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財政学からみた地方債の在り方

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財政学からみた地方債の在り方
東京大学大学院経済学研究科・経済学部
地方公共団体金融機構寄付講座(第二期) 第5回フォーラム
財政学からみた地方債の在り方
2014年年11⽉月05⽇日 京都大学経済学部 非常勤講師
三宅宅 裕樹 ([email protected]) 要約
!  わが国では、各地方自治体が個別に地方債を発行することが最も望ましく、それが困難な 場合に限って複数の地方自治体が共同で起債するべきとの議論がある。しかし、欧米先進 諸国に目を転じると、こうした通説に反する事例が少なくない。
!  そもそも、地方自治体が「個別」発行しているつもりでも、実際には金融仲介機関を通じ、複数
の起債案件が集約されている場合が通常である。これは、「共同」発行と本質的に変わりない。
!  欧米先進諸国では、政府が地方共同資金調達機関を運営し、「共同」発行を取りまとめている
ことが多い。注目すべきは、一見して「政府系」金融機関とみえる地方共同資金調達機関でも、
民間と同等の競争条件の下で運営されている事例が増えつつある点である。
!  わが国には、こうした競争創出型と呼びうる地方共同資金調達機関が存在しない。競争創出
型には、①事業規模を制限されずに事業を存分に効率化でき、またその動機付けが強く働く、
②地方自治体に資する動機付けが強く働く、といった利点がある。さらに、③地方分権が進む
中、金融市場への標準的なアクセス機会を保障する意義を踏まえれば、わが国でも競争創出
型の創設・整備は一考に値しよう。
1 Ⅰ. はじめに
2 変革期のわが国地方債市場
(発行残高)
急増傾向に歯止め、直近は微減
!  地方財政の改善
!  借換債の発行のピーク越え
地方債発行残高
全体
地方債市場の今後
!  起債自主権を拡充する改革の
実施
!  市場公募債の拡大
公的資金
減少へ
・財政投融資制度改革
・郵政民営化
・政府系金融機関統廃合改革
従来
現在
将来
(出所)野村資本市場研究所編(2007)『変革期の地方債市場』(金融財政事情研究会)より、一部加筆して作成
3 地方債発行のあり方をめぐる通説 起債方法の優先順位
1.  自助(各地方自治体が「個別」発行)
"  市場公募債
"  銀行などからの借り入れ
2.  共助(複数の地方自治体が「共同」発行)
"  地方公共団体金融機構
"  (共同発行市場公募債)
3.  公助(上位政府(国)が「関与」)
"  財政投融資制度からの借り入れ
なぜ、「個別」発行すべきなのか?
!  地方自治体の自己決定権・裁量の尊重
"  他の政府、特に上位政府(国)の関与は
好ましくない
!  借り入れに対する自己責任
"  「共同」発行で懸念されるモラル・ ハザード
"  「市場による規律」への期待
!  「個別」発行が困難な地方自治体に限り、
「共同」発行すべき
"  中小規模の地方自治体?
"  財政力が弱い地方自治体?
4
通説に基づく欧米先進諸国の類型化
自助型(個別・民間市場発行が中心)
!  アメリカ
市場公募債
+金融保証保険(〜2000年代後半)
!  フランス(〜2000年代後半)
デクシアなど旧政府系銀行の融資
共助型(共同発行が普及)
!  スウェーデン
コミュンインベスト
!  ドイツ(2000年代〜)
公助型(上位政府の関与)
!  イギリス PWLB
!  ノルウェー KBN
レンダー・ジャンボ債
州立銀行 +カバード・ボンド
!  フランス(2010年代)
デクシアの国有化
!  ドイツ(〜1990年代)
(注)欧米先進諸国の地方債市場の概要については、本フォーラム第3回資料など参照
5 通説に反する?北欧の地方債市場 「共同」発行の位置づけが高まる スウェーデン
60%
60%
銀行など
KBN
50%
コミュン
インベスト
40%
30%
上位政府(国)の「関与」が強まる ノルウェー
50%
40%
30%
海外投資家
住宅系金融機関
20%
20%
10%
10%
保険・
年金基金
銀行など
事業会社
0%
海外投資家
0%
1995
2000
2005
2010
(注) 地方債の保有シェアの推移。主要な保有主体のみを掲載。
(出所)スウェーデン統計局・コミュンインベスト資料より、作成
1995
2000
2005
2010
(注) 地方債の保有シェアの推移。主要な保有主体のみを掲載。
(出所)ノルウェー統計局・KBN資料より、作成
6
Ⅱ. 「個別」発行は望ましいのか?
7 「個別」・「共同」発行のイメージ
地方債
地方自治体
(最終的な借り手)
投資家
資金の貸借
(最終的な貸し手)
(発行)市場
直接金融
間接金融
(市場公募債)
(銀行等引受債)
「
地方
自治体
投資家
」
地方自治体A
投資家
」
地方自治体B
個
別
」
「
共
同
「
個
別
地方
自治体
銀行
投資家
(預金者)
(注)1. 債券形式の銀行等引受債は、直接金融に分類することも可能である。
2. 「直接金融」・「間接金融」の定義の仕方は複数ある。本報告のもととなっている
三宅裕樹(2014)『地方債市場の国際潮流』(京都大学学術出版会)では、ここ
でのものとは異なる定義を用いている。
8 「個別」・「共同」発行の実態
投資家A
地方自治体A
「個別」発行
〜銀行等引受債〜
「個別」発行
〜市場公募債〜
(預金者A)
銀行
地方自治体B
投資家B
地方自治体A
投資家A
(預金者B)
機関投資家
(生保・投信など)
地方自治体B
投資家B
地方自治体A
投資家A
地方債の
共同発行機関
「共同」発行
〜地方公共団体金融機構など〜
地方自治体B
投資家B
金融仲介機関
9 地方自治体に資する地方共同資金調達機関 地方債市場の3つの金融仲介機関
地方共同資金調達機関とは?
!  3つの経済的機能
地
方
自
治
機関投資家
(生保・投信など)
最
終投
的
資
貸
家
手
)
体
"  地方自治体への金融サービスの提供
(
地方共同
資金調達機関
銀行
(伝統的な銀行機能)
"  地方債市場における専門性
"  リスクの満期保有
!  多様な創設・運営主体(=「共同」発行の 取りまとめ役)
"  地方自治体
"  上位政府(国・州政府)
"  民間
10
「共同」発行のさまざまな取りまとめ役
「公助」型
≒
≒
≒
「共助」型
「自助」型
11 Ⅲ. 「共同」発行とモラル・ハザード
12 なぜ、「政府系」金融機関は
モラル・ハザードを引き起こすのか? 政府からの優遇措置
政府の優遇措置がもたらす課題
!  政府の負担によって、地方共同資金 !  地方債市場の競争環境の歪みへ
調達機関の創設・運営コスト(ひいては 地方自治体の起債コスト)を軽減
!  さまざまな優遇措置
"  無償での創設(配当なし)
"  無償での債務保証(保険料なし)
"  補助金の給付 …
!  「政府」とは?
"  上位政府(国・州政府)
" 
"  民業圧迫
"  「政府系」金融機関の事業の 非効率化 !  地方財政への影響
"  地方財政規律の弛緩
"  中長期的な地方債の発行コストの (潜在的な)上昇
(財政力の強い)地方自治体
13
「政府系」金融機関 ≠ 優遇措置の存在
(出所)三宅裕樹(2014)『地方債市場の国際潮流 欧米日の比較分析から制度インフラの創造へ』(京都大学学術出版会)より、一部加筆して作成
14 政府系金融機関型から競争創出型に転換した
KBN(ノルウェー) KBNの組織図
1990年代末の組織改革の概要
!  中央政府による出資の有償化
"  配当の支払い
中央政府
債
券
市
地
100%保有
起債
地方債
場
治
(ノルウェー地方金融公社)
資金
家
方
自
KBN
投
資
"  発行債券に対する政府保証の廃止
資金
体
"  発行済み債券(政府保証付き)に対する
保険料の支払い
!  事業規模の拡大に対する制約の廃止
"  地方債市場での競争環境の下、 シェアは増加基調へ
!  全地方自治体に地方債市場への 標準的なアクセス機会を保障する (出所)KBN資料より、作成
存在としての意義の確認
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地方債の発行に際して
政府の「関与」が求められる根拠 地方債の発行を要する事業への 責任の共有
金融市場への 標準的なアクセス機会の保障
!  地方インフラ整備
!  地方財政運営における財政力格差 "  便益が行政区域を超えるなら、 インフラ事業のコスト負担や、 そのための地方債の発行に対して、 政府間で責任を分担する必要
!  景気対策としての財政出動
是正の妥当性
"  地方交付税制度の存在意義
!  金融市場へのアクセスに関する機会の
格差
"  景気安定化機能を担う国
"  投資家・金融機関との地理的距離
"  財政政策の効果を高めるためには、
"  金融関連の専門的知見・経験 …
国・地方一体での減税・歳出増が 好ましい
"  必要な地方債の発行については、 国も責任を分担する必要
!  地方自治体間にこうした格差があれば、
地方債の発行を要する事業の実施に
歪みが生じる可能性
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地方自治体に真に資する
地方共同資金調達機関の必要 株主と顧客(地方自治体)が対立しうる
民間金融機関型
民間株主
政府
配当
融資
・保険
地方自治体
配当
(上位政府
or 地方自治体)
出資
利害 相反
株主と顧客(地方自治体)が一致する 競争創出型
民間金融
仲介機関
手数料
(利払い・保険料など)
×
地方自治体
出資
融資
・保険
競争
創出型
手数料
(利払い・保険料など)
17
Ⅳ. わが国の現状と今後
18 欧米地方債市場で注目される競争創出型
(出所)三宅裕樹(2014)『地方債市場の国際潮流 欧米日の比較分析から制度インフラの創造へ』(京都大学学術出版会)より、一部加筆して作成
19 公的支援重視モデルとしての地方公共団体金融機構
公的支援重視モデル
市場競争重視モデル
(垂直的+水平的な政府系金融機関型)
(競争創出型(相互会社型))
(財政力の弱い地方自治体を助ける
ための地方共同資金調達機関)
(地方自治体が自律的に連携する
地方共同資金調達機関)
20 地方自治体自ら創設した市場競争重視モデル
=競争創出型としてのコミュンインベスト(スウェーデン) コミュンインベストの組織図
加盟団体数の推移
(団体数)
債
スウェーデン
地方金融協同組合
券
100%保有
市
起債
場
地
地方債
治
(スウェーデン地方金融公社)
資金
方
自
コミュンインベスト
投
資
出資
資金
体
家
(出所)コミュンインベスト資料より、作成
(出所)コミュンインベスト資料より、作成
21
わが国の地方債市場のさらなる発展に向けて
!  世界的に特異なわが国の現状
"  地方自治体が水平的に支援する公的支援重視モデル(水平型)
"  2つの公的支援重視モデル → 「共同」発行に対する限定的な位置づけ
!  地方債市場における政策的配慮・措置の重要性
"  地方分権化の前提となる、金融市場への標準的なアクセス機会の保障
"  「市場による規律」の限界
!  市場競争重視モデルの意義
"  事業の拡大など、経営の自由度の高まり
"  中長期的な経営効率化(=地方自治体向け金融サービスの拡充)への強い動機付け
"  地方債市場の健全な競争環境の創出・維持
22 <参考資料>
地方財政と「市場による規律」
23 「市場による規律」を可能にする制度インフラ
!  上位政府(国)による支援の廃止
"  地方債の発行過程における関与・統制
"  地方交付税制度(交付税措置)
!  市場への正確・迅速な情報提供
"  投資家向けの情報開示(IR)
"  外部の専門家による評価(格付け)
!  倒産法制(「破綻法制」)の整備
!  (自律した財政運営を可能にする財政手段)
"  地方税源(・財政調整制度)の拡充
"  地方公共サービスの提供に関する地方裁量の拡充
24 倒産法制は「市場による規律」を機能させるか? 地方財政の「破綻」とは?
地方債のデフォルト ≠ 地方財政破綻
!  財政運営の困難化
!  デフォルト
"  地域住民に対する公共サービスの 提供義務の不履行
"  債権者に対する返済義務の不履行
!  自力での財政再建の断念
"  地方税・手数料の引き上げ、および
公共サービスの縮減に対する法的・
現実的な制約
!  倒産手続きへ
"  元利償還が予定通りに行われない
!  財政破綻との高い相関性
"  元利償還に必要な資金を期日までに 用意できなくなる可能性の上昇
!  財政破綻との相違
"  財政状態が健全でも、デフォルトは起き
うる(意図的なデフォルトなど)
"  破綻に至っても、デフォルト回避は可能
25 地方政府の事後的な財政再建の過程
(出所)三宅裕樹(2014)「米国地方政府の破綻と事後的な財政再建のあり方 ペンシルバニア州ハリスバーグ市を事例として」『証券経済研究』第86号より、一部加筆して作成
26 上位政府による事後的な支援 事後的な財政支援の概要
財政再建のコストをどう分担するか?
!  様々な政策手段
地方自治体の
債務
"  補助金の臨時給付・増額
"  人材の派遣、ノウハウの提供
"  長期・低利資金の提供
"  債務保証
!  先進各国における整備
"  日本における地方財政健全化法?
上位政府の
臨時支援
地方自治体の
財源
(自助努力)
債務調整
(私的整理)
+
(倒産法制)
"  米国における州レベルでの整備
27 債権者による「支援」=債務調整 債権者による負担の受け入れ
2つの手続き
!  様々な債権者の存在
!  倒産法制(破綻法制)の利用
"  地方債の保有者
"  司法手続きによる調整
"  一時借入金を提供する銀行
"  一定の条件が満たされれば、債権者は
"  商取引債権者
"  公務員(労働債権)
!  債権者の権利変更
"  返済時期の延期(タイムリー・ペイメント・ リスク)
"  返済額の引き下げ、免除(回収リスク)
債務調整に応じなくてはならない(義務)
"  米国のみに存在(連邦倒産法第9章)
!  私的整理(任意整理)
"  司法を介さない任意交渉による調整
"  債権者は債務調整に応じる必要はない
(任意)
"  倒産法制の有無にかかわらず、可能
28 
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