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マイクロ EV のフレーム設計と解析

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マイクロ EV のフレーム設計と解析
平成 25 年度
修士論文
マイクロ EV のフレーム設計と解析
Frame design and analysis of Micro Electric Vehicle
高知工科大学大学院
工学研究科基盤工学専攻
知能機械システム工学コース
自動車設計生産システム研究室
秋田 憲昭
指導教員 大塚 幸男 教授
目次
第1章
序論
1.1 はじめに
1.2 自動車が環境に与える影響
1.3 次世代自動車について
1.4 電気自動車について
1.5 研究目的
第2章 ミニカー規格電気自動車の企画・製作
2.1 研究室内での車両開発の経緯
2.2 軽量化について
2.3 軽量化の手法
第3章 フレームの設計
3.1 フレームの種類について
3.2 フレーム基本設計の概念
3.3 フレームの導入技術について
3.4 フレームの素材
3.5 曲げ剛性・ねじり剛性について
3.6 フレームの設計案
第4章 構造解析
4.1 構造解析の目的
4.2 解析ソフトの信頼性評価
4.3 フレームの強度解析
4.4 各剛性値の結果と比較検討
第5章 剛性試験
5.1 試験条件
5.2 試験結果
第6章
衝突解析
6.1 衝突解析について
6.2 解析条件
6.3 解析結果
第7章
フレームの改良
6.1 フレームの改良案
6.2 解析結果
6.3 設計フレームの位置づけ
第8章
考察・課題
謝辞
参考文献・出典
第1章
序論
1.1 はじめに
今日の自動車業界を取り巻く問題として、自動車の排出ガスに含まれる二酸化炭素や窒
素化合物によって引き起こされる地球温暖化などの環境問題、近い将来起こりうるとされ
ている石油枯渇問題に起因したエネルギー問題、自動車の材料となる鋼板などの材料費高
騰などがある。そしてこれからの自動車には地球に与える影響が小さい性能が求められて
いる。このような問題を解決していくには、燃費の向上、排出ガスの低減、高い安全性、
リサイクル性の向上、車体構造の簡略化、部品点数の削減、部品の多機能化、車体の軽量
化などが挙げられる。
当研究室では先に示した問題点を解決するべく、また、これからの自動車作りを考えた
革新的なコンセプトカーである「Flying Fish-G」
・「Flying Fish-EV」の研究開発を行って
きた。まず「Flying Fish-G」においては、
「超軽量」
・
「スポーツカー」というコンセプトを
掲げ、フレーム構造にスチールとアルミニウム合金を、ボディには FRP を用いることで軽
量化に特化することで環境性能と走行性能の向上を両立させた。次に、「Flying Fish-EV」
においては、
「Flying Fish-G」をベースに動力源をリチウムイオンバッテリーとモータに置
き換えた車両である。この車両は「Flying Fish-G」のコンセプトに「エコ」を追加した環
境対策型の電気自動車である。
今年度は、これまでの研究開発の成果を駆使し、更なる EV の実用化と普及を目指すべく
ミニカー規格で超小型モビリティ規格に対応した EV、
「MICROAERO」の研究開発を行う
ことにした。車両コンセプトは「超軽量スポーツカー」
・「エコ」
・「実用性の向上」の 3 点
を掲げた。
図 1.1
MICROAERO
1
1.2 自動車が環境に与える影響
地球温暖化の主な原因は二酸化炭素とされ、2011 年度の日本における温室効果ガス排出
量の割合を図 1.2 に示す。また、日本国内における部門別二酸化炭素排出総量は、約 12 億
4100 万トンとなっており、
その中で運輸部門は約 19%、約 2 億 3000 万トンを占めている。
図 1.2 温室効果ガス排出量
図 1.3 日本の部門別 CO2 排出量の割合
運輸部門の輸送別
CO2排出量の内訳(2011年度)
タク 内航海
シー 運 5%
1%
バス
2%
航空
4%
鉄道
4%
自家用
自動車
50%
営業用
貨物車
17%
自家用
貨物車
17%
図 1.4 運輸部門の CO2 排出量内訳 国土交通省発表資料より作成
また、図 1.4 の運輸部門の内訳を見ると、自家用乗用車が約 50%を占めており、普段我々
が乗っている自動車が地球温暖化の一因となっていることがわかる。
以上のことより、環境に与える負荷の少ない自動車の開発が求められており、各自動車
メーカはハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FC-EV)、水
素自動車(HV)など次世代の技術開発・実用化に力を注いでいる。
2
1.3 次世代自動車について
次世代自動車の様式として、先述した HV や EV の他に、クリーンディーゼル車や天然
ガス自動車、バイオ燃料対応車など様々な種類がある。表 1.1 に一覧を示す。
表 1.1 代表的な低公害車
種類
天然ガス自働車
構造
Natural Gas
Vehicle (NGV)
Liquefied
LP ガス自動車
Petroleum Gas
(LPGV)
メタノール自動車
水素自動車
燃料電池自動車
Methanol Vehicle
(MV)
Hydrogen Vehicle
(HV)
Fuel Cell Vehicle
(FC-EV)
家庭に供給されているのと同じ天然ガスを燃料と
して走る。
家庭で使うプロパンガスを空気と混合し、エンジン
に送り燃焼させる。
ガソリンとエタノールの混合を燃料とする自動車。
普通のガソリン車と同様に、燃料の水素を噴射、水
素と酸素の酸化反応で熱エネルギーに変換して走
る。
電気自動車に発電装置として燃料電池を搭載した
もの。
[1]シリーズ型
エンジンは発電のみを行い、電気をバッテリー等
に蓄電し、その電力でモータを駆動させて走行する。
[2]スプリット型
ハイブリッド
Hybrid Vehicle
自動車
(HEV)
シリーズとパラレルの両方の機能を兼ね備えたハ
イブリッド自動車。
[3]パラレル型
2 つの動力源がそれぞれの車輪を直接駆動させる
方式。一つの動力源が前輪、もう一つの動力源が後
輪を駆動させる方式と、両方の動力源が同一の車輪
を駆動させる方式がある。
クリーンディーゼル
自動車
電気自動車
Clean Diesel
Vehicle
(CDV)
Electric Vehicle
(EV)
従来のディーゼルエンジンに比べ窒素酸化物、黒
煙、PM の対策が施されたもの。
搭載したバッテリーに蓄えた電気エネルギーをモ
ータによって、回転エネルギーに変換して走る。
3
1.4 電気自動車について
電気自動車と聞くと最近の技術のように思われるかもしれないが、意外にもガソリンエ
ンジンなど内燃機関を動力源とする自動車より歴史は古く、1890 年代には実用化されてお
り、当時は蒸気機関、内燃機関と共に一般的な自動車の動力源として普及していた。
しかし、その後自動車市場は急速な発展・改良を遂げた内燃機関に支配され、EV は一旦
市場より姿を消すこととなった。
一旦は衰退してしまったEVだが、1970 年代ごろから石油ショックや環境問題によって
再び脚光を浴びることとなり、今日では各自動車メーカが EV の開発、普及に努めている。
だが、EV はガソリン車と比較すると普及台数は少なく、図 1.5 に示すように次世代自動
車の中でも普及台数は少ない。近年、環境低負荷型の自動車として注目されている EV には
どのような利点があるのか、なぜ普及台数が伸びないのかについて EV が抱える問題点と併
せて以下にまとめる。
図 1.5 日本における次世代自動車の保有台数実績
4
EV の利点
○ 有害物質を排出せず、経済的である
⇒ガソリン自動車のように二酸化炭素や窒素化合物を排出しないため環境負荷が少ないク
リーンな自動車であり、電気自動車の電力をすべて火力発電でまかなったと仮定しても、
ガソリン車よりも 3~4 倍、総合効率で優れ、ガソリン代と電気代を比較しても半分以下の
コストで収まり経済的である。
○ 振動・騒音が少なく静粛性に優れる
⇒内燃機関のような爆発・燃焼による振動や騒音が無いため、走行中は至って静かである。
○ 部品点数が少ない
⇒ガソリン自動車のようにエンジンや冷却装置、油脂類が不要なため、部品点数で比較す
ると EV では 3 分の 1 程度に抑えられる。またスペース効率も上がることで、デザインや
パッケージングの自由度が広がる。
EV の問題点
● 1 回の充電で走行出来る距離が短い
⇒一般的なガソリン自動車は燃料タンクにフルで給油した場合、航続可能距離は最低でも
300km 程度あるのに対し、現在市販されている EV は一充電当たりの航続可能距離が最大
で 200km 程度しかない。
● 充電設備のインフラが未整備であり、充電にかかる時間が長い
⇒家庭用の交流 100V の電源でバッテリー残量が空の状態から満充電にかかる時間は、車両
にもよるが 10 時間前後である。数十分の急速充電で約 80%充電が出来る急速充電器などを
設置した充電設備は徐々に整備されつつあるが、設置コストの問題等により十分に普及し
ているとはいえない状況であり、遠出の際には不安が残る。
● 車両価格が高価である
⇒EV に使用されるモータやリチウムイオンバッテリーなどの二次電池は高価なものであ
るため、車両価格は必然的に上がってしまう。EV 補助金制度を利用しても、同クラスのガ
ソリン自動車と比較した場合、100 万円以上価格が高い。
電気自動車も開発・改良が進み、日本で見てみると、三菱自動車から i-MiEV、日産自動
車からはリーフが販売されるなど、EV の市場は日本だけでなく世界的にも拡大を続けてい
る。しかし、先述した通り、航続可能距離とインフラ整備という問題が EV の普及の妨げに
なっている。日本においては短距離を走るシティコミュータとして使用される機会が多く、
EV が普及するまであと一歩といった状態である。このような中で超小型モビリティカーと
いう新規格が発表され、現在日本各地で検証実験がおこなわれている。
5
1.5 研究目的
EV には航続可能距離が短いという致命的な欠点がある。近年、EV の航続可能距離の長
距離化の要である鉛バッテリーやリチウムイオンバッテリー等のエネルギー貯蔵技術の開
発・改良や動力源であるモータの技術改良により、一充電当たりの航続可能距離は向上を
続けている。航続可能距離を伸ばすための手段としては、
・ バッテリーの高効率化
・ モータの高効率化
・ 駆動系の最適化
・ 制御系の最適化
・ 車体重量の軽量化
などが挙げられる。
本研究の目的は、EV の普及が進まない原因の一つである航続可能距離の短さについて、
車体の軽量化によってアプローチし、航続可能距離を伸ばすことにより EV の普及拡大に繋
げるというものである。
6
第2章
ミニカー規格電気自動車の企画・製作
2.1 研究室内での車両開発の経緯
我々の研究室では、研究室が設立された 2007 年度に、自動車の基本的な知識・技術習得
を目的として、学生フォーミュラーのレギュレーションに則ったフォーミュラーカーを設
計製作した。翌年度は、そのとき得られたデータを元にして、公道走行を前提とした超軽
量 2 シーターオープンスポーツカー「Flying Fish-G」を設計製作した。それと並行してダ
イハツ工業株式会社のミラのエンジン部をモータに置き換えたコンバートEVの設計製作
を行った。さらに翌年度は「Flying Fish-G」と「ミラ コンバート EV」の設計製作技術と
走行データを活用した電気自動車「Flying Fish-EV」の設計製作を行ってきた。
平成24年6月に国土交通省が軽自動車と現在のミニカー規格の中間サイズである、超小型
モビリティについて発表した。この発表によると、街作りと連携した導入を図ることで、
低炭素社会の実現を目指すとともに、都市や地域の新たな交通手段、観光・地域振興、高
齢者や子育て世代の移動支援など、生活・移動の質の向上をもたらす新たなカテゴリーの
自動車として期待されている。このことから、今後は軽自動車や普通自動車のように超小
型モビリティカーが普及していくと考えられる。
このことにより、当研究室ではこれまでに研究開発をしてきた車両の研究成果を用いて、
超小型モビリティカーに対応できるミニカー規格の電気自動車【MICROAERO】の研究開
発を行うことにした。以下の図2.1に研究室での車両開発の流れを図式化する。
図 2.1 研究室内での車両開発の流れ
※左から学生フォーミュラー(2007 年度)・上段 ミラコンバーEV(2009 年度) 下段 Flying
Fish-G(2009 年度)・Flying Fish-EV(2010 年度)・MICROAERO(2013 年度)
7
以下に「ミラ コンバート EV」
・
「Flying Fish-EV」
・
「MICROAERO」の主要諸元につい
てまとめる。
表 2.1 ミラ コンバート EV の主要諸元
寸法・重量
性能
モータ
バッテリー
表 2.2
全長
3295mm
全幅
1395mm
全高
1430mm
ホイールベース
2300mm
トレッド前/後
1225/1210mm
車両重量
700kg
1 充電走行距離
80km
種類
直流直巻
定格出力(kW)
26kW
種類
リチウムイオン
容量・電圧
80Ah・15V
積載個数
6個
総電圧
90V
Flying Fish-EV の主要諸元
全長
3400mm
全幅
1480mm
全高
1170mm
ホイールベース
2280mm
トレッド F/R
1290/1290mm
最低地上高
135mm
車重
500kg
種類
直流直巻
最高出力
20 kW / 28 HP
最大トルク
88 N・m / 9 kgf・m
種類
リチウムイオン
総電圧
90 V (15 V×6 個直列)
Front
175/60R14 79H
Rear
185/55R15 81H
ブレーキ
Front/Rear
油圧式ディスク
サスペンション
Front/Rear
ダブルウィッシュボーン
寸法
重量
モータ
バッテリー
タイヤ
8
表 2.3
MICROAERO の主要諸元
全長
2480mm
全幅
1290mm
全高
1170mm
ホイールベース
1580mm
トレッド F/R
1190mm
最低地上高
130mm
車重
343kg
重量比(前:後)
49:51
重量比(左:右)
59:41
種類
交流
定格出力
0.29kW*2 個
最高出力
2.0kW*2 個
種類
鉛バッテリー
総電圧
72V
1 充電走行距離
35km
Front
90/90-12
Rear
90/90-12
ブレーキ
Front/Rear
油圧式ドラム
サスペンション
Front/Rear
ダブルウィッシュボーン
寸法
重量
モータ
バッテリー
タイヤ
9
2.2 軽量化について
なぜ車両を軽量化すれば航続可能距離が伸びるのか。そのメカニズムについて説明する。
・走行抵抗について
乗用車が走行する際に発生する抵抗、走行抵抗 R は以下の式によって求めることが
できる。
R
=
(走行抵抗)
Rr
+
(ころがり抵抗)
Ra
+
Rg
(空気抵抗) (こう配抵抗)
Rr = μrW
μr:ころがり抵抗係数 W:車両総重量
Rg = Wsinθ
θ:傾斜角
・駆動力 F と抵抗力 R とのつり合いの式
F = R + Rc = Rr + Rc + Rg + ( W + ⊿W )・α/g
ここで、Rc は加速抵抗、⊿W:駆動機構の回転部分の慣性相当重量(※)、αは自
動車の加速度、g は重力加速度である。
※:加速をする場合、モータ、トランスミッション、プロペラシャフト、デファレンシャ
ルギア、ドライブシャフト、後輪を加速する必要があり、これを重量に換算したもの。(⊿
W=xW1 であり、x は車両によって異なる定数。W1=車両重量)
以上より、自動車の走行時に影響する主な抵抗のうち、空気抵抗以外は車両総重量が大
きく関与することになる。つまり、車両重量が小さければ、ころがり抵抗、こう配抵抗、
加速抵抗の 3 つの抵抗を一気に軽減することが可能となり、結果として燃費が向上するこ
ととなる。一般的な乗用車であれば、図 2.2 に示すように 10%の軽量化により、燃費が 10%
向上するとされている。また、EV においても同等の効果があると考えられる。
図 2.2 ガソリン乗用車両重量別燃費状況
10
2.3 軽量化の手法
車体重量の軽量化について、我々の研究室では、
・ FRP 製ボディの採用
・ 画期的なフレーム構造による軽量化
・ 新技術のアルミダイカスト部品の採用
・ フレームのオールアルミ化
以上のような手法で行っている。
FRP とは繊維強化プラスチックのことで、金属材料よりも比強度が大きく、軽量化が可
能であり、腐食しにくいという特徴を持っている。金属を加工して作るボディとは違い、
型取りをすれば量産可能で、大掛かりな設備等も無く低コストでの製作が可能となる。型
には発泡ウレタンを使用するため、成形性も高く軽量化に貢献出来る素材であるのでボデ
ィ素材に採用した。
今回製作したボディは、空気抵抗を徹底的に低減するというコンセプトで製作した。空
気抵抗を低減するためには、ドアなどを取り付けることで発生する隙間や段差を無くす必
要がある。そこで、航空機をイメージしたフロントウインドウ形状を採用し、左右のドア
を廃止しリアに配置、ドアミラーを廃止し超小型カメラを搭載した。このことにより空気
抵抗を低減し、さらに部品点数の削減に成功した。
また、当研究室で行われている他の研究で、シンクロキャストと呼ばれる新アルミダイ
カスト技術が実用段階に来ており、今回の研究開発車両のリアドアに、この新技術を導入
して軽量化を行った。
今回の研究開発車両ではフレームをスチールのみで設計をしているが、今後は上記の新
技術を導入したオールアルミ合金フレームの研究設計を行っていく予定である。
11
図 2.3
図 2.4
MICROAERO の FRP ボディ
MICROAERO のスチールフレーム (一部アルミ使用)
12
図 2.5 新ダイカスト法によるリアドア
図 2.6 リアドア周りのイメージ図
13
第3章
フレームの設計
3.1 フレームの種類について
現在、市販されている自動車のフレーム構造は、大きく分けてラダーフレームとモノコ
ック・ボディとスペースフレームの三種類がある。ラダーフレームとは、セパレートフレ
ームと呼ばれ図 3.1 に示すようにはじご状のフレームにボディを乗せた構造である。ラダー
フレームは製作と強度確保が容易で車体架装が容易なことから、トラックのほとんどが採
用しており、それらをベースとした一部のバスや SUV にも採用されている。デメリットと
して、モノコック構造よりも重く、車両の重心が高くなること、モノコック構造に比べね
じれに弱い、フレームと車体の振動周波数が異なり低級振動が出やすいといった点がある。
図 3.1 ラダーフレーム(参考:三菱自動車 デリカ)
14
モノコック・ボディとは、図 3.2 に示すようにフレームとボディが一体化した形をした構
造をしている。メリットとしては、外板自体が強度部材となっているため、骨組みを簡素
化することが出来るため軽量であり、面全体で力を受け止めるため剛性が高いという特徴
がある。さらに、フレームとボディが一体化しているため生産性に優れる。デメリットと
しては、ボディ全体で荷重を受け止める構造をしているので、衝突による変形や腐食で大
幅に剛性と強度が落ちる。
図 3.2 モノコック・ボディ(参考:ジャガー自動車
XJ シリーズ)
一方、図 3.3 に示すようにスペースフレームは丸管や角管を接合して骨格を形成するフレ
ーム形式である。特徴としては、平面的な板材を使うモノコック・ボディより高い剛性・
強度が得られ、少ない材料で剛性を得ることが出来るため、軽量化に貢献できる等のこと
がある。また、モノコック・ボディのようなプレス型が不要なため、コストを抑えること
ができ、製造が容易である。デメリットとしては、部品点数が多くなることから大量生産
に向かないという点である。
15
図 3.3 スペースフレーム (参考:光岡自動車 オロチ)
以上の点より、MICROAERO にはモノコック・ボディより軽量ながら高い剛性・強度が
得られ、製造が容易なスペースフレーム構造を採用することにした。
16
3.2 フレーム基本設計の概念
MICROAERO のフレーム設計のポイントとして【超軽量】と【高強度・高剛性】の両立
を目指した。
設計をしていく中で参考とするのがこれまでに製作した FF-G・FF-EV のフレームであ
る。FF-G・FF-EV ともにフロントセクション、キャビンセクション、リアセクションの 3
ピースに分割した構造をしている。しかし、今回設計する車両では徹底的に軽量化を行う
ので、基本構造は踏襲するも分割式ではなく一体式にすることにした。フレームを設計し
ていく上で、まず、搭載しなければならない物をリストアップし、搭載物のサイズ・重量
をしっかりとデータ取りをする。そして、理想の重量配分になるように配置しながら居住
スペースが確保されていること、フレームがカウル内にきちんと収まることなどを確認し
て設計した。これらを踏まえて低コストかつ加工が容易なスチール部材を使い製作した。
図 3.7
MICROAERO のフレームの CAD モデル
また、足回りについては FF-G・FF-EV と同様にダブルウィッシュボーン方式を採用し
ている。走行性能・走行抵抗を低減できるような構造をとることができるよう、特に意識
して設計をしている。
アームの長さが短いと、スカッフ変化が大きくなってしまい、ダブルウィッシュボーン
方式の性能を十分に活かせないものとなってしまう。図 3.8 に示すように、タイヤが上下に
ストロークしたときにタイヤの接地点
(A 点)の軌跡は、リンクの長さにより大きく変わる。
短いアームの場合、ストロークに伴い接地点が左右に大きく振られるが、長いアームにな
るとそれが小さくなる。
17
図 3.8 スカッフ変化
この接地点の横方向の動きがスカッフ変化であり、これはうねりのある路面走行時のふ
らつきの原因になったりするので、アームを長くすることでスカッフ変化を小さくするこ
とが望ましい。
MICROAERO では、フロント部、リア部のフレーム幅を短くし、長いアームが取り付け
られ、スカッフ変化が小さくダブルウィッシュボーン方式の性能を十分に発揮出来るよう
に設計を行った。
18
3.3 フレームの導入技術について
今回研究開発を行う MICROAERO に搭載される原動機は、ミニカー規格によると総排
気量が 50cc 未満のエンジン、
若しくは定格出力が 0.6kW 未満のモーターと規定されており、
実際に搭載したものは定格出力が 0.29kW のインホイールモーター2 個である。このことか
ら、3 ピース分割式ではなく 3 ピース一体型の構造を採用した。一体型を採用することで、
各ブロックを固定するために必要なボルト・ナットが不要になり、より強固で軽量なフレ
ームとなる。
また、軽量化の手法の項で記したが、左右のドアを廃止しリアに配置した。このことに
より部品点数の削減に成功し軽量化に繋がった。そして、本来ドアがあるべき位置にサイ
ドフレームを構築することで、曲げやねじりに対する剛性の向上に繋がった。また、この
サイドフレームは剛性の向上のみならず、万が一にも側方からの衝突があった場合に、衝
突による乗員の被害低減にも役立ち、車内空間の拡大にも大きく寄与することとなった。
19
3.4 フレームの素材
メイン骨格部には機械構造用炭素鋼の STKMR290 を使用した。使用理由としては、実際
に自動車の部材に使われており、入手し易く低コストで加工性も高いという点からである。
以下の表 3.1 に化学的・機械的性質を示す。なお、耐力についてはデータが無かったため、
多くの鋼材の疲労限度は、引張り強さの 50~60%であることから 145(N/mm2)としてい
る。
表 3.1
STKMR290 の物性値
化学成分
C
Si
Mn
0.12 以下
0.35 以下
P
S
0.60 以下 0.040 以下 0.040 以下
引張り強さ
耐力
N/mm2
N/mm2
290 以上
145
オールアルミ合金フレームの材料候補としてアルミ合金の 6063(T5 処理)を選定した。
選定理由としては、材料自体も加工性に優れているので複雑な形状にも適応し、素材強度
だけではなく構造によって強度・剛性を高めるという狙いもあって選定した。また、自動
車(特にそのフレーム)は長期に渡って使い続けられる製品であるため、耐食性や耐腐食に優
れている T5(熱処理の手法)処理を施した 6063 番は適正であると判断した。以下の表 3.2 に
6063 の化学的・機械的性質を示す。
表 3.2 6063 の物性値
化学成分
Si
0.20-0.60
Fe
Cu
Mn
0.35
0.10
0.10
以下
以下
以下
Mg
0.45-0.90
Cr
Zn
Ti
0.10
0.10
0.10
以下
以下
以下
20
引張り強さ
耐力
Al
N/mm2
N/mm2
残り
205
70
3.5 曲げ剛性・ねじり剛性について
曲げ剛性とねじり剛性の概念について説明する。
曲げ剛性
曲げ剛性(Flexural rigidity)は材料力学において材料の縦弾性係数 E と断面二次モーメン
ト I を掛け合わせた数値で定義されている。
EI 
Wbx(l 2  b 2  x 2 )
, kgf・ m 2
6ly
図 3.9 自動車の強度・p103 より 曲げ試験
ねじり剛性
ねじり剛性(Torsional rigidity)は単位長さの軸を 1rad ねじるのに要するトルクで定義さ
れる。ねじれ剛性は横弾性係数 G と断面 2 次極モーメント J を掛け合わせた数値である。
しかし、ボディのねじれ角は基本的に小さい。そこで、θが非常に小さい場合、
δR δL
B
θ≒tanθ=
と、近似することができる。そして、捩れ剛性値 GJ は
T
TBl
,kgf・ m 2 / rad

θ/ l δR δL
GJ=
として求めることができる。
21
図 3.10 自動車の強度・p104 より ねじり試験
セダンタイプのホワイトボディと、セダンタイプからルーフとセンターピラーを取り除
いたホワイトボディの剛性比を以下の表 3.2 に示す。
表 3.2
セダンタイプ
ルーフ&ピラー無し
曲げ剛性比
1.0
0.11
ねじり剛性比
1.0
0.28
基本的にオープンタイプの乗用車はセダンタイプからルーフとセンターピラーを取り除
いた構造であり、このように著しく剛性が低い理由は一概にルーフが存在しない点にある。
ノーマルルーフの乗用車のボディは底板、サイドシル、A~C ピラー等の側面の角材、フ
ロント及びリアのバルクヘッドとガラス、そしてルーフによって【閉じた状態】であり、
この閉じた状態によって剛性が確保されている。
しかし、オープンタイプの乗用車は B~C のピラーやルーフが存在せず、A ピラーとフロ
ントガラスも剛性の確保の役割を果たさなくなる。底板とサイドシル、フロントとリアの
バルクヘッドのみの基本構成となるため、ノーマルルーフと比べ著しく剛性が低下する。
22
3.6 フレームの設計案
完成車体の重量 350kg 以下を目標とした。この目標重量は、同クラスのトヨタ車体が販
売していた新型コムスが、ベースグレードで約 400kg となっていることから、差別化を図
るために目標重量を設定した。そこで、フレーム単体での目標重量を 70kg 以下とした。こ
れは、車両に搭載しなければならない構成部品である、バッテリーやインホイールモータ
ーなどの重量を差引いて決定した目標である。
図 3.11 目標重量の内訳
ミニカー規格の車両寸法値が 2500mm(全長)×1300mm(全幅)×2000mm(全高)以内とな
っている。そこから全長を 20mm、全幅を 10mm 差し引いた寸法を車両の完成寸法とし、
ボディの厚みと固定を考慮してフレーム単体の全長を 2025mm、全幅を 1220mm と決定し
た。
形状を検討するために、過去に研究開発されたフレームを考察すると、路面からの垂直
方向の入力が、キャビンとサスペンションを接合している補強を通じて力の分散がされて
いる。この構造だと垂直の入力を十分に吸収できないのではという不安がある。図 3.12・
図 3.13 の赤丸に示す。そこでサスペンションの取付構造を大幅に見直すことで、強度・剛
性と軽量の両立を目指すことにする。
次に、車両の前後左右の重量バランスを、理想の 50:50 を目標とする。重量バランスを
理想の 50:50 に近づけることで足回り部品の高寿命化、ブレーキ作動バランスの向上とい
23
った利点がある。このことから重量バランスを限りなく 50:50 に近づけることができるよ
うに設計を行う。
図 3.12
図 3.13
Flying Fish-G の 3D-CAD 図
Flying Fish-EV の 3D-CAD 図
24
第4章
構造解析
4.1 構造解析の目的
乗用車のフレームに限らず、製品を製作する上で最も重要なのはその製品が安全かどう
かである。本研究はミニカー規格 EV のスペースフレームということで、無理な軽量化やコ
スト削減のための品質低下は重大な事故に繋がる危険が強い。ただし、逆に強度を十分に
取りすぎるために重量過多になってしまうのも問題で、フレーム重量増加による各部への
負担が増すことから車両の剛性を低下させてしまうことにも繋がる。よって、構造解析を
行う目的は、
・ 設計するフレームが入力荷重に対して十分な強度を保有していること
・ 局部的に過大な応力集中が生じ、疲労亀裂による破壊の原因を防ぐこと
上記の 2 項目を主に確認することである。設計段階で上記の項目を確認することができ
れば事前に問題点を改善することが可能となる。
本研究でのフレームの構造解析は解析ソフトである SolidWorks を使用した。
25
4.2
解析ソフトの信頼性評価について
解析ソフト「SolidWorks」の解析結果の信頼性を評価するために、図 4.1 に示すような
片持ちはりの応力とたわみを手計算したものと解析ソフトでの解析結果を比較した。
W=0(N)~10000(N)(500N 刻み)
L=800 (mm)
b=40
(mm)
b1=36.8 (mm)
h=80
(mm)
h1=76.8 (mm)
ヤング率 E=210
(GPa)
断面係数 Z = ( bh3 - b1h13 ) / ( 6h )
(mm3)
断面2次モーメント I = bh3 - b1h13 /12
(mm4)
曲げモーメント M=W・L (N・mm)
応力 σ=M/Z
(N/mm2)
たわみ量 ε = WL3/3EI (mm)
以上に示す条件、式によって、手計算と解析値の比較を行った。
荷重
40mm
80mm
76.8mm
36.8mm
800mm
板厚 t=1.6m
図 4.1 信頼性評価の解析条件
26
m
以下の図 4.2、4.3 に SolidWorks で解析したときの応力と変位の解析画像を示す。
図 4.2 応力の分布図
図 4.3 変位量の分布図
27
以下に示す表 4.1 に手計算と解析の結果について示す。そして図 4.4 に応力の推移をグラ
フ化したもの、図 4.5 に変位量の推移をグラフ化したものを示す。
表 4.1
荷重(N)
応力計算値
応力解析値
たわみ計算値
たわみ解析値
(N/mm^2)
(N/mm^2)
(mm)
(mm)
0
0
0
0
0
500
50.392
54.538
1.280
1.308
1000
100.783
109.375
2.560
2.615
1500
151.175
163.613
3.839
3.923
2000
201.566
218.151
5.119
5.231
2500
251.958
272.688
6.399
6.538
3000
302.350
327.226
7.679
7.846
3500
352.741
381.764
8.959
9.153
4000
403.133
436.301
10.238
10.460
4500
453.524
493.839
11.518
11.770
5000
503.916
545.377
12.798
13.080
5500
554.308
599.914
14.078
14.380
6000
604.699
654.452
15.357
15.690
6500
655.091
708.989
16.637
17.000
7000
705.483
763.527
17.917
18.310
7500
755.874
818.065
19.197
19.610
8000
806.266
872.602
20.477
20.920
8500
856.657
927.140
21.756
22.230
9000
907.049
981.678
23.036
23.540
9500
957.441
1035.741
24.316
24.840
10000
1007.832
1090.178
25.596
26.150
28
応力(N/mm^2)
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
応力(計算)
応力(解析)
0
00
10
00
20
00
30
00
40
00
50
00
60
00
70
00
80
0
00
00
90
0
1
荷重(N)
図 4.4 応力値の推移
30
変形量(mm)
25
20
たわみ(計算)
たわみ(解析)
15
10
5
0
0
00 00 00 00 00 00 00 00 00 00
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
荷重(N)
図 4.5 変位量の推移
以上の結果より、応力では常に 7.6%程度の誤差、変形量では常に 3%程度の誤差があるこ
とがわかる。応力では解析値の方が手計算を上回る結果が出ているが、その結果を用いて
フレーム設計を行うことで、より安全なフレーム設計が出来ると考えられる。また、変 4
位量においては図 4.5 より手計算と解析の値はほぼ一致していることから、SolidWorks の
解析結果の信頼性は高いと判断した。
29
4.3 フレームの強度解析
静的強度解析条件として、
・前後のショックアブソーバーの取り付け部を固定。
・車両の主な重量物であるフレーム 70kg、バッテリー14kg×6 個、乗員 75kg、合計 229kg
の荷重をキャビンに加える。
これらを解析条件とし、構造物として静的に安全であるかどうかを検証する。
(図 4.6 参照)
=固定
=荷重
図 4.6 解析条件
静的な建造物などは静的構造解析の結果、安全率は 2.0 以上確保されていることで十分強
度が確保できると考えられる。しかし、自動車はその限りで無く、海岸近くなどの腐食環
境や、衝撃荷重を加えられるなど、厳しい環境で使用されることを想定されるため、安全
率 5.0 以上を評価基準とする。
30
4.4 各剛性値の結果と比較検討
曲げ剛性は先述のとおり材料力学において材料の縦弾性係数 E と断面二次モーメント I
を掛け合わせた数値で定義されている。
EI 
Wbx(l 2  b 2  x 2 )
, kgf・m2
6ly
W=荷重[N]、l=ホイールベース、b=前車軸から加重点までの距離、x 前車軸から変形計測
点までの距離、y=計測点の変形量とし、荷重による曲げ剛性解析として、W= 858.375 [N]
の集中荷重を加えた場合の構造解析を行い、変形量 y を求め、上記の式より曲げ剛性値を
求める。
=固定
=荷重
図 4.7 変形量
ねじり剛性も曲げ剛性と同じく先述のとおり、単位長さの軸を 1rad ねじるのに要するね
じりトルクで定義される。ねじり剛性は横弾性係数 G と断面 2 次極モーメント J を掛け合
わせた数値である。
しかし、ボディのねじれ角は基本的に小さい。そこで、θが非常に小さい場合、
θ≒tanθ=δ
R
δL
B
と、近似することができる。そして、ねじり剛性値 GJ は
GJ=
𝑇
=
𝑇𝐵𝑙
𝜃/𝑙 𝛿𝑅+ 𝛿𝐿
kgf・ m 2 / rad
として求めることができる。
31
まず、従来のねじり剛性の解析・算出を行う。ねじり剛性解析の荷重条件として、フロ
ントの車軸部に捩れトルク T=263.6928kgf・m を加え、リアの車軸位置を固定し、構造解析
ソフトで変位量δR、δL を求め、上記の式を用いてねじり剛性値を算出する。
=固定
=ねじりトルク
図 4.8 開発モデルにねじりトルクを加えた際のフレーム変形量
次に、新手法でのねじり剛性の解析・算出を行う。この手法はフレームにねじりの荷重
を加えることができない状況で、如何にしてねじり剛性を評価するのか、手軽にねじりを
再現できる方法はないかと思案している最中に考案した手法である。
ねじり剛性解析の荷重条件として、リアの車軸位置を固定し、フロントサスペンション
の右側を固定し、その反対側に下方に垂直の荷重 F=343.35kgf・m を加え構造解析ソフトで
変位量を求める。左側も同様の固定方法・荷重を加え構造解析ソフトで変位量を求める。
T
TBl

θ/ l δR δL
GJ=
kgf・ m 2 / rad
ここでは左側の変位量とする。
トルク T は左右のサスペンション取付位置の距離αとし、
垂直荷重をβとした値を掛け合わせたものを用いてねじり剛性を算出する。
32
図 4.9 新手法のねじり剛性評価概要
=固定
=垂直荷重
図 4.10 開発モデルに垂直荷重を加えた際のフレーム変形量
33
第5章
5.1
剛性試験
試験条件
・曲げ剛性
図 5.1 に示すように前後のサスペンション取付部 4 点を固定し、
キャビン中央部に 686.7N
を加えて試験を行った。変位測定位置は図 5.3 に示すように 8 点をダイヤルゲージで測定し
た。
=測定点
=固定
図 5.1 曲げの測定箇所
34
・ねじり剛性
図 5.4 に示すように後輪車軸位置を 2 点、フロントサスペンション取付部 1 点の合計 3
点を固定し、固定していないサスペンション取付部に下方に垂直の荷重を加えた。変位測
定位置は図 5.5、5.6 に示すようにキャビンの端部 2 点で、それぞれダイヤルゲージで変位
を測定した。
=測定点
=固定
図 5.2 ねじりの測定箇所
35
5.2
試験結果
以下に曲げ剛性試験の変位の結果と完成したメインフレームと同等の CAD モデルでの解
析結果を示す。
表 5.1 静的強度解析 結果
開発モデル
安全率
4.03
重量 kg
55.86
←前
実験
0.437
0517
0.395
右前
右中
右後
0.000 センター
センター
左前
左中
左後
0.288
0.402
0.385
0.000
図 5.3 曲げ実験の各測定点の変位量 (単位:mm)
←前
解析
0.06513
0.1405
0.1696
右前
右中
右後
-0.04311 センター
センター
左前
左中
左後
0.05381
0.1643
0.1462
図 5.4 曲げ解析の各測定点の変位量 (単位:mm)
36
0.02526
表 5.2 ねじり解析の変位量比較
従来のねじり解析
新手法のねじり解析
新手法のねじり実験
右の変位
2.236 mm
左の変位
2.197 mm
右の変位
2.160 mm
左の変位
2.159 mm
右の変位
2.124 mm
左の変位
2.189 mm
表 5.3 開発モデルの曲げ・ねじり剛性計算結果
開発モデル
曲げ剛性(解析)
(
kgf・
4.11
)
曲げ剛性(実験)
(
kgf・
1.28
)
従来の方法のねじり剛性(解析)
(
kgf・
)
新手法のねじり剛性(解析)
(
kgf・
/rad)
新手法のねじり剛性(実験)
(
kgf・
/rad)
1.17
1.19
1.2
フレーム重量 kg
55.86
完成車両重量 kg
343
図 5.4
重量配分(空車時)
37
図 5.5
重量配分(運転手 60kg 乗車時)
上記の結果より、安全率は目標の 5 以上を達成することができなかったが、完成車両の
目標重量 350kg 以下を達成することができた。また重量配分については、前後はほぼ理想
の重量配分になったが、左右の重量バランスでは左方へ偏りが見られる。これはバッテリ
ーや配線保護兼通路板の肥大化、運転席用のシートの仕様変更などがあげられる。これら
の仕様変更をさらに見直していけば理想重量バランスを達成することができると考えてい
る。
曲げ解析と曲げ実験の変位の誤差が最大で 6.7 倍、最小で 0.4 倍となった。ねじり解析と
ねじり実験の変位はほぼ一致している。今回の曲げ解析と実験の結果でこのような誤差が
現れた理由について、実験を行う際の車両の固定方法が適切でなかったこと、また、固定
箇所での変位の存在について明らかでなかったことがあげられる。この固定箇所での変位
については、車体側のサスペンション取付部の固定の甘さに問題があったと考えている。
この 2 点について適切に対処することで信頼性の高い実験結果が得られると考える。
この実験結果より研究開発したフレームは十分な剛性が得られているといえる。
38
第6章
衝突解析
6.1 衝突解析について
衝突解析を行う理由として、研究開発をした自動車が衝突事故を起こした場合に、乗員
がその衝撃に対して安全であるかを評価するために行う。乗員を衝撃から保護するために、
自動車のエンジンルームはクラッシャブルゾーンと呼ばれ、衝突による衝撃を吸収し潰れ
やすい構造になっているものもあれば、衝撃を吸収する構造物を取り付けたものもある。
図 6.1 ミニバンの交通事故の参考図
一般に市販されている自動車では、図 6.1 のようにフロント部分がつぶれやすくなってい
る。これがクラッシャブルゾーンである。今回研究開発をした車両はミニカー規格という
非常に小さな車両であるため、乗員保護に関して非常に厳しい条件となる。衝撃を吸収す
る構造を構築するには十分なスペースはなく、衝撃を吸収する構造物を搭載するスペース
も非常に少ない。
そこで、ミニカー規格のような小さな車両でも、一般乗用車と同様の安全性を持たせる
ことができるのかを検討していく。
39
6.2
解析条件
この衝突解析は、時速 50km/h で剛体の物体に衝突をする時を想定して解析を行う。この
速度は一般的に安全基準を評価する時に設定される速度である。この衝突でキャビンが形
状を留める必要がある。この時の衝突はフルラップ(100%正面衝突)で行う。
剛
50km/h
体
図 6.2 衝突解析概念図
6.3
解析結果
衝突後の解析時間を 250 マイクロ秒、変形スケールを 53 倍と設定した。その時の変形図
を以下に示す。
図 6.3 衝突後の変形図
今回は衝突から 250 マイクロ秒までしか見ることができなかった。この変形図からフロ
ントフレームがキャビンまで侵入してきていることが分かる。このことから衝突から数秒
後までの変形を考察すると、フロントフレームが衝撃を吸収しきれていない可能性が考え
られる。今後はフロントフレームの形状の見直し、クラッシャブルゾーンの追加等を検討
していく予定である。
40
第7章
7.1
フレームの改良
フレームの改良案
今回研究開発をしたフレームの応力分布を示す。
図 7.1 開発車両のフレームの応力分布図
赤で示した個所は応力集中が見られる。また、オレンジで示した個所は応力分散に寄与
していないことが分かる。これらが静的強度での安全率の低下を招いていると考えた。ま
ず、赤で示した個所に応力分散を図る構造に変更し、オレンジで示した個所を撤去するこ
とで軽量化を目指した。
図 7.2 改良モデル図
41
7.2
解析結果
図 7.3 改良モデルの応力分布図
←前
改良モデル解析
0.2289
0.2404
0.1598
右前
右中
右後
0 センター
センター
左前
左中
左後
0.2959
0.3185
0.2364
図 7.4 曲げ解析の各測定点の変位量 (単位:mm)
42
-0.00156
表 7.1 各モデルの曲げ・ねじり剛性・安全率の比較
開発モデル
改良モデル
4.11
2.39
1.20
1.22
フレーム重量 kg
55.86
55.47
安全率
4.03
5.25
曲げ剛性
(
kgf・
)
ねじり剛性
(
kgf・
)
開発モデルでは解析値での曲げ剛性が、必要以上に剛性があった。改良モデルでは曲げ
剛性を下げながらも安全率を目標の 5 以上を達成し、また、フレーム単体の重量を約 0.4kg
軽量化した。
7.3
設計フレームの位置づけ
以下の図 7.4 に曲げ剛性における市販車と今回設計したフレームと改良フレームの比較
を示す。
●改良モデル(解析)
●開発モデル(解析)
●製作フレーム(実験)
図 7.4 市販車の曲げ剛性分布 (山海堂:自動車の強度 )
43
図 7.4 より、市販車と今回製作したフレームを比較すると、市販車と同等の曲げ剛性が確
保されていることがわかる。同様に、以下の図 7.5 にねじり剛性の比較を示す。
●開発モデル(解析)
●製作フレーム(実験)
●改良モデル(解析)
図 7.5 市販車のねじり剛性分布 (山海堂:自動車の強度 )
図 7.5 より、フレームの分布の上限付近に開発モデルがあることが分かる。市販されてい
るミニカーが少ない上に、データがほとんどないために厳密な比較ができないが、フレー
ム単体で十分なねじり剛性を持っていることが分かる。
以上の結果より、今回の研究開発をしたフレームは、軽量・高剛性の両立の目標を達成
し、市販車レベル以上の剛性が確保されていることが確認出来た。
44
第8章
考察・課題
今回研究開発をしたフレームは、当初の案では目標安全率に到達することができなかっ
たが、ミニカー規格自動車の中では完成車両並みの強度剛性を持たせることができた。し
かし、衝突安全面では十分な解析・評価を行うことができないままとなり、衝突安全面は
現状では不安が残る結果となってしまった。また、今回の曲げ・ねじり実験を行う際、フ
ロントサスペンション部分での固定方法がやや不適切であったことが判明した。この問題
点を解決するため、固定方法の見直しをしている最中である。この見直しをすることで、
曲げ・ねじり剛性の測定精度が向上し、より正確な評価を行うことが可能となる。
今後は実験方法・解析手法を見直して再評価を行っていく予定である。また、このモデ
ルで得られたデータを基にして、今後のオールアルミフレーム化を目指して研究開発を行
っていく予定である。
この研究開発を行う際に考案したねじり剛性を評価する新手法は、実験で得られた値と
解析上で得られた値がほぼ一致し、それぞれのねじり剛性値の誤差が 2.6%に収まった。こ
のことから新手法によるねじり剛性評価は十分に信頼できると考える。この手法を用いる
ことで超小型モビリティの設計コストの削減が可能であると期待している。
45
謝辞
本研究を行うにあたり、終始ご指導を頂きました高知工科大学大学院知能機械システム
工学コースの大塚幸男教授に深くお礼を申し上げます。
フレームの設計製作にご協力下さいました西山製作所様、ボディ製作にご協力下さいま
した TS'Lightning 代表 浜田直明様、足回り部品の製作にご協力下さいました坂本鉄工所
様、技術的なサポートのご協力下さいました西岡ガレージ様、車両重量測定、各種配線・
配管にご協力下さいましたひまわりモータース代表 池知信孝様にこの場をお借りしてお
礼申し上げます。
最後に、本研究を行う上でご協力頂きました自動車設計生産システム研究室の方々をは
じめ、関係者各位にお礼申し上げます。
参考文献・出典
1)社団法人 自動車技術会:自動車技術ハンドブック
2)邉
基礎・理論編
吾一/藤井 透/川田宏之:標準 材料の力学
3)環境省及び国土交通省データベース
4)JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターデータベース
5)自動車の強度 武田昌弘・金山幸雄 著 山海堂
6)堀川裕貴、乗用車のフレーム超軽量化設計・製作、2008、高知工科大学 修士論文
7)沖大祐、超軽量電気自動車のフレーム設計・製作、2010、高知工科大学 修士論文
8)池田和弘、超軽量電気自動車のフレーム設計・製作、2011、高知工科大学
文
46
修士論
Fly UP