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作用素環と対称性

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作用素環と対称性
研究紹介
作用素環 と対称性
河
東
泰
之 (数 理科学研究科
)
[email protected]― tokyo.ac.jp
私 の専門 は数学 の中の作用素環論 と呼 ばれ る分野であ
る。 中で も、 フォン・ ノイマ ンが量子力学 に関連 して研
究 を始めた、 フォ ン・ ノイマ ン環 と呼 ばれ るものを研究
で "para"と は「 もどきJを 表す接頭語 で ある。 この種
の一 般化 はしばしば量子化 と呼 ばれている。群 の概念 の
量子化 としては量子群 と呼ばれ るものが非常 に有名 であ
して い る。一般 に代数系 が 2つ あって、片方が もう片方
に含 まれてい る状況 を調 べ ることは、数学 で は昔 か ら行
るが、paragrOupは それ とは別 の概念 である。
われてお り、特 に代数学 でのガ ロア理論が古 くか ら有名
である。 このガロア理論の類似 をフォン・ ノイマ ン環 と
数学 の 問題 として は、普通 の群 で はな い paragroup
が どの くらい あるか、 とい う ことが す ぐに考 えられる。
その部分環 に対 して研究す ることは、 かな り前 か ら行わ
れていたが、 1980年 代前半 のジ ョー ンズの研究 によって、
状況 が劇的 に変化 した。 ジ ョー ンズは この研究 を通 じ、
量子群の理論 を使 うとそのような例 はた くさん作れ るの
だが、 上 で paragrOupと 量子群 は違 う と書 い た ばか り
それ まで数学 の中で も全 く別 の問題 と思われていた、結
なのに、具体例 の作 り方で量子群 の理論 に頼 っているの
で は情 けな い。 そ こで、普通 の群 で も量子 群 で もな い
び目の理論 との意外 な関係 を発見 し、それ によって1990
paragFOupは どの くらいあるか、 と言 う問題が考 えられ
年 のフ ィールズ賞 を受賞 したのである。作用素環論 は無
限次元 の代数的構造 を扱 う理論であ り、結び目の理論 は
素朴 に は、 3次 元空間内での紐 の絡 ませ方 を研究す る理
る。「量子群 で もない」 とい う部分 をきつ く解釈す ると、
これ はあると思 われ るのだが、 これがそうだ、 とい う具
体的 な例 はハ ーグラ ップによる1991年 の例 一つだ け、 と
論 であるか ら、 ジ ョー ンズ以前 にはこの両者 が 関係 して
い るな どとは誰 も考 えて いなかったのである。
言 う状況 が今年 まで続 いていた。
ハ ーグラップはその他 にもこれ らがあ りそうだ、 とい
う候補の リス トを1991年 に示 していたのだが、それ らが
数学 ではある種 の対称性 を記述す る言葉 として、群 の
概念 が極 めて有効であ る ことは古 くか ら知 られてお り、
ガ ロア理論 もその一 つの例 である。 ジ ョー ンズの理論 に
本 当 に存在 す るか どうかを決定す るのは難 しく、進展 が
ない ままだったのである。今年 に入 り、私の ところの修
± 2年 の浅枝雅子 さんが この問題 に取 り組 み、ハーゲラッ
お いて もや は り、対称性 を記述す る代数的概念 が現れ る
プ と共同で、その リス トの中で もっ とも奇妙 に見 えるも
のだが、 それ はもはや普通 の群で はな く、群 を拡張 した
概念 を考 えな くてはい けない ことが、 1987年 オクニ アー
のが実際 に存在す ることの証 明 に成功 した。 これが突破
口になって、paragroupの 理解がおおいに深 まる ことを
ヌによって見出され、paragrOupと 名 づ けられた。 ここ
期待 して い る。
-7-
研究紹介
型 理
=人
口田
長谷川
ryu@鵬
現在使われている多 くの フログラ ミング言語 は型 を持っ
てい る。 た とえば、 Cで い う charと か int*と かで あ
る。私が専門 にしてい る型理論の「型」は これに相当す る。
この「型 」 を数学的 に研究す るのが型理論 とい うわけ
立
.u‐
(数理科学研究科)
tokyO.aclp
プ ログラムの構造 を変 えず に表現で きるはずである。 こ
の ようにプ ログラムの構造 が型 に依存 しない ような状 況
を「パ ラメ トリシテ ィ」 と呼 んでいる。 これは純粋 に計
であるが 、なぜ こんな ものが真面 目に研究す るに足 るの
だろうか。これに答 えるのがカリー・ ハ ワー ドの原理で、
算機科学 の中か ら出てきたアイデアであるが、型 の背後
に数学的構造 が あった ように、パ ラメ トリシテ ィも豊 か
な数学的構造 を持 っている。 このパ ラメ トリシテ ィの導
現在 の型理論 の根本原理 となっている。誤解 を恐れず簡
「正 しいプログラム を書 くことは正 しい証
単 に言 えば、
き出す構造 をプ ログラムの持 って い る根本的な骨組 み と
捉 えて、プ ログラ ミング言語の性質 を調 べ てい こうとい
明 をす ることと同 じであ り、 ひ とたび正 しい証明 が得 ら
れれば、 その証明 をプログラム と考 えて実行す ることが
で きる」 とい う主張が カ リー・ ハ ワー ドの原理である。
うのが、研究 の 目標 で ある。
この とき、証明 をするのであるか ら何 か定理 を証明 して
い るはずで、 この定理 に相当す るのが型である。実際 の
プ ログラ ミング言語 で使われ て い る型 は intと か簡略化
数理科学 としての計算機科学 の 目標 は、計算 とい う操
作 の背後 にある数学的構造 を明 らかにす る ことにあ る。
計算 をす るとい う行為 は数学 にお いて非常 に重要な部分
であるにもかかわ らず、 それを体系的 に扱 お うとす る こ
された もので、 とて も数学の定理 には見 えないが、型 が
プ ログラ ミング言語 に採 り入れ られ る様 になったのには
とは試 みは数学 の主眼 とはな らなかった。今世紀後半 に
なってか らの計 算機 の発展 によって、始 めて計算 その も
こ うい う背景がある。
のを数学的 に研究す る必要性 が明 らか になって きたので
あ る。計算 を通 して数学 を見直す ことは、数学 その もの
現在、主 として研究 してい るのは、パ ラメ トリシテ ィ
とい う概念である。た とえば、 ソー トをす るプ ログラム
を考 えた ときに、整数のソー トで も実数の ソー トで も、
-8-
にも新 しい視点 を提供 して くれ る可能性 を秘 めていると
考 えて い る。
研究紹介
並行 プ ログ ラ ミング言語 の理 論 と実践 の接点 を求 めて
」ヽ 林
直
樹 (情 報科学専攻 )
[email protected]‐ tokyo.ac.jp
プ ログラ ミング言語 の研究 の重要なテーマの一つは、
プ ログラムが正 し くかつ効率 よ く動作す る ことをいかに
側 で並行 プ ログラムの正 しさを保証す る意 義 は逐次プ ロ
グラムの場合 よ りもはるかに大 き く、や りが い のある研
保証す るか とい うことで ある。筆者 は並行 プ ログラ ミン
グ言語 についてそのような研 究 をしてい る。 プ ログラム
の正 しさとい うのは、例 えば、ある人が 2つ の整数の最
究テーマで あるとい える。
大公約数 を求めるための プログラムを書 いた ときに、 そ
のプログラムによって実際 に最大公約数が求められ る事、
そ こで、筆者 のグループで は並行 プ ログラムに関 して
形式的な議論 を行 うための上台 として並行計算 の形式的
モ デル を構築 し、 それに基づいて型 システムやプ ログラ
ム解析 の手法 を開発 して い る。 これ を用 い ると、従来 の
型 システムの ような送 受信 され る値 の種類 の整合性 の保
証 だ けでな く、送受信 のプ ロ トコル の整 合性 も保証す る
あるい は百歩譲 って出力 は常 に整 数 で ある といった こと
である。 そのような事 を保証す るには、プ ログラムをす
べ ての入力 につ いて実際 に実行 してみるわ けにはいか な
ことがで きる。あまりいい例 ではないが、人間社会 での
いので、 プ ログラムの各部分 の性質 とそれ らを組 み合 わ
せた ときに仝体 として どのような性質 が満 た され るか と
取 り引きに例 えると、商品 と現金書留 め用封筒 を送付 し、
代金 を現金で封筒 に入れて返送 して もらう時 に、従来 の
型 システムでは「現金 で といったのに商品券 を封筒 にい
い う ことを数学的に議論す ることが必要 となる。
逐次型言語 に関 しては、上記 の ような議論のために型
システムな どすでに確立 した手法 が存在 し、実際の プ ロ
グラ ミング言語 に用い られて いる。 一 方、並行 プ ログラ
れて送 って きたJと い う間違 い は検 出で きるが、 そ もそ
も「商品だけ受 け取 って封 筒 は捨 て られた」 とい う間違
ミング言語 についてはまだそのような手法が十分 に確立
して い るとはい えず、現在盛 んに研究 されてい る分野で
ではそのような間違 い をあ らか じめ検 出で きる (そ のよ
うな顧客 は最初 か ら相手 にす るな と型 システムが教 えて
ある。なぜ並行 プログラムの正 しさを保証す るのが難 し
いか とい うと、計算主体が複数存在す るためにプ ログラ
くれ る)ほ か、「 こち らは代金 の支払 い を確かめてか ら
商品 を送 るといっているのに、先方 は商品 を確かめてか
ムの実行順序 が一意 に決 まらず、そのあらゆる可能な順
序 にお いて正 し く動作す ることを保証 しなければな らな
いか らである。 また、並行 プ ログラムでは人 間 のグル ー
らでない と送金 しない と言 つている」 とい った状況 (専
門用語 でデ ッ ドロ ック とい う)も 未然 に回避で きる。並
い は検 出で きなかった。 それに対 し、我々の新 しい理論
プ作業 のように互 いにコ ミュニ ケー ションを とりなが ら
仕事 が進 められ るので、逐次プ ログラム と異 な り、 その
行 プ ログラムの実行速度向上 にも、形式的議論 を用 いた
並行 プ ログラムの各部分 の動作 の把握 が役 に立つ。 これ
は、人 間同士の共同作業 をす る場 合 にお互 いの ことをよ
動作 を単純 に入力 と出力 とい う観点か らとらえる ことが
できない点 も難 しさの要 因 である。 しか し、 プ ログラマ
に とって も並行 プ ログラム を正 しく記述す るのは逐次プ
く知 り合 つて いた方 が効率 よ く作業 をすすめ られ ること
と原理的 には同 じである。 この ような研究 をもとに、現
在、並行 プ ログラ ミング言語 を設計 し、実装 をすすめて
ログラムの記述 よ りはるかに難 しいわけであ り、言語 の
い る。
-9-
研究紹介
CP非 保存 の物理
本目 原
博
日
召 (物 理学専攻 )
[email protected]‐ tokyo.ac.jp
素粒子の弱 い相互作用 にお いて は、荷電共役 (粒 子 の
持 つ電荷 の反転、 十←・2-の ことで、Cと 表す)、 空 間反
転 (Parity,P)、 そして Cと Pを 組 み合わせた CPの い
ずれの対称性 も破れて いる。特 に、CP対 称性 の破れ の
起源が、素粒子物理学の「標 準 理論 」 の重 要な構成要素
の一つであ る小林・益川理論 で説明 で きるのか、 あるい
は、他 の理論 の導入 を必要 とす るのか は、現代素粒子物
理 の 中心課題 の一 つで ある。小林・益川の導入 した行列
は、3種 のクォーク (ダ ウンクォーク、ス トレンジクォニ
ク、 ボ トムク ォーク)が 、弱 い相互作用 によって どのよ
うにその状態 を混合 させ るかを言
己述す る。 この行列 に含
まれ る位 相 の存在 が、CPの 破 れ をひ きお こす。
CP
の破れの実験 的研究 は、 そのわずかな破れ (0.1%)が 、
1964年 に中性 K中 間子の崩壊過程 で発見 されて以来、他
の粒子 の崩壊過程 で は観測 されていない。イヽ
林・益川理
論 は、CPの 破れ が B中 間子 (例 えば、 ボ トム クォー ク
と反ダウンクォークか ら成 る粒子 )の 崩壊 にお いては、
K中 間子 の100倍 の大 きさで起 こると予 言す る。
高 エ ネル ギー加速器研究機構 は、 この B中 間子 を大量
に作 り出す ことので きる大 強度 B中 間子生成加速器、 B
フ ァク トリーの建設 を行 って きたが、 いよい よ平成 10年
当研究室では、 この Bフ ァク トリー
CPの
って
の
を使
破れ 検 出を目指 している。
10月 に完成する。
中性 B中 間子 は、反中性 B中 間子 とその状態 を混 合す
る。 この とき、 Bと 反 Bの 両方 か ら到達 しうる CP変 換
の固有状態 へ の崩壊 を考 えると、二つ の振幅の間 で量 子
幅 が等 しくな くなる。 これが B中 間子系 での CPの 破れ
である。 Bフ ァク トリーにおいては、 B中 間子 と反 B中
間子 は、スピン 1の ウプシロン とい う中間状態 をとお り、
一対 として (コ ヒー レン トに)生 成 され る。 B中 間子
自身 はスピン 0の 粒子 で あるので、 Bと 反 Bは 軌道角運
動量 1の 状態す なわち p状 態 にある。その後、 B中 間子
と反 B中 間子 は、お互 い に混 ざ り合 って進むが、ある時
刻 tに おいて、一 方の中間子が B中 間子 であることがわ
か ると、その瞬間 には他方 の中間子 は必ず反 B中 間子 で
ある。なぜ な ら、同種 のスピン 0粒 子 (ボ ゾン)の 波動
関数 は、 p状 態のような反対称 の状態 をとれないか らで
ある。 この きわめて基本的 な量子力学の法則 を使 うと、
●
Bフ ァク トリー におい て、中性 B中 間子 が、CPの 固有
状態 に崩壊す る頻 度 を時 間 (正 確 には、固有時間、すな
わち、 B中 間子 の静止系での時 間)の 関数 として測定す
ることがで きる。
実 際 の実験 において は、平均 150マ イク ロン程度飛 ん
でか ら崩壊す る B中 間子 の崩壊点 を半導体 を使 った高精
度の位置検 出器 で演I定 し、 それを B中 間子 の固有時間 に
ローレンツ変換す る。当研究室 は、 この半導体検 出器 の
製作 を担 当 している。検出器 は平成 10年 夏 に完成予定 で
ある。図 は、BELLE測 定器 と呼 ばれ る Bフ ァク トリー
での測定器 によって、 B中 間子 と反 B中 間子 の崩壊が ど
のように観測 され るか とい うシ ミュレーシ ョンで ある。
我 々の半導体検 出器 はこの BELLE測 定器 の最 も内側 に
ある。
力学的干渉 が起 こ り、 Bと 反 Bの その状態 へ の部分崩壊
剛蜘
e+(1″〕
ELLE
―-10-―
●
研究紹介
表面電子準位バ ン ドを通 る電気伝導
長谷川
修
司 物 理学中卯
[email protected]‐ tOkyo`aoJp
毎 日お世話 になっているパ ソコンやテレビなどの電子
できている集積回
機器 の心臓部 は、シリコン (Si)か ら―
路である。Si結 晶 の 中での電流の流 れ方 を制御 して、
様 々な働 きをさせているので あ る。結晶 の 中の個 々の
Si原 子 は、 4本 の「結合手」 を持 ってお り、最 も近 い
4つ の隣 りあった Si原 子 と結合 して結晶 を形作 ってい
る。 しか し、結品 の最表面 での Si原 子 には、結合すべ
き相手の原子 が片側 に無 いた め、
「結合手」があまって
不安定になってしまう。 そのため、 なるべ くエネルギー
たれてきたが、実験的 にはその存在 を
系 として興味が も―
確認するまでにはいた っていなかつた。 しかし、最近私
たちは、シ リコン表面上に 1原 子層 の銀 と0.19原 子層の
顎 」 と呼
金 を吸着 させた時 に形成 され る「1伍 │× プ
ばれる表面超構造で、
「表面電子準位バ ン ドを通 る電気
的に安定 になるように表面近傍 の原子が適当に並び換 え
て (例 えば、 2つ の最上層 Si原 子がお互 いに結合 して
対 を作 る)、 あまつた「結合手」の数 をなるべ く減ら す
表面超構造 が表面全体 を覆 うと、電気伝導度が著 し く増
大 したのである。光電子分光法 による電子状態の解析 の
結果、 この電気伝導 の増大 は、 シ リコン基板 の表面空間
電荷層によるものではな く、フェル ミ準位 を横切 る金属
的な表面電子準位バ ンドが新 しく形成さることが原因で
あ る ことをつ きとめた。 この研究1成 果 は、 1原 子層 の
「厚さ」の 2次 元電子系の輸送特性 の研究 の端緒 を開い
たばか りでな く、原子 レベルの人工微細構造 を利用す る
次世紀のエレク トロニ クスデバ イスの研究 につながる一
ように結晶自身が 自然 に工大する。 このようにして、表
面近傍には結晶内部では見 られない特殊 な原子配列 であ
る「表面超構造Jが 形成 される。 そうす ると、電子状態
も結晶内部 とは異なるため、電流 の流れ方 も結晶の最表
面では異なる。 これが「表面電子準位バ ンドを通 る電気
伝導」で ある。
この種の電気伝導は、 いわば表面の最上 1原 子層だけ
を流れるも
^■
伝導」 を実験的 に確認す ることに成功 した。下図 は、 こ
の表面超構造の走査 トンネル顕微鏡写真である。一部 に、
原子配列構造模型をはめ込んである。シリコン表面上に、
金 と銀原子が特徴的な規則性 をもって並んでい る。 この
里塚になるものと考 えている。
究極的な 2次 元電子系を実現す る物理
atOms
Ag atoms
Au adatoms
S(111)ν 7× v衝 ―(AgttAu)表 面超構造 の走査 トンネル顕微鏡 (STM)写 真。原子配列模
ξ ―
Ag表 面超構
型 もはめ込んである。Auの 量がやや不足 しているために、Si(111)― √ × ャ
造 が右上お よび左上 に一部残存 している。
―-11-
研究紹介
モザイク CCDカ メラに よる矮 小銀河の観測
岡 村
定
矩
(天 文学専攻)
[email protected]‐ tokyo,ac.ip
宇宙 を構成す るいわば ビル ディングブ ロ ックである銀
河 は、明 るさ (質 量 )で 4桁 以上 の範囲 にわたって存在
近距離の銀河群や銀河 団 は、空の上で大 き く広 がって見
える。 それを観測す るには広視野の望遠鏡 と検出器 が必
要 である。 このため、 つい最近 まで、大型 の写真乾板 が
す る。厳密 な境界が定義 されているわけではないが、太
陽質量 の109倍 程 度 よ り大 きな 質量 を持 つ もの を巨大
矮小銀河の観演1に は欠かせ ない ものであった。
我 々の研究 グループは国立天文台 と共 同で、CCD素
(な い しは通常 )銀 河、それ よ り小 さい ものを矮小銀河
(lk× lk画 素 )を 40個 並 べ たモザイク CCDカ メ
(図 3)を 製作 した。 これ をカナ リー諸島 にあるイギ
と呼 んでい る。楕 円型、SO型 、渦巻型 な どよ く知 られ
た形態分類 は、巨大 (通 常 )銀 河 の分類体系 である (図
子
矮小銀河 は楕 円型 をした ものが圧倒的多数 を占 め
るが、巨大 楕円銀河 と比 べ ると面輝度 が低 く、半径方向
リスの回径 4.2mの 望遠鏡 につ けて、 3億 光年 の距離 に
ある、メ ンバ ー数 の多 い「か みのけ座銀河 団」 の矮小銀
の輝度分布 の形 も異な り、両者 は単 に質量 が異 なるだけ
でな く構造的 に違 う種類 の天体 であることがわかってい
河 を観測 した。CCDの 高感度 のおか げで、5000万 光年
の「 お とめ座銀河団Jを 写真 で観測 して到達で きる限界
そのほかに、矮 小銀河 には星形成活動 がパ ッ
よ り暗 い銀河 まで観測 が 届 いた。 また、 モ ザイク CCD
チ状 に見 られ る不規則型 や面輝度 が非常 に高 いが小 さ く
コンパ ク トなタイプ も見 られる。矮小銀河 は、銀河群や
カメラの広視野のおかげで、多数 の銀河 を観測できた。
その結果、 お とめ座銀河団 とかみのけ座銀河団 とい う、
銀河団中 にあることはわかってい るが、一般 のフィール
ドにどの くらい存在す るか はよ くわかって いない。個 々
二つ のかな り異なった宇宙環境 にお ける矮小銀河の性質
ラ
1)。
る (図
2)。
●
を、統計的 な取 り扱 いが で きるほど多数 のサ ンプルに基
づいて比較す ることが初 めて可能 になった。最初 の解析
の矮小銀河 の構造 とともに、矮小銀河全体 としての存在
量、空間分布 な どの存在形態 は、銀河形 成、進化 の理論
か ら、両者 に属す る矮小銀河 は、集団 としては、 ほ とん
ど同 じ、大 きさ、 明 るさ、面輝度 (の 分布 )を 示す こと
がわかった。 この ことは、矮小銀河 の構造 は、主 に内在
的な メカニ ズムで決 まり、銀河同士の相 互作用 (銀 河ハ
を検証す る重要な観測 デー タである。
これ らの矮小銀河 はもともと暗 い (青 色域 での絶対等
級 で -16等 級 か ら-12等 級程度 )の で、近距離 の もの し
か観測 で きない。矮小銀河 に関す る我々の知識 のほ とん
ラスメン ト 1と 呼 ぶ)は 二 次的な影響 しか与 えない こと
どは、銀河系 の まわ り300万光年以内 に広 が る局部銀河
群 と、銀河系 に近 い方 か ら二つ の銀河団 中 にあるものか
を示唆す るように見 える。巨大銀河 に対す る数の比、銀
河 を構成す る星の情報 で ある「色」の解析 な どが進行中
ら得 られて いる。 この二つ はいずれ も約 5000万 光年以内
にあ り、銀河団 としてはメンバ ー数 があまり多 くない。
で楽 しみにしている。
●
eい
゛。
ELLiPTiCAL NESULAE
′
卜し
5?\RtsLs
F
J′
````ilili'''11ilを
図
1
巨大 および通 常銀河 の分 類体 系 と して有 名 なハ ッブルの音叉図
―-12-―
研究紹介
,
・
・
・
細
≠ 13・ : ・
=●
―
│≠ 9
:・
潟
-0-
―
十
"
図 2
お とめ座銀 河 団 中 の矮 小楕 円銀河 (横 線 で挟 まれ番号が つ い て い る もの)。 N4406と N4374と ラベ ルのつ
い てい るの は、 同 じお とめ座銀 河 団 中 の 巨大楕 円銀 河。両者 の規 模 の違 いが よ くわか る。 #13と N4406
の間 にあるの は横 か ら見 た通常渦巻銀河。 (写 真観測 による もの)
図
3
東 大 一 国立 天文 台 グルー プが製 作 したモザ イ ク CCDカ メ ラ。 lk×
lk画 素 の CCD素 子 (画 素 サ イズ 12ミ ク ロン角)を 8個 × 5列 で40
個 並 べ て あ る。 素 子 間 には 隙 間が あるが、 市松 模様 の よ う に ず ら し
て撮影 した 4枚 の 画像 を つ な ぎ合 わせ て一枚 の大 きな合成 画像 をソ
フ ト的 に構 成 す る。 画像 合 成 や合 成 した画 像 か ら天体 を 自動検 出、
分類、測定す るソフ トも我 々の グルー プで開発 した ものである。
-13-
研究紹介
オーロラを支配する宇宙空間プラズマ中の電荷分離
山
本
隆 (地 球惑星物理学専攻 )
[email protected]‐ tokyo.ac.jp
オ ーロラ物理の従来の教科書 は、オー ロラ発生機構 に
つ いて、通常次 の ような説明 をして い る。 (こ こで は、
て巨視的沿磁力線電流 が発生す る。 またプラズマシー ト
のイオ ンはプラズマ波動 による散乱 を受 け、磁力線 に垂
″
直方 向 に拡散 し、 プラズマ を分極 (過 程 B″ )し 、沿磁
力線電流 を発生 させ る。空間的 に構造化 したイオ ンビー
ムに″A″ 、″B″ が作用す ることで局所的に強 い上向き電
電離層 内の原子分子の発光の問題ではな く、磁気圏 か ら
電離層 へ 降 り込 んでオー ロ ラ発光 を引 き起 こす 1-10
keVの エ ネ ル ギ ー をもつ オー ロラ粒子 の磁気 圏内 での
発生 につ い て議論す る。)「 地球磁気 圏 の磁力線 は、真昼
― 真夜中子午面で、およそ図 1の ような形 をして い る。
夜側 のプラズマ シー トは太陽風 の影響 で彗星の尾のよう
流が流れ、付随 して発生す る沿磁力線電場 によってオー
ロラ粒子 (電 子)加 速が可能 になる。」
さらに、磁気圏 プラズマ 中 の分極 は、電離層 まで含 め
た磁力管全体 に電界 を生 じさせ るので、オ ーロラの時間
に長 く引 き伸 ばされている。南半球の地表か ら出発 した
磁力線 が北半球 の地 表 まで つ ながって い る部分 を閉 じた
磁気圏 と呼 ぶ。閉 じた磁気圏 より外側 では、地表 か ら出
空間的発展
(オ
ーロラ動態)の 基本的駆動力 となる。上
記 の分極 過程 A、 B以 外 に、断熱的近似の破れる領域 =
磁気中性面で起 こる、 ローレンツカ による分極 (″ C″ )が
発 した磁力線 は太 陽風磁場 につなが ってい る。閉 じた磁
気圏表面付近の磁力線 は、太陽風磁 場 につながった り、
あ り、 これは、オーロ ラサブス トーム の開始 とともに出
″
現す る オ ー ロラ Fサ ジ "=「 ォー ロラが渦 を作 りな
反対半球の地表 につながった りして、不安 定 に再結合 を
繰 り返 し、そこでプラズマ粒子力油日
速 されて磁力線 に沿 っ
が ら、西方 に波状的 に伝搬 してい く現象」 を引 き起 こす
と考 え られ る。り 他 にオ メガ バ ン ド、 パール、 リップ
て極域電離層 に降 り込み、オー ロラ (地 上か ら見た とき
カーテン状 に見 える)を 発光 させ ることが 出来 る。」
ル な どの特異的なオーロラ動態 (図 2)も 分極 A及 び B
によって説明 で きることが計算機 シ ミュ レーションによ
ところが、最近の人 工衛星 のデータ解析 の結果、オー
ロ ラ帯 (オ ーバル)の 高緯度側境界 のオー ロラで さえ磁
てわか っ て きた。9,0少 な くとも、オ ー ロ ラ現 象 に関
していえば、アルフヴェン波な どの磁気流体波動 を基本
″
的物理過程 と考 える 波 動的 (古 典的 ?)描 像 "よ りも
プラズ マ粒子群 に起 こる電荷分離 (A― C)を 基本 に置
″
く 粒子 的描像 "に 基 づ く方が、現象 をよ り的確 に理 解
で きると言 えそ うである。
力線再結合 で加速 生成 されたイオ ンビーム よ り低緯度側
に位置 す る ことが わか り、。 また、 巨視 的沿磁力線電
流 が上 向 き (電 離層 へ降 り込む電子流 に対応 )に なって
い る領域 (夕 方側オーバ ル)で 、オー ロラ粒子 (電 子 )
の 出現頻度 が極 めて大 き くなる ことが統計的 に見 い出 さ
れた。の これ らの事実 は、先 の説 明 がオー ロ ラ発生 の
本質 には及 んでいない ことを意味 して い る。 そこで我 々
は、磁気圏内のプラズ マ 中の分極 (電 荷分離 )過 程 が、
オー ロラ発生 に とって より重要 であるとい う観点か ら、
1)Fukunitti et al.,J.Geophys.Res.,`は
11235(1993)
2)Newell et al.,J.Geophys,Res.,Iθ l,2599(1996)
3)Yamamoto et al.,J.Geomag.Geoelctr.,イ 9,879(1997)
次 の ような理 論 モ デル を提案 してい る。ジ「磁気圏尾部
でカロ
速 されたイオ ンを主要なエ ネル ギー源 とす るプラズ
マシー トはプラズマ対流 によって変形 し、非一様磁場 に
よる粒子 の ドリフ トのため分極する。この分極″A″ によっ
4)Yamamoto et al.,J.Geophys.Res.,労 ,13653(1993)
5)YamamotO et al.,J.Geophys.Res.,ヱ θ2,2531(1997)
6)Yamamoto et al.,J.Geophys.Res.,99,19499(1994)
neutral point
colulected to solarwind
/
図
●
1:地 球磁 気圏 の真昼 ―真夜 中子午断面
―-14-
●
研究紹介
A&B
←
C
AI―
←
,、
●
←
←
。。
一.
い
ヽ
●
④ pearl
⑤ ripple
B
←
A
①②③
discrete aurora
surge
omega band
e
6回i
m
0
t
︲
0
ヽ
図 2:極 域電離層面上のオー ロラ動態 とプラズマ中の電荷分離 (A―
0
-15-―
C)の 対応
研究紹介
生物活1生 物質 の分子 セ ンシ ング
菅
原
正
雄
ヒ学専攻)
[email protected]‐ tokyo.ac.jp
梅
澤
喜
夫
“
ヒ学専攻)
[email protected]― tokyo.ac.ip
“
生体膜及び細胞 内 に存在す るレセ プター と呼 ばれ る一
群 の蛋 白質 は、ア ゴニ ス ト (イ オ ン・ 分子 )を 特異的 に
うカルモジュ リン蛋 白及 び (iii)イ ンス リンを特異的 に
結合 してその情報 を細胞 内へ伝達す るイ ンス リンレセプ
認識 して、情報 の変換/増 幅 を行 う。生体膜 に存在す る
レセ プター蛋 白によるア ゴニ ス トの認識 は、膜透過性 の
ターを対象 としている。ア ゴニ ス トとの結合能 を求 める
binding assay lま 信号伝達 の最 も ``上 流 ''で の化 学選択
性 を与 えるが、我 々 のアプ ロー チは、 よ り“下流 "で 選
変化、能動輸送、膜電位 の変化、 自己 リン酸化 な どの膜
を横切 る信号 の伝達 (trammembrane signaling)を 引
き起 こす。 さらに、情報変換 された信号 の細胞内部 へ の
伝 達 (intracellular signaling)に も レセ プ タ ーが 関 わ
る。 これ らンセ プター蛋 白 とア ゴニ ス トとの相 互作用の
程度 (選択性 )の 評価 はこれ まで、binding assayと 呼
ばれ る方法 によリレセ プター とア ゴニ ス ト間 の結合能 の
相対的大 きさを知 ることや、ア ゴニ ス トが レセ プターの
認識、情報変換機能 を活性化 す る程度 (potel■ cy)を 主
として細胞 レベルで放射 l■ 元素や蛍光色素 を用 いて評価
し、活性化 に必要なア ゴニス ト濃度 を指標 とす ることに
よってなされて きた。最近、我 々 は、化学量論的 に組成
及 び レセ プター数 が制御 された人工 系 において、 レセ プ
ター蛋 白がア ゴニス トに対 して示す、認識、情報変換/
増幅能 の大 きさ “その もの"を 、相 互 に比 較 が可 能 な よ
うに、定量的 に求 める新規分子 セ ンシング法 を構築 し、
それ らを用 いてアゴニ ス ト間 の情報伝達能 を定量的 に比
択性 をも込みにして求 める ことがで きる分析法で ある。
それによ り、ア ゴニス ト認識能 に加 えて、情報変換 /増
幅能 その ものの大 きさを用 い るため、 より生理適 合性 を
有す る。その一例 として、ア ゴニ ス トによって活性化 さ
れたグル タ ミン酸 レセプ ター イオ ンチャ ンネル蛋 自の開
チ ャンネル を透過す る全 イオ ン量 を新 しい指標 とした場
合、 3種 の典型的ア ゴニ ス ト間 の選択性 の相対 的大 きさ
は、binding assayに 基 づ く結合能 に比 べ て著 しく (約
100分 の 1に )縮 まって い る こ とを見 い 出 した。 カル シ
ウム情報伝達系 につ い て も初段 の Ca2+の カル モジュ リ
ンヘの結合 のみではな くそれに引き続 くターゲ ッ ト蛋白
(ペ プチ ド)と の蛋 自質 /蛋 白質相互作用 の誘起 まで を
込 み に した assay系 を創案 し、 それ を用 い て情報 の伝
達 が Ca2+以 外 にも Sr2+、 希 土類金属イオ ン、Pb2+、
cd2+な どによって も引 き起 こされる ことを見 い出 した。
このよ うに、情報伝達の より下流 での化学選択性 をも含
較す る ことを行 っている。具体的 には、生体系の最 も重
要 な情報伝達系 に関 わ る レセ プターであ る (i)大 脳 で
の神経情報伝達 に関わ るグル タ ミン酸 レセ プターイォ ン
生体機能の更 なる理解 に役立 つ とともに新 しい化学分析
チ ャ ンネ ル 蛋 白、 (ii)細 胞 内 カル シウム情報伝達 を担
法 の概念 を与 えてい る。
-16-
●
めて評 価 で きる assay法 はまだ 始 まった ばか りで あ る
が、binding assay及 び細胞 レベルでの研究 とともに、
●
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