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ファンドマネジャーの視点 - 東京海上アセットマネジメント株式会社

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ファンドマネジャーの視点 - 東京海上アセットマネジメント株式会社
(vol.21)
<ファンドマネジャーの視点-Private Equity>
~プライベートエクイティ市場の現状について~
TokioMarineAssetManagement
東京海上アセットマネジメント投信株式会社
2012年3月
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災により被災された皆さま、関係者
の方へは、心からお見舞い申し上げます。
弊社では、各資産クラスのファンドマネジャーの視点で、日頃考えている点に
ついてお伝えしていくペーパーをお届けしてまいります。
今回はプライベートエクイティの第 1 回目として、プライベートエクイティ
市場の現状について、弊社プライベートエクイティ運用部長である久村 俊幸に
訊きました。
久村 俊幸
プライベートエクイティ運用
部長
Q:まず、一般的にプライベートエクイティ(以下 PE)投資とは、どのような
ものをさすのでしょうか。
久村:改めて 2011 年 3 月の震災で被災された方々に、心よりお見舞いを申し上
げますとともに、被災地の復興を祈念しております。
さて、PE 投資と呼ばれるものには、主に次のような「手法」があります。
①バイアウト(Buyout)
②ベンチャーキャピタル(Venture Capital (VC)、含む「グロース戦略」)
③不良債権(ディストレスト、Distressed)
④メザニン(Mezzanine)
手法のうち「①~④以外」に
は、セカンダリー、FoF、イ
ンフラストラクチャーなど
が含まれます。
ここ 10 年間、欧米の PE ファンド募集額でみた各手法の割合は、年によっ
て差はあるものの、概ね①バイアウト 50%、②ベンチャーキャピタル 20%、
③不良債権 5%、④メザニン 5%、①~④以外 20%になります。
(図1)
全世界手法別ファンド募集額比率推移
100%
90%
7.3 %
6.3%
9 .5%
4.7%
4.6%
80%
70%
60%
9.5 %
8.1%
9.8 %
13.5 %
6 .8%
14. 3%
8.9 %
1 0.1%
11.0 %
9.6 %
7 .1%
6.7%
4.6 %
3.3 %
7 .7%
6.7%
3.6%
8.5%
8 .1%
7.9 %
3.3 %
33 .5%
8 .9%
7 .0%
4.7%
5.9%
5 .0%
17 .2%
6. 6%
3. 3%
6. 0%
35. 5%
4 0.7 %
20.6 %
9 .6%
7.2%
9 .6%
5.6%
5.3%
9 .0%
5.3%
20 .0%
3. 5%
3. 6%
3. 8%
3 .7%
50%
42. 0%
40%
1 8.2%
49 .1%
45.6 %
56. 3%
5 5.1%
57.1 %
45 .8%
33.9 %
54 .4%
3 2.0%
30%
20%
50 .7%
40. 7%
3 3.1 %
10%
19. 2%
15 .3%
17.6 %
15. 2%
03
04
05
1 8.0%
1 3.5%
12.3 %
10 .9%
06
07
08
22.0 %
21 .1%
10
11
0%
PE ファンドが投資した株式
や債券を売却して資金を回
収することを、エグジット
(Exit)と言います。株式の
場合は、IPO(上場)や M&A
などによる売却を指します。
99
00
01
ベンチャー
セカンダリー
02
バイアウト
ファンドオブファンズ
メザニン
その他
09
不良債権
出所:Thomson Venture Economics
「バイアウト」は、対象企業の過半数の株式を取得、4 ~6 年程度の保有期
間中に経営陣をサポートしながら、売上成長、効率化のための策を講じてキャ
ッシュフローを増加させ、事業価値の増大を実現していきます。
「ベンチャーキャピタル」は、社会のニーズに応えるための新サービス、新
製品を提供する企業の「創設期から上場前まで」の資金提供を行います。バイ
1
アウトとは異なり「増資資金」の提供となります。対象となる産業は、多くの
場合、高成長が期待されている通信、メディア、テクノロジー、ヘルスケア分
野が中心になります。また、2000 年代に入ってからの中国やインドでは、中
間層の拡大に伴い、消費産業や基礎産業の企業も高成長するようになり、こう
した企業に成長資金を提供するグロース(Growth)戦略も広がってきていま
す。
「不良債権」は、債務や業績に問題を抱える企業向けの債権やローンを、回
収可能と考える額よりも割安な価格で買い取り、債務リストラクチャリングや
事業再生の過程で資金回収を図る戦略です。事業再生を行うバイアウトに近い
ものから、シニア債権を中心に投資して債務リストラの過程で回収、売却を行
うものまで様々な種類が存在します。
「メザニン」の語源は“中二階”
。バランスシートの負債項目で言うと、株
式と債権の中間に位置する劣後債権、優先株などに投資を行います。成長企業
への増資手段、または、バイアウト案件のファイナンスに使用されます。
Q:いわゆる伝統的資産と呼ばれる債券投資や上場株式投資とは、どういう点
が異なるのでしょうか。
久村:まずは似ている点からお話しましょう。「投資対象」となる資産は、バイ
アウトやベンチャーキャピタルは株式、不良債権やメザニンは、企業の債券・
ローンであり、上場しているかどうかや、流動性の違いを除くと、伝統的資産
と大きな括りでは異なりません。多くの場合デリバティブも使用されておら
ず、
「ロングオンリー」の手法である点も伝統的資産運用と同様です。
一方、それぞれに共通する伝統的資産との運用上の相違点(メザニンを除く)
は、次の通りです。 ①マネジャーが企業価値または投資証券価値の増加にア
クティブに動く、②投資する際も資金回収する際も、投資対象の価格は主に相
対で値決めされる、③ひとつのファンドの投資先は 10 ~ 30 社程度に集中投
資されるという点です。
上記①~③の相違点により、PE ファンド投資では、伝統的資産に比較して
マネジャー間のリターンの差が大きなものになる傾向があり、同じ時期に投資
を開始したファンドでも、上位 25%と下位 25%に位置するマネジャーのリタ
ーンは年率で 20%近く開くと言われています。このリターンの差は、マネジ
ャー毎の「企業価値をあげるスキル」、
「売買にあたっての開拓力/交渉力」
、
「ストラクチャリング力」、
「投資規律」
、
「ポートフォリオ構築力」の差など複
数の要素により生まれてくると考えます。
その中でも最も PE ファンドに特徴的な点は、①の「価値創出/増加のため
にアクティブに動く」という点でしょう。PE ファンドのマネジャーは投資テ
ーマの実現に向けて経営陣をサポートし、企業価値を挙げようと関与しますの
で、伝統的資産と異なり、ファンドが投資した後には、必ず投資先企業に何ら
かの「変化」が起きます。そして、経験・スキル・ネットークを持つマネジャ
ーは、企業を良い方向に変化させる確率が高くなると考えます。
投資アイデアに基づいた業種選択、銘柄選択をしてポートフォリオを組むこ
とに加え、経験を積むことで磨かれてくる上記の「スキル」は、PE ファンド
のリターンの再現性が高い理由と考えられています。
PE ファンド投資は、その投資戦略の性格上、キャピタルコール方式、存続
期間の長さ(10 年間)、ファンドに償還請求ができないこと、J カーブのマイ
ナス期間などのデメリットがありますが、
「スキル」を持つマネジャーに投資
できれば、長期的には、上場株のインデックスを年率 500~1,000bp(5%~
2
10%)程度上回ることも可能になることを投資家は期待しているのです。
Q:PE 投資が盛んな米国では、もともとオルタナティブ投資と言えば、PE 投
資が中心だったようですが、なぜそうなったのでしょうか。また、上述のよ
うなデメリットがあるのにもかかわらず、米国投資家は、なぜそれを考慮し
ても、PE 投資を増やしてきたのでしょうか。
久村:米国年金が PE ファンド投資を行っている理由は、主に 2 つあると思いま
す。一つは、米国における PE ファンド投資の歴史が長く、投資の一分野とし
て認知されていることです。
もう一つは、過去実績として PE ファンドほど高いリターンを挙げている手
法はなく、また、今後も継続的に高いリターンを挙げられる(再現性がある)
と考えられてきたこと、と思われます。特に、米国公的年金の予定利率は 7
~8%と高いこともあり、PE ファンド投資を組み込むことが必要であったと
言えるかもしれません。
しかし、アロケーションにおける PE への投資ウェイトは、流動性が低いこ
とから、ポートフォリオ全体の 5 ~10%程度に抑えられています。
なお、J カーブ期間中のマイナスの大半は、管理報酬分によること、絶対「額」
としては無視しうる金額であることから、中長期で高いリターンを期待する運
用の「前払いコスト」として認識され、あまり問題視されていないようです。
Q:日本の年金や機関投資家の方も PE ファンドへの投資残高は一定の規模を
持っていると思いますが、グローバルに見て、PE 投資というものは今後も増
えていくのでしょうか。
久村:近代的な PE 投資が米国で始まったのは 1946 年と言われていますが、そ
の米国では、現在まで 3 度の「ブーム」とその「反動」がありました。
(第一次)高いレバレッジを使用してナビスコが買収された例に代表され
る、LBO の勃興期に特徴付けられる 1982~1991 年。
LBO:レバレッジドバイアウ
ト。バイアウトは、買収する
企業の株式を買う際に、借入
れも利用することから、LBO
とも呼ばれます。
ナビスコの買収では、その
資金の8割が借入金で賄わ
れたと言われています。
S&L(Savings and Loan)危
機:米国の貯蓄貸付組合は、
もともと貸出先が長期固定
住宅ローンに限られていま
したが、調達コスト(短期金
利)が 2 桁となった当時、規
制緩和の結果、(逆ザヤ解消
のために)ジャンクボンドな
どに投資して運用に失敗し、
経営難に陥ったところが多
く出たことを指します。
(第二次)ジャンクボンド市場の崩壊、S&L 危機などの混乱の中で不良債
権投資の活性化から始まり、PE ファンドがより機関化されていく中
で、1995 年以降の IT ブームとその崩壊を経験した 1992~2002 年。
(第三次)ドットコムバブル破裂後の景気後退期に投資した案件が高いリ
ターンを生み出したことで、バイアウトファンドが投資家の人気を集
め、2 兆円超を集めた超大型ファンドも出た 2003~2007 年。
いずれも「ブーム」が崩壊すると、その「反動」で投資家資金は集まりにく
くなりました。しかしその反動期は、ブーム中に割高となった買収価格が落ち
着くため、結果的には良好な投資機会を提供した格好となり、それらのリター
ンが見え始める 3~4 年後からは投資家資金が戻り、それ以前のブームの募集
額を超えてくるというパターンを繰り返しているように見えます。
(図2参照)
最近の PE ファンド募集額を見ると、2009 年には 1,774 億ドルと 2007 年
のピーク時 5,329 億ドルに比べて大きく落ち込みましたが、2011 年は 2,767
億ドルと、2005 年レベルまで回復してきています。金額もさることながら、
中国やインドなど欧米以外に投資するファンドの募集額が全体の 30%近くを
占めるようになる(2011 年、758 億ドル)など、投資地域が拡大してきてい
るのが近年の特徴です。
個々の欧米のファンドについては、新規のファンド募集に入っているところ
は多いものの、金融危機の影響でファンドからの投資のペースは遅く、投資済
み案件の資金回収も進んでいなかったことから、欧米投資家は積極的にコミッ
トメントを積み上げる環境にはありません。また、投資残高の 15%程度を占
3
(図2)
ファンド募集額推移
(単位:10億ドル)
600
500
?
400
300
200
100
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
20
07
20
08
20
09
20
10
20
11
0
ベンチャー
バイアウト
不良債権
その他
出所:Thomson Venture Economics
めていた金融機関系の投資家が、新たな自己資本規制などによりコミットしに
くくなっている影響も少なからず出てきています。
今後については、金融機関系の投資家の動向は規制環境に左右されるため予
測しにくいものの、年金、その他の機関投資家の動向は、既存ポートフォリオ
の回収ペースや投資パフォーマンスの帰趨にかかっていると言えましょう。
一方で、今後は新興国の投資家(SWF などを含む)が増えていくかどうか
が注目されていくと考えます。
(注:本資料で用いた図1、図2をはじめとする数値、データなどは過去の実績であり、将来の
動向を示唆・保証するものではありません。
)
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