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f
rom
NTTファシリティーズ
スマートコミュニティを実現する,
複合型再生可能エネルギーシステムの開発
近年,電力を中心としたエネルギーの活用について,より無駄なく,便利に,そして賢く利用するための新たなインフラの概
念として「スマートグリッド」
,特定の地域のエネルギー利活用の概念として「スマートコミュニティ」に注目が寄せられていま
す.ここでは,既存系統電力と太陽光などさまざまなタイプの分散型電源,および蓄電池を需要サイドにて統合し,ICTを用い
ることでエネルギー利用を最適化させ,また同時に,災害に対する耐性を向上させることも可能とする複合型再生可能エネル
ギーシステムについて紹介します.
はじめに
給電方式のコンセプトを踏襲しつつ,分散型電源の種類や
機種に依存せず,組込みを容易にすることや,交流・直流
スマートコミュニティとは,再生可能エネルギーの大量
両方の特徴を活かした有効活用,商用電源との系統連系状
導入や需要制御を可能とする次世代のエネルギーインフラ
態のみならず,昼間帯を主体とした自立運転状態とのシー
(スマートグリッド),および関連するサービスを含めた社
ムレスな運用モードの切り替えなどの機能や要求を新たに
会システムのことを示しており,国内外のさまざまな分野
盛り込み,複合型再生可能エネルギーシステムとして完成
から極めて高い関心が寄せられています.また,スマート
(3)
させました .同システムは,2012年度下期から市場で
コミュニティは既存の業界・サービスの垣根を越えた,融
の導入が始まっており,自治体の防災拠点や都市部のビル
合による,新たな市場や概念を創出するものとして期待さ
内における新たな給電システムとしての運用,およびそれ
れています.NTTグループは,1940年代より,太陽光や
らの展開が期待されています.
風力などの自然エネルギーを通信用施設に活用するための
技術開発に努めてきました.さらに近年,NTTファシリ
ティーズは,需要家となる負荷側の近傍に分散型電源や蓄
複合型再生可能エネルギーシステムの
概要と特徴
電池を設置し,CO2の排出の影響が少ないエネルギーの利
用拡大をしたり,系統から受電した商用電源との相互補完,
今回開発した複合型再生可能エネルギーシステムの外観,
また停電や事故時におけるバックアップなど防災面での機
および構成の一例を図1,2に示します.本システムは,
能向上を果たすことができるマイクログリッドの研究開発,
以下の3つの装置群により構成されています.
フィールド実証を数多く手掛けてきました
(1)
.例えば,
①
給電制御装置:商用電力系統との連系・切離しを行
NEDOからの委託により開発し,仙台市の東北福祉大学
うための交流半導体スイッチ(ACSW)と蓄電池充放
キャンパス内にて設置,運用を継続していた品質別電力供
電変換装置(双方向インバータ)から構成されており,
給システム(仙台マイクログリッド)は,2011年3月11
本システムのコア要素です.
日に発生した東日本大震災後もエネルギー供給の機能を設
計どおりに果たし,高信頼な給電システムとしての有益性,
有効性,および耐災性など,多くのメリットをもたらすこ
(2)
とを実例で示しています .また,NTTファシリティーズ
は,太陽光や風力などの分散型電源が導入された地域にお
いて,電力供給の安定性,信頼度や給電品質の維持・向上,
環境負荷低減,また,需要家の利便性向上などの特性を検
証するため,次世代電力供給システム実証研究を2006年
からの5カ年において,愛知工業大学などとともに実施して
きました.
NTTファシリティーズは,これらの実証研究で得たノウ
ハウや知見の蓄積,および東日本大震災で経験した高信頼
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NTT技術ジャーナル 2013.5
(a) 給電制御装置
(b) リチウムイオン電池(難燃,大容量)
図1 複合型再生可能エネルギーシステム装置外観
②
分散型電源:太陽光,風力などのさまざまな種類の
再生可能エネルギーの利用・組合せが可能です.
③
②分散型電源
●
蓄電池:リチウムイオン電池や鉛蓄電池などの各種
太陽光,風力など
2次電池が接続可能です.
本システム制御の中心を担う装置は,給電制御装置であ
①給電制御装置
●
再生可能
エネルギー
再生可能
エネルギー
PCS
PCS
り,設定された目的に応じて,ACSWをオン・オフさせ,
同時に双方向インバータを最適運用(蓄電池の充電,もし
くは放電)させることで,分散型電源と負荷との需給バラ
ACSW
商用系統
負荷
ンスや受電電力量の調整を行い,平常時の環境負荷低減や
INV
系統電力使用量の最小化などに効力を発揮します.停電発
ACSW:交流半導体スイッチ
INV:蓄電池充放電変換装置
(双方向インバータ)
Batt:2次電池
PCS:電力変換装置
(パワーコンディショナ)
生時は,蓄電池放電の負担を軽減するため,分散型電源か
Batt
らの発電電力を優先的に最大限利用するような制御を行い,
システム運用の最適化を図っています.また,ACSWの高
③蓄電池
●
速動作により,停電や瞬時電圧低下などのトラブルを避け,
図2 複合型再生可能エネルギーシステム構成図
負荷給電の無停電化が実現でき,ICTシステムなどの重要負
荷システムへの安定した給電も可能としています.
本システムのさらなる特徴は,分散型電源類と給電装置
本体との間に特別な制御を不要としており,特定の製造
メーカ,仕様に依存することなく,さまざまな組合せを可
自立運転モード
(主体) 無瞬断切替
系統連系モード
能としていることです.また,分散型電源がすでに導入さ
れている設備への機能付加,また,本システムが導入され
分散型電源
た後における分散型電源の増減設も容易としており,分散
型電源の「プラグアンドプレイ」を可能にすることで,給
電システムとしての設計や運用の自由度を高めています.
分散型電源
PCS
商用系統
PCS
商用系統
負荷
複合型再生可能エネルギーシステムの基本的な運用モー
ACSW
OFF
ドの概念を図3,共同研究実施者である愛知工業大学の
負荷
ACSW
ON
キャンパスにて取得した実際のデータ例を図4に示します.
本システムは,実際に商用電源が停電していない状態で
系統から切り離された
自立運転で負荷へ給電
あっても,昼間帯に太陽光発電などの分散型電源の出力が
系統と連系し,
蓄電池充電と負荷へ給電
十分に得られる場合,ACSWを意図的にオフの状態とし,
図3 複合型再生可能エネルギーシステムの
基本運転モード
自立運転モードとして運用することが可能です.出力が安
定しない分散型電源であっても,蓄電池への充放電により
需給バランスをとることで,負荷へ常に安定した電力を送
ることができます.また,雨天や夜間など分散型電源の出
力が得られない状態においては,ACSWをオンとし,商用
系統から電力を負荷へ送りつつ,同時に蓄電池を充電する
自立運転モード
(kW)
ことも可能です.なお,本システムはこの2つのモードを無
15
瞬断で切り替えることができ,分散型電源から得られたエ
10
ネルギーを主体に運用するという条件下においても高信頼
5
な給電品質を維持することが可能となっています.
図4の例では,6時過ぎから太陽光発電の出力が徐々に上
昇していますが,早朝の負荷出力が小さく,発電電力の多
くは蓄電池へ充電されています.また,昼間帯は,負荷容
量と太陽光出力の大小に応じて,蓄電池への充電もしくは
電
力
負荷電力
系統電力
装置出力
太陽光出力(12号館)
蓄電池電力
太陽光出力(図書館)
蓄電池電圧
390
370
350
電
310 圧
330
0
−5
290
−10
−15
系統連系
運転モード
(V)
270
250
0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00
放電により給電系のバランスが保たれています.このとき,
時 刻
深夜0時∼21時までは,蓄電池の充放電により,太陽光発
図4 運用データの一例
電出力と負荷容量との差分を吸収していることが分かりま
NTT技術ジャーナル 2013.5
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NTTファシリティーズ
す.この時間帯においては,商用系統は停電でなく正常な
を組み合わせ,自然災害に備えようとしています.これら
状態にありますが,商用電力を一切消費(受電)しておら
の拠点整備においては,長時間停電時における自立電源の
ず,本システムが分散型電源からの出力と蓄電池により,
確保と,再生可能エネルギーの利用拡大による環境負荷低
自立している状態での運用となっています.しかし,18時
減を両立させることで,安心・安全かつ環境に配慮した街
以降は,太陽光発電の出力は0となり,負荷への給電はすべ
づくりを目指しています.2012年,仙台市は環境省によ
て蓄電池からの放電により補われているため,蓄電池容量
る地域グリーンニューディール基金などを活用し,「仙台市
は徐々に低下しており,21時には,蓄電池容量維持のため
避難所等への防災対応型太陽光発電システム導入事業」の
充電を行う必要があり,商用系統との連系モードに運用状
公募型プロポーザルを実施し,NTTファシリティーズをこ
態を変更しています.このモードの変更の際,無瞬断での
の事業者に選定しました.NTTファシリティーズは,過去
切替えであり,負荷に影響を全く与えずに,給電ができて
の実証研究事業を通して開発した複合型再生可能エネル
います.図4は,自立運転モードから系統連系モードへ切
ギーシステムを仙台市内の小学校13カ所,市民センタ2カ
り替えた場合の一例ですが,その逆の切替えも同様な特性
(5)
所,庁舎1カ所の計16カ所への導入を進めています .ま
を示します.
た,仙台市では,2015年度末までに,200カ所以上に本
図3,および図4に示した特性は基本的な運用モードと
システムを導入していく計画としており,ほかの自治体も
実データの一例ですが,季節・時間帯ごとの運転条件や各
興味・関心を示しています.仙台市での実例を含め,本シ
種しきい値を適切に変更することで,昼間帯の電力ピーク
ステムの導入事例と分散型電源の構成例を表に示します.
カットやピークシフト,安価な料金体系の活用,CO2排出
太陽光発電装置以外にも,風力発電,燃料電池,電気自動
量の少ない時間帯の電力の利用などさまざまな運用のニー
車,および各種蓄電池は,特定の機種やメーカへの依存が
ズにも適用させることが可能です.
なく,組合せの自由度が高いことも本システムの特徴であ
さらに,本システムの蓄電池接続用の直流母線を利用す
り,前述したとおりです.
ることで,NTTグループが推奨している直流380 V給電シ
ステムとの連系や電気自動車用蓄電池の適用拡大を行うこ
地域防災給電ネットワーク
とも可能となります.蓄電池には,NTTファシリティーズ
(b))を選定すること
が開発したリチウムイオン電池(図1
(4)
特定のエリア内においてスマートコミュニティを実現す
も可能です.この電池は,可燃性電解液を難燃化 するこ
るためには,単一拠点のみならず,複数台の複合型再生可
とで,異常時に火災を引き起こすことがなく,高い安全性
能エネルギーシステムを同時に運用管理,制御し全体最適
を有しています.また,電池単体が大容量であるため,接
化を目指す必要があります.このような要求を満たすため
続時の電池個数や接続点が少なくなり,信頼性を向上させ
にはICTによる群管理を行い広域での運用が必須となりま
ることもできます.
す.ICTを用い,複合型再生可能エネルギーシステムを複数
台同時に運用し,地域防災給電ネットワークを構成する場
実際の導入事例の紹介
合のイメージを図5に示します.平常時は,エリア内の複
合型再生可能エネルギーシステムに対して,天候や電気事
東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県仙台市は,地
域の防災拠点へ太陽光などの自然エネルギーと蓄電池など
業者の発電状態・料金体系と負荷の状況を把握したうえで,
CO2排出量最小化,あるいは料金最小化などさまざまな要
表 複合型再生可能エネルギーシステムの導入と分散型電源の構成の実例
分散型電源
40
導入事例
導入数
仙台市防災拠点
蓄電池
備 考
太陽電池
風力発電
燃料電池
マイクロ
水力
電気
自動車
リチウム
イオン電池
鉛電池
16
○
○
─
─
○
○
─
─
岐阜県 道の駅
1
○
─
○
─
─
○
─
─
グランパークタワー
2
○
─
─
─
─
○
─
─
愛知工業大学
3
○
○
─
○
○
○
○
2006∼2010年文部
科学省私立大学研
究高度化推進事業
により導入
岐阜県 花博覧会会場
1
○
─
─
─
─
─
○
2008年導入済み
NTT技術ジャーナル 2013.5
・・・複合型再生可能エネル
ギーシステム(基本単位)
分散型電源
病院
PCS
店舗
負荷
商用系統
GW
サーバ
中央監視
センタ
GW
EV充電設備
GW
GW
役場
防災拠点
図5 複合型再生可能エネルギーシステムを複数利用した地域防災給電ネットワークの例
求が実現できるような運転指令を,ICTを介して行います.
き,さまざまなスマートコミュニティの場面で活躍ができ
この際,個別のシステムごとの負荷状態や蓄電池残容量を
ると期待されています.今後もICTの利活用を推進し,より
勘案し,運転指令やさまざまな制約条件・しきい値が全体
スマートで無駄がなく,効率的なエネルギーシステムへと
最適となるように制御します.このように,複数のシステ
改良を継続していきます.
ム全体による面的なデマンドレスポンスやリアルタイムプ
ライシングへの対応による電気料金の削減,ピークカット
やピークシフトが可能となり,料金面のみならず,電気事
業者の設備利用率向上やCO2削減にも寄与できます.
また,広域停電が発生した場合,例えば拠点の重要度や
負荷の消費量をかんがみ,継続給電を可能とするEVの最適
配備により,より高度な防災対応も可能にします.
今後の展開
ここでは,NTTファシリティーズが愛知工業大学との実
■参考文献
(1) K. Hirose and T. Babasaki:“Smart Power Supply Systems for Mission
Critical Facilities,”IEICE Transactions on Communications,Vol.E95.B,
No.3,pp.755-772,2012.
(2) http://spectrum.ieee.org/energy/the-smarter-grid/a-microgrid-thatwouldnt-quit.
(3) 廣瀬・武田・奥井・雪田・後藤・一柳・松村:“分散形電源導入系統に
おけるパラレルプロセッシング方式を用いた給電システムの開発,”電学
論B,Vol.129,No.11,pp.1349-1356,2009.
(4) T. Tsujikawa,K. Yabuta,T. Matsushita,T. Matsushima,K. Hayashi,
and M. Arakawa:“Characteristics of Lithium-ion Battery with Nonflammable Electrolyte,”Journal of Power Sources,Vol.189,No.1,
pp.429-434,2009.
(5)“複合型再生可能エネルギーシステムを開発,”NTTファシリティーズ
ジャーナル,Vol.50,No.296,pp.16-17,2013.
証事業を通じて開発した複合型再生可能エネルギーシステ
ムの概要,特徴,運用事例を紹介しました.本システムの
導入により,太陽光発電や風力などの分散型電源を電気事
業者の送配電網を介さず,負荷・需要地にもっとも近い場
所で地産地消させることに貢献でき,かつ,停電事故発生
の有無や気象条件に左右されず安定した高品質な電力供給
を可能にしています.
◆問い合わせ先
NTTファシリティーズ
研究開発本部
TEL 03-5907-6328
FAX 03-5961-6424
E-mail hirose36 ntt-f.co.jp
本システムは導入しようとする施設の条件,制約を受け
にくいため,全くの更地からのスマートコミュニティの構
築という新規としての局面のみならず,我が国や先進国に
みられるような,ある程度インフラが整っており,各種の
分散型電源が導入済みの既存施設におけるスマートコミュ
ニティの構築にもその効力を発揮します.NTTグループの
事業コンセプトにある「つなぐ」のキーワードを,本複合
型再生可能エネルギーシステムにより実現させることがで
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