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論文審査の結果の要旨

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論文審査の結果の要旨
論文審査の結果の要旨
氏名:兎 束 哲 夫
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:自励式電力変換器を用いた交流電気鉄道の三相不平衡補償に関する研究
審査委員: (主 査)
教授
中 村 英 夫
(副 査)
教授
泉
隆
教授
小 野
教授
塩 野 光 弘
隆
交流電気鉄道は,三相電力系統から受電した電力を単相電力に変換して車両負荷に供給している。こ
の形態を実現する上では,単相大容量の負荷が三相電力系統に電圧不平衡を引き起こす問題,交流電
気車両での整流方式に伴う単相交流側の力率遅れ対策といったものが必要になる。今日の交流電気鉄
道はいずれもこれらの問題を現実的な範囲に軽減することで実現しているが,その効率向上に対する
研究が申請者の研究である。論文は、緒論から結論までの 5 章からなる。以下、論文の章立てに沿っ
て、研究の意義や審査判断の内容を報告し、論文審査の結果の要旨とする。
第 1 章は緒論として研究の対象や課題について論じている。交流電気鉄道は,三相電力系統から受電
した電力を単相電力に変換して車両負荷に供給している。その際の課題として、新幹線のような大容
量車両負荷をき電する場合、単相負荷が三相電力系統に電圧不平衡を引き起こす問題があり、本論文
の主テーマとしている。このほか、車両における電力の力率問題、整流時に発生する固有の高調波電
流がき電回路の共振周波数との関係により生じる共振問題、さらに、本論文の研究の対象外としてい
るが、誘導障害問題を挙げている。
第 2 章では、交流電気鉄道が電源系統に与える影響について詳細な解析を行っている。まず、新幹
線のような大容量単相負荷の変動により変電所両側のき電回線電力が不平衡となる場合,三相電力系
統の受電側も三相電圧不平衡となって電圧変動が大きくなる問題がある。このため、実際の受電にあ
たっては電力会社との協議によって相間電圧変動率を規定している。申請者は負荷条件に対する三相
不平衡率及び三相電圧変動率の計算方法を示した。
また、サイリスタ位相制御車では,力行時力率が 0.8 程度であり,無効電力に伴う走行時の三相側
電圧不平衡が大きくなるほか、電源周波数の 3 次から 15 次程度の低次高調波電流が大きい特徴を持っ
ている。このため、電力系統において,高調波電流も高調波ガイドラインに基づいて抑制する必要が
あるが、申請者は,実測に基づく高調波電流の値を示した。
第 3 章では、 三相二相変換時の電源系統と交流き電鉄道の協調問題として、申請者が提案・開発し
た電圧変動補償装置(Railway Static Power Conditioner: 以下,RPC)についてその原理と意義につい
て論じている。RPC は、き電側において単相 2 回線の母線にそれぞれ自励式電力変換器を接続し,回
路間の有効電力融通と、き電の無効電力補償を同時に行うことによって三相不平衡補償と電圧変動補
償を実施するものである。RPC は,さらに列車から発生する特別高圧の高調波電流を補償する機能も
持つ。
また三相不平衡問題対応策として既に実用化されていた三相 STATCOM 装置と RPC 装置との比較を行
っている。RPC 装置では,き電回路の無効電力が、き電用変圧器を通過しないため電圧不平衡の解消
が容易となることや,高調波補償機能を有すること,経済性の利点があることを論じている。
さらに申請者は、原理検証のために 200V で動作するミニモデルを試作して,各種負荷に対する補償
状況を試験し、RPC 補償原理の有効性を定量的に確認している。この他,き電回路末端電圧降下補償
機能と高調波補償機能も確認した。
この研究成果に基づき,東北新幹線の延伸時に総容量 20MVA の RPC を提案し,同新幹線の 2 箇所の変
電所に対し、IGBT をスイッチング素子とした RPC と GCT を用いた RPC をそれぞれ設置した。この効果
は、試験列車走行時に現地で測定され、三相受電電圧不平衡率抑制,三相受電電圧変動抑制,高調波
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補償,き電電圧補償に関してそれぞれ RPC が所定の性能を満たすことを確認した。
この成果は、RPC 設置が有効な電圧変動対策となり得ることを示しており、整備新幹線だけでなく,
東海道新幹線にも多数の RPC 設備が建設され,新幹線の安定輸送に大きく貢献している。このことは
申請者の研究の社会的意義の大きさを示すものでもある。
第 4 章では、申請者が提案した不平衡補償単相き電装置(Single Phase Feeding Power Conditioner:
以下,SFC)について、その目的と原理及びミニモデルを用いた検証結果、そして実用後の実績等につ
いて論じている。
日本の交流電気鉄道は商用周波単相交流方式を採用しており,三相電力系統から大容量の単相電力
を受電すると,三相側に電圧不平衡や特定相に電圧変動を発生する。そのため,スコット結線変圧器
等によって三相を2組の単相に変換し,方面別に異なるき電を行って,不平衡や電圧変動を軽減して
いる。
一方、新幹線の車両基地においては配線が複雑なため,車両基地全体を同相でき電することが
有利な場合が考えられる。しかし、単相き電においては受電側の三相電流不平衡率が常に 100%とな
るため,受電点での系統短絡容量が小さい場合は,大きな三相電圧不平衡が生ずるおそれがあり何ら
かの対策が求められていた。このため,三相電力を直接単相に変換してき電する装置として,不等
辺スコット結線変圧器と自励式インバータを組み合わせて,斜辺の単相負荷を二相側で電力が等
しい直角の成分に変換して,三相側の不平衡を補償する不平衡補償単相き電装置(SFC)を提案し
た。
力率 0.95 以上の自励変換式車両を想定した不等辺スコット結線変圧器の場合には、変圧器のき電回
線(S 座)と M 座の電圧ベクトル角度をこれまでの 2/3πからπ/4 と変更した方が,有効電力が M 座と T
座に均等に配分され,三相電圧不平衡の抑制が可能となる。また,M 座と T 座に自励式電力変換器を
付加して両座の無効電力を補償すると共に,両変換器間を BTB 構成で直流接続して有効電力の融通と
均等化を図ることで,三相側の電圧変動補償が実現できる。
実際の SFC から車両をき電する場合には,力行負荷を補償するために M 座側での電力変換器リアク
トル動作,T 座側で電力変換器コンデンサ動作が多くなることから,装置容量を詳細に検討した。そ
して M 座に固定リアクトル,T 座に固定コンデンサを設備することによって自励式電力変換器の容量
を節約できる。この考え方について 200V 級のミニモデルを試作し原理検証を行った。車両としては、
サイリスタ位相制御模擬負荷のものと自励変換式のものを模擬した抵抗負荷のそれぞれに対して SFC
がどの程度補償動作するかを計測した。その結果,4~5%以上生じていた受電側三相電圧不平衡が 3%
程度以下に抑制されることと,変圧器を用いた無負荷励磁突入電流への補償試験によって,装置動作
に異常が無いことを確認した。
この研究成果に基づき 1997 年に開業された新幹線長野車両基地変電所では負荷容量に適応した固
定容量と自意識電力変換器容量を合計した総容量 20MVA の SFC 装置が設備され、所定の性能を満足す
ることが確認されている。
第 5 章は申請者の研究成果をまとめ、結論として整理している。
申請者は、三相二相変換に伴う不平衡問題対策として自励式変換器を用いた RPC 装置を提案し,ミニ
モデル検証を経て,フィールド試験,実用化に至った。現在、新幹線のき電用変電所に設置した RPC
が,規定値以内に三相受電電圧変動を抑制しているほか、高調波補償機能,き電電圧補償機能も所定
の性能を満たしている。このことは、弱電源地域に大きな電圧変動が予測される新幹線を建設する場
合の有効な処方箋を明らかにしたことにもなり、今後、新幹線が導入される個所の電力事情を考慮す
ると、申請者が開発した RPC の社会的貢献は大きい。
また、車両基地においては配線が複雑なため,車両基地全体を同じ相でき電することが有利な場合
が考えられる。申請者は、三相単相変換時の電源系統と交流き電鉄道の協調問題として、三相不平衡
対策を検討し、三相側の不平衡を補償する不平衡補償単相き電装置(SFC)を提案した。申請者は、SFC
について,理論解析および模擬装置による検証試験を行い,有効性を実証した。SFC は北陸新幹線長
野車両基地変電所において実用化され,所定の性能を発揮している。
これらの研究の成果は、交流電気鉄道の三相不平衡補償という種々の問題に対し、申請者が真摯に
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取り組んだ結果として得られたもので、今日の新幹線の安定輸送に大きく貢献している。
このことは,本論文の提出者が自立して研究活動を行い,又はその他の高度な専門的業務に従事す
るに必要な能力及びその基礎となる豊かな学識を有していることを示すものである。
よって本論文は,博士(工学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以
平成28年2月18日
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