...

スイスの原子力政策の現状と 今後の動向

by user

on
Category: Documents
88

views

Report

Comments

Transcript

スイスの原子力政策の現状と 今後の動向
SWITZERLAND
スイスの原子力政策の現状と
今後の動向
〈ジェトロ・ジュネーブ・事務所〉
2003/4, No.445
●
目次
はじめに
はじめに................................. 1
第1章
スイスは、面積がほぼ九州と同じで、人口が約70
スイスの原子力政策の動向 ............ 2
0万人と神奈川県とほぼ同じ規模の小さな国家である
1.1990年採択モラトリアム............ 2
とともに、日本や米国のような大規模な産業もあまり
2.2003年投票予定の2つのイニシャティブと
存在しない国である。
政府の対抗法案 ...................... 2
一 方 で 、 I M D ( International Institute for
3.Nidwalden 州の州民投票の結果 .......... 4
Management Development)の世界競争力ランキングで
第2章
スイスの原子力発電の現状 ............ 5
は常に上位に位置し、秘密銀行法で有名な金融の分野
1.スイスのエネルギー需給の動向 .......... 5
では世界に冠たる銀行が存在するとともに、バイオや
2.スイスの原子力発電所の現状........... 12
ナノテクなどの先端分野では世界トップクラスという
3.スイスの核燃料サイクルへの取り組み.... 14
小さいながらもユニークな国家でもある。
4.原子力発電所の廃炉への取り組み ....... 14
第3章
また、永世中立という国策の元で、皆国民徴兵制度
スイスの放射性廃棄物処理処分の現状 .. 14
を有し、自前の軍隊を有するなど安全保障に関しても
1.スイスの放射性廃棄物の発生量と処理処分の現
特徴的な取り組みが行われており、極力自立しうる国
状 ............................... 14
家を目指してきている。
2.NAGRA............................. 17
第4章
こういった背景もあり、スイスは安全保障の観点か
スイスの原子力保安規制の枠組み...... 19
らもエネルギーの自国内供給に努めてきており、幸い、
1.歴史的経緯 ........................ 19
産業規模もさほど大きくないこと、氷河からの豊富な
2.個別の規制内容 ..................... 19
流水による水力発電が大きいことから、かなりの電力
3.連邦政府の組織の概要................ 20
を自前で供給できてきた。しかしながら、近代の電力
第5章
スイスの原子力研究開発............. 23
需要の増大に対しては、全てを水力でまかなうわけに
1.スイスの原子力研究開発予算........... 23
も行かず、このような観点から、原子力発電を推進し
2 . PSI ( ポ ー ル シ ェ ー レ 研 所 :Paul-Scherrer
てきており、現在では、全発電量の約40%を原子力
Institute) ....................... 23
でまかなっている。
最終章 ................................. 24
もちろん、日本や、米国、フランスほどの電力需要
が存在しないことから、原子力発電の規模自体は、比
較にならないほど小さく、自前の燃料濃縮、再処理、
加工産業を有しているわけではないが、アルプス造山
地帯を利用して、放射性廃棄物の処理技術開発を積極
的に進めるなど、隠れた原子力大国でもある。
一方、スイスは、政治形態としてもユニークな国民
投票制度有しており、それによって、しばしば、連邦
レベルで想定されている方向とは異なった方へ意志決
定がなされることがある。スイスの国際連合加盟は何
度も国民投票で否決された後、2002年の国民投票
1
でようやく可決されたものである。スイスの欧州連合
10年間のモラトリアムは54.6%の賛成で採択さ
参加は当面可決される見通しにはない。電力自由化政
れ、③の省エネ政策も71%の賛成で採択された。
策も、欧州での自由化の進展度合いと比較して、当然
これにより、1990年9月から、スイスは新規の
スイスでも推進すべきでありそれがスイスにメリット
原子力発電所立地を停止するモラトリアム期間に入っ
をもたらすと思われていたものが、米国のエンロン破
た。
綻等の影響を受けて、2002年の国民投票で否決さ
本モラトリアムは、2000年9月で終了しており、
れた。
現在、スイスでは次のステップについて、議論が継続
原子力政策についても、スイスにおいては、この国
されている状況にある。
民投票制度と相まって、様々な取り組み、意志決定が
2.2003年投票予定の2つのイニシャティ
ブと政府の対抗法案
なされており、その概要についてレポートする。
第1章
スイスの原子力政策の動向
上述の1990年モラトリアムの2000年での失
まずは、最初にスイスの最近の原子力政策の動向に
効を受けて、スイス国内では、新たな国民イニシャテ
ついて、その概要を説明する。
ィブの提案が出されるとともに、新規立地の道を開き
特に、スイスは国民投票で国の重要政策を決定する
たい政府の新法案が準備されつつあるなど、動きが活
とともに、連邦国家であり、州の権限が強く、州の政
発になりつつある。
策も州民投票にかけられる傾向があることを念頭に置
く必要がある。
(1)国民イニシャティブ:モラトリアム - プラス
(MORATOIRE-PLUS)
1.1990年採択モラトリアム
モラトリアム - プラスは、1998年3月に、
"Strom ohne Atom" (英 語 で "Electricity without
旧ソ連で発生した史上最悪のチェルノブイル原子力
Atom")という反原子力団体の主導で提案され、10万
発電所事故は、スイスの原子力政策にも多大な影響を
人以上の署名を集めて成立した。
及ぼし続けている。
その主な内容は以下の通り。
それまでは、スイス国民も原子力の平和利用に肯定
・
同イニシャティブ採択後10年間の新規原子力発
的であり、総発電量の40%を原子力でまかなうとい
電所、その他原子力施設の立地の許可停止
うことに賛成であったが、チェルノブイル事故以降、
・
同イニシャティブ採択後10年間の既存の原子力
国民から原子力そのもののあり方についての議論が巻
発電所、その他の原子力施設の容量の拡大の許可
き起こり、1990年9月に、国のエネルギー政策に
停止
関し、以下の3つのポイントについて国民投票が行わ
・
医療目的以外の R&D 用原子炉の許可停止
れた。
・
原子力発電所が40年を超えて使用する場合には、
①
②
原子力エネルギーからの段階的な脱却に関する国
国民投票に図る。10年以上の供用期間の延長は
民イニシャティブ
認めない。
新規の原子力発電所建設の10年間凍結に関する
・
国民イニシャティブ
③
電力供給の際のエネルギー源の表示
1990年モラトリアムが単に新規原子力発電所建
連邦政府に省エネルギー促進の責任を与える憲法
設の停止だったのに比べ、今回は発電所の供用期間に
改正に関する政府提案
限定を設けるなどより厳しい内容になっていると言え
国民イニシャティブとは、10万人以上の署名を集
る。
めて国策を提案するスイス独特の手続で、国民投票に
連邦内閣は、本イニシャティブについて、否決すべ
かけられ、その賛否が問われる。
きであるとの意見書を添付して議会に送付した。
上記の国民投票では、2つのイニシャティブが国民
本イニシャティブは、議会で議論され、2002年
から提案され、一つの政府の提案が投票にかけられた
12月に下院(National Council)で109対67、
が、①の脱原発は52.9%の反対で否決され、②の
上院(Council of States)で35対6で否決された。
2
否決されたからといって、本イニシャティブが消え
いことから、連邦内閣は、独自のカウンタープロポー
るわけでも国民投票にかけられなくなるわけでもなく、
あくまで、国民投票の際の国民の判断の一つの参考と
ザルを準備し、2001年2月に公表した。
連邦内閣、及び、連邦政府は、新たな原子力施設の
なるのみであることに留意が必要である。
設置手続、廃棄物処理施設の手続き等を定めた LENu
(Loi sur l'energie nucleaire : Law for Nuclear
(2)国民イニシャティブ:ソルティドゥニュークレ
Energy : 新原子力法)を提案している。
ール(SORTIR DU NUCLEAIRE(脱原子力))
その内容については、2003年1月∼3月に開催
上記と同じ反原子力団体によって、同じく1998
されたスイス議会の春の開会期間中も様々な議論がな
年に"Sortir du nucleaire"(脱原子力)イニシャティ
されたようであるが、重要な論点は以下の2点に集約
ブも提案し、同じく10万人以上の署名を集めてイニ
されるものと考えられる。
シャティブとして成立した。
このイニシャティブは、よりラディカルでドラステ
○使用済み燃料の再処理目的のための輸出の取り扱い
ィックな内容を含んでいる。その主な内容は以下の通
スイスは、現在、国内再処理施設を有しておらず、
り。
・
・
使用済み燃料の再処理をイギリスとフランスの再処
同イニシャティブ採択後2年以内にベツナウ及び
理施設に委託している。この再処理を継続するか否
ミュールンベルグの原子炉を停止
かが議論の一つのポイントである。
ゴスゲン及びライブシュタットゥの30年での供
用停止
・
・
もともと、新原子力法案では、第9条で、使用済
(ゴスゲンは2008年、ライブシュウ
み燃料の再処理のための輸出を禁ずる旨の条文があ
タトゥは2014年)
ったが、議会での議論の結果、本禁止条項は削除さ
原子力発電所の停止と廃炉にかかる費用は所有者
れ、輸出先国の NPP 条約加盟、輸出先国の承認、抽
と管理者が負担
出されたプルトニウムの全面的な燃料使用の保証等
スイス内で発生した放射性廃棄物の処分に関し、
の条件下での輸出の許可の規定に修正された。
国民投票も含めより厳格な規制の適用
・
非原子力によるエネルギー供給
・
原子力エネルギーによる電力の輸入禁止
現在、スイスは、核燃料サイクル方式とワンスス
ルー方式の両方を併用している。
ベツナウとゴスゲンの発電所は、再処理事業者と
特に、原子力発電所停止による経済的影響は大きい
の契約を有しており、両発電所では MOX 燃料(Mixed
と見積もられている。モラトリアム - プラスによる廃
oxide fuel)を炉心に装荷している。特にゴスゲンは
炉費用は約14億スイスフランであるが、ソルティドゥニュ
全炉心が再処理で生成された燃料である。再処理で
ークレールでは28億スイスフランに膨らむと見積もられて
得られたウランの一部は、ロシアに送られ、解体さ
いる。
れた核兵器のウランと混合されて燃料となっている。
連邦内閣は、2001年2月に、
・
脱原子力は、経済の失速を招く
・
原子力発電起源の電力の輸入の禁止は不可能
燃料加工は、ドイツで実施している。
ミュールンベルグは、再処理のプルトニウムの部
分のみを MOX 燃料として炉心に装荷している。再処
との意見を伏して、議会に送付した。
理ウランについては、米 DOE(U.S. Department of
本イニシャティブも同様に議会で議論され、200
Energy)と取り引きしており、再処理ウランを米国に
2年10月に下院(National Council)で108対6
送って、新しいウランを入手している。
3、上院(Council of States)で36対5で否決された。
一方で、再処理しない使用済み燃料については、
本イニシャティブもモラトリアムプラスとともに、
最終処分の前に ZWILAG に中間貯蔵することとして
2003年5月に国民投票にかけられる予定となって
おり、既に、搬入が開始されている。
いるところである。
議会での修正の前に、旧9条に関し、FOE(Federal
Office of Energy)の原子力担当課にインタビューを
(3)スイス連邦政府による新原子力法案の提案
したところ、以下のような回答であった。
上述のイニシャティブに対し反対し、国民に反対投
・
票することを勧告するだけでは、もちろん十分ではな
第9条は、新原子力法の一つのポイントである
ことは確かであり、この条文が今後とも残るか
3
・
・
どうかは不明である。
投票手続規定を加えるなど、新法案は修正を余儀なく
しかしながら、第9条の規定振りにかかわらず、
され、ソルティドゥニュークレールが可決された場合
電力会社はワンススルー方式を選択する方向に
には、新たな原子力発電所設置の手続などは不要にな
向かっているように思われる。
ってしまうことから、新法案は提出できなくなること
ゴスゲンは、再処理の契約を最近更新したが、
が予想されている。
ミュールンベルグは契約自体が無く、今後は、
3.Nidwalden 州の州民投票の結果
使用済み燃料を ZWILAG に搬送する予定。
・
再処理は、発電所にとっては一つのオプション
であり、本質的なモノではない。
2002年9月に Nidwalden 州の州民投票が行われ、
低中レベル放射性廃棄物の深層処分地点として候補と
○各州の意見照会に係る手続に関する論点
なっている Wellenberg での地層調査のための試掘ボー
従来の原子力法の下では、本報告書第4章「スイ
リング許可に関して、57.5%で拒否された。
スの原子力保安規制の枠組み」でも詳細に述べるが、
これにより、Wellenberg での深層処分施設は、数年
スイス連邦政府の権限が強く、原子力施設の一般許
間はストップすることとなった。
可、建設・運転許可の手続は、連邦政府、連邦内閣、
NAGRA(National cooperative for the disposal of
及び議会で実施され、国民投票及び州民投票に付託
radioactive waste)は、1993年に、広範囲な調査
されることとはならない。
の結果は低中レベル放射性廃棄物の深層処分地点とし
しかしながら、州との関係をどのように規定する
て、Nidwalden 州 Wellenberg が適当であると提案した。
かが、新原子力法案でも議論となった。
そして、調査のための試掘ボーリングと、処分場の建
もともと、法案の第43条には、深層処理施設の
設の両方を同時に申請した。しかしながら、Nidwalden
一般事業許可には、地下利用に関する受入州の承認
州の有権者は、1995年に州政府の勧告に反対投票
を伴う旨の規定がなされていた。
を投じた。これを受けて、1998年まで、州政府と
しかしながら、議会での議論の結果、本条文は第
話し合いがもたれ、試掘ボーリングと建設許可を分け
44条として、深層処理施設の受入州、及び、近隣
て提出するという修正コンセプトが提案され、200
州と調整を行うとの規定に修正され、州への拒否権
0年に Nidwalden 州政府は歓迎の意向を表明した。
の付与は削除された。
しかしながら、この提案に対しても、Nidwalden の
連邦政府は、旧43条では、放射性廃棄物処理施
有権者は反対を投票したものである。
設の一般許可については州の承認が必要と規定され
これに関し、上述したように、原子力施設の手続は、
ており、逆に言うと、州に拒否権があることとなる
憲法上基本的に連邦政府と連邦議会に権限があり、州
ことから、それが、施設の建設に強い障害となるこ
政府には拒否権がないとの見解であった。
とを危惧していた。FOE は第9条よりも、本手続規
現に、原子力発電所については、政治的なプレッシ
定について、強い関心を寄せていたが、それが、議
ャーは別として、手続上は、州政府に拒否権はない。
会で修正されたものである。
しかしながら、Nidwalden の州民は、大昔の水資源
利用と鉱山に関する州法を持ち出し、試掘ボーリング
以上が、新原子力法の主な論点であるが、もともと
であっても地中のものを掘削し持ち出すので、廃棄物
本法案は、上記2つのイニシャティブのカウンタープ
処分施設にも適用され、州の権限下にあると主張し、
ロポーザルとして準備され、同時に国民投票にかける
1993 年の州憲法の改正により住民投票が前提となって
ことを予定していたが、議会でも議論が収束せず、法
いた。これは、現在の連邦法と矛盾するものであるが、
案の決定が遅れている。従って、イニシャティブは2
州法は例え連邦法と矛盾する場合でも優先権があり、
003年5月に国民投票にかけられるが、法案は20
議会もこの州法を受け入れたものである。
03年か2004年に国民投票にかけられる予定とな
上記のように、もともと、新法案第43条には、
っている。
Nidwalden での州民投票を追認する形で規定が明記さ
なお、2003年5月の国民投票で、モラトリアム
れていた。連邦政府としては、この条項は削除したか
プラスが可決された場合には、供用期間の延長、国民
ったようであるが、Nidwalden への悪影響を考慮して削
4
除要求をしてこなかったところ、そのまま、政府のプ
定しようという動きが出てきているところである。
ロセスを経て議会に提出されたとのことであった。
しかしながら、前述のように、本条項は修正され、
第2章
州政府の拒否権は法案上はなくなった形となっている
スイスの原子力発電の現状
が、それでは、Nidwalden 州の州民投票が無効になるわ
1.スイスのエネルギー需給の動向
けではなく、州民投票が影響力を持つ事実は変わりが
ないことが予想される。
特に、Nidwalden 州の対応は、他の州にも広がりつ
(1)長期的なスイスのエネルギー消費動向
つあり、幾つかの廃棄物処分施設の候補地を有する
スイスのエネルギー消費は、長期的には、
〈表1〉及
Zurich 州においても、Nidwalden 州のような州法を制
び〈図1〉のように推移してきている。
〈表1〉スイスのエネルギー消費量の長期的推移(1930∼2000)
YEAR 年
最終消費量
[TERA-JOULES]
年増加率(%)
増加指数
[1930 = 100]
1930
130,480
100.00
1940
128,050
- 0.10
98.14
1950
167,700
3.10
128.52
1960
294,540
7.56
225.74
1970
586,050
9.90
449.15
1980
680,500
1.61
521.54
1990
786,140
1.55
602.50
2000
855,290
0.88
655.50
One tera-joule[TJ] is the equivalent of approximately 24 tons of oil-based fuel or propellant,
i.e. approximately 0.3 million kW.
(出典:"Statistique globale suiss de l'energie 2001" published by the Swiss Federal Office of
Energy, in August 2002)
〈図1〉スイスのエネルギー消費量の長期的推移(1930∼2000)
5
このように、スイスのエネルギー消費は、第2次世
1990年以降の最近12年間のエネルギー消費動
界大戦の一時期を除き、常に増加傾向にあるが、最近
向は、激しい景気後退の影響を受けて、
〈表2〉及び〈図
の10年間は、経済の後退、環境問題意識の高まり等
2〉のようにかなり緩やかになってきている。
を受けて、消費量の増加は緩やかになってきている。
しかしながら、このような状況に置いても、エネル
ギー消費量は継続して伸びてきており、この傾向は、
(2)短期的なエネルギー消費動向
将来的にも継続するものと予想されている。
〈表2〉スイスのエネルギー消費量の短期的推移(1990∼2001)
最終消費量
増加指数
年増加率 %
[TERA-JOULES]
[1990 = 100]
1990
786,140
100.00
1991
822,450
4.62
104.62
1992
827,240
0.58
105.23
1993
803,070
- 2.92
102.15
1994
788,490
- 1.88
99.79
1995
811,090
2.87
103.17
1996
829,960
2.32
105.57
1997
824,980
- 0.60
104.94
1998
847,090
2.68
107.75
1999
861,770
1.73
109.62
2000
855,290
- 9,75
108.80
2001
872,630
2.03
111.00
One [1] tera-joule is the equivalent of approximately 24 tons of oil-based fuel or propellant,
i.e. approximately 0.3 million kW.
(出典:"Statistique globale suisse de l'energie 2001" published by the Swiss Federal Office of Energy,
YEAR 年
in August 2002)
〈図2〉スイスのエネルギー消費量の短期的推移(1990∼2001)
6
(3)エネルギー源の推移
の向上、モータリゼーションの進展、環境対策等々の
上記のように、長期的にも、短期的にもスイスのエ
諸要因により、石炭、木材を主体としたエネルギー源
ネルギー消費量は継続的に増加してきているが、もう
から石油、電力への依存度が高まってきている。
一つの側面としては、エネルギー構成の変化が挙げら
〈表3〉及び〈図3〉はその推移を示しているが、
得る。
厳密に1次エネルギー別にはなっていないことに留意
スイスにおいても、日本や米国と同様に、生活の質
が必要である。
〈表3〉エネルギー消費量の中のエネルギー源構成割合の推移
YEAR 年
石油製品
電力
ガス
木材
廃棄物
1930
7.7
9.8
2.7
14.8
-------65.0
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
8.2
15.3
3.3
18.1
25.5
19.0
2.2
13.0
51.1
19.4
1.4
4.9
77.6
15.4
1.1
1.7
71.8
18.6
4.5
1.4
63.7
21.3
8.1
2.2
59.7
22.0
11.1
2.3
----
----
----
----
0.5
1.1
1.8
熱供給
--------1.2
1.3
1.6
石炭
55.1
40.3
23.2
4.2
2.0
1.8
0.7
その他の再 生可能エネ
ルギー(バイオマス、
--------------0.5
0.7
太陽光、風力等)
Total, in %
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
(出典:"Statistique globale suisse de l'energie 2001" published by the Swiss Federal Office of Energy,
in August 2002)
〈図3〉エネルギー消費量の中のエネルギー源構成割合の推移
7
(4)スイスの電力構成
しては、極力国内で供給するという政策のもと、原子
スイスは、氷河という豊富な水源を有し、山岳部が
力発電も積極的に推進してきたことから、原子力発電
多いという水力発電に適した地理的条件を有している。
日本と同様、資源らしい資源を有さないことから、当
の占める割合も高いものとなっている。
スイスの電力構成は〈表4〉及び〈図4〉の通りで
然水力発電が主体の電力構成となっている。
あるが、水力が約60%、原子力が約40%となって
また、永世中立国という歴史的、国際政治的な位置
いる。
付けから、国民の安全保障への意識は高く、電力に関
〈表4〉スイスの電力構成
ELECTRICITY IN SWITZERLAND: PRODUCTION, IMPORT-EXPORT AND CONSUMPTION IN 2001
2001
vs.
YEAR 年
2001
2000
2001
2000
GWh
Unit
%
2000
%
発電電力
- 水力発電
- 原子力発電
- 火力発電
42,261
25,293
2,620
37,851
24,949
2,548
11.70
1.40
2.80
60.20
36.00
3.70
57.90
38.20
3.90
総発電電力量(グロス)
- 揚水発電
70,174
1,947
65,348
1,974
7.40
-1.40
100.00
2.80
100.00
3.00
総発電電力量(ネット)
- 電力輸出
+ 電力輸入
68,227
68,407
57,963
63,374
46,990
39,920
7.70
45.60
45.20
97.20
97.00
総消費電力量
- 送電ロス
57,783
4,034
56,304
3,931
2.60
2.60
82.30
6.00
86.20
6.00
最終消費電力量
- 家庭用
- 第一次産業用
- 第二次産業及び運輸
- 第三次産業用
- 電車等運輸サービス業
53,749
16,080
1,019
18,351
14,002
4,297
52,373
15,727
991
18,079
13,405
4,171
2.60
2.90
2,80
1.50
4.50
3.00
76.60
29.90
1.90
34.10
26.20
8.00
80.20
30.00
1.90
34.50
25.60
8.00
(出典:"Electricity in Switzerland 2001" published by USC(Union des centrales suisses d'electricite))
〈図4〉スイスの消費電力構成
8
(5)スイスの長期エネルギー見通し
導入は見込まれない。
スイス電力会社連合(AES : Association of Swiss
・
1969年から1984年に建設された5基の原
Electric Companies)が2030年までの長期電力需
子炉は、40年の供用期間を経過した後運転を停
給予測をまとめ、1995年に発表している。
止する。新たな原子力発電所の建設は、スイスで
この長期予測において、需要予測には、
は政治的に困難との想定のもと、新規の建設は見
・
経済成長
込まない。
・
新技術
・
人口増加
10年以降急速に減退する。
(これらの権利は、ス
・
高齢化
イスが国外の原子力発電所の建設に財政的に参加
・
等のファクターを考慮して計算された。また、当然こ
国外の原子力発電所からの電力輸入の権利は20
していることから発生しているため。)
れらの予測は、不確定要因が大きいことから、高需要
予測と低需要予測の2段階の計算を実施している。
その計算結果は、〈表5〉、〈図5−1〉、〈図5−2〉
一方、供給予想においては、以下の前提が設定され
の通りである。なお、スイスでは、水力発電の年間デ
ている。
ータは、10月から9月までとなっており、従って、
・
水力発電の供給は、可能性のある地点はほぼ既に
以下の表も年をまたいでいることに留意されたい。こ
建設済みであるので、大幅な増加は見込まれない。
の予測によれば、高需要の場合には2012∼201
風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、まだ
3年に電力需要が供給を上回り、低需要の場合でも2
主要な電源とはなり得ず、その容量は将来におい
018∼2019年に電力ショートを起こすこととな
ても小規模なものにとどまる。
り、将来の電力需給に関し、強い警告を発しているも
石油等の化石燃料を用いる火力発電は、地球温暖
のとなっている。
・
・
化問題、及び、エネルギー安全保障の観点から、
9
〈表5〉スイスの電力需給長期予測(2002年∼2030年)
(出典:スイス電力会社連合の長期電力需給予測(1995))
10
〈図5−1〉長期電力需給(低需要)
〈図5−2〉長期電力需給(高需要)
11
2.スイスの原子力発電所の現状
ら、原子力発電所は河川を冷却水に使用している。ス
イスでは、全ての原子力発電所が、Aar 川(ライン川の
スイスでは、現在、4原子力発電所、5基の原子炉
支流)に位置している〈図6参照〉。
が稼働している。
以下に、各原子力発電所について概観する。
スイスは、内陸国であり、海に面していないことか
(1)ベツナウ(Beznau)発電所(1号機、2号機)
位置
アールガウ州(Canton Argau) CH-5312 Dottingen
型式
ベツナウ1号、2号ともPWR(加圧水型原子炉)
出力
ベツナウ1号、2号とも36万5千kW(合計73万kW)
供用開始時期
1号機は1969年、2号機は1972年3月
所有者
NOK (Nord-Ostschweizerische Kraftwerk)(電力会社:本社バーデン)
運転者
NOK (Nord-Ostschweizerische Kraftwerk)(電力会社)
建設者
Westinghouse 社、及び、Swiss Brown Boweri AG(現在のABB社)
その他
1号機は近隣の 2000 世帯以上に熱供給サービスを実施
(2)ミュールベルグ(Muehleberg)発電所
位置
ベルン州(Canton Berne)
CH-3203 Muehleberg
型式
BWR(沸騰水型原子炉)
出力
35万5千kW
供用開始時期
1972年11月
所有者
BKW FMB Energie AG(電力会社:本社ベルン)
運転者
BKW FMB Energie AG(電力会社:本社ベルン)
建設者
GE 社、及び、Swiss Brown Boweri AG(現在のABB社)
その他
(3)ゴスゲン(Goesgen)発電所
位置
ゾロトゥルン州(Canton Soleure/Solothutn) CH-4658 Daniken
型式
PWR
出力
97万kW
供用開始時期
1979年11月
所有者
以下の出資比率によるコンソーシアム
-
35% ATEL Aar et Tessin d’electricite SA, Olten(電力会社)
-
25% NOK , Baden(電力会社)
-
15% City of Zurich
-
12.50% CKW Centralschweizerische Kraftwerke, Luzern(電力会社)
-
7.50% City of Berne
-
5% SBB/CFF Swiss Railways Company
運転者
ATEL Aar et Tessin d’electricite SA(電力会社:本社 Olten)
建設者
Siemens 社(現在補修点検等は Framaton 社が実施)
その他
12
(4)ライブシュタットゥ(Leibstadt)発電所
位置
アールガウ州(Canton Argau) CH-5325 Leibstadt
型式
BWR
出力
114万5千kW
供用開始時期
1984年10月
所有者
以下の出資比率によるコンソーシアム
-
25% ATEL Aar et Tessin d’electricite, SA, Olten(電力会社)
-
15% EGL Elektrizitats-Gesellschaft Laufenburg(電力会社)
-
12.50% CKW Centralschweizerische Kraftwerke , Luzern(電力会社)
-
8.50% BKW FMB Energie SA, Bern(電力会社)
-
5∼8% 他の幾つかの電力会社
運転者
EGL Elektrizitats-Gesellschaft (電力会社:本社 Laufenburg)
建設者
GE 社、及び、Swiss Brown Boweri AG(現在のABB社)
その他
〈図6)スイスの原子力発電所の位置図
(出典: Kernkraftwerk Gösgen/BE-WIE-Nr. T03-538.01)
13
上記のように、スイスは、BWR と PWR の両方を採用
(約1200億円)と試算されている。
している。
この廃炉費用に対応するために、1983年に連邦
ベツナウとミュールンベルグは所有者と運転者が同
内閣の責任の元でファンドが設立され、積み上げが開
一であるが、ゴスゲンとライブシュタットゥの所有者
始された。各原子力発電所の管理者が毎年資金を拠出
は、幾つかの電力会社と地方自治体の出資によるコン
している。
ソーシアムとなっている。しかしながら、安全の観点
から、運転は単一の電力会社に任されており、かつ、
第3章
運転に従事する会社は所有者でもあることが規制され
ている。
スイスの放射性廃棄物処理処分の
現状
スイスの原子力発電所のプランとメーカーは、BWR
1.スイスの放射性廃棄物の発生量と処理処分
の現状
が GE 社と ABB 社、PWR が WH 社またはシーメンス社及び
ABB 社となっている。しかしながら、企業は原子力事業
の切り離し、業務移譲、合併等を繰り返しており、現
在、シーメンス社の原子力部門はフラマトム社に、ABB
スイスでは、他の原子力発電所所有国と同様に、原
社の原子力部門は WH 社に移転しており、これらの部門
子力発電所から出る放射性廃棄物の処理問題を有して
が継続して、原子力機器の補修・メンテナンスを実施
いる。その中で、スイスは、比較的積極的なアプロー
している。ABB 社のタービン部門は、Alstom Gaz 社に
チが取られているように思われる。
移転している。
放射性廃棄物の取り扱いは、1959年の連邦原子
力法(The Federal Atomic Act)の法的フレームワーク
3.スイスの核燃料サイクルへの取り組み
を基礎とし、1991年に設立した放射線防護法
(Radiological Protection Law)、及び、1994年
現在、スイスは、核燃料サイクル方式とワンススル
の関連命令によっている。この主要2法令において、
ー方式の両方を併用している。
スイスは、
ベツナウとゴスゲンの発電所は、再処理事業者との
・
放射性廃棄物の国内処分
契約を有しており、両発電所では MOX 燃料を炉心に装
・
Federal Council(日本の内閣の相当)が廃棄物の
荷している。特にゴスゲンは全炉心が再処理で生成さ
輸出を例外的措置として認める要件を決定。
れた燃料である。再処理で得られたウランの一部は、
と言う基本的な要素を決定している。
ロシアに送られ、解体された核兵器のウランと混合さ
これにより、スイスは国内での放射廃棄物の処分を
れて燃料となっている。燃料加工は、ドイツで実施し
義務付けており、従来からの政策とも相俟って、地層
ている。
処分の道を模索してきている。
ミュールンベルグは、再処理のプルトニウムの部分
のみを MOX 燃料として炉心に装荷している。再処理ウ
(1)スイスの放射性廃棄物発生量の予測
ランについては、米 DOE と取り引きしており、再処理
スイスの現存の原子力発電所、医療関連からの放射性
ウランを米国に送って、新しいウランを入手している。
廃棄物の発生量は、原子力発電所の供用期間を40年
一方で、再処理しない使用済み燃料については、最
とした場合に、〈表6〉のように見積もられている。
終処分の前に中間貯蔵施設である ZWILAG(後述)に中
間貯蔵することとしており、既に、搬入が開始されて
(2)放射性廃棄物処分プログラム
いる。
スイスの原子力発電所は1969年に初稼働したが、
放射性廃棄物処分の模索は早くも1960年代後半か
4.原子力発電所の廃炉への取り組み
ら開始され、1972年に NAGRA が設立された。
スイスの放射性廃棄物処分プログラムは以下の2つ
スイスの原子力発電所の運転期間は40年と想定さ
に集約される。
れ、5基全ての廃止に関しては、合計で15億スイスフラン
14
①短命核種による低中レベル放射性廃棄物処分
Borehole の2地点、オパリナスクレイ層としては、同
スイスは、低中レベル廃棄物についても、浅層処分
じく北スイスのチューリッヒ州 Weinland を候補として
ではなく、深層処分とすることとしている。
あげている。
広範囲な調査の結果、1993年に NAGRA は低レベ
現在、どの地層も、安定しており、均一で、水の進
ル放射性廃棄物の深層処分地点として、Nidwalden 州
入が少なく、100メートルまでの厚みを有している
Wellenberg が適当であると提案した。しかしながら、
ことが確認されているが、最近の調査の結果、オパリ
Nidwalden 州の有権者は、1995年に州政府の勧告に
ナスクレイ層の安定性の高さが特に注目されており、
反対投票を投じた。これを受けて、1998年まで、
2002年の NAGRA の調査報告書にもその旨記載され
州政府と話し合いがもたれ、修正コンセプトが提案さ
る予定である。
れ、2000年に Nidwalden 州政府は歓迎の意向を表
明した。
(3)ZWILAG 中間貯蔵施設
しかしながら、この提案に対しても、2002年9
1996年に、Federal Council は放射性廃棄物中
月の州民投票で Nidwalden の有権者は反対を主張し、
間貯蔵施設の建設を許可した。当該施設は ZWILAG と呼
現在、本提案は中に浮いた形となっている。
ば れ て お り 、 ア ー ル ガ ウ 州 の Wurenlingen に
Paul-Scherrer Institute(PSI:ポールシェーレ研究所)
②高レベル放射性廃棄物と長寿命核種処分
に併設されて設置されている。
高レベル放射性廃棄物と長寿命核種については、各
ここでは、あらゆるタイプの放射性廃棄物の中間貯
国と同じく深層処分を目指しており、NAGRA がフィージ
蔵が出来るようになっている。
ビリティー調査を実施している。
2001年12月に、初めて高レベル放射性廃棄物
NAGRA では、現在、
が搬入された。これらは、フランスで再処理されて搬
・
結晶質岩
入されたもので、ゴスゲン発電所の使用済み燃料から
・
オパリナスクレイ(Opalinus Clay)層
発生したものである。
の2種類の地層処分を調査中である。
これらの廃棄物は、30年∼40年ここに密閉状態
結晶質岩としては、北スイスのドイツの国境沿いの
で保管され、その後、山岳地帯の深層地層に処分され
アールガウ州 Mettau Region、チューリッヒ州の Weiach
〈表6〉
る予定である。
原子力発電所、医療関連からの放射性廃棄物の発生量の見積り
(単位)立方メートル
廃棄物の種類
低中レベル放射性 長寿命核種
高レベル放射性
廃棄物
廃棄物
(TRU)
(L/ILW)
原子力発電所運転に際し
合計
(HLW)
11,600
11,600
54,000
54,000
ての廃棄物
廃炉(発電所及び研究施
設)
燃料再処理
5,700
医療、産業、研究
4,000
2,000
7,830
4,000
ウラン、MOX 燃料
合計
130
75,300
2,000
4,000
4,000
4,130
81,430
(出典:Final report of the "Expert Group on Disposal Concepts for Radioactive Waste" published on January
2000)
15
〈図7〉
スイス原子力関連設備の位置図
16
2.NAGRA
・
(Swiss National Cooperative for the Disposal of
BKW FMB Energie AG(ミュールベルグ(Muehleberg)
発電所の所有会社)
Radio-active Waste)
・
NPP Gosgen AG(ゴスゲン(Gosgen)発電所の所有会
社)
(1)NAGRA の設立目的
・
1959年の連邦原子力法に基づき、放射性廃棄物
NPP Leibstadt AG ( ラ イ ブ シ ュ タ ッ ト ゥ
(Leibstadt)発電所の所有会社)
の発生者は、Federal Council の監督の元、永久にその
・
廃棄物の安全な処分に義務を有することとなった。こ
EOS(Energie Ouest Suisse)(ローザンヌの電力会
社)
れを受けて、原子力発電所を有する電力会社と連邦政
2001年にこれらのメンバーは、NAGRA に対し1
府により NAGRA が1972年に設立された。
630万スイスフラン(約13億円)の資金供与を行
NAGRA の目的は、放射性廃棄物の長期処分の実現の
った。2001年までの累計で、7億6200万スイ
ための科学的・技術的な基盤を提供することである。
スフラン(約600億円)に達する。8千万スイスフ
現在、
ランの管理費を除き、その負担割合は〈表7〉の通り
・
である。
スイス内での低中レベル放射性廃棄物深層処分場
の建設
・
スイス内での高レベル廃棄物深層処分場の建設の
(3)NAGRA の活動状況
ためのフィージビリティースタディ
NAGRA の現在の活動のポイントは、以下の通り。
を活動目標としており、前述したように、低中レベル
廃棄物の処分地点の選定・提案、高レベル廃棄物処分
①
のための技術開発を実施しているところである。
地層処分場の選定
前述したように、NAGRA は地層処分についてのサイ
ト選定、調査研究を実施している。
(2)NAGRA の組織と財務
Wellenberg : Nidwalden 州 の 山 岳 地 帯 に あ る
NAGRA の事務局は、アールガウ州、Wellingen におか
Wellenberg は低中レベル放射性廃棄物の処分可
れている。
能性地点として、NAGRA が選定を実施した。この
スタッフの数は68名で、うち62名が常勤である。
地点において NAGRA は長期間にわたる科学的調
その他に17名の専門家が、アドバイザー、臨時職員、
査を実施し、地方政府とも協議を行った結果、
サポートスタッフ、及び、学生として雇用されている。
2001年9月に Nidwalden 州政府はようやく
NAGRA は、連邦政府及び以下の5つの主要な電力会
同地点に低中レベル放射性廃棄物処分施設を建
社または原子力発電所の所有企業の協力により設立さ
設するプロジェクトを許可した。しかしながら、
れた。
2002年9月の州民投票において、同計画へ
・
NOK (Nord-Ostschweizerische Kraftwerk)(ベツ
の反対 11,112 票、賛成 8,204 票との結果になり、
ナウ(Beznau)発電所の所有会社)
本プロジェクトは中断状態となっている。
〈表7〉
NAGRA に対する負担割合
機関名
分担額(
スイスフラン)
21,318,428
73,022,281
207,428,996
223,610,693
161,890,779
687,271,177
Swiss Confederation
BKW FMB Energie AG
KKW Gösgen, Däniken AG
KKW Leibstadt AG
NOK AG
合計
(出典:NAGRA's Annual report 2001)
17
円換算 (1スイスフラン=80円)
1,705,474,240
5,841,782,480
16,594,319,680
17,888,855,440
12,951,262,320
54,981,694,160
Weinland:Weinland はチューリッヒ州内の北スイス、
○チェコ共和国(Czech Republic)
ライン川に近いところに位置する。ここは、
・ RAWRA : Radioactive Waste Repository
Opalinus Clay 層が存在する場所で、ここで、既
Authority
存の技術で、安全な高レベル廃棄物処分処理場を
○フランス(France)
建設することが可能であることをデモンストレー
・ANDRA : Agence Nationale pour la gestion
トするプロジェクトを実施中である。地形の適切
des Dechets Radioactifs
性、深層処分の安全性に関する科学的なフィージ
○ドイツ(Germany)
ビリティースタディが実施されている。その結果、
・BGR : Bundesanstalt fur
この地点の Opalinus Clay 層は水による浸透が不
Geowissenschaften und Rohstoffe
可能な状態で113メートルの厚さを有し、さら
・BMWi : Bundesministerium fur Wirtschaft
に厚さ300メートルに及ぶ浸透困難な地層に挟
und Technologie
まれていることが判明している。本調査は、20
・ FZK/INE : Forschungszentrum Karlsruhe
01年に実施され、レポートの形で報告された。
・ GRS:
本報告書では、Opalinus Clay 層が効果的なバリ
Gesellschaft
fur
Anlagen
und
Reaktorsicherheit
アー機能を有し、良い隔離能力を有していること
・ DBET: DBE Technology GmbH
が記載された。引き続き、廃棄物から放出される
○日本(Japan)
ガス成分の移動についての計算、分析が実施され
・JNC: Japan Nuclear Cycle Development
る予定となっている。
Institute
・RWMC: Radioactive Waste Management
②
PSI 研究所(Waste Management Laboratory of the
Funding and Research Center
Paul Scherre Institute)との地層処分に関する
・OBAYASHI: Obayashi Corporation
共同研究開発
○スペイン(Spain)
NAGRA は PSI 研究所と共同で、放射性廃棄物の地層処
・ENRESA: Empresa Nacional de Residuos
分のための調査研究を実施している。本研究プログラ
Radioactivos
ムに対して NAGRA は研究資金の50%を負担している。
幾つかのプログラムは欧州フレームワークプログラ
○スウェーデン(Sweden)
・SKB: Svensk Kambranselehantering AB
ムの一部として実施されており、欧州各国も参加して
○スイス(Switzerland)
いる。
・NAGRA
最近では、放射性核種の移動・拡散に関する研究が
・GNW: Genossenschaft fur nukleare
計画され、2001年に実施したところである。
Entsorgung Wellenberg
・BBW: Bundesamt fur Bildung und
③
グリムセルテスト施設(GTS:Grimsel Test Site)
の概要
Wissenschaft
○台湾(Taiwan)
GTS はベルン州の山岳地帯に位置している。
・ERL/ITRI: Energy and Resources
ここには、電力会社のダム式水力発電所とその上に
Laboratories / Industrial Technology
位置する揚水式発電所の連絡トンネルとして建設され
た地下トンネルがあり、その脇に GTS のテスト用トン
GTS では、全ての試験が、実際に深層処分されたと
ネルが建設されている。トンネルの入り口は標高17
想定された状態で、水の浸透試験、放射性核種の拡散
30mに位置している。
試験等の実証試験が実施されている。幾つかの試験プ
ここ GTS では、スイスの放射性廃棄物深層処分試験
ロジェクトは、スイスの教育科学技術省(Swiss Federal
のみならず、国際的な共同研究も実施されている。
Office for Education and Science)及びEUの資金に
現在、8ヶ国、15機関が、NAGRA のプログラムに
より運営されている。
参加し、GTS で共同試験を行っている。
現在、GTS で実施されている主なプログラムは以下
18
の通り。
府の管轄になることを定めた。このため、スイスは伝
・
EFP(Effective Parameters Program):水―地勢モ
統的に各州(Canton)の権限が強いにもかかわらず、原
デル計算の精度向上のためのデータ取得試験
子力法体系の中では原子力発電所の建設許可等の限ら
GAM(Migration in Shear Zones):岩盤中の水及び
れた権限しか与えられておらず、連邦政府の影響力が
ガス状物質の移動に関する新たな測定方法開発
強い分野となっている。
・
・
・
・
FEBEX(Full-scale
Engineered
Barrier
その後、1959年に原子力平和利用と放射線防護
Experiment):圧力、温度、浸水度モニターのため
に関する連邦法(Federal Act of December 23, 1959 on
のフルスケール試験
the peaceful use of atomic energy and protection
GMT(Gas Migration Test in engineered barrier
from radiation)が制定され、現在のスイスの原子力保
systems and the adjacent geosphere):グリムセ
安規制は、基本的にはこの法律と、付随して制定され
ル岩盤内の実際の地中環境でのガス拡散テスト
た原子力発電所、核物質輸送、放射性廃棄物等に関す
CRR(Colloid and Radio nuclide Retardation):
る幾つかの制令に基づき実施されている。
グリムセル岩盤内での物質拡散のメカニズム試験。
・
しかしながら、近年、原子力発電そのものの取り扱
既存のモデルの確認、実証が目的。
いについて、国民投票の対象として議論・意志決定が
HPF(Hyper alkaline Plume in Fractured rock):
行われており、1990年9月には、原子力の新規建
石灰分含有水の基礎岩盤との反応、放射性核種の
設についての10年間のモラトリアムが採択されてい
保存に与える影響試験
る。
2.個別の規制内容
④その他の NAGRA の活動内容
上記の他、NAGRA では以下のような活動が実施され
ている。
・
・
・
(1)核燃料
Mont Terri Rock Laboratory
核燃料の所有、運搬、輸入、輸出については、連邦
NAGRA は GTS の他に Mont Terri に試験施設を設置
政府の許可を受けなければならない。この許可は、
している。Mont Terri はジュラ州フランスとの国
DETEC(環境、運輸、エネルギー、通信省: Federal
境沿いに位置し、Opalinus Clay 地層内にある。
Department of Environment,Transport, Energy and
ここでは、過去7年にわたって試験が行われてき
Comminications ) の 中 の FOE(Federal Office for
ている。
Energy)から発出される。
国際エキスパートサービス
核燃料は、連邦政府の監督下にあり、7人の大臣か
NAGRA は世界各国の機関とエキスパート契約を結
ら構成される連邦内閣(Federal Council)はもとより、
び、データの提供、コンサル業務を実施している。
関係する省庁が安全、所有等について必要な手続きを
特に日本の企業との契約が多い。
とることとなる。
スイスの原子力発電所の地震災害分析
連邦内閣は、必要な組織の設立、法運用のための詳
細規定を定める役割を負う。
第4章
スイスの原子力保安規制の枠組み
(2)放射性物質、電離放射線装置
1994年策定の放射線防護令に基づき、ある一定
1.歴史的経緯
以上の放射線強度、濃度、汚染度を有する物質、装置、
廃棄物の所持、使用に関しては規制される。許可は、
スイスでは、1946年に、初めて、原子力の平和
主に DHA(内務省:Federal Department of Home Affairs)
利用を目的とした法整備が行われた。
(日本の原子力基
の中の SFOPH(Federal Office of Public Health)が責
本法に該当)
任を有するが、一部のテスト用の放射性物質の許可は、
その後、原子力技術利用のための複雑な課題をクリ
FOE が責任を有する。
アーし、莫大な開発投資等に対応するため、1957
年に法改正を行い、原子力関連の法令はスイス連邦政
(3)原子力施設
19
原子力施設(原子力発電所、廃棄物貯蔵施設、廃棄
・
物処理施設等)は現在でも1959年連邦法に基づき
調整ネットワークの確立
等が規定されている。
建設許可、運転許可の手続を必要とする。
これとは別に、1983年に、原子力施設の近隣住
さらに、1978年10月の連邦法により、原子力
民のための緊急時対応措置についての命令が採択され
施設の管理者は最初に施設の設置場所、プロジェクト
ており、これもまた有効となっている。この命令には、
の概要についての一般許可(general License)を取得す
・
取られる対応措置
るように、手続が改正された。一般許可は、原子力施
・
原子力発電所管理者の役割
設が社会的ニーズに整合していることが明確であり、
・
連邦機関の役割
また、廃炉、放射性廃棄物の処分に関する計画が明確
・
州及びコミューンの役割
になっていない限り許可されないようになっている。
・
緊急措置及びアラームシステム設置のためのコス
一般許可の発出は連邦内閣が責任を有する。内閣の
トの規定
審査結果は、国会の承認を得る必要がある。一般許可
等が規定されている。
は、内閣による州、コミューンからのコメント期間を
1992年7月の命令では、ヨウ素剤の住民への配
得た後発出される。
布 が 規 定 さ れ た 。 SFOPH(Federal Office of Public
FOE(Federal Office for Energy)とのヒアリングに
Health)が錠剤の調達を行い、州、コミューンが必要な
おいて、一般許可の手続は極めてポリティカルなもの
量を貯蔵する。
となるとの説明がなされた。すなわち、客観的なニー
原子力施設の管理者が、錠剤の調達、貯蔵等に必要
ズ適合性や技術的妥当性といった側面よりは、住民の
なコストを負担する。
意見、世論の動向等に左右されやすいものとなってい
3.連邦政府の組織の概要
るとのことであった。新規の原子力発電所立地を目指
していたカイザアウグスト(Kaiseraugst) 発電所の場
合、政治的圧力が高く、最終的に政府が許可を発出で
原子力保安に関しては、前述したように、連邦政府
きなかった経緯がある。
の権限が強いとともに、様々な行政組織が関与してい
建設許可、運転許可は、より詳細な設計計画、組織
る。
体制、保安管理体制等に基づき審査され、許可が出さ
その中で、主な保安担当機関について述べる。
れる。この2つの手続は、ほぼ同時に申請され、許可
される。
(1)DETEC(環境、運輸、エネルギー、通信省:Federal
原子力施設の一般許可の手続については、
Department of the Environment, Ttansport,
FOE(Federal Office for Energy)が責任を有し、国会
Energy and Communication)
が発出することとなっている。一方、建設許可、運転
DETEC の一般的な業務の内容は、DHA(内務省、後述)
許可の手続は FOE が実施し、FOE が許可を発出すること
と協力し、諮問機関(competent supervisory bodies)
となっている。
との協議を得て、原子力関連法令等を整備することで
ある。
(4)緊急時対応
DETEC は、さらに、原子力施設の一般許可、建設許
1987年4月、連邦内閣は、放射能レベル上昇時
可等の規制手続を実施している。また、放射性廃棄物
に取られる手段についての命令を採択した。この命令
処分施設のサイト選定のための必要な手続きを取って
に基づき、緊急時対応のための機関が設立され、また、
いく義務を有する。
緊急時に実施されるべき手段について規定された。
最後に、DETEC は、原子力安全委員会(Federal
チェルノブイリ事故後、このような緊急時対応を策
Commission for the safety of nuclear installations、
定し、異なる公的機関によって執られる措置の調整を
後述)の監督を行う。
あらかじめ決めておくことが必要となったものである。
本命令には、
・
考慮される機関のリスト
・
これらの機関の役割分担
これらの業務は、DETEC の中の FOE(Federal Office
of Energy)が実施している。
①
20
FOE (Federal Office of Energy)
FOE は、エネルギー政策全般について所管してい
するのは、Legal Section が実施している。ここは
る部局である。
4名の法律専門家で構成されている。
2002年9月に国民投票で否決された電力市場
法もこの部局で、計画、法制化された。
②
HSK (Swiss Federal Nuclear Inspectorate)
原子力に関しては、原子力関連法整備を実施する
〈図8〉の組織表の右上に Swiss Federal Nuclear
とともに、原子力施設の一般許可・建設許可・運転
Safety Inspectorate(HSK)という組織があるが、こ
許可・変更許可、核燃料の所有・運搬・輸出入の許
こは、原子力施設の技術的な診査、検査等を実施し
可、核燃料・放射性廃棄物の貯蔵・処分許可、セー
ているところである。HSK は組織的には FOE とつな
フガード措置について、責任を有する。
がりを有するが、業務的には独立した組織となって
FOE には Division of Legal and Nuclear Energy
いる。
があり、この中の Nuclear Energy Section で上記の
場所も、FOE がベルンに事務所がある一方、HSK
許認可手続を実施している。スタッフ数は11名で
は Wurenlingen に事務所が存在する。ここのスタッ
ある。
フ数は90名となっている。
様々な技術的、社会的な要素を考慮して、法制化
〈図8〉
スイス FOE の組織表
Section Central Services
Keller Erich
Section Information
Ritschard Urs
Division
Energy Economy and Policy
SWISS FEDERAL OFFICE OF ENERGY
Directorate and line management
Steinmann Walter, Director
Schmid Hans Luzius, Deputy Director
Mayor Pierre, Vice Director
Schmocker Ulrich, Director HSK
Bühlmann Werner
Renggli Martin
Räschard Urs
Keller Erich
Division Programmes
Schmid Hans Luzius
Renggli Martin
Section Grids
Bacher Rainer
Swiss Federal Nuclear Safety
Inspectorate (HSK)
Schmocker Ulrich
International Energy Affairs
Mayor Pierre
Division
Legal and Nuclear Energy
Bühlmann Werner
Section Programme
Development and Controlling
Section Legal
Schriber Gerhard
Tami Renato
Section Energy Supply
Section Industry
Section Nuclear Energy
Muster Stefan
Cunz Peter
Wieland Beat
Section Energy Policy
Section Government In-house
Programmes and Buildings
Previdoli Pascal
Zimmermann Nicole
Section
Statistics and Forecasting
Section Renewable Energy
Andrist Felix
Schärer Hans Ulrich
21
( 2 ) DHA (内 務 省 : Federal Department of Home
NEOC は米国のテロ事件を受けて、核テロ対応の
Affairs)
ための対応を強化したところである。
DHA は、放射線防護問題に関する一般的な権限と責
任を有する。そのため、放射線防護のために連邦内閣
(4)諮問委員会等
によって適用されるべき必要なルールの制定を実施し
①
ている。その他、諮問委員会(Federal Commission)と
Federal Commission for the Safety of Nuclear
installations (スイス原子力安全委員会)
協議した上で、放射線防護のガイドラインを策定も実
本諮問委員会は、1960年に設立され、組織
施している。
的には FOE に属し、連邦内閣及び DETEC への諮問
また、スイス国内の科学技術関連活動も所掌してお
機関としての役割を果たしている。
り、原子力に関する大学と産業界の共同研究について
連邦内閣により指名された最大13名の専門
も権限を有する。
家で構成され、メンバーは個人での資格で参画す
ることとなっている。
①
SFOPH (Swiss federal Office of Public Health)
さらに、委員会内に常設部会を有しており、専
放射線防護に関する業務は、SFOPH の Radiation
門的事項については、各部会で専門家による討議
Protection Div.(放射線防護課)で実施されてい
が行われている。
る。
本諮問委員会は以下のような項目について、議
ここでは、産業利用、医療利用にかかわらず、
論し、連邦内閣、DETEC に助言等を行っている。
放射性物質の生産、使用、所有、廃棄、輸出入に
関する許可、許可の取り消し等の行政手続き(原
○
子力機器、核燃料、放射性廃棄物を除く)を担当
原子力施設の一般許可、建設・運転許可、変更
許可の申請に対する意見の答申
している。
○
また、放射性物質取扱者に対する研修も実施し
科学技術的知見に基づき、放射線防護のための
必要な措置が執られているか否かについての意
ている。
見具申
さらに、産業用、医用放射性物質の廃棄物の収
○
集、廃棄についても責任を有する。
第3者による原子力施設に対する攻撃からの防
護に関する答申、及び、連邦政府からの対策レ
ポートに対する意見具申
②
OES(Federal Office of Education and Science)
○
OES は研究開発に関して大学と産業界とのコー
スイス国内、及び、国外の原子力施設運転状況
の安全の観点からのモニター
ディネートを行うところである。
○
ここでは、原子力の研究開発に関するコーディ
原子力関連法規の制定、及び、改正に当たって
の答申
ネートを実施するとともに、熱核融合の研究にも
○
携わっている。
原子力施設の諸課題の分析、更なる安全性向上、
許可手続の改善、運転性向上のための勧告
○
(3)DDPS (Federal Department of Defense, Civil
国内外の安全研究のフォローアップ、実施の提
案
Protection and Sports)
②
①
NEOC (National Emergency Operation Center)
Federal Commission for Protection against
Radiation (スイス放射線防護委員会)
NEOC はチューリッヒに設置されており、常時2
本諮問委員会は、DHA に所属しており、大学、医
0名のスタッフが待機している
療関係者、政府のメンバーから構成されている。
ここでは、放射線レベルが上昇した際の、緊急
主な業務は以下の通り。
対応機能も有しており、国内外の原子力発電所の
○
事故、研究所・核物質移送中の事故等に対応する
放射線防護に関する一般事項についての DHA へ
の助言
こととなっている。
○
22
一人当たり許容線量の変更、及び、ガイドライ
ンに関する答申
ルシェーレ研究所:Paul-Scherrer Institute)である。
○職業被爆者への医療的見地からの意見具申
PSIは、日本の原子力研究所と動力炉核燃料機構を併せ
③ Federal Commission for the monitoring of
Radioactivity (スイス放射線監視委員会)本諮問委員
会も DHAに所属する。主な業務は以下の通り。
○環境中の放射線の常時監視
たような機能を有した研究所であり、原子力に特化し
たスイス唯一の研究所である。
ここでは、以下に述べるような研究開発を実施してい
る。
○連邦内閣への監視結果の報告
○放射線異常増加の際の公衆への公表
(1)原子炉安全性研究
○必要な場合には、住民の保護のための必要な手段につ
いての連邦内閣への意見具申
④ Organization for giving warning in case of a
radioactivity increase(緊急時対応機関)
・過渡事象解析
本組織は、環境中の放射線レベルが異常に増加
・想定外事象解析
(2)放射性廃棄物処理処分放射性廃棄物処理処分の研
究に関しては、前述したとおり、NAGRAとの共同研究開
発を通じて、研究を実施している。
(3)将来技術開発
・ALPHAプロジェクト:パッシブセイフティ型軽水炉開発
これは、米国の安全規制当局から依頼を受けて研究をし
ているもので、PANDAと呼ばれる長期崩壊熱除去のため
の実験施設を用いて実施しており、その成果は、新型炉
コンセプトの実証に用いられている。
した場合に、警告を発するとともに、適切な防護
措置を勧告する機能を有する。
本組織も DHAに所属する。
(4)原子力エネルギーの概観研究
第5章スイスの原子力研究開発
原子力発電が。社会的・政治的に論争を呼ぶ技術となっ
ていることから、原子力発電のメリットとデメリットに
1.スイスの原子力研究開発予算
スイスの連邦政府は、長年にわたって、エネルギー研
究開発のための予算を確保してきている。〈表8〉に、
過去20年の予算額を示す。原子力研究開発が占める予
算の割合は、現時点では、約30%である。1980年
代初頭には、約60%が原子力関連予算であった。
スイスにおける原子力技術開発は、将来を見据えた、
マーケットニーズに適合したものを目指している。
関する信頼性のある情報を意志決定者と社会に供給す
ることが研究者の使命であるとの目的から、PSIにおい
て、他のエネルギーと比較して、その安全性、経済性、
環境影響度等の複数の観点から分析を実施し、情報を提
供している。PSIは、例えば、チューリッヒ連邦工科大
学と共同で、このような分析を行ってきている。(GaBE
プロジェクト)
2.PSI(ポールシェーレ研所:Paul-Scherrer
Institute)
ここで、重要な役割を果たしているのが、PSI(ポー
〈表8〉エネルギー研究開発予算
年
予算額 (億
CHF)
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2001
1.47
1.55
1.77
1.90
2.29
2.45
2.35
2.14
1.88
1.68
1.72
23
(5)STARS プロジェクト
いくのかが問われている。
本プロジェクトは、原子力発電所の安全性について、
独立した手法で、評価することを目的としており、具
しかしながら、スイスのエネルギー政策の選択肢は
あまり広くはないようである。
体的には、コンピュータコードによる通常運転での解
増大するエネルギー需要がある一方で、エネルギー
析と過渡事象解析を行う研究を実施している。
安全保障の確保、環境問題への対応、電力市場自由化
への対応等制約要因は大きい。
(6)SACRE プロジェクト
特に、スイスの電力構成は、水力と原子力でほぼ1
本プロジェクトは、シビアアクシデント時における
00%であることから、選択できる範囲は極めて限ら
熱水力学的な分析と、実験を目的として実施されてい
れていると思われる。
る。
水力発電はほぼ開発され尽くしており、大幅な出力
増は見込めないし、環境への影響も大きい。石油、石
(7)AFC Advanced Fuel Cycles プロジェクト
炭、ガスの化石燃料による発電は、現時点でも4%程
軽水炉における材料の劣化等の変化についての研究
度と低く、新に火力発電所を設置することは時代の流
プロジェクトである。
れと逆行するし、やはり住民の納得は得られない可能
性が高い。特に、CO2 排出削減を掲げる京都議定書の不
(8)EDEN プロジェクト
履行につながり、国際社会で批判にさらされるであろ
材料の腐食、微細構造変化、燃料棒の破損分析等に
う。風力は、山だらけで国土面積が狭いスイスでは地
ついての研究プロジェクトである。
形的に困難であろうし、太陽光は、電力需要が増大す
る冬季には役に立たない。
(9)INTEGER プロジェクト
電力輸入を増やす方法もあるが、スイス国内で原子
本プロジェクトは、コンポーネントの寿命予測、寿
力依存を減らしても、仏、独の原子力発電に依存して
命の延長手法の開発等による、原子炉の安全運転をサ
は何にもならないし、近隣諸国から身勝手と批判され
ポートする研究開発である。
るであろう。だからといって、火力発電起源の電力を
輸入したら、やはり、スイスが排出する CO2 に加算さ
れ、京都議定書違反となる。
最終章
このような状況であるので、2つのイニシアチブの
うちどちらかが採択されると、スイスは電力問題で、
スイスの原子力政策は曲がり角に来ていると思われ
厳しい岐路に立たされることとなる。
る。
チェルノブイル後の10年間のモラトリアムを経て、
今後のスイスのエネルギー政策をどのように構築して
2003年5月の国民投票で、スイス国民がどのよ
うな判断を下すか、注目に値する。
(ジェトロ・ジュネーブ事務所
24
野田耕一)
Fly UP