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学位論文内容の要旨

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学位論文内容の要旨
博士 (獣医 学)今 野兼次 郎
学 位 論 文 題 名
猫 条 虫 Tae7zなtae Tziaefo
r7nぬ 嚢 虫 に 重度 感 染 し た ラッ ト
お よ び マ ウ ス に お け る胃 粘 膜 肥 厚と 高 ガ ス トリ ン 血 症
学 位 論 文内 容 の 要 旨
猫条虫嚢虫は 宿主の肝臓に寄生するが、 感染ラットでは寄生部位(肝 臓)とは離れた胃において顕
著な胃粘膜肥 厚がみられ、高ガストリン 血症をともなう。この病態発 現の機序は不明である。ヒト
のいくっかの 胃腸疾患でも胃粘膜肥厚が 主徴であり、猫条虫嚢虫感染 ラットがこれらの胃腸疾患モ
デルとなる可 能性がある。
本研究では、 猫条虫中間宿主における胃 粘膜肥厚と高ガストルン血症 の発現解明のために@猫条虫
感染ラットに おける胃の組織学的および 血液生化学的変化を経時的に 観察し、@胃粘膜肥厚におけ
る宿主の細胞 増殖因子およびガストリン の関与を検討し、◎マウスに おける猫条虫感染後の胃の変
化を調べた。
O猫条 虫嚢 虫に 感 染したラットの胃の経時的 な変化を、病理組織学的に 観察すると共に血液生化
学検査も行い、さら に超音波診断装置による検 査も加えた。
超 音 波診 断装 置を 用いた経時的な胃の観察 では、感染後9週目から肥厚 することが示された。病
理組織学的観察では 、胃体部において胃腺の嚢 胞化と粘液細胞の顕著な増殖 による胃粘膜肥厚と、
主細胞および壁細胞 の減少が認められ、これら の変化は感染の経過と共に激 しさを増した。増加し
た粘液細胞の電子顕 微鏡を用いた観察では、嚢 胞化した胃腺周囲において、 未成熟な表層粘液細胞
に類 似 し、 それ ぞれ 形態の異なる粘液顆粒を 多数含んだ2種類の細胞(typeIおよびII細胞)が認め
られた。感染の経過 と共に、コアのある粘液顆 粒を少数含んだ細胞(type II
I細胞)や、粘液顆粒を
持つ卵型の細胞(type IV細胞)が出現した。幽 門前庭音卩でも粘液腺の嚢胞化と粘液細胞の増殖を伴
う粘膜肥厚が観察さ れ、電子顕微鏡での観察に より、t
ypeI、II、およびIIIの細胞が観察された。ま
た、アポトーシス小 体が肥厚した胃体部および 幽門前庭部の粘膜で観察され 、時間の経過と共にそ
の数が増加した。
血液生化学的検査 では、アラニンアミノトラ ンスフェラーゼおよびアスバ ラギン酸アミノトラン
スフェラーゼ値は上 昇し、肝臓に傷害があった ことが示唆された。また、血 清総タンバク濃度が胃
粘膜肥厚後に低下し た。
ヒトのメネトルエ病 は、胃腺の嚢胞化と萎縮、 胃腸聞への蛋白漏出による低 蛋白血症などを特徴と
するが、猫条虫嚢虫 に感染したラットの病理組 織学的ならびに血液生化学的 な観察結果が、メネト
リエ病患者で認めら れる胃粘膜の異常所見と類 似点が多いことから、この猫 条虫嚢虫感染ラットが
メネトリ工病の疾患 モデルとして有用であるこ とが示唆された。
◎ 胃粘膜肥厚の機序を解明 するために、胃粘膜細胞増 殖を引き起こすことが知られ ている宿主の細
胞 増殖因子およびガストリ ンの関与を検討し、肝臓に おける嚢虫の寄生の重要性を 腹腔への嚢虫移
植 実験 によ り調 べ た。
形 質転 換増 殖因 子 -“(TGF-a) を過 剰に 発現 し たマ ウス では 胃 粘膜 肥厚 が認めら れ、メネトリエ
病 患者の胃粘膜の抗TGF-“ 抗体を用いた免疫染色では 、嚢胞化した胃腺周囲の粘液 細胞が強陽性を
示 すことが知られている。 そこで、感染ラットの肥厚 した胃粘膜および嚢虫を抗TGF-ロ抗体を用い
た 免疫染色を行い、その関 与を調べた。感染ラットの 胃粘膜では、メネトリ工病の ようなTGF-ロ陽
性 反応 は認 めら れ ず、 猫条 虫感 染 ラッ トの 胃粘 膜肥 厚におけるTGF-“の関与を示 すことはできな
か った 。
- 1129―
下 顎 腺 か ら 多 量 に 分 泌 さ れ る 上 皮 荊 | | 胞 増 殖 因 子 ( EGF)は胃 粘膜 細 胞増 殖作 用 を有 する な ど、 そ
の 生理 活 性が TG
F. “と 類 似し 、胃 粘 J
j其 修f夐 に関 与 して いる こ とが 幸R告 され て いる 。そ こ で下顎腺摘
出 し た ラ ッ ト に j尚 条 虫 虫 卵 を 投 与 し 、 胃 粘 膜 肥 厚 に 下 顎 腺 が 関 与 し て い る か 調 べ た 。 ま た 抗 EGF抗
体 を 用 い た 胃 粘 膜 お よ び 嚢 虫 の 免 疫 染 色 法 に よ っ て 、 EGFの 関 与 を 検 討 し た 。 下 顎 腺 摘 出 さ れ た
ラ ッ ト に お い て も 、 猫 条 虫 感 染 後 、 胃 粘 n艇 の 肥 厚 が 未 摘 出 ラ ッ ト と 同 様 に 起 こ っ た 。 さ ら に 、 抗
EGF抗 体 を 用 い た 胃 粘 膜 の 免 疫 染 色 で も 、 抗 EGF陽 性 を 示 す 荊 0胞 は 認 め ら れ ず 、 嚢 虫 も 染 色 さ れ な
か っ た 。 以 上 の よ う に 、 EGFが 猫 条 虫 感 染 し た ラ ッ ト に お け る 胃 粘 膜 肥 厚 に 関 与 し て い る こ と を 示
唆 する 結 果は 得ら れ なか った 。
ガス トり
時的に 測定
肥厚
C粘
峻 化で
Cな
変
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的
ン も胃粘 膜細
し 、その 時問
は
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あ 、こガ が示
る
と
胞
経
リ
唆
増
過
ン
さ
殖
か
m
れ
作用 を有す るので 、猫条 虫感染 したラ ツトの 血中ガ ストリン 値縫
ら胃 粘膜肥 厚にお けるガ ストリ ンの閏 与を検 討した 。感染ラ ッゆ
疵
りも早 川に眦 察され 、高ガ ストり ンm症 は胃粘 膜肥厚後 の欲
たよ
。
肝 臓 が 重 度 に 傷 害 さ れ た 場 合 、 肝 臓 の 組 織 修 復 過 程 に お い て 、 肝 荊 0胞 増 殖 因 子 ( HGF)が 産 生 さ
れ る。I
IG
Fは肝荊| I
JJ
色の増 殖を促遊するのみでなく、胃粘)l
l
.;
1
5,
l
li
胞の増殖作用も有し、胃粘J
膜肥厚に関
与 し ている可能性がある。そこ で猫条虫感染ラットの肝臓か ら嚢虫を回収し、未感染ラ ットの腹腔
内 に 移植することで、嚢虫の肝 臓寄生による宿主肝臓への負 担を軽減し、この移植ラッ トにおける
胃 粘 膜 肥 厚 お よ び 高 ガ ス ト 1Jン 血 症 の 発 現 の 有 無 を 観 察 し た 。 猫 条 虫 嚢 虫 を 腹 腔 内 に 移 植 し た ラ ッ
ト 7匹 中 、 5匹 で 胃 粘 膜 肥 厚 が 観 察 さ れ 、 そ の 肥 厚 程 度 は 腹 腔 内 か ら 回 収 さ れ た 嚢 虫 の 総 重 量 お よ び
移 植 か ら 剖 検 ま で の j明 間 に よ っ て 興 な っ て い た 。 肝 臓 へ の 嚢 虫 の 寄 生 は 胃 粘 膜 肥 厚に は 不可 欠で は
な いことが示された 。
以 上のように、胃粘膜肥厚に おける既知の宿主細胞増殖因 子の関与を示すことはでき なかった。
◎ラ ットでは猫条虫嚢虫 重度感染時にのみ胃粘膜肥 厚が起こることから、肥厚の 機序解明のために
大量 の虫 体 由来 因子 の投 与が 必 要と 考え られ る。 し たがって、より小型の動物 モデルが必要であ
る。 猫条虫嚢虫感染動物 の胃粘膜肥厚はこれまでラ ット以外では、報告されてい ない。そこで、猫
条 虫 ( ハ ツ カ ネ ズ ミ 株 ) を 、 感 受 性 が 高 い と さ れ る AKR/Nお よ び C3 H/Heマ ウ ス 、な ら ぴに 成熟 し たB
お よ び T細 胞 が 欠 如 し て い る BALB/cA-RAG2 -1-マ ウ ス に 感 染 さ せ 、 そ の 後 の 胃 の 変 化 を 調 べ た 。
す べ て の 感 染 マ ウ ス に お い て 高 ガ ス ト ル ン 血 症 は 観 察 で き な か っ た 。 胃 粘 膜 肥 厚 は AKR/Nお よ び
C3 H/IIeマ ウ ス で は 起 き な か っ た が 、 BALB/cA-RAG2. / . マウ スで は 観察 され 、 その 胃粘 膜 の組 織像
も猫条虫感染ラットと 同様であった。
以 上 の 結 果 か ら 、 @ 猫 条 虫 嚢 虫 感 染 ラ ッ ト が そ の 病 理 組 織 学 的 観 察 お よ び 血 液 化 学 的 検 査 か らメ
ネ ト リ エ 病 と 類 似 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 ◎ 猫 条 虫 嚢 虫 感 染 ラ ッ ト の 胃 粘 膜 肥 厚 に お け る ガ スト
リ ン や 宿 主 の キ 刪 包 増 殖 因 子 の 関 与 は 示 す こ とが 出 来な かっ た 。ま た、 肝 臓へ の嚢 虫 寄生 は必 須 では
な い こ と が 示 唆 さ れ た 。 ◎ 猫 条 虫 感 染 マ ウ ス BALB/cA-RAG2. / . マ ウ ス で は 、 高 ガ ス ト リ ン 血 症は
起 き な か っ た も の の 、 胃 粘 膜 肥 厚 が 認 め ら れ 、 猫 条 虫 感 染 マ ウ ス が 胃 粘 膜 肥 厚 の 機 序 を 解 明 す るた
めに有用 であることが示唆された。
- 1130―
学 位 論 文 審 査 の要 旨
主査
副査
副査
副査
教授
教授
教授
助教授
神谷正男
橋本
晃
岩永敏彦
奥 祐三郎
学 位論 文題 名
猫 条 虫Tae銘を t
ae Tziaeら黼ぬ嚢虫に重度感 染したラット
お よ びマ ウス にお ける 胃粘 膜肥 厚と 高 ガス トリ ン血 症
猫 条虫 は猫 (終 宿主)とネズミ(中間宿主)によって発育環が維持されている。ネ
ズミ が猫 条虫 虫卵 を経□摂取すると肝臓に嚢虫が寄生するが、この寄生部位とは離れ
た胃 にお いて 粘液 細胞増殖による胃粘膜肥厚と高ガストリン血症が認められる。申請
者 は 、 こ れ らの 原 因 お よ び 発 症 機 序 の 解 明 を 目 的 と し て、 以下 の実 験を 行っ た。
ま ず、 猫条 虫嚢 虫感染ラットの胃粘膜を観察し、胃腺を構成する細胞の分化増殖異
常の 経時 的変 化を 明らかにし、低蛋白血症が付随することを示した。これらの変化は
ヒト のメ ネト リェ 病患者で認められるものと類似していることから、この疾患モデル
と し て の 可 能 性 を 示 唆 し た 。 ま た 、 形 質 転 換 細 胞 増 殖 因 子 (TGF) -a、 上 皮 細 胞 増 殖
因 子 (EGF)、 お よ ぴ ガ ス ト リ ン は 胃 粘 膜 細 胞 の 増 殖 を 引 き 起 こ す こ と が 知 ら れ て い
る こ と か ら 、 肥 厚 し た 粘 膜 の 免 疫 染 色 に よ り TGF-dお よ び EGFの 胃 粘 膜 に お け る 産
生を 検討 した 。ま た、粘膜肥厚と血中ガストリン値の経時的推移も調べたが、これら
の因 子の 関与 を示 すことは出来なかった。さらに、肝臓が重度に傷害された場合、肝
細 胞 増 殖 因 子 (HGF)が 分 泌 さ れ る が 、 こ の 因 子 は 胃 粘 膜 細 胞 の 増 殖 を 促 進 す る こ と
が報 告さ れて いる 。嚢虫の肝臓寄生による傷害を軽減するために、未感染ラットの腹
腔内 ヘ猫 条虫 嚢虫 の移植実験を行った。レシピェントラットでも胃粘膜肥厚および高
ガス トリ ン血 症が 起こることを示し、猫条虫嚢虫の肝臓寄生がこれらの病態には必須
では ない こと を示 唆すると共に、胃粘膜の肥厚程度に関して腹腔内から再採取された
嚢虫 の総 重量 と移 植後 日数と の相 関を 示し た。
最 後に 、こ れま で猫条虫に感染したマウスでは胃粘膜肥厚および高ガストリン血症
は 報 告 さ れ て い な い が 、 猫 条 虫 に 感 染 し た RAG2遺 伝 子 欠 損 マ ウ ス で は 高 ガ ス ト リ ン
血症 は観 察さ れな かったものの、感染ラットと同様に胃粘膜肥厚が認められた。この
猫条 虫感 染マ ウス モデルが胃粘膜肥厚の原因および発症機序の解明に有用であること
を示した。
以上 のよう に、 申請者は猫条虫に感染した中間宿主における胃粘膜および血液生化
学 的 変 化 の 原 因 お よ び 発 症 機 序 に 関 し て 基 礎 的 な 新 知見 を得 た。 よっ て審 査員 一同 は、
今 野 兼 次 郎 氏 が 博 士 ( 獣 医 学 ) の学 位 を 受 け る 資 格 が 十分 にあ るも のと認 めた 。
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