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物流周辺判例 [周辺1]

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物流周辺判例 [周辺1]
物流周辺判例 [周辺1]:明治・大正・昭和の判決
2016.12.20 更新 古田伸一
平成元年~20 年の周辺判決 は
[周辺2]
平成 21 年以降の周辺判決 は
[周辺 3]
「物流関係法
所要判例 要覧」は
いずれも筆者の HP「UNCITRAL 物品運送条約の研究」
http://www7a.biglobe.ne.jp/~s_furuta に掲載
掲載誌の略記は、
「物流関係法 所要判例要覧」と同じ。
[裁判所・判決日等の表示*]の末尾の *は、この「周辺判例」に掲載している旨の表示である。
[裁判所・判決日等の表示**]の末尾の **は「物流関係法 所要判例要覧」に詳しく掲載してい
ることの表示である。
[裁判所・判決日等の表示]の末尾に * 印がないものは、「所要判例要覧」に掲載の判決例である。
[大阪控訴院 M.36.6.23 判*] 事件番号不詳・損害要償控訴事件(控訴棄却)
商法 288 条(現 526 条)
・289 条(現 527 条)
一、 商人間の売買での買主の瑕疵通知義務「直ちに」とは「なるべく速やかに」
の意である ― 「商法 288 条(現 526 条)が、瑕疵を発見したるとき買主をして売主に
対し直ちにその通知を発せしめる所以のものは、蓋し売買の効力を永く不確の地に置き、為に商
取引の安全を阻害せんことを慮りたるに外ならざれば、該条に所謂『直ちに』とは『可成的速に』
との意義にして一刻寸時も瑕疵通知猶予を許さざるとの法意にあらず。故によしや瑕疵発見とそ
の通知との間に多少の日子を隔つるとも、その通知にして適当の時期内に在りしならば未だ同条
に違背したるものとは論断すべきにあらず」
二、 上記物品の買主によるシンガポールにおける商法 289 条(現 527 条)の競売には、我国
の裁判所の許可を要しない ― 被控訴人(原告)が控訴人(被告)からシンガポールで
引渡された「本件煙草の競売は、我法権の及ばざるシンガポールに於いて行われたるものにして、
固より前顕法条に依拠し裁判所の許可を受くること能はざるものなれば、その許可を経ずして競
売に付したるは相当にしてその処置を不法なりとする論難は甚だ謂われなしとす」
新聞 155-10
小町谷新商判集 3-1009 &-1026
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度による買主の通知義務の本質的問題点に
ついては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大審院 M.39.10.18 判*]M39(オ)365 号 売買代金請求並びに反訴の件(上告棄却)
商法 525 条、民法 709 条
商人間の売買だからとて、必ずしも確定期売買でない ― 「商人間の売買に於いて物品引渡の
日時を定めたるときと雖も、
(本件では)其の期日引渡を為すに非ざれば契約の目的を達する能は
ざるに限らず。故に当事者間の取引が商人間の取引なればとて上告人の謂うが如く『商人間の売
買に於いて物品引渡の日時を定めたる以上は、其の期日に履行を為すに非ざれば契約を為したる
目的を達すること能はざるものと看做すべきは当然なり』、と論断すべきにあらず。」」
民録 12-1289
小町谷新商判集 3-984
原審:東京控訴院 M.39.5.18 判
1
[大審院 M.39.11.2 判*]M39(オ)423 号・契約履行土地贈与登記手続請求の件(上告棄却)
民法 521 条・524 条
承諾の期間を定めずして対話者(非商人間での事例でも)に為したる申込は直ちに承諾を為す
に非ざれば契約成立することなし
民録 12-1413
原審:広島控訴院 M.39.5.21 判
*古田:商法 507 条は「商人である対話者間において契約の申込を受けた者が直ちに承諾しなか
ったときは、その申込は、その効力を失う。」と規定しているが、民法にはこの様な場合の規定
がない。我妻栄・債権各論上巻(S.29.12 刊)60 頁「80」は、非商人「対話者間においては 、
― 後日改めて諾否の返事をするというような特別の事情のない限り ― その対話者関係の終
了によって申込は承諾適格を失う ― 言い換えれば、その対話者関係の継続する間にだけ承諾
することができる ― 場合が多いことを注意すべきである と指摘され、本件大審院判例も同
旨であり、特別の事情があれば別であることを認めているとされている。
[東京地裁 M.40.9.30 判*] M40(ワ)152 号 売買代金取戻請求事件(請求棄却)
商法 526 条
見本売買において劣等品の給付を受けた買主の通知義務 ― 商人間の見本売買で買主が隠れた
る瑕疵を6月内に発見するも直ちに買主に通知した証拠がなく、買主によるその後の売買契約解
除の効果を否認
新聞 458-10
小町谷新商判集 3-1010
[大審院 M.41.1.21 判*] M40(オ)405 号 損害賠償請求の件(上告棄却)
商法 522 条
商行為によって生じた債務の不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間 ― 債務の不履行に因
る損害賠償の請求権は本来の債権が其の形態を変じたに過ぎずして、別個の債権を成すものでは
ない。故に本来の債権が商行為に因って発生したものであるときは、その不履行に因る損害賠償
請求権も同様である。本来の債権の時効に商法 285 条(現 522 条)がある以上は、その損害賠償
請求権にも同条の適用がある旨を判示。
民録 14-13
原審:名古屋控訴院 M.40.7.9 判
[大審院 M.42.12.20 判*]M42(オ)376 号 不動産競売代金配当異議の件(破毀・差戻)
商法 502 条・529 条、民法 369 条、小切手法 3 条
当座貸越契約の更新に当り前契約の貸越残高を後の契約に繰越したときは、両者の貸越額の合
計額が限度額を超えない範囲で前契約の抵当権の効力が及ぶ ― 「当事者が前貸越契約の期間
満了後引き続き同種の貸越契約を以て取引を為し、その計算に前契約の貸越に属する残額を組入
れ以て更に債権債務の総額につき差引計算を遂くることを約したるときは、前契約の貸越に属す
る残額はこれを担保する抵当権存在の儘にて後の契約の計算に組入れたるものなれば、後の契約
の計算に於いて貸越に属する残額を生じたるときは前契約の貸越残額を超過せざる金額に対し右
抵当権の効力を及ぼすの結果を生じその計算に因り生じたる貸越残額が前契約の貸越残額と異な
るときは抵当権はその少なき金額に付いてのみ之を行うことを得べく、またその計算に於いて貸
越残額を生ぜざるときは抵当権は終に消滅に帰すべし。
」
民録 15-997
新聞 621-17
小町谷新商判集 3-492&-1028
原審:大阪控訴院 M.42.7.20 判
2
[大審院聯合部 M.44.3.24 判*] M43(オ)148 号 詐害行為取消ノ件(破棄・差戻)
民法 424 条・425 条
詐害行為取消権の性質
[判示要旨]
一、取消権の法的性質について: 「詐害行為廃罷訴権ハ債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタ
ル債務者ノ法律行為ヲ取消シ債務者ノ財産上ノ地位ヲ其法律行為ヲ為シタル以前ノ原状ニ復シ以
テ債権者ヲシテ其債権ノ正当ナル弁済ヲ受クルコトヲ得セシメテ其担保権ヲ確保スル目的トス
ル」訴権であると判示。
二、取消の効果および被告適格について: 「詐害行為ノ廃罷ハ・・・一般法律行為ノ取消ト
其性質ヲ異ニシ其効力ハ相対的ニシテ・・・其法律行為ハ訴訟ノ相手方ニ対シテハ全然無効ニ帰
スヘシト雖モ其訴訟ニ干与セサル債務者・受益者又ハ転得者ニ対シテハ依然トシテ存立スルコト
ヲ妨ケサル」ものであり「債権者カ・・・受益者又ハ転得者ニ対シテ訴ヲ提起シ之ニ対スル関係
ニ於テ法律行為ヲ取消シタル以上ハ其財産ノ回復又ハ之ニ代ルヘキ賠償ヲ得ルコトニ因リテ其担
保権ヲ確保スルニ足ルヲ以テ特ニ債務者ニ対シテ訴ヲ提起シ其法律行為ノ取消ヲ求ムルノ必要ナ
シ」と述べて従来の判例(大審院 M.38.2.10 判・民録 11-150)を変更する旨を明示=相対的取消
論を判示。
三、被告の選択について: 「債務者ノ財産カ転得者ノ有ニ帰シタル場合ニ債権者カ受益者ニ
対シテ廃罷訴権ヲ行使シ法律行為ヲ取消シテ賠償ヲ求ムルト転得者ニ対シテ同一訴権ヲ行使シ直
接ニ其財産ヲ回復スルトハ全ク其自由」であると判示。
四、取消のみの訴求について: 「民法ハ・・・訴権ノ目的トシテ単ニ法律行為ノ取消ノミヲ
規定シ取消ノ結果直チニ原状回復ノ請求ヲ為スト否トヲ原告債権者適宜ノ処置ニ委ネタルヲ以テ
此二者ハ相共ニ訴権ノ成立要件ヲ形成スルモノニアラス」と述べて、原告・債権者の提起した取
消のもの訴えが適法であると判示。
民録 17-117
佐藤岩昭・別冊ジュリ 196-30
*:
[最高裁二小 H.13.11.16 判*]にも、この「相対的取消論」が採用されている。
[大審院 M.44.6.13 判*]M44(オ)159 号 株式代金請求の件(上告棄却)
商法 525 条
一、定期売買についての商法 287 条(現 525 条)の法意 ― 「商法 287 条(現 525 条)の規
定は、当事者の一方に於いて履行を為さずして其の時期を経過したるに拘らず相手方が直ちに履
行の請求を為さざるときは契約を解除したものと看做すことを定めたものにして、相手方が約定
の時期に於いて履行の請求を為したる場合は契約を解除したるものと看做さざる趣旨なること、
法文上明白なり。
」
二、同条の定期売買の請求には弁済の提供を要しない ― 「手形金支払請求の如きは法律の規
定上手形の呈示を要するが故に手形を呈示せずして為したる支払の請求は裁判上の請求の場合の
外その効果なしと雖も、本件売買の如き双務契約の当事者の一方が相手方に対して履行請求を為
すには自己の債務の弁済を提供することを必要とせざるが故に、提供を伴わざる請求と雖も請求
として効力或ること敢て多言を要せず。
」
民録 17-392 新聞 729-23 小町谷新商判集 3-983
原審:東京控訴院 M.44.3.24 判
[大審院 M.44.9.25 判*]M44(オ)170 号 売掛金請求の件(上告棄却)
商法 526 条、民法 570 条
商人間の売買に於いても目的物の瑕疵に基づいて契約を解除するには、商法 288 条(現 526 条)
所定の通知の外、買受けた目的の達成が其の瑕疵でできない場合であることを要する ―「蓋
し 民法 570 条・566 条に依れば売買の目的物に隠れたる瑕疵あるときは之が為に契約を為したる
3
目的を達すること能はざる場合に限り買主は契約の解除を為すことを得、其の他の場合に於いて
は損害賠償の請求のみを為すことを得べきものなれば、商人間の売買に於いても其の目的物の瑕
疵に基づき契約の解除を為すには前掲商法の規定(現 526 条)により売主に対して瑕疵あること
の通知を発したる外、之が為に契約を為したる目的を達すること能はざることを要すべければな
り。
」 原院が本件係争の酒粕には未だ買受けた目的を達することができない程度には至っていな
い瑕疵があるに過ぎないとして、契約解除を認めなかったのは相当であると判示。
民録 17-495 新聞 748-25 小町谷新商判集 3-1015
原審:東京控訴院 M.44.3.14 判
[東京控訴院 T.2.6.30 判*] T1(ネ)587 号 売掛代金請求控訴事件(破棄・請求棄却)
商法 526 条
船隊玩具セット 12 ダースの売買・塗料剥を伴う破損のほか尚ほ機能の製造不全の存在による
売買の解除 ― 買主は、本件玩具セット受領 10 日内に検査しそれらの隠れたる瑕疵を含めて
売主に遅滞なく通知しており、本件商人間の売買に於いて買主は商法 288 条(現 526 条)を適法
に履践しての解除と認められる。
新聞 893-22
小町谷新商判集 3-1006&-1009
[大審院 T.2.7.5 判*]T2(オ)45 号 債務履行請求の件(上告棄却)
民法 304 条、商法 629 条(現・保険法 2 条)
売買代金債権の目的物を債務者が請負工事の材料の一部に用いている場合の、請負代金債権へ
の物上代位の可否(消極) ― 「民法 304 条の規定は、先取特権の効力の及ぶ範囲を拡張し
てその目的たる物の売却代金・賃貸の対価・滅失毀損により生じたる損害賠償金等の如きそ
の目的物の全部又は一部に代りたるものの上にその効力を及ぼしたる法意なること明白なれ
ば、その目的物の処分の為に債務者が受くべき金銭債権と雖も単純にその目的物の全部又は
一部を直接代表せざるものにはその効力及ばざるものと解せざるを得ず。
・・・同条に所謂目
的物の滅失に因りて債務者が受くべきものとは第三者の加害行為又は保険事故の発生に因り
目的物の滅失又は之と同視すべき財産の喪失を来たしたるが為めに債務者が加害者又は保険
者より受くべき損害賠償金又は保険金等の如きその目的物を直接代表するものを指称したる
法意なること明白にして、所謂滅失は、所論の如く必ずしも専ら物理的滅失の場合の実を指
したるものと解すべきに非ずと雖も、本件事実の如き請負契約に因り債務者が請負たる工事
の材料に目的物を(その一部として)供したる場合に全く之に当らざること疑を容れず。」
債務者の請負代金債権は債権者の目的物以外のものも同時に代表しているのであるから、同
請負債権への債権者の物上代位を否認。
民録 19-609
小町谷新商判集 4-329
原審:大阪控訴院 T.1.12.16 判
[東京控訴院 T.2.10.30 判*] M43(ネ)568 号 損害賠償請求事件
民法 570 条、商法 501 条・526 条
自宅の井戸水での製氷販売の為に購入した製氷機械の瑕疵 ―
①.一日四屯の製氷能力の機
械として売買された製氷機械が実はその半分の能力を有するに過ぎなかったのは、直ちに発見す
ることを得ざる隠れたる瑕疵であるが、買主は商人でないから、瑕疵担保責任の追及は商法 526
条ではなく民法 570 条による。 ②.売買の目的物件に瑕疵ある為めその買主が更に他の完全なる
物を買受けんとする場合に要する費用の如きは、該瑕疵の為に通常生ずべき損害と謂うを得ず。
法律学説判例評論全集 2-商法 366 頁
小町谷新商判集 3-5&-1006&-1022
[大審院 T.3.3.5 判*] T2(オ)445 号 売掛代金請求の件(破棄・差戻)
4
民法 570 条、商法 1 条・526 条
一、商法 526 条(買主による目的物の検査及び通知)適用範囲 ― 商法 288 条 1 項(現 526
条 1・2 項)は、商人間の売買に於ける目的物の瑕疵又は数量の不足を原因として契約の解除又は
代金減額若しくは損害賠償の請求を為すには、先ず検査及び通知の手続を為すことを要する旨を
規定したるに止まるを以て、其の手続の外に契約解除等の権利を行使するに必要なる事項につい
ては、商法 1 条に依りて決すべきものとす。
二、商事売買の契約解除期間 ― 商事売買については、民法 570 条の規定と異なりたる特別の
法則存せざるを以て、商人間の売買に於いて買主が受取りたる物に隠れたる瑕疵あることを原因
とする契約の解除は、右民法の規定に従い 1 年内に之を為すことを要するものとす。
民録 20-140
法律学説判例評論全集 3-商法 23 頁
小町谷新商判集 3-1019
原審:東京控訴院 T.2.6.30 判
[大審院 T.4.2.8 判*] T3(オ)698 号 貸金請求の件(上告棄却)
商法 3 条・511 条 1 項・522 条
商法 522 条(商事消滅時効)の適用・商法 511 条 1 項(多数債務者間の債務の連帯)の解釈 ―
①.商法 285 条(現 522 条)の規定は、債権者の為に商行為たる行為に因り生じた債権のみなら
ず、債務者の為にのみ商行為たる行為に因り生じた債権についても、商法 3 条に依り当事者双方
に適用される。 ②.商法 273 条 1 項(現 511 条 1 項)の規定は、その債務の発生が債務者の中
の何れか一人の為に商行為である場合に限り連帯債務を生ずることを規定したものであり、債権
者の為にのみ商行為である場合を含まない(大審院 M.45.2.29 判・M44(オ)307 号・民録 18-148
参照)
。
民録 21-75
原審:徳島地裁 T.3.7.9 判
[東京控訴院 T.4.12.25 判*]T3(ネ)154 号 売掛代金請求事件(原判決破棄・請求棄却)
商法 288 条(現 526 条)
一、 雛形(カタログ)による売買契約の成立時期 ― 「雛形によりて当事者間に売買契約結
せられたる場合においても、売主は雛形に適合する物品を引渡す義務を負い買主は代金を支払う
義務を負うものにして、雛形に適合したる物品が買主に引渡され買主に於いて売買承諾の意思を
表示して初めて売買契約成立するに至るものに非ざるを以て、雛形によりて為されたる売買なる
ことを理由として本件売買契約の未だ成立せざることを主張する控訴人(被告・買主)の抗弁」
は理由がない。
二、輸入玩具の検査につき懈怠を認めなかった例 ― 「本件玩具の如き舶来品を輸入したる場
合において、之が注文に反し又は之に瑕疵破損等ありたるとき、輸入者は税関手続を経由する前、
本国商人を立会わしめ之を明確にする慣習の存する事実は・・・之を認むることを得べきも、
・・・
被控訴人(原告・売主)は本件物件を検査せずして陸揚し倉庫に入れたること明らかなるを以て、
右慣習の存在する事実によりては控訴人に引渡の当時には本件物件に右の如き瑕疵( 古田注:破
損や機能不全の少なからぬ欠陥)なかりしものと認むるに足らず。
・・・控訴人は本件物件の引渡
を受けたる後之を検査し被控訴人に右破損の事実を通知したるものにして、その検査及び通知は
引渡後 56 日内に為されたことを認むることを得べきを以て、控訴人は商法 288 条 1 項(現 526
条 1 項)所定の手続を履践したるものと云はざるべからず」 よって、被控訴人が本件物件の引
渡をもって売買契約の目的物の引渡であるとしてその代金を請求するのを、控訴人がその代金の
支払を拒絶するのは相当であり、
「本件売買契約上の義務履行を前提として為す被控訴人の本訴代
金の請求は失当にして本件控訴はその理由ありと認め」 原判決を廃棄し、被控訴人の請求を棄
却する。
新聞 1134-24
小町谷新商判集 3-821 &-1003
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
5
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大審院 T.5.5.10 判*] T5(オ)245 号 保証金及木代餘金返還請求の件(上告棄却)
商法 522 条
商行為の解除権に適用すべき消滅時効 ― 商行為に因り生じた債権は商法 285 条(現 522 条)
に依り民法の普通時効に因らずに 5 年の短期消滅時効により消滅するのであるから、商行為の解
除権にのみ民法の消滅時効を適用すべき理由は毫もない。むしろ同解除権は純然たる債権ではな
いが商行為に因り生じた債権と同視し 5 年の時効に因り消滅するものと解釈するのが相当である。
民録 22-936
[大審院 T.5.5.29 判*] T4(オ)1012 号 商品代金請求の件(上告棄却)
商法 526 条
一団となって作用する物品の一部の欠陥は瑕疵である ― 売買契約書に数個の物品を指定した
る場合と雖も、その全体より観察してその物品が一団と為り始めて完全なる作用を為すべく各個
独立して完全なる作用を為すものに非ずと認められ場合に於いては、その一団を為すべき物品中
一部の欠缺あることは、之を以て商法 288 条(現 526 条)にいわゆる瑕疵と認むることは法律上
毫も妨ぐるところなし。
民録 22-1049
法律学説判例評論全集 5-商法 899 頁
小町谷新商判集 3-1004
原審:大阪控訴院 T.3.11.3 判
[大阪地裁 T.6.6.18 判*] T5(ワ)405 号 売買代金請求事件(認容)
商法 526 条
一、 確定期売買でない商事売買の契約解除 ― 商事売買においても特定期売買でない限りは、
債務者が期日にその債務を履行しないときは、相手方は相当の期間を定めて履行を催告しその期
間内に履行がない場合に契約の解除ができる。
二、買主の業種から当該瑕疵は商法 526 条の「直ちに発見することのできない瑕疵」に当らな
いとされた例 ― 商人間の売買に於いて、送付された数十箱在中の硝酸に瑕疵が全部一様
にあるときは、買主の業務知識からすれば容易に且つ簡単にそれが如何なる瑕疵であり在中の角
瓶の硝酸に発色があるのはそのせいであることが判るのであるから、一瓶を検査すれば直ちに全
部の瑕疵を発見することが出来るのであるから、商法 288 条 1 項後段(現 526 条 2 項後段)の「直
ちに発見すること能はざる瑕疵」に該当しない。被告買主は、引渡を受けて検査せず数十日放置
してから検査して発見しても、瑕疵を原因として契約の解除をすることはできない。
新聞 1284-24
小町谷新商判集 3-993&-1007
[大審院 T.6.11.14 判*]T6(オ)546 号 原状回復請求の件(上告棄却)
商法 522 条・525 条
一、解除権とその消滅時効 ― ①.解除権が時効により消滅するのは、主として相手方を長年月
権利不行使の状態に置かないための公益上の理由に基づくものであるから、法律の規定に依る解
除権であると契約を以て定めた解除権であるかにより、その時効に因り消滅することに差別はな
い。
②.一定の日時を指定し其の日時に於いて一定の銘柄限月株数単価にて売買すべき委託契約は、
当事者の意思表示に依り其の一定の日時に履行を為すに非ざれば契約を為したる目的を達するこ
と能はざるものなるを以て、注文の全部履行なく各其の時期を経過したるときは、委託者は直ち
6
に契約を解除することを得べく、其の解除権は之を行使し得る時より起算し商法 285 条(現行 522
条)の 5 年の時効に因りて消滅すべきものとす。
二、解除権消滅時効の起算点 ― 消滅時効は権利を行使することを得る時から進行するのが通
則であり、民法 426 条の詐害行為取消権の 2 年の時効・同 724 条の不法行為に因る損害賠償請求
の 3 年の時効の如くに特別に規定されている場合の外は、権利者に於いて権利発生の事実を覚知
することを要しない。このことは、時効の適用について債権と同視すべき解除権についても、相
手方の債務不履行に因って解除権が発生し解除権者が之を行使し得る以上は相手方の債務不履行
の事実を覚知すると否とを問わず時効は進行を開始する。
民録 23-1965 新聞 1379-33
法律学説判例評論全集 6-商法 828 頁
小町谷新商判集 3-766&-986
原審:大阪控訴院 T.6.4.4 判
[大審院 T.6.12.5 判*]T6(オ)657 号 売掛代金請求の件(上告棄却)
商法 526 条・527 条・528 条
売主の悪意と商法 526 条 1・2 項の要件具備の要否 ― 商人間の売買に於いて受取った目的物
に瑕疵があることにつき売主に悪意があることを理由として買主が解除を主張したときは、商法
288 条 1 項(現 526 条 1・2 項)所定の要件を具備するかどうかを判断する必要はない。
民録 23-2040
小町谷新商判集 3-1019&-1026
法律学説判例評論全集 6-商法 822 頁
原審:東京控訴院 T.6.6.15 判
[大阪控訴院 T.6.12.7 判*] T6(ネ)321・338 号 各契約履行請求事件(控訴棄却)
商法 526 条・1 条 2 項
商人間の穀物の大量売買において給付した穀物の品質に関する検査方法の慣習 ― 「穀類等の
多量なる取引にして其品質が争いと為りたる場合に於いては、其の全部に付き一々之を検査し之
が可否を決することは頗る煩雑にして到底その煩労と費用に堪えず迅速を尚ぶ商取引の観念に反
するを以て、その二・三に付包装を解きて取出したる見本を標準と為し之に依りて其全部の品質
を決定することは、此の種商品の取引に於ける相当の検査方法にして当事者は其の検査方法に依
る結果に満足せざるべからざるものなるが故に、右見本の品質を標準と為し之に依りて控訴人(売
主)が引渡を準備したる本件約定品 946 袋の品質を推すときは、その五分の一は約定の品質を具
有せざるものと為すを至当と認む。
」
新聞 1349-19
法律学説判例評論全集 6-商法 857 頁
小町谷新商判集 3-809
[大審院 T.7.4.2 判*]T6(オ)1108 号 損害賠償請求の件(破毀差戻)
商法 525 条、民法 416 条
商人間の売買だからとて必ずしも確定期売買でない ― ①.商人間の商品売買であっても、常に
約定の履行期内に商品の給付を受けなければ売買の目的を達することができないものとは云えな
い。 ②.商人間における米の売買のように当事者が転売による利益の取得を目的とする場合に於
いても、買主は売主の履行期後の履行が売買目的を達し得ないような特別の事由がない限り、売
買契約を解除した後でなければ填補賠償を求め得ない。
民録 24-615 新聞 1409-27 法律学説判例評論全集 7-民訴 220 頁
小町谷新商判集 3-984&-989
原審:東京控訴院 T.6.6.14 判
[大坂区裁 T.8.4.5 判*] T8(ハ)734 号 損害賠償請求事件(請求棄却)
民法 565 条、商法 526 条
不特定物売買と数量不足に基づく損害賠償の要件 ― 商人間の売買に於いて数量を指示して
7
不特定物の売買をした場合に、買主が数量不足を知らずに引渡を受けたときは、その数量不足の
事実を売主に通知して之が為に被った損害を請求することができる(民法 565 条、商人間の売買
であれば商法 228 条)
。 しかし売主が買主に対してこの担保の責に任ずるには、売買契約の数量
が正確なものとして約定されていることを要する。本件の場合は、必ずしも規格・数量が同一で
ない各仕入先からの調達品の販売であることから、数量表示には厳格確実性がないことを売主は
勿論買主も承知しており、担保責任の請求を却下。
新聞 1545-17
小町谷新商判集 3-1000&-1003
[大審院 T.8.6.30 判*] T8(オ)206 号 貸金請求ノ件(破棄差戻)
民法 153 条
催告は、六箇月以内に民法 153 条所定の手続をとらない限り時効は中断しない。 再度の催告
をしてもこの六箇月の期間は更新されない ― 「裁判外の請求すなわち催告は、6 カ月内に裁
判上の請求・和解の為にする呼出もしくは任意出頭・破産手続参加・差押または仮差押または仮
処分を為すに非ざれば時効中断の効力を生ぜざること、民法第 153 条に規定するところなれば、
債権者が単に催告を為したる事実あればとて、直ちに時効が中断せらるるものと為すベ可からず」
民録 25-1200
我妻栄・新訂民法総則[462]
、
原審:仙台地裁 T.7.12.18 判
一審:古川区裁判所
*我妻評釈:①.この判旨は通説でもある。 ②.債務履行の催告を受けた者がその請求権の存否に
ついて調査するために猶予を求めた場合には、民法 153 条所定の六箇月の期間は、その者から
何らかの回答がされるまで進行しない[最高裁二小 S.43.2.9 判*]
。
[大審院 T.9.1.28 判*]T8(オ)885 号 保証債務履行請求並びに付帯上告の件
商法 502 条・529 条、
(上告棄却・付帯上告一部破毀し差戻)
民法 446 条・465 条の 2、小切手法 3 条
当座貸越契約の当事者が期間を伸長したときは、前期の保証人は後期に繰越した貸越金につき
旧契約の限度額の範囲で責任を負う ― 「一定の期間存続すべき当座預金貸越契約に基づき生
ずる債権につき対人担保ある場合に於いて、該契約の存続中当事者が期間を伸長し以て爾後取引
を継続したるときは、別段の定めなき限り当初の期間満了の当時に於ける貸越残額は対人担保存
在の儘にて右期間満了後の取引上の計算に組入れらるるものなるを以て、右期間満了後の取引上
の計算に於いて貸越残額を生ずる以上は債権者は右期間満了の当時に於ける貸越残額を超過せざ
る限度に於いて、対人担保の責に任ずる者に対し其の権利を行うことを得るものなること言を俟
たず(
[大審院 M.42.12.20 判*]参照)。
」
民録 26-72 新聞 1678-20 小町谷新商判集 3-458&-1028
原審:東京控訴院 T.8.5.13 判
[大審院 T.9.2.24 判*]T8(オ)988 号 売掛代金請求の件(破棄・差戻)
商法 525 条、民法 97 条
隔地者間においては履行期前に発送した履行の催告が履行期後に債務者に到着した限り、商法
287 条(現 525 条)の請求としての効力がある ― 確定期売買において、期間経過後直ちに履
行の請求がなされたか否かを判断するには、隔地者間の売買の場合には、その請求の通知を発送
したる時を標準とすべきではなく、その到達したる時を基準として決すべきである。
民録 26-196
小町谷新商判集 3-983
原審:福島地裁 T.8.10.30 判
[東京控訴院 T.9.10.22 判*]T7(ネ)496 号 損害賠償請求控訴事件(原判決破棄・請求否認)
商法 526 条
8
商人間の大豆油の現品特定物売買に於いて検査の懈怠があった例 ― 本件取引は、横浜市浅間
町河岸繋留中の売主の艀船内にある大豆油を買主が持参した石油缶に汲取り、それを陸上の売主
の小屋で売主から引渡を受けるもので、買主が約定の全量の引渡を得るには三日を要した。買主
はその後この商品を転売先に送付したところ、転売先で同油には水分を多量に含有している瑕疵
が発見されたことを買主が知り、買主が売主にこの瑕疵を通知したのは、売主から全量の引渡を
受けた後、一週間が経過していた。 本件売主・買主間の売買は商人間の現品売買であり特定物
売買であるが、買主は目的物を受取ったときは商法 288 条(現 526 条)の規定により遅滞なく検
査する義務があることは、見本売買の場合たると現品売買たるとにより差異はない。この瑕疵は
直ちに発見し得るものであるから、商法同条の規定での瑕疵に因る損害賠償は、一週間を経過し
ての検査・通知は時期に遅れており請求できない。
新聞 1831-20
法律学説判例評論全集 9-商法 626 頁
小町谷新商判集 3-1001&-1003
[大審院 T.9.11.15 判*]T9(オ)572 号 売掛代金請求の件(破毀・差戻)
商法 525 条、民法 542 条
中元進物用団扇の売買 ― 「商人が暑中見舞として華客先に進物を為すは俗に中元の進物と称
し 7 月 15 日以前に於いてすること顕著なる事実なるを以て、当事者が売買の目的物たる団扇を 6
月中に送付すべきことの契約を為したはこれが為なるときは、当事者の一方が約定の時期に送付
を為さざる以上、他の一方はこれを華客先に分與することを得ざるが故に、該売買は其の性質上
約定の時期に履行するに非ざれば契約を為したる目的を達すること能はざる場合に該当するもの
とす。
」
民録 26-1779
法律学説判例評論全集 9-商法 810 頁
小町谷新商判集 3-984
原審:福島地裁 T..9.5.13 判
[大審院 T.9.12.6 判*]T9(オ)842 号 保証金返還請求の件(上告棄却)
商法 526 条 、民法 570 条・566 条
特定物の売買において目的物の瑕疵はその程度に応じて買主に解除権又は損害賠償請求権を生
ずる・買主に受領遅滞があった例 ― 特定物の売買において、瑕疵があるため契約の目的を
達することができない場合でも、解除しない限り買主は受領を拒絶することができない。
民録 26-2012
小町谷新商判集 3-877&-1018
原審:大阪地裁 T.9.8.2 判
[東京控訴院 T.10.6.6 判*]T9(ネ)507 号 損害賠償請求事件(控訴棄却)
商法 525 条
一、株式現物と受渡期間の商慣習 ― 本件当事者双方(東京と大阪各在)は現物株式の売買を
営業とする商人であり、東京市内に於いては株式売買当事者が契約に於いて特にその受渡の日時
若しくは期間を明定せざりし場合には、売買契約の成立の日より 15 日間に株式の受渡を為すべき
商慣習があり、而もこの商慣習は東京市内に在る者と大阪市内に在る者との取引についても普通
遵守せられつつあることが認められる。
二、右期間の経過と法律上の解除 ― 株式の市価は変動常なきを以て、その売買履行期は契約
の性質上その要素をなすものであるから、控訴人(売主)が引渡期間たる契約成立の日より 15
日間内に株式の引渡を為さずしてその後一部を提供して被控訴人(買主)にその受領を求めても、
本件売買は商法 287 条(現 525 条)に依り右期間経過と共に法律上解除されたものと看做さるべ
きものである。
新聞 1876-21
法律学説判例評論全集 10-商法 222 頁
小町谷新商判集 3-985
9
[大審院 T.11.4.1 判*] T10(オ)990 号 船舶売買代金一部返還並に損害賠償請求事件
商法 288 条(現 526 条)
(破棄差戻)
汽船の売買において瑕疵の通知が充分であった例 ― 「買主が商法 288 条(現 526 条)の規定
により売主に対し為すべき瑕疵の通知は如何なる内容を具備するを以て足れりとすべきやは、同
条の立法趣旨に照らして之を決せざるべからざるものとす。即ち、売主をして或は瑕疵なき物と
引換うべきか或は瑕疵なきことを主張して証拠保全を申請すべきか、或はその他の臨機の処分を
為すべきか等を決意せしめ得べき程度においてその通知を為すことを要し、且つこれを以て足れ
りとす。 従って、単に瑕疵ありと通知したるのみにては未だ充分ならず。なお瑕疵の種類およ
び大体の範囲を通知することを要す。然れども其の細目、特に数量の如きは之を通知することを
要せざるものとす。何となれば、これらは何時にても点検のうえ之を知ることを得べければなり。
本件において原院の認めたる事実によれば、上告人は被上告人と汽船第五万栄丸の売買契約を
為し、大正 6 年 9 月 9 日その引渡を受けたるもその船舶中汽機気鑵に構作上根本的に不完全なる
瑕疵ありとして、同年 11 月 15 日被上告人に対し通知を為したるものとす。
而して原院は、該通知は汽機気鑵に如何なる構作上の不完全存するやを表示せざるを以て被上
告人は瑕疵の種類及び範囲を知り得ざるものと認むべく、商法 288 条の規定に依る瑕疵の通知な
りと云うを得ずと判示したり。然れども本件は船舶の売買にして、汽機気鑵の売買に非ざるを以
て船舶中汽機気鑵の部分に構作上根本的の瑕疵ありと通知したるときは、売買の目的物に於ける
瑕疵の種類及び其の大体の範囲を知り得べきを以て之を通知したるものと謂い得べく、単に漠然
と目的物に瑕疵ありと通知したるものと同一視することを得ざるものとす。故に瑕疵の通知とし
て適法なるものと謂うべし。
然るに原院がなお汽機気鑵の何れの部分に如何なる瑕疵あるかを詳細に示して通知するに非ざ
れば瑕疵の通知として適法ならざるものの如く解釈し、大正 6 年 11 月 15 日の通知を以て其の効
なしと判断したるは商法 288 条の規定を不当に適用したる不法の判決なり。
」
民集 1-155
新聞 1990-19
小町谷新商判集 3-1008
原審:大阪控訴院 T.10.10.24 判
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京地裁 T.12.4.9 判*] T8(ワ)2464 号 損害賠償請求事件(請求認容)
商法 287 条(現 525 条)
一、錻カ屑は価格の変動甚だしとの一事を以て直ちにその物の売買を、性質上確定期売買と為
すことを得ず
二、当事者双方約定の期限を徒過したるときは、期限後何時にても相手方より約旨に適う履行
の提供を受けたるに拘らず自己の債務を履行せざる者に於いて、直ちに債務遅滞の責を負う
べきものとす
[事案概要]
T.7.12.26 原告は被告(東京銑鉄 KK)に対し錻カ屑 84 屯を代金 1 貫匁につき金 35 銭にて売渡
す旨契約を締結し、引渡場所を東京府南千住の瑞穂組倉庫、その引渡期限を T.8.1.15 と定めた。
売主である原告はその引渡期限中に目的物の一部である 5,463 貫 200 匁の受渡と代金決済を了し
たが、残りの 7,762 貫 500 匁は T.8.6.23 に口頭で提供すると共に、同月 26 日迄の期間を定めて
取引未済の同目的物を買主(被告)は受領してその代金 2,716 円 87 銭 5 厘を支払うべき旨、契約
履行の催告書を発信した。そして同 6 月 27 日、これに応じない同買主に対して被告の債務不履行
を事由として取引未済のこの部分に付本件売買契約を解除する旨の意思表示を発信し、同日同買
主(被告)に着信。この契約解除した分の売買契約代金と被告が債務不履行した引取期限の翌日
の時価との差額 2,713 円 50 銭の損害賠償を訴求。
[判示要旨]
10
一、
「被告は、本件売買の目的物たる錻カ屑の如き価格の変動甚だしき商品にありては一定の期
間内に履行をなすに非らざれば契約を為したる目的を達すること能はざるものなりと主張する
も、
・・・仮に然りとするも目的物の変動甚だしとの一事は、直ちにそのものの売買を性質上確定
期売買と為すものにあらず。然るに当事者の合意に依り本件売買を確定期売買となしたるとの事
実については之を認むべき何等の立証なきを以て被告の本件抗弁を採用するに由なし」。と判示し、
確定期売買の履行期に提供がなかったことを理由とする被告の免責主張を却下。
二、
「当事者双方約定の引渡期限中に債務の本旨に従い履行の提供を為したりとの事実を主張せ
ざるを以て債務の履行につき別段の主張なき売買契約の解除を原因とする本件にありては、右期
間何時にても相手方より約旨適う履行の提供を受けたるに拘らず自己の債務を履行せざるときは、
その遅滞者に於いて直ちに債務者の責を負うべき者なるところ、
・・・原告が T.8.6.23 被告に対し
て為したる前示契約履行の催告に於いて定めたる履行期間は被告の本件債務を履行するにつき相
当なりと認むるが故に、原告が為したる前示解除の意思表示は適法にして本件売買契約は被告の
債務不履行に基づき T.8.6.27 適法に解除せられたるものとす。」と判示。損害については、上記の
請求額の計算と金額を認容。
新聞 2311-16
小町谷新商判集 3-991
[東京地裁 T.12.4.14 判*] T11(レ)298 号 売掛代金請求控訴事件(原判決変更)
商法 526 条
袴地の売買と隠れたる瑕疵 ― 商人間の売買に於いて買主(被告・控訴人)は売主である織物
製造販売業者(原告・被控訴人)から袴地一反と其の他の反物二点を買受け引渡を受けたが、買
主が「手巾を以て本件袴地を摩擦し以て右袴地の検証を為したる結果によれば、右手巾に多量の
藍色の附着するを認め得るが故に、本件袴地はその品質粗悪なること明らかなり。而して此如き
は商法 288 条(現 526 条)に所謂売買の目的物に直ちに発見すること能はざる瑕疵ある場合に該
当するものと解すべく、控訴人が本訴に於いて被控訴人に対して為したる代金減額の意思表示は
本件売買当日より 6 ケ月内に於いて為された・・・を以て、控訴人の代金減額の請求は理由あり
と謂わざるべからず。
」 袴地分の代金を減額した額での支払義務が判示された。
新聞 2127-21
法律学説判例評論全集 12-商法 153 頁
小町谷新商判集 3-1006
[大審院 T.13.6.23 判*] T13(オ)101 号 損害賠償請求事件
(上告棄却)
民法 570 条・566 条 1 項、商法 526 条
売買の目的物の隠れたる瑕疵:売買の目的物の点検に依り容易に知ることを得べかりし瑕疵と
雖も、その点検をなさざりしことにつき過失なきときは、之を以て隠れたる瑕疵と謂うを妨げ
ず ― ①.隠れたる瑕疵とは、契約当時買主が過失なしにその存在を知らなかった瑕疵をいう。
②.特定物において売主に担保責任を負わせるには、契約当時からその目的物に隠れたる瑕疵が存
在することを要する。 ③.本件契約当時目的物たる丸鋼が遠方の税関内において収容処分に付さ
れていたときは、買主がその当時これを点検せず瑕疵の存することを知らなかったとしても、過
失があるとは言えない。
民集 3-339
小町谷新商判集 3-999
原審:大阪控訴院
[東京控訴院 T.13.6.30 判*]T11(ネ)1141 号 売買代金請求事件(控訴棄却)
商法 525 条
クレップ(夏用内地綿布)の売買と商慣習 ― 卸売商人間に於いてクレラップの如き夏向用の
内地製綿布の売買契約に於いては、6 月末迄その引渡を完了せざるときは、該売買契約は何等の
意思表示を要せず当然解除と為る慣習の存するものとす。
新聞 2292-21
小町谷新商判集 3-986
11
[大阪控訴院 T.13.10.25 判*]・T12(ネ)91 号 損害賠償請求事件(原判決廃棄・請求認容)
商法 501 条・525 条、民法 555 条
一、株式売却の売勝手の期間(大阪) ― 「株式売買業者が客に対し株式を売却したるときは、
大阪市内に於いて容易に手に入るることを得る株式なるときは慣習上一週間内に履行するを普通
とす。 然れども右の期間は所謂『売勝手』と称し売主の履行準備の期間にして、右期間を徒過
するも売買は依然存続し期間経過の一事を以て(のみでは)買主はその売買を解除し得る商慣習
存在せず。
」
二、投機的取引と定期取引 ― 「売買が仮令商法 263 条 1 号(現 501 条 1 号)の所謂投機的取
引なりとするも、之を以て性質上の定期行為なりと謂うことを得ず。投機的取引の目的は当事者
が目的物の市価の変動を予想し、その予想の実現を利用して値違に相当する利益を獲得せんとす
るに在るも、当事者の期待する眼目はその予想する市価の実現に外ならずして、その実現は本質
上確定の時期を要素とするものに非ず。従って当事者がある一定の時期に於ける市価を以て契約
の要素と為した場合は格別であるが、投機的取引の本質上定期行為なりと云うことを得ず。」
新聞 2330-21
小町谷新商判集 3-910&-990 法律学説判例評論全集 13 巻商法 690 頁
[大審院 T.14.3.13 判*] T13(オ)866 号 原状回復請求事件(上告棄却)
商法 526 条、民法 415 条・570 条
見本売買である不特定物の売買と瑕疵担保の責任:不特定物の売買に於いても売主は目的物の
危険移転の時を標準として瑕疵担保の責に任ずべきものとす ― ①.不特定物の売買に於い
て、売主が瑕疵ある物を給付したのに対し、買主がこれを受領した場合は、不完全ながら契約の
履行があったものと解すべきである。 ②.不特定物の売買にも民法 570 条が適用される。不特定
物の売買に於いて、売主が瑕疵ある物を給付したのに対し、買主がこれを受領した以上は、不完
全ながら契約の履行があったので、買主は危険移転の時期を標準として、瑕疵担保に因る権利を
行使し得るのみである。
民集 4-217 新聞 2412-17
小町谷新商判集 3-997
原審:大阪控訴院
[安濃津地裁 T.14.5.14 判*]T13(ワ)142 号 商品代金返還損害賠償請求事件(請求棄却)
商法 526 条
*安濃津地裁は津地裁の旧名称
一.商法 288 条(現 526 条)の規定範囲 ― 商法 288 条(現 526 条)は、商人間の売買に
於いて買主に目的物検査並びに瑕疵通知の義務があることを規定したに止まり、同条に依り売買
契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求を買主に付与したものではない。これらの要件
は一に民法の規定に依り決定されるものである。
二、同条規定の瑕疵と解除権行使の根拠法令 ― 民法 570 条に依れば本件売買の如くその目
的物に隠れたる瑕疵があれば民法 666 条の準用を受ける結果、原告(買主)主張の如くその瑕疵
が契約を為したる目的を達し得ない場合には買主は契約の解除をしてから損害賠償の請求をしな
ければならない。尤も解除権を行使せずに損害賠償のみを請求することもできるが、これは履行
を前提とするものであり、前者は履行に代わる賠償である。原告の請求は前者であるから、解除
権の行使が瑕疵を知ってから 1 年内に為されておらず(民法 566 条 3 項)原告の請求を棄却。
新聞 2520-14
法律学説判例評論全集 15-民法 550 頁
小町谷新商判集 3-1019
[東京控訴院 T.15.9.15 判*] T14(ネ)454 号 土地建物所有権移転登記手続等請求事件
商法 525 条、民法 542 条
(控訴棄却)
定期行為の解除・催告不要 ― 「本件売買は当事者の意思表示により一定の日時に履行を為す
12
に非らざれば契約を為したる目的を達すること能はざるいわゆる定期行為なれば、その契約の解
除を為すには民法 542 条により何等の催告を要せざるものとす。
」
新聞 2625-14
小町谷新商判集 3-987
[大審院 T.15.11.15 判*]T15(オ)598 号 内入金返還請求事件(破毀・差戻)
商法 525 条、民法 542 条
桑苗の売買は定期行為に属する ― 桑苗の売買契約には、季節に履行しなければ契約の目的を
達することができないとの意思表示を包含する。
新聞 2647-15
小町谷新商判集 3-984
原審:大阪控訴院 T.15.4.13 判
[大審院判 S.2.1.29 判*]T15(オ)1104 号 売掛代金請求事件(上告棄却)
商法 526 条、民法 570 条・565 条
売主の担保責任において、売買目的物の瑕疵は代金減額請求権を生じない ― 商人間の商事売
買においても、瑕疵を理由とし又は数量不足を理由として契約を解除し又は損害賠償若しくは代
金減額を請求するには民法の売買の規定に根拠するものであるから、瑕疵を理由とするときは代
金減額請求権はなく(民法 570 条・566 条)
、数量不足が理由であれば減額請求権がある(民法
565 条)
。
新聞 2668-16
法律学説判例評論全集 16-民法 292 頁
小町谷新商判集 3-1020
原審:東京控訴院 M.44.3.14 判
[大審院 S.2.2.2.判*] T15(オ)992 号 不当利得返還請求事件(破毀差戻)
民法 412 条・541 条
解除の前提たる催告の要件 ― .解除の前提である催告には、必ずしも初めから一定の日時もし
くは期間の明示を要するものではなく、催告の時と解除の時との間に既に相当の期間を経過して
いれば足りる。
民集 6-133 新聞 3676-7 法律新報 108-12
法律学説判例評論全集16-民法 790 頁
原審:東京地裁
[大審院 S.2.3.22 判*] T15(オ)1124 号 損害賠償請求事件(破毀差戻)
民法 412 条 3 項
過大なる催告の効力 ― 請求し得べき代金額を超えて支払を催告したるときと雖も、其の請求
し得べき代金額に関しては催告は有効である
(大審院 M.38.6.24 判・M38(オ)202 号・民録 11-1039、
大審院 T.2.12.22 判・T2(オ)252 号・民録 19-1050 参照)
。
民集 6-137
原審:大阪控訴院
[大審院 S.2.4.15 判*] T15(オ)1139 号 売買代金返還並利息金支払い請求事件(上告棄却)
商法 526 条
契約の不履行か瑕疵ある履行か: 種類売買に於いて受領した給付の一部に瑕疵ある場合は、
瑕疵担保の問題である ― 種類売買に於いて売主が契約の目的物と全然種類の異なる物を給
付した場合は格別、同種の物を給付し買主が之を受領している場合は、給付の物体が契約所定の
条件に欠けるところがあっても不完全ながらも尚契約の履行がされた場合に該当するに過ぎない
ので(
[大審院 T.14.3.13 判*]参照)
、原審が、法律上不履行の場合にはあたらず瑕疵ある物の履
行された場合であると判定し、その瑕疵は内一箱の重量不足というのであるから、直ちに発見さ
13
れるものであるにも拘らず数か月後の売主への通知であることから買主の担保責任の追及を否定
したのは相当である。
新聞 2689-13
原審:東京控訴院 T.15.9.13 判
[大審院 S.3.12.12 判*]S3(オ)644 号 強制執行異議事件(上告棄却)
民法 415 条、商法 288 条(現 526 条)
一、隠れたる瑕疵 ― 「瑕疵そのものが個々の物件の外部に露呈せられ、何等の機構を藉らず
して容易に之を認識することを得べき場合、必ずしも所謂『隠れたる瑕疵』ならずと云うべから
ず。多数の物件に就き一々之を点検し始めて之を発見するを得る場合も亦、所謂『隠れたる瑕疵』
に外ならず」
。
二、材木の見本売買において売主の瑕疵担保責任を認めた例 ― 「見本売買なるものは不特定
物につきて行わるるを常とするも、また特定物に関する場合もとより必無なりとせず。ただ其の
いずれの場合たるを問わず、他日引渡さるる物は見本と同一の品質等級を有することを売主に於
いて請合へるものと看るべきは当然なるを以て、現に引渡されたる物が見本より劣れる場合にお
いて之を一般の標準より測定すれば未だ以て一の瑕疵として之を目するに足らざるときと雖亦瑕
疵担保の規定は其の適用ありと解するを相当とす。
何をもって瑕疵であるかは、ひっきょう或る標準に達しないことを謂い、而して見本売買なる
ものは見本と云う一の特別の標準を設け之によりて以て目的物の品等を律せむとする趣旨に外な
らざるが故に、見本より劣れること是れ亦この場合に於ける一の瑕疵と称するを妨げざればなり。
ただそれ不特定物の場合にありては買主は債務の本旨に従う履行の請求権もまた競合的に之を有
する」
。
民集 7-1071
新聞 2952-12
小町谷新商判集 3-996
原審:大阪地裁 S.3.4.30 判
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大阪地裁 S.5.12.9 判*]S5(レ)394 号 手付金返還並に損害賠償請求事件(控訴棄却)
商法 525 条、民法 493 条・533 条・541 条
催告及び契約解除の要件 ― 「民法 541 条により契約の解除を為すには当事者の一方たる債務
者が既にその債務の履行につき遅滞に在ることを要し、解除の前提たる履行の催告を為すにもそ
の債務者が既に遅滞に在るか若しくは遅くともその催告と同時に遅滞に付せられることを要
す。
・・・未だその遅滞に在らざる間に為したる解除の前提たる履行の催告及び解除の意思表示は
無効なること勿論なり。
」
新聞 3217-7
法律学説判例評論全集 20-民法 567 頁 小町谷新商判集 3-990
[大審院 S.6.2.17 判*]S5(ワ)1439 号 渡金並約束手形其の他取戻請求事件(破毀差戻)
商法 526 条、民法 570 条・566 条
商人間の売買と瑕疵の補修が不可能に終わったときの担保責任追及の 1 年の起算点 ― 買主で
ある上告人(原告・被控訴人)は被上告人から文化籾摺機 15 個を買受け引渡を受けたところ、隠
れたる瑕疵を発見し売主である被上告人に対して種々交渉の結果上告人は被上告人から修繕の依
頼を受けた。しかしながら修繕は効を奏さず瑕疵の修補は不能に終わった。上告人が解除し得る
1 年の起算点は補修不能に終わったことを知った時点である。
新聞 3244-9
法律学説判例評論全集 20 商法 157 頁
小町谷新商判集 3-1011
原審:釧路地裁 S.5.6.5 判
*:商法 526 条による買主の通知義務制度の本質的問題点については[最高裁三小 S.47.1.25 判]
14
の末尾の注を参照。
[大審院 S.6.3.10 判*] S5(オ)1025 号 売掛代金請求事件(破毀・差戻)
民法 541 条
解除の前提たる催告の要件 ― 「契約解除の前提たる履行の催告には、始めより一定の期間を
明示することを要せず。催告後相当の期間を過ぐるも尚且つ履行を為さざるときは適法に契約を
解除し得るものと解するを相当とする(
[大審院 S.2.2.2 判*])。
新聞 3250-11
原審:東京控訴院 S.5.4.24 判
[大審院 S.6.4.2 判*]S5(オ)1515 号 売掛代金請求事件(上告棄却)
商法 290 条(現 528 条)
、民法 415 条・570 条
不特定物の売買と履行 ― 「不特定物の売買契約に於ける売主が買主に対し債務の本旨に副わ
ざる物を給付するも売主は未だ完全にその義務を履行したるものにあらざるを以て、買主は之を
給付と認めずして更に新たなる給付を請求し得べきはもとより其のところなりと雖も、当事者間
に授受せられたる物が契約の目的物と種類を同じふする場合に於いては、たといその品質に於い
て債務の本旨に副わざる点ありとするも債務は茲に不完全ながらも履行せられたるものと解し之
に瑕疵担保に関する規定を適用し得べきものなることは、既に当院の判例とするところにして
(T14.3.13 判・T13(オ)866 号・民集 4-217)未だ之を改廃するの必要を見ざるものとす」
新聞 3265-9
小町谷新商判集 3-1026
原審:東京控訴院 S.5.6.5 判
[大審院 S.6.6.25 判*] S5 (オ)2599 号 手形金請求事件(破毀・差戻)
商法中署名すべき場合に関する法律(現商法 32 条)
記名名義に合致せざる印章 ― 「商法上の署名に代わるべき記名捺印に在りては、その捺印は
必ずしも記名者名義の印章を使用することを要せざるが故に、もし右記名並びに銀行印にして真
正に成立したるものと認めらるるに於いては、縦令(ヨシンバ)記名名義に吻合(フンゴウ:び
つたり合う)せざる印章がその下に押捺せられたりとするも、他に特段の事情の存せざる限り一
応叙上支払保証は真正に成立したるものと認定すべき」ものとす。
新聞 3302-14
原審:広島控訴院 S.5.9.29 判
*:その後、学説・判例でも支持されていることは[東京地裁 S.46.9.29 判*]の末尾「*古田」
参照。
[大審院 S.6.7.25 決定*] S6(ク)578 号 公示催告申立却下決定に対する抗告事件(棄却)
H16 改正前の民訴法 779 条
証書の無効宣言の為に為す公示催告手続に於いて、証書に表示したる履行地が外国なるときは、
内国裁判所は裁判権を有せざるものとす。 ― 1.証書無効宣言の為になす公示催告手続におい
て、民訴法 779 条 1 項後段により証書発行人の普通裁判籍所在地の裁判所が管轄権を有する場合
は、証書にその履行地を表示していない場合である。証書に履行地を表示したときはその履行地
が我国たると外国たるとを問わず同条 1 項前段の規定に従い管轄権の有無が決せられる。よって、
証書に表示した履行地が外国であれば我国の何れの裁判所に対してもその申請の途がなく、従っ
て、かかる証書に対すする公示催告に付いては内国裁判権が存在しないことを表明したのが当該
法条の趣意である。
2.東京市を住所とする本件日本の会社が米国ニューヨークで募集したニューヨーク市またはロ
ンドン市を履行地とする社債券の無効宣言のためになす公示催告手続については、日本に裁判管
轄権がない。
15
民集 10-603
江川英文・法協 51-3-109
小野寺則夫・別冊ジユリ 87-204
池原秀雄・別冊ジュリ 42-204:東京簡裁 S.37.2.22 船荷証券無効宣言の<解説.>
原審:東京地裁
一審:東京区裁
*[東京簡裁 H.17.10.20 決定]の古田コメント参照。
[大審院 S.11.7.14 判*] S11(オ)836 号 株式売買差損金請求事件(上告棄却)
民法 534 条
売買の目的たる株式が併合に因り消滅したる場合と売主の義務 ― 「売買の目的たる株式が減
資の為にする株式の併合に因り消滅したる場合には、売主はその併合に因り従前株式に対し割当
てられて取得したる株式を買主に移転する義務を負担するものと解するを妥当とす。
」
新聞 4022-7
原審:京都地裁 S.11.3.26 判
[大審院 S.12.6.14 判*] S10(オ)206 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
商法 529 条(現手形法 77 条)
・455 条(現手形法 11 条)
、
手形法 75 条・11 条、民法 467 条
支払拒絶證書作成期間経過後の手形の譲渡方法:民法の債権譲渡の方法で譲渡し得る ― 「商
法 529 条(現手形法 77 条)
・455 条(現手形法 11 条)には約束手形の譲渡は
特に裏書を禁止せるものを除く外、裏書に依りて之を為すべき旨規定しあるも、該規定は支払拒
絶證書作成期間経過後の手形に付いてまで裏書以外の方法殊に民法上の債権譲渡の方法に依る譲
渡を禁止する法意なりと解すべからず。蓋し商法 462 条(現手形法 20 条 1 項但書)の規定に依
れば右手形を裏書に依りて譲渡するも被裏書人の取得するものは裏書人の有したる権利に過ぎず、
而も裏書人は裏書に因り手形上の責任は全然之を負うことなきが故に、その効果に於いて殆ど民
法上の債権譲渡の方法に依りたる場合と大差なく、従って之につき譲渡の方法を裏書のみに限定
し民法上の債権譲渡の方法に依ることを禁止するの意義存せざるを以てなり。」
民集 16-13-793
石井照久・法協 55-12-188
原審:東京控訴院
[大審院 S.12.6.30 判*]S12(オ)584 号
商法 288 条(現 526 条)
販売用に購入した日本酒を受領後 1 週間目に検査したことは、検査義務の懈怠となる ― 「原
審は上告人が被上告人より引渡を受けたる日本酒が腐敗し居りて販売に適せざりしものなること
及び上告人がその事実を発見し即時その旨を被上告人に通知し同種の完全なる日本酒を給付すべ
き旨請求したることは之を認め得ざる旨判示したるものなるが故に、更に進んで仮にその目的物
に上告人主張の如き瑕疵ありしとするも上告人が受領後約 1 週間目に之を検査したるは特別の事
情なき限り遅きに過ぐる旨説示したるは畢竟無用の説示に外ならざるのみならず、その説示は正
当にして毫も法律の解釈を誤りたるものと云うを得ず」
大審院判決全集(法律新報社)四輯 13 号 637 頁
小町谷新商判集 3-1003
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大審院 S.12.11.26 判*] S12(オ)1215 号・営業禁止等請求事件(破棄差戻)
商法 264 条 7 号(現 502 条 7 号)
・22 条(現 16 条の趣旨に同じ)
・23 条(同前)
理髪業の譲渡と競業避止義務(消極) ― 商法 502 条(営業的商行為)7 号所定の「場屋の取
引」とは、客をして一定の設備を利用させることを目的とする取引をいうところ、理髪業者と客
16
との間には、ただ理髪という請負もしくは労務に関する契約があるに止まり、いわゆる設備の利
用を目的とする契約は存在しないので、
「場屋の取引」には該当しない。従って、理髪業を譲渡し
ても、それは「営業的商行為」の譲渡ではないので、当事者間に競業避止義務の特約があれば格
別、そうでない本件においては、商法 16 条には該当せず、競業避止義務はない。
民集 16-1681
山下眞弘・別冊ジュリ 129-52
原審:大阪地裁・民集 16-1688
*山下評釈:大多数の学説は本判決に批判的であり、現在の理容業をイメージすれば尚更だとさ
れる。同評釈も、設備利用のいみは、必ずしもこれを客による能動的な利用行為と解さなくて
も、客観的に設備の利用が認められていることで足りるとされている。また、本件は商法 502
条 2 号の「報酬を得て他人のためにする加工に関する行為」に該当すると見解(田中誠二・商法
総則詳論 178 頁)もあることを紹介されている。
筆者(古田)は、商法 594 条は場屋の主人に厳格な責任を課していることから、502 条 7 号
の「客の来集を目的とする場屋における取引」の法概念は、594 条の趣旨からもそれにふさわ
しくない範囲にまでは拡張されるべきではないと考える。
[大審院 S.13.4.8 判*] S12(オ)1942 号 貸金請求事件(破毀栽戻)
民法 446 条・457 条 1 項、商法 511 条 2 項・522 条
保証債務の消滅時効 ― 「保証債務は主たる債務の履行を担保することを目的と為すものなる
を以て、主たる債務に付従する性質を有すること勿論なりと雖も、主たる債務の一部を為すもの
に非ず。之とは別個独立の債務なるを以て保証債務に付き主たる債務の存続期間より短き存続期
間を定め、その他独立の消滅原因の存在を認むることは毫も保証債務の性質に反するものに非ず。
従って消滅時効の期間の如きも主たる債務と保証債務とに付き各別個に之を定むべく、主たる
債務が民事債務にして保証債務が商行為に因りて生じたる債務なるときは、短期時効の規定に該
当せる限り前者は十年の消滅時効に罹り、後者は五年の消滅時効に罹るものと解すべく、此の理
は保証が単純保証なると連帯保証なるとにより異なるものに非ズ」
。
民集 17-664
原審:静岡地裁
[大審院 S.14.2.1 判*] S13(オ)92 号 損害賠償請求事件(一部破毀差戻)
商法 590 条
自動車回数乗車券の発行と運送契約の成否 ― 「回数乗車券は運送業者と公衆との間に他日成
立すべき運送契約を予想し、その乗車賃の前払ありたることを証し、即ち乗車賃に代用せられる
一種の票券にして、之が発行によりその所持人との間に旅客運送契約又はその予約成立するもの
にあらず」
。
民集 18-77
原審:福岡地裁
[東京地裁 S.14.6.30 判*] S10(ワ)1249 号 損害賠償請求事件(認容)
商法 526 条
清酒の売買と唎き酒:酒商間での清酒の売買に当たっては、唎き酒等の様な自然的鑑別法によ
る注意でその注意義務を尽くしたことになる ― ①.原告・被告は共に酒商であり、原告は被
告の店で唎き酒のうえ清酒 24 石を買受けたところ、一週間後に警視庁の衛生取締上の検閲を受け
有害なフォルマリンが混入していることが判明し樽共に全部破棄処分された。 ②.買主が唎き酒
等の様な自然的鑑別法による注意を超えて化学的操作による鑑別法を用いなければ清酒売買にお
ける注意義務を尽くしたと云えないとすると、一面買主に化学的専門知識を要求すると共に、他
面売主をして常にフォルマリン其の他の劇毒防腐剤を混入させているとの推定を受けさせる不愉
快な結果を招き、到底取引の実情に副わないと謂わねばならない。売主である被告は商法 288 条
1 項(現 526 条 1・2 項)により買主である原告に、原告が支払った代金及びその購入に要した費
17
用の賠償を判示。
新聞 4469-11
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大審院 S.16.6.14 判*]S16(オ)3 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
商法 288 条(現 526 条)
木材販売業者間の取引において数量の不足は隠れた瑕疵ではない ― 「原審の確定したるとこ
ろによれば、上告人・被上告人は共に材木販売を業とする商人にして本件取引は・・・品名・寸
法・数量を明示して締結せられたるものなりと謂うに在りて、その取引量も容易に計算し難き程
度のものに非ざるを以て之が引渡を受くるに当り数量検査の如きは営業者間に於いては容易に為
し得べきところにして、その数量不足は直ちに発見すること能はざる瑕疵と謂うを得ざるものと
す。 従って原審がその挙示する証拠により、引渡に立会たる横山正信(上告人側)に於いて木
材の数量が被上告人発効の送り状の記載に一致するや否やにつき検査をなさず、何等の異議を留
めずして之を受取り、その後約 10 日間を経過したる頃ようやく数量の不足を覚知し、昭和 13 年
4 月末頃に至り始めてその旨被上告人に通知したる事実を認定し、右の如きは旧商法 288 条(現
526 条)に規定したる通知を懈怠したるものと為したるは相当にして何等法律の解釈を誤りたる
違法」はない。
判決全集八輯 22 号 762 頁
小町谷新商判集 3-1006
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大審院 S.16.8.7 判*]S16(オ)560 号 手附金返還請求事件(上告棄却)
商法 525 条、民法 541 条・555 条
商人間における定期行為の性質を有する売買にあっては商法 287 条(現 525 条)を適用した上、
契約解除の効果を判断すべき ― 「商人間における確定期売買取引に在りては、当事者双方が
其の履行の提供なくして期日を徒過したるときに於いて、買主が直ちに履行の請求を為さざる限
り当然契約は解除と為るべきを以て、買主が履行の提供を為したるや否やに関せず、売主に於い
て受渡に必要なる手続を完了せずして受渡期日を徒過したるときは、右契約解除の効果を生ずる
ものとす。
」
大審院判決全集 8 輯-26 号-911 法律学説判例評論全集 30-商法 288 頁 小町谷新商判集 3-992
原審:宮城控訴院 S.16.4.17 判
[大審院 S.17.4.4 判*]S16(オ)1168 号 内金返還請求事件(上告棄却)
商法 525 条
特約による確定期売買・クリスマス用品としての売買 ― 「原審の認定したるところによれ
ば・・・本件売買の目的物は昭和 13 年 1 月上旬上海に行われるクリスマス用品として販売せられ
べきものなるを以て、遅くとも其の頃までに到着せしむるに非れば売買の目的を達する能はざる
所謂確定期売買なりと謂うに在るが故に、右に定めたる期日に約半数に過ぎざる一部履行の提供
を為したるが如きは、右契約の趣旨に徴し到底債務本来の目的に適合したる履行とは為し難きこ
と論を俟たざるところなるを以て、原審が債務の本旨に従いたる履行の提供を為さざるものとし
て契約全部に付解除の効力を認めたるは当然なり。
」
法学 11-12-1289
小町谷新商判集 3-987
原審:大阪控訴院
18
[津地裁上野支部 S.25.12.19 判*] S25(ワ)59 号 株式売買損害金支払請求事件(請求棄却)
民法 542 条、商法 525 条(H.17 改正前の条文であり「商人間の」の文言はない)
株式売買契約が定期契約と認められる場合
[事案要旨] 原告証券会社 X は、昭和 25 年 7 月 17 日、被告 Y(非商人)に対して帝石および
東芝の株式計 300 株を一定単価で三日間内に売渡す契約を結んだが、X が右株式を Y 方に持参し
たのが 8 月 4 日であったので、Y は遅延を理由に受領を拒絶、Y は再度持参するも X は応じない
ので Y は売買契約を解除して同株式を売却処分。
X との売買代金との訴額金 4,800 円を賠償請求。
[判示要旨]
一、
「株式の売買そのものは商法 525 条、民法 542 条にいう契約の性質による定期契約ではな
く、又株式売買における履行期日を当事者の意思表示により三日間と定めたからとて必ずしも右
の定期契約なりと言い得ないが、その履行期を定めた動機、理由がその定めた期間内に履行なく
それ以後の履行によっては契約の目的を達すること能わざる事由をも合意の内容となした場合に
之を定期行為なりと解し得べく、
・・・朝鮮動乱の突発が昭和 25 年 6 月下旬であったこと等を総
合して考えると、本件売買は Y において昭和 25 年 7 月 17 日より三日間の履行期を特に重要のも
のとし右の期間内に必ず目的株式の受渡のあることを期待し、履行期以後の提供によってはその
目的を達し得ざることを X 代理人 A に申入れ、同人は之を承諾の上本件株式の売買契約が成立し
た事実を認め得るから、本件は結局 Y 主張の通りの定期売買なりと認む。
」
二、
「本件売買契約は履行期に重点を置いた定期売買である以上・・・Y に何等不履行の責なく、
従って Y に不履行あることを前提として為した X 主張の条件付予告解除はその効力なく、有効に
契約解除のあったものとして求むる X の・・・損害賠償請求は、Y 側からの解除の主張が理由あ
りや、又商人間の売買なりや否やの判断を俟たず、
・・・失当として排斥する。」
下民集 1-12-1991
古瀬村邦夫・別冊ジュリ 20-62
*古田:本件は履行期に履行あること自体を両当事者合意の契約の重要な要素としたことを認定
して、定期行為性を認めた事例である。契約半月前の朝鮮動乱勃発による株式相場に大きな変
動をもたらしていることは、その要素の重要性認定を補強している。
当時の商法 525 条(確定期売買の当然解除)は、第二章売買の中でこの条文だけに「商人間」
の文言がなかったので、一方が商人で足りるのかには、判例・学説に争いがあることから(古
瀬村評釈 63 頁 3-4 段目参照)
、民法 542 条でも判示の結論が導き得る。即ち、本件は、Y が X
を訴求しているのではなく、定期行為を不履行した X が訴求しているものである以上、不履行
のない Y には何らの責任は無いので、「当然解除」を規定していない民法 542 条での定期契約
でもあることを認定すれば足りるのである。 平成 17 年の商法改正で、商人間以外での確定期
売買の規律は民法 542 条によることが明確になったので、本判決は依然として先例である。
確定期売買の当然解除を規定する商法 525 条は、平成 17 年の商法改正前は「売買ノ性質又
ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタ
ル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期を経過シタル
トキハ相手方ハ直チニ其履行ヲ請求スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為シタルモノト看做ス」であ
ったが、同改正による現代語化と共に、その頭に「商人間の売買において、
」の文言が付加され
た。
[大阪地裁 S.26.1.30 判*] S24(ワ)143 号 約束手形金請求事件(認容)
商法 526 条
商法 526 条の法意と同条の通知が「遅滞なく」為されたかの認定 ― ①.試運転すれば直ちに
発見し得るような発電機の瑕疵は、隠れた瑕疵とは云えない。 ②.瑕疵発見後 20 余日、受領後 2
ケ月経過してした通知は遅滞なく通知したとは云えない。
下民集 2-1-100
小町谷新商判集 3-1001&-1011
19
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[京都地裁 S.27.8.8 判*] S27(レ)9 号 売掛代金残額請求控訴事件(原判決変更)
商法 526 条、民法 92 条・555 条
自転車売買に関する自転車業界の取引慣習の認定 ― ①.売却した自転車のタイヤが半月で破
損したときは売主が新品タイヤと取替えるべきことは、自転車業界の慣習であって、売主がその
慣習の存在を知りながら、特に反対の意思を表示しなかったことが認められる以上、これによる
意思を有するものと推定すべきである。 ②.自転車業界においては、自転車売渡後十四・五日で
タイヤが破損したときは、これを新品と取替えるという慣習がある。 ③.新品自転車のタイヤに
瑕疵がある場合には、売主がこれを新品タイヤと交換するのは、自転車取引業界の慣習であり、
右慣習に基づき、再売買における買主に新品のタイヤの代金を支払った者は、原売主に対して、
その損害の賠償を請求することができる。 ④. 自転車タイヤの内側ズックの破損は、直ちに発
見し得ない性質のものである。 ⑤. 6 ケ月以内にタイヤに隠された瑕疵を発見した自転車の買主
は、その売主に対し、損害賠償として、新品タイヤと同一物の交付を受けるか、これに代わるべ
き填補賠償を請求することができる。 ⑥.新品自転車のタイヤに瑕疵がある場合には、売主がそ
れを新品タイヤと交換するのが自転車取引業界の慣習である。
下民集 3-8-1113
小町谷新商判集 3-1015
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京地裁 S.28.11.18 決定*]S28(ソ)27 号 公示催告申立却下決定に対する抗告事件
民訴法 777 条・778 条 1 項・780 条、民法施行法 57 条、手形法 16 条
騙取された手形の公示催告は許されない ― 所持人の意思に基づかずにその占有を離脱し、現
に所在不明であることを要する。
判タ 36-52
[最高裁一小 S.28.12.14 判*] S24(オ)58 号 仮処分申請事件(上告棄却)
民法 423 条
債務者と競合しての債権者代位権行使の許否 ― 「債権者代位権の行使は、債務者が自ら権利
を行使しない場合に限り許されるものと解すべきである。債務者が既に自ら権利を行使している
場合には、その行使の方法又は結果の良いと否とにかかわらず、債権者は、債務者を排除し又は
債務者と重複して債権者代位権を行使することはできない。債権者代位権という制度の本質から
見て、かく解するのが相当である。
」
民集 7-12-1386 判時 19-19
小林英樹・研修(法務総合研修所)・585-73(1997.3)
原審:仙台高裁 S.24.1.17 判 民集 7-12-1394
一審:青森地裁 民集 7-12-1392
*債権者代位権の基本的な判決例: (a)基本的な事項に関するものは、本件判決例のほか、
[最高裁二小 S.39.4.17 判*]
・
[最高裁三小 S.40.10.12 判*]・[最高裁三小 S.44.6.24 判*]。
(b-1)債権者代位権の転用が認められた判決例は、
[最高裁二小 S.29.9.24 判*]・[最高裁一小
S.43.9.26 判*]
・
[最高裁一小 S.50.3.6 判*]。
(b-2)転用が認められなかった判決例は、
[最高裁三小 S.38.4.23 判*]
・
[最高裁三小 S.40.5.4 判*]。
なお、債権者代位権の行使そのものでは、債務者に対する債権の消滅時効の中断効がないこ
とは、
[最高裁二小 S.37.10.12 判*]の風間評釈参照。
20
[最高裁一小 S.29.1.21 判*] S25(オ)275 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 557 条 1 項
民法 557 条の手付の性質 ― 「売買の当事者間に手附が授受された場合において、特別の意思
表示がない限り、民法 557 条に定めている効力、すなわちいわゆる解約手附としての効力を有す
るものと認むべきである。これと異る効力を有する手附であることを主張せんとする者は、前記
特別の意思表示の存することを主張・立証すべき責任があると解するのが相当である。」
民集 8-1-64 判タ 38-53
角紀代恵・法協 105-11-148
深谷松男・別冊ジュリ 7-20
原審:東京高裁 S.25.7.27 判 民集 8-1-81
一審:東京地裁 民集 8-1-80
*古田:民法 557 条(手附)は任意規定ではあるが、同条 1 項の解約手付による解除は債務不履
行に因る解除とは異なるから、同解除によって損害賠償の問題は生じないことを同条 2 項で注
意的に規定している。従って、この手付による契約解除が及ばない債務不履行を理由とした解
除では、債務不履行の一般原則に基づき、手付金額を超えて実損害の賠償請求ができる。
⇔角評釈参照。
[最高裁二小 S.29.1.22 判*] S26(オ)566 号 代金請求事件(上告棄却)
商法 526 条、民法 570 条・566 条
商事売買における目的物の瑕疵と代金減額請求権 ― 商法 526 条は民法で認められた売買の担
保責任に基づく請求権を保存するための要件に関する規定であり、瑕疵を理由とするときは民法
570 条となり、瑕疵を理由に代金減額請求はできない。
民集 8-1-198 判時 20-21
後藤紀一・別冊ジュリ 129-110
原審:東京高裁 S.26.6.29 判・S26(ネ)819 号
民集 8-1-203 判タ 18-53
一審:水戸地裁 S24(ワ)364 号
民集 8-1-201
*古田:瑕疵担保責任は、売主の故意・過失を要しない結果責任であるから、売主の故意・過失
を要件とする債務不履行責任では瑕疵を理由に代金減額請求もできることになる。なお、本件が
民法 565 条の数量指示売買であれば、その不足の瑕疵担保で代金の減額請求も可となる。
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁二小 S.29.2.19 判*]S26(オ)424 号 増資割当株式引渡請求事件(上告棄却)
民訴法 784 条 1 項・785 条、商法 230 条(株券の喪失及び再発行)
株券に対する除権判決の効果は、右判決以降株券を無効とし、公示催告申立人に株券を所持す
ると同一の地位を回復せしめるに止まる。申立の時に遡って右株券を無効としあるいは申立人
が実質上株主たることを確定するものではない。
民集 8-2-523
平田伊和男・別冊ジユリ 80-58
大森忠夫・民商 31-1-100(RF-②)
原審:東京高裁 S.26.6.1 判 民集 8-2-535
一審:東京地裁 民集 8-2-530
[最高裁二小 S.29.4.2 判*] S26(オ)744 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権の対象肯定
一 取立委任をしていた債権を譲渡した場合の詐害行為取消請求の範囲 ―債務弁済の手段と
して、始め債権の取立を上告人 Y 銀行に委任し、その後債務者は事業不振で営業を停止し、総債
権者の唯一の担保となったその債権を同銀行に譲渡した場合、債権取立の上は貸金債権の弁済に
充てる諒解ができていたというだけでは、債権譲渡は義務に属するものではなかったのであるか
21
ら、債権譲渡のみを切り離して詐害行為として取消すことができる。
二 詐害行為取消の場合の利得返還の限度 ―債権譲渡が詐害行為として取り消された場合、受
益者が、その債権を行使して得た弁済金はすべて返還することを要し、そのうちから取立費用を
差引くことは許されない。
民集 8-4-745
三島宗彦・別冊ジユリ 6-126
原審:東京高裁 S.26.10.23 判・S25(ネ)1034 号 民集 8-4-775 下民集 2-10-1238
一審:東京地裁
民集 8-4-772
[最高裁二小 S.29.9.24 判*] S28(オ)812 号 室明渡請求事件(上告棄却)
民法 423 条
転用型の債権者代位権
債権者代位権による建物明渡請求権の行使方法 ― 建物の賃借人が、賃貸人たる建物所有者に
代位して、建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合には、直接自己に対して明渡をなす
べきことを請求することができる。
民集 8-9-1658
角紀代恵・法協 99-10-128
原審:東京高裁 S.28.7.13 判 民集 8-9-1671
一審:東京地裁 民集 8-9-1669
*角評釈:債権者代位権(民法 423 条)は、債務者の責任財産を維持することを目的とする制度
であるから、債権者が代位権を行使するためには債務者が無資力であることを要件とする。し
かし、判例は、代位権の転用ないし拡大適用として、債権者が代位権を行使することによって、
自己の特定債権を保全することができる場合には、債務者の無資力を必要としないとしている。
本件で問題となった不動産賃借人による賃貸人(所有者)の有する妨害排除請求権の代位行使
は、登記請求権の代位行使とならんで、債権者代位権の転用の代表例であり、大審院時代から
判例が認めてきたものである(大審院 T.9.11.11 判・民録 26-1701 等)
。そして、本判決は、従
来の大審院の立場を踏襲して、不動産の賃借人は賃貸人たる所有者を代位して、不法占拠者に
対して明渡を求め得ることを判示した最初の最高裁判決である。
本件において直接の争点となった問題は、果たして、賃借人は、債権者代位訴訟において直
接自己に明渡を請求できるか否かという点であり、最高裁は、この問題についても、従来の判
例に従い、これを肯定している。即ちこの点について、従来の判例は、本件のような転用の場
合に限らす、金銭債権保全のための通常の債権者代位権行使の場合にも、債権者は、第三者に
対して直接自己に引渡すことを請求できるとの立場をとっている(大審院 S.7.6.21 判・民集
11-1198 等)
。 そして、その理由として、弁済の効果は債務者に帰属するが、債権を行使する
には弁済受領の権限も含まれ、また、これを認めなければ、債務者が受領しないときは、代位
権はその目的を達しないことを挙げる(通説も同旨)。
もっとも、このように代位権行使により債権者が直接物の引渡を受け得るとすると、債権者
は、自己の債権の目的物と引渡を受けたものが同種である限り、自己の債権と債務者への引渡
債務を相殺することにより、実質的に優先弁済を受ける結果となる。
[最高裁三小 S.30.2.1 判*] S28(オ)750 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 38 条、商法 517 条、民法 412 条
手形金請求の支払命令の送達と付遅滞の効力 ― 「裁判上手形金の支払を請求する場合は、手
形の呈示を伴わないでも、訴状の送達により債務者を遅滞に付する効力を生ずると解する趣旨は、
大審院当時より多くの判例の存するところであり、当裁判所においてもこれと異なる解釈をすべ
きものとは認められない。
」
民集 9-2-139
竹内昭夫・法協 93-6-146
平出慶道・別冊ジュリ 49-130
原審:大阪高裁 S.28.5.14 判 民集 9-2-143
一審:京都地裁 民集 9-2-141
22
[最高裁二小 S.30.5.13 判*] S26(オ)298 号 預ケ金返還請求事件(破毀差戻)
民法 704 条・43 条・53 条・101 条
不当利得と法人の悪意 ― 法人の使用人(支所長事務取扱)が法人の目的の範囲外の取引をした
ことに基き、法人に不当利得ありとされる場合において、右利得につき右使用人の悪意を以て法人の
悪意とすることはできない。
民集 9-6-679 判タ 50-21
石田穣・法協 93-9-117
原審:広島高裁松江支部 S.26.5.11 判 民集 9-6-693
一審:鳥取地裁 民集 9-6-691
[大阪地裁 S.30.7.11 判*] S27(ワ)4826 号 損害賠償請求事件(請求認容)
民法 541 条、商法 525 条
確定期売買でないとされた事例 ― 商慣習にもとづく買主の出荷指図義務の不履行による契約
解除が認められた
[事案概要]
原告 X は紡績業及び織布業を、被告 Y は繊維類等の貿易業をそれぞれ営んでおり、X は Y に対
し輸出用綿布として綿布を売渡す契約を Y と昭和 26 年 10 月 17 日に締結した。この契約では綿
布の銘柄・数量・単価・代金(1,872 万円)
・納期等が定められていた。X は納期より相当期間経
過後にも Y に引取と代金支払の催促を再三していたが、最終的に、昭和 28 年 4 月 3 日被告着書
面で、
「X の売買目的物は既に製織完了し現品手持ち中であり、Y の出荷指図に従い何時にても出
荷し得る状態にあるから、本書面到達後 7 日間内に出荷指図せられたきこと、X は同指図後 5 日
間内に同指図に従った梱包・仕立・マーク刷込等を完了し出荷し得るよう準備完了しているから、
7 日間内に出荷指図をなした上 14 日間内に引き取られたきこと、並びに右期間内に出荷指図なく
引取なきときは同期間の経過と共に右契約を解除する。
」旨を通告したが、Y は応じなかった。
X は売買価額と解除時の価額との差額を損害金として Y に訴求。
[判示要旨]
一、被告 Y の本件は確定期売買であるから契約納期に原告 X 納入をしていないので商法 525 条
により当然解除となっているとの抗弁に、
「相場の変動の激しい商品の売買はその性質上直ちに確
定期売買である」とは断じがたいのみならず、本件契約の目的物である綿布は、
「当時季節に関係
なく何時でも使用されて最も需要が広く内外を問わず売れる商品であったこと、並びに輸出用綿
布の引取にあっても商社において海外取引先へ納期遅延の諒解を求め得る余地が存することが認
められるから、前記契約(本件売買契約)はその性質上確定期売買であるとは解し難い。
」
二、
「綿布取引における出荷指図書は、目的物の出荷先、仕立方法、荷造方法、原反面体裁、包
装面体裁、外装マーク等を指定し契約履行の具体的方法を特定するもの、即ち契約細則ともいう
べきものである」と認められるが、
「製造業者(売主)と商社(買主)との間の輸出用綿布の取引
においては売主は買主の出荷指図書に従うべく、買主は売主に対し出荷指図をなすべき義務があ
るとの商習慣の存在することが認められるから、X・Y は右慣習に従い前記契約を締結したと解す
るのが相当である。そして・・・製造業者、商社間の前記取引においては売主は買主の出荷指図
がなければ出荷が不可能であり又出荷の必要なきことが認められるのみならず、同指図は前述の
通り契約細則である故、右契約自体が更に出荷指図を必要としない程度に完備している場合はと
もかく、同指図なき限り、売主はある程度の履行の準備はなし得ても、契約の本旨に従った履行
の提供は勿論その準備の完結さえも到底なし得ず、結局売主はその履行を拒絶されるに等しいこ
ととなるから、買主において契約の本旨に従った完全な履行を期待しその履行を求める権利を有
する以上、出荷指図は代金支払義務と共にその重大なる義務に属するものというべきであり、右
出荷指図義務不履行の場合、売主は之に基づき契約を解除し得るとするのが相当である。
」
前記売買契約は昭和 28 年 4.月 17 日限り解除となるので、同日現在の時価と契約金額との値下
りによる差額 612 万円の損害金支払を判決。
23
下民集 6-7-1425
実方謙二・ジュリ 170-67
*実方評釈:受領遅滞の効果として契約解除権が認められるか否か、即ち、債権者の義務違反と
評価し得るかであるが、近時の有力説は契約解除権を認めるが(我妻栄・新訂債権総論[347])
、
判例は従来から否定的である(
[最高裁二小 S.40.12.3 判*])。そのため本判決は、商慣習上独
立の義務として認められる出荷指図義務の不履行という構成を採ったのであろう。
[最高裁二小 S.30.9.9 判*] S28(オ)1315 号 手附金返還請求事件(上告棄却)
商法 23 条(現 14 条)
他人に自己の商号の使用を許諾した者の責任― 「右売買につき自己の商号の使用を許諾した以
上、右手付金返還債務は、商法 23 条にいわゆる『その取引・・・によりて生じたる債務』に該当
するものとして、上告人において、右手付金返還債務についても、連帯してこれが弁済の責を負
うものと解すべきである。
」
民集 9-10-1247 判タ 53-31
中村眞澄・別冊ジュリ 49-56
原審:大阪高裁 S.28.9.4 判 民集 9-10-1254
一審:大阪地裁 民集 9-10-1253
*中村評釈:名板貸人の負担する債務は、名板借人がその相手方との間でなした「取引に因って
生じた債務」であるから、名板借人またはその被用者の不法行為によって生じた損害賠償債務
には及ばない。
[最高裁三小 S.30.10.11 判*] S28(オ)1034 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権で取消し得る範囲
詐害行為の目的物が不可分な場合と取消の範囲 ― 詐害行為となる債務者の行為の目的物が、
不可分な一棟の建物であるときは、たとえその価額が債権額を超える場合でも、債権者は、右行
為の全部を取り消すことができることは大審院判決の示したとおりである(大審院 M.36.12.7
判・民録 9-1345、同 T.7.5.18 判・民録 24-996、同 T.5.12.6 判・民録 22-2373、同 T.9.12.24 判・
民録 26-2024 各参照)
。
民集 9-11-1626 判タ 53-37 ジュリ 95-53 星野英一・法協 74-4-98 板木郁郎・民商 34-3-92
原審:東京高裁 S.28.9.14 判
民集 9-11-1631
一審:静岡地裁 S.27.10.17 判
民集 9-11-1629
[東京地裁 S.30.11.15 判*] S28(ワ)5412 号 過払金等請求事件(認容)
商法 526 条
一、 商法 526 条 1 項の隠れた瑕疵の認定 ― 着地アルゼンチン税関の検査結果を売主に通告
した第一次通告の時点では買主はその内容を理解していなかったが、6 カ月以内の適法な同条で
の通知と認定。
二、買主が目的物を受領して 6 カ月経過した後に隠れた瑕疵を発見した場合における商法 526
条 1 項の適用の有無 ― 既に第一次通告を 6 カ月以内での適法な通知と認定しているが、買
主がその通告内容を始めて理解したのが 6 カ月を遥かに超えた時点であったことから、仮に第一
次通告が同条の適法な通知でないとしても、同条はその期間を過ぎての瑕疵の認識では全ての権
利を失う規定ではない。結果責任としての瑕疵担保責任の追及ではなく、債務不履行責任の追及
を同条は何ら規制するものではない。←[最高裁三小 S.47.1.25 判]はこの見解を明確に否定し
ている。
下民集 6-11-2386
判時 71-22
古瀬村邦夫・東大商法研「商事判例研究 昭 30 年度」有斐閣刊-380
*古田:原告は、着地アルゼンチンの税関の検査結果による瑕疵を被告に6カ月以内に通告した
24
こと、第二次通知は最終的に通産省経由で通達されたことで被告がその内容を正確に知ったのが
原告が着地で税関から買主が引渡を受けてから遥かに6カ月後と認定されている。上記の判時は
コメントの最後で、
「この判決は、商法 526 条は、6月の期間経過後に買主が瑕疵を発見したとき
はその買主をして失権させる趣旨ではないという注目すべき判断を示している。」と指摘している。
しかし、この様な商法 526 条の解釈は[最高裁三小 S.47.1.25 判]で明確に否定されている。
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁三小 S.30.11.22 判*]
S28(オ)1368 号 仮処分異議事件(棄却)
民法 1 条 2 項・177 条・540 条 1 項・612 条、立木に関する法律 1 条・2 条
いわゆる失権の原則:民法上本件解除が許されない場合でないとして (消極)― 「権利の
行使は、信義誠実にこれをなすことを要し、その濫用の許されないことはいうまでもないので、、
解除権を有する者が、久しきに亘りこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使せら
れないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったため、その後にこれを行使することが信義
誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、もはや右解除は許されないものと
解するのを相当とする。」ところで、本件は解除権が久しきに亘り行使されなかったが、いまだ、
上告人において解除権はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由があると認むべき特段
の事由があったとは認めることはできない。
民集 9-12-1781 判時 65-8 判タ 55-33 星野英一・法協 93-6-162 山下末人・民商 34-3-159
原審:東京高裁 S28.12.8判 民集 9-12-1789
一審:東京地裁 民集 9-12-1787
[福井地裁 S.31.3.15 判*] S28(ワ)48 号 損害金請求事件(認容)
民法 416 条・418 条・432 条、商法 14 条・525 条
一、 人造絹糸の先物引渡取引が確定期売買と認定された事例 ― 訴外橋本は被告会社福井出
張
所の名義を用いており、
「本件売買取引は、人造絹糸 5,000 ポンドの授受を目的とした実需取引で、
現物を将来に現実に授受することを約するいわゆる先物引渡取引であって、ただ右取引はその納
期たる昭和 28 年 1 月中ならいつでも売主たる前記橋本としてはその都合の良い時期に勝手に右商
品の引渡をすればよく、買主たる原告はその説きにこれを受領しなければならないところのいわ
ゆる売主勝手渡の取引である点が特徴であるにすぎず、取引当事者双方とも、それらの契約の趣
旨をよく了解し、その意味で本件売買取引をなしたものであり、右橋本は、右納期中に右人造絹
糸を買入れて原告に引渡す予定であったが、偶々同月下旬人造絹糸の相場が騰貴したので右期間
中にその引渡ができなくなった・・・原告と訴外橋本間の売買取引は、人造絹糸の銘柄先物取引
であって、かかる取引は敏捷に人造絹糸の市場相場の変動に対処していかねばならぬ性質をもつ
ているものであるから、原告がその約定納期内に人造絹糸 5,000 ポンドの引渡を受けるのでなけ
れば取引の目的を達することが出来ないいわゆる確定期売買であると解するのを相当とし、それ
故右橋本の不履行により約定納期であった昭和 28 年 1 月末日の経過と共に右売買契約は当然解除
となり、そのため原告は右契約解除日である 1 月 31 日の相場より低く別の売主からの納期 1 月
中に先物取引におれる買付価格で且つ市場相場であった 100 ポンド当たり金 23,100 円の割合に
よる 5,000 ポンド分の合計金 1,155,000 円から、右橋本からの買入約定価格金 945,000 円を差引
いた金 210,000 円の損害を被ったことになるが、右損害は右端三津の不履行による契約解除によ
り原告が被ったものであり、右損害巣の生ずべきことは右橋本の予見し得たところであるから、
同人は原告に対して右金21万円の損害を賠償すべき義務があると謂わなければならない。
二、 商法 23 条に基づき自己商号使用許諾者の責任を認めた事例 ― 右橋本が福井市で人造
絹糸等の売買を、被告会社である三原物産株式会社の福井出張所の呼称で同社の商号を用いて行
25
っていてることを積極的に受忍していた名板貸責任により、不真正連帯債務として同金額の支払
義務を判決。
下民集 7-3-614
[最高裁三小 S.32.3.5 判*]
S30(オ)159 号 売掛代金請求事件(一部破棄差戻・
商法 42 条(表見支配人:現 商法 24 条・会社法 13 条)
、
一部上告棄却)
商法 38 条(現 商法 21 条・会社法 11 条)、民法 709 条・715 条
一、商法 42 条による表見支配人の権限の範囲 ― 同条による表見支配人の権限に属する「営
業に関する行為」には、営業の目的たる行為の外、営業のため必要な行為をも含むと解すべきで
あって、営業のため必要な行為にあたるか否かは、当該行為につき、その行為の性質の外、取引
の数量をも勘案し、その営業のため必要か否かを客観的に観察してこれを決すべきである。
二、商法 42 条・38 条にいう「営業に関する行為」と民法 715 条の「事業の執行につき」なさ
れた行為との異同 ― 支店長のなした特定の行為が、商法 42 条・38 条にいう「営業に関する行
為」にあたらないことを理由として、直ちに民法 715 条にいわゆる「事業の執行につき」なされ
た行為にもあたらないと断定することは違法である。
三、所有権侵害の故意と特定人の所有権侵害の認識の要否 ― 不法行為者に所有権侵害の故意
があるというためには、特定人の所有権を侵害する事実につき認識のあることを要するものでは
なく、単に他人の所有権を侵害する事実の認識があれば足りる。
民集 11-3-395 判時 106-16 判タ 70-59 ジュリ 129-76
金沢理・別冊ジュリ 49-78
原審:東京高裁 S.29.10.29 判・S27(ネ)1491 号
民集 11-3-425
一審:新潟地裁 民集 11-3-424
[最高裁二小 S.32.11.1 判*] S30(オ)247 号 抵当権設定契約無効確認等請求事件
民法 424 条
(上告棄却)
詐害行為取消権の対象肯定
一部の債権者に対する根抵当権の設定と詐害行為の成否 ― 債務者が、他の債権者に十分な弁
済をなし得ないためその利益を害することになることを知りながら、ある債権者のために根抵当
権を設定する行為は、詐害行為にあたるものと解すべきである。
民集 11-12-1832 判時 132-12 判タ 76-32
板木郁郎・民商 37-5-64
原審:東京高裁 S.29.11.19 判
民集 11-12-1840
一審:静岡地裁浜松支部 S.29.4.14 判
民集 11-12-1835
[最高裁二小 S.33.2.21 判*] S32(オ)401 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権成立・行使の要件
債権発生前の債務者の行為と民法第 424 条 ― 「
債務者の行為が債権者の債権を害するものと
して民法第 424 条の適用ありとするには、その行為が取消権を行使する債権者の債権発生の後で
あることが必要なのであるから(T.6.10.30 大審院判決・民録 23-1624 参照)
、」 上告人である債
権者の債権取得以前の本件債務者の行為は、詐害行為として取消の目的とはならない。
民集 12-2-341
柚木馨・民商 38-3-131
原審:東京高裁 S.32.2.25 判 民集 12-2-346
一審:静岡地裁浜松支部 民集 12-2-344
[最高裁二小 S.33.9.26 判*] S31(オ)420 号 詐害行為取消請求事件(破棄差戻)
民法 424 条
26
詐害行為取消権の対象否定
弁済を詐害行為であると認めた判断が違法とされた事例 ― 債務超過の状態にある債務者が、
一債権者に対しなした弁済が、たとえ原審認定(原判決参照:偏波弁済)の如き経緯に出た場合
であっても、それが債権者から強く要求された結果、法律上当然弁済すべき債務をやむなく弁済
したものと認められる以上、未だこれをもつて債務者が一債権者と通謀し他の債権者を害する意
思をもつてなした詐害行為であると解することはできない。
民集 12-13-3022
玉田弘毅・法律論叢(明大)32-6-139
原審:名古屋高裁 S.31.2.7 判・S.29(ネ)34 号
民集 12-13-3035
一審:名古屋地裁 民集 12-13-3033
*:偏波弁済については、H16 破産法改正の 162 条で、支払不能となる以前の弁済は偏波行為否
認の対象から除外された。
[最高裁三小 S.35.1.12 判*]S31(オ)207 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 16 条 2 項
無権代理による手形の裏書譲渡と手形法 16 条 2 項 ― 裏書が形式的に連続しており、被上告
会社は重大な過失なく裏書譲渡により善意でこれを取得し現にこれを所持しているのであるから、
本件約束手形の所持人たる被上告会社からこれが振出人たる上告会社に対する手形上の権利行使
に消長を来たすものでないと解するのは相当である。
民集 14-1-1 判時 212-32
金判 529-67 商判集三-444
喜多了祐・別冊ジュリ 24-75
森田果・別冊ジユリ 173-50
原審:名古屋高裁 S.30.12.27 判
民集 14-1-21
一審:名古屋地裁 民集 14-1-20
[最高裁三小 S.35.4.26 判*] S32(オ)362 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権成立・行使の要件及び 詐害行為取消権で取消し得る範囲
一 債権者取消権における詐害の意思 ― 詐害行為の成立には、債務者がその債権者を害する
ことを知って法律行為をしたことを要するが、必ずしも害することを意図し、もしくは欲してこ
れをしたことを要しないと解すべきである。
二 抵当権の設定が詐害行為となる場合に、抵当権の目的たる不動産が競売されたときは、債
務者に回復すべきものは何か ― 抵当権の設定が詐害行為として取り消される場合におい
て、抵当権の目的たる不動産がすでに競売されたときは、受益者である抵当権者は、優先弁済金
を債務者に返還すべきである。
三 受益者に利益が残存しない場合における同人の義務 ―前項の場合に、受益者が受けるべき
優先弁済金債権を他人に無償で譲渡した結果、利得が残存しなくなったとしても、右受益者は、
優先弁済金の返還に代わる損害を賠償する義務を免れない。
民集 14-6-1046 判時 223-2
三淵乾太郎・金法 247-39 玉田弘毅・判例評論 29-12
山下末人・民商 43-5-128
原審:高松高裁 S.32.1.26 判 民集 14-6-1061
一審:松山地裁 S.30.11.20 判 民集 14-6-1052
[最高裁二小 S.35.5.6 判*]S35(オ)32 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
商法 520 条
商法 520 条にいう取引時間外にな弁済がなされた場合と遅滞責任の有無 ― 債権者が任意に弁
済を受領し、それが弁済期日内であれば、債務者は遅滞の責を負わない。
民集 14-7-1136 判時 222-27
藤川研策・別冊ジュリ 129-96
27
原審:東京高裁 S.34.10.9 判
一審:東京地裁 S.33.9.24 判
民集 14-7-1143
民集 14-7-1138
[東京地裁 S.35.6.9 判*] S33(ワ)6513 号 売掛代金請求事件(一部棄却)
商法 526 条、民法 566 条・570 条・635 条
制作物供給契約と瑕疵担保責任 ― ①.個々の目的物については直ちに発見することが出来る
瑕疵であっても、目的物が多量であるため、その全体については直ちにその瑕疵を発見出来ない
場合には、其の瑕疵は隠れたる瑕疵である。 ②. 目的物に瑕疵があることを理由としていわゆ
る制作物供給契約を解除する場合には、売買に関する民法 570 条・566 条・商法 526 条を適用す
るのを妥当とする。 ③. いわゆる制作物供給契約において、買主が供給を受けた目的物の瑕疵
を理由に契約を解除する際の要件については、売買に関する民法の規定の外、商法 526 条の規定
が適用される。 ④. 目的物の瑕疵が買主の設計・指図によって生じたものであるときは、買主
は瑕疵を理由に売買契約を解除することができない。
下民集 11-6-1271
判時 231-57
小町谷新商判集 3-998
菅原菊志・ジュリ 269-95
半田正夫・別冊ジュリ 7-126
*菅原評釈:目的物の数量が多く、全体についても直ちに発見できないものである場合には、そ
れは隠れた瑕疵であると判示しているが、これは学説・判例も認めるところである(我妻栄「民
法講義 V2[441]
、
[大審院 S.3.12.12 判*]」
。
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁二小 S.35.6.24 判*] S31(オ)252 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 176 条・401 条 2 項・534 条
不特定物の売買における目的物の所有権移転時期―- 特段の事情がない限り、目的物が特定し
た時に買主に所有権が移転するものと解すべきである。
民集 14-8-1528 判時 233-20
中島英俊・別冊ジュリ 7-88
原審:大阪高裁 S.30.12.24 判
民集 14-8-1544
一審:大阪地裁 S.29.4.26 判
民集 14-8-1538
[最高裁一小 S.35.7.27 判*]
S32(オ)674 号 配当表変更異議事件(棄却)
改正前民訴法 737 条・698 条(現民事執行法)
、民法 369 条
一、仮差押登記後に設定された抵当権と仮差押被保全債権超過部分の債権に対する効力(抵当
権優先)―
仮差押登記後に設定登記された抵当権であっても、仮差押が債権の一部の執行
保全のためになされたものに過ぎないときは、被保全債権額を超える債権の部分に対しては、優
先的効力を対抗できるものと解すべきである。
二、配当異議申立の利益のない事例 ― 配当表を変更しても自己に対する配当を受けることが
できない場合であるときは、配当表に対する異議申立をする利益はないものと解すべき。
民集 14-10-1894 判時 233-23
宮脇幸彦・別冊ジュリ 22-78
原審:東京高裁 S.32.5.6 判 民集 14-10-1908
一審:東京地裁 民集 14-10-1905
[最高裁二小 S.35.9.9 判*] S32(オ)1084 号・手形貸付金請求事件(棄却)
手形法 75 条、民法 454 条
自己の信用を利用させる意味で約束手形の共同振出人となった事実は即、借受金の連帯保証債
28
務負担の意思を推認させるか(消極) ― 他人が金融を受けるについて自己の信用を利用させ
る意味でその他人と共同振出人となつた事実があるからといって、その他人に対し、同金員借受
につき連帯保証債務を負担すべきことを諾約し、その意思を自己に代わって表示する権限を与え
たものと推認しなければならないものではない。
民集 14-11-2114
小橋一郎・民商 44-4-95(BF-040)
原審:高松高裁 S.32.7.24 判 民集 14-11-2122
一審:高知地裁 民集 14-11-2121
[最高裁三小 S.35.11.1 判*]S33(オ)599 号・物件引渡請求事件(棄却)
民法 166 条 1 項
商事 契約の解除に基く原状回復の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効と起算点 ― 商
事契約の解除による現状回復(本件では特定物の返還義務)は商事債務であり、その履行不能に
よる損害賠償義務も同様商事債務と解すべきである。そして右損害賠償義務は本来の債務の物体
が変更したに止まり、その債務の同一性に変りはないのであるから、商事取引関係の迅速な解決
のため短期消滅時効を定めた立法の趣旨からみて、右債務の消滅時効は本来の債務の履行を請求
し得る時から進行を始めるものと解すべきである。契約解除の時から進行する。
民集 14-13-2781 判時 242-29
戸塚登・別冊ジユリ 49-134
原審:札幌高裁 S.33.4.15 判・S31(ネ)220 号
民集 14-13-2784 判時 150-30
一審:旭川地裁
民集 14-13-2783
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[最高裁二小 S.35.12.2 判*] S33(オ)409 号 石炭代金請求事件(上告棄却)
商法 526 条
不特定物売買と商法 526 条の適用の有無 ― 商人間の売買において、
「商法 526 条(買主の検
査・通知義務)の規定は、不特定物の売買の場合にも、適用があると解するのを相当とする。
」
民集 14-13-2893
商判集三-299
黒沼悦郎・別冊ジュリ 129-106
原審:福岡高裁 S.33.1.28 判 民集 14-13-2901
一審:福岡地裁 民集 14-13-2898
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁二小 S.36.4.14 判*] S34(オ)678 号 請求異議事件(上告棄却)
民法 506 条・508 条
時効に罹った債権を譲受け、自働債権としてする相殺(否認) ― 「既に消滅時効にかかった
他人の債権を譲受け、これを自働債権として相殺することは、民法 506 条・508 条の法意に照ら
し許されないものと解するのが相当である。
」
民集 15-4-765 判時 260-15 判タ 119-22
下森定・法協 80-3-101
於保不二雄・民商 45-5-106
原審:東京高裁 S.34.2.28 判・S33(ネ)717 号
民集 15-4-771
一審:横浜地裁
民集 15-4-768
*古田:消滅時効期間経過後の債権も自働債権として相殺に用いることができるが、その相殺は
時効前に相殺適状にあった時点での受働債権の限度に限られる(最判 S.39.2.20・判タ 160-72)。
しかし、消滅時効に罹っている他人の債権を譲受けての相殺は許されないことは、大審院も判
示している(S.15.9.28 判・民集 19-1744)
。その理由とするところは、民法 508 条の立法趣旨
は、相殺適状にある債権を有する者は殆どその債務関係が既に決済されているかのように考え
29
るのを常とするから、この信頼の保護である。既に消滅時効に罹った債権を譲受けても、時効
消滅前に自らの債権として自らの債務との相殺適状がないからである(下森評釈 103 頁)
。
[最高裁一小 S.36.5.4 判*]・S32(オ)355 号 立木所有権等確認請求事件(破棄差戻)
民法 177 条
明認方法は、権利変動の際行われただけでは足りず、第三者が利害関係を取得する当時にも存
在しなければ公示方法としての効力を有しない ― 「明認方法は、立木に
関する法律の適用を受けない立木の物権変動の公示方法として是認されているものであ
るから、それは、登記に代るものとして第三者が容易に所有権を認識することができる手段で、
しかも、第三者が利害関係を取得する当時にもそれだけの効果をもって存在するものでなければ
ならず、従って、たとい権利の変動の際一旦明認方法が行われたとしても問題の生じた当時消失
その他の事由で右にいう公示として働きをなさなくなっているとすれば明認方法ありとして当該
第三者に対抗できないものといわなければならない旨の原判決の見解は、当裁判所もこれを正当
として是認する(なお、大審院 T.6.11.10 判・民録 23-1955、大審院 S.6.7.22 判・民集 10-593、
最高裁三小 S.35.3.1 判・民集 14-3-307、各参照。)
」
民集 15-5-1253
我妻栄・法協 80-3-104 金山正信・法律時報 34-4-84 佐藤良雄・別冊ジュリ 10-200
三藤邦彦・別冊ジユリ 104-130 松井宏興・別冊ジュリ 195-126
原審:仙台高裁 S.32.1.23 判・S.29(ネ)395 号他
民集 15-5-1295
一審:福島地裁会津支部 S27(ワ)259 号 民集 15-5-1285
[最高裁二小 S.36.5.26 判*]S33(オ)265 号・損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 1 条 2 項、宅地建物取引業法 31 条
委託を受けない宅地建物取引業者の業務上の注意義務 ― 宅地建物取引業者は、直接の委託
関係はなくても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三者に対して、信義誠実を旨とし、
権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある。
民集 15-5-1440 判時 261-21
工藤祐巌・別冊ジュリ 192-178
原審:東京高裁 S.32.11.29 判・S32(ネ)57 号
民集 15-5-1450 下民集 8-11-2219
一審:東京地裁
民集 15-5-1446
[最高裁三小 S.36.5.30 判*] S35(オ)842 号 売掛代金請求事件(上告棄却)
民法 173 条 1 号、商法 522 条
民法 173 条 1 号の売掛商品代金債権の短期消滅時効:商人間にも適用があること ― 同号によ
る 2 年の短期消滅時効は、卸商人が、消費者に対し売却した商品代金債権についてのみならず、
転売を目的とする者(商人を含む)に対し売却した商品の代金債権についても、即ち商人間にお
ける売掛代金債権にも適用がある。
民集 15-5-1471
平井宣雄・法協 80-3-111 玉田弘毅・別冊ジュリ 7-152
原審:大阪高裁 S.36.4.27 判・S31(ネ)664 号 民集 15-5-1477 高民集 13-5-441
判時 246-39 判タ 108-55
谷川久・ジュリ 268-92
一審:神戸地裁 民集 15-5-1475
[最高裁大法廷 S.36.7.19 判*] S30(オ)260 号 詐害行為取消請求事件(破棄差戻)
民法 424 条
特定物債権での詐害行為取消権を是認
30
一 特定物引渡請求権者は詐害行為取消権を有するか ― 特定物引渡請求権を有する者も、そ
の目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には、右処分行為を詐害行為として
取り消すことができるものと解すべきである。
二 抵当権の附着する不動産を提供してなされた代物弁済と詐害行為成立の範囲 ―抵当権が
設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は、家屋の価
格から抵当債権額を控除した残額の部分に限って許されると解すべきである。
三 右の場合における原状回復の方法 ―前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代
物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外
はない。
民集 15-7-1875 判時 266-6
森田修・別冊ジュリ 196-32 柚木馨・判例評論 41-4
我妻栄・ジュリ 234-12 板木郁郎・民商 46-2-123
下森定・ジュリ増刊基本判例解説シリーズ 4-111
原審:仙台高裁 S.29.12.28 判・S29(ネ)263 号 民集 15-7-1886 下民集 5-12-2146
一審:福島地裁
民集 15-7-1884
[最高裁三小 S.36.11.21 判*] S35(オ)69 号 土地所有権確認等請求事件(上告棄却)
民法 541 条
いわゆる付随的義務の不履行と契約の解除(消極)
― 「法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は、契約の要素をなす債務の履行がない
ために、該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり、当事者が契約
をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には、
特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができないものと解するのが相当
である」
。
民集 15-10-2507
渡辺達徳・別冊ジュリ 196-90
於保不二雄・民商 46-5-860
原審:東京高裁 S.34.10.31 判
民集 15-10-2518
一審:長野地裁 S.32.3.22 判
民集 15-10-2511
[最高裁二小 S.36.11.24 判**]S32(オ)188 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 16 条 1 項 1 段
手形法 16 条 1 項第 1 段の「看做す」の意義 ―手形法 16 条 1 項第 1 段に「看做す」というの
は、
「推定する」との意味に解すべきである。
民集 15-10-2519 判時 281-27
高田源清・別冊ジュリ 24-188
原審:名古屋高裁 S.31.12.19 判
民集 15-10-2535
一審:津地裁四日市支部 S.31.9.27 判
民集 15-10-2531
*古田:船荷証券や貨物引換証、預証券および倉庫証券には、商法 519 条 1 項により小切手法 19
条が準用されるが、同小切手法 19 条(裏書の授与的効力)
「裏書シ得ベキ小切手ノ占有者ガ裏
書ノ連続ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ適法ノ所持人ト看做ス・・・」の「看做す」も同
様に「推定する」の意味に解されている(平出慶道・商行為法第二版・青林書院 H.1.6 刊・188
頁参照)
。 [大阪地裁 S.43.9.24 判*]も、小切手の所持人が小切手法 19 条の「形式的要件を
具備する場合には、
その者が適法の所持人と推定されることは言うまでもない」と判示している。
[最高裁二小 S.36.12.15 判*] S32(オ)1222 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
商法 526 条、民法 415 条・570 条
不特定物売買で一旦受領した機械に隠れた瑕疵があったため完全な機械の給付を求めたところ
売主がこれに応じないため、買主に解除権を認めた例 ― 「不特定物を給付の目的物とする債
31
権において給付せられたものに隠れた瑕疵があった場合には、債権者が一旦これを受領したから
といって、それ以後債権者が右の瑕疵を発見し、既になされた給付が債務の本旨に従わぬ不完全
なものであると主張して改めて債務の本旨に従う完全な給付を請求することができなくなるわけ
のものではない。債権者が瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容し債務者に対しいわ
ゆる瑕疵担保責任を問うなどの事情が存すれば格別、然らざる限り、債権者は受領後もなお、取
替ないし追完の方法による完全な給付の請求をなす権利を有し、従ってまた、その不完全な給付
が債務者の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権およ
び契約解除権をも有するものと解すべきである。
」
民集 15-11-2852
判時 283-23
小町谷新商判集 3-1016
原審:仙台高裁 S.32.8.28 判
民集 15-11-2860
小町谷新商判集 3-1016
一審:仙台地裁
民集 15-11-2859
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大阪高裁 S.37.2.28 判*] S32(ネ)1572 号 預金返還請求事件(原判決変更・請求棄却)
商法 1 条、民法 505 条・511 条
いわゆる三菱判決の控訴審
一、一般市中銀行において行なわれる手形割引の性質
二、割引手形の買戻請求権の性質
[判示要旨]
一、
「一般に銀行取引として行われる手形割引は、通常、手形の主たる債務者が借主となる趣
旨を明示する手形貸付とは異なり、
・・・手形を裏書譲渡し、手形債権そのものを移転することに
より、割引代金を取得することを契約の要素とするものであって、
」手形の売買であることを本質
とし、これに買戻請求権を附随せしめることにより、
「割引による取得手形の不渡その他価値の消
滅・減少の場合に備えて、
」その足らざる機能を完備せんとしているものである。
二、割引手形の買戻請求権は、手形法上の権利ないしこれと同様の権利ではなく、手形法外の
権利であり、銀行取引約定に基づく手形買主である銀行の請求により、手形が満期に達している
かにかかわりなく買戻金請求債権を生ぜしめる一種の形成権と解すべきである。この場合、手形
の交付との同時履行の抗弁権を生じるが、その放棄が前記の銀行取引約定で合意されており、こ
の合意は有効である。本件訴は、国税滞納者である手形割引売主の預金債権を差押えた国が滞納
者に代位してその支払を請求するものであるが、銀行は差押えられる前に買戻請求を行っている
ので、同銀行の買戻金請求債権は差押前に存在しており、この預金債務と銀行が行った相殺は有
効である(民法 511 条)
。 国による預金返還代位請求を棄却。
高民集 15-5-309 判時 306-23 判タ 129-104 金法 302-3
小町谷新商判集 3-416
菅原菊志・別冊ジュリ 38-127
前田庸・ジュリ 319-87
一審:京都地裁 S.32.12.11 判・S29(ワ)906 号 下民集 8-12-2302 判時 137-8 金法 163-31
小町谷新商判集 3-429&-757
*古田:銀行の手形割引について、これを売買とみるか消費貸借とみるかでまず問題となるのは
民法 511 条との関係である。即ち、消費貸借であれば銀行の債権は同時に成立しているので、
その後に第三債務者として預金債務の差押を受けても相殺で対抗できるが、売買であれば現実
に買戻請求権が発生しない間に差押を受ければ、その後に生じた買戻請求権での相殺はできな
いことになる。本件 1 審において被告三菱銀行は消費貸借である旨を主張したが、判決は売買
説を採った。しかし買戻請求権が差押前に生じていたことは認定されたものの、相殺による差
押債権不存在の主張は、手形の呈示・交付がされていないことから否定された。肝心の相殺が
認められなかった銀行業界のショックは強かったと思われる(いわゆる三菱事件)が、幸いに
して、控訴審ではその呈示・交付を要しない旨の銀行取引約定書での合意の有効性が認められ
32
て相殺が是認された。
この事件を契機に銀行協会は S.37.8 に銀行取引約定書のひな形を作成し、この控訴審判決に
沿う買戻条項が入れられた。全国の金融機関は以後これを採用しているので、その後の判例も
売買説である(最高裁一小 S.48.4.12 判・S46(オ)111 号・金法 686-30・金判 373-6、最高裁一
小 S.51.11.25 判・S46(オ)457 号・民集 30-10-939・判時 837-89・金法 809-73)
。 尤も、手形
割引のつど手形額面金額に相当する借入金負担特約がある事例では、その実態から消費貸借説
を採る裁判例もある(最高裁三小 S.41.3.15 判・S38(オ)971 号・民集 20-3-417・判時 444-69・
金法 440-11)
。
詳しくは、後藤紀一・
「手形割引の法的性質と貸金業者の期限の利益喪失条項の効力」・広島
法科大学院論集 3 号 49~77、最高裁三小 S.41.3.15 判は瀬戸正二の法律時報 38-8-116、最高裁
一小 S.48.4.12 判は並木和夫の別冊ジュリ 173-188、最高裁一小 S.51.11.25 判は吉原和志の別
冊ジュリ 173-190、各参照。
[最高裁三小 S.37.3.6 判*] S36(オ)286 号 所有権移転登記代位請求事件(上告棄却)
国税徴収法 178 条、民法 424 条
詐害行為取消権の対象肯定
一 国税徴収法第 178 条と受益者または転得者の善意の挙証責任 ― 国税徴収法 178 条によ
り民法 424 条を準用する場合において、同条 1 項但書にいわゆる受益者または転得者の善意の挙
証責任は受益者または転得者に存するものと解すべきである。
二 いわゆる代物弁済的譲渡担保が詐害行為を構成するとされた事例 ― 甲に対して債務
270 余万円を負担する乙が、少なくともそのうち 120 万円の未払額あることを知りつつ、唯一の
財産である価格 200 万円相当の不動産につき、丙に対する元本 130 万円、利息日歩 3 銭、期限 1
年後なる消費貸借債務の担保とするため、所有権を一応丙に譲渡し、弁済期に返済しないときは
所有権は完全に丙に帰属することとし、その趣旨で登記も丙名義としておくいわゆる代物弁済的
譲渡担保契約をすることは、特段の事情がない限り、甲(債権者)に対して民法 424 条の詐害行
為を構成する。
民集 16-3-436 判時 298-19 金法 308-10
淡路剛久・別冊ジュリ 17-182 右田堯雄・金法 308-10 & 曹時 17-3-104
原審:東京高裁 S.35.12.12 判 民集 16-3-441
一審:長野地裁 S.34.12.26 判・S33(ワ)136 号 民集 16-3-439
[最高裁三小 S.37.5.1 判*] S35(オ)909 号約束手形金請求事件(棄却)
商法 42 条、保険業法 42 条
保険会社の支社長が商法 42 条にいう「支店」の営業の主任者にあたらないとされた事例 ― 保
険会社の支社が、新規保険契約の募集と第一回保険料徴収の取次のみをその業務とし、保険会社
の基本的事業行為たる保険契約の締結、保険料の徴収ならびに保険事故ある場合の保険金の支払
業務を独立してする権限、組織を有しない場合、その支社長は商法 42 条にいう「支店」の営業の
主任者にはあたらない。
民集 16-5-1031
金法 314-10
山田広巳・別冊ジュリ 194-56
原審:名古屋高裁 S.35.5.23 判・S31(ネ)501 号
高民集 13-4-387 判タ 106-44
一審:名古屋地裁
民集 16-5-1039
[東京地裁 S.37.7.20 判*] S32(ワ)5293・S33(ワ)633 号 損害賠償請求事件(認容)
民法 423 条、法例 9 条
一、アメリカの損保にわが国の交通事故被害者が保険金支払を請求する債権者代位権の準拠法
33
― 「債権者代位に関する規定は、債権者に、債務者の第三債務者に対する、直接の実体法上の請
求権を付与する規定ではなく、債権者が、自己の名に於いて、債務者に属する権利を、訴訟上追
行し得る権限を付与する、訴訟法上の規定と解釈する。
・・・訴訟法上、何人が訴訟実施権を有す
るかの問題の解釈の基準については、法廷地法を適用すべきであると考えられるから、
・・・原告
X らが、Y2(被告・被保険者)の Y3(被告・保険者)に対する保険金請求権を代位行使するこ
とが許されるか否かについては、法廷地法たる日本民法が適用されると謂わなければならな
い。
・・・保険金請求権を代位行使することは、民法 423 条 1.項本文の規定に基づき適法である
と謂わなければならない。
」
二、アメリカの保険会社のノー・アクション・クローズの効力(消極)― 「この条項は、
『ノ
ーアクション・クローズ』と呼ばれるだけに、被害者の告訴権、或は、出訴に対する制限を規定
したものと見られるが故に、その意味において、訴訟法に関する合意と解釈すべきであると考え
られる。もしそうだとすれば、かような告訴権又は出訴の制限に関する、訴訟法上の合意は、法
廷地法たる我国の民事訴訟法に照らし、無効であると謂わなければならない。」
下民集 13-7-1482 判時 311-20
豊崎光衛・ジュリ 271-103
楢崎みどり・別冊ジュリ 210-97
三ツ木正次・別冊ジュリ 133-106
竹内昭夫・東大商法研「商事判例研究 昭 37 年度」有斐閣刊-325
*楢崎評釈:本件で問題となったノーアクション・クローズは、保険会社を濫訴から保護するも
のであるが、我国でも自動車保険約款が一般にこうした条項を規定しているため、本件判決が
条項全体を公序違反とした点には疑問がある。
[東京高裁 S.41.8.29 判*]およびその原審の
東京地裁 S40.4.26 判は、同様の条項につき準拠法には言及していないがその効力を認めて
いる。裁判実務で被害者が加害者と保険者を同時に相手取る訴訟提起が認められている以
上、同条項を根拠として訴えを無効とする保険者の抗弁は認められないであろう。
⇔古田:その後、保険法の H.22 施行で法的状況は変わっている。
*[東京高裁 S.41.8.29 判*]の評釈参照。
[最高裁三小 S.37.8.21 判*] S33(オ)388 号 納品代金請求事件(破棄差戻)
民法 478 条
債権の準占有者への弁済
一、債権者の代理人と称して債権を行使する者への弁済 ― 債権者の代理人と称して債権を
行使する者についても民法 478 条が適用される。
二、債権の準占有者に対する弁済と弁済者の善意無過失 ― 債権の準占有者に対する弁済が
有効とされるためには、弁済者が善意かつ無過失であることを要する。
民集 16-9-1809 判時 321-4 金法 334-11
中舎寛樹・別冊ジュリ 196-72 椿寿夫・判例評論 56-19 藤江忠二郎・金法 340-348
原審:東京高裁 S.33.2.5 判・S29(ネ)272 号
民集 16-9-1823 判時 142-12
一審:東京地裁 S.29.1.23 判・S27(ワ)1347 号
民集 16-9-1819 下民集 5-1-70
*我妻栄・新訂債権総論(民法講義Ⅳ)-[399]:「占有の要件たる「自己のためにする意思」(民
法 180 条・205 条)は、広い概念であって、いわゆる占有代理人もまたこの意思をもち、その
者のために占有が成立し得ることについては、今日の学説・判例の疑わないところである。債権
の準占有についても、同様に、代理欄雄関係を認めるべきである。然るときは、債権者の代理人
だといって債権を行使する者に対する弁済も準占有者への弁済とみるべきことはむしろ当然で
あろう。と述べられている。
*:民法 478 条の債権の準占有者に対する弁済の適用ないし類推適用に関する収録判決例は、本
件の他、
[最高裁三小 S.48.3.27 判*]
・
[最高裁二小 S.61.4.11 判*]
・
[最高裁一小 H.9.4.24 判
*]
・
[東京地裁 H.11.1.22 判*]
・
[釧路地裁 H.24.10.4 判*]がある 要参照。
なお、金融機関では預金通帳等の盗難により、この種の判決例が多く現れている:金判
1193-4・同 1200-4・同 1206-14 参照。
34
[最高裁三小 S.37.10.9 判*] S34(オ)1084 号 分配金請求事件(上告棄却)
民法 424 条・425 条
詐害行為取消を行使した債権者の義務
詐害行為取消債権者は受益者より引渡を受けた価格賠償金を他の債権者に分配する義務を負
うか ― 詐害行為取消の判決に基づき取消債権者が受益者より自己に価格賠償金の引渡を受
けた場合、取消債権者は、右価格賠償金を他の債権者に分配する義務を負うものではない。
民集 16-10-2070
金法 329-13
原島重義・民商 49-1-67 川島武宣・法協 81-3-87
高津環・金法 329-13
原審:仙台高裁 S.34.7.8 判
民集 16-10-2082
一審:青森地裁 S.33.5.29 判・S32(ワ)252 号 民集 15-10-2076 判タ 81-80
*古田:取消債権者は受領した金銭の債務者への返還義務と被保全債権を相殺することにより、
受益者その他の債権者に事実上優先して自己の債権の回収が可能となる。これは、優先弁済権
能がない留置権の場合と同様である。
[最高裁二小 S.37.10.12 判*] S35(オ)646 号 詐害行為取消並び売掛代金請求事件
民法 424 条・147 条・173 条 1 号
(上告棄却)
詐害行為取消の訴と債権の消滅時効の中断 ― 債権者が受益者を相手どって詐害行為取消の
訴を提起しても、右訴訟においては単に、詐害行為の取消の先決問題として本件売掛代金債権を
主張するにとどまり、直接、債務者に対し裁判上の請求をするものではないから、右詐害行為取
消訴訟の提起をもって、債務者に対する同債権につき消滅時効中断の効力を生じない。
民集 16-10-2130 判時 324-18
風間鶴寿・法律時報 35-5-84 遠藤浩・判例評論 57-20
於保不二雄・民商 49-1-94 伊東乾・法学研究(慶応大)37-3-99
原審:大阪高裁 S.35.2.22 判 民集 16-10-2138
一審:神戸地裁 民集 16-10-2136
*古田①:本件は、商人間の売買での詐害行為取消の訴をその受益者に提起し、その後同売買の
売掛代金債権の消滅時効(2 年:民法 147 条)の期間経過後に売掛代金請求の訴を債務者に提
起。両訴は併合審理され、一・二審・上告審とも、既に売主の債権が時効消滅しているとの判
示で、売主(原告・控訴人・上告人)敗訴。 商人間の物品代金債権の消滅時効は、商法 522
条本文による 5 年ではなく、同条但書により、民法 173 条 1 号の 2 年の短期消滅時効である(最
高裁三小 S.36.5.30 判・S35(オ)842 号・民集 15-5-1471)
。
*風間評釈:債権者が、民法 424 条によって詐害行為取消の訴や、あるいは民法 423 条によって
債権者代位権を行使しても、それはあくまで当該権利の保全行為ではあり得ても、その権利の
実現に向けられた固有の権利行使=権利主張と同視することはできないので、時効の進行は中
断しない。けだし、債権者代位権の行使といい、詐害行為取消権といい、その権利行使の直接
の効果は、単に弁済の引当となっている債務者の財産を保全するにとどまり、債権そのものの
行使(いわゆる請求)とは何ら直結する関連はないからである。
*古田②:消滅時効に関する基本的な判決例には、本判決のほか次のものがある
[最高裁大法廷 S.41.4.20 判*]
[最高裁二小 S.42.10.27 判*]
[最高裁一小 S.43.9.26 判*]
[最高裁二小 H.10.6.22 判*]
[大阪高裁 H.18.4.18 判*]。
次のものも、消滅時効に関する判決例である [最高裁二小 S.42.10.6 判*][最高裁三小
S.48.10.30 判*]
[最高裁一小 S.55.1.24 判*]
[最高裁一小 H.25.6.6 判*]
。
[最高裁一小 S.37.12.13 判*] S33(オ)60 号 競売売得金に対する優先権確認請求事件
民法 94 条 2 項、破産法
(上告棄却)
35
破産者の通謀虚偽表示につき破産管財人は民法 94 条 2 項の第三者にあたるか ― 破産者が
相手方と通じてある財産についてなした虚偽の意思表示ある場合、破産管財人は、その選任によ
って当然に、右財産が破産財団に属するかどうかを主張するについて法律利害関係を有するに至
り、民法 94 条 2 項の第三者となる。
集民 63-591 判タ 140-124
原審:東京高裁 S.32.10.11 判
[最高裁二小 S.37.12.14 判*] S35(オ)1428 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
自賠法 3 条
自動車損害賠償保障法 3 条本文にいう「他人」のうちには、当該事故自動車の運転者は含まれ
ない。
民集 16-12-2407 判時 327-36 判タ 141-51
田中永司・最判解民事編 S37 年度-455 西嶋梅冶・民商 49-3-71 田中永司・曹時 15-2-81
福地俊雄・別冊ジュリ 18-56
原審:東京高裁 S.35.9.22 判・S35(ネ)80 号
民集 16-12-2418 判タ 111-60
一審:東京地裁 S.34.12.18 判・S33(ワ)7638 号
民集 16-12-2413 判時 211-20
判タ 102-48
西川達雄・判例評論 25-15
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[最高裁二小 S.38.3.1 判*] S35(オ)991 号 約束手形金請求事件(破棄自判)
商法 26 条 1 項
営業譲渡と「新」を付加しての商号の続用 ― 商号の続用にはあたらない
民集 17-2-280 判時 336-37
商判集三-23
鈴木千佳子・別冊ジュリ 194-42
原審:福岡高裁 S.35.6.15 判・S33(ネ)497 号 民集 17-2-285 高民集 13-4-405 判時 232-29
一審:福岡地裁小倉支部
民集 17-2-283
[大阪高裁 S.38.3.26 判*]
S37(ネ)38 号 仮の地位を定める仮処分事件
商法 25 条
企業譲渡と労働契約の帰すう ― 企業の経営組織の変更を伴わないところの企業主体の交替を
意味するが如き企業譲渡の場合においては、その際に付随的措置として労働者の他の企業部内へ
の配置転換がなされるとか、その他新主体に継承せしめない合理的な措置が採られる等特段の事
情のない限り、従前の労働契約関係は当然新企業主体に承継されたものと解するのが相当である。
高民集 16-2-97 労民集 14-2-439 判時 341-37
評釈:須崎博史・別冊ジュリ 194-40
一審:神戸地裁姫路支部 S.36.12.13 判・S36(ヨ)100 号
労民集 12-6-1055
[最高裁三小 S.38.4.23 判*] S35(オ)955 号 建物収去・土地明渡請求事件(上告棄却)
民法 423 条、借地法 10 条(現・借地借家法 14 条)
債権者代位権の転用が認められなかった事例
土地所有権の転得者から明渡を訴求された建物賃借人の、建物賃貸人の有する借地法第 10 条
の規定による建物売買請求権の代位行使(否認) ― 「債権者が民法 423 条により債務者の権
利を代位行使するには、その権利の行使により債務者が利益を享受し、その利益によって債権者
の権利が保全されるという関係が存在することを要するものと解される。しかるに、本件におい
て上告人ら(筆者注:建物賃借人で被告・控訴人)債務者である訴外 D(建物賃貸人)の有する
本件建物の買取請求権を代位行使することにより保全しようとする債権は、右建物に関する賃借
権であるところ、右代位行使により訴外 D が受けるべき利益は建物の代金、すなわち金銭債権に
36
過ぎないのであり(買取請求権行使の結果、建物の所有権を失うことは、訴外 D にとり不利益で
あって、利益ではない)
、右金銭債権により上告人らの賃借権が保全されるものでないことは明ら
かである。
」 買取請求権の代位行使を否認。
民集 17-3-536
石外克喜・法律時報 36-1-83 三宅正男・民商 49-6-103
原審:東京高裁 S.35.6.14 判 民集 17-3-541
一審:東京地裁 民集 17-3-540
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[最高裁一小 S.38.10.10 判*] S36(オ)15 号他 根抵当権抹消登記手続等請求事件
民法 424 条
(一部破棄、一部差戻)
詐害行為取消権成立・行使の要件
売買一方の予約に基づき売買本契約が成立した場合における詐害行為の要件具備の時期
―
売買一方の予約に基づいて売買本契約が成立した場合は、売買予約締結当時を基準として
詐害行為の要件の具備の有無を判断すべきである。
民集 17-11-1313
松坂佐一・民商 51-1-103 星野英一・法協 83-1-128
原審:仙台高裁 S.35.10.10 判 民集 17-11-1328
一審:青森地裁 S.33.7.21 判 民集 17-11-1320
*星野評釈:本件は、一人の債権者に対する不動産売買予約およびその完結権行使が詐害行為に
あたるか否かを判断するのは、完結権行使の時であってはならない、予約締結の時に他の債権
者(詐害行為取消請求の債権者)を害したか否かを見なければならない、としていることにな
る。これは、大審院・最高裁を通じての最初の判決であり、その点に意義がある。下級審判決
にも、この問題を正面から扱ったものは、一般論として判旨と同趣旨のものが一つあるだけで
ある(東京地裁 S.33.10.29 判・判時 169-16.。結局受益者に悪意がないとして取消が否定され
ている)
。
[最高裁一小 S.39.1.23 判*] S36(オ)884 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条、商法 141 条(H.18 廃止前)、H.18 廃止前有限会社法 75 条 1 項
詐害行為取消権の対象否定
商法 141 条と民法 424 条の関係 ― 商法 141 条の適用または準用ある会社についての詐害設
立取消には、民法 424 を適用する余地はない。
民集 18-1-87 判タ 161-71
酒巻俊雄・別冊ジユリ 80-180 実方正雄・民商 51-4-183
中島恒・曹時 16-5-77
原審:広島高裁岡山支部 S.36.3.31 判 民集 18-1-95
一審:岡山地裁津山支部 民集 18-1-92
[最高裁二小 S.39.4.17 判*] S37(オ)1157 号 土地明渡等本訴並びに反訴(所有権移転
民法 423 条
登記抹消登記請求の代位行使の代位行使)請求事件(上告棄却)
債務者が有する債権者代位権の代位行使(肯定) ― 「被上告人は、訴外 K 電鉄(株)に対す
る債権者として、右会社 K が訴外 S に対する債権者として有する S の上告人に対する登記抹消請
求権を代位行使する権利を代位行使する趣旨で本件反訴請求をなすものであることは記録により
明らかであり、原判決認定の事実関係の下において(筆者注:本件土地は、S→上告人、上告人→K、
K→被上告人 と順次買付られ現に被上告人が使用しているが、上告人が S から買付けたとして上告
人名義に所有権移転登記がされた。しかし原判決は、上告人の買付の事実を否定している。)被上告人
の右代位権行使は適法である(大審院 S.5(オ)243 号・S.5.7.14 判決・民集 9-730 参照)。」
民集 18-4-529 判時 374-18 判タ 162-76
37
坂井芳雄・金法 377-13 好美清光・民商 51-6-95
原審:大阪高裁 S.37.6.30 判 民集 18-4-539
一審:京都地裁 S.36.12.1 判 民集 17-4-534
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[最高裁三小 S.39.4.21 判*] S37(オ)158 号 転付債権請求事件(上告棄却)
民法 474 条
民法 474 条(第三者による弁済)2 項にいう「利害の関係」を有する者の意義 ― 「民法 474
条 2 項にいう『利害の関係』を有する者とは、物上保証人。担保不動産の第三取得者などのよう
に弁済をすることに法律上の利害関係を有する第三者をいうものと解するのが相当」である。
民集 18-4-566 判時 374-19 判タ 162-77
山下末人・民商 51-6-116
枡田文郎・曹時 16-6-109
原審:福岡高裁 S.36.11.11 判
民集 18-4-570
一審:福岡地裁柳川支部 S.34.8.4 判 民集 18-4-569
[最高裁二小 S.39.5.23 判*] S38(オ)789 号 登記抹消請求事件(上告棄却)
民法 109 条
不動産の処分に関する白紙委任状等の転得者がその書類を濫用した場合と民法 109 条の適用の
有無(消極) ― 債務者甲が債権者乙との間に甲所有の不動産について抵当権設定契約を締結
し、甲が乙に対し右抵当権設定登記手続のため白紙委任状等の書類を交付して右登記手続を委任
した場合でも、とくになんびとが右書類を行使しても差し支えない趣旨でこれを交付したもので
ないかぎり、乙がさらに右書類を丙に交付し、丙が右書類を濫用して甲代理人名義で丁との間に
右不動産について抵当権設定契約を締結したときは、甲は、民法 109 条にいわゆる「第三者ニ対
シ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者」にあたらない。
民集 18-4-621 判時 379-26 判タ 164-74
後藤巻則・別冊ジュリ 195-56
四宮和夫・法協 91-7-106
谷口知平・民商 52-1-108
原審:東京高裁 S.38.4.26 判 民集 18-4-632
一審:横浜地裁川崎支部 S.37.2.21 判 民集 18-4-626
[最高裁二小 S.39.6.12 判*] S38(オ)680 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権成立・行使の要件
詐害行為取消権の行使の方法 ― 「 詐害行為の取消については、民法 424 条に『裁判所ニ請求
スルコトヲ得』と規定しているから、訴の方法によるべく、抗弁の方法によることは許されない
ものと解するを相当とする。
」
民集 18-5-764 判時 379-25 判タ 164-81
松坂佐一・民商 52-2-26 宮田信夫・法曹 16-8-76
原審:東京高裁 S.38.2.27 判・S36(ネ)1658 号 民集 18-5-770
一審:横浜地裁 S.36.7.4 判 民集 18-5-768
[最高裁二小 S.39.7.10 判*] S36(オ)553 号 詐害行為取消等請求事件(破棄差戻)
民法 424 条・369 条 1 項
詐害行為取消権の対象否定
受益者が詐害行為の目的不動産に抵当権を設定した場合と右詐害行為取消請求 ― 詐害行為
として不動産売却行為を取り消し所有権取得登記の抹消を受益者に請求する訴は、受益者が当該
38
不動産上に第三者のために右不動産の価格を上廻る被担保債権額について抵当権を設定している
場合には、特段の事情のないかぎり、許されない。
民集 18-6-1078 判タ 168-85
小川善吉・金法 402-17 玉田弘毅・民商 52-3-71
原審:名古屋高裁金沢支部 S.36.3.1 判・S35()121 号他
民集 18-6-1086 下民集 12-3-403
一審:金沢地裁 S.35.4.11 判
民集 18-6-1082
[最高裁一小 S.39.7.16 判*]S36(オ)1232 号・報酬金請求事件(上告棄却)
商法 512 条・550 条 1 項・546 条、宅地建物取引業法 17 条、民法 648 条 3 項・641 条
不動産売買仲介の依頼が合意解除された場合における不動産取引仲介業者の報酬請求権 ― 不
動産取引仲介業者に対する不動産売買仲介の依頼が合意解除された後、当事者間の直接取引によ
り右不動産を目的とする売買契約が成立した場合においても、右業者の仲介と当該売買契約成立
との間に因果関係がなく、右解除も故意に右業者を除外する目的でなされたものでなく、かつ、
右依頼に関して報酬金の特約もなかつたときに、右業者が報酬金を請求できるという一般取引観
念が存するものとは認められない。
民集 18-6-1160 判時 384-49 判タ 165-74
石田喜久夫・民商 52-3-116
中川高男・別冊ジュリ 10-218
原審:東京高裁 S.36.8.7 判・S35(ネ)2684 号
民集 18-6-1173
一審:東京地裁 S.35.11.9 判
民集 18-6-1165
*古田:
「宅地建物取引の仲介が一種の民事仲立であり、また、仲介人は契約成立のために尽力す
る義務を負うのが普通であるため、右仲介が委任の特殊な類型であることについては、異論が
ない。
」
:石田評釈 120 頁。 これを業とする宅地建物取引業者は、商法 502 条(営業的商行為)
11 号により商人であるが(商法 4 条 1 項)、委託者の不動産売買は商行為でないのが通常であ
るから他人間の商行為の媒介を業とする商法 543 条の仲立人には該当せず、従って報酬請求権
を規定する同 550 条の適用がない。
しかし宅地建物取引業者は商人であるから、商人の行為の有償性を定めた原則規定である商
法 512 条の対象となり、
① :委託者のためにする意思をもってした仲介には、特約がなくても当然に報酬請求が認
められる:
[最高裁三小 S.43.4.2 判*]
。
② -1:委託者を受けていない者への報酬請求については、仲介行為の反射的利益をその者
が得ていても当人のためにする意思をもってしたものではないからそれを否定した判例:[最
高裁一小 S.44.6.26 判*]・[最高裁二小 S.50.12.26 判*]、名古屋地栽 H.5.6.11 判・H
2(ワ)1838・判タ 833-218 と、
③ -2:委託を受けていなくても客観的にその者のためにする意思を持ってされたことが認定
されて報酬請求を是認した判例がある:東京高裁 S.60.12.25 判・S60(ネ)729・734・判時 1179-125、
名古屋地裁 S.61.12.26 判・S57(ワ)255・S60(ワ)889・判タ 632-164、福岡高裁 H.2.3.28 判・
H1 (ネ)573・判時 1363-143、
[東京地裁 H.8.7.3 判*]。
問題は、この委任が解消された後に当事者間で契約を成立させた場合である。本件の事案で
は、一審・二審・最高裁とも仲介依頼は正当に解除されていること及び既になされていた斡旋
は売買契約成立に因果関係が存するとは言えない旨を判示して、報酬請求を却下している。他
方[最高裁一小 S.45.10.22 判*]は委託者が故意に仲介による契約の成立を妨げて直接売買契
約を成立させたことを認定して、民法 648 条 3 項を適用すると共に、契約成立の約定報酬の請
求を是認している。また、
[大阪地裁 S.51.3.8 判*]は委託者に信義違反がない場合であり、
仲介当時の売買代金想定額を対象にしての民法同項による割合での仲介報酬を判示している。
[最高裁一小 S.39.10.15 判*] S35(オ)1029 号 建物収去土地明渡請求事件(上告棄却)
民法 33 条、民訴法 46 条(現 29 条)
39
一、法人に非ざる社団の成立要件 ―法人に非ざる社団が成立するためには、団体としての組織
をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織におい
て代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要する。
二、その権利・義務と資産の帰属 ― 「このような権利能力のない社団の資産は構成員に総有
的に帰属する。そして、権利能力のない社団は『権利能力のない』社団でありながら、その代表
者によってその社団の名において構成員全体のため権利を取得し、義務を負担する」
。
民集 18-8-1671 判時 393-28 判タ 169-117
小笠原浄二・金法 1581-58
山田誠一・別冊ジュリ 195-20 福地俊雄・民商 52-5-733 星野英一・法協 96-1-107
原審:東京高裁 S.35.6.21 判
民集 18-8-1694 下民集 11-6-1344
一審:東京地裁 S.31.4.9 判・S29(ワ)6641 号 民集 18-8-1685 下民集 7-4-890 判時 79-12
*:
「権利能力のない社団」の判決例は、本件の他、
[最高裁一小 S.44.6.26 判②*]・[最高裁三
小 S.48.10.9 判*]
・
[最高裁一小 S.49.9.30 判*]も参照。
[最高裁三小 S.39.11.17 判*] S37(オ)107 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権の対象肯定
債務者の適正価格による財産処分行為が詐害行為にあたるとされた事例 ―「 債務超過の債務
者が、とくにある債権者と通謀して、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもと
に、自己の有する重要な財産を右債権者に売却して、右売買代金債権と同債権者の有する債権と
を相殺する旨の約定をした場合には、たとえ右売買価格が適正価格であるとしても、右売却行為
は民法 424 条所定の詐害行為にあたるものと解するのを相当とする(大審院 T.13.4.25 判・民集
3-165、同 S.8.5.2 判・民集 12-1057 参照)
。
」
民集 18-9-1851 判時 399-30 判タ 173-129 金判 529-189
石神兼文・別冊ジュリ 38-222 好美清光・民商 52-6-101 宮田信夫・法曹 17-3-104
原審:福岡高裁 S.36.7.5 判
民集 18-9-1856
一審:福岡地裁久留米支部 S.34.4.14 判・ 民集 18-9-1856
[最高裁大法廷 S.39.11.18 判*]S35(オ)1151 号 貸金請求事件(破棄差戻)
利息制限法 1 条・2 条・4 条、民法 404 条・491 条
債務者が任意に支払った利息制限法所定の制限を超える利息・損害金は、当然に残存元本に充
当されるか
[判示要旨]
「債務者が、利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払っ
たときは、右制限をこえる部分は民法 491 条により残存元本に充当されるものと解するを相当と
する。その理由は後述のとおりである。従って、右と見解を異にする当裁判所の判例(最高裁大
法廷 S.37.6.13 判・S35(オ)1023 号・民集 16-7-1340 参照)は、これを変更すべきものと認める。
債務者が利息、損害金の弁済として支払った制限超過部分は、強行法規である本法 1 条、4 条
の各 1 項により無効とされ、その部分の債務は存在しないのであるから、その部分に対する支払
は弁済の効力を生じない。従って、債務者が利息、損害金と指定して支払つても、制限超過部分
に対する指定は無意味であり、結局その部分に対する指定がないのと同一であるから、元本が残
存するときは、民法 491 条の適用によりこれに充当されるものといわなければならない。
本法 1 条、4 条の各 2 項は、債務者において超過部分を任意に支払つたときは、その返還を請
求することができない旨規定しているが、それは、制限超過の利息、損害金を支払った債務者に
対し裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないとした趣旨と解するを相当とする。
また、本法 2 条は、契約成立のさいに債務者が利息として本法の制限を超過する金額を前払し
ても、これを利息の支払として認めず、元本の支払に充てたものとみなしているのであるが、こ
40
の趣旨からすれば、後日に至って債務者が利息として本法の制限を超過する金額を支払った場合
にも、それを利息の支払として認めず、元本の支払に充当されるものと解するを相当とする。
更に、債務者が任意に支払った制限超過部分は残存元本に充当されるものと解することは、経
済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする本法の立法趣旨に合致するものである。
右の解釈のもとでは、元本債権の残存する債務者とその残存しない債務者の間に不均衡を生ずる
ことを免れないとしても、それを理由として元本債権の残存する債務者の保護を放擲するような
解釈をすることは、本法の立法精神に反するものといわなければならない。
」
(裁判官横田喜三郎・奥野健一・斎藤朔郎の各補足意見、裁判官石坂修一・横田正敏の反対意
見 がある。
)
民集 18-9-1868 判時 390-8 判タ 168-179
谷口知平・法律時報 37-1-64
我妻栄・ジュリ 314-10 宮田信夫・ジュリ 314-17 西村信雄・民商 52-6-111
玉田弘毅・別冊ジュリ 47-12
原審:福岡高裁宮崎支部 S.35.7.18 判
民集 18-9-1889
一審:鹿児島地裁 S.34.4.24 判
民集 18-9-1884
*古田:H18 改正により削除された利息制限法 1 条 2 項「債務者は、前項の超過部分を任に支
払ったときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。」と規定してい
たが、本件[最高裁大法廷 S.39.11.18 判*]は、超過利息を任意に支払った場合でも、残存して
いる元本には充当されると判示した。 そして[最高裁大法廷 S.43.11.13 判*]は、元本完済後
にも超過利息の支払が続けられた場合、過払になった金銭を不当利得(民法 703 条)として返還
請求できると判示した。その理由は、利息制限法 1 条 2 項は元本が存在することを前提とした規
定図あるから、元本が完済された後には適用がないとし、同 2 項を空文化することで、過払金請
求を可能とした。
その後の大きな流れについては[最高裁二小 H.18.1.13 判*]末尾の古田
コメント参照。
[東京高裁 S.40.3.24 判*]S38(ネ)801 号 損害賠償請求事件(控訴棄却)
国家賠償法 2 条 1 項、民法 415 条、商法 590 条 1 項、ワルソー条約 17 条
ワルソー条約 17 条にいう「乗降のための作業中」の意義 ― 同 17 条に規定する旅客の死亡ま
たは身体障害による運送人の損害賠償責任発生に関する「乗降のための作業中」というのは、旅
客を航空機に搭乗させるための諸種の作業によって航空運送に特殊的な危険発生の可能性の存す
る期間、すなわち旅客が改札を受けて、飛行場に入った時から着陸後飛行場を去る時までをいう
ものと解すべきである。本件事故は、飛行場に旅客が入る前に生じたものである。
高民集 18-2-188 判時 408-11 江泉芳信・ジュリ 584-155
鴻常夫・別冊ジュリ 34-212
山崎悠基・ジュリ 415-1253(E-1-⑥)
一審:東京地裁 S.38.3.27 判・S33(ワ)8985 号
*江泉評釈:旅客の人身損害についての航空運送人の責任の始期及び終期を規定する 17 条の「乗
降のための作業中」に関する判例は、我国では本件判決があるのみであるが、外国の判例には
次のものがあり、本判決を含め、お互いに近い立場を示している。
(1)フランスの破棄院は、
「
『降機』という文言に対するワルソー条約の適用は、飛行機が駐機
されたエプロンに旅客が足を着けた時に終了するものではない」と認めた(Cour de Cassation,
1966, Revue Francaise de Droit Aerien, 1966, 288)。
(2)米国連邦第 1 巡回区控訴裁判所は、ワルソー条約の解釈について「条約は、事故が降機の
ための作業中に発生することを要求する。この言葉に本来の意味を与えるならば、降機のため
の作業は、旅客が用意された何らかの機械的手段を利用して航空機から降り、空港内の安全地
点に到達した時に終了する、と思われる」と判示している(MacDonald v. Air Canada, 1st Cir.
1971, 439F. 2d 1402)
。
*:この関係の条約は、ワルソー条約が 1953(S.28).8 以来、ヘーグ改正条約が 1967(S.42).11
以来、モントリオール第四議定書が 2000(H.12).9 以来、モントリオール条約が 2003(H.15).11
41
以来、我国について発効している。 これら各条約の概要と適用関係等の詳細は、
[大阪地裁 H.24.12.12 判]の古田コメント①・②を参照。
[最高裁三小 S.40.5.4 判*] S39(オ)1033 号 建物収去土地明渡請求事件(上告棄却)
民法 370 条・87 条 2 項・423 条・612 条
債権者代位権の転用が認められなかった事例
地上建物に抵当権を設定した土地賃借人は抵当建物の競落人に対し地主に代位して当該土地の
明渡を請求できるか― 「土地賃借人の所有する地上建物に設定された抵当権の実行により、競
落人が該建物の所有権を取得した場合には、
・・・従前の建物所有者との間においては、右建物
が取壊しを前提とする価格で競落された等特段の事情がない限り、右建物の所有に必要な敷地
の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。けだし、建物を所有するために必
要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって一つの財産的価値を形成し
ているのであるから(筆者注:敷地利用権は建物所有権の従物=民法 87 条 2 項)、建物に抵当
権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解
すべきだからである。
従って、賃貸人たる土地所有者が右賃借権の移転を承諾しないとしても、既に賃借権を競落
人に移転した従前の建物所有者は、土地所有者に代位して競落人に対する敷地の明渡を請求す
ることができないものと言わなければならない。
」
民集 19-4-811 判時 415-19 判タ 179-120
占部洋之・別冊ジユリ 195-172 槇悌次・判例評論 85-12 鈴木禄弥・民商 54-1-60
加藤一郎・法協 83-2-220
原審:札幌高裁函館支部 S.39.5.28 判・S38(ネ)53 号
民集 19-4-820
一審:函館地裁 S.38.10.9 判
民集 19-4-816
*占部評釈:本判決は、借地上の建物に設定された抵当権の実行によって建物が競落された場合、
その敷地利用権(地上権・賃借権)も抵当権の効力の及ぶ目的物に含まれるから、建物の買受
人に移転することを、最高裁として初めて明らかにした判決であり、その法的構成を明確に判
示している。 なお、借地上の建物を第三者が競売ないし公売で取得した場合に、借地権設定
者(敷地所有者)が敷地賃借権の譲渡を承諾しないときについては、現在は借地借家法 20 条が
ある。
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[大阪高裁 S.40.6.29 決定*]S40(ラ)54 号 移送申立却下決定に対する即時抗告事件
改正前民訴法 25 条(現民訴法 11 条 1・2 項)
(棄却)
航空会社と国内旅客との間の運送契約に関し、管轄の合意の成立が認められなかった事例
― 通常の私法上の取引に関する契約においては・・・
「運送約款のようないわゆる普通契約約
款についても、当事者が右約款に従うべき旨明示・黙示の意思表示をしていなくても、特約によ
ってこれを排除しない限り、普通契約約款にしたがった契約が成立するものと解するのが相当で
ある。しかしながら、これとは異なり、民事訴訟の管轄に関する合意は、たとい前記私法上の取
引契約と同時に締結されようとも、その要件・効果は民事訴訟法 25 条によって規律され、殊に合
意の成立に関し、それが書面によって明らかにされなければならないとしているのである。それ
を分説すれば (イ).管轄に関する合意は、合致した意思表示において明示にせよ黙示にせよ現実
に表示されることが必要である。換言すれば、例えば慣習や任意規定のように当事者がそれに従
う意思を表示しなくても、おのずから法律行為の内容を補充するというようなものであってはな
らないことを意味する。 (ロ)管轄に関する合意の内容が書面に記載されることが必要である。
(ハ)管轄に関する合意はその内容のみならず締結されたこと自体が書面に記載されることも必
要である。
」
常置約款に定があるだけの本件での成立を否認。
42
下民集 16-6-1154 判時 421-41
*古田:札幌高裁 S.45.4.20 決定・S44(ラ)35 号(下民集 21-3・4-603、徳田和幸・別冊ジュリ 76-30)
は、保険契約申込書の裏面に合意管轄条項があることから管轄の合意を認定している。しかし
ながらその書面性は合意管轄を受忍する者作成の書面でなければならないわけではない。
この管轄の合意に関して書面性を要求する民訴法 25 条 2 項(現行の 11 条 2 項)の法意は、
「当事者の意思の明確を期するためのものにほかならず・・・少なくとも当事者の一方が作成
した書面に・・・当事者間における合意の存在と内容が明白であれば足りると解するのが相当
であり、その申込と承諾の双方が当事者の署名のある書面によるのでなければならないと解す
べきではない。
」と[最高裁三小 S.50.11.28 判]は判示している。従って、旅客運送契約成立
の証として旅客が運送人から交付を受けた書面(航空券等)に、合意管轄として管轄裁判所名
の記載があれば足りるが、それを含む運送人の約款が適用される旨のみの記載では認められな
いことになる。
[最高裁二小 S.40.7.9 判*] S37(オ‘)909 号 工事金請求事件(棄却)
民法 481 条、民訴法 602 条・621 条・750 条 3 項
債権仮差押と差押とが競合する場合、当該債権につき取立命令を得た差押債権者に対する第三
債務者の弁済と、民法 481 条の適用の有無 ― 債権仮差押と差押とが競合の場合、当該債権に
つき取立命令を得た差押債権者に対する第三債務者のなした弁済については、民法 481 条(支払
の差止を受けた第三債務者の弁済)は適用されず、右弁済は、仮差押債権者その他配当に与るべ
き者全員に対してもその効力を有するものと解すべきである。⇔ 第三債務者は、他の差押債権
者に対する関係でも免責される。
民集 19-5-1178
星野英一・法協 83-3-81
斉藤秀夫・判例評論 88-4
原審:名古屋高裁金沢支部 S37.4.30 判・民集 19-5-1194
一審:福井地裁大野支部 S.36.6.27 判・民集 19-5-1187
[最高裁二小 S.40.9.10 判*]S38(オ)1349 号 建物収去土地明渡請求事件(上告棄却)
民法 95 条
要素の錯誤による意思表示の無効を第三者が主張することは許されるか ― 表意者自身におい
て要素の錯誤による意思表示の無効を主張する意思がない場合には、原則として、第三者が右意
思表示の無効を主張することは許されない。
民集 19-6-1512 判時 425-27 判タ 183-99
中家一憲・法協 83-4-104 本城武雄・法律時報 39-1-99 松坂佐一・民商 54-4-103
原審:大阪高裁 S.38.8.6 判・S34(ネ)1540 号 民集 19-6-1527
一審:大阪地裁 S.34.11.12 判 民集 19-6-1519
*:表意者自身には錯誤無効主張の意思がなくても、第三者による錯誤無効の主張が許される場
合:
[最高裁一小 S.45.3.26 判*]。
[最高裁一小 S.40.10.7判*] S40(オ)200 号 貸金請求事件(上告棄却)
民法 588 条、民訴法 186 条
将来発生する金銭債務を基礎とする準消費貸借 ―将来金員を貸与する旨の契約が締結された
場合には、その契約が履行される以前でも、その金員をもつて準消費貸借の目的とすることを約
することができ、その後右金員が貸与されたとき、右準消費貸借契約は、当然に、効力を生ずる。
民集 19-7-1723 判時 428-55 判タ 184-120
平井宣雄・法協 83-5-139
枡田文郎・法曹 17-12-137
平田春二・民商 54-5-106
原審:仙台高裁 S.39.11.19 判・S36(ネ)316 号 民集 19-7-1727
43
一審:青森地裁 S.36.6.30 判 民集 19-7-1726
*平井評釈:消費貸借は要物契約であるが(民法 587 条)
、準消費貸借(同 588 条)は、主な法
律的機能が債務者への信用の借与にある以上、債務の存在を要件とすれば足り、それが既存のも
のであると将来発生するものであるとを問わないと解すべきはむしろ当然であろう。この点につ
いては、学説にも異論がないようである(我妻・民法講義Ⅴ2-366 頁)。そして、将来の債務を目
的とすることが認められるべきであるなら、その債務の発生によって当然に効力を生ずる。
[最高裁三小 S.40.10.12 判*] S39(オ)740 身元保証債務履行請求(上告棄却)
民法 423 条
金銭債権を有する者と債権者代位権行使の要件:債務者の無資力を必要とするか ― 「債権者
は、債務者の資力が当該債権を弁済するについて十分でない場合に限り、自己の金銭債権を保全
するため、民法 423 条 1 項本文の規定により当該債務者に属する権利を行使し得ると解すべきこ
とは、同条の法意に照らし、明らかであり、右の場合に債務者の資力が十分でないことについて
は、債権者がこれを立証する責任を負うものと解するのが相当である。」
民集 19-7-1777 判時 428-55 判タ 184-123
川島武宣・法協 83-5-152
甲斐道太郎・民商 54-5-127
原審:仙台高裁 S.39.3.31 判・S37(ネ)588 号
民集 19-7-1785
一審:盛岡地裁水沢支部 S.37.10.30 判
民集 19-7-1783
*古田:自賠責法による強制保険においては、自賠法 16 条が被害者の直接請求を許しているので、
債務者の資力の有無にかかわらず請求ができるが、任意の自動車対人賠償保険での被害者請求
には、最高裁三小 S.49.11.29 判・S47(オ)1279 号(民集 28-8-1670)は、本件判決と同旨を判
示していた。その後 S.51.1.1 から自動車保険普通保険約款にも直接請求の制度が導入され、自
動車の任意保険部門の全てについて直接請求権の行使を認める体制が完成した結果、今では代
位訴訟の必要がなくなっている(西島梅冶・別冊ジュリ 55-63 参照)
。
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[最高裁二小 S.40.11.19 判*] S39(オ)129 号 取立請求事件(破棄自判)
民法 481 条 1 項・478 条、
債権が重複して差押得られた場合に於いて、第三債務者が無効な転付命令を取得した債権者に
対して善意無過失で弁済したときと、民法 481 条 1 項の規定の適用の有無 ― 既に他の債権者
によって差し押さえられている債権につき転付命令を得た債権者に弁済した第三債務者は、たと
え善意無過失でも、他の差押債権者に重ねて支払わなければならない。
民集 19-8-1986
星野英一・法協 83-6-135
小室直人・別冊ジュリ 38-204
原審:大阪高裁 S38.9.10 判・民集 19-8-1995
一審:大阪地裁 S.36.2.8 判・民集 19-8-1991
[最高裁大法廷 S.40.11.24 判*] S37(オ)760 号 所有権移転登記等請求事件(上告棄却)
民法 557 条 1 項
民法 557 条 1 項所定の解約手附:同条項の法意
一、民法 557 条 1 項にいう「契約ノ履行ニ著手」と、本件がこれにあたるとされた事例
二、解約手附の授受された売買契約の履行に着手した当事者からの解除の許否
[判示要旨]
一、
「民法 557 条 1 項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付 の実行に着手すること、す
なわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするた
44
めに欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべきところ、
」本件、解約手附の授
受された第三者所有の不動産の売買契約において、売主が、右不動産を買主に譲渡する前提とし
て、当該不動産につき所有権を取得し、かつ、自己名義の所有権取得登記を得た場合には、民法
557 条 1 項にいう「契約ノ履行ニ著手」したときにあたるものと解するのを相当する。
二、「解約手附の交付があつた場合には、特別の規定がなければ、当事者双方は、履行のある
までは自由に契約を解除する権利を有しているものと解すべきである。然るに、当事者の一方が
既に履行に着手したときは、その当事者は、履行の着手に必要な費用を支出しただけでなく、契
約の履行に多くの期待を寄せていたわけであるから、若しかような段階において、相手方から契
約が解除されたならば、履行に着手した当事者は不測の損害を蒙ることとなる。従って、かよう
な履行に着手した当事者が不測の損害を蒙ることを防止するため、特に民法 557 条 1 項の規定が
設けられたものと解するのが相当である。 同条項の立法趣旨を右のように解するときは、同条項
は、履行に着手した当事者に対して解除権を行使することを禁止する趣旨と解すべく、従って、
未だ履行に着手していない当事者に対しては、自由に解除権を行使し得るものというべきである。
このことは、解除権を行使する当事者が自ら履行に着手していた場合においても、 同様である。
すなわち、未だ履行に着手していない当事者は、契約を解除されても、 自らは何ら履行に着手し
ていないのであるから、これがため不測の損害を蒙るということはなく、仮に何らかの損害を蒙
るとしても、損害賠償の予定を兼ねている解約手附を取得し又はその倍額の償還を受けることに
より、その損害は填補されるのであり、解約手附契約に基づく解除権の行使を甘受すべき立場に
あるものである。 他方、解除権を行使する当事者は、たとえ履行に着手していても、自らその着
手に要した出費を犠牲にし、更に手附を放棄し又はその倍額の償還をしても、なおあえて契約を
解除したいというのであり、それは元来有している解除権を行使するものにほかならないばかり
でなく、これがため相手方には何らの損害を与えないのであるから、右 557 条 1 項の立法趣旨に
徴しても、かような場合に、解除権の行使を禁止すべき理由はなく、また、自ら履行に着手した
からといって、これをもって、 自己の解除権を放棄したものと擬制すべき法的根拠もない。」
すなわち、解約手附の授受された売買契約において、当事者の一方は、自ら履行に着手した場
合でも、相手方が履行に着手するまでは、民法 557 条 1 項に定める解除権を行使することができ
るものと解するのを相当とする。
民集 19-8-2019 判時 428-23 判タ 185-88
来栖三郎・法協 83-6-148
山下末人・民商 54-6-897 宮下修一・別冊ジユリ 192-40 奥富晃・別冊ジュリ 196-98
原審:大阪高裁 S.37.3.14 判・S36(ネ)985 号
民集 19-8-2037
一審:大阪地裁 S.36.7.18 判
民集 19-8-2003
[最高裁二小 S.40.12.3 判*]S40(オ)208 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 413 条・541 条
債権者の受領遅滞を理由に、債務者は請負契約を解除し得るか(消極) ― ①.「債務者の債務
不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一
の効果を認めることは民法の予想していないところというべきである。民法 414 条・415 条・541
条等は、いずれも債務者の債務不履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり、受領
遅滞に対し債務者のとりうる措置としては、供託・自助売却等の規定を設けているのである。さ
れば、特段の事由の認められない本件において被上告人の受領遅滞を理由として上告人は契約を
解除することができない旨の原判決は正当」である。
②.「上告人の本訴は損害賠償の請求であって、請負代金の支払を求めるものでないこと明らか
であるから、
・・・債権者にも信義則の要求する程度に於いて給付の実現に協力すべき法律上の義
務があり、給付の不受領はあたかも債務者が履行しない場合と同じく債務不履行となるものと解
45
すべきである・・・との論旨は無用の議論に帰し、排斥を免れない。
」
民集 19-9-2090
判時 429-12 判タ 188-102
遠田新一・別冊ジュリ 47-40
我妻栄・法協 83-7・8-162
山崎寛・法律時報 38-6-91
原審:広島高裁 S.39.11.24 判・S38(ネ)101 号
民集 19-9-2100
一審:山口地裁下関支部 S.38.4.17 判
民集 19-9-2093
*遠田評釈:本件は、債権者遅滞に契約解除・損害賠償を認めることが出来るか否かを判示した
最初の最高裁判決であり、それを認めることは困難であるとしている。最高裁としては、債権者
に信義則上の受領義務を認める有力説(我妻評釈など)の立場は採ろうとしていない。しかし、
その後の[最高裁一小 S.46.12.16 判*]は、例外的に特殊な事例として、諸般の事情から、信義
則上、買主に、売主が期間内に採掘した鉱石を引取る義務があると判示している。
[最高裁一小 S.41.4.14 判*]S38(オ)993 号・物権返還請求事件
民法 321 条、民訴法 64 条、破産法 162 条・167 条(改正前破産法 72 条 1 号)
先取特権の目的物件をもつてした代物弁済は否認権の対象となるか(消極) ― 債務者(買主)
が動産売買の先取特権の存する物件を被担保債権額(売買代金額)と同額に評価して当該債権者
(売主)に代物弁済に供する行為は、売買当時に比し代物弁済当時に該物件の価格が増加してい
ない限り、他の破産債権者を害する行為にあたらない。
民集 20-4-611 判時 448-33
山本和彦・別冊ジュリ 184-68
原審:東京高裁 S.38.5.9 判・S34(ネ)652 号
民集 20-4-622 下民集 4-5-904
一審:東京地裁 S.34.3.18 判
民集 20-4-617
*江頭憲次郎・商取引法 6 版-39:買主が倒産状態に陥ったとき、代金未払になっている売主が、
買主と合意の上、自社売り使用品を引揚げることがあるが、その行為は、動産売買の先取特権
(民法 321 条)の対象となる物件を被担保債権額(代金未払額)の範囲内で代物弁済に供した
こととなる限り、破産法上の否認権(破産法 162 条)の対象とはならないと解されている(本
件最高裁判決)
。しかし、買主が転売して一旦先取特権の消滅した動産を、転売したその買主が
転売契約を合意解除のうえ売主に引渡す行為は、新たな担保権の設定として否認権の対象にな
る[最高裁一小 H.9.12.18 判*]
。また、売主が買主の同意を得ずに当該商品を引揚げた場合に
は、それが動産売買の先取特権の対象物件であったとしても、その行為は、買主または他の債
権者に対する不法行為となる可能性がある[福岡地裁 S.59.6.29 判*]
。
[大阪高裁 S.41.4.18 判*]S36(ネ)402 号 預金債権取立請求事件(原判決取消・請求棄却)
民法 555 条・587 条・540 条・506 条、手形法 77 条・39 条
① 手形割引の法的性質・ ②買戻請求権の法的性質と内容・③相殺の意思表示を不要とする
特約および ④相殺につき手形の呈示交付を不要とする特約の効力
[判示要旨] ① 手形割引の法的性質について「一般に銀行取引において行われるてが手割引
は・・・法律行為としてみる場合は原則として手形の売買手と解する外ない。」
② 本件銀行取引約定書の「買戻請求権は銀行から割引依頼人に対し買戻の請求をなすことにより
始めてその効力を生じうるものというべきである。右の次第であるから買戻請求権は形成権と解
し、買戻約款を約定解除権の留保と解するを相当とする。
」
③「相殺に意思表示を不要とする特約は、・・・無効といわねばならない。
」
④「買戻請求に基づく金員の請求権は手形行為の原因たる割引契約の付随的特約に基づいて発生
するもので手形外の権利であるから、その呈示交付は相殺の要件とはならないが、取引先の右支
払義務(買戻債務の支払義務)と銀行の手形返還義務とは履行上の牽連関係があると認めるのを相
当とする。そこで相手方債務者は手形の返還につき同時履行の抗弁権を有しているというべきで
あって、同時履行の抗弁権の付着したものを自働債権として債務者たる銀行が一方的に相殺する
ことはできないが、銀行は特約によりこの抗弁権を排除することができる。個々の相殺の場合は
46
勿論不特定多数の債務あるいは将来発生すべき債務につき抽象的一般的に手形の呈示又は交付を
しないで相殺をなすことを認める合意も取引先において自らその利益を放棄し、銀行を信用して
敢えて二重払の危険負担を覚悟の上でこれをなした以上、その効力を直ちに否定するには及ばな
い。
」
判時 463-54 判タ 191-167 金法 444-9
菅原菊志・判例評論 100-36
[最高裁大法廷 S.41.4.20 判*] S37(オ)1316 号 請求異議事件(上告棄却)
民法 146 条
時効完成後の債務承認
一、消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効
が完成したことを知ってしたものであると推定することはできない ― 「債務者は、消滅時
効が完成した後に債務の承認をする場合には、その時効完成の事実を知っているのはむしろ異例
で、知らないのが通常であるといえるから、債務者が商人の場合でも、消滅時効完成後に当該債
務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知ってされたものであると推定すること
は許されないと解するのが相当である。従って、右と見解を異にする当裁判所の判例(最高裁一
小 S.35.6.23 判・S33(オ)69 号・民集 14-8-1498)は、これを変更すべきものと認める。」
二、消滅時効完成後における債務の承認と当該時効援用の許否(消極) ― 「しかしながら、
債務者が、自己の負担する債務について時効が完成した後に、債権者に対し債務の承認をした以
上、時効完成の事実を知らなかったときでも、爾後その債務についてその完成した事項を援用す
ることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認
をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者は
もはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の
援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである。
」
民集 20-4-702 判時 442-12 判タ 191-81 金判 7-12 金法 441-6
川島武宣・法協 84-4-74 四宮和夫・S41・42 重要判ジュリ-30 浅生重機・金法 1581-148
金山直樹・別冊ジュリ 195-84 五十嵐清・判例評論 95-18
西村信雄・民商 55-6-93
原審:仙台高裁秋田支部 S.37.8.29 判・S35(ネ)153 号
民集 20-4-715
一審:秋田地裁湯沢支部 S.35.9.28 判・S34(ワ)12 号
民集 20-4-712
*四宮評釈:本判決は従来の判例と異なり、時効完成後の承認が時効利益の放棄と解されるかと
いう意思解釈の問題に触れないで、一旦承認した者の援用を信義則によって封じている。即ち、
それ自体としては時効利益の放棄ではないところの「自認行為」に、時効利益の放棄と同じよ
うな効果を付与したわけである。
*消滅時効関係判決例は、
[最高裁二小 S.37.10.12 判*]末尾の「*古田②」を参照。
*古田:時効の利益は予めの放棄は無効であるが(民法 146 条)
、時効完成後の放棄は有効である。
債務者が消滅時効完成を知らずに、一部弁済等をすれば、それは債務の承認であり、本判決は、
信義則上債権者の保護を図って時効の援用を認めない。従って、これら一部弁済が時効利益を
放棄させるために債権者サイドから仕組まれたものである場合には、この信義則は関係がない
ことになる。例えば[宇都宮簡裁 H.24.10.15 判*]。
[最高裁二小 S.41.5.27 判*] S40(オ)1498 号 所有権移転登記抹消登記手続請求事件
民法 424 条
(上告棄却)
詐害行為取消権の対象否定
抵当不動産の売却と詐害行為の成否 ― 「 債務者が、既存の抵当権付債務の弁済をするために、
右被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる所有不動産を相当な価格で売却し、その代金を
右債務の支払に充てて当該抵当権の消滅をはかる場合にあっては、その結果右債務者の無資力を
招いたとしても、右不動産売却行為は、一般債権者の共同担保を減少することにはならないから、
47
民法 424 条所定の詐害行為には当らないと解するのを相当とする。
」
民集 20-5-1004 判時 455-38 判タ 194-80 金法 447-22
安倍正三・曹時 18-7-150
原審:福岡高裁 S.40.10.13 判・S39(ネ)713 号 民集 20-5-1009
一審:大分地裁中津支部 S.39.8.31 判 民集 20-5-1007
[最高裁一小 S.41.6.16 判*] S41(オ)329 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 10 条・38 条
受取人白地の約束手形による手形金請求の許否 ― 後日手形要件である受取人の記載補充があ
るまでは未完成の手形に過ぎないから、それによって手形金の請求をすることはできない
民集 20-5-1046 判時 455-59 判タ 195-75
鴻常夫・法協 84-5-125 & 別冊ジュリ 24-144
原審:東京高裁 S.40.12.22 判・S39(ネ)2294 号
民集 20-5-1050
一審:東京地裁八王子支部 S.39.9.16 判・S39(ワ)358 号
民集 20-5-1049
[最高裁三小 S.41.6.21 判*]S40(オ)293 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 16 条 1・2 項
裏書の連続による権利の推定を覆すために主張・立証すべき事実の範囲 ― 手形法 16 条 1 項
による推定を覆すためには、上告人に於いて、本件手形が有効な振出ないし裏書により被上告人
の所持に帰したものでない所以を主張立証するだけでは足りず、更に 16 条 2 項本文による手形上
の権利の取得もないこと、即ち、同条但書により、手形取得者に右の点に関する悪意・重過失が
あったことを併せ主張・立証しなければならない。
民集 20-5-1084 判時 453-68 判タ 195-75
神崎克郎・別冊ジュリ 24-192
原審:東京高裁-S.39.11.26 判・S36(ネ)157 号
民集 20-5-1096
一審:東京地裁 S.35.12.16 判・S34(ワ)96 号
民集 20-5-1091
[最高裁二小 S.41.7.15 判*] S41(オ)100 号 建物収去土地明渡請求事件(上告棄却)
民法 612 条
背信行為に当たらない特別の事由があるとして民法 612 条による解除が許されないとされた事
例 ―甲の賃借地が賃借当時から乙会社所有の建物の敷地として利用されている場合でも、乙会
社は甲のいわゆる個人会社である等判示の諸事情があるときは、賃貸人に対する背信行為に当た
らない特別の事由があり賃貸人が民法 612 条により賃貸借契約を解除することは許されない。
集民 84-111 判時 455-38 判タ 195-78
原審:東京高裁 S.40.11.12 判・S38(ネ)2058 号
[東京高裁 S.41.8.29 判*]S40(ネ)1114 号 損害賠償請求事件(控訴棄却)
民法 90 条、商法 629 条
自動車損害賠償責任保険における所謂ノー・アクション・クローズの趣旨および効力 ― 事実
上、出訴制限の効果をもたらす面があっても、保険金支払義務の発生条件を定める実体法上の
合意として有効
*筆者:現在は、実体法上の合意としての効力も疑問である。
[判示要旨]
一、 控訴人(原告・個人)が被控訴人(被告・損保会社)と締結していた保険金限度額を一
人当り 180 万円とする「任意保険契約においては、
『当会社に対する訴は、現実の裁判を経た上の
被保険者を敗訴とする判決によって、又は被保険者、損害賠償請求者および当会社との三者間の
文書による合意によって、被保険者の支払うべき損害賠償額が最終的に確定するまでは、これを
提起することができない』旨の条項が定められている・・・なるほど、本条項は、用いられた字
48
句からすると、出訴権の制限に関する訴訟法上の合意であるように解され、事実、訴訟の提起を
制限する効果をもたらすことは否定できないけれども、本条項の目的とするところは、保険金支
払いの原因である保険事故すなわち被保険者の法的責任の有無を明確にするにあり、従って、本
条項の本質は保険者、被保険者間で保険金支払義務発生の条件を定める実体法(保険契約法)上
の合意をしたものであると解するのが相当である。それ故に、この実体法上の合意としての効力
という点を看過し、事実上、出訴制限の効果をもたらすという面だけから考えて本条項を無効と
断ずることはできないことは、当然である。
」
二、
「本件任意保険契約における保険事故は、結局、被保険者が法律上損害賠償責任を負担した
ことではあるが、不法行為による損害賠償においては、被保険者である加害者が法律上損害賠償
責任を負担したと言うだけでは、通常未だ賠償額が確定せず、従って、保険者の被保険者に支払
うべき保険金額も判明しないのである。不法行為による損害賠償債務のこのような特殊性を考慮
して、右のような不明確さによる紛争を避けるため、本条項を設け、保険者の填補義務の発生の
条件を現実の裁判を経た上の被保険者を敗訴とする判決によって、または被保険者、損害賠償請
求者および保険者の三者間の文書によって、被保険者の支払うべき損害賠償額が最終的に確定し
たときと定めたものと解するのが相当である。責任保険の性質にかんがみ、このような条項はそ
の内容において合理的であり、控訴人のいうように無効なもの ではないとしなければならない。
もっとも右の条項も、
『現実の裁判を経たうえの被保険者を敗訴とする判決』という部分の解釈
の如何によっては被保険者(ひいては損害賠償請求者)にはなはだしい無理を強いることになる
場合が起こるであろう。そのような場合には、そんな解釈は到底とることができないとか、その
ような解釈をとるほかない条項はその限りにおいて無効であるとかしなければならないことにな
るかも知れない。しかし、その故をもって本条項を全体として無効であるとすることは到底でき
ない。
」
下民集 17-7・8-719
林輝栄・ジュリ 426-144
山下友信「保険法」有斐閣 2005.3 刊・137~138
一審:東京地裁 S.40.4.26 判・S38(ワ)6929 号(自賠責保険への請求を容認、任意保険への請求
はノー・アクション・クローズのより棄却)
下民集 16-4-739 判時 419-47
畑口紘・ジュリ 345-122
西島梅冶・別冊ジュリ 11-96
*:No-action clause : An insurance-policy provision that bars suit against the insurer until
the liability of the insured has been determined by a judgment.(Black’s Law Dictionary 8th
Edition)
*山下評釈:その後の自動車保険では被害者保護が進んでいるので、仮に現在でもこのようなノ
ー・アクション・クローズが国内で使用されている場合には、文字通りの効力を認めるべきで
はないであろう。尤も、主として再保険や大規模企業向けの保険では、準拠法指定の自由を認
めることで特に問題を生じない。
*古田:H.22(2010)施行の保険法 21 条は、商法旧保険編になかった新設規定であるが、保険
者の保険金給付義務調査を、保険者の義務であることを前提とした規定であり、その 1・3 項は
保険者への片面強行規定である。また、保険金請求原因事実の立証責任は保険金請求者が負担す
るものであるが、保険法 2 条(定義)の第 6 項は、損害保険契約を「保険契約のうち、保険者
が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害を填補することを約するものをいう。」と商
法旧保険編 629 条と同旨の規定を置いている。この「偶然性の立証責任」について、判例は、
最高裁二小 H.13.4.20 判・H10(オ)897 号(民集 55-3-682、判時 1751-171)は保険金請求者が
負うと判示しているが、その後の最高裁判例は一貫して「保険金請求者は偶然性の立証責任を負
わない」と判示している:最高裁二小 H.16.12.13 判・H16 (受)988 号(民集 58-9-2419)
、最高
裁一小 H.18.6.1 判・H17(受)1206 号(民集 60-5-1887)、最高裁三小 H.18.6.6 判・H17(受)2058
号(集民 220-391、判時 1943-14)
、最高裁一小 H.18.9.14 判・H17(受)2205 号(集民 221-185、
判時 1948-164)
。
新保険法施行前からのこの様な最高裁判例の傾向からも、保険法の下に於いては尚更、ノー・
アクション・クローズで保険金支払義務の確定責任を被保険者ないし保険金請求権者に転嫁する
49
ことは許されないと解すべきであろう。
[最高裁三小 S.41.9.13 判*] S39(オ)1379 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 13 条
法人の裏書の方式としての署名 ―「裏書人が会社その他の法人である場合には、当該法人の代
表機関が法人のためにすることを明らかにして自己の署名をすることを要するものと解するのが
相当である。
」
民集 20-7-1359 判時 464-46 判タ 198-128 商判集三-426
鴻常夫・法協 84-8-69 浜田道代・別冊ジュリ 173-6 坂井芳雄・判例評論 100-31
原審:大阪高裁 S.39.8.31 判・S39(ネ)599 号
民集 20-7-1364
[最高裁二小 S.41.11.18 判*] S40(オ)1340 号 登記抹消請求事件(上告棄却)
民法 501 条
一、債権担保のための代物弁済予約上の権利は、法定代位の目的となるか(積極) ― 民法 501
条本文によれば、弁済者が代位することを得る権利は、債権の効力および担保としてその債権者
が有していた一切の権利であるが、いわゆる代物弁済予約による権利は、金銭消費貸借契約の当
事者間において、債権者が、自己の債権の弁済を確保するため、債務者が期限に債務を履行しな
いときに債務の弁済に代えて特定物件の所有権を債権者に移転することを債務者と予約するもの
であつて、あたかも担保物件を設定したのと同一の機能を営むものであるから、この予約に基づ
く権利は、同条 1 号に列記する先取特権、不動産質権または抵当権と同じく、同条本文にいう『債
権者が債権の担保として有する権利』にあたり、同条による代位の目的となる。
二、債権者の抵当権設定登記および代物弁済予約付記登記付の当該不動産を第三者が取得し所
有権登記を了した後に、債権者に債務を弁済した連帯保証人が法定代位による代物弁済予約
完結権行使による所有権取得をその第三者に対抗するための要件 ―代物弁済予約付記登記
への当該保証人の付記登記は要しない。けだし、
「民法 501 条 1 号において、保証人が予め代位の
附記登記をしなければ担保権につき目的不動産の第三取得者に対して債権者に代位しない旨を定
めた所以は、目的不動産の第三取得者は、その取得に当り、既に債務の弁済をなした保証人が右
代位権を行使するかどうかを確知することを得させるためであると解すべきであるから、保証人
の弁済後に目的不動産を取得しようとする第三取得者に対しては予め代位の附記登記をする必要
があるが、第三取得者の取得後に弁済をする保証人は、右代位のためには同号による附記登記を
要しないものといわなければならない。けだし、もし右の場合にも代位の附記登記を要求するも
のとすれば、保証人は、未だ保証債務を履行する必要があるか否か明らかでないうちから、当該
不動産につき第三取得者の生ずることを予想して予め代位の附記登記を経由しておく必要がある
ことになるが、これは、保証人に対し難きを強いることになるからである。
」
民集 20-9-1861 判時 474-16
椿寿夫・判例評論 103-4
原審:大阪高裁 S.40.8.4 判・S39(ネ)822 号 民集 20-9-1878 下民集 16-8-1287 判時 427-29
一審:神戸地裁尼崎支部 S.39.5.15 判・S36(ワ)73 号
民集 20-9-1867
[最高裁二小 S.41.12.23 判*]
S38(オ)1030 号 貸金敷金返還請求事件(上告棄却)
民法 536 条 2 項但書(現行の 2 項第二文)
民法上いわゆる代償請求権が認められるか(是認)― 履行不能が生じたのと同一の原因によっ
て、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には、債権者は、右不履行に
より受けた損害を限度として、債務者に対し、右利益の償還を求める権利があると解するのが相
当である。
民集 20-10-2211 判時 470-41
甲斐道太郎・判例評論 102-93
50
原審:福岡高裁 S.38.5.30 判・S35(ネ)626 号
民集 20-10-2223
一審:福岡地裁飯塚支部 S.35.8.1 判
民集 20-10-2217
[東京地裁 S.42.3.4 判*] S40(ワ)2081 号 損害賠償請求事件(請求棄却)
民法 415 条、商法 526 条
一、見本売買の目的物の容器に瑕疵がある場合の売主の責任 ―売主 Y(被告・医薬品等製造業
者)の不完全履行に基づく X(原告・医薬品等卸売業者)からの損害賠償請求については、本件
瓶入オキシドールの売買が「所謂見本売買であって、Y が X に引渡したものが見本通りであった
ことは当事者間に争いがないところ、見本売買においては売主は、見本通りの物を引渡す債務を
負担するにとどまるものであって、その見本に隠れた瑕疵がある場合に瑕疵担保の責に任ずるか
どうかの点は別として見本通りの物を引渡せば特別の事情がない限り債務不履行(不完全履行)
の責を負わないものと解するを相当とする。
」
二、商人間の売買において買主が目的物の引渡の日から 6 カ月経過した後に隠れた瑕疵を発見
した場合の買主の売主に対する損害賠償請求権の有無 ―瑕疵担保責任に基づく損害賠償の
請求についても、
「本件オキシドールの売買は商人間の売買であるから商法 526 条の適用があるも
のと解すべきところ、買主である X の検査義務の点は暫くおき、X が売主である Y に対して本件
オキシドールの容器に瑕疵があることを通知したのは、右引渡の日(S.39.1.13)より 6 カ月を経
過した後の同年 9 月下旬であることは当事者間に争いがなく、しかも Y に悪意があったことの証
拠もないから X は本件容器の瑕疵を理由に損害賠償を請求することはできないものと言うべく
(X
が瑕疵を知ったのがその主張の通り既に右引渡の日から 6 カ月を経過したあとであったとしても
その理は異ならない。
)
、X の右請求は失当である。
」 X の請求はいずれも理由がないことを認定
し請求棄却を判示。
下民集 18-3・4-209 判時 484-59
木下毅・ジュリ 438-150 五十嵐清・判例評論 106-21
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[大阪高裁 S.42.3.30 判**] S38(ネ)345 号・約束手形金請求事件(控訴棄却・
商法 518 条、手形法 16 条・18 条
上告:棄却)
一、 商法 518 条により供託した債務者は公示催告申立人以外の者に対して債務消滅の効
果を主張できるか(積極)― 「その供託が適法になされる限りその弁済の効果を絶対的
に生ずるものと解するのを相当とする。」
二、手形の所在判明後にした商法 518 条による供託の適否(消極)― 「証券喪失者はも
はや公示催告手続を追行する権利を失い、商法 518 条の定める供託を請求する権利もなくな
り、証券上の債務者もまた右法条による供託を適法になすことができなくなるものと解すべ
きである。
」
下民集 18-3・4-333 金法 745-25
野村豊弘・ジュリ 449-131
一審:神戸地裁 S.38.2.23 判・S35(ワ)566 号 下民集 14-2-256 河本一郎・商事法務 358-15
*上告審[最高裁一小 S.48.6.21 判]は本控訴審判決を全面的に是認している。
[最高裁一小 S.42.4.20 判*] S39(オ)1025 号 売掛代金請求事件(上告棄却)
民法 93 条・99 条・715 条
一、代理人の権限濫用の行為につき相手方が代理人の背任的意図を知っていた場合と、当該代
理行為の効力:本人の責任を否定 ― 「代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限
内の行為をしたときは、相手方が代理人の右意図を知りまたは知ることを得べかりし場合に限り、
51
民法 93 条但書の規定を類推して、本人はその行為につき責に任じないと解するを相当とするから
(最高裁一小 S.38.9.5 判・S35(オ)1388 号・民集 17-8-909)」、相手方がその事実を知りながらし
た本件売買契約についての本人責任を否定。 本人である被上告会社に本件売買取引による代金
支払義務がないとした原判示を是認。
二、予備的請求:被用者の当該行為についての民法 715 条の使用者責任:相手方の悪意により
否定 ― 「民法 715 条にいわゆる『事業ノ執行ニ付キ』とは、被用者の職
務の執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の
範囲内の行為に属するものと見られる場合をも包含するものと解すべきであることは、当裁判所
の判例とするところである(最高裁一小 S.37.11.8 判・S35(オ)907 号・民集 16-11-2255、最高裁
三小 S.40.11.30 判・S39(オ)1113 号・民集 19-8-2049、なお大審院聯合部 T.15.10.13 判・民集 5-785
参照)
。 従って、被用者がその権限を濫用して自己または他人の利益をはかったような場合にお
いても、その被用者の行為は業務の執行につきなされたものと認められ、使用者はこれにより第
三者の蒙った損害につき賠償の責を免れることを得ないわけであるが、しかし、その行為の相手
方たる第三者が当該行為が被用者の権限濫用に出るものであることを知っていた場合には、使用
者は右の責任を負わないものと解しなければならない。けだし、いわゆる『事業ノ執行ニ付キ』
という意味を上述のように解する趣旨は、取引行為に関するかぎり、行為の外形に対する第三者
の信頼を保護しようとするところに存するのであって、たとえ被用者の行為が、その外形から観
察して、その者の職務の範囲内に属するものと見られるからといつて、それが被用者の権限濫用
行為であることを知っていた第三者に対してまでも使用者の責任を認めることは、右の趣旨を逸
脱するものというほかないからである。従って、このような場合には、当該被用者の行為は、
『事
業ノ執行ニ付キ』なされた行為には当らないものと解すべきである。」この予備的請求である被上
告会社の民法 715 条での使用者責任も否定。
民集 21-3-697 判時 484-48 判タ 207-78
高津環・ジュリ 375-96 淡路剛久・法協 85-4-155 下森定・別冊ジュリ 46-72
福永礼治・別冊ジュリ 104-82
原審:東京高裁 S.39.5.28 判・S36(ネ)2246 号 民集 21-3-715
一審:東京地裁 S.36.9.28 判 民集 21-3-706
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[最高裁一小 S.42.4.27 判*]S41(オ)1297 号・損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 192 条
土木建設機械の売買での占有の開始に過失があるとして、即時取得の成立が否定された事例
― 「高知市付近では土木建設請負業者が土木建設機械をその販売業者から買受けるについては、
通常代金は割賦支払とし、代金完済のとき初めて所有権の移転を受けるいわゆる所有権留保の割
賦販売の方法によることが多く、上告人は古物商であるが土木建設機械も扱っていたから、右の
ような消息に通じているものであるなどの事実に徴すれば、上告人が本件物件を買受けるに当た
っては、売主がいかなる事情で新品である土木建設の用に供する本件物件を処分するのか、また、
その所有権を有しているのかどうかについて、疑念をはさみ、売主についてその調査をすべきで
あり、少し調査すると、訴外建設会社が本件物件を処分しようとした経緯、本件物件に対する所
有権の有無を容易に知り得たものであり、従って、このような措置をとらなかった上告人には、
本件物件の占有を始めるについて過失があったとする原判決の判断は、当審も正当として、これ
を是認することができる。
」
集民 87-317
判時 492-55
原審:高松高裁 S.41.9.13 判・S40(ネ)172 号
* 建設機械には、建設機械抵当法による登記があるが、本件は所有権留保で売られたものであ
るから登記は無い。
52
[大阪地裁 S.42.6.12 判*] S39(ワ)4888 号 損害賠償請求事件(一部容認)
航空法 107 条、商法 590 条、民法 709 条
日東航空つばめ号事件:機墜落事故・旅客人身損害
一、国内航空運送に関する旅客と航空会社との契約内容と右会社の運送約款の関係 ― 運送約
款の適用については、約款が搭乗受付のカウンターに小冊子として吊るされていたことを認定し、
「本件の如き航空運送契約については一般に定型的運送約款が作成、使用され、それが運送契約
の内容をなすべきものとして取扱われていることは広く世間一般に承認されているところである
から、当事者が特約によって、特にこれを排除しない限り当該約款にしたがった運送契約が成立
したものと解するのが相当である。
」
二、国内航空運送約款における人身事故の損害賠償責任額制限は適法か(積極) ― 責任制限
自体の適法性については、
「人命尊重、被害者の救済と企業の育成、保護という二つの要請の調整
という見地から解決さるべき問題である」として、企業側の航空事故による巨額の損害に対抗し、
責任保険を合理的に利用する必要性、旅客側の合理的運賃による利益と限度額以上の損害につい
て任意保険を利用する可能性を検討し、
「運送人の責任を制限することの企業経営上の必要性ない
し合理性およびこれを禁ずることが必ずしも一般旅客にとって有利とばかりは言い得ないことお
よび国際航空運送に関するワルソー条約およびハーグ議定書においても運送人の有限責任が規定
され広く承認されていることを考慮すると、責任限度を制限すること自体を当然に違法、無効で
あるとまでは断定し得ない。
」
三、右制限額が 100 万円である場合、責任制限条項は有効か(消極) ― 本件約款の責任制限
条項の効力については、
「本件運送約款に定める 100 万円の限度額が飛行機の乗客が死亡した場合
に実際に発生するであろうと予測され得る損害額に比して著しく低額であるのみならず企業の維
持、育成という点からみても必要な最小限度とは言い得ないのであり、前述の被害者の救済と企
業の保護という二つの要請の妥当な調整という見地からみれば、承認さるべき合理性、妥当性を
有しないことは明らかであると言わねばならない。
・・・結局、本件運送約款 24 条に定める 100
万円は、乗客の死傷事故に関する責任の最高限度額としてはあまりに低額に過ぎ、かかる条項の
適用を強いることは公序良俗に反し許されないものと解するのが相当である。
」
四、原告中の一人の死者については、総額 2,592 万円余の請求に、1,942 万円余の損害賠償を
容認
下民集 18-5・6-641 判時 484-21 判タ 207-230
山崎裕基・ジュリ 452-132
矢崎惇・別冊ジュリ 34-210 野村好弘・別冊ジュリ 48-166 高田桂一・判例評論 105-35
*古田:現在(2013.11.1 記)は、我国の国内航空運送約款には旅客の人身事故に関する責任限度
額規定はない。
[最高裁二小 S.42.9.29 判*] S42(オ)88 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
自賠法 3 条
自動車損害賠償保障法 3 条本文にいう「他人」の意義 ― 自動車損害賠償保障法第 3 条本文
にいう「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除
くそれ以外の者をいうものと解するのが相当であり、酩酊のうえ助手席に乗り込んだ者(本件で
は同僚)も、運転手がその乗車を認容して自動車を操縦したものである以上、右自賠法 3 条の「他
人」に含まれる。
集民 88-629 判時 497-41 判タ 211-41
山下りえ子・別冊ジユリ 152-74
原審:東京高裁 S.41.11.15 判・S41(ネ)702 号
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[最高裁二小 S.42.10.6 判*]S40(オ)1234 号・求償金請求事件(棄却)
53
民法 167 条、商法 522 条、信用保証協会法 20 条
信用保証協会が保証債務の履行によって取得する求償権と消滅時効 ― 上告人信用保証協会は
商人の性質を有しないが、本件保証は商人である主債務者の委託に基づくのであるから、保証人
である上告人自身は商人でなくても、その保証委託行為が主債務者の営業のためにするものと推
定される結果、保証委託契約の当事者双方に商法の規定が適用されることになる。そして、本件
求償権が上告人において前記保証委託契約の履行として、保証人である立場において、主債務者
等にかわつて弁済したことによって発生するものであること及び商法 522 条の「商行為に因りて
生じたる債権」とは迅速結了を尊重する商取引の要請によって設けられたことを考えれば、商人
でない上告人のした弁済行為自体は商行為に当たらないとしても、本件求償権は、結局、商法 522
条のいわゆる商事債権として短期消滅時効の適用を受けるものと解するのが相当である(大審院
-S.12.4.26 判・大審院判決全集 4 輯 389 頁参照)。 ⇔信用保証協会が商人である債務者の委任に
基づいて成立した保証債務を履行した場合において、信用保証協会が取得する求償権は、商法第
522 条に定める 5 年の消滅時効にかかる。
民集 21-8-2051 判時 502-38 判タ 214-144
北村雅史・別冊ジュリ 194-98
原審:札幌高裁 S.40.6.28 判・S38(ネ)8 号
民集 21-8-2062
一審:札幌地裁 S.37.12.27 判
民集 21-8-2059
[最高裁三小 S.42.10.24 判*] S42(あ)710 号 道路交通法違反業務上過失致死
刑法第 1 編 7 章(犯罪の不成立及び刑の減免)
、刑法 211 条
被告事件(上告棄却)
他人の行為の介入があった場合に刑法上の因果関係が否定された事例 ―自動車を運転してい
た甲が自転車で通行中の乙と衝突し、これを自車の屋根の上に跳ね上げたまま走行中、これに気
付いた同乗者丙が乙の身体を逆さまに引きずりおろし、舗装道路上に転落させた場合において、
乙が右自動車との衝突及び右道路面への転落によって頭部等に傷害を負い、右頭部の打撲傷に基
づく脳くも膜下出血等によって死亡したときは、甲の前記過失行為と被害者の死との間に、刑法
上の因果関係があるとは言えない。
刑集 21-8-1116
判時 501-104
大沼邦弘・別冊ジュリ 189-26
原審:東京高裁 S41.10.26 判
刑集 21-8-1123
一審:東京地裁八王子支部 S.41.7.9 判
刑集 21-8-1121
[最高裁二小 S.42.10.27 判*] S39(オ)523 号 土地建物所有権移転登記手続請求事件
民法 369 条・145 条・146 条
(破棄自判)
一 他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者も右債務の消滅時効を
援用することができる(物上保証人にも是認) ― 「時効は当事者でなければこれを援用し
得ないことは、民法 145 条の規定により明らかであるが、右規定の趣旨は、消滅時効についてい
えば、時効を援用し得る者を権利の時効消滅により直接利益を受ける者に限定したものと解され
るところ、他人の債務のために自己の所有物件につき質権または抵当権を設定したいわゆる物上
保証人も被担保債権の消滅によって直接利益を受ける者というを妨げないから、同条にいう当事
者にあたるものと解するのが相当であり、これと見解を異にする大審院判例(大審院 M.43.1.25
判・民録 16-22)は、変更すべきものである。」従って、他人の債務のため自己の所有物をいわゆ
る弱い譲渡担保に供した者は、右債務の消滅時効を援用することができる。
二 債務者の時効の利益の放棄は当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供し
た者に影響を及ぼすか ― 債務者がした上記被担保債権の時効の利益の放棄は、当該債務の
ため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼさない。
民集 21-8-2110 判時 497-21 判タ 214-151 金法 497-30 金判 89-5
舟橋諄一・S.41・42 重要判ジュリ増刊-168
福地俊雄・判例評論 113-27
星野英一・法協 58-10-81
川井健・民商 58-5-129
54
原審:東京高裁 S.44.12.25 判・S34(ネ)2685 号
民集 21-8-2132
一審:東京地裁 S.34.10.31 判・S31(ワ)9561 号
民集 21-8-2120
*消滅時効関係判決例は、
[最高裁二小 S.37.10.12 判*]末尾の「*古田②」を参照。
[最高裁一小 S.42.11.2 判*] S39(オ)1103 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 715 条
相互銀行の支店長が手形割引の斡旋を引受けて手形を預かる行為と銀行の使用者責任の成否:
悪意の第三者への使用者責任を否認― 「被用者のなした取引行為が、その行為の外形からみて、
使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、その行為が被用者の職務権限
内において適法に行なわれたものでなく、かつ、その行為の相手方が右の事情を知りながら、ま
たは、少なくとも重大な過失により右の事情を知らないで、当該取引をしたと認められるときは、
その行為にもとづく損害は民法 715 条にいわゆる『被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタ
ル損害』とはいえず、したがつてその取引の相手方である被害者は使用者に対してその損害の賠
償を請求することができないものと解するのが相当である。」 原審認定の事実関係からすれば、
上記アンダーラインに該当する疑問があるのに、その点を解明することなく、たやすく損害賠償
請求を認容した原判決は、民法 715 条の解釈適用を誤り、審理不尽の違法があるとして破棄差戻
を判決。
民集 21-9-2278 判時 498-3 判タ 213-231 金法 493-18 金判 81-15
奥村長生・ジュリ 392-91 山口幸五郎・別冊ジュリ 38-237 & 判例評論 114-29
樫見由美子・別冊ジュリ 196-170
原審:大阪高裁 S.3936315 判・S37(ネ)242 号 民集 21-9-2292 判時 391-21
金法 381-6 金判 81-18
一審:大阪地裁 S.37.2.15 判・S33(ワ)536 号 民集 21-9-2286 金判 81-19
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[最高裁大法廷 S.42.11.8 判*] S38(オ)1240 号 為替手形金請求事件(一部破毀、
手形法 1 条・4 条・38 条、商法 516 条 2 項・517 条
その余上告棄却)
為替手形の支払呈示期間経過後に支払場所にした呈示の効力 ― 為替手形の支払呈示期間経過
後における支払のための呈示は、支払地内にある手形の主たる債務者の営業所または住所におい
てすることを要し、支払場所に呈示しても、手形債務者を遅滞に付する効力を有しない。
即ち、
「手形は支払地における主たる債務者(引受のない為替手形にあつては支払人)の現時の
営業所、もし営業所がないときはその住所において支払われるのが本則であるが、為替手形の振
出人もしくは支払人または約束手形の振出人は、支払地内における第三者の住所すなわちいわゆ
る支払場所(手形法 4 条が第三者の住所、同法 27 条 1 項が第三者方、同条 2 項が支払の場所と
いうのは、いずれも同じ意味である。
)においてその支払をなすべき旨を定めることができる。
この場合には、その手形は当該第三者の住所において当該第三者によって支払われるのが原則
であって、かかる手形の支払の呈示もその場所でその者に対してすることを要する(大審院
S.13.12.19 判・民集 17-2670 参照)
。しかしながら、右の支払場所の記載はその手形の支払呈示
期間内における支払についてのみ効力を有するのであって、支払呈示期間経過後は支払場所の記
載のある手形も、本則に立ちかえり、支払地内における手形の主たる債務者の営業所または住所
において支払わるべきであり、したがつて支払の呈示もその場所で手形の主たる債務者に対して
なすことを要し、支払場所に呈示しても適法な支払の呈示とは認められず、手形債務者を遅滞に
附する効力を有しないものと解しなければならない。」
民集 21-9-2300 判時 498-6 判タ 215-96 金法 495-24 金判 82-9
竹内昭夫・法協 85-11-81 服部栄三・ジュリ 398-372 & S41・42 重要判ジュリ増刊-197
55
河本一郎・別冊ジユリ 49-128 小林量・別冊ジュリ 144-124
前田重行・金法 1581-46
大杉謙一・別冊ジュリ 173-136
原審:大阪高裁 S.38.7.17 判・S36(ネ)854 号
民集 21-9-2320
一審:神戸地裁龍野支部 S.36.6.29 判・S36(ワ)16 号
民集 21-9-2318
[最高裁一小 S.42.11.9 判*] S40(オ)1295 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権の対象否定
債務者が生計費および子女の教育費を借用するため貸主に対し唯一の動産を譲渡担保に供した
行為が詐害行為にあたらないとされた事例 ― 他に資力のない債務者が、生計費および子女の
大学進学に必要な費用を借用するため、その所有の家財衣料等を担保に供する等原審の確定した
事実関係のもとでは、その担保供与行為は、担保物の価格が借入額を超過したり、借財が右目的
以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のないかぎり、詐害行為は成立しない。
民集 21-9-2323 判時 505-34 判タ 215-89 金判 93-9
奈良次郎・ジュリ 393-71 下森定・法協 85-11-92 竹屋芳昭・民商 58-6-125
原審:広島高裁 S.40.9.1 判・S40(ネ)61 号 民集 21-9-2332 高民集 18-6-423
下民集 35-5~8-577 判時 433-36 判タ 181-123 金判 93-11
一審:広島地裁福山支部 S.40.2.12 判・S40(ワ)184 号 民集 21-9-2329
*奈良評釈:本件で詐害行為を否定した事件の特殊性は、本件各借金および譲渡担保供与が債務
者夫婦の倒産後にされたものであり、とくに子女の教育費は債務者夫婦の長女の大学進学のた
めのものであるということである。上告審として、生計費および子女の教育費の動機を表示し
たものについて、とくに大学進学費用についてまで詐害行為の成立を否定したものとしては、
おそらく初めてであり、注目に値する。また、この判決は、
「担保物の価額が借入額を超過した
り・・・借財が生活を営む以外の不要の目的に」ついてされる譲渡担保について、詐害行為の
成立を予測する判示をしていることも、注意する必要がある。
[最高裁一小 S.42.12.21 判①*]S42(オ)568 号 寄託金返還請求事件(上告棄却)
民法 715 条 1 項
被用者の取引行為が職務権限外であることを相手方が知っていたときと、使用者責任の成否:
悪意の第三者への使用者責任を否認 ― 自動車の輸入販売を業とする会社(被告・被上告人)
の販売部長が、外車購入の権利の売買の斡旋行為をしたところ、売主の輸入関係書類が偽造であ
ったため、買主が損害を被った。この販売部長である「被用者のなした取引行為が、その行為の
外形からみて、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合であっても、その行為が被
用者の職務権限内において行なわれたものでなく、しかも、その行為の相手方が右事情を知りな
がら、または少なくとも重大な過失により右事情を知らないで、当該取引をしたものと認められ
るときは、その行為にもとづく損害は、民法 715 条にいわゆる『被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第
三者ニ加ヘタル損害』とはいえず、したがつて、その取引の相手方である被害者は右使用者に対
して、その損害の賠償を請求しえないと解すべきこと、当裁判所の判例の示すところである(
[最
高裁一小 S.42.11.2 判*]参照)
。
されば、これと結論を同じくする原判決は正当であって、」上告代理人の所論は採用できない。
被上告会社の民法 715 条 1 項による使用者責任での賠償の責任を否定した原判決を是認し、上告
を棄却した。
集民 89-521 判時 513-35
原審:大阪高裁 S.41.12.28 判・S37(ネ)926 号
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
56
[最高裁一小 S.42.12.21 判②*] S42(オ)711 号 普通預金払戻請求事件(上告棄却)
民法 478 条
預金通帳を呈示しない無権限者の請求に対して銀行のした預金の払戻に過失がないとされた事
例 ― 無権限者が預金通帳を呈示しないで預金の払戻を請求し、銀行がその支払をした場合で
あっても、払戻請求書に押捺された会社代表者の印影が届出の印影と合致し、請求者が当該会社
の代表者を補助して会社の設立事務に従事し、設立後は取締役の一員となっていたことを当該係
員において知っているなど判示の事情があるときは、銀行がその者に預金の払戻を請求する代理
権限があると信じたことに過失はない。
民集 21-10-2613 判時 508-43 判タ 216-126 金法 501-21 金判 95-5
宇野栄一郎・ジュリ 393-72 中馬義直・別冊ジュリ 38-60 来栖三郎・法協 86-1-152
林部実・金法 721-24
原審:福岡高裁 S.42.2.27 判・S38(ネ)720 号 民集 21-10-2622 高民集 20-1-83
判時 487-46 判タ 210-203 金法 479-26 金判 95-7 鞠子公男・ジュリ 443-149
一審:大分地裁 S.38.9.23 判・S34(ワ)383 号 民集 21-10-90 高民集 20-1-90
金法 289-12 金判 95-9
*中馬評釈:本件は便宜払に関する最高裁の判例としては最初のものではないかと思われる。第
一審では銀行が敗訴し、控訴審では準占有者に対する弁済として認められ、上告審でも是認さ
れた。便宜払いした場合の銀行の過失の有無の認定の難しさを物語っている。
[最高裁三小 S.43.2.6 判*]S42(オ)902 号 債務不存在確認本訴、約束手形金反訴
民法 715 条
請求事件(上告棄却)
相互銀行支店長が約束手形を振り出した場合において、受取人が右支店長に手形振出およびそ
の原因たる契約締結の代理権が存在しないことを知っていたときの相互銀行の責任の成否:同
銀行の本人責任及び使用者責任を否認 ― 相互銀行支店長が約束手形を振り出した場合にお
いて、受取人が右支店長に該手形の振出およびその原因関係とされる契約の締結についての代理
権が存在しないことを知っていたときは、被上告人である右相互銀行は本件手形について上告人
に対し支払の責を負わず、また、受取人が右相互銀行に対し民法 715 条に基づく損害賠償責任を
問うことはできない。右相互銀行の本人責任及び使用者責任を否定して損害賠償責任の不存在を
判示した原判決を認容し、上告を棄却。
集民 90-209 判時 514-48
石神兼文・S.3 重要判ジュリ 433-70 野村豊弘・ジュリ 479-137
原審:福岡高裁 S.42.5.2 判・S40(ネ)625 号
一審:熊本地裁玉名支部
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[最高裁二小 S.43.2.9 判*] S41(オ)889 号 留置料請求事件(上告棄却)
民法 153 条、商法 589 条
裁判外の催告を受けた者が請求権の存否調査のため猶予を求めた場合と時効中断の効力
― 裁判外で債務履行の催告を受けた者が請求権の存否について調査するため猶予を求めた
場合には、民法 153 条所定の 6 箇月の期間は、その者から何分の回答がされるまで進行しない。
民集 22-2-122 判時 515-58 判タ 221-113
星野英一・法協 86-5-77
川井健・民商 59-2-86
原審:東京高裁 S.41.5.27 判・S36(ネ)418 号(原判決取消・請求認容) 民集 22-2-152
57
判時 452-38
風間鶴寿・判例評論 96-10
一審:東京地裁 S.36.2.4 判・S31(ネ)4169 号(請求棄却) 民集 22-2-125
小町谷操三・ジュリ 297-115
*:
[大審院 T.8.6.30 判*]も要参照。
*星野評釈:債務者が債務の存否を調査するために猶予を求めたために裁判上の請求其の他を差
し控えている間に時効が進行するのでは、債権者に酷であり、もしこれを認めると狡猾な債務
者を利するだけのことになるからである。そうすると、債務者の回答がない限り六箇月の期間
は何時までも進行しないかが問題であり、時効完成が無限にのびるのをどう抑えるかが将来の
問題として残されている。一般論としては、
「相当の期間」とし、具体的事例に応じて判断され
ることになろう。
[最高裁三小 S.43.4.2 判*] S41(オ)1007 号 不動産媒介手数料請求事件(上告棄却)
商法 512 条・550 条、民法 648 条、宅地建物取引業法(S.39 改正前)17 条
一、 不動産売買の黙示の媒介契約がされたとして報酬請求権が認められた事例 ― 宅地建物
取引業を営む商人が不動産の売買契約を成立させるため、買主を現場に案内し、契約の締結に立
ち会い、売買代金額について売主、買主の両者の言い分を調整して、両者をして買主の希望価額
以下に合意させ、目的物の受渡、代金の授受に関与した等判示事実関係のもとにおいては、買主
との間に明示の売買の媒介契約がされなかつたとしても、黙示の媒介契約がされたものと解する
ことができ、右商人は、商法第 512 条により、買主に対し、右不動産売買の媒介の報酬を請求す
ることができる。
二、不動産売買の媒介を依頼された者が数人あるときの報酬額の配分基準 ―
買主から不動
産売買の媒介の依頼を受けた仲介人が数人あるときは、各仲介人は、特段の事情のないかぎり、
売買の媒介に尽力した度合に応じて、報酬額を按分して、買主に対し請求することができると解
するのが相当である。
民集 22-4-803
判時 519-86 判タ 222-158
米津昭子・別冊ジュリ 49-116
原審:大阪高裁 S41.6.24 判・S38.(ネ)192 号
民集 22-4-812 金判 104-4
一審:大阪地裁 S.38.1.17 判・S34(ワ)3716 号
民集 22-4-810
*[最高裁一小 S.39.7.16 判*]末尾のコメント参照。
[最高裁大法廷 S.43.4.24 判*] S41(オ)10 号 売掛代金請求事件(上告棄却)
商法 504 条、民法 99 条 1 項・100 条
一、商法 504 条(商行為の非顕名代理)の法理 ― 「商法は、本人のための商行為の代理につ
いては、代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生ずる
ものとして、顕名主義に対する例外を認めているのである。
」
二、同条但書:
「但し、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理
人に対して履行の請求をすることを妨げない。」に伴う法律関係 ― 「相手方において、代理
人が本人のためにすることを知らなかったとき(過失により知らなかったときを除く)は、相手
方保護のため、相手方と代理人との間にも右と同一の法律関係を生ずるものとし、相手方は、そ
の選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を許容したものと解するのが相
当であり、相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本
人相手方間の法律関係の存在を主張することはできないものと解すべきである。
」
民集 22-4-1043 判時 515-27 判タ 224-134 商判集三-289 神谷高保・別冊ジュリ 194-76
原審:名古屋高裁 S40.10.14 判・S40(ネ)144 号
民集 22-4-1051 高民集 18-6-500
一審:名古屋地裁豊橋支部 S.40.2.12 判・S38(ワ)47 号
民集 22-4-1049
* 相手方が本人から提起された債務の履行を求める訴訟の継続中に、債権者として代理人を選
択した場合、代理人が相手方に請求しようとしても、既に時効期間が経過している問題がある。
58
[最高裁三小 S.48.10.30 判*]は、本人の請求が、訴訟が係属している間、代理人の債権につ
き催告に準じた時効中断の効力を及ぼしていると解して時効消滅を認めず、代理人の相手方に
対する請求を認めている。
[最高裁一小 S.43.7.11 判*] S40(オ)25 号・株券引渡請求事件(破棄差戻)
商法 552 条、破産法 87 条
問屋の破産と取戻権 - 「問屋が委託の実行として売買をした場合に、右売買によりその相手方
に対して権利を取得する者は、問屋であって委託者ではない。しかし、その権利は委託者の計算
において取得されたもので、これにつき実質的利益を有する者は委託者であり、かつ、問屋は、
その性質上、自己の名においてではあるが、他人のために物品の販売または買入をなすを業とす
る者であることに鑑みれば、問屋の債権者は問屋が委託の実行としてした売買により取得した権
利についてまでも自己の債権の一般的担保として期待すべきではないと言わなければならない。
されば、問屋が前記権利を取得した後これを委託者に移転しない間に破産した場合においては、
委託者は右権利につき取戻権を行使し得るものと解するのが相当である。」
民集 22-7-1313 判時 529-70 判タ 225-88
大塚龍児・別冊ジュリ 194-174
原審:広島高裁松江支部 S.39.10.30 判・S37(ネ)57 号
民集 22-7-1468
一審:松江地裁 S.37.9.28 判・S36(ワ)9 号
民集 22-7-1467
[最高裁大法廷 S.43.7.17 判*] S40(オ)959 号 貸金請求事件(一部破棄自判・
民法 419 条 1 項、利息制限法 1 条 1 項・4 条 1 項
一部上告棄却)
利息制限法所定の制限を超える利息の定め或る金銭消費貸借において、遅延損害金について特
約のない場合と遅延損害金の率 ― 遅延損害金は、同法第 1 条 1 項所定の利率にまで縮減
される利息と同率に縮減されると解するのが相当である。
民集 22-7-1505
判時 522-3
前田耕造・別冊ジュリ 78-30
原審:福岡高裁 S.40.6.9 判・S39(ネ)251 号
民集 22-7-1520
一審:熊本地裁八代支部 S.39.2.25 判・S36(ワ)29 号ほか 民集 22-7-1517
*古田:利息制限法 4 条 1 項は、遅延損害金の特約は 1 条の利率の 2 倍(H.11 改正後は 1.46 倍)
までは有効とされている。 本件事案はその特約がないことと、裁判所の消費者保護への志向
を示している。
[最高裁二小 S.43.8.2 判*]S42(オ)740 号 解雇無効等請求事件(上告棄却)
労働基準法 89 条(現在は労働契約法 7 条が直接対象となる)
所持品検査 ― 西日本鉄道事件
一、 従業員の金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なわれる所持品検査が許されるための要
件と従業員の検査の受忍義務 ― 使用者がその従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・
防止のために行なう所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方
法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならず、
このようなものとしての所持品検査が就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれるときは、
従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等特段の事情がないかぎり、検査を受忍
すべき義務がある。
二、私鉄の電車運転士が脱靴を伴う靴の中の検査を拒否したことを理由とする懲戒解雇が違法
でないとされた事例 ― 私鉄の使用者が、
「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品
の検査を求められたときは、これを拒んではならない。
」との就業規則の条項に基づき、組合と協
議のうえ、電車運転士ら乗務員一同に対し、脱靴が自然に行なわれるよう配慮して、靴の中の検
査を実施しようとした等判示事実関係のもとにおいては、当該乗務員は右検査に応ずる義務があ
59
り、この場合、被検査者の一人が脱靴を拒否したことを理由とする懲戒解雇は違法ではない。
民集 22-8-1603 判時 528-82 判タ 226-82
浜田富士郎・法協 86-12-112
浅井清信・民商 60-4-66
阿久澤亀夫・法学研究(慶大)42-4-89
木村五郎・判例評論 121-35
家田愛子・別冊ジュリ 197-130
原審:福岡高裁 S.42.2.28 判・S40(ネ)33 号 民集 22-8-1661 労民集 18-1-108
一審:福岡地裁 S.39.12.14 判・S36(ワ)773 号 民集 22-8-1621
労民集 18-1-125
*家田評釈:本件は従業員の所持品検査の問題についての最高裁のリーディング・ケースであり、
所持品検査が適法とされ労働者に受忍義務が生じる要件として以下の 4 点が示された。
①.検査を必要とする合理的理由の存在、②.妥当な方法と程度、③.制度としての画一的実施、
④.就業規則などの明示の根拠。S.43 以降の企業における所持品検査に関する判決は、すべて本
判決の判断枠組に従って判断されている。
所持品検査が上記 4 要件を満たして適法とされた場合においても、その検査拒否への懲戒処
分の内容が妥当かの問題がある。判例では、特に懲戒解雇が「解雇権の乱用」として無効とさ
れたものが多い。本判決における懲戒解雇処分についても、多くの学説は過酷に過ぎるとして
いる。
*古田:その後の所持品検査拒否での懲戒解雇を争った次の事件では、解雇は否認されている。
東陶機器事件:福岡地裁小倉支部 S.46.2.12 判・S.42(ヨ)529 号・判タ 280-297、芸陽バス事件:
広島地裁 S.47.4.18 判・S.45(ヨ)437 号・判タ 280-297、帝国通信工業事件:横浜地裁川崎支部
S.50.3.3 判・S.43(ワ)368 号・判タ 264-325。
また、降格の懲戒処分を争った次の事件では、降格を無効とし、慰謝料 30 万円が判示されて
いる。サンデン交通事件:山口地裁下関支部 S.54.10.8 判・S.48(ワ)155 号・労働判例 330-99。
なお、
[浦和地裁 H.3.11.22 判*]の日立物流事件は、本人の意に反しての所持品・身体検査
の後に顧客の通報が誤りであることが会社に判明した事案であるが、本人から会社への慰謝料
請求が 30.万円に限り認められている。最高裁 S43 判決では使用者による所持品検査が労働者
の如何なる人格を害するかを明示していなかったが、この日立物流事件判決では、それが明示
されている。
[最高裁三小 S.43.9.24 判*] S42(オ)1438 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
自賠法 3 条、民法 709 条
一、交差点において追抜態勢にある自動車運転手の並進車に対する注意義務の範囲
二、自賠法 3 条にいう『自己のために自動車を運行の用に供する者』とは
[判示要旨]
一、交差点において追抜態勢にある自動車運転手は、特別の事情のないかぎり、並進車が交通
法規に違反して進路を変えて、突然自車の進路に近寄ってくることまでも予想して、それによっ
て生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はな
いと解するのが相当である。
二、上記追抜態勢にある自動車運転手である被上告人 B1 は、同 B2 の父親で、同 B2 から前記
自動車(軽四輪貨物自動車)を借受けて自己の営業に常時使用していたもので、同 B2 は右自動
車の運行自体について直接の支配力を及ぼし得ない関係にあったものである旨の原審の認定は、
原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。 ところで、自賠法 3 条にいう「自己のために自
動車を運行の用に供する者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、且つ、その使用によ
り享受する利益が自己に帰属する者を意味するから、被上告人 B2 は右にいう「自己のために自
動車を運行の用に供する者」にあたらないものと云わねばならない。
集民 92-369
判時 539-40
原審:名古屋高裁 S.42.9.28 判・S42(ネ)105 号
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
60
[大阪地裁 S.43.9.24 判*]S42(ワ)123 号 小切手金請求事件(請求認容)
小切手法 19 条
交付前に盗取された小切手であるとして振出人責任を否定する者の「盗取された」ことの立証
責任 ― 「手形行為について契約説を採るにせよ創造説を採るにせよ、手形行為者によって作
成された手形もしくは小切手が、第三者の手中に帰しその者について裏書の連続等手形法 16 条 1
項ないし小切手法 19 条等の形式的要件を具備する場合には、その者が適法な所持人と推定される
ことは言うまでもないが、それのみにとどまらず、該手形若しくは小切手が手形行為者によって
任意に相手方に交付されたという事実上の推定がなされ、これを否定する者に右推定を覆すべき
訴訟法上の責任があると解すべきである。」
判タ 227-222
[最高裁一小 S.43.9.26 判*] S41(オ)77 号 配当異議事件(破棄差戻)
民法 145 条・372 条・351 条・423 条
債権者代位権の転用が認められた事例
一、物上保証人は被担保債権の消滅時効を援用することができるか ― 「消滅時効を援用し
得る者は、権利の時効消滅によって直接利益を受ける者に限られるが、他人の債務のために自己
の所有物件につき抵当権を設定したいわゆる物上保証人もまた被担保債権の消滅によって直接利
益を受ける者というを妨げないから、民法 145 条にいう当事者として右物件によって担保された
他人の債務の消滅時効を援用することが許されるものと解する。
」
二、債権者はその債務者に代位して他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができ
るか ―債権者は、自己の債権を保全するに必要な限度で、債務者に代位して、他の債権者に
対する債務の消滅時効を援用することができる。
民集 22-9-2002 判時 535-48 判タ 227-150 金法 525-16 金判 135-10
岡本担・別冊ジュリ 46-92
中馬義直・別冊ジユリ 47-46 船越隆司・金判 149-2
星野英一・法協 86-11-150
内池厳四郎・民商 60-5-132
原審:福岡高裁 S.40.11.9 判・S40(ネ)528 号 民集 22-9-2012 金判 135-13
一審:佐賀地裁 S.40.6.30 判・S39(ワ)276 号 民集 22-9-2008 金判 135-13
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[最高裁大法廷 S.43.11.13 判*] S41(オ)1281 号 債務不存在確認等請求事件(棄却)
利息制限法 1 条・4 条、民法 404 条・703 条・705 条
債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を任意に支払った場合における超過部分
の充当による元本完済後の支払額の返還請求の許否 ― 「債務者が利息制限法所定の制
限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民
法 491 条により、残存元本に充当されるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところで
あり(
[最高裁大法廷 S.39.11.18 判*]参照)、
・・・ 思うに、利息制限法 1 条、4 条の各 2 項は、
債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払つたときは、その超過部分の返還を
請求することができない旨規定するが、この規定は、金銭を目的とする消費貸借について元本債
権の存在することを当然の前提とするものである。けだし、元本債権の存在しないところに 利
息・損害金の発生の余地がなく、したがつて、利息・損害金の超過支払ということもあり得ない
からである。この故に、消費貸借上の元本債権が既に弁済によって消滅した場合には、もはや利
息・損害金の超過支払ということはありえない。 従って、債務者が利息制限法所定の制限をこ
えて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が
完済となったとき、 その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われ
たものに外ならないから、この場合には、右利息制限法の法条の適用はなく、民法の規定すると
61
ころにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。
」 裁判官 3
名:横田正敏、入江俊郎、城戸芳彦の反対意見あり。
民集 22-12-2526 判時 535-3 判タ 227-99 金判 135-5
星野英一・法協 87-11・12-99 谷口知平・民商 62-3-122 広中俊雄・ジュリ 415-86
野田宏・ジュリ 415-89 石川利夫・ジュリ 433-52・別冊ジュリ 38-132
高木多喜男・別冊ジュリ 105-8 鹿野菜穂子・別冊ジュリ 135-154
大河純夫・別冊ジュリ 176-122
原審:東京高裁 S.41.9.9 判・S39(ネ)1495 号
民集 22-12-2553 金判 135-8
一審:東京地裁 S.39.5.29 判・S34(ワ)9725 号等 民集 22-12-2533
*:
[最高裁二小 H.18.1.13 判*]末尾の古田コメント参照。
[東京地裁 S.44.2.18 判*] S41(ワ)9273 号 別除権行使請求事件(一部棄却、一部却下)
民法 304 条・367 条(現行 366 条)
物上代位権の行使には移付命令を要するか(消極) ― 「物上代位は、目的物の交換価値から
優先弁済を目的とする担保物権の目的物が変形して、現実的に、交換価値が具現した場合にも、
この具現したものに対して右担保物権の効力が及ぶとするもので、これは、右担保物権の目的物
に対する交換価値性に基づくものというべきところ、右交換価値が、既に金銭債権という形で顕
在化したときは、右担保物権がこの金銭債権の上の債権質権に類似した優先権となるものと解し、
代位物が特定され、しかも、これが公示されて、第三債務者や債権の譲受人等を不慮の損害から
守るし余地がとられる限り、物上代位を行使するためには、必ずしも、民事訴訟法に定める移付
命令によることなく、民法 367 条(現 366 条)の規定の趣旨に則って、債権者は、第三者に対し
て、代位物である金銭債権を直接に取立てることができるものと解すべきである。 *本件では
既に、当該売買代金債権に仮差押決定を得て、第三債務者である被告に送達されており、物上代
位権を行使し得る。
」
判時 575-42
[最高裁一小 S.44.2.27 判*] S43(オ)877 号 建物明渡請求事件(上告棄却)
民法 33 条、商法 52 条・504 条
一、法人格否認の法理 ― 「およそ社団法人において法人とその構成員たる社員とが法律上別
個の人格であることはいうまでもなく、このことは社員が一人である場合でも同様である。しか
し、およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法生息
によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に
基づいて行われるものなのである。従って、法人格が全く形骸にすぎない場合、またはそれが法
律の適用を回避する為に濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なる
ものの本来の目的に照らして許すべからざるものと云うべきであり、法人格を否認すべきことが
要請される場合を生じるのである。
」
二、実質が個人企業と認められる株式会社における取引の効果の帰属 ―株式会社の実質がまっ
たく個人企業と認められる場合には、これと取引をした相手方は、会社名義でされた取引につい
ても、これを背後にある実体たる個人の行為と認めて、その責任を追求することができ、また、
個人名義でされた取引についても、商法五〇四条によらないで、直ちにこれを会社の行為と認め
ることができる。
民集 23-2-511 判時 551-80 判タ 233-80 金判 154-2
野田宏・ジュリ 423-92
正亀慶介・S44 重要判ジュリ 456-79
蓮井良憲・民商 61-6-187
森本滋・別冊ジュリ 205-10
原審:東京高裁 S.43.6.3 判・S43(ネ)193 号
民集 23-2-532
一審:東京地裁 S.43.1.19 判・S42(ワ)3996 号
民集 23-2-517
62
[東京地裁 S.44.2.27 判*]S43(ワ)4368 号 貸金等請求事件(一部容認・一部棄却)
手形法 77 条・15 条、民法 458 条
他人の金員借入に際し、自己の信用を利用させる意思で約束手形に裏書した事実と、同金借の
連帯保証債務負担の意思の推認(消極) ― 「手形の裏書と手形振出の原因債務の保証または
連帯保証とは、種々の点で法律上の効果を異にするのであるから、
・・・保証または連帯保証債務
を負担することを約した者と確認することは相当でない([最高裁二小 S.35.9.9 判*]参照)。そ
して、本件では、上記の手形裏書の事実が認められるだけで、ほかに被告が原告主張の連帯保証
契約を締結したと言い得るような直接または間接の事実を認めるに足りる証拠はない。」
判時 559-80
[最高裁三小 S.44.6.24 判*] S41(オ)981 号 売掛代金請求事件(一部破棄・一部自判)
民法 423 条
金銭債権について債権者代位権を行使しうる範囲 ― 「債権者代位権は、債権者の債権を保全
するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、 債権者が債務者に対する金銭
債権に基づいて債務者の第三債務者に対して有する金銭債権を代位行使する場合においては、債
権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうると解すべきである。」
民集 23-7-1079 判時 562-39 判タ 237-154 金法 556-26 金判 173-5
田山輝明・別冊ジュリ 196-24 石田喜久夫・判タ 240-70 松坂佐一・民商 62-4-129
水田耕一・金法 572-12 千草秀夫・金法 564-24
原審:名古屋高裁 S.41.5.23 判・S39(ネ)63 号(差戻審判決) 民集 23-7-1086
一審:名古屋地裁 S.29.2.27 判・S27(ワ)1320 号 民集 17-12-1644
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[最高裁一小 S.44.6.26 判①*]S43(オ)17・報酬金請求事件(上告棄却)
商法 512 条・550 条 2 項
宅地建物取引業者の報酬請求権 ― 「一般に、宅地建物取引業者は、商法 543 条にいう「他人
間の商行為の媒介」を業とする者ではないから、いわゆる商事仲立人ではなく、民事仲立人では
あるが、同法 502 条 11 号にいう「仲立に関する行為」を営業とする者であるから、同法 4 条 1
項の定めるところにより商人である・・・しかしながら、上告人は、
・・・被上告人の委託により、
または同人のためにする意思をもって、本件売買の媒介をしたものではないから、被上告人に対
し同法 512 条の規定により右媒介につき報酬請求権を取得できるものではなく、また同法 550 条
の規定の適用をみる余地はない・・・なお、宅地建物取引業法 17 条の規定は、宅地建物取引業者
の受ける報酬額の最高限度に関するものであって、その報酬請求権発生の根拠となるものではな
い。
」
民集 23-7-1264 判時 561-69 判タ 237-160
明石三郎・民商 62-4-144
神作裕之・別冊ジュリ 194-84
原審:大阪高裁 S.42.9.26 判・S40(ネ)524 号
民集 23-7-1273
一審:神戸地裁 S.40.3.1 判・S37(ワ)372 号
民集 23-7-1272
*[最高裁一小 S.39.7.16 判*]末尾のコメント参照。
[最高裁一小 S.44.6.26 判②*]
S40(オ)907 号 株券引渡請求事件(棄却)
民法 34 条・41 条 2 項・42 条 2 項・1012 条・1013 条、民訴法 46 条(現民訴法 29 条)
権利能力なき財団を認めた事例
63
一、
「遺言による寄付行為に基づく財団法人の設立を目的として、判示のように、代表機関を持
ち、寄付財産を独立に管理運用し活動する財団は、設立中の財団法人として法人格のない財団に
あたり、訴訟上の当事者能力を有する。
」
二、「遺言執行者が、遺言による寄付行為に基づく寄付財産として管理する相続財産の株式を、
判示のように設立中の財団法人に帰属させ、その代表機関名義に名義を書き換える行為は、遺言
の執行に必要な行為にあたり、これにより、相続人は株式についての権利を喪失する。」
民集 23-7-1175 判時 563-38
森泉章・ジュリ 456-42
沢井種雄・民商 62-5-86
原審:名古屋高裁 S40.5.31 判・S38(ネ)40 号
民集 23-7-1255
一審:津地裁 S.38.1.24 判・S34(ワ)87 号他
民集 23-7-1221 下民集 14-1-60
*:
[最高裁一小 S.39.10.15 判*]の末尾の注記を参照。
[最高裁二小 S.44.8.29 判*]S44(オ)330 号・所有権移転登記手続請求事件(上告棄却)
商法 525 条
確定期売買と認められた事例 ― 商人間の土地の売買において、当事者の意思表示により、
一定の日時または一定の期間内に履行をなさなければ、契約をした目的を達することができない
ときは、その売買は確定期売買と解すべきである。
集民 96-443
判時 570-49
判タ 239-155
尾崎安央・別冊ジュリ 194-102
原審:大阪高裁 S.43.12.20 判・S40(ネ)346 号
[最高裁三小 S.44.9.2 判*] S43(オ)1095 号 破産債権優先配当権確認請求事件(上告棄却)
民法 174 条の 2・306 条・308 条、破産法 242 条
一、破産手続において債権表に記載された債権の消滅時効期間 ― 確定債権についての債権
表の記載は確定判決と同一の効力を有するから、右債権表に記載された債権の消滅時効について
は、民法 174 条ノ 2 第 1 項により、その時効期間は 10 年であると解すべきである。
二、退職金債権と一般の先取特権 ― 給料の後払いとしての性格を有する退職金債権について
は、その最後の六か月間の給料相当額について一般の先取特権があると解すべきである。
民集 23-9-1641
山崎寛・民商 62-6-97
原審:東京高裁 S.43.7.19 判・S43(ネ)414 号
民集 23-9-1652
一審:東京地裁 S.43.2.20 判・S42(ワ)1026 号
民集 23-9-1645
[最高裁二小 S.44.11.21 判*]S43(オ)1332 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 715 条
被用者の行為を職務権限内の行為と信じた相手方に重大な過失がないとされ、民法 715 条に基
づく損害賠償責任を是認 ― 「被用者のした取引行為が、その行為の外形からみて、使用者の
事業の範囲内に属するものと認められる場合においても、その行為が被用者の職務権限内におい
て適法に行なわれたものでなく、かつ、その行為の相手方が右の事情を知りながらまたは重大な
過失により右の事情を知らないで、当該取引をしたと認められるときは、その行為に基づく損害
について、その取引の相手方である被害者は、使用者に対してその賠償を請求することができな
いものと解すべきことは、
当裁判所の判例
([最高裁一小 S.42.11.2 判*])とするところであるが、
このように、相手方の故意のみでなく重大な過失によっても使用者が損害賠償の責を免れるのは、
公平の見地に照らし、被用者の行為の外形に対する相手方の信頼が、重大な過失に基づくときは、
法律上保護に値いしないものと認められるためにほかならないから、ここにいう重大な過失とは、
取引の相手方において、わずかな注意を払いさえすれば、被用者の行為がその職務権限内におい
て適法に行なわれたものでない事情を知ることができたのに、そのことに出でず、漫然これを職
64
務権限内の行為と信じ、もつて、一般人に要求される注意義務に著しく違反することであって、
故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方にまったく保護を与えないことが
相当と認められる状態をいうものと解するのが相当である。
」
甲が、相互銀行乙に預金するために、その外交係被用者丙に金銭を交付した場合において、甲
は、丙と古くからの知己で、数年前から同人を通じて乙と預金取引をしていたものであり、丙を
信頼していたため、同人の勧誘に応じて右預金に及んだものであるなど原判示の事実関係(原判
決理由参照)があるときは、丙が支払を約した利息が銀行預金としては異例の高率のものであり、
右預金の授受に際し丙の交付した領収証が乙所定のものでなかつたという事情があっても、甲に
おいて、丙が右預金を受領する行為を同人の職務権限内における適法な行為と信じたことにつき、
重大な過失があつたものとはいえない。
民集 23-11-2097 判時 577-65 判タ 242-171 金判 202-16
谷口知平・民商 63-4-67
原審:大阪高裁 S.43.9.25 判・S41(ネ)124 号 民集 23-11-2129 金法 528-28 金判 202-17
一審:大阪地裁 S.41.1.20 判・S32(ワ)5683 号 民集 23-11-2113 判タ 188-164
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[最高裁三小 S.44.11.25 判*] S44(オ)280 号 過払金返還請求事件(破棄差戻)
利息制限法 1 条・4 条、民法 404 条・491 条・703 条・705 条
債務者が利息制限法所定の制限を超えた利息・損害金を元本とともに任意に支払った場合と、
右制限に従った元利合計額を超える支払額に対する不当利得返還請求権の許否 ― 「債務
者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたときは、右
制限をこえる部分は、民法 491 条により、残存元本に充当されるものと解すべきことは、当裁判
所の判例とするところであり([最高裁大法廷 S.39.11.18 判*]参照)、また、債務者が利息制限
法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当する
と、計算上元本が完済となったとき、 その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁
済として支払われたもの に外ならず、不当利得としてその返還を請求しうるものと解すべきこと
も当裁判所 の判例の示すところである(
[最高裁大法廷 S.43.11.13 判*]参照)。そして、この
理は、債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を、元本とともに任意に支払った場
合においても、異なるものとはいえないから、その支払にあたり、充当に関して特段の指定がさ
れないかぎり、利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金はこれを元本に充当し、なお残額の
ある場合は、元本に対する支払金をもつてこれに充当すべく、債務者の支払った金額のうちその
余の部分は、計算上元利合計額が完済された後にされた支払として、債務者において、民法の規
定するところにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。
」
民集 23-11-2137 判時 580-54 判タ 242-174 金判 194-2
西村信雄・法律時報 42-7-170 石川利夫・民商 63-3-174 森泉章・金判 209-2
原審:仙台高裁 S.43.10.16 判・S41(ネ)315 号
民集 23-11-2144 金判 194-4
一審:盛岡地裁二戸支部 S.41.8.26 判・S37(ワ)5 号
民集 23-11-2142 金判 194-6
*:
[最高裁二小 H.18.1.13 判*]末尾の古田コメント参照。
[最高裁二小 S.44.12.19 判*] S43(オ)275 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権の対象否定
営業継続に不可欠且つ適切な 譲渡担保の設定が、動機の正当性と手段・方法の相当性から、詐
害行為にならないとされた事例 ― 牛乳小売業者が、継続的に牛乳の卸売を受けて来た仕入先
に対し、右取引上の債務を担保するため、所有店舗に根抵当権を設定し代物弁済の予約を結んで
いた場合において、代金の支払を遅滞したため、取引を打ち切り担保権を実行する旨の通知を受
65
けるに及んで、これを免れて従前どおりの営業の継続をはかる目的のもとに、原判示のように、
右仕入先と示談のうえ、債務の支払猶予を受け、前記店舗を営業用動産や営業権等とともに現在
および将来の債務の担保として譲渡担保に供したとき、右行為は、当時の諸般の事情に照らし、
営業を継続するための仕入先に対する担保提供行為として合理的限度を超えず、かつ、他に適切
な更生の道がなかつたものであるとするに難くない。
「債務者の右のような行為は、それによって
債権者の一般担保を減少せしめる結果を生ずるにしても、詐害行為には当らないとして、これに
対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当である。
」
民集 23-12-2518 判時 585-38 判タ 244-153 金法 572-22 金判 202-2
奈良次郎・別冊ジュリ 47-56 山木戸克己・法律時報 42-13-141
飯原一乗・判タ 248-66 坂井芳雄・金法 583-14 竹屋芳昭・民商 63-3-154
原審:東京高裁 S.42.12.20 判・S39(ネ)1930 号 民集 23-12-2528 金判 202-4
一審:東京地裁 S.39.7.27 判・S38(ワ)4711 号 民集 23-12-2523 金法 383-9
[最高裁大法廷 S.44.11.26 判*]S39(オ)1175 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
商法 266 条の 3(現会社法 429 条・430 条)
一、商法 266 条の 3 第 1 項前段「取締役がその職務を行うにつき、悪意又は重大なる過失あり
たるときは、その取締役は第三者に対しても亦連帯して損害賠償の責に任ず」の法意
二、株式会社の代表取締役が他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりにした場
合と任務の解怠
[判示要旨]
一、「法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しか も株式会社の活
動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場
から、取締役において悪意または重大な過失により右 義務に違反し、これによって第三者に損害
を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎ
り、会社がこれによって損害を被った結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第
三者が損害を被った場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の
責に任ずべきことを規定したのである。
」
二、「したがつて、・・・取締役の任務懈怠により損害を受けた第三者としては、その任務懈怠
につき取締役の悪意または重大な過失を主張し立証しさえすれば、自己に対する加害につき故意
または過失のあることを主張し立証するまでもなく、商法 266 条の 3 の規定により、取締役に対
し損害の賠償を求めることができる」
。・・・「もともと、代表取締役は、対外的に会社を代表し、
対内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関であるから、善良な管理者の注意をも
つて会社のため忠実にその職務を執行し、ひろく会社業務の全般にわたって意を用いるべき義務
を負うものであることはいうまでもない。したがつて、少なくとも、代表取締役が、他の代表取
締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、つ
いにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意
または重大な過失により任務を怠ったものと解するのが相当である。
」 被告・当該代表取締役の
商法 266 条の 3 第 1 項に基づく責任を認め過失相殺をして原告の請求を一部容認した原審判決を
是認して、上告を棄却。 裁判官 4 名:松田二郎・田中二郎・岩田誠・松本正雄の反対意見あり。
民集 23-11-2150 判時 578-3 判タ 243-107 金法 569-22 金判 193-8
須崎博史・別冊ジュリ 205-146 酒巻俊雄・民商 63-4-78 菅原菊志・ジュリ 456-100
原審:大阪高裁 S.39.7.16 判・S38(ネ)471 号
民集 23-11-2214 判時 385-64
一審:大阪地裁 S.38.1.25 判・S28(ワ)114 号
民集 23-11-2202 下民集 14-1-93
判時 348-33 判タ 145-125
北沢正啓・ジュリ 364-112
*古田:当時の商法 266 条の 3 に基づく取締役の第三者責任については、学説は種々に対立して
いるところ(須崎評釈参照)
、本大法廷判決が「第三者は当該取締役の任務懈怠又は過失或るこ
とを立証しさえすれば、事故に対する加害ないし損害に故意・過失を立証するまでもなく同人
66
に対して賠償を求めることができる」と、第三者保護を強調したことから、それまでの 12 年間
の判決 23 件中、対第三者責任を是認した判決は 21 件で 91%もあったのが、その後昭和 57 年
までの 13 年間では判決 63 件と倍増しかが是認した判決は 42 件で 67%となっている(山田泰
彦・早法 33-226~228:附表)
。 しかし、平成期の平成 20 年までの判決では、100 件余りあ
る内、70 件が取締役の対第三者責任を肯定している。否定された事件の中には、商法 266 条の
3 での責任ではなく、民法の不法行為責任や債権者代位棟で取締役の責任を肯定しているもの
もある(前嶋京子・甲南法学 49-12-54)
。
[大阪高裁 H.26.12.19 判*]も会社法 429 条 1 項の責任を判示した例である。
[東京地裁 S45.1.21 判*]
S43(ワ)13393 号 損害賠償請求事件(原告被害者に
商法 629 条・667 条、民法 423 条、民訴法 59 条・226 条
四割の過失相殺のうえ容認)
一、自動車対人賠償責任保険(任意保険)約款には、いわゆるノンアクションクローズの趣旨
が含まれるか(積極)*no action clouse :加害者・被害者間での損害賠償責任の確定までは
保険者に対する保険金請求訴訟等を提起することはできない旨の条項
二、加害者が保険会社に対して有する任意保険金請求権に関し、被害者が提起した債権者代位
訴訟は適法か(条件付積極)
三、右訴訟が適法な場合、保険会社に対し現在の給付を命ずることの可否(積極)
判タ 243-126
渡部修・判タ 253-63
*[東京高裁 S.41.8.29 判*]参照。
[名古屋地裁 S45.1.30 判*]
S42(ワ)3627 号 損害賠償請求事件
商法 629 条・667 条、民法 423 条、民訴法 226 条(現行 135 条)
一、対人賠償責任保険(任意保険)約款には、いわゆるノンアクションクローズの趣旨が含ま
れるか(積極)
二、被害者は、加害者との間で損害賠償額が確定する以前に、加害者が保険会社に対して有す
る任意保険金請求権を代位行使することができるか(消極)
判タ 243-138
*[東京高裁 S.41.8.29 判*]参照。
[東京地裁 S.45.3.25 判*]S43(ワ)1480 号・損害賠償請求事件
民法 1 条・92 条・415 条・418 条・623 条・709 条・715 条・722 条
一、タクシー会社が被用運転者の業務上の事故により生じた損害につき被用者に対し損害賠償
請求権ないし求償権を行使する場合の法的根拠
二、タクシー業界において右のような権利を行使しない慣習が存在するとは認められないとし
た事例
三、タクシー会社が被用運転者に対し右権利を行使したことが権利の濫用にあたるとされた事
例
四、右請求につき、水揚げ額・運転者の給与等の事情を考慮して過失相殺をした事例
判タ 246-177
沖野威・判タ 253-60
[最高裁一小 S.45.3.26 判*]S43(オ)27 号 油絵代金返還請求事件(上告棄却)
民法 95 条・423 条
要素の錯誤による意思表示の無効を第三者が主張することが許される場合 ― 「意思表示の要
素の錯誤については、表意者自身において、その意思表示に瑕疵を認めず、錯誤を理由として意
67
思表示の無効を主張する意思がないときは、原則として、第三者が右意思表示の無効を主張する
ことは許されないものであるが([最高裁二小 S.40.9.10 判*]参照)、当該第三者において表意
者に対する債権を保全するため必要がある場合において、表意者が意思表示の瑕疵を認めている
ときは、表意者みずからは当該意思表示の無効を主張する意思がなくても、第三者たる債権者は
表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することが許されるものと解するのが相当である。
」
民集 24-3-151 判時 589-44 判タ 247-175 金法 580-21 金判 210-7
幾代通・民商 64-2-167 須田晟雄・別冊ジュリ 175-46
原審:福岡高裁 S.42.10.12 判・S39(ネ)974 号 民集 24-3-163
一審:福岡地裁 S.39.11.16 判・S37(ワ)769 号
[最高裁三小 S.45.3.31 判*]S44(オ)1118 号・約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 77 条・32 条 1 項・32 条 2 項・17 条、民法 1 条 2 項・3 項
将来発生することあるべき債務の担保のために振り出された約束手形の受取人が右債務の不発
生が確定した後に振出人のための手形保証人に対してする手形金請求と権利の濫用 ― 将来
発生することあるべき債務の担保のために振り出され、振出人のために手形保証のなされた約束
手形の受取人は、手形振出の右原因関係上の債務の不発生が確定したときは、特別の事情のない
かぎり、以後手形保証人に対して手形上の権利を行使すべき実質的理由を失ったものであつて、
右手形を返還せず、手形が自己の手裡に存するのを奇貨として手形保証人に対し手形金を請求す
るのは、権利の濫用にあたり、手形保証人は受取人に対し手形金の支払を拒むことができる。
民集 24-3-182 判時 589-67 判タ 247-180 金判 212-11
上柳克郎・民商 64-1-81
仮屋広郷・別冊ジュリ 173-128
原審:高松高裁 S.44.7.30 判・S.43(ネ)48 号
民集 24-3-203 判タ 240-268
一審:高知地裁 S.43.1.24 判・S.41(ワ)346 号
民集 24-3-198
[最高裁二小 S.45.4.10 判*]S42(オ)1462 号・転付預金債権支払請求事件(破棄差戻)
民法 466 条 2 項、民事訴訟法 600 条 1 項・601 条
譲渡禁止の特約のある債権に対する転付命令の効力(積極) ― ①「譲渡禁止の特約のある債
権であつても、差押債権者の善意・悪意を問わず、これを差し押え、かつ、転付命令によつて移
転することができるものであつて、これにつき、民法 466 条 2 項の適用ないし類推適用をなすべ
きではないと解するのが相当である。けだし、同法 466 条 2 項は、その文理上、債権の譲渡を禁
止する特約につき、その効力を認めたものであつて、譲渡以外の原因による債権の移転について
同条項の規定を準用ないし類推適用すべきものとする見解には、首肯するに足りる合理的根拠を
見い出すことができないのみならず、譲渡禁止の特約のある債権に対して発せられた転付命令に
ついて、同法 466 条 2 項の準用があると解すると、民訴法 570 条(現民事執行法 131 条)
、618 条
(現民事執行法 152 条)が明文をもつて差押禁止財産を法定して財産中執行を免れ得るものを制
限的に特定し、同法 600 条(現民事執行法 152 条)が差し押えた金銭の債権について差押債権者
の選択に従い取立命令または転付命令を申請できる旨定めている法意に反し、私人がその意思表
示によつて、債権から強制執行の客体たる性質を奪い、あるいはそれを制限できることを認める
ことになるし、一般債権者は、担保となる債務者の総財産のうち、債務者の債権が、債務者、第
三債務者間の譲渡禁止の特約により担保力を失う不利益をも受けなければならないことになるの
であつて、法の予想しない不当な結果をうむものといわなければならず、このような結果は、転
付命令申請の際に差押債権者が善意であれば保護されるということや、差押債権者には取立命令
を得る道が残されているということで補われるものではないからである。
」
② 「原判決には、民法 466 条 2 項の解釈適用を誤った違法があり、
・・・この点に関する大審
院判例(T.4.4.1 判・T3(オ)800 号・民録 21-423、T.14.4.30 判・T14(オ)65 号・民集 4-5-209、
S.6.8.7 判・S6(オ)782 号・民集 10-10-783、S.9.3.29 判・S8(オ)656 号・民集 13-4-328)は変更
68
せらるべきものである。
」
民集 24-4-240 判時 589-21 判タ 248-115
林屋礼二・民商 63-6-75
我妻学・別冊ジュリ 177-154
原審:東京高裁 S.42.9.29 判・S39(ネ)3101 号
民集 24-4-257
一審:東京地裁 S.39.12.24 判・S36(ワ)1993 号
民集 24-4-250
*我妻評釈:現民事執行法の下では、差押債権者は、取立命令を得なくても、差押命令を得るこ
とによって当然に債権の取立ができる(155 条)。転付命令についても、不服申立手段を明文で
規定し(159 条 4 項)
、確定したときは、命令が第三債務者に送達された時に遡って効力が生ず
るものとした(159 条 5 項・160 条)
。このように転付命令は構造的に大きく変化したが、差押
債権者が独占的満足が得られる点は基本的に変わっていない。差押禁止財産についても、債務
者・債権者の双方の具体的な事情に即して両者を調整し得るように整備されている(152 条・
153 条)
。従って、民事執行法の下においても、当事者間の譲渡禁止特約は転付命令を妨げない
とする本判決の考え方は維持されている。
[最高裁一小 S.45.6.18 判*]S43(オ)778 号 転付債務履行請求事件(上告棄却)
手形法 38 条、民法 646 条 1 項・52 条
不渡異議申立手続の委託に伴う預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合と支払銀行
が手形債務者に対して有する反対債権をもつてする相殺の許否 ― 手形の不渡異議申立手続を
委託した手形債務者から異議申立提供金に見合う資金として支払銀行に交付された預託金の返還
請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有
する反対債権をもつて被転付債権と相殺することが、預託金返還請求権の性質上制限されるもの
と解すべき理由はない。
民集 24-6-527 判時 598-61 判タ 251-187
堀内仁・民商 64-2-150
高田桂一・S45 重要判ジュリ 482-83
柴崎暁・別冊ジュリ 173-196
原審:大阪高裁 S.43.4.26 判・S41(ネ)1382 号
民集 24-6-541 金法 515-28
一審:神戸地裁 S.41.8.24 判・S41(ワ)112 号
民集 24-6-535
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判①*] S39(オ)155 号 定期預金請求事件(上告棄却)
民法 511 条、民訴法 598 条 1 項(現・民事執行法 145 条)
一、債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債
権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力 (肯定) ― 債権が差し押えられた場
合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取
得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状
に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債
権と相殺することができる。
二、 相殺に関する合意の差押債権者に対する効力(肯定) ― 銀行の貸付債権について、債
務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合には、債務者のために存する右貸付金
の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する預金等の債権につき銀行において期限の利益を
放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、右預金等の債権を差し押えた債権者に対して
も効力を有する。
三、 第三債務者のする相殺および相殺予約の差押債権者に対する効力について制限説で判示
した 大法廷 S.39.12.23 判・S36(オ)897 号・民集 18-10-2217 は、上記の限度で判例変更
する ― 同大法廷判決は、上記 一・二とは異なり、第三債務者が債権差押前に取得した
債務者に対する債権の弁済期が差押当時に到来していない場合は、その弁済期が被差押債権の弁
済期より後に到来する関係にあるときは、第三債務者は、両債権の相殺をもって差押債権者に対
抗できないものとし、相殺の予約も右の場合には、差押債権者に対抗できない と判示していた。
69
民集 24-6-587 判時 595-29 判タ 249-125 金法 584-4 金判 215-2
四宮和夫・法協 89-1-126
林良平・民商 67-4-168
米倉明・ジュリ 460-90
石川利夫・H45 重要判ジュリ 482-50
石田喜久夫・ジュリ 500-139
小林資郎・別冊ジュリ 79-188 河野正憲・別冊ジュリ 177-138
北井功・別冊ジュリ 196-86
新堂幸司・金法 1581-182
原審:福岡高裁 S.38.11.13 判・ S36(ネ)712 号 高民集 16-8-684 判時 363-30
判タ 155-174 金法 361-5 金判 215-16
前田庸・ジュリ 347-90
一審:長崎地裁佐世保支部 S.25.9.18 判・S34(ワ)96 号
金判 215-20
*この判旨は、転付命令の場合でも同様である[最高裁二小 S.48.5.25 判*]
。
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判②*]S42(オ)747 号約束手形金請求事件(破棄差戻)
手形法 16 条 1 項・77 条 1 項 1 号、民訴法 186 条
手形法 16 条 1 項の適用を求める主張があると解すべき場合 ― 原告が、連続した裏書の記載
のある手形を所持し、その手形に基づき手形金の請求をしている場合には、当然に、手形法 16
条 1 項の適用を求める主張(正当な所持人である旨の主張)があるものと解すべきである。
(裁判官・松本正雄の反対意見あり:口頭弁論に於いて主張を要すると)
民集 24-6-712 判時 597-78 判タ 249-134
商判集三-460
坂井芳雄・民商 64-3-144
江頭憲次郎・別冊ジュリ 24-298
竹下守夫・別冊ジュリ 36-108
奈良次郎・別冊ジュリ 76-160
小西勝・判例評論 144-28
原審:名古屋高裁金沢支部 S.42.3.29 判・S39(ネ)88 号
民集 24-6-727 金判 221-12
一審:金沢地裁 S.39.5.30 判・S39(ワ)29 号
民集 24-6-725 金判 221-13
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判③*] S41(オ)444 号 取締役の責任追及請求事件(上告棄却)
民法 43 条・644 条、商法 166 条 1 項 1 号・254 条の 2(現会社法 355 条)・254 条 3 項(現
会社法 330 条)
、憲法 3 章
一、 政治資金の寄附と会社の権利能力 ―会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観
察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の
範囲に属する行為である。
二、会社の政党に対する政治資金の寄附の自由と憲法三章 ―憲法三章に定める国民の権利お
よび義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、
公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄附の
自由を有する。
三、商法 254 条ノ 2 の趣旨 ―商法 254 条ノ 2 の規定は、同法 254 条 3 項、民法 644 条に定
める善管義務を敷衍し、かつ、一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管義務とは
別個の、高度な義務を規定したものではない。
四、取締役が会社を代表して政治資金を寄附する場合と取締役の忠実義務 ―取締役が会社を代
表して政治資金を寄附することは、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄
附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてなされる限り、取締役の忠実義
務に違反するものではない。
民集 24-6-625 判時 596-3 判タ 249-116 金法 585-16 金判 217-5
河本一郎・S.45 重要判ジュリ 482-86
西原寛一・民商 64-3-122
泉田栄一・別冊ジュリ 205-8
後藤元伸・別冊ジュリ 195-18
原審:東京高裁 S.41.1.31 判・S38(ネ)791 号
高民集 19-1-7
一審:東京地裁 S.38.4.5 判・下民集 14-4-657
70
[最高裁一小 S.45.10.22 判*]S45(オ)637 号・報酬請求事件(上告棄却)
民法 130 条・645 条・648 条
宅地建物取引業者を排除して売買契約が成立した場合に停止条件の成就が故意に妨げられたと
して右業者の報酬請求権が認められた事例 ― 土地等の買受人が、その買受につき宅地建物取
引業者に仲介を依頼し、買受契約の成立を停止条件として一定額の報酬を支払う旨を約したのに、
買受人が右業者を排除して直接売渡人との間に契約を成立させた場合において、右契約の成立時
期が業者の仲介活動の時期に近接しているのみならず、当時その仲介活動により買受人の買受希
望価額にあと僅かの差が残っているだけで間もなく買受契約が成立するに至る状態にあつたので
あり、しかも、買受契約における買受価額が業者と買受人が下相談した価額を僅かに上廻る等の
事情のあるときは、買受人は、業者の仲介によって間もなく買受契約の成立に至るべきことを熟
知して故意にその仲介による契約の成立を妨げたものというべきであり、業者は、停止条件が成
就したものとみなして、買受人に対し、約定報酬の請求をすることができる。
民集 24-11-1599 判時 613-51 判タ 255-150
明石三郎・民商 65-3-75
斉藤真紀・別冊ジュリ 194-168
原審:東京高裁 S.45.4.14 判・S.44(ネ)487 号
民集 24-11-1608 金判 241-8
一審:東京地裁 S.44.2.17 判・S42(ワ)8784 号 民集 24-11-1604 金判 241-12
*[最高裁一小 S.39.7.16 判*]末尾のコメント参照。
[最高裁二小 S.45.11.6 判*]S41(オ)1236 号 転付命令に基づく請求事件(破棄自判)
民法 505 条・511 条、民訴法 198 条 2 項、手形法 83 条
一、いわゆる期限の利益喪失約款の差押債権者に対する効力
二、債権に対し差押が相次いでされた場合、第三債務者は債務者に対する反対債権につき、右
約款の適用により第一次差押の時その弁済期の到来したことを第二次差押債権者に対抗し得
るか
[判示要旨]
「債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有するときは、
その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問
わず、相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権をもつて、被
差押債権と相殺ができるものであり、また、銀行の貸付債権について、債務者に信用を悪化させ
る一定の客観的事情が発生した場合には、債務者のために存する貸付金の期限の利益を喪失せし
め、同人の銀行に対する預金等の債権につき、銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適
状を生ぜしめる旨の合意が右預金等の債権を差し押えた債権者に対しても効力を有することは、
当裁判所の判例とするところであり(
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判*]参照)
、右判例に従えば、
本件において、上告人が訴外会社に対して有していた貸付金債権をもつてする相殺は、すべて差
押債権者である被上告人らに対抗しうるものであり、右貸付金債権について締結されていた前記
期限の利益喪失約款も被上告人らに対抗しうる結果、上告人の訴外会社に対する貸付金の残債務
は、被上告人らに対する関係においてもE産業が右債権を差し押えた時にその弁済期が到来した
ものということができる。
そうであれば.本件預託金返還請求権の履行期は、支払銀行である上告人がF銀行協会か
ら不渡異議提供金の返還を受けた時に到来するものであるから(最高裁一小 S.45.6.18 判・
S43(オ)778 号・民集 24-6-527・判時 598-61・金法 587-34 参照)
、右債権および上告人の訴外会
社に対する貸付金債権は、昭和三八年五月三一日相殺適状に達したものということができ、被上
告人らの本訴請求債権は、上告人のした本件相殺の意思表示により、前同日に遡ってすべて消滅
したものということができる。
したがつて、これと異なる見解のもとに被上告人らの本訴請求を一部認容した原判決は破棄を
免れず、第一審判決は、その限度において取消を免れない。そして、被上告人らの本訴請求はす
べて失当として棄却すべきものである。
」
71
集民 101-407 判時 610-43 金法 602-55
原審:東京高裁 S.41.8.29 判・S41(ネ)16 号 下民集 17-7・8-726 判時 466-28
吉原省三・判例評論 101-24
畑口紘・ジュリ 421-146
一審:東京地裁 S.40.12.25 判・S39(ワ)6076 号 下民集 16-12-1832 判時 430-14
[最高裁大法廷 S.45.11.11 判*]S43(オ)753 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 10 条・70 条 1 項・71 条・77 条 1 項、民法 149 条
一、 振出日白地の手形による訴提起と時効中断 ― 振出日白地の約束手形の所持人が、その満
期から三年以内に、振出人に対して、右白地部分を補充しないまま手形金請求の訴を提起し、そ
の後右訴の事実審口頭弁論終結時までに右白地部分を補充したときは、たとえその補充の時が満
期から三年を経過したのちであつたとしても、右手形上の権利の時効は、右訴の提起の時に中断
されたものと解すべきである。
二、満期が記載されている白地手形の白地補充権の消滅時効 ― 満期が記載されている白地手
形の白地補充権は、手形上の権利と別個独立に時効によって消滅するものではなく、手形上の権
利が消滅しないかぎりこれを行使しうるものと解すべきである。
民集 24-12-1876 判時 610-16 判タ 255-124 金判 236-2
上柳克郎・民商 67-5-150
本間輝雄・S45 重要判ジユリ 482-98
田辺康平・別冊ジュリ 24-292
原審:大阪高裁 S.43.4.15 判・S39(ネ)260 号 民集 24-12-1893 金判 236-8
一審:京都地裁 S.39.2.5 判・S36(ワ)408 号 民集 24-12-1888 金判 236-11
[東京地裁 S.46.9.29 判*] S45(手ワ)1681 号 約束手形金請求事件(認容・確定)
手形法 13 条・82 条
手形行為:
「湯浅直次」との記名に「湯浅憲吾」と刻した印を押捺した裏書は有効 ― 「手形行
為としての記名捺印において、印は記名者の名を表示するものが用いられるのが通例ではあるが、
そうでなければならないという理由はなく、印と認めるに足るものが押捺されていれば足りると
解すべきである。けだし手形上の署名の方式の問題としては、記名捺印の場合の印は、手書によ
る署名の場合にその筆蹟の個別性が署名の真否判定の手がかりとなるのと同様に、その手形行為
が記名によって表示された行為者の行為であるか否かの真否判定の手がかりを与えるものとして
存在すれば足りるからである。
」
判時 662-87
*古田:本判決は、判例・通説に副うものである。鈴木「手形法・小切手法」有斐閣 S.32.1 刊 130
頁の注 7、
[大審院 S.6.6.25 判*]
、大審院 S.8.9.15 判・民集 12-2170。
[最高裁二小 S.46.11.19 判*] S45(オ)498 号 売掛代金請求事件(上告棄却)
民法 424 条・425 条
詐害行為取消権行使の効果
金銭の支払を求める詐害行為取消訴訟手続において被告は自己の債権額に対応する按分額の支
払を拒むことができるか(否認) ― 債権者が、受益者を被告として、債務者の受益者に対す
る弁済行為を取り消し、かつ、右取消にかかる弁済額の支払を求める詐害行為取消訴訟手続にお
いて、被告である受益者は、右弁済額を原告の債権額と自己の債権額とで按分し、後者に対応
する按分額につき、支払を拒むことはできない。
民集 25-8-1321 判時 651-65 判タ 271-172 金法 637-26 金判 297-9
片山直也・別冊ジュリ 196-40 中井美雄・法律時報 44-13-145 賀集唱・民商 69-3-154
星野英一・法協 91-1-179
原審:広島高裁 S.45.3.2 判・S42(ネ)388 号 高民集 23-1-53 判時 597-101 判タ 247-203
72
金判 220-18
一審:広島地裁 S.42.12.23 判・S40(ワ)106 号 高民集 23-1-61
*片山評釈:債権者の一人に対してなされた弁済行為が詐害行為とされる場合に、当該詐害行為
取消訴訟において、受益者である債権者(受益債権者)は、取消請求債権者からの金銭支払請
求に対して自己の債権額に対応する按分額の支払を拒絶できるかが、本事案の論争点である。
判例は古くから、取消請求債権者が詐害行為の取消と共に金銭の支払(価格賠償も含めて)
を求める場合について、一方で(1)取消の範囲を債権者の損害を救済するに必要な限度すなわち
原則として取消請求債権者の債権額に限定しつつ(大審院 T.9.12.24 判・民録 26-2024 など多
数)
、
他方で(2)取消請求債権者に自己への直接の支払(引渡)請求を認めてきた(大審院 T.10.6.18
判・民録 27-1168 など多数)
。
ところで、取消請求債権者が受領した金銭(取戻金銭)は、総債権者の共同担保の回復とい
う詐害行為取消制度の趣旨や民法 425 条の規定からすると、
「自己独リ弁済ヲ受クル為メ」では
なく、
「他ノ債権者ト共ニ弁済ヲ受クル為メ」のものであるから(前掲大審院 T.10 判決参照)、
次の段階として取消請求債権者を含めた一般債権者が取戻金銭から如何なる方法で満足を得る
かが問題となる。
だがこの点を定める手続規定が存しないため、現実には、債務者への取戻金銭の返還義務と
自己の債権とを相殺したり、あるいは一方的に弁済充当するなどして、取消請求債権者が「事
実上の優先弁済」を受ける結果となっている。
このように本判決の問題点は、詐害行為取消制度の根幹にかかわる点であり、現行制度の「立
法の不備」を前提とした上で、今後とも要件・効果の両面から総合的な検討が必要だと思われ
る。
*詐害行為取消権の基本的な事項に関する判決例:詐害行為が絡んでいる判決例の収録は少なく
ないが(会社の新設分割に詐害行為取消を適用した事例は[最高裁二小 H.24.10.12 判*]の「*
古田」参照)
、基本的な事項に関する判決例には次のものがある 要参照。
(a)詐害行為取消権の成立・行使の要件に関するもの: [最高裁二小 S.32.2.21 判*]
・
[最高裁一小 S.38.10.10 判*]
・
[最高裁二小 S.39.6.12 判*]
・
[最高裁一小 S.50.7.17 判*]・
[最高裁一小 S.55.1.24 判*]
・
(b-1)詐害行為取消権を肯定: [最高裁二小 S.32.11.1 判*]
・
[最高裁大法廷 S.36.7.19 判*]
[最高裁三小 S.37.3.6 判*]
・
[最高裁三小 S.39.11.17 判*]
・
[最高裁二小 S.48.11.30 判*]・
[最高裁一小 S.53.10.5 判*]
・
[最高裁二小 H.11.6.11 判*]
(b-2)詐害行為取消権を否定: [最高裁二小 S.33.9.26 判*]
・
[最高裁一小 S.39.1.23 判*]・
[最高裁二小 S.39.7.10 判*]
・ [最高裁二小 S.41.5.27 判*]
・
[最高裁一小 S.42.11.9 判*]
・
[最高裁二小 S.44.12.19 判*]
・ [最高裁二小 S.49.9.20 判*]
・
(c)詐害行為取消権で取消し得る範囲:[最高裁三小 S.30.10.11 判*]・
[最高裁三小 S35.4.26 判*]
・
[最高裁一小 S.54.1.25 判*]
・[最高裁一小 H.4.2.27 判*]
(d)詐害行為取消権行使の効果:
[最高裁二小 S.29.4.2 判*]・
[最高裁二小 S.46.11.19 判*]
・
[最高裁二小 S.50.12.1 判*]
・[最高裁二小 S.54.4.6 判*]
(e)詐害行為取消権者を行使した債権者の義務:
[最高裁三小 S.37.10.9 判*]・
[最高裁一小 S.46.12.16 判*]S40(オ)548 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 1 条・413 条・555 条
硫黄鉱石売買契約の買主に引取義務が信義則上認められた事例 ―
硫黄鉱区の採掘権を有
する甲が鉱石を採掘して乙に売り渡す硫黄鉱石売買契約において、甲は、乙に対し、右契約の存
続期間を通じて採掘する鉱石の全量を売り渡す約定があつたなど判示の事情がある場合には、信
義則上、乙には、甲が右期間内に採掘した鉱石を引き取る義務があると解すべきである。
民集 25-9-1472
四宮和夫・法協 91-1-196 遠田新一・民商 67-4-68
平野裕之・別冊ジュリ 196-22
73
原審:札幌高裁 S.40.2.5 判・S38(ネ)72 号
民集 25-9-1501
一審:旭川地裁 S.38.3.1 判
民集 25-9-1493
*平野評釈:買主の引取義務について、学説では債務不履行責任説を支持する学説が有力化して
いるが、判例はこれまで法定責任説を採用しており、債権者に受領義務を認めることを否定し
てきた(大審院 T.4.5.29 判・民録 21-858、
[最高裁一小 S.46.12.16 判*])
。本判決も原則は法
定責任説、すなわち債権者の受領義務否定であるが、例外的に本件のような特殊な事例では信
義則上受領義務を導き出したものと解すべきであろう。
[大阪地裁 S.47.3.27 判*]S40(ワ)2734 号 損害賠償請求事件(一部認容・控訴)
民法 709 条・715 条・722 条
一、会社の仕入課長が押印した架空の物品受領書が所謂つけ商売形式の詐欺に利用された場合
に、右会社の不法行為責任を認めた事例 ― つけ商売とは、既に成立した売買に一流商社が
介入し、商社が売買の目的商品をいったん買上げて買主に転売する形式をとり、商社は口銭を得、
売主は一流商社の手形を入手できるので、銀行買取も容易である等の点に見出す取引をいう。訴
外 NS 工業(当時資金繰が困難になっていた)の被告社長 O と被告専務 S は共謀のうえ同社と被
告 F 商事間に家具の売買契約があるように装い、原告一流商社 T に右取引に介入するよう依頼し
その承諾を得ると、NS 工業の S 専務は、被告 F 商事の仕入課長 A に虚言を弄して商社 T の白紙
の受領書用紙に F 商事のゴム印及び同課長 A の認印を押捺させて受領し、S はこの白地の受領書
を原告商社 T に渡し、T は NS 工業の納品書を受取る都度、S.38.11.25 頃、同月 28 頃、同年 12.23
頃の三回にわたり合計 1,642 万 3,400 円の約手を NS 工業に交付した。判決は、被告 O・S のみ
ならず被告 F 商事の不法行為責任も認定。
二、つけ商売の代金名下に手形を詐取された介入商社に過失を認め過失相殺をした事例 ― 原
告 T は NS 工業から手形のほか担保をとっておらず、受取った受領書が白地であったにもかかわ
らず、当該商品の引渡を受けたかどうかにつき直接被告 F 商事に対し確認を求める等の措置を全
く取らなかったことが認められ、原告には確認義務を怠った過失がある。他方 F 商事の仕入課長
A の過失はかなり重大であるが、A は原告会社宛の白紙受領書被告 S に交付することにより後日
F 商事と原告会社との間に何らかの問題が起きることを予想し、その故に SN 商事名義の「右押
印については一切 F 商事に迷惑をかけず、問題が起きた場合には SN 工業納入の物品代金等をも
って解決されても異議はない」旨の誓約書を徴していたのであるから、T・F 両社の過失等を考慮
して、
「被告F商事に対する関係で損害額の三割を過失相殺するのを相当と認める。」
被告 O・S には各自 1,642 万 3,400 円の賠償義務を判示し、被告 F 商事には 1,149 万 6,380 円
の賠償義務を判示した。
判時 684-76
*古田:この判決は介入取引のリーデイングケースである。
その後の判決例の傾向は、
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
[最高裁二小 S.47.3.31 判*] S46(オ)1121 号 預金債権確認請求事件(上告棄却)
民法 715 条
被用者の行為を職務権限内の行為と信じた相手方に重大な過失はないとされた事例:過失相殺
をして使用者責任を判示 ― 甲が、相互銀行乙に預金するために、その外交係被用者丙に金銭
を交付した場合において、甲は、丙と古くからの知己で、数年前から同人を通じて乙と預金取引
をしていたものであり、丙を信頼していたため、同人の勧誘に応じて右預金に及んだものである
など事情のもとにおいては、丙が支払を約した利息が銀行預金としては異例の高率のものであり、
右預金の授受に際し丙の交付した領収証が乙所定のものでなかつたという事情があっても、甲に
おいて、丙が右預金を受領する行為を同人の職務権限内における適法な行為と信じたことにつき、
重大な過失があつたものとはいえない。甲が乙銀行への預金のためその被用者丙に交付した金銭
74
は預金されずに丙に持ち逃げされた。 請求者甲の損害 593 万円について同人甲の過失と過失相
殺をして、500 万円賠償義務を乙銀行の使用者責任として判示した原審判決を是認。
集民 105-429 判時 665-53
原審:東京高裁 S.46.10.6 判・S45(ネ)555 号ほか 判時 650-72
一審:静岡地裁沼津支部 S.45.3.6 判・S43(ワ)255 号
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[最高裁一小 S.47.5.25 判*]
S46(オ)792 号 損害賠償請求事件
商法 514 条
商行為たる契約に基づく債務不履行を原因とする損害賠償債務と商法 514 条(肯定:商事債務
である) ― 契約上の債務の不履行を原因とする損害賠償債務は、当該契約が商行為たる性格を
有するものであれば、商法 514 条にいう「商行為に因りて生じたる債務」にあたる。
集民 106-153
判時 671-83
藤井俊雄・別冊ジュリ 49-122
原審:東京高裁 S46.6.16 判・S44(ネ)1321 号
一審:東京地裁 S.44.5.28 判・S42(ワ)13981 号
[最高裁三小 S.47.5.30 判*] S44(オ)722 号 損害保険請求事件(上告棄却)
自賠法 3 条・16 条 1 項
一、夫の運転する自動車に同乗中負傷した妻が自動車損害賠償保障法 3 条にいう他人にあたる
とされた事例
― 二、夫婦の一方が運転する自動車に同乗中負傷した他方の配偶者の自動車損害賠償保障法 16
条 1 項による被害者請求権の有無
[判示要旨]
一、妻が夫の運転する自動車に同乗中夫の運転上の過失により負傷した場合であっても、右自動
車が夫の所有に属し、夫が、もっぱらその運転にあたり、またその維持費をすべて負担しており、
他方、妻は、運転免許を有しておらず、事故の際に運転補助の行為をすることもなかったなど判示
の事実関係のもとにおいては、妻は、自動車損害賠償保障法 3 条にいう他人にあたると解すべきで
ある。
二、夫婦の一方の過失に基づく交通事故により負傷した他方の配偶者は、加害者たる配偶者に
対し損害賠償請求権を有するかぎり、自動車損害賠償保障法 16 条 1 項所定の保険会社に対する
損害賠償額の支払請求権を有すると解すべきである。
民集 26-4-898 判時 667-3 判タ 278-106 金法 653-22 交民集 5-3-625
川井健・ジュリ 535-52 石田満・民商 68-1-88 石田穣・法協 90-12-114
水野紀子・別冊ジュリ 152-68 & 138-98 西嶋梅冶・別冊ジユリ 121-58
柴田保幸・最判解民事編 S47 年度-337
原審:東京高裁 S.44.4.5 判・S42(オ)2699 号 損害保険請求及び付帯控訴事件
高民集 22-2-263 判時 552-23 判タ 233-250 交民集 2-2-474
高梨公之・日本法学 35-2-166
一審:東京地裁 S.42.11.27 判・S41(ワ)11020 号
下民集 18-11・12-11
判時 500-21
判タ 214-166
石田満・ジュリ 436-156 西嶋梅冶・判例評論 111-22
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[最高裁一小 S.47.6.15 判*]
S44(オ)531 号 損害賠償請求事件(棄却)
商法 14 条、商法旧 266 条の 3(取締役の第三者に対する責任)
75
一、取締役でないのに取締役就任登記を承諾した者と、商法 14 条の類推適用 ― 取締役でな
いのに取締役として就任の登記をされた者が、故意または過失により右登記につき承諾を与えて
いたときは、同人は、商法 14 条の類推適用により、自己が取締役でないことをもって善意の第三
者に対抗することができない。
二、商法 14 条の類推適用により取締役でないことを対抗できない登記簿上の取締役と、同法
266 条の 3 所定の取締役としての責任 ― 右登記簿上の取締役は、その第三者に対し、同法
266 条の 3 の規定にいう取締役として、所定の責任を免れることができない。
民集 26-5-984 判時 673-7 判タ 279-199 商判集三-231
江頭憲次郎・法協 90-10-103
野田博・別冊ジュリ 194-20
原審:東京高裁 S.44.2.28 判・S43(ネ)552 号
民集 26-5-995
判時 557-267
一審:東京地裁 S.43.3.12 判・S41(ワ)7098 号
民集 26-5-993
[最高裁三小 S.48.3.27 判*] S41(オ)815 号 預金返還請求事件(破棄差戻)
民法 478 条
銀行が無記名定期預金の預金者と認定した者に対して貸付をした場合における貸付債権をもつ
てする相殺と民法 478 条の類推適用 ― 銀行が、無記名定期預金につき真実の預金者と異なる
者を預金者と認定し、この者に対し、右預金と相殺する予定のもとに貸付をし、その後右の相殺
をするときには、民法 478 条の類推適用がある。
民集 27-2-376 判時 702-54 金法 681-26 金判 360-2
高島平蔵・判例評論 180-24
中馬義直・S48 重要判ジュリ 565-57 石井眞司・金法 1581-184
川井健・金判 389-2
椿寿夫・民商 71-1-148
原審:東京高裁 S.41.5.4 判・S38(ネ)214 号 民集 27-2-410 判タ 195-130 金法 444-7
金判 360-10
一審:東京地裁 S.38.1.31 判・S33(ワ)1675 号 民集 27-2-396 金法 335-5 金判 360-13
*石井評釈:本判決は、無記名定期預金の預金者の認定について、従来から最高裁が採ってきた
客観説(出損者説)の立場に立つことを確認するとともに、銀行がこの預金債務と貸付債権と
を相殺する場合に、民法 478 条の類推適用、ないし預金約款による免責を認めることを、最高
裁として初めて明らかにしたものである。
しかし、本判決は、銀行が免責を受けるためには、何時の時点で預金者(出損者)の認定に
つき銀行として尽くすべき相当な注意義務を用いたことが必要か、即ち注意義務の基準時につ
いて明言していない。
この点は、
その後、最高裁一小 S.59.2.23 判・S55(オ)260 号(民集 38-3-445、
金法 1054-6)が、貸付時において、表見預金者を預金者本人と認定するにつき金融機関として
負担すべき相当の注意義務を尽くしたと認められれば足りると判示している。
*:
[最高裁三小 S.37.8.21 判*]の末尾の注記も参照。
[最高裁一小 S.48.4.12 判*]S46(オ)111 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
民法 404 条、手形法 77 条 1 項 4 号・43 条・78 条、利息制限法
手形割引の法的性質 ― 「右手形の授受は手形自体の価値に重点を置いてなされたものであ
り、手形以外に借用証書の交付や担保の提供はなされなかったなど、原審の確定した事実関係の
もとにおいては、
」本件各手形の割引は手形の売買たる性質を有し、手形の割引料名義の金員を差
引いた金員の交付は手形の売買代金の授受にあたり、これについては、利息制限法の適用はない
と解すべきである。
金法 686-30
金判 373-6
梅村悠・別冊ジュリ 222-180
原審:福岡高裁 S.45.10.12 判・
金判 373-7
一審:福岡地裁飯塚支部 S.45.2.25 判・S44(ワ)149 号 金判 373手形判決:福岡地裁飯塚支部 S.44.9.10 判・
金判 373-8
76
*古田:手形割引は、銀行が、割引依頼人に満期未到来の手形に裏書をさせてこれを受取り、割
引依頼人は手形金額から満期日(プラス手形交換所日数)までの利息その他の費用等の「割引
料」を差引いた金額の支払を受けることである。本件での手形は 3 通であり、割引料は日歩 18
~20 銭(年利換算 73%~80.3%)であった。これは利息制限法所定の制限利率を極端に超過し
ているが、本件手形割引は「手形売買契約」であり「消費貸借」の趣旨を含まないので、利息
制限法の適用対象ではないと判示。 学説でも通説は、この最高裁判例を引用して、手形自体
の売買のために手形が授受された場合が「手形割引」であり、消費貸借上の債務に関して手形
が授受された場合は「手形貸付」であると解している。銀行実務においても「手形割引」売買
説が定着している。
しかしながら、手形割引の場合にも消費貸借が成立するかは当事者間の契約条項によるので、
貸金業者等を含む圧倒的多数の判決例では消費貸借であるとして、利息制限法の適用を肯定し
ている(梅村評釈の解説 3)
。
[最高裁二小 S.48.5.25 判*]S47(オ)1316 号 預金返還請求事件(上告棄却)
民法 511 条、民訴法 598 条
債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権と
し被差押債権を受働債権としてする相殺の効力は、差押債権者が被差押債権につき取立命令を
得た場合と転付命令を得た場合とにより異ならない ― 「債権が差押えられた場合において、
第三債務者が債務者に対し反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたもので
ない限り、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、
第三債務者は、差押後においても、右反対債権をもつて被差押債権と相殺をなし得るものであり
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判①*]
、このことは、差押債権者が被差押債権につき取立命令を得た
場合と転付命令を得た場合とによって異なるものではない(最高裁二小 S.46.11.19 判・S46(オ)115
号・集民 104-413)
。
集民 109-269 金法 690-36
原審:福岡高裁那覇支部 S.47.9.4 判・S44(ネ)75 号
[最高裁一小 S.48.6.7 判*]S43(オ)1044 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 416 条・709 条、民訴法 746 条・755 条・756 条
不法行為による損害賠償と民法 416 条 2 項(特別事情損害) ― 不法行為による損害賠償につ
いても、民法 416 条の規定が類推適用され、特別の事情によって生じた損害については、加害者
において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負
うものと解すべきである。
(大隅健一郎裁判官の反対意見がある。
)
民集 27-6-681 判時 622-2 金法 690-37 中井美雄・民商 70-5-136 石田穣・法協 91-12-76
栗田哲男・別冊ジュリ 78-198
前田陽一・別冊ジュリ 196-176
原審:大阪高裁 S.43.6.27 判
民集 27-6-696
一審:神戸地裁 S.37.6.28 判
民集 27-6-392
[最高裁二小 S.48.10.5 判*]
S46(オ)781 号 貸金請求事件(上告棄却)
中小企業等協同組合法 1 条・9 条の 8、商法 4 条・3 条 1 項・503 条・522 条
信用協同組合の商人性(消極)と一方的商行為 ― 「中小企業等協同組合法に基づいて設立さ
れた信用協同組合は、商法上の商人にあたらないと解すべきである。しかし、信用協同組合につ
き中小企業等協同組合法が商法中の特定の条文を準用する旨を定めている場合のほかは同法の適
用が排除されると解すべきではなく、信用行同組合が商人たる組合員に貸付をするときは、商法
503 条(付属的商行為)、3 条 1 項(一方的商行為→商法の双方への適用)により、同商法 522 条(商
事消滅時効)が適用されるものと解するのを相当とする。
」
77
集民 110-165 判時 726-92 金判 392-11 金法 705-45
中東正文・別冊ジュリ 194-10
実方謙二・別冊ジュリ 129-12
原審:東京高裁 S.46.5.28 判・S45(ネ)699 号 高民集 24-2-221 判時 635-152 金法 622-36
一審:東京地裁 S.45.2.28 判・S42(ワ)14148 号
金法 577-27
[最高裁三小 S.48.10.9 判*] S45(オ)1038 号 売掛金等請求事件(上告棄却)
民法 33 条・427 条・675 条、民訴法 46 条(現 29 条)
権利能力のない社団の取引上の債務と社団構成員の責任 ― 「 権利能力のない社団の代表者が
社団の名においてした取引上の債務は、社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属す
るとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、
直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが、相当である。
」
民集 27-9-1129 判時 722-57 判タ 302-143 金法 702-24 金判 506-41
河内宏・別冊ジュリ 195-22 福地俊雄・S.48 重要判ジュリ 565-45 同・民商 71-4-68
三島宗彦・判例評論 188-22
原審:仙台高裁秋田支部 S.45.7.22 判・S44(ネ)30 号 民集 27-9-1129 判時 722-57
判タ 302-143 金法 702-24 金判 506-41
一審:秋田地裁 S.44.2.18 判・S42(ワ)128 号
民集 27-9-1139
*:
[最高裁一小 S.39.10.15 判*]の末尾の注記を参照。
[最高裁二小 S.48.10.26 判*]S45(オ)658 号 居室明渡等請求事件(上告棄却)
民法 1 条 2 項・33 条,商法 52 条、民訴法第 1 編第 4 章第 1 節
法人格否認の法理の適用例:新会社が旧会社と法人格を異にするとの実体法上および訴訟法上
の主張が信義則に反し許されないとされた事例 ― 株式会社の代表取締役が、会社が賃借して
いる居室の明渡し、延滞賃料等の債務を免れるために、会社の商号を変更したうえ、旧商号と同
一の商号を称し、その代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、什器備品、従業員が旧会社の
それと同一で、営業目的も旧会社のそれとほとんど同一である新会社を設立したにもかかわらず、
右商号変更および新会社設立の事実を賃貸人に知らせなかつたため、賃貸人が、右事実を知らな
いで、旧会社の旧商号であり、かつ、新会社の商号である会社名を表示して、旧会社の債務の履
行を求める訴訟を提起したところ、新旧両会社の代表取締役を兼ねる者が、これに応訴し、一年
以上にわたる審理の期間中、商号変更、新会社設立の事実についてなんらの主張もせず、かつ、
旧会社が居室を賃借したことを自白するなど原判示のような事情のもとにおいては、その後にい
たつて同人が新会社の代表者として、新旧両会社が別異の法人格であるとの実体法上および訴訟
法上の主張をすることは、信義則に反し許されない。
民集 27-9-1240 判時 723-37 判タ 302-145 金判 393-11
住吉博・民商 71-3-174
小山昇・S48 重要判ジュリ 565-118
石川明/松田耕太郎・法学研究(慶大)48-1-85
原審:東京高裁 S.45.5.6 判・S43(ネ)469 号 民集 27-9-1251 下民集 27-9-1251 金判 393-14
一審:東京地裁 S.43.2.21 判・S42(ワ)13453 号
民集 27-9-1249
*[最高裁一小 S.53.9.14 判*]の鈴木評釈参照。
[最高裁三小 S.48.10.30 判*]
S44(オ)1135 号 転付金請求事件(上告棄却)
商法 504 条・522 条、民法 147 条・148 条・153 条
商法 504 条但書と消滅時効 ― 代理人がした商行為による債権につき本人が提起した債権請求
訴訟の係属中に、相手方が商法 504 条但書に基づき債権者として代理人を選択したときは、本人
の請求は、右訴訟が係属している間、代理人の債権につき催告に準じた時効中断の効力を及ぼす
ものと解するのが相当である。
78
民集 27-9-1258 判時 731-83 判タ 307-177
内池慶四郎・民商 71-3-192
石田穣・法協 92-4-91 田辺康平・別冊ジュリ 49-104 明田川昌幸・別冊ジュリ 194-78
原審:大阪高裁 S.44.8.5 判・S42(ネ)1436 号
高民集 22-4-543 金判 178-4
一審:大阪地裁 S.35.6.28 判
民集 27-9-1277
[最高裁二小 S.48.11.30 判*] S48(オ)235 号 詐害行為取消請求事件(破棄差戻)
民法 424 条
詐害行為取消権の対象肯定
債権譲渡による代物弁済と詐害行為の成否 ―債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害
することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意
図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡され
た債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であっても、詐害行為として取消の対象
になる。
民集 27-10-1491 判時 725-19 判タ 303-143 金法 707-30
山川一陽・別冊ジュリ 137-42 吉原省三・判タ 308-61 竹屋芳昭・民商 71-4-161
奥田昌造・法学論叢(京大)97-1-79
原審:東京高裁 S47.11.30 判・S46(ネ)1045 号 民集 27-10-1499 判時 693-26 金判 384-17
一審:新潟地裁 S.46.3.31 判・S45(ワ)478 号
民集 27-10-1495
[東京地裁 S.48.12.25 判*] S46(ワ)7721 号 保険金請求事件(請求棄却)
法例 2 条(現 通則法 3 条)
、商法 1 条、保険業法 1 条 2 項・10 条
生命保険約款の拘束力:無催告失権条項による保険契約の失効を判示 ― 「少なくとも生命保
険契約のような附合契約にあっては、契約者が当該約款の内容を知っていたと否とに拘らず、ま
たそれによつて契約するの意思を有していなかったとしても約款によらない旨の明示の表示のな
い限り、その約款全体を内容とし、かつこれのみによる契約が有効に成立する(ただし、少なく
とも生命保険契約にあっては、保険業法の定めるところにより事前に当該約款につき所轄官庁の
認可を経ることによりその約款内容の合理性が担保されていることを必要とする。)ものと解すべ
きである。今日においては、そのような取扱をすることが長い間の積重ねとその合理性の故に既
に商慣習法として定着しているものと認められるからである。」
判タ 307-244
大塚龍児・別冊ジュリ 97-12 & -138
*同判タの解説から:①普通契約約款の拘束力の根拠について、従来の判例は意思推定理論を採
っているが、本判決は白地商慣習法説を採用している。
②保険業法 1 条 2 項、10 条所定の保険約款の制定・改正に対する主務大臣の認可の有無と、
右約款を使用して締結した契約の効力との関係については、通説および多数判決例は、認可を
受けない約款を使用した契約も、約款内容が強行法規や公序良俗に反しない限り、私法上無効
ではないと解している。しかし、少数説および少数の判決例は、
(筆者古田補筆:この様な一般
消費者とのものでは、
)認可が私法上の効力の発生要件になると解している。本判決も傍論では
あるが、この少数説を採っている。
*H.13 施行の消費者契約法の事案で[最高裁二小 H.24.3.16 判②*]は、反対意見の表明はある
が、同法 10 条に直ちに抵触するものではなく無効ではないと判示している。評釈も参照。
[大阪高裁 S.49.2.20 判*]S.48(ネ)797 号請負代金請求事件(原判決取消・被控訴
民訴法 140 条 1・3 項(現民訴法 159 条)
の本件訴を却下)
原審では出頭せず欠席判決を言渡されたが、控訴審において初めて仲裁契約の存在を抗弁とし
て主張し、裁判所はその抗弁を認め訴を却下した ― 民訴法「140 条の適用の結果は、被控訴
79
人の主張事実について単に控訴人の自白を擬制するに過ぎないものであり、控訴人が本案につい
て真実弁論をしたと同一の関係に立つことになるものではなく、また、右のような口頭弁論期日
に欠席の事実を以て、控訴人が前記仲裁契約の存在を知りながら、これを主張しない意思を表明
したものと受け取ることもできない。従って、控訴人が前記仲裁契約の存在に関する抗弁権を放
棄したものとは認めがたく、被控訴人の前記主張は採用できない。更に被控訴人は、控訴人の前
記防訴抗弁は時機に遅れて提出した防御方法である旨主張する。しかし、本件においては、前述
のように控訴人が原審における口頭弁論期日に欠席したため、何ら実質的審理が行われなかった
ものであるが、控訴人が右弁論期日に欠席したことについて故意または重大な過失があったと認
めるに足る資料はなく、その他原審及び当審における審理の経過に徴すると、控訴人の前記主張
が時機に遅れたもので、これがため訴訟の完結を遅延させるべきものとは認め難い。」仲裁契約の
存在が認められることから、被控訴人の本件訴は訴権を欠く。訴却下。
海法研 2-29
柏木邦良・ジュリ 590-110
一審:大阪地裁
*古田:民訴法 140 条但書(現民訴法 159 条 1 項但書)は、裁判官の自由心証を認めていること
による。
[最高裁二小 S.49.3.22 判*]
S48(オ)142 号 約束手形金請求事件(破棄差戻)
商法 12 条(現 9 条 1 項・会社法 908 条 1 項)
、民法 112 条
商法 9 条 1 項(会社法 908 条 1 項)と民法 112 条との関係(民法 112 条に優先する) ―株式
会社の代表取締役の退任及び代表権喪失は、登記事項とされているのであるから、これについて
はもっぱら会社法 908 条 1 項のみが適用され、右登記後は同条所定の「正当の事由」がない限り、
善意の第三者にも対抗することができるのであって、別に民法 112 条を適用ないし類推適用する
余地はないものと解すべきである。
民集 28-2-368 判時 737-85 判タ 308-195
商判集三-13
前田庸・S.49 重判解ジュリ 590-89
浜田道代・別冊ジュリ 194-16
原審:大阪高裁 S.47.10.31 判・S46(ネ)1047 号
民集 28-2-381 金法 670-30
一審:大阪地裁 S.46.7.15 判・S44(ワ)3620 号
民集 28-2-377 金判 420-26
*古田:
「正当の事由」については、最判 H.6.4.19(民集 48-3-922)が、「交通・通信の途絶、登
記簿の滅失など登記簿を閲覧するにつき客観的な障害があり、第三者が登記簿を閲覧すること
が不可能ないし著しく困難であるような特段の事情があった場合」を除いて、民法 112 条を適
用する余地はないと判示している。
[東京高裁 S.49.7.19 判*] S45(ネ)1737 号 約束手形金請求事件(原判決取消・
手形法 77 条 1 項 1 号・16 条、民訴法 784 条・785 条
請求棄却・上告)
除権判決優先説による判示 ― 盗難手形を公示催告後除権判決前に取得した者の有する手
形上の権利は、同人が公示催告に対し権利の届出をしなかった場合、除権判決により失われ、除
権判決を得た手形喪失者が手形上の権利を回復する。
判時 756-102
木内宣彦・金判 447-2
倉沢康一郎・法学研究(慶大)52-3-81
一審:横浜地裁 S.45.6.15 判・S42(手ワ)53 号ほか
*その後、現在は[最高裁一小 H.13.1.25 判]により善意取得者優先説が判例となった。
[東京地裁 S.49.7.24 判*] S46(ワ)11084 号 損害賠償請求事件 中間判決
民訴法 15 条
全日空機ボーイング 727 型機の東京湾上空での失速墜落事故の遺族からの外国会社に対する製
造物責任損害賠償請求の訴の我国の国際裁判管轄を肯定
[判示要旨] 一、製造物責任の法的性質は、
「いわゆる報償責任としての性質と・・・いわゆる
80
危険責任としての性質との両者を包含する一種の不法行為責任であると解するのが相当である。
」
二、裁判管轄権の有無を判断する段階では、
「原告らにおいて、日本国が本件事故による不法行
為の結果発生地であめこと、すなわち、
・・・本件航空機に欠陥があったことによって日本国内で
事故が発生したこと」に関する「一応の立証があれば足り、その確定的な立証までは要しない」
のであり、右の一応の立証はあったものと認められる。
下民集 25-5~8-639 判時 754-58 判タ 312-241 後藤明史・ジュリ 580-139
平塚真・ジュリ 590-228 高桑昭・別冊ジュリ 16(増補版)-268
[東京高裁 S.49.7.29 決定*] S49(ラ)163 号 有体動産仮差押申請事件についての仮差押決
民法 33 条・1 条 3 項、商法 52 条、
定に対する抗告事件(原決定一部取消・一部容認)
民訴法 737 条
法人格否認の法理と仮差押 ― ①「およそ法人格の付与は、社会的に存在する団体について、
その価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現させるに
値するときに、法的技術に基づいて行われるものであって、従って、法人格が全くの形骸に過ぎ
ない場合、または、それが法律の適用を回避するために濫用される場合においては、法人格を認
めることは、これを認めた本来の目的に照らして許すべからざるものというべきである([最高裁
一小 S.44.2.27 判*]
)
。
」
②「実体的には Y 会社人格を否認する要件が備わっており(古田注:債務者 A 会社が差押を逃れ
るため Y 会社を新設して主要財産を Y 名義にした。)
、従って、A 会社に対する債権をもって Y 会社
に対する債権と同一視し得る場合においても、A 会社に対する債務名義をもってそのまま直ちに
Y 会社に対し執行することは許されない。即ち、訴訟手続および強制執行手続には、制定法主義
を基調とする手続の明確性の要請があり、債務名義の効力はその名宛人以外には直接及ばないと
解すべきであるからである。従って、名目上 Y 会社の所有している財産に対して仮差押を執行す
るためには、Y 会社に対する仮差押決定を得なければならない。そのため法人格を否認し得る場
合、責任財産の名目上の帰属主体がいずれか一方であることが判明すれば、その者に対して、ま
たいずれであるか明らかでない場合には、その両方に対して共同してまたは各別に、仮差押決定
を申請して債務名義を得ることが許され、またその必要があるものと解するのが相当である。
判時 755-103 金法 734-33
梅本吉彦・ジュリ 641-128
一審:東京地裁 S.49.3.16 決定・S49(ヨ)1599 号
[最高裁二小 S.49.9.20 判*] S47(オ)1194 号 詐害行為取消・株均等支払請求事件
民法 424 条・939 条
(上告棄却)
詐害行為取消権の対象否定
相続の放棄と詐害行為取消権 ― 「 相続の放棄のような身分行為については、民法 424 条の詐
害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんなれば、右取消権行使の対象
となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を
妨げるに過ぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいっ
ても、また法律上の効果からいっても、これを既得財産権を積極的に減少させる行為と言うより
はむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続放棄の
ような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでないと解するところ、もし
相続放棄を詐害行為として取消し得るものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと
同じ結果となり、その不当であることは明らかである。
」
民集 28-6-1202 判時 756-70 判タ 313-223 金法 733-27 金判 429-9
池田恒男・法協 93-4-188 & 別冊ジュリ 132-208
飯原一乗・判タ 322-95
竹屋芳昭・民商 73-1-91
原審:広島高裁松江支部 S.47.9.22 判・S46(ネ)69 号 民集 28-6-1209 金判 429-12
81
一審:鳥取地裁米子支部 S.46.6.21 判・S45(ワ)168 号 民集 28-6-1207 金判 429-14
[最高裁一小 S.49.9.30 判*] S44(オ)155 号 預金払戻請求事件(上告棄却)
労働組合法 12 条、民法 72 条(H.18 民法改正で削除され、現・一般法人法 239 条)
権利能力なき社団が存続している以上は、脱退した社団構成員は、社団資産の持ち分ないし分
割請求権を有しない ― D労働組合の下部組織である O 地方本部は、同組合とは独立した権利
能力なき社団と認められる。その地方本部において、所属組合員の約三分の二が組合の運動方針
に反対して集団的に組合を離脱し新組合を結成したため、地方本部が事実上分裂したとみられる
場合であっても、D労働組合そのものが統一的組織体としての機能を失わず、かつ、地方本部に
残留した組合員が同組合の方針に従い引き続き地方本部としての団体活動を継続しているときは、
右新組合は、地方本部の財産につき持分ないし分割請求権を有するものということはできない。
民集 28-6-1382 判時 754-26 判タ 313-257
三宅正男・S.49 重要判ジュリ 590-187
下井隆史・判例評論 192-27 高島良一・民商 73-2-43
原審:福岡高裁 S.43.8.10 判・S42(ネ)255 号
民集 28-6-1466 労民集 19-4-947
一審:大分地裁 S.42.3.28 判
民集 28-6-1440 労民集 8-4-703
*:
[最高裁一小 S.39.10.15 判*]の末尾の注記を参照。
[最高裁一小 S.49.10.24 判*] S46(オ)521 号 転付債権(工事代金)請求事件(上告棄却)
民法 481 条 1 項、民訴法 598 条・750 条 3 項
債権仮差押命令送達前に第三債務者が債務支払のために振り出した小切手が右送達後に支払わ
れた場合と民法 481 条 1 項 ― 第三債務者が債権仮差押命令の送達を受ける前に債務者に
対し債務支払のために小切手を振り出していた場合には、右送達後にその小切手が支払われたと
しても、第三債務者は右債務の消滅を仮差押債権者に対抗することができる。
民集 28-7-1504 判時 760-55 判タ 315-221 金法 743-30 金判 470-14
斎藤二郎・金法 743-24 石田穣・法協 93-3-124 塩田親文・判例評論 198-27
河合伸一・民商 73-2-51 西岡清一郎/柴有子・法学研究(慶大)49-3-125
原審:仙台高裁 S.46.3.4 判・S44(ネ)198 号 高民集 24-1-46 金判 470-17
上原敏夫・ジュリ 559-109
一審:福島地裁白河支部 S.44.4.25 判・S44(ワ)14 号 民集 28-7-1511 金判 470-19
[大阪地裁 S.49.10.30 判*] S49(手ワ)1037 号 為替手形金請求事件(却下・確定)
手形法 10 条、民訴法 199 条
白地手形による敗訴判決の既判力は、その後に補充した完成手形による訴に及ぶ ―「白地補充
権は権利者の一方的行為により未完成手形を完成手形とし、白地手形行為に完成した手形行為と
しての効果を発生させうる形成権の一種というべきであるが、前記のとおり原告は白地補充件を
前件訴訟の口頭弁論終結時以前に行使することができたにもかかわらず、前件訴訟確定後に行使
したものであり、したがって、前件訴訟の既判力によって原告は本件訴訟において白地補充権の
行使の効果を主張することはできないということになる。よって、被告の既判力の抗弁は理由が
あるということになる。
」
判時 764-89
小林秀之・ジュリ 641-130
[大阪地裁 S.49.10.31 判*]S48(ワ)10272 号・S49(ワ)194 号 為替手形金請求手形判決異議・
民法 570 条、商法 526 条
損害賠償請求反訴事件(本訴請求容認・反訴請求棄却(確定)
)
82
一、特価品の見本売買と売主の瑕疵担保責任の有無(有) ― 「特価品であることが自動的
に売主の瑕疵担保の免責に連なるものとはいえないのであって、この免責を認める旨の商慣習が
存在するとの主張・立証もない。 次に、見本売買は売主が見本によって売買の目的物の性質、
性能を確保し、売主はその給付した目的物が見本に適合しないときには瑕疵担保責任を負うもの
であるが(大審院 T.15.5.24 判・民集 5-7-433、
[大審院 S.3.12.12 判*]参照)。特段の事情がな
い限り、目的物が見本に適合するとの一事をもって売主の瑕疵担保責任を免責する趣旨をも帯有
するものとはいえないと考える。けだし、見本自体にどのような瑕疵があってもすべて売主の免
責を認めるというのは、当事者間にその旨の特約が存するなどの特段の事情がない限り、著しく
衡平を失し徒に買主に苛酷を強いることになるからである。
」
二、右売買に瑕疵通知義務の懈怠があったとされた事例 ― 「商法 526 条 1 項後段の『直ちに
発見すること能はざる』瑕疵とは、専門的知識を有する買主たる商人の通常の注意をもって、取
引の態様・過程に照らし合理的な方法及び程度の検査をなしても発見できない瑕疵をいうのであ
るが、本件ゴム紐の売買では前認定のとおり市価の半額以下の崇利用に限りのある特価品で、従
来の白色のゴム紐と異なった色混みのゴム紐であるから少しでも注意を払えば当然色落ちの危惧
を抱くに至る筈のものであり、しかも被告は見本を受取っているのであるから、その時ないし現
品受領以後速やかに色落ちの有無を検査する義務があり、その検査も水浸しや水洗などの簡単な
方法により発見できる性質のものである。そうすると、本件売買の経過、本件ゴム紐の使用目的
に照らし、本件色落ち瑕疵は専門的知識を有する商人として買主たる被告会社が直ちに発見でき
る瑕疵であるといわねばならない。
」 被告会社は現品受領後 3 カ月余を経て瑕疵の通知をしたに
過ぎないから、商法 526 条 1 項により、右瑕疵による損害賠償を請求することが出来ない。
判時 775-155
判タ 320-290 金法 754-32 金判 443-13
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[最高裁三小 S.49.12.24 判*] S48(オ)931 号 約束手形金請求事件(破棄差戻)
手形法 16 条 1 項・69 条・77 条 1 項
約束手形の受取人欄の変造と手形法 16 条 1 項の適用
一、
「手形法 16 条 1 項にいう裏書の連続は、裏書の形式により之を判定すれば足り、約束手形
の受取人欄の記載が変造された場合であっても、手形面上、変造後の受取人から現在の手形所持
人へ順次連続した裏書の記載があるときは、右所持人は、振出人に対する関係においても、同法
16 条 1 項により右手形の適法な所持人と推定されると解するのが相当である。」
二、手形法「77 条 1 項 7 号、69 条によれば、変造前の約束手形署名者である振出人は、変造
前の原文言に従って責任を負うのであるが、右規定は、手形の文言が権限のない者によりほしい
ままに変更されても一旦有効に成立した手形債務の内容に影響を及ぼさない法理を明らかにした
ものであるに過ぎず、手形面上、原文言の記載が依然として現実に残存しているものとみなす趣
旨ではないから、右規定の故を以て、振出人に対する関係に於いて裏書の連続を主張し得ないと
解することは相当でな」い。
民集 28-10-2140 判時 766-103
坂井芳雄・民商 73-3-55 鴻常夫・別冊ジュリ 72-60
松山三和子・法学新報 84-7・8・9-261 小橋一郎・S50 重要判ジュリ 615-96
原審:東京高裁 S.48.6.13 判・S48(ネ)251 号
民集 28-10-2150 金法 703-32
一審:東京地裁 S.48.1.24 判・S46(ワ)2912 号
民集 28-10-2146 金判 463-14
*古田:B/L については商法 519 条 1 項により小切手法 19 条が準用されるが、同条は手形法 16
条 1 項と同旨であるから、本判決のこの点についての判示はそのまま当てはまる。
[最高裁一小 S.50.1.30 判*] S48(オ)270 号 預金返還請求事件(破棄差戻)
83
民法 666 条・715 条
信用組合の内規に反し職員外の者が職員を通じてした職員定期預金を同職員が払戻して他に貸
付けて回収不能となった右職員の一連の行為と民法 715 条の事業の執行 ― 信用組合が職員
に対して職員外の者に職員定期預金を利用させることを禁止しているのを知りながら職員外の者
が右組合の営業部預金課員の勧誘により同人を通じて右定期預金をした場合でも、職員定期預金
でなければ預金をしないことが明らかであつた等特段の事情のないかぎり、 「右契約が職員定
期預金としては有効に成立しないとしても、預金契約は職員外の者と被上告人組合との間におい
て、特利に関する約定のない一般定期預金として有効に成立するものと解するのを相当とする。
そうすると、右預金に関する前記D(筆者注:上記の預金課員)の金員の受入れ・払戻等の行為
は、右の限度において被上告人組合の業務の執行行為というべきであり、払戻しに関してDが上
告人に加えた損害につき、上告人は民法 715 条により被上告人組合に対して賠償を求めることが
できるものといわなければならない。なお、原判決引用の判例(当裁判所[最高裁一小 S.42.11.2
判*]
)は、事案を異にし、本件に適切でない。以上のとおりであるから、原審は民法 715 条の解
釈適用を誤り、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らか」である。 原判決の破棄・
差戻を判決。
民集 29-1-1 金法 746-24
田尾桃三・法曹時報 29-7-137
原審:東京高裁 S.47.12.25 判・S44(ネ)1191 号 民集 29-1-11 金判 351-7
一審:東京地裁 S.44.5.14 判・S40(ワ)2164 号 民集 29-1-8 金法 549-28
金判 170-4 & 351-10
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
[最高裁三小 S.50.2.25 判*] S48(オ)558 号 売買代金・同反訴請求事件(破棄差戻)
民法 91 条・506 条 1 項・566 条・570 条
買主が[売主に対し民法 570 条に基づく損害賠償の請求をするとともに該請求権を自働債権と
する相殺の意思表示をしたものと解された事例 ― 単価を 65 円とする穀用かますの売買契約
において引き渡された 12 万 8,100 枚につき、買主が売主にあてて、右かますに欠陥があることを
具体的に指摘したうえ、穀用かますとしての商品価値が認められず、一枚当り 20 円、数量 12 万
8,100 枚、この代金 256 万 2,000 円としての減価採用で精算させていただく等判示のような記載
のある書面を送付したときは、特別の事情がないかぎり、買主は、売主に対し、受領物の瑕疵に
基づく損害賠償の請求をするとともに、該請求権を自働債権とし売買代金債権を受働債権とする
相殺の意思表示をしたものと解すべきである。
民集 29-2-168 判時 777-41 判タ 323-140 金法 752-33 金判 474-2
中井美雄・民商 73-5-98
原審:仙台高裁秋田支部 S.48.3.19 判・S43(ネ)41 号
民集 29-2-183 金判 474-5
一審:青森地裁弘前支部 S.43.4.5 判
民集 29-2-174 金判 474-9
[最高裁二小 S.50.2.28 判*]S49(オ)1010 号・自動車引渡請求事件(上告棄却)
民法 1 条 3 項
自動車のサブデイーラーから自動車を買い受けたユーザーに対し、デイーラーが右サブデイー
ラーとの間の自動車売買契約に付した所有権留保特約に基づきその自動車の引渡を請求するこ
とが権利の濫用になるとされた事例 ― 自動車の販売につき、サブデイーラーが、まずデイー
ラー所有の自動車をユーザーに売却し、その後右売買を完成するためデイーラーからその自動車
を買い受けるという方法がとられていた場合において、デイーラーが、サブデイーラーとユーザ
ーとの自動車売買契約の履行に協力しておきながら、その後サブデイーラーにその自動車を売却
するにあたって所有権留保特約を付し、サブデイーラーの代金不払を理由に同人との売買契約を
84
解除したうえ、留保された所有権に基づき、既にサブデイーラーに代金を完済して自動車の引渡
を受けているユーザーにその返還を請求することは、権利の濫用として許されない。
民集 29-2-193 判時 771-39 判タ 320-158
米倉明・法協 93-8-139
森井英雄・民商 73-6-36
道垣内弘人・別冊ジュリ 194-120
原審:大阪高裁 S.49.6.28 判・S46(ネ)1521 号
民集 29-2-201 金判 455-9
一審:神戸地裁 S.46.9.20 判・S44(ワ)360 号
民集 29-2-198 金判 455-9
*江頭憲次郎.・商取引法 6 版-47:本件判決は、売主が、買主である販売業者がユーザーに対し
所有権留保の提唱である自動車を転売することに一旦協力したが、後にユーザーに対し返還請
求をするのは権利乱用と判示した。その後、最高裁二小 S.57.12.17 判・S.54 (オ)656(判時
1070-26)は、事前の積極的協力がなくても売主に権利乱用が成立することを認め、他方、最高
裁・S.56.7.14 判・S.55(オ)194(判時 1018-77)は、ユーザーである転得者が所有権留保特約
の存在を認識している場合については転得者の救済を否定している。
[最高裁一小 S.50.3.6 判*] S48(オ)369 号 土地所有権移転登記請求事件(上告棄却)
民法 423 条 1 項・533 条・898 条・899 条
債権者代位権の転用が認められた事例
土地の売主の共同相続人がその相続した代金債権を保全するため買主に代位して他の共同相続
人に対し所有権移転登記手続を請求することの許否 ― 買主に対する土地所有権移転登記手
続義務を相続した共同相続人の一部の者が右義務の履行を拒絶しているため、買主が相続人全員
による登記手続義務の履行の提供があるまで代金全額について弁済を拒絶する旨の同時履行の抗
弁権を行使している場合には、他の相続人は、自己の相続した代金債権を保全するため、右買主
が無資力でなくても、民法 423 条 1 項本文により、買主に代位して、登記手続義務の履行を拒絶
している相続人に対し、買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができる。
民集 29-3-203 判時 776-44 判タ 323-143 金法 752-32 金判 472-15
水元浩・S.50 重要判ジュリ 615-48
工藤祐厳・別冊ジュリ 196-26
石田喜久夫・民商 74-1-87
星野英一・法協 93-10-126
田原睦夫・金法 1581-186
原審:東京高裁 S.47.12.21 判・S47(ネ)1448 号
民集 29-3-211 金判 472-17
一審:東京地裁 S.47.5.30 判・S46(ワ)5263 号 民集 29-3-207 判時 681-48 金判 321-17
黒木三郎・判例評論 172-25
*[最高裁一小 S.28.12.14 判*]の「*債権者代位権の基本的な判決例」参照。
[名古屋地裁 S.50.3.27 判**]S49(レ)110 号 約束手形金請求控訴事件
民訴法 778 条・784 条 1 項
(控訴棄却・確定)
一、振出人のための約束手形の保管者は公示催告の申立権を有する ― 「約束手形作成後振出
人が流通に置く前に喪失した場合においては、除権判決があっても振出人は約束手形の権利を行
使し得る地位にはないから積極的効力(権利の行使ができるようになること)は意味がなく、従っ
て除権判決申立の目的は、喪失した約束手形が流通に置かれて善意取得者が生じるのを防止する
消極的効力(除権判決により物としての手形が無効となること)を得ることのみにある。そうする
と、
・・・流通に置かれる前の約束手形の保管者もまた消極的効力を得る利益を有するものであり、
保管者として固有の除権判決申立権を有するものと解するのが相当である。
」
二、除権判決前の善意取得者から除権判決後に約束手形を取得した者の地位 ― 除権判決後の
譲渡には善意取得の成立はない
判時 792-70
落合誠一・ジュリ 679-130
原審:半田簡裁 S.49.11.30 判・S49(ハ)30 号
[東京地裁 S.50.5.15 判*] S46(ワ)6415 号 請負代金請求事件
85
請負工事契約における建設工事紛争審査会の斡旋、調停、仲裁に付する旨の約定の訴訟上の性
質
― 建設省が定めた本件標準約款 27 条は、不起訴の合意ないし仲裁契約と解すべきでは
なく、訴訟手続とは別個に、独自の解決方法によりうることを合意したものに過ぎないと解する
のが相当である。
海法研 10-15
判時 799-62
小林秀之・ジュリ 658-108
[東京高裁 S.50.6.26 判*]S49(ネ)2978 号 買戻金請求控訴事件(原判決変更・確定)
民法 587 条、利息制限法 2 条・4 条、手形法
手形割引契約に伴う手形買戻債務の遅延損害金約定に、利息制限法の適用があるか(消極)
― 「手形割引は通常、手形の売買であって、手形割引契約に伴う手形買戻の債務に付帯する遅
延損害金の約定には、利息制限法の適用はないものと解されるところ、本件口頭弁論の全趣旨に
よるも、本件の手形割引が手形の売買ではなく、金銭消費貸借上の債務の支払方法又は担保の趣
旨でなされたものと認めるべき資料はなにら存在しないから、本件手形割引契約による手形の買
戻に付帯する日歩 20 銭の遅延損害金の約定が利息制限法の規定により制限されるべきものとい
うことは出来ない。
」 手形金相当額 50 万円の支払義務と、手形満期日から支払日に至るまで(判
決日までで 1 年経過している)日歩 20 銭(年 80.3%)約 40 万円の遅延損害金の支払義務が判決
された。
判時 789-88 判タ 330-301 金法 765-37
岩原紳作・ジュリ 710-157
原審:甲府地裁 S.49.10.28 判・S49(ワ)166 号
*岩原評釈:本判決は[最高裁一小 S.48.4.12 判*]を一歩進めて、手形割引は通常は手形の売
買であることを理由に、手形割引が金銭消費貸借上の債務の支払方法又は担保の趣旨でなされ
たものと認めるべき資料が存在しない場合には、割引手形買戻請求権の遅延損害金には利息制
限法を適用しないと判示したものである。
[最高裁三小 S.50.6.27 判*]S50(オ)152 号・抵当権設定登記等松商登記手続請求事件(棄却)
商法 502 条 8 号
質屋営業者の金員貸付行為と商行為 ― 「 質屋営業者の金員貸付行為は、商法 502 条 8 号の銀
行取引にあたらないと解するのが相当であるから、
」商行為にあたらない。
集民 115-167 判時 785-100 金判 466-13 金法 767-37
松井秀征・別冊ジュリ 194-72
原審:福岡高裁 S.49.11.28 判・S48(ネ)384 号
一審:福岡地裁大牟田支部 S.48.5.25 判・S45(ワ)85 号
[最高裁三小 S.50.7.15 判*]S49(オ)1125 号 仲裁手続不許請求事件(上告棄却)
法例 3 条、民訴法 786 条
一、株式会社の発起人が将来設立する会社の営業準備のため第三者と契約を締結した場合、会
社が設立後に右契約上の権利義務を取得し得るかの、その要件如何についての準拠法は、右
会社の従属法と解すべきである
二、仲裁契約の効力は、当事者間に特段の合意のない限り、主たる契約の成立に瑕疵があって
も、これによって影響を受けない
民集 29-6-1061 海法研 10-11 金判 527-42 金法 767-32
桜田嘉章・民商 78-6-125
久保田穣・ジュリ 642-259 小林秀之・法協 94-10-131 神前禎・別冊ジュリ 185-42
原審:東京高裁 S.49.7.8 判・S49(ネ)103 号
民集 29-6-1079
一審:東京地栽 S48.12.25 判・S47(ワ)2786 号判時 747-80
民集 29-6-1070
86
[最高裁一小 S.50.7.17 判*] S49(オ)302 号 譲受債権支払等請求事件(上告棄却)
民法 424 条・588 条
詐害行為取消権成立・行使の要件
旧債権発生後これを目的とする準消費貸借契約締結前にした債務者の詐害行為と債権者の取
消権 ― 「準消費貸借契約に基づく債務は、当事者の反対の意思が明らかでないかぎり、既存
債務と同一性を維持しつつ、単に消費貸借の規定に従うこととされるにすぎないものと推定され
るのであるから、既存債務成立後に特定債権者のためになされた債務者の行為は、詐害行為の要
件を具備するかぎり、準消費貸借契約成立前のものであっても、詐害行為としてこれを取り消す
ことができるものと解するのが相当である。これと見解を異にする所論引用の大審院 T.9.12.27
判・T9(オ)602 号・民録 26 輯 2096 頁の判例は、変更すべきものである。
」
民集 29-6-1119 判時 790-58 判タ 327-181 金法 764-31 金判 478-2
飯原一乗・判タ 332-110 星野英一・法協 93-11-133 甲斐道太郎・民商 74-5-139
原審:大阪高裁 S.48.11.22 判・S44(ネ)692 号 民集 29-6-1127 判時 743-60 判タ 303-161
金法 707-31 金判 398-6
一審:大阪地裁 S.44.4.9 判・S40(ワ)2628 号他 民集 29-6-1122
[最高裁二小 S.50.10.24 判*]S48(オ)517 号・損害賠償請求事件(破棄差戻)
民法 709 条、国賠法 1 条
一、訴訟上の因果関係の立証程度 ― 「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない
自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生
を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを
差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるも
のである。
」
二、患者の後遺症と医師の治療行為との間に経験則上因果関係を肯定した事例 ― 「もともと
脆弱な血管の持主で入院当初より出血性傾向が認められた上告人に対し右状況のもとで本件ルン
バールを実施したことにより脳出血を惹起した可能性がある。
・・・原審確定の事実、殊に、本件
発作は、上告人の病状が一貫して軽快しつつある段階に於いて、本件ルンバール実施後 15 分ない
し 20 分を経て突然に発生したものであり、他方、化膿髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものと
されており、当時これが再燃するような特別の事情も認められなかったこと、他に特段の事情が
認められない限り、経験則上本件発作とその後の病変の原因は脳出血であり、これが本件ルンバ
ールに因って発生したものというべく、結局、上告人の本件発作及びその後の病変と本件ルンバ
ールとの間に因果関係を肯定するのが相当である。
」
上告人の本件発作と病変の原因が医師の本件ルンバールの実施によるものとは断定し難いとし
て上告人の請求を却下した控訴審の原判決を破棄差戻した。
民集 29-9-1417 判時 792-3
石田穣・法協 93-12-125
中村悳・民商 81-2-122
西沢宗英・法学研究(慶大)49-11-58
米村滋人・別冊ジュリ 196-164
原審:東京高裁 S.48.2.22 判・S45(ネ)589 号
民集 29-9-1480
一審:東京地裁 S.45.2.28 判・S33(ワ)6845 号
民集 29-9-1449
[最高裁三小 S.50.11.4 判*] S49(オ)1035 号 保険金請求事件(破棄自判)
自賠法 3 条
会社の取締役が私用のため会社所有の自動車を使用し同乗の従業員に一時運転させている間
に右従業員の惹起した事故により受傷した場合に会社に対し自動車損害賠償保障法 3 条にいう
他人であることを主張して損害賠償を請求することができないとされた事例 ― 会社の取締
役が従業員の運転する会社所有の自動車に乗車中従業員の惹起した事故により受傷した場合にお
いて、右取締役が業務時間外にトルコ風呂に行くためみずからその自動車を運転して数時間にわ
87
たって走行させたのち同乗の従業員に一時運転させて運行を継続中に事故が発生したものである
など判示の事実関係があるときは、右取締役は、会社に対し自動車損害賠償保障法 3 条にいう他
人であることを主張して損害賠償を求めることは、許されない。
民集 29-10-1501 交民集 8-6-1581
友納治夫・最判解民事編 S50 年度-489
原審:東京高裁 S.49.7.30 判・S48(ネ)1011 号
一審:東京地裁 S.48.4.17 判・S46(ワ)3089 号
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[最高裁二小 S.50.12.1 判*] S49(オ)480 号 詐害行為取消請求事件(上告棄却)
民法 424 条 1 項
詐害行為取消権行使の効果
不動産の譲渡が詐害行為になる場合の価格賠償額算定の基準時 ― 不動産の譲渡が詐害行為
になる場合において現物返還に代わる価格賠償をすべきときの価格は、特別の事情がない限り、
当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準として算定すべきである。
民集 29-11-1847 判時 803-61 判タ 332-198 金法 781-29 金判 491-15
下森定・S.50 重要判ジュリ 615-72
山川一陽・別冊ジュリ 176-48
竹屋芳昭・判例評論 210-23
谷口知平・民商 75-1-150
原審:東京高裁 S.48.12.19 判・S46(ネ)2360 号 民集 29-11-1854 判時 734-45
金法 730-35 金判 405-8
一審:東京地裁 S.46.8.31 判・S41(ワ)12688 号 民集 29-11-1851
[最高裁一小 S.50.12.8 判*] S44(オ)655 号 譲受債権請求事件(一部棄却自判)
民法 468 条 2 項
債権が譲渡される前から債権者に対して反対債権を有していた債務者が、右反対債権を自働債
権とし、被譲渡債権を受働債権としてした相殺を有効と認めた事例
[判旨要旨] 債権が譲渡され、その債務者が譲渡通知を受けたにとどまり、且つ、右通知を受
ける前に譲渡人に対して反対債権を取得していた場合において、譲受人が譲渡人である会社の取
締役である等判示の事実関係があるときには、右披譲渡債権及び反対債権の弁済期の前後を問わ
ず、両者の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は、譲受人に対し、右反対債権を自働債権
として、被譲渡債権と相殺することができる。即ち、反対債権を有しているのは、民法 468 条 2
項所定の「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」にあたり、譲受人に対し、被譲渡債
権を受働債権とし、自己が譲渡人に対して有する債権を自働債権としてする相殺をもって対抗す
ることができる。⇔古田:債権譲渡の当事者が実質的に同一人であるから。
*裁判官 5 名中 2 名の反対意見がある: 相殺を広く認めると、反対債権の弁済期が譲受債権
の弁済期よりも後に到来する関係にある場合に、不誠実な反対債権者が自己の債務の履行を遅ら
せておいて、相殺適状を到来させてから相殺を可能にするという不都合な事態を生じさせること
がある。これへの対処は信義則や公序良俗違反等の一般条項を持ち出さなければならないように、
法定相殺の要件を緩和する必要はない。
民集 29-11-1864 金判 514-44
林良平・民商 83-1-140 石川利夫・別冊ジュリ 105-96
原審:大阪高裁 S44.3.28 判・S43(ネ)1482 号
民集 29-11-1884 判タ 241-88 金判 156-16
一審:大阪地裁 S.43.9.4 判・S43(ワ)1343
民集 29-11-1879 金判 156-19
*米倉明・ジュリ増刊(1978.7.20)民法の争点-218「相殺の担保的機能」に、判例は大法廷判決
を重ねつつも一定していないことが指摘されている。
[最高裁二小 S.50.12.26 判*] S46(オ)22 号・報酬請求事件(一部差戻・一部棄却)
88
商法 512 条、宅地建物取引業法 46 条
売主又は買主の一方からのみ仲介の委託を受けた宅地建物取引業者の委託を受けない当事者に
対する報酬請求権 ― 「宅地建物取引業者は、商法上の商人であるから、その営業の範囲内に
おいて地人のためにある行為をしたときは、同法 512 条の規定によりこの他人に対し相当の報酬
を請求し得るが、宅地建物取引業者が 売主又は買主の一方から、不動産の売却又は買受の仲介の
委託を受けたに過ぎない場合においては、たとえその仲介行為によって売主又は買主とその相手
方との間に売買契約が成立しても、宅地建物取引業者が委任を受けない相手方当事者に対し同法
512 条に基づく報酬請求権を取得するためには、客観的にみて、当該業者が相手方当事者のため
にする意思をもって仲介行為をしたものと認められることを要し、単に委託者のためにする意思
をもってした仲介行為によって契約が成立し、その仲介行為の反射的利益が相手方当事者にも及
ぶというだけでは足りないものと解するのが相当である。
」
民集 29-11-1890 判時 802-107 判タ 332-193 金判 492-21
竹内昭夫・法協 94-4-159
青竹正一・S.50 重要判ジュリ 615-87
明石三郎・民商 75-1-160
原審:福岡高裁 S.45.9.7判・S43(ネ)665 号ほか
民集 29-11-1906 金判 492-25
一審:福岡地裁 S.43.10.22 判・S41(ワ)1261 号
民集 29-11-1899 金判 492-30
*[最高裁一小 S.39.7.16 判*]末尾のコメント参照。
なお、明石評釈は、本件最高裁判決は、非委託者が単に仲介の結果の反射的利益を受けてい
るに止まらず、非委託者のためにする意思が客観的に認められれば商法 512 条による非委託者
への報酬請求権を認め得るとの、不動産仲介業者へ同条を適用するに当たっての解釈上の新し
い見解を正面から示したものとして注目に値するとされている。 本件最高裁判決は、非委託
者への報酬請求を是認した原審判決を商法 512 条の解釈適用を誤り、ひいては当該業者(被上
告人・被控訴人)が相手方当事者(非委託者・上告人・控訴人)のためにする意思をもって仲
介行為をしたものと客観的に認められるかの審理不尽があるとして、当該業者からの請求分を
破棄差戻した。
明石評釈は、
「不動産仲介の場合は、仲介人が一方的ではなく公平に仲介を行い、非委託者も
その自由意思に基づいて売買を締結した限り、非委託者にとっても利益であることは客観的に
これを認めざるを得ないと解する。従ってかかる場合の非受託者に対しては商法 512 条を適用
するのが妥当と考える。本最判が非委託者は単に『反射的利益』を受けるに過ぎないとするの
は、仲介契約の本質を、特定人と特定人の間の「委任契約」に過ぎないものとみる考えに固執
した結果かと考える。仲介は龍者間の媒介であって、一方から委託されても、両者の言分を調
節して売買に導くのであるから、公平な立場で仲介する限り、いいかえれば、委託者を代表し
たような場合でない限り、仲介活動は非委託者の利益にも帰するが、この利益を反射的利益に
過ぎないとみるのは、仲介の本質上、妥当ではないのではなかろうか。」と指摘されている。
一般に商法 512 条が事務管理(民法 697 条以下)を含むことには異論がないので、不動産仲
介に限らず、特に委託をしなくとも同条による報酬支払義務が生じることに注意を要する。
尤も、商法 512 条は商人の行為の有償性を定めた原則規定であるから、特別規定があればそ
の規定によって制約・修正されることになる。例えば、運送取扱人の報酬請求権(商法 561 条)、
運送人の報酬請求権(商法 576 条)
、倉庫業者の保管料請求権(商法 618 条)等。
[長野地裁伊那支部 S.51.1.28 判*]S48(ワ)27 号売掛代金請求事件(訴却下・確定)
商法 37 条・38 条(現・会社法 10 条と 11 条)
、民訴法 79 条(現・54 条)
登記簿上支配人の登記があっても、実質上支配人とは認められないとして、その訴訟代理権を
否定 ― 「支配人は、営業主に代り、営業主の営業に関する一切の裁判上・
裁判外の行為を為す権限を有する商業使用人であり、支配人の代理権は営業主の営業の全般にわ
たる包括的なものであり、しかも法律によって定型化されている。以上のような次第であるから、」
経理に関する帳簿の整理のために月に4~5 回出社する以外に会社の営業に全く関与していない
同人の「職務内容を見れば、とても支配人といえるものではなく、従って、登記簿上支配人とし
89
て登記されているとの理由で裁判上の代理権を有するものではない」
。
判時 815-86
米津昭子・法学研究(慶大)54-10-154
[大阪地裁 S.51.3.8 判*]S47(ワ)448 号・不動産売買媒介手数料請求事件(一部容認・
民法 648 条 3 項、宅地建物取引業法 46 条
一部棄却・確定)
不動産仲介業者に土地買受けの仲介を依頼した者が、仲介人の仲介努力係属中に直接売買契約
を成立させた場合、仲介業者の依頼者に対する報酬請求権の有無(積極) ― 原告仲介業者
が「右仲介行為を継続できなくなった(仲介物件について売買契約が成立した)点については原
告の責に帰すべき事由はないのであるから、
・・・当事者間で直接売買契約が締結されたことにつ
き、委託者である被告会社に信義に反する行為がない場合においても、民法 648 条 3 項を類推適
用して、原告は被告会社に対し割合報酬を請求し得るものと解するのが相当である。
」 被告の買
付価額は 9 千万円であったが、それは被告会社の事情によるものであるから、原被告間で検討さ
れていた売買代金 6 千万円を対象にしての民法同 3 項による割合での仲介報酬を判示。
判時 832-87 金判 510-41
*[最高裁一小 S.39.7.16 判*]末尾のコメント参照。
[最高裁一小 S.51.4.8 判①*]S49(オ)584 号・約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 10 条、民訴法 785 条
白地手形を喪失した者は、右手形について除権判決を得た場合でも、手形債務者に対し喪失手
形と同一の内容の手形再発行を請求する権利を有しない ― 「けだし、除権判決を得た者が喪失
手形の再発行を請求し得るものとするならば、その者は、それによって単に喪失手形の所持人と
同様の権利行使の形式的資格を回復するにとどまらず、手形の再発行を受けることにより、恰も
喪失手形を流通に置き得るのと同一の法的地位を回復することとなり、除権判決にこのような実
体的効果を付与することは、除権判決制度の予想しないところというべく、喪失手形の再発行請
求がその白地部分の補充を目的とする場合であっても、右と理を異にするものではないと解すべ
きだからである。
」
民集 30-3-183
上柳克郎・民商 76-2-91
大隅健一郎・別冊ジュリ 72-194
原審:広島高裁岡山支部 S.49.4.15 判・S48(ネ)111 号
民集 30-3-192
一審:岡山地裁 S.48.9.11 判
民集 30-3-189
[最高裁一小 S.51.4.8 判②*]S50(オ)1025 号・配当異議請求事件(上告棄却)
民訴法 594 条・603 条・748 条・777 条
公示催告中の約束手形の手形金債権に対する仮差押の執行は、執行官による右手形の占有を必
要とせず、指名債権に対する仮差押と同じく仮差押命令を債権者及び第三債務者に送達すれば
足りる ― 「除権判決がされた場合には、その手形債権者は手形を所持しないで権利行使するこ
とができるのであるから、
」
民集 30-3-197 判時 815-47
吉川義春・民商 79-3-135
栂善夫/宮脇順彦・法学研究(慶大)50-2-49
東孝行・別冊ジュリ 127-146
原審:東京高裁 S.50.7.17 判・S49(ネ)2737 号 民集 30-3-205 金法 768-29
一審:東京地裁 S.49.11.12 判・S49(ワ)305 号
民集 30-3-201 判タ 320-215
[最高裁二小 S.51.4.9 判*] S49(オ)1026 号 受取物等引渡請求事件(破棄自判)
民法 104 条・107 条 2 項・民法 646 条 1 項
復代理人が委任事務を処理するにあたり受領した物を代理人に引渡した場合と、復代理人の本
90
人に対する受領物引渡義務 ― 「本人・代理人間で委任契約が締結され、代理人・復代理人間
で復委任契約が締結されたことにより、民法 107 条 2 項の規定に基づいて本人・復代理人間に直
接の権利義務が生じた場合であっても、右の規定は、復代理人の代理行為も代理人の代理行為と
同一の効果を生じるところから、契約関係のない本人・復代理人間にも直接の権利義務の関係を
生じさせることが便宜であるとの趣旨に出たものであるにすぎず、この規定のゆえに、本人又は
復代理人がそれぞれ代理人と締結した委任契約に基づいて有している権利義務に消長をきたすべ
き理由はないから、復代理人が委任事務を処理するに当たり金銭等を受領したときは、復代理人
は、特別の事情がないかぎり、本人に対して受領物を引渡す義務を負うほか、代理人に対しても
これを引渡す義務を負い、もし復代理人において代理人にこれを引渡したときは、代理人に対す
る受領物引渡義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引渡義務もまた消滅するものと
解するのが相当である。そして、以上の理は、復代理人がさらに適法に復代理人を選任した場合
についても妥当するものというべきである。
民集 30-3-208 金法 794-28
小川浩三・法協 95-1-212
遠田新一・民商 76-1-81
原審:福岡高裁 S.49.7.17 判・S28(ネ)675 号
民集 30-3-219 金判 501-14
一審:福岡地裁久留米支部 S.48.11.19 判・S48(ワ)69 号 民集 30-3-215 金判 501-15
[神戸地裁社支部 S.51.7.7 判*]S50(ワ)2 号・売買代金返還等請求事件(一部容認・
民法 555 条、商法 543
一部棄条却、控訴・取下により確定)
専用工作機械の売買契約において、被告が単なる売買の仲立人ではなく売主であると認められ
た事例 ― 研磨加工を営業目的とする原告が、同社仕様の専用研磨機を制作させて購入するに
つき、各種工作機械の小売等を業とする被告はそれを引受けてくれる訴外製作会社 A を探し当て
て、S.49.1.16 に原・被告と A の三者同席のうえ原告の工場で、「訴外 A は本件物件を製造して
S.49.4.末日限り原告に引渡すこと、原告はその代金として S.49.4.末日を支払期日とする額面 300
万円の約束手形を即日振出し、残額 640 万円については S.49.10 末までに支払期日の到来する約
束手形を研修時に振出して支払の手段とする旨の取決がなされ、原告は即日右 300 万円の約束手
形を振出して被告に交付し、被告はこれを A に交付したことを認めることができ、右認定に反す
る証拠はない。
」然るところ納期を過ぎてもの納入がなく、その間被告は原告と A の間にあって
再三納入時期の折衝を行い、納期限を S.49.8.31 迄延期すると共に、同日限り納入できないとき
は「契約は無効とし、前受金 300 万円は即刻現金をもって被告が原告に返済する」旨を約した。
被告がこれを約するについて A の依頼は無い。被告は原告から本訴で請求を受けている同金額の
返還請求に、被告は仲立人であり売買契約の当事者ではないとしてその義務を否認している。
一旦成立した売買契約については、その履行はもっぱら契約当事者の責任に属するものであっ
て、仲立人には無関係の事象であるのに、被告がその契約が無効となる場合と前受金の返還を自
ら買主である原告に約している事実を捉えて、原告は仲立人ではなく売主であると判示。
判時 846-106
江頭憲次郎・ジュリ 692-139-
[最高裁一小 S.51.11.25 判*]S46(オ)457 号 転付金請求事件(上告棄却)
民法 511 条、S54 改正前民訴法 589 条 1 項・601 条・750 条 2 項
手形割引依頼人が仮差押の申請を受けたことを手形買戻請求権の取得及び弁済期到来の事由と
する銀行取引約定書による合意の第三者に対する効力(相殺の効力)― 手形割引依
頼人が仮差押の申請を受けたときは通知催告がなくても銀行に対し割引手形の買戻債務を負い直
ちに弁済する旨の銀行取引約定書による合意に基づいて手形割引がされた場合に、割引依頼人の
債権者が割引依頼人の銀行に対する債権につき仮差押をし差押・転付命令を得たときは、銀行は、
特段の事情のない限り、右仮差押の申請があつた時に割引依頼人に対し手形買戻請求権を取得し
その弁済期が到来したものとして、右手形買戻請求権をもつて被転付債権と相殺することができ
91
る。
民集 30-10-939 判時 837-89 判タ 344-188 金法 809-73 金判 512-7
石田喜久夫・S51 重要判別冊ジュリ 642-63 江頭憲次郎・法協 99-2-223
河本一郎・民商 76-6-81 吉原和志・別冊ジュリ 222-182
原審:大阪高裁 S.46.2.25 判・S44(ネ)918 号 民集 30-10-954 判時 629-84
一審:神戸地裁 S.44.5.30 判・S43(ワ)1174 号 民集 30-10-948 金判 512-13
*吉原評釈:本判決は、
[最高裁大法廷 S.45.6.24 判①*]を引用・確認している。即ち、同大法
廷判決は、差押と相殺に関し従来の判例を変更して無制限説(差押時に第三債務者が反対債権
を有していれば、弁済期の前後を問わず、相殺をもって対抗し得るとする説)を採用するとと
もに、期限の利益喪失条項・相殺予約は、預金等の債権を差押えた債権者に対する関係でも効
力を有すると同判決を引用・確認している。
[大阪高裁 S.52.4.14 判*]
S51(ネ)1090 号 売掛代金請求事件(控訴棄却)
民法 457 条 2 項・436 条 2 項、破産法 7 条・16 条・49 条
保証人または連帯債務者は、破産者たる主債務者または他の連帯債務者の破産財団所属債権を
自働債権として相殺し得るか(消極) ― 破産宣告後は、
「総債権者に対する公平な弁済(破
産の目的)の実現を阻害しない特別の事情」は認められないから、相殺の抗弁は許されない。
金法 833-34
判時 866-159
福永有利・判例評論 229-30
一審:大阪地裁 S51.5.28 判・S49(ワ)2244 号
[大阪地裁 S.52.5.13 判*]S50(ワ)4860 号・宝石引渡請求事件(一部認容・一部棄却・控訴)
民法 586 条・401 条
宝石指輪の販売に関し保証書記載の品質でないことから生じた紛争解決のため、保証書に記載
されている「実物大で、できる限り良質の保証された品質のもの」と取り替える旨の交換契約
― 交換の客体をその記載に相応するように特定した約定であり、単なる詫状での努力目標と
しての表現でないと判示。
判時 866-159
[最高裁三小 S.52.6.28 判*] S51(オ)302 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 709 条
信用状開設遅延を理由とする損害賠償請求 ― 法律上の因果関係がないとして否認 ― 製品の
買主がその売主たる韓国の商社のために外国為替銀行から信用状の開設を受けなかつたからとい
って、その韓国の商社に原料を輸出していた者が原料の売買代金を同商社により減額されたこと
によって受けた損害については、製品の買主が不法行為責任を負うものではない。
金法 833-33
斉藤武・立命館法学 1979 年 5 号 664 頁
原審:東京高裁 S.51.11.25 判・S49(ネ)2189 号
* 斉藤評釈も、
「相当因果関係の枠から外れ無理であろう。
」と讃されている。
[大阪地裁 S.52.9.16 判*]
S47(ワ)4212 号 担保物返還等請求事件(一部容認・
商法 42 条(現会社法 13 条)
、民法 110 条
一部棄却)
一、会社の営業所が支店の実体を有しないとして営業所長の権限について商法 42 条(旧 42 条・
現会社法 13 条)の適用を否定した事例
二、民法 110 条にいう「正当の理由」ありしとした事例
[判示要旨] 一、被告会社の支店たる実体を供えたものとは言いがたく、仮に表見支配人に該
92
当するとしてもその権限は当該支店における保険代理業に関する行為をなす権限に限られ、顧客
に対して数千万円にのぼる融資をなし、その担保として数千万円もの債券類を預かるようなこと
は明らかにその営業に関しない権限外の行為というべきであるから、このような行為につき当人
が代理権を有するものとは解せられない。表見支配人としての行為であることを否定。
二、しかしながら当人は現実にこれを行っていることを原告は知っており、被告会社はそれの
会社業績への貢献からこれを禁じておらず、総合的に考察すれば、原告が当人を被告会社の代理
人であると信じるにつき正当の理由があるものといわなければならない。
判時 877-97
倉澤康一郎・慶応大学法学研究会叢書 58-278(RF-TC)
[最高裁三小 S.52.12.23 判*]
S52(オ)893 号 約束手形金請求等請求事件(棄却)
商法 12 条(現会社法 908 条 1 項:登記の効力)
商法.12 条(登記の効力)を免れ得る「正当事由」があるとは言えないとされた事例 ― 株式会
社が代表取締役の代表資格喪失及び取締役退任の登記をして約 1 月経った後、同人が会社に無断
で振出した手形の受取人には、右代表資格喪失の事実を知らなかったことにつき、商法 12 条の「正
当事由」があるとは言えない。
集民 122-613 判時 880-78 金判 540-8 金法 851-45
森淳二郎・別冊ジュリ 194-18
原審:大阪高裁 S.52.3.30 判・S49(ネ)665 号
下民集 28-1~4-327 判時 962-82
一審:大阪地裁 S.46.7.15 判・S44(ワ)3620 号
金判 420-26
[最高裁一小 S.53.4.24 判*]S53(オ)149 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 11 条 2 項・77 条 1 項
手形面上印刷された指図文句を抹消しないで指図禁止文句が併記された手形 ― 「手形の振出
人が手形用紙に印刷された指図文句を抹消することなく、指図禁止文句を記栽したため、手形面
上指図文句と指図禁止文句が併記されている場合には、他に特段の事情がない限り、指図禁止文
句の効力が優先し、右手形は裏書禁止手形にあたると解するのが相当であり、これと同旨の原審
の判断は、正当として是認することができ。
」
集民 123-603 判時 893-86 金法 860-32 金判 549-28
清水忠之・別冊ジュリ 144-88
上村達男・別冊ジュリ 173-89
原審:東京高裁 S.51.12.13 判・S49(ネ)1230 号
一審:東京地裁 S49.4.30 判・S45(ワ)9892 号
[東京地裁 S.53.5.29 判*]S52(レ)12・103 号 株券引渡請求控訴、同付帯控訴事件
民訴法 785 条、商法 229 条
(原判決取消・請求棄却・付帯控訴棄却・上告)
除権判決の株券の善意取得者に対する影響 <除権判決優先説による判示> ― 「善意取得者と
いえども、公示催告所定の届出を怠った場合には、最早その権利を主張し得ざるものと解するの
が相当である(右は善意取得制度に内在する制約でもあるというべく、又右限度で除権判決にも
一定の結果的な実体上の効果が認められることとなろう)。」
判時 923-115
黄清渓・法学研究(慶大)57-11-150 吉川義春・商事法務 948-97
原審:中野簡裁 S.51.12.22 判・S50(ハ)44 号
*上告審[東京高裁 S.54.4.17 判*]は破棄差戻を判決
[東京高裁 S.53.5.31 判*] S50(ネ)1850 号 海難救助料請求事件(控訴棄却・確定)
商法 800 条、海難救助条約 2 条
曳船が曳船契約により曳船中の被曳船の海難を救助したが、右救助は曳船の義務であるとして
93
海難救助料の請求が否定された事例 ― 「曳船の所有者は、曳船契約履行中、被曳船が通常生
ずるとはいえない事故により海難におちいった場合においても、曳船に急迫な危険が存しない限
り、原則として、被曳船の海難につき信義則上相当と認められる程度の適切な処置をとるべき契
約上の義務を負担するものと解すべきである。」
判時 898-99
中田明・ジュリ 753-124
一審:東京地裁 S.50.8.5 判・S49(ワ)8603 号
[最高裁三小 S.53.7.18 判*] S53(オ)383 号 転付債権、不当利得返還請求事件(棄却)
民法 467 条
確定日付が同一日付である複数の債権譲渡通知が同時に債務者に到達した場合と後順位譲受人
に対する効力 ― 各譲受人は、後順位の譲受人に対する関係においては、先順位の各譲受人が
等しく債権者たる地位を有効に取得した者として対抗することができる。
集民 124-447 判時 905-61
原審:東京高裁 S52.12.21 判・S52(ネ)12.21 判
判時 880-30
一審:東京地裁 S.52.4.13 判・S50(ワ)3288 号
判時 881-131
[最高裁一小 S.53.9.14 判*]S50(オ)745 号 執行文付与請求事件(破棄差戻)
民法 33 条、商法 52 条・428 条、民訴法 521 条
法人格否認と判決の効力:新会社の設立につき旧会社の債務の支払を免れることを目的と
するなどの事情が存する場合において旧会社に対する債務名義につき新会社に対する強制執
行のため執行文付与を命ずることができないとされた事例 ― 新会社の設立について旧会社の
負担する債務の支払を免れることを目的とするなど判示の事情が存する場合においても、旧会社
と新会社を同一の法人格と解し、又は法人格否認の法理に基づいて、旧会社に対する債務名義に
つき新会社に対する強制執行のため執行文の付与を命ずることはできない。
集民 125-57 判時 906-88 金法 880-59 金判 558-3
鈴木正裕・S53 重要判ジュリ 693-153
江頭憲次郎・ジュリ 754-114 竹下守夫・別冊ジュリ 80-16 高橋宏志・別冊ジュリ 208-23
原審:大阪高裁 S.50.3.28 判・S49(ネ)1490 号
判時 781-101 判タ 330-303
福永有利・S.50 重要判ジュリ 615-114
浜田道代・判例評論 207-27
*鈴木評釈:最高裁が法人格否認の法理を採用した最初の判決において、既に最高裁は、法人格
否認の法理が適用されるケースでも、判決の効力の拡張は認められない旨の見解を示唆してい
た[最高裁一小 S.44.2.27 判*]
。
その後初めての本件最高裁判例 では、原告(被上告人)が法人格否認により判決の名宛人と
同旨される者に対する執行文付与の訴えを起こしたため、真正面からこれが論じられることに
なり、最高裁は再びネガティブな見解を表明した。(古田注:S.44 最高裁判決後の[最高裁二小
S.48.10.26 判*]は、二つの会社の実態が本件のような別の事案ではなく同一の事案である。)
鈴木評釈は、本件最高裁判旨のポイントを次のように整理されている。
(1) 同一の法人格の成否・・・「しかしながら、上告会社が訴外会社とは別個の法人として
設立手続、設立登記を経ているものである以上、上記のような事実関係から直ちに両会社が全
く同一の法人格であると解することは、商法が、株式会社の設立の無効は一定の要件の下に認
められる設立無効の訴のみによって主張されるべきことを定めていること(同法 428 条)及び
法的安定の見地からいって是認し難い。
」
(2) 濫用事例による法人格否認・・・「もっとも、右のように上告会社の設立が訴外会社の
債務の支払を免れる意図の下にされたものであり、法人格の濫用と認められる場合には、いわ
ゆる法人格否認の法理により被上告人は自己と訴外会社間の前記確定判決の内容である損害賠
償請求を上告会社に対しすることができるものと解するのが相当である。
」
(3) 判決の効力・・・「しかし、この場合においても、権利関係の公権的な確定及びその迅
速確実な実現をはかるために手続の明確、安定を重んずる訴訟手続ないし強制執行手続におい
94
ては、その手続の性格上訴外会社に対する判決の既判力及び執行力の範囲を上告会社にまで拡
張することは許されないものというべきである(
[最高裁一小 S.44.2.27 判*]参照)。
」
(4) 訴え変更のための差戻し・・・「それ故、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない
ところ、本件の事実関係に照らせば、被上告人において事実審で訴を変更し、前記確定判決に
基づく訴外会社に対する損害賠償請求と同様の請求を上告会社に対してする余地もないではな
いと認められるから、更に審理を尽くさせるため本件を原審へ差戻すのが相当である。」
*[最高裁二小 H.17.7.15 判*]の笠井評釈参照。
[最高裁一小 S.53.10.5 判*] S51(オ)1215 号 土地所有権確認等請求事件
民法 424 条・425 条
(一部破棄・一部破棄差戻)
特定物債権での詐害行為取消権を是認・自己に対する移転登記請求は否認
不動産の引渡請求権者が債務者による目的不動産の処分行為を詐害行為として取り消す場合と
自己に対する所有権移転登記手続請求の可否 ― 「特定物引渡請求権(特定物債権)は、究極
において損害賠償債権に変じ得るのであるから、債務者の一般財産により担保されなければなら
ないことは、金銭債権と同様であり、その目的物を債務者が処分することにより無資力となった
場合には、該特定物債権者は右処分行為を詐害行為として取消すことができるものと解すべきこ
とは、等裁判所の判例とするところである(
[最高裁大法廷 S.36.7.19 判*]
)。
しかし、民法 424 条の債権視野取消権は、究極的には債務者の一般財産による価値的満足を受
けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものであるから、このような制度の趣旨に照
らし、特定物債権者は目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできないものというべく、
原判決が『特定物の引渡請求権に基づいて直接自己に所有権移転登記を求めることは許されない』
とした部分は結局正当に帰する。
」
民集 32-7-1332 判時 912-58 判タ 373-60 金法 878-23 金判 562-3
早川眞一郎・法協 97-7-141 & 別冊ジュリ 196-34
下森定・判例評論 258-26
辻正美・民商 81-1-125
原審:大阪高裁 S.51.8.25 判・S48(ネ)1248 号他 民集 32-7-1354 金判 562-9
一審:京都地裁 S.48.6.29 判・S46()758 号他 民集 32-7-1348
[最高裁一小 S.54.1.25 判*] S53(オ)809 判 求償金、不当利得返還、詐害行為取消等
民法 424 条
請求事件(上告棄却)
詐害行為取消権で取消し得る範囲
抵当権の付着する土地の譲渡担保契約の全部が詐害行為に該当するものとして土地自体の原状
回復が許される場合 ― 抵当権の付着する土地についてされた譲渡担保契約が詐害行為に該
当する場合において、譲渡担保権者が当該抵当権者以外の債権者であり、右土地の価額から右抵
当権の被担保債権の額を控除した額が詐害行為取消権の基礎となっている債権の額を下回ってい
るときは、譲渡担保契約の全部を取り消して本件土地自体の返還請求で、土地自体の原状回復を
することを認めるべきである(大審院 S.9.11.30 判・S9()1176 号・民集 13-23-2191 参照)
。
民集 33-1-12 判時 918-69 判タ 380-81 金法 893-44 金判 567-3
下森定・S.54 重要判ジュリ 718-78 井田友吉・別冊ジュリ 105-44
松本恒雄・判タ 411-56 安永正昭・判例評論 246-12 中井美雄・民商 81-5-93
原審:東京高裁 S.53.3.30 判・S52(ネ)404 号 民集 33-1-18 判時 894-68 判タ 369-165
金法 887-36 金判 547-7
一審:静岡地裁沼津支部 S.52.1.21 判・S50(ワ)338 号 民集 33-1-16
[最高裁三小 S.54.1.30 判*]
S53(オ)923 号 転付金請求事件(上告棄却)
95
民訴法 169 条 1 項・171 条・177 条(現 103 条 1 項・106 条・109 条)、郵便法 66 条
債権差押および転付命令が特別送達郵便物として名宛人である銀行支店の受付係に交付された
時に送達の効力を生じ、その支店の転送依頼でその後に本店へ転送されても、右送達の効力に
影響を及ぼさないとされた事例 ― 名宛人として甲銀行乙支店代表取締役丙と表示されていた
場合に、右郵便物が郵便局員により乙支店の受付係へ交付されたときは、これにより送達の効力
を生じ、その後に本店に転送されても、送達の効力に影響を及ぼさない。
集民 126-51 判時 919-57
原審:福岡高裁 S53.4.24 判・S52(ネ)390 号 判時 909-66 判タ 368-272 金判 549-52
一審:福岡地裁小倉支部 S.52.5.27 判・S49(ワ)384 号
[東京地裁 S.54.2.26 判*]
S51(ワ)9745 号 損害賠償請求事件(棄却・確定)
商法 766 条・577 条
*本件は航海上の過失免責規定がない八丈島から東京湾までの重機の海
上運送契約の事案
船舶の沈没による積荷の毀損につき、船長の無過失が認められた事例 ― 本件事故は、本船
の停泊地であった八丈島底土港「泊地の岸壁付近の海中に未確認の暗岩が存在していたため、こ
れに錨鎖がからみ、操船が自由にならなくなったことによって発生したものと認められ、船長が
右暗岩の存在を予見することは困難であったと認められるので、本件事故発生について船長に過
失はない。
」
判時 936-112
中田明・ジュリ 767-191
[最高裁二小 S.54.4.6 判*] S50(オ)999 号 手形判決異議・手形裏書の詐害行為取消併合
民法 424 条、手形法 17 条・18 条、民訴法 227 条
請求事件(破棄自判)
詐害行為取消権行使の効果
裏書の詐害行為による取消と取立委任裏書の被裏書人の地位 ― ①約束手形の振出人甲が原告
となりその受取人乙から裏書を受けた丙を被告として提起した右裏書についての詐害行為取消の
訴において、甲の請求が認容された場合には、甲は、丙から隠れた取立委任裏書を受けていた丁
に対し、丁の善意・悪意を問わず、乙丙間の裏書が詐害行為として取り消された事実を援用して、
丁の手形金請求を拒むことができる。
② 約束手形の振出人甲を原告としその受取人乙から裏書を受けた丙を被告とする右裏書に対
する詐害行為取消の訴と、丙から更に裏書を受けた丁を原告とし甲を被告とする右手形金請求の
訴とが同一裁判所に係属し、後者の訴訟において、甲が、抗弁として、右詐害行為の事実及び丙
丁間の裏書が隠れた取立委任裏書であり詐害行為としての取消をもつて丁に対抗しうる旨を主張
し、両訴訟が併合審理された結果、甲の主張事実が認められたときは、裁判所は、甲の丙に対す
る詐害行為取消請求を認容するとともに、丁の甲に対する手形金請求を棄却する裁判をすべきで
ある。
民集 33-3-329 判時 928-102 判タ 387-56 金法 899-37 金判 576-3
伊東乾/山田恒久・法学研究(慶大)53-5-122
小山昇・民商 81-6-110
小松俊雄・S.54 重要判ジュリ 718-144
飯原一乗・判例評論 254-39
清瀬信次郎・金判 585-48 藤田友啓・別冊ジュリ 173-114 小橋一郎・別冊ジュリ 72-146
原審:大阪高裁 S.50.5.30 判・S48(ネ)934 号 民集 33-3-356 金法 766-32 金判 576-8
一審:大阪地裁 S.48.5.19 判・S46(ワ)1021 号 民集 33-3-340 判時 716-91 判タ 298-285
金法 692-31 金判 374-10 金判 576-12
[東京高裁 S.54.4.17 判*]S53(ツ)59 号 株券引渡請求上告事件(破棄差戻)
民訴法 785 条、商法 229 条、小切手法 21 条
除権判決の株券の善意取得者に対する影響 ― 善意取得者優先説
96
判時 931-114
福滝博之・別冊ジュリ 100-186
原審:東京地裁 S.53.5.29 判・S52(レ)12 号ほか
判時 923-115
一審:中野簡裁 S.51.12.22 判・S50(ハ)44 号
*:本件の差戻審判決は[東京地裁 S.55.12.15 判*]にある⇔判示要旨を参照。
[最高裁一小 S.55.1.24 判①*] S54(オ)730 号 詐害行為取消等請求事件(上告棄却)
民法 424 条
詐害行為取消権成立・行使の要件
債権者の債権成立前にされた不動産物権の譲渡行為につき債権成立後に登記が経由された場
合と詐害行為取消権の成否 ― 不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされた場合に
は、その登記が右債権成立後に経由されたときであっても、詐害行為取消権は成立しない。
けだし、物権の譲渡行為とこれについての登記とはもとより別個の行為であって、後者は単に
その時からはじめて物権の移転を第三者に対抗し得る効果を生ぜしめるに過ぎず、登記の時に物
権移転行為がされたことになったりも物権移転の効果が生じたりするわけのものではないし、ま
た、物権移転行為自体が債権者の債権成立以前になされていることから詐害行為を構成しない以
上、これについてされた登記のみを切離して詐害行為とすることはできない。
民集 34-1-110 判時 956-48 判タ 409-72 金法 924-41 金判 591-3 下森定・民商 83-3-94
下森定・S.55 重要判ジュリ 743-83 甲斐道太郎・別冊ジュリ 105-38
船越隆司・判例評論 261-13 円谷峻・金判 597-50 高橋朋子・法協 99-3-124
原審:福岡高裁 S.54.2.26 判・S53(ネ)472 号 民集 34-1-119 金判 591-5
一審:大阪地裁 S.53.6.12 判・S51(ワ)164 号 民集 34-1-114 金判 591-5
[最高裁一小 S.55.1.24 判②*]S.53(オ)1129 号・不当利得金返還請求事件(上告棄却)
民法 167 条・703 条、商法 522 条、利息制限法 1 条・4 条
商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金につ
いての不当利得返還請求権の消滅時効期間 ― 商事消滅時効を規定する「商法 522 条の適用又
は類推適用されるべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでな
ければならないところ、利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当
利得返還請求権は、法律の規定によって発生する債権であり、しかも、商事取引関係の迅速な解
決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて、商行為によって生じた債権に準ずるものと解
することもできないから、その消滅時効の期間は民法の一般債権として民法 167 条 1 項により、
10 年と解するのが相当である。
」 団藤重光・中村治朗裁判官の反対意見あり。
民集 34-1-61 判時 955-52 判タ 409-73
森泉章・民商 83-2-112
江頭憲次郎・法協 99-6-134
丸山秀平・別冊ジュリ 194-100
原審:東京高裁 S.53.6.19 判・S52(ネ)2909 号 民集 34-1-73 判時 906-50 判タ 370-94
金判 556-13 & 590-7
一審:横浜地裁横須賀支部 S.52.11.16 判・S50(ワ)17 号
民集 34-1-71 金判 590-9
[最高裁一小 S.55.1.24 判③*]S54(オ)196 号 損害賠償等請求事件
利息制限法 1 条、民法 588 条・505 条
(一部上告棄却・一部破棄差戻)
利息制限法所定の制限利率を超過する利息部分を目的とする準消費貸借の効力 ― 利息制限法
所定の制限利率を超過する利息部分を目的として締結された準消費貸借契約は無効であって、債
権は存在せず、右債権を自働債権としてした相殺の意思表示はその効力を生じない。
集民 129-81 判タ 408-70 金法 921-36
磯村保・民商 83-4-64
原審:大阪高裁 S.53.11.30 判・S52(ネ)2041 号
97
一審:京都地裁 S.52.11.28 判・S50(ワ)1386 号
*磯村評釈:本判決は、利息制限法違反の利息債権を目的とする準消費貸借の効力につき、最高
裁として、従来の通説・判例に従うことを明らかにした点に意義が認められ、異論もないとこ
ろである。
[東京地裁 S.55.5.16 判*] S50(ワ)10136 号 損害賠償請求事件(請求棄却)
商法 690 条
運航委託契約における受託者は、商法 690 条の船舶所有者に該当しないとされた事例 ―「
『船
舶所有者』とは、船長および船員を指揮監督し、これらの者の活動により当該船舶の運行による
利益を得る地位にある者を言う」と解し、誰が『船舶所有者』であるかを判断するに当たっては、
形式的面からではなく実質的面からみて、①誰が当該船舶の運航利益を収受する海上企業主体で
あるか、②船長及び船員の指揮監督権を有するのは誰か、という見地から検討すべきである。こ
の二要件を充たすのは運航委託契約の委託者であり、本件受託者は該当しない。
海法研 38-29
[最高裁二小 S.55.5.30 判*] S54(オ)1104 号約束手形金請求事件(棄却)
手形法 70 条 2 項・77 条 1 項 8 号、民法 166 条 1 項
約束手形の所持人と裏書人との間において支払猶予の特約がされた場合と、所持人の裏書人に
対する手形上の請求権の消滅時効の起算点 ― 右猶予期間が満了した時から進行する。
民集 34-3-521 判時 966-110 判タ 415-112
岸田雅雄・別冊ジュリ 173-156
原審:大阪高裁 S.54.8.3 判・S51(ネ)1980 号 民集 34-3-531 金判 599-7
一審:京都地裁 S.51.10.27 判・S48(ハ)305 号
民集 34-3-527 金判 599-9
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[東京地裁 S.55.11.11 判*]S51(ワ)1503 号 請負代金請求事件(中間判決・棄却)
改正前民訴法 184 条・786 条(現民訴法 245 条・現仲裁法 13 条)
中間判決:行政指導に適合する形式を整えるために便宜的に作成されたとみられる仲裁条項の
ある運航委託契約書は、運送契約書による貨物運送の実態には全く反映されていないことが認
定され、当事者間における仲裁契約の成立がを否定された事例 ―契約条項の拘束力は、
「当該
条項が仲裁を内容とするものであるときは、別段の考慮を要するものである。即ち、仲裁条項は、
私法上の取引内容に関する条項とは異なり、裁判を受ける権利に重大な制約を加えるものである
から、その合意の成否については取引内容に関する条項に比して、より一層の慎重さをもって対
処得る必要があり、その効力の有無を判断するに当っては、単に書式に仲裁条項の記載があるこ
とから直ちにその効力が肯定されるべきものではなく、当事者の認識・理解の程度のほか、広く
諸般の事情を考慮してその効力を決すべきである。
」
判時 1019-105
海法研 39-21
原茂太一・判例評論 279-28
[最高裁一小 S.55.11.27 判*] S55(オ)801 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 69 条・70 条 1 項・77 条 1 項 7・8 号
手形の満期が変造されている場合の、所持人の手形振出人に対する手形債権の消滅時効の起算
点 ― 約束手形の満期が振出後に変造された場合には、右手形の所持人の振出人に対する手形
債権の消滅時効は、変造前の満期から進行する。
集民 131-173 判時 986-107 判タ 429-84 金法 954-27 金判 610-16
98
木内宣彦・判例評論 270-39
原審:大阪高裁 S55.5.27 判・S55(ネ)16 号 判タ 425-153 金判 603-3
一審:京都地裁 S.54.12.24 判・S53(ワ)793 号
*:時効・除斥期間の起算点に関する主要判決例の概要は[東京高裁 H.25.10.31 判*]の末尾コ
メントを参照。
[東京地裁 S.55.12.15 判*]S54(レ)98 号株券引渡請求控訴事件(控訴棄却・確定)
民訴法 785 条、商法 229 条
除権判決は株券の善意取得者の権利に影響を及ぼさない ― 善意取得者優先説 ―「盗難などに
よって喪失した株券に関する除権判決の効果は、右判決以後その株券を無効とし、申立人に株券
を所持しているのと同一の地位を回復するにとどまるものであって、申立人が実質上株主たるこ
とを確定するものではなく、喪失株券の除権判決は、右判決前に株券を善意取得した者の有する
実質的権利になんら影響を及ぼさないものと解するのが相当である。」 本件判決は、[東京高裁
S.54.4.17 判*]による破棄差戻後の判決である。上告審[東京高裁 S.56.12.24 判*]でも是
認されている。
判時 995-122
一審:中野簡裁 S51.12.22 判・S.50(ハ)44 号
[東京地裁 S.55.12.25 決定*]S55(ヨ)2050 号・有体動産仮処分申請事件(却下)
民法 545 条、会社更生法 28 条・39 条・61 条・103 条
商品の売主が保全管理人に対し、更生申立解除の特約に基づき契約の解除を主張することの可
否および右特約の効力 ― 売主の買主会社の保全管理人を債務者とする解除特約による解除で
の商品所有権の復帰は、その解除前に保全管理人が選任されているので、仮処分債権者である売
主は、
「民法 545 条 1 項但書により、債務者に対し、本件約定に基づく本件物件についての売買
契約の解除の効果、すなわち、本件物件の所有権が債権者に復帰したことを主張することができ
ない。」 のみならず・・・
「本件約定が、申請外会社(買主)の会社更生手続開始を予想し、そ
の申立と同時に、本来更生債権者となるべき債権者の申請外会社に対する本件物件についての代
金債権を会社更生手続外で一方的に回収することを目的としていることは明らかである。そこで、
会社更生手続開始後も公示手段の具備が認められない本件約定に効力を認めるならば、他の更生
債権者等との権衡を著しく失するうえ、申請外会社の事業の維持更生に必要な財産を会社外に流
失させて会社更生法の前記目的を害することになる。そして、この理は、保全管理人による管理
命令及びいわゆる弁済禁止の保全処分が発せられた後の手続においても同様にあてはまるところ
といわなければならない。
」 本件約定による売買契約解除の効果を否定し、解除による所有権取
得を理由とする本件仮処分申請を却下した。
判時 1003-123
山口和男・判タ 472-283
*[最高裁三小 S.57.3.30 判①*]の江頭解説参照。
[東京地裁 S.56.1.20 判*]S54(ワ)7842 号 株券引渡等請求事件(一部容認・控訴)
民訴法 785 条、商法 229 条、民法 709 条
一、除権判決前の株券の善意取得者と除権判決の関係 ― 善意取得者優先説を採用
二、除権判決により失効した旧株券の所持人から名義書換のため呈示された旧株券を名義書換
代理人が所持人の意に反して回収し返還しないことと、不法行為の成否(消極) ― 「本件
(一)株券は除権判決により失効しており、無価値の紙片にすぎず、且つ被告会社は、本件(一)
株券に代わる本件(二)株券を既に発行しているのであるから、本件(一)株券を原告に返還した場
合には同一株式を表章する株券が二枚流通に置かれることになり、株式の譲渡をめぐつて混乱を
生ずる虞があるから、被告会社が本件 (一) 株券を原告に返還しなかったとしても違法ではなく、
99
従って、本件(一)株券の没収を原因とする原告の被告会社に対する損害賠償の請求は失当であって
認められない。
」
判時 1016-116
近藤光男・商事法務 1016-78
*:株券については、H18 施行の会社法で「株券喪失登録制度(221 条以下)」が導入され、公示
催告・除権決定制度の適用はなくなった。
[東京高裁 S.56.2.17 判*] S55(ネ)1294 号 損害賠償請求事件
民法 718 条
シェパード犬の衝突によって転倒負傷した原付自転車運転者の損害につき犬の占有者責任が肯
定された事例
判時 998-65
目崎哲久・判タ 472-120
一審:長野地裁上田支部 S55.5.15 判・S52(ワ)49 号 交通民集 14-1-55
[東京高裁 S.56.2.26 判*]S52(ネ)1940 号・売掛代金・損害賠償請求事件
民法 92 条・415 条・416 条・540 条・555 条
(一部控訴棄却・一部変更・上告)
「代金支払いが履行されない虞がある場合には、売主は爾後の商品販売を停止することができ
る」との約定の意義 ― 継続的供給契約での約定であるから、
「買主に支払期日における代金
決済を期待し難い客観的合理的な蓋然性が認められた場合に限り、爾後の供給を停止し得る趣旨
と解すべきである。
」
判時 1000-87
実務判例研究会・法令ニュース 17-1-61
一審:東京地裁 S.52.7.22 判・S51(ワ)6504 号ほか
判時 880-51
[最高裁一小 S.56.4.9判*]S53(オ)1339 号・リース料及び損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 416 条・540 条・545 条 1 項・548 条・559 条・566 条・570 条
一、 リース物件の売主がリース会社からの借主に対し性能不良を理由として賠償すべき額を
算定するに当たり損益相殺すべき借主の利益の額につき判示した事例 ― リース会社に対
し会計機を売却した者が、リース契約によりリース会社から右会計機を借り受けた者に対し、直
接その性能を保証し、保証した性能を欠くときは借主の受ける損害を賠償する旨の損害担保契約
を結んだ場合において、右会計機が保証された性能を欠くため借主の業務に適合せず、そのため
借主が売主にその引取方を要求して使用を中止したなど原判示の事実関係があるときは、売主が
借主に対して賠償すべきリース料相当の損害から損益相殺すべき借主の利益の額は、借主が右会
計機の使用を中止するまでの間であって、売主の協力を得て利用できた期間のリース料相当額に
よって算出するのが相当である。
二、リース物件の性能不良のため借主がリース会社に対する売主にその引取方を要求したのち
に右リース物件が水害により使用不能となった場合についてその損失を売主において負担す
べきものとした事例 ― リース会社に対し会計機を売却した者が、リース契約によりリース
会社から右会計機を借り受けた者に対し、直接その性能を保証し、保証した性能を欠くときは借
主の受ける損害を賠償する旨の損害担保契約を結んだ場合において、右会計機が借主の手元で水
害にあい使用不能となっても、右会計機が保証された性能を欠くため借主の業務に適合せず、そ
のため右の水害前すでに借主から売主にその引取方を要求していたなど原判示の事実関係のもと
では、右会計機の使用不能の事実は売主が借主に賠償すべき損害の算定に当たり考慮すべきでな
く、右水害による損失は売主において負担すべきである。
集民 132-531 判時 1003-89 判タ 442-102 金判 621-3
久保田光昭・別冊ジュリ 194-154
原審:大阪高裁 S.53.8.31 判・S51(ネ)643 号
一審:大阪地裁 S.51.3.26 判・S47(ワ)1488 号ほか
100
[東京地裁 S.56.6.29 判*] 本訴:S52(ワ)2308 号 債務不存在確認請求事件(請求棄却)
反訴:S52(ワ)3123 号 契約清算金請求事件(容認)
機船 ワールシド・エンブレム号事件
一、早出料
二、船主・傭船者間の連続航海傭船契約において、運賃は 1 カ月 US$ 2/重量 ト
ンの割合による傭船料を下回らないとする約定がなされていたか
海法研 76-56
[最高裁二小 S.56.7.17 判*] S52(オ)454 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
船舶衝突に関する損害賠償の範囲と損害額の認定基準 ― 「船舶衝突事故により滅失した船舶
自体の損害の賠償のほかに、代船を購入して操業するまでの間の得べかりし利益の喪失による損
害の賠償を求めた被上告人の請求を認容した原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法は
ない。
」
海法研 46-23
原審:名古屋高裁 S52.2.15 判・S49(ネ)389 号 判時 868-89 判タ 352-209
一審:津地裁伊勢支部 S.49.7.26 判・S47(ワ)71 号
[東京地裁 S.56.8.19 判*]S54(ワ)2247 号 譲受債権等請求事件(一部容認・一部棄却、確定)
商法 526 条 1 項・527 条 1 項
一、商事売買の目的物に瑕疵ある場合における買主の通知の程度 ― 「商法 526 条 1 項が買主
に瑕疵の通知義務を課したのは、売主に適切な善後策を講ずる機会を速やかに与えるためである
から、同項の要求する通知の内容は、瑕疵の種類及び大体の範囲を明らかにするをもって足り、
詳細且つ正確な内容の通知であることを要しないものと解するのが相当である。
」
二、商事売買が右瑕疵を理由に解除されていない場合と買主の目的物保管義務(消極)―「商
法 527 条 1 項は、売主の瑕疵担保責任を追及するについて買主に瑕疵ある目的物を証拠物件とし
て保全すべき義務を課した規定ではなく、買主が売買の目的物に瑕疵があることを理由に契約解
除をした場合における買主の目的物保管義務を定めたものに過ぎない。したがって、本件のよう
に契約の解除をしない場合に買主が同項の規定により売主のために売買の目的物の保管義務を負
ういわれはない。
」
判時 1035-123
落合誠一・ジュリ 831-101
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京高裁 S.56.10.7 判*]S52(ネ)1851 号 売掛代金・契約金返還各請求控訴事件
商法 526 条
(控訴棄却・新請求棄却)
商人間の機械の売買における保証期間と商法 526 条の適用 ― ①.商法 526 条は、商人間の売
買において長期間にわたって取引関係を不安定な状態に置くことによって生ずる瑕疵発生の時期
についての争い、売主における善後策を講じる機会の喪失、買主における売主の危険の下での不
当な投資 のような不当・不安な結果の発生を防止するために設けられたものである。
②、本件機械の売買契約書の「条項中の『本機械の機構上の保証期間は甲に引渡したる後 1 カ
年とする。
』との文言のいみは、本件売買契約に基づく被控訴人会社の瑕疵担保責任の存続期間(民
法 570 条・566 条所定の除斥期間)を本件印刷機の控訴人会社に対する引渡後 1 カ年とすること
を約定したものに過ぎないと解するのが相当であり、これをもって、本件印刷機の瑕疵の存否に
101
関する控訴人会社の検査期間ないしその瑕疵が発見された場合の被控訴人会社に対する通知期間
(商法 526 条 1 項所定の検査ないし通知の期間)を控訴人会社に対する引渡後 1 カ年に延長する
ことを約定したものと解するのは困難である。」
判タ 462-151
一審:東京地裁
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京高裁 S.56.11.26 判*]S56(ネ)1192 号 約束手形金請求事件(控訴棄却・確定)
手形法 69 条
鉛筆による手形抹消も有効である ― 「鉛筆による手形の抹消は容易に抹消できるにしても、
そのことだけで直ちに爾後の手形取得者に右抹消を抹消すべき権限を与えたとまでは推定するこ
とはできない。
」してみれば、裏書を鉛筆で抹消している第二裏書人に対する償還請求権を否認し
た原審の判示は正当である。
判時 1030-97
松井雅彦・商事法務 1041-69
一審:横浜地裁 S56.4.27 判・S55(ワ)1240 号
判時 1030-97
[東京高裁 S.56.12.24 判*]S56(ツ)21 号 株券引渡請求上告事件(上告棄却)
商法 206 条・229 条・230 条、民訴法 785 条
公示催告申立前、株券を善意取得した者及びその者からの譲受人の権利と除権判決の効果
― 善意取得者から除権判決前に譲受け実質的権利を取得しているので、
「除権判決前の善意取
得者及びその者から株券を譲受けた者が未だ株主名簿に記載されない間に除権判決がされた場合
においても、何ら異なるものではなく、このことは、株主名簿の記載を単に会社に対する対抗要
件に過ぎないものとし、株主権取得の要件とはしていない商法 206 条の趣旨に照らしても明らか
なところである。
」 ⇔ 善意取得者優先を判示
判タ 464-148
一審:
[東京地裁 S.55.12.15 判*]
*:株券については、H18 施行の会社法で「株券喪失登録制度(221 条以下)」が導入され、公示
催告・除権決定制度の適用はなくなった。
[最高裁三小 S.57.1.19 判*]S54(オ)34 号・保険金請求事件(一部上告棄却・一部破棄自判)
自動車損害賠償保障法 16 条 1 項、商法 514 条
保険会社が自動車損害賠償保障法 16 条 1 項の規定に基づいて被害者に対して負担する損害賠
償債務と商法 514 条 ― 自動車損害賠償保障法 16 条 1 項に基づく被害者の保険会社に対す
る直接請求権は、被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって、商行為である保険
契約の保有者の保険金請求権の変形ないしはそれに準ずる権利ではないのであるから、保険会社
の被害者に対する損害賠償債務は商法 514 条所定の『商行為に因りて生じたる債務』には当らな
いと解すべきである。上記直接請求権の損害賠償債務について商事法定利率である年6分の割合
による遅延損害金を付した原審の判断には、自賠法 16 条 1 項及び商法 514 条の規定の解釈適用
を誤った違法がある。
民集 36-1-1 判時 1031-120 判タ 463-123
石川明/笠原毅彦・法学研究(慶大)56-2-112
吉田邦彦・法協 100-9-156 田辺康平・民商 87-2-90 笹本幸祐・別冊ジュリ 194-90
原審:大阪高裁 S.53.10.17 判・S52(ネ)1801 号
民集 36-1-15 交民集 15-1-16
一審:大阪地裁 S.52.10.28 判・S51(ワ)3679 号
民集 36-1-10 交民集 15-1-9
102
[最高裁三小 S.57.3.30 判①*]
S53(オ)319 号 機械引渡請求事件(上告棄却)
民法 541 条・540 条 1 項、会社更生法 39 条・1 条
一、 株式会社に対し会社更生法 39 条の規定により弁済禁止の保全処分が命じられた後に契約
上の会社の債務の弁済期が到来した場合と、その履行遅滞を理由とする契約の解除 ― 「更
生手続開始の申立のあった株式会社に対し会社更生法 39 条の規定によりいわゆる旧債務弁済禁
止の保全処分が命じられたときは、これにより会社はその債務を弁済してはならないとの拘束を
受けるのであるから、その後に会社の負担する契約上の債務につき弁済期が到来しても、債権者
は、会社の履行遅滞を理由として契約を解除することはできないものと解するのが相当である。
」
二、買主たる株式会社に更生手続開始の申立の原因となるべき事実が生じたことを売買契約解
除の事由とする旨の解除特約の効力 ―「買主たる株式会社に更生手続開始の申立の原因とな
るべき事実が生じたことを売買契約解除の事由とする旨の特約は、債権者、株主その他の利害関
係人の利害を調整しつつ窮境にある株式会社の事業の維持更生を図ろうとする会社更生手続の趣
旨、目的を害するものであるから、その効力を肯認し得ないものといわなければならない。
」
民集 36-3-484 判時 1039-127 判タ 469-181
西澤宗英・法学研究(慶大)56-7-128
佐藤鉄男・別冊ジュリ 194-118
原審:福岡高裁 S.52.11.30 判・S52(ネ)65 号
民集 36-3-498 金判 645-15
一審:福岡地裁小倉支部 S.51.12.28 判・S50(ワ)485 号
民集 36-3-493 金判 645-17
*江頭憲次郎・商取引法 6 版-43~44:破産・更生手続開始の申立を解除権発生原因とする特約の
有効性の限界については、その特約は、破産・会社更生の手続が開始されるまでの過程で必ず生
じるはずの事実を解除権の発生原因としているから、その有効性を認めれば、破産財団または更
生会社の財産が特定の債権者により奪取されるのと同様の結果となることを理由に、無効とする
見解が有力に唱えられている。そして、本件での判例においても、同様の論旨により効力は認め
られないと判示されている。本件判決は、解除特約が所有権留保特約に付随した事案であるが、
[東京地裁 S.55.12.25 決定*]は所有権留保特約を伴わない解除特約も無効とした例である。
解除特約を無効とする右判決の射程が、会社更生手続と異なり担保権が別除権(破産法 65 条、
民事再生法 53 条)とされている破産手続・再生手続開始の申立の場合にも及ぶかは問題である
が、再生手続開始申立をファイナンス・リース契約の解除権発生原因とする特約については、当
該解除を認めると再生手続の中で事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会
を失わせ、再生手続の趣旨・目的に反することを理由に無効と解されている[最高裁三小
H.20.12.16 判*]
。
また、本件[最高裁三小 S.57.3.30 判①*]の射程が、未履行の双務契約(破産法 53 条、民
事再生法 49 条、会社更生法 61 条)に関する解除特約にも及ぶかという問題があり、いわゆる
スワップ契約においては、その基本契約中に、一方当事者の信用状態を疑わせる一定の事由が生
じたときは当事者間のすべての個別契約を現在価値に評価の上一括清算する旨の約定が置かれ
ているが、同判例の趣旨から当該契約が無効と主張する見解もあったため、当該契約を有効と定
める「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律(平成 10 年法律 108 号)」が制
定された。
[最高裁三小 S.57.3.30 判②*]
S54(オ)110 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 10 条・77 条 2 項、民事訴訟法 199 条 1 項(現 114 条 1 項)
・545 条 2 項(現民事執
行法 35 条 2 項)
白地手形による手形金請求を棄却する判決の確定後に、白地部分を補充して手形上の権利の存
在を主張することの許否 ―既判力の時的限界 ― 手形の所持人は、前訴の既判力の基準時
以前に「白地補充権を有しており、これを行使したうえ手形金の請求をすることができたにもか
かわらず・・・これを行使しなかつた場合には」
、基準時の「後に該手形の白地部分を補充しこれ
に基づき後訴を提起して手形上の権利の存在を主張することは、特段の事情の存在が認められな
103
い限り前訴判決の既判力によって遮断され、許されないものと解するのが相当である。」
民集 36-3-501 判時 1045-116 判タ 471-116 金法 1008-45 金判 648-3
坂原正夫・法学研究(慶大)56-8-118
高橋宏志・法協 100-11-179
永井紀昭・民商 89-2-45
倉部真由美・別冊ジュリ 201-264
原審:東京高裁 S.53.10.27 判・S52(ネ)3130 号
民集 36-3-515 判時 915-103
判タ 377-155 金判 558-27 & 648-8
一審:横浜地裁 S.51.10.22 判・S51(手ワ)232 号
民集 36-3-511
[最高裁三小 S.57.9.28 判*]S55(オ)188 号・損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 423 条、商法 629 条、民訴法 226 条
交通事故の被害者が加害者に対する損害賠償請求訴訟と併合して保険会社に対し加害者に代
位して提起した自動車保険普通保険約款に基づく保険金請求訴訟の許否 ― 自動車保険普通
保険約款に、加害者の保険会社に対する保険金請求権は、加害者と被害者との間で損害賠償額が
確定したときに発生し、これを行使することができる旨の規定があっても、被害者が加害者に対
する損害賠償請求と保険会社に対し加害者に代位してする保険金請求とを併合して訴求している
場合には、右保険金請求訴訟は、将来の給付の訴えとして許される。
民集 36-8-1652 判時 1055-3 判タ 478-171
天野弘・民商 89-1-87
藤村和夫・別冊ジュリ 202-68
原審:東京高裁 S.54.11.28 判・S53(ネ)3000 号
民集 36-8-1671 交民集 12-6-1477
一審:東京地裁 S.53.11.30 判・S52(ワ)6125 号
民集 36-8-1658 判時 924-115
[最高裁三小 S.57.10.19 判*]S55(オ)1061 号・リース料請求事件(破棄差戻)
民法 601 条
一、 いわゆるファイナンス・リース契約においてリース業者が利用者の債務不履行を原因と
してリース期間の途中でリース物件の返還を受けた場合と返還によって取得した利益の清算
の必要 ― いわゆるファイナンス・リース契約において、リース業者がリース期間の途中
でリース物件の返還を受けた場合には、その原因が利用者の債務不履行にあるときでも、リース
業者は、特段の事情のない限り、右返還によって取得した利益を清算する必要がある。「けだし、
右リース契約においては、リース業者は、利用者の債務不履行を原因としてリース物件の返還を
受けたときでも、リース期間全部についてのリース料債権を失うものではないから、右リース料
債権の支払を受けるほかに、リース物件の途中返還による利益をも取得し得るものとすることは、
リース契約が約定どおりの期間存続して満了した場合と比較して過大な利益を取得し得ることに
なり、公平の原則に照らし妥当ではないからである。
」
二、いわゆるファイナンス・リース契約においてリース期間の途中でリース物件の返還を受け
たリース業者が返還によって取得した利益を清算すべき場合と右利益の算定基準 ― いわゆ
るファイナンス・リース契約において、リース期間の途中でリース物件の返還を受けたリース業
者が返還によって取得した利益を清算すべき場合にその対象となるのは、リース物件が返還時に
おいて有した価値と本来のリース期間の満了時において有すべき残存価値との差額であって、返
還時からリース期間の満了時までの利用価値ではない。
民集 36-10-2130 判時 1061-29 判タ 483-69
田邊宏康・別冊ジュリ 194-156
道垣内弘人・法協 101-5-108
原審:名古屋高裁 S.55.7.17 判・S54(ネ)396 号 民集 36-10-2156 判時 990-301 判タ 433-146
金判 613-32 & 661-12 金法 961-32
一審:名古屋地裁 S.54.6.27 判・S52(ワ)922 号
民集 36-10-2149
*田邊評釈:本判決は、ファイナンス・リース契約においてリース業者がリース期間の途中で利
用者からリヘス物件の返還を受けた場合に返還によって取得した利益を清算する必要があると
104
解した初めての最高裁判決である。判旨の「特段の事情」としては、清算価額が大きくない場
合のほか、リヘス業者に清算義務を課さない特約が存在する場合があろう。後者の場合には、
物件に汎用性が無い場合が多いこと及びリース契約が通常その交渉力に格差のない商人間の契
約であることを考慮すると、本判決の射程は、清算についての特約がないケースで且つ、契約
が解除されていたケースおよびリース業者が強制的に物件を引揚げたケースにも及ぶとものと
解される。
*古田:企業の機械設備等の調達方法としてのリースに多く用いられているものにフルペイアウ
ト方式によるファイナンス・リースがある。このリース契約では、特定の機械・設備を調達し
ようとする賃借人に対して、リース期間中にリース業者が「設備購入原価+購入資金借入支払
金利+適正利潤」の合計額を回収し得るようリース料金が算定されている。そして、①リース
期間中に賃借人側で物件が不要または陳腐化しても賃借人の都合で確約できず、②リース業者
の都合での契約解除はできない、③リース物件の所有権はリース業者にあり賃借人には移転し
ない(借主が特定した物件を売主から購入したリース業者は、所有権留保で借主に対する債権の担
保を確保していることになる。)
、④物件の修繕・保守義務は賃借人が負う、⑤リース業者は物件
の滅失・毀損の危険負担および瑕疵担保責任を負わない、等の約定が設けられている。
ファイナンス・リースの大きなメリツトの一つは節税目的であるが(リース料全額が税法上の
損金となる。自己資金購入であれば損金額は減価償却費のみ、借入資金での購入であれば更に支払
金利も税法上の損金となるにとどまる。)
、物件の法定耐用年数に比して極端に短いリース期間を
設定して不当に税負担を逃れることを防止する通達「リース取引に係る法人税及び所得税の取
扱について」が S.53 に国税庁長官により発せられ、その後も H.19 に定められた「リース取引
に関する会計基準」で貸借対照表に計上すべき基準が定められ、節税効果は従前よりも抑えら
れている。詳しくは、江頭憲次郎・商取引法 6 版-201~216 の「ファイナンス・リース」参照。
[最高裁二小 S.57.11.26 判*] S55(オ)1121 号 損害賠償請求事件(破棄差戻)
自賠法 3 条
自己所有の自動車の運転を友人に委ねて同乗中友人の惹起した事故により死亡した者が友人と
の関係において自動車損害賠償保障法 3 条の他人にあたらないとされた事例 ― 自動車の所
有者が、友人にその運転を委ねて同乗中、友人の惹起した事故により死亡した場合において、所
有者がある程度友人自身の判断で運行することを許していたときでも、友人が所有者の運行支配
に服さずその指示を守らなかった等の特段の事情があるのでない限り、所有者は、友人に対する
関係において自動車損害賠償保障法 3 条の他人にあたらない。
民集 36-11-2318
判時 1061-36 判タ 485-65 金判 665-19 交民集 15-6-1423
浅生重機・ジュリ 785-68 & 最判解民事編 S57 年度-879
伊藤高義・S57 重要判ジュリ 792-82 田上富信・判例評論 294-22
中田裕康・法協 101-12-142 伊藤文夫・別冊ジュリ 152-62
原審:東京高裁 S.55.9.4 判・S54(ネ)197 号
民集 36-11-2349 判時 980-64
判タ 430-132 金判 624-23 交民集 13-5-1126
一審:東京地裁 S.54.1.25 判・S50(ワ)3400 号他
民集 36-11-2341 判タ 387-119
交民集 12-1-84
*:
[最高裁二小 H.11.7.16 判]の末尾の評釈参照。
[東京地裁 S.58.3.3 判*]S56(ワ)10103 号・売掛代金請求事件(容認・控訴)
民法 415 条・533 条・555 条
不安の抗弁 ― 商品の継続的取引において、買主に信用不安があるため売主が先履行すべき商
品の納入を控えた場合につき、債務不履行の責任を負わないとされた事例
― 「継続的売買
契約の成立後、買主の代金支払い能力が著しく低下し、売主においてその契約に従って目的物を
105
供給していては、その代金回収を実現できない事由があり、且つ、後履行の買主の代金支払を確
保するため、売主が担保の提供を求めるなど売主側の不安を払拭するための措置をとるべきこと
を求めたにも拘らず、それが買主により拒否されている場合には、右代金回収の不安が解消すべ
き事由のない限り、先履行たる目的物の供給について約定の履行期を渡過したとしても、右売主
の履行遅滞には違法性はないものと解するのが公平の原則に照らし相当である。
」
判時 1087-101
内田勝一・ジュリ 812-122
*:本件は不安の抗弁を是認した判決例である。同抗弁については、
[東京地裁 H.9.8.29 判*]
の末尾の「*古田」を参照。
[最高裁一小 S.58.3.24 判*]
S54(オ)412 号 配当異議事件(上告棄却)
船舶法 35 条、商法 842 条 6 号
遠洋まぐろ漁船につき本邦を出港し 1 年有余の漁獲の後帰港するまでの全航海が、商法 842 条
6 号所定の船舶先取特権の債権の対象となる「航海」に当るとされた事例 ―本件第二共進丸の
抵当権者である上告人貸金業者の競売による配当異議につき、
「原審の適法に確定した事実関係の
もとにおいて、本件第二共進丸が本邦を出港し、漁獲に従事し、再び本邦に帰港するまでの間の
全航海を継続するために必要とした燃料油、機械油、部品等の補給等に要した諸経費の立替金債
権である被上告人(同漁船所属の漁業協同組合)の配当要求債権をもって商法 842 条 6 号に定める
『航海継続の必要によって生じた債権』に該当するものとし、これにつき先取特権を肯定した原
審の判断は、正当として是認することができる。
」と判示。
集民 138-333
判時 1077-126
落合誠一・民商 89-6-69
坂田十四八・海運 673-106
原審:東京高裁 S53.12.19 判・S53(ネ)73 号
判時 921-119 金判 576-38 判タ 383-114
中田明・ジュリ 760-152 (E-①-57)
一審:静岡地裁 S.52.12.23 判・S50(ワ)247 号
[最高裁三小 S.58.4.19 判*]
S55(オ)148 号 損害賠償請求事件(上告棄却)
民法 709 条
土地売買契約の過程において当事者の一方が契約の成立を不可能にしたことが不法行為になる
とされた事例 ―土地売買契約の過程において、当事者が互いに契約条項をすべて諒解し、公
正証書の作成をもってすることとした契約締結の日を取決めるなどして、買主となる者が交渉の
結果に沿った契約の成立を期待し、買受代金の調達などの準備を進めるのが当然であるとみられ
るような段階に達した場合に、売主となる者がその責に帰すべき事由によって契約の締結を不可
能にすることは、特段の事情のない限り、不法行為となり、買主となる者は、買受代金にあてる
資金を借り受けたため金融機関に支払を余儀なくされた利息相当額の損害につき、売主となる者
に対し、その賠償を求めることができる。
集民 138-6111 判時 1082-47
石田喜久夫・民商 89-2-133
原審:東京高裁 S54.11.7 判・S52(ネ)1994 号 下民集 30-9~12-621 判時 951-50 判タ 408-106
金判 589-13
一審:東京地裁 S.52.7.28 判・S50(ワ)5096 号
*江頭憲次郎・商取引法 6 版-14:
「売買契約成立前の当事者の暫定的合意にいかなる法的効力が
認められるかは、交渉の進捗段階、取引の種類等に応じ一概にはいえないが、売買に関して約
定すべき事項につき両当事者間においてほぼ合意が成立し、後日確定的契約の締結を為す旨を
約した段階で一方当事者が契約の締結を拒否した場合につき、売買契約の成立は否定しながら、
相手方の契約締結の利益を侵害したことによる不法行為が成立する、または、当事者には相手
方の期待を侵害しないよう誠実に契約の締結に努めるべき信義則上の注意義務があったとして、
いわゆる信頼利益(相手方が契約履行の準備のために支出した費用等)につき損害賠償を認め
た判例がいくつかある。交渉打切の原因が相手方にある場合には、相手方に損害賠償責任が生
106
じることもある。
」
①信頼利益の賠償を認めなかった判例:
[東京地裁 H.18.2.13 判*]
。
②-1.契約成立に関する期待の侵害を判示した判例:本件判決、
[東京高裁 S.62.3.17 判*]、
東京高裁 H.6.2.1 判・H4 (ネ) 418・1165・判時 1490-87、
[最高裁三小 H.19.2.27 判*]。
② -2.損害賠償責任が否定された判例:
[東京地裁 S.61.5.30 判*]
、東京地裁 H.6.4.26 判・
H2(ワ)12884・H4 (ワ)5032 ・判時 1522-91、東京地裁 H.16.1.26 判・H14(ワ)20966・
H15(ワ)10544・判時 1847-123。
③ 交渉打切を余儀なくした当事者の責任を認めた判例:東京地裁 S.56.3.22 判・
S.54(ワ)2871・判時 1015-84.
[最高裁一小 S.58.6.30 判*]S56(オ)304 号・供託金還付同意請求事件(上告棄却)
民法 364 条 1 項・467 条
指名債権に対する質権設定を第三者に対抗し得る要件としての第三債務者に対する通知または
その承諾と質権者特定の要否(積極) ― その通知又は承諾は、具体的に特定された者に対す
る質権設定についてされることを要する。
民集 37-5-835 判時 1086-95
松井宏夫興・ジュリ 815-66
松岡久和・民商 91-2-123
曽野裕夫・北大法学論集 39-4-373
原審:東京高裁 S55.12.17 判・S54(ネ)2054 号
民集 37-5-845 判時 991-81
一審:東京地裁 S.54.8.15 判・S53(ワ)4513 号 民集 37-5-839 判時 951-76
岡孝・判例評論 261-11
[大阪地裁 S.58.8.12 判*] S54(ワ)8429 号 損害賠償請求事件(一部認容・控訴)
民法 709 条・722 条、商法 690 条・704 条・737 条・797 条
進宏丸・正栄丸衝突事件
一、刑事事件(業務上過失)で無罪となった船舶の衝突死亡事故につき、民事事件では過失あ
りと認められた事例
二、商法 690 条の責任を否定し、同法 704 条 1 項の責任を認めた事例
海法研 57-22
判タ 519-189
中村招朗・海運 674-108
[東京高裁 S.58.9.28 判*]S57(ネ)1105 号・約束手形金等請求控訴事件(取消・上告)
商法 509 条
銀行取引における保証人の脱退申込には、商法 509 条の規定は適用ないし類推適用されないと
された事例 ― 「銀行取引における保証人の脱退申込は、銀行と主債務者との間に継続的取引
関係があるからといって、その取引の申込とは異なり、承諾が当然に予想されるものではないこ
とが明らかであるから、右申込について商法 509 条の適用ないし類推して承諾の通知がない場合
にこれを承諾したものとみなす余地はないというべきであり、この判断は、通常と取扱を異にし
て、
」本件が、当該銀行と継続的な取引関係にある主債務者を介し当該銀行が、保証人脱退の申込
と同時に所定の脱退署名・押印のある「契約証書を受取ったという本件の特殊事情を考慮しても、
何らかわるものではない。
」
判時 1092-112
堀内仁・手形研究 28-5-66
一審:静岡地裁沼津支部 S.57.3.30 判・S55(ワ)528 号
*江頭憲次郎・商行為法 6 版-10:
「商法 509 条の承諾擬制の範囲は、規定を文言通りに解すると、
広すぎて相当でない。申込の内容が、条件等の点で合理的か否か等の要素を勘案し、申込に対
する沈黙が承諾を意味すると当然に予想される類型の取引にのみ、同条の適用は限定されるべ
きである。」 承諾擬制を否定した判決例には、本件の外にも、最高裁二小 S.28.10.9 判・
107
S.27(オ)604・民集 7-10-1072、 大審院 S.2.4.4 判・民集 6-125、 東京地裁 S.52.4.18 判・
S.50(ワ)393 号・判時 850-3 がある。
[東京地裁 S.58.12.19 判*]S54(ワ)1301 号 債務不存在確認等請求事件(棄却・確定)
民法 1 条・398 条の 2・415 条・555 条
不安の抗弁 ― 木材の継続的取引において、取引数量・代金額・品種・時期等を別途協議で定
める旨の供給合意が成立している場合につき、売主が個別的売買契約の締結を拒否したことが、
信義則上違法でないとされた事例
一、本件「供給合意は、一定の要件の下に最終的合意をすべき中間的合意と解するのが相当で
ある。
」
二、
「原告会社の資産、経営状態悪化という事態が次々と被告に判明していった状況の下におい
て、
」原告会社との間で個別的売買契約を締結して引渡しても「その売買代金の支払いが確実に履
行されることを期待できないと被告が考えるに至ったことは、無理からぬことであり、原告会社
と被告との従来からの密接な関係を考慮しても、被告が原告会社と個別的売買契約を締結しなか
ったことは、信義則上やむを得ない措置であったと認めることができる。
」
被告が原告に木材の供給をしていたならば原告は倒産しなかったとしての原告の被告に対する
木材引渡義務不履行による損害賠償請求を却下。
判時 1128-64
*本件は不安の抗弁を是認した判決例である。同抗弁については、[東京地裁 H.9.8.29 判*]の
末尾の「*古田」を参照。
[最高裁一小 S.59.2.2 判*]S56(オ)927 号 供託金還付請求権存在確認請求本訴、
同反訴請求事件(原判決破棄・一審判決取消・自判)
民法 304 条 1 項但書・321 条、破産法 92 条(現 2 条 9・10 項)
債務者が破産宣告を受けた場合と先取特権者の物上代位(積極) ― 先取特権者は、債務者が
破産宣告を受けた場合であっても、目的債権(債務者の転売代金債権)を差押えて物上代位権を
行使することができる。
民集 38-3-431 判時 1113-65 判タ 525-99 金法 1056-44
生熊長幸・民商 92-2-86
伊藤進・S.59 重要判ジュリ 838-74
坂田宏・別冊ジュリ 184-110
原審:東京高裁 S56.6.25 判・S55(ネ)2791 号 民集 38-3-444 金判 695-6
一審:東京地裁 S.55.11.14 判・S54(ワ)9102 号
*[最高裁二小 S60.7.19 判*]の江頭解説参照。
[最高裁三小 S.59.3.27 判*]
S57(オ)859 号 配当異議事件(上告棄却)
商法 842 条 6 号・849 条
船舶先取特権を生ずる債権 ― 本邦を出港し本邦に帰港するまでの航行の遠洋鮪漁船に補給さ
れた燃料油や食料等の代金債権がわが国において船舶所有者が締結した契約に基づいて生じたも
のである場合に、右債権が商法 842 条 6 号所定の船舶先取特権の債権にあたるとされた。
集民 141-435 判時 1116-133 判タ 527-99 金法 1062-38 金判 697-13 海法研 61-29
商判集三-391
村田治美・民商 91-4-119 中田明・ジュリ 842-183 (E-①-83)
小島孝・別冊ジュリ 121-146 清水恵介・早稲田法学 89-2-69
原審:東京高裁 S57.3.4 判・S56(ネ)219 号
判時 1044-431
坂田十四八・海運 662-84
一審:静岡地裁 S.56.1.20 判・S52(ワ)457 号
108
[最高裁一小 S.59.3.29 判*]
S57(オ)491 号 約束手形金請求事件(一部破棄差戻・
商法 24 条・手形法 8 条
一部破棄自判)
表見支配人の相手方である第三者 ―商法 42 条 2 項(現会社法 13 条)にいう相手方等いわゆる
表見代理が成立し得る第三者は、当該取引の直接の相手方に限られるものであり、手形行為の場
合には、この直接の相手方は、手形上の記載によって形式的に判断されるべきものではなく、実
質的な取引の相手方をいうものと解すべきである。
集民 141-481 判時 1135-125 判タ 544-125 金判 709-3
小橋一郎・民商 91-3-104
柴崎暁・別冊ジュリ 194-58
原審:福岡高裁 S.57.1.20 判・S56(ネ)204 号
判時 1049-129
[最高裁三小 S.59.4.24 判*]
S57(オ)727 号 請求異議事件(上告棄却)
民法 147 条、民事執行法 2 条・122 条 1 項
動産執行による時効中断の効力期発生時期 ― 「民事執行法 122 条にいう動産執行による金銭
債権についての消滅時効の中断の効力は、債権者が執行官に対し当該金銭債権について動産執行
の申立をした時に生ずるものと解するのが相当。
」
民集 38-6-687 判時 1116-58 判タ 526-138
河村好彦・法学研究(慶大)58-6-93
石川明・民商 92-4-95
勅使川原和彦・別冊ジュリ 177-120
原審:東京高裁 S57.4.8 判・S.56(ネ)2923 号
民集 38-6-694 判時 1045-89
一審:長野地裁上田支部 S.56.11.16 判・S56(ワ)106 号 民集 38-6-693 金判 696-7
[福岡高裁 S.59.6.6 判*] S57(ネ)251 号 損害賠償請求事件(一部変更・上告)
商法 705 条、民法 715 条 3 項
総トン数 120 トンの船舶(内航船)を沈没させた船長に対する船主からの損害賠償請求
1. 砂利運送船で生コンをばら積運搬し浸水により沈船させた船長の過失が認められた事例
― 「控訴人は、船長として、本件船舶の航海の安全を図るべき注意義務があるところ、生
コンはその性質上柔らかく多量の水を含み、これを船倉にバラ積みして輸送する場合、船体の動
揺で生コンが片寄り大きく船体を傾斜させ、その結果船体内に浸水して沈没するなどの危険があ
るのであるから、船主に対して、船倉に荷止め板を取り付けるよう進言してこれを取り付けた後
に生コンを積込むべき注意義務があったのに、これを怠り荷止め板の取付のない船倉内に帆布を
敷いたのみで生コンの積込をさせて航行した過失によって本件船舶を沈没させるに至らしめたも
のと云うべきである。
」
2.右船長に対する使用者の損害賠償請求が 2 割に制限された事例 ― 本件沈没事故は、控訴
人(船長)が被控訴人会社(船主)の「従業員としてその業務の遂行中に惹起した事故であるか
ら、被控訴人の控訴人に対する本件損害賠償請求は、被控訴人会社の事業の性格、規模、施設の
状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損
失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見
地から信義則上相当と認められる限度に制限されるものと解すべきところ、
・・・控訴人が被控訴
人会社から支給を受けていた給与は、月額 17 万 5 千円に過ぎず、同一船舶に乗組むクレーン士の
給与額より低額であったこと、平素の勤務状態に格別問題があった形跡は認められないこと、本
件船舶には生コン運搬に必要な荷止め板の設備がもともとなかったことその他の諸般の事情を斟
酌すれば、控訴人が被控訴人会社に対して負うべき損害賠償義務は、前記残存損害額の二割の限
度である金 83 万 3,076 円が相当である。
」
被控訴会社が保険金で填補された損害の残額の二
割の額の賠償義務を判示した。
判時 1139-121
山田泰彦・海運 697-116
一審:福岡地裁 S57.4.7 判・S52(ワ)1399 号
交通民集 18-1-5
109
[福岡地裁 S.59.6.29 判*]S56(ワ)1980 号・約束手形金請求事件(手形判決一部変更)
民法 715 条・505 条・509 条
内部整理の発表にもとづき債権者(手形金請求原告)が強引に商品を引揚げた行為が、取引上
の債権の確保ないし回収の手段、権利行使、自力救済行為としては、社会通念上許容された限
度を超えるものとして、不法行為を構成するとされた事例 – 「昭和 55 年 7 月 16・17 日の両
日、原告の従業員らが、内整理を発表した被告久留米店から別紙目録(一)記載の各商品を持ち
去った行為は、それ自体被告側の意に反し、被告従業員らの制止を振り切って行われていること
や、持ち去った商品も原告側の売掛商品が多いとはいえ、被告が原告以外から仕入れたものも混
在していること、原告自身これらの商品を返品扱いとせず、半値程度で新規購入の経理処理をし
ていること等を併せ考え、取引上の債権確保ないし回収の手段、或は権利行使、自力救済などし
て、社会通念上許された程度を超えるものであり、不法行為を構成すると解すべく、原告は民法
715 条 1 項本文によりそのため被告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
」と判示。その損害額
をこれら各商品の被告の仕切価格及び不法行為時から完済に至るまで民法所定の年 5 分の割合に
よる請求権があることを認め、被告の相殺の意思表示により、相殺適状にある同金額を差引いた
額で手形金支払を判決。
判タ 533-192
野口恵三・NBL323-44
*[最高裁一小 S.41.4.14 判*]の江頭解説参照。
[大阪地裁 S.59.9.27 判*]S56(ワ)522 号買代金請求本訴(容認)・2028 号売買代金返還請
民法 183 条・184 条・
反訴(棄却)
・2614 号約束手形金請求(認可・控訴)
182 条 2 項・555 条・541 条・533 条 1 項 2 号
一、環状型つけ取引における目的物引渡完了の要件 ― 売主から買主に対し目的物の現実の引
渡がされず、占有改定により、以前の売主が買主の占有代理人として占有しており、買主から目
的物を受領した旨の意思表示が中間者になされた場合、目的物の引渡の要件を充たしたことにな
る。これは、中間者が間に複数人いたとしても、各中間者は、最終買主の目的物受領の意思表示
さえ受ければ、自己につき引渡の要件を充たしたことになる。
二、環状型つけ取引において後の中間者が目的物引渡欠缺を理由に先の中間者との売買契約を
解除すること及び代金支払請求につき引渡との同時履行を主張することが信義則に反し許さ
れないとされた事例 ― 本件各取引の過程に於いて中間者間で目的物の現実の受渡をする
ことなど全く予定せず、買主の受領書による目的物の受領の確認によって本件各取引に伴う目的
物の移動(占有移転)は全て完了するものと看做していたものであるということができるから、
「今更、既に買主によって受領が確認されている本件各取引の目的物について、中間者間でその
引渡がなかったことを理由として本件各契約の解除を主張し、あるいは売買代金支払いにつき引
渡との同時履行を主張することは、信義則に反し許されないというべきである。
」
判時 1174-105
金判 730-16
*:
[大阪高裁 H.16.3.25 判*]の評釈参照。
[東京高裁 S.59.10.1 判*] S57(ネ)468 号 損害賠償請求事件
憲法 29 条・81 条、船主責任制限法 3 条(改正前)
船主責任制限法の責任限度額が低額に過ぎるとして国に損失補償を求め棄却された事例
海法研 72-35 判時 1138-55 判タ 540-314
一審:東京地裁 S57.2.18 判・S55(ワ)1089 号
判時 474-147
*S.57 年法律 54 号により船主責任制限法の責任限度額が引き上げられている。
110
[東京地裁 S.59.12.25 判*] S52(ワ)5201 号・損害賠償請求事件(棄却)
国海法 3 条 1 項・5 条 1.項・4 条 2 項 9 号
運送品(パイナップルの苗)の腐敗損害につき、被告は通常尽くすべき注意を尽くしており、
運送品の特殊な性質により通常生ずべきものであるとして、運送人の注意義務違反はないとさ
れ、請求棄却
海法研 65-26
[最高裁一小 S.60.2.14 判*]
S59(オ)467 号 否認権行使請求事件(破棄差戻)
旧破産法 74 条(現行破産法 164 条)
破産法 74 条 1 項にいう「支払の停止」があったとは言えないとされた事例 ― 「破産法 74 条
1 項の「支払の停止」とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考え
てその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解すべきところ、債務者が債務
整理の方法等について債務者から相談を受けた弁護士との間で破産申立の方針を決めただけでは、
他に特段の事情のない限り、いまだ内部的に支払停止の方針を決めたにとどまり、債務の支払を
することができない旨を外部に表示する行為をしたとすることはできないと言うべきである。
」
集民 144-109 判時 1149-159 判タ 553-150 金判 718-14 金法 1100-82
西澤宗英・民商 93-1-120
日比野泰久・別冊ジュリ 184-48
原審:大阪高裁 S59.1.25 判・S57(ネ)2377 号
一審:大阪地裁 S.57.11.30 判・S57(ワ)1962 号
*:
[最高裁二小 H.24.10.19 判*]と同所の加瀬野評釈を参照。
[大阪地裁 S.60.3.18 判*]S57(ワ)4088 号 売買代金返還等請求事件(棄却・控訴)
商法 526 条 1 項
「小エビ」の売買における瑕疵の通知が商法 526 条所定の適時性を欠くとされた事例 ―本件
は原告が被告から多数回にわたってふりかけの原料として購入した「小エビ」のいずれにも砂が
混入していることによる売買代金全額の返還請求である。ところで「本件売買は、原・被告が商
人であるから、商人間の売買であるところ、本件えびを買受けた原告は 1 ケースのみを砂を含ん
でいるとの理由をもってこれを被告に返還したのみに過ぎず、他のえびについては、瑕疵の有無
につき最終の受領日である S56.5.21 以降遅滞なく検査し、ただちに被告に対して瑕疵ある旨の通
知をしていなかったとものということができる。
」 「本件えびに付着している砂選別、即ち、取
除くことが不可能なものであるけれども、これをもって直ちに発見することができない瑕疵があ
ったものということはできない。
」
判時 1161-188
*:商法 526 条の「遅滞なく」
「通知」
「隠れた瑕疵」の法意を説示した判決例については、
[最高
裁三小 H.4.10.20 判]の末尾の注を、その他この制度の買主の通知義務の本質的問題点につい
ては[最高裁三小 S.47.1.25 判]の末尾の注を参照。
[東京地裁 S.60.3.18 判*]S53(ワ)8909 号&56(ワ)1015 号 建物等収去土地
借地法 9 条
明渡請求事件(認容・控訴)
約 15 年間にわたり 12 回も一時使用の土地賃貸借契約が更新され且つ土地の一部に居住用建物
が設置されていても、一時使用のための土地賃貸借であると認められた事例 ― 「原告らと被
告会社との間の本件賃貸借は、一時使用の目的のものであることを維持しているものというべき
であり、少なくとも、契約開始間もなくのころから明示の契約内容に違反して、
(登記をせぬまま、
固定資産税も支払っていない状態の簡易なものではあるが)居住用建物を建設し、原告ら側の好
意的あるいはうかつな態度によって、それに対して特段の異議も述べられなかったことを奇貨と
して、借地法の適用のある建物所有を目的とする賃貸借であると主張することは、信義則上許さ
111
れないというべきである。 そこで、本件賃貸借は、最終更新時に定めた期限満了の日である
S53.2.末日限り、期間満了により終了したものと解するのが相当である。
」
判時 1168-87
[大阪高裁 S.60.4.15 決定*] S58(ラ)339 号 責任制限手続開始決定に対する
改正前船主責任制限法 7 条 1 項・25 条 2 号
即時抗告申立事件(取消・抗告)
二艘の曳船が独航能力のないバージを縦列に曳航中に発生した右バージの衝突事故における船
舶所有者等・船長等の責任限度額は、右三艘について個別に算出した責任限度額の和である。
判時 1163-139
小林登・ジュリ 941-125(E-②-2)
原茂太一・判例評論 325-38
一審:神戸地裁 S58.8.22 決定・S58(船)1号
*:上記両評釈は、本件判示に疑問を呈し、ないし反対されている。
[最高裁二小 S.60.7.19 判*]S58(オ)1548 号・配当異議事件(破棄自判)
民法 304 条 1 項但書、民事執行法 90 条・143 条・156 条 2 項・159 条 3 項・178 条
一 先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押
の執行をした後の先取特権者による物上代位権の行使 ― 一般債権者が差押又は仮差押の
執行をしたに過ぎないときは、その後に先取特権者が右債権に対し物上代位権を行使することを
妨げない。
二 優先権を有する債権者の得た転付命令が第三債務者に送達される時までに転付命令に係る
金銭債権について他の債権者が差押、仮差押の執行又は配当要求をした場合における転付命
令の効力 ― 転付命令を得た債権者が優先権を有するときは、転付命令はその効力を生じる。
三 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者が民事執行法 156 条 2 項
に基づいてした供託の効力 ― 同供託は、転付命令が効力を生じているため法律上差押の競合
があるとはいえない場合であっても、第三債務者に転付命令の効力の有無についての的確な判断
を期待し得ない事情があるときは、同項の類推適用により有効である。
四 差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第三債務者のした供託に基づき転
付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成された場合と効力の生じた転付命
令を得た債権者の不服申立方法 ―差押命令の送達と転付命令の送達とを競合して受けた第
三債務者のした供託が民事執行法 156 条 2 項の類推適用により有効である場合において、右供託
金について転付命令が効力を生じないとの解釈のもとに配当表が作成されたときは、効力の生じ
た転付命令を得た債権者は、配当期日における配当異議の申出さらには配当異議の訴えにより転
付命令に係る債権につき優先配当を主張して配当表の変更を求めることができる。
民集 39-5-1326 判時 1168-60 判タ 571-68
住吉博・民商 94-5-75
和田吉弘・法協 107-1-150
宗田親彦/櫻本正樹・法学研究(慶大)61-10-135
道垣内弘人・別冊ジュリ 195-166
高田裕成・別冊ジュリ 208-160
原審:大阪高裁 S.58.10.12 判・S58(ネ)1079
民集 39-5-1349
一審:大阪地裁 S.58.5.12 判・S57(ワ)9170 号 民集 39-5-1342
*江頭憲次郎・商取引法 6 版-42:売主が物上代位権を行使するためには、転売代金債権が支払わ
れる前に売主が右債権を差押えることを要するとされているが(民法 304 条 1 項但書)、この規
定の趣旨は、当該債権の特定性を保持すること、および、第三債務者または当該債権の譲受人の
損害を防止することにあると解される。従って、売主による差押前に買主の一般債権者が当該債
権に対し差押の執行をしたに過ぎない場合(本件最高裁判決)
、または買主が破産手続開始の決
定を受けたに過ぎない場合[最高裁一小 S.59.2.2 判*]には、売主が動産売買の先取特権に基
づく物上代位権を行使して優先弁済を主張することは妨げられない。
競合する差押債権者がある場合には、売主は、他の債権者の差押事件の配当要求の終期までに
担保債権の存在を証する文書を提出して先取特権行使の申出をしなければ優先弁済を受けるこ
112
とができない
[最高裁一小 S.62.4.2 判*]
・最高裁三小 H.5.3.30 判:S.63(オ)1453(民集 47-4-3300)。
また、転売代金債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が供えられた後は、売主は、当該債権
を差押えて物上代位権を行使することはできない[最高裁三小 H.17.2.22 判*]
。
なお、物上代位権行使の差押命令の発令前に買主につき会社更生手続開始の決定があったと
きは、執行裁判所は、債権差押命令を発付することはできない[東京高裁 H.10.7.10 決定*]。
[東京高裁 S.60.10.30 判*] S60(ツ)7 号 請求異議請求上告事件(上告棄却・確定)
借家法 8 条、借地借家法 39 条
一時使用のための建物の賃貸借契約が締結され、その後賃貸借の期間が事実上延長を重ね、
その間の家賃の改定も行われ、結果的には約 28 年間という長期間を経過した場合につき、
該賃貸借は依然として一時使用のためのものであって通常の賃貸借に変容したとはいえないと
された事例 ― 賃貸する建物の敷地に賃貸人はビルヂングの建築計画を有しており、S31.7.9
に即決和解で、一時使用のための建物の賃貸借契約が賃貸借の期限を S35.10.末日とし、同日で終
了するが、ビル建築の予定が延期されればその期間だけ延長され、期間満了後は賃借建物を明渡
す旨の一時使用を目的とする契約がなされ、和解調書に作成された。その間家賃の改定も行われ
28 年間にも及んだが、賃貸人の計画実施による明渡請求に、本件が依然一時使用の契約であるこ
とを認定。
判時 1172-66
原審:東京地裁 S.59.10.31 判・S57(レ)169 号
一審:東京簡裁 S.57.7.30 判・S55(ハ)793 号
[最高裁二小 S.61.4.11 判*] S57(オ)272 号 運送代金請求事件(破棄自判)
民法 467 条・478 条
債権の準占有者への弁済
一、 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁
済と民法 478 条の適用 ― 指名債権が二重に譲渡された場合に、民法 467 条 2 項所定の対
抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済についても、同法 478 条の適用がある。
二、 二重に譲渡された指名債権の債務者が対抗要件を後れて具備した譲受人に対してした弁
済について過失がないというための要件 ― 二重に譲渡された指名債権の債務者が民法
467 条 2 項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信じてした弁済につい
て過失がないというためには、対抗要件を先に具備した譲受人の債権譲受又は対抗要件に瑕疵が
あるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど対抗要件を後れて具備し
た譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることを要する。
民集 40-3-558 判時 1200-61 判タ 609-41
伊藤敏孝・法学研究(慶大)60-9-114
本田純一・別冊ジュリ 196-74
下森定・S.61 重要判ジュリ 887-74
藤原弘道・民商 95-6-111
池田真朗・判例評論 340-34
吉田邦彦・北大法学論集 38-4-373
大坪稔・鹿児島大法学論集 23-1・2-233
原審:名古屋高裁 S.56.12.22 判・S56(ネ)142 号
民集 40-3-578
一審:名古屋地裁豊橋支部 S.56.2.24 判・S55(ワ)178 号
民集 40-3-575
*:
[最高裁三小 S.37.8.21 判*]の末尾の注記も参照。
[東京地裁 S.61.4.25 判*] S59(ワ)8758 号 荷役通関料金等請求事件
S60(ワ)6405 号 損害賠償請求反訴事件
一、荷揚港における腐敗性撤積貨物の荷役、通関、選別等に関する契約中の手数料支払い条件
の解釈(本訴)
二、貨物の腐敗損害の負担者(反訴)
113
― 原告 T 海運は被告輸入業者より、本件業務を期限を定めずに倉庫の確保等にできるだ
け努力することとして引受け、作業の条件が良ければ同年 5 月の連休明に引渡せるであろうとの
見通を述べたに過ぎないこと、当初の植物検疫で可也品質の傷みが確認されたこと、品質の傷み
により作業を要したこと、原告 T の努力にもかかわらず、燻蒸庫不足のためその確保作業に手間
取ったこと、これらの不慮の事態により狭い屋内で選別作業をせざるを得なかったこと等を事実
として認定する。この認定に照らせば、原告はできるだけのことをしており、作業の遅滞の責任
は原告にはない。原告の料金等請求を認容し、被告の反訴請求を棄却。
海法研 85-43
[東京地裁 S.61.5.30 判*] S55(ワ)1548 号 損害賠償請求事件(請求棄却)
民法 555 条、法例 7 条
建造中の船舶につき、その代金額、引渡時期及び代金決済方法についての合意が成立したが、、
留保条件があったために売買契約は成立していないとされた事例 ― 売買交渉当事者間には、
「本件船舶について、売買契約の要素である特定の財産権の移転とその代金について合意が成立
したことになる。 一般に売買契約の要素とされている右事項について当事者間に合意が成立す
れば、右の事項以外の一般的には付随事項と解されているものについても、特にその重要性を認
めこれを売買契約成立の要件とすることができる。そして、この場合には、これらの付随的事項
についても合意が成立しない限り、売買契約が成立したものとすることは出来ない。
」
判時 1234-100 海法研 74-39
弥永真生・ジュリ 971-307
長谷川俊明・国際商事法務 16-4-330
[最高裁二小 S.61.7.18 判*]S59(オ)1453 号 約束手形金請求事件(上告棄却)
手形法 16 条 1 項・77 条 1 項 1 号
手形の被裏書人の記載の抹消と裏書の効力(白地式裏書説) ―「 約束手形の裏書欄の記載事
項のうち被裏書人欄の記載のみが抹消された場合、当該裏書は、手形法 77 条 1 項 1 号において
準用する同法 16 条 1 項の裏書の連続の関係においては、所持人において右抹消が権限のある者に
よってされたことを証明するまでもなく、白地式裏書となると解するのが相当である。けだし、
被裏書人欄の記載が抹消されたことにより、当該裏書は被裏書人の記載のみをないものとして白
地式裏書となると解するのが合理的であり、かつ、取引通念に照らしても相当であり、ひいては
手形の流通の保護にも資することになるからである。
民集 40-5-977 判時 1213-134 判タ 623-76 金判 757-3
弥永真生・法協 105-4-128
早川徹・民商 97-6-118
西島梅冶・S61 重要判ジュリ 887-107
坂口光男・別冊ジュリ 173-112 田邊光政・金法 1581-56
原審:大阪高裁 S.59.9.19 判・S59(ネ)380 号 民集 40-5-986 高民集 37-3-212 判時 1152-163
弥永真生・ジュリ 902-109
一審:神戸地裁 S.59.2.13 判・S55(手ワ)328 号 民集 40-5-980
*古田:B/L の場合には、商法 519 条 1 項により小切手法 19 条が準用されるが、同条は手形法
16 条 1 項と同旨であるから、本判決例は B/L の場合でも同旨となる。
[最高裁二小 S.62.2.20 判**] S60(オ)1365 号・保険金請求事件(上告棄却)
商法 658 条(現保険法 14 条)
損害保険約款所定の事故通知義務の懈怠の効果 ― 自家用自動車保険の保険契約者又は被保険
者が保険者に対してすべき対人事故の通知を懈怠したときには保険者は原則として事故に係る損
害を填補しない旨の普通保険約款の規定は、当該対人事故の通知義務の懈怠につき約款所定の例
外的事由がない場合でも、保険契約者又は被保険者が保険金の詐取等保険契約上における信義誠
114
実の原則上許されない目的のもとに通知を懈怠したときを除き、保険者において填補責任を免れ
うるのは通知を受けなかったため取得することのあるべき損害賠償請求権の限度においてである
ことを定めたものと解すべきである。
民集 41-1-159 判時 1227-134 判タ 633-248
洲崎博史・民商 97-5-82
石山卓磨・別冊ジュリ 202-32
原審:仙台高裁 S.60.7.19 判・S.58(ネ)457 号
民集 41-1-184 交通民集 20-1-60
一審:仙台地裁 S.58.10.14 判・S56(ワ)1535 号
民集 41-1-175 交通民集 20-1-53
[東京高裁 S.62.3.17 判*]S60(ネ)2126・2223 号損害賠償請求各控訴事件(一部変更・上告
民法 1 条 2 項・709 条
→上告棄却)
暫定的合意の効力 ― 契約書の基本的案文が作成され、契約締結・代金支払の各期限も決まる
など、契約準備段階にあった契約当事者に、契約締結を中止したことについて、これを正当視
すべき特段の事情がないとして、不法行為が成立するとされた事例 ― 「信義誠実の原則は、
現代においては、契約関係を支配するにとどまらず、すべての私法関係を支配する理念であり、
契約成立後においてのみならず、契約締結に至る準備段階においても妥当するものと解すべきで
あり、当事者間において契約締結の準備が進捗し、相手方において契約の成立が確実なものと期
待するに至った場合には、その一方の当事者としては相手方の右期待を侵害しないよう誠実に契
約の成立に努めるべき信義則上の義務があるものというべきであって、一方の当事者が右義務に
違反して相手方との契約の締結を不可能ならしめた場合には、特段の事情がない限り、相手方に
対する違法行為として相手方の被った損害につきその賠償の責を負うべきものと解するのが相当
である(
[最高裁三小 S.58.4.19 判*]参照)。」
判時 1232-110 判タ 632-155 金判 775-22 池田清治・別冊ジュリ 194-110
一審:東京地裁 S.60.7.30 判・S54(ワ)7582 号
判時 1170-95 判タ 561-111
田中徹・S60 重要判ジュリ 862-263
*:上告審判示要旨:
「上告人の契約準備段階における信義則上の義務違反を理由とする不法行為
に基づく損害賠償請求を容認した原審の判断は、正当として是認することができる。
」
最高裁一小 H2.7.5 判・S62(オ)870 号・上告棄却
集民 160-187
*[最高裁三小 S.58.4.19 判*]の江頭教授の指摘参照。
[東京高裁 S.62.3.30 判*]S61(ネ)3445 号・売掛金請求控訴事件(控訴棄却・確定)
民法 1 条 2 項・415 条・533 条
不安の抗弁 ― 継続的売買契約を締結していた売主が、ある時期以後の出荷を停止したことに
ついて、正当な事由があるとされた事例 ― 支払遅延が著しいが便宜を図ってきた売主も、買
主が単価訂正・値引の要求を持ち出したため、遂に我慢の限度を超え、便宜を図ろうとのこれま
での話を帳消しにし、買主控訴人との取引を停止するのやむなきに至ったことを是認。
判時 1236-75
一審:前橋地裁 S.61.11.10 判・S60(ワ)142 号
*本件は不安の抗弁を是認した判決例である。同抗弁については、[東京地裁 H.9.8.29 判*]の
末尾の「*古田」を参照。
[最高裁一小 S.62.4.2 判*]
S60(オ)232 号 配当意義事件(上告棄却)
民法 304 条、民事執行法 154 条・165 条
動産売買の先取特権者の物上代位 ―― 自ら強制執行によって目的債権を差押えた場合に優先
弁済を受ける方法 ― 「動産売買の先取特権に基づく物上代位権を有する債権者は、物上代位
の目的たる債権を自ら強制執行によって差押えた場合であっても、他に競合する差押債権者等が
115
あるときは、右強制執行の手続において、その配当要求の終期までに、担保権の存在を証する文
書を提出して先取特権に基づく配当要求又はこれに準ずる先取特権行使の申出をしなければ、優
先弁済を受けることができないと解するのが相当である。」
集民 150-575 判時 1248-61 判タ 645-162 金法 1168-26 山本弘・別冊ジュリ 194-116
畑瑞穂・ジュリ 987-113 (E-②-11)
原審:東京高裁.S.59.11.28 判・S59(ネ)962 号
判時 1138-78 判タ 548-148
一審:東京地裁 S.59.3.30 判・S57(ワ)15186 号
*[最高裁二小 S60.7.19 判*]の江頭解説参照。
[東京高裁 S.62.8.31 決定*]S62(ラ)439 号 売却許可決定に対する執行抗告申立事件
民事執行法 74 条・71 条 6 号
(抗告却下)
競売不動産につき、買受人において引受けるべき短期賃借権を有する者は、物件明細書に自己
の権利が記載されていなかったときでも、売却許可決定に対し執行抗告をすることができな
い:実体法上の権利は否定されないから ―「売却許可決定に対しては、その決定により自己
の権利を害されることを主張するときに限り執行抗告をすることができるとされているところ、
抗告人主張の賃借権が買受人において引受けるべきものであれば、たとえ物件明細書にその旨の
記載がなく、執行手続上は売却により消滅すべきものとして取扱われたとしても、実体上は売却
によって消滅することはないから、抗告人は本件売却許可決定に対して執行抗告をする利益を有
しないことは明らかである。 よって、本件執行抗告はその利益を欠くものとして不適法である
からこれを却下」する。
判時 1248-64
原敏雄・ジュリ 876-48~55 の 53 頁「物件明細書の記載の効力」
一審:浦和地裁 S.62.6.9 決定・S61(ケ)408 号
*原評釈:
「物件明細書の作成は、裁判ではなく、執行裁判所の執行処分であって、物件明細書に
示された判断には既判力、形成力がなく、またその記載には公信力もないから、本来存続すべ
き物上負担は、たとえ物件明細書に記載されていなくても存続すると言わざるを得ない。
」
[札幌高裁 S.62.9.30 決定*]S62(ラ)49 号・仮処分却下決定に対する抗告事件
民法 540 条
(一部変更)
特約店の責に帰すべきでない事由による特約店契約の解除(契約期間満了時の更新拒絶:継続
的商品(田植機)供給契約における「有効期間を 1 年間とする。期間満了 3 カ月前に当事者の
申出のない限り更に 1 カ年延長する」旨の条項の解釈について ― 「本件のような独占的販売
総代理店契約に於いて右のような定めがあるからといって、この一事によって右の期間満了によ
り当然契約が終了するものと解することは相当でなく、当事者の一方的告知により期間満了によ
って終了するかどうかは契約締結の経緯、その性質、終了によって受ける当事者の利害得失等、
事案の特質に即して考察しなければならない。」
・・・
「契約を存続させることが当事者にとって酷
であり、契約を終了させてもやむを得ないという事情がある場合には解約を告知し得る旨を定め
たものと解するのが相当である。
・・・未だ本件契約を終了させることを肯認するに足る止むを得
ない事由とは認めがたい。
」
判時 1258-76 判タ 667-145 金判 781-22
清水真希子・別冊ジュリ 194-124
一審:札幌地裁 S.62.9.4 決定・S62(ヨ)637 号
[大阪地裁 S.63.3.24 判**] S57(ワ)5632 号 損害賠償請求事件(一部認容・控訴後和解)
商法 510 条
商法 510 条の物品保管義務が認められた事例 ―― 商社間の取引が不成立の場合
[判示要旨]
116
商取引では相手方の承諾を予期して、契約の申込と同時に物品を送付することが少なくないと
ころから、商法 510 条は、商取引を迅速かつ円滑に進めるとともに、当該商人に対する相手方の
信頼を保護するために、商人がその営業の部類に属する契約の申込を受けた場合には、当該商人
に申込とともに受取った物品の保管を命じるという、特別の義務を法定している。
判時 1320-146 判タ 696-184
山下友信・ジュリ 1011-107 (E-②-19)
福富昌昭・判タ 735-218
*福富評釈:裁判実務では、商法 510 条の適用が問題となる事件は殆どなく、公刊物に搭載され
ている唯一の判決例である。特別な法定義務を定めたものであることを明らかにしている。善管
義務が課されることになる。
[東京地裁 S.63.6.29 判*] S60(ワ)2217 号 動産売買先取特権差押承諾等請求事件
民法 322 条(現行 321 条)
・333 条、民事執行法 190 条
(一部棄却・控訴)
商品売買後買主が破産した場合において、売主は、目的物である商品につき動産先取特権に基
づいて差押承諾請求権及び引渡請求権を有するか(消極) ― 「先取特権者には、債務者(買
主)に対して目的物の引渡を求める権利はないと解するのが相当である。また、差押承諾請求権
についても、これを肯定すれば、結局において買主である債務者の目的物に対する支配を失わせ
て先取特権者の支配を確立することになり、引渡請求権を肯定するのと実質に於いて差異がなく
なるから、これもまた認められない(即ち、債務者は、先取特権者が手続に則り権利行使した場
合にこれを受任する義務を負うにとどまり、これを超えて積極的に差押を承認して先取特権者の
権利行使に協力すべき義務は負わない。
)と解するのが相当である。そして、以上のことは債務者
につき破産手続きが開始された場合の破産管財人に対する関係に於いても全く同様と言うべきで
ある。
」
判時 1304-98 判タ 680-175 金判 812-28 金法 1224-28
太田武聖・判タ 735-322
[最高裁二小 S.63.7.1 判*]S60(オ)1145 号 損害賠償請求本訴・同反訴事件
民法 442 条・715 条・719 条
(破棄自判)
被用者と第三者との共同不法行為による損害を賠償した第三者からの使用者に対する求償権の
成否 ― 「被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不
法行為により他人に損害を加えた場合において、右第三者が自己と被用者との過失割合に従って
定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、右第三者は、被用者の
負担部分について使用者に対し求償することができるものと解するのが相当である。けだし、使
用者の損害賠償責任を定める民法 715 条 1 項の規定は、主として、使用者が被用者の活動によっ
て利益をあげる関係にあることに着目し、利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地か
ら、被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には、使用者も被用者と同
じ内容の責任を負うべきものとしたものであつて、このような規定の趣旨に照らせば、被用者が
使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には、使用
者と被用者とは一体をなすものとみて、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ内
容の責任を負うべきものと解すべきであるからである。
」
民集 42-6-451 判時 1287-59 判タ 676-65 金判 803-3
水野武・ジュリ 922-73
田上富信・判例評論 363-45
浦川道太郎・別冊ジュリ 196-174
前田達明 S63 重要判ジュリ 935-80
原審:大阪高裁 S.60.6.28 判・S59(ネ)1808 号 民集 42-6-472 判タ 568-77
一審:京都地裁 S.59.8.30 判・S58(ワ)1782 号/1608 号 民集 42-6-461
*:不真正連帯債務者間の求償関係の判決例[最高裁二小 H.3.10.25 判*]も参照。
117
[東京地裁 S.63.8.25 判*]事件番号不明
独占的販売権契約無視による損害賠償請求事件
→ 仲裁合意の存在を認め訴による請求を棄却
代理店契約中の仲裁契約の有効性 ―
日本法においては、仲裁付託の意思(訴訟によらず
第三者の裁断に服する意思)が仲裁契約成立の最小限の要件であり、仲裁機関、仲裁手続等の
定めを欠いても、仲裁契約は無効とはならない。
海法研 87-32
[最高裁三小 S.63.10.18 判*]S59(オ)557 号・手形金取立金返還等請求事件(破棄自判)
商法 4 条 1 項、信用金庫法 1 条・2 条、信用金庫法(昭和 56 年法律第 60 号による改正前の
もの)53 条、民法 1 編 4 章 1 節、破産法 104 条 2 号
一、 信用金庫の商人性 ― 信用金庫法に基づいて設立された信用金庫は、商法上の商人には
当たらない。
二、 信用金庫取引約定書四条四項の趣旨 ― 信用金庫取引約定書四条四項は、取引先におい
て信用金庫に対し、取引先がその債務を履行しない場合に、信用金庫の占有する取引先の手形等
の取立又は処分をする権限及び取立又は処分によって取得した金員を取引先の債務の弁済に充当
する権限を授与する趣旨であり、右手形等につき、取引先の債務不履行を停止条件として譲渡担
保権、質権等の担保権を設定する趣旨の規定ではない。
三、破産債権者が支払停止又は破産申立前にされた取立委任に基づき支払停止又は破産申立の
あつたことを知ってした手形の取立と破産法 104 条 2 号但書 ―破産債権者が、破産者が債
務の履行をしなかったときには破産債権者の占有する破産者の手形の取立又は処分をしてその取
得金を債務の弁済に充当することができる旨の条項を含む取引約定を締結した上、支払の停止又
は破産の申立のあつたことを知る前に破産者から手形の取立を委任されて裏書交付を受け、支払
の停止等の事実を知った後破産宣告前に右手形を取立てたことにより負担した破産者に対する取
立金引渡債務は、破産法 104 条 2 号但書にいう「支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知り
タル時ヨリ前ニ生ジタル原因ニ基」づき負担したものに当たる。
民集 42-8-575 判時 1296-139 判タ 685-154 金判 810-3 金法 1211-13
伊藤眞・金法 1220-6
藤田友敬・法協 107-7-91
宗田親彦・法学研究(慶大)62-10-95
森倫洋・別冊ジュリ 184-118
原審:大阪高裁 S.59.2.10 判・S58(ネ)484 号 民集 42-8-619 下民集 35-1~4-37 金判 810-17
一審:大阪地裁 S.58.2.15 判・S56(ワ)4447 号
民集 42-8-611 金判 810-27
[高松高裁 S.63.11.30 判*]S61(ネ)104 号 預金払戻請求事件(原判決変更・上告)
民法 93 条・99 条・715 条
定期預金として預入された金員を受入金融機関の支店長が他に流用した場合において、出損者
に悪意または重過失が認められるため ①.預金契約は無効 ②.受入金融機関に使用者責任は
ない とされた事例― ①.出損者が月 3 分という高額な裏利息を条件に定期預金として金融機
関支店長に金員を交付し支店長がこれを他に流用した場合において、支店長自身がその場で自
ら預金証書を作成し現金で裏利息を支払う等通常の預金受入手続と異なる手続をとったこと、支
店長が高額な裏利息を正当な権限の範囲内で支出できる余地はないこと、経営的にみて金融機関
が通常の資金運用により高額な裏利息を支払えるはずがないこと等の事情を出損者は認識してい
たものと認められ、支店長が本件金員を定期預金として受け入れるつもりではないとの真意を知
り得べきであったと認められるから、本件預金契約は、民法 93 条但書の規定の類推適用により無
効である。
②. 出損者が本件定期預金契約を締結するにあたり、支店長が月 3 分という高額の裏
利息の支払を約することが金融機関の支店長としての職務権限内において適法に行われたもので
ないことを知っていたことが推認される場合には、出損者は民法 715 条 1 項に基づく金融機関の
118
責任を追及することはできない(
[最高裁一小 S.42.11.2 判*]参照)
。
判タ 708-198 金法 1240-38
一審:高知地裁中村支部 S.61.5.9 判・S59(ワ)49 号
*:代理権濫用の場合の本人責任と使用者責任の認否判決例については、
[最高裁三小 H.6.11.22
判①*]の*末尾コメントを参照。
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