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低コスト育林技術の開発
高知県立森林技術センター 平成 24 年度研究成果報告書 平成 25 年 4 月 低コスト育林技術の開発 (ニホンジカ食害防除等に関する試験) 森林経営課:深田英久・渡辺直史 ■ 目 的 近年、ニホンジカの食害等により荒廃し た林地の植生回復が取り組まれていますが、 従来からのネット柵はシカの絡み付きによ るネットの破損、柵の倒壊などに対する機 能維持や設置・撤去コストが課題であると 考えられます。そこで、ニホンジカの生息 密度が高い香美市物部町の香美市市有林 (図1矢印)に試験地を設定し(ニホンジ カの生息密度が 4 頭/km 2 程度では被害が 現れないといわれていますが、試験地に隣 図1 高知県のニホンジカ生息密度分布 2 接する国有林では 70 頭/km を超えるニホ ( 高 知 県 鳥 獣 対 策 課 , 2011) ンジカの生息密度が報告されています)、簡 易な電気柵(心理柵)と従来からのネット柵(物理柵)を用いた植生被害回復効果 について試験を行いました。また、スギ・ヒノキ苗木に対する忌避剤の効果を検証 し ました。 表1 標高 傾斜 ニホンジカ植生被害回復試験の各試験区の概要 斜面 試験区、ネットおよび電気柵の概要 植生量調査プロット 方位 規 格 試験区 設置規模 設置規模 設置数 ■ 内 容 (m) (°) (縦×横) 設置高(cm)等 支柱間隔(m) (縦×横) 1 .植生被害回復試験 ネット柵区 1140 10 W 50m×50m 180(スカート付き) 4 1m×1m 5 電気柵区 1130 5 W 50m×50m 10(アース)・30・60・100・140(5段張り) 4 1m×1m 5 2010 年 4 月に設定 対照区 1120 5 W 31m×32m ----1m×1m 5 した 3 つの試験区で (写真1)、9 月に 3 夏経過後の植生量の比較(プロット内全量刈り取り後、乾燥重 量を測定)を行いました(表 1および写真2)。 3 夏 経過 写真1 設置して間もない頃のネット柵区 写真2 (写真中央から下側) ススキが優占するネット柵内(下側)と タケニグサが優占するネット柵外(上側) - 25 - 高知県立森林技術センター 平成 24 年度研究成果報告書 平成 25 年 4 月 2 .忌避剤効果の検証 スギ・ヒノキ苗木に対 する忌避剤効果の検証を 6~9 月および 9~12 月に行いま した(表2)。 表2 試験区 スギ・ヒノキ苗木に対する忌避剤効果の検証試験区の概要 植栽時平均樹高(cm) スギ ヒノキ 40 43 65 43 38 44 37 44 39 45 39 44 内容および散布量 対照区1 対照区2 試験区1 試験区2 試験区3 試験区4 忌避剤無し コニファー水和剤4倍液 20ml/本 コニファー水和剤4倍液+展着剤 20ml/本 n スギ 21 30 21 21 21 21 ヒノキ 30 40 30 30 30 30 標高 (m) 斜面 方位 傾斜 (°) 1090~ 1120 SW~NW 0~10 注 : 植 栽 間 隔 は 3000 本 /ha を 想 定 し た 。 展 着 剤 は コ ニ フ ァ ー 水 和 剤 4 倍 液 1ℓ に 対 し 0.3ml を 添 加 し た 。 ■ 成 果 1.植生被 害回復効果試験 全植生量はネット柵区、電 気柵区ともに対照区に比べて 3 倍程度多くなりました。 ススキを主としたイネ科植物が全植生量に占める割合は対照区の 0.6%に比べてネ ット柵区、電気柵区ともに 88%で、イネ科植物の植生量はネット柵区、電気柵区と もに対照区に比べて 500 倍以上多くなりました。一方、シカの嗜好性の無いタケニ グサが全植生量に占める割合は対照区の 86%に比べてネット柵区が 0.2%、電気柵 区が 0.3%と少なく、ネット柵および電気柵内はシカ害を受ける以前の自然環境に 回復しつつあるものと考えられます。また、ネット柵区および電気柵区の木本類(ウ ツギ、ヤブウツギ・エゴノキ・ツルウメモドキなど)の植生量は、2 年目は対照区 に比べて差がみられませんでしたが、3 年を経過した時点で増加が確認できました (図2)。ネット柵区と電気柵区との比較では有意な差がみられませんでした。 1600 全植生量 タケニグサ 1200 乾重Kg/10a 1200 1000 800 600 1000 800 600 140 300 200 200 2.0 0 0 対照区 図2 ネット柵区 電気柵区 * * 1.6 3.3 ネット柵区 電気柵区 ネット柵区 電気柵区 * * 80 ** * 20 0 0 対照区 100 40 100 200 120 60 400 400 木本類 160 400 乾重Kg/10a 1400 乾重Kg/10a 180 500 イネ科 1400 乾重Kg/10a 1800 1600 対照区 対照区 ネット柵区 電気柵区 * * ニ ホ ン ジ カ 植 生 被 害 の 回 復 試 験 に よ る 植 生 量 の 比 較 ( 設 置 後 3 年 目 : 2012 年 9 月 ) 対 照 区 と の 比 較 : ** 1% 有 意 差 あ り 。 * 5% 有 意 差 あ り 。 2 .忌避剤効果の検証 6~9 月までは、スギ・ヒノキともに降水量累計が 50mm 程度まで効果がみられ、 忌避剤に展着剤を加えた場合、降水量累計がスギで 700mm、ヒノキで 400mm 程度 まで効果がみられました。一方、9 月に忌避剤を散布した場合は、落葉広葉樹が落 葉し(調査地は標高が高く常緑広葉樹が乏しい環境)、草本類が乏しい冬季(12 月) に入るとスギ・ヒノキともに忌避剤の効果はみられませんでした。 ■ 今後の課題 冬季にも植生 が多い低標高域での忌避剤効果の検証等、継続した調査を行います。 - 26 -