...

11.鶏大腸菌症多発のブロイラー養鶏場における伝染性ファ ブリキウス嚢

by user

on
Category: Documents
47

views

Report

Comments

Transcript

11.鶏大腸菌症多発のブロイラー養鶏場における伝染性ファ ブリキウス嚢
1 1.鶏 大 腸 菌 症 多 発 のブ ロ イ ラ ー 養 鶏 場に お け る伝 染 性フ ァ
ブリキウス嚢病ウイルスワクチンプログラムの検討
玖珠家畜保健衛生所 1)
大分家畜保健衛生所 2)
○佐藤愛 1) 人見小百合 1) 松井英徳 1) 松岡恭二 1)
病鑑
坂田真友子 2)
【はじめに】
10万羽を飼養するブロイラー養鶏場において、ワクチン接種後に死亡数が上昇する
との報告があり、病性 鑑定を行ったところ、その過程で、PCR法にて伝染性ファブリ
キウス嚢病ウイルス(以下 IBDV)の遺伝子を検出した。 IBDVの抗体検査を実施し、ワ
クチン接種適期の検討を行ったところ、死亡率が減少したので報告する。
【農場の概要および発生状況】
発生農場は、 10万羽を飼養するブロイラー養鶏場で、1~6号舎までが開放鶏舎、7
および 8号舎がウインドレスになっている。入雛はA孵卵場および B孵卵場から各3~4
鶏舎、C孵卵場から1鶏舎行っている。ワクチンプログラムは初生時にコクシジウム、
14日齢および21日齢にIBDおよびニューカッスル病(ND)ワクチンを接種しており、3
月入雛分からIBDワクチン株を変更した。
発生は 1号舎( 23日齢)、 5号舎( 26日齢)、6号舎(35日齢)、7号舎(27日齢)でワ
クチン接種後に呼吸器症状、脚弱、下痢が認められ、死亡数が増加、原因を調べるた
め、病性鑑定を行った。
【材料および方法】
表-1 病性鑑定
病性鑑定は定法に従い(表-1)、材料
は1号舎から1羽、5号舎から4羽、6号舎
および7号舎は各2羽を用いた。
【病性鑑定結果】
剖検所見では脾腫、気嚢の混濁肥厚
が 見 ら れ た 。 細 菌 学 的 検 査 で は 表 -2の
とおり大腸菌が5号舎を除いて各種臓器


材料:1号舎1羽、5号舎4羽、6号舎および7号舎は各2羽
方法:
(1) 細菌学的検査:主要臓器・気管からの菌分離
PCR法(MG、MS)
薬剤感受性試験(1濃度ディスク法)
(2)寄生虫学的検査:腸内容からの糞便検査
(3) ウイルス学的検査:主要臓器からのウイルス分離
PCR法(IBD、ND、IB、ILT、AE)
中和抗体検査(IBD、ND)
(4) 病理組織学的検査:剖検後、主要臓器・消化管を10%ホル
マリン固定、定法によりH.E.染色
か ら 分 離 さ れ 、 6号 舎 の 1羽 の 肝 臓 か ら
はブドウ球菌が分離された。また、 Sal
monella Schwarzengrundが3羽の気管ま
たは肺から分離された。PCR法により、
肺、気管から Mycoplasma gallisepticu
m および synoviae に特異の遺伝子は検出
表-2 病性鑑定結果1
• 解剖所見:脾腫、気嚢の混濁肥厚
• 細菌学的検査:
鶏No. 鶏舎No.
心臓
肺
は 表 -3に 示 す 薬 剤 が 有 効 で あ っ た 。 寄
脾臓
E.coli E.coli
1
1
E.coli
E.coli
E.coli
2~5
5
-
-
-
6
6
NT
E.coli
7
6
NT
E.coli
されず、また、薬剤感受性試験の結果、
1号舎の解剖鶏から分離された大腸菌に
分離菌
肝臓
8
7
NT
9
7
NT
腎臓
-
気管
NT
-
-
E.coli
E.coli E.coli
Staph.lugdunensis
E.coli
S.Schwarzengr
und
E.coli
S.Schwarzengr
und
-
E.coli
E.coli E.coli S. Schwarzengrund
E.coli
E.coli
-
E.coli
S.Schwarzengrund
-
-
E.coli
E.coli
E.coli : Escherichia.coli、 S. Schwarzengrund : Salmonella Schwarzengrund (04:d:1,7)
生虫学的検査の結果は、鶏舎によって
表-3 病性鑑定結果2
バラツキが見られた。
ウイルス学的検査の結果、気管、肺、
腎、F嚢からウイルスは分離されなかっ
た が 、 PCR法 に よ り 、 4羽 の F嚢 か ら IBD
・PCR法-肺、気管からMG、MSに特異の遺伝子は検出されず
・薬剤感受性試験の結果:(1号からの分離菌)
感受性薬剤;オフロキサシン、ノルフロキサシン、エンロフロキサシン
中感受性;アンピシリン、ストレプトマイシン
• 寄生虫学的検査:
ウイルスに特異の遺伝子を検出、遺伝
子解析により野外株と判定した。IBD抗
体検査には、発症鶏群6号舎と隣接鶏群
8号 舎 の ペ ア 血 清 を 用 い た 。 結 果 は 、 6
号、7号の解剖鶏4羽の抗体価は512~40
鶏No.
鶏舎No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
5
5
5
5
6
6
7
7
96以上、および 6号の同居鶏は 1024~40
96以 上 と 発 症 時 か ら す で に 高 い 数 値 を
示し た 一 方 、隣 接 鶏 群 は6号の 発症 か ら
2週 間後 まで の間 に 幾何 平均 (GM) 値 で
4)。
病 理 学 的 検 査 の 結 果 、 6号 舎 、 7号 舎
表-4 病性鑑定結果3
• ウイルス学的検査:
・気管、肺、腎、F嚢からウイルス分離陰性
・PCR法-6号、7号舎の4羽のF嚢からIBDウイルスに特異の遺伝子
を検出。シークエンスの結果、野外株と判定。
(IBD、ND、IB、ILT、AEに特異の遺伝子は検出されず。)
・IBD抗体検査ー発症鶏群(6号舎)と隣接鶏群(8号舎)のペア血清
を用いた
抗体価(n
2)
9.8か ら 2048ま で 上 昇 が 見 ら れ た ( 表 -
コクシジウム検出量
(opg)
-
4
6
2000
12
44,000以上
138,000以上
20,000以上
材料が少なく、未実施
14.0
(49日齢)
12.0
10.0
(35日齢)
6号
解剖鶏
(6・ 7号)
(44日齢)
8.0
8号
6.0
の 4羽 の う ち 3羽 に 共 通 し て 肝 臓 に 多 発
4.0
(30日齢)
2.0
巣状壊死、脾臓のリンパ濾胞の変性壊
0.0
発症時
死、化膿性心外膜炎、化膿性気管支肺
炎、気管炎が観察された。コクシジウ
発症から2週後
表-5 病性鑑定結果4
肝臓に多発巣状壊死

ム症を疑う病変は見られなかった(表-
病理組織学的検査:
6号鶏舎
5)。
脾臓のリンパ濾胞の変性壊死
【経過および対策】
4 月 22日 、 1号 舎 で の 解 剖 に て 大 腸 菌
肝臓
剤の投与を指示した(表-6)。そのため、
5月 2日 の 解 剖 で は 大 腸 菌 が 分 離 さ れ な
No.7
No.8
No.9
多発巣状壊死
++
+++
+++
-
小葉間結合織に偽好酸球浸潤
++
++
++
+
肝細胞の変性壊死
++
++
++
++
脾臓
リンパ濾胞の変性壊死
+++
++
-
+
心臓
間質に偽好酸球浸潤
+++
-
++
+
心外膜に単核系細胞および
偽好酸球浸潤
+++
-
+
-
+
+
-
++
+
++
+
+
-
化膿性気管支肺炎
を分離、大腸菌症が疑われ、感受性薬
7号鶏舎
No.6
肺
気管支周囲に単核系細胞の浸潤
気管
粘膜固有層に偽好酸球浸潤
採材なし
F嚢
偽好酸球浸潤
採材なし 採材なし
かった と考え られる 。 5月13日 および27
日の 病性 鑑定 の 結果 、「 鶏 大腸 菌症及 び
サルモネラ症」と診断したが、その誘
因に ついて は、 PCRにてF嚢よ り IBDウ イ
ルス 野 外株 が検 出 され たた め、 IBDの 関
表-6 経過および対策
3月末
入雛開始
4月22日
5号舎:大腸菌分離陰性。
5月2日
6号舎・7号舎にて、病性鑑定の結果、
「鶏大腸菌症及びサルモネラ症」と診断。
5月13日
誘因は?
与が疑われた。その後ペア血清を用い
た抗体検査を行い、ワクチンによる免
1号舎:大腸菌を分離。感受性試験を行い、感受
性薬剤の投与を指示。
2週後
IBDVの関与か
同居群と隣接群のペア血清を用いた抗体検査より、
ワクチンによる免疫のコントロールがうまくいってい
ないために野外株に感染した可能性がある。
5月27日
疫のコントロールがうまくいっていな
いために野外株に感染した可能性があ
IBDの抗体検査を実施し、ワクチン接種適期の検討
ると 判 断し 、 IBDの 抗 体検 査を 実施 、 ワ
クチン接種適期の検討を行った。
表-7 ワクチンプログラムの検討
• 材料:
鶏血清209検体
採材期間;6月28日~10月25日
鶏舎;A孵卵場・B孵卵場から入雛した2鶏舎、各10羽。
【ワクチンプログラムの検討】
材 料 は鶏 血清 209検 体を 用い て、 期 間
中、 A孵 卵場 、 B孵 卵 場か ら入 雛し た 2鶏
• 方法:IBD-中和試験、ND-赤血球凝集抑制(HI)試験
(検討前)
0日齢
コクシジウム
14日齢
IBD、ND
21日齢
IBD、ND
50日齢↑↓
出荷
35日齢
(ワクチン接種2週後)
舎、各10羽を用いた。抗体検査方法は、
IBDは 中 和試 験に より 、NDは赤 血球凝 集
抑制試験により行った。検討前、検討
(検討後)
0日齢
コクシジウム
14日齢
ND
21日齢
IBD
50日齢↑↓
出荷
28日齢
ND
後 の ワ ク チ ン プ ロ グ ラ ム は 表 -7の と お
りで、採血はドットで示した時期に行った。また、検討前には、14日齢でワクチン接
種しない鶏群を2鶏舎各10羽用意し、1週おきに採血した。
【結果】
ワクチンプログラム 変更前の IBD抗体検査の結果、移行抗体はどちらの孵卵場から
の雛も GM値で2048以上と非常に高く、ワクチン接種 2週後にブースター効果が見られ
なかった(表 -8)。ワクチン未接種群から考慮して、ワクチン接種は21~23日齢ごろ
が適当と考えられた。 変更後は、 B孵卵場からの雛はワクチン接種から14日後に上昇
が見られ、 25日後まで上昇し、 A孵卵場からの雛は逆に 14日後に抗体価が減少し、25
日後に上昇が見られた(表-9)。
表-8 IBD抗体検査結果(変更前)
1回目
IBD、ND
10
8
A孵卵場
2回目
IBD、ND
B孵卵場
6
4
ワクチンテイク
する抗体価
=50以下
2
0
0
10
表-9 IBD抗体検査結果(変更後)
抗体価(n
2)
抗体価(n
2)
12
12
10
ワクチン未接種群
家保5号*
(A孵卵場)
6
ワクチン未接種群
4
家保6号*
(B孵卵場)
21~23日齢
IBDワクチン接種
A孵卵場
8
A孵卵場
B孵卵場
2
0
20
30
移行抗体がGM値(2048以上)と非常に高い
2週後にブースター効果が見られない
40
日齢
0
10
変更後
B孵卵場
変更前
20
30
40
50
B孵卵場からの雛:ブースター効果あり
A孵卵場からの雛:変更後、ワクチン接種後2週後に抗体価が
減少し、25日後に上昇
変更前
ND抗体検査の結果、移行 抗体はA孵卵
28と 顕 著 に 高 い わ け で は な い こ と と 、
移行抗体が鶏舎間で 2冠以上の差が ある
ことから、これまでど おり2回打ち を行
抗体価(n
2)
場の雛は GM値588、B孵卵場からの雛は1
表-10 ND抗体検査結果
10
A孵卵場
5号
1回目
IBD、ND
8
孵卵場
B
6号
6
4
2
2回目
IBD、ND
0
ワクチンプログラム変更前、変更後
A孵卵場
ワクチン未接種
家保6号*
B孵卵場
ワクチンテイクする抗体価
0
10
20
30
40
(日齢)
10
ったが、変更による影響はほとんどな
かった(表-10)。
ワクチン未接種
家保5号*
8
A孵卵場
1回目ND
B孵卵場
6
IBDと比べて移行抗体が顕著
に高いわけではない
移行抗体がA孵卵場、B孵卵
場で22以上の差
A孵卵場
4
B孵卵場
変更前
2
2回目ND
0
の2~4週までの死亡数は表-11に示すよ
0
10
20
30
40
50
(日齢)
うに、 6号舎において大きく減少した。
0.03%減 少 し た が 、 飼 養 坪 羽 数 が 3月 入
雛時より9月入雛時の方が高かったこと
や、残暑の影響のため、総出荷率は0.0
表-11 変更後の死亡数の変化
死亡数
また、死亡率は6号舎で0.87%、7号舎で
160
140
120
100
80
60
40
20
0
146
7号舎
6号舎
51
病性鑑定の途中でIBDウイルス野外株
65
55
60
61
36
57
38
28
3月入雛
7%減少した。
【まとめ・考察】
93
86
9月入雛
3月入雛
3月入雛
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
2週目
3週目
4週目
1~3週までの
1~3
死亡率
9月入雛
9月入雛
総出荷率
98.85
98.78
飼養坪羽数
平均50.5
平均53
2~3週齢の死亡率:3月入雛より 6号舎;0.87%↓ 7号舎;0.03%↓
総出荷率は0.07%↓ →残暑や飼養坪平均の影響
が検出されたことから、農場への野外
株の侵入が疑われ、ワクチンプログラムの検討を行ったところ、1~3週齢における死
亡率が減少し、B孵卵場から入雛した鶏舎については抗体価の推移は改善した。また、
死亡鶏において病性鑑定を行いましたが IBDウイルスは検出されなかった。今後はB孵
卵場からの雛についても移行抗体の状態が大きく変化する可能性も考え、引き続き入
雛時の移行抗体を測定し、ワクチン接種適期の検討を行いたい。
Fly UP