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中小ガソリンスタンドを事例として-(PDF)122KB
SCB SHINKIN CENTRAL BANK 企業経営情報 No.14 (2002.12.11) 総合研究所 〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1 TEL.03-3563-7539 FAX.03-3563-7551 中小企業経営改善支援業務の実際 −中小ガソリンスタンドを事例として− (要 旨) 1.事例企業の概要 当社は、1969 年創業、東京都心から鉄道で約1時間半ほどに位置し、ガソリンスタン ド2店舗(本店、支店とする)を運営している。本店は駅至近の好立地の給油所で、法 人固定客を中心として安定した収益をあげる店舗である。 一方、支店は 1995 年に出店、 交通量の多い国道と市街地とを結ぶ市道沿いに位置する個人客中心の店である。スタッ フは本店に社員1名、アルバイト1名、支店には社長のほかに社員2名、アルバイト5 名である。 2.現状把握および課題抽出 売上高はほぼ横ばいで経常利益段階では赤字であり、3期前および直近期は営業利益段 階ですでに赤字であった。これは、①売上総利益率が 15%と業界平均の 20%より低く、 ②支店出店費用を借入金でほぼ全額賄い返済負担が重いことに起因し、債務超過の状態 に陥っている。このため、現在では条件緩和措置を信用金庫より受けている。 3.計画策定およびフォロー 経営改善計画としては、短期的には「商品構成の改善による売上総利益率の向上」、中 長期的には「明確なビジョンにもとづく顧客囲い込み戦略の実施」を中心に据えた。ま た、この改善計画の具体的な数値目標を設定した。それは、①販売拡大商品(洗車およ びオイル交換)の支店における予想売上高を算出(月平均の洗車が 1,000 台で売上高 1,100 万円、オイル交換が 200 台で 550 万円)、②この売上高を達成したときの当社全 体の年間償却前営業利益額は 1,400 万円、③この額をもとに借入金(9,000 万円)の返 済年数を8年とする。やや長期的な返済計画となったが、これを信用金庫側の理解も得 た上で今回の計画の目標と設定した。金融機関への提出が前提となる計画書でもあるた め、金融機関側としても支援可能なものであることが重要である。 4.参考実例紹介 当社の直接参考になる実例として、車検をメイン商品に顧客データベースを構築しハイ タッチサービスを実現する新潟市の「カヤバ」を紹介する。 ©信金中央金庫 総合研究所 はじめに 本稿は、中小企業の経営コンサルティングについて、業務の流れ、ポイント、当該業 務における企業と金融機関との関係等について、事例をもとに述べるものである。同様 のレポートを 2002 年2月に企業経営情報No.7「中小小売店の経営コンサルティン グの実際 −洋菓子店のケーススタディより−」として発刊しており、本稿はその第2 弾にあたる。 本稿で取り上げる事例企業は、2店舗を有する中小ガソリンスタンドの典型的な例で ある。本旨は経営コンサルティングの方法の紹介であるが、同業界共通の問題点も多く 取り上げており、産業動向、業界動向のレポートとしての意味も付加されている。 本稿の内容は、企業経営情報No.7と同様、信金中央金庫総合研究所が信用金庫の 取引先企業に対し実施した経営改善計画策定支援業務の経験に基いている。ただし、ケ ーススタディの事例企業は、フィクションのものである。 なお、中小企業の経営改善計画策定支援業務の目的、効果などについては信金中金月 報 2002.10 の P.74 および 2003.1 に掲載予定の「中小企業の経営改善支援セミナー講演 録」、実際の業務の進め方、ポイントなどについては前述の企業経営情報No.7も参 考にされたい。 1.事例企業の概要 当社は、1969 年創業、東京都心から鉄道で約1時間半ほ 図表1 事例企業の概要 どに位置し、ガソリンスタンド2店舗(本店、支店とする) 社 名:ABC石油 代 表 者:配奥 太郎(はいおく たろう) を運営している(図表1)。本店は駅至近の好立地の給油 所 在 地:千葉県A市 店 舗 数:2店舗(本店、支店) 所で、小規模ながら法人固定客を中心として安定した収益 立 地:本店は駅至近の好立地 支店は交通量が多く競争の激しい市道沿 をあげている。一方、支店は 1995 年に出店、国道と市街地 店舗面積:本店−約 300 ㎡ 支店−約 600 ㎡ を結ぶ交通量の比較的多い市道沿いに位置する個人客中心 売 上 高:4億円(2002.5 期) の店で、近所には競合店も多い。スタッフは本店に社員1 従業員数:9名(うちアルバイト6名) 販売形態:フルサービス 名、アルバイト1名(常時2名体制)、支店には社長のほ (備考)当社はケーススタディ用であり実在しない かに社員2名、アルバイト5名(社長プラス2∼3名体制) である。売上高は横ばいで推移しているものの、経常利益段階では赤字となっている。 現社長は二代目で、先代が病に倒れた 2000 年に後を継いだ。社長は、当社の仕入先 である特約店(元売と当社のような販売店とをつなぐ卸売業を主業としている業者)で 数年勤務の後、91 年に入社している。突然の社長交代ではあったが、現社長は当業界の キャリアが豊富であり、しかも現場の経験も長い。ガソリン販売そのものに限れば、キ ャリアに加え年齢が若いこともあり、これまでもかなり積極的な経営改善策を実行して きた。しかし、油外販売なども含めたガソリンスタンド全体の経営としては力不足の点 もあり、今回、外部の力を借りて経営改善計画を策定し、実行したいと考えた。 このケーススタディは、信用金庫の取引先顧客から経営改善計画策定支援の要請があ り、当総合研究所のスタッフが信用金庫の職員とともにコンサルティングに当たったと いう設定である。 1 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 2.現状把握および課題抽出 実際のコンサルティング業務は「現状把握」、「課題抽出」、「計画策定」、「フォ ロー」の4つに分けられる(図表2)。今回は、約2ヵ月間かけて実施した「計画策定」 までの3業務を紹介する。 図表2 スケジュール表 現 状 把 握 必 要 書 類 依 頼 第1回聞き取り調査 (追加資料依頼) 事前準備 第2回聞き取り調査 (追加資料徴求) 中 間 報 告 会 財務分析、収益シミュレーション 課 題 抽 出 この間にも数回面談を行う 業界調査(文献調査および業界団体・企業へのヒアリング調査) 最 終 報 告 会 地域・商圏・顧客調査(文献調査およびアンケート調査) 先進事例調査(個別企業に対するヒアリング調査) 計 画 策 定 改善計画・実行計画の検討、最終調整 報告書作成 ォ フ ー 計数管理等フォロー ロ ッ キ 1ヶ月 1週間 2ヶ月 ク オ フ (1)現状把握 ①事前準備 通常、キックオフミーティング(第1回目の聞き取り調査)に先駆けて様々な書類や 資料を対象企業(以後当社)および信用金庫から提出してもらう。当社からは直近3期 分の決算書類を、信用金庫からは顧客管理関係資料を事前に入手した。 事前に入手した資料をもとにわれわれが把握した当社の内容は次のとおりである。ま ず決算書類から、売上高はほぼ横ばい、経常利益段階で赤字であり、3期前および直近 期は営業利益も赤字であった。これは、売上総利益率が 15%と業界平均を5ポイント程 度下回っていることによるものと判断された。巷間いわれているガソリン価格低下によ る採算悪化が如実に現われた決算内容であった。また、営業段階での低収益性に加え支 店出店費用を借入金でほぼ全額賄ったことで返済負担が大きく、債務超過状態に陥って いる。これにより、現在返済軽減措置を信用金庫から受けている。 さらに、信用金庫営業店の支店長および担当者から情報収集した。それによれば、本 店と支店の売上の割合は1対2で支店の方が多く、本店は小規模で売上高はやや減少傾 向であるが、顧客は固定的な法人が中心で比較的安定した収益をあげている。一方、支 店の顧客は個人が6∼7割を占め、競争激化による採算悪化が当社収益低迷の主要因で あることが分かった。 2 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 この段階でわれわれはキックオフでの質問項目を整理した。内容は「経営診断事前調 査票」としてキックオフ当日の質問票となる。この「経営診断事前調査票」では、企業 概要、店舗、主要設備、経営理念・経営方針、要望(今回のコンサルティングに関して のわれわれに対する要望)、仕入先、販売先、商圏・顧客管理、競合先、時間帯別来店 客数の傾向、油種別販売数量、油外商品・サービスの販売状況、実施している販売促進 策、1日の作業・職務分担、外部環境、経営上の悩み・問題点・課題等、経営改善策へ の経営者としての希望などを盛り込んだ。 ②キックオフミーティング 上述の「経営診断事前調査票」に基いてヒアリング調査を実施した。ここで得られた 情報の概要を列挙する。 ・支店では月に燃料油 220kl(キロリットル)を販売(概算 2,200 万円)。売上総利 益はリッターあたり約 10 円。他に作業売上が月に 100 万円。本店では月に燃料油 150kl で、この他プロパンガスの販売が月に 20 万円から 30 万円ある。 ・社長の意識する支店の競合先は2件ある(本店は競合なし)。いずれも低価格のセ ルフ式で、販売価格はリッターあたり5円の差がある。 ・社長の希望は、売上高の絶対額をあげるというよりは利益率の改善やさらなるコス ト削減の可能性があるのか、また、自社の3年後、5年後の姿を知りたい、という 2点である。 社長の経営改善意欲は高く、また信用金庫との信頼関係も良好である。この点、コン サルティングを進め、実効をあげていく上での必要条件には恵まれている。売却すべき 資産はこれといって所有していないようである。この時点では商品ミックスの見直しと 経費削減による利益率の改善が中心になると考えられた。 なお、店舗別、商品別のより詳細なデータの必要性が認められたため、次回訪問時ま でに売上等の状況が記録されているPOS(販売時点管理)データの集計表の準備を依 頼した。 ③第2回目の聞き取り調査 ここでは、POSデータを受け取るとともに、キックオフ時に不足した点やより詳し い内容等を聞き、当社の全容解明をできる限り完璧なものとする。ただし、社長が自社 の内容や業界動向、地域の現状、競合店の状況、顧客動向、財務内容などをすべて正確 に把握しているとは限らない。むしろ、いかに社長の思い込みが現実と異なるか、その 現実と異なる社長の思い込みをわれわれがいかに客観的なデータに基づいて修正する かが、このステップでのポイントでもある、こうした全容を解明していく過程で当社の 特徴、強み弱み、課題、改善の方向性が徐々に具体的に見えてくる。 (2)課題抽出 事前準備(資料および信用金庫支店からの情報)、2回のヒアリング調査を経てわれ われが把握した当社の現状に基いて、「財務分析」、「業界動向」、「商圏分析」、「顧 客分析」に分け、それぞれ課題抽出を試みる。 3 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ①財務分析 分析を行う前に、当社の決算書およびPOSデータについて重大な発見が2つあった。 ひとつは、決算書類における売上高の算出が預金口座の動きで把握されていたことであ る。売上金については現金売上、掛け売、カード決済などすべて信用金庫の口座を通過 するようにし、その合計金額を売上高とするとともに、期末の預金残高を利益とすると いう杜撰なものであった。もうひとつは、本来、売上高を正確に把握するためのPOS データがそのままでは当社の状況を把握できるシステムではなかったということであ る。そこで、財務分析を行う上で基本的なデータを得るためにPOSデータの分析を実 施することとなった。 ●POSデータの分析 燃料油関連の売上高(金額ベース)はPOSではデータを取ることができなかった。 データは販売量のみである。しかも、販売量そのものも単純なものではない。現金およ び現金会員の売上高はそのまま売上高となるが、カード会員の場合、当社で発行した元 売系カードで当店で給油した場合は当店の売り上げになる。ところが、他のガソリンス タンドが発行した会員カードでの売上高は、発行元のガソリンスタンドの売り上げとし て計上され、当社には数%の手数料のみが後日口座に入金され、売上として計上される という仕組みになっている。つまり、当店で販売したガソリンであっても売上高の計上 方法が異なっている。したがって、金額ベースでの売上高は販売店側では把握しにくい 仕組みとなっている。 しかも、仕入価格は1ヵ月分まとめて月末に決められる慣習となっていることから販 売時点で売上高はもちろん仕入価格も分からない。当然、売上総利益率が把握できるは ずもなく、適切な経営判断で採算をコントロールできる状況にはないといえる。 そこでわれわれは、量で表示されたPOSデータと、その後の取引先からの振込金額 とを照合する形で売上高の把握を行った。データの制約から3ヵ月分のデータ集計を行 いそれを年間に引き直して推計した。したがって、後述する店舗別、商品別の損益計算 書については推計値であることをここで断っておく。 ●貸借対照表 当社の貸借対照表のイメージ図が図表3である。流動比率、当座比率が年々低下して おり、2002 年5月期では流動比率が 50%を割り込んでいる。ちなみに、中小企業庁の 「中小企業の経営指標(平成 13 年度調査)」による欠損企業も含めた業界の平均値(以 下業界平均)は 171.5%である。ここまで差があるのは、キャッシュフロー不足による 現預金の減少と短期借入金の増加が主因である。流動性が急激に低下しており、短期的 にも資金繰りに懸念がある。 また、装置産業である当業界にとって重要な指標である固定資産回転率は 4.71 回と、 業界平均の 7.5 回に比べ著しく低く、過剰な固定資産、具体的には 95 年出店の支店が 相当負担になっている また、2002 年5月期で約 3,000 万円の債務超過である。これは、ガソリン価格の低迷 による採算悪化に加え、95 年の支店出店費用をほぼ全額借入金で賄い金利負担が重いた 4 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 めである。現在、信 図表3 ABC石油の貸借対照表のイメージ 用金庫は借り入れ 2000年5月期 2002年5月期 2001年5月期 99年5月期 条件を緩和してい 40 45 60 60 70 85 85 85 るが、依然赤字体質 流動資産 流動負債 から脱却できてい 85 固定資産 90 ない。 固定負債 90 70 90 75 100 85 ●損益計算書 (-30) (-25) 5 当 社 の 損 益 計 算 繰延資産 (-20) (-15) 債務超過額 書 は 図 表 4 の と お (備考)1.( )内はうち数 2.信金中金総合研究所作成 りである。十分な売 上総利益が確保できず、 営業利益段階でも赤字と 図表4 ABC石油の損益状況 (単位:千円、%) 期 業界 2000.5期 01.5期 02.5期 なっている。金利負担も 項目 金額 比率 金額 比率 金額 比率 平均 売上高 400,000 100.0 430,000 100.0 400,000 100.0 100.0 重く、債務超過額の増加 売上原価 330,000 82.5 359,000 83.5 339,000 84.8 79.8 売上総利益 70,000 17.5 71,000 16.5 61,000 15.3 20.2 に拍車がかかっている。 販管費 70,500 17.6 69,500 16.2 63,000 15.8 21.3 うち人件費 43,000 10.8 40,000 9.3 37,000 9.3 12.4 売上総利益率の 15.1%は、 営業利益 △500 △0.1 1,500 0.3 △2,000 △0.5 △1.1 営業外収益 1,000 0.3 500 0.1 1,000 0.3 業界平均の 20.2%と比較 営業外費用 5,000 1.3 5,000 1.2 5,000 1.3 経常利益 △4,500 △1.1 △3,000 △0.7 △6,000 △1.5 △0.1 してかなり低い水準にあ (備考) 1.業界平均は中小企業庁編「平成13年度調査 中小企業の経営指標」より抜粋 2.業界平均は欠損企業を含めた総平均を使用。 る。一方、売上高販管費 3.本来、マイナスの値の比率は計算できないが、上記資料で算出していることから ここでも算出した 比率については近年のコ スト削減効果等もあり、 業界平均の 21.3%に対し 15.5%にとどまっており、これまでは低収益性をコスト削減 で埋め合わせようと努力してきた経緯が見て取れる。 店舗別の損益状況は図表5である。売上高で倍以上の規模である支店が、利益では大 幅な赤字、一方、本店は黒字 の状況となっている。特に、 図表5 2002年5月期における店舗別の損益状況 (単位:千円、%) 店舗 本店 支店 配賦方法 支店の減価償却費および営 項目 金額 比率 金額 比率 110,000 100.0 285,000 100.0 業外費用のほとんどを占め 売上高 売上総利益 23,000 20.9 40,000 14.0 17,000 15.5 44,000 15.4 る支払利息の負担が大きい。 販管費 役員報酬 売上高に比例配分 3,000 2.7 7,000 2.5 従業員給与 個別に算出 6,000 5.5 16,000 5.6 これをみても明らかなよう 福利厚生費 売上高に比例配分 1,000 0.9 3,000 1.1 に、支店の出店がいかに当社 地代・家賃 個別に算出 2,000 1.8 1,000 0.4 減価償却費 個別に算出 1,000 0.9 5,000 1.8 にとって大きな影響をおよ その他経費 売上高に比例配分 4,000 3.6 12,000 4.2 営業利益 6,000 5.5 △4,000 ぼしているかが分かる。これ 営業外収益 売上高に比例配分 4,000 3.6 1,000 0.4 個別に算出 5,000 4.5 4,000 1.4 は、今回POSデータを解析 営業外費用 経常利益 5,000 4.5 △7,000 し店舗ごとの損益状況を算 (備考)1.数値はPOSデータにより算出した推定値 2.信金中金総合研究所作成 出した大きな成果である。社 長はこうした店舗別の収益状況を具体的に数値として把握していなかった。 5 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 一方、商品別売上高は図表6である。店舗別でみたとおり、問題の多くは支店にある ため、ここからは支店のみを対象に話を進める。全売上高に占める燃料油関連(ハイオ ク、レギュラー、灯油、軽油の合計)売上高の割合は約 94%である。燃料油関連以外の 販売額を業界では油外販 売額というが、支店は 図表6 支店の商品別売上高および売上総利益 (単位:千円、%) 項目 売上総 売上高(a) 売上総利益(b) 1,800 万円である。同程度 利益率 商品 構成比 構成比 (b)/(a) の燃料油販売量の店舗(月 ハイオク 52,000 18.2 4,100 10.3 7.9 間 151∼200kl 販売してい レギュラー 155,000 54.4 15,000 37.7 9.7 燃 灯油 6,000 2.1 1,800 4.5 30.0 料 るスタンド)の平均値が約 軽油 54,000 18.9 8,400 21.1 15.6 油 小計 267,000 93.7 29,300 73.6 11.0 2,900 万円であり、立地条 オイル 3,000 1.1 1,600 4.0 53.3 油 件等があるにしても当社 洗車 8,000 2.8 5,400 13.6 67.5 外 技術サービス 2,000 0.7 2,000 5.0 100.0 販 の油外販売額は著しく低 TBASP 5,000 1.8 1,500 3.8 30.0 売 小計 18,000 6.3 10,500 26.4 58.3 いといわざるを得ない。 合計 285,000 100.0 39,800 100.0 14.0 ここで、売上総利益およ (備考)1.数値はPOSデータにより算出した推定値 2.TBASPとはタイヤ、バッテリー、ケミカル用品、 び売上総利益率をみると、 アクセサリー、パーツ等のこと 3.信金中金総合研究所作成 支店売上高の6%に過ぎ ない油外販売が売上総利 益では 26%を稼いでおり、油外販売額を伸ばして利益額・率とも向上させられる可能性 が指摘される。 ②業界動向 図表7 給油所数および事業所数の推移 石油流通業界は、1996 年の特石 (ヵ所) (ヵ所) 法(石油製品輸入暫定措置法)廃 65,000 34,000 止、98 年の有人セルフスタンドの 事業所数(右目盛) 63,000 32,000 解禁、2002 年の石油業法の廃止と 給油所数(左目盛) 61,000 30,000 59,000 いった一連の規制緩和で完全自 28,000 57,000 由化が達成され、かつてない業界 55,000 26,000 53,000 再編制の波にさらされている。 24,000 51,000 22,000 図表7は給油所数および事業 49,000 0 47,0000 20,000 者数の推移である。給油所数は 90 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 00 (年度) (備考)財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センター「石油 年代に入りわずかずつ減少して 事情資料」より作成 いたが、95 年度以降減少に拍車が かかっている。また、事業者数は 94 年度まで増加してきたが、やはり 95 年度以降急激 に減少しており、淘汰が現実に起こっていることを示している。 一方、規制緩和によりそれまで禁止されてきたセルフ式のガソリンスタンドは 98 年 の解禁以降、順調にその数を増加させている。特に、2000 年度後半以降元売のセルフ化 の推進などもあり、急激に増加している(図表8)。顧客の価格志向の高まりや他のカ ーケア業界の発展などもあり、今後もセルフ式ガソリンスタンドは増加していくものと 6 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 思われる。ただ、既存のフルサービス 図表8 セルフ式スタンド数の推移 型のスタンドをセルフ型に転換する (ヵ所) (ヵ所) ためのコストは約 3,000 万円ともいわ 1400 600 れ、ただでさえ厳しい業況の中ですべ 1200 500 ての事業者が対応できるはずもなく、 参入数(左目盛) 1000 400 この面でも業況のいい事業者とそう 800 300 でない事業者との間の格差は開く一 600 累計(右目盛) 200 方である。セルフ式への転換の可否に 400 100 よっても淘汰が促進されるものと思 200 われる。 0 0 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q しかし、このまま際限なくセルフス 98年度 99年度 2000年度 01年度 (備考)資源エネルギー庁ホームページより作成 タンドが増加しつづけるというわけ ではない。一方で多くの顧客が従来か 図表9 ガソリンマージン(粗利)の推移 らのフルサービスを望んでいるのも (円) 事実である。ある程度セルフが増加し 25 た後は、いかに顧客満足度の向上を図 19.8 19.1 20 17.5 ることができるかが重要となるであ 15.6 13.9 15 ろう。 12.1 11.4 図表9はレギュラーガソリン1リ 10 ッター当りの売上総利益額の推移で 5 ある。周知のとおり、当業界ではセル 0 フスタンドや他業態の進出に伴い、乱 93 94 95 96 97 98 99 (年度) 売合戦が繰り広げられている。93 年度 (備考)全国石油商業組合連合会「石油流通業の構造改革 ビジョン −中間取りまとめー」より作成 までは約 20 円の売上総利益であった ものが 99 年度は 11 円まで低下している。セルフ式が急激に増加を始めた 98 年度以降は さらに低下しているものと推測される。事実、販売店、元売等各方面へのヒアリング調 査に基づく推定では 10 円、場合によっては9円台といった水準になりつつあるようだ。 例えばレギュラー30 リッターを給油した場合、売上総利益はわずか 270 円ということで ある。 こうした状況は、元売の苦境を反映しているともいえる。元売各社とも過大な設備を 抱え、慢性的な供給過剰状況にあり、当面は需給が逼迫し販売店も含めて潤うというシ ナリオは考えられない。 以下の商圏分析、顧客分析、また次章の改善策についても支店に的を絞って議論して いくこととする。本店に全く問題がないというわけではないが、支店の問題の緊急性お よび重要性を考慮し、今回の改善計画では支店を中心に考えることとした。 7 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ③商圏分析 ABC石油が位置するA市は江戸から明治時代に 図表 10 A市の概要 かけて商業が盛んで、当時から交通の要衝でもあり、 A市の概要 現在でも広域幹線道路が地域内に通っている。東京都 位置:千葉県西部 心から鉄道を利用して1時間半程度の距離で、1965 面積:約 60k ㎡ 年(昭和 40 年)以降、都市公団等の住宅団地の開発 人口:約 30 万人 が行われ、土地利用の中心は農業系から住宅系へと変 世帯数:約 11 万 5,000 件 化した。このため、65 年∼70 年にかけての人口増加 (平成 13 年4月1日現在) 率は全国平均を大きく上回った。 商圏調査は、後述するアンケート調査の結果に基づ き行った。まず、住民基本台帳による世帯数から推計される自家用自動車保有台数と、 当店に来店した顧客の町名別来店客数を比較し、その相対的な商圏としての強度を導い た。その強さにより、一次商圏、二次商圏、三次商圏と規定した。 結果は、一次商圏は当店が位置するA市 a 町、隣接するB市の b 町、c 町、d 町、e 町 の5地域、二次商圏は該当なし、三次商圏がA市 f 町、g 町および隣接市の h 町の3地 域である。一次商圏は当店から概ね半径2㎞の範囲内に分布している。アンケートの結 果では a 町、b 町の2地域で顧客全体の 34%を占めており、自動車での来店ということ を考えると意外にも近隣地域の顧客が多いということが判明した。社長の認識でも地元 顧客はそれほど多くないということであったが、実際はかなり高い比率であった。新聞 広告やチラシのポスティング等の販促策を実施する場合、重視すべきである。 ④競合店調査 当店から半径2㎞圏内には当社支店を含む8つのガソリンスタンドが存在し、かなり のオーバーストア状態とみられた。そこで競合状況を知るため、われわれは実際に競合 各店舗に客として訪れ実地調査を行った。 調査の結果として、8店舗のうち6店舗については特に競合先とは考えられなかった。 ここでは直接競合が懸念されたA、Bの2店舗について詳しく見ていく。結論から言え ば、当店を含む近隣競合3店舗はそれぞれ規模、立地、対象顧客などに特徴があり、十 分住み分けが可能であると判断された。 図表 11 競合店A店の概要 【A店】 3店舗で最も来店台数が多いガソリンス タンドであり、当社支店の1次商圏内に立地 している手強い競合先といえよう。ただし、 点検整備サービス等も含めすべてセルフ式 のスタンドであり、顧客層の住み分けは可能 であるものと思われる。来店客は全体的に若 い人が多く、「低価格志向の若年層」が主な A店(セルフ) 価格:レギュラー 90 円、ハイオク 100 円、軽油 75 円 洗車:シャンプー 400 円、ワックス 600 円、コート 900 円、空気圧・ マット洗浄は無料、室内清掃 100 円 短評:入りやすさ○(駐車場有)、清潔感○、トイレ○(ウォ シュレット)誘導なし、点検なし、サービスルームなし、はや り度◎ 特徴:「給油+コンビニ」清算はコンビニ店内レジで。洗車以外 の油外は雑誌、CD、菓子、コピー等が中心。点検、オ イル交換等はしない(一部 SA 商品あり)。混んでい るが広さ、駐車スペースにより気にならない。若年層 からの支持。明るい印象。メール会員募集による顧客 囲い込み。 8 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ターゲットといえよう。これに対し、当社支店では「任せて安心派」の顧客をターゲッ トとすることで対応できよう。1∼2円の価格差になびくよりは感じのよい店、安心で きる店、頼みやすい店を好む客層である。さらにこれらの顧客層は低価格志向の顧客層 に比べ給油以外のサービスに支出する余裕があるともいえる。 【B店】 近隣フルサービス店の中では来店台数が 図表 12 競合店B店の概要 最も多いと思われる。サービスルーム内に B店(フルサービス) 93 円、ハイオク 103 円 は随所に顧客を飽きさせない工夫および強 価格:レギュラー 洗車:ワックス 1700 円、手洗い 2300 円 烈な商品訴求がされており、参考になる点も 短評:入りやすさ○(入場は◎だが、混んでいて中が狭か った。退場時の誘導は無し。)、清潔感○、トイレ○、 従業員○(アルバイトの無料点検の説明は不十分であっ 多い。ただし、立地が当社支店とは比較的離 た。ただし、洗車の説明はよかった。全体的に活気 れており、道路路線も異なるため住み分けは あり。)、訴求度◎(にぎやかだが悪い感じはしな い。タイヤが多い。)、はやり度◎ 可能であると思われる。また、接客面では当 特徴:従業員の接客は普通だが全体的に活気があり、マイナ スを感じさせない。店舗には工夫。通販カタログ、米、 社支店に優位性があると判断した。B店はフ 菓子、缶詰等が並んでいる。タイヤや SA 商品の陳列に ルサービスであるが、当店の商圏内顧客がわ は訴求の意思が感じられた。曇り、雨の日には撥水 洗車キャンペーン実施。油外に関するセールスは質問された ざわざ選ぶだけの強い差別化要因もない。自 ときのみ回答するというスタンスのようであった。 店の商圏の顧客が流出しないことを心がけ ればよい。よって、価格等で過度に振り回さ れることなく自店の「独自性」発揮を心がけることが重要であると思われる。 A店、B店とも当社支店よりは低価格の設定である。低価格志向の客層はこれら2店 を支持するであろう。店舗面積、経営規模を考えると、当社支店が過度の価格競争を行 うことは得策ではない。 一方、下記のアンケート調査より、当社支店においては従業員の接客に対する顧客満 足度が高いことが判明した。競合店は一方はセルフ、もう一方はフルサービスではある が両店とも接客面に特段の特徴はない。こうしたことを踏まえて、販売面、店舗面の戦 略を検討していくべきである(後述)。 ⑤顧客分析 顧客の属性、動向等を把握するため図表 13 にあるアンケート調査を実施した。この 結果をもとに当店の顧客の特徴について分析する。まず、属性としては、当店が位置す るA町および隣接市B町に住む人が全体の3分の1、男女比は6対4で男性が多く、約 9割がマイカーにて来店している。年齢は 10 代・20 代が 24%、30 代が 33%、40 代が 18%、50 代以上が 24%と分散している。結果として個人客が多かったが、これは法人 客に対してアンケートを実施しにくかったためで、実際の比率は個人7割、法人3割と いうのが社長の認識である。 9 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ⑧無回答 ⑦給油以外には ない ⑥その他 ⑤ タ イ ヤ ・バ ッ テリー等消耗品 交換 ④オイル交換 ③車検 ②安全点検 ①洗車 ガソリンスタンドを選ぶ基準は、 図表13 ABC石油顧客アンケート調査票 「近い」とする人が 85%と圧倒的で、 次いで「印象・態度」が 46%で続く。 回答をみる限り特に差別化の積極的な お客様 各位 いつも当店をご利用いただきましてまことにありがとうございます。 当店は末永くお客様にご愛顧いただくために技術とサービスの向上に努めておりますが、至らない 点も多々あると存じます。お気づきの点は何でもご指摘下さいますよう、お願い申しあげます。 理由はないようだ。 ABC石油 店主 敬白 また、女性と 30・40 代顧客を中心に 1.当店へのご来店は (①初めて ②月に数回 ③週に数回 ④ほぼ毎日 ⑤めったに来ない) 洗車へのニーズが高い(図表 14)。実 際に洗車を支店で行っている顧客は理 2.あなたがガソリンスタンドを選ぶ目安は? … 回答は3つまで … ①自宅や勤務先に近い ②店舗の印象、従業員の態度 由として「いつも給油しているから ③価格が安い ④技術や知識等の信頼感 ⑤特典がある ⑥特に基準はない ⑦その他( ) (24.6%)」を多くあげていることか ら、まず給油をしてもらうことが重要 3.給油以外で利用したいサービスは?… 回答は3つまで … ①洗車 ②安全点検 ③車検 ④オイル交換 ⑤タイヤ・バッテリー等消耗品交換 と判断される。a 町、b 町在住者は「自 ⑥その他( ) ⑦給油以外にはない 宅で洗車(52.7%)」をしている比率 4.洗車はおもにどちらで? … 回答は1つ … ①当店 … 回答は3つまで … ②他のガソリンスタンド その理由は? ①価格が安い が高かったが、反面、a 町、b 町在住者 ③コイン洗車場 ②仕上がりがよい ④自宅 ③特典がある ⑤その他 ( ) ④いつも給油している で「自宅で洗車」と回答した人のうち ⑤その他( ) 約半数が、洗車をガソリンスタンドで <ご回答の方について> 行ってもいいと考えている。潜在的な 5.お住まい 市 洗車顧客は相当数存在すると推測され 町 6.今日のお車は ①マイカー ②会社の車 ③その他 る。 7.性別 ①女性 ②男性 8.年齢調査日 ①10代②20代③30代④40代⑤50代⑥60代以上 オイル交換については、「当店」「カ 9.ご意見、ご要望等あればご記入ください。 ーディーラー」「カーショップ」で行 ご協力、ありがとうございました。 うという回答が多かった。理由は、い (備考)1.この他、洗車客を対象としたアンケートも実施した(省略) 2.信金中金総合研究所作成 ずれの場所でも「行きつけだから」が 48.7%と圧倒的多数であった。「価 図表14 顧客アンケートの結果 格」とする回答は 23.1%となっており、 (質問:ガソリンスタンドで、給油以外に利用したいサービス) ここでも洗車同様それほど積極的な (%) 70.0 63.8 理由はないようだ。特徴的なのは、40 60.0 50.0 代以上の顧客はオイル交換のために 40.0 28.4 24.3 30.0 15.3 14.2 20.0 オートバックス等のカーショップに 5.2 10.0 1.9 0.7 0.0 は行かないという結果であった。熟年 層対象のオイル交換はビジネスチャ ンスと捉えることができよう。 この他、タイヤ・バッテリー等の消 耗品については、女性はディーラー、 (備考)信金中金総合研究所作成 男性はカーショップとの回答が多い が、ガソリンスタンドに対して一定数のニーズはあった。一方、車検においては積極的 な理由はないが、現状ではディーラー、整備工場で行っている。 10 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 (3)中間報告会 ここまで、「財務分析」、「業界動向」、「商圏分析」、「競合店分析」、「顧客分 析」を通して当社の現状把握とともに課題抽出を行ってきたわけであるが、ここまでの 結果を報告するとともに計画策定の方向性を検討するのが中間報告会である。実際には 多くの資料をもとに会を進めていくが、ここではそれを簡潔にまとめた、経営資源、課 題、ビジネスチャンス等のいわゆるSWOT分析の結果を図表 15 に示す。これをもと にわれわれが考えた方向性は「顧客の囲い込み」、「洗車およびオイルの拡販」という 内容であった。この内容を社長に十分に理解してもらい、次の計画策定へと業務を進め ていく。 図表15 当社のSWOT分析結果とこれを踏まえた戦略の方向性 戦略の方向性 S(強み・特徴) 本店は高収益 接客の評判がよい 支店の来店客数、販売量は多い 支店は入りやすいGSとの評価 清潔さの評価が高い W(弱み・問題点) 支店の粗利が低い 従業員にあきらめムード ガソリン類の商品差別化困難 来店客の多くが給油のみ セルフ化のためには狭い敷地 訴求力の弱い店内 借入金返済負担・金利負担が大 POSデータの分析と活用が弱い O(機会) T(脅威) 競合のセルフ化 競合のセルフ化 来店客数は多い 慢性的価格競争体質 40代以上、女性はカーショップへ 利益減少傾向 行かない 元売の政策転換 スタンドでの洗車ニーズは高い 支店周辺の掛売は地元GSが握る 地元顧客は自宅洗車が多い 現製品 現市場 (市場浸透戦略) 給油客の囲い込み 新市場 (新市場開拓戦略) 法人顧客の開拓(掛売主体) 自宅洗車客の取り込み 個人顧客の開拓(セルフ化) オイル販売等の強化 新製品 (新製品開発戦略) カービジネス以外の販売、新サービス (コンビニ併設等) (新分野進出・多角化戦略) (うまくいっている例は少ない) (備考)信金中金総合研究所作成 3.計画策定およびフォロー = (1)改善の方向性の検討 図表16 ABC石油の経営上の問題点と解決の方向性 経営改善計画を策定するに当 支店の閉鎖・売却 資産売却による 問 借入金削減 たり、当社の改善計画の大枠を 借入金返済 題 個人資産の売却 点 検討した(図表 16)。これまで 返 顧客数増 済 売上高の増加 の現状把握、課題抽出を通じて 低 能 客単価増 収 当社の問題点は「低収益性とこ 力 益 高粗利商品の販売 の 返済能力の向上 売上総利益率 性 れに起因する借入金返済能力の (収益力強化) (粗利)の改善 不 仕入価格の改善 ・ 足 不足」であると判断した。そこ 借 人件費の削減 入 コスト削減 で、方向性を「収益力改善によ (販管費削減) 金 その他経費の見直し る返済能力の向上」および「借 (備考)信金中央金庫総合研究所作成 入金削減」の2つに大きく分け、 それぞれについて検討した。即効性があり効果的な解決方法は資産売却による借入金返 済である。しかし、会社・社長個人とも売却可能資産に乏しく、資産売却による借入金 削減の選択肢はなかった。したがって、即効性に欠ける方法ではあるが、返済能力の向 上(収益力の強化)に目標を定めた。さらに、図表 16 の一番右の項目などについて、 これまでの調査結果および実行可能性や費用対効果等を検討した結果、短期的には「商 品構成の改善による売上総利益率の向上」、中長期的には「明確なビジョンにもとづく 顧客囲い込み戦略の実施」を計画の中心に据えることとした。 11 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 (2)数値目標の設定 次に、この改善計画の具体的な数値目標を設定した。すなわち、①後述する販売拡大 商品(洗車およびオイル交換)の支店における予想売上高を算出(月平均の洗車が 1,000 台で売上高 1,100 万円、オイル交換が 200 台で 550 万円)、②この売上高を達成したと きの当社全体の年間償却前営業利益額は 1,400 万円、③この額をもとに借入金(9,000 万円)の返済年数を8年とする。やや長期的な計画となったが、信用金庫側も理解の上 で今回の計画の目標と設定した。金融機関への提出が前提となる計画書であるため、当 然、金融機関側の理解も得られることが重要である。 ちなみに、現状は月平均の洗車が 600 台で 660 万円、オイル交換が 90 台で 250 万円 である。ともに現状の約2倍の数値目標であり達成は経営者、アルバイトも含む従業員 がベクトルを合わせてかなりの努力をする必要がある。 (3)経営戦略の策定 こうして算出された目標数値の達成にはこれまでと同様の業務運営では不可能であ る。そこで、どのような戦略をとるべきなのかを検討した(図表 17)。基本戦略は「街 のコミュニケーション・スペース」というコンセプトのもと、当面は「洗車代行業」と した。図表 17 にあるとおり、経営コンセプト・経営理念から経営戦略さらには具体的 戦術へと落とし込んでいき、従業員はもとよりアルバイトにまでこれを浸透させること により顧客への訴求力を高めることとした。特に「顧客とスタッフが交流するコミュニ ケーション・スペース」というのがポイン 図表17 経営理念のイメージ図 ◎ 基本コンセプト トであるが、これは社長が望んでいたハイ タッチのサービス提供による顧客のメイン 街のコミュニケーションスペース 化に合致するコンセプトである。中長期的 地域 ABC石油 には体制を整え、車検等への展開も考えて お客様 スタッフ いく。以下、こうした戦略をもとに図表 18 にあるとおり短期的な数値目標達成のため お客様 スタッフ の具体的方策を検討した。 (4)改善のための具体的方策 ①経営管理面・財務面 数値目標を達成するためには当然のこと ながら数値管理が必要である。燃料油につ いては、本来であれば、売上高・仕入金額 等を月次で厳格に管理するのが望ましい。 しかし、これまでみてきたように燃料油で 販売増や高収益化を目指すのは現状では困 難といわざるを得ない。したがって、当社 の戦略的商品は洗車等の油外商品であると ◎経営理念 ・ お客様とスタッフ、お客様とお客様、スタッフとスタッフの コミュニケーションの場を提供する ・ お客様、スタッフそれぞれにとって、楽しい店づくりをする ・ コミュニケーション向上による信頼性向上を図る ◎経営戦略 ターゲット ABC石油ファン ABC石油ファンとは、当店をよいと思ってくれる人すべてである。 「近い」「入りやすい」「何となく」という特に理由もなく来店するお客様か ら、当店の洗車・技術サービスに満足を感じてくれたり、経営理念に共感してい ただけるお客様。 重点販売商品 「洗車代行業」; 洗車を核とした販売促進と顧客囲い込み 重点戦略商品;洗車、準戦略商品;オイル ニーズの最も多い油外販売は「洗車」。 問題は、地元顧客に自宅洗車が多いこと。 ABC石油で洗車するメリットをアピールし、自宅洗車顧客を掘り起こす。 洗車をきっかけにした信頼性、コミュニケーション向上と オイル交換等への深耕!! (備考)信金中央金庫総合研究所作成 12 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 し、油外販売の管理に力を入れるべきであると考えた。 洗車・オイル交換の月次管理はしっかり 図表18 改善のための具体的方策 Ⅰ.経営管理面、財務面 と行うべきであり、これらは燃料油に比べ 経営状態の把握と情報フィードバック ればはるかに簡単である。販売金額、台数 ① 燃料油の月次管理 ② 洗車、オイル交換の月次管理 等はPOSで簡単に入手可能であり、売上 ③ 販売促進策の効果の点検 総利益については、前述の店舗別損益計算 Ⅱ.労務面 チームワークづくりと「やる気」の向上 書作成にあたって算出した売上総利益率 ① 提案制度の導入 ② 成果配分制;店舗目標達成時の報酬配分 を用いることで算定は可能である。 ③ ミーティング等による情報共有 Ⅲ.販売促進面、商品面 ところで、洗車台数は最低でも週単位で 重点対象顧客の把握・掘り起こしによる収益の確保 の把握が必要である。「洗車1ヵ月 1,000 ① 情報の収集 ② 情報の発信 台、オイル 1 ヵ月 200 台」の目標を達成す ③ 顧客タイプ別の営業推進策および販売重点商品 るためには、常に「目標まであと何台」と Ⅳ.店舗面 地域との一体感を演出 いう意識を持つ必要があるからである。 ① 情報掲示板設置による地域情報掲示、絵・写真等の掲示 ② 「ABCニュース」による商品情報、スタッフ紹介 ③ ご意見箱設置によるお客様の声の吸収 ②労務面 (備考)信金中央金庫総合研究所作成 労務面では「提案制度および成果配分制 の導入」と「ミーティング実施による情報の共有」を提案した。 提案制度は、スタッフの業務への参画意欲を高めやる気を導き出すことをねらいとし た。内容は、正社員・アルバイトを問わず、販売促進策、店舗のレイアウトや掲示等、 店づくりに役立つと思われる内容を提案してもらう。提案が採用されたスタッフは社長 が表彰をする。金銭的報酬をプラスしてもよいが、ポイントはスタッフの業務への参画 意欲を高め、活性化することである。活性化によって、スタッフが「楽しい・やり甲斐 がある」と感じてくれるよう工夫する。 また、成果配分制は報酬等明示されたインセンティブによりスタッフのやる気を向上 させる目的で行う。販売目標を設定し、達成した場合に金銭的にプラスを与えるという 方法である。「洗車月間 1,000 台、オイル月間 200 台」という高い目標の達成にはスタ ッフへの相当のインセンティブが必要である。ただし、チームワークを乱すような個人 プレーに走らない工夫が必要である。 そこでまず、単なる個人へのノルマ設定は、押し付け販売の懸念もあり避けるべきで あると考えた。また、報酬の配分にあたっては従業員相互間の評価を提案した。各スタ ッフの貢献度を5段階でスタッフ同士がお互いに評価し、社長に提出する。評価基準は、 接客、販売促進策への取組状況、新規販売促進策の提案状況、顧客情報の収集状況、洗 車・サービス技術等多項目を掲げる。こうすることで常に適度の緊張感を持つとともに 顧客への押し付け販売で数字さえ達成すれば評価されることを極力防ぐ。 一方、ミーティング等による情報共有については、販売目標達成に向けベテランスタ ッフのノウハウを全スタッフが持つようにすることを目的とした。ベテランスタッフほ ど現場における顧客情報や販売促進事例に詳しいはずである。そうした販売ノウハウを 個人の資産としておくよりはスタッフ全体で共有した方が、販売目標達成にあたり有効 13 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 であることは言うまでもない。具体的には、当社において高く評価されている接客面の ノウハウや、顧客情報・販売促進成功事例についてもミーティング等で周知させる。例 えば、「毎週月曜日ベンツで来店するAさんは月初には必ず洗車をする」であるとか「△ △さんのフィットはタイヤが減っているので先週チラシを渡しておいた」等である。こ れは、短期的な数値目標の達成だけでなく、中長期の顧客囲い込み戦略にも威力を発揮 しよう。 ③販売促進面・商品面 情報の収集については上述の例にあるような細かな顧客ニーズを中心として、その他 の顧客属性や顧客の趣味嗜好といった一般的なものから自動車に関する考え方、こだわ り等を収集することである。これをどのように収集するかはスタッフの能力ややる気に 左右されようが、ここで提案する様々な手法によりできる限りの情報を収集し、共有し、 スタッフ全員で活用することが望まれる。また、この面での今後の課題としては、パソ コン等IT機器を活用した効率的な情報収集が欠かせない。機器の導入はもとよりスタ ッフの教育等も早急に進める必要があろう。 具体的な販売促進策として、ポイントカード利用による顧客属性と顧客ニーズの把握 を行う。ニーズを知るにはその顧客がどのような人なのかを知る必要がある。相手のこ とを知らなければ、何の戦略・戦術もたてられない。今回の提言はとりあえずアンケー ト結果をもとに作成したが、アンケートはあくまで最大公約数であり、すべての人が同 じように考えているとは限らない。究極の姿はワン・ツー・ワン・マーケティングであ る。つまり、その人に合った商品を適切に勧めることである。今後は、自分達で本当の データを収集しなければならない。 また、顧客情報だけでなく重点推進商品である洗車およびオイルに関する深い知識を 習得する必要もある。サービス内容・担当者証明書やうんちくカードを発行することに なるので(後述)、生半可な知識では顧客に説明できない。 また、競合他社やカーショップ等の情報収集も必要である。具体的には、当店で販売 している商品と同様のものの価格、商品・サービス内容、作業時間等である。これを、 交代制で担当を決め、月1回など定期的に調べさせる。調べた結果を勉強会や報告会と いった場で発表させると、スタッフの自覚も芽生えてくるであろう。 一方、情報の発信についてはいくつかの具体例を紹介した。 ・名札の使用 顧客に親近感を抱いてもらうようにするため、大きくて見やすい名札を着用する。ち ょっとした話題になるようなおもしろい内容を盛り込むと会話に発展する可能性もあ ろう。基本コンセプトである「コミュニケーション・スペース」を常に意識し、顧客と の会話を大切にする。 ・チラシの配布 当面は、当店のコンセプトを訴えるチラシにする。また、基本コンセプトのもと、商 品コンセプトとしては「洗車代行業」を強く訴える。 14 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ・看板のサービスルーム内への掲示 チラシ同様、顧客の立場に立ったメニュー表示を心がける。加えて、当店での洗車の メリットなどを具体的に示す。 顧客タイプ別の営業推進策および販売重点商品としては、洗車を最重要商品、次に、 オイル交換を準戦略商品として位置づける。 具体的推進方法としては、ツールとして、チラシ、ポイントカード、サービス内容・ 担当者証明書、うんちくカード、お待たせ割引カードなどを利用し、訴求力および信頼 性を高める。 チラシは前述のとおりである。ポイントカードは洗車1回につき1個スタンプを押し て、スタンプの数に応じて無料サービスが受けられるようにする。 洗車やオイル交換等のサービスを受けた顧客に 図表19 販売促進用ツールの例 はサービス内容・担当者証明書を発行する(図表 サービス内容および担当者 19)。顧客の信頼性が高まると同時に、作業を担 証明書 当するスタッフにやる気と緊張感を持たせる意味 本日、お客様にご用命いただきましたサービス でございます。 は、 不手際のないよう一生懸命作業をさせていただき がある。また、このカードの裏面にはその時実施 ましたが、作業内容にご不明な点や、その他お気づ きの点がございましたら下記担当者または店長まで したサービスの内容に関する説明書を付ける(う お知らせください。今後のサービス向上の参考にさ せていただきたいと存じます。 んちくカード)。これにより、そのサービスが顧 年 月 日 A B C 石油 担当 客にとってどのような意味があるのかを知っても らうことにつながり、次回の販売に結び付けるこ う んち く カ ード とができる。 また、洗車およびオイル交換の時間を保証する 制度を設ける。もし所定の時間をオーバーした場 合は割引券(お待たせ割引券)を配布し次回来店 したときに割り引く。次回来たときというのがポ イントで、リピートオーダーにつなげるのである。 顧客ニーズに合致した適切な商品を適切なとき に適切な量勧めなければ、効果的な販売促進は望 めない。そこで、アンケート調査の結果から顧客 ニーズを分析し、少しでも効率的な販売促進活動 を考える必要がある。顧客のタイプ別ニーズを整 理し、それぞれのタイプに応じた販売商品、販売 時期、販売方法について検討し、実施する。 泡ムートン洗車とは、 内容 効果 ケアの方法 お待たせ割引券 本日は、お忙しいところお待たせしてしまい、誠に 申し訳ございませんでした。 本券をお持ちいただければ、次回洗車の際に1割引 かせていただきます。これに懲りず、またご利用いた だけますようお願い申し上げます。 年 月 日 担当 A B C 石油 ※発行日より6ヶ月間有効 (備考)信金中金総合研究所作成 ④店舗面 「お客様同士」「地域」のコミュニケーション向上策として、サービスルームに地元 のサークルの情報掲示板などの「地域情報掲示板」や幼稚園・保育園の園児の絵、写真 愛好家の写真を展示する。サービスルームへの関心を高め、立ち寄る割合を向上させる のである。なお、情報収集のためにも日頃からの顧客とのコミュニケーションが欠かせ 15 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ない。情報に対するアンテナを幅広く張っておく必要がある。 また、「スタッフとお客様」のコミュニケーション向上策として、サービスルームに 「ABCニュース」と題し、商品に関する情報(エンジンオイルの役割、オートマチッ ク・トランスミッション用オイルの重要性…)やスタッフ紹介(社長、マネージャー、 新人アルバイト…)を掲示する。内容は 1 ヵ月に 1 度程度リニューアルし、鮮度を保つ ことがポイントである。 ご意見箱設置によるお客様の声の吸収も考えている。サービスルーム内に設置し、顧 客の声を実際の店舗やサービスに生かし、販売促進策につなげる体制をつくる。今回実 施したお客様アンケートでもフリーアンサー回答者が相当数存在したことから、機会さ えあれば意見を寄せてくれる顧客はいるはずである。 ここまでの具体的施策は、今後2∼3年の計画である。いわば短期的な止血治療とい ったものである。中長期的には、洗車やオイル交換を通じて顧客データベースを整備し、 より付加価値の高い整備や車検等の拡販へと展開していく。地域のコミュニケーショ ン・スペースとして車のことなら何でも相談できるカーケアのホームドクターを目指し ていく。そのためには、整備士資格を持ったスタッフの充実、整備・車検ビジネスのノ ウハウの吸収、接客技術の向上などを短期的な施策とともに実施していく必要があろう。 洗車・オイルという短期的な収益拡大により借入金の早期返済を果たし、車検ビジネス という中長期的な展開により、強固な収益基盤の確立を目指す計画である。 (5)フォロー ここまでで、経営改善計画策定の一応のコンサルティング業務は終了である。この後 は、実際に企業が計画に沿って実行することになる。ここからは、経営改善の主役が企 業であることがより明確になる。それぞれの方策について実行し、その効果を企業自ら が点検することが重要である。効果があったものはさらによくできないか、効果のなか ったものはどこが悪かったのか、改良すべき点はないかなどを検証し、常に計画の変更 や更改に結び付けていくことが必要である。われわれとしては、こうした企業側の努力 をサポートしていくことが必要になる。実行後の成果やその後の環境変化を常にウォッ チし、対応策を企業とともに検討する。実際には、改善計画実施のためのスケジュール 表や計数管理表などを作成し、企業に毎月報告してもらうなどで対応することとなる。 4.参考実例紹介 当社の直接参考になる実例として、車検をメイン商品に顧客データベースを構築しハ イタッチサービスを実現する新潟市の「カヤバ」を紹介する。 (1)カヤバ(新潟県新潟市) 当社は、新潟県新潟市のガソリンスタンドで、店舗は1店舗、給油所以外にアスファ ルトの卸売も手掛ける。当社は、セルフ式のスタンドが急増している昨今では珍しく、 顧客との親密な関係を構築しハイタッチなサービスを提供している。経営のコンセプト 16 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 は「まちのくるまの診療所」である。 名 称:株式会社 カヤバ ①車検がメイン商品 所:新潟県新潟市善久121−1 当社では、燃料油販売における不毛な価格競 住 争から脱却するために、油外販売、なかでも車 従 業 員:13名(うち5名はアルバイト。 検に注力している。96 年に、MIC(マーケッ 正規従業員のうち整備士有資格者が ト・インフォメーション・コミュニティ)社の 6名) 展開する車検のFC(フランチャイズ・チェー 事 業 内 容:ガソリンスタンド経営、アスファル ン)に加盟した。着実に売り上げを伸ばし月間 トの卸売 50 台目標のところ 200 台以上の顧客を獲得する までになった。しかし、立ち上りこそ順調であ ったが、本来リピートオーダーが入り始める2∼3年後に逆にほとんどリピートオーダ ーが入らなかった。社長なりに分析を試みたところ、車検の整備内容に問題があること を発見した。つまり、顧客の車検費用負担をなるべく低く抑えるために、最小限の検査 項目しかチェックせず、しかもそのことを顧客に十分説明をしてこなかったことから、 車検後半年で部品交換が必要になるケースもあったという。そこで、顧客の信用を回復 するには点検項目を増やすのは当然のこと、店頭での接客の充実と的確な診断と説明が できるスキルが必要であると考えた。具体的には後述する顧客データベースの構築と接 客の質の向上を図り、近年は車検客の比率(全顧客中車検を当社で行う顧客の比率)が 20%から 40%にまで増加し車検が再び当社のメインの商品となった。車検をメインにし、 逆に燃料油は採算を重視し価格を上げたことにより、燃料油の販売数量は3割以上減少 したが、一方で車検のリピート率は以前の2割から7割に達した。 ②顧客情報のデータベース化 車検への注力をきっかけにして接客の重要性とそのための顧客情報の蓄積の重要性 に気がついた。そこで、当社では多くの資金と時間、手間をかけてシステムを構築して いる。車のナンバーをキーワードに検索すると当該顧客のデータを一瞬にして接客して いるスタッフが見ることができるシステムである。例えば、給油しに来た車のナンバー をパソコンに入力するとその顧客の購買履歴、点検・車検実施状況、消耗品交換状況等 が一目で分かる仕組みとなっている。 構築するに当たってはスタッフの協力が欠かせない。スタッフは給油中や他のサービ スの待ち時間等の雑談を通じて得た情報を時間が空いた時にパソコンに入力している。 本来、こうした情報は元売が提供しているPOSシステムで実施できそうなものであ るが、実際にはこうした機能はない。そこで当社では約 3,000 万円という莫大な費用を かけてこの顧客管理システムとさらに車検整備見積もりシステム、売り上げ管理システ ム(POSシステム)を一元的に管理する「カーケア・ナビゲーションシステム」を独 自に構築したのである。これを期に顧客を中心とした一連の管理をひとつのシステムで 連携して処理することが可能となり、内部管理から顧客満足度の向上まで飛躍的に向上 させることができた。 今後は、こうした情報共有を通じてさらなる顧客満足度のアップを目指し、「まちの 車の診療所」として地域住民の期待に応えていくということである。 ③スタッフの採用と教育 顧客データベースの構築を実際行うのは当社のスタッフである。一般的にはガソリン 17 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 スタンドのスタッフといえばアルバイトが多く、自分の収入のためや将来の独立のため といった動機がなければ余計な仕事はしたがらないはずである。前述のとおり、当社で は顧客データベースの構築と接客を非常に重要視しているが、彼等にとってこれは余計 な仕事といえよう。特に、これまでガソリンスタンドのスタッフが顧客と雑談をするな どということは常識的にはまずなかったことである。 当社ではメイン商品である車検を顧客に販売する際、じっくり腰を落ち着けて説明す るということも熱心に実施している。そこで重要なのはスタッフの教育である。ただし、 教育するには下地が大切ということで採用する際にも新潟県工業技術短大の卒業生を 積極的に採用している。車検販売には資格取得者が必要でありその意味合いもあるが、 基本はスタッフの質の向上であり、そのための優秀な人材の採用であり教育である。当 社ではこうした人材開発を専門のコンサルタントを入れて検討しているとのことであ る。このように重要であると判断したことに積極的に投資するのが当社の最大の特徴で あり、それがうまく功を奏して最大の財産となっている。 2002 年 12 月、カーケア・ナビゲーション・システムが本格稼動後、初めての車検早 期発注キャンペーンが始まる。開始 1 ヵ月前より対象の車両を所有する顧客への声掛け を実施して受注確定=○・未定=△・他で実施=×に分け、未定(△)の対象客に的を 絞ってその理由(ex 主人が決める、廃車にするかどうか未定、他と比較して等)を記 述したものをスタッフで共有して新規獲得率アップに挑んでいる。これは 2002 年入社 の工業技術短大卒業生がプロジェクトリーダーとなっている。従来、ベテランでも絞り 込みが困難であったプロジェクトがわずか入社8ヵ月の新人社員でも可能となったの は、カーケア・ナビゲーション・システムの導入と人材研修の大きな成果である。 おわりに 最終報告会で経営者に対して経営改善計画の説明を行うが、社長にそれまで話したこ ともない内容をいきなり説明することはまずない。それは、最終報告会までに入念な打 合せを何度も繰り返し、社長にとってその計画は自分が策定したに等しい内容としてい るからである。最も重要なことは社長が自分が主体者であると認識し、具体的かつ実行 できる計画にすることである。 現在、中小企業の経営改善計画策定支援業務は多くの金融機関で取組みが始められた 段階である。本稿では、当業務を少しでも分かりやすくするためにやや冗長になってし まう懸念を抱きつつも詳細に解説した。本稿が何らかの参考になれば幸いである。 (加藤 以 上 要一) <参考文献> 全国石油商業組合連合会政策部会『石油流通業の構造改革ビジョン −中間とりまとめ−』(2001) 財団法人日本エネルギー経済研究所石油情報センター『給油所経営・構造改善等実態調査』(2002) 同上『石油事情資料』(2002) 石油連盟『今日の石油事情』(2000) 18 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 本レポートは、情報提供のみを目的とした上記時点における当研究所の意見です。施策実施等に関する最終決定は、 ご自身の判断でなさるようにお願いします。また当研究所が信頼できると考える情報源から得た各種データ等に基づ いてこの資料は作成されておりますが、その情報の正確性および完全性について当研究所が保証するものではありま せん。 【バックナンバーのご案内】 号 数 №1 題 名 発行年月 中小企業の経営課題とその解決法(総論) 2001 年 6月 環境マネジメントシステムISO14001 取得のポイント №2 8月 ∼身の丈に合ったシステム構築でマネジメント能力の向上を∼ №3 中小サ−ビス業のマーケティング戦略∼喫茶店を事例に∼ 9月 №4 診療所の患者獲得戦略 11 月 中小企業における経営計画の作成と実行 №5 2002 年 2月 ∼経営計画の意義と留意点∼ 中小企業の人材活用による組織活性化事例 №6 2月 ∼能力を引出す5つのポイント∼ 実践! 中小小売店の経営コンサルティング №7 2月 ∼洋菓子店のケーススタディより∼ 中小企業のIT導入時における基本的留意点 №8 3月 ∼業務プロセスの分析などを通じた目的の明確化が不可欠∼ 広がりを見せる環境ISO取得の動き №9 5月 ∼「PDCAサイクル」を核とした環境マネジメントシステム∼ 中小企業が成長・発展するための社長の役割 №10 5月 ∼社長に期待される役割と求められる能力∼ 中小企業の製品開発戦略・マネジメント事例 №11 8月 ∼コア技術をベースにしたニッチ市場の開発∼ 中小企業の事業内容変革におけるポイント №12 9月 ∼円滑な新分野への進出と既存事業の縮小・撤退のために∼ 工程管理を中心とした中小企業の生産管理 №13 11 月 ∼多品種少量生産の管理改善事例∼ *バックナンバーの請求は信金中央金庫営業店にお申しつけください。 19 企業経営情報 No.14 2002.12.11 ©信金中央金庫 総合研究所 ご意見をお聞かせください。 信金中央金庫 総合研究所 行 今回の企業経営情報(№14)について 今後、取り上げてもらいたいテーマ 信金中央金庫 総合研究所に対するご要望 差し支えなければご記入ください。 年 月 日 貴金庫(社)名 ご担当部署・役職名 御芳名 御住所 (お取引信用金庫名) ありがとうございました。信金中央金庫営業店の担当者にお渡しいただくか、総合研究 所宛ご送付ください。 (〒104−0031 東京都中央区京橋3−8−1) (E-mail:[email protected]) (FAX:03‐3563‐7551) 20 企業経営情報 No.14 2002.12.11