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書誌コントロールの将来をめぐる論点: LC の WG 報告書とわが国での

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書誌コントロールの将来をめぐる論点: LC の WG 報告書とわが国での
特集:目録の現状と未来
UDC 011/016:017/019:025.3:002.5:681.3.02:81/82:02:027.54:061.3(73)
書誌コントロールの将来をめぐる論点:
LC の WG 報告書とわが国での検討状況から
渡邊
隆弘*
この数年,図書館目録について,危機意識を背景とした将来論議が活発に行われている。本稿では,米国議会図書館(LC)「書誌コント
ロールの将来ワーキンググループ」の報告書(2008 年 1 月)を材料として,外部データの活用による効率化,目録作業に関する協働の推
進,典拠コントロールの重視,ユニーク資料の組織化,OPAC の機能改善,目録規則と LCSH の変革,等の論点を整理する。あわせて,わ
が国での将来検討について,米国の議論との比較のもとに考察する。効率化のための方策,書誌データの在り方に関する意識では,両国の
議論に相違点が見られる。
キーワード:書誌コントロール,目録,OPAC,米国議会図書館,典拠コントロール,目録規則,
容易に操作できないという書誌コントロールの前提条件を
1.はじめに:悲観と不安の時代
インターネットの出現は,図書館目録に大きな福音をも
印刷物についても突き崩すもので,図書館界に大きな衝撃
を与えた。
たらした。OPAC をはじめとする利用者への書誌情報の提
供においても,書誌ユーティリティに代表される目録作業
図書館目録は情報発見の重要なツールだと今でも言える
のか,今後も言い続けられるのか,むしろ悲観と不安が強
のための書誌情報流通においても,圧倒的に安価なコスト
と容易な方法で,必要であれば世界の隅々まで届けられる
調されてきたのがここ数年の状況といえよう。
さて,今回編集部より筆者にいただいた依頼内容は「カ
ようになったのである。一方で,ネットワーク情報資源と
いう新たな操作対象への対応という困難な問題も迫られた
ルホーン報告書以降の北米の目録事情と日本への影響」と
いったことであった。
「カルホーン報告書」とは,2006 年
が,開拓すべき新たなフロンティアが現れたという意味で,
資料組織化の「陣地拡大」という感覚が強かったように思
3 月に米国議会図書館(LC)が発表した報告書『目録の変
1)の通称で
化する本質および他の情報発見ツールとの統合』
われる。1990 年代以降に行われた目録規則類の改訂やサブ
ジェクト・ゲートウェイの構築事業などは,そうした路線
ある。LC の委託を受けてコーネル大学図書館のカルホー
ン(Karen Calhoun)が執筆した同報告書は,研究図書館
に位置づけることができよう。普及が進んでいく時期のイ
ンターネットは,総じて図書館目録の可能性の拡大につな
目録の置かれた危機的状況を分析し,生き残りのためのビ
ジョンと行動への青写真を示したものである。この時期に
がるものとして捉えられていたといえる。
しかし,21 世紀に入って様相は大きく変わった。玉石混
は他の機関からも目録の将来を論じた報告書がいくつか出
ているが,カルホーン報告書は強い危機認識と経営戦略的
淆のネットワーク情報資源の中から「玉」を選択して従来
型の操作を行うという陣地拡大の目論見は,資源全体の急
観点の重視,そして「LCSH(米国議会図書館件名標目表)
の廃止」に代表される大胆な提言内容で,特に大きな衝撃
激な成長に追いつかないことが明らかとなって頓挫し,手
つかずの「玉」の増大でむしろ相対的な陣地縮小が顕著と
を持って受けとめられた。2005 年ごろから盛んになりつつ
あった目録・目録業務の将来をめぐる論議を,いっそう高
なった。一方で情報量の爆発的な増大は,
「検索」のビジネ
スチャンスをもたらし,Google に代表される検索エンジン
める役割を果たしたといえよう。
それから 2 年余,2008 年時点における最大のトピック
が競争の中で長足の進歩をとげた。また,ネットビジネス
では商品を可視化するために十分な商品情報すなわちメタ
は,LC の「書誌コントロールの将来ワーキンググループ」
が 2008 年 1 月にまとめた報告書 On the Record 2)である。
データが必須であり,出版物においても生産・流通段階で
作られた大量のメタデータがインターネット上に露出され
この報告書(以下,
「WG 報告書」
)はカルホーン報告書と
重なる点も多いが,より広い視野で様々なステークホル
るようになった。さらには,検索ビジネスがその対象を拡
大し,Google Scholar や Google ブック検索のように,伝
ダーを対象とした提言を行っている。一方わが国でも,北
米での活発な動きの影響もあって,国立国会図書館や国立
統的な図書館の陣地にも入ってきた。
とりわけ Google ブッ
ク検索などの大規模デジタル化事業の伸展は,一次情報は
情報学研究所から相次いで次世代の目録に関わる方針・検
討が発表されている。
*わたなべ たかひろ 帝塚山学院大学人間文化学部
〒590-0113 堺市南区晴美台 4-2-2
Tel. 072-296-1331
(原稿受領 2008.6.30)
カルホーン報告書とその前後の議論について,筆者は別
稿で紹介・考察したことがある 3)。本稿ではそれを繰り返
すことはせず,上記 WG 報告書の内容を中心に現時点での
論点を整理する。次いでわが国での検討状況を取り上げ,
― 430 ―
情報の科学と技術
58 巻 9 号,430~435(2008)
比較しながら若干の考察をしてみたい。
館もその一員として各種の商業セクタと協働していく必要
がある。また,ウェブ環境下では国際的な垣根も著しく低
2.WG 報告書の概要
LC のサービス担当副館長であるマーカム(Deanna B.
くなっている。
(3)LC の役割の再定義:書誌データ作成においても標準化
Marcum)によって「書誌コントロールの将来ワーキング
グループ」4)が招集されたのは 2006 年 11 月のことである。
作業においても,LC が集中的に作業して他の図書館に提
供するという方式は限界にきている 7)。一方,これまで書
直接的なきっかけは,LC が同年 6 月からシリーズ典拠の
作成を中止したことをめぐる議論である。この問題をめ
誌コントロールの及んでいないユニーク/貴重資料の扱い
が大きな問題である。
ぐっては,時間的余裕を欠いた突然の報知に館界から反発
が起こって実施を若干延期するという混乱があり,カル
こうした認識をふまえて,114 項目の具体的「勧告」が,
5 領域 11 節に分けて示されている。
5 領域とは,
①書誌デー
ホーン報告書の発表とほぼ同時期だったこともあいまっ
て,LC の目録政策が縮小・後退に向かっているのではな
タ作成及び維持の効率化(冗長性の除去,責任の分散,典
拠作業の協働)
,②貴重/ユニーク資料その他隠された資料
いかという批判を呼ぶこととなった 5)。この経緯に対する
反省のもとに,館界とのコミュニケーションを幅広く確保
のアクセス向上,③将来のための我々の技術の位置づけ
(ウェブ環境への適応,各種標準の扱い),④将来のための
した場で,書誌コントロールの将来像を議論してまとめる,
というのが WG 設置の趣旨である6)。
我々のコミュニティの位置づけ(利用者指向,FRBR の実
現,LCSH の最適化)
,⑤図書館情報専門職の強化(エビ
こうした趣旨から,ARL(研究図書館協会),ALCTS
(ALA テクニカルサービス部会)
,PLA(ALA 公共図書館
デンスベース,図書館情報学教育)
,である。各勧告文の冒
頭には,
「LC」
「All(コミュニティ全体)
」
「LC, PCC, and
部会)
,SLA(専門図書館協会),OCLC,CNI(ネットワー
ク情報連合)等の各団体からの代表者に若干の大学図書館
OCLC」など対象者が明示されている。LC のみを対象と
する勧告は 30 項目強であり,館界全体への幅広い提言と
関係者,研究者を加え,さらにはグーグル社とマイクロソ
フト社からも委員を招いて,総勢 16 名で WG が構成され
なっている。また,勧告に加えて,節ごとに,問題の所在
を示す概説文章,変革が行われなかった場合の「現状維持
た。CNI 代表のリンチ(Clifford Lynch),OCLC 代表のデ
ンプシー(Lorcan Dempsey)といった論客も含まれてい
の結果」
,勧告実施の場合の「期待される成果」も述べられ
ている。
る。また,カルホーン報告書は大規模研究図書館,具体的
には ARL の加盟館(約 120 館)を想定対象と明記してい
2008 年 6 月,LC はマーカム副館長名で WG 報告書への
回答書を発表した8)。1 つ 1 つの勧告について同意・不同意
たが,WG 報告書には明確な対象の記述が見あたらない。
内容からはやはり研究図書館を主対象としている節がうか
と,現在までの取り組み,今後の取り組みをまとめた大部
の文書である。ほとんどの項目に同意しているが,現行の
がえるが,上記のメンバー構成等から,カルホーン報告書
よりはウイングを広く取っているといえよう。
様々な取り組みを各項目に位置づける内容となっており,
劇的な方向転換をはかるものではない。その他,批判・批
当初から 1 年間で報告書をという目標が示されたが,一
方で館界の意見を広く聴取しながらの進行がめざされた。
評はいくつかなされているが,今のところ機関としての公
的かつ包括的な反応は管見の限り LC のみである。
2007 年の 3 月から 7 月にかけて「書誌データの利用者と
利用」「書誌コントロールのための構造と標準」「書誌コン
3.WG 報告書における勧告の重要点
トロールの経済と組織」をそれぞれテーマとする 3 回の公
開ミーティングが行われた。その後報告書の起草に入り,
本章では,WG 報告書の勧告を逐条的に紹介するのでは
なく,筆者が特に重要と感じる点に絞って列挙し,必要に
11 月末に草案を公開して半月余りパブリックコメントを
募集した。短期間にもかかわらず多くの機関・個人からコ
応じて関連する最近の動きについても触れたい。
メントが寄せられ(総計 180 ページに及ぶ意見集が WG の
サイトで公開されている)
,それを踏まえて一定の修正が行
3.1 外部データの活用による効率化
順番に意味があるとの記載はないが,5 領域の先頭に「効
われた。完成した報告書は 2008 年 1 月 9 日付で,直ちに
一般公開されている。
率化」を置いているのは,最大かつ焦眉の課題という認識
からであろう。目録の見直しをめぐる論議の出発点として,
報告書は,
「序論」
「背景」と続いた後,
「指針となる原則
(Guiding principles)
」として 3 つの「再定義(Redefine)
」
マーカムが 2005 年初頭に行った講演9)がしばしば挙げられ
るが,この中でマーカムは目録業務の費用対効果を高める
を述べ,勧告の前提となる基本的認識を明らかにしている。
(1)書誌コントロールの再定義:ネットワーク環境下では従
再構築が不可欠であると述べている。カルホーン報告書も
この点を第一の問題意識としており,WG 報告書にも引き
来の目録の範囲に限定することは不可能で,図書館コミュ
ニティを超えた広い視野を持つべきである。また今後は,
継がれているといえる。
WG 報告書が効率化の最大の焦点とするのは,「冗長性
中央集権ではなく分散型の活動でなくては成り立たない。
(2)書誌宇宙(Bibliographic universe)の再定義:今日,
の除去(1.1)」
(領域中の節番号。以下,同様)の冒頭に置
かれた「サプライチェーンの初期段階で入手できる書誌
情報資源の多くが市場流通の中にあることを直視し,図書
データの利用<1.1.1>(勧告の条項番号10)。以下,同様」」
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情報の科学と技術
58 巻 9 号(2008)
である。すなわち,出版社やベンダーからのデータの受容
であり,同様の問題意識から LC には「CIP プロセスの完
拠コントロールはむしろ強化の方向にあるといってよい。
その現れとして,
「典拠レコードの作成・維持に関する協
全自動化<1.1.3.>」も求められている。2.で述べたように
「書誌宇宙」の範囲を拡大する再定義を行い,幅広く「既存
働(1.3)」と題した節を置き,書誌データと同様の責任の
分散や,国際共同典拠ファイルの推進等を勧告している。
メタデータの再活用<1.1.2>」をはかろうということであ
る。
また「典拠標目の再利用の増大<1.3.2>」として,「図書
館,出版,リポジトリ管理等の多様な文脈での名称典拠及
関連する動きとして,OCLC では,出版社・ベンダーと
図書館の参加を募って ONIX メタデータをやりとりする
びアイデンティティ管理の集中化を検討<1.3.2.1>」を勧
告している点も注目に値する。
「次世代目録パイロットプロジェクト」を開始している 11)。
3.4 ユニーク資料の組織化
3.2 目録作業に関わる協働の推進と LC の役割
「効率化」のいま 1 つの柱として,
「書誌レコード作成の
アーカイブ資料や音声・映像資料なども含め,米国の図
書館には膨大な特殊コレクションが収蔵され,寄贈等によ
責任の分散(1.2)
」が挙げられている。LC は 1970 年代か
ら目録作業における他の図書館との協力を開始し,1995
る新たな収集も活発に行われている。これらのコレクショ
ンの多くが未整理のままでアクセスに著しい問題があり,
年からは「共同目録プログラム(Program for Cooperative
Cataloging: PCC)
」の枠組みで一定の協働が行われている
抜本的な対策が求められている。
WG 報告書では,効率化で浮いた資源の主な投入先とし
が,WG 報告書はまだまだ不十分であるとする。LC の活
動に過度に依存する体制は図書館界全体に脆弱性をもたら
て,
「貴重/ユニーク資料その他隠された資料のアクセス向
上」が 2 番目の領域に位置づけられている。こうした資料
しており,
「PCC 参加館の拡大<1.2.3>」や「オリジナル
目録作成のための責任の分担<1.2.1.1>」が必要であると
の組織化に「高い優先度を与える<2.1.1>」とともに,ま
ずは「すべての資料に一定程度のアクセスレベル」を保証
勧告している。「分担作業のインセンティブの増大<1.2.4
>」についての勧告もある。
するために資料の「種類,性質,豊かさに応じて異なった
目録レベルを許容<2.1.2.1>」といった柔軟な作成方針を
また,3.1 で述べた出版社等のメタデータ利用と並んで,
各図書館がローカルレベルで行うデータの修正が共有され
勧告している。さらには,
「ユニーク資料と他の図書館資料
へのアクセスの統合<2.1.3>」「デジタル化の推進<2.1.4
ていない点が「冗長性の除去(1.1)
」の問題の 1 つとされ,
LC に対して「ネットワーク環境下でのデータ共有のため
>」「OCLC 等にユニーク資料のレコードを提供<2.1.5.2
>」等も勧告されている。
の現行経済モデルの再検討<1.1.4>」が勧告されている。
さらに,前節で述べた「既存メタデータ」には,海外の
必要性に疑いをさしはさむ余地はないが,代償となる通
常の目録作業の効率化とのトレードオフが問題となる。
図書館が作成したものも含まれるとされている。
3.5
OPAC の機能改善
3.3 書誌記述と典拠コントロール
出版社等のメタデータの利用においてはそのデータ品質
この数年,次世代の新しい OPAC をめぐる実践・実験や
議論が活発に積み重ねられている。初期の試みとしては
と図書館目録への整合性が問われるが,この点について
WG 報告書は,「完全で正確なメタデータを提供すること
2003 年に RLG(2006 年に OCLC に統合)が開発した
RedLightGreen があったが12),2006 年 1 月にノースカロ
のビジネス上の優位性について出版社に働きかけ<
1.1.1.6>」を挙げる一方で,「米国図書館の標準に厳密に
ライナ州立大学(NCSU)が Endeca 社の開発による新
OPAC をリリース13)したころから特に活発な動きが見られ
は合わない書誌データを受け入れる柔軟さ<1.1.1.1>」
「出版社等とのデータ共有に必要であれば目録標準を改訂
るようになった。それから 2 年余を経て,徐々に収斂して
「新世代の標準機能」といったものも列挙できるようになっ
<1.1.1.2>」といった勧告を行っている。現行の標準に必
ずしもとらわれず,データの簡素化も視野に入れて効率化
てきた段階である。
2006 年 3 月発行のカルホーン報告書は,OPAC の機能
を追求するというスタンスであり,カルホーン報告書の基
調を引き継ぐものといえる。
の貧弱さと改善の必要性を強調しており,NCSU の新
OPAC への言及もあるが,新たに求められる機能に対する
さて,効率化が実現した場合に,浮いた資源はどこに振
り向けられるべきであろうか。
「冗長性の除去」に対する「期
突っ込んだ言及は乏しい。対して WG 報告書では,4 番目
の領域である「将来のための我々のコミュニティの位置づ
待される成果」として,ユニーク資料の組織化と並んで「統
制アクセスポイントを与える知的な作業」が挙げられてい
け」を中心にいくつか具体的な言及がなされている。目録
作業や目録標準をめぐる議論の前提には利用者に提供する
る。3.1 で述べた 2005 年の講演でマーカムは,一次情報の
デジタル化を前提として,記述目録タスクを簡素化して余
OPAC の基本線があるべきで,その点ではカルホーン報告
書よりも全体的な説得性を増しているように思われる。
力を典拠コントロールなどに振り向けるという方向性に言
及していた。WG 報告書においても簡素化の焦点は書誌記
まず「今日及び将来の利用者のためのデザイン(4.1)」
として,OPAC を魅力あるものとし,利用者の目録離れを
述の部分にあり,図書館界のメタデータの特徴点である典
食い止めるために,
「適切な外部情報とのリンク<4.1.1>」
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情報の科学と技術
58 巻 9 号(2008)
(書評等の評価情報,アマゾンや Wikipedia など),
「ユー
ザ生成データの取り入れ<4.1.2>」(タギングなど),「所
ささか混乱を生んだ。その教訓があってか,WG 報告書で
は「利用と再利用のための LCSH の最適化(4.3)
」として,
蔵情報や貸出情報の活用<4.1.3.1>」(レコメンデーショ
ン)
,を挙げている。また OCLC など様々な機関で,同一
より詳細かつ慎重な検討を行っている。主題統制語彙の有
用性を認めながら,LCSH の複雑さや一貫性のなさを問題
著作の集中による構造的表示を行う「FRBR 化」が試みら
れているが,これについて「FRBR の実現(4.2)
」として
視し,「主題ストリングの分離の追求<4.3.2>」すなわち
事後結合方式への移行という大きな勧告を行っている。ま
独立した節を設けている。ここでは,現状の試みを評価し
ながら,著作によるクラスタリングは FRBR モデルのごく
た,
「分類との相関・参照の拡大<4.3.1.4>」
「他の統制語
彙の適用及び相互参照<4.3.3>」「機械的索引の可能性の
一部の実現にすぎないとして,表現形をはじめとする他の
実体も含めた「テスト計画の開発<4.2.1>」を LC,OCLC
認識<4.3.4>」等も勧告されている。
LCSH をベースにした事後結合索引の試みとしては,
等に求めている。さらに,
「LCSH の最適化(4.3)
」を論ず
る中で「ファセット化されたブラウジングと発見をサポー
OCLC の FAST ( Faceted Application of Subject
Terminology)19)がすでにある。3.5 で述べたファセットク
トする能力の評価<4.3.2.2>」を勧告している。検索結果
集合に対して様々な側面から絞り込むためのメニューを表
ラスタリングで件名標目の各要素(主標目,細目)が分離
して使われていることが,勧告の背景にあろう。ただ,事
示する「ファセットクラスタリング」
(嚆矢は NCSU の目
録である)が標準機能と位置づけられつつあることを反映
前結合方式の利点を主張する向きもあり,LC では両者の
得失を考察した報告書を最近公表している20)。
している14)。
3.6 目録規則等をめぐって
IFLA による「国際目録原則」15」の確定が 2008 年に,
4.わが国における書誌コントロール論議をめぐっ
て
わが国でも図書館目録の置かれた厳しい状況と変革の必
AACR を全面改訂する新規則 RDA(Resource Description
and Access)16」の刊行が 2009 年に予定されるなど,目録
要性が認識されており,2007 年度には全国書誌作成機関で
あ る 国 立 国 会 図 書 館 ( NDL ) と 書 誌 ユ ー テ ィ リ テ ィ
標準もまさに激動期を迎えている(紙幅の都合により,本
稿では具体内容には触れない)
。カルホーン報告書は図書館
NACSIS-CAT を運営する国立情報学研究所(NII)で相次
いで将来検討の動きがあった。
の意志決定者をターゲットとした文書であるため,単館の
取り組みを超える標準化の問題への具体的勧告はほとんど
4.1
NDL の新方針
なかった。対して館界全体を対象とする WG 報告書は,3.1
~3.5 で紹介したスタンスを背景に,RDA 等に対する勧告
NDL では「平成 19 年度書誌調整連絡会議」のテーマを
「書誌データの作成および提供:新しい目標・方針の設定」
を積極的に行っている。
3 番目の領域「将来のための我々の技術の位置づけ」中
とし21),2008 年からの概ね 5 年間を対象とする方針案が示
された。その後,一般公開・パブリックコメントを経て,
の「標準(3.2)
」ではまず,標準策定プロセスに関して「一
貫した枠組み<3.2.1>」「費用対効果に焦点をあてた開発
「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)」
として 2008 年 3 月付で正式発表されている22)。現状認識
<3.2.3>」「利用からの教訓を組み入れた開発<3.2.4>」
等が勧告されている。また,5 番目の領域「図書館情報学
を述べた後,「書誌データの開放性の向上」「情報検索シス
テムの改善」
「電子情報資源を含む多様な対象へのシームレ
専門職の強化」中に「エビデンスベースの確立<5.1>」が
置かれているが,従来の伝統や机上の理論ではなく具体的
スなアクセス」「書誌データの有効性の向上」「書誌データ
作成の効率化・迅速化」
「外部資源・知識・技術の活用」の
な根拠と検証に基づいて行うべきという考え方が報告書全
体に通底している17)。
6 方針を示し,さらに現時点で考えられる具体策を列挙し
ている。
そのうえで,現在の RDA の策定作業には十分な説得力
がないとして,
「RDA に関する作業の一時中止<3.2.5>」
4.2
を開発合同委員会(JSC)に勧告している(ただし 2008
年 6 月現在,JSC は開発作業を予定通り進めている)
。
NII では 2007 年度より「次世代目録ワーキンググルー
プ」を立ち上げて NACSIS-CAT についての中長期的検討
その他,
「インフラとしての Web(3.1)
」として,
「
(MARC
に代わる)拡張性の高いメタデータ記録形式の開発<3.1.1
を行っており,2008 年 3 月には中間報告書を公表した23)。
詳細な紹介は本特集号の別稿に譲るが,大学図書館をとり
>」「各種標準をウェブに統合<3.1.2>」が挙げられてい
る。
まく情報環境の大きな変化を背景として,電子情報資源へ
の対応,データ構造の見直し,Web API によるデータ提供,
NACSIS-CAT の将来像
「発生源入力(出版社,ベンダ等の書誌データの利用)
」
,共
同分担入力体制の見直し,について現時点での素案を提起
3.7 主題アクセスと LCSH
別稿 18)で述べたので詳しくは繰り返さないが,カルホー
ン報告書には「LCSH の廃棄を促す」の一項があり,大き
している。
なお,関連する動きとして,2007 年 11 月に国立大学図
な論議となってマーカムが否定のコメントを出すなど,い
書館協会が NACSIS-CAT システム更新に関する要望書を
― 433 ―
情報の科学と技術
58 巻 9 号(2008)
NII に提出している 24)。図書館システムの今後の方向性を
①電子リソースのアクセシビリティ向上,②図書館の壁を
関わる典拠コントロールの徹底もしくは精緻化が求められ
る。また,ファセットクラスタリングは,利用者に活用さ
越えるブリッジ型システム,③一次情報へのシームレスな
到達,④目録業務の再構築(データ交換の自動化)
,⑤シス
れていない現行の典拠データ(特に主題典拠)を可視化す
る機能である。わが国の目録は米国と比べ,書誌記述に偏
テムの共同運営・利用,と整理し,それに基づいて電子リ
ソース管理機能,データ開放と外部サービスとの連携,
「川
重しており典拠データが貧弱であるため,現在のままでは
同じレベルの機能はまず実現できない。ということは,LC
上方式(発生源入力とほぼ同義)」,等を要望している。問
題意識は NII と共有されていると言ってよい。
の WG 報告書の示す道筋に従えば,わが国では目録コスト
は削減できないか,場合によってはかえって上昇しかねな
4.3 米国の論議と比較して:若干の考察
い。筆者は国際レベルの OPAC が必要と考えているが,現
状を見る限り実現は相当困難であることを認識せざるをえ
以下,前章で述べた LC の WG 報告書に見られる論点を
念頭に,わが国での議論の特徴について,若干の考察を述
ない。
4.3.4 目録規則等に関する問題
べる。
4.3.1 外部データの活用による効率化
目録規則や件名標目表等の改革に向かう具体的な動きは
まだない。筆者は日本図書館協会の委員として NCR(日
この必要性については,米国と同様に認識が高まってき
た。周知のようにわが国には民間 MARC の発達という特
本目録規則)等の維持に関わっているが,海外の動向を追っ
ている段階で,今後の道筋を具体化できる状態にはない。
別の事情があり,重要な外部データとして視野に入れられ
ている。ただ,民間 MARC は図書館界の仕事を民間セク
典拠コントロールの重視に伴い,目録規則においても現在
でいう標目(アクセスポイント)の重要性が増す。周知の
タにアウトソーシングしているものであり,作成コストの
回収・負担がどこかで求められるという点で,出版社等の
通りわが国の規則はそこが非常に心許ない状態にあるう
え,記述独立方式といった特別な事情もあり,RDA などの
メタデータ利用とはやや様相を異にするともいえよう。
4.3.2 責任分散と協働の推進による効率化
海外の改訂をなぞることも難しいという問題がある。
件名標目表等も含めて今後の課題となるが,実際に使わ
これについては,いささか方向性を異にしている。次世
代 NACSIS-CAT の検討においては今のところ,
(共同分担
れるツールを作るには,館界で問題意識を共有した議論が
どれだけできるかが成否に重要な意味を持つと思われる。
の旗を降ろすわけではないが)現行のフラットな体制を見
直す一定程度の集中化が提案されている。書誌データの自
5.おわりに
由な流通を前提とし,また今後は典拠コントロールがより
重視されるのならば,ある程度集中化を考えたほうが効率
以上,LC の WG 報告書を材料として米国における議論
の論点を整理し,わが国での議論の状況についても若干の
がよいように筆者には思われる。方向性の異なりには,共
にコスト削減圧力に苦しんでいるとはいえ,組織化作業に
考察を行った。問題は多岐にわたり,筆者の力不足で触れ
られなかった点もまだまだある(例えば,外部へのデータ
割きうる資源の「厚み」に日米で大きな差があることが影
響しているのかもしれない。
提供の視点,コミュニティを超えたメタデータの相互運用
性,など)
。
また,国立図書館の置かれた状況にも大きな違いがある。
米国では LC への過度の依存が問題になっているのに対し
図書館にとって情報の組織化は,その他のサービスの基
礎となる本質的な活動であり,近代目録法だけを視野とし
て,わが国では逆に,NDL の作成する全国書誌データが
他の図書館で十分に活用されていないことが,館界全体の
ても一世紀をゆうに超える蓄積がある。この間,MARC
フォーマットと書誌ユーティリティが生まれた 60 年代後
書誌コントロールにおいて効率の点でもデータ品質の点で
も積年の課題である。この点で,NDL の新方針は,OPAC
半などいくつかの画期があるが,インターネット時代であ
る今日の問題は,図書館の世界の中の整合性だけでは考え
の機能など自館独自のサービスの向上に比べ,他の図書館
へのデータ流通に関わる方策がやや薄いように思われる。
られないところに難しさがある。図書館コミュニティが
培ってきた蓄積を,どのような形でより広い世界へ位置づ
例えば CIP の実現などということは一足飛びには難しか
ろうが,視野に入れて進むべきではなかろうか。
け,育て直していくのか。この数年は,あるいは図書館の
将来から見て分水嶺となる時期であるのかもしれない。
4.3.3 書誌データのありかたと OPAC
外部データの活用等による効率化を実現するためには一
定程度のデータの簡素化も検討すべし,という意見はわが
国の議論でも聞かれるが,3.3 で述べた書誌記述と典拠コ
ントロールの区別は十分意識されていないように思われ
る。
一方,3.5 で述べた次世代の OPAC をわが国でも早期に
実現したいという意識は浸透しつつある。しかし,次世代
の標準的機能とされるもののうち,FRBR 化には,著作に
注・引 用
文 献
01) Calhoun, K. The changing nature of the catalog and its
integration with other discovery tools. Final report. 2006,
52p. http://www.loc.gov/catdir/calhoun-report-final.pdf
[accessed 2008-06-28].
02) Working Group on the Future of Bibliographic Control,
Library of Congress. On the Record:Report of The Library
of Congress Working Group on the Future of Bibliographic
Control. 2008, 44p.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/lcwg-onthere
― 434 ―
情報の科学と技術
58 巻 9 号(2008)
cord-jan08-final.pdf [accessed 2008-06-25].
03) 渡邊隆弘.研究図書館目録の危機と将来像:3 機関の報告書
から.カレントアウェアネス.2006,no.290,
http://current.ndl.go.jp/ca1617 [accessed 2008-06-24].
渡邊隆弘.LC「カルホーン報告書」をめぐる論争:整理と考
察.整理技術研究グループ 50 周年記念論集.同グループ,
2007,p.152-161.
04) Working Group on the Future of Bibliographic Control.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/
[accessed 2007-06-24].
経緯の解説と報告書の簡単な紹介として,次のものがある。
倉光紀子.書誌コントロールの将来に向けた LC の取り組み.
カレントアウェアネス.2008,no.295.
http://current.ndl.go.jp/ca1650 [accessed 2008-06-24].
05) 注 3 に挙げた文献に述べた。特に強硬な批判者は,マン
(Thomas Mann)を中心とする LC 専門職組合である。
Library of Congress Professional Guild. The Future of
cataloging. http://www.guild2910.org/future.htm [accessed
2008-06-25].
06) Library of Congress Working Group on the Future of
Bibliographic Control. Inaugural Meeting, November 3,
2006.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/meetings/docs/LC
WGMinutes110306final.pdf [accessed 2008-06-25].
07) 「背景」の章には,LC は国レベルの書誌コントロール活動を
担っているが,公式には「国立図書館」との位置づけはなく
財政基盤もない,と説明されている。
08) Marcum, Deanna B. Response to On the Record: Report of
the Library of Congress Working Group on the Future of
Bibliographic Control. June 1, 2008.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/LCWG Respon
se-Marcum-Final-061008.pdf [accessed 2008-06-25].
09) Marcum, Deanna B. The Future of cataloging.
http://www.loc.gov/library/reports/CatalogingSpeech.pdf
[accessed 2008-06-28].
10) 勧告の条項番号は 1.2.1.1 のように 4 桁に統一され,その上位
に 1.2.1 と い っ た 3 桁 の 付 番 で 数 項 目 ( こ こ で は
1.2.1.1-1.2.1.3)を包括した見出しが付されている。以下の記
述では各箇所の説明の便宜に応じて 3 桁と 4 桁の番号を混在
させて引用する。
11) OCLC. Next generation cataloging.
http://www.oclc.org/partnerships/material/nexgen/nextgenc
ataloging.htm [accessed 2008-06-26].
12) 松井一子.RLG の新総合目録 RedLightGreen にみる図書館
目録の可能性.カレントアウェアネス.2003,no.277.
http://current.ndl.go.jp/ca1503 [accessed 2008-06-27].
13) http://www.lib.ncsu.edu/catalog/ [accessed 2008-06-27].
Antelman, Kristin et al. Toward a 21st Century library
14)
15)
16)
17)
18)
19)
20)
21)
22)
23)
24)
catalog. Information technology and libraries. 25(3), 2006,
128-139.
http://www.lib.ncsu.edu/staff/kaantelm/antelman_lynema_
pace.pdf [accessed 2008-06-27].
その他,単純な検索インターフェースやスペルチェック,検
索結果のレレバンスランキング表示など,次世代 OPAC の標
準とみなしてよい機能は他にもある。WG 報告書は書誌コン
トロールをテーマとしているため,検索システムの改善のみ
で実装可能な部分には言及していない。
IFLA Cataloguing Section. Statement of international
cataloguing principles.
http://www.ifla.org/VII/s13/icc/principles_review_200804.h
tm [acceessed 2008-06-28].
Joint Steering Committee for Development of RDA.
http://www.collectionscanada.gc.ca/jsc/
[accessed 2008-06-28].
例えば,3.4 で述べた FRBR の「テスト計画」も,FRBR は
理論的に評価できるが具体的な実効性はまだ検証されていな
いとの認識に基づいている。また,3.3 で述べた書誌記述の簡
素化と関連して「発見ツールに関するエビデンスの開発<
1.1.5>」が勧告され,
「利用者行動と書誌レコードの内容との
相関関係」を実証するためのエビデンスが求められている。
注 3 参照
OCLC. FAST: Faceted Application of Subject Terminology.
http://www.oclc.org/research/projects/fast/
[accessed 2008-06-27].
Library of Congress Subject Headings: Pre- vs.
Post-coordination and related issues, March 15, 2007.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/pre_vs_post.pdf
[accessed 2008-06-27].
国立国会図書館.平成 19 年度書誌調整連絡会議報告.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/h19_conference_report.
html [accessed 2008-06-28].
国立国会図書館.国立国会図書館の書誌データの作成・提供
の方針(2008).
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/housin2008.pdf
[accessed: 2008-06-28].
なお,3 月付の文書だが,一般公開は 5 月であった。
次世代目録ワーキンググループ.次世代目録所在情報サービ
スの在り方について(中間報告)
.2008 年 3 月
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/next_cat_interim
_report.pdf [accessed 2008-06-28].
なお,筆者はこの WG の委員を務めているが,以下本稿に記
す内容は個人的な見解である。
国立大学図書館協会.目録所在情報システム更新に対する要
望について.2007 年 11 月.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/operations/requests/yobosho_
07_11_09.pdf [accessed 2008-06-28].
Special feature: Cataloging: Now and future. Future of bibliographic control: Some issues based on the 2008
Report of LC Working Group and two reports in Japan. Takahiro WATANABE (Tezukayama Gakuin
University, 4-2-2 Harumidai, Minami-ku, Sakai-shi, Osaka 590-0113 JAPAN)
Abstract: The purpose of this paper is to consider to some issues presented on the Report of Working Group on
the Future of Bibliographic Control, Library of Congress, and two documents in Japan. The major topics are
use of metadata created out of library community, distribution of responsibility, emphasis on the authority
control, metadata creation of unique collection, enhancement of OPAC, and revision of cataloging rules and
subject access system. There are some difference between U.S. and Japan on the view of distribution of
responsibility and authority control.
Keywords: bibliographic control / cataloging / OPAC / Library of Congress / authority control / cataloging rules
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情報の科学と技術
58 巻 9 号(2008)
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