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日本の図面の実情
第 1章 日本の図面の実情 〜 世界標準から取り残された日本の図面 〜 この章では、なぜ日本の図面は世界に通用しないものになっている のか、寸法公差中心で指示された図面の限界を示しながら、現在の日 本の図面の実情を紹介する。 1—1.日本の図面は、なぜ世界に通用しないのか 日本の図面の多くは、まだ、 “寸法公差”を中心とした指示にとどまっ ている。世界の図面の主流は、すでに幾何公差を中心とした指示に変わっ ている。 “寸法公差”を用いて多くの要求を満足させようとする日本の図 面の問題点について説明する。 1—2. “寸法公差”で指示された図面の限界を知ろう “寸法公差”が表している許容範囲(=公差域)がどのようなものなの かを中心に、なぜ寸法公差では部品の幾何的特徴を表せないのか、その基 本的なところを説明する。 第1章 日本の図面の実情 1—1.日本の図面は、なぜ世界に通用しないのか (1) 図面指示は明確か (1/4) 20±0.1 表面B 表面A (a)表面Aと表面Bの寸法関係 20±0.1 15 30 55 15 t2 (b)図面指示 図1.1 単純な形状をした部品の図面指示例 問 い この図面指示で、部品は問題なく製作でき、検査できるか <この図面指示における“基準”についての考え方の数々> a)『この場合は、図面で下にしている表面 A が基準に決まっている。そ れが図面の常識だよ』 b)『面積の大きい方が基準だよ。その方が、部品は安定して測れるから』 c)『この図面指示では、基準は指示していないので、どちらを基準にす るかは、測定者の判断でいいんだよ』 d)『この図面指示では、基準が不明確なのだから、設計にはっきりさせ てもらうしかない』 さて、どれが正しい解釈なのだろうか。 2 1—1.日本の図面は、なぜ世界に通用しないのか まず最初に、 “その図面指示は明確か、あいまいさがないか”について考え てみよう。 図1.1に示すような、単純な形状をした部品の表面 A と表面 B の間に、公差 付き寸法が指示された図面があるとしよう。 この図面指示については、いくつかの疑問が生じる。 その疑問とは、次のようなものだ。 ①部品の高さ方向の寸法20±0.1の基準は、下の表面 A なのか、上の表面 B な のか? <基準の問題> ②その高さ寸法20±0.1は、どのように測って判定すればよいのか? <測定の問題> ③下の表面Aと上の表面Bとは、互いにどのような関係(姿勢関係と位置関係) にあればよいのか? <幾何特性の問題> まず、この図面指示における<基準の問題>について考えてみよう。 この“基準”についての考え方には、左に示すように、4通りほど考えられる。 a)は、設計の現場ではよくある話で、暗黙の了解事項として扱われるケース がある。 b)は、これも図面指示からは全く読み取れる内容ではないのだが、設計、あ るいは検査の常識にされる部分ではないだろうか。 c)も、加工の現場、検査の現場で見受けられるケースであろう。特に、設計 の実情を知っている技術者の間ではありがちなことである。 d)は、この4つの中では、最も妥当で、良識に沿った判断と言えよう。 いずれも、現在の日本の設計と生産の現場では、起こりがちな考えではない だろうか。 3 第1章 日本の図面の実情 (1) 図面指示は明確か (2/4) 寸法基準を明確にする指示方法 20±0.1 20±0.1 (a)通常の指示 20±0.1 寸法の基準を明確にする指示方法には、 “起点記号”を用いた方法がある。 (b)下の面が寸法基準 (c)上の面が寸法基準 図1.2 寸法基準を明確にする指示方法 寸法基準となる面が指示されているだけでよいか? 部品のすわりが不安定なときの測定 例えば、こんな状態のときどうするか 基準面が“中高”で安定性がないとき (a)表面Aが中高だったとき 表面A (b)表面Bが中高だったとき 表面B 図1.3 部品のすわりが悪い状態 いずれの場合も、部品が安定して支持できず、指示寸法を正確には測れない。 4 1—1.日本の図面は、なぜ世界に通用しないのか <基準の問題> まず、“基準を示す方法”についてみてみよう。 図面で寸法の基準を明確に指示する方法は、JIS 機械製図(*1)と ASME の製 図規則(*2)に、“起点記号”を使った方法が示されている。 図1.2に示すように、 (a)の両矢印の寸法線で指示する通常の方法では、いず れの面が基準かは明らかでない。 (b)のように、下側を起点記号にすると、下 の面が寸法基準であることがわかる。また、 (c)のように、上側に起点記号を 付けると、上の面が寸法基準であることがわかる。 単に、寸法基準を明らかにすることだけであれば、この方法でよいかも知れ ない。 (*1)JIS B 0001:2010「機械製図」 (*2)ASME Y14.5 2009 Dimensioning and Tolerancing <測定の問題> 基準とする面が決まった。しかし、次の問題としては、部品の測定方法であ る。この部品は、どのように測定するのか。部品のすわりが不安定なときはど うするのか。 部品を定盤などの上において、指示された寸法を測る場合、基準とする面が 中高になっていたとき、どうするか。 図1.3に示すように、 (a)の表面 A を基準とする場合は、比較的広い面積で支 持するとしても、その面が下側に凸になっていたとき、右の先端の位置は定ま らず、うまく測定できない。 また、(b)のように、表面 B が基準の場合では、支持する面積が小さいので、 そのぶん不安定で、(a) の場合よりもさらに右端の位置は定まらない。 つまり、寸法の基準を決めたとしても、指示寸法20±0.1の検証方法を明確 にしたことにはなっていない。依然として、指示はあいまいなままである。 5