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課題テーマの部 次点 志村ともこさん 文学部日本文学科 4 年

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課題テーマの部 次点 志村ともこさん 文学部日本文学科 4 年
課題テーマの部
志村ともこさん
課題テーマ
次点
文学部日本文学科 4 年
: 『オリンピックの理想と現実』
『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』松瀬学著
扶桑社
TOKYO の裏側で見つけたもの
2020 年、東京でオリンピックが開催される。決定までには涙ぐましい努力と多くの人々の
熱い思いがあった。本書は 2016 年の招致に失敗し、厳しい現実を突き付けられえた「東京」
が「チームジャパン」となって戦った模様を、様々な角度から伝えている。
なかでも、招致成功の理由はロビイングと最終プレゼンであったとしている。ロビイング
は投票権を持つ IOC 委員たちに向けて、自分たち(東京)がどんなに素晴らしくて、開催
したらどれだけの感動を与えることができるかを、限られた時間の中で説明していく。表
立ったアピールの場ではないのだが、チームジャパンは地道に説得を続け、見事に信頼を
勝ち取っていった。プレゼンテーションに至っては、口の動かし方、視線の向け方まで気
を配り、ライバル国からも感嘆の声が上がるほどであった。振り返れば、今回の招致活動
は完璧で、東京に決まったのは必然とも思えるが、果たしてそうだろうか。
まずロビイングであるが、その裏側の事実を本書は次のように指摘している。
「投票権を持つのは 103 人の IOC 委員たちだが、出身大陸に注目してみると半数近い 44
人がヨーロッパ出身なのである。
(2013 年 9 月時点)数字でわかるとおり、IOC の構成は
ヨーロッパ中心なのだ。
」
時差を考慮すれば誰だって地元開催を望むだろう。地球の裏側の東京を選出するより、マ
ドリードの方がはじめから有利なのは明らかである。オリンピックを世界の祭典とするな
らば、IOC 委員の構成を欧米偏重にしてはいけない。またクリーンで公平な見方が必要と
される存在の IOC 委員だが、中国の IOC 委員は険悪な日中関係のあおりを受け、当初東京
にはネガティブであった、という情報があったのも事実だ。一見、何回も足を運び熱心さ
を伝えれば良さそうなロビイングだが、有権者の投票心理は国際関係などにも左右されや
すいものだった。
2 つ目に挙げた最終プレゼンは、嘘で塗り固められた絵空事だった。
首相は東日本大震災に関連した、福島の原発問題に対して、ジェスチャーを交えて英語で
このように言った。
「福島については私が保証します。状況は収拾に向かっています。そし
て、これまでもこれからも東京には何の影響もありません。
」
世界が見ている中で公約した、とも取れる言い方だった。しかし、実際日本の原発問題は
かなり深刻である。福島の原発に近い地域では、震災から 5 年経過した現在も、放射線量
が示されており、厳戒態勢である。汚染が心配される作物や、土壌は黒いビニールシート
で覆われ、異様な光景が広がっているのだ。最終プレゼンの場で、断言したのはマイナス
イメージを払拭するためだったと思えてならない。他にも、安心でコンパクトな競技会場
をアピールしたが、膨らむ建設費や、アスリートの意見を無視した水上競技場建設に、批
判が続出している。本書はこのような裏事情にも触れ、オリンピックの現実を読者に突き
つける。
とはいえ、様々なハンデや向かい風にも屈せずに「チームジャパン」は TOKYO を勝ち取
った。なぜか。筆者は次のように語る。
「なぜ招致に成功したのか、と聞かれた。東京の都市力もあろうが、やはりカギは“人”
だっただろう。3 年、6 年、いや 10 年、20 年の間に培った人脈だった。総合力だっただろ
う。何十人、何百人…、色んな人が招致活動に人生を懸けていた。」
平和な祭典を己の利益追求に使ってほしくない、と考えさせられる一方、本書全体が関わ
った人々の情熱で包み込まれ、不安を消し去っていく。読後は 2020 年に迫った東京オリン
ピックが待ち遠しくてならなくなる。「理想の祭典が東京にあった」と各国から称賛され、
成功裡に閉幕されることを心から願っている。
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