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原子物理補助プリント No.2 ∼ 固体物理 ∼ 1 電子のふるまい

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原子物理補助プリント No.2 ∼ 固体物理 ∼ 1 電子のふるまい
原子物理補助プリント No.2
∼ 固体物理 ∼
2012 年 2 月 2 日
群馬高専 一般教科(自然科学)
小林晋平
固体 · · · 原子が高い密度で密集している(固まっている)状態.内部には原子(または正イオンやその周
囲の電子)がたくさんあるため,ボーア模型で扱った水素原子 1 個などとは違って,単純ではない現象を
引き起こすことが多い.
電子のふるまい
1
1.1
エネルギー準位と光の放出・吸収 (ボーア模型の復習も兼ねて)
• 高いエネルギー E2 の状態から,低いエネルギー E1 の状態への変化(これを「遷移する」という)
⇒ エネルギーの差 ∆E = E2 − E1 に等しいエネルギーを持つ電磁波を出す
• 逆に,エネルギーの差 ∆E = E2 − E1 に等しいエネルギーを持つ電磁波を吸収
⇒ 低いエネルギー E1 の状態から,高いエネルギー E2 の状態へ遷移する
• 振動数 ν, 波長 λ の光(というか光子)とそのエネルギーの関係は
E = hν =
hc
λ
つまり
λ=
hc
E
(h : プランク定数, c : 真空中の光速)
(1)
だから,例えば低い状態へ遷移したときは
λ=
hc
hc
=
∆E
E2 − E 1
(2)
という波長の光を出すことになる.
例: E2 = 10.0 eV の状態から E1 = 7.0 eV の状態へ遷移したとき
エネルギーの差が ∆E = E2 − E1 = 3.0 eV なので,放出する光の波長は
λ=
hc
6.6 × 10−34 · 3.0 × 108
=
; 4.1 × 10−7 m
∆E
3.0 × 1.6 × 10−19
だとわかる.ちなみにこの光は紫色に見える可視光である(1 eV = 1.6 × 10−19 J にも注意).
1.2
バンド構造
水素原子中の電子のエネルギー準位
En = −
K
13.6
; − 2 [eV]
n2
n
K=
1
2π 2 me k02 e4
h2
(n は自然数)
(3)
エネルギー
エネルギー
PSfrag replacements
E2
E2
光が出てくる
E1
光が吸収される
E1
エネルギーが低い状態への遷移
エネルギーが高い状態への遷移
図 1: エネルギー準位が異なる状態への遷移と光の放出・吸収
PSfrag replacements
エネルギー
E1
エネルギーは
n2 に反比例
E2
⇒ 図からもわかるように n が大きくなるにつれて隣り合うエネルギー同士の間隔が小さくなっていく.
ネルギーが低い状態への遷移
具体的には
ネルギーが高い状態への遷移
光が出てくる
光が吸収される
n = 1 : E1 = −13.6 eV (基底状態), n = 2 : E2 = −3.40 eV (第1励起状態),
n = 3 : E3 = −1.51 eV (第2励起状態),
n = 4 : E4 = −0.85 eV (第3励起状態),
···
エネルギー
0
−0.85
−1.5
−3.4
エネルギー
エネルギー帯
n=∞
n=4
n=3
n=2
禁止帯
n=1
−13.6
固体中の電子のエネルギー準位
水素原子中の電子のエネルギー準位
図 2: 水素と固体の内部における電子のエネルギー準位
固体中の電子のエネルギー準位
図のように,ある値の付近に集中したり,全然なかったりを繰り返すという構造を持つ.これをバンド構
造という.
(なぜこうなるかは量子力学を使わなければ説明できない).
エネルギーを取りうるところをエネルギー帯,エネルギーを取れないところを禁止帯という.
エネルギー帯のうち,
• 電子が全て詰まっている帯 · · · 充満帯
• 電子がある程度つまっている帯 · · · 伝導体
2
• 電子が全くない帯 · · · 空帯
という.
(注): 電子には同じ状態を取れるのは1個の電子だけという性質がある(これを排他律という).そのため,
例えばある電子がエネルギー E1 というエネルギー状態になってしまうと,他の電子は E2 や E3 という別
のエネルギー状態にならざるを得ない.このため系全体に与えるエネルギーをどんなに小さくしても,全
ての電子が基底状態になることはない.1
PSfrag replacements
半導体
2
エネルギー
E1
基本
E2
エネルギーが低い状態への遷移
導体エネルギーが高い状態への遷移
· · · 自由電子がたくさんあるのでよく電気を通す.つまり抵抗値が小さい.ρ = 10−8 Ω·m 程度.
2.1
光が出てくる
不導体 · · · キャリア(電流の担い手)がないので,電流をほとんど通さない.ρ = 1012 ∼ 1018 Ω·m 程度.
光が吸収される
半導体 · · · 上の二つの中間.
エネルギー
ρ = 10−4 ∼ 107 Ω·m 程度.大きく分けて以下の 2 種類がある.
水素原子中の電子のエネルギー準位
• 真性半導体
0
シリコン Si など.熱を加えると電子が原子から離れて自由電子になる.
−0.85
• 不純物半導体
−1.5
−3.4
真性半導体に不純物を少し入れて作る.価電子(最外殻電子)がポイント.
−13.6 4 個の物質に価電子 5 個の物質を混ぜる.
1. N 型半導体: 価電子
n=1
電子が1個余るので,それが自由電子になって電流を運ぶ.
n=
2
例:シリコン Si
にドナーとしてヒ素
As やリン P を混ぜたものなど.
n=3
共有結合
共有すると電子が 1 個余る
n=4
n=∞
エネルギー帯
禁止帯
Si
P
Si
固体中の電子のエネルギー準位
Si
Si
P
余った電子が自由電子に
Al
図 3: N 型半導体の作り方(黒い丸が電子)
2. P 型半導体: 価電子 4 個の物質に価電子 3 個の物質を混ぜる.
電子が1個足りなくなる,つまりプラスの電荷が1個余分に増えることになる.それがキャ
リアになって電流を運ぶ.電子の足りないところ(抜けた部分)をホールという.
例:シリコン Si にアクセプターとしてアルミニウム Al やホウ素 B を混ぜたものなど
1 ここで,電子のスピンは無視している.なお,排他律に従う粒子をフェルミオン,同じ状態をいくらでも取りうる粒子をボソン
という.光子はボソンの代表例である.
3
エネルギー帯
禁止帯
固体中の電子のエネルギー準位
共有結合
共有結合
共有しても電子が 1 個足りない
共有すると電子が 1 個余る
PSfrag replacements
余った電子が自由電子に
エネルギーSi
Si
Si
Al
E1
E2
エネルギーが低い状態への遷移
エネルギーが高い状態への遷移
Si
Si
Al
光が出てくる
光が吸収される P 足りない「穴」が正電荷のように振る舞う(ホール,日本語では正孔という)
エネルギー
図 4: P 型半導体の作り方(黒い丸が電子)
水素原子中の電子のエネルギー準位
0
半導体素子(半導体を使った電子部品)
−0.85
−1.5
3
3.1
PN 接合
−3.4
−13.6
P 型半導体と N 型半導体をくっつける.接合部でホールと自由電子が打ち消し合い,不足状態が起きる
n=1
(空乏層という).
n=2
P 型は正電荷が少なくなって負に帯電,
N 型は負電荷が少なくなって正に帯電する.
n=3
n=4
n = ∞P
エネルギー帯
禁止帯 電位
固体中の電子のエネルギー準位
+
-
+
-
N
空乏層
図 5: PN 接合
3.2
ダイオード
PN 接合した半導体に,P 側を正,N 側を負にして電圧をかける(順方向という.図 6 を参照).
接合面で電荷の受け渡しができるので電流が流れる.
逆に N 側を正,P 側を負にしてみると,接合部で電荷の受け渡しができないので電流が流れない(図 7
を参照).
これを利用すると,一定方向にのみ電流を流すことが出来る.これを整流作用という.
また,PN 接合の接合面でホールと自由電子が結合したときにエネルギーが安定化してその差が光となっ
て放出される.
4
−13.6
PSfrag replacements
禁止帯
n=1
エネルギー
固体中の電子のエネルギー準位
n =E21
空乏層
n電位
=E32
n
=N4
エネルギーが低い状態への遷移
P
N
n=∞
エネルギーが高い状態への遷移
P
エネルギー帯
光が出てくる
禁止帯
光が吸収される
固体中の電子のエネルギー準位
エネルギー
空乏層
水素原子中の電子のエネルギー準位
電位
0
N
−0.85
P
−1.5
+
-
+
-
図 6: 順方向
P
N
+
-
+
-
−3.4
−13.6
n=1
図 7: 逆方向
n=2
n=3
n=4
物質をうまく選ぶとちょうど可視光も出せる.これが発光ダイオード(
LED: light emitting diode)で
n=∞
ある.
エネルギー帯
禁止帯
3.3 固体中の電子のエネルギー準位
バイポーラトランジスタ
NPN 型の構造
空乏層
電位
2
N
N 型半導体二つで P 型半導体をはさんで作る.
図のように負極側に繋いだ N 型半導体をエミッタ,正
P
極側をコレクタ,真ん中の P 型半導体をベースとよぶ.3
N
このトランジスタにただ電源をつないでも, ベースとコレクタの間で電荷のやり取りがないので電流
P
が流れない(難しく言うと,ベースとコレクタの間に空乏層ができる).
エミッタ
ベース
-
+
-
-
+
-
N
コレクタ
P
N
空乏層(電荷のやり取りがない)
図 8: 電源を一つだけ繋いだとき
ここでベース電源を図のように入れるとベースの中にホール(正の電荷)が供給されることになる.する
とそれをめがけてエミッタから自由電子がベースに入り込む.ベースを十分薄くしておくとその自由電子
はベースを突き抜けてコレクタに突っ込む.これにより,エミッタからコレクタまで一気に電流が流れる.
ちなみに典型的な厚みはエミッタ 5µm, ベース 10µm, コレクタ 250µm なので,このプリントにある図
やほとんどの教科書・参考書にある説明図と現実のトランジスタはだいぶ異なる.ベースが非常に薄いこと
は間違いないが.
型のものや,電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor, FET)と呼ばれるものなどいろいろある.
< emit (放出する),コレクタ < collect (集める)
と呼ぶ.電子部品にはカタカナの名前が多いが,もとの英語で考える方がかえって暗記し易い.
2 PNP
3 電子を放出する側(陰極),集める側(正極)にそれぞれ繋ぐのでエミッタ
5
エミッタ
ベース
コレクタ
コレクタ電流の電源
空乏層(電荷のやり取りがない)
N
P
-
-
+ +
-
自由電子が突き抜ける
+ +
-
供給されるホール(正孔)
ベース電流の電源
図 9: ベース電源も繋いだとき
つまりベース電流はスイッチの役割をする(ベース電流が流れるのに合わせてトランジスタ全体に電流
が流れるから).トランジスタ全体に流れる電流(コレクタ電流という)は図の上側の電池で大きさを調節
できるので,微弱なベース電流と全く同じ波形だが,大きな振幅のコレクタ電流を作ることができる.これ
を増幅作用という.
ここで,
「増幅」ときくとエネルギーが自然に大きくなるようなイメージを持ってしまうが,そうではな
く,大きなコレクタ電流を流すために別の電源を付けていることに注意して欲しい.ベース電流と同じ波形
を持ち,振幅が大きな電流を作ることができると言うだけである.エネルギー保存則から言って,誰かが外
部から余分な仕事をしない限り勝手にエネルギーが増幅することはありえない.
6
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