...

超軽量電気自動車のフレーム設計・製作

by user

on
Category: Documents
24

views

Report

Comments

Transcript

超軽量電気自動車のフレーム設計・製作
平成 22 年度
修士論文
超軽量電気自動車のフレーム設計・製作
Design and Manufacturing of Frame for the Super LightLight-Weight
Electric Vehicle
高知工科大学大学院
工学研究科基盤工学専攻
知能機械システム工学コース
自動車設計生産システム研究室
沖
大佑
指導教員 大塚 幸男 教授
目次
第1章
序論
1.1 はじめに
1.2 自動車が環境に与える影響
1.3 次世代自動車について
1.4 電気自動車について
1.5
研究目的
第2章
2.1
超軽量電気自動車の企画・製作
研究室内での車両開発の経緯
2.2 軽量化について
2.3 軽量化の手法
第3章
フレームの設計
3.1 フレームの種類について
3.2 フレーム基本設計の概念
3.3 フレームの導入技術について
3.4 フレームの素材
3.5
曲げ剛性・ねじり剛性について
3.6
フレームの設計案
第4章
構造解析
4.1 構造解析の目的
4.2 解析ソフトの信頼性評価
4.3 フレームの強度解析
4.4 各剛性値の解析結果と比較検討
第5章
剛性試験
5.1 製作状況
5.2 試験条件
5.3 試験結果
第6章
フレームの改良
6.1 フレームの改良案
6.2 解析結果
6.3 設計フレームの位置づけ
第7章
謝辞
参考文献
結言
第1章 序論
1.1 はじめに
今日の自動車業界を取り巻く問題として、自動車の排出ガスに含まれる二酸化炭素や窒
素化合物によって引き起こされる地球温暖化などの環境問題、近い将来起こりうるとされ
ている石油枯渇問題に起因したエネルギー問題、自動車の材料となる鋼板などの材料費高
騰などがある。そしてこれからの自動車に求められる性能として、低燃費、低公害、高い
安全性、高いリサイクル性、車体構造の簡易化、部品点数の削減、部品の多機能化、車両
の軽量化などが挙げられる。
先に示した諸問題を解決しつつ、これからの自動車作りを考えた革新的なコンセプトカ
ー、
「Flying Fish-G」を昨年度製作した(図 1.1 参照)
。内容としては、
「超軽量スポーツカ
ー」をコンセプトに掲げ、以前研究室で製作した学生フォーミュラーカーの技術と経験を
活かして、フレーム素材にスチールと、リサイクル性が高く軽量であるアルミニウム合金
を使用し、それに FRP 製のボディを組み合わせることで、軽量化に特化した自動車作りを
進めてきた。ガソリン車の軽量化による環境性能と走行性能の向上と両立を目指して製作
されたのが、「Flying Fish-G」である。
今年度は、
「Flying Fish-G」の技術をベースに、動力源を電池とモータに置き換えた電気
自動車「Flying Fish-EV」の設計製作を行った。コンセプトは昨年に引き続き「超軽量
超軽量」
超軽量
と、軽量化による運動性能向上からなる「スポーツカー
スポーツカー」
スポーツカー 、さらに今回は Electric Vehicle
ということで「エコ
エコ」
エコ 、以上の3点を掲げるものとした。
図 1.1 Flying Fish-G
-1-
1.2 自動車が
自動車が環境に
環境に与える影響
える影響
地球温暖化の主な原因は図 1.2 より二酸化炭素とされ、日本における二酸化炭素排出量の
割合を示したものが図 1.3 である。2008 年度の日本国内における部門別二酸化炭素排出総
量は、12 億 1400 万トンとなっており、その中で運輸部門は約 20%、2 億 3500 万トンを占
めている。
図 1.2 地球温暖化への寄与度
図 1.3 日本の部門別 CO2 排出量の割合
(出典:温室効果ガスインベントオリフィス
全国地球温暖化防止活動推進
センターウェブサイト(http://www.jccca.org/))
図 1.4 運輸部門の CO2 排出量内訳
また、図 1.4 の 2007年度の運輸部門の CO2 排出量の内訳を見ると、自家用乗用車が
-2-
約 50%を占めており、普段我々が乗っている自動車が地球温暖化の一因となっていること
がわかる。地球温暖化防止のために、近年では燃費が良く、環境負荷の少ない自動車の開
発が求められており、各自動車メーカはハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)、
燃料電池自動車(FC-EV)、水素自動車(HV)など次世代の技術開発・実用化に力を注い
でいる。燃費が良いということは、二酸化炭素の排出量低減に直接作用し、石油燃料の省
エネルギー化につながる。そして、この燃費向上には、自動車の軽量化が大きな意味を持
つ。一般的に、自動車は車両重量を 100kg軽く出来ると、燃費が 10%向上すると試算さ
れており、電気自動車においても同様の効果があると考えられる。我々の研究は、軽量化
によって自動車の地球環境への負荷低減を狙っており、環境に優しい自動車作りを目指し
てきた。
-3-
1.3 次世代自動車について
次世代自動車について
次世代自動車の様式として、先述した HV や EV の他に、クリーンディーゼル車や天然
ガス自動車、バイオ燃料対応車など様々な種類がある。表 1.1 に一覧を示す。
表 1.1 代表的な低公害車
種類
天然ガス自動車
構造
Natural Gas
Vehicle (NGV)
Liquefied
LP ガス自動車
Petroleum Gas
家庭に供給されているのと同じ天然ガスを燃料とし
て走る。
家庭で使うプロパンガスを空気と混合し、エンジンに
送り燃焼させる。
(LPGV)
メタノール自動車
水素自動車
燃料電池自動車
Methanol Vehicle
ガソリンとエタノール混合を燃料とする自動車。
(MV)
Hydrogen Vehicle
(HV)
Fuel Cell Vehicle
(FC-EV)
Hybrid Vehicle
(HEV)
普通のガソリン車と同等に、燃料の水素を噴射、水素
と酸素の酸化反応で熱エネルギーに変換して走る。
電気自動車に発電装置として燃料電池を搭載したも
の。
[1]シリーズ型
エンジンは発電のみを行い、電気をバッテリー(蓄
電池)等に蓄電し、その電力でモータを駆動させて走
行する。
[2]スプリット型
ハイブリッド
シリーズとパラレルの両方兼ね備えたハイブリッ
自動車
ド自動車。
[3]パラレル型
2 つの動力源がそれぞれの車輪を直接駆動させる方
式。一つの動力源が前輪、もう一つの動力源が後輪を
駆動させる方式と、両方の動力源が同一の車輪を駆動
させる方式がある。
電気自動車
Electric Vehicle
(EV)
搭載した電池に蓄えた電気エネルギーによって、モー
タを回転エネルギーに変換して走る。
-4-
1.4 電気自動車について
電気自動車について
電気自動車と聞くと最近の技術のように思われるかもしれないが、意外にもガソリンエ
ンジンなど内燃機関を動力源とする自動車より歴史は古く、1890 年代には実用化されてお
り、当時は蒸気機関、内燃機関と共に一般的な自動車の動力源として普及していた。
しかし、その後自動車市場は急速な発展・改良を遂げた内燃機関に支配され、EV は一旦
市場より姿を消すこととなった。
一旦は衰退してしまった EV だが、1970 年代ごろから石油ショックや環境問題によって
再び脚光を浴びることとなり、今日では各自動車メーカが EV の開発、普及に努めている。
だが、EV はガソリン車と比較すると普及台数は少なく、図 1.5 に示すように次世代自動
車の中でも普及台数は少ない。
図 1.5 低公害車保有台数推移グラフ (平成 21 年度環境統計集より)
近年、環境低負荷型の自動車として注目されている EV にはどのような利点があるのか、
なぜ普及台数が伸びないのかについて EV が抱える問題点と併せて以下にまとめる。
EV の利点
○ 有害物質を
有害物質を排出せず
排出せず、
せず、経済的である
経済的である
⇒ガソリン自動車の用に二酸化炭素や窒素化合物を排出しないため環境負荷が少ないクリ
ーンな自動車であり、電気自動車の電力をすべて火力発電でまかなったと仮定しても、ガ
-5-
ソリン車よりも 3~4 倍、総合効率で優れ、ガソリン代と電気代を比較しても半分以下のコ
ストで収まり経済的である。
○ 振動・
振動・騒音が
騒音が少なく静粛性
なく静粛性に
静粛性に優れる
⇒内燃機関のような爆発・燃焼による振動や騒音が無いため、走行中は至って静かである。
○ 部品点数が
部品点数が少ない
⇒ガソリン自動車のようにエンジンや冷却装置、油脂類が不要なため、部品点数で比較す
るとEVでは3分の1程度に抑えられる。またスペース効率も上がることで、デザインや
パッケージングの自由度が広がる。
EV の問題点
● 1回の充電で
充電で走行出来る
走行出来る距離が
距離が短い
⇒一般的なガソリン自動車は燃料タンクにフルで給油した場合、最低でも航続可能距離は
300km 程度あるのに対し、現在市販されている EV は一充電当たりの航続可能距離が
100km 前後しかない。
● 充電設備の
充電設備のインフラが
インフラが未整備であり
未整備であり、
であり、充電にかかる
充電にかかる時間
にかかる時間が
時間が長い
⇒家庭用の交流 100V の電源で電池残量が空の状態から満充電にかかる時間は、車両にもよ
るが概ね 10 時間を越えてしまう。数 10 分の充電で約 80%充電が出来る急速充電器などを
設置した充電設備は徐々に整備されつつあるが、設置コストの問題等により十分に普及し
ているとはいえない状況であり、遠出の際には不安が残る。
● 車両価格が
車両価格が高価である
高価である
⇒ EV に使用されるモータやリチウムイオン電池などの二次電池は高価なものであるため、
車両価格は必然的に上がってしまう。EV 補助金制度を利用しても、同クラスのガソリン自
動車と比較した場合、100 万円以上価格が高い。
電気自動車も開発・改良が進み、日本で見てみると、三菱自動車から i-MiEV、日産自動
車からはリーフが販売されるなど、EV の市場は拡大を続けている。しかし、先述した通り、
航続可能距離とインフラ整備という問題が EV の普及の妨げになっている。日本においては
短距離を走るシティコミュータとして使用される機会が多く、EV が普及するまであと一歩
といった状態である。
-6-
1.5 研究目的
EV には航続可能距離が短いという致命的な欠点がある。近年、EV の航続可能距離の長
距離化の要である鉛蓄電池やリチウムイオン電池等のエネルギー貯蔵技術の開発・改良や
動力源であるモータの技術改良により、一充電当たりの航続可能距離は向上を続けている。
EV の航続可能距離を伸ばすための手段としては、
・ バッテリーの高効率化
・ モータの高効率化
・ CVT などによる駆動系の高効率化
・ 制御によるエネルギー回生
・ 車両重量の軽量化
などが挙げられる。
本研究の目的は、EV の普及が進まない原因の一つである航続可能距離の短さについて、
車両の軽量化によってアプローチし、航続可能距離を伸ばすことにより EV の普及拡大に繋
げるというものである。
-7-
第2章 超軽量電気自動車の
超軽量電気自動車の企画・
企画・製作
2.1 研究室内での
研究室内での車両開発
での車両開発の
車両開発の経緯
我々の研究室では、研究室が設立された 2007 年度に、自動車の基本的な知識・技術習得
を目的として、学生フォーミュラーのレギュレーションに則ったフォーミュラーカーを設
計製作した。翌年度以降は、そのとき得られたデータを元にして、公道走行を前提とした
超軽量 2 シーターミッドシップオープンスポーツカー「Flying Fish-G」を設計製作した。
それと並行してダイハツ工業株式会社のミラのエンジン部をモータに置き換えたコンバー
ト EV の設計製作を行った。今年度は「Flying Fish-G」と「ミラ コンバート EV」の設計
製作技術と走行データを活用した電気自動車「Flying Fish-EV」の設計製作を行った。な
お、駆動方式としては旋回性能向上を狙ってモータをキャビン後方に搭載するミッドシッ
プレイアウトとしている。以下の図 2.1 に研究室での車両開発の流れを図式化する。
数ある次世代自動車の中から、今年度製作する車両に EV を選択した。理由としては、
・ ガソリン車と比較した場合、部品点数を約3分の1に抑えられ、軽量化に貢献出来る
・ モータ、バッテリーからなるシンプルな動力ユニットのため、製作し易い
・ レイアウトの自由度
・ 昨年度製作した「Flying Fish-G」、
「ミラ コンバートEV」の技術活用
という点から採用を決めるものとする。
図 2.1 研究室内での車両開発の流れ
-8-
以下に「Flying Fish-G」と「ミラ コンバート EV」
、
「Flying Fish-EV」の主要諸元につ
いてまとめる。
表 2.1 Flying Fish-G の主要諸元
項目
仕様
ボディタイプ
2 ドアコンバーチブル
車名
Flying Fish
トランスミッション
ビートのものを使用
寸法・重量
ウェイト
エンジン
タイヤ
ブレーキ
サスペンション
全長
3400
(mm)
全幅
1480
(mm)
全高
1170
(mm)
ホイールベース
2280 (mm)
トレッド F/R
1210/1210 (mm)
最低地上高 (mm)
135 以下
車重
500
(kg)
重量比(前:後)
40:60
使用エンジン
HONDA BEAT E07A 型
排気量(cc)
656
最高出力(PS/rpm)
64/8100
最大トルク(kgm/rpm)
6.1/7,000
Front
155/55R14 60H
Rear
165/50R15 60H
Front
油圧式ディスク
Rear
油圧式ディスク
Front
ダブルウィッシュボーン
Rear
ダブルウィッシュボーン
-9-
表 2.2 ミラ コンバートEVの主要諸元
寸法・重量
性能
モータ
バッテリー
全長
3295 (mm)
全幅
1395 (mm)
全高
1430 (mm)
ホイールベース
2300 (mm)
トレッド前/後
1225/1210 (mm)
車両重量
700 (kg)
1 充電走行距離
80km
種類
直流直巻
定格出力(kW)
26kW
種類
リチウムイオン
容量・電圧
80Ah・15.0V
積載個数
6個
総電圧
90.0V
表 2.3 Flying Fish-EV の主要諸元
寸法
全長
3400
(mm)
全幅
1480
(mm)
全高
1170
(mm)
ホイールベース
2280
(mm)
トレッド F/R
最低地上高
重量
車重
1290/1290
135
500
(mm)
(mm)
(kg)
種類
直流直巻
最高出力
20 kW / 28 HP
最大トルク
88 N・m / 9 kgf・m
種類
リチウムイオン
総電圧
90 V (15 V×6 個直列)
Front
175/60R14 79H
Rear
185/55R15 81H
ブレーキ
Front/Rear
油圧式ディスク
サスペンション
Front/Rear
ダブルウィッシュボーン
モータ
バッテリー
タイヤ
- 10 -
2.2 軽量化について
軽量化について
なぜ車両を軽量化すれば航続可能距離が伸びるのか。そのメカニズムについて説明する。
・走行抵抗について
乗用車が走行する際に発生する抵抗、走行抵抗 R は以下の式によって求めることが
できる。
R
=
(走行抵抗)
Rr
+
(ころがり抵抗)
Ra
+
(空気抵抗)
Rg
(こう配抵抗)
Rr = μrW
μr:ころがり抵抗係数 W:車両総重量
Rg = Wsinθ
θ:傾斜角
・駆動力 F と抵抗力 R とのつり合いの式
F = R + Ra = Rr + Ra + Rg + ( W + ⊿W )・α/g
ここで、Ra は加速抵抗、⊿W:駆動機構の回転部分の慣性相当重量(※)、αは自
動車の加速度、g は重力加速度である。
※:加速をする場合、モータ、トランスミッション、プロペラ、デフ、後輪を加速する必
要があり、これを重量に換算したもの。(⊿W=xW1 であり、x は車両によって異なる定数。
W1=車両重量)
以上より、自動車の走行時に影響する主な抵抗のうち、空気抵抗以外は車両総重量が大
きく関与することになる。つまり、車両重量が小さければ、ころがり抵抗、こう配抵抗、
加速抵抗の3つの抵抗を一気に軽減することが可能となり、結果として燃費が向上するこ
ととなる。 一般的な乗用車であれば、図 2.2 に示すように 10%の軽量化により、燃費が
10%向上するとされている。また、EV においても同等の効果があると考えられる。
図 2.2 ガソリン乗用車両重量別燃費状況
- 11 -
2.3 軽量化の
軽量化の手法
車両重量の軽量化について、我々の研究室では、
・ FRP 製ボディの採用
・ フレームのアルミ化
・ 軽量アルミホイールの採用
・ その他補機類の軽量化
以上のような手法で行っている。
FRP とは繊維強化プラスチックのことで、金属材料よりも比強度が大きく、軽量化が可
能であり、腐食しにくいという特徴を持っている。金属を加工して作るボディとは違い、
型取りをすれば量産可能で、大掛かりな設備等も無く低コストでの製作が可能となる。型
には発泡ウレタンを使用するため、成形性も高く軽量化に貢献出来る素材であるのでボデ
ィ素材に採用した。
(図 2.3 参照)
フレームのアルミ化については、後述するがまだ思案段階であり、現状ではスチールを
主体としたフレーム製作を行っている。将来的にはアルミダイカストにより低コストかつ
量産性に優れたフレーム製作の実現を予定している。(図 2.4 参照)
アルミホイールとスチールホールを比較した場合、最大で 50%程度アルミホイールの方
が軽量化に貢献出来る。軽量なホイールはばね下重量の低減に貢献し、運動性能向上の面
から大きな効果がある。
図 2.3 Flying Fish-G の FRP ボディ
- 12 -
図 2.4 Flying Fish-G のスチールフレーム (一部アルミ使用)
車体重量の軽量化について、私はフレームの設計を行い、軽量化による航続可能距離の
長距離化と、高い強度・剛性を持ち走行性能を高めたフレーム製作を目標とした。
- 13 -
第3章 フレームの
フレームの設計
3.1 フレームの
フレームの種類について
種類について
現在、市販されている乗用車のフレーム構造は、大きく分けてモノコック・ボディとス
ペースフレームの二種類がある。モノコック・ボディとは、図 3.1 に示すようにフレームと
ボディが一体化した形をした構造をしている。メリットとしては、外板自体が強度部材と
なっているため、骨組みを簡素化することが出来るため軽量であり、面全体で力を受け止
めるため剛性が高いという特徴がある。さらに、フレームとボディーが一体化しているた
め生産性に優れる。デメリットとしては、ボディ全体で荷重を受け止める構造をしている
ので、衝突による変形や腐食で大幅に剛性と強度が落ちる。
図 3.1 モノコック・ボディ(参考:トヨタ自動車株式会社 カムリ)
一方、図 3.2 に示すようにスペースフレームは、丸管や角管を接合して骨格を形成するフ
レーム形式である。特徴としては、平面的な板材を使うモノコック・ボディより高い剛性・
強度が得られ、少ない材料で剛性を得ることが出来るため、軽量化に貢献できる等のこと
がある。また、モノコック・ボディのようなプレス型が不要なため、コストを抑えること
ができ、製造が容易である。デメリットとしては、部品点数が多くなることから大量生産
- 14 -
に向かないということがある。
図 3.2 スペースフレーム (参考:アウディ A8)
以上の点より、Flying Fish-EV にはモノコック・ボディより軽量ながら高い剛性・強度
が得られ、製造が容易なスペースフレーム構造を採用することにした。
- 15 -
3.2 フレーム基本設計
フレーム基本設計の
基本設計の概念
Flying Fish-EV のフレーム設計のポイントとして【超軽量】と【高強度・高剛性】の両
立を目指した。Flying Fish-G を企画した当初は、ロータス社のエリーゼに代表されるよう
なオールアルミでのフレーム設計を構想していたが、
・ コストの高さ
・ 鉄素材と比較した場合のアルミ素材の溶接の難しさ
・ 加工性の低さ
・ スペース効率の問題
以上のような点がネックとなっていた。以前に実際にアルミフレームの設計を行い、ある
程度製作は進んでいたが、パワートレーンの搭載をすることや、運転スペースなどを製作
されたアルミフレームで改めて考えてみると、様々な問題が浮き彫りとなってしまった。
そこで考え出されたのが、いったんオールアルミフレームから離れ、また 3D-CAD に頼
らず、図 3.3 に示すようにプラスチック段ボールを用いて原寸大のフレームのモックアップ
を製作し、居住スペースが確保されていること、フレームがカウル内にきちんと収まるこ
と、各部品の搭載スペースが確保されていることを確認した上で、低コストで加工が容易
なスチール部材を使い、今後の叩き台とするフレームを製作する手法である。
(図 3.4 参照)
図 3.3 プラスチック段ボールによる実寸モックアップ
- 16 -
図 3.4 モックアップの寸法を元に製作
そうして完成したのが、図 3.5 に示す基本骨格の部材はスチールを採用し、底板やバルク
ヘッド部にアルミを使用したスチールとアルミのハイブリッド・フレームである。
図 3.5 完成した Flying Fish-G のフレーム
しかし、Flying Fish-G に採用されたハイブリッド・フレームは、3D-CAD を使わず、原
寸合わせで製作を行ったため、超軽量ということはクリア出来たが、構造解析や強度試験
を行っておらず、またオープンカーのため開口部も広く、強度・剛性の面から不安の残る
ものとなった。実際に、走行試験を行った際には、図 3.6 のように強度不足のためドアの開
口部に補強バーを追加して走行した程である。
- 17 -
図 3.6 ドア開口部に補強を加えたフレーム
今回の Flying Fish-EV のフレームは、Flying Fish-G での問題点・反省点を踏まえ、強
度・剛性面の改善を目指して設計を行った。
- 18 -
3.3 フレームの
フレームの導入技術について
導入技術について
Flying Fish-EV のフレームの仕様としては、Flying Fish-G の企画当初から採用されてい
るフロントセクション、キャビンセクション、リアセクションの3ピースに分割した構造
とした。(図 3.7 参照)
分割することで、故障の際などフレーム全体でなく故障した部位のみ交換することが可
能となり、コストを低く抑えることが出来る。また、将来的に駆動系の仕様変更を行う際
などにも、そのピースを新たに作り直すことで対応でき、一からフレームを作り直すとい
う苦労と時間をかけずに仕様変更が出来る拡張性の高いフレームとなる。
リア
フロント
キャビン
図 3.7 3ピース構造の概念
また、前回のフレームではフロント部ではラジエターなどの冷却装置、リア部ではエン
ジンやミッションなどが大きくスペースをとってしまい、結果的に部品などは干渉せず搭
載出来るに至ったが、サスペンションアームの長さが短くなってしまうという問題点があ
った。
サスペンションアームの長さが短いと、スカッフ変化が大きくなってしまい、ダブルウ
ィッボーン方式の性能を十分に活かせないものとなってしまう。図 3.8 に示すように、タイ
ヤが上下にストロークしたときにタイヤの接地点(A点)の軌跡は、リンクの長さにより
大きく変わる。短いアームの場合、ストロークに伴い接地点が左右に大きく振られるが、
長いアームになるとそれが小さくなる。
- 19 -
図 3.8 スカッフ変化
この接地点の横方向の動きがスカッフ変化であり、これはうねりのある路面走行時のふ
らつきの原因になるので、アームを長くすることでスカッフ変化を小さくすることが望ま
しい。Flying Fish-EV では、フロント部、リア部のフレーム幅を短くし、長いアームが取
り付けられ、スカッフ変化が小さくダブルウィッシュボーン方式の性能を十分に発揮出来
るように設計を行った。
また、図 3.9 に示すように、バッテリーはフレームのセンタートンネル内に配置し、マス
の集中化に貢献出来るように設計した。これは重量物を車体中央部に配置することで重量
バランスが向上し、慣性モーメント低減による旋回性能の向上を狙ったものである。
図 3.9 バッテリー搭載のイメージ図
- 20 -
3.4 フレームの
フレームの素材
先述したとおり、Flying Fish-G のメイン骨格部にはスチールを使用し、底板や前後の隔
壁、センタートンネル部の板部にはアルミを使用した。Flying Fish-EV も同様の手法で設
計製作を行う。
メイン骨格部には機械構造用炭素鋼の STKMR290 を使用した。使用理由としては、実際
に自動車の部材に使われており、入手し易く低コストで加工性も高いという点からである。
以下の表 3.1 に化学的・機械的性質を示す。なお、耐力についてはデータが無かったため、
多くの鋼材の疲労限度は、引張り強さの 50~60%であることから 145(N/mm2)としてい
る。
表 3.1
STKMR290 の物性値
化学成分
C
Si
Mn
0.12 以下
0.35 以下
P
S
0.60 以下 0.040 以下 0.040 以下
引張り強さ
耐力
N/mm2
N/mm2
290 以上
145
フレームの板部にはアルミニウム合金の 6063(T5 処理)を使用した。使用理由としては、
加工性に優れており複雑な形状にも適応し、耐食性や耐腐食に優れている 6063 が最適であ
ると判断したからである。将来的には、フレームに使う部材を全て 6063 で統一し、軽量化
やリサイクル性に優れたオールアルミフレームの製作を予定している。よって、今回の
Flying Fish-EV のフレーム設計製作は、オールアルミフレーム製作に向けた試作モデルで
あり、オールアルミフレームの基本的な骨格や仕様を決定するものである。以下の表 3.2 に
6063 の化学的・機械的性質を示す。
表 3.2 6063 の物性値
化学成分
Si
0.20-0.60
Fe
Cu
Mn
0.35
0.10
0.10
以下
以下
以下
Mg
0.45-0.90
Cr
Zn
Ti
0.10
0.10
0.10
以下
以下
以下
- 21 -
引張り強さ
耐力
Al
N/mm2
N/mm2
残り
205
70
3.5 曲げ剛性・
剛性・ねじり剛性
ねじり剛性について
剛性について
自動車における曲げ剛性とねじり剛性の概念について説明する。
曲げ剛性
曲げ剛性(Flexural rigidity)は材料力学において材料の縦弾性係数 E と断面二次モーメン
ト I を掛け合わせた数値で定義されている。
EI =
Wbx(l 2 − b 2 − x 2 )
2
, kgf・ m
6ly
自動車の強度・p103 より
ねじり剛性
ねじり剛性
ねじり剛性(Torsional rigidity)は単位長さの軸を1rad ねじるのに要するトルクで定義さ
れる。ねじれ剛性は横弾性係数 G と断面2次極モーメント J を掛け合わせた数値である。
しかし、ボディのねじれ角は基本的に小さい。そこで、θが非常に小さい場合、
δR +δL
B
θ≒tanθ=
と、近似することができる。そして、ねじれ剛性値 GJ は
T
TBl
2
=
,kgf・ m / rad
θ/ l δR +δL
GJ=
として求めることができる。
- 22 -
自動車の強度・p104 より
セダンタイプのホワイトボディと、セダンタイプからルーフとセンターピラーを取り除
いたホワイトボディの剛性比を以下の表 3.2 に示す。
表 3.2
セダンタイプ
ルーフ&ピラー無し
曲げ剛性比
1.0
0.11
ねじり剛性比
1.0
0.28
基本的にオープンタイプの乗用車はセダンタイプからルーフとセンターピラーを取り除
いた構造であり、このように著しく剛性が低い理由は一概にルーフが存在しない点にある。
ノーマルルーフの乗用車のボディは底板、サイドシル、A~C ピラー等の側面の角材、フ
ロント及びリアのバルクヘッドとガラス、そしてルーフによって【閉じた状態】であり、
この閉じた状態によって剛性が確保されている。
しかし、オープンタイプの乗用車は B~C のピラーやルーフが存在せず、A ピラーとフロ
ントガラスも剛性の確保の役割を果たさなくなる。底板とサイドシル、フロントとリアの
バルクヘッドのみの基本構成となるため、ノーマルルーフと比べ著しく剛性が低下する。
乗用車のボディを 6 面体として考えると理解しやすい。ノーマルルーフの乗用車が 6 面
体であり、閉じたダンボール箱と考えると良い。閉じたダンボール箱はねじれにくく、曲
げにくい。しかし、オープンタイプの乗用車は底面と前面、後面の合計 3 面しか基本構成
にない。このような 3 面の構造が 6 面体の構造と比較すると剛性は著しく低い。そこで、
- 23 -
補強部材を検討する場合、オープンタイプのフレームを如何に箱型に近づけるかが重要で
あると考えられる。図 3.10 は Flying Fish-EV のフレームの 3D-CAD 図であるが、
・ 図中のセンタートンネルの断面積の拡大
・ サイドシルの板厚増しによる補強
これらの補強によって箱型に近づけることと、補強部材の断面積の拡大により高強度・剛
性を保ったフレームを設計することを狙った。
補強部材
センタートンネル
サイドシル
図 3.10 Flying Fish-EV のフレームの試案 3D-CAD 図
- 24 -
3.6 フレームの
フレームの設計案
今回製作するフレームの目標としては、重量増を抑えつつ前回のフレームより強度・剛
性を改善するという点である。
まず、目標重量は 140kg とおいた。これは、現在市販されているオープンタイプのオー
ルアルミフレーム車のフレーム重量が約 80kg ということに起因する。スチールからアルミ
に材料置換を行った場合、重量は約半分となる。しかしアルミはスチールに比べ強度面で
劣ってしまう。来年度以降、今回設計したフレームを元にアルミ化する場合、確実に強度
不足を招いてしまうので、その分の補強が必要となってくる。アルミ化した場合、フレー
ムの重量は目標重量の半分の 70kg になり、それに 10kg 程度の補強を加えるとして合計約
80kg になることを想定して算出した重量が、目標重量の 140kg である。
また強度・剛性向上のため、サイドシル部は前回の2倍の高さにし、センタートンネル
高さは 70mm アップした。これは実際に Flying Fish-G に乗った際、70mm アップまでな
ら運転に支障をきたすことなく、かつ圧迫感の無い高さであると考えため、また、センタ
ートンネル内にバッテリーを配置することを考えて算出した値である。
その他、フレームのフロント部は全幅を 385mm、リア部は 200mm 前回のフレームより
縮めて、その分サスペンションアーム長を確保出来る設計とした。これは Flying Fish-G と
比較して、Flying Fish-EV は部品点数が少なく、搭載部品もバッテリー、モータなどコン
パクトな物のため実現出来たものである。
以下の図 3.11、3.12 に詳細を示す。
全幅 840mm
全高 240mm
全幅 765mm
図 3.11 Flying Fish-G のフレーム寸法
- 25 -
全幅 640mm
全高 310mm
全幅 380mm
図 3.12
Flying Fish-EV のフレーム寸法
- 26 -
第4章 構造解析
構造解析
4.1 構造解析
構造解析の
解析の目的
乗用車のフレームに限らず、製品を製作する上で最も重要なのはその製品が安全かどう
かである。本研究はスチール部材とアルミ部材を用いたスペースフレームということで、
無理な軽量化やコスト削減のための品質低下は重大な事故に繋がる危険が強い。ただし、
逆に強度を十分に取りすぎるために重量過多になってしまうのも問題で、フレーム重量増
加による各部への負担が増すことから車両の剛性を低下させてしまうことにも繋がる。よ
って、構造解析を行う目的は、
・ 設計するフレームが入力荷重に対して十分な強度を保有していること
・ 局部的に過大な応力集中が生じ、疲労亀裂による破壊の原因を防ぐこと
上記の 2 項目を主に確認することである。設計段階で上記の項目を確認することができ
れば事前に問題点を改善することが可能となる。
本研究でのフレームの構造解析は解析ソフトである SolidWorks を使用した。
- 27 -
4.2 解析ソフト
解析ソフトの
ソフトの信頼性評価
解析ソフト「SolidWorks」の解析結果の信頼性を評価するために、図 4.1 に示すような
片持ちはりの応力とたわみを手計算したものと解析ソフトでの解析結果を比較した。
条件は以下に示す通りである。
W=0(N)~10000(N)(500N 刻み)
L=800 (mm)
b=40
(mm)
b1=36.8 (mm)
h=80
(mm)
h1=76.8 (mm)
ヤング率 E=210
(GPa)
断面係数 Z = (
- b1h13 ) / ( 6h )
bh3
(mm3)
断面2次モーメント I = bh3 - b1h13 /12
(mm4)
曲げモーメント M=W・L (N・mm)
応力 σ=M/Z (N/mm2)
たわみ量 ε = WL3/3EI (mm)
以上に示す条件、式によって、手計算と解析値の比較を行った。
荷重
40mm
80mm
76.8mm
36.8mm
800mm
板厚 t=1.6m
図 4.1 信頼性評価の解析条件
- 28 -
m
以下の図 4.2、4.3 に Solidworks で解析したときの応力と変位の解析画像を示す。
図 4.2 応力の分布図
図 4.3 変位量の分布図
- 29 -
以下に示す表 4.1 に手計算と解析の結果について示す。そして図 4.4 に応力の推移をグラ
フ化したもの、図 4.5 に変位量の推移をグラフ化したものを示す。
表 4.1 計算結果と解析結果
荷重(N)
応力計算値
2
応力解析値
2
(N/mm )
(N/mm )
たわみ計算値
たわみ解析値
(mm)
(mm)
0
0
0
0
0
500
50.392
54.538
1.280
1.308
1000
100.783
109.375
2.560
2.615
1500
151.175
163.613
3.839
3.923
2000
201.566
218.151
5.119
5.231
2500
251.958
272.688
6.399
6.538
3000
302.350
327.226
7.679
7.846
3500
352.741
381.764
8.959
9.153
4000
403.133
436.301
10.238
10.460
4500
453.524
493.839
11.518
11.770
5000
503.916
545.377
12.798
13.080
5500
554.308
599.914
14.078
14.380
6000
604.699
654.452
15.357
15.690
6500
655.091
708.989
16.637
17.000
7000
705.483
763.527
17.917
18.310
7500
755.874
818.065
19.197
19.610
8000
806.266
872.602
20.477
20.920
8500
856.657
927.140
21.756
22.230
9000
907.049
981.678
23.036
23.540
9500
957.441
1035.741
24.316
24.840
10000
1007.832
1090.178
25.596
26.150
- 30 -
10
00
0
90
00
80
00
70
00
60
00
50
00
40
00
30
00
20
00
0
応力(計算)
応力(解析)
10
00
応力(N/mm^2)
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
荷重(N)
図 4.4 応力値の推移
30
変形量(mm)
25
20
たわみ(計算)
たわみ(解析)
15
10
5
0
10
00
20
00
30
00
40
00
50
00
60
00
70
00
80
00
90
0
10 0
00
0
0
荷重(N)
図 4.5 変位量の推移
以上の結果より、応力では常に 7.6%程度の誤差、変形量では常に 3%程度の誤差がある
ことがわかる。応力では解析値の方が手計算を上回る結果が出ているが、その結果を用い
てフレーム設計を行うことで、より安全なフレーム設計が出来ると考えられる。また、変 4
位量においては図 4.5 より手計算と解析の値はほぼ一致していることから、SolidWorks の
解析結果の信頼性は高いと判断した。
- 31 -
4.3 フレームの
フレームの強度解析
静的強度解析条件として、
・前後の車軸を固定。
・車両重量 500kg を重量配分の目標である 40:60 に分割し、前後のフレームにそれぞれ荷
重を加える。
・また、人一人を 75kg と仮定し、二人乗っている状況を考慮してキャビンに 150kg の荷
重を加えた。
これらを解析条件とし、構造物として静的に安全であるかどうかを検証する。
(図 4.6 参照)
=固定
=荷重
図 4.6 モデル2の応力分布
静的な建造物などは静的構造解析の結果、安全率は 2.0 以上確保されていることで十分強
度が確保できると考えられる。しかし、自動車はその限りで無く、海岸近くなどの腐食環
境や、衝撃荷重を加えられるなど、厳しい環境で使用されることを想定されるため、安全
率 5.0 以上のものをフレームの採用基準とする。
表 4.2 に解析結果を示す。最適なモデル設計案の選考のために、モデル1~4を作り、こ
- 32 -
れらの曲げ・ねじり剛性の解析結果を比較検討し、最適なモデル案を選定する。
表 4.2 各モデルの仕様と強度解析結果
FlyingFish-G
センタートンネル断面
(高さ×幅、mm)
センタートンネル板厚
240×137
限界値
モデル1
モデル2 モデル3 モデル4
240×
240×210≧
210≧ 240×210 310×210 310×210 310×210
1.5
1.5≧
1.5≧
1.5
1.5
2.0
2.0
サイドシル板厚 (mm)
1.2
1.2≧
1.2≧
1.2
1.2
1.5
2.0
補強部材断面
φ=25.4
φ=25.4≧
=25.4≧
φ=25.4
φ=25.4
φ=27.2
φ=27.2
(φ=外形,t=厚さ,mm)
t=1.6
t=1.6≧
=1.6≧
t=1.6
t=1.6
t=1.6
t=1.6
強度安全率
2.21
2.21≧
2.21≧
5.11
6.95
7.08
7.1
フレーム重量 (kg)
90.83
140kg
40kg≦
kg≦
126.1
127.59
131.17
131.78
(mm)
- 33 -
4.4 各剛性値の
各剛性値の解析結果
解析結果と
結果と比較検討
曲げ剛性は先述のとおり材料力学において材料の縦弾性係数 E と断面二次モーメント I
を掛け合わせた数値で定義されている。
EI =
Wbx(l 2 − b 2 − x 2 )
, kgf・m2
6ly
W=荷重[N]、l=ホイールベース、b=前車軸から加重点までの距離、x 前車軸から変形計測
点までの距離、y=計測点の変形量とし、一点集中荷重による曲げ剛性解析として、W=1000[N]
の荷重を加えた場合の構造解析を行い、変形量 y を求め、上記の式より曲げ剛性値を求め
る。
y
x
z
=固定
=荷重
図 4.7 モデル 2 の曲げ剛性計算のための変形量
- 34 -
ねじり剛性も曲げ剛性と同じく先述のとおり、単位長さの軸を1rad ねじるのに要するね
じりトルクで定義される。ねじれ剛性は横弾性係数 G と断面2次極モーメント J を掛け合
わせた数値である。
しかし、ボディのねじれ角は基本的に小さい。そこで、θが非常に小さい場合、
δR +δL
B
θ≒tanθ=
と、近似することができる。そして、捩れ剛性値 GJ は
GJ =
T
TBl
2
=
,kgf・ m / rad
θ/ l δR +δL
として求めることができる。
ねじり剛性解析の荷重条件として、フロントの車軸部に捩れトルク T=100kgf・mを加え、
リアの車軸位置を固定し、構造解析で変位量δR、δL を求め、上記の式を用いてねじり剛
性値を算出する。
y
x
z
=固定
=ねじりトルク
図 4.8 モデル 2 にねじれトルクを加えた際のフレーム変形量
以上の条件で剛性値を求めた結果を以下に示す。表 4.3 を図式化したものが図 4.9、4.10
である。
- 35 -
表 4.3 各モデルの曲げ・ねじり剛性計算結果
曲げ剛性
(105kgf・m2)
ねじり剛性
(104kgf・m2/rad)
FlyingFish-G
モデル1
モデル2
モデル3
モデル4
1.5
2.5
2.76
2.83
2.84
3.1
4.64
5.44
5.86
5.9
3
曲げ剛性 (10^5kgf・m^2)
2.5
2
1.5
1
0.5
0
FlyingFish-G
モデル1
モデル2
モデル3
モデル4
モデル3
モデル4
図 4.9 各モデルの曲げ剛性
ねじり剛性 (10^4kgf・m^2/rad)
7
6
5
4
3
2
1
0
FlyingFish-G
モデル1
モデル2
図 4.10 各モデルのねじり剛性
- 36 -
Flying Fish-G と比較すると、モデル設計案では曲げ剛性は 1.6~1.89 倍向上し、ねじり
剛性は 1.5~1.9 倍向上した。
曲げ剛性で見ると、曲げ剛性の向上にはセンタートンネルの高さアップの効果が高く、
センタートンネルとサイドシルの板厚向上は効果が薄いことがわかった。また、ねじり剛
性では、センタートンネルの高さアップと補強部材の断面積アップの効果が高く、曲げ剛
性の時と同じくセンタートンネルとサイドシルの板厚向上は効果が薄いことがわかった。
以上の結果より、重量と剛性値のバランスの良いモデル 2 が今回製作するフレームに適
していると判断した。モデル 2 を製作のベースモデルとし、その後の剛性試験の結果を検
討し、必要に応じ補強部材の断面積を変更することとした。
- 37 -
第5章 剛性試験
5.1 製作状況
現在、フレームはモデル2をベースとして図 5.1 に示すようにメイン骨格部が完成してい
る状況である。このフレームを使って曲げ剛性、ねじり剛性の試験を行った。
図 5.1 フレーム製作状況
- 38 -
5.2 試験条件
・曲げ剛性
図 5.2 に示すように前後の車軸位置 4 点を固定し、キャビン中央部に荷重を加えた。荷重
は本来であれば重力方向にかけるが、今回は便宜上、重力方向と逆向きに加えた。フレー
ムを一様のはりと見なした場合、荷重方向はどちらでも変位は変わらないと仮定し、試験
を行った。変位測定位置は図 5.3 に示すようにキャビン中央部の3点をダイヤルゲージで測
定し、その平均値をキャビンの変位とした。
図 5.2 曲げ剛性試験概念図
図 5.3 変位測定位置
- 39 -
・ねじり剛性
図 5.4 に示すように後輪車軸位置を2点、前輪車軸部1点の合計3点を固定し、固定して
いない前輪車軸位置に荷重を加えた。変位測定位置は図 5.5、5.6 に示すようにキャビンの
端部2点を、それぞれダイヤルゲージで変位を測定した。
図 5.4 ねじり剛性試験の概念図
図 5.5 変位測定位置 (運転席側)
- 40 -
図 5.6 変位測定位置 (助手席側)
曲げ剛性試験、ねじり剛性試験とも 0.1mm 変位する時の荷重を測定し、0.1mm 刻みで
10 回測定し、
1.0mm 変形するのにどのくらいの荷重が必要か調べた。
変位の上限を 1.0mm
としたのは、試験を行ったフレームはまだ骨格部しか出来ておらず、板材や補強部材を未
装着のため大きな荷重を加えた場合、フレームがひずんでしまう可能性があると考えたた
めである。
- 41 -
5.3 試験結果
以下の表に曲げ剛性試験の変位の結果と完成したメインフレームと同等の CAD モデルで
の解析結果を示す。
表 5.1 曲げ剛性試験における試験結果と解析結果
荷重(kg)
実験値(mm)
解析値(mm)
実験値/解析値
14.0
0.1
0.029
3.448
28.0
0.2
0.058
3.448
42.0
0.3
0.087
3.448
57.0
0.4
0.118
3.390
71.0
0.5
0.147
3.401
85.5
0.6
0.177
3.390
100.0
0.7
0.207
3.382
114.5
0.8
0.237
3.376
129.0
0.9
0.267
3.371
143.5
1.0
0.297
3.367
表 5.1 の「実験値/解析値」というのは、実験値を解析値で除算したものである。実際
に製作したフレームでは、CAD モデルと比較した場合、約 3.4 倍程度変形量が多いことが
わかる。同様にねじり剛性試験の変位の結果と CAD モデルでの解析結果を示す。
表 5.2 ねじり剛性試験における試験結果と解析結果
荷重(kg)
実験値(mm)
運転席側 助手席側
解析値(mm)
実験値/解析値
運転席側
助手席側
運転席側
助手席側
4.5
0.1
-0.030
0.0160
-0.0077
6.250
3.900
8.5
0.2
-0.045
0.0308
-0.0145
6.494
3.103
13.5
0.3
-0.080
0.0483
-0.0231
6.215
3.469
16.5
0.4
-0.108
0.0590
-0.0281
6.784
3.838
21
0.5
-0.156
0.0751
-0.0359
6.656
4.345
25
0.6
-0.190
0.0894
-0.0427
6.708
4.445
29
0.7
-0.240
0.1038
-0.0496
6.744
4.841
32.5
0.8
-0.270
0.1162
-0.0555
6.885
4.867
36
0.9
-0.310
0.1288
-0.0616
6.988
5.037
40.5
1.0
-0.350
0.1449
-0.0692
6.901
5.056
- 42 -
ねじり剛性試験においては、運転席側で最大 7 倍程度、助手席側では最大 5 倍程度製作
したフレームの方が CAD モデルと比較して変位量が大きいことがわかる。
この誤差については、CAD モデルは溶接、ボルト結合を考慮して作っていないことに起
因したものであると考えられる。
以下の表 5.3 に、試験結果と解析により求めた曲げ・ねじり剛性を示す。
表 5.3 製作フレームと CAD モデルの剛性比較
製作フレーム
CADモデル
曲げ剛性 (105kgf・m2)
0.35
1.2
ねじり剛性 (104kgf・m2/rad)
0.85
5.3
表 5.3 より、曲げ剛性は実際に製作したフレームでは、CAD モデルと比較した場合 3.4
倍程度、ねじり剛性では 6.2 倍程度誤差があることがわかる。
以上の結果より、溶接、ボルト結合により、大幅に剛性が損なわれることがわかった。
この結果を踏まえ、剛性値向上のためにモデルの改良を行った。
- 43 -
第6章 フレームの
フレームの改良
6.1 フレームの
フレームの改良案
改良案としては、製作フレームのベースとなったモデル2に補強を加えていく。改良
点として
・ 補強部材の径をφ25.4 からφ27.2 に変更
・ フロント部、リア部に板材を追加し剛性向上
・ フレーム底面をフラットにし、空力性能向上を狙う
以上の変更を加えた。補強に板材を選定した理由として、搭載部品とフレームの干渉を防
ぐため、また重量を抑えつつ補強を行うためである。図 6.1、6.2 に示すモデルの赤い部分
が改良を加えた部位である。
図 6.1 モデル2補強を加えた改良モデル(全体図)
- 44 -
図 6.2 改良モデルの底面
6.2
解析結果
以下の表 6.1 に解析によって算出した曲げ・ねじり剛性を示す。
表 6.1 各モデルでの剛性値と重量
FlyingFish-G
モデル 2
改良モデル
曲げ剛性 (105kgf・m2)
0.45
0.818
0.961
ねじり剛性 (104kgf・m2/rad)
0.50
0.864
1.603
重量 (kg)
90.83
127.59
134.12
※ 剛性値は実験と解析での誤差を補正した値
改良モデルでは改良のベースとなったモデル 2 と比較し、曲げ剛性は 1.17 倍向上し、ね
じり剛性では 1.85 倍向上した。重量増は 6.53kg に抑え、目標重量の 140kg をクリアする
ことが出来た。
- 45 -
6.3 改良フレーム
改良フレームの
フレームの位置づけ
位置づけ
以下の図 6.3 に曲げ剛性における市販車と今回設計したフレームの比較を示す。
図 6.3 市販車の曲げ剛性分布 (自動車の強度・p109 より )
図 6.3 より、市販車と今回設計した改良モデルを比較すると、市販車レベルに近い曲げ剛
性が確保されていることがわかる。前作の Flying Fish-G のフレームと比較すると、2倍以
上の剛性値を向上させることが出来た。同様に、以下の図 6.4 にねじり剛性での比較を示す。
単体構造車
× フレーム構造車
ほろ形車・トラック
フレーム
改良モデル
ベースモデル
FF-G
図 6.4 市販車のねじり剛性分布 (自動車の強度・p109 より )
- 46 -
図 6.4 より、フレーム単体でのねじり剛性を見ると、改良モデルではフレーム標準値を大
きく上回り、十分な剛性が確保されていることがわかる。Flying Fish-G のフレームと比較
すると、ねじり剛性は 3 倍以上向上することに成功した。
以上の結果より、今回の設計フレームは、オープン形状でありながら、市販車レベルに
近い剛性が確保されていることが確認出来た。
- 47 -
第7章
結言
今回、オールアルミフレーム製作に繋げるための試作モデルということで、Flying
Fish-EV のフレーム設計を行った。強度・剛性確保という面では、前作のフレームより大
幅に向上させることに成功した。重量面でも目標値をクリアし、アルミフレーム製作の基
礎確立が出来た。来年度以降、今回のフレームをもとに、アルミ化によりさらなる軽量化
に特化した自動車作りが可能であると考えられる。
現在、改良モデルをベースに、フレーム製作を進めている。また、今回の研究でフレー
ムの静的時の剛性が求まったが、静的剛性と動的剛性はかならずしも一致するものではな
いので、車両完成時に走行実験を行い、歪みゲージ等を用いて動的剛性が確保されている
か調査する予定である。得られたデータを元に、今後のアルミフレーム製作を実現するの
が今後の課題である。
- 48 -
謝辞
本研究を行うにあたり、終始ご指導を頂きました高知工科大学大学院知能機械システム
工学コースの大塚幸男教授に深くお礼を申し上げます。
フレームの設計製作にご協力下さいました西山製作所様、ボディ製作にご協力下さいま
した TS'Lightning 代表 浜田直明様、足回り部品の製作にご協力下さいました坂本鉄工所
様、技術的なサポートのご協力下さいました西岡ガレージ様にこの場をお借りしてお礼申
し上げます。
最後に、本研究を行う上でご協力頂きました自動車設計生産システム研究室の方々をは
じめ、関係者各位にお礼申し上げます。
参考文献
1)社団法人 自動車技術会:自動車技術ハンドブック
2)邉
基礎・理論編
吾一/藤井 透/川田宏之:標準 材料の力学
3)環境省及び国土交通省データベース
4)自動車の強度 武田昌弘・金山幸雄 著 山海堂
5)車両運動性能とシャシーメカニズム 宇野高明 著
グランプリ出版
6)堀川裕貴,乗用車のフレーム超軽量化設計・製作,2008,高知工科大学 修士論文
7)がんばれエコカー! / http://www.ab.auone-net.jp/~ecosuki/index.htm
8)日刊 温暖化新聞 / http://daily-ondanka.com/
9)JCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター / http://www.jccca.org/
- 49 -
Fly UP