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中東研究フォーラム 2015 年 6 月例会報告要旨 (2015 年 6 月 30 日、東洋英和女学院大学大学院棟) 報告者:田中泉 氏(JICA 人事部次長、前パレスチナ事務所長) テーマ: 「オスロ合意以降の我が国の対パレスチナ ODA 支援の推移について」 中東研究フォーラム 6 月例会では、前 JICA パレスチナ事務所長(2011 年〜2015 年)の 田中泉氏による、オスロ合意以降の日本の対パレスチナ支援についての報告があった。母子 健康手帳、農業、観光などにおける技術協力と「平和と繁栄の回廊」構想について紹介があ った。また日本の対パレスチナ支援がパレスチナ・イスラエルを取り巻く国際情勢の動きと 密接に関係して実施さていること。その中でその時に最も効果的な支援が行われるような 工夫が大切と説明があった。 パレスチナの母子健康手帳はアラビア語のものとしては世界で最初のもの。パレスチナ の地域情勢は不安定なので、人々はしばしば検問所に足止めされたり、通院しているのと別 の病院に行かなくてはならない。母子健康手帳により母子の健康状態について複数の病院 の医師が共有し正確に理解でき正しい対処が可能となった。 農業分野の支援として、スイカ栽培のための技術提供がある。パレスチナでは、土壌汚染 によりスイカの生産は難しくなりイスラエルからの比較的高価なスイカの輸入をおこなっ ている。パレスチナ内でスイカが栽培できれば産業復興、食物の自給を促し、また自分たち の手で作ったスイカとしてパレスチナの人々の尊厳を回復するにも寄与する。そこで JICA はパレスチナでスイカの接木の技術を指導し、土壌汚染に強いスイカの栽培を可能にした。 観光分野では。日本語や各国語でのパレスチナ観光案内のパンフレットの作成、観光展へ の出展等の指導をおこなっている。観光をきっかけにした地域活性化事業が紹介された。 ガザ支援としては、再建の計画作りや配電線の工事など、復興支援をしている。ハマース と直接協議することは行っておらず、また安全上の理由から日本人技術者がガザに入るこ とには一定の制約がある。これら制約を踏まえてできることを行っている。昨年夏のガザ爆 撃の際には、日本等でJICAの研修を受けた人たちによって構成されているJICA研 修帰国研修員同窓会の協力を得て、医薬品、水、食料等の支援をおこなった。 直接支援が難しい中で支援を行う際には、日本は UNRWA や FAO、UNDP など国際機 関を通じて、ワクチンやガソリン、食料支援等をおこなっている。。国際機関を経由すれば 物資を迅速に送ることができる。この際には日本からの支援であることをいかに効果的に 現地の人に伝えるかに留意が必要だ。直接の支援との割合をどうするかは難しい課題だ。 日本の支援である「平和と繁栄の回廊」構想は、提唱から間もなく 10 年を迎える。この 事業はイスラエルとパレスチナの「二国家解決」の実現を重視し、地域経済の復興を通じた パレスチナの経済的自立を支援している。具体的にはジェリコで農産加工団地(以下、JAIP) の整備をおこなっている。パレスチナの経済社会基盤の強化や、パレスチナとイスラエルそ してヨルダンの信頼醸成を重視している。 JAIP は、度重なるパレスチナ-イスラエル間の政治状況の変化を踏まえつつも継続して 準備が進められている。2015 年 6 月現在の時点で当初予定の第一フェーズ(11.5 ヘクター ル)については整備がおおむね終わり入居企業との契約が進められている。 中東支援を含めた日本のODAは「人間の安全保障」を大きな柱としており、具体的には 「恐怖からの自由」 「欠乏からの自由」、および「尊厳を持って生きる自由」の実現を目指し ている。対パレスチナ支援では「欠乏からの自由」のためには国際機関を通じた援助等をお こなっており、 「尊厳を持って生きる自由」のためにはJICAを通じた技術協力等が行わ れている。 日本のパレスチナ支援総額は支援を開始して以降増加傾向にあるが、2001 年〜2003 年 や、2006 年〜2007 年には大きく減少している。これらは第二次インティファーダとイスラ エル軍のレバノン侵攻の時期と重なっており、対パレスチナ支援が国際的な政治状況を踏 まえて行われていることの証左といえる。 また限られた金額の中での国際機関を通じた協力と、JICAを通じた協力等のバラン スも支援を効果的に行うためには考えることが必要である。さらにJAIP事業等のよう に実現に時間のかかる事業について、政治状況を踏まえつつその時々で支援のメリハリを いかにつけるかも工夫が必要である。 人間の安全保障を踏まえつつ、その時に最も重要な支援が行われるような工夫が大切で あろう。 以上の田中氏の報告に対し会場から多くの質問やコメントがあり、田中氏から以下のよ うに答えていた。JAIP に関しては、イスラエルとヨルダンも信頼醸成、地域経済の活性化 という点に加え、原料の調達や販路拡大による地域経済の活性化への期待を持っており、両 国から一定の理解が得られている。JAIP 参加企業には、オリーブを使ったサプリメントや 石鹸、豊富な水を使ったアイスクリーム等の食品製造業者がある。参入業者はパレスチナ内 を主な市場に想定しているが、湾岸諸国も含めた周辺国にも販路拡大が期待できる。その 他、パレスチナにおける国家建設の意識、トランスパレンシーや汚職、他国のパレスチナ支 援の規模、ODA と日本の国益、JICA の業務委託契約、JICA の採用人事や人材育成につい ての質問があった。 (文責:鴨志田聡子)