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米国で拡大するビットコイン取引
海外通信 from New York 米国で拡大するビットコイン取引 ― 将来性と普及に向けた課題 ― 最近、 「ビットコイン(bitcoin)」という言葉を目 にした読者も多いのではないだろうか。 ビットコインとは、 「ナカモト・サトシ」と呼ばれ る正体不明の技術者が 2009 年に考案したとされる 仮想通貨である。主に国際送金やインターネット 上の電子決済で使用されており、世界中にある専 門の取引所でドルや円といった既存の通貨と交換 することができる。 仮想通貨でフェラーリ購入? 昨年半ば、ワシントン D.C. の自動車販売店が高 級スポーツカーのフェラーリをビットコイン建て で売り出したことが話題となった。価格は約 1,400 ビットコイン。当時の換算レートが 1 ビットコイン =約117ドルだったので、およそ16.4万ドル(1,650 万円)となる計算だ。 米国では高級車にとどまらず、レストランの食 事代から不動産購入手数料、アンティーク絵画の オークションまで、様々なモノやサービスへの支 払いにビットコインを使用できる機会が広がって いる。インターネット上では、全米小売りチェー ン店のプリペイドカードを販売するモバイルサイ トでビットコインが利用可能になったほか、オン ラインゲーム企業のジンガや、ネット通販大手の オーバーストックなどがビットコインの取り扱い を始めるなど、使い勝手は着実に向上しつつある と言ってよいだろう。 クレジットカードやデビットカードに比べて手 数料が低く設定されており、企業にとってはコス ト削減が見込めるほか、消費者がフェイスブック などにビットコインの利用を投稿することで、店 舗の宣伝効果が期待できる点も、企業の導入を後 押ししているようだ。 また昨年末には、ビットコインによる企業合併・ 買収(M&A)も現れた。ビットコイン決済関連の人 気サービスを展開する企業が、ビットコイン相場 12 情報の収集などに長けたアプリケーション開発企 業を買収するにあたって、ビットコイン建てで支 払いを実施したのである。担当者によれば、ビット コインによる決済は、従来の送金方法に比べ「はる かに簡単」であったという。 こうしたブームを背景に、シリコンバレーを中 心とする西海岸地域では、ビットコイン関連の新 興企業が相次いで誕生した。ベンチャーキャピタ ルが多額の資金を投入し、その総額は既に 5,000 万 ドル(約52億円)に達したと報道されている。 更なる利用拡大には課題も もちろん、ビットコインがドルなどの主要通貨 と肩を並べるには、課題もある。 昨年 12 月に実施された世論調査では、ビットコ インを正しく理解していない人が約 6 割に上った。 中には、スマートフォンのアプリケーションや、テ レビゲームのタイトルと勘違いしている人が 1 割 強おり、米国でその存在が十分浸透しているとは いまだ言いがたい状況だ。 また、マネーロンダリングなど不正利用の防止 に向けた取り組みの強化や、投機目的による価格 変動の抑制など、クリアすべき問題は多い。 それでも、昨年 11 月に開催された米議会の公聴 会に向けた書簡で、バーナンキ連邦準備制度理事 会(FRB)議長(当時)が「より速く、安全で、効率的 な決済手段につながれば、長期的には期待がもて る」と言及するなど、その将来性を評価する有識者 は少なくない。 ビットコインが主要通貨と同じような決済手段 として台頭する日がくるのか、その動向には今し ばらく注目する必要がありそうだ。 みずほ総合研究所 ニューヨーク事務所 エコノミスト 服部直樹 [email protected]