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陽音階民謡にお ける終止音について

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陽音階民謡にお ける終止音について
陽音階民謡における終止音について
−現在奈良県下において唱われている−
牧 野 英
I 序 言
俗楽、殊に庶民の生活の中から自然発生的に生れた民謡に、確とした音階の型を見出すには、
かなりの困難を伴う。茶摘み唄にしろ、木挽き唄にしろ、これを意識し、これに規制されて作っ
たものではなかろうし、またその伝承の過程においても、個人の解釈の相違、表現能力の差、あ
るいは、地理的、社会的、その他、種々の条件により、もとの姿とは相当異ったものとなって残
っているだろうということは容易に想像できる。明治以降における洋楽の普及も、また大きな影
響をあたえていると思う。
きて、この素材を求めるにあたっては、唱歌教育の向上、流行歌謡の氾濫等のため、若い人の
間には、このような古いものは余りかえりみられず、また、唄によっては、唱われる機会すら失
われているものもあるので、極めて限定された、特に古老に頼る以夕日こ道はなかった。例えば、
草取り唄、筏師の唄等も限られた古老によってのみ、まれに唱われるにすぎず、これとても実際
労作の上の唄ではなくなっている。
19世紀、北欧の民族音楽の興隆は、当時の民謡蒐集家の努力に負うところが多い。
年々に失われつつある民謡を保存することは、日本音楽創造の上に、又より純粋なものを数多
く残す上においても、緊急のことといわなければならない。
以上のことから、この問題を考究するにあたっては、ここ数年来、奈良県下において録音、採
譜した唄の中から選んで用いることにした。なお、わらべ唄の一部を除き、大部分は65才以上の
古老によって唱われたものである。
甘 陽音階の基本型について
一般に口ずさまれている民謡を蒐集し.、これに理論付け、体系付けられたのは、歴史的にみて
(1〕
そう古くはない。おそらくは明治中期における上原六四郎氏の「俗楽旋律考」が最初のものと思
われる。それによると営、商、角、徴、羽の五音中羽音が上行と下行で異っている。(譜1)
また田辺尚雄氏は「最近科学上より見たる音
譜1
楽の原理」において商、羽音が、一一一一「で示
す範囲内で移動することを主張し、必ずしも前
雪 商 角
徽翳宮羽徴角 商 宮 者が述べているように固定されたものでないと
いうことを説いている。(譜2)
しかし陽音階の基本型を考究する上においては、下降の際あらわれるb、eS音はこの場合考察
の対象とならない。(半音程があらわれるため、基本の型とは考えられない)
126
陽音階民謡における終t上音について(牧野)
そこで上行の配列を考えてみる。5音音階
のため、必ず順次的に動く2音と3音の2つ
のグループに分けられ、営、角、徴の3音は
不動であるため、考えられる配列は次の3つ
となる。(譜3)
A . B
C
(3)
町田嘉華氏はAを正羽型、Bを嬰羽型と名付けている。Aの型においてd音を宵と考えるとき、
2つのテトラコールドが考えられる。(譜4)このテトラコールドの構成は西洋音階のそれと酷
似している。すなわち〔譜5に】示すように第3音、第7音を省くことにより、その昔間隔は完
全に一致する。
譜4
重責妄孝司
Aの型を更に延長して考えて見ると、その基準音の取り方により、〔譜6〕の如く、1はA、
2はB、3はCの型と一致する。
営、角、徴の各音が不動なことは前述の通りで
あるが、これは西洋音階における主音、下属音、
属音、の関係に似ている。但し腸音階における営
に対する角、徴の関係が西洋音階の主音に対する
下属音、属音の如き、機能的関係を持つことを全面的に意味するものではない。このことは陽音
階の終止を考究するにあたり特に注目すべき事項である。
上行、下行により羽音の変化する例は、本県下で採集した唄の中では極めて数が少く、日本の
代表的民謡約150曲にあたってみてもその数、数曲にすぎない。以上のことから、陽音階の基本
の型としてはAの型、d、e、g、a、h、dの系列をあげるのが妥当と思われる。この場合d
−を常に官として考えていくことにする。
(1)上原六四郎「俗楽旋律考」 P.85 岩波文庫
(2)田辺尚雄「最近科学上より見たる音楽の原理」 P.375
(3)田辺先生還暦記念「田辺先生還暦記念東亜音楽論叢」 P.677−684
丑 陽音階のわらべ唄と民謡の終止音
ヨーロッパにおける古典音楽の終止(教会旋法による音楽もそうであるが)は、下属和音から
主和音への終止(変格終止)もあるが大部分は属和音を経て主和音に終止する。特に導音と主音
の関係が強調される。さらに7声のため、調性は完全に確立きれ、各音(和音)の機能は充分発
揮される。
陽音帽民謡における終止音について(牧野)
127
しかし陽音階の場合、5音のため同一音系列の中においても営音のとる位置により異る系列が
生れる。いわゆる調性(調性という語は妥当でないかも知れぬが)も終止音の名称も変ってくる。
終止音を決定する際の第一の因難点はここにある。たとえばa音で終止した場合、Aでは徴音終
止、Bでは害者終止となる。いずれにとっても不日
譜7
然には感じられない。(譜7)
(A密 商 角 微 弱
(8)宮 商
角 徴 翳 宮
前述、町田嘉華氏の主張される二つの型のうち、
正羽型(A)についてその終止音を〔〕で示す。
(下方は参考のため輿羽型を示す)(譜8)
小泉文夫氏によればこの終止音として(旋律線の中核的な力をもつ音という意味を含めて中核
音、または略して核音と名付け)官音と微音をあげている。つまり順次的に並ぶ3音の場合は真
申の音、2音の場合は大部分はその中の高い方の音で終止することを述べている。
(1)
(1)小泉文夫「日本伝統音楽の研究」 P.104,114−115
Ⅳ 終止音に対する具体的な検討
前述、小泉氏ものべているように研究の噸序として、単純なわらべ唄から民謡、さらに複雑な
ものへと進むのが妥当で、またこのような段階のものの中にこそ、日本独自の極めて重要な基本
(1)
的要素が含まれているものと信ずる。
(1)前述「日本伝統音楽の研究」 P.108
A 2 音 の 唄
2音だけの単純な動きのため、大部分は子供の唄である。言葉のアクセントを強調した程度の
もので、ここに音楽における「ふし」の芽ばえが見られる。この場合両音の間隔は必ず全音、す
なわち長二度を保っている。噸次的に動く2音のため、Aの型にあてはめて見ると、商、徴、羽
の三通の終止に考えることができるがこの程皮のものの中から型を見すことは余り意味のないこ
とである。可能性としては短3度の動きが考えられるがその例に接していない。
「こんこんさん」(譜9)「のりやのおっさん」は下から上に終止、「やなぎのねかたから」は上
から下に終止している(1三ユ上奈良市)
B 3 音 の 唄
前者にくらべるとある程度表情がついてきている。3音の酉己列には次の3つが考えられる。理
論的にはこれ以外にも考えられないこともないが、実際問題として5音音階においては相隣る3
陽音階民謡における終止音について(牧野)
128
音、すなわち長3度か完全4度以上にはでないようである。
讃 9
こんこんきん(奈良市内ノ
い ま あ き た わ い な い ま ふ く き て い 5 わいな
あぶらげせわいなこん=んさん 品芯‰(やねぎ軸かたか弓)
譜10
A β C
B′ C′
Aに属するものには「大波小波」(譜11)「おもての看板」「鶏一羽」(以上奈良市)等、Bに属
するものには、「○○きんお入り」(奈良市)「子守唄」(譜12)(下市町)「正月の唄」(広陵町)
等に見られる。Cに属するものには「箪笥長持」(譜13)「一匹二匹蝿の子」(以上奈良市)の中
にみられる。Aのグループはいずれも3音系列の真申の音(微音)へ下方(角昔)から終止して
いる。Bグループは同じく微音終止、Cグループは順次的2音の上の晋つまり商音で終止してい
る。以上微音、商音の終止の例が多くみられる。(なお三者のためBはB′、CはC′の配列に考
えられる)
譜11
・A.大う度小波(奈良市内)
ぁぉ・な+み = 恵 み で まわしてまわして あっはちば
譜12
B号等唄(下市訂了)
か あ さ ん か大 よ
おの.な い と LJ と
かえり の み ち て あ の あ 5 と り と
さlTのかすくわ えて くっ くつ く
陽音階民謡における終止∵音について(牧野)
129
譜13
C.箪甘長持(奈良市)
ヽ㌧_ご/
た − んす な が も 号 と・の 二 が ほ し い あ の 二 か
ほしい あのこじやヱ三月、000きんが ほしい
ど う し て い か ぞ およわになってきて ほ し い
C 4 音 の 唄
3音の唄は大部分わらべ唄に限られているが4音になると、表情もかなり豊かになってくるの
で、民謡の中にも相当みられるようになる。録音採譜したものの中かな音系列を探ってみると次
のようになる。
譜14
AI A2 A3
B
Bl
C 、 C t
上栂の組合せの外に下から長2度、短3度、長2度、すなわちd、e、g、aの系列も考えら
れるが該当する唄がなかったのであげない。
Aに属するものには「いせいせい−せ」(譜15)「ぼんさんはんさん」「たんごぶ」(以上奈良市)
等があるが、害者から下降して羽音に終止している。Al同じ羽音終止であるが4度の跳越をし
て、すなわち商音から入っている。これには「たわらのおねずみ」(奈良市)(譜16)この音系列
になると前述の噸次的3音の中では喪中の音で終止という説に該当しなくなってくる。A2には
詔15
A いせいせい−せ(奈良市)
い せ い せ い せ
さかし、′圭、かい いせ
/3_壬がた にがた いせにがた
仁がた ま かい
し こ く し こ く
いせL望はさかい しこく ごう ̄しゆう ごうT Lゆう
い せにがたきかい しこくニゝ一しゆう もきし むさし
陽音階民謡における終止音について(牧野.)
130
譜16
A−たわらのあlねずみ(奈良市)
たわらの おね す′み いっぴ き ちょんリL に ひ き ちょん、ル さんぴき
ちょんソレ し ひ 老 台よんソレ =’‘ひ き ちょん ご ひ き ちょんが そ ろ
た ら いっぴ き ちょんが Lこ げ た
にひき ちょんがに げだ
譜17
A2いちリきちいちい(奈良市)
い ち り き ら い ら い ちつ きよく て すい すい
すいかく て きゃっ さや さや.べ 一ゴ、一一一一一/− で 7kイ
もう ひ と つ
ま わ し て すっ と ん と ん
軽云_壱‥二
藷19
A3正月の唄(広陵田丁)
= た つ に あ た っ て ねんね= しよ
陽着帽民謡における終tヒ素について(牧野)
131
rいちりきらいらい」(譜17)「れんげっもか」(譜18)「ゆうぴんさん」「げたかくし」「一二の
三平」(以上奈良市)「てまり唄」(下市町)等があり、害者から上行して商音終止しているが、
この例が最も多い。A。には「正月の唄」(譜19)(広陵町)があり宮音から角音に上行して終止
している。
「いせいせい−せ」はさらに10迄続くが旋律の動きは同じであるので後半を省略する。
Bに属するものは角音から商音に下降して終止する「一二三」(譜20)(奈良市)BLには「あん
ちんきよひめ」(藷21)「なかのこぼんきん」(譜22)(以上奈良市)「てまり唄」「正月の唄」
(以上下市町)等がありいずれも角音から三者系列の真申の音すなわち微音へ終止している。津軽
(1) しんしよさま
民謡の中に「地蔵様」という唄があるが、「なかのこぼんさん」と歌詞の内容も節の組立も似て
藷20
8一二三(奈良市)
四 の こ の 五
い ち 四 の こ の 四 の こ の 五 バ
譜21
81あんちんきよむめ(禁良市) 、
じようと あ、て ら の 大 て ら の
譜22
Blなかのこばんきん(奈良市)
え ひ. く て 宅んで せ かr+ ̄ひ く
しよう すわりましよう うしろの正 面 だ
い た ちま
陽音階民謡における終止舌について(牧野)
132
いるが、アクセントの相違で旋律の起伏が全く逆になっているのは色々の角度から見て注目すべ
きことと思う。
譜23
Cて入とめふたあ(奈良市)
み やl〇 し よ め ご
ひ ど め /且、た め
い っ や の む
さ し な な や の や く レ
二 〇 の や .で と まっ
譜24
Clこ:もりうた(専門)
だ けのや 善一 か ら
きた−か らす よ せ 仁も
も た 一 す‘
Cの型に属するものは順次的3音の真申の音、散音終止が圧倒的に多い。角音から入っている
ものには「ひとめふため」(譜23)「こもり唄」(以上奈良市)があり、羽音から入っているもの
(2)
には「こもり唄」(譜24)(竜門)等がある。特殊なものとして都祁村上深川の「題目立」がある。
動きとしては常に5度の間を上下し、節も2ル3の型を交互におきかえて構成され、謡曲を極端
に素朴化したようなものである。終止は前述のBのグループに属し、角音から商音に入って終止
している。次にその中の厳島22番「弁才天」の最後の部分を掲げる。
(1)木村 紫「津軽の旋律」 P.24
(2)昭和25年10月15日 BK(第1)より放送
譜25
諺8五厳島二二番弁才東 都罷村)
す..一一t く −‥ 5
な り
陽音階民謡における終止音について(牧野)
133
D 5 音 の 唄
陽音階の構成者、五音全部が出そろうので、この音階の特徴が充分発揮される。採譜したもの
の中から音の系列を探ると次のようになる(譜26)この外にh、d、e、g、aの系列も考えら
譜26
ムー A∼
譜27
A−丁目のいんすけ(奈良市)
奈良の大イ弗さヰ(奈良市)
養空 走)うし う に だれがいる ちがい
ま し た ち かい ま し た
わ の 加
げ− e
譜29
Al大さむこきむ(奈良市)
大 きむ こ さ む もうす く.1 あ・ん よ おんま は
ね 大さかの け‘んろく さん
陽音帽民謡における終止音について(牧野)
134
語 Al臼ひき唄(亀門)
う 一一一 と う ー一一 と
A2こもりうた(大淀田力
よ あん じよ も り一せ よ一日 − さんの一たらう よ
は やく い ざ− た い一一一 あの や ま一 二えて よ い らぬ
こ の − ち を一一 一 為 と に して よ
譜 A2太鼓おどリ(ひんだよどtj)(都示附)
32
と −ヨリー と3一リ ヒ一 一 の ぼ− ̄ 5 −さ − か′一い よ
と ろ り一 とち−リと一 一 のぼ一 石 −さ 一一 か− い よ
き き の ち がさ
あ と とふ一一一 や 一一一.よ
▼ヽ−__ノ▼ ▼
と の一一 や−いよ なんだの 者と.りを
あ・−ビ一一リー一一リ ひ
A3菜っみ唄(都祁村)
一舟と一一 一リーーよ
陽音階民謡における終止音について(牧野)
135
れるが該当する唄がなかった。
Aに属するものには「一丁目のいんすけ」(詔27)(奈良市)があり、角音から微音終止となってい
る。Alには「奈良の大仏さん」(詔28)「大きむこきむ」(譜29)(以上奈良帝)「臼ひき唄」(譜
30)(竜門)等があり、終止は前者と同じである。A空には「こもり唄」(讃31)(大淀町)「ひん
だおどり」(譜32)(都祁村)いずれも羽音からの微音終止である。A3の例としては「茶つみ唄」
(譜33)(都祁村)があげられ終止は前者と同じである。
Bに属するものには「いかだしの唄」(讃34)(大津町)があり、珍らしく噸次的3音系列の一
番低い角音で終止している。しかも微音から下降している。Cには「たからおどり」(譜35)(都
祁村)があり商音から害者に下降して終止している。
譜34
日いかだしの唄(大淀町)
せせの むか い の よ 一 一 二 一だ.ニ や−ま一一
よ さ んじよう あらしの− アリヤ ニー一一 あい一一一よ
譜35
C太鼓おどリ(宝翁とリ)(都辞村)
も、軸」_一ト⊥____l::と− しの一
お ど る よ う に さ
と一一一し一は一め−でたい− ヒー して.’
討ピー 着 ようlニさすe
E 6 音 の 唄
6音になると急に唄の数も多くなり、旋律線も複雑になる。また陰陽両音階の交流もきかんに
見られるようになる。次に示すAのグループ微音終止、Bのグループは商音終止、Cは角音終止
をしている。営、羽音終止もあるが数は少くここでは省略する。(語36)
藷36
A
Al
A2
陽着帽民謡における終止音について(牧野)
136
Aには前にもあげた「一丁目のいんすけ」(譜37)(奈良市)があげられ角音から微音終止し
ている。Alには「いとおり唄」(藷38)(下市町)があり、逆に羽音から終止している。A2に
は「茶つみ唄」(譜39)(広陵町)「はたおり唄」(譜40)(広陵釘)「製茶唄」(譜41)(都祁村)
等があり微音終止であるが全体の音配列が前者と異っている。
A一丁目のいんすけ(素良市)
き ら い て′
あ ′31だ と 忠 一 さ
ツットコトンノ
ツツトコトン
とお りや ん
A,いとおり唄(下市町)
お や の
ゆ い 勘一 き−一 〇 じ
ー さ と ぞう て−
あ. と −
登 う な よ 一一 と
わ き −
陽音階民謡における終止膏について(牧野)
137
譜41
A製茶唄(都祁村相対)
′ , ’ ▲ J
U (
J J J リ ノ ノ■ ′ ▼ \ i ⊥F おちゃは も め も
ちや と
J tU
よ 工
一 塩一 石 −
Bには「こもり唄」(譜42)(竜門)がある。掲載の譜にr〕で囲ってあるところは歌詞のア
クセントに交配され旋律の変化を来しているところである。Bコには「はたおり唄」(譜43)(下
田)があげられるが、角音から商音終止している。B2は同じく商音終止、「てまり唄」(譜44)
(竜門)「こめつき唄」(讃45)(吉野町)等があげられる。Cには「麦つき唄」(譜46)(都祁村)
があり、微音から角音終止している。途中両音階の交流を想わせるところがある。
譜42
B二もりうた(竜門)
お さえさんと げんべえさんが いちばな し ー さ
i 一 ・
ヽ、−
t ノ
l − −1_ごノノ
いろ ばな し −
k
′
ヽ__一′
ふ たっと や ふたまた だいこんに わかれて も  ̄
わ し と
けkぺえさんは わかりやせ ぬ 一 さ わかりやせ
みっ一つ と や み る ほ ど みさえさんは よいによう は“う
−▼ ヽ−−.・.一′
けんペえさん ほれるも むりはな い一さ
もりはな い −
138
陽音階民謡における終止薯について(牧野)
B2はたおり唄け即
の の は 一 反
は ち、と こ
め を 一 く ぼ る
B乞て護りうた(竜門騒動)(酎弓)
B2二めつき唄(吉野町裾眉1
ふ − れ 一
C麦っき唄絹下郡和)
 ̄  ̄  ̄  ̄ つ  ̄  ̄. ̄
君 リや 一 かたの つぎ あてリゆ
ち
陽音階民謡における終止音について(牧野)
139
F 7 音 の 唄
音の数が増すため、配列に色々と考えられるが、採譜した唄の申からは次の6種類の型が兄い
だされた。Aは角者から微音終止、Bは営音から商音終止、Cのグループはいずれも害者終止で
あるがCは商から、Clは同じくオクターヴ上の商から、C2は羽音から終止に入っている。D
は角音終止で微音から下降している.。
譜47
B
c
Aには「はたおり唄」(詔48)(下田)があり微音終止で1番2番3番の終止音が全部異ってい
譜48
Aはたおり喝(下郡
睾画商
あ、 や のl‘ひ か り
は な な さ か ひ か
亭・二J♪♪鎚_:塾J‥・七_・・1二回
3 お や の ち い 二 は一 一かわ い そ う 一 首
詳49
Bこもりうた(都市附す)
ね ん ね こ ちや い− ち ねた = は一一一
い 一 考 一 一 や
お き て
了・
=  ̄ は つ ら 一一 に く一一一 い
140
陽音階民謡における終1ヒ苗について(牧野)
る特異な例である。Bには「こもり唄」(譜49)(都祁村)があり商音終止、「茶つみ唄」(譜50)
(都祁村)「はたおり唄」(譜51)(広陵町)も音の配列は違うが同じ終止である。
なくも い一つ しよう や わちう もー一 い
あと0甘恵一 あ どる ようしこき 禽 と・・石 ようにさ
陽音陣民言酎こおける終た音について(牧野)
141
Cのグループは害者終止の唄であるが、Cには「糸屋おどり」(譜52)(都祁村)Clには同じ
く太鼓おどりの中の「見物おどり」(譜53)(同上)「長崎おどり」(譜54)(同上)があげられる。
譜53
Cl見物かとり(都祁村)
一九 は一 つの一く に一 い けだの− もの よ
二へー の一ぼ−リて− け−んノヱくつ− すれ−ぱ せ い が ん
てら −ま右− ヒ一読.一りて
′ヾつ−じの− かね一か き
じ 一一 の
い つも− た え∵せ.め
ヽ− _一一′
よ う に さ
− あl と る
よ う に さ 盲妄すす
譜54
よ う に さ − み と−.る
譜55
C2
寮もみ碩(都祁村)
いよう 受 よう− ̄− ̄ ̄ よ 一一 ヒ
よ う とっ さ
陽音階民謡における終止音について(牧野)
142
C2には「茶もみ唄」(譜55)(都祁村)がある。これらいずれもが順次的2音の下の万の音で終
止している。このことは前述の諸説に照合し興味ある問題を提起する。Dには「むぎつき唄」
(譜56)(都祁村)があげられ、これまた噸次的3音系列の一番低い昔すなわち角音で終止して前
の原則を打破る。
譜56
Dむさっき唄細層対)
ぎのつく ときや一一 ろくが一つ ̄−
宅して∵一一 一 リ
ニ め のつく ときや か んの 一一一う ー 一一 ち ア
む き”のつく ときや一一
なんのちゃ胸くりや あーだての まくらで
\
一一す まだもいななきやたたき一一一だ一一一す
Ⅴ 結 言
陽音階民謡の最も大きな特徴は5声音の中のどの音ででも終止し得ることである。このことは
西洋音階で構成されている音楽では考えられないことである。極端な例をあげると前掲「はたお
り唄」(譜18)は、連続して鳴われるにもかかわらず各節とも終止音が異っている。これは同一旋
律で繰返し唱われる場合、各節毎に決定的終止をしては、かえって効果が少くなるからではなか
ろうか。常に幾分かの不満感をもたせ、次への期待感をより強くおこさせているようである。さ
て如何なる音によって終止しているか、その割合を前にあげた例によって調べてみると、微音終
止が最も多く45%、次が商音終止30%、営音が9%、角、羽音が各々8%という結果が出た。全
(2)
国の有名な民謡について調べてみても徴、商音終止が圧倒的に多い。町田氏は、民謡全般につい
てであるが微音終止は60%、商音終止は20%、角音終止は9%と発表している。僅少の差はある
がその順位は一致している。
これまで掲げた各々の唄の音の系列をまとめると次のようになる。(詣57)この中で」‘‘ ̄ Hlで
示すものは、理論的には考えるが実例を見ないものである。将来の課題としたい。
(1)これをかりに嬰羽型で考えると嘗音終止45%く徴30%、角9%、商、羽舌終止が8形となる。
(2)前掲「東亜音楽論叢」 P.683−684
0わらべ唄の一部は、録音に当り附属小学校西田夢二氏の手をわずらわした。
陽音階民謡における終止音について(牧野)
143
附 言
数年前本学の卒業生に大和の「売薬の唄」の旋律を尋ねられたことがある。当時は勿論耳にし
たこともなく、またそんな唄のあることすら知らなかった。こんなことが動機となってこの仕事
がはじめられた。そして大和には特有の民謡が余り見あたらないが、数多く集める中には必ず幾
つかの勝れた民謡を見つけ出すことができるに違いないし、年々消え去っていくであろう県下の
民謡を「ことば」だけでなく「音楽」として何時でも聞くことができるように保存しておくとい
うことは、色々な面からみて重要なことであるということを強く感じた。その第一段階として歌
詞の蒐菜に取りかかった。予期に反し移しい数の歌詞を集めることができたが、肝腎の音楽が如
何なるものであるか全然掴むことができなかった。
次にこれを各市町村別に分類し、県下各地に就職している卒業生に依頼してその土地の古老の
方を紹介して貰い、そこ宛に歌詞を送った。このことは研究の上に非常に効果的であった。忘れ
去られようとしている唄の「旋律」もこれによってよみ返えらせた例が幾つもある。また珍しい
歌詞が見つかり、録音を交渉して見ても、2−3年前までは唱える人がおられたが、…・と時期
すでにおそく取返しのつかなくなったものもある。録音した民謡も漸く300を越えその中には勝
れた民謡も幾つかある。上北山の「鎌倉節」「芋の株」竜門、下市の「こもり唄」馬兄の「はた
おり唄」川上上多古の「筏節」等、いずれも機会をみて「音楽」として紹介したい。
採譜にあたって困難な点は、現在の平均率の音では処理できない中間音が多く出てくることで
ある。できるだけ正確を期するため該当する音符に十、一をつけるようにした。リズム、拍子等
は、伴奏つき(三味、太鼓、拍子木、かね等)あるいは動作の伴う唄はまだよいが、「田植唄」「茶
つみ唄」等はその時々の気分によって唱われるので仲々とり難いものが多い。このような場合は
あえて縦線を用いないことにした。
旋律線について、東北や九州地方の唄と同じ唄であろうと思われるものと比較してみると、本
県特有の、言葉のアクセントの支配を受けていながら、骨子となるべき重要な音J終止音などに
はあまり大きな変化を与えていないことが認められた。
テーマの関係上、このたびは腸音階民謡に限定したが、次には範囲を陰音階にも広げ、更に蒐
集につとめ、保存、紹介も兼ねこの研究を一層深く進めていきたい。
(昭和35年11月30日受理)
see
陽音階民謡における終止音について(牧野)
On the Final Tones in the Folk Songs in Y>∂陽Scale
Those Sung at Present in Nara Prefecture
by Eiz6 Makino
In my studies of the final tones seen in folk songs, I have decided to limit it to Yo
陽scale, the materials used being the recordings of them and the musical notes taken
from them. When applied to the most basic formsofy8陽scale-ky左官(d),shS商(e),
kaku角(g), chi徴(a), and u羽(h) - chi and sh8 are found in the greatest number,
kyu followimg them and kaku and u in the least.
本 文 訂 正
1. (譜9)の第2, 3, 4, 5, 6, 7の各小節の上にi1 12 I3 │6 と記す。
2. (譜23)の唄をD項5音の唄のA,グループに入れる。
3・ (翠34)の最後の昔系列 s, h, d,をd, f, g, とすo
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