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製造業の業態革新を促進する ソリューションサービス

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製造業の業態革新を促進する ソリューションサービス
10-NRI/p24-37 02.9.18 19:15 ページ 24
NAVIGATION & SOLUTION
製造業の業態革新を促進する
ソリューションサービス
NRI 生産財コアチーム
C O N T E N T S
Ⅰ 製造業の新事業「ソリューションサービス」
Ⅴ
パイロットプロジェクトの設計を通じた自社
Ⅱ
ソリューションサービス提供の進展 業務の再評価
Ⅲ
グループが保有するユーザーノウハウと企業 Ⅵ
ソリューションサービスの設計を通じた業態
規模の再評価 革新
Ⅳ
ソリューションサービス事業のポテンシャル Ⅶ
要約
1
第三の目の活用
近年、業務の包括的アウトソーシングを請け負うソリューション(問題解決策)
サービス事業が定着し始めている。実際に、アルプス物流の物流ソリューショ
ンサービスや、オムロンのシェアード・ソリューションサービスのように、ソ
リューションサービスを提供する企業が出始めている。
2
ソリューションサービス事業の鍵となるのは、顧客の課題を理解して適切な解
決策を提案することができる能力であり、これは実はユーザーが最も蓄積して
いる「ユーザーノウハウ」である。また、「企業規模」が大きいこともプラス
として働くため、多様な業務プロセスを内包している大手製造業グループは、
市場において競争力を持ちうるソリューションサービス事業を構築する潜在的
能力が高いということができる。
3
自社の業務の競争力を再評価する方法としては、「マーケットテスティング」
や「パイロットプロジェクト」がある。これらを実施した結果、各社の非コア
業務においてユーザーノウハウや企業規模の強み(ペリフェラルコンピタンス
と名づける)のあることが明らかになるケースが多い。
4
ソリューションサービスの設計を通じて自社グループのリソースを的確に把握
し、外販・外注の可能性を見極めることで、大手製造業グループが現在抱えて
いる課題に対して、有効な対応策を立案することが可能となる。すなわち、自
社グループの業務プロセスの外販による新規事業の開発、外注によるコスト競
争力の強化を図ることができる。さらには、これらを組み合わせて、グループ
経営における選択と集中の指標とすることも可能となる。
24
知的資産創造/2002年10月号
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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Ⅰ 製造業の新事業「ソリュー
ションサービス」
このような二面性は、ソリューションサー
ビス事業の特性から生じている。この事業の
鍵となるのは、顧客の課題を理解して適切な
NRI 野村総合研究所では以前からソリュー
解決策を提案することができる能力であり、
ション(問題解決策)サービス事業を提案し
これは実はユーザーが最も蓄積している「ユ
ており、同事業を「エンジニアリング、ファ
ーザーノウハウ」だからである。
イナンス、オペレーションを組み合わせるこ
このような観点で考えると、多様な業務プ
とによって、顧客が必要としている機能を提
ロセスを内包している大手製造業グループ
供し、そこから付加価値を得る新たなタイプ
は、市場において競争力を持ちうるソリュー
の事業」と定義している(本誌1999年8月号
ションサービス事業を構築する潜在的能力が
「外資参入とビジネスモデルの再構築」、2000
高いということができる。
年5月号「アービトラージ型経営モデル」を
参照)。昨今、次に述べるような環境のなか
で、ソリューションサービス事業の重要性が
Ⅱ ソリューションサービス提供の
進展
ますます高まってきている。
長期的な景気低迷に加え、製品や技術によ
ソリューションサービスは一般に、顧客の
る競合企業との差別化が困難となっている現
業務プロセスを、その遂行に必要な設備、人
状において、大手製造業グループ各社の収益
材、設備投資を含めて一括で切り出し、顧客
性が低下傾向にあることは、総論として異論
に代わって実施することにより、顧客の業務
のないところだろう。このような厳しい経営
コストを削減する効果を持っている。
状況を打破すべく、多くの企業は、「コスト
次ページの図1は、一般的な製造業企業の
構造の改革」「新たな収益源の獲得」の少な
コストを分解した例と、それぞれのコストに
くともいずれかの方向を摸索している。
訴求する代表的なソリューションサービス・
具体的には、前者については、ソリューシ
メニューを示したものである。
ョンサービスの活用によるコスト削減という
大手製造業グループは、ソリューションサ
形で、検討を進めているケースが多い。また
ービスの最大の利用者候補であると同時に、
後者については、新規事業の開発という視点
前述のように自らもソリューションサービス
から、自社の既存リソースを活用したソリュ
を提供できる潜在的能力を保有している。実
ーションサービス事業の展開を志向している
際に、製造業にとっての非コア機能であると
企業が多く見られる。
して切り出された子会社が、その機能をさら
つまり、大手製造業グループ各社にとって
に磨いていくことにより、ソリューションサ
は、同じソリューションサービスについて、
ービス事業を拡大している例は少なくない。
それを利用してコスト構造の改革を行うこと
以下に、大手製造業グループが、実際にソリ
も、自らが他社に提供することで新たな収益
ューションサービス提供に進出した具体例を
源とすることも可能なのである。
見ていきたい。
製造業の業態革新を促進するソリューションサービス
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図 1 コスト削減を可能とするソリューションサービス・メニュー
製造業のコスト構造の例
ソリューションサービス・メニュー
営業利益
FM ソリューション
IT ソリューション
間接経費削減
ソリューション
販売・一般管理費
ERP/SCM/CRM ASPソリューション
ビジネスソリューション、ドキュメントソリューション
荷造り・発送費
広告宣伝費
給料・諸手当 外注経費 研究開発費
その他
減価償却費
売上原価
シェアードサービス・ソリューション
物流ソリューション
省エネ(ESCO)ソリューション
設備ソリューション
労務費
ユーティリティソリューション
直接経費削減
ソリューション
製造ソリューション(EMS など)
原材料費
調達ソリューション
注)ASP:アプリケーション・サービス・プロバイダー、CRM:カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、EMS:電子機器製造サービス、ERP:エン
タープライズ・リソース・プランニング、ESCO:エネルギー・サービス・カンパニー、FM:ファシリティマネジメント、IT:情報技術、SCM:サプライ
チェーン・マネジメント
1 旭エンジニアリングの
設備ソリューションサービス
ある旭化成などのプロセス系製造業において
蓄積した設備診断スキルをベースに、計画保
旭エンジニアリングは、親会社である旭化
全支援システム、設備診断サービスという製
成本体の競争力を担保するための事業構造改
品・サービスメニューを開発し、着実に外販
革のなかで、エンジニアリング・メンテナン
売上高を伸ばしていった。プロセス系製造業
ス部門が非コア機能と位置づけられた結果、
における設備診断スキルは、医薬品・食品と
分社化された機能子会社である。
いったバッチ系製造業、自動車・家電に代表
製造業においてエンジニアリング部門が分
されるアセンブル系製造業における設備診断
社化されるケースは珍しいことではない。し
スキルと比較すると、技術的な優位性が存在
かし、同社の場合、メンテナンス部門が同時
したのである。
に分社化されたため、設備ソリューションサ
ービスの立ち上げが可能となった。設備ソリ
ューションサービスは、設備のメンテナンス
ションサービス
業務について、保全計画の策定から現場業務
アルプス物流は、アルプス電気が設立した
の遂行までを包括的に受注するアウトソーシ
物流子会社である。当初は、親会社であるア
ングビジネスである。
ルプス電気グループ向けに電子部品に特化し
同社は、機能子会社の時代から、親会社で
26
2 アルプス物流の物流ソリュー
た物流業務を受託していたが、そこで蓄積さ
知的資産創造/2002年10月号
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れた電子部品の物流ノウハウ(例えば、在庫
さらにアウトソーシングビジネスを展開する
に対する空調管理や静電気対策、輸配送時の
部門へと変貌をとげた。効率化の対象となっ
扱い方など)を強みとして、いち早く他社へ
た500人は、アウトソーシングビジネスに従
の共同物流サービスの販売に取り組み始め
事することで、業務調査からコンサルティン
た。
グ、アウトソーシング受託へと対象業務を広
現在では、電子部品業界のメーカー、商社、
げつつサービスを支えている。
セットメーカー約1800社のうち7割以上の企
業を対象に物流ソリューションサービスを提
供しており、アルプス電気グループ以外への
4 新日鉄ソリューションズの
ITソリューションサービス
外販比率も50%を超えている。その結果、営
新日本製鐵は、1980年に売上高がピークを
業利益率約10%という、物流事業者のなかで
打ち、鉄鋼業としての成長性に陰りが目立ち
は非常に高い収益性を保っている。
始めたため、複合事業経営の可能性を探り始
一般的に、製造業における物流業務は非コ
めた。巨大な製鉄所をほとんど無人で動かす
ア業務と考えられているが、同社はグループ
ために、新日本製鐵の社内には当時約2000人
内で蓄積されたノウハウを強みとして、新た
のシステムエンジニアと約1200人の電子制御
な収益性の高い事業を育成した典型的な事例
エンジニアが働いていた。例えば、君津製鐵
である。
所(千葉県)の情報システムのプログラム
は、JRの全国の「みどりの窓口」のそれに
3 オムロンのシェアード・
ソリューションサービス
オムロンでは、CSB(クリエーティブサ
ービスビジネス)事業部において、経理、人
匹敵する規模であった。
ユーザーノウハウを活用した例としては、
金融システムとSCM(サプライチェーン・
マネジメント)があげられる。
事などの各種管理間接業務を、さまざまな業
金融のリスク管理に用いられるオプション
種・企業から受託するアウトソーシングビジ
評価方式と、製鉄所の制御システムに使われ
ネスを行っている。このビジネスは、「業務
ていた熱伝導方程式は、背景となる知識に共
の見直しと人員削減による事務コストの低
通点があるばかりでなく、極めて類似してい
下」「外部からの事務委託によるビジネス化」
た。また、IT(情報技術)システムユーザー
の両方を目的とした社内業務改革をベース
として蓄積してきた勘や経験をシステムに落
に、グループ企業間で共通的な管理・間接業
とし込むノウハウも、金融システム事業に活
務を集約することで全体としてのコスト削減
用することができた。
を図るシェアードサービスを展開することか
ら始まった。
一方、SCMのコアとなる需要予測のため
のアルゴリズムであるARMA(自己回帰移
その結果、800人いた間接業務人員は300人
動平均モデル)は、製鉄プロセスにおける溶
まで削減されたうえ、コストセンターであっ
銑や鋼塊の温度測定でも使われている。この
た事務部門はプロフィットセンターとなり、
ため、製鉄所のシステムエンジニアが食品や
製造業の業態革新を促進するソリューションサービス
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オムツの需要予測の仕組みを理解することは
容易であった。
1 ソリューションサービス事業の
鍵となるユーザーノウハウ
さらに同社では、外界でもまれた鉄鋼シス
ソリューションサービス事業の鍵となって
テムやSCMを自社で採用することで、より
いるユーザーノウハウとは、ユーザーとして
大きなメリットを生み出している。業務の外
日々の業務を設計・遂行した結果蓄えられる
製化のメリットを2回(業務の切り離しと、
スキルである。すでに見た通り、このユーザ
ブラッシュアップされた業務の採用)享受し
ーノウハウは、それぞれの企業にとっての非
ている点で、このケースはシステムソリュー
コア機能、非コア業務で蓄積されているケー
ションの外販における好例といえよう。
スが少なくない。
もう少し、ユーザーノウハウに関するイメ
5 日立造船情報システムの
ERPソリューションサービス
日立造船情報システムは、従来、建設工事、
ージを共有するために、設備ソリューション
サービスの鍵となる設備診断スキルを例にと
って説明する。設備診断スキルとは、設備の
エンジニアリングなどの受注型産業向けには
稼働データを収集・解析して、あるいは人間
カスタマイズが難しく、導入事例がなかった
の五感を駆使して設備の劣化状況を見極め、
ERP(エンタープライズ・リソース・プラン
必要なタイミングで、必要なメンテナンスの
ニング)システムを、親会社の日立造船向け
施策を構築するスキルである。
にシステムインテグレーションすることによ
設備メーカーやエンジニアリング会社は、
り、受注型産業にERPを導入する際に必要
図2に示すバスタブ曲線において、設備の導
なテンプレート(ひな型)を開発した。
入段階で発生する初期流動を抑える業務まで
この導入実績とテンプレートをもって、他
を、業務範囲として対応してきた。しかし、
の受注型産業の企業にもERPを拡販してい
ライフサイクル全体にわたるメンテナンスコ
る。日立造船と協力して導入を行ったことに
ストの最小化を付加価値とする設備ソリュー
より、受注型産業の業務プロセスを把握し、
ションサービスでは、ライフサイクルの後段
ERPシステムのカスタマイズを成功させる
にある磨耗劣化のタイミングを見極める、も
ことが可能となった。
しくは磨耗劣化のタイミングを少しでも遅ら
せる必要性がある。
Ⅲ グループが保有するユーザー
ノウハウと企業規模の再評価
設備の初期流動を抑え、ユーザーに引き渡
した後は、法定定期点検時にスーパーバイザ
ー(管理者)を派遣する機能、場合によって
日本の製造業グループの特徴として、日常
はサービス部品を供給する機能しか担ってお
業務で培ったユーザーノウハウの豊かさと、
らず、自ら納めた設備の稼働状態をほとんど
企業グループも含めた規模の大きさをあげる
目の当たりにしないメーカーでは、その磨耗
ことができる。
劣化を見極めるスキルが蓄えられない。
このスキルを蓄えるためには、日々設備を
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見て、運転・日常点検業務を繰り返している
図 2 バスタブ曲線とユーザーノウハウ
ことが必要である。前述の旭エンジニアリン
ユーザーノウハウ
グは、親会社向けの事業のなかでこの業務を
メーカーの
対応領域
遂行していたことにより設備診断スキルを獲
設備診断スキルの
醸成には必須
得し、外販事業に横展開した結果、成功を収
めているのである。
ユーザーの対応領域
故
障
率
規定故障率
2 ソリューションサービス事業の
立ち上げの基礎となる企業規模
初期流動
偶発故障
磨耗劣化
ソリューションサービス事業では、ユーザ
時間
ーノウハウに加えて、「企業規模」を組み合
わせることにより、立ち上げを加速するとと
もに、収益性を高めることが可能となる。つ
まり、ある業務をソリューションサービスと
3 ユーザーノウハウと企業規模の
再評価
して切り出した場合、当該サービスにすでに
ソリューションサービス事業開発における
自社という顧客が存在することが強みとして
企業リソース評価では、強み・弱みの峻別基
機能する。
準があいまいなために、誤った結果に行き着
近年、持たざる経営がもてはやされ、資産
いている場合がある。「強みのある機能」=
や人材をなるべく抱えないことが重視されて
「コア機能」という図式を知らぬ間に先入観
きた。しかし、ソリューションサービス事業
として持っている企業が多く、その裏返しと
の場合、これらを持っていることが逆に有利
して、「非コア機能」=「弱みのある機能」と
に働くケースがある。
理解されていることが少なくない。
例えば、飲料分野で製造ソリューションサ
本来的には、強みのある機能とは、他業
ービスを提供するパッカーという業態では、
界、他事業に外販しても優位性を保持できる
低コストとクリーン製造ノウハウを活かし
機能であり、必ずしもコア機能とは一致しな
て、ブランドオーナーと呼ばれる清涼飲料水
い。逆に、非コア機能のなかにも宝は隠され
メーカーから清涼飲料水の製造工程を受託し
ていることが多い。
ている。この業態では、ブランドオーナーが
にもかかわらず、杓子定規に非コア業務の
持たざる経営を志向するなかで、優良な工場
アウトソーシングを意思決定すると、せっか
を持っていることが競争力の鍵の1つとなっ
くの収益源の芽をわざわざ摘んでしまうこと
ている。優良パッカーのなかには、そこそこ
になりかねない。業務の内製・外製の再設計
の稼働率のブランドオーナーの工場を買収し
においては、その業務が自社のコア機能であ
て、余剰能力分をもともとのブランドオーナ
るか否かではなく、その業務を外販した場合、
ー以外の企業からの受託により埋めていくこ
他業界で優位性が発揮できる機能かどうかと
とで、事業拡大を考えている例もある。
いう視点を含めて、リソース評価を推進する
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表1 ユーザーノウハウを活かして外販できる業務の特徴
業務の特徴
経験の経済
ノウハウのナレッジベースの活用によるコスト
削減が可能な業務
競争力の源泉
●幅広い調達先・外注先のデータベースの存在(形式化されていないものを含
む)
●調達先・外注先への発注ノウハウ、交渉ノウハウ
形式化が難しい診断・判断が要求される業務
●設備診断、省エネ診断、物流診断、業務フロー改善診断のノウハウ
コスト管理の良し悪しでライフサイクルコスト
●設備ライフサイクルコストの把握
が大きく変わる業務
●最適な設備メンテナンス間隔の知識
リスク管理の良し悪しでライフサイクルコスト
●当該業務でのトラブルの発生頻度とその深刻度の把握
が大きく変わる業務
リソース配分の良し悪しでライフサイクルコス
トが大きく変わる業務
人員の育成、資格の取得に時間がかかる業務
●在庫管理ノウハウ
●労務管理ノウハウ
●回転機のメンテナンス技能
●法定資格者(エネルギー管理士など)の存在
規模の経済
ボリュームディスカウントが利く業務
●燃料、消耗品などの調達
稼働率(人員、設備)の向上によりコスト削減
●自社業務のために配置済みの要員による周辺顧客巡回サービス
が可能な業務
●多数顧客を持っていることによる顧客の生産変動への対応(人員面、設備面)
ベストプラクティスの共有化によるコスト削減
●多数顧客を持っていることによる各拠点でのベストプラクティスの共有
が可能な業務
必要がある。
NRI 生産財コアチームが数多くの製造業グ
ループと議論をしてきた経験から判断する
ューションズの例からも明らかなように、こ
のような知識・ノウハウは意外なほど他業種
への横展開が可能な例が多い。
と、ユーザーノウハウが詰まった業務は、こ
規模の経済という観点からは、当該業務サ
れらの企業にとっては、あまりにも日常的す
ービスにすでに自社という顧客が存在し、あ
ぎて、特に誇るべきものには見えていないの
る程度の規模(企業規模)を確保しているこ
が通例である。また、そのような業務をソリ
とが強みとして機能する。
ューションサービスとして他社に外販できる
とは考えてもいない。
外販した場合に、市場で競争力を持ちうる
Ⅳ ソリューションサービス事業の
ポテンシャル
業務はおおよそ表1のような特徴を持ってお
り、これらの競争力の源泉は大きく「経験の
経済(Economies of Experience)」と「規模
の経済(Economies of Scale)」に分類する
ことができる。
30
1 注目されるソリューション
サービス事業
NRI 生産財コアチームでは、製造業がユー
ザーノウハウを活かして業務を外販できる事
経験の経済という観点からは、ユーザーと
業として、表2に示した7つのソリューショ
して自ら実施してみなければわからない、形
ンサービス事業に特に注目している。7つの
式化が難しい知識・ノウハウ(ユーザーノウ
事業のいずれも、潜在的な市場規模は約50兆
ハウ)が強みとなる。オムロンや新日鉄ソリ
円から約1.7兆円までと極めて大きく、今後、
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顕在化してくる可能性が高いと考えられる。
ン」と「製造ソリューション」の導入が目立
そこで、これらの導入実績および導入以降に
っている(次ページの図3)。また、今後の
ついて、製造業の上場企業を中心に、アンケ
導入意向を見ると、「シェアードサービス・
ート調査を実施した(2002年7月)。
ソリューション」「物流ソリューション」に
導入の実績を見ると、「物流ソリューショ
対する意向が高くなっている。
表2 注目される7つのソリューションサービス事業
競争力の源泉
ソリューション
サービス 概要
調達ソリューシ
受発注データのトランザクションを処理す
●幅広い調達先データベース
●ボリュームディスカウント
ョン
るeマーケットプレイス(電子商取引市場)
●調達先への発注・交渉ノウ
●ベストプラクティスの共有
経験の経済
を中心に、バイヤー、サプライヤー、コマ
規模の経済
国内の潜在的
市場規模
約50兆円
ハウ
ースサービス・プロバイダー(金融機関、
物流会社)などを結んで、間接材・部品購
買のコスト削減を支援する
製造ソリューシ
メーカーに代わって、製品の製造を中心に
●在庫管理ノウハウ
●ボリュームディスカウント
ョン
設計、試作、発送、補修、カスタマーサポ
●労務管理ノウハウ
●稼働率(人員、設備)の向
ートなどを一括して提供する
●幅広い外注先データベース
●外注先への発注・交渉ノウ
約4兆円 1)
上
●ベストプラクティスの共有
ハウ
ユーティリティ
工場のユーティリティ設備の調達から保
●設備診断ノウハウ
●ボリュームディスカウント
ソリューション
全、運転・管理までのライフサイクル全般
●労務管理ノウハウ
●稼働率(人員、設備)の向
にわたる機能を一括して受託し、ユーティ
●幅広い外注先データベース
リティにかかわるトータルコストの削減と
●外注先への発注・交渉ノウ
いうユーザーメリットを提供する
ビルや工場の省エネルギー対策を実施し、
●省エネ診断ノウハウ
ソリューション
ユーザーにコストメリットを提供する。エ
●幅広い外注先データベース
ネルギーコスト削減額の範囲で省エネ投資
●外注先への発注・交渉ノウ
合もある
上
●ベストプラクティスの共有
ハウ
省エネ(ESCO)
をまかなう包括的なサービスを提供する場
約20∼25兆円
●稼働率(人員、設備)の向
約2.5兆円
上
●ベストプラクティスの共有
ハウ
●ライフサイクルでのコスト
およびリスク管理ノウハウ
物流ソリューシ
企業における物流業務(物流センター等の
●物流診断ノウハウ
ョン
設備の構築、O&Mや輸配送など)を一括
●在庫管理ノウハウ
して提供する
●労務管理ノウハウ
●稼働率(人員、設備)の向
約8兆円
上
●ベストプラクティスの共有
●幅広い外注先データベース
●外注先への発注・交渉ノウ
ハウ
シェアードサー
人事、経理、総務などの本社機能のうち、
ビス・ソリュー
給与計算、経理、福利厚生などの業務を一
ション
括して提供する。社員向けのポータルサイ
●労務管理ノウハウ
トをASPを通じて提供する B to Eソリュー
●外注先への発注・交渉ノウ
ションサービスなども該当する
ERP/CRM/SCM
データセンター(ASPセンター)にERP、
ASPソリューシ
CRM、SCMなどの汎用性の高い業務系パ
ョン
ッケージのサーバーを置いて、インターネ
●業務フロー改善診断ノウハ
ウ
●ボリュームディスカウント
約6兆円
●稼働率(人員、設備)の向
上
●ベストプラクティスの共有
ハウ
●業務フロー改善診断ノウハ
ウ
●稼働率(人員、設備)の向
約1.7兆円 2)
上
●在庫管理ノウハウ
●ベストプラクティスの共有
ットを通じてサービスを提供する
注1 )電子機器に特化したEMSのみ
2)ERP、CRM、SCMのパッケージソリューション市場。これらの一定部分がASPを通じて提供される
3 )B to E:企業・従業員間、O&M:運用およびメンテナンス
製造業の業態革新を促進するソリューションサービス
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図 3 ソリューションサービスの導入実績
委託済み
委託したい
調達
製造
ユーティリティ
関連企業に
委託済み
省エネ
外部企業に
委託済み
関連企業に
委託したい
外部企業に
委託したい
物流
シェアードサービス
ERP/SCM/CRM ASP
0
10
20
30
40
50
注)製造業の上場企業を中心に1500 社にアンケート調査を行った結果(回収率12.3 %)
出所)野村総合研究所「製造業におけるアウトソーシングニーズに関する調査」2002 年 7 月
60
%
委託先としては、「関連企業」よりも「外
トとしては、「トータルコスト削減」が当然
部企業」の方が上回っており、外部の専門的
あげられるが、それと並んで「コストの変動
なソリューションサービス・ベンダーに対す
費化、生産規模の操作性の向上」 や 「高度
る期待が高いものと考えられる。
な専門技術の必要性」も重要視されている
(図4)。
2 ソリューションサービスに
NRI が2002年夏に実施したユーティリティ
対するユーザー企業のニーズ
ソリューションに関するユーザー企業インタ
ソリューションサービスを導入するメリッ
ビューでは、工場の電気主任技術者やエネル
図 4 ソリューションサービスを導入するメリット
トータルコスト削減
コストの変動費化、生産規模
の操作性の向上
高度な専門技術の必要性
所有施設のオフバランス化
コストの平準化(業績予測な
どが容易となる)
環境規制への対応(省エネ・
ゴミ処理問題への対応)
その他
特に想定しているメリットは
ない
0
10
20
30
注)製造業の上場企業を中心に1500 社にアンケート調査を行った結果(回収率12.3 %)
出所)野村総合研究所「製造業におけるアウトソーシングニーズに関する調査」2002 年 7 月
32
知的資産創造/2002年10月号
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表3 コア/ペリフェラルコンピタンスを軸にした競争戦略
多角化型
コア機能
・業務 非コア機
能・業務
強い
強い
競争力の源泉
競争戦略
コアコンピタンス+ペリ
コアコンピタンスを軸に、ペリフェラルコンピタンス
フェラルコンピタンス
も活用して、事業の多角化を図る
コアコンピタンスを軸に事業展開を図る
バランス型
強い
強い
コアコンピタンス
コア集中型
強い
弱い
コアコンピタンス
非コア機能をアウトソーシングしてコスト面などの競
争力を強化する
新事業領域
弱い
強い
展開型
事業再編型
弱い
弱い
ペリフェラルコンピタン
ペリフェラルコンピタンスを活かしてソリューション
ス
新事業領域に展開する
自社外部に求める
資金力があれば、買収を図りコアコンピタンスを取得
する。ブランド力があれば、売却なども視野に入れる
ギー管理士を自ら育成し、継続的に資格保有
る。このような非コア業務での強みを、ペリ
者を維持していくのは手間であるとの意見が
フェラルコンピタンスと名づけたい(ペリフ
多かった。
ェラル〈peripheral〉とは、「周辺の」の意
そのためもあって、コージェネレーション
(熱電併給)システムの導入については、多
である)。
コア業務における強み(コアコンピタン
くのユーザーが発電機のEPC(設計、調達、
ス)と非コア業務における強み(ペリフェラ
工事・施工)、リース、O&M(運用およびメ
ルコンピタンス)の有無の組み合わせによっ
ンテナンス)、燃料調達、電気主任技術者の
て、とるべき競争戦略は表3のように変化す
派遣をパッケージで提供するベンダーを選択
る。前述の5つの事例は、コアコンピタンス
している。
に加えてペリフェラルコンピタンスを活用す
る多角化型といえる。
Ⅴ パイロットプロジェクトの設計
を通じた自社業務の再評価
一方、麻生セメント株式会社(未上場)
は、2001年7月1日に商号を株式会社麻生に
変更し、8月1日にセメント関連事業を分社
1 コアコンピタンスと
ペリフェラルコンピタンス
しており、医療・福祉関連分野並びに環境事
業をはじめとする新規事業展開の体制を強化
「ユーザーノウハウ」と「企業規模」の活用
することとしている。このような例が新事業
という新しい差別化の軸が明確になりつつあ
領域展開型と考えられる。
るなかで、各社にとってのコア業務での強み
をコアコンピタンス(競争力の中核)として
競争力の源泉とするだけでなく、すでに見て
2 自社業務再評価の手法
(1)マーケットテスティング
きたように、非コア業務を新規事業の核に据
自社の業務が外販可能か否かは、「マーケ
えることが可能となるケースが出てきてい
ットテスティング」という手法を用いること
製造業の業態革新を促進するソリューションサービス
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(2)パイロットプロジェクト
図 5 マーケットテスティング(内・外製化の判断)
一方で、ソリューションサービスは、設備
業務の切り出し
●規模の経済、経験の経済が利く業務
●自社のコア業務か否かは問わない
や機械の販売やEPCといった売り切り型ビ
ジネスモデルとは異なり、長期契約サービス
のビジネスモデルとなる。このため、実際に
ある程度の期間サービスを実施してみないと
外部ベンダーからの
見積もり取得
切り出された業務の
自社コスト試算
本当のコストがわからない部分があり、単純
な見積もりベースでのコスト比較では済まな
いケースが出てくる。
コスト比較
外部ベンダーコストの
方が低い
自社コストの方が低い
ソリューションサービス・ベンダーは、上
限コストを保証する場合が多いが、本当にコ
ソリューションサービス
として外販を志向
外部ベンダーへのアウト
ソーシングを志向
外製化の是非の検討
ストメリットが発生するか否かは、やってみ
なければわからないことが多い。したがって、
国内の先進的ユーザー企業では、一部門や一
工場を対象に、パイロットプロジェクトの形
によって評価することができる。これは自社
で実験的にソリューションサービスを導入す
コストとベンダーコストを比較するもので、
ることによって、コスト削減効果を検証して
図5のようなプロセスで検証することが可能
いる。
である。
例えば、ユーティリティ・ソリューション
マーケットテスティングは、新規に情報シ
サービスでは、NRI のインタビューによれ
ステムを導入する場合に従来とられてきてい
ば、表4のようなマーケットテスティングや
る手法だが、近年、すでに稼働中の情報シス
パイロットプロジェクトを実施している事例
テム、工場プラント、ユーティリティ設備な
が存在する。
どについて、同様の考え方で内・外製化を検
討する企業が出てきている。
表4
また、製造ソリューションの分野でも、ソ
ニーの生産子会社ソニーイーエムシーエスの
ユーティリティ・ソリューションサービスのマーケットテスティング、パイロットプロジェクトの事例
ユーザー
手法
半導体工場
マーケットテスティング
内容
純水供給量の拡大に対応する際に、自社での造水コストと純水蛇口売りベンダ
ーの見積もりとを比較して、後者を採用
飲料工場
パイロットプロジェクト
九州に所在する工場では、一部の生産ラインでメンテナンス業務をメンテナン
ス会社に大々的にアウトソーシング。現時点では、そのメンテナンス体制での
コスト削減効果を検証中
自動車工場
パイロットプロジェクト
ユーティリティのアウトソーシングの是非を検討するために、国内のいくつか
の工場について、サードパーティのメンテナンス会社にアウトソーシングする
パイロットプロジェクトを実施中。効果が出るようであれば、適用対象を拡大
していく意向
ユーティリティ設備の稼働率向上を課題として強く意識しており、アウトソー
シングによる稼働率の向上も期待している
出所)企業へのインタビューより作成
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木更津テック(千葉県)が、パイロットプロ
オーナー、製造(パッカー、ファウンダリー
ジェクトを実施している。ここには1000人近
〈受託生産〉、EMS〈電子機器製造サービス〉
い請負社員が働いているが、1品目に2つの
など)、ユーティリティ、物流と、機能ごと
ラインを用意して、1つのラインを請負会社
にプレーヤーが分化しつつある。また、薬事
に委託し、もう一方を正社員が手掛けている。
法の改正により、製薬業界でも同様の再編が
これは双方のラインを比較し、どちらの生産
始まろうとしている。
性が高いかを検討するためである。
すでに述べたように、製造、ユーティリテ
ィ、物流などの業務には規模の経済が働くた
Ⅵ ソリューションサービスの
設計を通じた業態革新
め、これらをソリューションサービス事業化
して、多数のブランドオーナー顧客を獲得し
たベンダーは、コスト競争力を強化し、ブラ
ソリューションサービスの設計による自社
業務の再評価は、現在製造業グループ各社が
ンドオーナーに対してもバーゲニングパワー
(交渉力)を持つことが可能になりつつある。
抱えている以下のような問題点の解決につな
がろう。
2 コスト構造の改革
自社グループにおける業務の再評価を通じ
1 選択と集中による
グループ経営の最適化
連結納税制度が導入され、株式市場の目が
連結重視に変化するなかで、グループの姿を
て、強みがないという結論に至った部分に関
しては、ソリューションサービスを導入する
ことによって、コスト構造改革を実施するこ
とが望ましい。
自ら積極的に変化させて、グループ全体とし
現在自社で実施している業務をアウトソー
ての企業価値を追求していく本格的な連結経
シングする基準としては、NRI 生産財コアチ
営が求められる時代となってきている。この
ームが多数の企業と議論したところによれ
ような状況のなかで、自社グループにおける
ば、「現状よりもコストが10∼20%削減でき
業務の再評価を通じて、強みのある部分は外
ること」が目安となるようである。実際、物
販し、強みのない部分は外注すること(選択
流ソリューションやユーティリティソリュー
と集中)により、グループ経営の最適化を図
ションなどのソリューションサービスを提供
ることが可能となろう。
しているベンダーは、長期契約を前提に、10
また、製造業グループ各社における選択と
集中の実施が、業界全体の再編にもつながる。
%強のトータルコスト削減を約束し、実現し
ている場合が多い。
ソリューションサービス(製造ソリューショ
また、ソリューションサービスを導入する
ン、ユーティリティソリューション、物流ソ
メリットは、トータルコスト削減だけではな
リューションなど)が比較的広範に導入され
い。今まで、自社で保有することになってい
ている食品・飲料、半導体、電機などでは、
た設備や人員を、ソリューションサービス・
それぞれの業界で呼称は異なるが、ブランド
ベンダー側に持たせるために、設備投資など
製造業の業態革新を促進するソリューションサービス
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図 6 製造業の一般的なバリューチェーンと外販可能なユーザーノウハウ抽出の視点
研究
開発
全般管理
規
模
の
経
済
調達
生産
(設備、用役、業務など)
物流
●自社の物流網に他
社の荷物を載せる
ことができないか
マーケ
ティング
販売
サービス
●自社用に作り込
んだ間接業務向
けのIT システム
・体制を他社に
も提供できない
か
●他社より有利な
条件でハードウ
ェアや燃料など
を調達できてい
ないか
●自社の工場生産能力
を他社にも提供でき
ないか
●業務フローの改
善ノウハウを保
有していないか
●幅広い調達先の
データベースを
持っていないか
●物流拠点配置ノウ
ハウを有していな
いか
●設備のライフサイクル
コスト診断ノウハウを
有していないか
●業務フローを IT
システム、ERP
などに落とし込
むノウハウを有
していないか
●調達先との交渉
のノウハウを持
っていないか
●独特の労務管理ノウ
ハウ、生産管理ノウ
ハウを保有していな
いか
●場内動線管理ノウ
●コスト管理ノウハウ、 ハウを有していな
リスク管理ノウハウ いか
を有していないか
●独特の労務管理ノ
●業務、設備、省エネ ウハウ、在庫管理
などの診断ノウハウ ノウハウを有して
いないか
を有していないか
●トラブル発生頻度とそ
の深刻度を見積もるノ
ウハウを有していない
か。また、データベー
スを保有していないか
●多数の資格者を有し
ていないか
●SCM構築ノウハウ
を有していないか
経
験
の
経
済
●自社の余剰ユーティ
リティを他社に販売
できないか
●自社のサービス拠点、
メンテナンス要員を他
社のメンテナンスに活
用できないか
●他社より有利な条件で
部品、消耗品を調達で
きないか
がなくなり、コストは平準化される。また、
課金方法に従量制(物流ソリューションサー
ビスであれば、扱い荷量などに連動させる)
3 ソリューションサービス新事業
の創造
自社グループにおける業務の再評価を通じ
を採用すれば、今まで固定費であった減価償
て、強みがあるという結論に至った部分に関
却費や人件費が変動費になる。
しては、ソリューションサービス・ベンダー
これらの効果から、より財務の健全化が進
むと考えられる。
として外販することで、グループ全体として
の競争力が強化される。
外販できるノウハウ抽出の視点を図6に整
表5
外販の可能性を検討すべきノウハウ
業種
ノウハウ
●機器のリバースエンジニアリング・ノウハウ
製鉄業
製造業一般
理した。個々の機能・業務ごとに、活用でき
るユーザーノウハウや企業規模があるかどう
かを検証することがポイントとなる。このよ
●中古設備を活用したエンジニアリングノウハウ
うなチェック項目をベースに、自社グループ
●調達ノウハウ(直接材、間接材、燃料)
に外販可能なノウハウがあるかどうか確認す
●特定業種向け情報システム構築・運用ノウハウ
●労務管理ノウハウ(工場、ユーティリティ)
●生産性向上運動ノウハウ(工場)
ることができよう。
必ずしも製造業グループに限らないが、
●本社・間接部門効率化ノウハウ
通信業
●料金徴収などのためのダイレクトメール発送ノウハウ
鉄道運輸業
●ディーゼルエンジン・メンテナンスのノウハウ、体制
●発電・送配電ノウハウ
NRI 生産財コアチームでは、多数の企業との
議論を通じて、表5のようなユーザーノウハ
ウの外販の可能性に注目している。重厚長大
●通信ネットワークの構築・運用ノウハウ
船舶運輸業
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●発電機運転ノウハウ
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系の企業が特に多いが、これは業務プロセス
ーダーにスポットライトを当てることが必須
が多様であるために、ユーザーノウハウ蓄積
である。第三の目として、コンサルティング
の可能性が高いことを示している。
会社を活用することは、客観的な評価のため
だけではなく、リーダーに強力なライトを当
Ⅶ 第三の目の活用
ソリューションサービス事業の設計におけ
る自社業務の再評価を通じて、大手製造業グ
ループが現在抱えている課題に対する有効な
てる演出としても極めて重要と思われる。
著●
者 ――――――――――――――――――――――
●
本稿は、NRI 生産財コアチームの以下のメンバーが
執筆した。
対応策を発見することが可能となるのは、す
原 亮一(はらりょういち)
でに述べた通りである。
事業戦略コンサルティング部長
大手製造業グループの経営関係者のなかに
は、このような自社業務の再評価に挑戦した
が、うまくいかないと感じている人も多いと
専門は製造業およびエネルギー関連業界向け事業戦
略、業務改革、国際戦略
石上圭太郎(いしがみけいたろう)
思われる。そのような感慨を持つ人の代表的
事業戦略コンサルティング部上級コンサルタント
な悩みは次のようなものである。
専門は製造業およびエネルギー関連業界向け事業戦
●日常行っている業務を自分たちで客観的
略、グループ経営戦略
に評価することができない。
●特に、非コア業務は社内における位置づ
けが低いため、そこに強み(ペリフェラ
ルコンピタンス)があったとしても、気
岡崎啓一(おかざきけいいち)
事業戦略コンサルティング部副主任コンサルタント
専門は生産財メーカーおよびエネルギー関連業界向
け事業戦略
づくことができない。
●社内の一流の人材は、通常業務に繁忙な
ため活用することができない。
NRI 生産財コアチームのコンサルティング
山崎朋広(やまざきともひろ)
事業戦略コンサルティング部コンサルタント
専門は製造業向け事業戦略、新規事業開発
経験に基づけば、このような自社業務の再評
古賀龍暁(こがたつあき)
価を行うためには強力なリーダー人材が不可
事業戦略コンサルティング部
欠である。また、組織の中でリーダーシップ
専門は製造業向け事業戦略、新規事業開発
を発揮させ、社内の協力を得るためにも、リ
製造業の業態革新を促進するソリューションサービス
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