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第15章 社会保障の経済学

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第15章 社会保障の経済学
第15章 社会保障の
経済学
尐子・高齢化の進展
公的年金制度は存続できるか?
医療保険制度は大丈夫か?
公的介護保険制度はうまくいくか?
1
社会保障の分類

社会保険


公的扶助


身体障害者,精神薄弱者,老人,児童,母子など
公衆衛生


生活保護
社会福祉


健康保険,年金保険,労働者災害補償保険,雇用保険,
船員保険,共済組合など
結核,精神,らい,麻薬,伝染病,上下水道など
老人保健
2
社会保障の機能

リスク・プーリング機能


リスク軽減機能


自己責任のない理由により最低限度の生活を
営めない場合に備えて,社会全体で生活を保
障する
生活水準が最低限度以下に陥る危険を社会全
体で引き下げる
所得再分配機能

社会全体で所得の平準化を図る
3
社会保障の存在理由

逆選択


モラル・ハザード


民間保険の場合,リスクの高い人ほど保険に加入しよ
うとし,保険会社は収益維持のため保険料を引き上げ
る.すると加入者はリスクのいっそう高い人に限定さ
れ,保険会社はさらに保険料を引き上げる.保険その
ものが成立しなくなる.
最低限度の所得が保険等によって保障されれば,所得
減尐のリスクに備える必要が低下するから,人々は労
働や貯蓄を怠る.すると,社会全体では最低所得水準
が達成できないリスクが高まり,保険料を引き上げざ
るを得なくなる.
民間保険では保障できない

強制的に保険に加入させる仕組みが必要
4
高齢化と尐子化
(2007年11月の推計結果)


日本の人口減尐早まる
新しい人口推計(厚生労働省)





合計特殊出生率( 1人の女性が生涯に産む子どもの
数)を1.21~1.29程度を想定
2003,04年度は1.29,2005年度1.26,2006年度1.29
子どもの数が減る尐子化が予想以上に早く進む
日本の総人口は2046年ごろに1億人を割る
社会保障財政を直撃

2025年の厚生年金保険料は月収の30%程度
医療・介護保険の財政悪化
5
総人口の推移









わが国の総人口:平成17(2005)年10月1日現在
で1億2,777万人
中位推計:これ以降長期の人口減尐過程
平成42(2030)年 1億1,522万人
平成58(2046)年 9,938万人
平成67(2050)年 8,993万人
高位推計:平成65(2053)年 1億人を割る
平成67(2055)年 9,777万人
低位推計:平成54(2042)年 1億人を割る
平成67(2055)年 8,411万人
6
7
年齢別人口の推移

2005年10月1日現在の年齢3区分別人口




年尐人口(0~14歳人口):1,758万人
生産年齢人口(15~64歳人口):8,442万人
老年人口(65歳以上人口):2,576万人
中位推計によると



年尐人口:2009年 1,600万人台に減尐
2012年 1,500万人を割り込む
2050年 821万人
生産年齢人口:1995年以後減尐し続ける
2030年 6,740万人 2050年 4,930万人
老年人口:2012年 3,000万人超 2030年 3,667万人
2050年 3,764万人
8

年齢3区分別人口割合の推移(中位推計による)



年尐人口の割合:2005年 13.8% 以降減尐し続ける
2025年 10.0%
2045年 9.0%
2055年 8.4%
生産年齢人口の割合:2005年 66.1% 以降減尐続く
2036年 56.4%
2055年 51.1%
老年人口の割合:2005年 20.2%
2013年 25.2%
2035年 33.7%
2055年 40.5%
9
10
11
12
従属人口指数の推移(中位推計による)


従属人口指数(年尐人口と老年人口の和を生産年
齢人口で除した値):
2005年 51.3%
2030年 70.9%
2055年 95.7%
老年従属人口指数:
2005年 31% (3.3人で1人)
2020年 50%台 (2人で1人)
2055年 79% (1.3人で1人)
13
合計特殊出生率






女性の再生産年齢(15~49歳)におけるそれぞ
れの年齢別出生率を合計したもの
分母は女子人口(有配偶者に限定しない)
1人の女性が一生を通じて産む平均子供数
1930年4.72,1970年2.13,2005年1.26
中位推計では,2006年1.29,2013年1.21
2030年1.24,2055年1.26
近年の日本:2.07で人口一定,2005年より減少
14


有配偶率が低ければ合計特殊出生率が低くな
る(日本は婚外出産が稀)
有配偶率
1975年 2005年
20~24歳 27.7% 10.4%
25~29歳 80.4% 38.2%
30~34歳 90.0% 62.7%
15
社会保障の給付と負担の見通し
注1)%は対国民所得。額は、各年度の名目額(将来の額は現在価格ではない)。
注2)公費は、2009年度に基礎年金国庫負担割合が1/2に引き上げられたものとしている。
注3)カッコ外の数値は改革反映、カッコ内の数値は改革前のもの。
注4)経済前提はAケース。
厚生労働省ホームページ
16
社会保障に係る負担の内訳
注1)%は対国民所得。額は、各年度の名目額(将来の額は現在価格ではない)。
注2)公費は、2009年度に基礎年金国庫負担割合が1/2に引き上げられたものとしている。
注3)カッコ外の数値は改革反映、カッコ内の数値は改革前のもの。
注4)経済前提はAケース。
厚生労働省ホームページ
17
見通しの経済前提
2012年度
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度
以降
(平成18) (平成19) (平成20) (平成21) (平成22) (平成23) (平成24
~)
*いずれ
も名目
物価上
昇率
賃金上
昇率
運用利
回り
国民所
得の伸
び率
並(A
ケース)
低目(B
ケース)
並(A
ケース)
低目(B
ケース)
並(A
ケース)
低目(B
ケース)
並(A
ケース)
低目(B
ケース)
0.5%
1.1%
1.6%
1.9%
2.1%
2.2%
1.0%
0.5%
1.1%
1.5%
1.8%
1.9%
1.8%
1.0%
2.0%
2.7%
3.1%
3.4%
3.2%
3.2%
2.1%
2.0%
2.1%
2.3%
2.5%
2.2%
2.2%
1.8%
1.9%
2.6%
3.1%
3.5%
3.9%
4.1%
3.2%
1.9%
2.5%
3.0%
3.5%
3.8%
3.9%
3.1%
2.0%
2.5%
2.9%
3.1%
3.1%
3.2%
1.6%
2.0%
1.9%
2.1%
2.2%
2.1%
2.2%
1.3%
18
日本の公的年金制度

日本の公的年金制度=国民皆年金?


満20歳以上60歳未満の人はすべて「国民年金」の被保険者
被保険者



第1号被保険者:自営業や無職の者,学生など
第2号被保険者:民間のサラリーマンや公務員など被用者
第3号被保険者:第2号被保険者の被扶養配偶者(専業主
婦等)
19

公的年金の種類



3種類の年金
国民年金(基礎年金)
厚生年金:民間のサラリーマン
共済年金:公務員・私学教職員など
3種類の給付:老齢・障害・遺族年金
厚生年金・共済年金加入者は同時に国民年金に加入


保険料の支払いなしで国民年金の支給を受けられる
公的年金の支給




老齢基礎年金:どの制度に加入していても共通して支給
される部分
第1号・第3号被保険者には基礎年金のみ支給
老齢厚生年金:第2号被保険者のみに支給される部分
(厚生年金の場合)
退職共済年金:第2号被保険者のみに支給される部分
(共済年金の場合)
→二階建て構造
20
平成21年度末 厚生労働省ホームページより
21
年金支給



国民年金(老齢基礎年金)の支給開始年齢:65歳
40年間保険料を支払っていれば満額が定額で支給さ
れる(1994年度,月額6万5000円,1997年度6万5517
円,1999年度6万7017円,2006-09年度6万6008円)
老齢厚生年金・退職共済年金:現役時代の報酬に比
例して支給




厚生年金:60歳から特別支給という形で満額支給
共済年金:60歳から支給 → 見直し
物価スライド:年金支給額は毎年,消費者物価の上
昇率に応じて調整
再評価:5年ごとに現役世代の賃金の伸びに準じて
年金額を調整
22
平成18-21年度の年金額










年金額は、前年の消費者物価が下落した場合には、それに合わせて
引き下げるよう法律で定められている。
平成18年度の年金額は、平成17年平均の全国消費者物価指数に
合わせて0.3%引き下げる。
国民年金
平成17年度
平成18-21年度
老齢基礎年金:1人分
66,208円
66,008円
(△200円)
老齢基礎年金:夫婦2人分 132,416円
132,016円
(△400円)
厚生年金
夫婦2人分の基礎年金を 233,300円
232,592円
含む標準的な年金額
(△708円)
(注) 厚生年金は、夫が平均的収入(平均標準報酬36.0万円)で40
年間就業し、妻がその期間全て専業主婦であった世帯の新規裁定の
給付水準
(参考) 新しい年金額は平成18年4月分から適用され、受給者には
6月に支給される。 (4月及び5月の2か月分支給)
23
標準的な厚生年金額


生涯平均賃金 月額33万6600円
年金支給額 23万983円(1994年価格)




生涯平均賃金に対する年金支給額の比率
=約68%
欧米諸国 35~45%


夫の報酬比例部分の年金=10万983円
夫婦が受け取る老齢基礎年金=6万5000円×2
日本の年金支給額の水準はけっして低くない
現役世代の約59%
24
平成21年度末 厚生労働省ホームページより
25

年金の主な財源


国庫負担分(基礎年金の1/3,2009年度までに1/2)
+保険料
年金保険料の拠出





第1号被保険者:国民年金の保険料(定額)を納める
( 1997年度で月額1万2800円,1999年13,300円,2006
年13,860円,毎年280円ずつ引き上げ,16,900円に)
負担能力に乏しい場合は免除
第2号被保険者:給与に応じて厚生年金・共済年金の
保険料(定率)を納める.国民年金の保険料を別建てで
支払う必要はない
厚生年金の場合,年収の13.943%を事業主と折半.
2006年度より毎年0.354%引き上げ,18.30%に
2008年度14.996%
26

年金保険料の拠出




第3号被保険者:届け出をすれば保険料なし
基礎年金の財源はそれぞれの制度の保険料収入
の中から被保険者(およびその被扶養配偶者)
の人数に応じて拠出
共稼ぎあるいは単身で働いている女性は保険料
を支払わなければならない
→ 第3号被保険者問題
27
厚生年金基金・国民年金基金・職域年金
(公的年金と密接に関連する制度)

厚生年金基金



国民年金基金



民間のサラリーマンが厚生年金の保険料に上乗せする形
で積立て,老後に付加的な年金を受ける
民間のサラリーマンの3分の1程度が加入
自営業者の国民年金に対する上乗せ
職域年金部分:共済年金の場合の上乗せ
税制適格年金(適格退職年金)


退職一時金の社外積立て
法人税上の損金扱い(ほとんどが事業主のみの拠出)
28
公的年金の役割
(1)リスクへの社会的対応

リスクに対する保険機能


高齢時の所得稼得能力低下というリスクの分散
リスク・プーリング


リスク軽減


自己責任を超えた理由で最低限度以下の生活に陥ったとき,
社会全体で最低限度の生活を保障する
最低限度以下に陥る危険性そのものを社会全体で引き下げ
る
近視眼的行動の補完


すべての個人が自らの将来を見据えて十分な備えをする
とは限らない
老後に悲惨な生活に陥るリスクを無視できない
29

逆選択への対応





病気などで最低限度以下の生活に陥るリスクが大きい人
ほど民間保険に加入する
保険料の引き上げ(民間保険会社)
リスクの高い人だけ残る→保険が成立しない
強制保険の必要性
モラル・ハザードへの対処


老後における生活保護を期待して現役時の貯蓄を必要水
準以下にする
強制貯蓄の必要性
30
(2)世代間の助け合い(扶助)

世代間の所得再分配

現役世代から保険料を徴収しそれを高齢世代に
支給する
→


賦課方式,修正積立(賦課)方式
現役時代に支払った保険料と高齢時代に受け取
る年金額は一致しない
ネットでみて得をする世代と損をする世代が生
まれる
31
公的年金制度の問題点
(1)国庫負担はなぜ必要か

公的年金の財源




保険料の拠出+国庫負担(基礎年金支給額の3分
の1)
2分の1まで増やす予定
国庫負担あり → ドイツ等
国庫負担の仕組みなし → 英米等
32
(2)世代内の所得再分配手段としての限界

基礎年金(国民年金)



支給は同一世代内における低所得層を相対的に優遇
支給額が保険料を現在価値でみて下回れば逆進的
空洞化率40%:2006年第1号被保険者2123万人


厚生年金・共済年金

報酬比例部分:現役時代の所得格差を高齢時代へ


うち免除者・猶予者526万人,未納者322万人,未加入者18
万人,合計765万人が未払い
世代内の垂直的公平に貢献しない
第3号被保険者問題

同一所得の世帯でも年金の負担・支給に差


水平的公平を達成しない
無業の専業主婦は保険料の支払いを免除

共稼ぎ世帯から片稼ぎ世帯への所得移転
33
(3) 国民年金の空洞化

国民年金保険料未納率





高齢化による年金制度の破綻不安


2002年度37.2%,03年度36.6%,04年度36.4%
2005年度32.9%,06年度33.7%
20歳台は2002,03,04年度に50%以上
1990年代半ば20%未満
保険財政の悪化、保険料の引き上げ
年金制度の不公平感(世代間格差)

払ったほどもらえない(払い損)
34
国民年金納付率の推移
35
「世代ごとの保険料負担額と年金給付額について」
(平成16年財政再計算)
平成17年(2005)
における年齢 (生年)
厚生年金(基礎年金を含む)
保険料負
担額 ①
年金給付
額 ②
国民年金
倍率
②/
①
保険料負担
額①
年金給付額
②
万円
230
(230)
万円
1,300
(1,300)
倍率
②/
①
70歳(1935年生れ)
[2000年度時点換算]
万円
680
(670)
万円
5,600
(5,600)
8.3
60歳(1945年生れ)
[2010年度時点換算]
1,200
(1,100)
5,400
(5,100)
4.6
410
(390)
1,400
(1,300)
3.4
50歳(1955年生れ)
[2020年度時点換算]
1,900
(1,600)
6,000
(5,100)
3.2
700
(600)
1,600
(1,400)
2.3
40歳(1965年生れ)
[2030年度時点換算]
2,800
(2,200)
7,600
(5,900)
2.7
1,100
(830)
2,100
(1,600)
1.9
30歳(1975年生れ)
[2040年度時点換算]
3,900
(2,800)
9,600
(6,700)
2.4
1,500
(1,000)
2,600
(1,800)
1.8
20歳(1985年生れ)
[2050年度時点換算]
5,100
(3,300)
12,000
(7,600)
2.3
1,900
(1,200)
3,300
(2,100)
1.7
10歳(1995年生れ)
[2060年度時点換算]
6,500
(3,700)
14,900
(8,500)
2.3
2,400
(1,400)
4,100
(2,300)
1.7
0歳(2005年生れ)
[2070年度時点換算]
8,000
(4,100)
18,300
(9,500)
2.3
3,000
(1,600)
5,000
(2,600)
1.7
5.8
36
年金の経済分析
共通の設定

2期間モデル






第1期:若年期,第2期:老年期
各期の収入:Y1, Y2 (Y1>Y2≧0)
各期の消費:C1, C2 (≧0)
個人はリスク回避的
若年期で死亡する確率 π (0≦π<1)
個人の期待効用
u ' (C1 )
 MRS 
EU=u(C1)+(1-π)u(C2)
(1   )u ' (C2 )
37
貯蓄の分析
貯蓄 S=Y1-C1 ,利子率 r
 将来所得:Y2+(1+r)S= Y2+(1+r)(Y1-C1)
 予算制約:C2 = Y2+(1+r)(Y1-C1)
= -(1+r)C1+(1+r)Y1+Y2
 期待効用の最大化
EU=u(C1)+(1-π)u(-(1+r)C1+(1+r)Y1+Y2)
 1階の条件
∂EU/∂C1=u’(C1)-(1-π)(1+r)u’(-(1+r)C1+(1+r)Y1+Y2)=0
 よって,
u ' (C1 )

u ' (C2 )
 (1   )(1  r )
同じもの
38
C2
予算線
貯蓄後の無差別曲線
C2 *
S
貯蓄前の無差別曲線
E
Y2
C1 *
Y1
u
-(1+r)
C1
39
年金の分析

年金制度(賦課方式)
 若年期に(1-π)M保険料 → 老年期にM>0の年金



若年期に死亡すると年金額はゼロ
予算制約
C1+(1-π)M=Y1
C 2 =M +Y 2
2期間にまたがる予算式
1
1
C2  
C1 
Y1  Y2
1 
1 
40

期待効用は
1
1


EU  u (C1 )  (1   )u 
C1 
Y1  Y2 
1 
 1 


1階の条件は
EU
1
1


 u ' (C1 )  u '  
C1 
Y1  Y2   0
C1
1 
 1 


よって,
u ' (C1 )
1
u ' (C2 )
同じもの
41
C2
予算線
45°
年金利用後の無差別曲線
C2 *
P
年金利用前の無差別曲線
E
Y2
C1 *
Y1
-1/(1-π)
C1
42
貯蓄と年金の比較


貯蓄と年金のいずれが有利か?
死亡確率πと利子率rに依存


死亡確率が高くなればなるほど年金が有利
利子率が高くなればなるほど貯蓄が有利
43
C2
年金の予算線
貯蓄の予算線
45°
年金利用後の無差別曲線
貯
蓄
が
有
利
1
 1 r
1 
S
貯蓄利用後の無差別曲線
P
初期の無差別曲線
E
(1+r)(1-π)>1
C1
44
C2
年
金
が
有
利
年金の予算線
年金利用時の無差別曲線
45°
貯蓄利用時の無差別曲線
P
貯蓄の予算線
初期の無差別曲線
1
 1 r
1 
S
(1+r)(1-π)<1
E
C1
45
日本の医療保険制度

国民医療費:



約30兆円(国民1人当たり24.5万円)
約32兆円(国民1人当たり26.1万円)
国民医療費の国民所得比:






1999年度
2006年度
1980年代,6%前半で安定的に推移
医療費適正化政策や比較的高い経済成長の維持
1990年代に入ってやや上昇傾向(経済成長の鈍化)
1999年度8.08%(老人医療費10兆円,全体の1/3)
2005年度9.01% (老人医療費13.5兆円,全体の41.6%)
国民医療費の財源:保険制度+公費



保険料は2005年度16.3兆円(全体の49.2%)
国や地方自治体の公費負担(税金)は全体の36.4%
患者が医療機関の窓口で支払った自己負担は14.4%
46
医療費の推移
(単位:兆円)
一般
平成13年度
平成14年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
平成18年度
平成19年度(1)
(構成割合)
平成20年度(2)
(構成割合)
(2)-(1)
総計 被用者
保険
30.4
9.7
30.2
9.4
30.8
9.2
31.4
9.3
32.4
9.4
32.4
9.4
33.4
9.5
(100%) (28.6%)
34.1
9.8
(100%) (28.7%)
0.62
0.22
本人
5.2
5
4.7
4.8
4.9
5
4.9
(15.1%)
5.2
(15.2%)
0.12
家族
4.5
4.4
4.5
4.5
4.5
4.5
4.5
(13.5)
4.6
(13.5%)
0.09
国民健 高齢者 長寿医療 公費
康保険
7.8
11.7
1.2
7.7
11.7
1.2
8
12.3
1.3
8
12.8
1.4
8.1
13.5
1.4
7.9
13.8
1.4
7.9
14.5
1.5
(23.6%) (43.4%)
(4.5%)
7.9
14.8
11.4
1.6
(23.2%) (43.5%) (33.5%) (4.6%)
0.03
0.31
0.07
厚生労働省ホームページより
47
医療の需給

医療の供給

自由開業制←医療計画(供給制限)



医療の需要


都道府県知事への届出で自由に開業できる
病院(病床数20床以上),診療所(それ以下)
フリーアクセス
保険診療


保険医療機関の指定→保険医
現物給付(患者負担分のみ支払う)
48
医療の需要

需要の不確実性


情報の非対称性



医療需要の発生時期、医療コスト
医師と患者
外部性の存在
モラルハザード


医療保険:需要側
医師誘発需要:供給側
49

審査支払機関



診療報酬制度





社会保険診療報酬支払基金
国民健康保険団体連合会
カルテ
レセプト(診療報酬明細表(書))→支払機関
診療行為:点数で評価
診療報酬点数表→出来高払い
薬価基準制度

公定価格=市場取引価格に一定の上乗せ
50
保険診療の仕組み
*保険者取扱窓口数及び医療機関等数は、平成21年9月現在の数。
社会保険診療報酬支払基金HPより
51
医療保険制度の体系



日本医療保険制度=国民皆保険
分類:職域保険と地域保険
職域保険:

被用者保険:





健康保険:中小企業被用者の政府管掌健康保険30%,
→2008年10月より全国健康保険協会の健康保険
大企業被用者の健康保険組合(組合管掌)26%,
健康保険法69条7被保険者
船員保険
共済組合(国家公務員,地方公務員,私学教職員)
国民健康保険組合(国保組合):同業者組合
扶養家族は被保険者の加入保険でカバー
52

地域保険:




職域保険が適用されない国民を対象
市町村を保険者とする国民健康保険(国保)
国保は退職者医療制度を含む(元サラリーマン
など.財源は本人の保険料+被用者保険からの
拠出金)
医療給付の財源


保険料
公費負担

国庫補助金,都道府県補助金,市町村の一般会計から
の繰り入れ
53

保険料:


被用者保険では定率(8.5%),労使折半
国民健康保険:応能割+応益割(上限は年53万円)


市町村ごとに異なる.地域間格差は7倍
公費負担:





国民健康保険の給付費の52%,政府管掌健康保険の給付
費の13%をカバー
健康保険組合や共済組合に対しては国庫負担はほとんど
ない
老人保健制度では都道府県・市町村からの公費で給付費
の約30%
被用者から自営業者・農業者への所得移転
現役世代から引退世代への所得移転
54
保険給付

医療給付(現物給付)

一部負担







被用者保険:3割
国保:3割
→ 定率負担
高額療養費
→ 定額負担+定率負担
自己負担:低所得者 35400円,
一般 63600円+(医療費ー318000円)×1%
高所得者 121800円+(医療費ー609000円)×1%
自己負担超過分,世帯合算
入院時食事療養費,訪問看護療養費
現金給付(金銭給付)


傷病手当金、埋葬料
出産育児一時金など
55

一部負担の根拠




医療サービスを利用する人としない人の間の公平性
コスト意識を高め、無駄や非効率を避ける
財源の確保
混合診療の禁止 - 基本

保険外併用療養費制度
56
老人保健制度(老人保健法)07年度まで




実施主体は市町村長
対象者は70歳以上の高齢者,および65~69歳の
寝たきり等の状態にある者
各保険制度の保険料を支払う
給付財源:


各保険制度からの拠出金(老人保健拠出金:大部分を
賄う)+国庫負担
自己負担:


2000年1月以前:
外来:月4回まで530円,入院:1日1200円+食事代760円
以後:外来:診療所および病院(200床未満)月額上限3000円
病院(200床以上)月額上限5000円
入院:定率1割負担,月額上限37200円
低所得者には配慮
57
後期高齢者医療制度(2008年4月より)




保険者:都道府県
対象:75歳以上のすべての高齢者
65~74歳の障害者(申請ベース)
国保などから対象者を切り離して運営
医療給付費の財源




高齢者が払う保険料(年金から天引き):1割
若い世代の保険料:4割
国庫負担(税金):5割
窓口負担は原則1割(高所得者は3割)
58
医療負担をめぐる問題点

(1)公費負担と制度の一元化



日本の医療保険制度は,保険制度とはいいながら公費
(税)に依存
→ 医療保険制度の一元化
(2) 医療保険と世代間の所得再分配





医療保険の負担と給付
現役時には負担超過,高齢時には給付超過
疾病リスクが高齢時になるほど高まる
保険料は定額ないし定率
国庫負担の問題
59

(3) 診療報酬制度の見直し


点数単位出来高払い方式
→定額払い方式
(4) 独立の高齢者医療制度

高齢者医療費10兆円



公費2.8兆円
老人保健拠出金6.5兆円
患者負担0.8兆円
60
公的介護保険制度
なぜ公的介護保険が必要か


要介護者数と介護費用の問題
要介護高齢者:




1993年時点で寝きり(90万人),痴呆性(10万人),虚弱(100
万人) ,合計200万人程度
2025年には520万人に達する
65歳以上で要介護状態になる確率は10%強
介護費用:


公的介護サービスの費用+家族介護の機会費用
厚生省の推計:介護にかかる社会的コストの60%が家族介
護による(施設介護は35%,在宅介護は5%)
61
62


社会保険方式の根拠
①介護サービスの供給面における効率化




以前の制度では,利用者自らの意思によってサービスの
内容を選択できなかった
一般財源の制約により介護施設が慢性的な不足状態
社会保険方式による消費者需要の反映,供給体制の整備
が必要
②社会保険制度としての整合性の確保




リスクの社会保険によるカバー
→ 社会的コストの全体的削減
以前の介護サービス:公費方式による福祉+社会保険方
式による医療
制度上のさまざまな矛盾 → 社会的入院など
63
介護保険制度の概要(1)
保険料負担

保険料は40歳以上の国民すべてから徴収






医療保険料に上乗せして支払う
2005年:国民1人当たり月額3293円
(2009年:国民1人当たり月額4160円)
協会けんぽ:3100円(本人負担は1550円)
健保組合:3930円(本人負担は1960円)
国保:市町村国保:1280円
国保組合:1410円
2000年(2009年)の介護費用 約4.2兆円(7.7兆円)


1割は自己負担,残りを保険料と公費負担で折半
2010年頃 1人当たり月額3500円と予想
64

被保険者:50%負担 ⇔

第1号被保険者(65歳以上):




公費:50%負担
20%
所得に応じた定額
第2号被保険者(40~64歳):定率
30%
協会けんぽ・健保組合の第2号被保険者は半額を
事業主が負担
第1号被保険者は全額負担




当初3年間は一定(所得に応じて5段階)
所得に応じて6段階,最大5割の割増・軽減措置
保険料徴収は年金から天引き(月額15,000円以上の場合.
未満の場合は市町村の直接徴収:15%)
2000年4月開始


当初半年間は無料
10月から1年間は半額に軽減
65
66
67
介護保険制度の概要(2)

保険者


保険給付


要介護認定等を行った上で、在宅・施設両面にわたり多様な医
療サービス、福祉サービス等を提供。
基盤整備



保険者は市町村。これを国、都道府県、医療保険者、年金保険
者が重層的に支え合う。
サービス基盤の整備を計画的に進める
国の基本指針→市町村介護保険事業計画
都道府県介護保険事業支援計画
利用者負担

保険給付の対象費用の1割。施設においては、食費のうち平均
的な家計において負担する部分は利用者負担。
68

公費負担



高齢者介護に対する公的責任を踏まえ、公費の負担
は総給付費の2分の1。
負担割合は、国:都道府県:市町村=2:1:1。
市町村への支援





市町村における保険財政の安定化と保険者事務の
円滑な実施を確保
国費による財政調整や要介護認定関係事務費の1/2
相当額の交付
都道府県による財政安定化基金の設置・運営
市町村の求めに応じて都道府県が行う保険財政の広
域化の調整
保険料基準の提示など、市町村に対する支援を実施。
69
70
介護サービスの受給

介護サービスの対象:



介護認定:


(↓主治医の意見書)
市町村の窓口に申請→訪問調査→介護認定審査会
要介護度:



65歳以上の被保険者
初老期痴呆や脳血管障害など老化が原因の病気(特定疾
患)を持つ64歳までの被保険者
高齢者の日常生活の能力や医学的な管理の必要性から7段
階(要支援1:4,970円,要支援2:10,400円)から (要介護
1:165,800円~要介護5:358,300円) に分けて認定→具体
的な介護内容決定
在宅介護か施設介護か,本人の選択
ケアマネジャー:介護サービス計画
→サービス利用
71
72
性・年齢階級別にみた65歳以上人口に占める受給者の割合
73
74
平均居宅サービス給付単位数・平均利用率
75
76


要介護度に応じたケアプランの策定(在宅介護の
場合)
例)要介護度3(重度)





年金から267,500円(限度額)が支給
自己負担はその1割.上限は37200円(低所得者24600円,
老齢福祉年金受給者15000円)
1週間にホームへルプ(訪問介護)7.5回,デイサービス
(通所リハビリ)2回,訪問看護1回
短期入所:半年で21日
施設介護の場合(3つの選択肢)



特別養護老人ホーム(介護・リハビリ中心)
療養型病床群(医療中心)
老人保健施設(両者の中間的存在)
→ 介護法人制度(介護施設を民間へ解禁)
77
公的介護保険をめぐる論点
(1)負担面についての論点

①なぜ財源は税ではなく保険料か

保険方式支持派:




税方式支持派:




保険料の方が負担と利益との関係が明確
費用負担に合意が得られやすい
サービスを受ける「権利意識」が持てる
保険料の滞納問題
滞納の程度に応じたペナルティの困難さ
保険料の定額負担には逆進性が伴うと批判
実際の公的介護保険:保険+税方式

介護費用の半分は公費負担,国民健康保険加入者は保険料
の半分が公費負担
78

②公的介護保険の雇主負担


③賦課方式か積立方式か



要介護状態になるリスクは高齢時にかなり集中
する
賦課方式:現役世代から高齢世代への所得移転
④被保険者を40歳以上に限定した根拠


個人単位の保険,保険料定額
→ 保険料の雇主負担の意味は曖昧
介護の問題を国民全体で解決するならば,20歳
以上の全国民が負担すべき
⑤自己負担1割

介護サービスが受けれない人々、低い利用率
79
80
81
(2)受給面についての論点

①公的介護保険の対象の範囲




なぜ原則として65歳以上の高齢者に限定したか
弱壮年の障害者介護は?
家族介護の扱い(家事援助サービスの提供は想定されて
いない)
②現物給付に限定? 現金給付を許容?


現在想定されている給付形態=現物給付
現金給付を支持する根拠




公的介護施設の収容能力が不十分→家族介護への補償
家族介護という無償労働への評価
家族介護と公的介護への平等な支給→ 選択の自由
現金給付に対する批判


家族介護に対する補助金として現状を固定させやすい
家族の流用→介護サービスの質の向上に結びつかない
82

③「保険料あって介護なし」の危険性


人材難等 → 介護ニーズに十分対応できない
「新介護システム」





ホームヘルパー:2000年度で17万人
ホームヘルプ・サービスを週6回(1回当たり2時間)
年間46週(ショートステイの利用は6回)→ 高齢者1人
当たりの介護時間:年間552時間
17万人のホームへルパーがカバーできる高齢者:38.2万人
2000年度における要介護雇用者数:280万人
→ 2009年度:470万人


介護施設の定員:80万人弱
在宅介護:約200万人
83

④民間部門の有効活用





介護サービスは労働集約的,高度の専門性なし
サービスの質に関する情報の非対称性が小さい
消費者による供給者の選択が比較的容易
→ 介護サービスの供給主体は基本的に民間主体
公的部門は明確なルールや基準の設定,介護費用の徴収や
配分
見通しの甘さ
84
制度改革のシナリオ

社会保障制度の維持



国家・政府の国民に対する義務
安易に簡単に廃止することはできない
3つの社会保険制度(年金・医療・介護)に共通
する問題点




高齢化・尐子化の進展
賦課方式に依拠した社会保険は財政的に破綻
給付の増大に伴って国庫負担を増加させることは現状で
は困難
保険料の引き上げは将来世代の負担増,世代間の不平等
を拡大
85
年金制度改正案の概要(1999年3月)

給付抑制(2025年以降現行の80%)

賃金スライドの停止(1999年度から)


報酬比例部分の支給開始年齢引き上げ(2013-2025年度)
→65歳に


3年ごとに1歳ずつ60歳から65歳に支給開始年齢を引き上
げ.女性は5年遅れ
60歳代後半の在職老齢年金制度(2002年度から)


年金額が賃金スライドを維持した場合の8割未満になれば
スライド復活
報酬比例部分と給与合計で月37万円超は年金減額.保険料
は全員
報酬比例部分を5%カット(2000年度から)

経過措置で現在の年金額は維持.完全適用は2004年度から
86

保険料の制度改正

ボーナスからも徴収する総報酬制の導入(2003
年度から)



育児休暇中の企業負担分を免除(2000年度か
ら)
半額保険料の導入(2002年度から)



対象は低所得者.年金は2/3
学生の納付猶予(2000年度から)


月々の保険料は17.35%から13.58%に低下
猶予期間分は10年以内に追納可能
国庫負担を1/2に引上げ(2004年度までに)
保険料の凍結
87
厚生労働省の年金改革(2003年)









厚生年金保険料→20年後に年収の20%で固定
モデル年金額は10年後に現役世代の5割以上
基礎年金に占める国庫負担割合は ½
積立金150兆円は95年間で取り崩し→給付へ
積立金運用利回り年3.2%(現行4%)
年金資金運用基金→第三者機関へ
専業主婦→夫の厚生年金を夫婦で分割
パート週20時間以上で厚生年金加入
70歳以上の会社員から保険料徴収
88
給付と負担の公平性(衡平性)


根本問題=世代間公平と世代内公平の両立
負担と給付の公平性(衡平性)


可能性の比較





世代内・世代間でどのように達成するか
①現行制度の給付水準は基本的に変えない.
②予見し難い変化(人口構造等)には,年金受給世代と現
役世代の双方が痛みを分かち合う.
③年金制度全体を基本から組み立て直して,給付・負担
水準を設定する.積立方式への移行,厚生年金基金の設
立の義務づけなど
④現状以上の負担は避ける.
制度の効率化

制度の一元化(年金・医療・介護)が必要
89
保険か税金か:財源問題

保険:


租税(税金):


受ける利益と直接に関連しない国家・政府への支払
年金は保険でなければならないか?



将来起こり得る事故に対処するため,多数の加入者を集
めて資金を蓄積し,事故発生時の経済的困難を排除すべ
く,蓄積を取り崩して補填する仕組み
社会保険:日本,ドイツなど
税金:スウェーデン,デンマークなど
国民年金の保険料:定額


低所得者に逆進的な負担
所得に応じた負担は不公平(所得の把握が難しい)
→ 消費税による負担(消費は所得に比例的)
90
社会保険と社会福祉の比較
社会保険
社会福祉
所得移転
(所得再分配)
前提
リスクの分散
リスクの軽減
同格・対等の個人
財源
保険料
負担者と受益者の
非対称性
租税
原理
私的(市場)原理
公的原理
由来
民間保険
→社会保険
慈善事業
→社会権
機能
91
保険と租税の比較
保険料
租税
拠出と給付
連動あり
連動なし
基準
使途の特定性
拠出が給付の条件
租税原則
所得再分配
機能
対象
弱い
(定率,定額など)
狭い(給与)
強い
(累進的)
広い(総合所得)
徴収の強制性
弱い
強い
92
世代間扶養



世代間扶養の仕組みは十分機能しない
老後の安心のためには,すべてを個人の自己責任
に帰すことは不十分
賦課方式


積立方式


一定の比較的短期間のうちに支払うべき給付費を,その
期間内に集める保険料(賦課金)で賄う方式
将来支給される年金の原資を加入期間中に保険料や拠出
金などで積み立てる方式
修正積立方式

制度が未成熟な間は賦課方式より高い保険料をとって積
立金を蓄積し,それによって負担を平準化しながら,
徐々に賦課方式に近づいていく方式
93
最後の例--ジェンダー問題



女性に対する社会の特定の観念
(女性は家庭を守るもの)
相対的所得の低さ
制度の問題



所得非課税の上限:103万円
年金保険料不要の上限:130万円
機能の不十分な実現

所得を機能に変換する際に不利な条件に直面
94
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