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イラン:バイバック契約の見直しの動きと展望

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イラン:バイバック契約の見直しの動きと展望
<更新日:2006/6/16>
<石油・天然ガス調査グループ:猪原 渉>
イラン:バイバック契約の見直しの動きと展望
(IOD、Platts、World Petroleum Argus 他)
¾ イラン核問題を巡っては、安保理常任理事国およびドイツから対イラン「包括提案」が提示され、外交解
決の機運が盛り上がっているようにもみえるが、西側とイランの「衝突路線」(コリジョン・コース)は変わら
ないとの見方もあり、見通しは不透明である。
¾ 外国企業にとってイラン上流投資はきわめてリスクの高いものとなってきているが、石油省は外資導入
方針を堅持する姿勢を変えておらず、欧米との対決姿勢を打ち出すアフマディネジャド大統領とは異
なるスタンスをとっている。
¾ 石油省はバイバック契約の見直しを打ち出しており、検討が進んでいるが、伝えられる見直し案の内容
は、契約期間の長期化、超過コストの取り扱いの柔軟化等、外国石油企業にとって現行契約より改善さ
れたものとなっており、注目される。ただし、石油省案が「国内企業優先」を掲げる大統領や議会に却下
される可能性もあり、紆余曲折が予想される。
¾ 中国企業が現行バイバック契約のもとで、Yadavaran プロジェクトや(日本企業の代替として)Azadegan
プロジェクトの契約を締結する可能性は低い。
1.核問題を巡る最近の動き
最初に、イランの核開発問題を巡る最近の動きについて、簡単に触れておく。同国石油開発事業に参
加中、あるいは参加を検討している外国石油企業にとって、核開発問題の今後の展開次第では、自社
の活動に大きな影響が及ぶことが予想され、常に動向を注視しておく必要がある。
2006 年 6 月 6 日、EU のソラーナ上級代表がイランを訪問し、ラーリザニ安全保障最高評議会事務局
長とモッタキ外相に対し、国連安保理常任理事国 5 カ国とドイツ(P5+1)で合意した対イラン「包括提案」
を提示した。提案の具体的内容は公式には明らかにされていないが、報道では、イランがウラン濃縮の
停止を受け入れた場合、イランに対し軽水炉建設への支援や民間航空機部品の輸出規制の撤廃等のイ
ンセンティブが与えられ、逆に濃縮停止を拒否した場合は、資産凍結、渡航規制、ガソリンなど特定品目
の対イラン禁輸等の懲罰措置が検討されるなど、「アメ」と「ムチ」の両面の内容が含まれていると伝えら
れている。
-1Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、
機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも
のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結
果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申
し上げます。
今回、米国は、イランが検証可能な方法でウラン濃縮を停止するならばという条件のもと、イランとの直
接交渉に応じるとの姿勢を表明したが、これは、これまでイランとのあらゆる交渉をかたくなに拒否してき
た米国の大きな方針転換であると受け止められている。また、イランのアフマディネジャド大統領は6月
16 日、オブザーバーとして参加した上海協力機構首脳会議で中国の胡錦濤国家主席と会談し、大統領
は「包括提案は一歩前進であり、近く回答する。」と述べた。一連の動きについて、本件が外交解決に向
けて大きく動き出したとする肯定的見方がある一方で、米国の真意はあくまでも制裁実施にあり、今回の
動きは制裁実施のための「万策が尽きた」ことを示すアリバイ作りに過ぎず、衝突路線(コリジョン・コー
ス)を進んでいることは変わらないとの評価もあり、予断を許さない状況である。
外交交渉が不調に終わった場合の今後のシナリオとしては、有志連合国による対イラン経済制裁の発
動や、米国またはイスラエル等による対イラン武力行使などのケースが想定されている。イランがこれら
の動きに対して報復を行う事態も予想されている。イランが、制裁参加国への原油輸出停止(いわゆる
「オイル・ウエポン」の行使)や、可能性は高いとはいえないが、ホルムズ海峡の封鎖やイラクを含む湾岸
親米国の石油施設等への攻撃などの軍事的報復に踏み切るのではないかとの見方もあり、その場合、
原油価格の大幅な上昇や、欧州や日本の石油企業のイラン上流での活動に重大な影響が及ぶことは間
違いないと思われる。
2.石油省は外資導入政策を維持
政治レベルの動きだけを見た場合、悲観的シナリオは避けられない状況にも思われるが、イランの石
油部門幹部は、欧米との対決姿勢をあおる大統領の強硬発言とは一線を画す冷静かつ慎重な発言を続
けている。ヴァジーリ・ハマネ石油相が 2006 年 3 月 8 日、OPEC 総会で訪れたウイーンで会見を行い、
「イランは石油輸出のカットを行うつもりはない」「石油部門における外資導入政策を今後も堅持する」と
述べ、国際社会との協調姿勢をアピールした。また、NIOC のガニミファルド取締役(国際問題担当)は 4
月11 日、「イランは欧米への対抗手段として輸出を削減することはなく、国際市場における信頼に足る石
油輸出国の地位を維持する」と述べ、イランの石油政策に特段の変化がないことを強調した。
イランが国際石油企業(IOC)と結ぶ契約方式であるバイバック契約については、ヴァジーリ・ハマネ石
油相は就任時(2005 年12 月)より見直し方針を表明しているが、一部専門誌の報道によると、石油省によ
る見直し案の内容が固まりつつある。伝えられるバイバック見直し案(2 項参照)は、IOC にとって、現状
の劣悪な条件がかなり改善され評価に値する内容となっており、今後のイラン国内での検討の成り行き
が注目される。
-2Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、
機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたも
のであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結
果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申
し上げます。
2.バイバック契約の見直し案
(1)現状の問題点
PS(生産分与)契約に比べて石油企業に不利な条件とされるバイバック契約は、IOC サイドからの見直
しを求める声に加え、最近は、イラン国内でも同契約に対する批判が高まっている。
IOC 及びイラン国内でバイバック契約の問題点として指摘されている点は、以下の通りである。
IOCにとってのバイバック契約の問題点
① IOC が関与する期間(開発+回収)が数年程度と短い。(PS 契約では 20~30 年程度)
② 生産開始後のオペレーターシップはイラン側(NIOC)に移転され、IOC は生産に関与でき
ない。IOC に支払われる報酬額(目標生産量未達の場合減額)がイラン側のパフォーマン
スに依存することになり、IOC 側はコントロールできない。
③ 投下資本金額、金利、報酬(投下資本×一定率)が契約時に決定するため、作業開始後の
超過コスト(コストオーバーラン)は IOC 側の負担になる。
イラン国内で指摘されるバイバック契約に対する批判
(「IOC は短期間で莫大な利益を回収するが、イラン側には技術も利益も残らない」)
① IOC は最新技術を投入しない。
② 移管後の生産量低下に IOC は責任を取らない。開発時の IOC による無理な増産が油田
にダメージを与える。
③ 契約条項が不透明。不正の温床である。
(2)新たな契約条件
上記のような問題点を抱えるバイバック契約について、石油専門誌 WPA(2006.5.18、25)は、イラン石
油省が新たに以下のような契約方式の導入を検討しており、近く内容が公表される見通しと伝えている。
① 新契約方式の名称は「イラン石油サービス契約」。
② IOC が関与する契約期間を長期化(10 年~最長 25 年程度にまで延長)。
③ 投下資本額(Capex)の算出方法を柔軟な算出方法に改める。コストオーバーランの一部をイラン側
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し上げます。
が負担する可能性も。
④ (操業権の NIOC 移管後の)外資による操業監視期間を 5 年程度に設定。
⑤ (現状 15%程度とされる)利益率の引き上げ。
⑥ 当初契約完了後に当該企業への追加契約(サービス契約等)締結を検討。
⑦ 契約条件は一律ではなく、プロジェクトの難易度及び石油・ガス生産開始の前後によって、異なる条
件が適用される。
(3)見直し案の評価
上記の見直し案は、IOC にとって、関与期間の長期化、コストオーバーランの取り扱いの柔軟化等、概
ね、これまで要求してきた方向での見直しであり、歓迎すべき内容といえよう。
外資側にとって有利といえる条件が採用される可能性が出てきた背景には、2005 年に操業移管され
た Soroosh/Nowrooz(ソールーシュ/ノールーズ)油田開発プロジェクトにおいて、NIOC による生産開始
後、生産量が当初計画の半分にとどまったという経緯がある。イラン側は、同プロジェクトの主契約先であ
る Shell の対応に問題があるとして同社を批判したが、交渉は難航した。イラン側としては、生産未達時の
コントラクターに対する補償交渉を円滑に行うためには、バイバック契約を見直して、事業へのコントラク
ター(石油会社)のコミットメントを拡大する必要があるとの結論に至ったものと考えられる。
また、最近の資材費等のコストアップに起因する世界的な投資額の高騰にイランの案件も直面してお
り、IOC 各社がイラン側に対し、コストオーバーランにおける相応の負担を求める動きが相次いだことも
背景にあるとみられ、石油省としても IOC の要求に一定の理解を示したものとも考えられる。
また、イラン石油省としては、2010 年時点の原油生産量を 500 万 b/d(現状生産量 400 万 b/d)に引き
上げるとの中期計画を策定し、今後 5 年間で 750 億ドルに上る上流投資を予定しているが、毎年 30 万
b/d に上る既存油田の能力減退に直面していることから、IOC 参加による上流への投資拡大は焦眉の急
である。ところが、IOC との上流開発契約は、2004 年 2 月の Inpex との Azadegan 油田開発契約以降締結
されておらず、石油部門としての危機感が高まっていた。
上記の見直し案は、IOC にとって有利な案であるだけでなく、国内からの批判に対する有効な解決案
と見ることが出来る。すなわち、IOC の関与期間が長期化し、且つ、増産インセンティブが働くような契約
条件に見直されれば、結果的に、イランへの技術移転が促進され、生産も安定することが予想されるか
らである。
投資環境の劣悪さが指摘されるイランで、テクノクラートの動きとはいえ、外資参入促進のための環境
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し上げます。
整備を図る動きが加速している点は、注目しておく必要があろう
(4)新契約案の適用対象
NIOC は、Shell、Total と交渉中の South Pars ガス田開発には現行のバイバック契約を適用し、新しい
契約条件については、交渉が難航する Sinopec との Yadavaran 油田プロジェクトに適用したいとの意向で
あると伝えられている。ただし、Yadavaran 油田については、「本年 3 月末までに正式契約の見込み」との
イラン、中国双方での報道以降(実際は契約は先送りされている)、中国側からの見解提示、報道はほと
んど行われておらず、交渉決着を急ぐイラン側の一方的アナウンスである可能性もある。
一連の動きからいえることは、現行バイバック契約の条件下では、中国企業としても契約意思がないと
いうことである。これは Yadavaran 油田に限ったことではない。Azadegan 油田開発プロジェクトで日本企
業が撤退した場合、参入意欲のある中国企業が代替参入するとの見方が有力視されているが、実際に
は、現行契約を中国企業が引き継ぐ可能性は少ないとみられる。Azadegan 契約締結以降、世界的な資
機材コストの上昇といった環境変化があり、コストオーバーランの回収を認めないなどの現行契約条件で
は、十分な経済性が確保できないとの判断があるとみられる。また、エネルギー当局の判断よりも、米国
との関係悪化を避けたい政府の政治判断が優先され、中国としては、当面、イラン案件の契約について
慎重姿勢を崩さないものとみられる。
Azadegan プロジェクトを巡り、イラン石油部門高官から、日本側をけん制する発言が相次いでいるが、
当初、「中国など外国企業が代替企業として参加する」との発言であったものが、「日本企業が事業を継
続できない場合は、我々自身で事業を開始するであろう」(ヴァジーリ・ハマネ石油相、2006 年 6 月 1 日
発言)と、見解が微妙に変化している。同プロジェクトは、技術的難易度から外国企業の参入を前提とし
てスタートしたプロジェクトであり、イラン国内企業単独で対応することは困難と考えられ、一連のイラン側
発言は日本側に対するブラフ(脅し)の域を出ないとの見方も出来よう。
(5)今後の見通しは不透明、議会有力者は国内企業の優先起用に重点を置いた見直しを主張
実際に、今回伝えられた内容で見直し案がまとまるかどうかは、現時点では不透明である。仮に今後 1
~2 ヶ月以内に上記案が石油省案として決定されたとしても、実施に当たっては、大統領及び国会の承
認取得等、越えるべきハードルが多い。
議会の有力者であるダネシャール・エネルギー委員長は 2006 年 4 月、「バイバック契約の見直しは必
要である。投資分与(’Investment Sharing’)契約方式と呼ばれるモデルが検討されており、今後 6 ヶ月以
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内に成案になる」とした上で、「早期開発が必要な South Pars ガス開発プロジェクトについては現状
の’modified buyback’契約方式が適用され、その他の案件について新方式が適用されるであろう」と語り、
石油省の内部事情にも通じていることをうかがわせる発言を行った。一方で、ダネシャール氏は、バイバ
ック契約はローカルコンテンツ(国内企業への発注比率)が低すぎる点が問題であり、見直し案ではこの
点が考慮されるべきであると主張している。国内企業優先方針は、元々アフマディネジャド大統領が選
挙公約として掲げた方針である。できるだけ外資導入比率の拡大を図りたい石油省・NIOC の案に対し、
議会及び大統領が異論をはさむ可能性も十分考えられ、見直し案の確定までには紆余曲折が予想され
る。
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