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わたしにも夢がある

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わたしにも夢がある
わたしにも夢がある
− 図書館スタッフ研修後記 −
坂口 雅樹∗
1 あるメールから
「ごめんなさい、大幅に遅れてしまいました。書いていて、図書館って
なんだろう?とか未来はあるのかな?とか。みなさんみたいに立派なこと、
書けないな…とか、いろいろと悩んでしまいました。
今年度、総合サービス課のみなさんが図書館ツアーを任せてくださった
ことを思い出しました。とてもいま、役立っているので、感謝しています。
今年度は、総サ課の他部署のお話も館内整理日の研修で何度か聴けました
し、だんだん図書館の全体像がつかめてきた気がしています。
明大図書館は、HP によると夢がちゃんとあり、新しい中央図書館の建
物にも意志があると感じます。日々、そういうことを認識していけるなら、
何をやるにも自信がもてると思いました。図書館の未来をみんなで考えて
いくなら、やはり私も参加したいなと思いました。遅れたうえに言葉も足
りなくて、もうしわけなく、恥ずかしいですけれど、考えたことを伝えた
いと思いましたので、以下、お送りすること、許してください。」
図書館で働くことには意味がある。生活の糧を得る場がたまたま図書館
であった人には、図書館の夢を語ることは無意味かもしれない。M 氏はそ
うではなかった。図書館で働くことに生きがいを見出し、そしてその輪に
加わった。夢を語る場である。悶々とした日々のまとめ、オアシスに似た
安らぎが、図書館の夢の中にある。陽の当たらない場面で働く図書館人の
∗ さかぐち・まさき/図書館事務部生田図書課
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多いこと。明治大学図書館スタッフとして彼らに応えることはできないの
だろうか。「図書館の未来をみんなで考えていくなら、やはり私も参加し
たいなと思いました。」と語った文面を読むと、何か出来ることはないか
と思い立ったのが本稿である。
2003 年暮れも押し迫った頃、第 16 回明治大学図書館スタッフ研修会に、
21 名の図書館員の声が寄せられた。図書館の夢を語るひとときに、現場
で働く図書館員の声が届いた。その生の声は、メールを介在にした思い
であった。ひとつは「優れた図書館とは何か」もうひとつは「優れた図書
館員とは何か」である。優れた図書館のイメージはどこにでも転がってい
る。誰にでも描ける図書館像はことに面白くもない。自分にしか描けない
ものはなんだろう。それは自画像である。自分が果たす役割を自覚して欲
しい。そのために言葉を遊んで欲しい。優れた図書館員像を思い描く瞬間
が、今ここにある。その声を映してみた。
2 設問 目指す図書館員「こんな図書館員に私はなりたい」
1. 「図書館の立場を説明し、利用者に納得してもらえる館員を目指し
たい。レファレンス業務、各窓口での利用者からのクレーム対応、教
員からの要望など、『相手に納得してもらう』技術を身に付けたい。
委託/嘱託職員との連携をスムーズにし、専任としてこれまで教示を
受けてきた事項を伝えていきたい。委託業務は均一化と単純化を求
められ、マニュアルのみの仕事だけになる傾向がある。契約料との
関係で当然のことであるが、知識を増やしてもらいサービスに生か
せるよう、説明していきたい。それには専任も切磋琢磨が必要。」<
30 歳台専任職員>
2. 「利用者を育てられる図書館員になりたい。自分の専門分野をもつ図
書館員になりたい。図書館の将来図を描ける図書館員になりたい。」
< 30 歳台専任職員>
3. 「図書館システムを通して、業務の効率化、利用者の利便性向上に
貢献。アジアの図書館近代化の手助けをして、明治大学図書館との
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ネットワークを作りたい。発展途上国の研究者もサポートしたい。
日ごろ心がけていることは業務の効率化ですが、夢はアジアに向け
ています。図書館員として、どのような理想を抱くかは、まだ模索
中です。どうしても、日ごろの業務が中心となってしまいます。い
や、ほんとに質問が難しいです。」< 30 歳台専任職員>
4. 「操作説明やガイダンスで、分かりやすく適切な利用指導及び企画
運営ができる人になりたい。常にアンテナを立てて、図書館界の新
しい動きや情報を取得し、それを自分の仕事に活用できるようにな
りたい。図書館の蔵書と Electronic Resources に精通したい。コミュ
ニケーションを良くし、仕事のモチベーションを上げる潤滑油のよ
うな役割が果たせる人間になりたい。」< 20 歳台専任職員>
5. 「自分の所属する部署や図書館のみならず、大学全体の動向にも関
心を持って行きたいと考えています。現状に甘んじることなく、図書
館政策を構築して、利用者サービスを積極的に展開できるようにな
りたいと思っています。外に対して図書館をもっと積極的にアピー
ルできるように考えて行きたいと思います。個人だけの能力に頼ら
ず、図書館全体の能力の更なる向上に貢献したいと考えています。
図書館を愛する人を育てて行きたいと思っております。< 30 歳台専
任職員>
6. 「『エキスパートとは、その専門分野で犯しうる最悪の過ちについ
て心得ており、その過ちを回避する方法を知っている人物である。』
ウェルナー・ハイゼンベルグ (ドイツ人物理学者)。こうありたいと
思っています。」< 30 歳台利用者サービス業務委託社員>
7. 「図書館の中だけで解決できない問題が多くなってきたので、学内
外に人脈をもって、それを活用し、また逆に学内外に向けて情報発
信できる図書館員。専門分野のリサーチ・ライブラリアン。選書から
資料の広報、利用方法のレクチャー、保存などトータルにマネージ
メントして、情報提供できる図書館員。利用者のニーズ待ちではな
く、自ら利用者のニーズを喚起できるようなタイムリーな情報、例
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えば、都立図書館のニュース・レファレンスのようなものを継続して
発信できる図書館員。とにかくもっと人間的にも技術的にもキャパ
シティを広げたいです。
『情報発信』がキーワードでしょうか。ジェ
ネラルでもありたいし、スペシャルにもなりたい。」< 30 歳台専任
職員>
8. 「『出来る限り自分の得た明治大学図書館の知識 (良い面も悪い面も)
を後輩に伝授し、そうしたことを考え、自分の意見を持てるような、
広い視野を持った図書館員を育てること』が、次世代に発展する明
大図書館のためだと思っています。」< 30 歳台利用者サービス業務
委託社員>
9. 「職場の仲間達と交流を深めて、気持ちよく仕事ができるような職
場を心がけたい。利用者に OPAC 検索、ポータル等を使ってもらえ
るよう働きかける。図書館ツアーで、簡潔で分かりやすく興味をも
たれるような説明ができるようにしたい。自分のできることの説明
は利用者に理解されるが、なぜできないかの説明を適切な言葉で対
応できるようにしたい。明るい清潔な図書館であるよう、ゴミなど
気が付いたところはきれいにするように気を配りたい。」< 40 歳台
専任職員>
10. 「情報リテラシーを習得し、すばやい検索ができるようになりたい。
外国語に親しみ明治大学図書館のコレクション (ボーズル文庫、ア
フリカ文庫等) の書誌情報理解を深めたい。細分化された業務のみ
に固執せず、明治大学図書館業務全体として捉えるよう心がけたい。
協調性をもち、利用者サービスの向上に努めたい。」< 40 歳台嘱託
職員>
11. 「日常業務をこなす事だけに満足せず、自らの関心をひろげて直接
的・間接的・将来的に役立つ知識を身につけたい。現在は今まで勉
強する機会の無かったドイツ語の簡単な読み書きを学び始めようと
思っている。」< 40 歳台嘱託職員>
12. 「Web ページ作成、ネットワーク、プログラム作成など自分が身に
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つけた技術を最大限サービスに活かす。ただ、自分としては、いつ
のまにか図書館劣等生だった気がします。今にいたって、やらなけ
ればならないことにせまられて、焦りまくっている感じで、日々悪
戦苦闘中。怠けてしまったりしてとても情けない状態です。」< 40
歳台専任職員>
13. 「外国人研究員が利用しに来たときに、最低限のルーティンな対応
だけでもできればよい。自分のセクションで応対できないような問
合せは、必要な部署に連絡をとった上で案内し、利用者をたらい回
しにすることがないようにしたい。自分が一利用者でもあるので、
利用者の視線から見た図書館の不具合を少しずつ指摘して行きたい
(空調の効き具合の偏りとか)」< 30 歳台利用者サービス業務委託
社員>
14. 「これから『こんな図書館員になりたい』という年齢でもないので、
私なりに自分が持っているちっぽけな知識のかけらを組み立てて、
学生や研究者の助けができればいいと思っています。」< 50 歳台専
任職員>
15. 「図書館ツアーを外国語で行なえるように努力して、図書館の国際
化に貢献したい。職場の仲間達と交流を深めて、様々な情報を吸収
し、かつ仕事が円滑になるように心がけたい。担当部署のみに専念
しないで、他のセクションの仕事にも関心を広げたい。外部データー
ベースの内容を理解して、すばやい情報検索ができるようになりた
い。利用者端末 OPAC、配送システムなどで、利用者に分かりやす
い説明ができるように、心がけたい。時間をみては館内を巡回して、
利用者サービスの向上に努力したい。」< 50 歳台専任職員> 16. 「とりあえず仕事を流す。新たな仕事を発掘することは得意である
が、発掘した仕事を完遂できないことを反省したい。かつては目標
(主題分野で、ある分野について得意になりたい) というのがありま
したが…今は目標を探しつづけています。逆に、
『君はこの分野で貢
献できるよう、研鑚しなさい』と誰かに方向づけしてほしい気持ち
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もあります。そういうことに配慮した異動を考えてもらえるとか。
甘いですが。」< 20 歳台専任職員>
17. 「書誌データや所蔵データだけでなく、蔵書構成や蔵書の特色など
についても理解している図書館員になりたい。様々な雇用形態の図
書館員がいる中での業務が増えていくと思われるので、業務のコミュ
ニケーションをスムーズにとれる図書館員になりたい。一般的な図書
館員としてのスキルの上に、専門分野のある図書館員になりたい。」
< 20 歳台専任職員>
18. 「利用者が気軽に相談しやすい、明るい雰囲気のカウンターであり
たい。(…と思っていました。今はカウンターには出ていませんが…)
自分にできる事、できない事がはっきりわかっていて、できない事
は適切な部署・担当者等へ早急に案内できるようでありたい。多く
の人に図書館の良さを伝えることができ、1人でも多く、図書館を
上手に利用してもらえるよう、アピールしていきたい。」< 20 歳台
専任職員>
19. 「利用者の立場に立って考える図書館員。どんな形態の資料にも対応
できる図書館員。図書館の外 (他の図書館や地域社会など) に向かっ
て行動を起こせる図書館員。そういう人に私はなりたい。」< 30 歳
台専任職員>
20. 「図書館員としての基礎を常に忘れないでいたい。図書館界の人脈
を多く持ちたい。利用者に優しく、必要であれば時には厳しく接し
たい。利用者に信頼される図書館員になりたい。テクニカルサービ
スとパブリックサービスの両方の視点から、明治大学図書館が現時
点でできる最良の方針を考えることができ、仲間とともに実践でき
るようになりたい。図書館界の動向、学内動向を常に見ることを忘
れないようにしたい。」< 30 歳台専任職員>
21. 「図書館のことを知っている。どこにいけばなにができるのか、的
確にガイドできる。声をかけやすい雰囲気をいつももちたい。そし
て、かけられた声に適切に対応できるように、自分にたりないこと
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を補っていきたい。常にゆとりと、信頼しあう気持ちをもっていた
いとおもいます。」< 30 歳台利用者サービス業務委託社員>
3 夢に託して
人間の鏡という書物を連想する。この鏡に映し出された模様は、今を生
きる人々の姿そのものである。過去がよかったとか、今がいいとか、そう
いう話はよそう。言えるのは、過去を美化しないこと。誰にでも等しく時
代という血が流れているのだと。僕は 21 人の気持ちに共感を覚える。こ
の共鳴する感覚をどのような言葉で置き換えたらよいかわからない。未熟
だからであろう。置換する言葉を持たない。もっともっと書物を漁るしか
ないのであろう。書物に始まり書物に終わる。利用者もしかりである。読
む行為、考える行為、書き記す行為。そういうものを生み出す源を図書館
員は供給している。そしてその源泉を知ろうとする無意識の感覚こそが、
幼い日に培われた記憶の中にある。感動を呼ぶ心は幼い日々の経験に由来
する。この経験こそが図書館員の真髄であり、今に至る精神である。そう
思って、日々、書物を運び続けている。
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