...

Untitled - 基礎化学科

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

Untitled - 基礎化学科
埼玉大学大学院理工学研究科 化学系専攻 基礎化学コース 研究室紹介
目 次
1.はじめに
3
2.教員の専門分野と主な研究テーマ
3
3.本パンフレットの内容,Webページアドレス
4
4.研究室紹介
5
○永澤・藤原研究室
○長谷川研究室
○斎藤雅一研究室
○佐藤研究室
○中林研究室
○高柳研究室
○坂本研究室
○石井研究室
○杉原研究室
○齋藤英樹研究室
○中原研究室
○若狭研究室
○上野研究室
5.博士前期課程修了後の進路
18
6.交通案内
19
−2−
はじめに
埼玉大学大学院理工学研究科 化学系専攻 基礎化学コースでは,「物質とは何か」というシンプルか
つ深淵なるテーマについて,理学的視点に立って教育および研究を行っています。すなわち,無機,有機
を問わずさまざまな物質の反応や性質を研究し,構成原子や分子の構造を調べ,新たな物質を合成し,
さらに機能性の発現を目指しています。1800 万種類という膨大な数の物質が知られ,実際に使用されてい
る現代社会においては,物質の性質や構造および機能を研究することは非常に重要です。
教育においては,化学の研究者,教育者,技術者またはその周辺領域の科学を専攻するものに必要な
知識と技術の習得,問題を発見し解決できる能力の開発,さらに自然科学における「化学」の役割を理解
し,その重要性を認識した広い視野をもつ社会人の育成を目指しています。この目的を効果的に達成す
るために,専門分野の講義や学外の講師による特別講義,研究室における論文輪講や研究報告会が行
われています。さらに修士論文作成のために一つの研究課題に取り組み,研究の最前線を体得することを
目指しています。
教員の専門分野と主な研究テーマ
大学院博士前期課程を担当する教員の専門分野と主な研究内容は下記の通りです。
【専任教員】
物質基礎領域(元素化学研究分野)
教 授
永澤
明
教 授
石井 昭彦
(無機化学・錯体化学)遷移金属錯体の合成,構造および反応
(有機ヘテロアトム化学)14,15 および 16 族元素を含む特異な有機化合物
の合成と反応
准教授
長谷川 登志夫
(有機化学・天然物化学)天然精油成分(特に香気成分)の研究
准教授
杉原 儀昭
(有機化学)含ヘテロアトム有機化合物の合成,構造,反応および機能性
准教授
斎藤 雅一
(有機典型元素化学)ヘテロ原子を含む有機化合物の合成
講 師
齋藤 英樹
(結晶化学・物理化学)新しい機能性固体の合成,構造および物性
講 師
佐藤
(有機化学)新しい芳香族化合物の合成,構造および反応
大
物質機能領域(機能分子解析研究分野)
教 授
中原 弘雄
(物性化学・界面化学)配向分子集合体の構造と物性
教 授
中林 誠一郎
(反応物理化学)表面界面での化学反応の動的な挙動と非線形科学
教 授
若狭 雅信
(光化学・スピン化学)有機・有機金属化合物の光物理化学と磁場効果
教 授
高柳 敏幸
(理論化学・化学反応論)化学反応ダイナミックスにおける量子効果の研究
准教授
上野 啓司
(固体化学・表面物性化学)薄膜・ナノ構造形成とその物性探索
准教授
坂本
(物理化学・構造化学)分光学的手法による分子の機能・構造・ダイナミック
章
ス解析
科学分析支援センター
准教授
藤原 隆司
(無機化学・錯体化学)遷移金属錯体の合成,構造と機能性
−3−
【客員教員】
埼玉大学大学院理工学研究科では,外部の3つの研究機関(理化学研究所,埼玉県環境科学国際セ
ンター,産業技術総合研究所)と連携し,大学院組織を構成しています。基礎化学コースでは,理化学研
究所の研究員が客員教員として博士前期課程も兼担しており,授業および研究指導を行っています。基
礎化学コース客員教員の専門分野と主な研究内容は下記の通りです。
客員教授
伊藤 幸成
(糖質化学)糖タンパク質,糖脂質などの糖関連化合物の合成
客員教授
加藤 礼三
(分子物性化学)有機分子や金属錯体分子を用いた新しい分子性金属・
分子性超伝導体の設計,合成,物性評価
客員教授
侯
召民
(有機金属化学)新しい分子触媒の創製とそれを活用した有機合成反応
や重合反応の開拓
客員教授
坂口 喜生
(スピン化学)光化学反応系に対する磁場と電子・核スピンの効果
客員教授
鈴木 俊法
(化学反応動力学)化学反応の時間分解光電子画像観測,光解離・光イ
オン化の立体動力学,二分子衝突反応ダイナミクスの理論研究
客員教授
袖岡 幹子
(有機合成化学)タンパク質リン酸化・脱リン酸化を制御する分子の創製,
細胞死抑制剤の開発とその分子機構の解明
客員教授
田原 太平
(分子分光学)先端的分光法による凝縮相分子の機能・反応・ダイナミック
スの研究
客員准教授
丑田 公規
(反応理論化学)超分子系の反応のレーザー分光法などによる解析
本パンフレットの内容,Webページアドレス
本パンフレットには,大学院博士前期課程を担当する各専任教員の研究室紹介を掲載しています。研
究室によっては,より詳細な研究室案内を Web ページで公開しています。客員教員の研究室については,
理化学研究所の Web ページを参照してください。
最新の大学院入試関係情報につきましては,大学院理工学研究科の Web ページをご覧下さい。
【Web ページアドレス】
埼玉大学理学部基礎化学科・大学院理工学研究科化学系専攻基礎化学コース
http://www.chem.saitama-u.ac.jp/
埼玉大学総合研究機構 科学分析支援センター
http://www.mlsrc.saitama-u.ac.jp/
埼玉大学大学院理工学研究科
http://www.saitama-u.ac.jp/rikogaku/
埼玉大学
http://www.saitama-u.ac.jp/
理化学研究所
http://www.riken.jp/
−4−
永澤・藤原研究室(無機化学・錯体化学)
金属錯体の化学
金属原子を中心に,他の分子やイオンが規則的に
結合(配位)したものが錯体です.構造や電子状態,
分光学的・電気化学的・磁気的性質,反応性などが
多様で,面白い性質をもつものが多く存在します.
そのような錯体の本質的な特徴を探り,新しい素材
となりうる物質を開発するための基礎研究として,
様々な新しい錯体を合成し,機器測定や反応解析を
永澤明 教授
藤原隆司 准教授
通じて,構造や電子状態および反応性を調べること
で,錯体の機能や物性を解明しています.
■新しい硫黄配位双性イオンを配位子とする錯体
R 2N
研究内容
S
C
錯体の溶液反応の基礎
C
S
R 2N
1. 多核錯体の溶液内での反応性
R 2 = Et2, Pr 2, Mp, Im
Fe Co Ni Cu2 Zn
Cr
Ru Rh Pd Ag 4 Cd
Mo2
W2 Re2 Os Ir Pt2 Aun Hg
2. 錯体の溶液内電子移動反応
3. 金属元素を含む生体物質の反応
4. 錯体・溶液化学・反応解析への
NMR や EPR の利用
錯体の新しい機能
元素により単核から四核および長鎖状多核錯体まで
様々な構造をとり,新しい機能をもつものもあります.
5. 新型の錯体の合成と機能探索
6. 多核錯体に特有の固体構造と物性
■金属イオンを捕捉する生体物質ムギネ酸の錯体
7. 錯体による新素材と反応場の構築
CO2-
8. 光機能性錯体の合成と物性
CO2-
NH+
OH
最近の成果
N
H2+
OH
ムギネ酸と鉄(III)錯体(推定)
■アルキン類の環化三量化の位置選択的触媒
1 / 6, 1 /2 00 , 1 /6 00 eq.
CH 2 Cl2 , r.t.
R2
-
O
O
O
Fe
N
O
HO
O
O
N
O
溶液内の状態,錯形成,光や還元による分解,
細胞膜透過などについて調べています.
R1
1
R 1 C ≡ CR 2
CO2-
R2
R1
R1
■結合異性を示す新しい配位子の金属錯体
R2
O
Cl
Cl
S
C l Nb Ⅲ Nb Ⅲ C l
S
S
Cl Cl
1
2
3
4
5
6
(R1 =
(R1 =
(R1 =
(R1 =
(R1 =
P h, R 2 = H)
p-tolyl, R 2 = H )
R 2 = CH 2 Cl)
R 2 = CO OEt)
n
Pr, R 2 = M e)
新しいニオブの二核錯体を合成し,その反応性を
調べ,高収率で高度に位置選択的な触媒として
働くことを見出しました.
−5−
N
X
R
S
元素の種類や酸化数により酸素配位と硫黄配位
が替わる配位子の錯体で,光や溶媒の影響を調
べています.
石井研究室(有機化学・有機元素化学)
理学博士
石井昭彦教授
博士(理学)
中田憲男助教
当研究室では,特異な構造を有する有機化合物の合成と反応性について研究を行っています。特
に,有機硫黄化合物であるジチイラン,テトラチオラン, vic -ジスルホキシドなど,これまで安定に単離
されることがなかった様々な化合物の合成,単離,構造解析に成功しています。その秘訣は,不安定
な部分(官能基)を立体的に嵩高い置換基で覆うことでその官能基に他の化合物が反応するのを防
ぐこと(立体保護,速度論的安定化),及び,炭素骨格自体の堅さを利用すること,にあります。極限
状態にある化学結合の諸性質を実験的に探求することで,新しい研究分野の開拓に結びつきます。
ジアダマンチルジチイラン. ジチイラン
とは硫黄原子 2 個と炭素原子 1 個か
ら構 成される三角 形(三 員 環)化 合 物
のことです。硫 黄 原 子 上 の非 共 有 電
子 対 間 の反 発 により不 安 定 となり,安
定 に単 離 できないものと考えられてい
ました。
vic -ジスルホキシド. 左:硫黄原子 4 個と炭素原子 1 個からなる五員
環化合物がテトラチオランです。この化合物では中央 2 個の硫黄が酸
化されており,ビシナル( vic- )ジスルホキシド結合[-S(O)-S(O)-]を持
っています。右 :この化合物では堅い炭素骨格のため,硫黄-硫黄結
合の伸張が抑えられていると考えられます。 vic- ジスルホキシドは,か
つては 幻の化合物 と呼ばれていました。
白金(Pt)-硫黄(S)錯体. 上段中央の化合物と
0 価白金錯体との反応で合成しました。
嵩 高 い置 換 基 をもつシクロペンテン. 中 央 の炭 素 -炭
素結合が二重結合です。置換基が嵩高くなるにつれて
合成が難しくなりますが,この化合物は硫黄と酸素を含
む化合物の熱分解により合成しました。
−6−
長谷川研究室(香料・精油化学)
香料・精油化学とは,香料(香りを発する物質)を含む精油につい
ての研究を行う化学の学問分野の一つです。その研究範囲は多岐
にわたっていますが,主な研究内容は,天然に存在する香料物質を
植物や動物 から取り出 してその構造および香りの特性を調べること
や,人工的に香りを発する物質の合成を行なうことなどです。
単に香料物質といっても,人にとって心地よい香りもあれば,不快
な臭いもあります。どのような化学構造を有する物質がどんな臭いを
発するのか?香料化学の重要なテーマの一つです。
この問題の解決には,多くの実験データの蓄積が必要です。現在も活発な研究が行われています。
天然に存在する動植物の香りについての研究では,どんな植物,動物を対象とするかが重要になりま
す。ばら,レモン,ハーブなど臭いを発する植物は数多く存在します。私が研究対象としていますのは,
香り物質の中でもベースノートと呼ばれる持続性の高い香料物質を含む植物です。特に白檀という木
を主な研究材料として持いています。白檀は,6世紀の古くから香木として知られ,日本をはじめアジ
ア各地で香料や医薬品として使われています。独特の東洋的な香りを有するため,現在においては
世界中で多くの香水,化粧品や石鹸に使われています。
白 檀 は,東 インドなどのごく限 られた地
域にしか生息しない希少植物です。白檀か
ら得られる香気成分を含んだ精油はサンダ
ルオイルとして市販されていますが,とても
高 価 な物 です。その主 成 分 はα-サンタロ
ール(左図)と呼ばれる複雑な構造をしたア
ルコールの一種です。この化合物はわずか
な香 りを発 していますが,白 檀 の香 りの主
要 因 物 質 ではありません。まだ,どんな物
質が白檀の香りを作り上げているのかわか
っていません。
研究のめざすところ
白檀の木片
新しい香りの成分の探索
新しい香り物質の創製
私は,白檀の香りを形作っているのはどんな物質なのか。そして,それらの物質の分子構造のど
んな特徴が香りの発現に関係しているのかを明らかにすることをめざして研究を行っています。
−7−
杉原研究室(有機化学)
私たちの研究室では,有機硫黄化合物,特に硫黄原子を含む環状有機化合物の合成,構造およ
び反応性に関する研究を行っています.最近は,硫黄原子を含む 3 員環有機化合物であるチイラン
を研究対象としています.
3 員環有機化合物は,環内結合角が 60°に近くなり,分子が歪みをきたすため,合成することが困
難な化学種です.しかしながら,その歪みの解消を反応促進力として働かせられることから,合成中間
体として有用化合物合成に応用されることが期待されている化合物です.3 員環有機化合物のうち酸
素原子や窒素原子を含むオキシラン (2) やアジリジン (3) は,アルケン (1) に過酸やニトレン等価
体などの活性化学種を反応させれば一段階で合成することができ,これまでに多くの医薬品や有用
化合物の合成中間体として活用されてきました.チイラン (4) に関しても,アルケン (1) からの一段
階合成法が現在までにいくつか報告されていますが,いずれの方法も,反応が基質特異的である,反
応条件下でチイランからアルケンへの逆反応が進行する,チイランと反応試薬がさらに反応する,など
の問題を持ち,一般性に欠けていました.しかしながら,チイラン (4) は,酸素や窒素原子にくらべ他
の置換基を導入することを容易にする硫黄原子を持つことから,合成中間体としてオキシラン (2) や
アジリジン (3) よりも有用であると考えられます.また,チイラン環を持つ化合物がある種の酵素の阻
害剤として働くことや,チイランをモノマーとして使用したポリマーが高屈折率のプラスティックレンズと
して有用であることもわかってきました.効率的かつ実用性のあるチイランの合成法が確立できれば,
チイランの有用性は現在よりもはるかに高まることが期待されます.
私たちは現在,加硫剤や加硫促進剤としてゴム工業で使用されている安価な (5)∼(7)や,(5) から
容易に調製される (8) を硫化試薬として用いたアルケン (1) からチイラン (4) の一段階合成法の
開発を検討しています. (1) を (4) へ効率的に変換する硫化試薬の開発についても研究していま
す.また,チイラン (4) に求電子試薬を反応させ,他の含硫黄環状化合物に効率よく変換させる方
法を検討しています.
R1 O
R3
R2
R4
(2)
医薬品
有用化合物
R
R1 N
R3
R2
R4
R1
R3
R2
R4
(1)
1
硫化試薬 R S
R2
(4)
R3
医薬品
有用化合物
R4
私たち の研究
(3)
O
N S S N
(5)
O
O
N S S
S
S
N
Me2N
(6)
S
(7)
−8−
NMe2
S
S
O
S S
N S
S N
(8)
O
斎藤雅一研究室(有機典型元素化学)
有機化合物の骨格を形成する炭素を同族で高周期の
元素に置き換えると,これまでの有機化学にはない新し
い物質群が創製され,そこには新しい構造,反応性や物
性が見られるのではないかと考えられます。そこには新し
い可 能 性 が秘 められている とも言 い換 えることができま
す。
このような知的好奇心に駆られ,これまでに炭素をケイ素
やゲルマニウムに置き換えた二重結合化合物や芳香族化合物が合成され,炭素の系と同様
な性質を保ちつつも高周期元素の系に特有の性質を有していることが発見されています。し
かし,ゲルマニウムよりもさらに高周期のスズの系に関してはこれまでほとんど研究されていま
せんでした。
そこで当研究室では,第5周期のスズに特に注目し,有機化合物の中でも重要な二重結
合,三重結合,芳香族化合物を構成している炭素をスズに置き換えた化合物を合成してそ
の性質を明らかにし,周期表を二重結合,三重結合,芳香族性をキーワードに理解してみた
いと考えています。
既に,ベンゼンと同様に芳香族性を有しているシクロペンタジエニルアニオンの炭素をスズ
に置き換えたスタンノールアニオン及びジアニオンの合成に成功し,スタンノールジアニオン
が炭素π電子系骨格にスズを含む初めての芳香族化合物であることを示しました。このこと
は,一部の例外を除いて第2周期までの元素で構築されている芳香族性の概念が,遠く第5
周期の元素の系まで成り立つことを示しており,有機化学の教科書に新しい1ページを刻む
重要な基礎研究となりました。
Ph
Ph
ベンゼンの特異な反応性
シクロペンタジエニル
アニオンも芳香族化合物
Ph
Sn
--
Ph
Li+ Li+
スタンノールジアニオン
も芳香族化合物
芳香族化合物の世界が第5周期
の元素の系にまで広がった!
芳香族性
この他にもいろいろな典型元素を有機化合物の骨格に導入し,様々な新規構造を有する
化合物を合成し,有機化学の世界を豊かにしていくことを目指しています。
−9−
齋藤英樹研究室(結晶化学・物理化学)
物質は凝固点以下で固体になりますが,多くのものは結晶にな
ります。ガラスなど非晶質固体になる方が普通のものもあります。
結晶とは,原子や分子が 3 次元方向(上下・左右・前後)に周期
的に規則 正しく積み重なったもので,その最小の単 位構造は
10–9 m 程の仮想的な小さな箱(単位格子)で考えます。この小さな
箱の中に原子や分子はきちんと決まった位置関係で配置していて,
それを結晶構造と言います。その箱と同じものが 3 次元に非常に
多数積み重なって出来たものが結晶です。物質はそれぞれ固有
齋藤 英樹 講師
の結晶構造をもっています。
物質の結晶構造は,X線回折という現象を使って実験で調べま
す。この実験法をX線結晶構造解析といいます。
X線結晶構造解析によって物質の結晶
構造が決まりますと,単位格子中の原子・
分子の配置が分かり左のような図が描けま
す。配 置と共に各 原 子 の熱 振 動 の様 子も
分かります。この絵では,原子の熱振動の
様 子 (大 きさと方 向 )を回 転 楕 円 体 で表 し
ています。左の図の物質は, p –メチルベン
ジルアルコールですが,赤色で描いてある
OH 基の酸素原子の熱振動が一方向に大
きいことが分かります。
右の図は,スチルベンの 4 カ所を OH 基
で置換した分子の結晶です。メタノールか
ら結晶化させたこの結晶は,分子 1 分子当
b
たり 2 分子の水を含んでいました。X線結
晶構造解析によって水素原子の位置も決
めることが出来て,ピンクの線で示したとこ
ろに分 子 間 の水 素 結 合 を確 認 することが
出来ます。この測定は,100K で行ったの
o
c
で熱振動を示す回転楕円体の大きさが小
a
さく描かれます。温度を下げると熱振動が
小さくなることが良く分かります。
なぜ物質の結晶構造を調べる必要があるのでしょうか。物質の結晶構造は,分子が分かっていても
どの様に積み重なって結晶になるかは先ずほとんどの場合に完全には予測が出来ないからです。そ
して,固体(結晶)のいろいろな性質は,その結晶構造と関係があるからで,光学的な性質・電気的性
質・熱的性質などやさらには生命科学的な性質を研究していくときに,その構造の情報から議論する
ことが必要になったりするからで,科学的に重要な知見であるのです。
−10−
佐藤研究室(有機化学)
[佐藤研究室メンバー(平成19年度)]
講師:佐藤 大
修士2年:小野修平,坂井敦史,中島千絵
修士1年:安藤展広,新田彩衣
学部4年:青木雅美,岩澤 亘,大沼弘志
[研究内容]
① 含硫黄非ベンゼン系芳香族化合物の合成・
反応・性質
ベンゼン1やナフタレン2は代表的な芳香族化合物です。一方,ベンゼン環以外の形(6角形以
外)で芳香族性をもつものを非ベンゼン系芳香族といい,アズレン3などがこれに相当します。私達は,
アズレンの骨格に硫黄原子を導入した化合物4や5を合成し,それらの反応性や誘導体の性質を
調べています。また,含7員環不斉配位子6の不斉触媒能力についても研究しています。
O
S S
S
S
S
1
2
3
4
N
S
5
H3CSH2C
O
NHtBu
N
NH
H3CSH2C
NHtBu
O
6
② 含硫黄デンドリマー, 分子ワイヤの合成と性質
規則正しい枝分かれ構造をもつデンドリマーは,分子一つで明確な空間形態をつくる化合物で
す。現在,水溶性デンドリマー7および非ベンゼン系金属錯体デンドリマー8の合成を行なって
います。これらには,金表面や半導体粒子上に自己組織化するための硫黄原子を導入しています。
また,有機溶媒への溶解性を向上させたオリゴチオフェン分子ワイヤ9の合成も行なっています。
−11−
中原研究室(コロイド・界面化学)
(スタッフ) 教授 中原弘雄 *平 成 20年 3月 退 職
助教 ヴィレヌーヴ真澄美
コロイド・界面化学の重要性
日常,多くの種類の界面活性剤がミセル・ベシクル・膜等,ナノメートル次元の機能ある分
子集合系を構成し,身の回りで様々な役割を担って使われています。適当な疎水基と親水基
から成る両親媒性化合物が相界面に吸着され,充填・配向して,個々の分子では観られない
新機能を発現しています。また溶液中ではエネルギ−的に安定な対称構造が形成され易い
のに対し,二次元超薄分子組織膜は非対称な界面で形成されることから,極性構造を持った
層状配向分子集号系を構築できます。そこでは低次元物性,非線形光学効果,電気伝導の
異方性等が期待され,機能性材料の生成に重要な知見を与えるでしょう。さらに微多相系か
らなる生体系のモデルとしても分子組織膜のナノ高次構造と機能に関する研究は重要です。
本研究室の背景と現在の研究テーマ
本研究室では,文理学部当初に東京大学から着任した鮫島実三郎教授から,福田清成,
柴崎芳夫教授へと引継がれたコロイド・界面化学・高分子化学を中心に研究・教育を実施し
てきました。現在はやはり東大,鮫島研の流れを汲み,界面の熱力学に特化した九州大学理
学部コロイド・界面化学研究室から徳島大学を経
て5年前に着任したヴィレヌーヴ真澄美助教を迎
え,溶液中の配向分子集合体の構造形成と機能
ミセル+単量体
界面活性剤全濃度
ベシクル+ミセル+単量体
について熱力学的考察を深めています(図1)。
さらに新しい試みとして,平衡状態での情報を
与える熱力学と相補的な手段として分光学の一つ
である核磁気共鳴(NMR)の緩和測定を取り入れ,
分子の運動性等のキネティクスを明らかにする研
ベシクル+単量体
究 を展 開 中 です。埼 玉 大 学 は全 国 的 にも珍 しく
90MHz から 400MHz までの複数の異なる磁場の
単量体
フ−リエ変換 NMR 分光器を有しており,本研究は
この恵まれた環境を生かしたユニークな物理化学
界面活性剤混合比
的研究と言えます。
図1 陰イオン−陽イオン界面活性剤混合水溶液系の相図(この状態図を元に NMR を用い
て,集合体の違いによる分子の運動性の変化を研究しています。)
−12−
中林研究室(解析化学・物理化学)
当研究室は,「表面界面における物理化学」について,
さまざまな点からアプローチしています。
特に現在は,電気的な界面における化学反応,磁場中に
おける表面物性の変化,また,金属基板と気体水溶液と
の界面に自然発生する微小な気泡(nano bubble)などに
スポットを当て,研究をしています。
その一例として,電解質溶液につけた電極と,その電解質溶液との界面で起こる不思議な現象を紹
介します。
電気的な界面は,エネルギーが物質へ,物質がエネルギーへと変化する特殊な反応場です。そこ
には,フラスコや試験管の中で起こるような物質どうしの反応と,また一味違った反応が期待され,また,
且つ私たちは数々の特殊な反応を見てきました。
図は,硫酸水溶液に漬けた鉄電極と対極との間
に,規制された電位をかけることによって生じる,鉄
電極表面での不導体酸化皮膜の生成と崩壊によ
ってパルス化された電流が流れるという『自励発振
現象』を,電極の「空間配置」によって制御したもの
です。
図左上のように,電気的に孤立した 24 組の鉄
電極・対極の組み合わせを星型に配置したところ,
図下に示す 3 つの電極集団がそれぞれ,グラフ
に示すような位相のずれたパターンの異なる電流
振動を発していることがわかります。これは,孤立
した電極の発する電流パルスが,電解溶液中で干渉しあった結果生み出されたものです。このような,
空間配置によって電流パルスを制御するというのは,生物においてよく見られる現象です。
例えばクラゲのように,運動をつかさどる脳がなく,神経パルスを脳で制御できない生物は,もしか
すると,その運動が神経ネットワークの空間配列のみで制御されているのではないか?と,考えること
ができます。
当研究室は,化学科の研究室ですが,このように,決して化学の範囲だけにとどまる研究ではなく,
生物などの他のさまざまな分野に広がる研究を志しています。
−13−
若狭研究室(スピン化学・光化学)
磁場で化学反応は
変わると思いますか?
光化学反応を
直接見たことはありますか?
(スタッフ)
教授 若狭 雅信
助教 矢後 友暁
世の中には,磁場(磁石)を利用した製品がたくさん販売されています。しかし,それらのうちのいく
つかは,科学的に根拠のないものであったり,実証試験に疑いがあったりします。これに対して,我々
は,真に科学的(量子化学的)現象である,ラジカル対のスピン状態の変化を利用した,化学反応
の磁場効果の研究を,光化学反応を対象に行っています。
化学反応用としては世界最高磁場を発生できる30テスラパルスマグネットとナノ・ピコ秒パ
ルスレーザーを用いて,30テスラ超強磁場下でレーザー光を吸収した物質(分子)が,化学反応を
起こして変化していく過程を,マイクロ秒の時間領域で直接観測をしています。磁場をかけることで,
生成物の量が数倍になったり,半分になったりします。
最近注目されている光触媒反応の反応効率や有機ELの発光強度も磁場によって変化します。
また,ナノサイズの細孔をビーカーにみたて,ナノ細孔中で光反応を行うと,大きな磁場効果が観測
できます。さらに,信じられないかもしれませんが,磁場中で光反応を行
うと,同位体濃縮が起きます。これまで,我々は,ケイ素-29,硫黄-33,
ゲルマニウム-73 の同位体濃縮に成功しました。
(研究課題)
1. 30T 超強磁場下での磁場効果
2. ピコ秒領域の化学反応の磁場効果
3. 光触媒反応の磁場効果
4. ナノ細孔中での光反応と磁場効果
35
5. 磁気同位体効果による同位体濃縮
500V
1000V
1500V
2000V
2500V
3000V
3500V
30
25
20
15
10
5
0
0
−14−
0.5
1
1.5
2
Time / ms
2.5
3
高柳研究室(理論化学・量子化学)
教授
高柳 敏幸
●主な研究
次のような物質の反応ダイナミクスについて研究している。
① 星間物質
星間空間では、分子同士の衝突(=反応)がお
きにくく、反応が起きるまでに極めて長い時間がか
かるため、地 球 上 に存 在 しないようなさまざまな分
子(図 1)がある。
それらの分子がどのような反応によって生成する
のか、コンピューターシミュレーションによって解明
している。
図1 星間物質の例
星間物質の例
図1
図 2 C 2 + NH → HNC+C の反応ダイナミクス
②溶媒和電子
溶媒和電子とは、溶液中において溶媒和さ
れている過剰電子のことをいう。 図 3 は、溶
媒和電子がどのようなものかを示している。
図 3 I(H 2 O) 6 の溶媒和電子
● 連絡先
研究室紹介のページのひな形です。
メールアドレス:[email protected]
URL:http://www.chem.saitama-u.ac.jp/takayanagi-lab/
−15−
上野研究室(固体化学・表面物性化学)
私の専門は固体表面物性化学です。特に,「超高真空装置」を用いた
薄膜成長と,薄膜の構造・物性探索を行っています。
固体の「表面」は,本来つながっていた化学結合がそこで切断されるた
め,一般には非常に活性で,他の物質とすぐ反応します。そのため,大
気中に置かれた固体表面は,活性な酸素や水などと反応していまい,そ
の固体自身 の清浄な表面を保つことができません。しかし,宇宙空間 と
同程度の真空度を持つ「超高真空装置」の中では,反応する気体分子
がほとんど存在しないので,固体それ自身の清浄表面を露わにすること
博士(理学)
が可能です。また,超高真空下で固体表面に原子・分子を堆積させるこ
上野啓司 准教授
とで,不純物のほとんど含まれていない「薄膜」を成長し,自然には存在しないような構造と性質を持
つ新奇な物質をつくることも可能です。
上野研究室では,このような超高真空装置,およびさまざまな表面・薄膜物性測定装置を駆使して,
例えば下記のような研究を進めています。
①ペンタセン,C 60 といった有機半導体材料の薄膜を成長し,無機半導体材料では作製が困難な新
しい機能性を持つ電子素子(トランジスタ素子,太陽電池,発光素子など)の実現を目指す研究。
②MoS 2 ,GaSe,グラファイト,マイカといった「層状構造」をもつ物質を利用し,柔軟で折り曲げ可能な
電子素子を開発する研究。
③不純物混入による化学的電荷注入ではなく,電界効果を用いた物理的電荷注入による薄膜物性
変調に関する研究。
④π共役電子系を持つ高分子ポリマー(ジアセチレン誘導体ポリマー,チオフェン誘導体ポリマー,な
ど)の高配向薄膜を形成し,π電子共役鎖を一直線状に延伸させる研究,および放射光を用いた
配向状態測定についての研究。
上野研究室で稼働している実験装置の例
・超高真空分子線エピタキシー装置(写真左)
1気圧の 10 13 分の 1 程度しか気体分子が存在し
ない「超高真空」をつくり,その中で薄膜成長を行う
ための装 置 。有 機 薄 膜 の表 面 構 造 をその場 で調
べるための「超高感度反射高速電子線回折装置」,
電子帯構造や表面元素組成を調べるための「電子
分光装置」などが付属している。
超高真空装置
図 GaSe 終端 Si(111)
表面 上に,原子 間 力顕
固体表面の凹凸を,「カンチレバー」と呼ばれる尖 微鏡を用いた陽極酸化
法により形成した,放射
った探針でなぞることによって計測し,画像化する装 状の酸化物細線。
置。表面の原子・分子 1 個 1 個の並び方を調べたり, 走査測定範囲:
5000 nm × 5000 nm
・原子間力顕微鏡(写真右)
右図のように nm スケールの加工を行ったりすること
ができる。
−16−
原子間力顕微鏡
坂本研究室(物理化学・構造化学・分子分光学)
主な研究内容
○ピコ秒での時間分解を含む振動(赤外・ラマン)分光法による分子
の機能・構造・ダイナミクスの解析
○不活性ガス精製装置付グローブボックス中での不安定分子種の
電子吸収・赤外吸収スペクトル測定と分子構造解析
○量子化学計算を用いた振動スペクトルの解析
研究室のメンバーの主な研究題目[主に大学院生の研究題目]
○「共鳴ラマン分光法による液体アンモニア中の溶媒和電子の
局所構造解析」
坂 本 章 (准教授)
○「電場変調・偏光変調方式高感度反射赤外分光システムの開発と
有機電子デバイスへの応用」
○「ラジカルイオン二量体の赤外吸収スペクトル測定:分子振動にともなう二量体
の間での電子移動の直接観測」
○「9,9’–ビアントリルのラジカルアニオンとジアニオンの赤外吸収測定と
電子–分子振動相互作用の解析」
○「自己配列したポリ(3–アルキルチオフェン)のピコ秒時間分解赤外吸収スペクトル
の測定と励起電子–分子振動相互作用の解明」
○ 「文化財測定用携帯型ラマンイメージング・顕微赤外分光装置の開発研究」
など
光化学反応を始める
励起光
遅延時間
起きた変化を観察
する
観測光
分子の
振る舞い
時間分解分光法の原理
グローブボックス内での
赤外吸収・電子吸収同時
測定システム
ピコ秒時間分解赤外・ラマン分光シス
テム
ν 32
Obs. 1564 cm –1
Calc. 1564 cm –1
p–ターフェニル ジアニオ
ン の 実 測 (a)及 び 計 算 (b)
赤外吸収スペクトル
ν 33
Obs. 1483 cm –1
Calc. 1490 cm –1
p–ターフェニル ジアニオンの巨大な赤外吸
収強度をもつ振動モード
−17−
博士前期課程修了後の進路
博士前期課程修了後,多くの学生は化学関連企業に就職したり,技術系の地方公務員,
あるいは教員になっています。一部の学生は博士後期課程に進学し,さらに高度な専門教育
を受け,博士号取得を目指しています。
60
平成18年度
50
平成17年度
平成16年度
40
人数
平成15年度
30
平成14年度
20
10
そ の他
流 通 ・販 売
保 険 ・金 融
出 版 ・報 道
運 輸 ・通 信
情報
資 源 ・環 境
化 学 ・薬 品
食 品 ・衣 料
電 気 ・電 子
金 属 ・鉄 鋼
精密機器
機 械 ・設 備
建設
地方公務員
国家公務員
教育
大学
大学院
0
博士前期課程修了生の進路
博士前期課程修了生の就職先(カッコ内は人数,なければ1人)
平成16年度
JSR,カクイチ,合同資源産業,川研ファインケミカル,川崎マイクロエレクトロニクス,TDK,
旭化成ケミカルズ,YKK,栃木県庁,大日本印刷,東レファインケミカル
平成17年度
東洋精米機製作所,北興化学工業,綜研化学,日本ペイント,藤森工業,田中貴金属,テ
ィエスティ,旭電化工業,イチカワ,京セラケミカルズ,ソニーエナジーデバイス,キャノン,朋
和産業,伊勢化学,経済産業省(II 種),日立化成ポリマー,寺岡製作所,東邦化学
平成18年度
大成ラミック,メルテックス,綜研化学(2),三井化学,東邦化学,電気化学工業,ADEKA
(2),日本化薬,凸版印刷,東洋インキ製造(2),田中貴金属,日本バイリーン,東海メガ
ネコンタクト,埼玉県教員,日光化成,ユニチャーム,東レ,小川香料,双葉電子工業
−18−
交通案内
交通機関
JR 京浜東北線
JR 埼京線
東武東上線
北浦和駅(西口)
南与野駅
志木駅(東口)
「埼玉大学」行バス(終点下車)約 15 分
「埼玉大学」行バス(終点下車)約 10 分
「与野駅」行バス(「埼玉大学」で途中降車)約 20 分
−19−
−20−
Fly UP