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論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 お よ び 担 当 者

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論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 お よ び 担 当 者
論文審査の結果の要旨および担当 者
報告番号 ※
第
氏
論
名
文
題
号
王
蕙
目
Reproductive characteristics in the subdioecious shrub Eurya
japonica: evolutionary implication from hermaphroditism to
dioecy
( 不 完 全 雌 雄 異 株 低 木 ヒ サ カ キ に お け る 繁
殖 特 性 の 解 明 - 両 全 性 か ら 雌 雄 異 株 性 へ の
進 化 に つ い て の 考 察 - )
論 文 審 査 担 当 者
主 査
名古屋大学准教授
中 川
弥 智 子
委 員
名古屋大学教授
戸 丸
信 弘
委 員
名古屋大学教授
肘 井
直 樹
委 員
奈良教育大学教授
松 井
淳
別紙1−2
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
被子植物の多くの種が両性花を持つ個体のみからなる両全性であるのに対
し、雌花をもつ雌個体と雄花をもつ雄個体からなる雌雄異株性の植物は種数と
しては少ないもの幅広い分類群にわたって見られることから、両全性から雌雄
異株性が繰り返し進化してきたと考えられている。この進化経路を説明する主
要 な ル ー ト が 、両 全 性 か ら 雌 性 両 全 異 株 性 を 経 て 雌 雄 異 株 性 に 至 る 経 路( 以 下 、
G - D 経 路 )で あ る 。こ れ ま で の G - D 経 路 に 関 す る 多 く の 研 究 は 、G - D 経 路 前 半 の
両 全 性 か ら 雌 性 両 全 異 株 性 へ の 進 化 に 関 す る も の で あ り 、 G-D 経 路 後 半 の 雌 性
両全異株性から雌雄異株性に移行する過程については不明な点が多い。そこで
本 論 文 で は 、 G-D 経 路 後 半 の 過 渡 的 な 位 置 を 占 め る と さ れ て い る 不 完 全 雌 雄 異
株 性( 雌 個 体 、雄 個 体 、お よ び 両 性 個 体 を と も に 集 団 中 に 有 す る 性 表 現 の こ と )
の 常 緑 低 木 ヒ サ カ キ( Eurya japonica、モ ッ コ ク 科 )を 材 料 に 、そ の 繁 殖 特 性 の
解 明 を 通 し て G-D 経 路 に お け る 雌 雄 異 株 性 へ の 進 化 に つ い て 検 討 し た 。
まず、性表現の進化には繁殖成功度が大きな役割を果たすため、雌個体と両
性花のみをつける両性個体を対象に、自然受粉下と強制受粉下での雌性繁殖成
功(果実と種子生産)を比較した。個体の資源状態は雌性繁殖成功に影響を及
ぼすため、光条件と個体サイズに差のない雌個体と両性個体を材料とした。そ
の結果、ヒサカキの雌個体の雌性繁殖成功は両性個体より高く、雌個体はより
多くの大きな果実とより多くの種子を生産することが分かった。また、受粉実
験より果実・種子生産に花粉制限があることや、ヒサカキの両性個体は自殖し
ないことも示した。さらに、実生の成長に差は認められなかったものの、雌個
体が生産した種子の発芽率は両性個体由来のものより高かったことから、雌個
体 の 雌 性 繁 殖 成 功 は 量 お よ び 質 の 両 面 で 、両 性 個 体 に 勝 る こ と を 明 ら か に し た 。
一方で、花粉制限のある自然状態では、雌性繁殖成功における雌個体の両性個
体に対する優位性が低下することも明らかとなった。これは、送粉者の誘引性
や受粉効率が両性個体でより高いことを示唆している。
次に、雄個体と両性個体の花粉親としての繁殖成功(雄性繁殖成功)の差異
を比較した。父樹と母樹の性の組み合わせや花粉の質の個体間変異が雄性繁殖
成 功 に 与 え る 影 響 も 検 討 す る た め 、雌 個 体 と 両 性 個 体 の 両 方 を 母 樹 と し 用 い て 、
単一花粉と混合花粉による強制他家受粉処理を実施した。その結果、ヒサカキ
の雄個体の雄性繁殖成功は概して両性個体より高く、雄の花粉によって結果し
た 果 実 は 多 い う え に 重 く 、果 実 あ た り の 種 子 の 数 も 多 い こ と が 分 か っ た 。ま た 、
雄の花粉で生産された種子の発芽率は高く、発芽時間も短かったことから、雄
個体の雄性繁殖成功は量および質の両面で、両性個体を上回ることを明らかに
した。さらに、花粉の質の個体によるばらつきは両性個体で大きく、両性個体
の花粉は両性個体の母樹とより相性がいいことが示唆された。
続いて、雌雄異株性への進化への可能性を探る重要な手がかりとなる、性表
現における可塑性(性転換)の有無、性転換のパターン、および性転換に影響
を及ぼす要因の特定を試みた。5 年間の野外調査の結果、ヒサカキは頻繁に性
転 換 す る も の の 、双 方 向 を 含 む 様 々 な パ タ ー ン で 性 転 換 が 生 じ る た め 、雌 個 体 、
雄 個 体 、 お よ び 両 性 個 体 の 性 比 ( 1: 1: 1 ) に は 変 動 が 認 め ら れ ず 、 調 査 し た ヒ
サカキ集団は安定した不完全雌雄異株性であることが示唆された。また、雌や
雄個体に比べて両性個体が性転換しやすく、性転換には光条件と個体の内部状
態が関与している可能性が考えられた。
雌個体または雄個体は次世代に対して、それぞれ種子または花粉を介しての
み 貢 献 す る が 、両 性 個 体 は 種 子 と 花 粉 の 両 方 を 介 し て 貢 献 で き る こ と を 踏 ま え 、
相対的繁殖成功を上述の結果率と種子数の結果から算出したところ、花粉制限
が無い条件では、両性個体の相対的繁殖成功は雌と雄個体の相対的繁殖成功を
下回ったが、花粉制限がある条件では両性個体の相対的繁殖成功は雌と雄個体
の相対的繁殖成功を上回った。つまり、ヒサカキは潜在的に雌雄異株性と成り
うるが、送粉者の行動を介した花粉制限が雌や雄個体により強く働くために、
自殖しない両性個体が集団中に維持される場合があることから、不完全雌雄異
株 性 で あ る と 結 論 付 け ら れ る 。 こ の 仮 説 は 、 G-D 経 路 の 中 で 雌 雄 異 株 性 が 成 立
しうる理論的条件を計算した場合にも支持された。
以上の成果は、花粉制限のある自然条件下では、両性個体の自殖が繁殖保証
と し て 機 能 す る た め に 両 性 個 体 が 集 団 中 に 維 持 さ れ る と 考 え ら れ て き た G-D 経
路の通説に、新たな知見を追加したものである。よって、本審査委員会は本論
文の内容が博士(農学)の学位論文として十分価値のあるものと認め、論文審
査に合格と判断した。
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