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世界の農林水産 2011年秋号 (通巻824号)

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世界の農林水産 2011年秋号 (通巻824号)
Autumn
2011
World’s Agriculture, Forestry And Fisheries
No.824
特集
開発に向けた
ジェンダーギャップの解消
――FAO「世界食料農業白書( SOFA )2010 ­ 11 年報告」
Report 1
世界の食料ロスと食料廃棄
Report 2
Save and Grow
――小規模農家のための持続可能な農作物生産の強化
Contents
テレフードコンサートのお知らせ
2011 年 11 月 24 日(木)、横浜みなとみらい大ホー
ルにて「テレフードチャリティーコンサート 2011『大
地の詩』
」が開催されます。ピアニストの西本梨江
さん、尺八奏者の藤原道山さん、マリンバ奏者の
SINSKE さんらを迎え、「シルクロードの風」をテー
マにさまざまな曲が演奏されます。コンサートの収
03
特集
開発に向けた
ジェンダーギャップの解消
――FAO「世界食料農業白書( SOFA )2010 ­ 11 年報告」
09
Report 1
15
Report 2
益金は、FAO が途上国で行うテレフード・プロジェ
クトに寄付されます。
お問い合わせ・チケットのお申し込みは、FAO チャ
リティーコンサート実行委員会事務局( 045 ­ 853
­ 1512 )
まで。詳細は下記の FAO 日本事務所ウェ
ブサイトをご覧ください。
www.fao.or.jp/detail/article/359.html
世界の食料ロスと食料廃棄
Save and Grow
――小規模農家のための持続可能な農作物生産の強化
Autumn
2011
19
20
「世界食料デー」月間 2011
みんなで食べる幸せを
Food Outlook
世界の食料需給見通し 2011.6
焦点/市場の概況
26
FAO 水産養殖局とは ? 第 6 回
「漁業・養殖業と環境」問題とFAO の役割
FAO 水産養殖局 上席水産専門官 渡辺 浩幹
30
Zero Hunger Network Japan
ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパン
ネットワーク設立の背景と世界のアライアンス
FAO 日本事務所 企画官 大軒 恵美子
32
World’s Agriculture, Forestry And Fisheries
No.824
FAO 寄託図書館のご案内
世界の農林水産
Autumn 2011
通巻 824 号
平成 23 年 9 月 1 日発行
(年 4 回発行)
発行
(社)国際農林業協働協会( JAICAF )
〒 107-0052
東京都港区赤坂 8-10-39
赤坂 KSA ビル 3F
Tel:03-5772-7880
Fax:03-5772-7680
E-mail:fao @ jaicaf.or.jp
www.jaicaf.or.jp
共同編集
国際連合食糧農業機関( FAO )
AU T U M N 2 0 1 1
日本事務所
33
PHOTO JOURNAL
世界に広がるテレフード・プロジェクト
――アジアの事例を中心に
FAO 日本事務所 副代表 松田 祐吾
02
36
FAO で活躍する日本人 No.25
コミュニケーションの力を生かして
FAO 広報渉外局 コミュニケーションデザイン部 広報担当官 ヴォーン・山下 亜仁香
38
FAO MAP
www.fao.or.jp
編集:宮道 りか、リンダ・ヤオ
(社)国際農林業協働協会
編集:森 麻衣子 今井 ちづる
デザイン:岩本 美奈子
本誌は JAICAF の会員に
お届けしています。
詳しくは JAICAF ウェブサイトを
ご覧ください。
農業労働人口に占める女性の割合 2010 年
古紙パルプ配合率100%
再生紙を使用
The State of
Food and Agriculture
2010 ­ 11
特集
開発に向けた
ジェンダーギャップの解消
―― FAO「世界食料農業白書
( SOFA )
2010 ­ 11 年報告」
開発途上国では、女性は農村経済に大きく貢献しているにもかかわらず、
男性に比べてさまざまな制約に直面している。
FAO の「世界食料農業白書( SOFA )」最新版は、農業発展の
妨げともなっているジェンダーギャップの問題に焦点を当てる。
AU T U M N 2 0 1 1
03
ブドウを栽培するタジキスタンの女性。果樹の苗木を増
やすことで、最も脆弱な立場にある女性農業者の収入と
食料安全保障の向上を目指した FAO のプロジェクトにて。
©FAO / Nasily Maximov
農業セクターは多くの開発途上国で伸び悩
■
雇用形態はパートタイム雇用や季節雇用
んでいるが、その理由のひとつとして、生産
がほとんどで、低賃金労働が多い。
性向上に必要な資源や機会への対等なアク
■
(ジェンダー
セスが女性に与えられていないこと
仕事に対する賃金が男性よりも低い。
同等の経験や能力がある場合でも、同じ
ギャップ)が挙げられる。ジェンダーギャップは、
農業生産、食料安全保障、経済成長の低
こうした現状に対し、
「 SOFA 2010 ­ 11 」は、
迷など、社会に実質的な損失を与える。
農業や農村雇用におけるジェンダーギャップ
■
©FAO / Alessia Pierdomenico
を解消することによって得られる潜在的利益
同業の男性と比べて、女性は次のような問
を、実証的に評価している。開発途上国では、
題を抱えている。
農業労働力に占める女性の割合が平均 43
■
女性の経営する農場は男性に比べて小規
% を占めるが、前述のように農業に従事す
模で、農場の平均面積は半分か 3 分の 2
る女性や農村地域の女性は、男性ほど生産
にすぎない。
FAO 本部で行われた「 SOFA
2010 ­ 11 」の発表記者会見。
■
資源や生産機会へのアクセスに恵まれておら
■
所有する家畜数が男性より少なく、より小
型の品種を飼育している場合が多いため、 いてジェンダーギャップが見受けられる。女
家畜収入も少ない(図 1 )
。
■
水汲みや薪拾いなど、生産性が低く負担
の大きな作業量がきわめて多い。
ず、資産や投入財、サービスの大部分にお
性農業者は男性農業者よりも生産量が少な
いが、これは女性の作業効率が悪いためで
はない。詳細な調査の結果、男女間の生産
■
教育水準が低く、農業に関する情報や普
性の格差は投入財利用の差によることが明
及サービスへのアクセスが少ない(図 2 )。
らかになった。
■
融資など、金融サービスの利用が少ない
(図 3 )
。
■
肥料や改良種子、機械設備といった投入
財の購入が大幅に少ない(図 4 )
。
■
こうしたことから、農業におけるジェンダー
ギャップ解消は、農業セクターのみならず社
会に大きな利益をもたらすと考えられる。女
女性の収入増加を目指したテレフード・プロジェクト( FAO の小規模プロジェクト)で、料理用のソースを作る女性たち(ドミニカ共和国)。
©FAO / Giuseppe Bizzarri
04
サイロの中でトウモロコシを仕
分けする若い女性農業者(モザ
ンビーク)。
©FAO / Giuseppe Bizzarri
図1 ― 世帯別の家畜頭数
女性家長世帯
男性家長世帯
ボリビア
エクアドル
グアテマラ
ニカラグア
パナマ
バングラデシュ
ネパール
ガーナ
マダガスカル
FAO のプロジェクトで導入され
マラウイ
た牛乳の分離器を利用する女
ニカラグア
性農業者。生クリームやバター
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
平均熱帯家畜頭数
(TLU)
を作って販売することができる
(タジキスタン)。
©FAO / Vasily Maximov
注 各国政府による世帯調査から算出している
家畜頭数は熱帯家畜単位(TLU=250kg の家畜)から算出しているが、尺度は地域によって異なる
例えば南アメリカの場合、牛 1 頭=0.7TLU、豚 1 頭=0.2、羊 1 頭=0.1、鶏 1 羽=0.01
グアテマラを除き、男女の家長世帯の差異は統計学的に 95% の信頼度を持つ
出典:FAO、RIGA チーム、Anriquez, 2010
図2 ― 農村世帯の家長の教育水準
女性家長世帯
男性家長世帯
ボリビア
エクアドル
グアテマラ
ニカラグア
パナマ
搾ったミルクをひょうたんに入
れて家に向かうマサイ族の女性
バングラデシュ
(タンザニア)。
インドネシア
©FAO / Giuseppe Bizzarri
AU T U M N 2 0 1 1
ネパール
パキスタン
タジキスタン
ベトナム
05
ガーナ
マダガスカル
マラウイ
ニカラグア
特集
0
1
2
3
4
5
6
教育を受けた平均年数
7
8
9
10
11
開発に向けた
ジェンダーギャップの解消
The State of
出典:FAO、RIGA チーム、Anriquez, 2010
Food and Agriculture
2010 ­ 11
図3 ― 農村地域における融資の利用
女性家長世帯
男性家長世帯
エクアドル
グアテマラ
パナマ
インドネシア
ネパール
ベトナム
ガーナ
タンザニアの Sekoine 農業大
学で研究する女性。この大学は、
FAO の LinKS プロジェクト(食
マダガスカル
マラウイ
料安全保障の達成に向けてジェンダー、
0
生物多様性、地域の知識体系の結び
10
20
30
つきを強めることを目指すプロジェクト)
と提携している。
©FAO / Giuseppe Bizzarri
40
50
60
70
80
融資を利用する世帯の割合
(%)
注 各国政府による世帯調査から算出している
ジェンダーギャップは、男性、女性家長世帯それぞれが融資利用に占める割合から算出している
出典:FAO、RIGA チーム、Anriquez, 2010
図4 ― 世帯別に見た機械設備の利用
女性家長世帯
男性家長世帯
エクアドル
グアテマラ
ニカラグア
パナマ
フィリピンのミンダナオ島で行
われたファーマー・フィールド・
スクール。
©FAO / Bahag
バングラデシュ
インドネシア
AU T U M N 2 0 1 1
ネパール
タジキスタン
ベトナム
ガーナ
06
マダガスカル
マラウイ
ニカラグア
0
5
10
15
注 各国政府による世帯調査から算出している
男女の家長世帯の差異は統計学的に 95% の信頼度を持つ
20
25
30
機械設備を利用する世帯の割合
(%)
35
40
45
50
出典:FAO、RIGA チーム、Anriquez, 2010
特集
開発に向けた
ジェンダーギャップの解消
The State of
Food and Agriculture
2010 ­ 11
自分たちで作った冷凍食品を見せる女性組合の人々(ガザ地区)。
©FAO / Marco Longari
性が男性と同等に生産資源にアクセスできれ
融サービス、労働市場へのアクセスにおけ
ば、農場の生産量を 20 ­ 30% 引き上げる
る女性差別を撤廃する。
ことができるとみられている。これにより、開
■
発途上諸国の農業総生産は 2.5 ­ 4% 増加
きるよう、労力節約および生産性向上に
する可能性がある。このように生産量が大幅
関わる技術やインフラへ投資する。
に増加すると、世界中で飢餓に苦しむ人々
■
柔軟で効率的かつ公正な農村労働市場
The State of Food
and Agriculture
2010 ­ 11
の数を 12 ­ 17% 減らすことができる。
への女性参加を促進する。
世界食料農業白書( SOFA )
2010 ­ 11 年報告
女性が生産的な活動に時間を有効利用で
■
■
FAO が毎年発表する世界の食
こうした潜在的な生産利益は、現在農業に
ジェンダーギャップ解消の青写真はないが、
料・農業に関する報告書。地
従事している女性の数や生産量、農場の面
共通した基本原則はいくつかある。政府、
本年版は、特に開発途上国に
積、ジェンダーギャップの大きさによって地域
国際社会、市民社会が互いに協力し合い、
ェンダーギャップに焦点を当て、
で異なるが、ジェンダーギャップ解消によって
法律によって差別を撤廃し、資源や機会へ
その実態と、格差解消の重要性、
もたらされるこうした利益は、社会的利益の
の平等なアクセスを促進し、ジェンダー平等
第一段階にすぎない。女性が副収入を管理
を考慮した農業政策や農業プログラムを策
するようになれば、女性は男性以上に食料
定し、持続可能な発展に向けた対等なパー
や健康管理、衣服、子どもの教育などにお
トナーとして女性の声を反映すべきである。
金を費やす。これは、福利に即時の恩恵を
農業におけるジェンダー平等と女性の地位
もたらすだけではなく、長期的にも人的資本
向上を達成することは、正しい行動であるだ
の形成や経済成長によい影響を与える。
けでなく、農業の発展や食料安全保障にとっ
政策介入は、農業や農村部の労働市場
てもきわめて重要である。
■ 農業資源、教育、農業普及サービスや金
出典:「 The State of Food and Agriculture 2010 ­ 11 」
(パンフレットおよび本文より)FAO,
2011
解決への道筋を論じています。
www.fao.org/docrep/013/
i2050e/i2050e00.htm
FAO 2011 年 3 月発行
147 ページ A4 判 英語ほか
ISBN:978-92-5-106768-0
07
改革の優先分野は次の通りである。
根強くみられる農業におけるジ
AU T U M N 2 0 1 1
におけるジェンダーギャップ解消に役立つ。
域別の概観を報告するほか、
よくある質問――農業における女性
Q1:開発途上国の農業労働力に占める
農業普及サービスの利用も少ない。
女性の割合は ?
系的に識別することが不可能となっている。
ただし、前者は後者より貧しいことが多い。
A:開発途上諸国の農業人口における女
Q4:女性・女児は世界の貧困層の大半
また、2008 年の食料価格危機の際、農
性の割合は、平均 43% である。ラテンア
を占めるのか ?
村部の女性家長世帯は男性家長世帯より
メリカでは約 20%、アフリカやアジアの
A:貧困は通常、個人単位ではなく世帯
も経済的に不安定であったことを示すデ
一部では 50%と差はあるが、60% を越
ごとの収入もしくは消費に基づいて評価さ
ータもある。これは、女性家長世帯は男
えるのは数ヵ国に限られる。女性は農業
れるため、男女別の貧困率は算出するこ
性家長世帯よりも、収入に対する食費の
に従事していることを申告する可能性が低
とができない。男性家長世帯よりも女性
割合が多く、食料増産による対処ができ
いうえ、男性より長時間働いているといっ
家長世帯の方が貧しい( Q6 を参照)、ある
なかったためである。これについても、調
た理由から、労働力に関する統計は農業
いは家庭内で女性に対する著しい不公平
査結果は国によって異なる。
への女性の貢献を過小評価しているとの
が存在するのであれば( Q7 を参照)、女性
批判もある。しかし、生活時間調査からは、
が貧困層の多くを占めると言えるだろう。
Q7:女性・女児は男性・男児よりも栄
開発途上諸国において女性が農業労働
生産資源へのアクセスなど、貧困をより
養不良か。
力の大半を占めているとは言えない。
大きく捉えれば、女性は男性よりも貧しい
A:明白な裏付けはなく、一般論として
と言えるかもしれない( Q3 を参照)。
述べることは難しい。アジアではその可能
Q2:世界の食料のうち、女性が生産し
性があるが、アフリカではそういった傾向
ている割合は ?
Q5:農村の労働市場で、女性への差別
はない、という一部報告はある。明確な
A:この質問については、概念が曖昧で
はあるか。
結論を導き出すには、身体計測や栄養不
データが不十分なため、厳密な答えは出
A:世界的な統計を見ると、ほとんどの
良に関する指標に関して、より綿密な男
せない。「食料」や「生産」をどう定義す
国において、農村で働く女性は男性より
女別データが必要である。ただし、一時
るかにより、回答も異なる。そして何より
も季節労働やパートタイム、低賃金の仕
的な収入減少に対しては、女児は男児よ
重要なのは、食料生産には土地や労働力、
事に従事していることが多く、(教育、年齢、
りもかなり影響を受けやすいという調査結
資本など多くの資源が必要であるが、多
業種を考慮すると)女性は同じ仕事でも賃金
果もある。
くの開発途上国では男女が協力してこれ
が低い。
Q8:女性は男性よりも、子どものために
らの資源を管理しているということである。
したがって、食料生産をジェンダー別に考
Q6:女性家長世帯は最貧困層に属する
副収入を使うか。
えることはあまり重要ではない。
か。
A:多くの国にわたって行われた大規模
A:20 ヵ国において行われた 35 の政府
調査を通して、女性の収入が増えると子
AU T U M N 2 0 1 1
08
Q3:女性は男性よりも農業資源や資金
調査を FAO が分析したところ、女性家長
どもの栄養状態や健康、教育水準が改善
へのアクセスが限られているか。
世帯が男性家長世帯よりも貧しい場合も
されることが確認されている。また、例え
A:はい。これは国や状況にかかわらず、
あれば、反対の場合もあった。したがって、
ば女性の教育水準を改善するなど、家庭
農業に従事する女性に広く見受けられる
一概に判断することはできない。また、
内での女性の影響力を高める他の指標も、
特徴のひとつである。どの地域においても、
十分なデータがないために、独身や、夫
子どもにもよい影響を与える。もちろん例
女性の農業者が管理する土地や家畜は
と死別または離婚した女性家長(法律上の
外はあるが、女性の地位向上は子どもの
男性のそれに比べて少なく、改良種子や
女性家長)世帯と、送金や社会的ネットワ
福利を改善する確実な戦略である。
肥料などの使用、融資や保険の利用もは
ークを通して成人男性に家計を支えてもら
るかに少ない。また、教育水準も低く、
う女性家長(事実上の女性家長)世帯とを体
特集
開発に向けた
ジェンダーギャップの解消
The State of
Food and Agriculture
2010 ­ 11
Report 1
世界の食料ロスと食料廃棄
世界では約 10 億の人々が栄養不足に直面し、
今後ますます増加する人口を養うために更なる食料増産が求められている。
一方で、現在生産されている食料の 3 分の 1 が、
廃棄や損失(ロス)によって失われていることが、
FAO の調査で明らかになった。
パキスタンの首都イスラマバードの市場。 ©FAO / Farooq Naeem
この調査研究は、2011 年 5 月にドイツ・デ
食料のロスと廃棄のタイプ
ュッセルドルフで行われた、国際包装業界見
植物性および動物性食料品の供給チェーン
本市「 Interpack 2011 」における国際会議
を以下の 5 つの領域に区分し、それぞれに
「 Save Food ! 」に合わせ、FAO がスウェー
ついて食料のロス・廃棄を推定した。
デン食料バイオテクノロジー研究所( SIK )に
コンベヤーを流れるジャガイモ
を選別する女性(フランス)。
©FAO / Olivier Thuillie
■
委託して行ったものである。「 Save Food ! 」
植物性の商品・生産物
は、世界全体で失われたり廃棄されている
農業生産:機械的な損傷および/または収
食料に対する懸念の高まりと、これらが世界
穫作業(例えば、脱穀あるいは果実収穫)中の
の貧困や飢餓に与える影響、さらには気候
損耗、収穫後の収穫物の選別除外、その
変動や自然資源の利用に関する懸念に応え
他によるロス。
るために開催された。
収穫後の取扱と貯蔵:取扱、貯蔵および農
調査報告書は、フードチェーン全体を通し
場と流通拠点間の輸送中に生じる損耗や品
て発生する食料の損失(ロス)に焦点を当て、 質劣化によるロスが含まれる。
その規模の大きさを評価している。さらに、
加工:例えば、ジュース製造、缶詰め作業
ロスの原因を特定し、それを防ぐために採り
およびパン焼きなど、加工工場あるいは地場
うる方策を明らかにしている。
での加工工程中に発生する損耗や品質劣化
によるロスが含まれる。ロスは、収穫物が加
果物市場に並ぶリンゴ(フランス)。
©FAO / Olivier Thuillier
食料のロス・廃棄の定義
工に適さないとして選別除外された場合や、
食料のロスとは、人が消費する可食食料を
洗浄、皮むき、薄切りおよび煮沸工程中に、
特定的に扱う供給チェーンの各段階におけ
または加工の中断や事故による損耗によって
る食料の量的減少を意味する。これは、食
発生し得る。
料供給チェーンの生産、収穫後および加工
流通:例えば卸売市場、スーパーマーケット、
の段階で発生する。フードチェーンの最終段
小売店およびオープンマーケットなどにおけ
階(小売および最終的な消費)で発生する食料
る販売システム中のロス・廃棄を含む。
のロスは、食料の「廃棄」と呼ぶ方がふさわ
消費:世帯段階で消費される間のロス・廃
しい。これは小売業者と消費者の習慣に起
棄を含む。
因するものである。
■
■
動物性の商品・生産物
AU T U M N 2 0 1 1
10
食料のロス・廃棄は、人の消費に向けられ
農業生産:牛肉、豚肉および鶏肉の場合、
る生産物についてのみ計測されている(家畜
ロスは動物の飼育中の死亡を指す。魚介類
飼料や食べることのできない一部の生産物は対象と
については、漁獲作業中の廃棄を指す。牛
。したがって、本来は人の消費用で
ならない)
乳については、搾乳牛の病気(乳房炎)によ
ありながら、たまたま人のフードチェーンから
る乳生産量の減少を指す。
外れた食料は、たとえそれがその後で非食
生産後の取扱と貯蔵:牛肉、豚肉および鶏
料(家畜飼料、バイオエネルギー、その他)として
肉の場合、屠殺のための輸送途中の死亡お
利用されたとしても、食料のロスあるいは廃
よび屠殺場における選別廃棄を指す。魚介
棄とみなされる。つまり、
「意図された」非食
類については、水揚げ後の氷詰め、荷造り、
料利用と「意図されなかった」非食料利用を
貯蔵および輸送中の損耗および品質劣化を
区別するもので、後者は食料のロスとしてカ
指す。牛乳については、農場と流通拠点間
ウントされる。
の輸送中の損耗および品質劣化を指す。
Report 1
図1 ― 品目別の生産量(地域別)
サハラ以南アフリカ
北アメリカ、
オセアニア
ヨーロッパ
アジアの先進工業国
北アフリカ、西・中央アジア
南・南西アジア
ラテンアメリカ
世界の食料ロスと食料廃棄
Global Food Losses
and Food Waste
700 100万トン
600
500
400
300
200
100
0
穀物
根茎類
油料作物・豆類
果物・野菜
肉
魚
乳製品
出典:FAO
図2 ― 消費および消費の前段階における1人当たり食料ロス・廃棄量(地域別)
消費者
生産から小売り段階まで
350 100万トン
300
250
200
150
100
50
0
ヨーロッパ
北アメリカ
オセアニア
アジアの
先進工業国
サハラ以南
アフリカ
北アフリカ
南・南西アジア ラテンアメリカ
西・中央アジア
出典:FAO
加工:牛肉、豚肉および鶏肉については、
にして年約 13 億トンが失われ、あるいは捨
ロスは屠殺時の切除処分による損耗、および、 てられていることを示唆している。このうち先
例えばソーセージ製造などの工場での付加
進国が 6 億 7,000 万トン、開発途上国が 6
的加工における損耗を指す。魚介類につい
億 3,000 万トンである。
ては、缶詰やくん製といった工場での加工時
食料のロス・廃棄は、農業生産段階から
におけるロスを指す。牛乳については、工場
家族世帯での消費段階に至る供給チェーン
での牛乳の処理(例えば、殺菌)および、例え
を通して発生する。中・高所得国では、ま
ばチーズやヨーグルトへの牛乳の加工中の
だ人の消費に適している多くの食料が、消費
損耗を指す。
の段階で廃棄されている。さらには、食料
流通:例えば卸売市場、スーパーマーケット、 供給チェーンの早い段階においても、かなり
小売店およびオープンマーケットなど、流通
のロスが発生している。低所得国では、食
システムにおけるロス・廃棄を含む。
料は食料供給チェーンの早い段階あるいは
消費:世帯段階でのロス・廃棄を含む。
途中の段階で失われることが多く、消費者
段階で捨てられる量はごく少ない。
食料ロスの量
1 人当たりでは、開発途上国よりも先進工
研究の結果は、世界全体で人が消費するた
業国の方が、無駄にされている食料が多い。
めに生産された食料のおおよそ 3 分の 1、量
消費者 1 人当たりの食料廃棄量は、ヨーロ
缶詰工場で荷下ろしされるグレ
ープフルーツ(スワジランド)。
©FAO / Florita Botts
エジプトの首都カイロ郊外の屋台で食事する人々。 ©FAO / Alessandra Benedetti
AU T U M N 2 0 1 1
12
ラディッシュの出荷作業(イタリア)。 ©FAO / Giulio Napolitano
ッパと北アメリカでは 95 ­ 115kg / 年である
慣に起因する。農家と仲買人との間の売買
のに対して、サハラ以南アフリカや南・東南
契約が、廃棄される農作物の量に影響を及
アジアでは 6 ­ 11kg / 年であると推定されて
ぼすことがある。食料は、形や外見が完全
いる。
でない食料品を拒むような品質基準によって、
廃棄されることがあるからである。しかし調査
食料ロスの原因と提言
によれば、消費者は外見基準を満たさない
低所得国における食料のロス・廃棄は、そ
商品でも、安全でおいしければ購買する意
の 40% が収穫後および加工の段階で発生
思があることが分かっている。農産物を、ス
している。これは主として、収穫技術、厳し
ーパーマーケットの品質基準に適合する必
い気候条件での貯蔵と冷却施設、インフラ、 要のない、消費者の近いところで販売するの
包装およびマーケティング・システムにおけ
もひとつの提案である。これはファーマーズ・
る財政的、経営的および技術的制約に起因
マーケットや農場販売店などを通じて実現で
している。開発途上国では多くの小規模農
きる。
家が食料不安にさらされており、食料のロス
用途がなく廃棄されてしまう食料の使い道
を削減することは、彼らの暮らし向きに直接
も模索されるべきである。廃棄されたとして
大きな影響を与えるはずである。
も安全性・味・栄養価の点でまだ満足のい
開発途上国における食料供給チェーンは、 く商品であれば、商業・慈善団体が、小売
とりわけ、小規模農家の組織化と、彼らの
業者と共同で収集・販売することも検討でき
生産と販売の多様化および規模の拡大を督
るだろう。
自家用の穀物を保存するため
の改良された倉庫。高床式で
鼠害を防ぐ装置がある(ウガンダ)。
©FAO / Roberto Faidutti
励することによって強化される必要がある。
基盤施設、輸送、食品産業および包装産
今後に向けて
業への投資もまた必要である。公共および
この研究によってまず明らかになったことは、
民間両部門はともにこれを達成する役割を
世界的な食料の廃棄に関する入手可能な知
担っている。
見において、大きなデータの不足――特に、
中・高所得国における食料のロス・廃棄は、 個々の原因によって発生する食料ロスの定
40% が小売・消費段階で発生している。こ
量化、および食料のロスを防止するためのコ
れは主として、供給チェーンにおけるそれぞ
ストに関するデータ不足――が存在すること
れの担当者間の協調の欠如や、消費者の習
である。データが入手できる場合でも、それ
AU T U M N 2 0 1 1
魚介類の廃棄量
は、廃棄量は 730 万トンに下がったことを示した。
この 2 つの数字はそのまま比較できるものではな
いはひどく痛んだもの)――は、世界の海面漁獲量
いが、たとえ前者が過大評価で後者が過小評
の大きな部分を占め、一般に、海洋資源を浪
価であったとしても、減少程度は著しいと考えら
費する不適切な利用と考えられている。最初の
れる。この最新評価数字は、加重調整された
世界全体の検証は 1994 年に公刊され、全体
世界全体の廃棄率の 8% に相当する。とはいえ、
で 2,700 万トンが捨てられていることを明らかに
漁労技術や地域によって大きな開きが存在する。
した。2005 年に FAO が行った最新の世界調査
13
漁業における投棄――総漁獲量のうち海へ戻さ
れる部分(多くの場合、死んだ、死にかけている、ある
Report 1
世界の食料ロスと食料廃棄
Global Food Losses
and Food Waste
Global Food Losses
and Food Waste
公共の関心を高めるために
世界の食料ロスと食料廃棄
デンマークの「 Stop Wasting Food(食料を捨て
先進的な小売業者、銘柄所有者および彼らの
るのを止めよう)
」運動は、食料の購入・消費パタ
供給チェーンに、いずれは家庭のゴミ箱に捨て
ーンを衝動的なものから合理的なものへと方向
られ、最終的には埋め立てにされてしまう廃棄
転換するように奨励するため、各家庭がその日
食料や包装の量の削減に向けた協働アプローチ
に必要とする量に合わせて買い物をすることで
に同調するよう奨励している。また、包装の無
食料の廃棄を回避する方法を消費者に指導し、 駄と消費者の食料廃棄を減らすことを目指して、
より良い家庭計画とショッピングパターンを促し
ている。
研究開発( R&D )、優良事例の指導、および促
進活動を実施している。WRAP は、包装資材
■
製造業者、小売業者、銘柄所有者、供給業者、
イギリスでは、廃棄物・資源アクションプログ
研究所、大学、デザイン業者、環境およびデ
ラム( Waste Reduction Action Plan,WRAP )が、
ザインコンサルタントなどと連携している。
らはしばしば不確実性を伴っている。
を捨て続ければ、生産者と産業段階での解
特に、多くの開発途上国における食料安
決策は限定的な効果しか生まないであろう。
全保障の重要性を考えれば、この分野にお
消費者世帯は、現在の高レベルの食料廃棄
ける更なる調査研究が緊急に必要である。
の原因になっている消費行動について、知ら
さらに、食料のロス・廃棄は、水、土地、
され、変えていく必要がある。
燃料、労働力、資本を含む資源の浪費を意
FAO がスウェーデン食料バイオ
テクノロジー研究所( SIK )に
委託して行った、世界の食料
ロス・廃棄量に関する調査報
告書。その量と原因を地域別
に分析し、具体的な対応策を
提言しています。追って日本語
版も刊行される予定です。
www.fao.org/fileadmin/us
er_upload/ags/publications/
GFL_web.pdf
FAO 2011 年 5 月発行
29 ページ A4 判 英語
■
味し、不要な温室効果ガスの排出につながり、 今日の食料供給チェーンはますますグローバ
ひいては地球温暖化と気候変動の一因とな
ル化している。ある種の食料品目は、世界の
る。
まったく別の場所で生産され、形が変えられ、
将来の最終的な需要増に応えるためには、 消費される。拡大しつつある国際貿易が食
主要食料の生産を増加することが至上課題
料ロスに与えるインパクトは、なお、より詳
であるが、一方で、食料のロスを削減する
細に分析されるべきである。
潜在力を引き出すことで、食料の生産と入手
AU T U M N 2 0 1 1
可能性の間の切迫状態を緩和することがで
出典:「 Global food losses and food waste 」
きる。食料ロス・廃棄の量を減らすための効
FAO, 2011
率的な解決策は、フードチェーン全体にわた
関連ウェブサイト
って存在する。ただし、チェーンの一部分で
FAO Rural Infrastructure and Agro-Industries
Division:www.fao.org/ag/ags/ags-division
実施される(あるいは実施されない)行動は、他
14
の部分にも影響するため、行動はチェーンの
個別の部分にのみ向けられるべきではない。
低所得国では、諸対策はまず、例えば、収
穫技術、農業者教育、貯蔵施設や冷蔵チ
ェーンを改善することによって生産者に展望
Report 1
を与えなければならない。他方、先進工業
世界の食料ロスと食料廃棄
国では、もし消費者が現在のレベルで食料
and Food Waste
Global Food Losses
Report 2
Save and Grow
――小規模農家のための持続可能な農作物生産の強化
増え続ける世界人口を養うためには、農作物生産を強化せざるを得ない。
しかし農民は、今までに例のない制約に直面している。
FAO が提唱する、農業における新しいパラダイムとは。
AU T U M N 2 0 1 1
15
1940 ­ 1960 年代の「緑の革命」は、
品種の種子を農民に適時に配布するに
食料生産の飛躍的な増産を可能にし、 は、植物遺伝資源の収集、植物育種家、
世界の食料安全保障を支えてきた。し
種子の供給とを連携させるシステムの
かしながら、多くの国々では、農作物
大幅な改善が必要となる。過去 1 世紀
生産の強化は農業の天然資源基盤を
の間に、植物遺伝資源の約 75% が失
消耗させ、将来の生産性を脅かしている。 われ、現存している多様性の 3 分の 1 が、
Save and Grow
節約して栽培する
人口増加や気候変動といった
地球規模の課題に農業が直面
するなか、持続可能な食料の
増産を達成するために FAO が
提唱する新しいアプローチ。全
文版はオンラインで購入できる
ほか、下記ウェブサイトでも公
開されています。FAO 寄託図
書館(p.32 )でも閲覧が可能です。
www.fao.org/ag/save-andgrow
FAO 2011 年 5 月発行
112 ページ B5 判 英語ほか
ISBN:978-92-5-106871-7
今後 40 年間に見込まれている需要を
2050 年までに消え去る恐れがある。
満たすために、開発途上国の農民は食
遺伝資源の収集、保護、利用への
料生産を倍増させなければならないが、 支援の拡大が不可欠である。公的な
気候変動と、土地、水、エネルギーを
植物育種プログラムを活性化させる資
めぐる競争激化の複合効果により、こ
金も必要である。公的な種子システムと、
の挑戦は一層困難なものとなっている。 農民が守ってきた種子システムとの結び
こうしたなか、FAO は、持続可能な農
付きを支援し、また地域の種子企業の
作物生産の強化――資源を守り、環境
出現を育むような政策が求められている。
への負荷を減らし、天然資本と生態系
便益を高めつつ、同じ土地面積からよ
農業システム
り多くを生産する――という新しい発想
農民は、保全農業を行うことで、より多
を提唱している。ここでは、そのさまざ
く育てると同時に、天然資源や時間、
まなアプローチを紹介する。
金銭を節約することができる。保全農
業は、耕起を最小限に抑え、土壌表
農作物と品種
層を保護し、農作物を交互に植えるこ
過去数十年に達成された増産の約 50
とで土壌を肥沃にする農法である。こ
% は、遺伝的に改良された穀物品種
の農法では、水の必要量を 30%、エ
の貢献によるものである。植物の育種
ネルギーコストを最大 60%まで削減す
家は、今後、これと同様の成果を達成
ることが可能である。南部アフリカにお
しなければならない。しかし、高収量
ける試験栽培では、トウモロコシの単
AU T U M N 2 0 1 1
インド・ハリヤナ州における、
通常の耕起
栽培に対する不耕起栽培の財政的利点
70
小麦生産における水の生産性
2.5
USドル / ha
60
kg / m³(小麦)
2.0
50
16
1.5
40
30
Report 2
Save and Grow
The Sustainable
Intensification of
Smallholder Crop
Production
1.0
20
0.5
10
0
0
単収
費用節約
純益
出典:FAO
降雨依存型
生産
すべて 降雨依存型生産を
かんがい かんがいで補助
出典:FAO
ファイドヘルビア・アルビダ の木陰と木陰外における作物の単収
※
木陰外
3.5
木陰
トン / ha
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
ミレット
ソルガム
トウモロコシ
※ 学名 faidherbia albida。マメ科の植物。作物の作付期に当たる雨季に、
窒素分を多く含む葉を落とし、乾季に葉を伸ばす。
落花生
出典:FAO
収が 6 倍も増加した。保全農業の農法
な悪しき補助金を排除する政策が必要
は持続可能な強化のカギとなるものだ
となる。降雨依存型の地域では、気候
が、さらに、高収量適用品種という良
変動が何百万という小規模農家を脅か
質の種子の利用や、総合的病害虫管理、 している。降雨依存型地域の生産性を
健全な土壌をベースとした植物栄養、
向上させるためには、干ばつに強い改
効率的な水管理、そして農作物と牧草、 良品種の利用や、水を節約する管理方
森林、家畜の統合も必要である。これ
法が頼りとなるだろう。
らは知識集約型のシステムといえる。フ
ァーマー・フィールド・スクールといった
土壌の健全性
普及型アプローチを通じて能力を育成
生物相と有機物に富んだ土壌は、農作
し、特定の農具の現地生産を可能にす
物の生産性向上の基盤となる。肥料と
る、持続可能な農作物生産の強化に
窒素固定力のある農作物や木々の関係
向けた政策が必要となる。
のように、無機質肥料と天然源が組み
合わさった状態から栄養分が得られる
水管理
とき、単収は最も高くなる。無機質肥
自治体や産業界は、水の利用をめぐり
料を賢明に利用すれば、コストを削減
農業と厳しい競合関係にある。かんが
できるだけではなく、栄養分が植物に
いに対しては、その高い生産性にもか
行き届き、大気や土壌、水路を汚染す
かわらず、土壌の塩化や帯水層の硝酸
ることもない。
塩汚染を含む環境への負荷を減らすよ
土壌の健全性を向上させるための政
う圧力が強まっている。信頼性と柔軟
策としては、土壌肥沃度を高めるような
性の高い水の供給を行う、知識に基づ
保全農業や耕畜連携、アグロフォレスト
いた精密なかんがいは、制限かんがい
リーのシステムを奨励すべきである。機
や廃水の再利用とともに、持続可能な
械的な耕起や肥料の浪費を促すような
強化の重要な基盤となるだろう。その
インセンティブは排除し、農民を尿素の
ためには、農民に水の浪費を促すよう
深層施肥やその土地特有の栄養管理
といった精度の高いアプローチに移行
にアクセスする際の取引き費用を削減す
させていくべきであろう。
る必要がある。多くの国では、非正規
の種子や投入材を売る悪質な取引業
植物防疫
者から農民を保護するための規制が必
よく管理された農業システムのもとでは、 要である。開発途上国では、農民に適
抵抗性品種を活用したり、天敵を守っ
正な技術を提供し、ファーマー・フィー
たり、害虫の繁殖を抑えるよう作物の
ルド・スクールを通じて彼らの技術を高
栄養分レベルを管理するなどの方法に
めるために、研究・技術移転能力の再
より、害虫による作物の損失を最小限
建のための大幅な投資が求められてい
のレベルに抑えることができる。疾病対
る。
策として推奨されるものとして、無菌の
植付資材の利用や、病原体を抑えるた
以上に見てきたような持続可能な農作
めの輪作、感染源となっている植物の
「 Save and Grow
物生産の強化は、
排除などが挙げられる。効果的な雑草
―節約して栽培する―」という言葉に要
管理には、時宜に適った手作業による
約される。
「持続可能な強化」とは、天
除草、最小限の耕起、土壌表面の残
然資源を節約して使うと同時に増大さ
存物の活用が必要となる。照準を定め
せる、生産的な農業を意味する。これ
た防除のためには、必要に応じて、リス
には、作物の成長に対して自然の力を
クの低い合成農薬を、適量かつ適時に
引き出し、適切かつ適量の外部投入材
使用すべきである。総合的病害虫管理
を適時に与える生態系アプローチが利
は、ファーマー・フィールド・スクール
用される。
や生物防除剤の現地生産、厳しい農
今後 15 年先を見据えた FAO の目標
薬規制、農薬補助金の排除を通じて
は、開発途上国がこうした「 Save and
促進することができる。
Grow―持続可能な農作物生産の強
化―」の政策とアプローチを適用する
政策と制度
支援をすることである。
まず第一に、農業は採算の取れるもの
でなければならない。農民は投入材を
出典:パンフレット「 Save and grow:A policy-
購入することができ、農産物を適正な
maker s guide to the sustainable intensification
of smallholder crop production 」FAO, 2011
価格で売ることが保障されていなけれ
ばならない。一部の国では、生産物に
対して最低価格を固定することで彼ら
の収入を保護している。低所得生産者
を対象に、投入材に対して「スマート補
」を開発している
助金( smart subsidy )
国もある。政策立案者はまた、小規模
農家が天然資源を賢く利用するように、
インセンティブ――例えば環境便益に
対する支払いなど――を考案し、投資
に際して緊急に必要となる、クレジット
Report 2
Save and Grow
The Sustainable
Intensification of
Smallholder Crop
Production
「 世 界 食 料 デ ー 」月 間 2 0 1 1
10 月 16 日は世界食料デー。国連が制定した世界の食料問題を考える日です。
日本では、世界食料デーと前後する 10 月 1 日 ­ 10 月 31 日を「世界食料デー」月間とし、
国際機関や NGO が協力してさまざまなイベントを行っています。
みんなが食べられる世界を目指します。
今年もさまざまなイベントが始まっています。
安全で「おいしい」ものを食べること。食料をいつでも安
セミナー
心して手に入れられること。それは、誰でも、どこに住ん
7 月30 日
世界と地球の困った現実
8 月 6日
これからの農業と食生活を考えるヒント
8 月25 日
ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパン
によるブルキナファソでの取り組み
って、たくさんの人が食生活に不安を感じています。
9 月16 日
「貧困国」の
「食の安全」に私たちの責任 ?
今、世界や日本で何が起きているのか。
「世界食料
9 月28 日
でいても、生まれながらに持っているはずの権利です。
ところが、今、世界に住む 69 億人のうち9 億 2,500
万人もの人が十分に食べられていません。世界各地で
干ばつや洪水を引き起こしている気候変動、再び高騰し
ている食料価格……。日本国内でも東日本大震災によ
デー」月間をきっかけに一緒に考え、解決に向けてでき
ることから始めてみませんか。
――バングラデシュと日本のマーケットから――
食料価格:危機から安定へ
10 月1 ­ 2 日 グローバルフェスタJAPAN 2011(予定)
ボランティア体験
9 月 1日
あなたも参加しませんか ?
団体で 「世界食料デー」月間は、国内外の食料問題
――買っているのに捨てる私たち――
東北へ食品パッケージを届けよう!
プロジェクト
※ すでに終了したものもあります。ご了承ください。
に取り組む団体が連携して実施しています。イベントでチ
ラシを配布する、ホームページで食料問題について紹介
詳しくは特設ホームページへ。
個人で イベントに参加する、自分のブログで食料問題
www.worldfoodday-japan.net/
についての情報を発信する、近所の飲食店にチラシを置
いてもらうなど、まずは飢餓や食料問題を知り、できるこ
とから始めてみませんか。
習や社会科など、学校の授業で子どもたちと一緒に考え
てみませんか。
企業・飲食店で チャリティーメニューを提供する、イ
ベントを開催するなど、みなさんのアイデアで、新たな試
みを始めてみませんか。
(特活)アフリカ日本協議会・(特活)WE21 ジャパン・
(社)国際農林業協働協会( JAICAF )・セカンドハーベスト・ジャパン・
日本国際飢餓対策機構・(特活)ハンガー・フリー・ワールド・
緑のサヘル・国連食糧農業機関( FAO )日本事務所
お問い合わせ
(特活)ハンガー・フリー・ワールド
ままだ
担当:儘田
Tel:03 ­ 3261 ­ 4700 Fax:03 ­ 3261 ­ 4701
E-mail:[email protected]
19
学校で 世界とつながっている「食」の問題を、総合学
呼びかけ団体
AU T U M N 2 0 1 1
するなどの関わり方があります。
Foo d Outlo ok
20 1 1 . 6
世界の食料需給見通し
FAO の「 Food Outlook 」は、穀物やその他の基礎的な食料の生産、在庫、貿易の国際的な見通しを、
最近のトレンド分析や予測を盛り込んで解説したものです。
品目別の詳しい解説や、生産や輸出入に関する統計など、全文(英語)は
ウェブサイトにてご覧ください(年 2 回発行)。
www.fao.org/giews/english/fo
っている。加えて、穀物生産が輸出国
作が予想される。しかし、多くの重要
焦点
では不作であるのに対し輸入国では概
な輸出地域では春の天候が不順となっ
ね順調であることが、2007 / 08 年度
ており、収量にも影響を及ぼすとみられ
激動の 2011 年も半ばに入り、主要な
に並ぶ国際価格高騰のインパクトをや
る。ヨーロッパと北アメリカでは、一部
食料作物の市場年度が始まろうとして
わらげた。油料種子セクターでも、需
地域(米国ではトウモロコシ産地)で大雨
いるなか、国際食料市場の最近の進展
給バランス緊迫に支えられて価格が急
が降り、他の地域(米国・ヨーロッパの小
を評価し 2011 / 12 年度の早期予想を
騰した。乳製品および食肉の価格決定
麦産地)では乾燥が長引いたことに、懸
導き出す重要な時期を迎えた。いくつも
も例外ではなく、生産コスト上昇や家
念が集まっている。多くの国がすでに食
の注目すべき展開の中で、より良好な
畜数の減少、在庫の大幅な枯渇により
料価格高騰に取り組んでいるなか、今
供給状況と安定した価格を予想した以
価格は急騰した(食肉の場合、史上最高
年の収穫の結果は、特に現在緊迫度
前の予想は、やっかいな要因を増やし
水準となっている)
。輸出余力縮小の背後
の高いトウモロコシのような作物に関し
つづける予想にとってかわられ、国際価
で、砂糖市場も価格高騰を経験し、こ
て、この先の価格決定を左右する重要
格の上昇は、この数十年みられなかっ
の数ヵ月はいくらか落ち着いた。この状
な要因となるだろう。在庫の急減と、き
た水準に達している。実際、5 月の FA
況を背景に、食料輸入勘定は 1 兆 3,0
わめて限定的な主要作物の生産増にか
O 食料価格指数は 232 ポイントで史上
00 億 USドルと史上最高値に跳ね上が
んがみると、国際価格は高止まりし、
最高に近く、2 月の最高値より6 ポイン
ると予想される。
不安定と予想される。最終的な作柄予
ト低いだけである。天候不順が主要な
高価格予想は一般的に作付け拡大
想を立てるために最も重要な時期はこ
原因ではあるが、日本の大震災や、北
を促すが、今年も例外ではない。高収
れからである。FAO は、これまでと同様
アフリカ・中東諸国を覆う政治的混乱、 益予想は、好天とも相まって、すでに
に、状況を詳しくモニターし、国際社
石油価格の再上昇、長引く金融市場お
南半球で穀物と大豆の収穫増をもたら
会に情報を伝えていく。
よび世界経済の不安定を含む、他の多
している。北半球の国々での冬作作付
くの予期せぬ要因も食料市場の安定を
けもかなり拡大している。しかし、多く
脅かした。
の場合、今年の穀物生産の増加予想は、
穀物市場においては、その多くを占
作付け拡大だけによるものではなく通
める大麦、トウモロコシおよび小麦が、
常の天候条件回復予想にも依拠してい
生産に関わる問題と在庫減少の影響を
る。ロシアでは、昨年の壊滅的な乾燥
穀物
受けている。世界最大のトウモロコシ
気候から、より通常の天候に回復して
2011 年の世界の生産増により、供給
生産国であり輸出国である米国では、
いるため、供給改善が予想される。同
不足気味であった市場は緩和されると
トウモロコシ在庫が危機的な水準まで
国が 2011 年 7 月から輸出禁止措置を
予想されるが、在庫を十分に回復する
低下した。コメは、記録的な世界生産
撤廃すると発表したことも好材料となっ
には至らないとみられる。2011 年の世
と大きな期首在庫のおかげで例外とな
ている。好天により、ウクライナでも豊
界の穀物生産に関する最初の予想は、
F ocus
AU T U M N 2 0 1 1
M a rk et Su mma rie s
市場の概況
20
2010 年の前年比 1% 減に対し、3.5
最も増加する一方で、粗粒穀物在庫は
回復は、北アメリカとヨーロッパの一部
% 増と回復し記録的なものになることを
微増、小麦在庫はさらに減少すると見
で春の天候が異常であったため、3 月
示している。単収の回復と作付け拡大
られる。予想される世界在庫のわずか
に発表された FAO の最初の生産予想
の予想がこの生産増の主な理由である。 な増加は、21% 前後の低水準にとどま
を若干下回る。需要は前年ほど急速に
世界の小麦生産は、主としてロシアに
っている利用に対する在庫率を引き上
上昇していないものの、世界生産は予
おける生産予想改善を反映し、生産減
げるには不十分である。2011 / 12 年
想される需要を満たすには不十分とみ
であった昨年より3.2% 増加すると見込
度の世界の穀物貿易に関するFAO の
られる。2011 / 12 年度の世界の小麦
まれる。世界の粗粒穀物生産は 3.9%
最初の予想は、2010 / 11 年度より微
利用はわずか 1% 増の、6 億 7,700 万
増加し、2008 年の記録を超えると予
増することを示しており、小麦は輸入が
トンと予想される。新年度における飼料
想される。この生産増の多くは、米国
増加、粗粒穀物は減少、コメは堅調と
利用は、CIS での粗粒穀物供給回復予
と独立国家共同体( CIS )で予想されて
みられる。全穀物生産が消費をかろう
想により、減速するとみられる。世界の
いる。予備的な予想ではあるが、世界
じて満たす状態であることから、国際価
小麦在庫は、2011 年末には 2010 年
のコメ生産も、天候条件の改善が予想
格は高止まりするとみられ、特に小麦と
の水準を大きく下回ると予想されている
されることから1.8% 増加し、史上最
粗粒穀物市場では可能性が高い。ロシ
が、2012 年の期末にはさらに減少し、
高値に達すると予想される。
アの輸出禁止措置解除は価格低下圧
1 億 8,300 万トンになると予想される。
2011 / 12 年度の全穀物利用の最初
力の材料となるが、米国とEU の主要
この水準では、新年度( 2011 / 12 年度)
の予想は、バイオ燃料生産向け穀物の
生産国での不確実な収穫予想により、
の世界の利用に対する在庫率は若干
工業利用増加率が減速した結果、20
国際穀物価格は変動しやすいと予想さ
下落し、27% 前後となるとみられるが、
10 / 11 年度の前年比 2% 増に対し、
れる。
それでも2007/ 08 年度の低水準 22.6
% を上回ることになる。当初の指標に
1.4% 増となることを示している。2012
年、穀物年度終了時の全穀物の期末
小麦
よると、2010 / 11 年度に落ち込んだ世
在庫は 4 億 9,400 万トンとなり、大きく
2010 年に急落した世界の小麦生産は、 界の小麦貿易は、若干回復するとみら
減少した期首在庫からわずか 1%しか
2011 年に 3.2% 増 加し、6 億 7,400
れる。2011 / 12 年度の世界貿易は、
増加しないと予想される。コメ在庫が
万トン近くに達すると予想される。生産
2010 / 11 年度を 200 万トン上回る1
小麦の生産、
利用、
在庫
生産(左軸)
利用(左軸)
2400 100万トン
在庫(右軸)
100万トン
800
700
2200
600
2100
500
2000
400
1900
300
1800
200
01 / 02
03 / 04
05 / 06
07 / 08
09 / 10
11 / 12年
予測
出典:FAO
利用(左軸)
700 100万トン
在庫(右軸)
100万トン
300
650
250
600
200
550
150
500
01 / 02
03 / 04
05 / 06
07 / 08
09 / 10
100
11 / 12年
予測
出典:FAO
21
2300
生産(左軸)
AU T U M N 2 0 1 1
穀物の生産、利用、在庫
Food Outlook
世界の食料需給見通し
億 2,500 万トンと見積もられる。多くは
この予想生産量は、2011 / 12 年度に
縮小の主要因だが、一部の輸入国で
アジアとEUの一部の国々の輸入拡大に
予想される利用をかろうじて満たすだけ
の豊作予想も、輸入を抑制すると予想
よるものである。米国の小麦輸出の急
とみられる。2011 / 12 年度の粗粒穀
される。価格上昇の可能性は需要の一
減は、CIS 諸国の輸出増によって相殺
物の飼料および工業向けの利用は、
部分散につながることから、多くは最終
されると予想される。5 月、国際小麦
2010 / 11 年度ほど急速ではないもの
的な収穫によって決まるものの、2011
価格は天候懸念と不確実な生産予想
の増加し、全利用量を約 1.4% 増加さ
/ 12 年度の市場価格は低めに流れると
に反応した。価格は 2 月の高値を下回
せるとみられる。こうした生産と利用に
予想される。
っているものの、米国の小麦先物価格
関する予想に対し、世界在庫は 2011
は昨年同期を約 75% 上回っており、
年に予想された大幅な減少から若干回
コメ
通常の価格水準への復帰の見通しは、 復するとみられるが、積み増しは 1.3%
2010 年の第二期に国際コメ市場を特
少なくとも新年度の前半( 7 月 ­ 12 月)に
にとどまり、1 億 6,770 万トンになると
徴づけた価格上昇は 12 月に収束し始
は立っていない。
予想される。結果として、利用に対する
め、2011 年 5 月までにコメ価格は 1 月
在庫率は歴史的な低水準にとどまり、
の価格を 3% 下回った。それでも20
粗粒穀物
国際価格は何ヵ月も続く粗粒穀物市場
10 年 5 月の価格を 22% 上回っている。
年度初期の現時点では、2011 / 12 年
のひっ迫を反映して、2010 年同期の
さまざまな問題を伴った結果、先の 11
度の粗粒穀物需給見通しは暫定的な
水準を 50% から100% 上回っている。 月の予想より生産減となった耕作年度
ものである。今年の作付けが完了して
2011 / 12 年度、トウモロコシは 2008
であったが、2010 年の世界のコメ生
いない北半球での耕作に不適な天候
年の高値を上回る価格で取引きされて
産は 1.8% 増加して史上最高となった。
条件が、今年の収穫量の予想を、こと
おり、トウモロコシ古物( 2010 年産)は
2011 年の早期予想も良好で、通常の
に複雑なものにしている。しかし、見通
12 月収穫の新物に対し相当のプレミア
天候条件と政府による着実な支援があ
しはほぼすべての主要生産国において
ムが付加された相場となっている。20
れば 2.6% の生産増が予想される。
良好で、世界生産は 2010 年から3.9
10 / 11 年度に急増した世界貿易は、
コメ貿易は、アフリカ、北アメリカお
% 増の 11 億 6,500 万トンと、史上最
若干減少して 1 億 1,900 万トンになると
よびヨーロッパでの取引量の増加に支
高値に達すると予想される。それでも、 予想される。高価格は確かにこの貿易
えられて、2011 年に 1.4% 増加し、20
AU T U M N 2 0 1 1
粗粒穀物の生産、利用、在庫
コメの生産、
利用、
期末在庫
生産(左軸)
利用(左軸)
在庫(右軸)
生産(左軸)
利用(左軸)
在庫(右軸)
22
300
470 100万トン(精米換算)
1100
250
440
150
1000
200
410
120
900
150
380
90
100
350
1200 100万トン
100万トン
800
01 / 02
03 / 04
05 / 06
07 / 08
09 / 10
11 / 12年
予測
出典:FAO
(精米換算) 180
100万トン
60
00 / 01
02 / 03
04 / 05
06 / 07
08 / 09
10 / 11年
予測
出典:FAO
07 年の記録的水準に近づくと予想され
この継続する価格上昇は、主として着
砂糖
る。輸出国では、タイとベトナムが貿易
実な需要拡大と主要輸入国の購買意
FAO の最新の推定によれば、世界の
量の増加分の多くをカバーする一方、
欲と結びついた国際的な需給バランス
砂 糖 生 産は 2010 / 11 年 度に 1 億 6,
エジプト、パキスタンおよび米国の積み
緊迫度の高まりを反映している。穀物
570 万トンに達し、2009 / 10 年 度を
出し量は昨年を下回ると予想される。
市場の緊迫度の高まりの影響も、この
5.8% 上回る。2007 / 08 年度以降で
世界のコメ利用は 2011 年に 2% 増
傾向を後押しした。この数ヵ月、大豆
は初めて、世界生産が消費を上回った
加すると予想される。1人当たりで見ると、 およびパーム油の生産予想の改善によ
が、余剰は世界の砂糖在庫を通常の
高価格が制約となって、コメの食用利
って価格はいくらか軟化したものの、こ
水準に回復させるには不十分と予想さ
用量に変化はなく、年間約 56kgとなる
の傾向が続くとはみられていない。実際、 れる。生産増加分の多くは、ブラジル
と予想される。コメの高価格は、各国
2011 / 12 年度の当初予想は、国際油
とタイでの豊作およびインドでの生産回
政府の食料価格高騰を抑制する対策
脂 / 油かす市場の現在の緊迫が、次年
復による。この生産増は、過去 2 年間
も呼び起こした。
度も継続し、さらに強まるとしている。
大勢を占めた国際砂糖価格の高価格
世界生産が消費を上回っていること
現時点で、2011 / 12 年度は低水準の
に促されたものである。
から、2011 年の世界のコメ在庫は 20
繰り越し在庫で始まり、特に油料作物
世界の砂糖消費は 2009 / 10 年度
02 年以降最高水準に達すると予想さ
と穀物との間で農地をめぐる競合が高ま
の減速から回復し始めているが、2010
れる。世界生産は今後も拡大していくこ
ることから、全油料作物生産はごくわず
/11 年度の上昇傾向の経済成長の中で、
とが予想されており、コメ在庫は 2012
かしか増加しないと予想されている。し
比較的高い国内砂糖価格が消費拡大
年にはさらに積み増されるとみられる。
たがって、次年度の供給が、着実に拡
を制約するとみられる。その結果、現
大する油脂/油かすの需要を満たすに
時点では、1 人当たり平均の砂糖消費
油料作物
は不十分で、世界在庫および利用に対
はほとんど増加しないと予想される。世
2009 年に始まった油料作物および派
する在庫率はさらに減少し、その結果、 界貿易は、主要な輸出国の輸出余力
生製品の国際価格の上昇傾向は 2011
将来、油料作物および派生製品の価
低下の結果として、3.6% 縮小すると
/ 12 市場年度も続き、2011 年 2 月に
格上昇が続くことが見込まれる。
予想される。通常の天候条件回復を条
は 2008 年の史上最高値に近づいた。
件とした、2011 / 12 年度の早期予想は、
AU T U M N 2 0 1 1
油料種子、油脂、油かすのFAO月別国際価格指数
国際砂糖協定(ISA)
30 USセント / ポンド
300 2002­2004年=100
油脂
250
2010
2011
25
23
200
2009
20
油かす
150
15
油料種子
100
2008
10
50
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010 2011年
出典:FAO
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11 12月
出典:FAO
Food Outlook
世界の食料需給見通し
作付け拡大を反映して生産量拡大の
牛肉である。一方、羊肉の貿易は伝統
この地域の出荷ピーク時期がやがて終
可能性を示している。実際にそうなった
的輸出国の供給余力不足により低迷す
わるため、今年の残る期間の国際乳製
とすれば、国際砂糖価格は 2011 年初
るとみられる。小売価格が比較的高い
品価格は、南半球における天候条件に
めの高値から下落するとみられる。しか
ことから2011 年の 1 人当たり食肉消費
大きく左右されることになるだろう。
し、在庫水準が比較的低いことから、
量は 41.9kg 前後にとどまるとみられる。 FAO は、現 在、2011 年の世 界の
主要生産地域で予期せぬ天候不順が
途上国では、着実な経済成長によりわ
乳製品生産は 1,400 万トン( 2% )増加
発生すると、国際砂糖価格が再び、急
ずかに増加して 32.0kgとなり、他方、
して 7 億 2,400 万トンになると予想して
激に高騰することもありうる。
先進国の 1 人当たり消費量は 78.4kg
いる。増加の多くは、途上国(特にアル
にとどまると予想される。
ゼンチン、ブラジル、中国、インド)で見込ま
食肉・食肉製品
国際食肉価格は、2011 年 1 月から
れるが、先進国(特にEU、ニュージーラン
飼料価格高騰、疾病の発生および家
着実に上昇しており、豚肉価格が 10%
ドおよび米国)でも増加が予想される。
畜数の減少により、世界の食肉生産は
上昇したことが大きな要因となって、第
上昇基調にある世界の輸入需要によ
2011 年に1%しか拡大せず、2 億 9,4
一四半期に 5% 上昇した。これから数
って乳製品貿易は 5% 増加し、生乳換
00 万トンになると予想される。増加分
ヵ月は、世界の輸入需要の強さと限ら
算で 4,830 万トンとなると予想される。
は家きん類と豚肉セクターからもたらさ
れた輸出余力が組み合わさって、国際
良好な条件に恵まれて、国際的に取引
れる一方、家畜を保持して群れを増や
食肉価格はさらに上昇するとみられる。
されているすべての主要な乳製品、特
に脱脂粉乳( MSP )、全脂粉乳( WMP )
すために世界の牛肉および羊肉生産は
制約されると予想される。
乳製品
およびチーズで増加が見込まれる。貿
強い輸入需要、特に、多くの国々で
アジアでの強い輸入需要と伝統的輸出
易拡大は、主としてアルゼンチン、ベラ
供給が不足し国内価格が高騰している
国の供給余力不足により、乳製品価格
ルーシ、EU、ニュージーランドおよび
アジアの需要により、世界の食肉貿易
は 2011 年第一四半期に急騰した。4
米国からの輸出拡大によるものと予想
は 2.4% 増加し、2,680 万トンになると
月に価格が下落したものの、5 月には北
される。
予想される。増加の多くは豚肉流通の
ヨーロッパの多くの国で平均雨量が平
多くの輸出国で生産拡大が遅れてい
拡大によるもので、一部は家きん類と
年を下回ったため価格が再上昇した。
ることから、増加する輸入需要に応じる
AU T U M N 2 0 1 1
FAO食肉価格指数
FAO国際乳製品価格指数
※
220 2002­2004年=100
190
350 2002­2004年=100
家きん肉
24
牛肉
250
160
130
豚肉
150
100
70
2007
食肉合計
羊肉
2008
2009
50
2010
2011年
出典:FAO
95
97
99
01
03
05
07
09
※ 指数は、
国際的に取り引きされる代表的な乳製品の貿易加重平均値から求めたもの 11年
出典:FAO
ために政府および民間の在庫が減少し
ると予想される。これは養殖生産量の
震と津波は、世界の水産物市場にも影
てきた。在庫水準は現在、最小限とな
拡大と、2010 年に不振だった南米で
響を及ぼし続けている。日本は世界最
っているため、2011 年の貿易への供給
の小型模遠洋魚の漁獲量の回復によっ
大級の水産物輸入国のひとつであり、
余力はますます実際の生産に左右され
ている。太平洋地域のタラ、スケトウダ
日本のインフラの被害、輸送、電力供
ることになる。結果として、今年の残る
ラおよびタイセイヨウサバといった重要
給の分断は、輸入や冷蔵食品・冷凍
期間、国際乳製品価格は、牧草の生
な魚介類の漁獲も増加が予想される。
食品の配送や消費に悪影響を与えた。
育や、干し草・飼料の供給・価格にも
漁獲割り当ての増加および漁獲水産物
加えて、漁業区、養殖場、漁船および
関連して、特に天候条件に鋭敏に反応
の供給増は、多くの国が実施している
加工場の多くが被害を受け、あるいは
することになる。
漁業管理手法が成果を上げ、水産業
破壊された。最も被害の大きかった 3
の持続可能性に良好な長期的影響を
県は、日本の漁獲量の 11%、養殖生
水産物
及ぼしていることを示している。
産量の 17% を占めている。被災地で
特に新興諸国の旺盛な需要に下支えさ
2011 年 4 月、FAO の水産物価格指
は 80% の生産減が予想される。しかし、
れて、2011 年の貿易量と価格は上昇
数は史上最高水準に達した。これは、
日本は魚介類消費の多くを輸入に頼っ
を続けている。価格上昇は、養殖水産
2008 年末から2009 年を通して続いた、 ており、被災地からの供給が実際に全
物全体の堅調な生産増加にもかかわら
価格、利益そして貿易量の低迷という
供給に占める割合はきわめて小さい。
ず、主として供給の遅れが、太平洋地
危機が、多くの操業者にとって過去の
大震災被害および福島原発事故とそ
域のサケ、マス、シーバス、タイ、ティ
ものになったことを意味する。需要は途
の後の放射線汚染が、日本の消費者
ラピアおよびベトナム産のナマズの需要
上国で強く、先進国でも回復しつつある。 感情および消費の及ぼす影響はいまだ
に応じきれていないことに起因している。 供給は増加しているが、生産コスト、
不明である。しかし、消費者の国産水
加えて、生産国の国内での水産物消費
特に飼料、労賃および燃料のコストが
産物に対する反応は、国内生産に直接
の拡大、特にアジアと南米での消費拡
上昇しており、消費者は 2011 年を通し
及んだ影響よりもずっと重要であると考
大により輸出余力に制約がある。
て水産物価格の上昇に直面するとみら
えられる。もし、消費者の選好が輸入
世界の生産は、2011 年に史上最高
れる。
品へ向かうとすれば、世界の水産物市
値に達し、1 億 4,900 万トン前後にな
2011 年 3 月11日に日本を襲った地
場に及ぼす影響は大きいだろう。
翻訳:斉藤 龍一郎
FAO水産物価格指数 計
養殖 計
漁獲 計
150 2005年=100
25
130
AU T U M N 2 0 1 1
出典:「 Food Outlok, June 2011 」FAO, 2011
FAO水産物価格指数
110
90
70
1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011年
出典:Norwegian Seafood Export Council
‌ ‌ ‌ ‌
水 産 養 殖 局
と は
F
O
第6回
4
F
A
O
4
の国、暑いのは当たり前ですが、さらにそれを熱くしたのは、
※1
ワシントン条約( CITES ) の第 15 回締約国会議における
クロマグロをめぐる議論でした。
■
クロマグロというのは、日本では本マグロとも呼ばれ、大き
いものは体長 3m、重さ40kg 以上にもなる、最も大きく、
かつ、最も高価なマグロです。日本沿岸を含む太平洋
および大西洋・地中海に分布しており、大西洋におい
ては、大西洋まぐろ類国際保存委員会( ICCAT )という
地域漁業管理機関がその管理を担っており、他のマグ
ロ類とともに漁獲割当量を含む保存管理措置を決めてい
ます。しかし、価値の高いクロマグロの資源が過剰漁獲
によって減少しつつあり、このままでは絶滅しかねないとい
う危惧から、モナコが CITES の附属書 Iにクロマグロを
掲載しその国際取引を禁止すべきとの提案をしたのです。
CITES の附属書 Iに掲載された魚は、その国際貿易と
公海上での漁業が禁止されてしまいます。もし、それが
認められてしまえば、クロマグロを対象としている漁業者
のみならず、そのほとんどを輸入して消費している日本市
場にとっても一大事であり、締約国会議が近づくにつれて、
新聞やテレビでの報道も過熱気味となりました。
の 役 割
AU T U M N 2 0 1 1
渡辺 浩幹
水産養殖局 上席水産専門官
F
A
O
ただろうと思います。もともとペルシャ湾に突き出した半島
「 漁 業・養 殖 業 と 環 境 」 問 題 と
A
2010 年 3 月、カタール国の首都ドーハはさぞかし暑かっ
26
漁業・養殖業の開発管理と生物多様性保全および環境保護の融合を図る
決め手となるアプローチといえる「生態系アプローチ」に関する水産養殖局出
版物。
■
実は、FAO は CITESと覚書を結んでおり、まぐろ類のよ
うな商業漁業対象魚種に関しては、FAO が事前に専門
家による会合を開き、CITESに対してそれらの種の附属
書への掲載が科学的に適切であるかどうか勧告すること
になっています。多くの漁業者の方々は、おそらく「漁業
を専門に扱っている国連機関であるFAO は、漁業の専
コートジボワール・アビジャン港における缶詰用キハダマグロの水揚げ。
門機関ではない CITESによる漁業規制ともなりかねない
附属書への掲載については否定的な勧告を出すのでは
ないか」と期待されていたのではないでしょうか。しかし、 養殖業の開発・管理と生物多様性の保全および環境
FAO の専門家会合は、附属書 I への掲載を決めるため
の 3 つの要素について、次のような判断を下しました。す
保護との融合を促進するための FAO の役割」という、時
なわち、①対象となる種の生息区域、および②個体数
■
については「附属書掲載の基準には達していない(絶滅
水産委員会での協議に備えて、水産養殖局では、議
を心配するほど生息域は狭くはないし、個体数も少なくない)
」とし
題ごとに事務局文書を作ります。この課題については、
た一方で、③近年の資源の減少率が高いか低いかとい
資源利用保存部のコクラン部長が筆頭担当者となりまし
う点については、
「専門家全員の意見が一致したわけで
た。水産養殖局には、政策経済部と資源利用保存部
はないが過半数の専門家は附属書 I への掲載基準を満
の 2 つの部しかありません。そして、資源利用保存部は、
と考える」
たす(絶滅が心配されるレベルに減少率が達している)
養殖、水産資源管理、漁業技術などを司る部であり、
旨の勧告をしました。
その部長というのは、つまり、水産養殖局の科学部門のト
宜を得た、しかし、とても重い課題でした。
■
ップと言えます。まさに、エース投入! 水産養殖局がこ
結局、CITES の締約国会合では同提案は否決され、
の課題にいかに重きを置いているかが窺える布陣です。
大西洋クロマグロの附属書への掲載は見送られました。
多くの職員が、コクラン部長の指揮下で本件課題の事
しかし、
それ以前になされたFAOの専門家会合の勧告は、 務局文書作成に関わりました。決められた字数の範囲で、
おそらく、FAOに少なからず期待していた世界中の多く
複雑で難しい課題をなるべく分かりやすく説明し、しかも、
の漁業関係者にとって予想を裏切る衝撃的なものであり、 メンバー国が必要な決定を下すに十分な情報を盛り込
んだ文書に仕上げなければなりません。会議までには、
となりました。
もしなくてはなりませんから、時間的にも厳しい制約のなか、
■
関係部署とのすり合わせも行い、もちろん、翻訳や印刷
少しでもよいものをという意気込みで、何度も書き直しが
※
27
2011 年 1 月31日から2 月4日まで開催された第 29 回水 行われました。私も、事務局として、申し訳ないと思い
産委員会で議論された 3 つ目の「イマージング・イシュー」 ながらも、何度、督促したことでしょう。
■
は、特に、この CITESにおけるクロマグロ問題を背景と
2
して、会議 3日目の夕方から取り上げられた議題 9「漁業・ でき上がった水産委員会事務局文書( COFI / 2011 / 7 )
AU T U M N 2 0 1 1
CITESとの関係のみならず、漁業と環境問題における
FAO の立場と役割について疑問が投げかけられる結果
の連携、および、地域漁業機関や関連非政府機関と
の協力を求めました。そして、これからもFAO が行動規
範に基づいた責任ある漁業・養殖業の推進をリードして
いく役割を果たすことを求めました。あわせて、漁業や
養殖業に対する生態系アプローチの重要性も改めて確
認されました。生態系アプローチというのは、あえて一言
ローマのレオナルド・ダ・ビンチ国際空港にある CITES 規制対象品の展示コ
ーナー。こういうものは持ち込んではいけませんと附属書に掲載されている品
目が例示されている。
で言えば、漁業や養殖の管理をするに当たって、対象と
なる魚種のみではなく、その魚の餌となる、あるいはその
魚を餌とする他の生物も含め、その魚の生息する生態系
全体を視野に入れて管理をしていこうというアプローチで
は、事務局文書としてはやや長めですが、それでもたっ
す。その一環として、水産委員会は、混獲の管理と漁
た 14 ページの中に、ぎゅっと中身が凝縮したものとなりま
獲物投棄の削減に関する国際指針も採択しました。
した。同文書は、漁業養殖業の社会・経済・文化的
■
重要性から始まり、その生物多様性や環境に与える影響、
FAOは国連システムの中では唯一、漁業・養殖業を
漁業以外の産業が漁業養殖業および生物多様性や環
専門に扱う部署、すなわち、水産養殖局を持つ専門機
境に与える影響、漁業養殖業の開発と生物多様性保全
関です。しかし、漁業や養殖業は FAO だけが独占的
や環境保護との融合へのアプローチ、そして、そういうア
に扱っているわけではありません。他の国連機関も漁業
プローチをとるにあたっての難しさ、さらに、それを乗り越
にさまざまな形で関わっているものがあります。例えば、
えるために、現在、水産養殖局ではどのような活動を行
ニューヨークにある国連本部には、海洋法条約を司る部
っているのかを説明し、その役割を強化するためにどうす
署があり、FAOとも連携をとりつつ、国連海洋法条約や
ればよいのかをメンバー国に問いかける内容となりました。 公海漁業条約といった漁業に関する国際条約の履行を
難しさの中には、CITESも含めた他のさまざまな国際機
促進しており、毎年行われる国連総会時に持続的漁業
関との連携不足やそれによる活動の重複なども、もちろ
に関する国連決議や海洋法条約履行に関する国連決
ん指摘されました。
議を採択しています。また、例えば、漁船に関しては、
AU T U M N 2 0 1 1
28
■
国際海事機構( IMO )、漁業者の安全や労働環境につ
このような状況を背景に、こうして作られた事務局文書を
いては国際労働機関( ILO )とも常に連携をとりつつ仕事
たたき台にして、水産委員会では、熱い議論が展開さ
をしています。特に、上記 CITES や CBD の事務局を
れました。また、オブザーバーとして参加していたいくつ
務めるUNEP は、それ以外にも移動性野生生物種の保
かの非政府機関も発言を行いました。その結果、水産
全に関する条約( CMS )等、水産生物とも関わりのある
委員会は、まず、FAO が、漁業・養殖業についての
複数の国際条約の事務局も務めており、海洋環境の保
国際的課題に関する科学的な知見と助言を提供する第
全という立場から漁業や養殖業との関係を深めつつあり
一義的な機関であることを再確認しました。そして、特に、 ます。さらに、国連機関以外でも、地域漁業機関や非
CITES や生物多様性条約( CBD )、そしてそれらの事
政府機関など漁業・養殖業に関与し、あるいは、関心
務局も務める国連環境計画( UNEP )等関連国際機関と
を持つ国際的な機関が多数あります。FAOとしても、関
係諸機関が漁業や養殖業にも興味を持って関与してく
ややもすると、環境に対する悪影響ばかりが取り上げられ
れることは歓迎ですが、気をつけなくてはならないことは、 てしまう漁業・養殖業ですが、特に漁業は野生生物で
各機関が十分な連携なしにそれぞれ勝手なことをしない
ある魚類に直接依存した産業であり、健全な環境とそこ
ようにすることだと思います。それぞれの立場と得意分野
に生息する健全な水産資源がなければそもそも成り立た
を活かして、お互いに十分に連携をとりつつ協力して、
ない、実は、本質的に環境依存型、だからこそ最も環
重複による無駄はなるべく避け、異なる力を結集すること
境に優しくなければ成り立たない産業なのです。したがっ
で相乗効果を発揮するような取り組みが大切であると思
て、漁業や養殖の持続的開発と生物多様性の保全や
います。
環境保護の融合は、漁業・養殖業が存在する限り必ず
■
取り組んでいかなければならない、最も重要な課題のひ
私自身、2008 年にたまたまローマで開催された CMS の
とつであり、特に、国連システムのなかで唯一漁業・養
回遊性サメ類に関する会議に参加する機会に恵まれまし
殖業を専管する部署を持つ FAO が、積極的に、他の
たが、サメ類を対象としている会議であるにもかかわらず、 関連機関とも連携を図りつつ、この課題をリードする役割
1999 年に採択された FAO のサメ類の保存管理に関す
を果たしていかなければならないと考えています。
る国際行動計画が周知されておらず、ちょっとびっくりし
※ 1 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約。「CITES
た記憶があります。だからこそ、その場で行われたコクラ
ン部長によるFAO のサメ類保存管理への取り組みに関
するプレゼンテーションが高く評価され、感謝されました。
しかし、こういう情報交換は、本来であれば、常日頃か
ら関係機関の間でもっと頻繁に行われるべきでしょう。
FAO 事務局の一員として、深く反省する機会にもなりま
した。
■
=サイテス」と呼ばれる。
※ 2 FAO s Role for Improved Integration of Fisheries and Aquacul-
ture Development and Management, Biodiversity Conservation and
Environmental Protection( COFI / 2001 / 7 ). Rome, FAO. 2011. 14p.
www.fao.org/docrep/meeting/021/k9672E.pdf
渡辺 浩幹 わたなべ ひろもと
1984 年東京水産大学(現東京海洋大学)卒業(水産学博士)。水産庁勤務を経て、
2002 年から FAO 水産養殖局にて勤務。漁業連絡調整官を経て、2010 年
7 月より現職。主な仕事は、地域漁業機関や非政府機関との連絡調整、FA
O 水産委員会の事務局業務等。
A
AU T U M N 2 0 1 1
‌ ‌ ‌ ‌
水 産 養 殖 局
と は
F
O
ためにも、漁業・養殖業と環境保護との融合を図っていくことが大切だと思
います。
次回に続く
29
ローマのスーパーの魚売場の様子。このような豊かな水産物を末永く楽しむ
Zero Hunger Network Japan
ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパン
No.2
ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパンは、飢餓と栄養不良を
なくすための国内連帯です。
ネットワーク設立の背景と
世界のアライアンス
ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパ
政策課題に引き上げる活動を行ってい
ン設立の背景には、飢餓や栄養不良の
ます。
問題をなくすための世界的なアライアン
また、メンバー団体それぞれの取り
ス結成の流れがあります。
組みの相乗効果を図るため、パートナ
今回は、世界のナショナル・アライア
ーシップの組成を促進しています。
ンスのうち、特に活動実績が豊富な米
例えば、米国インディアナ州に本社
国とブラジルの取り組みをご紹介します。
を置く世界的な製薬企業、イーライリリ
■
ー社の一部門で、動物の健康と生産
性の向上に貢献する製品を世界各国
で開発・製造・販売するElanco Ani-
mal Health は、アライアンス創設メン
バーで飢 餓や貧 困の撲 滅を目指す
NGO、Heifer International の協力の
大軒 恵美子
日本事務所 企画官
F
A
O
The Alliance to End Hunger
もと、飢餓に対する取り組みを同社の
所在地:アメリカ合衆国
CSR 戦略に取り入れました。この結果、
加入日:2004 年 10 月 16 日
両者は現在、途上国で飢餓に苦しむ
AU T U M N 2 0 1 1
www.alliancetoendhunger.org/
10 万世帯の生活改善を支援しています。
当該アライアンスでは、有権者の意識
これらに加え、当該アライアンスは、
調査を通じて、政策決定者との対話を
ガーナやグアテマラ、ヨルダンのアライ
促し、飢餓や栄養不良の問題を国の
アンスそれぞれと Twinning と呼ばれ
世界のアライアンス( 2011 年 1月)
30
活動中のアライアンス
設立準備中
世界のアライアンスができるまで
1996 年
世界食料サミットでのローマ宣言において、
2015 年までの飢餓人口の半減を表明。
2000 年
国連総会において国連ミレニアム宣言を採
択し、ローマ宣言の確認( 9 月)。2015 年
までの飢餓・貧困人口の半減をミレニアム
2010 年にローマで開催された
初の NAAH フォーラムの様子。
©FAO / Giulio Napolitano
開発目標( MDGs )に盛り込む。
2002 年
世界食料サミット 5 年後会合において、
1996 年のサミットでの目標を受け、International Alliance Against Hunger
( IAAH――現在の AAHM )宣言を表明。飢餓
の撲滅に向け、政府、国際機関、市民
る連携をとっています。連携の成果のひ
13 人の関係大臣と11 人のオブザーバ
とつとして、2009 年にはヨルダンのア
ーに加え、38 人の市民組織代表から
ライアンスと米国のアライアンスのメンバ
組成された CONSEA の政策提言をも
ー団体であるGlobal Food Banking
とに、
ルラ大統領はゼロハンガー( Fome
Network の協働により、ヨルダンフー
Zero )プログラムを開始しました。
ドバンクが立ち上げられました。この他
同プログラムのもと、同国の最貧層
にも、穀物メジャーとして名高い Cargill
にあたる1,100 万世帯に対し、栄養増
(カーギル社)が、ガーナのアライアンスと
進を図るための費用として月々30ドル
協力して、小規模農家のココア生産性
が支給されたほか、学校給食の充実化
向上や、生産作物の多様化を支援する
や小規模農業の支援などのさまざまな
など、さまざまなパートナーシップを実
政策を通じ、飢餓および栄養不良の削
現しています。
減に大きな成果がもたらされました。
■
社会組織、プライベートセクターを含むす
べての関係者の世界的なパートナーシップ
が呼びかけられる。
2003 年
2002 年のサミットを受け、世界食料デー
にローマ所在の各機関によりIAAH の設
立宣言がなされる。IAAH の設立に続き、
国内の連帯フレームワークであるナショナ
ル・アライアンス( National Alliance Against
Hunger, NAAH )も各国で設立され始める。
2004 年
世界食料安全保障委員会において初の
NAAH フォーラムの実施。
2010 年
FAO 本部において、世界各国のナショナ
ル・アライアンスの代表者が集まり、初の
AAHM 主催の国際会議「 The Way Forward 」を開催。
なお、同プログラム推進において中
心的な役割を担ったグラジアノ・ダ・シ
ルバ氏は、2011 年 6 月の総会にて、
National Council of
Food Security and Nutrition
FAO 次期事務局長に選出されています。
所在地:ブラジル連邦共和国
と連携して積極的な政策提言を続ける
加入日:2003 年 1 月 30 日
ほかに、ブラジルの体験を世界に広め
現在 CONSEA は、国内で市民組織
るため、国際会議への出席や、海外視
ブラジルのアライアンスであるNational
察団の受け入れを通して、世界におけ
Council of Food Security and Nu-
る飢餓や栄養不良の問題解決に寄与し
trition( CONSEA )の起源は、80 年代
ています。
■
ゼロ・ハンガー・ネットワーク・ジャパンとは
安全保障および栄養改善の政策課題
設立時点で 15 団体であったメンバーも、
に対し、市民組織の積極的な関与が
2011 年 7 月現在 21 団体と、着実に拡
求められたのが始まりですが、恒久的
大しています。今年の秋には、世界食
な組織として確立したのは 2002 年のル
料デーにあわせたセミナーの開催も企
ご意見・お問い合わせ先:ゼロ・ハンガー・ネットワ
ラ大統領の当選がきっかけでした。
画しており、今後もより一層の内容充
ーク・ジャパン事務局( FAO 日本事務所内)
省庁横断的な政府審議会として、
実化を図っていきます。
ウェブサイト:http://zerohunger-jp.org
世界の飢餓と栄養不良をなくすための日本国内のアラ
イアンス。2003 年に設立された国際的なアライアン
スと、これに続く各国でのナショナル・アライアンスの
設立が背景にある。
E-mail:[email protected]
31
半ばまで遡ります。国内における食料
AU T U M N 2 0 1 1
www4.planalto.gov.br/consea
Pu b l i c a t i o n s
FAOは「食料・農林水産業に関する世界最大のデータバンク」と
言われており、加盟国や他の国際機関、衛星データ等からさまざ
まな情報を収集・分析・管理し、インターネットや多くの刊行資料
を通じて世界中に情報を提供しています。FAO 寄託図書館は、
日本国内においてこれらの情報を多くの人が自由に利用できるよう、
各種サービスを行っています。お気軽にご利用ください。
FAO 寄託図書館は(社)国際農林業協働協会(JAICAF)が運営しています。
NEW
■ 所在地
神奈川県横浜市西区みなとみらい 1 - 1 - 1
パシフィコ横浜 横浜国際協力センター 5F
OECD-FAO
Agricultural Outlook
2011 ­ 2020
FAO日本事務所内
OECD-FAO 農業見通し 2011 ­ 2020
■ 利用予約および問い合わせ
OECD 諸国と開発途上国の農
Tel:045 - 226 - 3148 Fax:045 - 222 - 1103
E-mail:[email protected]
業をめぐる現状と今後 10 年の
見通しを分析した報告書。バ
イオ燃料、穀物、油料種子、
■ 開館時間
砂糖、食肉、乳製品、水産物
平日10 : 00 ∼ 12 : 30 13 : 30 ∼ 17 : 00
の市場における動向、主要な
■ サービス内容
います。また、農業に関する G
FAO 資料の閲覧(館内のみ)
20 の議論を踏まえて、価格変
動に対する政策対応に 1 節が
問題などの評価が盛り込まれて
インターネット蔵書検索(ウェブサイトより)
レファレンスサービス(電話、E-mail でも受け付けています)
複写サービス(有料)
当てられています。
OECD, FAO 2011 年 6 月発行
192 ページ A4 判 英語ほか
ISBN:978-92-5-106922-6
■ウェブサイ
ト
www.jaicaf.or.jp/fao/library.htm
F A O 寄 託 図 書 館 のご 案 内
FA O D e p o s i t o r y L i b r a r y i n Ja p a n
パシフィコ横浜
国立大ホール
FAO 寄託図書館
横浜国際協力センター 5F
FAO日本事務所内
AU T U M N 2 0 1 1
インターコンチネンタルホテル
展示ホール
会議センター
アクセス
32
徒歩 3 分
みなとみらい駅
2F
JR・横浜市営地下鉄桜木町駅
クイーンズスクエア
でも食育や環境教育のツールと
して注目されています。本書は、
これまで多くのプロジェクトで
学校菜園を導入してきた FAO
ランドマークタワー
いずれの場合も、インターコン
チネンタルホテルを目指してお
エスカレーター
動く歩道
出でください。1階または2階(連
絡橋)のホテル正面入り口に向
より5 階へお越しください。
学校菜園は、途上国で食料や
されているだけでなく、先進国
徒歩 12 分
かって左側にあるエレベーター
学校菜園の新政策
収入を生み出す手段として導入
みなとみらい線みなとみらい駅
クイーンズスクエア連絡口
A New Deal for
School Gardens
至横浜
JR 桜木町駅
至関内
が、学校菜園の歴史や意義、
各国の事例をまとめた冊子です。
FAO 2010 年 7 月発行
24 ページ A4 判 英語ほか
ISBN:978-92-5-106404-7
Photo Journal
世界に広がる
テレフード・プロジェクト
フィリピン
タイ
ベトナム
スリランカ
――アジアの事例を中心に
FAO 日本事務所 副代表 松田 祐吾
パン
バンターディンデン
家庭菜園で葉物野菜の苗代を
準備するプロジェクトの受益者
(スリランカの収入創出プロジェクト)。
でのマイクロ(小規模)プロジェクトの資金を
界的な反飢餓キャンペーンです。1996 年の
集めることを目的に募金活動を行っています。
世界食料サミットで採択された「 2015 年ま
キャンペーン開始以来、2011 年 4 月までに
でに飢餓・栄養不足人口を半減する」という
寄せられた募金額は、2,900 万ドルにのぼり
目標の実現を目指して、1997 年に始まりま
ます。日本においても新聞広告掲載やチャリ
した。新聞などのメディアを通じて飢餓の状
ティーコンサートなどのイベントを行い募金を
況を広く市民に伝えるとともに、開発途上国
行っており、これまで総額で約 3 億 2,000
33
TeleFood(テレフード)は FAO が行っている世
プロジェクトを通じて提供され
た栄養価の高いオートミールの
給食を楽しむ子どもたち(スリラ
。
ンカの学校菜園プロジェクト)
プロジェクトが導入した移動式の屋台で新鮮な野菜と果物を販売する女性農業者(スリランカの収入創出プロジェクト)。
テレフード・プロジェクト
万円を本部に送っています。
■
地域
国
件
プロジェクトは 1 件につき1 万ドルを上限と
アジア・太平洋
32
610
ヨーロッパ
し、資金の金額が種子、農機具、最初の
10
151
栄養改善のための学校菜園プロジェクト
――スリランカ
中東・北アフリカ 12
262
家畜、農業資材などの資材に当てられ、運
西部のコロンボ地区で 2005 年に実施。生
営費用には用いられていません。
徒の栄養と健康の改善を図るため、2 学区
アフリカ
43
1461
ラテンアメリカ・
カリブ
33
751
開発途上国の政府や自治体、NGO など
の 11 校に、学校菜園や適切な食料技術を
1
がプロジェクト実施案を策定し、実施のため
導入した。
3236
の資金援助を FAO 本部に要請します。FAO
複数地域
計
130
の審査で承認されたプロジェクトにこの資金
■
が支給されます。これまでにアフリカを中心
食料安全保障改善と収入創出プロジェクト
――スリランカ
に 130ヵ国で 3,236 のプロジェクトが行われ
2007 年、マタラ地区のニルワラ河流域にあ
ています。本稿では、アジア各国での事例を
るPalatuwa 村および Sulthanagoda 村で
紹介します。
実施。ヤムイモや根茎類の増産と住民の栄
AU T U M N 2 0 1 1
34
左:養殖したフエダイ。 中:養殖用の生簀。 右:受益者の女性たち(すべてベトナム)。
左:当初の計画では想定して
いなかった人工授精の技術。
右:子豚と受益者の女性(すべ
。
てフィリピンの養豚プロジェクト)
養改善を目指し、有機農法ワークショップの
グを実施した。若者の雇用を確保するととも
開催や、農具、肥料の提供を行った。
に、やる気を引き出すことで社会からのドロッ
■
貧困世帯の小規模汽水域養殖
――ベトナム
プアウトを防ぐ効果が期待されている。
■
中部のトウアティエンフエ省で 2009 年に実
マッドクラブ養殖プロジェクト
――フィリピン
施。12 戸の貧困漁家の女性を対象に、小
ミンダナオ島で 2006 年 5 月に実施。マング
規模な汽水域養殖を支援し、生計の向上を
ローブ林において環境に優しいマッドクラブ
図った。2009 年のフエダイの生産は、1 戸
(泥蟹)養殖を導入し、受益者である31 漁
平均 145.7kg の生産を記録し、584ドルの
収入を上げた。そのうち451ドルはコミュニ
ティの基金に積み立て次期の生産に使用さ
家の生計を向上させた。
■
れた。2010 年も女性たちの意欲的な取り組
山岳部族農民の生計改善プロジェクト
――タイ
みにより生産を上げ、女性の家庭内での地
北部のナン州で 2010 ­ 2011 年に実施。焼
位向上につながっている。
き畑などの移動耕作を行っている山岳部族
■
ローブ林の中の池と泥蟹(すべて
フィリピンのマッドクラブ養殖プロジェク
ト)。
農家 50 戸を対象に、集約的な農業、家畜
肥育等の学習および実践を行い、定住農業
農村青年組織による養豚プロジェクト
――フィリピン
への移行と収入確保を図る。農業学習セン
セブ島セブ州で 2005 年 6 月に実施。20 人
ターでの実践に使用するイネや野菜の種子
の若者を組織化し養豚事業を開始した。80
あるいは苗、1,000 羽の鶏のヒナ、有機肥料、
頭の子豚と専用飼料および医薬品を供与し、 鶏用医薬品を供与した。
農業省獣医師による肥育管理のトレーニン
上:養殖池の整備を行うコミュ
ニティーメンバー。 下:マング
Photo Journal
TeleFood
農業学習センターでのプロジェ
AU T U M N 2 0 1 1
左:野菜栽培の実践圃場。 上:
クト完了式典。 下:養鶏の実
35
践(すべてタイ)。
私とFAOとの出会いは 2010 年春に日
キスパートが職員の大多数を占める専
本で行われた採用ミッションでした。
門家集団です。一方、財務、人事、
FAO の仕事について勉強し、食料問
管理業務などのサポート部門でも多くの
題という、今後の世界の地理政治に大
スタッフがプロフェッショナルとして活躍
きな影響を与える課題について関心が
しています。
※
膨らみました。その後、外務省の APO
■
に選ばれ、FAOに派遣されることになり
私は大学で総合政策学を勉強した後、
ました。
日本のテレビ局経済部の記者としてキャ
■
リアをスタートしました。狂牛病や鳥イン
FAOは農林水産分野や国際開発のエ
フルエンザが発生し、生産者、消費者
FAO で
活躍する
日本人
国連で働く、
とは?
No. 25
FAO 広報渉外局
コミュニケーションデザイン部
広報担当官
ヴォーン・
山下 亜仁香
同僚と仕事をする筆者(手前)。
AU T U M N 2 0 1 1
36
にとっての食品安全問題が注目を浴び
を強いられている様子や、驚くほどの貧
ていた時期でしたので、食料問題につ
富の差を目の当たりにし、国際機関で自
いての興味が培われました。その後、
分なりの貢献をしてみたいと考えるように
ジャーナリスト経験を活かせる企業広報
なりました。
に転職するため、欧州の大学院で経営
■
学を学び、夫の転勤に伴いドバイ首長
現在勤務している広報渉外局( Office of
国連邦( UAE )に移って、現地の政府
Corporate Communications and External Re-
系ファンドや投資会社で広報を担当しま
lations, OCE )は、2010 年に組織改革の
した。ドバイでの数年間に、途上国出
一環として設立されました。主な仕事は、
身の低賃金移民労働者が厳しい生活
農林水産業の問題や飢餓・食料問題
について、広報出版やメディア対応を
通じて FAO のブランドイメージを強化す
ること、また他の国際機関や NGO、
関係機関との円滑な関係を構築するこ
とです。特に近年はソーシャルメディア
の発展により、従来のようにマスコミ向け
だけの広報だけでは FAO のメッセージ
が伝わりきらなくなっている面もあり、当
局では Facebook、Twitter などのツール
ローマ本部の建物に張り出された飢餓撲滅キャンペーンの巨大ポスター( 2010 年春)。
による新しい形のコミュニケーションを通
して、新時代に備えた FAO の広報のあ
熱的に取り組んでいます。広報渉外局
るコミュニケーションデザイン部( Commu-
の少数派アジア人スタッフとして、学生
nication and Design Branch, OCER )では、
や NGO などを巻き込み、特にアジア
ソーシャルメディア以外にもFAO の広報
太平洋地域で飢餓問題の認知を高め
資料、世界食料デーなどのイベントに使
たいので、とてもやりがいがあります。
う広告、ウェブサイトに載せるビデオや
■
記事の準備、専属カメラマンが撮影し
民間企業から転職して感じるのは、国
た写真の管理に加えて、FAO 内部で
連が子どもを持つ職員にやさしい環境だ
のコミュニケーションや、FAOグッズを
ということです。私の上司もワーキングマ
販売するブランドショップ(本部 1 階)の経
ザーで家庭と仕事の両立に理解があり、
営などを担当しています。私は主に出
FAOも改革の一環としてジェンダーバラ
版物の原稿執筆や校正、プロジェクトの
ンスを掲げていますので、ますます女
コーディネートを行っています。一般企
性にとって働きやすい職場になるのでは
業の広報と違って公用語への翻訳が必
ないでしょうか。日本のコミュニケーション
要なので、表現や地理、文化に配慮し
上手な若い方に、もっとFAO や食料農
た写真選びなど、細かい神経と多国籍
業問題の仕事に関心を持ってもらえるよ
チームで働けるバランス力が要求されま
うに頑張りたいです。
す。
コミュニケーションの力
を生かして
り方を模索しています。私が所属してい
※ Associate Professional Officer。国際機関にお
こうした広報活動の一環として、FAO
では 2010 年より広く一般市民、とくに若
い人たちを意識した「 1billionhungry
語のウェブサイ
トを運営しています。この
仕事は組織的な枠組みを超えてさまざ
まな実験的なプロジェクトができるので
非常に面白く、アクティブなチームで情
経験を積む機会を提供する外務省の制度。
www.mofa-irc.go.jp/boshu/jpo_haken.htm
関連ウェブサイト
FAO:www.fao.org
37
project 」という啓蒙活動を行っています。
今 年 5 月にはキャンペーンの第 二 弾
「 EndingHunger 」がスタートし、7ヵ国
ける正規職員となるために、一定期間、必要な知識・
AU T U M N 2 0 1 1
■
「 EndingHunger 」のウェブサイト。
www.endinghunger.org
■ FAO MAP
農業労働人口に占める
女性の割合 2010 年
Female share of
economically active in agriculture
AU T U M N 2 0 1 1
< 20%
20 ­ 40%
40 ­ 60%
60 ­ 80%
38
データなし
開発途上国では、平均して人口の半数
これは女性の作業効率が悪いためでは
他の国連機関やパートナーと連携しな
近くが農業に従事し、農業が国の経済
なく、農業投入財の利用格差に原因が
がら、女性の能力強化を目指したプロ
に重要な位置を占めています。このうち
あることが研究によって分かっています。
ジェクトや各国への政策提言などを通
女性農業者は 43% を占めていますが、 農業セクターが多くの開発途上国で
じてジェンダーギャップの解消に取り組
彼女たちは生産資源や生産機会へのア
伸び悩むなか、農業におけるジェンダー
んでいます。
クセスの点で、男性ほど恵まれていない
ギャップ(社会的性差による格差)の解消は、
のが実情です。女性農業者は男性農
農業セクターのみならず社会に大きな
業者よりも生産量が少ないのですが、
利益をもたらすと期待されます。FAO は、
関連ウェブサイト
FAO Gender:www.fao.org/gender
AU T U M N 2 0 1 1
39
「The State of Food and Agriculture 2010 ­ 11」FAO, 2011 より作成
Autumn 2011 通巻 824 号
平成 23 年 9 月 1 日発行(年 4 回発行)
ISSN:0387 ­ 4338 発行:社団法人 国際農林業協働協会( JAICAF )
共同編集:国際連合食糧農業機関( FAO )日本事務所
タンザニアの Sekoine 農業大学の図書館で勉
強する学生。この大学は、FAO の LinKS プロ
ジェクト(食料安全保障の達成に向けてジェンダー、生
物多様性、地域の知識体系の結びつきを強めることを目指
すプロジェクト)と提携している。
©FAO / Giuseppe Bizzarri
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