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Ⅳ章 障害種別に応じた指導及び教育課程編成

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Ⅳ章 障害種別に応じた指導及び教育課程編成
◆Ⅳ章 障害種別に応じた指導及び教育課程編成◆
1 視覚障害者である幼児児童生徒に対して
(1)視覚障害の理解
① 視覚障害とは
視覚障害者の障害程度(学校教育法施行令第 22 条の3)
両眼の視力がおおむね.0. 3 未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のものの内,拡
大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程
度のもの
Ⅳ章
視覚障害特別支援学校では,視覚障害の程度によって「点字を常用して学習
する」か,「通常の文字を常用して学習する」かに分かれる。また,その使用
文字によって学習方法が大きく変わる。
点字を常用して学習
通常の文字を常用して学習
「盲」…点字を常用し,主として聴覚や触
覚を活用。(光覚もない場合が全盲)
通常の文字で学習を進め始めたとして
も,漢字の読み書き等,十分な学習効果
が得られない場合,年度途中であっても
点字に切り換える判断が必要である。ま
た,網膜色素変性のように将来的に視力
が落ちる可能性の高い眼疾患の者に対し
ては,現在常用している文字が通常の文
字であっても,それと並行して,自立活
動の時間などで,点字の学習を継続的に
行うことが必要となる場合も多い。
「弱視」…視力 0.3 未満で通常の文字を常
用し,視覚による学習が可能。
最近の弱視レンズや拡大読書器の活用によ
り,0.01 の視力であっても通常の文字を常
用する者もいる。視力だけでなく,可読文
字の大きさを決める上での目安となる最大
視認力(最小可読視標)
,レンズ類や拡大
読書器活用の可否等を検討して,どちらの
文字を常用するか決め出す必要がある。通
常の文字に決めた場合には,文字の大きさ
による読書速度を検査し,常用に適する字
の大きさを決め出す必要もある。
従前は,「準盲」と呼ばれた遠距離視力 0.02 ~ 0.04 未満の者が点字か通常の文字(視覚障害特
別支援学校では通常の文字のことをしばしば「墨字」と呼ぶ)かの境界線であった。
② 視覚障害と眼疾
視覚障害は,視機能が永続的に低下することの総称である。眼鏡によって,日常生活に
支障のない程度まで矯正できる屈折異常,あるいは,治療によって短期間に回復する場合
は,視覚障害とは言えない。視覚障害には,視力障害,視野障害,色覚障害,暗順応障害,
明順応障害,眼球運動障害等が含まれるが,教育的にみて問題となるのは,主として視力
障害,視野障害,および暗順応障害である。
これらを踏まえ,主な眼疾およびそれに対する日常的な配慮について述べていく。
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ア 視神経萎縮
盲学校児童・生徒の中では,比較的多い眼疾の一つである。先天的あるいは後天的な様々
な原因で視神経乳頭が蒼白な状態で,その症状や視覚障害の程度は一様でない。
弱視教育の対象児によく見られる視神経萎縮には中心暗点を主症状とするものがある。
幼児期から中心暗点のある視神経萎縮では,中心部分が見えにくいため,わずかに横目の
状態で見ているものが多く,
「外斜視」や「眼球振とう」など,眼位や眼球運動の異常で眼
科受診する場合が多い。小さな文字では暗点部に入ると判読しづらくなるので,ルーペや
拡大読書器等の拡大補助具が必要である。
イ 先天性白内障
水晶体の先天異常で,混濁の程度は一様ではないが,混濁が強い場合は,できるだけ早
い時期に手術を行い,無水晶体眼による屈折異常矯正を行うなど,視機能の発達を図るこ
とが大切である。濁りをとらないままにしておくと,視力がほとんど出ない手動弁や指数
弁で止まってしまうことがある。早期の手術により,視力を確保したい病気である。
白内障の手術では,水晶体の中の濁りだけを取り除く手術を行う。手術後の状態を,術
後白内障,あるいは無水晶体眼と呼んでいる。水晶体がなくなると,凸レンズがなくなり,
屈折調節ができない状態となるので,遠くを見る時と近くを見る時でそれぞれ屈折率の違
う2つの眼鏡が必要となる。しかし子どもの場合,多くは遠くと近くの中間に合わせた眼
鏡をあてがわれることが多い。この眼鏡が合わないと,遠くも近くも見えづらい状態とな
り,注意が必要である。板書等見えづらい時は,単眼鏡が有効であり,近くが見えづらい
場合は,ルーペや拡大読書器を利用する。
手術後は網膜剥離を起こす危険性が高いので,注意が必要である。
ウ 網膜色素変性
両眼性で,病変は網膜の中心外の部分に強く,特に桿体の機能が進行的に失われる。錐
体の機能は比較的よく保たれるので中心視力や色覚は長く保たれるが,桿体が侵されるた
め,暗順応に大きな問題が生じる。病状の進行は,先天的素因の相違によって個人差が大
きい。学齢期において視力が 0.1 以下のものもいれば,視野は狭くなるものの 30 歳を過ぎ
ても視力が 1.0 以上保持されるものなど様々である。
暗いところへ行くと,通常では 10 分程度でかなり暗い光でも物体が見えるようになるが,
網膜色素変性では何分たっても見えるようにならない。いわゆる「夜盲」の状態である。
この点の理解と配慮が大切である。また,病状の進行状況によっては,早い段階から通常
文字と並行して点字の学習を導入しておくことを考えるべきである。
エ 先天性緑内障 前房隅角の形成不全によって起こるもので,乳幼児に発症したものは乳児緑内障,あるい
は眼球が拡大するので「牛眼」と呼ばれることもある。 先天性緑内障が早期に発見され,手術が成功すれば,眼球があまり大きくならず,視力障
害も強くはない。一方,発見が遅れたり,手術が成功しなかったりすれば,眼球が拡大し,
角膜混濁が顕著となり,視神経萎縮を生じ,視力障害は高度になる。
「牛眼」は風船を大きくふくらました状態に似ており,外力が加わると眼球破裂の危険が
ある。そこまで至らなくても,眼内出血,網膜剥離,水晶体離脱などが起こりやすい。眼部
衝撃だけでなく全身的衝撃(水泳の飛び込み,柔道の投げ技など)に対しても非常に弱い立
場にあるので,かかわりのある周りの者は,そのことを熟知しておくことが望ましい。また。
長時間の前屈みとなる姿勢は,眼圧を高めるので,書見台の利用,学習時間等配慮が必要で
ある。日常生活においても,過労に注意し,眼圧が上がりそうなことは避けた方がよい。
オ 白子症
先天性のメラニン形成異常に基づく疾患。全身的に無(低)色素になる眼・皮膚白子症
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と眼球だけに症状が限られる眼白子症がある。 しゅうめい
特に羞明(まぶしさ)が強いので,遮光眼鏡の装用が必要である。また,色素欠乏の皮膚
は紫外線に弱く,日よけへの対応が必要である。
カ 未熟児網膜症
未熟児,特に超低出産体重(1,000g 未満)の乳児は生後まもなく発症の可能性がある。未
熟児網膜症は,網膜の異常である。視力は正常から全盲まで様々である。網膜剥離を起こ
しやすい症例もあるので,眼球への衝撃等の予防に心がける必要がある。眼球周辺や眼球
自体を指や握りこぶしで強く押す「目押し」という癖が認められることも多い。
キ 小眼球・虹彩欠損
小眼球や虹彩欠損は胎生期における眼球形成の障害である。眼球振とうを伴うことも多い。
虹彩欠損では羞明があるので,遮光眼鏡の装用が必要である。小眼球は,眼球の形成不
全のため網膜剥離には注意したい。 (◎は特に留意すべき点である)
Ⅳ章
視覚管理等 網膜剥 明るい 羞明の 定期的
離予防 照明
予防
検診
眼疾
視神経萎縮
無水晶体眼
○
○
網膜色素変性
先天性緑内障
◎
白子症
備 考
視野欠損 眼球振とう
○
術後白内障 水晶体を補う矯正眼鏡
◎
◎
視野狭窄 暗順応障害
○
◎
点眼 日常生活の安定
◎
遮光眼鏡 日よけ対策
未熟児網膜症
○
目押し
小眼球
○
眼球振とう
無虹彩・虹彩欠損
◎
網膜芽細胞種
遮光眼鏡 虹彩付コンタクトレンズ
◎
黄斑部変性
全色盲
義眼
中心暗点
◎
遮光眼鏡 主な眼疾の視覚管理等
③ 視力等の測り方
ア 遠距離視力
一般に視力といわれているものが,この遠距離視力である。ランドルト環を使って測る
ことが一般的である。7.5㎜四方の正方形に描かれた環の 1.5㎜の切れ目を5m から見た場
合,視角が1分になる。これを見分けられれば,視力値は 1.0 ということになる。これが
基準になり,視角2分を見分けられれば,視力値は 0.5 となる。
そして,4方向のうち3方向が正解であれば,その値を視力とする(3方向中2方向で
行うこともある)。
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0.1 以下の視力の場合は,5mより前に来て,見分けられた指標を距離に合わせて換算す
る方法をとることが一般的である。しかし,屈折異常がある場合,距離を変えると正しい
値が得られない。手作りで 0.1 未満の指標も作っておくことが望ましい。
0.01 未満の視力
指数弁 30cm から指の数が分かれば,30cm 指数(または 30cm / n.d.)
50cm 指数はおよそ視力 0.01 である。
手動弁 眼前で手の動きが分かれば,眼前手動弁(m.m.)
光覚 光の明暗が分かれば,光覚(s.l.)
全盲 光も全く感じられなければ視力0,全盲である。
遠 距 離 用 ラ ン ド ル ト 環 の 寸 法
1.0
1.5
0.5
3.0
0.1
15.0
0.09
17.0
0.08
19.0
0.07
21.0
0.06
25.0
0.05
30.0
0.04
43.0
0.035
43.0
0.03
50.0
0.025
60.0
0.02
75.0
イ 近距離視力
30cm から測る視力で,近距離視力標を使って測る。遠距離視力と同じで,30cm の距離
で視角1分の視標が 1.0 となっている。
ウ 最大視認力(最小可読視標)
どれだけ小さな字まで読めるかの目安となる,教育界から生まれた大切な値である。眼
科医は知らない場合もあるが,視覚障害教育に携わるものは熟知すべきものである。
近距離視力標を用いて測る。視力標を被験者自身がいちばん見えやすい距離まで目を接
近させて,どこまで小さな視標が見えるかで表す。視力検査と同じく4方向中3方向が正
しければ,クリアとする。MAX0.6(5cm 左)とあれば,可読できる最小の視標は 0.6 で,
左目と視標との距離が5cm だったことを表す。 *「字一つ視力」と「字づまり視力」について
一般の小中学校にある視力標は,ランドルト環が上から大きい順に並んで配列された,
「字づまり視力標」である。弱視児や幼児の場合,見ようとする1つの視標を周りの視
標が影響して,正しい値が得られない場合がある。これを避けるために「字一つ視力標」
を用いるといい。
22
Ⅳ章
* 両眼で見た視力
視力は,片眼ごと検査するのが一般的であるが,日常的には両眼を使って見ているの
で,教育現場では両眼で見た視力も検査しておくことが大切である。
表記例(遠距離 右 0.2 左 0.2 両 0.3)
エ その他の視力標
(ア) 絵視標
幼児や知的障害児に使われる。提示された絵視標の名前を答えさせたり,絵合わせの要
領で提示されたものと同じ絵を選ばせたりして検査を行う。
(イ) 森実式ドットカード
近距離用の視力標で,動物の目の部分が視標となっている。ウサギとクマの2種類があ
るが,30cm から離れて目があるかないかを答えさせる。 (ウ) テラーカード(Teller Acuity Cards)(TAC)
TAC は灰色のボードの片側に縞模様があり,幼児児童が縞模様の縞に注目するかどうか,
目の動きを見ることにより,判定する。見えていれば,反射的に縞模様の方に目が動く
ことを利用した検査法で,重度・重複障害幼児児童生徒であっても,乳幼児からの検査
が可能である。
絵指標
ドットカード
テラーカード
オ 視野
健常視野は,上側 60 度,下側 70 度,鼻側 60 度,耳側 100 度である。 視野の障害には眼疾によって,中心暗点,輪状暗点,求心性狭窄,半盲等がある。視野
の検査を厳密に行うには,眼科医に依頼するのが一番よいが,盲学校でも,以前から使わ
れている視野計で視野の概ねを測っている。8方向から白色固定視標を移動し,その見え
た位置を測定する。
なお,上述した検査とともに,日常的な指導の場面では,どんなものがどのくらい見え
るのか,あるいは晴れの日と曇りの日では見え方が違うか,どの程度の字が実際に見える
のかなど観察や質問を通して把握しておく必要がある。
④ レンズ類の選定 学習や生活する上で,十分な視力が得られない場合,補助具として単眼鏡やルーペ類を
選定することになる。
ア 単眼鏡
5mの距離から 0.5 ~ 0.6 の遠距離用の視標が読める単眼鏡を選定する。0.1 の視力の者
が6倍の倍率の単眼鏡を使うと,0.1 ×6= 0.6 およそ 0.6 の視標が見分けられることにな
る。
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低学年は,板書の字なども大きいので,視野の広い比較的倍率の低いものを選ぶ場合が
多く,学年が進むにつれ,倍率の高いものに換える場
合もある。
低学年のころは,大きめのやや倍率の低いものを選
び,学年が進むにつれ,用途に合わせて何種類かのルー
ペを使い分けられるようにするとよい。
イ 拡大読書器
視力や視野の関係でルーペが使えない場合は,拡大
読書器を使うこととなる。据え置きの拡大読書器から,
現在では 10cm × 20cm 程度の携帯用のものまで出て
ルーペと単眼鏡
いるので,試してみたい。
⑤ 視覚障害児への指導
ア 発達におよぼす視覚障害からくる阻害
要因
視覚障害そのものは医学的な処置に
委 ね る し か な い が, 視 覚 障 害 か ら 派
生 す る 阻 害 要 因 は, 適 切 な 教 育 的 操
作によって順調な発達も十分期待でき
る。また,視覚障害以外に器質的に知的
障害があったとしても,この教育的操作
により,発達遅滞を最小限に抑え,潜在
能力を最大限に引き出すことが可能と
なる。そのためには早期からの教育が必
要であり,幼稚部や母子教室の役割と責
任は重大である。広D-K視覚乳幼児発
達検査等で乳幼児の発達段階を把握し
た後,指導内容を決め出し,指導を進め
ることが大切である。
最大視認力
文字の大きさ mm
ポイント
1.0
2.88
8p
0.9
3.21
9p
0.8
3.60
10 p
0.7
4.11
12 p
0.6
4.80
14 p
0.5
5.76
16 p
0.4
7.20
20 p
0.3
9.60
28 p
0.2
11.52
33 p
0.1
14.40
40 p
弱視児の読書用文字の大きさ(中川他 1992)
視覚障害から派生する阻害要因の主なものとして次の4つがあげられる。
(ア) 行動の制限
視覚障害,特に盲という状態は人間の行動を大きく制限する。自ら意欲を持ち,能動
的に動くことにより発達がより促されると,実験的にも言われているが,見えないこと
により,盲幼児は未知環境に対して極端なまでに消極的な行動を示す。この行動の制限
は,身体発達や知的発達に影響を与え,更には社会的経験の不足によって社会性の未発
達の原因になりうると予想される。
(イ) 視覚情報の欠如
視覚によって得られる情報量は,80%とも 90%とも言われる。しかも年齢が低いほど,
視覚からの情報によって事物の具体的な概念を形成することが多いので,視覚障害の影
響は大きくなる。そのため,視覚障害児は知識の全体量が少ないばかりでなく,偏った
知識を多く持つことにもなりかねない。
(ウ) 視覚的模倣の欠如
子どもは,模倣によって多くのことを学ぶ。視覚障害児は,視覚的模倣が不可能であっ
たり困難であったりするために,日常生活に必要な動作を習得することが難しくなる。
24
Ⅳ章
しかも,晴眼児ならば模倣によって自発的に習得する動作や技術を,視覚障害児は大人
から一つ一つ教えられなければならない。そのため,自主性や積極性が育たないという
派生的な問題も発生する。
(エ) 視覚障害児に対する社会の態度
視覚障害児に対する社会の態度も無視できない影響を及ぼす。特に発達初期における
両親の育児態度は,パーソナリティ形成をはじめ,発達の諸領域に大きな影響を与える。
「目が見えないからかわいそう,危ない,できそうもない」と自分でやれること,やれ
そうなことにも手を出していると,視覚障害児の自ら活動しようとする意欲をそぎ,年
齢が進んでも自主性や積極性が育たないことになる。
イ 盲児童・生徒への指導
(ア) 点字の指導
点字の導入に当たって,はじめに考えなくてはならないことは点字学習のレディネス
の形成や動機付けについてである。点字を読むという触運動は受け身的な態度では成り
立たない。乳幼児期において,自発的な探索行動の発達が十分促されない場合は,この
指導から行う必要がある。
点字の指導のレディネス学習として次の点が考えられる。
・触運動の統制と弁別(触運動に必要な両手の円滑な動き,大きさや粗滑などの弁別)
・触空間の形成と点の位置づけ(身体軸,点の位置関係)
・音声言語の構成分解(「『ピンポン』は4拍」というように点字表記に結びつけた発音
と拍の結びつけ)
・象徴機能の学習と点字学習への動機付け(模型やおもちゃ等により本物をイメージす
る等)
これらの学習の結果を総合的に判断した後,点字を導入していく。また,場合によっ
ては点字を導入しながら平行してレディネスの学習をしていく。
詳しくは『点字学習指導の手引き(平成 15 年改訂版)』(文部科学省 2003 年)を参照。
(イ) 空間概念の指導
盲児にとって,自己の身体のイメージを明確にもつことが,身体運動のイメージを育て
ることにつながり,最終的には歩行地図の理解に通じる。身体各部の名称から始まり,身
体の動きにつながっていく。一方滑り台,のぼり棒等遊ばせながら,自分の前後,右左,
上下と空間の理解を広げていく。さらに教室や校舎の模型を使って空間概念を作っていく。
(ウ) 言葉の指導
○ 言葉と実物 全盲であるのに,まるで見てきたかのように話しているが,よくよく聞いてみると,
よく分からない,言葉だけが一人歩きをしている状態をバーバリズム(唯言語主義)
と呼ぶことがある。盲児は視覚的イメージを持つことができないが,できる限り実物
を体験させたい。国語の読み物教材,社会科の歴史的建造物等の学習では,実物があ
ればそれを用意すればよいが,それができない時は模型だけでも用意し,イメージ化
を図りたい。
○ 漢字・漢語の学習 普通の点字では,仮名文であるので,そのまま続けて学習していくと,普通文字の
漢字がおろそかになりがちである。小学校の漢字学習における漢字の成り立ち,漢字
のつくりなどと合わせながら,ていねいで,しかも継続的に学習していく必要がある。
学年が進むに連れて,漢字についての学習がおろそかになりがちではあるが,熟語で
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はどんな漢字が使われているのか,特に音読みの漢語は間違うことが多いので注意が
必要となる。
○ 運動や動作の指導
晴眼者では,視覚的模倣で誰にも言われずできる「さよなら『バイバイ』」の動作
も盲児にとってはしっかり分からないばかりか,教えてもらわないとその手の動作が
あること自体分からない。特に手のひらが相手の方に向かず,自分の方に向いたまま
『バイバイ』ということが,時々出てくる。両手で水をすくって顔を洗うことも難しい。
箸で物をはさむことは至難の業である。
このような動作に対して,一つ一つ継続的に指導していく必要がある。特に盲児は,
脱力の感覚が難しく,力を入れっぱなしでぎこちない動作になることも多く,体育科
とも連携を図りながら指導を続ける必要がある。
ウ 弱視児童生徒への指導
弱視児童生徒は盲学校内では見える者として扱われ,ともすると全盲生の補助として,
活躍している。しかし,一人一人の見え方には個人差が大きく,一人はまぶしいのに逆に
もう一人にとっては暗すぎるといったことも生じる。一人一人の眼疾や視力に合わせて,
学習環境を整える必要がある。
学習環境への配慮をした上で,意欲的に見ようとする学習内容を計画していくことが大
切である。普段の学習ではすぐ「見えない,見えない」と諦めてやろうとしないのに「ウォー
リーをさがせ」のような本では,一生懸命見て小さなものでも見つけてしまう弱視児もい
る。見ることの学習や経験を積み重ねていくことにより,見えにくいものであっても推測
によって理解できることを少しずつ増やしていきたい。
(ア) 網膜像の拡大 ○ 目を近づけること
○ 拡大教科書 拡大教材の使用
平成 20 年に「教科書バリアフリー法」ができ,
拡大教科書も増えてきた。出版社で作っていな
い場合でも拡大教科書ネットワークにより,比
較的容易に拡大教科書を入手できるようになっ
てきている。
小学部では,児童への負担軽減の意味からも,
できる限りレンズ等の補助具を使わなくてもよ
い拡大教材を用意することを原則にしたい。
拡大教科書(左)
○ レンズ類の活用
近用のルーペ類には,手持ち型,卓上型,眼
鏡型があり,視力や使用目的に合わせて選定する。ルーペの倍率は当てにならないの
で,注意が必要である。単眼鏡は 0.5 ~ 0.6 程度の視標が読めるものを選ぶようにしたい。
○ 拡大読書器
ルーペでよく見えない場合は,拡大読書器を使う。最近は携帯用拡大読書器も出て
いるので,持ち運びが便利となった。
どの拡大方法でも同じであるが,あまり大きくすると網膜に入る字数が少なくなり,
効率が悪くなる。読みやすさと,読書速度を考慮に入れながら,拡大率を設定したい。
(イ) 校舎・教室内環境の整備
○ 見えやすい安全な環境
普段慣れている場所では,はしゃぎ回っている弱視児でも火災の避難等,緊急を要
することを想定すると,できる限り安全な環境を整えておきたい。特に階段は下りの
26
Ⅳ章
際,見えにくさを訴える者も多く,コントラストの
ある滑り止めを設置しておくことが望ましい。ま
た,日ごろから廊下などに物を置いたりしないで
歩行しやすい環境を整えておきたい。 ○ 適切な照明
白子症や全色盲は羞明を訴え,明るすぎると見え
方が低下する。一方,網膜色素変性は薄暗いと見
えなくなる。このように同じ視力であっても,眼
疾によって見やすい明るさが異なる。その眼疾の
特性に合わせて,明るさを調整できる調光可変式
の室内照明を取り付けたり,机上を局所的に明る
くしたり,窓にブラインドや遮光カーテンを取り
拡大読書器
付けたりする必要がある。 ○ 黒板と板書
黒板は,学校では濃緑色が一般的であるが,この場合白色,黄色のチョークのコン
トラストが高く見やすい。逆に青色,緑色,赤色といったチョークはコントラストが
低く,黒板の色と混じり合ってしまい,見えにくくなる。また,普通のチョークより
値段は高いが,蛍光色のチョークは比較的見やすい。その中でも,
「オレンジ色のチョー
クが見えやすい」と答える者が多く,色チョークを使う場合は考慮したい。
○ 書見台の活用
弱視児は見えにくいため,目を極端に教科書やノートに近づけて読んだり書いたり
することが多い。机の上にうつぶせ状態になることは,眼圧の上昇の原因になるだけ
でなく,姿勢や健康にも影響を及ぼし,学習効率も低下する。机の点板が斜めにせり
上がるように工夫された傾斜机とか,机の上に置ける書見台を利用することが望まし
い。特に漢字練習のような場合は利用することを習慣付けたい。
(ウ) 見えやすい教材・教具
○ ノート
毎日使うノートのマスや罫のほとんどが,細く薄い水色系の線で書かれている。こ
の線が見えにくいと訴える者も少なくない視覚障害特別支援学校では,数種類のノー
トが作られており,弱視ノートも作られている。太い線になっているノート,線の色
が茶色になっているノート等があるので,もし,市販のものが使いづらいようであれ
ば,その弱視児にあったノートを探してみる必要がある。 ○ 何種類かを比べて
学年が上がるに連れて,算数ならものさし,三角定規,分度器といった道具類に困
難さを訴えることが多い。例えば,ものさしなら竹のものさしは扱いにくいので,で
きればプラスチックのものを使わせたい。また,三角定規や分度器も市販のものが数
多く出ているが,数字の大きさが違ったり,形も多少違っていて,微妙に使い勝手が
違う。弱視用の定規も出ているので,いくつかを比べてみることが大切である。国語
の辞典なども,字の大きさや字体が違うなど差異があるので,比較してみたい。
なお,晴眼者が見ても見やすいものが,概ね弱視者にも当てはまることが多い。
(2)教育課程編成の配慮
ア 視覚障害特別支援学校の教育課程
視覚障害特別支援学校においては,幼稚園,小学校,中学校及び高等学校と同じ教育目
標が達成できるよう,それらの園・学校に準じた教育課程を編成することを基本とする。
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その際,保有する視機能を最大限に活用するとともに,触覚や聴覚等,視覚に代わる感覚
を有効に活用することを十分に踏まえて指導する。その保有する視機能によって点字等を主
とした「盲教育」と,文字の拡大等に配慮した「弱視教育」
,あるいは,点字と普通文字を
併用した教育が行われることとなる。視機能や使用文字によって教育方法が大きく変わるも
のも多く,そのことを十分考慮に入れて授業内容,授業時間など教育課程を編成する。
イ 教育課程編成の配慮事項
視力,最大視認力(最小可読視標),視野など教育的な視機能評価を行った上で,学習指
導要領にある5つの点に配慮して一人一人に合った教育課程を編成する必要がある。
(ア)幼児児童生徒が聴覚,触覚及び保有する視覚などを十分に活用して,具体的な事物・
事象や動作と言葉を結びつけて,的確な概念の形成を図り,言葉を正しく理解し
活用できるようにすること。
視覚に障害のある幼児児童生徒は視覚による情報収集が困難であるため,言葉の持つ概
念やイメージを適切に身につけることが難しい場合が少なくない。実態や具体的経験を伴
わない言葉による説明だけで事物・事象や動作を理解したと思い込んでしまっている場合
も見られる。特に全盲児が概念やイメージを作りにくいものとして,山や海のように大き
すぎるもの,微生物のように小さすぎるもの,あるいは火や沸騰したお湯など触ると危険
なもの,絵や見取り図のような立体を平面に表したもの,さまざまな色や光の情報等が挙
げられる。そして言葉だけ一人歩きするバーバリズム(唯言語主義)に陥りやすい。それ
らの事物・事象を理解することは容易ではないが,触察による観察が容易なものまで知ら
ないで過ごしてしまう場合も少なくない。まずは,視覚以外の聴覚,触覚などの感覚や保
有する視覚を十分活用し,観察したり,体験したりすることを多く取り入れ,能動的に観
察や体験をしようとする意欲を育てたい。その上で具体的な事物・事象や動作と,言葉を
結びつけて,的確な概念の形成を図り,言葉を正しく理解し活用できるように教育課程を
編成することが大切である。
(イ)幼児児童生徒の視覚障害の状態等に応じて,点字又は普通の文字の読み書きを系
統的に指導し,習熟させること。なお,点字を常用して学習する児童に対しても,
漢字・漢語の理解を促すため,児童の発達の段階等に応じて適切な指導が行われ
るようにすること。
点字を覚えること自体大変な苦労をしながら覚える点字常用者も少なくないので,点字の
学習を続けていると漢字や漢語を学習することにまで時間を割けられない場合も出てくる。
しかしながら,漢字仮名交じり文を基盤とする日本語は,漢字や漢語の意味が理解されてい
ないと全く異なった意味として理解されてしまう場合も多い。小さいころより漢字の成り立
ち,
「へん」
「つくり」
「かんむり」といった部首,訓読みや音読みといった漢字の読み書き
の基礎的な知識を身につけさせていきたい。その際,市販されている触って分かる漢字の本
や,レーズライターや立体コピーによる手作り教材等を活用していきたい。
(ウ)幼児児童生徒の視覚障害の状態に応じて,指導内容を適切に精選し,基礎的・基
本的な事項に重点を置くなどして指導すること。
教科によっては自立活動に時間をとられるため,各教科等の授業時間が少なくなってい
るが,学習内容によっては時間をかけて触察教材を触らせながら学習させなければ,学習
効果が上がらない場合もある。また,学習によっては,一度理解すると,それをもとに発
展応用が可能な学習もある。そのため幼児児童生徒一人一人の障害の程度・学習能力等の
実態や授業時間を考慮に入れた上で,基礎的・基本的事項の理解に重点を置くなど指導内
28
容を精選して,教育課程を決め出していかなければならない。
(エ)触覚教材,拡大教材,音声教材等の活用を図るとともに,児童が視覚補助具やコ
ンピュータ等の情報機器などを活用して,容易に情報の収集や処理ができるよう
にするなど,児童の視覚障害の状態等を考慮した指導方法を工夫すること。
Ⅳ章
視覚障害は当然のことながら,視覚から得られる情報に制限が大きい。それを少しでも
改善するため,弱視児童生徒においては,拡大教材を準備したり,単眼鏡やルーペ,拡大
読書器を活用したり,コンピュータでは「ズームテキスト」のような画面を拡大するソフ
トを使用したりして対応していきたい。また,弱視児童生徒自身が,どのような明るさで
どのような字体や文字サイズが自分にとって一番見やすいかを理解し,自分でプリントや
コンピュータ画面の拡大等ができるようになることも大切である。全盲生においては,触
察教材あるいは各種の音声装置で,視覚による情報を触覚や聴覚でとらえることができる
ようにして,直接的あるいは間接的経験を増やすとともに,触覚や聴覚を活用し,観察等
の学習方法を的確に身につけていくことが大切である。さらに配慮しておきたいことは,
視覚的イメージをどの程度もっているかということである。例えば「おおぐま座はひしゃ
くのような形をしている」と言われても,
「ひしゃく」のイメージがなければ,かえって理
解を難しいものにしかねない。3歳未満で失明した場合は,ほとんど視覚的イメージをも
たないと言われるが,失明時期と合わせながら,どんな視覚的イメージをもっているかに
よって学習方法も学習教材も変わることになるので注意したい。
(オ)幼児児童生徒が空間や時間の概念を活用して場の状況や活動の過程等を的確に把
握できるよう配慮し,見通しを持って意欲的な学習活動を展開できるようにする
こと。
視覚障害者が集団の中にいる場合でも,教師が全体に対して「あっち」「そっち」などの
指示語を指さしながら使うことがある。見えない者にとっては,どの方向かまるで分から
ず,それだけで活動への意欲を萎縮させてしまうこととなる。慣れない場所にいるのであ
れば,前もってその場所にどんなものがあるか,どのくらいの人がいるか,また活動中は,
周りのものがどんな活動をしているか,など的確な情報を与え,気持ちの面でも余裕のあ
る活動ができるようにして,自分を基準とした位置関係で周囲の状況を把握したり,時間
的な見通しをもったりして行動できるように指導したい。
ウ その他
知的障害や聴覚障害など他の障害を併せ有する重複障害児童生徒の場合は,その発達段
階や障害の程度を的確につかんで,教育課程を編成していく必要がある。視覚障害の特性
のために探索動作や歩行に遅れがあったり,聴覚障害を併せ有するためコミュニケーショ
ン手段がわからなかったりする場合に,知的障害の程度が大きいと間違うことがあり,発
達段階と大きくずれた教育課程の編成になってしまうことがあるので,十分注意を要する。
〈引用・参考文献〉
『視覚障害教育に携わる方のために』香川邦生編著 慶應義塾大学出版会(1996)
29
『小 ・ 中学校における視力の弱い子どもの学習支援』香川邦生他 教育出版(2009)
『視力の弱い子どもの理解と支援』大河原潔他編 教育出版(1999)
『視覚障害心理学』佐藤泰正 学芸図書(1988)
『視覚障害学入門』佐藤泰正編 学芸図書(1991)
『視覚障害児の発達と学習』文部省 ぎょうせい(1984)
『観察と実験の指導』文部省 慶応通信(1986)
『視覚障害児のための言語の理解と表現の指導』文部省 慶応通信(1987)
『視覚障害教育入門Q&A』全国盲学校長会編著 ジアース教育新社(2000)
『視覚障害指導法の理論と実際』鳥山由子 ジアース教育新社(2007)
『現代の眼科学改訂第4版』田中直彦他編 金原出版(1990)
『視覚障害幼児の発達と指導』五十嵐信敬 コレール社(1993)
『歩行指導の手引き』文部省 慶応通信(1987)
『点字学習指導の手引き(平成 15 年改訂版)』文部科学省 大阪書籍(2004)
『教師と親のための弱視レンズガイド』稲本正法他編 コレール社(1995)
『視覚障害者の社会適応訓練第3版』芝田裕一編 日本ライトハウス(1996)
30
2 聴覚障害者である幼児児童生徒に対して
Ⅳ章
(1)聴覚障害の理解
① 聴覚障害児の心理
ア 聴覚障害とは
人間の聴覚の活用を考えると,単に環境に存在する音を知覚したり,弁別したり,同定
したりするだけでなく,その音の意味するところを認知したり,楽しんだりすることも大
切な活動と言える。また,聴覚は,視覚や他の感覚と統合されて,より複雑な環境の把握
や意味づけを可能にしている。
聴覚障害とは,一般的に,音が耳介から外耳道を経て,第一次聴覚野に至るまでの経路
のどこかに障害があることを言う。つまり,聴覚障害の本態(一次的障害)は,「きこえな
い,きこえにくい」という聴覚的情報の受容・認知障害である。しかし,きこえの障害は,
図1のような様々な二次的・三次的障害にまで派生する可能性がある。このような発達に
及ぼす様々な影響の大きさについて理解しておくことが,聴覚障害児の健全な発達を補償
していくために不可欠である。
イ 聴覚障害児のことばの指導
ことばには,
「コミュニケーションの道具」「思考の道具」「行動コントロールの道具」と
いう3つの機能がある。これを,幼児期の発達から見ると,まず母親とのやり取りなど「コ
ミュニケーション機能」が発達しはじめ,多くのやり取りや場の経験を経て,幼児なりに「行
動調節」ができるようになる。しかし,ことばが「思考の道具」として機能しはじめるた
めには,物と物(者)などの「因果関係の理解」という育ちを待たなくてはならない。
聴覚の障害が情報の受容障害であることから,聴覚障害児は「分かる」ことにいくつか
31
の制約があることになる。つまり,聴覚障害児には,
「情報を正確に伝えることが基本」で
あるといえる。言い換えれば,
「子どもが分かるように伝えること」と「分かったかどうか
を常に確認すること」である。
子どもの「確認」の確認
○何を見ているのか
何を感じているのか
何をしたいのか
○身振りや場面の状況でわかったのか
ことばでわかったのか
○その場の中でわかったのか,場を離れ,経
験を離れて取り出せるのか
「分かった」のレベル
A; 話の全部がわかった
B; 一部分のみがわかった
C; わかること(ことば)があった
D;「わかった?」の問いかけがわかった
E;「わかった?」の問いかけを模倣した
F; とりあえず「わかった」と言っておく
B,Cのレベルでも会話がつながってしまう。会話がつながってしまうことで,理解の
曖昧さは見落とされやすい。つまり,会話の中でも,どのレベルで分かったのかを確かめ
ていくことが理解のつまずきを知ることになり,ことばの力をつけていくことにつながっ
ていく。「ことば」とは見えにくく,流れてしまうものであることを考えて,常に確認しな
がらことばの指導をしていく必要がある。
「コミュニケーションの成立」とは,「分かり合いの成立」ともいえる。
dB
② 聴覚障害児の実態把握
0
ア 聴力検査
ささやき
10
声
一口に「音がきこえにくい」と言って
20
も,きこえにくさの程度は子どもにより 30
静かな
異なる。きこえにくさの程度を表すのが 40
会話
「聴力レベル」である。音の強さはデシベ 50
普通の
ル(dB)という単位で表すが,数字が大 60
会話
きいほど強い音を意味するので,きこえ 70
80
大声
にくさの程度が増せば増すほど聴力レベ
90
さけび声
ルは大きな数字で表されることになる。 100
近くの
(図2参照)
110
さけび声
また,一人の子どもでも,きこえやす 120
125 250 500 1000 2000 4000 8000 Hz
い音ときこえにくい音がある。
「低い音は
図2 音の大きさと環境音
きこえやすいが,高い音はきこえにくい
子」逆に,
「高い音はきこえやすいが,低い音はきこえにくい子」と,様々なきこえ方がある。
そして,きこえ方の特徴は,話し方の特徴にもつながることが多い。例えば「高い音がき
こえにくい子」(図3右端)は,子音の「サ行音」がきこえにくく,発語での「サシスセソ」
音が不明瞭になりやすい場合が多い。子どもの個々に異なる「きこえにくさの程度」と「き
こえ方のパターン」を調べるのが聴力検査である。
図3 聴力型によるきこえ方の違い
32
イ 補聴器と人工内耳
補聴器は,音を大きくする一種の増幅器である。音のエネルギーを電気的エネルギーに
変換し,それを増幅して,再び音のエネルギーに変換して耳に伝える。しかし,補聴器は
音を大きくするだけであるので,感音性難聴(内耳,聴神経,脳幹,大脳・聴覚野の聴覚
神経の部位に病変がある場合)の場合,音としてきこえても歪んできこえてしまう。その
ため,音やことばのきき分けは,「学習」によって高めていく必要がある。
Ⅳ章
補聴器は,かつては本体に付いている各種調整目盛りの上下で子どもの聴力レベルに合
わせる「アナログ補聴器」が一般的であった。しかし,近年では,あらかじめ専用のコン
ピュータで,個々の聴力レベルに合わせて調整し,補聴器に入った音をその人がききやす
い音にデジタル信号処理する「デジタル補聴器」が主流となってきている。デジタル化に
より,ききたい人の会話のみを増幅する機能や,きこえにくかった音(図3参照)を,きこ
える範囲の音に変換するなど,子どもの「きこえにくさ」を補っている。
人工内耳は,上記の補聴器とは音の伝達方法や音情報そのものが異なるが,体内埋め込
み型補聴器といえるものである。手術によって内耳に音を電気信号に変換する電極を埋め
込み,直接電気信号を聴神経に伝達するものである。感音性難聴では,音を伝える有毛細
胞(蝸牛内)に何らかの原因があり,聴神経には障害がない場合がある。聴神経に直接電気
信号を送ることで,歪みやきこえにくさの程度がほとんどなく,多くの音を感じることが
できる。感じた音を意味のある音や音声言語としてとらえられるようになるためには,医
療機関でのリハビリテーションや,補聴器での学習同様の配慮や注意が必要である。
ウ コミュニケーションと言語の発達
補聴器や人工内耳の技術がどんなに進歩しても,聴覚障害児は特別な指導や配慮がなけ
れば,言語を獲得することが困難な子どもたちである。言語には,様々な側面がある。
・人の話を理解し,自分の伝えたいことが分かってもらえること
・生活の中で適切なことばを使って人とコミュニケーションがとれること
・文字を読んで多くの情報を正しくつかみ,相手に誤解なく自分の考えや思いを書いて伝
えられること
などである。
「わからないと言わない」から理解しているととらえるのではなく,一人一人
の子どもの「言語の力」を正しくとらえることが必要である。
③ 聴覚障害児の発達の特徴と配慮
ア 幼児期の発達の特徴と配慮
【1歳~2歳児】
子どもの表出から意図を正しくつかむとともに,子どもの分かる手段を用いて,確かな
伝え合いを心がける必要がある。
繰り返されることや要求される場面での音や声を,ききやすい状況で一緒に言ったりき
いたりする。そして,身の回りの人の表情や身振り・場面や物などを見たり,触れたり,
動かしたりと聴覚以外の様々な感覚を通してその意味をとらえていけるようにする。
33
【3歳児】
友だちとのかかわりの増加や周りの事物や事象に対する興味関心の高まりの中で,相互
にわかり合いたいという気持ちも芽生えてくる。しかし,その場合に共通の伝達手段が習
得されていない場合には,意思の疎通がうまくいかないことがある。また,そのような中
からことばとの出会いも生じ,ことばの必要性を感じられるようにする。
毎日の生活で繰り返し耳にする音や声の意味理解が広がると,一定の期待をもって音や
声を聞き取ろうとする。また,偶然出した音や偶然出会った音をとらえたときに周りの大
人が共感的に応ずると,その音を予期しながら繰り返して楽しむようになる。簡単なルー
ルのある遊びに,音や声を取り入れることも,この時期の遊びを豊かにする方法である。
また,この時期には,指示・身振り・具体物や半具体物を媒介にしたコミュニケーション
だけではことばの素地が育ちにくいので,ことばを媒介としたコミュニケーションへと導
いていくことが大切である。
【4歳~5歳児】
多くのかかわりや気持ちのコントロールの中で,
「なぜ」
「どうして」と盛んに尋ねるよう
になり,それにともなって語彙も増加して,日常生活や遊びに必要なことばを身に付ける時
期である。
3,4歳になる頃には,他者とのかかわりがどんどん増えて,そうしたかかわりの中で必
要なことばが身につき,会話ができるようになり,一通りことばの機能を習得した段階に
たどりつく。しかし,5歳頃になると,増え続けてきたことばの数はそれほどでもなくなり,
むしろ足踏みをしているように感じられる。この足踏みは,これまで獲得したことばを整
理し定着させる時期にあるためである。子どもたちは,ことばを思考する道具として用い
られるようになり,ことばの相互の結びつき,意味の結びつきという点からも,習得した
ことばを整理する段階になったと考えられる。そして,文字も少しずつ読めるようになり,
書きことばに対する関心も高まってくる。「ママ」から「お母さん」「母」など,これまで
習得したことばを「置き換える」「整理する」ことも必要となり,一歩高い次元へとことば
を転換する過程で時間を要する。これを「5歳のだらだら坂」といい,言語獲得上の重要
な時期でもある。
絵日記の活用
幼稚部段階で,家庭において行われるのが「絵日記」である。このねらいには,「毎日の
生活の出来事を見つめて,ワクワクと感じとる」「自分の経験をまとめて話す習慣をつける」,
そして「子どもの心にぴったりした生き生きしたことばを育てる」等があげられる。
絵を描くことには得手・不得手があるが,問題は内容である。「ことばは流れる」もので
あるから,そのことばを留めるためにも,絵日記をもとに子どもといろいろなことを思い出
し,話し合うことが大切である。絵は,描いている途中こそ大切であり,線の動きを追いな
がら,ゆっくりとその時の出来事を思い出し,イメージを重ね合わせることができる。
イ 小学部段階の発達の特徴と配慮
幼児期での「ことばの整理」の段階を経て,記憶主導型の知識習得が盛んになる時期で
ある。一方,自分自身の生活とは結びつかない観念的なところも見られる。感覚的な事実を,
時間,空間,数,因果,運動などの基本的な枠組みによってまとめる関係的思考が育成さ
れる。小学部段階の課題は,学校という枠の中で,教科学習の基礎(態度,技能,基礎的
な知識)を形成し,友だちや家族以外の人との付き合いを学んでいくことが中心になるが,
情報やコミュニケーションの障害により理解の不足や誤解が生じやすい。また,生活言語
がまだ使いこなせない状態なら,まずその補足・拡充が必要であり,読み書き学習との言
34
語力のバランスに充分注意する必要がある。そして,学習を進めるための教師側の様々な
配慮によって,小学校教育に準ずる教育課程を履修していくことが目指される。
Ⅳ章
そこで,小学部段階のことばに関する課題としては,
「生活言語」から「学習言語」への
移行を促すことが挙げられる。生活言語とは,生活における人や物とのかかわりの中で学
ばれ,それにかかわる物事を伝達し合うために必要なことばであり,
「生きる力」としての
言語である。一方,学習言語とは,教科の学習段階において取り扱う内容を理解し,学ぶ
ために必要となることばであり,「学ぶ力」としての言語である(例えば,算数の文章題
が解けるためには,「あわせて」「全部で」という生活言語と,「たす」「+」という学習言
語が理解される必要があり,国語の教科書が読めるためには,
「作る」という生活言語から,
「組み立てる」
「制作する」という学習言語へと移行していく必要がある)。非経験的事項(図
4参照)を含む学習言語への移行は,広い範囲にわたる学習能力の形成を助ける言語活動
のことである。
そして,文字を「書く」ことの習熟により,読んだ文字がことばとして理解され,相手
に分かるように書いて伝えるという「リテラシー(読み書き能力)」の獲得が,小学部以降
では重要な課題であるといえる。
コラム 「9歳の峠」とは…
小学校での教科学習は,主としてことばを媒介に展開されるために,ことばの理解とことばによる思考が必要
になる。また,具体的な事象を取り扱っていても,内容的にはその背後にある理論や原理・原則等を理解するこ
とが必要になるので,抽象的な思考が求められる。
聴覚障害教育では,こうした抽象概念という言語獲得におけるひとつの質的変換期を「9歳の峠」と呼んでき
た。聴覚に障害があり,ことばの獲得と概念化が十分でない場合は,その論理的思考による構造化が図りにくい
ことが多かった。そこで,その対応として,次のようなことが挙げられている。
・生活に密着した教材ばかりでなく,間接的な経験に基づく学習を充分に積み重ねる。
・経験や情報の量,及び,質の不足によって抽象的思考ができにくいとすれば,十分な経験の量と質を補償して
いく。
・言語的な情報の質を高めるために,できる限り有効なコミュニケーションのモードの選択について配慮する。
・個人的思考ばかりでなく,集団的思考も重視するように考慮する。
35
ウ 中学部段階の発達の特徴と配慮
中学部段階では,教科学習の拡大・深化とともに,学校内で生徒自身による様々な活動
が始められる。そんな中で,自主性が培われ,自己の確立に応じて精神的な自立を図り,
自分の障害についても認識しはじめる時期である。また,社会との接点も広がり,聴覚障
害のない人との関係についても大人としての対応が要求されるようになってくる。
この時期,自己を確立しようとする過程で,親に反発したり,気落ちの揺れを社会に反
発するような形で表したりすることがある。反発する気持ちの表現は,それまで生活して
きた社会の狭さやいろいろな情報の不足から,他人の面前を意識せずストレートに表す場
合も多い。その生徒のありのままの姿を認めた上で,生徒会活動,部活動,様々な行事等
において,やりがいのあることや達成感を味わえるようなことを経験できるように配慮す
る必要がある。また,補聴器や手話に対して「他人からの目」を過剰に意識することのな
いように,きこえの仕組みやコミュニケーション等に関する正しい知識を学び,
「障害のあ
る自分」を受け入れた上で,自尊心をもつようになることが大切である。
携帯電話の活用
パソコンでのメールの他に,携帯電話が普及したことから,聴覚障害児生のコミュニケー
ションはより速く,より便利になったといえる。友だちとの「文字を通した」おしゃべりの
他に,公共の乗り物等で困ったときに,携帯電話の画面をメモ代わりにして,聴覚障害のな
い人とやり取りをする場面もある。また,携帯電話のテレビカメラを使って,遠くの人と手
話で会話することも可能になってきている。今後も,正しいリテラシーの獲得が重要となっ
てくる。また,こうした携帯電話の利用は,コミュニケーションに障害のある発達障害者にも,
有効なツールとして活用される。
エ 高等部段階の発達の特徴と配慮
高等部は,聴覚障害特別支援学校での最終段階であり,幼稚部,小学部,中学部の教育
を基盤にした社会への入り口と位置づけることができる。高等学校に準じた教育目標の達
成に加えて,一人の社会人として積極的に社会参加し,自己にかかわる事柄を自ら判断,
決定していくことができるようなたくましい人間を育てていくことが求められる。
そのために,現状の学力の見極め,言語力,コミュニケーション力,社会との接点から
みた実態,聴覚障害の状況,適性,卒業後の進路希望など多方面にわたる視点から総合的
に生徒を理解して,生徒一人一人の学習における目標を設定する必要がある。特に,今後
の学習や就労の場面で,専門書やマニュアルを読みこなせる言語力を身につけておくこと
は,その後の将来にわたる可能性に大きくかかわってくる。また,
「先輩の話」をきくなど,
自分の障害を認識し,自分の生活設計や生き方を考える手がかりとして,成人の聴覚障害
者をモデルとして学ぶ機会をもち,外部からの支援も積極的に取り入れていくことが大切
である。
文字情報の活用
地上デジタル放送の開始によるテレビの字幕,駅や電車内での文字情報,いろいろな電化
機器の文字画面,病院や公共施設での「呼び出し」など,文字情報が一般的になってきている。
また,飲食店のメニュー等では,写真による掲載がほとんどであり,聴覚障害者の利用しや
すさとともに,多くの人がイメージしやすく使いやすい情報となっている。
36
オ 重複障害幼児児童生徒への教育
聴覚障害の他に,知的障害,視覚障害,身体の障害などを併せ有する幼児児童生徒の指
導に関して,今,聴覚障害特別支援学校ではその教育実践や研究が進められているところ
である。教育課程や指導計画を作成して進める中で,必要に応じて教科等合わせた指導を
取り入れている。
聴覚障害特別支援学校における専門性として,
「人と人とのコミュニケーション」や「こ
とばを育てる」といった視点等があげられる。その視点から重複障害幼児児童生徒の実態
(指さしやクレーンなど「要求」に関する力,模倣や発音・発語などの「表出」の実態等)
を把握し,指文字や手指メディアにおける可能性等を考えながら,集団活動と個別指導な
どの学習形態を考慮していく必要がある。そのために,部内や校内で支援会議を設けると
ともに,外部機関との連携も積極的に行っていく必要がある。
Ⅳ章
(2)教育課程編成の配慮
① 教育課程の編成
聴覚に障害がある場合,音や音声言語の受容の困難性,言語概念の困難性,ことばによ
る意思疎通の困難性などの状況が生ずる。このため,補聴器や人工内耳を用いた聴覚の活
用をはじめ,全感覚を通して言語習得を図りつつ,年齢に即した生活経験や学習を重ねる
ことが大切である。
そこで,聴覚障害幼児児童生徒への教育課程の編成に当たっては,一人一人の聴力の程
度やきこえ方,言語の習得に注意を払いつつ,知的,情緒的,社会的発達を促し,特別な
教育的ニーズに対応するように配慮する。また,教育課程は,幼稚部,小学部,中学部及
び高等部の各部の間に系統性を保つように編成される必要がある。
② 教育課程編成の配慮事項
ア 幼稚部
・ 幼児期は個人差が著しいため,一人一人の発達段階を把握し,ねらいを明確にした上で,
同年齢集団やグループでの活動,また,個別学習など指導場面と指導形態を工夫する必
要がある。
・ 子どもたちが,行動やことばを予測しやすい繰り返しの活動と,興味をもって「やり
たくなる」「知りたくなる」変化や応用のある活動とを使い分けながら行なう。
・ 保護者支援にも重点をおいて,医療(聴力検査や医学的所見)や福祉(補聴器の利用や
地域保育所の利用等)との連携を図りながら,個別指導を基にした計画を立てる。
イ 小学部,中学部,高等部
・ 各教科の指導
小学部,中学部,高等部では,それぞれ小学校,中学校,高等学校と同様の教科で教
育課程が編成される。各教科の指導においては,常に「言語を用いる能力や態度を養う」
など,聴覚障害への特別な配慮が必要になる(表1参照)。また,自立活動では「言語
習得や言語概念の形成の基礎的・基本的能力や態度を養う」ことに重点が置かれるが,
各教科と自立活動を密接に関連させることが大切である。
教科
国語
聴覚障害の特性を踏まえた配慮点
教科書の拡大掲示等,「どこ」を読んでいるかが見える教材準備
ひとつの漢字を基に多くの熟語を練習し,音読みの多様性に触れる
例文や挿絵の多い辞書を使い,大まかな意味をとらえられるように
37
社会
専門用語を理解し,経験の拡大と思考活動の活発化を図る
その時々の時事問題について,生活と結び合わせて話題の提供
授業の流れがつかみやすい板書,ノート学習に配慮
算数
数学
図や絵を用いて関係性を理解するとともに,数理言語の理解を深める
説明方法の言語思考と,数学的な概念と思考を促す
理科
直接経験と観察実験の重視(字幕付ビデオ教材等の利用)
専門用語は,実物や事象を提示し,具体的イメージをもたせる
生活
実物や写真を通した経験の言語化とお互いの発見を知る話し合い活動を重視
音楽
リズム感の養成(身体表現や聴覚活用)の配慮
指文字の利用等「指揮」の取り方,歌唱指導での個々の実態の把握 子どもたちの実態に合わせた音楽教材の選択・開発
図工
美術
多様な素材との直接体験を通して,感覚の醸成とイメージの言語化
手順の提示による,制作過程への具体的な見通しを
体育
保健
広い場所での指示,わかりやすい環境や授業展開,安全確保
補聴器等の取り扱いと,小中高へと系統的な性教育の実施
家庭
技術
きこえにくさからくる事故の防止 安全確保
コンピュータ等の情報機器の積極的な活用
英語
カタカナや指文字を活用した英文の読み方と,繰り返しの発語練習を重視
日本語における言語概念の形成を踏まえた指導
表1 各教科の配慮点
・道徳 特別活動
道徳教育においては,教師と児童生徒及び,児童生徒相互の人間関係を深めるとともに,
発達段階(年齢)に応じて自己概念(アイデンティティー)についての意識を高めるよう
配慮することが大切である。また,特別活動においては,様々な集団での話し合い活動
や企画・運営を取り入れ,多くの人とのコミュニケーションが図れるようにする。
・総合的な学習の時間
学部により学習内容が変化するが,いろいろな情報機器(ビデオ教材やパソコン,携帯
電話等)を活用して,文字情報を積極的に活用できるようにする。
・自立活動
言語指導,聴覚活用,コミュニケーションの指導が中心となるが,発達段階や個々のね
らいに応じて,自立活動の時間を日課の中にどのように設定するか工夫して行なう。
言語指導
・聴覚障害児の言語指導と発達を促す指導
・日本語の基礎的,基本的な言語体系を習得させる指導
・正しい発音発語を促す指導
聴覚学習
・補聴器や人工内耳を使って,保有する聴覚を活用する指導
・自分のきこえやオージオグラム,福祉機器の活用について
コミュニケーション
指導(人間関係)
障害の受容と認識
福祉制度の
理解と活用
・母親を出発点とした積極的な人とのかかわりややり取りについて
・指文字や口形,身振りや手話をもとに話し合い活動
・伝わった経験と,伝わらなかった経験をもとにした課題把握
・いろいろな活動場面の設定
・きこえにくさと,生活での「困る場面」の理解
・アイデンティティーの確立
・補聴器の購入や修理申請,公共交通機関や公共施設の利用
・手話通訳の派遣,ノートテイクの依頼 等
表2 自立活動の指導内容(例示)
38
・交流及び共同学習
聴覚障害幼児児童生徒にとって,障害のない人と接することは,将来社会の一員として
生活していく上で重要な学習が期待できる。一緒に活動することを通して,コミュニケー
ションの仕方や社会適応,障害の認識や受容を経て自己実現を図る機会が得られる。一
方,障害がない幼児児童生徒にとっては,実際にかかわりあって活動を共にする中で,
気持ちを通じ合わせ,「コミュニケーション」について学んだり,手話等を通して相手
の「言語」「文化」を理解することから他者とのかかわり方を学んだりすることが期待
できる。
コラム 「コミュニケーション」の方法
聴覚に障害がある場合,個々の実態に応じたコミュニケーション手段を取り入れていく必要がある。その代表的
な方法として次の5つがあげられる。 Ⅳ章
「聴覚口話」…補聴器等で聴覚を最大限に活用しながら,音声やことばを聞きとり,自らの声で相手にも伝えよ
うとする方法である。お母さんとの豊かなやりとりを基本にし,教師や多くの人とのやり取りの
中で,生活や学習に必要な言語とコミュニケーションの力を育てることをねらう。
「手 話」 …手話にはいくつかの種類があり,日本語の単語を1対1で対応させながら手指で表現していく「日
本語対応手話」や,独自の文法をもち,音声言語との併用を前提としない「日本手話」などがある。
手話は,意味理解が容易であり,多くの聴覚障害者間で使われている。
「同時法」…口話と同時に,手話・指文字を使用する方法である。口話での読話のあいまいさや発音の困難性を,
手指で補完することを意図している。
「キュード・スピーチ」
…キュー(手がかりとなる手指記号)を口話に付加することによって,読話を補助する。同口形異
音語などの読み取りの困難さを補う。
「トータル・コミュニケーション」
…特定の方法を意味するのではなく,理念である。実践としては,発達段階の早期から,口話と手
話を統合して同時に用いるという特徴がある。
〈参考文献〉
『ろう教育はじめの一歩』馬場顯監修・関東地区聾教育研究会 編著 聾教育研究会(2000) 『聾学校における専門性を高めるための教員研修用テキスト 全国聾学校長会』全国聾学校校長会教育課程第二部会 編(1996)
『聴覚障害児の教育』中野善達・斎藤佐和 編 福村出版(1997)
『ことばの発達とその障害』村井潤一 編著 第一法規出版社(1976)
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コラム
聴覚障害特別支援学校で大切にしたいこと(ことばの指導)
~きこえにくい幼児・児童・生徒に対する配慮事項~
<心理面>
1 幼児児童生徒の心情,情緒を豊かにさせ,言語的感性を高めて,伝えたい・聞いてほしい・
分かり合いたいという意欲を高める。
2 幼児児童生徒の感情や思考を大切にし,心を揺さぶるようなやり取りを心掛ける。
3 幼児児童生徒が自信と意欲をもって学習できるよう,認め,励まし,ほめる。
<物理面>
1 話し手(指導者)は以下の物理的条件に留意して話す。
・距離:話し手同士間1~2mを保つことが適当。最長距離は晴天のグランドで 20 ~ 25 m位まで。
・高さ:教師の口元は,幼児児童生徒の目の高さよりやや高めの位置にあると舌の動きがよく見えて良い。 背の高い先生は注意する。
・方向:話し手の全面 90 度以内。最大値は話し手の正面から左右 60 度ずつ。合計 120 度。
・光線:常に光線に顔を向けて話す。どんな場合でも,光線を背負って話してはいけない。
2 板書しながら話さない。後ろから話しかけない。(口形を見せる,視覚情報を得やすくする)
3 幼児児童生徒相互のコミュニケーションをしやすくするために,幼児児童生徒の椅子は扇形か,もしくは馬
蹄形に並べる。
4 呼ぶときは「たたく」「手を振る」など視覚面でも注意を引くようにする。
<言語指導面>
1 発言を単語のみで終わらせないよう,主述のはっきりした文で話す習慣化を図る。
2 学習したことは,その場で声に出して言い,口声模倣と拡充模倣の習慣化を図る。
3 助詞の誤用はその都度訂正し,指文字などを活用する。
4 難語句,多義性のあることば等は,その場や気持ちに適した表現を意識的に取り扱ったり,意味に合う状況
(劇化等)を作ったりして指導する。
5 必要以上に口形を強調せずに,ことばのイントネーションやリズムを大切にする。
6 正しい文で書くことの必要感と習慣を持たせ,積極的に書く姿勢を身につけさせる。
7 手指メディアの使用においても,音韻意識を持たせるため音声も添えるようにする。
8 意見,質問,感想,反対,等の発言の仕方や考え方を,基本文型としてパターン化する。
その上で,発達段階に応じて意識的にこのパターンを壊し,応用力をつけていく。
<教材面>
1 幼児児童生徒の実態に対応した題材の用意。学習の手がかりとして必要に応じ,視覚教材(具体物・写真・
パソコン・デジカメなど)を活用する。しかし,視覚的に見せるだけでなく,話し合う活動を重視し,視覚
的情報にこめられたことばの理解を図る。
2 劇や映画の鑑賞会では,あらすじを事前に渡す。
3 板書を効果的に活用し,絵や図に込められたことばも文字にする。
<授業面>
1 幼児児童生徒が学習の目的や内容,すべき事を本当に理解しているか,確認しながら授業を進める。
2 優れた発問であっても,一問一答形式だけでは答えを規定してしまうことも念頭に置き,できるだけ教師の
発言を抑えて,幼児児童生徒が思考する「間」を大切にする。
3 幼児児童生徒の相互思考を図りながら,話し合い活動を中心に据えた展開を図る。
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3 肢体不自由である児童生徒に対して
Ⅳ章
(1)肢体不自由の理解
① 肢体不自由とは
医学的には,発生原因を問わず四肢体幹に永続的な運動機能障害があるものを肢体不自
由という。
脳性麻痺,筋疾患などの先天性のものと,事故などにより,頭部損傷や四肢等が切断さ
れたことによるものとがある。また二次的に関節や脊柱が硬くなって拘縮や変形を生じる
ことがある。
中枢神経の損傷による脳性麻痺を中心とした脳原性疾患が多く,肢体不自由の他に知的
発達の遅れなど,種々の随伴障害を伴うことがある。また脊髄の代表的な疾患として,二
分脊椎があり,主として両下肢運動と知覚の障害,直腸や膀胱の障害がみられ,自己導尿
などが必要となることが多い。
末梢神経の疾患による神経性筋萎縮や筋疾患として進行性筋ジストロフィーなどがある。
② 障害の種類
・ 脳原性疾患 ― 脳性麻痺,脳腫瘍術後
脳性麻痺の分類
など
【アテトーゼ型】大脳基底核が障害されたケースで
不随意運動(ふるえ)を特徴とする。
・ 筋原性疾患 ― 筋ジストロフィー,ミトコ
【失調型】 小脳,または,その伝導路が障害された
ンドリア症,糖原病など
・ 脊椎脊髄疾患 ― 二分脊椎,脊髄損傷, ケースで四肢麻痺,運動不安定性などを
特徴とする。
脊椎外傷,脊髄腫瘍など
【痙直型】 上位運動ニューロンが障害されたケース
・ 骨関節疾患 ― 変形性関節症,股関節脱
で四肢の筋緊張が高い。障害が現れる部
臼など・骨系統疾患 ― 骨形成不全,異骨
位によって片麻痺,対麻痺,四肢麻痺,
症など
両麻痺などに分類される。視覚・認知障
害,斜視を合併することもある。
・ 代謝性疾患 ― フェニールケトン尿症,糖
原病・糖尿病など
・ 四肢の変形 ― 関節の拘縮によるもの,脊柱変形など
③ 肢体不自由児の学校生活
肢体不自由児は,上肢,下肢又は体幹の運動・動作の障害のため,起立,歩行,階段の
昇降,いすへの腰掛け,物の持ち運び,机上の物の取扱い,書写,食事,衣服の着脱,整
容,用便など,日常生活や学習上の運動・動作の全部又は一部に困難がある。これらの運動・
動作には,起立・歩行のように,主に下肢や平衡反応にかかわるもの,書写・食事のように,
主に上肢や目と手の協応動作にかかわるもの,物の持ち運び・衣服の着脱・用便のように,
肢体全体にかかわるものがある。
前述したような運動・動作の困難は,姿勢保持の工夫と運動・動作の補助的手段の活用
によって軽減されることが少なくない。なお,この補助的手段には,座位姿勢の安定のた
めのいす,作業能力向上のための机,移動のためのつえ・歩行器・車いす,廊下や階段に
取り付けた手すりなどのほか,よく用いられる物としては,持ちやすいように握りを太く
したり,ベルトを取り付けたりしたスプーンや鉛筆,食器やノートを机上に固定する器具,
着脱しやすいようにデザインされたボタンやファスナーを用いて扱いやすくした衣服,手
すりを取り付けた便器などがある。
肢体不自由児の運動・動作の困難の程度は,一人一人異なっているので,その把握に当
たっては,日常生活や学習上どのような困難があるのか,それは補助的手段の活用によっ
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てどの程度軽減されるのか,といった観点から行うことが必要である。
④ 身体の動きの指導内容
肢体不自由教育において,これらの身体の動きに関する指導は自立活動の重要な指導内
容であり,大きく2つの内容に分かれる。
・身体の動きの改善・向上を目指すもの
・不自由さを軽減するために補助的手段を活用するもの
身体の動きの改善・向上を目指すものとして,座位の保持や起立・歩行に関する指導,
日常生活動作に関する指導などがある。また,身体の動きの困難さ,不自由さを軽減する
ために,姿勢保持の工夫と身体の動きの補助的手段の活用があり,この補助的手段には,
座位姿勢の安定のためのいす,作業能力向上のための机,移動のための杖・歩行器,書写
や筆記のための IT 機器活用指導がある。
コラム
動作法について
動作法は,脳性麻痺児の動作不自由の改善を目的として成瀬悟策氏(九州大学名誉教授)によって開発された
指導法。成瀬氏は,肢体不自由の子どもたちが,手や足をうまく動かすことができないのは,力の入れ方がわか
らなかったり,間違えて学習してしまったりするからだと考え,自分で,自分の身体を弛めたり,適切な力を入
れたりすることを学習することにより,適切な動作ができるようになると理論付け,実践されている。単にリラ
クゼイションしただけでは,効果がなく,自分で,自分の身体をコントロールするためには,坐位や立位などの
抗重力姿勢をとり,身体を「タテる」ことが重要であると考えた。
動作法の特徴は,身体への直接的な働きかけのために,子どもにとってわかりやすく伝わりやすいことになる。
そのため,身体を通してのやりとりでその子の感じたことを感じ,コミュニケーションできる指導法である。ま
た,動作の改善のみならず,対人関係の促進,事物の操作などの向上がみられる効果がある。
動作法は,肢体不自由の子どもたちが主体的に身体を通して学習することにより,姿勢・動作が劇的に改善し
たため,肢体不自由特別支援学校の自立活動で活用される代表的な指導法の一つとなった。更に,自分の身体を
自分でコントロールする体験が,動作の改善だけでなく,心理的な安定や自己コントロールの改善につながり,
知的障害や自閉症などの子どもたちにも効果が見られている。
⑤ 自立活動と日常生活指導
身体の動きの指導目標,指導内容を教育課程に位置付けて,その指導に取り組む領域と
して,自立活動がある。指導に当たっては,個別に指導計画を作成し,医師及びその他の
専門家(理学療法士,作業療法士など)と連携して取り組むことが必要である。具体的には,
座る・立つなどの姿勢の保持や寝返り,つたい歩き,歩行などの移動について,又,手足
の粗大運動や微細運動などの学習内容を個々に設定し学習を進めていく。特に股関節脱臼
や骨形成不全,てんかんなどの疾患を併せ有す子どもは,医師の専門的な意見を聞いて進
める必要がある。
日常生活において姿勢を保持する,上肢を操作するという活動は,教科の学習や他の領
域の学習においても必ず生じる活動である。自立活動では身体の動きの指導内容を直接に
取り上げるが,それ以外の学習においても,姿勢は崩れていないか,どのような姿勢だと
上肢を動かしやすいかに注意し,適切に支援を行うことが重要である。
⑥ 排泄と水分補給に関する配慮
排尿の時間を適切に日課に組み入れていくことは,すべての肢体不自由のある児童生徒
にとって必要なことである。特に脊椎疾患の子どもは,尿意,便意を感じることがむずか
しいため,学校生活の中で適切な時間に排泄を促す指導と十分な時間を確保することが必
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要である。また,水分補給も適切に行えるように環境を配慮したり,定期的に水分を取る
時間を設定したりしておくことも大事なことである。
⑦ コミュニケーションの指導
行動範囲が制限されてしまう肢体不自由児にとって,周囲の人々とのコミュニケーショ
ン力を育てることは,教育における重要な課題のひとつである。子どもが家庭でこれまで
どのような方法でコミュニケーションをとってきたかについての情報が,学校でコミュニ
ケーション指導を行う上で重要な情報であり,また学校での取り組みを日常の生活の中で
生かしていくことも大切である。学校と家庭が協力することによって,子どものコミュニ
ケーション指導は効果的なものとなる。例えば,コミュニケーションボードを作成してい
く際にも,学校だけではなく家庭でも共通に使用できるシンボルを配置することで,学校,
家庭の共通の話題が作られ,その子のコミュニケーション力が育っていく芽を作ることが
できる。
Ⅳ章
⑧ コミュニケーション支援機器
ア 「肢体不自由」
(ア) キーボードの代替装置
学習活動において,鉛筆等の筆記具を使うことがむずかしい子どもは,コンピュータを
入力装置として利用するとよい。上肢の動きに制限があったり,不随意運動を伴ったりす
る場合は,キーガードや大型キーボードを使用する。可動域の狭い児童生徒の場合はパソ
コン内のオンスクリーンキーボード等を利用するとよい。
標準キーボードやローマ字の入力がむずかしい子どもには 50 音配列のキーボードがあ
る。また,教師が自由に文字や単語を割り付けることが出来るインテリジェントキーボー
ドが販売されており,幼児や知的障害をあわせ有す子どもにも入力が可能である。
USB キースイッチは,TAB や ENTER 等のキーを大型スイッチで押せるように改造さ
れたボックスで,2つのキーでインターネットの閲覧をしたり,HTML で書いた自作会話
ボードの選択に使ったりできるものである。自作が可能なものなので工夫してみるとよい。
(イ) マウス入力の代替装置
画面に直接触れて入力できるタッチパネルも有効であるが,可動域が狭かったり,不随
意運動があったりする上肢障害や失調型の脳性麻痺,筋ジストロフィーの子どもは通常の
マウス操作を指先だけでできるサムホィールマウスやボタンマウス,トラックボールを利
用すると良い結果が得られる。
(ウ) OS 組み込み機能の活用
通常のパソコンには,コントロールパネルもしくはシステム環境設定内に「ユーザー補助
のオプション」
,
「ユニバーサルアクセス」が用意されており,テンキーをボタンマウスに変
更する機能や SHIFT キーや CTRL キーのロック機能が使える。いずれも簡単な機能のみだ
が,肢体不自由,視覚(弱視)
,聴覚の障害に対応した設定が可能なので試してみるとよい。
(エ) ソフトウェアの利用
音声読み上げソフト…市販ソフトも有,OS 標準で音声読み上げツールが使えるものが多い。
ス キ ャ ニ ン グ ソ フ ト …Hearty Ladder, A T と は: そ れ ぞ れ の 児 童 生 徒 が も つ 学 習
PICOT 等 画面に文字を表示し自動走査で希
能力を最大限に発揮させるための支援技術
望の文字位置に来た際にスイッチを押して文字
を AT(Assistive Technology) と 呼 び, 特 に
コンピュータや情報機器を活用した技術を
入力をするフリーソフトウェアもある。不随意
e-AT(electronic and information technology on
運動が大きかったり緊張が高かったりする場合
Assistive Technology) と呼ぶ。
は,児童生徒の負担が大きいので注意する。
43
(オ) その他の機器
重度重複障害のある肢体不自由児のコミュニケーション学習では,意思伝達のために教師に
よる手作りのスイッチやコミュニケーションカードが使われている。発語が少ないかむずかし
い子ども達には,VOCA(Voice Output Communication Aid)を使い,想定した場面での簡
単な文章を入力しておけば,スイッチ操作で言葉を発声してくれる。
気管切開を施術した児童生徒や発語が無く四肢の動きが十分でない児童生徒とのコミュ
ニケーションでは,透明なアクリル等に文字を書き,眼球の動きで意思の確認をするアイ
コンタクトも支援技術として応用できることが多い。
イ 「視覚障害」
視覚障害に対応する支援機器として,OCR や音声読み上げソフト,音声ブラウザなどが
あり,その利用で文字情報を得やすくなる。また墨字を点字に変換するソフトウェアや点字
プリンタ,ピンディスプレイ,キーボードからの点字6点入力ソフトがあるので,視覚障害
特別支援学校に問い合わせてみるとよい。また,弱視者用にはコントラストをはっきりさせ
るための白黒反転機能や画像強調機能のついたカメラとディスプレイを組み合わせた拡大読
書装置もある。 (→「視覚障害のある児童生徒の指導 P.19」)
ウ 「聴覚障害」
聴覚障害に対応する支援機器として,OS 本体に組み込まれているエラー音や警告音等を
画面の点滅で知らせる機能が利用できる。また,ほとんどの聴覚障害者がコミュニケーショ
ンツールとして,携帯電話やインターネットでの情報伝達や収集をしている。地上波デジ
タル放送に字幕機能が導入されたことで特別な機器を用意しなくても視聴できる番組が増
えてきている。
エ 「コミュニケーション障害」
自閉症や発達障害,コミュニケーション障害のある子どもに,絵文字やシンボルを使っ
て,携帯電話でのコミュニケーションが可能になる機器も開発されている。肢体不自由で
使われる携帯のコミュニケーションブックや会話エイド,会話ボード,VOCA 等も個々の
実態に合わせて利用できる事が多い。 (→「自閉症児童生徒への指導 P.97」)
キ 参考になる Web サイト
・「こころリソースブック」:さまざまな支援機器・ソフトの情報
(http://www.kokoroweb.org/main.html)
・アクセスインターナショナル:VOCA,スイッチ,入力支援ソフトなどの情報
(http://www.accessint.co.jp/cgi-bin/products/index.php)
・パシフィックサプライ:VOCA,スイッチ,入力支援ソフトなどの情報
(http://www.p-supply.co.jp/comaid/index.html)
・ナムコ:トーキングエイドの情報
(http://hustle-club.com/at/at_hustle.html)
・NEC パーソナルプロダクツ:障害者支援ソフトの開発
(http://121ware.com/software/openavi/)
・IBM アクセシビリティ・センター:障害全般
(http://www-06.ibm.com/jp/accessibility/)
・なつみかん:Hearty Ladder(フリーソフト)(http://takaki.la.coocan.jp/)
・Picot On Web:信州大学 小島研究室開発のシンボルコミュニケーションツール
(http://picot.cs.shinshu-u.ac.jp/)
〈参考文献〉
肢体不自由児協会 ハンドブック Website(http://cgi.jsrpd.jp/~jsdc/education/)
稲荷山養護学校 職員ハンドブック
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情報機器の活用
入力スイッチ
レバースイッチ
タッチスクリーン
USBキースイッチ
キーガード
トラックボール
サムホイールマウス
ボタンマウス
拡大キーボード
PCカメラ
高機能キーボード
オンスクリーン
キーボード
スキャニング入力
入力装置
音声スイッチ
瞬きスイッチなど
自作スイッチ
Ⅳ章
アイコンタクト
コミュニケーション
ボード
VOCA 等
音声読み上げソフト
入示
力装 置
表
ページめくり機
ピンディスプレイ
大型ディスプレイ
点字プリンタ
通常プリンタ
入リ
力ン
装タ
置
プ
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高コントラスト表示
(2)教育課程編成の配慮
① 教育課程の編成
教育課程を編成する際,肢体不自由の障害特性及び発達段階を考慮し,どの教科とどの
領域を合わせた指導なのかを明らかにすることや,一人一人の児童生徒の目標設定をし,
取り組むことが重要である。また,特別支援学校(肢体不自由)では,いくつかの教育課程
の類型を基本に編成され,児童生徒の障害状況及び実態に応じて,4つの教育課程が用意
されている。以下にその概要を示した。
特に今回の学習指導要領では,各教科の指導において「体験的な活動を通して,表現す
る意欲を高めるとともに,児童の言語発達の程度や身体の動きの状態に応じて,考えたこ
とや感じたことを表現する力の育成に努めること」
「児童の学習時の姿勢や認知の特性等に
応じて,指導方法を工夫すること」が新たに加えられた。
46
Ⅳ章
② 編成の配慮事項
ア 表現する力の育成
近年,児童生徒の障害が重度重複化・多様化の傾向にあり,表現に対する困難さも大き
くなってきていることから,児童生徒の実態に応じて,各教科の指導において,表現する
力の育成に努めることが必要である。不思議なことやおもしろいことに気づいたり,美し
いものに感動したりする機会や実際の場面を観察したり,具体物を操作したりして,様々
な素材に親しみ,作品を制作する等の体験的な活動を通して,表現しようとする意欲を高
めるとともに活動を計画的に確保することが求められる。また,個々の児童生徒の言語発
達の程度や身体の動きに応じて,表現するために必要な知識や技能,態度や習慣の育成に
努めることが大切である。
イ 指導内容の精選
児童生徒の身体の動きやコミュニケーションの実態,生活経験及び医療機関での治療や
機能訓練等から,授業時間が制約されるため,指導内容を適切に精選することが必要であ
る。指導内容の精選は,児童生徒一人一人の実態を的確に把握し,基礎的・基本的な指導
内容を十分見極めることが大切であり,基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とその
活用を図る学習活動の充実に重点を置き指導することが求められている。
ウ 自立活動の時間における指導との関連
各教科の内容には,自立活動の区分である「身体の動き」「コミュニケーション」等に関
する内容が多く含まれる。各教科の指導に当たっては,自立活動の時間における指導と密
接な関連を図り,学習効果を高めるよう配慮しなければならない。また,自立活動の内容
のみに重点が傾斜しすぎないよう留意することが必要である。
エ 姿勢や認知の特性に応じた指導の工夫
学習時に姿勢を保持することや学習課題等を認知することに困難さがある児童生徒が増
加していることから,効果的な学習を行うための姿勢に十分配慮することが必要である。
例えば,体幹が安定し,様々な机上での学習が行えるよういすや机の位置,高さ等を調整
することや課題を提示する場合,注視しやすいように強調すること等,指導方法の工夫を
することが大切である。また,児童生徒の認知の特性は,一人一人異なるものであるため,
実態に応じた指導方法の工夫をすることが求められる。
オ 補助用具や補助的手段,コンピュータ等の活用
コンピュータ等の情報機器や障害の状態に対応した周辺機器等を有効に活用して指導の
効果を高めることが必要である。補助用具として,車いす,歩行器,筆記自助具,筆記の
代替えをするコンピュータ及び児童生徒の身体の動きの状態に対応した入出力機器等が挙
げられる。補助的手段としては,身振り,コミュニケーションボード等の活用が挙げられる。
補助用具や補助手段の活用については,児童生徒の身体の動きやコミュニケーション等の
実態に応じて,慎重に判断し適切に活用することが大切である。
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4 病弱者である児童生徒に対して
(1)病弱者の理解 ① 病弱者とは
病弱教育の対象は,病弱者や身体虚弱者である。病弱者とは,何かの病気にかかり,そ
の病気が長期にわたっていること,あるいは長期にわたる見込みのあること,そしてその
ために医療または生活規制が必要な児童生徒のことである。身体虚弱者とは体が弱く,学
校への出席を停止させる必要はないが,長期にわたり健康な児童生徒と同じように活動さ
せると健康を損なうおそれのある者をさす。ポイントになるのは病気の重症度ではなく「症
状が長期にわたる」ということである。病弱・身体虚弱いずれも医学用語ではなく,一般
的に使用されているものである。
病気の種類としては,喘息などの呼吸器疾患,腎炎などの腎臓疾患,筋ジストロフィー
などの神経疾患をはじめとする慢性疾患や,腫瘍,白血病など悪性新生物,最近では心身
症などの行動障害が増加の傾向にある。
病気の種類と主な病名
筋ジスなど神経系疾患: てんかん,進行性筋ジストロフィー,脳性麻痺
喘息など呼吸器系の疾患: 気管支喘息,気管支拡張症,肺気腫,アレルギー性鼻炎
腫瘍など悪性新生物: 悪性腫瘍,白血病,骨肉腫,骨髄腫,悪性リンパ腫
腎炎など腎臓疾患: 急性腎炎,慢性腎炎,ネフローゼ症候群,腎不全
糖尿病など内分泌疾患: 甲状腺障害,糖尿病,高度肥満,代謝異常
リウマチ性心疾患など循環器系の疾患:リウマチ熱,リウマチ性心疾患,関節リウマチ
結核など感染症: 肺結核,ヘルペス
貧血など血液疾患: 再生不良性貧血,血友病,紫斑病
骨折など損傷: 脊椎損傷,骨折,溺水後遺症,熱傷
虚弱や肥満: 単純性肥満,身体虚弱
心身症など行動障害: 精神病,神経症,発達障害に起因する適応障害など
② 病弱者の心理
病弱者の実態を把握する場合,
「この子は病気だからこんな問題がある」と一面的にとら
えてしまうのではなく,その子が置かれている環境や病状,これまでの生育歴,家族関係,
友人関係など様々な角度からの情報収集を行い,総合的に理解することが大切である。一
般には,以下のような不安を抱えていることが多い。
病気や障害についての
理解と不安
自分はどんな病気で,どのような治
療が必要なのか
病気による生活の制約
好きなテレビが見られない,薬
が苦い,好きなものが食べたい
成長発達を遂げる上での不安
病状が回復に向かっているのか
小康状態にあるのか
身体的な変化への不安
薬の副作用で髪が抜けた
手術の跡が残る
社会的つながりの希薄さや
経験不足の不安
友だちや家族と離れた寂しさ,
友だちと遊べない,部活動に
病気だから…
将来への不安
いつまでこのような状態が続くのか
これから自分はどうなるのだろう
参加できない
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大人からの過保護,
過干渉,無理解
やりたいことを止められる
大人がいつも一緒にいる
無理に頑張らせる
Ⅳ章
病気の状態や年齢,家族構成などによって,不安に思う要因は様々である。このような
心理状態は,児童生徒にとってストレスであり,日々の生活に対する意欲に影響を与える
ばかりでなく,病気の改善にも多くの影響を及ぼしている。児童生徒の不安や悩みとじっ
くり向き合い,共感的・受容的な態度で接することが大切である。
③ 病弱者の実態把握
ア 学習時間の制限の程度
児童生徒の病状によっては,通常の学習時間に制限が必要な場合がある。したがって,
現在の病状を悪化させない範囲での適切な学習時間はどの程度であるか,医師の診断に基
づいて把握する必要がある。この場合,「学習時間の制限は特に必要ない」「1日2~3時
間程度の学習可能」「ベッドで1日1~2時間程度の学習可能」などのように,具体的に把
握しておくことが大切である。
イ 学習面
小学1年生で初めて在籍となる児童生徒については,文字と数量の理解(習得)の状況を
把握することが大切である。また,小学校等から転入学してきた児童生徒については,国
語や算数(数学)などの学習内容の習熟の程度や学習の空白の状況について把握するととも
に,知的発達の段階と学力に著しい差があるかどうかを調べ,両者に差がある場合は,そ
の要因について検討する必要がある。また,使用している教科書などの確認も行う。効率
よく学習を行うために,前籍校との情報交換を綿密かつ速やかに行うことが大切である。
ウ 集団への参加
病気の児童生徒の場合は,集団への参加の経験が乏しい者が多いので,対人関係や社会
性の実態について把握し,どの程度の集団への参加が可能かを検討する必要がある。例え
ば,対人関係については,
「全く反応しない」「特定の人には反応を示す」「少人数の集団に
は参加できる」「集団への参加は可能だが特別の配慮が必要である」など,観点や段階を設
定して調べる。小集団での遊びの様子を観察して,友だちとのかかわりなどを調べる方法
もある。
エ 生活面
生活面の評価は,身辺自立に関するもの,生活規制に関するもの,生活様式の理解度と
生活習慣の定着度に関するものに分けられる。身辺自立は食事,排泄,衣服の着脱,清潔,
身の回りの整理・整頓等について「自立している」「部分的に介助が必要である」「全面的
に介助が必要である」というように段階で把握する。生活規制については,食事制限の種
類と程度,運動制限の状況(種類,運動量等),安静の必要性とその程度,服薬の種類など
を把握し,児童生徒自身が病気の状態についてどの程度認識しているか,自分の健康状態
の維持・改善等に必要な生活様式をどの程度身に付けているかなどについて把握すること
が大切になる。
オ 心理・社会性
病弱・身体虚弱の児童生徒を理解する上で,学習や生活の様子,友人関係などについて
実態を把握するとともに,心理状態や身体(病気)症状についても合わせてとらえること
が大切である。例えば薬の副反応による脱毛やム-ンフェイスなどの身体症状が心理面に
マイナスの影響を及ぼし,劣等感を生じさせる場合がある。心理的不適応の状態にある場
合は,意識と表出行動との間に著しいギャップがあることが多く,内的世界(意識)と表
出された行動の両面から実態を把握する必要がある。また,家庭環境の把握が重要であり,
親子関係や兄弟姉妹との関係,養育環境など家族関係全体について把握しておく必要があ
る。児童生徒の前籍校における教師や他児との人間関係,教科の好き嫌いや学習状況,特
別活動での様子などの実態も把握することも大切である。更に,児童生徒は特別支援学校
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への転校によって前籍校の友だちや家族等から離れることや,病気の治療への不安感を抱
えて過ごしている。また,生命などの課題に直面する場合もある。児童生徒が自分の思い
を表現しながら,安心してその子らしく生活することができるような支援が必要である。
カ 家庭環境
病気を治すことに精いっぱいの保護者の心理への配慮や,教育への理解を図ることも丁
寧に行いたい。家族が,その子の病気を心配するのは当然ことだが,疾患に対し過敏になっ
たり,過保護,過干渉になったりする場合もある。反対に,病気に対する理解がなされず,
必要な援助が得られない場合もある。また,兄弟姉妹にも負担が生じ,家族関係に影響を
与えることもある。そのためにも児童生徒が家族とどのようなかかわりを持っているのか,
家族がその子に対してどのような思いや考えを持っているのか面談などで情報交換を行
い,共感的立場で思いを受け止めながら,共通認識を持つことができるような支援をして
いく必要がある。
キ 医療との連携
病弱教育の対象となる児童生徒の多くは,病院に入院中であることが多いので,児童生
徒の実態把握に当たっては,医師や看護師をはじめとする医療関係者との連携を密にし,
一人一人の病状や治療方針,予後等についても理解しておく必要がある。各教科の指導効
果を高めるためには,各教科の指導計画の作成や指導の実施において医療関係者に理解を
求め,協力体制を整えることが大切である。更に,主治医との連携を図り,病名,病気の
状態や程度,治療方針,入院を要する期間,生活規制の種類や程度とその期間,予後,日
常生活の制限,治療上の注意点などについて具体的に理解することが大切である。なお,
医療関係者からの情報は,個人情報保護の観点から,予め本人や保護者の了解を得ておく
ことが大切である。
④ 病弱者の発達の特徴と配慮
ア 病気理解
病弱者の教育では「病気理解」を自立活動の時間などを通して行っていく。自分の病気を
正しく理解し,必要な自己管理を行うことができるよう,発達に応じた指導が必要である。
二分脊椎のAさんは,小さいころからお母さんが導尿をしてくれることは知っていた。理
由など難しいことは分からないが,お母さんに声をかけられた時に,導尿をするものだと教
えられてきたからだ。保育園へ上がったころから,自分だけが導尿が必要なことに気付き始
めた。でも「導尿しないと具合が悪くなる」と周りの大人から言われたり,実際に体調を崩
したりする中で,導尿をしないと身体に悪い影響が出ることを理解するようになる。実際の
現象のみを理解している段階である。
小学生になり,自分の病気理解の学習を進めるようになった。「尿をきちんと出さないと,
バイ菌が残って,尿がにごり,熱が出る」というように,まだ十分ではないにしても抽象的
な思考により自分の身体に変化を引き起こす状態を理解できるようになった。合わせて,身
体機能面の発達も考慮し,「自己導尿の方法」を習得した。この段階では,体調面でのチェッ
クは母親が責任を持ち,Aさんは時間がきたら自分で導尿することを目標として設定した。
さらに,高学年になると「なぜ導尿が必要か」「二分脊椎ってどんな病気」ということを学
習し,自分の病気を正しく理解し,健康に過ごすために必要な知識を身に付けていく。更に,
「自己導尿」も尿のチェック,衛生管理などの方法を身につけ,自己管理を進めていく。思春
期を迎える頃には,導尿に必要な物品の効率よい管理(オシャレに,目立たないようになど)
など,応用的な自己管理も行うことができるようになるだろう。
50
Ⅳ章
Aさんの事例を通して考えてみると,病気に対する理解は「認知や心理,運動発達など
全般的な発達」に応じて行われるものであることがわかる。病気の話や,病気理解の学習
をするときには,その子の年齢や,発達段階に沿って,十分検討する必要がある。
ここで特に大事にしたいのは,
「病気は罰である」という潜在的な認識である。人は多か
れ少なかれ病気になった時に「うがいをしなかったから」「夜更かししたから」など,何か
悪いことをした「罰」として考える傾向があるということだ。病気になる原因は「悪いこ
とをしたからではない」と頭では理解していても,病気の時のネガティブな感情のときに
は「自分が悪いことをしたからこんな病気になった」
「自分のせいで周りの人に迷惑をかけ
ている」という感じを持つこともある。科学的な根拠は全くないが,潜在的に心の中にあ
る「病気は罰である」という思いを誰でも持っていることを念頭に,病弱者と向き合うこ
とが大切である。
イ 自己効力感
教育現場では「自己効力感」を高める取り組みが積極的に行われるようになってきてい
る。「自己効力感」とは,「ある結果を生み出すために必要な行動を,どの程度うまく行う
ことができるかという自分自身の確信の度合い」を言う(病弱教育Q&A:全国病弱特別
支援学校長会)。簡単に言うと,「自分でも,何かやれそう」という感じのことである。病
弱者の中には「自己効力感」を持つことができずに生活しているケースがみられる。「自分
は友だちのように~ができない」「どうせ自分は病気だから」という思いから,自己を否定
的にとらえる経験で始まることが多いからだろう。だからこそ,教育の場で「自己効力感」
を高めることが必要なのである。
物事に対して「できるかもしれない」という感じを持つことができるようにするために,
以下の4つの要素があるとされている。
「遂行行動の達成」… 成功体験から「またできるだろう」という予測を持つこと
「代 理 的 体 験」 … 他の人の様子を見て「自分がやれそう」な感じを持つこと
「言 語 的 説 得」 … 適切な人にうまく説明されたり励まされたりして自分がやれると思えること
「情 動 的 喚 起」 … 何かの行動を前に落ち着いていたり,平静に取り組める感じがしたりす
ることを自覚すること
学校,家庭,社会など,病弱者を取り巻く環境の中で,うまく連携をとりながら「自己
効力感」高めていくことが必要である。
ウ 二次障害
もともとある病気や障害を一次の障害として,そこから派生する問題を,その病気や障
害の「二次障害」という。医学的に定義された用語ではないが,最近よく耳にする言葉で
ある。病弱者の教育の場でも,心身症など行動障害の症状を持つ者の割合が増えており,
そういったケースの中で「二次障害」の問題が大きく取り上げられている。
中学生のBさんは,自律神経失調症と肥満という症状から,病気治療を開始した。食事の
制限,睡眠時間のコントロール,適度な運動などの治療方針を受け,学校での授業を受けな
がらの生活が始まった。しばらく生活する中で,授業中落ち着かず集中できない,友だちと
のいさかいが多いなど気になる様子が見られ,医師に相談したところ注意欠陥多動性障害の
診断を受けた。Bさんの場合は,二次障害が最初に発見され後から主障害が発見されたケー
スであるが,このようなケースも少なくない。
また,Cさんは伝い歩きをして自分の興味のあるおもちゃに手を伸ばすことができていた
が,てんかんの重積発作により,運動機能が低下し歩行困難になった。病気の悪化,新たな痛み,
運動機能の低下などの二次障害が起こる場合もある。
51
あらゆる病気や障害で「二次障害」が想定される。この「二次的な問題」は,社会,学校,
家庭,友人関係などが複雑に絡んだ環境の影響によって生じることが多い。医学的な予防
も含め,かかわる環境を整えることが必要である。病気や障害から生じる困難さを,周り
の者が理解してきちんと対応することで,
「二次障害」を軽減する可能性がある。特に人と
の関係性,人を含む環境の調整など,教育の場でのアプローチに大きな期待がかかる。
(2)教育課程編成の配慮
① 教育課程の編成
病弱児は入院や治療による学習空白から学習に遅れが生じ,回復後においては学業不振
を示すことも多い。病弱児の教育ではこのような学習の遅れを補完し,学力を補償する重
要な意義を有する。その他にも,
「積極性・自主性・社会性の涵養」「心理的安定の寄与」「病
気に対する自己管理能力の育成」「治療上の効果」などの意義も挙げられる。
病弱特別支援学校では,児童生徒の実態に応じて,次に示すような複数の教育課程が編成
されている。
(肢体不自由者である児童生徒に対しての教育課程の概要図本編 P.46 ページ参照)
・小学校,中学校,高等学校の各教科の各学年の目標・内容等に準じて編成・実施する教育課程
・小学校,中学校,高等学校の各教科の各学年の目標及び内容を当該学年よりも下学年のもの
に替えて編成・実施する教育課程
・小学校,中学校,高等学校の各教科又は各教科の目標及び内容に関する事項の一部を知的障
害特別支援学校の各教科又は各教科の目標及び内容の一部に替えて編成・実施する教育課程
・各教科の目標及び内容に関する事項の一部又は各教科に替えて自立活動を主として編成・実
施する教育課程
教育課程の編成にあたっては,各教科,道徳(小・中学部)及び特別活動のほか自立活
動の領域と総合的な学習の時間を設けている。自立活動では,医療機関との連携を密にし
ながら,児童生徒が主体的に障害の状態を改善・克服するために必要な知識,技能,態度
及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培うことを目標にして,児童生徒一人
一人の障害の状態や発達段階に応じた指導を行っている。なお,家庭,病院又は施設等を
訪問して教育する場合の教育課程は,上記のいずれかによることとなる。
② 教育課程編成の配慮事項
病気の児童生徒の教育の場は,病弱特別支援学校,身体・虚弱特別支援学級(院内学級
など)で行われている。病気治療のため一定期間の入院生活の期間,それまで在籍してい
た学校から転入し,治療が終わると転出することが原則となる。病気の治療を第一にしな
がらも,心身ともに安定し,明るい生活が送れるように配慮することが大切である。
ア 学習の遅れの補完と学力の補償
病気によって入退院を繰り返したり,病気の状態や治療の状況による欠席が多くなったり
するため,学習進度は様々である。前籍校への復学の不安感や,学習意欲の低下など,心理
面でも不安を抱えていることが多い。そこで,基礎的・基本的な学習内容を精選することは
もちろんのこと,前籍校との連絡を密にとり,学習進度の確認などの情報交換も必要になる。
コラム
前籍校との連絡
病状や治療の状況によって入院の期間も様々であり,短期間の入退院には,迅速で柔軟に対応することが必要
になる。前籍校が多岐にわたるため,教科書や進度が異なるので,児童生徒に合わせた教育課程を組まなければ
ならない。転出入に当たっては,密接に連携を取る必要がある。そのための体制作り(連絡のためのツールなど)
も進めておきたい。
52
Ⅳ章
イ 積極性・自主性・社会性
病気の児童生徒は,長期にわたる療養経験から,積極性,自主性,社会性が乏しくなり
やすい等の傾向も見られる。このような傾向を防ぎ,健全な成長を促す上でも教育は重要
である。病気の治療や生活規制などによって身体活動の制限や直接経験の不足が見られる
ことがある。授業時数や,指導形態などに工夫を加え,一人一人の学習の状況や病気の症
状に合わせた指導計画が求められる。特に,体験的な活動を伴う内容の指導に当たっては,
児童生徒の状態に応じて指導方法を工夫し,効果的な学習活動の展開を図るように工夫す
る。また,集団への参加の機会が少ないこともあるので,積極的に集団活動を設定するな
どの配慮も大切である。病気などにより,身体活動の制限があり,療養のため病室から出
ることができない児童生徒には,教材・教具の工夫やコンピュータ等の情報機器を活用し
て効果的に学習ができるような工夫が求められる。インターネット等の活用により,児童
生徒の学習機会を増やすことも可能になってきている。
ウ 心理的安定への寄与
病気の児童生徒は,病気への不安や家族,友人と離れた孤独感などから,心理的に不安
定な状態に陥り易く,健康回復への意欲を減退させている場合が多い。教育は,このよう
な児童生徒に生きがいを与え,心理的な安定をもたらし,健康回復への意欲を育てること
につながる。学習活動が負担過重になり,病気の状態や健康状態の悪化をきたすことのな
いよう,病気の特質や個々の病状等を十分考慮することも必要である。そのために,主治
医の意見を十分に把握すること,看護師との情報の共有など,医療関係者との密接な連携
も大切にしたい。
エ 病気理解,自己受容,自己管理能力
自分の病気を理解し,受容して病気を改善・克服するために,病気についての適正な認
識や正しい生活習慣を身に付け,病気に対する自己管理能力を育てることが必要な児童生
徒も多い。病気の状態等に配慮しつつ,病気を改善・克服するための知識,技能,態度及
び習慣や意欲を培い,病気に対する自己管理能力を育てていくことにおいて教育は有用な
ものである。自立活動の時間における指導に加え,休み時間や給食指導など学校生活全体
を通して適切な指導計画を作成することが大切である。
オ 治療上の効果等
医師,看護師等の医療関係者の中には,学校教育を受けている児童生徒の方が,治療上
の効果が上がり,退院後の適応もよく,再発の頻度も少ないと指摘する者も多い。更に,
療養生活環境の質(QOL)の向上にも資するものである。
53
5 知的障害者である児童生徒に対して
(1)知的障害の理解
① 知的障害の「知的能力」「適応能力」「出現
時期」の判断と留意点
知的機能
「知的障害」について国際的に定義されてい
るものがいくつかあるが,米精神遅滞学会で
は,「知的障害は,知的能力及び適応能力の双
方の明らかな制約によって特徴付けられる能
18 歳まで
力障害である。この障害は,18 歳までに生じ
適応行動
に出現
る」と定義している(図1)。つまり,知的能力,
適応能力,出現時期によって判断される。
知的障害の「知的能力」は,個別に実施し
図1 知的障害の判断基準
た知能検査で IQ が 70 以下であることが目安
となる。IQ の数値はある程度幅のあるものであり絶対的なものではないので,他の基準と
合わせて総合的に判断することになる。
知的障害の「適応能力」は,社会生活にかかわる能力のことで,意思伝達,自己管理,
社会的/対人的技能など実用的な適応スキルのことであり,学習の結果身に付けられるも
ので知的能力と関係は深いが別の能力である。すなわち,知的能力が高くても生活場面で
の適応が低い場合もある一方,知的能力に見合った(知的能力を十分に生かした)適応的
な生活をしている場合もあるということである。
知的障害の「出現時期」は 18 才までに生じることが記されているが,これはこれ以降に
生じる知的能力の低下(例えば認知症)は入らないということである。
では,知的障害の定義や判断は何のために必要なのだろうか。知的障害の判断を教育的に
行う場合,それが本人へのレッテルとなってはならないし,そこからは「知的障害があるか
ら仕方がない」
,
「それは本人の能力のせいだ」という考え方しか生じない心配もある。知的
障害の判断は,教育内容や方法を予想し,それらへの多くの示唆を含むものでなくてはいけ
ない。すなわち,
私たちが求められている必要な支援をするための判断である。そのためには,
障害の発達状態にかかわる特性をていねいに把握することが重要なのである。
② 知的障害の特性と一人一人に合った指導
知的障害は,一般に全般的な知的能力の遅れが特徴であると言われている。典型発達と
比べて遅く,最終到達点が低いが,発達の順序は同じであり,全体的に同じ程度に遅れて
いるという考え方である。しかし,近年,
障害の重度化・多様化に伴いこの考え方
だけでは知的障害の理解は不十分である
ことが分かってきた。遅れはあるが発達
の順序や機能間の関係が典型的な発達と
は異なるというものである。つまり,1
人の子どもの中でも知的能力によっては
高かったり低かったりすることや,発達
のある段階だけ飛び越えていたりするこ
とである(図2)。従って,知的発達の
遅れがあるというだけで,同様の特徴が
あると早合点せず,ていねいに子どもの
図2 知的発達水準と機能間のアンバランス
54
実態把握をする必要がある。そして,第一に,全体的な知的発達の水準に合わせた支援,
次に,高い能力を生かし,低い能力に配慮した支援をするという考え方が重要である。
(2)知的障害の理解のポイント
以上のことから知的障害といっても一人一人異なっており,全員に当てはまる特徴は少な
い。しかし,より確かな子どもの理解のために以下のことを大切にしたい。
Ⅳ章
① 言語
ア 理解と表出
言語を「理解と表出」という面で見てみることが子どもの言語の状態を知る手がかかり
になる。すなわち,どの程度他者からのメッセージを理解しているか(受容性コミュニケー
ション),また,どの程度適切な方法で
自分の思いを表現できているか(表出性
コミュニケーション)という視点である。
そして両者のバランスを知ることが大切
である。一般に言語理解は言語表出に先
行して発達する。これは知的発達の遅れ
がある子どもでも同様である(図3)。
従って,いくら言葉の言い方や文字の読
みを指導しても,相手に何かを伝える言
葉にはつながりにくいことがあるので,
理解と表出は区別して指導するとよい。 図3 見たり聞いたりして相手のメッセージを理解することよ
り,自分の思いを人に伝えるスキルが弱いことが多い。
また,見たり聞いたりして理解する力が
高くても,言葉で表現することが困難な場合,気持ちを適切に伝えられずに不適応行動に
つながることがある。コミュニケーションの面で考えたとき,音声言語にこだわらず,多
様な方法の中から子どもにあった表出方法を探り,指導していくという考え方も大切であ
る。具体的には,シンボルや写真等によるカードやコミュニケーションブックを活用した
支援,マカトン法,VOCA(Voice Output Communication Aids:音声表出コミュニケーショ
ン機器),PECS(Picture Exchange Communication System:絵カード交換式コミュニケー
ションシステム)等がある。
(※具体的な支援については → 「発信を大切に!」P.105 ペー
ジ参照)
イ 具体的に伝える必要性
子どもに分かりやすく伝えるには,抽象的な言葉ではなく具体
的な言葉で伝えた方がよい。例えば,
「書くものを持ってきてくだ
さい」より,
「サインペンを持ってきてください」の方が具体的で
ある。サインペンの絵や写真,実物を見せながらだとさらに伝わ
りやすい。具体的であるということは音声言語の理解より,視覚
的な具体物に近い方法が伝わりやすいということである。しかし,
見せれば何でもよいというわけではない。例えば,子どもにサイ
ンペンの入ったカゴを見せながら「ここに入れて」と言葉で指示
したとき,子どもはどうするだろうか。もちろん指示通りにサイン
ペンを入れる子もいるだろう。しかし,入れずに入っているサイ
ンペンを取り出す子もいるのである。これは,言語的な指示より
視覚的な情報が優先しやすいためである(図4)
。何も入っていな
55
図4 写真だけを見れば,サイ
ンペンを取りなさい」と
いう指示にもとれる。
いカゴならサインペンを入れるという指示はより伝わりやすい。視覚的に示す場合は余計な
情報は取り除き必要な情報を強調して見せるとよいだろう。
② 数量
大きい,小さいという概念を理解していても,見た
目の長さや大きさを直感的に受け取るため,同じ数や
量であっても,物の配置や形状によって多くとも少な
くとも判断する段階がある(図4)。これは,抽象的・
論理的思考の弱さがあるために起こる判断である。こ
れに正答するのは,典型発達では6~7歳ごろである。
具体物や半具体物の操作を十分行いながら言語的・論
理的に確認していく学習が有効であると言われている。
図5 上の●の列より,下の列の方が多いと
判断することがある。
③ 空間・時間の概念
空間的にも時間的にも常に自分の位置を中心にしてその広がりを認識している。例えば,
自分の位置からどう行けば教室にたどりつけるかということは容易に想像できても,教室
にいるときに体育館から教室への行き方を想像することが困難だということである。時間
的には,今日,今現在が中心であり,昨日,明日といった時間的な広がりをとらえること
が困難であることがある。場所や時間の認識も,経験を伴った学習によって徐々に広がっ
ていくと言われている。
④ 運動
運動は粗大運動と微細運動に分けられる。粗大運動とは,全身の協調運動である。微細
運動とは,主に手指を使った操作的な運動である。
粗大運動の特徴としては,動きのパターンが少ない,ぎこちないという様子が見られる
ことが多い。また,身体が硬くなったり運動量が少なくなったりすることや,食生活の偏
りからくる健康上の問題(けがや肥満)も起きやすい。
微細運動では,手先に力が入らず,文房具や食器などの手先を使う道具を使うことが困
難であることが多い。手先の巧緻性を高めるだけでなく,使いやすい道具を準備すること
も大切である。
⑤ 記憶 知的障害の特性として,短期記憶の弱さがある
場合がある。新しい情報をしばらくの間覚えてお
ける量は1つか2つだと考えて指示の出し方や指
導方法を考えた方がよいだろう(図6)。見たり
聞いたりしたことを感覚的に記憶することは,そ
れほど弱いわけではないが,知識として定着され
ずに忘れてしまうことが多い。これは注意を向け
意識的に記憶しようとしないことが多いためだと
考えられている。従ってどのようにしたら忘れな
いかという方法を学んだり(例えば,復唱する, 図6 新しい学習において,聞いたこと覚えておく
記憶は1つか2つだと考えたほうがよい。
メモをとる),記憶を助ける視覚的な手がかり(例
えばスケジュールや手順表)を活用できるようにしたりするとよい。また,音声言語より
も絵や写真などの視覚的な刺激の方が忘れにくいことが分かっている。
56
Ⅳ章
⑥ 学習
最後に学習のスタイルについて述べたい。知的発達に遅れがある場合,机上の学習によっ
て得た知識や技能は断片的になりやすく,その他の実際の生活の場で応用されにくいと言
われている。従って,できるだけ具体的で実際的な場面で経験的に学ぶことが特に重要で
ある。
しかし,
「生活経験をたくさんすればよい」というだけで,子どもの特性を生かした(強
さを生かし弱さに配慮した)方法が準備されていなければ効果的な学習にはつながりにくい。
大切なのは取り出した学習内容(例えば教科や個別学習における自立活動)とそれ以外の授
業や生活との関連を常に考慮することであるだろう。分かりやすい課題設定により効果的な
学習ができ,他の授業や生活場面との関連を持つことができれば,これが日常生活につながっ
ていくことも十分可能である。
効果的な学習のためには,視覚的な手がかりを準備するとよい。日常生活に必要なスキ
ル(着替え,歯磨き,手洗い,食事の準備や片付け,場所の移動など),作業的な課題の手順,
朝の会や帰りの会,集団の授業などにおいて,できるだけ自分で判断して行動できるよう
にすることが大切である。なぜなら,知的障害がある場合,人の支援に依存しやすいとい
う傾向があるからである。いつでも言葉の指示によって行動する,人の後について行動す
るという学習を繰り返すと,人の指示がないと行動しない(指示待ち)ということになっ
てしまう。視覚的な手がかりに自分から気付いて(指導開始時は手がかりに気付かせるよ
うにすることは必要),判断し,行動することができるようにすることが求められる。
(3)知的障害児童生徒への教育的対応
新学習指導要領では知的障害のある児童生徒の特性を踏まえて,以下のような教育的対応
示している。
「知的障害児童生徒への教育的対応」のキーワード
① 児童生徒の実態等に即した指導内容の選択・組織
② 自ら見通しをもって行動できるよう,日課や学習環境などをわかりやすく
③ 社会参加に必要な技能や習慣が身に付くように
④ 職業教育を重視し,将来の職業生活に必要な基礎的な知識や技能及び態度を
⑤ 生活に結び付いた具体的な活動を実際的な状況下で
⑥ 多様な生活経験を通して,生活の質の向上を
⑦ 児童生徒の興味・関心や得意な面を生かす工夫,段階的な指導で意欲が育つように
⑧ 児童生徒の成功経験を豊富に,主体的活動を
⑨ 集団における役割があり,活動を遂行できるように
⑩ 発達の不均衡な面や情緒の不安定さなどの課題を
〈参考文献〉
『特別支援教育における障害の理解』筑波大学特別支援教育センター・前川久男 教育出版(2006)
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