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まちづくりラウンドテーブルで 地域課題の顕在化を未然防止する

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まちづくりラウンドテーブルで 地域課題の顕在化を未然防止する
4 回
カリスマ公務員 第 まちづくりラウンドテーブルで
地域課題の顕在化を未然防止する
交野市総務部参事・企画財政室長
中 清隆 さん
まちづくりラウンドテーブル。文字どおり、円卓のよう
な序列のない場でまちづくりを自由に語り合う会議形式
だ。大阪府交野市はこの取り組みを、2003年から
足かけ8年にわたって続けている。その仕掛け人で
ある企画財政室長の中清隆さんは、ラウンド
テーブルが市民の「出会い」と「気づき」の場
であり、地域課題の顕在化を事前に防ぐ「予
防まちづくりの場」にもなるという。新たな
総合計画の策定にあたっては、ワールドカ
フェ方式によるワークショップを取り入れ
るなど、協働のあり方を追求する姿勢は今
も変わらない。
本音で住民と向き合うことをテーマに
44
頃で、
「簡単に協働というけど、実際にどう協働す
交野市役所に入って最初に配属されたのが行政課
んねん」という問題意識が強くなって。それで、早
で、自治会活動の担当でした。1989年に企画室へ移り、
くから市民協働のまちづくりを実践されていた近畿
1991年4月には機構改革で都市計画課となりました。
大学理工学部(当時)の久隆浩教授にご協力をお
さらに1995年度の機構改革では「まちづくり室」と名
願いし、若手の職員を中心とする勉強会を1年ほど
称が変わりましたが、これは都市計画をまちづくり
やりました。勉強会といっても、ざっくばらんに自
の視点から考えようという発想です。まちづくり室
分の思いを語り合う雑談会のようなものでしたが、
の職員が積極的に地域に入っていき、住民とコミュ
自由にしゃべることで自分の中から大事な答えのよ
ニケーションをとりながら地区計画をつくっていく。
うなものが生まれてくることを味わったんです。
結局ここには1年だけ所属して、国体開催に伴う
第三次総合計画は無事できあがりましたが、この
総合体育施設の整備を行う部署に異動し、施設の運
後もいろんなテーマで地域の中に井戸端会議ができ
営を担う団体として設立された交野市サービス協会
るよう仕掛けていきたいねという話になりました。
に派遣となりました。1999年には派遣が解かれ、生
久先生はすでに八尾とか吹田でラウンドテーブルに
活文化課で再び自治振興の仕事に軸足を置くように
取り組んでおられたので、その現場も見学させても
なりました。こうした経歴の中で、自分から住民の
らったり。そして、とりあえず何かやろうということ
懐に飛び込み、本音の部分で話し合うというのが、
で市民フォーラムを開催しました。ここで、地域の
私なりのテーマになっていったように思います。
中にいろんな人が平場(ひらば)で話せるラウンド
派遣先から戻ったとき、ちょうど第三次総合計画
テーブルをつくりましょうよという話をしたら、参加
の策定作業が始まっていました。当時は市民との協
された市民の一人から、
「とりあえず市の方で1つ立
働による計画づくりが各地で話題になり始めていた
ち上げてみてよ」と言われました。
vol.97
まちづくりラウンドテーブルで地域課題の顕在化を未然防止する
せっかく市民から要望があったんだからと、軽い
そこで、いっそのこと環境問題だけに絞ったラウ
ノリで「じゃあ、やってみよう」ということになり、
ンドテーブルをやってみようということになりました。
市民フォーラムの約1か月後に第1回の「まちづくり
このときは環境活動に関わっているさまざまな市民
ラウンドテーブル」を開催しました。
団体や NPO にも参加を呼びかけて、グループワー
今もそうですが、私は面白いと思ったらとりあえ
クで KJ 法を使ってアイデアを出してもらうという方
ずやってみよう、そして試行錯誤する中でよりよい
法をとりました。それだけでなく、この日がちょうど
やり方を考えていけばいいというのが基本的なスタ
お正月の、まだ松の内だったので、
「初夢」と「福
ンスです。特にラウンドテーブルのような取り組み
袋」をキーワードにしようと思いついたんです。
は、お金もかかりませんから気楽に始めることがで
まず、グループごとに「こうなったらいいな」と
きました。
いうそれぞれの初夢を語ってもらいます。それを KJ
カードに記入してもらったのを、分類整理していく
ラウンドテーブルから生まれた
「かたの環境ネットワーク」
つかの夢にまとめます。そのうえで、この夢に向
かってどんなことができるかを出し合ってもらい、
いろんなアイデアが出た中で特に効果的で簡単にで
第1回の「まちづくりラウンドテーブル」は2003
きそうなものを選んでいきます。これが、夢のいっ
年6月22日、日曜日でした。会場は市役所の会議室
ぱい詰まった福袋というわけです。
を借り、私のほか別の部署の職員も参加しましたが、
そして最後に、
「せっかくこうして効果的で簡単に
休日勤務扱いではなく純粋に一市民としての出席で
できる企画を選び出したんだから、実際に自分たち
す。職員だけでなく、参加者全員が肩書きをもたず
でこれをやりませんか」と呼びかけました。このとき
平等な立場であるというのが、ラウンドテーブルの
は皆さん盛り上がって、
「やろう、やろう」というこ
基本的なルールです。物珍しさもあってか、30人ぐ
とになったので、3か月後にもう一度このメンバーで
らいの市民に来ていただきました。最初は私たちも
集まって成果を発表しあうことにしました。ところが
どう進めていったらいいか自信がなかったので、久
実際に3か月たって集まってみると、お正月に出され
先生にも同席していただきました。
た企画はほとんど実行できませんでした。環境問題
進め方は、まず最初に参加者が順に自己紹介をし
に対して高い関心や問題意識を持っている人たちば
ます。1人1分くらいで、名前と最近あったことや
かりなのに、いざ実行しようとすると小さな活動も満
思っていることを話してもらいます。その話の中で、
足にできなかった。これまで行政に対して「ああせ
特に参加者の皆さんが関心の高いテーマが出てくれ
え、こうせえ」と言ってきたけれども、言うのとやる
ば、それを材料にして話を展開していくというのが
のとでは全く違った。でも、そのことに気づいたと
基本的なパターンです。最初にメインのテーマを決
いうだけでも大きな収穫があったと思います。
めておいて、その話題を中心に議論を進めていくと
実際にこのとき集まった人たちが、せっかくのつ
いうやり方をする場合もあります。
ながりを大切にしたいとその後も話し合いを重ねて、
当初、自由におしゃべりをしていても自然に環境
2年後には「かたの環境ネットワーク」を結成しま
問題の方へ話が絞られていくということがよくあり
した。このネットワークは、年1回環境フェスタとい
ました。こういった場に参加される市民には、環境
う市民手作りのイベントを開催するなど、今も活発
問題に関心の高い方が多いんですね。しかも、それ
な活動を続けています。
ぞれに一家言のある方ばかりだから、議論していく
うちにお互いに声が大きくなったりして、子育てと
か他のテーマに関心のある方が発言しにくいような
雰囲気になってしまいました。
結論は出さないのがルール
環境問題をテーマとするラウンドテーブルは報告
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4 回
カリスマ公務員 第 会をもって解散しましたが、テーマを特に決めない
決めたりはしないこと。ラウンドテーブルは結論を
井戸端会議としてのまちづくりラウンドテーブルの
出す場ではありません。誰もが自由に参加できて、
方は月1回の割合でずっと継続してきました。この
話題もみんなが自由に持ち寄って、気軽にワイワイ
ペースは、第1回が行われた8年前から変わってお
おしゃべりをする場です。
らず、毎月(12月除く)第4日曜日の午後2時から
時間は2時間で、どんなに話が盛り上がっていて
4時までと決まっています。この3月には第90回目
も時間が来たらピタッと終わりにします。たくさん
を数えます。
しゃべりたい人にとっては非常に物足りなく思える
市民への周知は、毎月の「広報かたの」で案内し
かも知れません。一方、人の話を聞きたいと思って
ているほか、参加者の口コミが主な手段です。また、
来る方にとってはちょうどいいくらいの時間です。
相談ごとがあって市役所を訪れた市民の方に、
「そ
後で触れるワールドカフェも、20分たつとそこで話
れだったら毎月ラウンドテーブルという井戸端会議
が終わってメンバーが入れ替わるんですが、話し足
をやっていますから、一度おいでになって皆さんに
りないと思うことが次のステップにつながると思い
お話しされてみたらどうですか」と “ 営業活動 ” を
ます。
することもあります。
繰り返しになりますが、結論は出しませんから、
今は1回あたりの参加者数が10人弱というところ
こんなことを相談したいと思って来られた方に対し
で、ずっと来られている常連さんが平均して5~6
ても解決策を提示するようなことはありません。た
人、あとは毎回入れ替わります。長く続けていると、
だ、
「こんなことをしたい」という参加者に対して、
常連の参加者ばかりで内輪の話をして新しい人が話
「それだったらこの団体でこんなことをしてるから連
しづらくなったりというケースもあるようですが、幸
絡してみたら」といった情報をお互いに提供し合う
い交野の場合は常連さんが聞き上手であまりでしゃ
ということはあります。また、終了5分前になったら、
ばらない方ばかりなので、初めての方も気軽に話の
輪に入っていける感じで、雰囲気はとてもいいです
「何か自分の活動の PR をしたい方や、資料を配りた
い方はどうぞ」と促します。
ね。定年退職して、これから何か社会参加したいん
だけど、何をしたらいいのかわからないのでとりあ
えず覗いてみたという方もいらっしゃいます。
ルールは3つだけです。まず1つは、最初に申し
ワールドカフェ方式で
10年後の暮らしの夢を語り合う
上げたように肩書き抜きですべての参加者が平等な
2011年度から第四次総合計画がスタートします。
立場であること。2つめはお互いの意見を尊重し、
策定作業にあたっては、市民公募による「交野暮ら
批判はしないこと。そして3つめは、この場で何か
しの夢づくり会議」という組織を立ち上げました。
その名のとおり、夢を語り合おうというのがこの会
議の目的です。私は、まちづくりというのは1人ひと
りの市民の夢の延長上にあると考えています。でも、
夢が人によってばらばらなままでは交野市としての
夢になりませんから、市民みんなが共有できるよう
な夢を、自分たちでつくりあげる必要があります。
そのために「交野暮らしの夢づくり会議」で導入
したのが、ワールドカフェ方式によるワークショップ
です。
「あなたは10年後、どんなふうにして暮らして
いたいですか?」など4つのテーマを設けて、メン
市民フォーラム
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vol.97
バーを4つのグループに分け、20分間という時間内
まちづくりラウンドテーブルで地域課題の顕在化を未然防止する
でお互いの思いを出し合います。20分のうち最初の
の施策が必要だから実施する」という意識を持って
5分間は、自分の考えていることをポストイットに書
ほしいからです。
きとめ、それをもとに話をするという形式です。20
分たったらそこで話をストップし、ホスト役の1人を
除いてメンバーが他のグループに散らばっていきま
す。これを3回繰り返すことで、誰もが4つのテー
ラウンドテーブルは出会いと気づき
の場
マすべてについて発表できると同時に、他のメン
昔はどこのまちかどでも、井戸端会議がしょっ
バーの話も聞くことができます。1テーマ20分とい
ちゅう行われていました。このような場が常にある
うのは短く感じますが、時間が来るとそこでいった
ことで、暮らしの中のさまざまな問題が大きくなる
んリセットされ、また新しいメンバーで話が始まる
前に解決されていたのだと思います。市民が平等な
ので、常に新鮮な感覚でワイワイ盛り上がれるとい
立場で自由におしゃべりをするラウンドテーブルは、
う良さがあります。
いわば現代の井戸端会議です。これまでの行政は課
こうしてできあがったのが、
「みんなの “ かたの ”
題解決ばかりに目が行きがちでしたが、課題が顕在
基本構想」です。ここには「“ かたのサイズ ” をめ
化する前にその芽を摘むことこそ大事だと思います。
ざす像」として、ワークショップなどを通じて描き
その意味でラウンドテーブルは「予防まちづくりの
出した、
「10年後の暮らしはこうなっている」という
場」になると信じています。
82の夢が掲げられています。“ かたのサイズ ” という
こうした取り組みの成果と言えるかどうかわかり
のは、1人ひとりの暮らしがつながってほどよい大
ませんが、いま地域はすごく元気になっていると思
きさのまちをつくり、小さなまちに賑わいを生み出
います。個人で川を清掃して蛍を育てていた活動が、
すという思いを込めた言葉です。82の夢には、たと
次第に発展してまちづくり委員会ができたり。こう
えば次のようなものがあります。
した動きを見ると、みんながつながりを求めている
・住み慣れた家で暮らし続けることができる。
んだなあと実感するし、人と人がつながる場がもっ
・これまでに培った知識や経験が人に役立っている。
とできれば行政課題のかなりの部分は解消するので
・里山の植生が豊かで大切な憩いの場となっている。
はと感じます。
・いろんなところで気軽に立ち話や道草が楽しめる。
これまで8年近くにわたってラウンドテーブルを
実施計画は、これらの夢を実現するためにそれぞ
続けてきて思うのは、ラウンドテーブルが「出会い」
れの施策をどう組み立てるかという視点から作られ
と「気づき」の場だということ。そして、たくさん
ています。第四次総合計画の特徴は、基本計画がな
の人と出会いたくさんの気づきを得ることで、
「共感
く、基本構想と実施計画から構成されていることで
力」が養われるということです。
「共感力」は、これ
す。基本構想は基本理念・行動指針のほか、ありた
からの行政職員にこそ不可欠な能力であり、私自身
い姿や向かう方向を示す「みんなの “ かたの ” の夢」
もこれをもっと伸ばせるよう努力していきたいと思
と、それを具体化するための「“ かたの ” のしくみ」
います。
からなります。実施計画については、この基本構想
を踏まえて各担当課が責任をもって策定します。
近年は精緻な総合計画にしようという流れが強
まっていますが、交野市は敢えてその逆の手法を採
用しました。それは、厳しい財政状況や社会構造の
変化の激しさから、精緻な計画をつくっても現実と
乖離しやすいという理由が一点。もう一つは、職員
が「計画に書いてあるから実施する」のでなく「こ
◉プロフィール◉
なか・きよたか。1957年生まれ。1981年7月、交野市
役所入職、行政課に配属。企画室、総合体育施設整備推進
室主査、生活文化課自治振興係主任、市民活動推進課地域
振興係長・市民活動支援係長・文化交流係長、政策調整課
課長代理、政策調整課長、企画財政室課長などを経て、
2009年4月より現職。これまでにまちづくりラウンド
テーブル、市民活動団体等情報登録制度、業務改善行動企
画実行委員会などを発案・実施。
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