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「栄養学部系及び教育学部系学生牛乳理解推進対策 牛乳料理講習会」へ
教育事業ノート 牛乳理解裾野拡大事業 「栄養学部系及び教育学部系学生牛乳理解推進対策 牛乳料理講習会」への取り組み結果概要について 入 江 三弥子*・浅 津 竜 子*・若 林 陽 子*・ 小 沼 博 美*・海老原 宏 美* Ⅰ はじめに 同組合事務局長 津浦照夫氏との調整を浅津が,各 講習会開催準備を小沼・海老原が担当,講師は入江・ 本事業への取り組みは,当初 「 独立行政法人農畜 若林・浅津が担当した。 産業振興機構法第 10 条第 1 項第 2 号の規定,学校 Ⅲ 講義・実習の成果 給食用牛乳供給対策要綱及び学校給食用牛乳供給対 策要綱に基づき,学校給食用牛乳供給事業 」 の実施 が計画された内,牛乳理解裾野拡大事業の一環「栄 ○食品栄養科 1 年 養学部系及び教育学部系学生牛乳理解推進対策」と 栄養学実習 1「幼児期の実習」 して「栄養学部系学生を対象とした牛乳を活用した 調理技術はまだ未熟なため講義は最小限度にとど 料理講習会,栄養学部系及び教育学部系学生を対象 め今日の料理の説明の中で牛乳の扱い方について教 とした牛乳に対する知識向上研修会等の開催」に関 授した。最初に牛乳の栄養については,牛乳はたん し茨城県牛乳協同組合より事業の依頼があった。こ ぱく質の供給のほかに,吸収率の高いカルシウム の件について学科内で調整し,栄養士養成課程全学 を含んでおり,牛乳のカルシウム吸収率は約 40%, 年について実施したものである。 小魚の約 33%,野菜の焼 19%と比べて優れている。 牛乳は「毎日 1 日 1 本」幼児期からとる習慣を付け, Ⅱ 取り組み 渉外毎日とるような習慣づけが大切である事を強調 した。 平成 21 年 9 月~ 11 月にかけて生活栄養科学科・ 幼児期栄養の特徴として,カルシウム摂取量の比 食品栄養科の講義の中で牛乳理解推進対策の趣旨を 較では体重 1kg あたり,大人の約 25 倍ものカルシ 受けて 4 つの科目の中でこの事業を計画した。 ウムが必要である。幼児期栄養に牛乳を使うことは 実施にあたり,全体の日程調整等,茨城県牛乳協 カルシウム供給に無くてはならない食品である。幼 学 年 科 目 名 内 容 担当者 実 施 日 食品栄養科 1 年 栄養学実習 1 「幼児期の実習」 若林 陽子 小沼 博美 11 月 4 日(水)午後 生活栄養科学科 2 年 調理学実習 1 「牛乳料理」 入江三弥子 小沼 博美 9 月 14 日(月)午後 生活栄養科学科 3 年 生活栄養科学科 4 年 フードコーディネート論 「食の企画・構成・演出の流れ」 浅津 竜子 海老原宏美 食品加工実習 2 「牛乳乳製品を用いた加工実習」 浅津 竜子 海老原宏美 9 月 1 日(月)全日 10 月 6 日(火)午後 10 月 9 日(金)午後 取組内容:①主食又は主菜には牛乳を使う ②主食,主菜以外は,牛乳又は乳製品を使う ③参加者に対し,10 分程度の牛乳等の講話を行う *鯉淵学園農業栄養専門学校 71 鯉 淵 研 報 第 26 号 2010 児期の食事として「マカロニグラタン,ニンジンの ており,これらコロイド粒子による光散乱のため白 つや煮,コンソメスープ,スティック野菜,カスター 濁した溶液を呈している。 ドプディング」の 5 品を実習した。 カゼインは,熱に対しては,比較的安定であるが 特に献立内のマカロニグラタンは,子供の大好き 酸を加えるとミセルから Ca が遊離し,カゼインの な料理で主食,主菜を兼ねた献立であ 等電点(PH4.6)で沈殿する。乳清タンパク質のラ る。調理のポイントとして,ホワイトソースの作り クトグロブリンやラクトアルブミンは,熱に対して 方を特に講義した。 不安定で 60℃以上の加熱で凝固を起こしやすい。 《調理のポイント ホワイトソース》 ・だまができないようになめらかなホワイトソース 牛乳の甘さは乳糖による。乳糖は 150 ~ 160℃の 高温加熱により,カラメル化を起こしたり,アミ を作ることがポイントである。バターを溶かし小 ノ酸とメイラード反応を起こしやすい。乳脂肪は, 麦粉を入れ焦がさないように炒め,人肌に温めた 低級脂肪酸を含むため特有の芳香性を持っている。 牛乳を少しずつ加えていき,タイミング良く混ぜ Ca,Mg,P,S 等の無機質を多量に含むがビタミ る。これを根気よく何回も繰り返すことでできあ ン C をほとんど含まない。 がる。 ⑶ 調理に利用した場合の特徴(利点) ①料理を白くする(牛乳羹・ブラマンジェ他) 今回,マカロニグラタンをホワイトソースから初 ②下処理での脱臭効果が認められる。 めて作った学生もあり,できあがったときは感激も 牛乳中のたんぱく質コロイドが臭気(レバー・魚 あったようだ。牛乳から作るホワイトソースを自分 他)を吸着する。 の物にして,是非マカロニグラタンを得意料理の 1 ③滑らかさと風味付けが良好である。 品にして欲しいと思う。 ④高温加熱による焼き色と焙焼フレーバー(アミ ライフステージや年齢によって食生活の留意点, ノーカルボニル反応)がつく。 必要な栄養素の量や質は変化する。 ⑤タンパク質ゲルの強度を高める。 今回学んだ牛乳料理の特性を生かし,ライフス 牛乳中の Ca イオンは,卵たんぱく質の凝固を促 テージや病態に対応した献立を取り入れることに繋 進し,ペクチンのゼリー化も促進する。 げてもらいたい。 ⑷ 調理に利用した場合の特徴(欠点) ①加熱による皮膜形成(60 ~ 65℃以上)が起こる。 ○生活栄養科学科 2 年 長く加熱すると脂肪球がたんぱく質を吸着して, 調理学実習 1 浮き上がり皮膜を生じる,40℃以上の加熱により, 牛乳の扱い方についてその栄養的な特徴,調理性 脂肪球が上昇して互いに擬集しながら液表面を覆 について教授し,13 品目の料理を分担して調理し, い,そこに,60 ~ 65℃以上で加熱変性して擬集し その料理について試食をした。 たたんぱく質が表面の脂肪層を取り込んだものが生 1 .講義内容 成される。カゼインは, 加熱擬集しない。皮膜には, ⑴ 牛乳について 牛乳中のカルシウムの約 1/6 が取り込まれる。避け 乳汁は,哺乳動物の子が出生後それだけ飲んで るためには,温度を 65℃以下とするか加熱時間中 育っていくのに充分なあらゆる栄養素を極めて配合 に軽く攪拌する。 よく含み,しかも消化吸収されやすい状態になって ②褐変(アミノーカルボニル反応)焦げ目が付きや いる。牛乳は,栄養知識の普及と共に動物性たんぱ すい。 く質やカルシウムの給源として多くの機能性を持つ ③酸により凝固する。 食品としも重要視され,乳・その加工品の消費は, ④加熱による風味変化が起こる。 増加の傾向にある。牛乳の殺菌法は数種類ある。殺 ⑤野菜・肉などを加熱したときに生じる擬集物は舌 菌温度によって風味に違いがある。 触りを悪くし,見栄えが悪くなる。 ⑵ 牛乳の調理性 主要たんぱく質のカゼインは,等電点が PH4.6 牛乳中では,乳脂肪が水中油滴型のエマルジョン なので調理時に遊離酸を含む果実類や野菜,貝類な としてタンパク質のカゼインがミセルの形で分散し どの食品と牛乳を混合すると乳中のカゼイン粒子が 72 牛乳理解裾野拡大事業「栄養学部系及び教育学部系学生牛乳理解推進対策牛乳料理講習会」への取り組み結果概要について 凝固して大きな粒状となり,ざらつく感じを与える。 料として用いることで「味にコクや風味がプラスさ この現象を積極的に利用した食品には,ヨーグルト れ,カルシウムの摂取率アップにもつながることを やチーズがある。 学ぶことができた」とレポートに綴られていた。 ⑸ 乳加工品について ①生クリーム ○生活栄養科学科 3 年 牛乳を遠心分離することにより,得られた乳脂肪 フードコーディネート論 「食の企画・構成・演出 分を濃縮したもの。牛乳と同じ水中油滴型(O/W 型) の流れ」 エマルジョンを形成する。 午前の牛乳料理講習会では,栄養価の確認と調理 ア)コーヒー用(乳脂肪分 20 ~ 30%) のポイントを指導後,調理盛りつけ後,料理の写真 イ)ホイップ用(乳脂肪分 40 ~ 50%) を撮影した。調理講習会に用いたレシピは入江教授 脂肪分 30%以上の生クリームを攪拌すると気 の調理学実習 1「牛乳料理」のレシピより 1 食献立 泡が生クリーム中に抱き込まれる。 に適した食事量・栄養価になるよう浅津がアレンジ クリームを攪拌すると,脂肪粒子が集合し,バ した「ミルクファイバーライス・野菜&ミルクスー ター粒と水成分に分離する。この操作をチャーニ プ・カッテージチーズとヨーグルトのケーキ フルー ングという。この過程で O/W 型(水中油滴型) ツ添え・バナナミルク」であった。調理は班単位で から W/O 型(油中水滴型)に相転換する。 行い,その後,料理を美しく見せる盛り付け方,食 ②バター 器・食具の選択方法,写真撮影時の小物の使用方法・ 風味をよくするために塩(2%)を添加する。 光の工夫・アングル・画面構成等について学習し, バターは,13 ~ 18℃の温度で可塑性(もろく・ 写真撮影は個人で取り組ませた。 さくさくした性状)を示す。これがパイ生地やクッ 午後は 「食の企画・構成・演出の流れ」 の一環として, キーに利用される。 撮影した料理写真データをパソコンに取り込み, 「料 バターを攪拌すると,泡を抱き込みなめらかなク 理の講習会・料理の紹介・レストランのイベント紹介」 リーム状になり(クリーミング性)バタークリーム などを想定し,各自 A5 サイズの紙媒体作成に取り などに利用される。 組ませた。媒体作成では,今後予定されている卒業 ③チーズ 論文中間発表会に向けソフトの使用に慣れることも ナチュラルチーズとプロセスチーズに大別され, 考慮し Microsoft Office Power Point を使用した。出 ナチュラルチーズは牛乳を乳酸発酵させ酵素を加え 来上がった媒体は,本学の学習内容アピールを目的 て出来た擬乳から乳奬を除去した後熟成させる。プ に学園祭の食品栄養科コーナーに掲示した。 ロセスチーズは,ナチュラルチーズを一種又は二種 このように,この機会を最大限に利用できるよう 以上を加熱溶解して作られる。プロセスチーズたん 心がけ取り組みを進めたことで,学習に広がりが出 ぱく質は(22.7g/100g 中)である。 たと考える。「牛乳料理に関する理解」という面で 2 .実習 は 1,2 年次に理解していたことが前提であったこ 講義内容を踏まえ料理特性を考慮しながら実習を とから復習に役立てられたと考える。 行うこととした。 以下レポートから抜粋 ○生活栄養科学科 4 年 調理をするポイントとして,加熱による焦げやふ 食品加工実習 2 「牛乳乳製品を用いた加工実習」 きこぼれをおこさないように火加減を弱火にし,牛 牛乳乳製品を用いた加工品は多数あるが,半日と 乳を入れたら一煮立ちで止めるなどの注意を払い, いう短い実習時間で取り組める加工品については限 失敗することなく仕上げていた。また,ホワイト りがあり選択が難しかった。しかし,調理加工に理 ソースを使った料理やデザートも白く仕上がり「見 解が深まっている 4 年生が対象であることから「調 栄えがよい,食欲がそそられる」など好評であった。 理加工したい牛乳乳製品料理の提案書」を作成さ 試食の感想は, 「牛乳を使ったご飯や粥,汁物など せ,提案内容を全員で検討し,「秋鮭ときのこのミ に抵抗を抱いていたが,食べてみると意外においし ルク炊き込みごはん,牛乳味噌汁,ヨーグルトのお い」などの意見が多かった。このように牛乳を食材 漬物,生キャラメル,濃厚 N.Y. スタイルチーズケー 73 鯉 淵 研 報 第 26 号 2010 キ」に取り組むことにした。 Ⅳ 終わりに 提案書の作成では, 料理や加工の本・インターネッ トから情報を得た。提案書の検討については,提案 事業を依頼された時点では,料理講習会を開催す 書をプロジェクターを通しスクリーンに映し出しな るつもりで気軽に引き受けてしまった。しかし,講 がら「食べたい・料理したい」と思う料理について 義として科目の意図に沿って授業を計画するのは, 挙手させた。このとき提案書に実物の写真が記載さ 工夫がいった。1 年生と 4 年生では経験知が違うため, れている料理については特に人気が高かった。この ただ牛乳を使った講習会ではなく学生それぞれの成 ことにより,料理の紹介を印象付けるためにはおい 長のステージにあった講習会を意図とした。各学年 しそうに見える料理の写真を添付することは必須で とも担当者の創意と工夫で行ったがそれぞれのレベ あると考えられた。 ルでの成果が上がった。牛乳を飲み物としてだけで 調理については班単位で実施した。調理時に問題 はなく料理の素材として自由にコーディネートがで となったのは,レシピどおりに調理しても料理が出 きる栄養士として育ってくれれば幸いと思っている。 来上がらなかったことである。特に生キャラメルは 顕著であった。ここでは,インターネット等から情 参考文献 報を得ることは,調理加工理論とはかけ離れた個人 1 )熊沢昭子・湯浅泰江(2006.1)栄養学実習書(医 の匙加減の部分が大きく作用し,学生たちにとって 歯薬出版株式会社)〔P34 ~ 68〕参考資料 西沢 はこの情報を給食献立や講習会資料としてそのまま 良記・森谷敏夫・竹内冨貴子監修(2002.10)(社 使用することは大きな危険性をはらんでおり,理論 団法人 全国牛乳普及協会) の確認と試作検討の大切さを同時に学習できたよう 2 )山崎清子・島田キミエ・渋川祥子・下村道子 に思う。指導側としては,学生たちの自由な発想や (2003.5)調理と理論(株式会社 同文書院) 〔P392 感性により新たな料理に触れることができ新鮮な体 ~ 405〕 験ができたと考えている。今回の学生レシピは理論 3 )日本フードコーディネーター協会編(2005.5) に基づいた調理の失敗がない(少ない)レシピに検 改訂増補 フードコーディネーター教本(株式会 討後修正した。今後の乳製品を用いた加工実習に役 社 柴田書店) 〔P270 ~ 281〕 立てていきたいと考えている。 74