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経済危機とジェンダー:女性による無償ケア労働を考える

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経済危機とジェンダー:女性による無償ケア労働を考える
UNDP・日本 WID 基金シンポジウム
「経済危機とジェンダー:女性による無償ケア労働を考える」
小田外務省国際協力局審議官冒頭挨拶
冒頭
本日、内外の皆様のご参加を得てこのシンポジウム「経済危機とジェンダー:女性に
よる無償ケア労働を考える」を UNDP と共催できますことを誠に喜ばしく思います。
日本の取組
【ジェンダー】
開発においてジェンダーの視点を適切に反映することは、人間一人一人が自らの
才能と能力を伸ばして自己実現を図り、尊厳を持って生きるという人間の安全保障の
達成のために必要不可欠なものです。従来、女性は開発の一方的な受益者と考えら
れていましたが、日本は女性を単なる受益者として捉えるのではなく、参加主体として
もとらえることが重要であるとの考えの下、WID(ウィド:開発における女性支援)イニ
シアティブを推進し、教育、健康、経済・社会活動への参加という3つの重点分野を掲
げていました。その後、ジェンダーの視点から中立と考えられてきた開発政策や
事業が、結果として男性と女性に対し異なる影響をもたらす場合もあることが
次第に明らかになり、開発におけるジェンダー不平等の要因を、女性と男性の
関係と社会構造の中で把握し、両性の固定的役割分担や、ジェンダー格差を生
み出す制度や仕組みを変革しようとするGAD(ガド:ジェンダーと開発)ア
プローチの重要性が国際的にも認識されるようになってきました。この流れを
受け、日本が2005年に打ち出したのがGADイニシアティブです。我が国
はこのGADイニシアティブの下に、ODAに携わるすべてのステークホルダーが、
教育、保健、農業、インフラ、環境等ODAのすべての分野で、政策立案から実施、モ
ニタリング、評価に至るまでのすべての段階において、ジェンダーの視点を適切に反
映することを通じて、男性と女性の積極的な参画を促し、また平等に便益を受けられ
るように取り組むことでジェンダー平等の実現を推進しています。
昨今の経済・金融危機によって女性が受ける影響は深刻です。世界的な消費の低
迷で、特に、衣料品製造、切り花産業等女性の従業員比率が多い輸出産業で解雇に
よる失業が危惧されています。また金融市場の悪化により、多くの貧困女性に貸し付
けを行ってきたマイクロファイナンス機関の貸し渋りが懸念されます。このような状況
下、「経済危機とジェンダー」という非常に時機を得たテーマで本日シンポジウムが開
催されることはとても有意義であると感じます。
【UNDP との連携】
さて、途上国において「持続可能な人間開発」を基本理念に掲げ、貧困削減、民主
的ガバナンス、危機予防・復興等様々な課題に取り組んでいるUNDP と我が国は密
接なパートナーシップを築いており、共通する開発の優先課題に協力して取り組んで
きました。途上国におけるジェンダー平等も、UNDPと我が国が共通して重視する課
題の一つであり、我が国は1995年の世界女性会議の際にジェンダーの取組を促進
することを目的としてUNDP内に日本WID基金を設立し、これまで累計約 1,809 万ド
ルを支援してきました。日本 WID 基金は2003年10月に、UNDP内の他2基金と整
理統合され、現在は日本UNDPパートナーシップ基金と名前こそ変わりましたが、ジ
ェンダー平等は依然として本基金の重点分野であります。我が国はこの基金を通して、
開発途上国における男女格差是正及び女性のエンパワーメントのための革新的な取
組を支援し、大きな成果を上げてきました。これからもジェンダーを始めとする開発の
課題解決のために、UNDPと力を合わせて取り組んでいきたいと思います。
【ケア】
さて、今回のシンポジウムではジェンダーの中で特に「女性による無償ケア労働」を
テーマとしていますが、これは私たちにとって非常に身近な問題であると同時に、途
上国においても女性のエンパワーメントと密接に関わっています。女性の無償ケア労
働は、女性も含めすべての人々が自己の可能性を実現できるような社会作りを目指
す人間の安全保障にも密接に関連する問題であります。女性の無償ケア労働問題が
認識され、適切な解決策がとられれば、女性の教育及び所得向上への可能性を拡大
することに繋がります。
女性による無償ケア労働という切り口から男女の格差是正に取り組むユニーク且
つ革新的な UNDP のアプローチを我が国はUNDP/日本 WID 基金を通して支援して
います。個別の案件のお話は後ほど UNDP や NGO の方々からお伺いするのを楽し
みにしておりますが、この場を借りて私からお話したいのは、日本が長年行っている
きめ細かい支援が実は女性による無償ケア労働を減らすことに貢献しているというこ
とです。
多くの途上国では水汲みは女性と子どもにより担われています。例えば、ミャンマ
ー中央部の乾燥地帯の井戸のない村では、女性や子どもが徒歩か牛車で遠く離れ
た水場まで水を汲みに行っており、時には月明かりを頼りに水汲みに行くことも珍しく
ありません。大事な労働力である牛も水汲みの間は畑仕事を休ませなければいけま
せん。しかし、日本政府が資金協力を行った日本のNGOと民間企業の協力によって
村に井戸が作られたことによって女性たちは重労働の水汲みから解放されました。村
人たちは「家族団らんの時間ができた」と喜んでいる、と報告されています。
また、青年海外協力隊員による改良かまどの普及が注目されます。メキシコでは、
従来の石を並べただけのかまどから、熱効率が良く使い勝手の良いかまどに転換す
ることで、女性の家事労働の負担が軽減され、社会参加の促進にも繋がると期待さ
れています。この改良かまどは現地での評判もよく、モデル地区以外からも実施の要
請が上がってきているとのことです。ところ変わってニジェールでは、改良かまどの導
入によって毎日行っていた薪集めが週一回だけでよくなり、砂漠化防止に一役買って
いるだけでなく、女性たちが空いた時間で手工芸品を作って売るようになったため現
金収入が増えた、という報告もされています。
100 年に一度と言われる未曾有の金融危機に見舞われた世界で、その影響を最も
受けるのは脆弱な人々、即ち、途上国の子どもや女性を含む最貧困層だといわれて
います。公共サービスの削減や雇用状況の悪化が危惧されるなか、特に途上国の女
性に今まで以上の無償ケア労働が課され、自らの才能や能力を伸ばして自己実現を
図る機会が剥奪されることを私たちは防がなければなりません。今こそ、脆弱な人々
により焦点を当て、貧困の連鎖を断ち切るような支援を通して危機をチャンスに変え
られるよう、今日ここにお集まりの皆さまのお力もお借りして積極的に取り組んでいき
たいと思います。
結び
本日のシンポジウムでの活発な議論を通して無償ケア労働に対する理解が深まる
ことを期待し、また、このようなシンポジウムを開催する必要がなくなる日が来ることを
願って、挨拶に代えさせていただきます。
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