...

(試験研究05) [PDFファイル/4.89MB]

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

(試験研究05) [PDFファイル/4.89MB]
平 成23年度
福 岡県 森林 林業 技 術セ ンタ ー年 報
18 スギ大径材
スギ大径材の
大径材の材質把握と
材質把握と大径材を
大径材を活かした製品
かした製品の
製品の開発
- 県産スギ
県産スギ心持
スギ心持ち
心持ち平角材の
平角材のJAS等級別
JAS等級別に
等級別に見た出現割合と
出現割合と曲げ性能 -
県単(H21~23年度)
占部 達也・
達也・(川崎建築構造設計)
川崎建築構造設計)川崎 薫・
薫・島 晃・
晃・山口祐士郎
1 .目 的
県内スギ人工林は長伐期化の傾向に進む中、今後スギ大径材の資源量増加が予想される。これらの大
径材の用途として、外材や集成材が多く使われている梁材等への新たな用途が期待される。その中でも
横架材は特に曲げ性能に対する要求が高く、強度等の品質が確かな製品の供給が求められる。また、建
築設計時に構造計算等を要する部材であり、利用拡大にあたっては強度データの整備等による使いやす
い環境づくりが必要である。
本報告では、横架材としての利用拡大を図るため、県産スギ心持ち平角材の実大曲げ試験を実施し、
製材の日本農林規格(以下「JAS」)に基づく等級別の曲げ性能を把握するとともに、構造計算に供する
強度値の算定を行った。なお、本研究の一部は、福岡県産材利用推進協議会で取り組んだ林野庁補助事
業「福岡県産スギ横架材スパン表作成」で実施したものである。
2.試験体と
試験体と試験方法
福岡県産スギ丸太を県内各地から集荷し、製材、人工乾燥後、モルダー加工した心持ちスギ平角材(120×2
40mm、4m材)計199本を用いた(表-1)。製材のJASの品質規格に準じ、材面の品質調査、動的ヤング係数等の
計測を行い、目視等級区分(甲種Ⅱ)及び機械等級区分による等級付けを行った。
曲げ試験は、図-2に示す荷重条件により、実大材強度試験機(最大容量500kN)を用い、毎分15mmの定速
ストローク制御により加力を行い、曲げヤング係数、曲げ強さを計測した(図-1)。含水率は材両端から50cmの位
置で切片を採取し全乾法により計測した。
試験で得た各強度値は、住木センター「構造用木材の強度試験法」に準じ、標準とする断面寸法(梁せい150
mm)、荷重条件(支点間距離:梁せいの18倍)に調整した。含水率の調整は、上記スパン表の適用対象がD20
であるため、試験時の含水率が22%以上は22%と見なし20%時に、15%以下は15%時に調整した。
表-1 供試体の概要
1213
※
朝 倉
飯 塚
筑 後
行 橋
合 計
1214
1213
寸 法
(mm)
N
(本)
50
幅
120
50
スギ 梁せい 240
50
長さ 4000
49
199
樹種
240
産地
たわみ測定位置
1820
120
1820
3640
(単位:mm)
※福岡県の農林事務所管内名
図-1 スギ平角材の曲げ試験方法
3.結果と
結果と考察
1)目視等級材及び
目視等級材及び機械等級材の
機械等級材の出現割合
JASに基づき目視甲種Ⅱの品質基準で等級付けを行っ
70
た結果、1級及び2級が全体の88%を占めた。等級外は
理の徹底により改善が可能なものである(図-2)。
また、曲げヤング係数を用いて機械等級区分を行った
結果では、E90以上が21%、E70が63%と合わせて84%が
出現割合(%)
7%でその多くが曲がり制限値を超えたためで、品質管
51
60
50
37
40
30
20
7
6
10
0
等級外
3級
2級
1級
E70の品質基準をクリアしていた。等級外が2本で、そ
等 級
の要因は曲げヤング係数、節が各1体である(図-3)。
図-2 目視等級材(甲種Ⅱ)の出現割合
- 40 -
平成 23年 度
2)曲げ試験結果(
試験結果(全試験体)
全試験体)
福岡 県森 林林 業 技術 セン ター 年報
63
70
全試験体で見た曲げ試験結果を表-2に示す。曲げ
出現割合(%)
60
ヤング係数は平均7.0kN/mm2(変動係数16%)、曲げ強
さは39.8N/mm2(同17%)であり、全国データ1)と比べ
てほぼ同等の値を示した。一方、変動係数は小さく、
50
40
30
1
10
0
産地を県内に限定したことにより値のばらつきが小さ
19
16
20
2
等級外
E50
E70
E90
E110
等 級
くなったものと推察される。
図-3 機械等級材の出現割合
表-2 県産スギ心持ち平角材の曲げ試験結果
3)JAS等級別
JAS等級別の
等級別の曲げ性能
N=199
密 度
動的ヤング係数を基に選別された機械等級は、当然
ながら等級間で曲げヤング係数の差が明確で、かつ、
各等級内でのばらつきが非常に小さかった。
一方、目視等級では等級が上がると曲げヤング係数
がわずかに高くなるものの、機械等級ほど明確な差が
※
試験時
含水率
平均
年輪幅
曲げヤング
係数
3
(%)
(mm)
(kN/mm )
(g/cm )
2
曲げ強さ
2
(N/mm )
平均値
0.40
21.8
5.4
7.0
39.8
最大値
0.50
78.9
8.0
10.6
60.6
最小値
0.34
6.8
2.4
3.7
23.5
標準偏差
0.04
15.1
1.0
1.1
6.7
9%
69%
19%
16%
17%
変動係数
なく、ばらつきも大きかった(図-4)。
12
に見られなず、値のバラツキも全体(無等級)に比べ
あまり変わらなかったに対し、機械等級区分では等級
間の差が明確に見られ、値のバラツキも比べ小さかっ
た(図-5)。
曲げヤング係数 (kN/mm2)
曲げ強さも同様に、目視等級では等級間の差が明確
10
8
6
4
2
0
4)曲げ強さの5
さの5%下限値
設計に供する強度値を算定するため、建設省建築指
導課通達
2)
全体 等級外
3級
無等級
目 視 等 級
出した(図-6)。
50
曲げ強さ (N/mm2)
60
定める値を上回っていることを確認した。
E50
E70
E90
E110
機 械 等 級
(バーは標準偏差を表す)
ける下側5%許容限界値(以下「5%下限値」)を算
等級も法令(国交省告示第1524号)や日本建築学会で
1級
図-4 JAS等級別の曲げヤング係数
に準じた評価法により、信頼水準75%にお
曲げ強さの5%下限値は、無等級材を含めいずれの
2級
40
30
20
10
特に無等級や目視3級、E50の下位等級で法令の値
0
を大きく上回った。産地を限定し、かつ、強度データ
を整備することで、より信頼性の高い構造材の供給が
全体 等級外
3級
無等級
目 視 等 級
2級
1級
E50
E70
E90
E110
機 械 等 級
図-5 JAS等級別の曲げ強さ
可能になることを示唆する結果を得た。
(バーは標準偏差を表す)
1)製材品の強度性能に関するデータベース(データ
集7),強度性能研究会,2006.3
2) 木材の材料強度の評価方法について,建設省住指
発第132号,1997.3
曲げ強さの5%下限値(N/mm2)
40
【参考文献】
35
実測値
法令等で定める基準強度
30
25
20
15
10
5
0
全体
無等級
3級
2級
目 視 等 級
1級
E50
E70
E90
機 械 等 級
図-6 JAS等級別の曲げ強さ5%下限値
- 41 -
平 成 23 年度
福 岡 県森 林林 業技 術セ ンタ ー 年報
19 大径化した
大径化したクヌギ
したクヌギの
クヌギの有効利用方法の
有効利用方法の開発
県単:
(H20~24年度)
谷崎 ゆふ・
ゆふ・金子 周平・
周平・島 晃・
晃・山口祐士郎
1 .目 的
シイタケの原木栽培は九州ではクヌギがよく使われているが、生産者の高齢化とともに重量のある大
径のクヌギは敬遠される傾向にあり、利用されずいる。このため、省力的なシイタケ原木利用をめざし、
原木を加工したほだ化促進を検討した。また、新たな利用をはかるため菌床栽培用ブナおが粉の代替材
としてクヌギチップが利用できるか、栽培試験を実施した。
2.試験方法
1)原木栽培省力化試験
2012年接種ホダ木(3月接種)は、原木にチェンソーで刻みを入れた刻み処理、半分の長さにする
短材処理及び原木を縦に分割する半割処理をして材内部の枯死による早期ホダ化を図った。
また、2010年接種ほだ木(1歳ホダ)は、人工ホダ場に立てかけたまま収穫し、乾燥重量・個数を計
測した。
2)クヌギチップ菌床栽培試験
大径化クヌギ(直径約25cm)をチップ化して、粒度を細目(1.7mm)中目(4.8m)粗目(6.7mm)と3段階
に調整してそれぞれマイタケ、ナメコ菌床の培地基材とした(表-1)。対照区は市販ブナおが粉を使
用した。
マイタケは23℃で約70日間培養した後キャップをはずし温度15℃、湿度90%の条件で発生管理を行
った。発生した子実体は生重量を測定した。
ナメコは23℃で約65日間培養した後温度15℃、湿度99%の条件で発生管理を行った。発生した子実体
は生重量、柄数を測定した。
3 .結 果
1)原木栽培省力化試験
図-1に2010年接種ホダ木における原木処理別の平均収量を示す。試験区ごとの収量は刻み+通常
打ち区28.1g/本、刻み+駒埋め区20.4g/本、短材区20.0g/本、通常打ち区53.1g/本であった。個重
量を比較すると、処理区は通常区に比べて芽数が少なく1枚が大型になる傾向にある。
(図-2)今後、
一代収量を比較して処理効果を検討すると必要がある。
2)クヌギチップ菌床栽培試験
ナメコの培地区毎の収量を図-3に示す。ブナ培地の平均収量が127.7gであったのに対してクヌギ
細目培地は69.5g、クヌギ粗目培地は74.9g、クヌギ中目培地は85.1となりクヌギチップ培地のナメ
コ収量は対照区と比べ3割以上減少した。
また、マイタケの培地区毎の収量を図-4に示す。ブナ培地の平均収量が98.7gであったのに対し
てクヌギ中目培地は119.9g、クヌギ粗目培地は123.3g、クヌギ中粗培地126.1gとなりクヌギチップ
培地のマイタケ収量は全ての区で増加した。
きのこの種類によりクヌギチップ培地の増収に差があることが考えられ、今後ヤマブシタケ等のき
のこ培地としての適応性を試験する予定である。
- 42 -
平 成 23 年 度
表-1
ナメコ
平均収量( 乾燥後)(g/ 本)
マイタケ
きのこ培地の配合(容積比)
培地名
配合比
ブナ培地
ブナ:スギ:コーンコブ:コットンハル:米ヌカ=1:1:1:1:1
クヌギ培地
クヌギ:スギ:コーンコブ:コットンハル:米ヌカ=1:1:1:1:1
ブナ培地
ブナ:米ヌカ=6:1
クヌギ培地
クヌギ:米ヌカ=6:1
60
平均収量
10
50
収穫個数
8
40
6
30
4
20
4
2
0
通常打 ち
短材
刻 み+
駒埋 め
刻 み+
通常打 ち
図-1
6
原木処理区毎の収量と収穫個数
図-2
通常打 ち
0
8
短材
0
10
刻 み+
駒埋 め
2
12
刻 み+
通常打 ち
10
シイタケ平均個重 (g/個)
きのこの種類
福岡 県森 林林 業 技術 セン ター 年報
原木処理区毎の平均個重
140.0
120.0
120.0
100.0
100.0
20.0
40.0
20.0
クヌギ中目培地
クヌギ粗目培地
0.0
クヌギ細目培地
0.0
60.0
クヌギ中粗目培地
40.0
クヌギ粗目培地
60.0
80.0
クヌギ中目培地
80.0
ブナ培地
生重量
生重量(
ビン)
)
( g/ ビン
140.0
ブナ培地
生重量
生重量(
ビン)
)
( g/ ビン
(2010年接種)
図-4 クヌギチップ培地収量(マイタケ)
図-3 クヌギチップ培地収量(ナメコ)
*16ビン/区(収穫1回目)
- 43 -
*24ビン/区
平成 22年 度
福 岡 県森 林 林 業 技術 セ ン ター 年 報
20
県産食用きのこの品質強化に向けた品種育成
県単:
(H22~25年度)
金子 周平・島 晃・山口祐士郎
1.はじめに
福岡県のきのこ生産量は全国の上位を占めている。特にエノキタケやブナシメジの生産量は全国第3
位であり、県の重要な産業でもある。また、近年は新しいきのこの生産に取り組む生産者も多く、クロ
アワビタケの生産も行われている。現在これらのきのこにおける課題として、夏期の空調コスト上昇や
害菌被害の増加(エノキタケ)、夏期の需要減少(ブナシメジ)
、品質劣化しやすい(クロアワビタケ)
という点が挙げられる。これらの解決のために、エノキタケについては、当センター保有菌株から高温
耐性および耐病性を有する菌株の選抜、ブナシメジについては、当センター保有菌株から優良菌株を選
抜・交配によって鍋以外の料理にも広く使える形質を有するような新しい品種の開発、クロアワビタケ
については、交配による新しい品種の開発を目指す。
23年度は、ブナシメジの野生菌株から選抜した18株の栽培試験を行い、市販品種との比較を行った。
クロアワビタケについては、優良株の栽培試験と他品種との交配株の選抜を行った。
2.供試菌と試験方法
1)ブナシメジ選抜株の栽培試験
種菌は野生ブナシメジから選抜した18菌株を供試した。培地材料は増収剤等は用いず、当センタ-で
基本培地としている、スギ鋸屑、綿実殻、コ-ンコブミ-ル、米糠(容量比で2:1:1:1)とした。混合し
て水道水で含水率約68%に調製後、850ml ブナシメジびんに550g ずつ詰め高圧滅菌・放冷後、上記種
菌および市販種菌を接種した。22.5℃±1℃で培養後、菌掻き処理を行い16℃、湿度90%程度の発生室
で子実体を発生させた。びんごとに生重量と柄数を測定した。
2)クロアワビタケ原木栽培子実体から選抜した優良株による栽培試験と交配株の選抜
昨年度、原木栽培により、元菌よりも傘が大きく形質が良好な子実体が得らるという、野外で原木
栽培を行うことの有用性が確認できたので、これら優良菌株を用いて栽培試験による検証を行った。
供試菌として、昨年度にセンターが保有する060327株の原木栽培子実体から選抜した4菌株につい
てスギ鋸屑主体の培地(スギ鋸屑3:綿実殻1:米糠1、550g/850ml)で上記ブナシメジと同様のびん栽
培を行い収穫量や形質について、継代培養により保管している菌株との比較を行った。
また、原木栽培子実体由来の菌株と、従来菌株との交配株から、菌糸体の成長速度と正円性(菌糸
体コロニー短径/菌糸体コロニー長径)を調べた。
3.結果と考察
1)ブナシメジ選抜株の栽培試験
栽培試験の収穫量について図-1に示す。選抜野生株のいずれも登録品種に比べて収穫量が劣った。既
存登録品種を上回る系統作出のためには、登録品種との交配が必要ではないかと考えられた。そのため
に、柄数と生重が少なくない中から、柄が太いもの、傘の巻きが強いいもの、かさの色が薄いもの3菌
株を形質良好として選抜した(図中矢印)
。
2)クロアワビタケ原木栽培で得られた優良株の栽培試験
原木栽培子実体由来優良株の栽培試験結果を図-2に示す。原木栽培子実体由来株の、原木フウAⅡ、
- 44 -
平 成 22年度
福 岡県 森 林 林業 技 術 セ ンタ ー 年 報
原木フウBⅡは、統計的有意差は認められなかったものの、元株である060327を上回り、優良株として
生重(g/びん)
200
生重
柄数
150
100
50
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
丹
波
ブ
ナ
09 シ メ
島 ジ
牧
A向 1
10 坂 1
白
05 98 鳥
八 相 A
甲 聞
田 Ⅲ
09 A-5
島 Ⅳ
牧
A岩 3
手
07 1
釈
10 迦
10 菊
ソ 池
比
ラ
婆
ク
山 0 山
ブ 0大
ナ 浪
シ
メ
98 ジA
元
御 谷
前 E
湧
F
10 PF 水
H . -2
m 1
a Ⅶ
登 大滝
録 ③
登 品種
録 ①
品
種
②
0
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
柄数(/びん)
250
個数(/びん)
選抜した。また、菌糸体培養から、原木栽培子実体由来と現存株の交配株のうち7菌株を選抜した。
菌株
図-1
収量(生重g/びん)
200
150
ブナシメジ選抜野生株の栽培-びん当たり収穫量と柄数-
生重
個数
100
50
0
原木フウAⅡ 原木フウBⅡ 原木フウDⅡ 原木ユリCⅡ 本部C-Ⅱ
60327
Y.T.
菌株
図-2 クロアワビタケ原木栽培由来株の菌床びん栽培-びん当たり収穫量と発生個数-
- 45 -
平 成 22年 度
福岡県森林林業技術センター年報
21
きのこに関する研究
1)カキ剪定枝を用いたヒラタケ栽培
県単:
(H22~24年度)
金子 周平・山口祐士郎・島 晃
1.はじめに
果樹園では、毎年主に冬から春にかけて剪定作業が行われ、大量の剪定枝が発生している。この剪定
枝は野焼き処分されることが多いが、周辺環境への悪影響が懸念されることから平成13年以降、原則禁
止とされている。最近は、粉砕機でチップ化して園内に散布している例がみられるが、剪定枝は難分解
性物質であるリグニンを含むため、土壌に還元されるまで長い年月を要する。そこで、リグニンを分解
する能力を有する白色腐朽菌を接種することにより、キノコの収穫とともに剪定枝の腐朽促進および土
壌への早期還元を目的として、前年に引き続き23年度もカキの剪定枝を用いたヒラタケ栽培を行った。
2.供試菌と試験方法
種菌はヒラタケ(Pleurotus ostreatus 菌株名BMC9073)おがくず種菌を用いた。カキ剪定枝に混合
接種し、2.5kgの培養袋に詰め、殺菌処理は行わず温湿度無調整で培養を行い、袋から取り出した菌床
をプランターに埋め込み野外で子実体を発生させる方法とした。
2011年は、これまでの試験で種菌接種量は全体重の10%で良好なことが明らかになったため、約10%
の種菌のうち50%をヒラタケ廃菌床(ヒラタケ栽培により、一定の子実体を発生させた菌床)と置き換
えた。また一昨年度の成果から米ぬかの添加効果が明らかになったため種菌に米ぬかを加えたが、米ぬ
か増量をスギ鋸屑で置き換えて、チップの空隙を埋めることによる保水効果を見るために、米ぬかの他
にスギ鋸屑を添加する区としない区を設定した。
試験区として、前日より浸水したカキ剪定枝チップ31kgにスギ鋸屑10L、米ぬか5Lと、種菌(ヒラタ
ケおがくず種菌3本とヒラタケ廃菌床3本)を混合接種した試験区Ⅰ(乾重比で約 73:8:9:10)と、
Ⅰでスギ鋸屑を入れない試験区Ⅱ(乾重比で80:10:10)を設定し、3月25日に混合接種した。接種後、
人の出入りのある室内に静置し自然培養を行った。7月29日と8月17日、9月9日の3回に分けてプランタ
に埋設し、クヌギ林内にネット被覆して並べた(写真-1)。スギ鋸屑の有無と埋設日の違いにより1試験
区5個の菌床ブロックとした。プランターに埋設する方法は、剪定時期の遅いウメ剪定枝チップを敷い
た上に、培養袋から取り出した菌床をのせて、周囲を剪定枝で埋め乾燥しないよう上部をボラ土で覆っ
た。適宜潅水を行った。その後、発生した子実体の収穫調査を行った。菌床埋設後全体のうち2個は不
明虫害により除去し、試験区から除外した。
最初に発生した子実体について、カキ栽培工程で使用された殺菌・殺虫農薬13種目について、(財)
福岡県すこやか健康事業団環境科学センタ-で残留分析を行った。
3.結果と考察
2011年も、無殺菌でも培養中の害菌汚染もなく菌の成長に問題は見られなかった。埋設後10月中旬か
ら子実体発生がみられ(写真-2)、翌年1月まで収穫した。積算収穫量を図-1に示す。全体的に各試験
区の間に顕著な差はみられなかったが、平均値としては、米ヌカの他にスギ鋸屑を添加する区と添加し
ない区では無添加がやや収穫量が多い傾向であった。埋設日による傾向はみられず、一定の培養期間を
経れば、支障なく子実体形成されることが認められた。
菌床ブロック(2.5kg)あたりの収穫量を2009年の同試験区(米ぬか10%添加区
700g前後)と比較
すると、今年度の収穫量はほぼ同等であり、種菌の50%を廃菌床で置き換えたことの影響はないと考え
- 46 -
平 成 22年 度
福岡県森林林業技術 センター年報
られた。ただし、同試験の米ぬか20%、40%添加区よりは劣っていた(約25%、30%減)。米ぬか増量
分をスギ鋸屑で置き換えることは逆効果であった。また、今年度子実体発生時期(10月下旬)には前年
度の試験ブロックはすべて消失し土壌に還元されていた。最初に発生した子実体についての農薬残留分
析の結果、13項目すべてが定量下限値未満であり、食用について安心であると認められた。
以上これまでの試験結果から、カキ剪定枝を無殺菌でヒラタケ栽培に使用することが可能であり、こ
れにより剪定後1年で土壌に還元できることが明らかになった。ヒラタケ種菌量は全体の10%でよく、
種菌にヒラタケ廃菌床を混合してもよいこと、さらに米ぬかを添加することで収穫量増の効果がること
が明らかになり、この方法でカキ栽培園への普及が可能であると考えられる。
写真-1
培養菌床埋設
写真-2
ヒラタケ子実体発生
埋設日とスギ鋸屑添加の有無
写真-3 前年度試験で菌床は土壌に還元
9/9スギ添加
9/9スギ無添加
8/17スキ添加
8/17スギ無添加
7/29スキ添加
7/29スギ無添加
0
200
400
600
800
収穫量(g/ブロック)
図-1 ヒラタケ収穫量における菌床埋設日とスギ鋸屑添加の有無の影響
- 47 -
平成 23年 度
福岡 県森 林林 業 技術 セン ター 年報
21 きのこに関
きのこに関する研究
する研究
2)シイタケ原木伏
シイタケ原木伏せ
原木伏せ込み地の害菌害虫調査
県単:H6年度~
谷崎 ゆふ
1 .目 的
しいたけの原木栽培は、毎年の気象条件で成育状況や病虫害の状況が変化する。そこで、その年伏せ
込みした原木を対象に病虫害の発生状況を調査し、今後の原木管理の指標とするものである。
2.調査方法
調査は、「シイタケ伏せ込み地診断」の一環として行った。平成23年度は7月4日~15日の延べ7日間
にわたって、県内全域の30ヵ所(クヌギ計600本)の伏せ込み地を調査した。伏せ込み地において、約20
本の原木を無作為に抽出し、目視により樹皮表面の害菌の占有面積率と害虫の生息痕跡を調査した。
3.調査結果
1)害菌と
害菌とホダ化
ホダ化の傾向
表-1 原木シイタケ害菌調査の結果
表-1に害菌調査結果を、図-1に過去5年
間の主要6害菌の発生状況を示した。
害菌の種別
シトネタケ
クロコブタケ
トリコデルマ属菌
ゴムタケ
ダイダイタケ
ニマイガワキン
ヌルデタケ
クロハナビラタケ
不明菌
害菌計
本年度は過去5年間で最も害菌が少ない年
であった。梅雨末期の暑さを迎える前の調査
だったため菌の発生ピークに達していなかっ
た可能性がある。傾向としては、ゴムタケが
多く出ている調査地はトリコデルマ属菌が多
い傾向にあり、生木の状態で植菌され材内部
の枯死が遅れている可能性がある。他の主要
な害菌は平年より低めであったが、一部シイ
占有面積率(%)
0.76
0.38
1.75
1.15
0.05
0.00
0.04
0.00
0.02
4.15
タケ菌糸の蔓延は上ホダ傾向にあり遅れてい
るところがみられた。調査地の全体的にはほ
8
だ化は順調に進んでいると思われる。
7
2)害虫
にはハラアカコブカミキリの産卵痕が多く確
認された。ハラアカコブカミキリは5cm径以
下の小径木を主に食害するといわれるが、中
径木にも一部食害痕があり今後被害の拡大を
注視する必要がある。
占有面積率(%)
県南・筑豊地区を中心に、裸地伏せの原木
6
シトネタケ
ゴムタケ
トリコデルマ属菌
ニマイガワキン
クロコブタケ
ダイダイタケ
5
4
3
2
1
0
2007
2008
2009
2010
2011
図-1 過去5年間の主要6害菌の発生状況
- 48 -
平 成23年度
福 岡県 森林 林業 技 術セ ンタ ー年 報
22 竹・タケノコに
タケノコに関する研究
する研究
- 竹全伐後の
竹全伐後の再生について
再生について -
県単:
(H22~H24年度)
谷崎 ゆふ
1 .目 的
県内では放置竹林を解消するために、竹を全て伐採する箇所が増えている。通常は、複数年に渡って
除伐する必要があるが、竹を高伐りして再生竹の発生を防いだという事例を検証するために、高伐りに
よる全伐地と通常の地際伐りの再生状況を調査した。
2.調査方法
八女郡内において、冬期に高伐り(地上高約1m)した全伐事業地を半年後に現地調査した。事業地
11箇所にそれぞれ50㎡のプロットを取り、新竹及びササ状の再生竹の発生状況を調査した。
また、モウソウチク試験地に高伐りと慣行の地際伐りの試験区を同時期に設置し、2ヶ月及び5ヶ月
後の再生状況を調査した。
3.調査結果
事業地及び試験区の竹再生状況を図-1に示す。事業地は全ての箇所で新竹及び再生竹の発生が確認
された。特に、伐竹材を棚状に積んでいる箇所では新竹が集中して発生していた。マタケ林では、ほぼ
事業地全面に新竹が発生していた。また、試験区は、事業地と同様に高伐り区で新竹及び再生竹の発生
が確認されたが、地際区では再生竹がみられずまた、新竹の発生本数も少なかった。(写真-2)
所在地
面積
竹林の種類
( ha)
新竹
サ サ 状 除伐効果*
発生
竹発生
備考
北木屋
0.068
モウソウ
○
○
-
高伐り(1m高)
田代
0.500
モウソウ
○
○
-
高伐り(1m高)
笠原
0.343
マタケ
×
○
-
高伐り(1m高)
笠原
0.281
モウソウ
○
○
-
高伐り(1m高)
笠原
0.072
モウソウ
○
○
-
高伐り(1m高)
串毛
0.002
モウソウ
○
○
-
高伐り(1m高)
(試験区)
0.002
モウソウ
○
×
+
地 際 伐 り (0.1m高 )
図-1
写真-1
竹全伐地の伐採高さの違いによる竹の再生状況
高伐りの新竹及び再生竹発生状況(左写真)地際伐り(右写真)
- 49 -
平 成 23年 度
福岡県森林林業技術センター年報
23
竹リグニン有効活用研究会
受託:
(H23~24年度)
森 康浩・荒木真充(三池製錬(株))
木村英仁(三井金属商事(株)
)・土田大輔(県リサイクル総合研究センター)
1.目 的
現在、モウソウチクなどの竹林が、隣接する人工林や農地や宅地などに地下茎を伸長させ、繁殖して
いる。このような侵入竹林では、その土地本来の機能が著しく低下しており、大きな問題になっている。
これに対して各地で伐竹事業が展開されているが、伐竹された竹材は林内に放置されるか、緑化基盤材
などの低位な利用にとどまっている。
当センターでは、竹材の高位利用が侵入竹林対策に大きく貢献すると考え、竹の成分を分離しながら
カスケード利用することも検討し始めた。特に本研究では、主成分の一つであるリグニンの粘結性に着
目し、金属リサイクルへの利用を試みた。すなわち、溶鉱炉を用いた亜鉛のリサイクル過程においては、
製鋼煙灰などの微細な原料を高温で溶融させるため、10cm 程度の大きさの団子に固める(製団)必要
があるが、ここに粘結剤として竹のリグニンが利用できるかを検討した。
なお、本研究は(財)福岡県環境保全公社 リサイクル総合研究センターから実施を受託された標記
研究会において、三池製錬株式会社と三井金属商事株式会社と共同で研究を行った。
2.調査内容および方法
1)原料および蒸解条件
株式会社林田産業(福津市)より購入した竹の切削チップ(長さ約20-50mm、幅約5-20mm)を原料
として使用した。原料からリグニンを得る蒸解の手段としては、以下の二条件を試した。いずれも、
下記条件ごとに化合物を秤量し、蒸留水で3L にメスアップした処理液に、気乾状態の竹チップ(含水
率9.6~11.9%:湿量基準)500g を加え、常圧下にて80℃で3時間蒸解した。
条件1.KP(クラフトパルプ)法によるアルカリ性竹リグニン:
水酸化ナトリウム 200g/L(20%:w/v) + 硫化ナトリウム九水和物 50g/L(5%:w/v)
条件2.SP(サルファイトパルプ)法による中性竹リグニン:
亜硫酸ナトリウム 35.4g/L
+ 亜硫酸水素ナトリウム 36.8g/L
2)製団強度
1)で得た竹リグニン液は、三池製錬株式会社にて含水率50%に調製後、亜鉛リサイクル原料800g
に加え、製団鉱を作製した。一条件あたり10ピースを製団プレス機に供試し、製団強度を測定した。
3)リグニン定量
製団強度の高かった条件1の最適化を図るため、水酸化ナトリウム濃度および硫化ナトリウム九水
和物の有無とリグニン量の関係を調べた。粒度ムラを小さくするため、本実験では、株式会社林田産
業より購入した竹パウダー「竹肥姫」を用いた。下記条件ごとに化合物を秤量し、蒸留水で200ml に
メスアップした処理液に、 99.5%エタノール可溶部を除去した脱脂竹粉33.3g(含水率約6%)を加え、
1)と同様に常圧下にて 80℃で3時間処理した。条件は、蒸留水のみ(Control)、硫化ナトリウム九
水和物5%(w/v)に水酸化ナトリウムをそれぞれ1、5、10、20、25%(w/v)加えた場合、硫化ナトリ
ウム九水和物5%のみで処理した場合、硫化ナトリウム九水和物を加えず水酸化ナトリウム20%で処理
した場合の8条件とした。各処理によるリグニン抽出率は、未処理の脱脂竹粉中の Klason リグニン(酸
不溶性リグニン)の割合に対する、処理後の同リグニンの割合をパーセンテージで求め、それを100%
から差し引いた割合で推定した。
- 50 -
平 成 23年 度
福岡県森林林業技術 センター年報
3.結 果
図-1に、各条件で作製した製団鉱の強度を示す。
第1回目の試験(図-1上)では、三池製錬の現行の粘
結剤であるパルプ廃液(pH3.7、製紙会社より購入)を
用いて製団した場合が158.7kg/cm2 であった。これに対
し、KP 法で得られた竹リグニン液を単独使用した場合
は168.5kg/cm2と若干高かった。しかし、両者を等量混
合して製団するとその強度は142.0kg/cm2と有意に低下
した。次に、改めて作製し直した竹リグニン液を供試
した第2回目(図-1下)では、現行パルプ廃液(pH4.0)
は150.7kg/cm2と第1回目と同程度の値を示したが、KP
法で得られた竹リグニン液を単独使用した場合は199.1
kg/cm2 と有意にこれを上回った。一方、SP 法で得られ
た竹リグニン液の単独使用では、113.8kg/cm2と現行パ
ルプ廃液に比べて有意に低かった。以上のように、KP
法の竹リグニンで製団すると、現行の粘結剤と同等も
しくはそれ以上の強度が得られた。
そこで、KP 法の最適条件を探るため、使用化合物で
ある水酸化ナトリウムの濃度、および補助剤である硫
化ナトリウム九水和物の必要性を検討した。ここでは、
リグニン量が製団強度に影響を与えるという
図-1 各処理液を用いて作製した製団鉱の強度
仮定のもと、各条件のリグニン抽出率を調べ
上は第1回目、下は第2回目の試験結果で、平均値±標準偏差を
た(図-2)。蒸留水のみで竹粉を80℃で3時
表す( n =10)。異なるアルファベット間に有意差あり(Tukeyの
間蒸解しても、竹粉中のリグニンの9.3%しか
HSD検定、 p<0.05)。「現行パルプ廃液」とは、三池精錬で現在
抽出できなかった。これに対し、硫化ナトリ
使用している粘結剤で、「左記等量混合液」とは、「現行パルプ
ウム九水和物5%に水酸化ナトリウム濃度を1
廃液」と「竹リグニン(KP法)」を50%ずつ混合した液で、「無
添加」とは、パルプ廃液や竹リグニンを加えない水のみで、そ
~10%まで加えると、35~43%のリグニンが
れぞれ製団した場合を示す。なお、「無添加」はサンプル数が1
抽出できた。しかし、水酸化ナトリウム濃度
のため、統計解析の対象から除外した。
が20%以上になると、18~20%程度に抽出率
は低下した。図-1の製団強度は、水酸化ナトリ
ウム濃度20%の条件で得られたが、仮にリグニン
量が多い方が製団強度が高いとすると、水酸化ナ
トリウムの使用量をより抑えることができると考
えられた。一方、硫化ナトリウム九水和物につい
ては、単独で処理した場合のリグニン抽出率は34
%と比較的高かったものの、水酸化ナトリウム20
%に5%加えた場合とまったく加えない場合で比較
すると、後者の方が抽出率は高く、添加効果は明
確ではなかった。
今後は、硫化ナトリウム九水和物の必要性の
再検証と、水酸化ナトリウム濃度を下げた場合
図-2 各処理液中の推定リグニン量
平均値±標準偏差を表す( n =3)。異なるアルファベット間
に有意差あり(LSDの多重比較、p <0.05)。
の製団強度を調べていきたい。
- 51 -
Fly UP