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パキスタンの発展に向けて

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パキスタンの発展に向けて
パキスタンの発展に向けて
パキスタンに対する円借款
(ODA)
業務の概要
アジア地域を含む世界の平和と安定に向けて
重要な鍵を握る国―パキスタン。
世界四大文明の一つであるインダス文明が発
祥した地として知られるパキスタン・イスラム共和
国は、1947年に建国されました。世界人口の3
日本とパキスタンとの関係
分の1を占める中国・インドの2大国を擁するアジ
ア地域にとって、平和と安定の観点から、パキス
経済関係
タンは重要な立場にあります。
インドとの関係について近年では積極的な対
在留邦人数
850人
話に転じ緊張緩和が進んでいます。また2001
(2005年現在)
年以降の国際的なテロ対策においても
「穏健
で近代的なムスリム国家」の構築に向けて着実
PAKISTAN
に改革を進めつつあります。一方で、国内にお
ける貧困削減と経済成長の加速が依然として
課題となっています。
わが国とは1952年に外交関係を樹立し、
これま
で政府間・民間を問わず積極的な交流や協力
を進め、
緊密な関係を築いてきました。世界第6位
となる約 1 億6,000万人の人口を抱えるパキスタ
その他
19%
貿易額
魚介類6%
その他の原料品
8%
157
億円
(2005年)
綿糸
他繊維
製品
59%
パキスタン
からの輸入
革製品
8%
ンの発展は、
日本はもとより世界の平和や経済
発展にとって重要です。
こうしたパキスタンの 現 状や課 題を踏まえ、
パキスタン向け円借款の内容や今後の方向性
パキスタンの人々の暮らし
を紹介します。
貧 困 比 率
1日1ドル以下で
生活する人々
17%
(2002年)
0%
CONTENTS
INTRODUCTION
04
パキスタンの今後の発展に向けて
02
電
化
72.3%
06
運輸セクター
水セクター
電力セクター
TOPICS
1日2ドル以下の人口は73.6%となり、貧困
ラインの上下25%の所得層に人口が集中
している。
出典:世界銀行発行「WORLD DEVELOPMENT INDICATORS」
日本におけるパキスタン支援の必要性
円借款支援方針
円借款供与実績
パキスタン向け円借款事業実績
73.6%
(2002年)
02
日本とパキスタンとの関係
パキスタンの人々の暮らし
パキスタン基礎データ
パキスタン向け円借款の概要
100%
1日2ドル以下で
生活する人々
10
最も電化率が
低いバロチスタン州
率
(2005年)
26%
主要都市では電化されているが、地方にお
いては通電していない地域も多く地方格差
が大きい。
出典:パキスタン国営送電会社「Power System Statistics」を
元にJBICにて作成
パ キスタン基 礎 データ
正 式 国 名
パキスタン・イスラム共和国
その他
13%
化学品5%
パキスタン
への輸出
面
積
主 要 言 語
79.6万km
ウルドゥー語(国語)
英語(公用語)
2
貿易額
電気機械
11%
1,669
億円
自動車
及び
同部品
40%
2
日本 37.8万km
首
(2005年)
都
独 立 年 月
イスラマバード
一般機械
31%
人
JAPAN
口
G D P(国 内 総 生 産)
1億5,540万人
902億ドル(世界第51位)
(世界第6位) ※外務省2005年
日本 1億2,770万人
(世界10位)
在日
パキスタン人数
8,610人
(2005年現在)
※総務省統計局2006年
日本 4兆7,990億ドル
(世界2位)
出典:IMF、World Economic Outlook
Database, April 2005
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2
005/01/data/index.htm
通 貨 単 位
主 要 産 業
パキスタン・ルピー
農 業・綿 工 業
経済協力関係
外交関係樹立
1952年
1960年代∼ ODA供与開始(円借款開始は1976年)
2005年
日・パキスタン共同宣言
1 9 4 7 年8月
気
候
国土の大部分は亜熱帯の乾燥気候。北部は山岳気候。南部の平野は
温帯モンスーン気候。降雨は雨季に集中し、冬季にはほとんど降らない。
(小泉首相(当時)
、
ムシャラフ大統領・アジーズ首相)
「風の谷」はパキスタンに実在!?
利用可能な水資源(1人当たり)
345m /年
3
(2004年)
※日本の10分の1
出典:世界銀行発行「WORLD DEVELOPMENT INDICATORS」
乳幼児死亡数(1,000人当たり)
※日本は4人
101人
ア ニメーション 映 画 監 督として 世 界 から評 価を受けている
宮崎駿監督の代表作「風の谷のナウシカ」
(1984年公開)。その
「風の谷」のモデルとなったのは、
パキスタン北部の小さな町だという
説があるのをご存じでしょうか。
その町の名は、
「フンザ」。藩王
国として栄えた「フンザ」は不老長
寿の桃源郷として知られ、
日本から
の観光客やバックパッカーにも人
気のある秘境の一つ。1991年に
ウルタル峰で登山中に落命した登
山家の長谷川恒男さんの遺志で
開校した「長谷川メモリアル・スクー
ル」もあり、親日的な雰囲気に訪
問を繰り返す旅行者も多くいます。
(2004年)
出典:世界銀行発行「WORLD DEVELOPMENT INDICATORS」
失
業
6.5%
率
(前年度7.7%)
(2005−06年)
出典:外務省ホームページ
識
字
53%
率
(2005年)
出典:外務省ホームページ
宗
教
イスラム教
サッカーボール
世 界 中で使われているサッカーボールの 7 割を生 産しているの
がパキスタンです。分 離 独 立 前 のインドがサッカー発 祥 地である
イギリスの植民地だった名残で、現在もパキスタン東部のシアールコートとい
う街が中心となって製造されています。
しかし1990年代、貧しい家庭の児童労働によるボール縫製が批判の的
になりました。98年には国際サッカー連盟がワールドカップ大会では児童労
働により製造されたボールは使用しないと決定したほど。以降、世界的な
児童労働排除に取り組む実践例となりました。
現在ではサッカーボールの売り上げをパキスタンの子どもたちの学費援
助や生活保護の一部とする運動なども世界各地に広がっています。
※人口の約9割
03
パキスタン向け円借款の概要
南アジア地域において第二の人口を抱えるパキスタンの安定と発展は、
アジア地域のみならず、世界の平和と経済発展にとって重要なものです。
日本におけるパキスタン支援の必要性
2000年9月、国連ミレニアムサミットが開かれ、21世紀にお
力していく決意を盛り込んだ「日・パキスタン共同宣言」
を採択。
ける課題をもとに「ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium
両国共通の課題としてテロ対策や軍縮・核不拡散とならん
Development Goals )
」がまとめられました。わが国もMDGs
で持続的発展を盛り込んでいます。
達成に向けた努力とその実行の必要性を確認しています。
今後パキスタンが発展するためには、貧困削減や社会
05年4月には小泉首相(当時)がパキスタンを訪問し、
アジ
経済基盤の整備などの面で援助を継続していくことが鍵と
アの安全、安定および繁栄の確保に向けて両国が緊密に協
なっています。
円借款支援方針
2005年2月、
わが国はパキスタン国別援助計画を策定し、
■海外経済協力業務実施方針・対パキスタン支援重点分野
「人間の安全保障の確保と人間開発」
「健全な市場経済の
発達」
「バランスの取れた地域社会・経済の発達」を重点分
野としました。
「人間の
安全保障の確保と
人間開発」
国際協力銀行(JBIC)では、同年4月に海外経済協力業
務実施方針として上記の3点を対パキスタン支援の重点分
野とし、
さらに「ジェンダー」
「環境」
「ガバナンス」を分野横断
的な問題として確認しました。この2つの方針とパキスタン政
府の開発政策を踏まえ、
パキスタン経済の成長路線を維持し
て貧困を削減し、地域間・男女間格差を是正、社会的に安
定した環境を醸成することを目標にしています。
さらに、両国政府のハイレベル協議において確認した開発
分野横断的な問題
「ジェンダー」
「環境」
「ガバナンス」
「健全な
市場経済の
発達」
「バランスの取れた
地域社会・
経済の発達」
優先度を踏まえ、運輸、水および電力の分野における基盤イ
ンフラ整備を主要対象セクターとしています。
主要対象
セクター
04
運輸
水
電力
円借款供与実績
パキスタン向け円借款承諾額(2006年10月末時点)は、
残りの約3割は商品借款であり、
深刻な国際収支困難に陥っ
インドネシア、中国、
インド、
タイ、
フィリピン、ベトナム、
マレーシ
た場合に両国間で合意した商品リストに基いて購買するた
アに次ぎ第8位となっています。
めの資金となっています。2006年1月に承諾された震災復興
このうち、約7割がプロジェクト借款であり、一定の地域に
緊急支援借款も、商品借款として位置づけられています。
道路、電力設備、灌漑施設などを建設・運営するプロジェクト
分野別に見ると、従来は電力および運輸が多数を占めて
に必要な資機材や労働力を購入するための資金として使わ
いましたが、
90年代以降は上水道や教育といった社会的サー
れます。
ビスや灌漑などにも及んでいます。
■パキスタン向け円借款累計承諾額の推移
(百万円)
商品借款
217,185(32%)
166,683
150,000
147,222
125,000
100,000
■分野別承諾状況(2006年10月末時点)
(2006年10月末時点)
113,874
105,400
社会的サービス
32,485(4.8%)
111,485
通信
17,262(2.5%)
75,000
50,000
25,000
0
プロジェクト借款
462,242(68%)
1976∼1980
1981∼1985
1986∼1990
1991∼1995
1996∼1998
34,763
農林・水産業
14,000(2.1%)
2001∼2006
鉱工業
34,205(5.0%)
(年度)
円借款とは
679,427
(百万円)
電力・ガス
167,380(24.6%)
運輸
163,568(24.1%)
灌漑・治水・干拓
33,342(4.9%)
政府が開発途上国に対して行う援助、
すなわち政府開発援助=ODA(Official Development Assistance)のうち、低利で長期の
緩やかな条件で開発資金を貸し付けるものです。円借款の実施を担当しているのがJBICです。
ODAの種類
する「二国間援助」と、国連をは
ODA
じめとする国際機関を通じて援助
政府開発援助
ODAは、開発途上国を直接援助
する「多国間援助」からなってい
二国間援助
贈 与
技術協力
多国間援助
(有償資金協力)
円借款
無償資金協力
ます。二国間援助は円借款(有
償資金協力)、返済義務を課さず
自助努力を支援
少ない負担で大きな効果
に開発資金を供与する「無償資
円借款は、返済期間や金利などの負担が軽く設定されていますが、返済
を伴う援助です。開発途上国は円借款の資金を無駄なく活用し、経済や
社会の開発と発展を早く実現するよう努力しており、
自助努力の後押しと
なっています。
円借款は、開発途上国から資金が返
済されることで、多くの資金を必要とす
る事業に対して、少ない国民負担で支
援を行うことができます。
金協力」
と、開発途上国の自立を
技術的に支援する「技術協力」
に分類されます。
現地からの声
「パキスタンの発展に向けて」
パキスタンの抱えている開発上の諸問題として、
まず、
この国の
地政学上の重要性がある。テロ対策としてのアフガン国境沿いの
遅れた地域の開発の重要性は、国別援助計画でも強調したが、別
の視点から、昨今の中国との急速な関係の深化に注目したい。特
にこの点は、
この国の経済の方向性を決定付けかねない要因とし
て目が離せない。
この点にも関係するが、現政権の直面している緊急な問題は、
貧困削減もさることながら、雇用吸収力の低下、所得・資産格差の
悪化、複合インフレの進行であろう。より根本的問題としては、社
会的、経済的インフラの抜本的改善と産業発展の方向性の確定と、
それに対する整合的かつ継続的政策の確立である。この点におい
て、JBICの果たす役割は、特に後者の分野において絶大である。
外務省国別援助計画主査 JICA企画調査員
平島 成望氏
わが国のODAにおけるJBICの特徴は、規模の経済を要する事業
とグローバル・イッシューに参画できる能力を備えていることである。
つまり、国 際 協 調を
促進すべき分野に特
性を持 つといっても
良い。しかし、この点
においても、世 界 銀
行やアジア開発銀行
との差別化を促進す
る必要性は、依然とし
て高いと思われる。
05
パキスタン向け
円借款事業実績
給電設備拡充事業
老朽化し容量不足の設備を拡充
P09
UZ B EK I STA N
KYRGYZ
ガジ・バロータ水力発電所建設事業
環境に配慮した水力電源の開発
P09
国内電力総生産量の底上げを図る
TAJIKISTAN
T U R KM ENI STA N
CH IN A
コハッ
ト
トンネル建設事業
基幹道路の急所にトンネルを建設
N O RTH WEST
FRO N TIER
P07
大型車両の通行や交通安全の確保を図る
NORTHERN AREAS
A FG HA NI STA N
インダス・ハイウェイ建設事業
国内物流の基幹ルートを整備
アフガニスタンや中央アジアへの物流強化に貢献
IR A N
FEDERALLY
ADMINISTERED
TRIBAL AREAS
P07
PU N J A B
INDIA
B A L OCHIS TA N
SIN DH
チェナブ川下流灌漑用水路改修事業
パキスタン最古の灌漑システムの一つを改修
維持管理を担う農民組織の育成もめざす
P08
全国排水路整備事業
老朽化した施設を塩害・浸水害から守る
環境に適合した灌漑農業の回復を支援
A R A BI A N SEA
06
P08
パキスタンの南北を結ぶ交通網は国内の基幹輸送ルートであるとともにアフガニスタンや中
運輸
央アジアとの重要な貿易路となっています。近年の物流の増大に対応するためには道路、
鉄道といった複数の輸送手段を強化することが、パキスタンの経済発展を支えるうえで不可欠
となっています。また農村部では貧困削減に向けて、市場や公共設備などへ容易にアクセスで
セクター
きる地方農村道路の整備が必要です。JBICは世界銀行やアジア開発銀行とも協調して運
輸分野のインフラ強化に取り組んでいます。
インダス・ハイウェイ建設事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
(ⅡB)
■承諾額 475億円(合計)
■実施機関 国道公団
■借款契約調印日 1989年3月30日
(Ⅰ)、1991年1月14日
(Ⅱ)、1993年8月19日
(ⅡB)
コハットトンネル建設事業(Ⅰ∼Ⅲ)
■承諾額 126億円(合計)
■実施機関 国道公団
■借款契約調印日 1994年11月22日
(Ⅰ)、2001年7月30日
(Ⅱ)、2003年2月4日
(Ⅲ)
国道55号線(インダス・ハイウェイ)
はインダス川の西岸に沿っ
インダス・ハイウェイ建設事業により国道55号線の整備は
てカラチ∼ペシャワール間を結ぶ基幹道路です。しかし道路
大きく進みましたが、ペシャワール∼コハット間に位置する
の幅が狭く路面劣化のために近年の交通量増加に十分対応
コハット峠は、
急カーブや急勾配が続くうえ、
幅員が狭いため、
できない状況が続いていました。
大型トラックやトレーラーの通過が困難で、交通事故も頻発
本事業では、
こうした状況を
していました。
改善し道路交通の円滑化を図
本事業では、
コハッ
るため、国 道 5 5 号 線 の 全 長
ト峠 を 通 過 する全
1 , 2 0 0 k mの3 分の2にあたる
1,885mのトンネルお
760kmの改良・整備を実施しま
よび 約 2 8 k mのアプ
した。その結果、従来と比べ、
カラチ∼ペシャワール間の走行
ローチ道路を建設。
距離が約500km短縮し、所要時間もおよそ半分に短縮する
大型車両の通行、安
などの効果も報告されています。インダス・ハイウェイは沿線地
全性の確保、
走行距離の短縮に大きく貢献しています。また、
域の社会経済の発展とともに、
アフガニスタンおよび中央アジ
トンネル建設を通じて55号線の輸送能力向上だけでなく、北
アへの物流強化にも貢献しています。
西辺境州の経済発展や地域社会開発にも貢献しています。
アフガニスタンや中央アジアへの物流強化に貢献
コハットトンネルは、
日パ友好の象徴として、記念切手のデザインに採用されました
パキスタンの発展に向けて
私がパキスタンに赴任した2002年は、1998年の核
実験から新規の円借款は停止されていて、
日本の支援
を期待されていないような雰囲気がありました。
そのような中、パキスタンの南北を結ぶ主要幹線で
ある国道55号線において、急所となっていたコハット峠
の代替ルートとなるコハットトンネルが2003年6月に完
成しました。この事業の影響は後に切手になったほど
大きく、
日本の土木技術とJBICの責任を持った支援は
高い評価を受け、
日本の支援による道路整備の期待
が高まってきました。
パキスタンの交通は道路へ大きく依存していて、経済
発展のために道路整備は緊急性を要していました。円
東日本高速道路(株)本社 計画設計チーム サブリーダー 元JICA専門家
近藤 升氏
借款が再開され、多くの事業が要請されたときは、
日本
の顔の見える援助がようやくできると安堵しました。
援助の現場からJBICに対する意見として、
世界銀行、
アジア開発銀行に比べ、支援決定後のフォローアップ
が良く、高評価の事業となる可能性は高いと思います。
他方、
その責任から支援決定までのプロセスに時間を
要し、適切な事業でも支援する意思を相手国側に理解
させるのに大変苦労します。
まず支援の可能性があることを相手国に理解しても
らう工夫ができればと思います。最後に、
コハッ
トトンネル
の経験から、円借款によるよい事業は、相手国の発展
に大きく寄与していると確信しています。
2002年12月∼2006年1月、
交通政策支援のJICA専門家として
パキスタン国道公団に派遣。
パキスタンでの活動実績などで
2006年6月、
土木学会国際活動奨励賞受賞。
07
パキスタンにおいて農業は経済の最も大きな柱であり、外貨獲得の主な手段であるとともに
水
セクター
繊維、製糖など主要な産業への原材料供給を行う基幹産業です。
しかし少ない降水量と灌
漑施設の老朽化により農業生産性は低い状態にあり、貧困削減や都市・農村部の格差是
正を図るためにも農村部の開発が急務となっています。JBICは従来から灌漑・排水施設整
備に力を入れ、農民組織の育成と自主的な維持管理体制の構築による農業用水の効率
的な利用を通じて、農業生産性の向上を図っています。
全国排水路整備事業
チェナブ川下流灌漑用水路改修事業
■承諾額 108億円
■借款契約調印日 1997年3月31日
■承諾額 125億円
■借款契約調印日 2005年8月10日
■実施機関 水利電力開発公社
■実施機関 パンジャブ州灌漑排水公団
パキスタンにおける灌漑農業の中心であるインダス川流域
パキスタンでは農業の8割を灌漑農業が占めています。水
灌漑システムは、
灌漑地区としては世界最大の面積を持ちます。
不足および灌漑施設の老朽化に伴う非効率な水利用などに
しかし灌漑効率が低く、
排水施設の整備不足や老朽化により
より農業生産性は低い状態にあります。なかでもパンジャブ州
地下水位の上昇を招き、塩害・浸水害の被害が急速に拡大
中部のチェナブ川下流用水路灌漑地区は、
イギリス植民地
しています。
時代の19世紀末に開発された同国最古の用水路灌漑シス
パキスタン政府は1993年
テムの一つであり、同州でも
から世界銀行の協力を得て、
最大の灌漑面積を有してい
塩害・浸水害にかかる灌漑
ます。
しかし、灌漑面積の拡
排水維持管理システムの抜
大とともに、施設の容量不足
本的改革を含めた「全国排
が顕著となっており、水路の
水路整備計画」を策定しま
侵食、施設の老朽化で水利
した。JBICはパンジャブ州において灌漑排水施設の改善や
用の効率性が落ち、
農業生産に多大な影響を及ぼしています。
維持管理にかかる組織制度の促進、塩害・浸水害の軽減、
本事業は、既存灌漑施設および排水施設を拡幅・改修す
環境に適した灌漑農業の回復に取り組んでいます。本事業
るほか、
その維持管理を担う農民組織の設立と育成を支援し、
は世界銀行およびアジア開発銀行との協調融資という形をとっ
農業生産の拡大を図り、農民の所得向上を通じた貧困削減
ています。
および地域経済の発展をめざしています。
環境に適合した灌漑農業の回復を支援する
維持管理を担う農民組織の育成もめざす
パキスタンと日本の友好関係の強化に向けて
水は貧困削減や生活水準向上、そして農村地
域の人々の雇用、能力強化など、人々の生活を豊
かにするために欠かせないものです。とりわけ、人口
の約7割が直接・間接的に農業生活に関連してい
るパキスタンにおいては、灌漑設備の性能向上は、
人々の生活に直結する非常に重要な事業です。
私たちは日本による灌漑施設および水資源の発
展や運営に対する長年にわたる協力、
イニシアティ
08
ブに感謝しております。また、生活水準の向上に向
けた経済成長と貧困削減に寄与するさまざまな水
セクターの事業を促進することに対するJBICの関心、
そして支援を高く評価するとともに、今後一層のパー
トナーシップ強化に期待しております。
パンジャブ州灌漑電力局次官補
アスラルー・ウル・ハク氏
パキスタンにおける電化率は、全州平均で約72%といまだに低い水準にあります。電力需
電力
セクター
要が年間7.4%の伸びだと想定すると、2010年には27%の供給不足が生じると見込まれて
います。JBICは電力セクターの整備を民間経済活動を刺激する大きな要素であるととらえ、
23.7%という高いロス率を改善すべく送配電部門への支援や、輸入燃料への依存度を引
き下げる水力発電に対する支援などを円借款の重点部門においています。
ガジ・バロータ水力発電所建設事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
給電設備拡充事業
■承諾額 349億円(合計)
■実施機関 水利電力開発公社
■借款契約調印日 1996年3月22日(Ⅰ)、1997年3月31日(Ⅱ)
■承諾額 38億円
■借款契約調印日 2005年8月10日
■実施機関 国営送電会社
パキタスタン北部、
インダス川上流の既存のタルベラ・ダム下流
本事業は、
イスラマバードにおいて、
カラチを除くパキスタン
約7kmの地点に堰を建設し、
ここを起点に全長約52kmの発電
全土の電力需要にあわせて発電量をコントロールする中央給
用水路とその下流部に流れ込み式の発電能力1,450MWの水
電指令所の給電システムとその関連設備の近代化・拡充を
力発電所を建設しました。同国のほぼ全域をカバーする水利電
行い、安定した電力供給をめ
力開発公社の恒常的な電力不足を解消し、
昨今の電力需要
ざすものです。
の増加に対応する事業です。
給電システムとは、電力需
2005年、
パキスタンにおける電力
要量にあわせた発電を行うこ
総生産量は73,520GWhであり、
とで、
安定した電力を供給しな
当発電所には年間6,600GWhの
がら、非常時に停電地域・時
発電能力があります。
間を最小限に留める設備のことです。既存の中央給電指令
本事業は、
アジア開発銀行など
所は送電系統遠隔監視機能を持つ給電設備は備えているも
との協調融資で、
総事業費2,500億円のうちJBICが約350億円
のの、
電力系統の急速な拡大や容量不足、
システムの老朽化
を融資しています。同時にパキスタン10ヵ年開発目標
(2001∼
により、
通信障害、
機器障害が頻発し、
常時全ての電力系統を
2010年度)
に含まれる、
国内資源を活用した電源開発に寄与す
監視できていない状況のため、
大規模停電などの電力不安を
る事業でもあります。
またマラリアの温床となる水の停滞地が減
引き起こす可能性があります。本事業は、電力を安定して供
少したことで、
マラリア感染率が低下したという報告もあります。
給するために、
設備の抜本的な近代化と拡充を支援します。
拡大する電力需要に対応
電力の安定供給をめざす
国営送電会社とJBICのパートナーシップについて
国営送電会社が事業を行っている地域の高電
圧送電網の発展に対するJBICの支援は、私たち
にとって大変喜ばしいことです。ここ最近の10年間
にわたり、JBICの支援により建設された変電所お
よび送電線は、電力供給の安定性向上に寄与しま
した。また、現在進行中の「給電設備拡充事業」
では、
カラチを除くパキスタン全土の電力需要にあ
わせて発電量をコントロールする中央給電指令所
国営送電会社 最高経営責任者
ムハンマド・シャビール・チョードリー氏
の給電システムおよび関連設備の近代化・拡充の
取り組みが進んでいます。本事業では、最新の計
測データの制御および監視システム技術が取り入
れられており、2008年までに中央給電指令所の近
代化が終了する見込みです。これらJBICが参画す
る事業の完成により、産業の育成および社会分野
の発展、
また貧困削減に寄与することを期待して
います。
09
パキスタンの今後の発展に向けて
JBICでは、パキスタンにおける重点分野に対する支援に加え、
パキスタンの現状、
そして今後を見据えた取り組みを実施しています。
緊急震災復興支援
震災発生後3ヵ月で
緊急の震災復興支援借款を実施
も、上水道や医療施設な
厳しい冬に向かうパキスタン北東部で2005年10月8日、
マグ
あるため、
十分な救護が
ニチュード7.6の大地震が発生し、死者7万3,000人、負傷者
行えず、疫病が発生するこ
7万人、
約280万人が家屋を失うなど、
大きな被害をもたらしました。
とも危惧されていました。
どのインフラが未整備で
倒壊した学校。不安そうな表情の子どもたち
とくに同国内でも比較的開発の遅れた北西辺境州および
アザド・ジャンムカシミール地域に被害が集中しました。被災し
早期の復興と経済の安定に貢献
た住宅のうち8割以上に倒壊または部分的損害がみられた地
10月下旬に国連機関、世界銀行、
アジア開発銀行を中心
域があるほか、
地震による道路の寸断に加え降雪により救援物
として行われ た 被 災 地 の 復 興 支 援 ニーズアセスメント
資の供給が不十分になり、
凍死・餓死者の発生も危惧されまし
調査に、JBICは国際協力機構
(JICA)
とともに参加しました。
た。
また、
高地から下山した被災者が救援施設にたどり着いて
その結果を踏まえ、
「緊急震災復興支援借款」
として、
112億
2,000万円の円借款を供与しました。JBICが震災後の復興
支援ニーズアセスメント調査に参加することで比較的早い
段階から被災地の支援ニーズを把握し、パキスタン政府を
はじめ、他の援助機関などと綿密に意見交換が可能となり、
早期の緊急震災復興支援借款の実現に結びつきました。
本借款は、被災地の道路や上下水道をはじめとするインフラ
の復旧工事をパキスタン政府が行うための資金として活用
されます。
瓦礫と化した家屋
カラチ活性化への取り組み
商都カラチの再生を提言
パキスタン発展の要に
パキスタン最大の都市カラチはかつて同国の首都であり、
JBICでは「カラチ活性化シナリオ調査」を実施し、
カラチ
繊維産業の輸出拠点や金融センターとしてパキスタン経済を
活 性 化に向けたシナリオを提 言しました。パキスタン側
牽引してきました。
しかし、国内外を問わず大量の人口流入
にカラチの長 期 的な開 発ビジョン策 定に向けた助 言を
がもたらした治安や居住環境の悪化などが、
カラチ経済にマ
行ったり、
インフラ整備など
イナスの影響を及ぼしました。
の支援について提言し、
カ
現在もカラチは同国の交通の要衝であり、かつ国内最大
ラチ活性化、
ひいてはパキ
の取引量をもつカラチ港を有し、国外との交通結節拠点となっ
スタン経済の発展に寄与
ています。とはいえカラチの都市生活や産業活動の基盤とな
したいと考えています。
るインフラの整備は立ち遅れ、
カラチの発展を阻害する要因の
一つともなっています。カラチの発展は、シンド州の他の地域
やバロチスタン州といった後発地域の発展にも寄与し、
パキス
タン全体のバランスのとれた発展を達成するためにも重要です。
10
ペルシャ湾に面するカラチ港では、
毎日新鮮な漁獲物が水揚げされている
上下水道セクターへの取り組み
生きるための基礎的な要件
一方、過度な地下水依存により地下水位は低下し、塩分
パキスタンの給水普及率は低く、政府の指標によれば人口
濃度の上昇といった環境問題が発生しています。また下水
の63%となっています。全世帯の42%はいまもトイレがない
設備の未整備により、河川の水質汚染が発生し、
これによる
状態であり、都市部では94%普及しているのに対して農村部
下痢、肝炎などの感染症が拡大しています。年間300万人
では37%しか普及しておらず、
その格差も問題となっています。
が飲料水を媒介とする感染症にかかり、
うち120万人が死亡
また、人口増 加や産 業 化に伴い水の需 要 増 加に供 給
しているのです。
施設の整備が追いついていません。パキスタン最大の都市
カラチでも1日当たりの給水時間は4時間未満となっています。
貧困削減にもつながる重要な開発分野
上下水道は基礎的社会サービスの一つであるとともに、
貧困削減につながる重要な開発分野として重点を置いて
います。またカラチ、
ラホールといった主要都市の上下水道
整備は、居住環境の改善だけでなく、投資環境の整備として
も重要です。
まずは主に都市部において、円借款により公共上下水処
理施設の不足・老朽化、配水網の劣化による高い漏水率な
どに対する設備投資を支援していきます。
シムリ浄水場
パキスタン電力セクター支援に関わって
より多くの人に電気の利便性を享受してもらうためにまず必要な
ことは、発電源の確保です。しかし、パキスタンにおいて火力発電の
開発を進めると、発電時に必要な石油を輸入しなければならないと
いうジレンマがあります。こうした事情から、初期投資は大きいものの、
長期的には発電量当たりのコストが低い水力発電設備に対する
JBICの融資は、パキスタンにおける発電源の確保に大きく貢献して
います。
実際、パキスタン国営送電会社などを訪問させていただいた際、
JBICが関わっている事業が多大な便益をもたらしていることを伺い
ました。また、訪問先のスタッフは例外なく設備を丁寧に説明してく
ださり、彼らの仕事に対する熱意も垣間見ることができました。
神戸大学 国際協力研究科
森下 篤司(インターン生)
今後、支援の効果をより一層大きなものとするためには、事業によっ
て導入された機材の
メン テ ナ ン ス や ス
タッフ教育などにも関
わることが必要ではな
いかと考えます。事業
完 成 後 のこういった
関わり方を増やすこと
で、
より顔の見える援
助へとつながっていく
ものと思います。
11
円借款の主な支援事業
1
インダス・ハイウェイ建設事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
(ⅡB)
2
グドウ−シビ−クエッタ220KV第2送電線建設事業
3
幹線94駅信号設備改良事業
4
ビンカシム火力発電所6号機増設事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
5
農業開発金融事業
6
末端灌漑水管理事業
7
電気通信網拡充事業
8
農村振興道路建設事業
9
機関車リハビリ事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
NORTHERN
AREAS
N O RTH 16
WEST
F RO N TIER
10
機関車製造事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
11
マリル川流域農業開発事業(E/S)
12
コハットトンネル建設事業(Ⅰ)
∼
(Ⅲ)
10
13
カラチ上水道改善事業
12
14
海洋調査船改修事業
15
二次系送電網拡充事業
16
ガジ・バロータ水力発電所建設事業(Ⅰ)
(Ⅱ)
17
バロチスタン州中等教育強化改善事業
18
全国排水路整備事業
19
給電設備拡充事業
20
チェナブ川下流灌漑用水路改修事業
9
6
5
19
FEDERALLY
ADMINISTERED
TRIBAL AREAS
4
20
PUN JAB
2
※上記のほか、パキスタンへの円借款事業は、累計73件(2006年3月現在)
2
17
BALOC HISTAN
1
SIN DH
11
4
13
3
1
3
5
6
7
8
14
15
18
※上記案件は、パキスタン全土もしくは
海洋を対象地域としています。
パキスタンの世界遺産
4 ロータス城塞
Rohtas Fort (登録年:1997年)
16世紀スールー朝時代に防御拠点として
造られた大城砦。その城壁は全長4kmにお
よぶ。
5 タキシラ
Taxila (登録年:1980年)
紀元前600∼紀元600年にかけ、
ガンダー
ラ文化の中心として栄えた都市遺跡。
1 モヘンジョダロの遺跡群
Archaeological Ruins at Moenjodaro
(登録年:1980年)
インダス文明の最大の遺跡「モヘンジョダ
ロ」。モヘンジョダロとは、死者(モヘンジョ)
の丘(=ダロ)
を意味する。
http://www.jbic.go.jp
2 ラホールの城塞と
シャーリマール庭園
Fort and Shalamar Gardens in Lahore
(登録年:1981年)
ムガール帝国の古都ラホール。赤砂岩を用
いたインド・イスラム様式の建築が青空に美
しく映える。
3 タッターの文化財
Historic Monuments of Thatta
(登録年:1981年)
14∼18世紀にかけて栄えたシンド文明の都
市遺跡。
【本店】
〒100-8144 東京都千代田区大手町一丁目4番1号
tel.03-5218-3687(開発第3部第1班)
【イスラマバード駐在員事務所】
5th Floor, Evacuee Trust Complex, Aga Khan Road, F-5/1 Islamabad, Pakistan
tel.92-51-2820119
※対パキスタン円借款について更に詳しい情報をお知りになりたい方は、上記連絡先にご連絡ください。
6 タフテ・バヒーの仏教遺跡群と
サライ・バロールの近隣都市遺跡群
Buddhist Ruins at Takht-i-Bahi and
Neighboring City Remains at Sahr-i-Bahlol
(登録年:1980年)
1∼7世紀の山岳仏教寺院遺跡。
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