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スウェーデンに学ぶ番号制度の活用 社会保障・税の一体改革に深く関連
スウェーデンに学ぶ番号制度の活用 2011 年 7 月 25 日 社 会 保 障 ・税 の一 体 改 革 に深 く関 連 する共 通 番 号 制 度 の導 入 に向 けて、政 府 は早ければ秋の臨時国会で番号法案を提出する見込みである。番号制度の導 入を巡っては、古くから税の公平性確保の観点で、納税者番号制度導入の必要 性が指 摘されてきたが、国家による国 民 管理 やプライバシー侵 害の懸念などか ら挫折した経緯がある。 政 府 は、番 号 制 度 の導 入 によって、適 切 な納 税 はもとより、社 会 保 障 分 野 での 適 切 な給 付 、医 療 ・介 護 にまたがる負 担 の軽 減 策 、行 政 事 務 のコスト削 減 、災 害時の利用など利便性の高い行政サービスの提供など、様々なメリットを上げつ つ、導入に向けた具体的方策、ステップを示したことは意義深い。ただし、当面は 番号利用の範囲を、年金、医療、介護、福祉、労働、税務の6分野に限定して利 用する一 方、一 般行 政サービス、民間 利 用 などについては、「将 来的な」利 用と しており、具体的な時期は明示されていない。 これは、導 入 当 初 は、利 用 範 囲 を社 会 保 障 ・税 分 野 に止 めることで、個 人 情 報 保 護 に極 力 配 慮したスキームを作ろうという目 論 みである。個 人 情 報 保 護 は確 かに重要な課 題だが、住基ネット導入の際、厳しい批判から利用 目的を最小限 に限定した結果、国民にとってほとんど利便性が感じられないシステムとなってし まった過去の失敗の轍を踏まないようしなければならない。 筆者は、世界で最も IT 利用が進んでおり、かつ番号導入国の中でも最も幅広い 分 野で番 号を活 用し、世 界でトップクラスの電 子 政 府・行 政サービスを提 供して いるスウェーデンの番号利用に、わが国が学ぶべき点は少なくないと考えている。 以下、スウェーデンの利用実態を簡単に紹介しよう。 スウェーデンでは、住民登録番号として 10 桁の個人番号が国税庁によって出生 時に全国民に付番される。同時に、国民 ID カードの導入によって、行政窓口で の本人確認や様々な行政サービスが Web 上で提供されている。代表的な事例 を上げると、税務面ではプレプリント(記入済み申告書)による確定申告、公的年 金 や企 業 年 金 、個 人 年 金 も合 わせた保 険 料 納 付 実 績 や将 来 の年 金 予 想 給 付 額を閲覧できる官民共同サイト、住所変更があらゆる行政機関や民間金融機関 などにワンストップでできる Web サイトなどが手軽に利用できる。 社会保障面では、失業保険、育児休業保険などの給付申請が Web 上から可能 で、児童手当は、出生時に病院から送付される情報を下に、自動的に給付がな される。疾病保険についても、医師に診断書 を請求すれば、自動的に電子診断 書 が社 会 保 険 庁 に送 られ、審 査を経 て給 付 が決 定されれば、本 人 口 座 に振 込 みがなされる。また、複数の病院での待ち時間情報や、e-mail による健康相談 サービス、オンラインによる診 療 予 約とキャンセル、本 人の同 意があれば、処 方 箋の更新や疾病証明の交付申請、カルテ情報の提供など、より先進的なサービ スが受けられる。 株式会社 p. 1 日本総合研究所 調査部 理事 湯元 建治 スウェーデンに学ぶ番号制度の活用 2011 年 7 月 25 日 その他、一般行政サービスでは、パスポートや運転免許証の申請時の個人認証、 自動車登録、建築許可申請、警察への盗難届提出、公立図書館の利用、出生 届・婚姻届の提出、大学への入学手続きなど、ほとんどの行政手続きを、番号を 用いて個人認証を行うことで、自宅に居ながらにしてできる。選挙や徴兵時の本 人宛通知にも番号が利用される。さらに、民間利用では、銀行、証券会社におけ る口座開設、クレジットカードの利用、賃 貸住 宅、携帯電 話の契約 など、金融取 引や各 種契 約 手 続きにおける本 人確 認に個 人 番号が利 用されるため、番 号が ないと生活できないと言われるほどに、国民生活に浸透している。 このようなサービスが可 能 な理 由 は、法 律 に基 づく、行 政 機 関 間 での幅 広 い情 報連携(ネットワークを通じて情報のやり取りが可能な仕組み)があるからである。 また、民 間 の金 融 機 関 や一 般 企 業 に対 して、個 人 の姓 名 および住 所 情 報 を提 供する公的機関がある他、匿名利用を条件とした上で、個人番号 に紐付けされ たデータ・情報を幅広い統計として活用している。さらに、個人情報保護は、中立 かつ独立性の高い「データ検査委員会」による監査、個人データ法による厳格な 保護措置が採られている。スウェーデンでは、住所、姓名、生年月日などの個人 情報は、個人が提供すべき国民の義務と認識されており、保護すべきは病歴や 犯罪歴などのプライバシー情報であり、両者はしっかりと峻別されている。 以 上のようなスウェーデンの実 例を踏まえると、わが国としては、今 後の具 体的 な検討課題として、以下の 3 点を、真剣に検討すべきであろう。 ① 今 後 、設 置 を検 討 するとしている個 人 情 報 保 護 を目 的とする第 三 者 委 員 会 は、国家行政組織法上の3条機関とするなど強力な権限を付与する。 ② 現行の個人情報保護法を、国民が提供する義務のある情報を明確化すると ともに、自 己情 報コントロール権(どんな自 己情 報が収集されているかを知り、 不正利用できないよう関与できる権利)を含めたプライバシー保護法として再 構築する。 ③ ①、②の方策をしっかりと行うことを大前提として、番号利用の範囲を一般行 政サービス、民間 利用 にまで「できるだけ早期に」広げる。その際には、強制 適用ではなく、国民の自己選択に任せることが現実的だ。 番号制度は、政府が国民を監視するための手段では決してない。政府は、徹底 した情報公開と説明責任を果たすことを通じて、国民に対して開かれた政府を実 現し、国民との信頼関 係を強化することが必要だ。番号制度は、こうした政府の 透明性確保とともに、不正や不公平のない開かれた透明な社会を実現するため の不可欠の基本インフラであると認識する必要があろう。 以 上 株式会社 p. 2 日本総合研究所 調査部 理事 湯元 建治