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自己の名前に関する意識調査 - 愛知教育大学学術情報リポジトリ

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自己の名前に関する意識調査 - 愛知教育大学学術情報リポジトリ
愛知教育大学研究報告,
37 (教育科学編),
pp. 143
159,
February,
1988
自己の名前に関する意識調査
一女子大学生の姓名観子
安
Masuo
増
生
KOYASU
(心理学教室)
自己意識の発達に関する心理学的研究はこれまで数多く行なわれてきたが,自己概念・
自己像や自己評価・自尊感情や自我同一性等をテーマとするものが多く,自己の「名前」
を取り扱った研究は殆どないといってよい(例えば,加藤・高木,1978
;梶田,1982
田, 1983の文献展望を参照)。
植村(
1979)の研究は,その僅かな例外の1つであるが,乳幼児期の子どもが自己の
名前や友達の名前に対してどのように反応するかについての観察結果を報告している。こ
れによると,子どもは1歳2ヵ月頃から自己の名前を呼ばれた時に正確に応じるようにな
り,1歳6ヵ月頃から自己の名前を言い始め,2歳1ヵ月頃からおやつ等がほしい時に自
己の名前で要求し始めるとされる。
この植村の研究では,名前という用語は「姓名」のうちの「名」の意味に限定して用い
られているように受け取れるが,自己の姓(法律上は「氏」と称されるが,本稿では「姓」
の字の方を用いる)についての意識を含め,幼児期以降の自己の名前に関する意識を調べ
ることが自己意識の研究にとって重要であるように思われる。
言うまでもなく,名前は個人の誕生とほぼ同時に定まり,その個人を特定し,代表する
1つの「記号」として頻繁に用いられるものである。そして,名前は,長期にわたって用
いられているうちに,単なる記号として受け止められるのではなく,愛着感を始めとする
様々な感情がそこに付随するようになる。名前は,良かれ悪しかれ,その個人の「自己」
を構成する重要な部分なのである。
本研究の目的は,自己の名前に関する意識の発達を研究するための手始めとして,女子
青年(短大生と大学生)の姓名観を質問紙調査法によって調べることにある。調査の内容
は,自己の名前の由来に関する知識,自己の姓・名それぞれに対する好悪の感情とその理
由,改姓・改名に対する希望の程度,結婚による改姓や夫婦別姓の問題に関する意見なら
びに改名・通称名の使用に関する意見などを調べるものである。
ここで,日本人の姓名に関する基本的な歴史的事実について,簡単にまとめておくこと
とする(久武,1979,1986
;井戸田, 1986等による)。
(1)明治維新までは,苗字(姓)を持たな
ことが著通であり,特に江戸時代では,苗字
は帯刀と共に身分的特権をあらわすものであった。井戸田(
1986)の推定によれば。
当時苗字を公称しえた家は,全体の約6%にすぎないという。
-
明治3(1870)年の「自今平民苗氏被差許侯事」という太政官布告により,苗字の
143-
;松
子
安
増
生
公称が自由になった。ところが,政府は主として徴兵上の必要から,明治8
(1875)年
に苗字の必称を命する布告を追加し,「国民皆姓」の体制が敷かれた。
(2)夫婦の姓についてみると,明治の前半までは夫婦異姓(例えば,源頼朝の妻が北条政
子であったように)が一般的慣行であった。国民皆姓になってからも,しばらくはこの
慣行に従う法解釈がなされていた。例えば,明治9
( 1876)年の太政官指令では,「婦
女人二嫁スルモ仍ホ所生ノ氏ヲ用ユ可キ事」となっている。しかし,一般庶民の間では,
妻が夫の姓を名乗るケースがふえ,法制度が実態に合わなくなっていった。
明治31( 1898)年の明治民法において,「戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス」(第七四六
条)と「妻ハ婚姻二因リテ夫ノ家二入ル」(第七八八条)の2つの規定が設けられ,夫婦
同姓が制度として確立した。
第二次大戦後は,昭和22
(1947)年の民法改正で,「夫婦は,婚姻の定めるところ
に従い,夫又は妻の氏を称する」(第七五〇条)と規定され,少なくとも形式上は男女
平等の原則に基づく夫婦同姓制度となった。
(3)名については,明治5
(1872)年に「複名禁止令」と「改名禁止令」という2つの
太政官布告が出されるまで,複名や改名が一般的慣行として行なわれてきた。
複名とは,実名の他に通称名を併せて用いることを言う。例えば,「忠臣蔵」の大石
内蔵助は通称名であり,大石良雄が実名である。また,改名は,幼名,元服後の名,家
督相続後の名,隠居後の名等のように,1人の人間が人生の節目ごとに名を変えること
を指す。井戸田は,通称名等の使用を「ヨコの複名習俗」,改名を「タテの複名習俗」
と呼んでいる。
なお,改名については,現行の戸籍法の定めるところによれば,正当な事由がある場
合には名を変更することが認められるが,その場合にも,家庭裁判所の許可審判を受け,
戸籍役場に届けなければならない。但し,以上は戸籍上の名のことであって,戸籍名と
異なる通称名の使用は,法律上特に禁止されていない。
以上のような歴史的背景のある名前について,女子大学生はどのように考えているであ
ろうか。本研究では,結婚による改姓と夫婦別姓の問題,改名や通称名の使用の問題のそ
れぞれについて,意見調査を行なうことが1つの目的である。
そして,このような名前一般に関する意識に加えて,自己の現在の姓名についてどのよ
うな意識や感情を抱いているかを幾つかの側面から調べることが,本研究のもう1つの目
的である。
方
被
験
法
者
愛知県内のN短期大学1
2年生781人,K短期大学1
2年生81人,A大学2年生29
人の合計891人。全員が女子学生である。年齢は,18歳が97人,19歳が465人,20歳が
327人,不明2人であった。
材
料
日本語ワードプロセッサーを用いて印刷されたB5判7ページの調査用紙を用意した。
-
調査用紙のタイトルは「姓名に関する意識調査」であり,調査目的,結果の利用法および
144 ―
自己の名前に関する意識調査
回答方法を記した次のような文章が最初に示された。
│
「名は体をあらわす」という言葉があるように,名前というものは大変大切なもので1
す。商品でもネーミング(名前のつけ方)一つで売れたり売れなかったりすることが
あります。まして,自分の名前は,誰にとっても重要なものと思われます。この調査
では,自己意識に関する心理学的研究の一環として,あなたの名前一姓と名の両
方-や名前一般に関することがらについて,いろいろなことをお聞きします。
結果は,学術的目的以外には利用しませんし,コンピュータによる統計的処理が中
心ですので,プライバシーを侵害するようなことはありません。ぜひ率直なご意見を
お聞かせください。また,設問にはもれなく答えていただくようお願いしますが,万
一どうしても答えられないものがありましたら,そこはとばしてください。なお,設
問4と設問11では,回答の内容によって枝分かれが生じ,次の設問が違ってきますの
でご注意ください。
設問は,全部で16問からなり,その内訳は「I.フェイス・シート」2問,「Ⅱ.姓に関
する質問上6問,「Ⅲ。名に関する質問」8問であった。
(I)フェイス・シート
フェイス・シートは,回答者の属性について調べるものであり,設問1と設問2の2
問を用意した。
設問1では,回答者の学年,所属(学科等),満年齢,性別を尋ねた。
設問2では,回答者の姓名とそのふりがなを所定の回答欄に記人してもらった。
(Ⅱ)姓に関する質問
設問3
設問8は,姓に関する質問項目である。
設問3は,「あなたの姓について,何か由緒(ゆいしょ)やいわれをご両親やその他の
人から聞いたことがありますか」と尋ね,「1.ある」,「2.ない」のどちらかで答えても
らうものである。なお,「1.ある」の場合には,具体的にその内容を記人してもらった。
設問4は,「あなたの姓について,あなたはどの程度好ましいと思っていますか」と尋
ね,「1.大変良い姓だと思っている」,「2.どちらか言うと良い姓だと思っている」,「3.
良い姓だとも嫌な姓だとも思っていない」,「4.どちらか言うと嫌な姓だと思っている」,
「5.大変嫌な姓だと思っている」からあてはまると思うものの番号を1つを選択する形
式である。このどれを選択したかにより,
設問5は,設問4で「1.大変良い姓」または「2.どちらか言うと良い姓」を選択し
た人のみが答えるもので,「あなたの姓が良いと思うのはどのような理由からですか」と
尋ね,13の選択肢の中からあてはまると思うものの番号に○をつける(いくつでも可)
形式である。この13の選択肢の具体的内容は,図2(後掲)に示される。
同様に,設問6は,設問4で「4.どちらか言うと嫌な姓」または「5.大変嫌な姓」
-145
-
子
安
増
生
を選択した人のみが答えるもので,「あなたの姓が嫌だと思うのはどのような理由からです
か」に対し,12の選択肢の中からあてはまると思うものの番号に○をつける(いくつでも
可)形式である。この12の選択肢の具体的内容は,図3に示される。
設問7は,「現在の我が国では,結婚すると女性が改姓し,夫の姓を名乗ることが一般的
に行なわれています。このことに関して,以下にいくつかの考え方をあげますので,それ
ぞれの考え方についてあなたがどの程度賛成か反対かを,番号に1つだけ○をつけて答え
ー
てください」という文章を示した後,A Fの6文(表1を参照)を提示し,それぞれの
文に対して「1.大いに反対」,「2.やや反対」,「3.どちらでもない」,「4.やや賛成」,
「5.大いに賛成」の5件法で回答してもらうものである。
設問8は,「もし,あなたが何の制約もなく,自由に姓を選べるとすれば,どんな姓を選
びますか,下に1つだけ記人してください。現在のあなたの姓も候補の中に含めます」と
し,選んだ姓を所定の回答欄に記入してもらった。
(Ⅲ)名に関する質問
設問9
設問16は,名に関する質問項目である。
設問9は,「あなたの名を誰がつけたか知っていますか。次の中からあてはまると思うも
のの番号を1つだけ選んで○をつけてください」と尋ね,「1.誰がつけてくれたのかよく
知らない」,「2.両親が相談してつけてくれた」,「3.父親がつけてくれた」,「4.母親がつ
けてくれた」,「5.祖父母がつけてくれた」,「6.両親の知人が名付け親になってくれた」,
「7.姓名判断や占いの専門家がつけてくれた」,「8.その他(具体的に書いてください)」
という8つの選択肢の中から1つを選ばせた。
設問10は,「あなたの名の由来やつけた理由を知っていますか」と尋ね,「1.知ってい
る」,「2.知らない」のどちらかで答えてもらうものである。なお,「1.知っている」の場合
には,具体的にその内容を記入してもらった。
設問11は,「あなたの名について,あなたはどの程度好ましいと思っていますか」と尋
ね,「1.大変良い名だと思っている」,「2.どちらか言うと良い名だと思っている」,「3.
良い名だとも嫌な名だとも思っていない」,「4.どちらか言うと嫌な名だと思っている」,
「5.大変嫌な名だと思っている」からあてはまると思うものの番号を1つを選択する形式
である。このどれを選択したかにより,
設問12は,設問11で「1.大変良い名」または「2.どちらか言うと良い名」を選択し
た人のみが答えるもので,「あなたの名が良いと思うのはどのような理由からですか」と尋
ね,12の選択肢の中からあてはまると思うものの番号に○をつける(いくつでも可)形式
である。この12の選択肢の具体的内容は,図6に示される。
同じく,設問13は,設問11で「4.どちらか言うと嫌な名」または「5.大変嫌な名」
を選択した人のみが答えるもので,「あなたの名が嫌だと思うのはどのような理由からです
か」に対し,12の選択肢の中からあてはまると思うものの番号に○をつける(いくつでも
可)形式である。この12の選択肢の具体的内容は,図7に示される。
-
146
自己の名前に関する意識調査
設問14は,「かつて我が国でも「幼名牛若丸、元服(成人)して源義経」というように,
小さい頃の名と大人になってからの名が変わるということがありました。このことに関連
して,以下にいくつかの考え方をあげますので,それぞれの考え方についてあなたがどの
程度賛成か反対かを,番号に1つだけ○をつけて答えてください」という文章を示した後。
A Eの5文(表2を参照)を提示し,それぞれの文に対して5件法(設問7と同一形式)
で回答してもらうものである。
設問15は,「もし,あなたが何の制約もなく,自由に名を選べるとすれば,どんな名を
選びますか,下に1つだけ記人してください。現在のあなたの名も候補の中に含めます」
とし,選んだ名を所定の回答欄に記入してもらった。
設問16は,「もし,あなたに子どもができたらこんな名をつけてやりたいと考えたこと
はありますか」と尋ね,「1.ある」または「2.ない」のどちらかで答えてもらうものであ
る。なお,「1.ある」の場合には,子どもの男女別に具体的にその名(いくつでも可)を
記入してもらった。
手
続
筆者が担当する講義の授業時間中に,集団的に実施した。回答時間の制限は,特に行な
わなかった。
調査の実施時期は,昭和61年1月および7月と昭和62年1月の3回に分けて行なった。
結
果
姓に関する質問
設問3の自己の姓について由緒やいわれを聞いたことがあるかという質問に対する回答
分布は,「ある」が7.4%ときわめて少なく,「ない」が92.0
%,無回答が0.6%となった。
設問4の自己の姓についての好ましさに関する結果は,図1に示すようになった(なお,
無回答が0.6%あったが,図では省いている)。
この結果は,
(1)「大変良い姓」または「大変嫌な姓」と考
える両極端の回答者は極めて少ない,
(2)「良い姓だとも嫌な姓だとも思っていな
い」が半数近くを占める,
(3)自己の姓を嫌だと思っている回答者(合
計30.9%)が,良いと思っている回答者(合
計23.5%)より少し多い,
とまとめることができる。
設問5は,設問4で「大変良い姓」または
「どちらか言うと良い姓」を選択した回答者
(209人)に対して,自己の姓が良いと思う理
由を13の選択肢の中から選ばせるものであり,
その結果が図2に示される。この結果は,
(1)「自分の姓だから(53.1%)」,「小さい
い頃から慣れ親しんできた姓だから(50.2
図1
147
自己の姓の好ましさ(設問4)
子
安
増
生
図2
自己の姓が良いと思う理由(設問5)
図3
自己の姓が嫌だと思う理由(設問6)
148
自己の名前に関する意識調査
%)」,「何となく良い姓だと思うから(
30.6 %)」という無条件肯定型の回答が多い,
(2)「先祖から代々受け継いでいるものだから(20.1%)」も無条件肯定型に近い選択理
由であるが,選択率は上の3項目に比べると,それほど高くない,
(3)「音のひびきや語呂が良いから(
23.4 %)」と「使っている漢字が良い字だから(20.6
%)」という見た目の良さが,もう1つの選択理由となっている,
(4)「同姓の人が少ないから(
ら(
37.8 %)」は良いと思う理由になるが,「同姓の人が多いか
2.9 %)」は理由として殆どあげられない,
(5)「姓名判断で良いとされているから」,「同姓に有名人がいるから」,「由緒があるから」,
「外国人にも呼びやすそうだから」の4つについては,選択率が極めて低い,
とまとめることができる。
設問6は,設問4で「どちらか言うと嫌な姓」または「大変嫌な姓」を選択した回答者
(276人)に対して,自己の姓が嫌だと思う理由を12の選択肢の中から選ばせるものであ
り,図3にその結果が示される。この結果をまとめると,
(1)「音のひびきや語呂が悪いから(
49.3 %)」と「使っている漢字が嫌な字だから(29.3
%)」という見た目の悪さが嫌われる大きな理由となっている,
(2)「同姓の人が多いから(29.7%)」は嫌だと思う理由になるが,逆に,「同姓の人が少
ないから(11.2%)」はあまり嫌だと思う理由になっていない,
(3)「読みまちがいや呼びまちがいをされやすいから(21.0%)」や「人から姓について悪
口を言われたことがあるから(8.7%)」という経験的要素も存在する,
(4)「由緒がないから」,「外国人には呼びにくい姓だから」,「姓名判断で良くないとされ
ているから」,「同姓に評判のよくない有名人がいるから」は,嫌だと思う理由として殆
どあげられていない,
のようになる。
設問7の夫婦の姓をめぐる6つの意見項目に関する結果は,表1に示される。「大いに
賛成」と「やや賛成」の合計を「賛成率」,「大いに反対」と「やや反対」の合計を「反対
率」として,表1の結果を読みとると次のようになる。
「A.結婚すると妻が夫の姓を名乗る現在の習慣は,歴史的にも長く,適当だと思う」
は,賛成率が63%である。
「B.結婚して姓を一つにする場合,夫が妻の実家の姓を名乗るヶ-スがふえると良いと
思う」は,「どちらでもない」の選択率(
53.4 %)が最も高く,次いで反対率35.3%であ
る。
「C.中国や韓国などの国で行なわれているように,我が国でも結婚後も妻が実家の姓を
名乗る(夫婦別姓)制度ができると良いと思う」は,反対率が69.1
%である。
「D.夫婦別姓では,子どもの姓の問題をはじめ,社会的に混乱が生するので望ましくな
いと思う」は,賛成率がかなり高く,
84.2^である。
「E.夫婦同姓か夫婦別姓かは,夫婦で相談して自由に選択できる制度が望ましいと思
う」は,反対率44.6
%,賛成率32.6^であり,共に過半数に達していない。
「F.結婚した時に,夫の姓でも妻の姓でもなく,新しい姓を決めて登録することを許す
制度があると良いと思う」は,反対率55.8%である。
-
以上をまとめると,本研究の被験者においては,結婚すると妻が夫の姓を名乗る現状の
149 -
子
表1
安
増
生
設問7の各意見項目に対する回答分布(回答者数891人,数字は%)
制度に対して肯定的で,夫が妻の姓を名乗ったり,夫婦別姓にしたり,夫婦で新しい姓を
つくるなどの制度改革に対しては否定的な考え方が強いようである。
姓に関する最後の質問(設問8)は,「何の制約もなく,自由に姓を選べるとすれば,
どんな姓を選びますか」というものである。この設問に対し,現在の自己の姓を選んだ回
答者は.
20.9 %であった。これは,設問4において「大変良い姓だと思っている」および
「どちらか言うと良い姓だと思っている」を選択した回答者の合計(
23.5 %)にほぼ対応
する数値である。
名に関する質問
設問9の「あなたの名を誰がつけたか知っていますか」に対する回答の結果が図4の円
グラフに示される。「両親が相談」,「父親」,「母親」の3つを合わせると66.2%になり,
回答者の約2/3が親から名をつけてもらったと理解している。また,「姓名判断や占いの
専門家」とした者が12.0%あり,親以外では一番多かった。
設問10の「あなたの名の由来やつけた理由を知っていますか」という質問に対する結
果は,「知っている」が65.9%と約2/3を占め,「知らない」が33.9
%.無記入が0.2%
となった。
設問11の自己の名についての好ましさに関する結果は,図5に示すようになった(なお,
無回答が0.6%あったが,図では省略した)。この結果は,
巾「大変良い名」と「どちらか言うと良い名」を合わせると61%となり,自己の名を肯
定的に受け止めている回答者が比較的多数を占める,
(2)自己の姓の好ましさ(図1)では,「大変良い姓」と「大変嫌な姓」の両極端の回答
者が殆どいなかったが,自己の名の好ましさの場合には,「大変嫌な名」は同様に少な
-150
自己の名前に関する意識調査
その他・無回答
図4
自己の名をつけてくれた人(設問9)
い(2.0%)のに対し,「大変良い名」が
23.7%もあった,
(3)自己の姓の好ましさ(図1)では,「良い
姓だとも嫌な姓だとも思っていない」が回
答者の半数近くを占めたが,自己の名の好
ましさでは,「良い名だとも嫌な名だとも思
っていない」は約2割に過ぎない,
とまとめることができる。
設問12は,設問11で「大変良い名」また
は「どちらか言うと良い名」を選択した回答
者(543人)に対して,自己の名が良いと思う理
由を13の選択肢の中から選ばせるものである。
この結果は,図6に示される。これを要約す
ると,
(1)「自分の名だから(56.0%)」,「小さい頃
から慣れ親しんできた名だから(
50.3 %)」,
「親がつけてくれた名だから(40.9%)」,
図5
自己の名の好ましさ(設問H)
「何となく良い名だと思うから(25.4^)」という無条件肯定型の回答が多い,
(2)「使っている字(漢字,カタカナ,ひらがな)が良い字だから(39.0%)」や,「音のひ
びきや語呂が良いから(
(3)「同名の人が少ないから(
35.5 %)」という見た目の良さが,もう1つの理由となっている,
23.4 %)」は良いと思う理由になるが,「同名の人が多いか
ら(0.7%)」は良いと思う理由として殆どあげられない,
(4)「姓名判断で良いとされているから」,「外国人にも呼びやすそうだから」,「同名に有
-151-
子
図6
図7
安
増
生
自己の名が良いと思う理由(設問12)
自己の名が嫌だと思う理由(設問13)
152
自己の名前に関する意識調査
名人がいるから」などは,選択率が極めて低い,
とまとめることができる。
設問13は,設問11で「どちらか言うと嫌な名」または「大変嫌な名」を選択した回答
者(166人)に対して,自己の名が嫌だと思う理由を12の選択肢の中から選ばせるもので
あり,図7にその結果が示される。この結果をまとめると,
(1)選択率が50%を越えるような,強力な理由は見られなかった,
(2)「音のひびきや語呂が悪いから(
35.5 %)」と「使っている字(漢字,カタカナ,ひら
がな)が嫌な字だから(30.1%)」という見た目の悪さが1つの理由となっている,
(3)「同名の人が多いから(31.9%)」は嫌だと思う理由になるが,逆に,「同名の人が少
ないから(
㈲
3.0 96)」は嫌だと思う理由として殆どあげられていない,
「読みまちがいや呼びまちがいをされやすいから(15.1
%)」や「人から名について悪
口を言われたことがあるから(
7.2 %)」という経験的要素は,選択率はあまり高くない
ものの,やはり1つの理由として存在する,
(5)「姓名判断で良くないとされているから」,「同名に評判のよくない有名人がいるから」,
「外国人には呼びにくい名だからJは,比較的選択率が低い,
のようになる。
設問14の改名・通称名に関わる5つの意見項目に対する結果は,表2に示される。ここ
で,「大いに賛成」と「やや賛成」の合計を「賛成率」,「大いに反対」と「やや反対」の合
計を「反対率」として,表2の結果を読みとると次のようになる。
「A.現在でも,成人になった時,自分で名が決められる制度があると良いと思う」は,
反対率(
42.4 %)が賛成率(21.9%)を上回るものの,過半数には達していない。
「B.姓名判断で名(通称名)を変えている人があるが,まぎらわしいので良くないと思
うjは,「どちらでもない」の選択率(57.1
%)が最も高く,賛成率(20.9%)および反
対率(17.7%)はそれぞれ約2割程度である。
設問14の各意見項目に対する回答分布(回答者数891人,数字は%)
-
表2
153 -
子
安
増
生
「C.過去の自分を清算し,新しく出発したい人には,名を変えるチャンスがあると良い
と思う」は,賛成率が54.8%である。
「D.いくら気に入らない名でも,親がつけてくれた名を簡単に変えるべきではないと思
う」は,賛成率が63.3%である。
「E.芸名やペン・ネームが世の中で通用するのだから,普通の人でも自由に名を変え
て使えばよいと思う」は,反対率58.1
%である。
以上をまとめると,本研究の被験者においては,項目Cを例外とすると,自己の名を簡
単に変えない方がよいという考え方が比較的多数意見であるように思われる。
設問15は,「何の制約もなく,自由に名を選べるとすれば,どんな名を選びますか」と
いうものである。この設問に対し,現在の自己の名を選んだ回答者は,35.6%であった。
これは,設問11において「大変良い名だと思っている」および「どちらか言うと良い名だ
と思っている」を選択した回答者の合計(61.0%)に比べると,かなり低い値である。
また,設問8と設問15の両方の回答に基づき,姓・名とも現在と同一のものを選んだ回
答者の比率を算出したところ,13.7%となった。
設問16の「もし,あなたに子どもができたらこんな名をつけてやりたいと考えたことは
ありますか」という質問の結果は,「ある」が69.8%を占め,「ない」が30.1
%,無回答
が0.1 %であった。
因子分析の結果(設問7及び14)
最後に,設問7と設問14の意見項目について因子分析を行なった結果を示す(なお,こ
の分析は,設問7及び設問14の全項目に回答した829人のデータを基にして行なったもの
である)。
ます,表3は設問7と設問14の合計11の意見項目間の相互相関係数を示すものである。
表3
相互相関係数(設問7と設問14の11項目間)
【註】回答者数829人のデータに基づく。
-」54
自己の名前に関する意識調査
表4
主因子法による因子分析の結果(因子負荷量)
【註】回答者数829人のデータに基づく。表中の太字は因子負荷量の絶対値が。40以上のものを示す。
この相互相関の値は全体としてそれほど高いとは言えないが,これに基づき主因子法に
よる因子分析を行なった結果が表4である。抽出は5因子までだが,意味のあるのは第3
因子(F3)までであろう。
表4には,姓の変更に関する項目(設問7)と名の変更に関する項目(設問14)が含ま
れるが,第1因子は主に名の変更に関する項目で因子負荷量が高い。ただし,姓の変更に
関する項目のうち,設問7のFだけはこの第1因子で因子負荷量が高くなっている。姓と
名の両方について,現在よりも自由に変更が可能な制度を望む項目で因子負荷量が正の値
-
をとっていることから,「名前の自由変更」の因子と命名できるだろう。
155-
子
安
増
生
第2因子において因子負荷量が高いのは,夫婦別姓に関する項目(設問7のC
E)で
あり,夫婦別姓を望ましくないとする項目Dで因子負荷量が正の値となっているのである
から,「夫婦別姓拒否」の因子と命名するのが妥当であろう。
第3因子では,設問7のAとBの2項目の因子負荷量が高くなっている。この2つは,
妻が夫の姓を名乗る現在の習慣を肯定し,夫が妻の姓を名乗ることには否定的である回答
傾向をあらわしているのであるから,「妻側の改姓受け入れ」の因子とでも命名することが
できるだろう。
考
察
自己の名前の由来に関する知識
設問3と設問10の結果から,自己の姓について由来を知っている者は7.4%とごく少な
いが,自己の名について由来を知っている者は65.9%にのぼることが分かった。自己の名
前の由来に関する知識といっても,姓と名では随分アンバランスのあることが明らかになっ
たのである。
設問9の「自己の名をつけてくれた人」については,「両親」,「父親」,「母親」の3つ
の回答を合わせると66.2%となり,親から名をつけてもらったと答えた者が回答者全体の
約2/3であった。
また,設問10で名の由来やつけた理由を「知らない」と答えた者は33.9%もいたが,
設問9において「誰がつけてくれたのかよく知らない」を選択したものは僅か3.8%にす
ぎなかった。
自己の名前に対する好悪の感情
設問4において,「大変良い姓」と「どちらかというと良い姓」を選択した回答者の合
計が23.5 %,反対に,「大変嫌な姓」と「どちらかというと嫌な姓」を選択した回答者の
合計が30.9%となった(図1参照)。
これに対し,名については設問11の結果(図5参照)によると,「大変良い名」と「ど
ちらかというと良い名」の合計が61%,「大変嫌な名」と「どちらかというと嫌な名」の合
計が18.6%となり,好ましい感情を持っている者の方がはるかに多かった。
姓と名に対するこの感情の差は,「何の制約もなく自由に姓(名)を選べるとすれば,ど
んな姓(名)から選びますか」という設問8と設問15の結果でも見られた。すなわち,姓
については,自由に選べてもなお自己の現在の姓を記入した者が20.9%であったのに,名
については,自己の現在の名を記入した者が35.6%であった。これは,統計的に有意な差
である(χ2=47.5,df=1,p<。001)。
次に,自己の名前に対する好悪の感情の原因を,設問5,
6 (図2,3参照)及び設問
12, 13 (図6,7参照)の結果から探ってみよう。
自己の姓または名を良いと思う理由の第1位は,「自分の姓だから(53.1
分の名だから(
%)」または[自
56.0 %)」であり,第2位は,「小さい頃から慣れ親しんできた姓だから
(50.2%)」または「小さい頃から慣れ親しんできた名だから(50.3%)」であって両者の
共通性は大変高いと言えよう。「小さい頃から慣れ親しんできた自分のもの」という愛着感
が,自己の名前を良いと思う端的な理由となっているのである。
-
他方,自己の姓または名を嫌だと思う理由については,
156-
自己の名前に関する意識調査
第1位:音のひびきや語呂が悪いから(姓で49.3
%,名で35.5^),
第2位:同姓の人が多いから(29.7%),同名の人が多いから(31.9%),
第3位:使っている漢字(カタカナ,ひらがな)が嫌な字だから(姓で29.3
%,名で30.1%),
第4位:何となく嫌な姓だと思うから(24.6^).何となく嫌な名だと思うから(25.9%),
となり,上位4位まで全くよく一致している。
また,同姓または同名の人が少ないことは良いと思う理由になり,同姓または同名の人
が多いことは嫌だと思う理由になっていることにも注目すべきであろう。
結婚による改姓と夫婦別姓に関する意見
設問7では,結婚による改姓と夫婦別姓等に関する意見を調べた(表1,
3,
「A.結婚すると妻が夫の姓を名乗る現在の習慣は,歴史的にも長く,適当だと思う」
の賛成率は63%であり,反対率は5.2%にすぎなかった。妻が夫の姓を名乗る習慣は,既
に見たように,約100年足らすの歴史であり,決して「長い」とは言えないであろう。し
かし,厚生省の人口動態統計では,全国平均で婚姻の98.9%までが夫の姓を称するもので
あり(久武,
1979).良かれ悪しかれ,夫の姓を名乗ることが習慣として定着しているの
である。このことが,設問7-Aの回答率に強く影響したものと思われる。また,設問7
-Bで「結婚して姓を一つにする場合,夫が妻の実家の姓を名乗るケースがふえると良い
と思う」の賛成率が7.5%にすぎなかったのも,同じ理由によるものであろう。
次に,夫婦別姓の問題に移る。最近,夫婦間における男女平等を実現するという観点か
ら,夫婦別姓のための制度改革を要求する運動が見られるようになってきている(例えば,
井上,
1986
)。
久武(1987)によれば,世界各国の婚姻制度を比較した場合,夫婦別姓に関して,
①
夫・妻ともに出生氏を名乗る完全別姓制(韓国,カナダ・ケベック州など),
②
夫婦同姓か夫婦別姓かを選べる自由選択制(イギリス,フランス,中国,ソ連など),
の2つを区別することができる。また,自由選択制の中には,「結合姓」や「第3の姓」
を名乗ることを許す制度を取り入れている国もある。
設問7-Cでは,完全別姓制に近いニュアンスで夫婦別姓制度に対する賛否を問うたが
その賛成率は6.2%にすぎす,反対率が69.1
%であった。その理由は,設問7-Dの「夫
婦別姓では,子どもの姓の問題をはじめ,社会的に混乱が生するので望ましくないと思う」
の賛成率84.2
%,反対率1.5%という結果からうかがい知ることができるであろう。
では,自由選択制についてはどうであろうか。設問7-Eは「夫婦同姓か夫婦別姓かは
夫婦で相談して自由に選択できる制度が望ましいと思う」という項目であるが,これに対
しては,賛成率32.6%,反対率44.6%となり,賛否相半ばした形であった。
また,「第3の姓」を名乗ることを許す制度については,設問7-Fで「結婚した時に,
夫の姓でも妻の姓でもなく,新しい姓を決めて登録することを許す制度があると良いと思
う」での反対率が55.8%であり,どちらか言うと否定的意見が強かった。なお,因子分析
の結果(表4)によれば,この項目は,夫婦別姓の問題よりも,むしろ改名・通称名の問
題との関連の方が深かったのである。
改名や通称名の使用に関する意見
前述のように,井戸田(1986)は,実名の他に通称名を併用する「ヨコの複名習俗」
と人生の節目ごとに改名する「タテの複名習俗」という概念の区別を行なっている。
157
-
4参照)。
子
安
増
生
設問14では,設問14-Aと設問14-Cが「タテの複名習俗」の賛否を問うものであり,
設問14-Eが「ヨコの複名習俗」に関わる質問であると言えよう。その結果は,女子大生
は「タテの複名習俗」にはまだしも肯定的であるが,芸名やペン・ネームに類するような
「ヨコの複名習俗」には否定的であった,とまとめることができるだろう(表2参照)。
設問14-Dの「いくら気に入らない名でも,親がつけてくれた名を簡単に変えるべきで
はないと思う」(賛成率63.8
%)が,改名や通称名の使用に関する態度の重要な決定因の
1つとなっているのではないだろうか。
また,設問14-Bの姓名判断による改名については,賛否の判断を下すことが困難な様
子がうかがわれた。
ま
と
め
本研究の被験者となった女子大学生に関して次のことが明らかとなった。
(1)名前を姓と名に分けると,姓に対してよりも名に対して,より愛着心を感じるし,由
来も詳しく知っている。
(2)名前に対する愛着の理由としては,「小さいころから慣れ親しんできた自分の名前だか
ら」ということが最大の要因である。
(3)結婚による改姓と夫婦別姓の問題については,現状肯定的な意見が比較的多かった。
(4)改名・通称名の使用についても,現状肯定的な意見が強いが,設問15で自己の名以外
を選んだ者が回答者の約2/3あったことからも,潜在的改名願望が存在すると思われる。
今後の研究方向として,名前に対する意識そのものを更に深く探究していくと同時に,
名前に対する意識が自己意識の他の側面の問題(例えば,自己概念や自己評価等)とどの
ように関わっているのかを調べていくことが必要であろう。また,このことを,青年期だ
けでなく,幼児期や児童期の子どもも含めて,発達的に検討していかなければならない。
【付記】
本研究のデータの一部は,日本教育心理学会第29回総会(
1987年)で既に発表した。
本稿執筆に際し,愛知教育大学家政学教室久武綾子教授から,関連文献のご教示をはじ
め,多くのことを教えていただいた。ここに記して感謝申しあげたい。
(昭和62年8月26日受理)
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自己の名前に関する意識調査
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