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原稿 - 日本心理学会
日心第70回大会(2006) 日本語版認識論的信念尺度の構成 ○ 富田 英司 1 ・ 中野 美香 2(非会員) ( 九州大学大学院人間環境学研究院・2 同大学大学院比較社会文化学府) Key words: 認識論的信念,素朴認識論,学習観 1 心理学研究における「認識論的信念」とは,知識や学習の 性質についての信念を指す(Duell & Schommer, 2001)。この 認識論的信念は,私たちが日常的に行っている「知る」 「分か る」「考える」「教える」「教わる」「勉強する」といった活動 に枠組みを与える信念であることから,教師教育(Chan & Elliott, 2004),認知発達(Kitchener, 1983; Kuhn, 2000),教授 学習(Hofer, 1999; Schommer, Crouse & Rhodes, 1992)などの 研究領域において盛んにその役割が検討されている。これら の研究における一つの下位研究領域として,1990 年代以降, アメリカ合衆国や香港では認識論的信念を測定するための自 己評定尺度の開発が進められている。他方,本邦での認識論 的信念の研究報告は極めて限られており,筆者らの知る限り, 平山・楠見(2005,日本心理学会第 69 回大会発表論文集, p.901) が Epistemological Questionnaire(EQ,Schommer, 1990)を日 本語に訳し,4 因子 25 項目の尺度を構成した研究報告のみで あろうと思われる。 平山・楠見(2005)による尺度構成では, 「バックトランス レーションによる日本語訳の確認手続きが取られていない」 「サンプルが1つの大学の大学生からのみ構成されている」 「各種妥当性の検討がまだされていない」 等の点で発展途上に あると言える。そこで本研究では,本邦での認識論的信念尺 度の構成に寄与するため,Schommer(1990)の EQ を再度日 本語に訳しなおし,別の大学の学生を対象に調査を実施し, 日本語版認識論的信念尺度の構成を再度試みた。この際,EQ を改善して作成された Schraw, Bendixen & Dunkle(2002)に よる Epistemological Belief Inventory(EBI)に含まれた項目も 同時に訳出して,調査項目に加えた。 方法 回答者 回答者は福岡県内の国立大学法人の大学生 338 名 (男性 264 名、女性 72 名、無回答 2 名)、平均年齢は 19.6 歳 で 59.4%の学生は大学 1 年生であった。 質問紙 質問紙には,日本語に訳した EQ(全 62 項目)およ び EBI(全 28 項目)からなる,全 88 項目の認識論的信念尺 度が含まれていた(合計数が一致しないのは,2 つの尺度に 同じ項目が含まれているためである) 。これと同時に,構成概 念妥当性を検討するための 5 つの尺度も含まれていたが,今 回はこれについては報告しない。質問項目の訳出にあたって は,英語教育の専門家である第 2 筆者がまず全ての項目を訳 し,その後,英語のネイティブスピーカーであり,かつ日本 語に堪能な大学院生によってバックトランスレーションを行 い,再度日本語の表現を再検討した。 手続き 全学教育の授業時間に質問紙を一斉配布し,ボラン ティアで質問紙に回答してもらった。回答時間は約 20 分間。 結果と考察 項目分析を行った後に,探索的因子分析を行った。因子の 抽出法は最尤法を, 因子の回転にはプロマックス法を用いた。 因子数の決定は,固有値プロットと抽出された因子の解釈可 能性を基準に,5 因子とした。その後,さらに単純構造でな い項目と因子負荷量が.40 未満の項目,および因子内での意味 が一貫しない項目を削除しながら,因子分析を繰り返した結 果,Table1 に示したような 5 因子(各 4 項目)から成る全 20 項目の尺度が作成された。各因子の名前は,次のように名付 けられた:Ⅰ学習能力の生得性(α= .81),Ⅱ学習の早さ(α = .63),Ⅲ知識の対話的特性(α= .63),Ⅳ相対主義(α= .61), Ⅴ努力の重要性(α= .54)。さらに確証的因子分析によって モデルの適合度を検討したところ,RMR = .12, GFI = .90, AGFI = .87, χ2= 288.18(df = 160, p < .001)という十分な統 計量が得られた。 EQ(Schommer, 1990)で想定された因子と比較すると, 「知 識の確実性」の反転したものがⅣ, 「学習スピード」はⅡ, 「知 識の単純さ」が反転したものがほぼⅢ, 「能力の生得性」がⅠ に対応していると考えられる。因子Vについては EQ におい ても,EBI においても,独立した因子としては見い出されて いないが,Chan & Elliott(2004)による香港の学生を対象と した研究ではこれと同等の因子が見い出されており,努力を 重視する儒教文化にまつわる東アジア独自の因子である可能 性がある。ただし,平山・楠見(2005)においては本研究ほ ど明確には努力の重要性についての因子が抽出されていない ため,このような解釈については今後の検討が必要である。 Table 1 尺度の因子パターンと因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 人の知的潜在能力は生まれつき決まっている. 項目 .81 -.02 .04 -.01 Ⅴ .02 学習能力は生まれつきのものである. .77 -.14 -.06 .12 -.05 賢い人はもともとそのように生まれている. .75 .04 .03 .02 .12 .68 .09 -.10 -.04 -.10 .02 .66 .09 -.09 .00 -.09 .68 .00 .00 .06 .01 .53 -.03 .12 -.11 .04 .39 -.10 .08 .12 -.01 -.05 .78 .06 -.09 -.04 -.16 .55 -.02 .04 .09 .13 .53 -.06 .02 -.13 .08 .50 .14 -.07 ただ一つ確かなことは,不確実性そのものである. .04 -.12 .10 .70 .17 今日の事実は明日の作り話かもしれない. .06 .17 -.01 .58 -.02 今日真実であることは,明日も真実だ. .08 .02 .22 -.53 .18 何が真実であるかということは,単に主観の問題である. .06 .06 .18 .46 .01 天才は,10%の才能と 90%の努力である. -.22 -.05 -.11 .05 .55 学習は知識を積み上げていくようなゆっくりとした過程である. 生まれながらにして優れた学習者である人もいれば,限られた 能力しか無く,学習が進まない人もいる. 私は一冊の本の各章で読んだ様々な情報を,さらにはいろい ろな授業を通して得た情報をなんとか統合しようとする. 私にとって,専門家のあいだで意見が一致していない問題に ついて考えることはおもしろい. 多くの場合,専門家のアドバイスでさえ疑問視されるべきだ. もしあなたがその話題に詳しいならば,教科書に書かれている 情報が正しいかどうかを自分で見極めるべきである. すぐに分からないものは,これからもずっと分からない. 最初に一読したときに理解できない(本の)章は,読み返しても 無駄である. そもそも何かを理解することができるのであれば,それを初め て聞いたときに理解できるだろう. 教科書から学ぶことができる情報のほとんど全ては,最初に 読んだときに得ることができる. -.04 .03 .04 .12 .50 出世するためには多大な労力が必要である. .08 -.04 -.07 -.05 .46 すべての人は学習方法を学ぶ必要がある. .13 .11 .00 -.06 .45 Ⅱ .31 Ⅲ .01 -.23 Ⅳ -.01 .25 -.13 Ⅴ .06 .15 .05 .07 (TOMIDA Eiji, NAKANO Mika)