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野津山希・佐藤勢子・田原歩美・三浦さつき

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野津山希・佐藤勢子・田原歩美・三浦さつき
福山大学社会連携推進研究事業
福山大学・広島県・ひろしまこども夢財団 共同企画
「男性のための子育て講座」 実施報告
野津山希
・
佐藤勢子
・
田原歩美
・
三浦さつき
(福山大学社会連携推進研究事業スタッフ) (福山大学 大学院 人間科学研究科)
Ⅰ.講座内容
● タイムスケジュール,実施概要
1部 パネルディスカッション「パパとママで一緒に子育て」
● 有給休暇を取得したパパの子育て体験談・・・・松本房俊 氏
● 子育てを仕事にするということ・・・・高橋史行 氏
(田原歩美)
(田原歩美)
● 母性と父性・・・・松本智津 氏 (田原歩美)
● 質疑応答 (田原歩美)
● アイスブレイク
(野津山希)
2部 グループディスカッション「男性の子育てについて“みんなでワイワイ”」
● 男性の子育てについて本音でトーク (佐藤勢子)
3部 体験学習「まずは体験しよう!」
● 妊娠体験,模型を使った抱っこ,授乳体験
(三浦さつき)
● 親子のコミュニケーション
「子どもの言い分に耳を傾ける」ロールプレイ (野津山希)
Ⅱ.講座についてのアンケート集計結果 (中浜千明・野津山希)
Ⅲ.講座を終えて ― 座談会 ― (三浦さつき)
Ⅳ.資料一覧 (プログラム,チラシ)
Ⅴ.参加スタッフ
タイムスケジュール
時間
進行内容
12:30
受付
13:00
開会
13:10
パネルディスカッション「パパとママで一緒に子育て」
14:10
*グループ分けを兼ねたアイスブレイク
「男性の子育てについて“みんなでワイワイ”」
グループディスカッション
14:50
休憩
15:00
体験学習「まずは体験しよう!」
16:00
閉会
実施要領
● 日程:2008 年 12 月 20 日(土) 13 時~16 時
● 場所:福山大学社会連携研究推進センター
● 参加費:無料
● 対象者:小学校就学前までのお子さんをお持ちの父親および母親
子育てに関心のある男性および女性
(無料の託児あり)
● 参加者:28 名(一般の方 12 名,大学生 16 名)
パネルディスカッション「パパとママで一緒に子育て」
●育児休業を取得したパパの子育て体験談 《松本 房俊さん》
現在は,女性も男性も関係なく育児休業を取得できるようになったが,いまだ女性の育児休業
が多い中,松本さんは二児の父親で,二児ともに育児休業を取得された。
育児休業を取得した理由
妻と自分が共に仕事を続けることを前提とし,実際に自分が育児休業
を取ることで生活が成立するかをシュミレーションした。その結果,自己啓発もかねて,自分が
育児休業の取得を決めた。この時は,
「自分の時間が作れる」という軽い気持ちであったが,実際
に育児を始めると,自分に費やす時間はわずかであった。育児休業を取得する際は,会社側も男
性が取得するのは初めてということで,色々と大変であった。
育児休業中
会社でのイベント情報や技術情報をインターネットでチェックしたり,仕事に関連
する資格を取得するなど,スムーズな仕事の復帰に対する備えと育児を同時進行で行っていた。
また,育児休業中は,育児だけではなく家事もしなければならないので,実際は育児よりも家事
の方が大変であった。
実際に育児を行っていると,自分が計画した通りには進まず,その 1.5 倍はかかると考えた方
が良い。育児には諦めと寛容な心が大切である。また,出かけ先には,ベビールームは女性専用
が多く,男性が使用できる所はまれであった。そのため,自家用車はオムツ交換や授乳に大変役
立った。
子どもが病気にかかった際は,自分も焦ってしまうので,すぐに連絡が取れるような,サポー
トしてくれる人を常に確保しておくことが大切である。また,家では赤ちゃんに1人で話しかけ
ているので,独り言が多くなり,外出先でも度々独り言が出てしまい困った。
育児休業で感じたこと
子どもの少しずつ成長している姿を,一番に見ることができるのがうれ
しい。また,最初は不安だったことも,やればできると思えば,意外とできるものであった。
何よりも一番大切な事は,1 人で育児をするのは大変で,夫婦が協力し,息を抜きながら行う
ことであると感じた。
育児休業終了後
育児休業中は,ずっと一緒だったので,子どもは親への依存から“保育園”に
はなかなか慣れない。親は“仕事”で忙しいと,お互いにストレスが溜まる。また,子どもは半
年間ほど,保育園で風邪などの病気をもらいやすく,結局仕事を休まざるを得ない状況に度々な
る。
男性が育児休業の取得することが可能になっているが,実際に取得する人は極わずかであ
り,会社の対応が円滑でなかったり,ベビールームが女性専用であったりなど,社会はまだ
まだ「子育て=女性がするもの」という意識が強いように感じられる。
しかし,子育てには,どちらか一方が中心となって行うのではなく,周りの人にもサポー
トしてもらいながら,夫婦がお互いに積極的に育児に参加し,いたわり合い,子どもに愛情
をもって接することが何よりも重要である。
育児休業終了後,異なる環境に子どもも親も,慣れるまでに時間が掛かることが,育児休
業の今後の課題であろう。(田原 感想)
●子育てを仕事にするということ 《高橋 史行さん》
高橋さんは三児の父親で,育児休業を取得しようと試みたが,仕事の都合や,一対一での子ど
ものやり取りへの不安,家事ができないといったことから,取得は断念。しかし,保育園で培っ
た対処法が,自分の子どもに対する育児にも活かすことができた。
保育園と家庭の違い “集団生活”であるため,家庭では出来ないことが(例えば,嫌いな食べ物
を残すなど),保育園で友達と一緒であれば,できるようになることがある。また,先生や友達な
ど,他者と自分が存在する保育園は,“小さな社会”であり,社会性を養う場である。
「他のみんなと一緒にいる」ということが大事なことで,色々な子どもがいるため,価値観も
様々であり,トラブルが生まれることもあるが,トラブルを解決するために,お互いが妥協する
ことを覚えていく。
保育者に求めること
自分の子どもを最優先に考えてしまい,「自分の子供が!」と言いがちで
あるが,自分の子供だけが居るわけではなく,他者がいることで,子供たちは成長している。そ
のため,保育園で成長していく子どもたちを,保育士である自分たちが観察し,その成長を親へ
伝える(第三者の目で伝える)ことで喜んでもらいたいと思っている。親と一緒に子ども,そして
保育士が成長することを理解して欲しい。
子育てとは
「子どもと一緒に育っていくもの」であり,子どもを一方的に学ばせるだけでなは
ない。それぞれの子どもで,成長の仕方は異なるため,一人ひとりに合わせた子育てが必要であ
る。子育てに関わる人たち自身も,子どもから学んでいる。
子育てにおいて,気をつけなければならないこと 「社会の中で生きていく子供たちを育んでい
く=社会の子どもを育てる」ということで,子育ては“自分の子どもだけではない”ことを心得
ておかなければならない。自分の子どもに責任をもてるように!
また,子どもへの夢を追求(期待)しすぎて,子どもにお金をかけすぎることは悪くはないが,
愛情と時間も大切にしてほしい。
男性保育士として
いまだ女性が活躍する職場ではあるが,女性だから,男性だからということ
ではなく,男性であることも,一つの“個性”と考え,今後も保育の仕事に関わっていきたい。
いまだ“保育士”は女性が活躍しているようではあるが,現在,男性保育士も増えてきて
いる。高橋さんの言うように,「男性であること」を一つの個性としてとらえ,性別にとら
われることなく,女性も男性も活躍できる職場を築いていくことが大切である。
「“保育園”は,子どもたちにとって,最初の“社会”である」。保育園を利用する際は,
このことを念頭に置き,自分の子どもだけではなく,他の子どもたちがいることで,自分の
子どもも成長していることを理解し,親と子ども,そして保育士それぞれが成長することが
重要であろう。(田原 感想)
●母性と父性 《松本 智津さん》
看護師を経て,現在は福山平成大学看護学部の教員に就任。看護現場から見た,父親の役割に
ついて,“父性”と“親性”という観点から話していただいた。
父性とは
男性が父として持つ性質で,その役割とは,子どもの命を守るものであり,子どもと
母の安全基地である。つまり,“赤ちゃんの命を守る”ことである。
NICU 入室後の流れについて
①児に対する処置と検査。②両親への面会。ただし,帝王切開の
場合は,父親初回面会の後,母親初回面会。その際,出来る限り父親は付き添う。③日々の面会
をし,受け持ちの看護師が面会ノートを作成。④母親退院後も情報提供を行う。⑤子どもの状況
に合わせて育児参加。⑥保育器外抱っこ。⑦コットベッド移床後,退院に向けての練習開始。⑧
退院前に,地域保険師への情報提供。⑨退院。
父親に求めること
産後,心身ともに不安定な状態である母親の支えになってほしい。しかし,
父親にとってはストレスになる可能性があり,負担となる場合がある。このことから,父親への
看護,サポートも必要ではないかと考えられ始めている(例えば,自分もパニックになったり,
弱音は吐けないというストレス)。
子育てに必要なもの 1
子育てには“愛情”が不可欠。保育者は,赤ちゃんに愛情を持って接す
ることで,赤ちゃんは安心感や依存心を身につけ,微笑等で示すようになる。これをみた保育者
は,さらに,赤ちゃんに対して愛情を持って接するようになる。こうした相互作用を繰り返すこ
とで,信頼関係を結ぶようになる。このメカニズムを守るため,父親は安全基地となる必要があ
る。
子育てに必要なもの 2
“母性”と“父性”の両方とも欠かすことはできない。また,
“母性”
は母親にも父親にも備わっており,“父性”もまた,父親にも母親にも備わっているものである。
そのため,現在は“母性”と“父性”を合わせて“親性”と呼ぶようになっている。この親性を
注ぐことで,子どもは健康に育っていく。親性は母性と父性のバランスがとれていることが大切
である。
愛情について
一番にしてほしいことは“すぐに触れること”。すぐ触れるこという行動は,コ
ミュニケーションの中で最も重要なことで,コミュニケーションをとればとるほど,親も子も成
長し,愛情が培われてゆくのである。
「子育ての仕方がわからない」と思う男性は少なくないが,それは母親も同じことであり,
幸せと同時に不安を感じるものである。分からないから,と逃げるのではなく,母親の支え,
お互いに子育てに参加することが,母親の不安を軽減することができる。
また,子育てには,愛情のほかに,母性と父性(“親性”)は,母親にも父親にも重要であ
ることを理解してく必要がある(田原
感想)
。
●質疑応答
《松本 房俊さんに対する質問》
Q. 仕事復帰後の周りの人の反応はどうでしたか?
A. 普通に出社した。同じ部署の人には,育児休業を知らせていたが,特に変わりはなく,逆に少
し興味を持ってくれた。他の部署の人には,育児休業を知らせていなかったため,何処かに行
っていたのかと思われていた。仕事に関しては,細かい事は忘れていても,休業中に情報収集
をしていたため,仕事はスムーズに行え,会話も成り立った。嫌味や仕事の遅れなどはなかっ
た。
Q. 自分も男性で育児休業を取得しましたが,パパ友はいますか?また,孤独感はありましたか?
A. パパ友はできにくい環境。子育て支援センターは夫婦で来ていたり,母親だけ,母親とその母
親といったように,男性 1 人で来る人は少なかった。しかし,周りの人が声をかけてくれたり,
みんな優しく接してくれて,孤独感はあまりなかった。
《高橋 史行さんに対する質問》
Q. 学生時代についてですが,保育科は女性が多かったんですか?
A. 確かに女性の方が多かったが,保育科だから女性が多いというわけではなく,男性もいたし,
男性の友人も,現在,同じ保育士として活躍している。
Q. 男性保育士同士のサークルみたいなのがあるそうですが,参加されていますか?
A. あるのは知っている。誘われたこともあるが,そういう集団に属することで,逆に自分たちが
“男性保育士である”という殻に閉じこもっているように思えたので,参加はしていない。例
えば,女性保育士に対する愚痴をこぼしてしまった場合,それが本当に良いことなのか分から
ないし,それが自分にとってプラスになるのか,と考えると…。孤独感はあるが,友人(男性
保育士)がいるので,悩みを相談することもある。
《松本 智津さんに対する質問》
Q. 「母性が強い人(女性)」はよく聞きますが,
「父性が強い人(男性)
」はいますか?
A. 父性の研究自体があまり進んでおらず,今のところはよく分かっていない。
Q. 現在は,
「母親に父性が」,
「父親に母性が」という逆転現象がおこっているように思いますが,
その可能性はありますか?
A. その可能性はあると思う。しかし,母性と父性はバランスが大切で,どちらかに偏ってしまう
のではなく,父性の強い母親ならば,父親は母性を持って子どもに接し,母性の強い父親なら
ば,母親が父性を持って接するという,お互いがサポートできるよう,バランスよく子どもに
母性と父性を持って接することが大切なので,母性と父性が逆になっても問題はない。それよ
りも,子育てに必要なのは,よりよい環境を築くことが大切であり,愛情を持って接すること
が重要である。
アイスブレイク
●
アイスブレイクの目的
グループディスカッションのグループ分けと,参加者間の緊張をほぐすこと
を目的としてアイスブレイクを行った。
●
アイスブレイクの内容
アイスブレイクの流れ
参加者の様子
●アイスブレイクの説明
・机と椅子を周りによけて,参加者に
「これから出す質問について,自分にもっ
は部屋の中央に集まってもらった。
とも良く当てはまる選択肢に移動して
参加者は,これから何をするのか少
下さい。
」
し緊張している様子であった。
Q1.好きな食べ物のジャンヌについて ・部屋の 4 箇所に選択肢が書かれた紙
・和食
を置き,自分の当てはまる選択肢に
・洋食
移動してもらった。
・中華
・ファーストフード
Q2.好きな映画のジャンヌについて
・コメディ
・ホラー
・ラブストーリー
・最初は周りを伺いながら移動してい
た参加者も,少しづつ笑い声や笑顔
も現れ,徐々に緊張がほぐれてきた
ように感じられた。
・アクション
Q3.好きなスポーツについて
・野球
・サッカー
・スケート
・ゴルフ
・最後の好きなスポーツについては,
野球とサッカーに参加者が集中した
ため,学生に少ないグループに移動
してもらい,4 つのほぼ均一なグル
ープ分けを行った。
グループディスカッション
「男性の子育てについて“みんなでワイワイ”」
●
グループディスカッションの目的
育児休暇中や育児経験のある男性,女性,育児経験はないがこれから経験するであろう
男子大学生,女子大学生と子育てに関する意見を交換し合い,その中から男性が子育てを
する意義が何か発見できればと考えた。
●
グループディスカッションの内容
1部パネルディスカッション「パパとママで一緒に子育て」についての話をもとに,子
育て中の男性や子育て経験のある男性,女性,男子大学生,女子大学生が混合で各4グル
ープ(4,5名)に分かれ,それぞれの体験談や1部を聴いての感想などを自由に話した。
●
グループディスカッションで出た意見
☆
現在育児休暇中の男性1
「育児休暇に入ってしばらくは,どうしたらいいのか分からず,戸惑いを感じた。子ど
もだけをみていればいいと思っていたが,そうではないことに気付き,子どもが寝ている
少しの時間に家事をこなした。2,3 カ月がたつと,徐々に生活にも慣れた。初めは戸惑っ
ていた子供の世話と家事の分担の時間配分も,自分なりに調節できるようになった。後 2
カ月ほどで育児休暇が終わると思うと,もう少し子育てしても良いかと思う。」
☆
現在育児休暇中の男性 2
「職場に育児休暇をとると宣言したとき,“なんでと?”と言われるかと思ったが,気持
よく了解してもらった。休暇中の職場の様子もメールなどで確認することができたので,
復帰に向けて戸惑いを感じることがなくその点では安心だ。子供の一番大切な時期に,子
供に関わることができて良かったと思う。こんな楽しみを女性だけに任せておくのは勿体
ないと思う。育児検診など行くと,ほとんどが母親で肩身が狭いかと思ったが,そんなこ
ともなく,皆さん親切にして下さった。」
☆
育児経験のある男性
「あまり育児に協力してこなかったので,自分が子守りをしようとすると,すぐ子ども
が泣いて困った。」
「いつも仕事で疲れたことを言い訳にして子育てから逃げていた気がする。」
☆
まだ子育て経験のない大学生 1
「自分自身が育てられた環境を思い出すと,まだまだ父親の子育てに関する意識は低く,
父親にとって仕事が一番で,母親が子育てで疲れて愚痴をこぼすこともできないようであ
った。」
☆
まだ子育て経験のない大学生 2
「父親が子育てに参加しなくても,周りに祖父母などたくさんのサポーターがいたので,
母親は困らなかったし,自分たちも困らなかった。
男性にとって育児休暇をとることは,大変な勇気と決断のいることだと思われ
る。また,生まれたばかりの赤ちゃんに接することは,女性にとっても容易では
ないと考えられるが,それを男性が行うことは想像以上に大変だと考えられる。
このような点も,男性が育児休暇をとる割合が増加しない原因の一つになってい
るのではないだろうか。
しかし,実際に育児休暇をとり,子育てをされた方の体験から,「こんな楽し
いことを女性だけに任せておけない。」「もう少し子育てに関わっていたい。」と
いう意見が聞けたことは,とても意外であり,うれしい感想であった。
このように男性が子育てに関わることで,子どもへの愛情と妻へのいたわりの
気持ちが芽生え,子どもと母親に良い影響をもたらすだけでなく,男性自身の父
性も育つのではないかと考えられる。
そのためには,男性が育児休暇の取りやすい社会環境を作っていくことが大切
だと考える。(佐藤 感想)
講師の松本房俊さんとお子さん
妊娠体験,模型を使った抱っこ,授乳体験
● 体験学習の目的
子育てをするなかで,抱っこや授乳は必ず経験することであり,毎日繰り返さ
れるため,育児の基本といっても過言ではないだろう。しかしながら,それら
は決して簡単なことではなく,配慮すべき点も多い。このコーナーでは,
「育児
体感赤ちゃんマイベビー*」を用いて,子育てを実習体験することにより,子育
ての大変さ,大切さを学ぶことを目的とした。さらに,妊娠している女性の気
持ちを理解するために,おもりを用いた妊娠体験も実施した。
* 「育児体感赤ちゃんマイベビー」とは…
全米の教育機関で教材として活用されている育児シミュレーターの日本版教材。マイ
コンが搭載されており,あやしてほしいとき,オムツを取り替えてほしいとき,ミルク
がほしいときなど 8 種類の理由によって泣き出し,体験者に適切な対応を迫る。
● 体験学習の進め方
事前に練習をしている青野ゼミ 3 年生の 4 名が,デモンストレーションと補助
を行った。
● 体験学習の内容
妊娠体験
腹部におもりをつけることによって,擬似的に妊娠を体験する。実際には妊
娠することのない男性が,妊娠している状態をリアルに体感できる。
抱っこ
赤ちゃんの模型を用いて,正しい抱き方を学習する。
授乳
赤ちゃんの模型を抱き,授乳のポーズをとったり,授乳後のゲップをさせる
ために,たて抱きをして背中を叩いたりする。
● 参加者の声
☆ 子育て経験のある男性。人形に授乳をしながら自分の体験を語る。
・片手で子どもを支えながら哺乳瓶を持ち,空いているほうの手でテレビの
リモコンを操作した。
・テレビに夢中で子どもの口から哺乳瓶が外れ,子どもが泣いてしまった。
・子どもがなかなかゲップをしない時,一度子どもの体を仰向けに倒し,再
び抱き上げるとゲップをすることがある。
☆
子育て経験のある男性。妊娠体験の感想。
・立ったり座ったりの動作が難しく,足腰に負担がかかる。
・妊婦が腹部を撫でている様子をよく見かけるが,その気持ちがよく分かっ
た。
☆ 保育士の女性。新生児の人形を用いて,男子学生に抱き方をレクチャー。
・手のひらで首を支え,腕を背中に添えてゆっくりと抱き起こす。
・男子学生は,女性の手本を見て,恐る恐る人形を抱き上げる。
抱っこに授乳にオムツ交換…。育児経験者の方は,大変手馴れており「さす
が!」という感じがした。子どもが赤ちゃんだった頃を思い出し,「こんなこと
があったな」,
「こうすると泣き止んでくれる」などの体験談も語られ,学生は興
味深く聞きながら何かを学んでいるようであった。このような交流は,子育て未
経験者の立場からすれば,大変勉強になると感じた。(三浦 感想)
親子のコミュニケーション
「子どもの言い分に耳を傾ける」 ロールプレイ
●
ロールプレイの目的
子どもと接する機会があれば,どうすれば子どもとの良好な関係が築ける
のか?誰もが一度は考えることだと思う。そこで,今回のロールプレイでは,
子どもとの会話に焦点を当て,子どもの話に耳を傾け,子どもとの話を続け
ていくには,まずはどのような声かけが良いかといった,会話の入口を実際
に体験してもらうことを目的とした。
●
ロールプレイの内容
ロールプレイの流れ
●ロールプレイの目的説明
「今回のロールプレイでは,子どもの話に
耳を傾け,子どもとの話を続けていくため
には,まずはどのような声かけが良いかと
いった,会話の入り口を実際に体験しても
参加者の様子
・4 グループそれぞれが円になり,
学生と参加者が 2 人 1 組になる。
ロールプレイが,始めての参加者も
多く,進行役の説明に興味深そうに
耳を傾けていた。
らいます。日常場面で起こる,様々な困っ
たことへの解決策を考えることではあり
ません。
」
1.兄弟げんかについてのロールプレイ ・ ロールプレイでは,子ども役の学生
(親役;参加者,子役;学生)
から言葉がけを開始し,参加者は普
の実施
・場面:兄弟が,お兄ちゃんのクレヨンの
段の場面を想定しながら演じた。ど
取り合いでけんかをしている。弟は貸し
の組も楽しそうに演じており,大変
てと言ってきかず,お兄ちゃんは貸すの
盛り上がった。
を嫌がっている。
・問い:「このような場面で,お兄ちゃん
にどのような声かけをしますか?普段,
子どもにするのと同じように,声かけを
行って下さい。
」
●プレイ後,演じての感想を聞く
(4 グループそれぞれの親役,子役,
各 1 名ずつに聞く)
・ 演じた後の感想では,親役である参
加者の言葉がけの難しさや,子ども
役である学生からの声かけに対す
る感じ方などが話された。
●兄弟げんかについての
ロールプレイのモデル
1)
(子どもの話に比較的耳を傾けている
場合とそうでない場合)
●モデルを参考に,もう一度同じ内容
のロールプレイの実施
・ ロールプレイのモデルについて,多
くの参加者が熱心に見ており,その
後,モデルを参考に,同じ内容での
ロールプレイを実施した感想では,
「1 回目より上手くやりとりが出来
た」と感想を述べた参加者が多かっ
た。
●1 回目と比較した 2 回目のロール
プレイの感想を聞く
(4 グループそれぞれの親役,子役,
各 1 名づつに聞く)
●進行役によるロールプレイの趣旨に
ついての説明
2.子どもがかんしゃくを起こした場面
のロールプレイの実施
・場面:子どもは休日に妻(夫)と遊ぶのを ・設定を変えてのロールプレイでは,
楽しみにしていた。しかし,妻(夫)は急
な用事で出かけてしまい,子どもは泣き
叫んでいる。
・問い:「子どもと残されたあなたは,泣
き叫ぶ子どもにどのように声かけをし
子ども役の学生達の迫真の演技に,
親役の参加者は少したじろぎながら
も,1 場面でのコツを活かして多く
の参加者が話を続けるように,上手
くやりとりを行っていた。
ますか。
」
●プレイ後,演じての感想を聞く
(4 グループそれぞれの親役,子役,
各 1 名づつ)
●子どもがかんしゃくを起こした場面
のロールプレイのモデル 2)
(子どもの話に比較的耳を傾けている
場合とそうでない場合)
●進行役によるまとめ
・演じた後の感想でも,話を続けるこ
とが出来たと話す参加者が多く,子
ども役の学生もやりとりが続いたと
話していた。
注 1)
兄弟げんかについてのロールプレイのモデル
<あまり耳を傾けていない場合>
兄:
「だめ!絶対貸さない!」
親:
「お兄ちゃんなんだから,貸してあげなさい!」
兄:
「絶対嫌だ!何で僕ばっかり!」
親:
「なんて聞き分けがない子だろう!」
お兄ちゃんなんだから、
貸してあげなさい!
だめ!!
絶対貸さない!
ロールプレイのモデル
<比較的耳を傾けている場合>
兄:
「だめ!絶対貸さない!」
親:
「どうしたんだい?」
兄:
「弟が僕のクレヨン貸してっていうけど,嫌だ!」
親:
「お兄ちゃんはクレヨンで絵を描きたかったのかい?」
兄:
「そうだよ。僕は今絵が描きたかったんだよ。
」
親:
「そうなんだ。お兄ちゃんは今絵が描きたいと思っていたんだね。
」
注 2)
子どもがかんしゃくを起こした場面のロールプレイのモデル
<あまり耳を傾けていない場合>
子:
「ママ(パパ)が僕をおいて行った!約束したのに!うそつき!」
親:
「しょうがないだろ!大切な用事なんだから!」
子:
「嫌だ!一緒に遊ぶって言ったもん!うそつき!」
親:
「うるさい!静かにしなさい!」
<比較的耳を傾けている場合>
子:
「ママ(パパ)が僕をおいて行った!約束したのに!うそつき!」
親:
「そうか,よっぽどママ(パパ)と一緒に遊びたかったんだね?」
子:
「そうだよ。遊ぶ約束してたもん!」
親:
「そうだね。約束していたのに遊べないのが悔しかったのかな?」
子:
「そうだよ。一緒に遊びたかったんだよ。
」
親:
「何して遊ぼうと思ってたんだい?」
今回のロールプレイは,学生の迫真の演技もあり,どの組も大変盛り上がっ
て楽しく演じていた。1 回目は,多くの参加者が,適切な声かけが難しい様子
だったが,2 回目,3 回目とコツをつかみ,上手なやりとりができるようにな
った。
このロールプレイのように,子どもの話に耳を傾け,会話を続けていく中で,
子どもの言い分を聞き取り,日常場面での色々な問題が解決できるかもしれな
い。また,解決できなくても,子どもは話を聞いてもらえたということで,良
好な親子関係を築くことが出来るかもしれない。(野津山 感想)
講座についてのアンケート集計結果
Q1, 講義内容について
● 有効回答数:17 名
あまり興味を
持てなかった
Q1
講義内容
1.
大変興味がもてた
(11)
2.
やや興味がもてた
(5)
3.
どちらとも言えない
(0)
4.
あまり興味をもてなかった
(1)
5.
まったく興味がもてなかった(0)
やや興味がもてた
あまり興味を持て
なかった
やや興味が
もてた
大変興味が
もてた
Q2, 情報入手方法
新聞・テレビ・
広報紙
Q2
情報入手方法
1.
新聞・テレビ・広報紙(2)
2.
知り合い
(1)
3.
職場
(0)
4.
福山大学関係者
(7)
5.
福山大学ホームページ(0)
6.
保育所・幼稚園
(5)
7.
その他(夢財団)
(2)
大変興味がもてた
知り合い
その他
新聞・テレビ・広報紙
知り合い
福山大学関係者
保育所・幼稚園
その他
保育所・幼稚園
大学関係者
Q3, 性別
女性
男性
Q3
性別
1.
女性
(5)
2.
男性
(12)
Q4
年齢
1.
10 代
(0)
2.
20 代
(8)
3.
30 代
(6)
4.
40 代
(3)
5.
50 代以上(0)
女性
男性
Q4,年齢
年齢
Q4,
20代
20代
30代
30代
40代
40代
40代
40代
20代
20代
30代
30代
Q5, 住所
福山市内
その他
広島県内
Q5
住所
1.
福山市内
2.
三原・尾道市内(3)
3.
その他広島県内(1)
4.
岡山県
(0)
5.
その他
(0)
三原・尾道市内
その他広島県内
(13)
三原・
尾道市内
福山市内
Q6, 職業
Q6
職業
1.
教員
教員
(1)
2.
心理職
(0)
3.
福祉関係職員
(0)
4.
保育士
(2)
5.
会社員
(5)
6.
学生
(6)
7.
その他
(3)
その他・・・専業主婦(2)
その他
保育士
学生
会社員
教員
保育士
会社員
学生
その他
Q7, 子育て中であるか
はい
いいえ
Q7
子育て中であるか
1.
はい
(9)
2.
いいえ
(8)
Q8
子育てで役立つと感じた講義内容(複数回答可)
1.
パネルディスカッション
2.
男性の子育てについてのグループワーク(12)
3.
体験学習
いいえ
はい
パネルディスカッション
(8)
Q8, 今後役立つと感じた講義内容
(6)
男性の子育てについての
グループワーク
体験学習
体験学習
パネル
ディスカッション
グループワーク
Q9
今回の講座への感想,及び今後の講義内容への要望(自由回答)
感想
<一般>
☆ 思ったより,沢山のお父さんの参加と,育児休暇をとられている事実が多いことに驚
きました。希望して来られた方は積極的に育児に関わられる事が多いと思うので,
様々な場で行う事で育児参加というより,家族としてどのように支え合うかという事
を家族で考える場になる様だと良いと思います。
☆ ロールプレイは,実践にも役立つと思いました。育休中の方の体験談は,なかなか聞
くことができないので,とてもうれしかったです。いつもの子育ての話をするママさ
ん達とは,また違った目線での話が聞けて有意義でした。
☆ 実際に子育てしている方が,こんな時が大変,どうすれば良いんだ?と悩まれたり,
子どもの接し方で気をつけていることがあるか,保育所の先生や幼稚園の先生に求め
る事や,とても助かったという事など取り上げて意見を出し合ったりしそれを子育て
や育児に生かせるようにしたいです。学生の方と実習で大変だったこと,悩んだこと,
これが良かったと思った事など聞いたりして意見交換したいです。お父さんが子ども
にしてあげている遊びがあれば聞いてみたいです。
☆ 女性(母親)の日常生活でのストレスや言い分などをリサーチした上で,男性(父親)
と協力できる事,妥協できる事を模索していけると良いと思います。
<学生>
☆ パネルディスカッションやグループワーク,ロールプレイをすることで,知識を増や
す事もでき,情報交換の場になる点で良いと思われた。
要望
<一般>
☆ 『子育て講座』では内容が漠然としているので,父親のための離乳食教室とか開いた
らよいのでは。
☆ ロールプレイや実践的な講座,実際の子育てで役立つ様な実演。もっと父親同士の子
育てに関する疑問や悩みを話し合う時間が欲しかった。
☆ グループワークの時間をもう少し確保して欲しい。
☆ 母親からの立場の体験話が聞きたい。
☆ 妊娠 10 ヶ月体験をもっと詳しく(例えば,階段の登り下り)。
妊娠を経験した人からの男性への注文・子どもからの父親への注文を聞いて発表して
ほしい。
<学生>
☆ 時間をもう少し長くした方が良いと思います。
☆ グループワークは学生,一般の方と分けた方がよいのではないかと思った。ので,次
回は別の内容でよいと思った。
☆ 母親から見て,父親に何をして欲しいと感じているのかを具体的に知れるような内容。
☆ もっといろんな苦労話や子育ての喜びの話を聞きたい。
アンケート結果では,今回の「男性のための子育て講座」に,殆どの参加者の方が大変満
足しているという結果であり,有意義な講座になったのではないだろうか。
子育てで役立つと感じた講義内容については,グループワークやパネルディスカッション
が好評であった。感想についても「ロールプレイは実践に役に立つ。パネルディスカッショ
ンは育児休暇中の貴重な体験談を聞くことができ,良かった。違った目線での話が聞けて有
意義であった」という意見が出た。今回の講座の参加者は,子育て中の父親,母親が多く,
体験学習については,現実の子どもとの会話場面を想定したロールプレイの方が,役立った
のではないかと思われる。
今回のアンケート結果から,今後,子育て中の方が対象であれば,体験談やロールプレイ,
意見交換など,コミュニケーションを取り入れた講座内容が必要ではないかと感じた。また,
子育て中でない方には,子育てに興味を持って頂けるような講座内容を考えていく必要があ
ると思われる。(中浜
感想)
講座を終えて
― 座談会 ―
● 日時:2009 年 2 月 12 日(木)10:00~
● 場所:社会心理学研究室
● 参加者:青野篤子(福山大学 教員)
,野津山希(福山大学 社会連携推進研
究事業スタッフ),佐藤勢子(福山大学 大学院生),田原歩美(福山大学 学
生),三浦さつき(福山大学 学生)
●
座談会の内容
青野:集まって頂いてありがとうございます。昨年の 12 月 20 日に『男性のための子育
て講座』というのを,広島県,ひろしまこども夢財団にも協力してもらって,うち(福
山大学)の主催ということで実施しました。今日は,皆さんが実際にそれぞれの立場で
参加した範囲で,気付いたことを遠慮なく言って欲しいです。参加者が少なかったとい
うのが一つの反省点ではあるのですが,これは予想通りというか(笑)。
野津山:私は,思ったより一般の男性の人が来たなと思ったのですよ。もっと少ないと
思っていたのですけど。育児休暇を取っている方がほとんどだったので,そういう人も
いるのだなと思って。
青野:そこではやっぱり女性が悩むのと同じように,家庭に閉じこもったきりで孤立し
がちだという意見をおっしゃっていましたよね。
佐藤:そうです。「最初の一ヶ月くらいは本当にパニックに陥りました。徐々に生活の
パターン,サイクルが分かってきて,何ヶ月か経ってやっと子どもを見られるようにな
りました」ということを言われていました。「女性が掃除,洗濯,食事の準備などをし
ながら育児をするというのが大変だということがよく分かりました」とも言われていま
した。自分が外に出られないこともあり,閉じこもりのパニックが分かったようです。
野津山:男性の人はどうやって情報を仕入れるのですかね。
佐藤:私のグループの 2 人は,インターネットで自分のホームページを立ち上げたりし
て,ブログも開設していると教えてくださいました。
青野:ブログを作って仲間を募っているわけですね。
佐藤:それでいろんな情報を得たりしているようです。会社との交信もブログを通じて
行っているという方もいました。
青野:女性は子育てに集中してどっぷり浸かってしまうのに,男性の方はむしろ社会と
の接点を求めようと躍起になったり焦ったりと,何か行動を起こしやすいのでしょうか。
野津山:そうですよね。
青野:専業主夫でいたわけではなく子どもが生まれてから家庭に入ったわけだから,仕
事上の情報も必要だということで,社会との接点は常に持っていたいという欲求も強い
だろうし,そのアクセスの方法もかなりあるのかもしれない。
野津山:そうですね。男性の人はずっと子育てしているわけじゃないですよね。女性は
一回仕事を辞めたら,そのままずっと子育てっていう人も多いかもしれないけれど。
青野:その辺は女性も男性から学ぶべき点ではないですか?
佐藤:確かにそうですね。
青野:だけど,穿った見方をすれば,男性は子育てにおいてまだそれだけ余裕があると
いうか?女の人は育児のしんどい部分をやっているのかもしれない。それが次の問題に
なると思うのですよ。女性の言い分と男性の言い分っていうのは違うかもしれない。
野津山:育児休暇を取った男の人は,なぜ育児休暇を取ろうと思ったのですかね。
田原:奥さんの方が稼ぎが良いのじゃないです?
野津山:あ~。女性の方が社会的立場が高いとそうなるのですかね。例えば,私のこと
を考えてみると,自分が就職して,お付き合いしている男性の方が給料が良いとなった
ら,必然的に私が育児休暇を取らざるを得ない状況になるんで,男性が育休を取るって
いうことは,やっぱり女性の方が収入が良いということなどが関係するのかと思います。
佐藤:給料の面もあるのでしょうけど,女性の方がどうしても外せない役職に就いてい
る場合,男性が誰かと代われるような職場だったというような関係もあるんじゃないか
しら。同じくらいの給料だったとしたら,そんなこともあるかも。
青野:日本では育児休業中の給与がなかなか保障されないですよね。だから野津山さん
が言ったように,経済的問題はどうしても第 1 条件としては外せないものでしょうね。
まあ,自分が子育てしたいから是非 1 年間なり半年なり休んで子育てをしたいという人
も,稀ではあっても・・・。
野津山:いますかねえ?
三浦:講師の松本さんは,「自己啓発という意味も含めて育休を取った」ということを
おっしゃってました。
田原:そうでしたねえ。
野津山:へえ~,素晴らしいなあ。
佐藤:私のグループの 2 人の方は,
「1 年ほど経ってやっと子育ての楽しさとか,今で
なきゃやれない子育てというものを感じさせてもらったのはとても嬉しかった」「もう
少しやってみたいと今だから思う」というふうにおっしゃっていました。やはり経験し
てみないと,そういうこともなかなか見えてこないことでしょう。多分,育休を取る時
には相当の不安もあったでしょうし,それをどうやって男の人が解消されたのかってい
うのはすごく知りたいところですね。
青野:ただ,育児休業を取るということは,一定期間仕事をリタイヤするということで
あって,働く人にとってみれば男性でも女性でもそれはデメリットになる。ブランクが
できるということは仕事においてはデメリットですよね。だから,育児休業を取らずに
産後休暇の後すぐに保育所に子どもを預けるという方法もあるわけですよ。
佐藤:ありますね。
青野:そのどちらの制度を利用するかっていうのは個人の考えにもよるし,国がいった
いどういうふうな福祉政策を進めるかというところでも予算措置をどちらにつけるか
ということもあって,これはかなり大きな問題だと思うのですね。それを左右するのは
やはり人々の意識なんですよ。「こんなにも弱々しい生まれたての赤ちゃんを保育園に
預けるの?」という女性自身の抵抗がかなり大きくて,手放せない女性がすごく多い。
だから育児休業が必要だという主張になってくるのですよ。だけど,「子育てというも
のは社会がやるものだ」「何も自分が見なくてもいいのだ」という考え方もあり得るわ
けで,私はここが大きな分岐点だと思うのですよ。日本女性はどちらかを選ばなくては
いけないと思ってますね。育児休業の方を進めるか,保育所を充実させる方向を選ぶか。
野津山:保育所・・・なかなか難しいですよね。都会の方は保育所に入れないし。
佐藤:女性がどっちを希望するのかを現実的につきとめて,それに対応することが大切
なのであって,いくら国が「こうしましょう」と言ったって,それを希望しない場合に
は・・・。例えば,女性は育児休暇を取りたいと。保育所ではなく育児休暇を取りたいと
いうんだったら,これを本当にちゃんと国としてバックアップする必要があるでしょう。
青野:人々の意識はいったいどうなのか。そのニーズだって十分に把握できてない。基
本的に日本は母性神話がすごく強くて,「母が一番」みたいな考え方があります。
野津山:絶対そうなっていますよ(笑)。
佐藤:確かにありますね,それは。現実に,例えば子どもを産んでも,子どもにきちん
と対応できなかったり,ノイローゼになってしまったりということもあるわけだから。
育児すること自体があまり好きではないこともありますよね。楽しいと思えない場合も
あるわけだから。だから,女性にすべて育児休暇を与えるというようなことはどうかと
は思いますけどね。
青野:ただ,半年や 1 年なんてあっという間の出来事で,それだけ仕事のブランクがあ
ったってどうなの?っていう,そういう見方もできるよね。たまたま何か責任のある立
場にいて自分でなければできないことがあったら仕方ないけれども,「半年くらいちょ
っと家庭でゆっくりしてみるか」というそういう機会にもなり得るわけだから。それは
一概に決め付けられない問題かと思います。
野津山:男の人は,育児休暇を取るのが恥ずかしいっていう思いがある人がすごい多い
なと思って。私の知っている男性・若い人も,会社にそういうシステムはあるけど使っ
てる人もいないし,やはり取るのは恥ずかしいと思うし,「女の人が育てるべき」とい
う考え方の人も多いですね。
佐藤:古い古い考え方にとらわれた若者が多いということですかね。
野津山:でも,そういう情報って勉強しないとあまり入ってこないじゃないですか。今
子育てをしている友達にも,
「女性が育てるのが当たり前だからやってる」
「子どもを産
んだら仕事を辞めて子育てをしてパートに出ようか」というような人がかなりいます。
青野:第一子が生まれて仕事を継続する人っていうのは半分以下だからね。制度以前の
問題として,「子どもは女性が育てるべき」っていう観念は一部残っている。だからこ
そ,仕事を追求しようと思ったら「結婚もしないわ!子どもも産まないわ!」みたいな
ことになって,両極端なの。
野津山:そうですね。今結婚しない人多いですもんね。・・・難しい。
青野:子育てをどうするかということから離れて,『子育て講座』の進め方ややり方,
コンセプト,あるいはどういう人たちを対象とした方が良いのだろうか,私たちは世の
中にどういうプログラムを提案していったら良いのかというような話に発展させても
らったらありがたいですが。
野津山:今回は『男性のための』とついていたから,お母さんの参加が少なかったので
はないですか。アンケートの結果では,「母親の立場からの夫に求めること,お母さん
の立場で子育てで困ったことなどの,そういう意見が聞きたい」というのがあったので,
自分の妻にはそういうことを聞く機会がなかなかないのかと思います。他の人がどう考
えているのかを,お互いが知れたら良いのではないかなと思いました。また,「テーマ
を絞ったら良い」という意見もありましたね。
『男性の離乳食のあげ方』とか。
青野:やっぱり,入りやすいところから,呼び込みやすいところからやっていくという
のも 1 つの手かな。
「さあ,話し合いしましょう」とか「ロールプレイをしましょう」
というと敷居が高いかもしれない。
佐藤:そうですね。
野津山:あと,年齢層によっても求めているものが違うから,学生が求めていることと,
一般の人が聞きたいことっていうのは違うんだろうなと思って。グループ・ディスカッ
ションをやっていても,
「分けて欲しい」という意見もありました。
青野:抱っこ体験とか授乳体験っていうのは,中学高校の家庭科などで取り入れて,教
育の中でやっていったら良いと思う。
佐藤:高校の家庭科か何かの授業には育児は入っていると思いますけど。
青野:今回は第 1 回目だったので,誰が来ても良いように様々な組み合わせにしたわけ
なんだけど,特定のニーズがある人にとってみれば,それはもう済んだことだったり,
「もっとこっちの方に時間が欲しかった」っていうのは当然出てくる意見ですね。
野津山:難しいですよね。
青野:ある程度目的や対象を絞るということは,講座の運営では大事なことかもしれな
いね。
佐藤:そうですね。
野津山:あと私が思ったのは,新しく何かをやる時には,事前にどういうことをやりた
いかという調査をして,プログラムを組んだ方が良いのかなって思って。広島文教女子
大学が行った『Nobody is perfect プログラム』では,最初の回のセッションの時に自
分たちが話し合いたいことや,これからやっていきたいことの意見を出し合って,ある
程度やりたいことを決めて,それを何回かに分けて全部取り入れています。そうしたら,
みんなが知りたいことが上手くできるのかなあと。
青野:これは連続講座だからそれが可能だったんですね。来年は是非そういうシリーズ
で考えてください。
佐藤:今の若いお母さんたちはインターネットで意見交換したりして,そういうもので
情報を得ています。育児書にも頼らず,お年寄りの意見にも頼らない。偉いと思って。
野津山:便利は便利ですよね。24 時間つながってるから困った時にすぐ聞けるし。で
もその情報が本当に正しいかどうかは・・・。
青野:そういうものが主流になってきているので,「講座をしますから集まってくださ
い」というようなところにはなかなか出てこないっていう,そういう体質があるのかも
しれない。ネット上の交流と講座などでの交流はどこが違うのかというところは我々も
きちんと検証して,そこをアピールしなきゃいけないですね。
佐藤:各幼稚園が子育て支援をやっていますよね。ああいうところでも,離乳食とか,
音楽鑑賞とか,体を動かすみたいなところはやっぱりよく親子連れで来られる。ただし,
単なるお話を聞くとか,そういうところにはなかなか足を運ばないっていうことがあり
ますね。そして,お父さんと子ども連れっていうのはない。おばあちゃんと子ども,お
母さんと子どもというのがほとんどです。
野津山:私が最近聞いたのは,保育園や幼稚園の運動会などが休日になったので,お父
さんが多く来るようになったとか。
佐藤:そうなんですよ。入学式,卒業式,卒園式,運動会,父の日などの特別行事は全
部夫婦連れ。
青野:「お父さんのための~」っていうのもある。某保育園では,餅つき,サッカー教
室はお父さん用なのよね。逆にお母さんは来ないわけでしょ?だから,性別分業ってい
うのはかなり根強いですね。参加の仕方も「男用」と「女用」とあるみたいな。お迎え
も女の人が圧倒的に多いですから。
佐藤:でも最近は,男の人も会社に行く途中で子どもを連れて行くというのもあります
よね。
青野:ゴミを出すか,子どもを連れて行くか(笑)。関連するんですけど,園がやる子育
て支援と,大学がやる子育て支援,あるいは私たちが心理学を応用してできることって
違うわけですよね。そのためにも,園ではどのようなことをしているのかというのを調
べてみて,「もっとこういうものも必要じゃないか」って私たちが考えて提案していく
のがこれからの課題かもしれないですね。
野津山:そうですね。よく考えたら,園でも子育て相談って無料でたくさんやってます
よね。だから,どう違うのかって。
青野:園での支援は,あくまでも「言葉が出にくいんですけど」とか「食べないんです
けど」っていうような子どもの発達というところでの相談が大半。だけど,子育ての中
の親が抱えている問題っていうのもあるわけだから,そういうのはきっと,どこにも持
っていく場がないのでは。園での子育て相談ではそういうところまでは聞いてもらえな
いと思うんですよ。
野津山:母親のストレスとか夫婦関係とか。
青野:「どっちが面倒見るの?」みたいなところが,本当はあるのですよ。
野津山:それはすごくあると思います。
青野:「女が子育てするもの」っていう考えの下では,それは自分の悩みになってくる
わけでしょう?それは夫婦の問題にはなっていかない。「自分が何とかしなきゃいけな
い」っていうところで子育て相談に行くわけでしょう?その範囲での解決だったら,進
歩がないのですよ。また同じ悩みが繰り返されるのではないでしょうか。
佐藤:結構今の若い人たちって子育て上手ですよ。おしめもちゃんと換えますもの。ご
飯も食べさせますもの。ただ,夜中に起きて見るかっていうと,ちょっとそれはね。夜
泣きをした時に見るのはどっちかというと母親ですよね。
田原:うち違った(笑)。
青野:おっしゃるように,今の若い人たちっていうのは,考え方が新しくなってきてい
るし,実際にもやってるわけですよね。でも,それが社会にぱっと見える形で出てきま
せんね。なんか「男がやっているんだ」というふうには見えてこない。
佐藤:やっぱり「男の人が働いている」っていうイメージが強いのではないですか?特
に三十歳代。がむしゃらに働かなきゃっていうイメージがすごくって,子育てに協力し
てるってイメージの方が少ないかな。
青野:講座や子育て支援を,大学としてこれからいかに発信していくかって時にね,こ
まめに少しずつやってる理解のある若いお父さんたちは実際いっぱいいるとすれば,も
う必要ないわけ?「こんなこと教えてもらわなくても分かってるよ」っていうことなの
だろうか。そこらへんをもう少し見極めたいね。
野津山:そういう人って,どのくらいいるのですかね?私の周りは,逆に昔みたいな人
が多くて。二分化していると思うのですよ。柔軟な男性と,
「子育ては女性がするもの」
という男性と。
青野:それは青野ゼミでも二分化しているよ(笑)。
佐藤:やっぱり「協力しないとできないんだ」っていう世の中の流れがあるでしょ。今
までは「奥さんに任せておけば良い」みたいな,私たちの時代はそういう感覚が強いで
すよね。だから,今の若い人たちは「協力しなきゃ物事はできないよ」と思ってるんだ
と私は思うんですけどね。ゴミ出しをするとか,皿洗いを一緒にするとか。パートナー
の声かけの仕方もあるのでしょうけど。
青野:必要に迫られたら誰でもやるんだよね。相手を愛していればやらざるを得ないん
ですよ。だけど,必要に迫られなくても自分からやるっていうところを,我々としては
期待するわけよね。
野津山:そうですね。
青野:そして,より上手くやるとか,周りにもそういう影響を与えられるというところ
まで期待するんですけどね。
佐藤:でもそういうことを言い続けることによって世の中も変わってくるんであって,
言うことをやめてしまったら絶対に日本の文化としてそういうものは根強く残ってる
ところがあるでしょ。男尊女卑みたいな。だから,こういう講座をして,私も「こうい
う感覚を持った男性がおられるんだ」ということが分かったし,そのことを誰かに話す
と「へえ,そうなんだ」と分かってもらえる。
青野:行政がこういう講座をやる時には,少子化対策っていうのが根底にある場合が多
いんですよね。「個人個人を幸せにしてあげよう」っていうのではなくて,やっぱり国
が滅びないように(笑),とにかく子どもを産んでもらわないといけない。
佐藤:そうだと思います。
青野:本当のことを言ったら「子育て」というのは大人全員が次の世代を育てていくと
いう観点が必要で,自分が子どもを持っていなくても,子どもには関心を持って優しく
接するという,そういう能力とか資質は大事なものだと思うんですよ。だから,こうい
う講座をやる時に「子どもがいるお父さん・お母さん来てください」ではなく,これか
ら親になるかもしれないしならないかもしれない若い人たちや,子どもとは縁のないよ
うな大人のことも忘れないようにやっていきたいという気持ちはありますね。それに,
未婚や非婚で子どもを育てている人も多いですし。また,こういうことをやろうとする
時に,どういうふうに広報したら良いと思いますか?
田原:高校生などにプリント配布とか。高校生で子どもを産む子もいるじゃないですか。
やっぱり若い子に伝えていかないと,結局「女性が育てるんだ」みたいになってくるか
なと。
野津山:一般の子育てサークルもたくさんあるじゃないですか。そういうところにチラ
シを出したらグループで参加してもらえますかね?
青野:広報は 1 つのネックになっていますね。男性だけにターゲットを絞るのは良くな
いですかね?
田原:良いんじゃないです?男性だけっていうのと,女性だけっていうのと。
佐藤:その後に,男女一緒にやるとか。
青野:男性が参加しにくい状況にあるなら,男性をターゲットにして攻めていく必要も
あるかな。私は,「こんなのどこでもやってるんじゃない?」っていうようなことはし
たくないのですよ。他の大学や行政とは違うアプローチができるように,皆さん常日頃
考えておいてください。それでは座談会はこれで終わりにしましょうか。
(三浦
記録・編集)
青野先生が,たくさん語りました。ここにすべてを掲載しきれていないくらい
に語りました。一言しか話せなかった私とは大違いでした。
どのようなことが求められているのか,私たちだからこそできる支援とは何
か,といった今後の展望が少しずつ見えてきた感じがします。こんなふうに意見
交換の場を設けることがいかに大切かということが身にしみました。知らなかっ
たことを学ぶ機会にもなり,とても有意義な時間を過ごせたと思います。
個人的には,私の身近には子育て中の男性があまりいないため,佐藤さんの息
子さんについてのお話は興味深かったです。(三浦 感想)
参加スタッフ
● 主催:福山大学,(財)ひろしまこども夢財団,広島県
● コーディネーター:福山大学 人間文化学部
教授
青野篤子
● 財団事務局:角田寛治さん
● パネルディスカッションの講師:
・広島市在住の父親 松本房俊さん
・千田西保育所保育士 高橋史行さん
・福山平成大学 看護学部 助教 松本智津さん
● 支援スタッフ
・野津山希 (福山大学 人間科学研究科 心理臨床学専攻)
・中浜千明
● 学生ボランティア:青野ゼミ 9 名
● 託児:保育サービス「ぽこ・あ・ぽこ」
福山大学・広島県・ひろしまこども夢財団 共同企画
男性のための子育て講座
~みんなで一緒に子育てしよう!~
福山大学心理学科の社会連携プロジェクト「男女共同参画の視点からの子育て支援に関する実
践的研究」に伴い,下記の通り研修会を開催いたします。内容は,体験学習や「みんなでワイワ
イ」の本音トークなど盛りだくさんです。
参加費等は無料で,託児もご用意しております。是非この機会に,現在子育て奮闘中のパパそ
して未来のパパも「男の子育て」を考えてみませんか?たくさんのご参加をお待ちしております。
•
日時 12月20日(土)13時~16時
•
場所 福山大学社会連携研究推進センター(福山駅北口すぐ)
•
対象
・ 小学校就学前までのお子さんをお持ちの父親
・ 子育てに関心のある男性
•
定員 先着順50名。
•
参加費 無料
•
問合せ先・申込方法
・ お問い合わせ:財団法人ひろしまこども夢財団 〒730-8511 広島市中区基町 10-52 県こども家庭
課内 TEL&FAX(082)-212-1007
・ お申し込み:次ページの申込書を FAX 又は郵送で,上記財団法人ひろしまこども夢財団宛てにお
送りください。
-プログラム-
1.
パネルディスカッション「パパとママで一緒に子育て」
・ 育児休暇を取得したパパの子育て体験談(広島市在住
松本房俊さん)
・ 子育てを仕事にするということ(千田西保育所保育士
高橋史行さん)
・ 母性と父性(福山平成大学看護学科教員
※
2.
松本智津さん)
コーディネーター:福山大学心理学科教員
青野篤子
「男性の子育てについて“みんなでワイワイ”
」グループワーク
・ 男性の子育てについて本音でトーク
3.
体験学習「まずは、体験しよう!」
・ 妊娠体験、模型を使った抱っこ・授乳体験
・ 親子のコミュニケーション「子どもの言い分に耳を傾ける」ロールプレイ
会場地図
福山大学
福山城
キャッスルイン福山
社会連携研究推進センター
福山城
福山駅
山駅
広島方面
岡山方面
「男性のための子育て講座~みんなで一緒に子育てしよう!~」
申込書
氏
名
住
所
〒
-
電話番号
FAX 番号
託児をご希望
の場合
参加者について
1
お子さんの氏名
2
お子さんの生年月日
3
託児にあたり、特に注意することがございましたらご記載
ください。
(該当する項目に○をご記載ください。)
・小学校就学前までのお子さんがいらっしゃる父親
・これから父親になる方
・父親の子育てに関心のある男性
・男性の子育て支援者
・その他(
※参加及び託児の可否については、別途連絡いたします。
)
福山大学・広島県・ひろしまこども夢財団 共同企画
男性のための子育て講座
~みんなで一緒に子育てしよう!~
プログラム
12:30
受付
13:00
開会
13:10
1.パネルディスカッション「パパとママで一緒に子育て」
・有給休暇を取得したパパの子育て体験談
(広島市在住
松本房俊さん)
・子育てを仕事にするということ
(千田西保育所保育士
高橋史行さん)
・母性と父性
(福山平成大学看護学科教員
松本智津さん)
☃コーディネーター:福山大学心理学科教員
14:10
2.「男性の子育てについて“みんなでワイワイ”」
グループディスカッション
・男性の子育てについて本音でトーク
14:50
休憩
15:00
3.体験学習「まずは、体験しよう!」
・妊娠体験、模型を使った抱っこ・授乳体験
・親子のコミュニケーション
「子どもの言い分に耳を傾ける」ロールプレイ
16:00
青野篤子
終了
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