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29 社会医学環境講座 環境医学実習 レポート ケニアから日本へ:国境を

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29 社会医学環境講座 環境医学実習 レポート ケニアから日本へ:国境を
社会医学環境講座 環境医学実習 レポート
ケニアから日本へ:国境をこえる地域保健強化の取り組み
栗原 智樹、小川 勝洋、高瀬 洪生、山田 健生
1.introduction
私たちのグループは前期では授業形式で国際医療について学び、夏休みに実際にケニアの国際医
療機関を訪れ、国際医療の現状を学んだ。後期には、福井県小浜市の保険センターを訪れ、日本
の地域保健、医療について学んだ。そして、ケニアと日本の地域保健の現状を比較し、ケニアで
学んだことを日本の地域保健や医療に応用できるのではないだろうかと考えた。そこで提案した
のが、Community Health Worker の日本の地域医療への応用である。
2.ケニアへの訪問
ケニアでは JICA ニャンザ州保健マネジメント強化プロジェクト(SEMAH)へのショートイン
ターンシップ参加、NPO Child Doctor、長崎熱帯医学研究所への訪問を通して途上国における
支援の形というものを学んだ。SEMAH とは現地のケニア人が自分自身の手で保健に関する問
題を解決していくマネジメント力を養うために日本がその手伝いをするといったもので、従来か
らよくある「保健状況を悪化させている因子を特定して、それに対して先進国が主体となって解
決していく」といったような支援の形とは異なるものである。これは、従来通りの支援の方法で
は様々な要因が複雑に絡み合っている保健状況の改善においては限界があるため、新たになされ
ている試みである。ここで私たちは SEMAH の内容を専門化の方々の講義を通じて学ぶととも
に、実際に field work を通してその一端を肌で感じさせていただいた。field work としては主に
ポリキャンペーンへの参加と、dispensary と community unit において Community Health
Worker(CHW)と呼ばれる地域におけるボランティアへのインタビューを通じて case study
taking をおこなった。ポリオキャンペーンでは CHW と共に村の家を一軒一軒まわり5歳未満
の子供にポリオのワクチンを接種するとともに、その作業が正しくできているかを私達がチェッ
ク さ せ て い た だ い た 。 case story taking で は 今 ま で JICA が 行 な っ て き た 活 動 が
dispensary/community unit においてどのようなインパクトがあったかをインタビューを通し
て JICA へのフィードバックをおこなった。詳しい内容については膨大な量になるのでここでは
割愛させていただくが、JICA の活動により保健状況が改善したことは明らかであった。NPO
Child Doctor では支援をしているスラムや孤児院を訪問させていただき、ケニアにおける貧困
地区の現状・課題・支援内容を学ぶ機会を頂いた。長崎熱帯医学研究所では研究室を見せていた
だいたが、そこではマラリア・下痢・寄生虫など現地ならではの地域に根ざした研究がなされて
いた。
3.ケニアで感じたこと
大きく分けて二つある。一つ目は医療におけるコミュニティの力・重要性である。医療というと
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どうしても医療関係者が患者を治すといった図式ができがちであるが、地域における保健状況を
改善していくためには患者の持つ背景を考慮した上でコミュニティが一体となって取り組んで
いくことが重要である。またケニアにおいては医師などの人材不足により医療専門職の人だけで
は医療が成り立たず、CHW のような一般市民も保健活動に参加していた。これもコミュニティ
性が十分にあるからこそできることである。日本においては医療が高度に専門化しているため、
かえって地域保健においては様々な弊害がでてきていることも事実である。もう一つは支援の形
として現地の人を活用するという方法があるということである。現地の人が主体となって問題に
取り組むことにより、モチベーションの向上、支援終了後の活動維持、現地の人ならではの情報・
知識などのメリットなどがある。ある困難を先進国がひとつひとつ改善していくことは確かに簡
単で効果はあるかもしれないが、その場しのぎになる可能性があり、根本的な解決には繋がり難
い。今回は現地の人が主人公という支援の形を見せていただき途上国の保健状況の根本的な改善
に大きな可能性を感じることができ非常に勉強になった。
4.福井県小浜市へ
ケニアでの経験を経て、ケニアでの地域保健医療の現状を日本のそれと比較しようとしたが、自
分たちが日本の地域保健や医療について何も知らなかったことに気付いた。そこで、中村先生の
紹介で、私たちは福井県小浜市にある福井県嶺南振興局若狭健康福祉センターを訪れ、医官であ
る四方(名前)先生にお話を伺った。四方先生は途上国など海外の経験をお持ちで、かつ現在は日
本の地域保健に携わっておられる方である。
5.日本の地域医療、保健の現状
四方先生のお話から、日本の地域保健医療の推移と現状、また問題点が見えてきた。日本もかつ
ては、ケニア等発展途上国のように地域のコミュニティ性が高く、例えば地域の女性による妊婦
や新生児の保健指導、分娩介助などが行われていた。また、保健所などで検診をするといえばそ
れは地域中に広まり、地域のほとんどの人が集まってきた。しかし、地域の高齢化、若者の都会
進出などによって地域のコミュニティ性は低下した。地域の人々の交流は少なくなり、孤立する
高齢者が増えた。孤立した高齢者の中には、身体的な問題や精神的な問題、また近くに医療機関
がないなど交通アクセスの問題で病院や保健所に行かない人や行くことができない人がいて、最
悪の場合、これらの人は孤立死してしまう。病院や保健所は、それらに診察や治療を受けにくる
人を把握し、フォローすることはできるが、それらに来ない人や来ることができない人まで把握
することはできない。日本の地域全体の保健や医療を向上し、高齢者の孤独や孤立死を防ぐため
には、このように病院や保健所が把握できていない人々の問題に対する対策が必要である。
6.途上国と先進国の関係
少し話がそれるが、ケニアのような発展途上国と日本のような先進国の関係といえば、どのよう
に考えるだろうか?先進国の優れたものを途上国に与える、先進国→途上国の一方通行だと考え
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るのではないだろうか?しかし、必ずしもそうではなく、途上国の中で発達したものを先進国に
取り入れている例がたくさんある。例えば、結核の管理法として有名な DOTS は、途上国での
結核対策を参考にして作られたものだ。このように私たちも、ケニアでの経験を生かして、そこ
で見たものや学んだことを日本の地域保健や医療の向上に役立てられるのではないだろうかと
考えた。
7.日本の地域医療への CHW の応用
そこで私たちは、ケニアなど発展途上国で発達している、Community Health Worker(CHW)
に注目した。CHW とは途上国の地域の中で、その地域の保健、衛生の維持、向上に携わる人々
である。ケニアにおいては、主に地域の女性によって、地域のそれぞれの人の宅を訪問して、妊
婦や小児のワクチン接種や健康管理など、母子の保健ケアを中心に地域の保健衛生に貢献してい
る。また、ケニアにおいてこれらは無償で行われている。私たちは、この CHW というものを
日本の地域保健、医療の問題に応用できるのではないかと考えた。
日本とケニアでは大きく状況が異なるので、ケニアの CHW をそのまま日本に持ち込むことは
できない。ケニアの人口分布はいわゆるピラミッド型であり、若年層が多い。また地域の保健、
医療として重要なことは、周産期、妊婦や小児の病気、死亡を防ぐことにある。一方、日本は高
齢化社会となり、高齢者の医療や保健が重要である。また、ケニアでは多くの女性は働いていな
いが、日本には働いている女性が多くいるので、ケニアのように CHW として活動できる女性
は少ないだろう。このように、ケニアの CHW を日本の地域保健、医療に応用するためには、
多くの問題がある。
しかし、CHW の概念や考えを日本の状況に合わせて応用することはできる。以下のようにして
応用できないだろうか。まず、ケニアのものと異なり、日本において対象としなければならない
のは、母子ではなく高齢者である。また CHW を担う人々を地域の女性ではなく地域の中高生
とする。とくに、中学校は地域にたくさんあるので、中学生は地域の中で活動しやすいだろう。
活動単位としては町や村が考えられるが、中学生であればその学区ごとに活動できるだろう。
CHW の活動内容としては、高齢者宅それぞれを訪問して、孤立している人や病気を持っている
人がいないかどうか見て回る。そして、病気の人がいれば病院に報告してもらう、などが考えら
れます。また、中学生など若い子供達が高齢者宅を訪れ話し相手になるだけで、高齢者の孤独感
やうつ病を防ぐことができる、という効果もあるだろう。報酬については、今の日本の状況を考
えると、全くの無償でというのは少し難しいかもしれない。それならば、中学生であれば例えば
内申点などで対応できるのではないだろうか。以上のように、ケニアにおける CHW をそのま
ま日本に持ち込むことはできないが、それを日本の状況に合わせて応用することはできる。
すなわち、今の状況ではそれぞれの高齢者が病院や保健所を訪れ、診察や治療を受ける、という
高齢者→医療という関係だが、私たちの提案は、CHW としての中学生などを介して、医療→高
齢者という関係を作れないか、というものである。これによって、病院や保健所に行くことがで
きずに医療を受けられない人々を把握し、その人々に医療を提供することができる。そして、地
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域全体の保健、医療を向上することができる。
8.まとめと考察
医療、特に地域医療というものは医師と患者だけで成り立つものではなく、地域全体として取り
組まなくてはならないものである。コミュニティ性が希薄となった今の日本では、地域全体の医
療、保健を向上することができない。そのため、このコミュニティ性に対する対策が必要であり、
その一つとして CHW の応用を提案した。
また、ケニアと日本は途上国と先進国という関係で、また環境や状況も大きく異なるので、一見
日本がケニアから学ぶものはないように思える。しかし、この例のように途上国のものを日本に
応用することもできる。これは医療の問題に限らず、グローバル化した現代社会においては、途
上国・先進国といった枠組みにとらわれずに、他国から学ぶ姿勢を持つことが重要である。
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