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最初の蒸気機関車

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最初の蒸気機関車
凡例
・本書は 1836 年から 1910 年までに発行されたアメリカ特許の特許明細書(公
報図面)に基づいています。
本書では 19 世紀から 20 世紀初頭までのアメリカ蒸気機関車の技術を特許図
面でご覧いただくとともに、技術と社会のかかわりにも注目し、簡単に当時の
アメリカ社会もご案内します。ご案内役は、1884 年 4 月 23 日のニューヨーク、
・アメリカの技術を見るためにアメリカ人の発明を主に取り上げたが、技術の
ブルックリン生まれ、翌年に特許になったおもちゃの特許に出てくるお人形で
変遷を見る上で役立つアメリカ以外の発明者が特許取得したアメリカ特許も加
す。私たち編集スタッフは、 ハローさん と名づけました。いろいろなページ
えています。
に出没するでしょうが、どうぞよろしくお願いいたします。
・蒸気機関車の技術を主に取り上げたが、車両の発明だけでなく理解に役立つ
関連発明も加えています。
・各ページには引用した特許日、発明者、公報番号を掲載しています。
・各ページの図は公報に複数の図面が掲載されている場合は蒸気機関車の全体
像が把握しやすい図を選んでいます。
・巻末には本書で取り上げたアメリカ特許の一覧と、発明者の氏名一覧を掲載
しています。
・本書で取り上げたアメリカ特許の特許明細書(公報図面)は、すべて 100 年
を経過した図面です。
・本書で取り上げた図面は特許明細書の図面であり、実際の設計図ではありま
せん。これらの図面は発明を表す図面であり、実際に蒸気機関車が作られたこ
とを示すものではありません。
はじめに
本書は約 150 年昔にさかのぼり、1836 年から 1910 年の約 80 年間のアメリ
タウン・ノリスタウン鉄道のチーフエンジ
カ蒸気機関車にスポットライトを当てます。1776 年のアメリカ独立宣言から約
ニア Campbell が特許を取得したこの蒸気
60 年を過ぎて、この時代はアメリカが国内を固めて帝国主義に移っていく成長
機関車は、後のアメリカン型蒸気機関車の
期にあたります。モンロー宣言で欧州の干渉を排除し、アメリカ東部では産業
原型になる歴史的機関車です。次にご紹介
革命が進み、西部へと領土を拡大します。1850 年ごろのゴールドラッシュと西
する蒸気機関車はメリーランド州バルチモ
部開拓時代は 1890 年に終焉し、20 世紀に入るとアメリカはハワイを統合、ス
アの Winans の蒸気機関車(特許 US305、
ペインとの戦いに勝って帝国主義へと移って行きます。本書は、この 80 年間の
1837 年)です。この蒸気機関車はボイラー
アメリカ社会の激動の時代に焦点を合わせ、特許図面をひもといて当時の蒸気
を縦においています。ボイラーを縦におく
機関車の技術の変遷を追いかけます。
蒸気機関車は 1825 年のジョン・スティーブンスの機関車や 1830 年の親指ト
ム号も同じ形態ですが、小型で小回りが効くために市街地などでは使いやすかっ
ここで本書が取り上げる 1836 年より以前のアメリカの蒸気機関車の歴史を
たのかもしれません。その次のページにはどんな機関車が姿を見せるでしょう
簡単に振り返ってみましょう。史書によればアメリカの蒸気機関車の歴史はイ
か。見慣れた機関車の中にまじって、いままで見たこともないような不思議な
ギリスの蒸気機関車の歴史と並ぶぐらいに古いようです。イギリスのトレビシッ
機関車もいるでしょう。蒸気機関車は設計者の夢と
クが世界最初の蒸気機関車に成功したのが 1804 年、有名なジョージ・スティー
情熱に囲まれて育ち、発展していきます。その後、
ブンソンのロコモーション号がストックトンとダーリントンの間を走ったのが
1869 年の大陸横断鉄道と 1889 年の 1435mm 標
1825 年です。この同じ 1825 年にはアメリカのニュージャージーでも、ジョン・
準軌など、蒸気機関車をとりまく社会の移り変わり
スティーブンスが蒸気機関車を走らせて客を載せています。これがアメリカで
に沿ってアメリカの蒸気機関車は高速化と大型化
最初の蒸気機関車だともいわれています。ちなみに日本での鉄道開業は 1872
(明
への道を進んでいくようです。ぜひ、本書が取り上
治 5)年ですから、アメリカではイギリスに負けない早い時期から蒸気機関車
げる 19 世紀後半から 20 世紀初頭までのアメリカ
の歴史がスタートしたといえそうです。
成長期に繰り広げられる蒸気機関車の技術の変遷
の旅をお楽しみください。
1830 年ごろは数台の蒸気機関車がイギリスから輸入されたようですが、当時、
すでにアメリカ製の「親指トム」と呼ばれる蒸気機関車がニューヨークでは試
そこには今も新たな知恵を誘い
験的に運転され、その後、急速にアメリカ製の蒸気機関車が広まっていくよう
世の中に何か新しいものをうみだす勇気のもととなる
です。本書で最初にご紹介する蒸気機関車(特許 US9355X、
1836 年)
はボイラー
当時の蒸気機関車技術者の心を感じとるに違いないでしょう。
を水平におく軸配置 4-4-0 の蒸気機関車です。フィラデルフィアのジャーマン
目次
発明とは何か。なぜ、特許明細書なのか。 ...................................................................1
アメリカ特許の変遷 ................................................................................................................2
特許図面のレトロな楽しみ/古い特許図面から発見して新たな時代に繋ぐ/
まるで物語のような発明 ........................................................................................................3
拡大するアメリカの国土/先端技術のかたまり蒸気機関車/ゴールドラッシュ
/南北戦争と工業化/大陸横断鉄道開通/大恐慌/米西戦争/
ライト兄弟のこと/T型フォード ......................................................................................5
Go West !! /農機具の発明/ Gone With The Wind /世界一周旅行 ...................9
アメリカを取り巻くヨーロッパの蒸気機関車の歴史 .................................................11
型式分類 ........................................................................................................................................12
蒸気機関車特許図面 蒸気機関車全体 スティーブンソンタイプ......................13
蒸気機関車特許図面 蒸気機関車全体 非スティーブンソンタイプ .................65
蒸気機関車特許図面 蒸気機関車全体 蒸気動車......................................................115
蒸気機関車特許図面 蒸気機関車全体 特殊軌道......................................................135
蒸気機関車特許図面 蒸気機関車要部/蒸気機関車を動かすための給水施設 ....163
用語の説明....................................................................................................................................232
掲載した特許の一覧 .................................................................................................................233
発明者さくいん ..........................................................................................................................235
おわりに ........................................................................................................................................236
19 世紀後半から 20 世紀初頭まで、アメリカは大陸横断鉄道から大恐慌
発明には当時最先端の技術とともに社会の様子が反映します。幸い、これら
へ、そして、第一次世界大戦へと社会が激しく変動します。その時期に
の発明は特許明細書として各国に残されており、特許明細書を調べると、当時
はアメリカの蒸気機関車も社会の急激な変化に従って姿を大きく変えて
の発明者が何を意図し、どこに目をつけて、どんな発明を生んだかを知ること
いきます。本書では当時の歴史的証拠を特許明細書に求め、アメリカ特
ができます。そこには今の時代にも生きる知恵が秘められているかも知れませ
許公報番号 US305(1837 年)から US980078(1910 年)までの蒸気
機関車の特許明細書をひもときました。そこには、蒸気機関車にかけた
技術者の夢と、実際に使われたのかどうかは判らないとしても、蒸気機
関車に姿を借りたさまざまな技術者の思いが残されています。とくに当
時の特許図面は見るだけでも想像が膨らみ、発明者の思いと温もりが今
ん。本書ではアメリカ特許分類 105/37 に区分されている蒸気機関車の特許明
細書、約 300 件のうちで百年以上を経過した 1910 年までの特許公報に限って
資料に用いました。
注)発明という文字には普通に私たちが使う意味と明らかに異なる法律的な特別な意味が定められてい
に伝わってくるようです。アメリカ特許の明細書に残された特許図面か
る。例えばアメリカの特許法では「発明」に発見も含めている。日本国の特許法では自然法則を利用し
ら、アメリカの激動の時代に蒸気機関車が見せた技術と夢、そして、なによりも技術
た技術的思想の創作と定義するが、技術的思想とは何かは定義されていない。このように各国が法律で
することの楽しさを感じていただければ幸いです。
発明を保護し、優れた発明には特許を与えて経済的独占を許している。
注)US9355X(1836 年発行)は公報明細書が消失しているので発明史としては 1837 年以後になる。
(古い公報のコピー)
発明とは何か。なぜ、特許明細書なのか。
本書はアメリカ特許明細書に残されている発明を調べ、当時の社会に沿って
移り変わる蒸気機関車を追いかけます。
ひとは、いつの時代でも夢を追いかけています。蒸気機関車の技術者たちも
夢を追い、その時の社会の課題と流行を反映したさまざまな発明を生みだして
きました。こうして生まれる発明には技術者の知恵と勇気が凝集しています。
それと同時に、発明には、その当時の社会のありさまも大きく影響をしています。
速く走りたいという要請が強ければ速く走る発明が多く生まれ、高速走行の技
術が発展していきます。さらに一歩進んで高速走行ができただけでは飽き足ら
ず、高速走行での乗り心地や、高速での低燃費などへと、新たな発明が連鎖的
に生まれます。こうして、たくさんのひとが技術に取り組み、いろいろな見方
で技術が深く耕され、多様な考えが集まり、数え切れない失敗の歴史を乗り越
えることで枝葉が繁り、はじめて蒸気機関車のような総合的技術が育つようで
す。
1
アメリカ特許の変遷
1790 年 4 月 10 日にアメリカでは特許法が公布されます。その当時は未使用
なら特許するという原始的な制度だったようです。そして、三年後の 1793 年
1890 年代には大恐慌がアメリカだけでなく世界を暗闇に落とします。専売は
悪だというアンチパテント時代が始まります。その後は各国の帝国主義的な膨
張政策を経て 1915 年の第一次世界大戦へと突き進むのです。
にはジェファーソン大統領が最初の改正を行い、新しくて役に立つ技術、機械、
製造物、組成物だけでは不十分で、新しくて、しかも、役に立つ改良された技術、
機械、製造物、組成物にだけ特許を認めることにしたようです。こうして 1790
年から 1793 年の四年間は 50 件程度の少ない特許件数だったものが、1836 年
の時点では1万件を超える膨大な特許が生まれたようです。その後、1836 年 7
月 4 日には国務省の行政機関として特許庁が確立し、発明の新規性を認定して
特許権を認めるという近代的制度になったようです。
ところでアメリカの古い時代の特許明細書を調べる上で衝撃的な事件が起き
ます。1836 年 12 月 15 日早朝、アメリカ特許庁が火災に巻き込まれます。こ
れにより、この時までに蓄積されてきた 1 万件を超える貴重な特許文書と数千
件の特許モデルが火事で消失してしまという大事件が起きたのです。この事故
のために、いまでも 1836 年以前のアメリカ特許明細書は調べることができな
いのです。
注)特許モデルは、発明が正しく動くことを示すモデルである。1790 年から 1880 年の間は、当時は
発明を明細書に書く技術力が未熟な発明家も多く、30cm 角程度の大きさのモデルを作って出願するこ
とも認められていたらしい。
注)火事で消失した一部の特許明細書はアメリカ市民の善意によって、ごく一部が復元された。しかし、
復元されたものでも明細書の文書がない等、不完全さは拭えていない。本書も収録期間を 1836 年以後
とした。
2
蒸気機関車特許図面
アメリカの軟弱な線路へ対応するため、ボギーの2軸先台車を付けたい
わゆるアメリカン・タイプ(4-4-0)の始まりである。初期は先台車は
蒸気機関車全体 > スティーブンソンタイプ
首を振るだけだったので曲線に対応するため第一動輪のフランジが無
かった。その後先台車の左右動も許す構造になったため、第一動輪のフ
ランジが付くようになった。
1836-2-5
15
Henry R. Campbell
US9355X
蒸気機関車特許図面
4シリンダー5軸機関車・固定台枠で動輪群をふたつに分けている。
蒸気機関車全体 > スティーブンソンタイプ
1848-4-25
Gustavus A. Nicolls
US5532
22
蒸気機関車特許図面
中央に共用する煙室を置き前後に火室を置くボイラーを搭載し、2組の
シリンダーにより2組の動輪を駆動する。炭水車が前後にある。スライ
蒸気機関車全体 > スティーブンソンタイプ
ドバーとクロスヘッドの構造が他に類を見ない。
1890-2-25
39
Henry C. Goulding
US422075
蒸気機関車特許図面
摩擦車で動輪に回転を伝達している。
蒸気機関車全体 > 非スティーブンソンタイプ
1882-2-7
77
Benjamin F. Hudson
US253289
蒸気機関車特許図面
フェアリー式の二階建て蒸気動車である。
蒸気機関車全体 > 蒸気動車
1868-12-22
Robert Francis Fairlie
US85076
126
蒸気機関車特許図面
重量は下のレールで支え、上のレールで倒れない様に支えている。
蒸気機関車全体 > 特殊軌道
1887-3-8
151
Eben Moody Boynton
US359008
蒸気機関車特許図面
スコップの往復運動でテンダーから石炭を焚き口まで移動し、そのまま
火室に放り込むメカニカルストーカーである。
蒸気機関車要部 > ボイラー
1906-5-8
Patrick J. Duffy
US820184
182
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