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マネーフローと需要からみた金価格の動向

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マネーフローと需要からみた金価格の動向
平成 25 年(2013 年)7 月 3 日
マネーフローと需要からみた金価格の動向
【要旨】
— 2008 年のグローバル金融危機後の米国の大規模な金融緩和とドル安を
受けて、①有事に強い金への投資、②インフレヘッジ目的での金投資、
③通貨の代替資産としての金投資、が増加し、金価格は上昇傾向を辿っ
た。しかし足元では、米量的緩和の縮小観測の高まりにより金価格を支
えてきた金融環境が大きく変化し、金価格は急落している。
— 従来、世界の金需要の大半は宝飾品だったが、グローバル金融危機後は
金地金・金貨および金 ETF といった投資需要と、新興国の中央銀行の購
入が増加しており、需要構造が大きく変化している。近年、中国で金需
要増加が顕著なのは、金取引の規制緩和が進められた影響が大きい。
— 今後、米量的緩和の縮小が意識される中、ドル高基調が継続すると見込
まれ、金価格の上値を抑制するとみられる。インドと中国の宝飾品およ
び金地金・金貨の需要は世界の金需要の約 4 割を占め影響が大きいが、
需要は底堅さを維持しよう。金価格は、グローバル・マネーフローの変
化の影響を受けて下値を探る展開が続くとみられるが、価格低下に伴う
需要増加が金価格を下支えすると見込まれる。
— ただし、新興国の自国通貨安が進んでいる中、当局が自国通貨防衛のた
めドル売り介入を実施し外貨準備高が大きく減少した場合、中銀の金積
み増しペースは鈍化することとなろう。また、中国が景気失速に陥った
場合には金需要の減少につながり、金価格の下押し要因となるおそれが
ある。
1
NO.2013-18
金価格が急落している(第 1 図)。4 月 15 日に 1 トロイオンス=1361.1 ドル、
前日比▲140.3 ドルと、1 日の下落幅としては 1980 年以来の落ち込みとなった。
さらに、6 月 20 日にも急落、その後も下げ足を速め、27 日には一時 1,200 ドル
を割り込み、2010 年 8 月以来の水準に下落した。以下、金価格の動きに大きな
影響を与えているグローバル・マネーフローの変化と、金の需要動向について
みてみる。
第1図:金価格の推移
2,000 ( ド ル /ト ロ イ オ ン ス )
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
09/1
09/7
10/1
10/7
11/1
11/7
12/1
12/7
(注)ニューヨーク商品取引所の先物価格。
( 資 料 ) Bloombergよ り 三 菱 東 京 UFJ銀 行 経 済 調 査 室 作 成
13/1
13/7
(年/月)
1.グローバル・マネーフローと金価格
投資対象としての金は、①有事に強い資産、②インフレヘッジ目的の資産、
の特性を持つ。また、通貨の交換価値があるため代替資産となり得る。これら
の要素を持つ金の価格は、グローバル・マネーフローの影響を大きく受ける。
2008 年以降の金価格の上昇局面について振り返ると、グローバル金融危機後
は投資家のリスク回避姿勢が強まり、有事に強い金への投資需要が増加した
(第 2 図)。また、米国の大規模な金融緩和と基軸通貨ドルへの信認低下を背
景に、ドル安が進行した。こうしたドル安と金融緩和を受けて将来的なインフ
レ懸念が生じ、伝統的にインフレヘッジ目的の資産として買われやすい金の投
資需要が高まった。さらに、ドル不安と欧州債務問題の深刻化によるユーロ不
安により、通貨の代替資産としての金の投資需要が高まることとなった。また、
金はドル建て商品のため、ドル安になると他通貨からみた割安感により買いが
増える。
このような金融環境下で金に対する投資需要が増す中、金価格は上昇傾向を
たどり、2011 年半ば以降は 1 トロイオンス=1,500 ドルを上回る高値圏で推移
した。
2
<グローバル金融危機後の金融環境と金への投資需要>
有事に強い金への投資
投資家のリスク回避
(リーマンショック、欧州債務問題深刻化)
グローバルな
インフレ懸念
世界的な金融緩和
ドル安
インフレヘッジ目的での金投資
他通貨から見た割安感による金への投資
ドルへの信認低下
通貨の代替資産としての金投資
ユーロへの信認低下
(資料)各種資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(㌦/トロイオンス)
第2図:金価格とドル実質実効為替相場の推移 ( 2010年 =100)
2,000
90
米国債
格下げ
ドル実質実効為替相場
(右、逆目盛)
1,500
100
1,000
110
米国 QE1発表
500
120
金価格
(左目盛)
ド
ル
安
ド
ル
高
リーマン・ショック
0
130
2000 01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
(年)
(資料)国際決済銀行資料、 Bloombergより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成
しかし今年に入ると、金価格の上昇を支えてきた金融環境が大きく変化して
いる。米国の量的緩和の縮小観測を受けて、投資家のリスク選好の動きが強ま
る中、4 月 15 日には中国の景気減速懸念とキプロスの金準備売却計画がきっか
けとなり、金価格は急落した。さらに、6 月 19 日にバーナンキ米連邦準備制度
理事会(FRB)議長が量的緩和の年内縮小を示唆したことから、将来的なイン
フレ懸念が後退し、インフレヘッジ目的としての金への投資需要が減少してい
る模様。金の先物・オプション市場における投機筋の買い越し額は急減してお
り、投資資金が流出している(第 3 図)。
<足元の金融環境と金への投資需要>
米量的緩和の
年内解除観測
ドル高
新興国通貨安
過剰流動性を背景とした
インフレ懸念の後退
インフレヘッジ目的での
金投資減少
他通貨から見た割高感による
金投資減少
通貨の代替資産としての金投資減少
新興国景気減速
(資料)各種資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
3
第3図:金先物オプション市場の投機筋ポジションの推移
(千枚)
(㌦/トロイオンス)
400
2,000
金価格
(右目盛)
350
投機筋の
ネット・ポジション(左目盛)
300
1,500
250
200
1,000
150
100
500
50
0
0
03/1
04/1
05/1
06/1
07/1
08/1
09/1
10/1
( 注 ) 1枚 = 100ト ロ イ オ ン ス 。
( 資 料 ) Bloombergよ り 三 菱 東 京 UFJ銀 行 経 済 調 査 室 作 成
11/1
12/1
13/1
(年/月)
2.現物需要の動向
金の現物需要は、近年増加傾向にある。従来、世界の金需要の大半は宝飾品
だったが、グローバル金融危機後は投資需要と中央銀行の購入が増加しており、
需要構造が大きく変化している(第 4 図)。また、国別にみると、近年は中国
の金需要増加が顕著であり、インドと中国という金の選好度の高い国が 2 大消
費国となっている。
(1)投資需要と中国の需要増加
グローバル金融危機後の市場環境の中で金投資への需要が高まり、金の上場
投資信託(ETF)の買い越し額は 2009 年に前年から倍増、金地金・金貨の需要
は 2010~2011 年にかけて大きく増加した。需要全体に占める投資需要の割合は、
2003 年の 13.2%から 2012 年には 35.0%へ上昇している(第 1 表)。
しかし、今年 1~3 月期に金 ETF は売り越しに転じている(第 4 図)。欧米
年金基金等の機関投資家がリスク選好を強めた結果、金 ETF を売却し、株式等
リスク資産へ投資資金をシフトさせたとみられる。金 ETF の残高をみると 4 月
以降も減少が続いており(第 5 図)、金価格の下押し圧力となっている。一方、
金地金・金貨は 1~3 月期に増加している。機関投資家とは対照的に、個人投資
家は金価格下落を機に、金地金・金貨を買い増した様子が窺える。
第4図:世界の金需要の推移
(トン)
5,000
(トン) <四半期ベース>
1,500
中銀
4,000
産業用
1,000
3,000
ETF等
500
2,000
金地金・
金貨
宝飾品
1,000
0
計
0
-500
-1,000
2003
04
05
06
07
08
09
10
11
12
(年)
(資料)World Gold Council資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
4
12
13
(年)
第1表:世界の金需要の内訳(2012年)
トン
1,895.4
43.5%
407.5
9.3%
284.5
6.5%
84.4
1.9%
38.6
0.9%
1,525.8
35.0%
1,246.7
28.6%
935.8
21.5%
279.0
6.4%
533.2
12.2%
4,361.9 100.0%
宝飾品
産業用
電子部品
その他産業
歯科用途
投資用
金地金・金貨
うち金地金
ETF等
中銀購入
合計
第5図:世界の金 ETF残高の推移
( ト ン)
シェア(%)
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
2008
(資料)World Gold Council 資料より
三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2009
2010
2011
2012
2013 ( 年)
(資料) Bloombergより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成
国別に個人の金需要動向をみると、インドでは伝統的に婚礼・祭事用の宝飾
品需要が大きいが、中国でも宝飾品と金地金・金貨ともに 2007 年から増加ペー
スを高めている(第 6、7 図)。これは、生活水準の向上に加え、民間商業銀行
を通じた個人向け金売買解禁(2007 年)や金先物取引開始(2008 年)等、当局
が金取引の規制緩和や環境整備を進めた影響が大きいとみられている。
一方、米国では個人消費が力強さを欠く中、宝飾品と金地金・金貨ともに需
要減少が続いており、中国を大きく下回っている。
(トン)
第6図:インド、中国、米国の宝飾品需要の推移
( ト ン ) 第7図:インド、中国、米国の金地金・金貨需要の推移
700
400
インド
600
350
インド
300
500
250
400
200
中国
米国
300
150
200
100
100
中国
50
0
米国
0
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
10
(資料) Bloombergより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成
11
12
2001
(年)
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
(資料) Bloombergより三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成
12
(年)
(2)中央銀行の金購入の増加
90 年代以降、欧州各国中銀の金売却が相次いだことから、世界の中銀全体と
して金の売り越しが続いてきたが、2011 年以降は大幅な買い越しとなっており、
保有残高は増加傾向にある(第 8 図)。これは、新興国の外貨準備が増加する
中、中銀が準備資産としての金を増やしているためである(第 9 図)。
特にロシアが着実に金を積み増しており、保有量は 2007 年に 450 トンだった
が、今年 5 月時点で 996 トンとほぼ倍増している。また、2011 年以降は韓国、
タイ、フィリピン、メキシコも大幅に積み増している(第 10 図)。新興国が相
5
次いで金保有量を増やしているのは、グローバル金融危機と欧州債務問題を受
けて、外貨準備の大半をドルとユーロで保有することを見直す動きと捉えられ
よう。新興国の中銀の金保有量は足元 4 月も増加しており、5 月以降の価格下
落局面でもさらに買い増している可能性がある。
第8図:世界の中銀の金保有量
(トン)
(㌦/トロイオンス)
第9図:金価格と新興国中銀の金保有量
2,000
38,000
(トン)
7,000
金価格
(左目盛)
36,000
1,500
6,000
1,000
5,000
34,000
32,000
金保有量
(右目盛)
500
30,000
28,000
90
92
94
96
98
00
02
04
06
08
10
( 資 料 ) IMF資 料 よ り 三 菱 東 京 UFJ銀 行 経 済 調 査 室 作 成
0
2000
12
(年)
4,000
3,000
02
04
06
08
10
12
(年)
( 資 料 ) Bloomberg、 IMF資 料 よ り 三 菱 東 京 UFJ銀 行 経 済 調 査 室 作 成
第10図:各国の金保有量の推移
(トン)
200
フィリピン
150
タイ
100
メキシコ
50
韓国
0
07
08
09
10
11
(資料) IM F 資料より三菱東京 UFJ 銀行経済調査室作成
12
13
(年)
3.今後の見通し
今後の金価格についてマネーフローの観点から考えると、米量的緩和の縮小
が意識される中、ドル高基調が継続すると見込まれ、金価格の上値を抑制する
とみられる。ただし、欧州債務問題への懸念が当面燻るとみられ、有事に強い
金への投資が再び増加する局面もあろう。
需要の観点からみると、インドと中国の宝飾品および金地金・金貨の需要は、
世界の金需要の約 4 割を占め、影響が大きい。インドでは、金輸入増加に伴う
経常赤字拡大防止を目的に金輸入規制が強化されていることから、今後需要が
鈍化する可能性があるが、伝統的に金需要が根強いため、底堅さを維持しよう。
中国についても、引き続き生活水準向上を背景に、需要は増加基調を辿るとみ
られる。また、新興国の中銀は、グローバル金融危機と欧州債務問題によるド
ル不安とユーロ不安を受けて、今後も外貨準備運用の多様化を進めるとみられ
る。
6
金価格は、グローバル・マネーフローの変化の影響を受けて、下値を探る展
開が続くとみられるが、価格低下に伴う需要増加が金価格を下支えすると見込
まれる。
ただし、新興国の自国通貨安が進んでいる中、当局が自国通貨防衛のためド
ル売り介入を実施し外貨準備高が大きく減少した場合、中銀の金積み増しペー
スは鈍化することとなろう。また、中国が景気失速に陥った場合には金需要の
減少につながり、金価格の下押し要因となるおそれがある。
以
(H25.7.2
篠原
令子
発行:株式会社
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三菱東京 UFJ 銀行
〒100-8388
経済調査室
東京都千代田区丸の内 2-7-1
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