 なエピ ゲノム の高感度かつ高精度な定量的測 定法の 開発を行 い、創 薬基盤 として の有用性を実証。 ○エピゲノムを再現性良く定量的に解析するハイスループットアッセイ法を 構築 ○モデル動物等による検証を通じて標的としての妥当性を確認 ○開発した創薬基盤技術の有用性を実証 25 製薬企業での 診断企業での 創薬 診断 画期的新薬 創薬加速化 個別化医療の実現 ② IT等を活用し、標的分子にのみ作用する新薬候補を合理的に設計する技術 の開発を国の研究開発により行う。 分子標的タンパクの立体構造決定を基礎としたコンピュータ創薬技術は、近年 大きな成果をあげつつあり、標的治療薬の開発における我が国産業の強みと言え る分野であり、このような分野の基盤技術の一層の強化を図り、我が国医薬品産 業の競争力強化を図る。 研究開発内容 ①重要な創薬ターゲット物質である膜タンパク質の立体構 造情報を取得するための技術開発 ③高精度なコンピュータ技術を活用し、新薬候補を高効率 に探索するための技術開発 ・独創的な電子顕微鏡を開発することにより、これ まで解析が不可能であった膜タンパク質の立体 構造取得を目指す。 ・特に、ヒト由来の膜タンパク質の構造解析が可能 な技術の開発を行う。 ・高精度なコンピュータによるス クリーニング技術及びモデリン グ技術を開発し、創薬のため の実用プログラムを開発。 極低温電子顕微鏡 ②膜タンパク質に作用する分子との相互作用情報を取得 するための技術開発 計算科学 ・これまで世界に例がなかったNMR(核磁気共鳴 法)による相互作用解析法を開発することによ り、これまで解析が不可能であった分子間相互 作用の解析を目指す。 ・がん細胞転移やHIV感染等の分子間相互作用を 解析し、有用性を実証する。 核磁気共鳴装置 26 ③ 化学合成が困難な新薬候補の製造を可能とする技術の開発を国の研究開発に より行う。 天然化合物は、構造の多様性が高く豊富な生物活性を有していることから、医 薬品として利用できる可能性は大きい。実際、天然物由来の医薬品は全体の5~ 6割を占めている。しかし、従来の化学合成では構造が複雑、合成が不安定等の 課題があるため、化学合成でできる天然化合物には限りがあった。しかし、技術 の進歩により生物機能を活用した新たな天然化合物の合成が可能となりつつある ため、当該技術を活用して生物活性の高い新薬候補物質を創製する基盤技術を開 発する。 研究開発内容 1.微生物の生合成遺伝子情報基盤構築 合成化合物の大量解析による創薬技術の限界 ① 微生物の生合成遺伝子の解析 次世代シーケンサを用いることにより、微生物が持つ有用生合成遺 伝子を効率的に探索し、解析する技術を開発する。 ② 微生物の生合成遺伝子と産生する化合物との関連づけ 微生物が産生する微量な化合物を解析する技術を開発し、①により 解析した生合成遺伝子と関連づけすることにより、生合成遺伝子情 報基盤を構築する。 豊富な生物活性を有する天然化合物の活用により、 創薬効率低下に歯止め 生物機能を活用した効率的創薬技術の構築 2.微生物による化合物の新規合成技術の開発 ① 遺伝子組換え技術を用いた化合物の新規合成技術の開発 1.で構築した情報基盤を活用し、生合成遺伝子の組換えを行うこと により新規化合物の生合成を行う基盤技術を開発する。 ② 微生物における効率的化合物合成手法の開発 化合物を大量に得るため、生物育種や異種発現等により生合成を 高効率に行う手法を開発する。 近年急速に進展してきた遺伝子制御技術等の活用 ①微生物の有用遺伝子の探索 ②遺伝子制御技術により得られた微生物を活用し、新規化 合物を取得する技術の開発 3.創薬における実証研究 新薬候補物質を創製する新たなものづくり技術を確立 創薬プロセスにおける実証研究を行うことにより、技術の有効性評価 を行う。 27 2.日本の強みである高い安全性をいかした医薬品開発の基盤強化 (1)目指すべき方向性 世界的な安全性基準の厳格化の中で、新薬の臨床試験を実施するためには、高い 安全性と、適応症例の的確な選択が必要である。 安全性や治療効果の予測技術等、安全に医薬品を開発するための技術開発と評価 技術等の標準化に重点化する。 ①安全性評価技術の重視 米国では、「FDA(アメリカ医薬食品局)再生法」に基づいてREMS(リスク評価. リスク軽減戦略、レムズ)が、新たに導入された。FDAは必要と認めれば、企業に 対して市販後であれ市販前であれ、医薬品のリスクを見極めそのリスクを最小限 にするための管理プログラムを提出させることができる。このように、医薬品の 安全性は重視される傾向にある。 他方、我が国は安全性の高い薬をつくり出すために必要な世界的な技術(高品 質なマウスの生産等)を多く有している。従って、今後は日本発の薬は安全であ るといえるような技術をさらに強化することで今後の創薬における日本の強みに すべきである。 ②iPS 細胞等の再生・細胞医療等実用化のための標準化 iPS 細胞は、皮膚等の体細胞から作成した様々な組織に分化する能力をもつ細 胞であり、2007 年 11 月に京都大学の山中教授により樹立された画期的な技術で ある。受精卵を壊さず、皮膚等の細胞から作成できるため、倫理的な問題が尐な く、また、患者自身の皮膚等から作成するため、疾患メカニズムの解明につなが る、拒絶反応のない組織の細胞を再生できるという利点がある。このため、免疫 拒絶のない再生医療や創薬における安全性評価など、様々な分野での活用が期待 されており、研究開発における国際的な競争が激化している。このような中、例 えば、海外ではハーバード大学等が、ES 細胞の研究成果を基に iPS 細胞を広く配 布し、培養方法や評価技術等の総合的なデファクト標準化に向けて取り組みを始 める動きなど、当該分野での主導権確保に向けた動きも見られている。 一方、iPS 細胞等の品質の評価項目、評価技術が確立されていないため、細胞 の比較もできず、用途に応じてどの iPS 細胞を用いるべきか判断ができないとい 28 う課題もある。また、再生・細胞医療等、iPS 細胞等の実用化を促進するために は、iPS 細胞等の安全性の評価手法の確立が必須である。 このため、日本が作製した iPS 細胞等の技術について、その実用化のための基 盤を構築するとともに世界的に普及させていくため、日本式の評価法等を早期に 確立し提案していくことが重要である。 ③疾患予防、診断、治療、予後管理の一体化、それを実現するためのデータ処理 技術開発 同一と分類された疾患も実質的には多様であり、このような多様性が効果の低 い治療や副作用の一因となっている。このため、疾患予防、診断、治療、予後管 理まで一体的にとらえて研究開発することにより、精密な診断を行うことで、効 果の低い治療や副作用を減らし、質と費用対効果の高い医療を実現することが必 要である。生活習慣の改善による疾患予防や、予後管理もあわせ、生活の質を高 める医療技術を重視するべきである。 また、技術の発展により膨大なデータの取得が可能となっており、今後はゲノ ムや細胞レベルのミクロデータと人体レベルのマクロデータの連結等、取得デー タ活用のための基盤技術が必要とされることから、大量のデータを的確に処理す るための技術開発も課題である。 なお、費用対効果は社会的便益も含めて勘案する必要があり、また、医薬品の 開発力強化にも資する観点から、希尐疾患などに有効なオーファンドラッグの開 発に対する支援も必要である。 特に、がん等の多様性の高い疾患について、その正確・精密な診断の実現を図 るためには、多様で新鮮な疾患サンプルへのアクセスが必要となる。医薬品業界 からの要望を受け、アクセス改善に係る取組が一部行われているが、投薬履歴等 の治療情報が付されていないなど、十分とは言えない状況にある。このため、医 療機関との連携により、疾患サンプル及び投薬履歴等の治療情報へのアクセスを より円滑にする仕組みを構築することが重要である。その上で、遺伝子等の経時 的変異の簡便な検出法の開発や、このような技術を用いて疾患群をより小集団に 分類する方法の開発、iPS 細胞や実験動物等を用いた疾患モデルの作成、イメー ジング等の技術開発を加速させることが必要である。また、これらの高い信頼性 を備えた診断技術を安価かつ安定的に供給するための取組も必要である。 また、アルツハイマー病等の認知症については、一度進行した病状を元に戻す ことが現状の医療技術では不可能であり、高齢化の進展に伴い介護等に係る社会 的コストの増大が懸念されることから、早期診断法や根本治療薬の開発が求めら れている。これを可能とするため、早期患者群を対象としたモニタリング等の仕 組みが不可欠となることから、そのような基盤の構築が重要である。 29 (2)具体的施策 ①iPS 細胞等の再生・細胞医療等実用化のための標準化を産学官が一体となっ て行う。 ○再生・細胞医療や創薬のためのモデル細胞に用いる iPS 細胞等の評価手法の 開発と国際標準化の推進 ②新薬の安全性を正確に予測する技術を国の研究開発により行う。 ○ヒトでの反応を再現するモデル(ヒト由来細胞、ヒト化動物等)とその利用 ③診断と治療が一体化した、治療の奏効率を上げる技術を国の研究開発により 行う。 ○薬が効くか効かないかを判定する診断技術(バイオマーカーやイメージング 等と、それに対応した治療薬を一体的に開発するための基盤技術の開発及び 疾患組織等を創薬研究に円滑に利用できる体制作り ○ごく尐量の薬剤を用いて、ヒトの体内での作用動態を解析するための技術開 発と、解析情報を基にしたバイオ医薬品及び DDS(ドラッグ・デリバリー・ システム)技術の開発 30 ① iPS 細胞等の再生・細胞医療等実用化のための標準化を産学官が一体となって 行う iPS 細胞等幹細胞研究については、基盤技術の確立により、安全性評価や疾患 モデル作成等の創薬支援ツール、再生医療等の様々な産業応用が可能となる分野 である。このため、世界中で iPS 細胞等幹細胞に係る知見が急速に蓄積されてい る。この知見も生かし、エピゲノム解析により得られる知見等に基づいた安全性 の評価法や細胞分化手法等に関する規格の策定などを関係省庁が一体となって進 めていくことが必要である。 幹細胞の基礎研究の成果 国際標準化 評価技術や培養技術等の開発 幹細胞から所望の細胞に分化させる 細胞の評価やプロセスの除染の指標等が必要 ISO・TC150(Implants for surgery)/ SC7(Tissue-engineered medical products)等 評価法のISO化 ①iPS細胞の品質の評価項目、評価技術が確立されていないため、細胞の比較もできず、用途に応じてどのiPS細胞を用いるべきか判断ができない。 →iPS細胞を、科学的根拠により比較しつつ、望む細胞を入手できる環境を整備することが不可欠。 ②海外ではES細胞の研究成果を基に、iPS細胞を広く配布し、培養方法や評価技術等の総合的なデファクト標準化に向けて取り組んでいる。 【海外】 一定の品質のiPS細胞を 世界中に提供 ( 特に米国) 【日本】 各大学・研究機関が、性質の異なるiPS細胞をそれぞれ提供 (ES細胞でデファクト化した手法とは異なる方法のものも多い。) (ES細胞研究の蓄積によりデ ファクトスタンダード化された 培養技術や管理手法) A研究所 ハーバード大学 等 ①信頼性の高いiPS細胞作製を 見据えた評価技術の開発 D病院 B大学 C大学 各研究機関等 相互連携 評価技術/評価基準の動向に対応した研究開発を 推進 周辺産業 評価技術/評価基準の研究開発に合わせた機器・ 材料の開発等 例;高品質な培養液製造、評価分析機器 ハーバード大 学等 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム 国際標準化 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エ ピゲノム A研 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム B大 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エ ピゲノム 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム C大 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム 31 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム 各研究機関・大学が提供する細胞 について、それらがどのような性質 を持つ細胞であるかを評価し、さら に高品質化するための技術を開 発する。 ②用途に応じたiPS細胞の 評価基準の標準化 発展 標 準 化 後 の 将 来 像 今後目指すべき取組の方向 ・・・ D病 院 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム 細胞由来 培養液 フィーダー 糖鎖 エピゲノム ・・・ ・・・ 産業応用に向け、評価すべき項目 を標準化するため、関係府省庁等 で連携して検討を行う。なお、産業 応用が一番早期に見込まれる新 薬候補の安全性評価技術に用い るiPS細胞の標準化の国際標準を 優先して検討する。 評価されたiPS 細胞等を一覧 できる環境 世界のユーザー (研究機関、 企業等) ②新薬の安全性を正確に予測する技術の開発を国の研究開発により行う 新薬の安全性を正確に予測するためには、ヒトでの反応を正確に再現しつつ、 臨床研究においてもヒトでの安全性を確保する必要があり、以下の技術開発を行 う必要がある ○ヒトでの反応を再現するモデル(ヒト由来細胞、ヒト化動物等)と、これを用 いた安全性予測技術の開発 ○再生・細胞医療や創薬のためのモデル細胞による iPS 細胞の評価手法の開発 研究開発内容 ○新薬候補物質のヒトに対する安全性を的確に推測する基盤技術として、iPS細胞を用いた創薬スクリーニングシステムを開発 する。iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、皮膚などの細胞に人為的に操作をすることで、体内のあらゆる細胞に変化可能となる万能細 胞であり、ヒトiPS細胞を用いることにより、動物実験では把握できないヒト固有の反応の測定が可能となる。 ○これにより、臨床試験以前に開発中止となる医薬品を評価することで、臨床試験時のヒトへの安全性確保をより確実にする とともに、創薬のコスト低減に資する。 ①安全かつ効率的なiPS細胞作製のための 基盤技術の開発 ③iPS細胞等幹細胞を用いた 創薬スクリーニングシステムの開発 ・iPS細胞をより効率よく開発するため、 新しいiPS細胞の誘導因子の探索や、 誘導方法の開発を行う。 ヒトiPS細胞 ヒトiPS細胞 から作成した 心筋細胞 iPS細胞 ②iPS細胞等幹細胞の選別・評価・製造 技術等の開発 ・iPS細胞等の細胞を選別・評価・ 製造する技術を開発し、同等の 品質を保持した細胞の供給を可 能とすることで、産業界での利 用を促進する。 同等の品質を保持した 細胞の供給 32 心筋細胞を チップ上に配置した 評価システム ・ヒトiPS細胞から心筋細胞等を作製し、この細胞を チップ上に配置したシステムを開発し、ヒトにおける 心毒性評価を的確に行う基盤技術を開発する。 ・なお、チップ上への配置について、細胞間の情報伝 達を考慮する技術により、これまで不可能だった臓 器としての反応の再現ができるようになるため、より 高度な評価が可能となる。 ③診断と治療が一体化した、治療の奏効率を上げる技術の開発を国の研究開発に より行う 質の高い医療を実現するためには、診断と治療を一体的に捉えるために必要な バイオマーカーの研究開発が必要である。しかし、現状では、ヒト試料の入手困 難、疾患モデルマウスの統一基準が無いなど、開発環境が未整備であるほか、検 出・解析技術の精度が十分でないため、バイオマーカーの有効性の検証が困難で あり、バイオマーカーの基盤となる技術開発が必要となっている。さらに、産学 官の開発体制の整備にも遅れが生じている。 このため、病院、臨床検査業界、製薬企業の連携の枠組みを構築し、バイオマ ーカーとそれに対応した治療薬を一体的に開発するための基盤技術の開発を行う。 また、これまで取組が進んでいない分野において、ごく尐量の新薬候補を用い て、ヒトの体内での作用を分子イメージング技術等で活用して解析するための技 術開発、安全性予測、解析情報を基にしたバイオ医薬品及び DDS 技術の開発等も 行う。 研究開発内容 ○疾患の早期判定や薬効を判定する診断技術(バイオマーカーやイメージング等)と、それに対応した 治療薬を一体的に開発するための基盤技術の開発及び疾患組織等を創薬研究に円滑に利用できるよう な体制作り ○今まで取組が進んでいない分野において、 ごく尐量の薬剤を用いて、ヒトの体内での作用・動態を解 析するための技術の開発と、解析情報を基にしたバイオ医薬品及びDDS技術の開発 患者の疾患タイプに応じた治療のイメージ 医 者 病 院 疾患のタイプ に応じた投薬 疾患タイプに適合した薬が必要! A B C 疾体 患内 のの 診状 断況 、 疾患タイプを区別する方法が必要! ★薬とマーカーの一体的な開発に資する基盤技術の開発★ 製 薬 企 業 新規診断薬 新規開発薬 タイプAの薬 タイプBの薬 疾患の種類を 判断できる手法 タイプCの薬 個々人の疾患タイプに適合した新薬の開発 高精度な体内 画像取得技術 個々人の疾患タイプを区別できるバイオマーカーの開発 ★疾患の情報・組織を活用するための評価手法の開発★ 患者A組織 新規診断薬・機器 患者B組織 患者C組織 病院・ヒト組織提供機関等 33 開マ 発ー 企カ 業ー 3.ベンチャー等の育成を通じたオープンイノベーションの推進 (1)目指すべき方向性 創薬プロセスの高度化で、オープンイノベーションは世界的な流れである。し かし、日本にはオープンイノベーションの担い手であるベンチャーや周辺産業 が十分育っていない。 ベンチャーや周辺産業、若手研究者を育成し、オールジャパンでの創薬力の強 化を図る ①日本のベンチャーが直面する課題 オープンイノベーションを促進し、革新的医薬品を継続的に創出していくため には、ハイリスク・ハイリターンな研究開発の初期段階をベンチャーが担い、ベ ンチャーと製薬企業間での共同研究や買収・提携等も活発に行われる環境を整備 することが必要である。 しかし、日本のベンチャーには資金面、人材面、上場や提携に関し、課題を抱 えており、それらの課題を解決していくことが重要である。 ベンチャーの直面する課題 大 学 等 で の 研 究 ベ ン チ ャ ー の 起 業 研究開発 大手製薬との連携 (ライセンス・それによるサービ スの提供等) 前臨床→臨床・治験P1→治験P2 大手製薬によ るM&A 研究開発資金が丌足 開発が進むに従い数十億規模の 資金が必要。特に治験薬の製造 にかかるコストは多額。 経ベ 営ン 的チ 課ャ 題ー 自 身 の な取特 い得許 法の を戦 知略 ら的 ンビ がジ 不ネ 十ス 分プ ラ ウ実効 不施率 足の的 ノな ウ治 ハ験 上場 連臨 携床 が機 不関 十と 分の 34 重(上 視技場 さ術し れ評に な価く いがい 等 ) 大 手 製 薬 が 製 品 と し て 販 売 創 薬 ベ ン チ ャ ー と し て の 成 功 ア)ベンチャーの資金不足 主な資金調達源はベンチャーキャピタル、またそれらにより設立されたベンチ ャーファンドである。しかし、株式公開が困難で、また公開しても株価が低迷し ていることから、ベンチャーキャピタルの経営自体が厳しくなっている。資金調 達が困難なため、ベンチャー企業の中には臨床開発を進めることが難しいケース もあると言われている。 資金的な問題とともに、創薬ベンチャーのビジネスモデルから、治験薬製造も バイオ医薬品開発ベンチャー自体が行うことは困難である。仮に資金的に委託を したいと考えても、日本にはバイオ医薬品受託製造企業が尐なく、それが難しい という状況がある。 イ)ベンチャーの人材不足 バイオ医薬品開発ベンチャーの経営者には、製薬企業等の経験者、またはシー ズ開発で中核的役割を果たした大学研究者がなることが多い。しかし、製薬企業 の経験者であっても、マネジメント全般や海外での臨床開発経験がある人材は多 くなく、治験・薬事・製造等の技術的ノウハウ、事業戦略・知財戦略等のビジネ スノウハウを兹ね備えた人材が不足している状況にある。 ウ)ベンチャーの提携や上場に関する課題 創薬ベンチャーの基本的なビジネスモデルでは、大学のシーズをもとにフェー ズⅡ程度まで開発を進め、大手製薬企業にライセンスアウトするかアライアンス を行う。しかし、株式上場の規制が厳しく上場には困難が伴うほか、大手製薬企 業とのマッチングの場の不足やマッチングを円滑に進めるためにベンチャーをア ドバイスできる支援体制が依然として不足しているため、ライセンスアウトやア ライアンスがまだ尐ない状況にある。 35 ②市場規模の小さい日本の周辺産業 ますます高度化するバイオ医薬品の開発を効率よく進めるためには、検査、臨 床試験受託、製造受託などの周辺産業がますます重要になっている。これら周辺 産業の育成も、バイオ医薬品の開発の方向性と一体的に行っていく必要がある。 しかし、日本では周辺産業が育っておらず、オープンイノベーションが進んで いない。特に CMO(医薬品製造受託機関)、CSO(営業販売受託機関)の未成熟が 顕著である。 このようなことから、周辺産業、及びそれらの業界の未来を担う若手研究者を 育成し、オールジャパンでの創薬力の強化を図ることが必要である。 創薬産業を支える周辺産業の市場規模 16000 12% 11% 億円 14000 世界の市場規摸 12000 9% 8000 日本の市場規摸 14000 程度 10000 日本市場の比率 7000 程度 4000 2000 6% 4% 4% 2700 2% 1522 45 2% 260 0 0% 非臨床試験受託 (一部創薬含む) 基礎 研究 8% 7000 程度 6000 600 程度 10% 非臨床試験 臨床試験受託 (CRO、SMO) バイオ医薬品 受託製造 承認 申請 治験 製造 医薬品販売業務等受託 (CSO) 販売 (出典)非臨床受託市場:三菱総合研究所推定 CRO市場:株式会社ミック経済研究所、海外は三菱総合研究所推定 バイオ医薬品製造受託:シード・プランニング「2009年度版バイオ医薬品受託製造企業の現状と将来 展望」、日経BP社「日経バイオ年鑑2008」を基に経済産業省作成 CSO市場:株式会社ミック経済研究所、海外は三菱総合研究所推定 36 (2)具体的施策 ①ベンチャーの研究開発や経営等を支援する。 ○大規模な設備投資が必要なバイオ医薬品開発のため、ベンチャー向けのバイ オ医薬品製造受託及び共同研究、若手人材の育成を行う拠点を国が産業界等 と協力して整備する。 ○ベンチャーのシーズの磨き込みや管理を行う枠組みの検討や、製薬企業との マッチング事業等の支援及びそれらを行うコーディネート人材の育成を国が 産業界等と協力して実施する。 ②異分野技術の創薬分野への積極的導入や周辺産業の育成 ○ベンチャーと臨床現場をつなぎ、臨床研究及び治験を行う研究開発を促進す るとともに、周辺産業からの参入の促進や異分野技術も積極的に導入等を国 の研究開発で実施する。 ○再生・細胞医療や創薬のためのモデル細胞に用いる iPS 細胞の評価手法の開 発を産官学が一体となって行う(再掲) ② 大学と産業界が連携した若手人材の育成 ①ベンチャーの研究開発や経営等を支援 (ア)大規模な設備投資が必要なバイオ医薬品開発のため、ベンチャー向けのバイ オ医薬品製造受託及び共同研究、若手人材育成を行う拠点を国が産業界と協力 して整備する 今後成長が見込まれるバイオ医薬品は、製造にも高度な技術とノウハウが求め られることから、製造拠点を国内に残すことが重要である。 しかし、ベンチャーにとっては、研究初期のサンプル製造でも大きな設備費が 必要となるが、現在国内では、大規模なバイオ医薬品製造受託施設(以下「共同 GMP 施設(※)」という。 )は無く、海外に生産委託せざる得ない状況にある(海外 では欧米のみならず韓国でも大規模な共同GMP施設を有している。(コラム参 照)) 。このため、国内にベンチャーが利用しやすい共同GMP施設を整備し、ベ ンチャーのバイオ医薬品研究開発力の強化が必要である。 ベンチャーは人材や専門性が限定されるので、共同GMP施設には共同受託施 設に付随する人材育成や薬事相談、品質保証・品質管理などのコンサル機能を持 たせ包括的にベンチャーを支援する仕組みが不可欠である。 なお、バイオ医薬品の種類は多様であるため、一つの製造拠点で全ての種類の バイオ医薬品に対応するのは困難である。したがって、既存の CMO を共同施設の ネットワークの中に組み込み利用する事も検討していく。 (※)GMP・・・・薬事法に基づいて厚生労働大臣が定めた、医薬品等の品質管理基準。 「Good Manufacturing Practice」の略 37 【コラム】オープンイノベーションの例 (韓国のバイオ医薬品製造受託企業・セルトリオン社) 設立:2002 年 従業員:370 人 上場:2008 年 KOSDAQ 上場 現在の設備:ソウル・仁川空港近くの経済自由区域に立地 50,000l【最終容量 12,500L×4(ライン)】 (更に本年中に 90,000l(15,000l×6)の第 2 工場を設立。) 第 3 工場(15,000l×6)も建設予定) ※日本最大の受託製造設備で、最終容量 4,000l(1 ライン) ○韓国では強力なトップダウンで、トップが責任を取ることにより、重要分 野に大規模かつ先行的な投資を行っている。 ○海外から技術導入し、営業先も初めから海外を考えている。 ○設立目的はバイオ医薬品の新薬開発ではなく、バイオシミラー(バイオ医 薬品のジェネリック薬)の受託生産であるが、世界中から製造委託を引き 受け、収益をあげている。さらに、現在では新薬の開発まで手がけており、 着実に技術力を高めていると思われる。 38 (イ)ベンチャーのシーズの磨き込みや管理を行う枠組みの検討 研究開発の結果、事業化につながる可能性の高い技術シーズについては、適切 な知財戦略を構築することが重要である。 このため、複数の大学/TLO が所有する技術シーズを集約し、磨きこみや管理を 行う枠組みや複数の大学・ベンチャー等が連携して取り組んでいる研究開発に対 し、知財戦略構築のための専門家を派遣し、知財戦略の策定等を支援していく枠 組みを構築していくことが必要である。 <知財戦略を強化する枠組み①> <知財戦略を強化する枠組み②> バイオ医薬品分野のイノベーションを円滑 に進めるため、公的機関などで養成した知財 の専門家をバイオベンチャー等が参加する研 究開発コンソーシアムに派遣し、知財戦略の 策定等を支援することが必要。 公的支援 民間資金 ・企業、 ・VC、 出資 知財コンソーシアム (国内大学の技術シー ・個人投資 ズの磨き込み) 家 など 創薬案件紹介 A大学 /TLO 知財の専門家 B大学/ TLO ①研究戦略、知財戦略の策定に参加 ②出願・権利化、知財ポートフォリオの策 定等 ③知財の管理、活用 C大学/ TLO 専門家を派遣 ライセンス料支払い 研究開発コンソーシアム (大学、バイオベンチャー、公的研究機関など) 製薬企業 38 (ウ)製薬企業とのマッチング事業等の支援及びそれらを行うコーディネート人 材の育成 ベンチャーと大手製薬企業とのアライアンスが進んでいない原因の一つとして 大手製薬企業へのアピールが十分でないことが考えられる。 現在、主要なバイオ産業のマッチングは、5月の米国 BIO、10 月の横浜 BioJapan、 3 月の欧州 BioEurope と日米欧の 3 カ国であるが、上海やシンガポール等でもマ ッチングが活発化しているため、Japan パッシングが起こる可能性がある。 したがって、ベンチャーと製薬企業のマッチング事業の更なる拡充のため、各 自治体や支援機関のみならず製薬企業、CRO 等臨床開発サポート機関、VC(ベン チャーキャピタル)を含めた金融機関などの民間企業を巻き込んだ連携を促進す るベンチャー支援組織の構築が必要である。また、このベンチャー支援組織の中 で製薬企業とのマッチング事業を充実させるとともにコーディネート人材を育成 していく事が必要である。 39 ベンチャー向けワンストップサービス機関 ネットワーク 内外連携 ・自治体連携 ・産学連携 ・海外連携 アライアンス 促進 ベンチャーの 課題解決 ベンチャーの 課題解決 ・ベンチャーシーズ 発表会 ・展示会出展 ・薬事、知財に関 する課題の解決 ・相談や情報提供 参画 自治体 製薬企業 TLO VC等 金融機関 CRO等臨床開発 サポート機関 (エ)ベンチャー向け海外ミッションの派遣 我が国のバイオ分野における国際競争力強化のためには、世界市場をにらむ製 品の開発案件の探索、研究開発の加速化、販路開拓等、国内企業だけでは進展が 困難であり、海外企業等と組むことで新たなビジネスチャンスが得られる場合が ある。そのためには、企業ができる限り効果的、効率的に自社の方向性にマッチ した形で、国際連携を実現することが必要である。 そこで、単独で海外のアライアンス開催を行うことが難しいベンチャー等の海 外進出をサポートするために EU やアジア諸国(中国やインドなど)へミッション を国が主導して派遣し、個別の商談にもつなげる活動を実施する。 40 ②異分野技術の創薬分野への積極的導入や周辺産業の育成 革新的な医薬品等の創出には、基礎的な発見をもとに、連続的な技術革新を繰 り返し、治験を経て実用化されていく3つの段階での研究開発が必要である。こ のような連続的な技術革新を加速させていくためには、基礎生命科学、実験動物 科学、診断技術、臨床科学、医療経済学など、広範な技術を組み合わせることで 新たな価値を生み出していくことが重要である。 加えて、日本の国民性を考慮して、丁寧なものづくりという点に焦点をあて、 我が国が強みを有するナノテク・材料技術、有機合成化学、IT、精密機械技術等、 異なる分野の技術をバイオ医薬品等開発に積極的に導入する取組が重要である。 また、グローバル市場においては、アジア諸国の情報処理技術や欧米のベンチャ ー企業等の技術を活用し、革新的なバイオ医薬品の開発に向けたオープンイノベ ーションの促進を図ることが不可欠である。 我が国医薬品産業の革新的創薬力と国際競争力を強化するためには、海外技術 を活用できるだけの独自の強みとなる技術基盤を有していることが必須であり、 そのための基盤技術の開発をさらに加速することが重要である。 (ア)ベンチャー向けバイオオープンイノベーション促進事業(仮称) ベンチャーの優れた技術シーズを臨床現場へとつなげることが、オープンイノ ベーションの推進には不可欠である。ベンチャーと臨床現場をつなぎ、探索的臨 床研究及び治験の推進を行う研究開発を支援する。また、周辺産業や異業種から の参入促進なども併せて促進する。 バイオオープンイノベーション促進事業(仮称) 【概要】 ○公募対象は、ベンチャーに限定。 ○周辺産業や異業種参入も推進。 ○研究対象シーズは、バイオ医薬等(抗体、核酸、ワクチン、再生・ 細胞医療等) ○対象フェーズは、委託事業期間内に探索的臨床研究又は治験を実施 し、安全性・有効性の確認をする段階のもの。 創薬のプロセスと担い手 基礎研究 大学等基礎研究機関 支援対象期間 前臨床研究 探索的臨床研究 ベンチャー企業 41 研究体制図 ベンチャー 企業 大学 周辺産 業 異業種 企業等 【事業目標】 臨床研究における 安全性・有効性の確認 治験 製薬企業 (イ)iPS 細胞等の再生・細胞医療等実用化のための標準化(再掲) (ウ)周辺産業分野の人材育成 バイオ計測・分析分野の技術者を育成することを目的に、必要な基礎知識、最 先端技術等の習得や先端機器を使いこなす人材を育成する事業が必要である。 ③大学と産業界が連携した若手人材の育成 低分子化合物からバイオ医薬品に移行すると、医薬品製造におけるプロセスが 大きく変化し、求められる技術やスキルも異なってくる。また、博士等の人材が 企業・アカデミア等多方面で活躍しイノベーションの担い手となるには、リーダ ーとしての素養が求められる。このため、大学と産業界が連携して、技術の進展 に対応した新しいバイオリーダー人材を育成していくべきである。 そのような人材を育成するため、バイオ関連の事業を行う際に必要な知識を受 講できる大学のカリキュラムの開発のほか、バイオ関連企業へのインターンシッ プの実施、全国から大学院生、ポスドク、留学生、企業人材を集めて合宿形式で 事業化企画力を磨くプログラムの開発などを行い、博士課程修了者の能力を向上 させ、製薬企業が求めるリーダーとしての素養をもったバイオ人材の育成を行う。 また、大学の若手教員を企業に派遣し、大学と企業の共同研究の形で教育を支 える教員を育成し、企業の求める課題解決する課題を解決するプログラムを行う。 42 Ⅲ.官民が連携すべき事項 1.医薬品業界全般における規制改革 バイオ医薬品などの医薬品産業の構造を強化するためには、上述のような取り 組みを行うと共に、それらの取組の大前提として、国内における医薬品産業の研 究開発環境を改善することが不可欠である。そのためには、臨床研究、治験、審 査、保険収載(薬価)等の創薬プロセスから、医薬品等を用いる臨床現場まで、 医療制度全般にわたる規制改革が必要であり、中期的課題として検討を行うこと が求められる。 ※なお、薬価制度については、中央社会保険医療協議会(中医協)は、平成 22 年度に「新薬創出・ 適応外薬解消等促進加算」を導入する薬価制度改革を行った。 国内の研究・ビジネス環境を改善する規制改革 1.臨床研究に関する課題 ○前臨床から治験に円滑に進むよ うな規制改革 基礎 研究 前 臨 床 治 験 薬事 審査 保険 収載 上 市 5.臨床現場 の課題 ○臨床情報をIT で活用しやす い環境整備 2.治験に関する課題 3.薬事審査に関する課題 4.保険収載後の課題 ○治験拠点の強化・集約化 ○国際共同治験への積極的参 加によるグローバル化 ○薬事審査の迅速化のため、審 査当局の人員増や質の向上 ○革新性を高く評価する 等、イノベーションを適 切に評価した薬価制度 行政刷新会議等で議論 43 2.大学や研究機関等における基礎研究の充実 医薬品の研究開発には大学や研究機関でも基礎研究の充実が不可欠である。し かし、主に大学や研究機関向けである我が国のライフサイエンス分野の国費によ る研究開発支援は、米国に比べると予算総額も割合も大幅に尐ない。今後、大学 や研究機関等における基礎研究の充実を図ることが重要である。 日米の政府支出研究に占める ライフサイエンス分野の割合(2005年) その他 ライフサイエンス分野 4512億円 (13.3%) 日 本 米 国 2兆7625億円 (25.6%) 0 5 10 出典「総合科学技術会議資料(内閣府2005)」、「平成21年度科学技術要覧」 「Science and engineering Indicator NSF 2008」 から作成(レートはIMF換算) 44 終わりに 今後、本研究会の提言を実現するにあたっては、項目毎に進捗計画を立てると 共に、政府として司令塔機能を設けて全体の進行管理を見ながら集中的に実施し ていくことが重要である。また、産学官の関係者によるオープンな議論を実施し、 関係者の意向を常に取り入れながら実施することが必要である。 なお、本研究会における議論で、更に検討が必要な課題として、以下のような 項目が考えられるので、引き続き産学官により検討を行っていくことが必要であ る。 (研究開発) -産業振興の観点からのレギュラトリーサイエンスの強化 -細胞・再生医療の実用化の促進 -オーファンドラッグの研究開発の振興 -疫学研究の充実 (研究開発推進体制の改善) -医療現場の患者情報を研究現場にフィードバックするネットワークの構築 -研究開発・医療現場から、創薬関連データへのフリーアクセスの確保 -海外人材を研究開発に活用 -日本での国際学会の開催頻度を増やすなど、情報収集力の強化 (ベンチャー・人材育成) -バイオベンチャーの資金面の支援 -共同GMP施設と大学との連携を通じた人材育成 -国際的に通用する人材の育成 -アカデミアと産業界の若手人材交流の促進 -ポスドクの戦略的な活用策 45 (参考)バイオ・イノベーション研究会の概要 (1)委員名簿 ○研究会委員 【座長】 土屋 了介 財団法人癌研究会顧問 岩﨑 為雄 シスメックス株式会社顧問 浦田 泰生 オンコリスバイオファーマ株式会社代表取締役社長 小野 俊介 東京大学大学院薬学系研究科准教授 川上 浩司 京都大学大学院医学研究科教授 児玉 龍彦 東京大学先端科学技術研究センター教授 佐藤 裕史 慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター教授 珠玖 株式会社イミュノフロンティア顧問(三重大学大学院医学系研究 洋 科教授) 庄田 隆 第一三共株式会社代表取締役社長(日本製薬工業協会会長) 手代木 功 塩野義製薬株式会社代表取締役社長(大阪医薬品協会会長) 長岡 貞男 一橋大学イノベーション研究センター教授 中村 和男 シミック株式会社代表取締役会長兹社長 永山 中外製薬株式会社代表取締役社長(バイオインダストリー協会理 治 事長) 松本 正 株式会社レクメド代表取締役社長 宮野 悟 東京大学医科学研究所教授 森下 竜一 アンジェス MG 株式会社取締役(大阪大学大学院医学系研究科臨 床遺伝子治療学寄付講座教授) 矢吹 博隆 ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッド パートナー (※敬称略、五十音順) 46 ○ベンチャー支援タスクフォース委員 片岡 隆博 塩野義製薬株式会社CMC技術研究所長 古賀 淳一 第一三共株式会社製薬技術本部参事 清水 伸 東洋紡バイオロジックス株式会社取締役社長・堅田事業所長 平島 親 中外製薬株式会社製薬本部生産工学研究部 生産技術1G・副部長 村上 晶彦 アンジェスMG株式会社CMC開発部長兹生産管理部長 (※敬称略、五十音順) ○バイオ研究開発タスクフォース 【座長】 児玉 龍彦 東京大学先端科学技術研究センター教授 岡野 栄之 慶応義塾大学医学部教授 岡部 尚文 中外製薬株式会社 研究本部長 桜田 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャ 一洋 ー 清水 政男 シミック株式会社副会長 中村 春木 大阪大学蛋白質研究所教授 西島 和三 持田製薬株式会社専任主事 野村 龍太 財団法人実験動物中央研究所専務理事・副所長 (※敬称略、五十音順) 47 (2)開催経緯 研究会 <第1回> 平成21年11月16日(月) 議題: 「バイオ医薬品をめぐる国際的な動向」 「今後の進め方等」 <第2回> 平成22年2月3日(水) 議題: 「タスクフォースにおける検討の報告」 <第3回> 平成22年3月18日(木) 議題: 「中間取りまとめ」 <第4回> 平成22年4月20日(火) 議題: 「最終取りまとめ」 ベンチャー支援タスクフォース <第1回> 平成21年11月18日(水) <第2回> 平成21年12月9日(水) <第3回> 平成21年12月25日(金) <第4回> 平成22年1月22日(金) バイオ研究開発タスクフォース <第1回> 平成21年11月25日(水) <第2回> 平成21年12月24日(木) <第3回> 平成22年2月1日(月) <第4回> 平成22年3月1日(月) 48