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ハリケーン「サンディ」の影響とドル円相場 - 三菱UFJモルガン・スタンレー

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ハリケーン「サンディ」の影響とドル円相場 - 三菱UFJモルガン・スタンレー
外貨投資の視点
(No.046)
リサーチ部 シニア為替・債券ストラテジスト 植野 大作
2012年11月02日
ハリケーン「サンディ」の影響とドル円相場
米国に大きな経済的被害
米国でハリケーン「サンディ」の上陸がもたらした被害の大きさが話題になっている。
をもたらしたハリケーン
10月22日に発生した「サンディ」はその後フロリダ州に上陸、29日には温帯低気圧に変
「サンディ」
わったものの、米国金融の中枢であるニューヨークを含めた米国東部に幅広い被害をも
たらした。各種報道によれば、全米の人口の約2割が居住し、国内総生産の約2割を稼
ぎ出す地域が物心両面で甚大な打撃を受けたと言われている。具体的な経済被害は最
大200億ドル(約1.6兆円)との推計が出回っているが、こうした天災が起きた場合の常と
して、最終的に明らかになる被害額は当初推定の数倍以上に達することも珍しくない。
現時点で被害総額は確定していないが、過去最大の経済被害をもたらした2005年のハ
リケーン「カトリーナ」の1000億ドルよりは小さいものの、過去2番目の被害をもたらした
1992年の「アンドリュー」の265億ドルは上回るかもしれないと言われているようだ。
「サンディ」の上陸が米国
ただ、「米国景気への影響」は複雑だ。ハリケーン上陸期間中の各種経済活動の停
経済に与える影響は、や
止に加え、交通・電力・水道などのライフ・ラインの機能不全は、一時的には経済成長率
や複雑
を押し下げる一方、各種資本ストックや経済インフラが破壊されると、その後しばらくの時
間を置いて復興・復旧需要を喚起する面もあるからだ。このため、被災状況の全貌があ
る程度明らかになった後、市場や社会が深い心身の傷を抱えつつも徐々に冷静さを取
り戻してくると、生活再建のために必要不可欠な建設、投資、消費活動が逆に活発化し
て成長率押し上げ効果を発揮し始める局面もやがて到来する。ごく一般論として、歴史
にその名を残すような天災や人災は、その被害額が大きければ大きいほど、一時的な
景気押し下げ圧力が強くなる一方、被災額の大きさに正比例する形でその後の復興・復
旧特需も膨張する。あくまで私見だが、今回のハリケーン「サンディ」については、その上
陸による経済被害が決定打となって、2009年6月から続いている緩やかな米国景気回復
の趨勢的なベクトルが折れるほどの影響は出ないと考えている。
過去、米国で歴史に残る
ドル円相場に与える影響についても、同様のことが言えるだろう。実際、1990年代以
天災や人災が起きた後の
降のアメリカで当時「史上最悪」といわれた天災や人災が起きた時期とドル円相場のチャ
ドル円相場の動きを振り
ートを重ねてみても、その後のドル円相場のベクトルに明確な法則性は認められないの
返る
が実情だ(図1)。たとえば、①1992年8月下旬のハリケーン「アンドリュー」上陸、②
1994年1月17日のロスアンゼルス(ノースリッジ)大地震のときは、その前後に大規模なド
ル安・円高が進んでいるが、当時の円高の基本的な背景は「米国の為替政策」だった。
周知のように、1990年代前半は「円安の是正」を謳った1990年4月7日のG7「パリ合意」の
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
後遺症が市場参加者によって意識されていたほか、1993年1月20日にクリントン政権1期
目の初代財務長官に就任したロイド・ベンツェンの指揮下で「対日市場開放要求」という
貿易摩擦絡みの円高圧力が非常に強かった時期だ。また、③2010年4月20日のディー
プ・ウォーター・ホライズン爆発によるメキシコ湾原油流出事故のときは、米国の量的緩
和第一弾と第二弾の端境期に当たり、当時のドル安・円高の主因が歴史的な米国の金
融緩和にあったことは衆目の一致するところだ。
図1:近年の米国を襲った歴史的天災・人災とドル円相場
(円)
160
150
140
1992/8月下旬
ハリケーン・アンドリュー
米国史上最大の
経済損害暴風雨(当時)
2005/8下旬
ハリケーン・カトリーナ
米国史上最大の
経済被害暴風雨
1994/1/17
ロス大地震
米国史上最大の
経済被害地震
2010/4/20
ディープ・ウォーター・ホライズン爆発
米国史上最悪の原油流出事故
130
120
110
2001/9/11
米同時多発テロ
米国史上最悪の
テロによる人災
100
90
1995/4/19
オクラホマ爆弾テロ
米国史上最悪のテロによる人災(当時)
80
70
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
歴史的な天災や人災が米
他方、①1995年4月19日のオクラホマ連邦ビル爆破テロ、②2001年9月11日の対米同
国で勃発した後のドル円
時多発テロ、③2005年8月下旬のハリケーン「カトリーナ」上陸のときのように、その後急
相場の動きはマチマチ
速なドル高・円安が進んだ事例もある。1995年4月以降のドル高は、クリントン政権2代目
の財務長官を務めたロバート・ルービンによる「強いドル=国益」政策がその背後にあり、
4月25日のG7で有名な「秩序ある反転」声明の影響が大きかったとみられる。2001年の
9.11同時多発テロのときは、米国が利下げ局面の最中だったこともあってテロの直後8営
業日で1ドル=122円台から一時115円台までドル安が進んだが、当時盛んに実施され
ていた本邦財務省のドル買い・円売り介入がドルの下値を支えたほか、その年の米国感
謝祭からクリスマス・シーズンにかけて「テロと戦う復興目的の資金が大量に米国に里帰
りする」との思惑などが一部で強まると、翌年早春にかけて135円台までドル高・円安が
進んだ。また、ハリケーン「カトリーナ」上陸のときは、①米国が利上げ局面にあって十分
な米日金利差があったほか、②2004年10月に成立した米国の本国投資法による米多国
籍企業のマネーの米国への還流、③日本における外貨建て投資信託の大ブームによる
海外資金流出の影響、などがドル高・円安の背景となっていたと言われている。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
ドルの地合いが弱い場面
要するに、米国で生じた歴史的な天災や人災は、その被害が大きければ大きいほど、
で起きる天災はドル安加
その人的被害や経済的被害に関する報道が世界中に配信される頻度が上がるため、
速の 触媒 にな るが、ドル
一義的には「米国景気への悪影響=ドル売り」というイメージを喚起し易い材料になるが、
の地合いが強い場合に
実際のドル円相場の振る舞いはそれほど単純ではなかったと言える。至極当然の結論
は、影響が出ても一時的
になるが、その時々におけるドル円相場の趨勢的なトレンドは、当該時点での日米両国
の景気・金融・為替政策などによって既定される国際資金フローの大きな潮流によって
決まっているとみるのが妥当だ。過去、米国で起きた天災や人災は、市場のドル安心理
が強い局面で勃発すると「泣きっ面に蜂」となって、ドル売りを加速する触媒になりえるも
のの、元々のドルの地合いが比較的強い局面で起きた場合には、一時的にドル売り要
因と見做されても、その影響は早期に希薄化され易いといえるのではなかろうか。今週
米国東部に上陸したハリケーン「サンディ」に関しても、その例外ではないだろう。
ただし、「サンディ」の上陸
ただし、注意を要するのは、今回のハリケーン「サンディ」が4年に一度しかない米国の
が米国大統領選挙の直前
大統領選挙直前の週に米国の人口2割を占める広い地域を直撃した」という事実が持つ
だったことの政治的含意
政治的なインプリケーションだ。巷間広く伝えられているように、今回の大統領選挙は大
には要注目
接戦の様相を呈しており、その原因が何であれ、選挙直前まで揺れ動く微細な選挙民
の投票行動の変化が最終結果に大きく影響を及ぼす可能性がある。一般には、甚大な
天災や人災の発生は、「現職有利」に働くと言われているが、果たして今回はどうだろう
か。来週の米大統領選挙の結果が為替相場に及ぼす影響については、9月5日に発行
した外貨投資の視点(No.28)「本格化する米国大統領選挙と為替相場への影響」に詳
述したが、今後年末から来年以降のドル円相場を展望する上で、来週11月6日の米国
大統領選挙と連邦議会選挙の結果が非常に重要なポイントになることだけは間違いな
い。ハリケーン「サンディ」の影響だけを純粋に抽出して米国民の投票行動を分析する
のは不可能だが、いずれにしても来週半ば頃には大勢が判明している筈だ。その後の
米国の経済政策運営に及ぼす影響を精査し、我々の為替相場見通しに反映させたいと
考えている。
(11 月 2 日 14:00)
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