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上空からの3次元都市景観情報構築技術

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上空からの3次元都市景観情報構築技術
コンテンツ作成
3D表示&情報技術
3次元
モデリング
上空からの3次元都市景観情報構築技術
わかばやし か お る 上空から都市の3次元景観情報を構築する技術について紹介します.本技
み や が わ いさお
若林 佳織 /宮川
勲
術は,HD映像および,レーザデータからそれぞれ3次元モデルを構築する
いしかわ
技術です.オペレータ判断不要の全自動処理で,ビジネス分野に応じた入力
石川 裕治 /荒川 賢一
ゆ う
じ※
あらかわ
けんいち
メディアを選択でき,しかも短時間でモデリングできるため,広い分野での
NTTサイバースペース研究所
応用が期待されています.
3次元景観情報の重要性
近 年 のGIS( Geographic Information Systems:地理情報システム)
タの獲得とは空撮映像中の特徴点を
を正確に獲得し,広範囲にわたり忠実
時系列にわたって測定し,その2次元
に再現する必要があり,そのための技
情報から3次元情報(空間データ)を
術が強く要望されていました.
獲得する処理です.また建物形状の
技術やCG( Computer Graphic)技
本稿では,3次元データを上空から
復元はその空間データから都市構造の
術等 の飛躍的な進展によって,防災
獲得し,都市の3次元景観情報を構
立体形状をモデル化する技術です.こ
や観光などの分野において,大規模で
築する技術について説明します.この
れらの技術により,空撮映像から広域
複雑な3次元の都市空間を,より忠実
技術は,HD(High Definition:高
な都市の3次元景観情報を自動的に
にかつ実体に近い表現で活用すること
精細)映像からのモデリング技術と,
構築することが可能となりました.
ができるようになりました.このよう
*1
に,テクスチャ
*2
レーザデータ
からのモデリング技術
(1)
空間データの獲得
付き3次元空間モデ
との2つからなります.この2つの技
ル,すなわち3次元景観情報を幅広く
術の確立により,3次元景観情報を
タビライザ
有効的に利用することが,特に都市部
適用するビジネス分野や要望される業
カメラを鉛直下向きの姿勢に固定した
での住空間や交通空間,環境空間の
務領域から最適な入力メディアを選択
状態で都市を空撮でき,これによりカ
快適性向上などへ寄与できるため,将
でき,それに対応したモデリング技術
メラ揺れのないシームレスな空撮映像
来にわたって社会経済活動の広範囲な
を選ぶことを可能としました.
が得られます.直下撮影の空撮映像
分野できわめて重要な役割を果たすと
考えられています.
映像ベースモデリング技術
しかしながら,これまで3次元景観
実世界の都市を大規模に構築する
情報を構築するために膨大な作成コス
ためには,空中測量・空撮が効率的
トと構築時間が必要であり,3次元
な手段であり,空撮映像から都市景観
GISのような3次元景観情報を利用し
情報を構築する技術(映像ベースモデ
たサービスの普及発展において大きな
リング技術)を開発しました.映像
障害でした.しかも,日本における都
ベースモデリング技術は空間データの
市景観を再現するには,密集している
獲 得 ( 図 1 (a)) と建 物 形 状 の復 元
※現,NTTデータ
8
建築物や複雑な構造の建築物の情報
NTT技術ジャーナル 2005.2
(図1(b))から構成されます.空間デー
空撮専用ヘリコプタは防振設備(ス
*3
)を搭載しているため,
の場合,建物上面(屋上)や地面に
おいて多くの特徴点が観測できます.
*1
*2
*3
テクスチャ(texture):建物表面の色や模
様,材質感のこと.
レーザデータ:詳しくはDSM(Digital
Surface Model)データと言い,ヘリコプタ
等に搭載されたレーザスキャニングシステ
ムからレーザを地表面に向けて照射し,反
射したレーザの往復時間の差を計測して得
られる建物・樹木・車等の地物を含んだ標
高値のこと.
スタビライザ:空撮時の外的な揺らぎ,ま
たは機体振動の揺れを低減させ,カメラ姿
勢を安定した状態に維持する装置.
特
集
図1(a)では,この特徴点を映像中か
ら観測し,透視投影型因子分解法
を利用した空間連鎖復元
(1)
*4
により3次
元情報を獲得します.空間連鎖復元
にバランスの取れた水平・垂直面から
マッピングしたものです.なお,測量
なる形状を復元します.
に関する専門的知識のないオペレータ
(3) 構 築 結 果
でも簡易な操作でこれらのモデルを構
図3は映像ベースモデリング技術に
(3)
築することができ,市販の PC上での
とは図1の空撮映像から獲得した3次
よる3次元景観情報の構築結果です .
処理時間は約56.5時間でした.従来
元情報を次々と連鎖的に空間中の点
図3(a)は空撮映像から獲得した空間
に比べ 処理時間を大幅に削減してい
群として復元していく技術であり,飛
データであり,測量値と比較するとそ
ます.
行コースに沿ってシームレスな空間デー
の誤差は2m以下となっています.そ
タを得ることができます.
の空間データから復元した建物形状モ
レーザデータベースモデリング技術
(2) 空間データからの建物形状復元
デルが 図3(b)であり,都市構造とし
本技術は,ヘリコプタ等に搭載した
図1(b)では空間データから都市構
ての形状を良好に復元していることが
レーザスキャニングシステム(Airborne
造に含まれる建物上面として水平面を
分かります.図3(c)は,空撮映像から
Laser Scanning System)で取得され
復元し,柱状形状により建物形状を
各建物上面に対応するテクスチャを,
たレーザデータを用いて,高精度な3
復元します .つまり,建物が複数の
航空写真から地面全体に対応するテク
次元景観情報を構築する技術です.
高さの水平面を持つ場合には,それぞ
スチャをそれぞれ抽出し,テクスチャ
レーザデータは,高密度であるととも
(2)
れの面から柱状の立体形状を生成し,
その集合体として1つの建物形状を復
元します(図2)
.この処理には,MDL
(a) ステップ1
(b) ステップ2
( Minimum Description Length) 原
理
*5
が利用されており,「点集合に対
する形状モデル の適合度」と「形状
モデルの簡素さの度合い」の間で適切
*4
透視投影型因子分解法:線形の投影モデル
を繰り返し利用して,透視投影像からカメ
ラ運動と3次元形状を復元する方法.
MDL原理:入力データを最小の符号長で記
述できるモデルを最適とするパラメータ推
定方法.
*5
空撮映像
空間データ
建物形状
3次元景観情報
図1 映像ベースモデリング技術の処理概要
クラスタ生成
空間データ
Z
Y
X
レイヤ生成
建物形状の復元
図2 建物形状のモデル化
NTT技術ジャーナル 2005.2
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3D表示&情報技術
動処理手法 (5) などレーザからのモデリ
ング手法については,数多く発表され
ています.しかし,複雑な建物形状を
全自動で安定的につくることは困難で
した. そこで, レーザデータの高 密
度・均一性を利用することにより建物
形状を安定的に,しかもある程度の詳
細度を持って検出することを目指して,
(a) 空間データ
エッジ解析分類法 (6) を基にし,さらに
MDL基準に基づく建物復元法 (2) を適
用することにしました.
エッジ解析分類法は,レーザデータ
から対象点に隣接する点との高低差を
算出して,その高低差から複数の特
定パターンとなるエッジを算出する手
法です.その抽出されたエッジにより,
オブジェクトの立ち上がりから立ち下
がりまでの範囲を検出し,その範囲を
(b) 建物形状モデル
建物外形形状の範囲として検出します.
さらに,高精度な建物外形形状を
獲得するために次の処理を実施しま
す.すなわち,エッジの再抽出を行い,
同じ特定パターンでかつ隣接するもの
に分類します.その後,それぞれ分類
したエッジの集合に対して,前述した
復元法を取り入れてMDL基準が最少
となるときの建物外形形状を求めます.
(c) 3次元景観情報
これは,レーザデータの中に雑音によ
図3 映像ベースモデリング技術による3次元景観情報
り建物形状の欠損や突起等の外れ値
(outlier:アウトライア)が生じてし
まうため,これらアウトライアの存在
に垂直方向の精度が良く,データ取得
抜けなどの雑音や,ほぼ直角であるべ
を考慮しつつ最適な形状を生成する
も高速かつ簡易で,さらに,データ取
き角部分が丸みを帯びている個所が,
ために処理するものです.
得が均一な密度で可能という利点を
数多く存在していることが分かります.
持っています.レーザデータの例を図
これらがモデリングを難しくしている
斜面からなる複雑構造体ととらえ,そ
4に示します.なお,これは,図3と
原因です.
の判定と抽出を行うことによって上面
同一地域です.図4(a)は標高を色別
表示したもの,図4(b)は斜めから見
たところを表示したものです.詳細に
レーザデータを見ると,急峻な突起や
10
NTT技術ジャーナル 2005.2
(1) レーザデータからの建物形状復
元方法
今までに,表面形状解析・分割に
(4)
よる手法 や,オペレータによる半自
建物の上面形状は,複数の平面・
形状を構築します.最初に,建物ごと
に高さ方向のレーザデータの頻度を算
出し,図2と同様にレイヤ生成を行い
ます.次に,生成されたレイヤに対し,
特
集
に復元できる重要な技術であることが
分かります.
一方,レーザデータベースモデリン
グ技術は,適合率・再現率が共に高
い値であることから,正しい形状に近
いモデルであるといえます.これは,低
層から超高層の建物や,中庭形状や
切妻・寄せ棟等の形状を持つ建物,
さらに屋上に凹凸のある複雑な建物な
ど,いろいろな建物をそれぞれ正しく
(b) 斜めから見たところ
復元することに成功しているからです.
2つのモデリング技術のもっとも大
きな違いは,入力メディアの違いです.
(a) 高度を色別表示したもの
(緑と黄は低位置,赤と青は高位置)
これにより,応用するビジネス分野や
必要とする業務領域にもっとも適した
図4 レーザデータ
入力メディアを選択し,それに応じて
モデリング技術を選ぶことが可能とな
寄せ棟・切妻・平面・中庭形状のそ
つ建物などを良く表現している.
各々の建物の距離が狭くて隣
さらに,どちらの技術においてもオ
ごとに判定を行うことにより,複数の
接し密集している建物群を,うま
ペレータの判断を必要とせずに,広い
上面形状が抽出でき,これにより複雑
く表現している.
エリアの3次元景観情報を安定に,ほ
れぞれの判定処理を行います.レイヤ
構造体である建物形状が抽出できま
す.最後に,整形処理を行い,建物
③
り,このことに大きな意義があります.
両技術の比較
ぼ全自動で構築できます.両技術によ
り,日本の大都市(横浜,東京)の
両技術による3次元景観情報の適
4km 2 もの広範囲なエリアをそれぞれ
(2) 構 築 結 果
合率Pと再現率R*6について検討しま
一度に作成できることを確認していま
本手法を適用して図4のレーザデー
す.それぞれを求めると,映像ベース
す.この技術により作成されたモデル
タから作成したモデルを図5に示しま
はP=52.3%,R=83.0%,レーザデー
の水 平 ・ 垂 直 共 に誤 差 2 m以下で,
す.図5(a)は作成した全域を示し,図
タベースはP=82.3%,R=72.6%が
景観情報全体としての精度がとても高
5(b)は個々の建物モデルを示し,図
得られました.ここで,適合率Pは構
いといえます.これは,既存のカーナ
5(c)はテクスチャマッピングをした結
築された建物形状がどの程度精度良
ビでの立体表示において,建物階数へ
果をそれぞれ表示しています.なお,
くできたかを表し,再現率Rはどれだ
1階当りの高さを乗じて建物全体の高
処理時間は,前述と同等の PCで約
け取りこぼしなく建物形状を構築でき
さを算出する手法に比べて,格段の正
2.7時間でした.このモデルから,次の
たかという網羅性をそれぞれ表してい
確さを持っています.この高精度のモ
ことが分かります.
ます.
デル実現は,さらに,人間をナビゲー
形状の獲得が完了します.
① 超高層の建物(左端は現在の日
映像ベースモデリング技術では,建
本でもっとも高い建物で約300 m)
物上面形状の復元において,80%以
から低い建物まで良く表現して
上の再現率で復元している結果を得
いる.
ています.このことから,空間データ
中庭が複数ある建物,切妻や
とテクスチャデータを同時に獲得でき
寄せ棟の建物,屋上に凹凸を持
る本技術は,実際の都市構造を忠実
②
トするアプリケーションへの応用も可
*6
適合率Pと再現率R:構築した建物の平面形
状面積Sm,正しい建物の平面形状面積Sr,
およびそれらの重複面積Soとし,次式で求
めます.
適合率P=(ΣSo/ΣSm)×100
再現率R=(ΣSo/ΣSr)×100
NTT技術ジャーナル 2005.2
11
3D表示&情報技術
■参考文献
(1) 宮川・石川・若林・有川:“空撮映像からの
透視投影型因子分解法による空間連鎖復元,”
信学論(D-II),Vol.J87-D-II,No.4,pp.942957,2004.
(2) 石川・宮川・若林・有川:“MDL原理に基づ
く3次元点集合からの建物モデル復元,”情処
学論,Vol.44,No.SIG 9(CVIM7)
,pp.64-74,
2003.
(3) 石川・宮川・若林・荒川:“空撮映像の分割
と統合による広域市街地空間モデルの自動構
築,”情処学論,Vol.44,No.SIG 13(CVIM10)
,
pp.21-33,2004.
(4) S.Horiguchi,S.Nagai,and K.Sugiyama,
“Recovering 3D Urban Model Using Range
data and Sequential Aerial Images,”Urban
Multi-Media/3-D Mapping(UM3-99),pp.7984,1999.
(5) A.Gruen and X.Wang,“Urban 3-D Mapping
for a Hybrid GIS,”Urban 3D,pp.69-78,
1999.
(6) K.Fujii and T.Arikawa,“ Urban Object
Reconstruction using Airborne Laser Elevation
Image and Aerial Image,”IEEE Transactions
on Geoscience and Remote Sensing,Vol.40,
No.10,pp.2234-2240,Oct. 2002.
(a) 全域表示
(b) さまざまな建物形状
(c) テクスチャマッピング
図5 レーザデータベースモデリング技術による3次元景観情報
能にするものと思われます.
物の側面テクスチャがないため,街並
*7
今後の展開
みのウォークスルー
を実施すると不
自然さを伴います.また上空からの撮
上空から都市の3次元景観情報を
影にはヘリコプタや小型飛行機を飛行
構築する2つの技術について紹介しま
させるため膨大な費用を必要とすると
した.いずれも構築精度が高く,都市
いう問題もあります.このため今後は,
の景観を良く再現できる点が特長で
車両を使った移動観測モデリング技術
す.同時に,モデル構築に要する費用
を実現し,人の日常の生活における視
や期間を著しく小さくすることができ
線でのテクスチャ獲得と再現を安価に
ます.これによって,さまざまな用途
実現して,より忠実に都市景観を再
への利用が期待できます.
現することを目指していきます.
上空からのモデリング技術には,建
*7
12
ウォークスルー(walk-through):仮想世
界の中で,自由に歩き回ることができる機
能のこと.
NTT技術ジャーナル 2005.2
(左から)若林 佳織/ 宮川
勲/
荒川 賢一/ 石川 裕治(右上)
3次元景観情報は,防災・観光に限らず
さまざまな分野での利用が大いに期待され
ています.より実体に忠実な3次元景観に
対する重要性がさらに増加していく情勢を
鑑みつつ,研究開発を進めていく予定です.
◆問い合わせ先
NTTサイバースペース研究所
画像メディア通信プロジェクト
像情報処理グループ
TEL 046-859-3555
FAX 046-855-1735
E-mail [email protected]
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