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付加価値貿易指標の改善に係るOECDの取り組み

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付加価値貿易指標の改善に係るOECDの取り組み
付加価値貿易指標の改善に係るOECDの取り組み
――2015 年 3 月開催 OECD 財貨サービス貿易統計作業部会に係る出張報告を兼ねて――
内閣府経済社会総合研究所政策企画調査官 萩野 覚
TiVA に関するワークショップを開催し、TiVA 指標の基
1.はじめに
礎データ整備に関する具体的なワークプログラムを提言
した。これを受けて、WPTGS でも、従来から議論の対
経済協力開発機構(以下、OECD という。
)の「国際
象 と し て き た 国 際 財 貨 サ ー ビ ス 貿 易 統 計 に つ い て、
財貨サービス貿易統計に関する作業部会」
(Working
TiVA 指標の精度向上につながるような各種改善・整備
Party on International Trade in Goods and Services Statistics。
に議論の焦点を絞ってきた。また、ミクロデータを用いた
以下、WPTGS という。
)は、年一回、春にパリの OECD
企業特性別貿易統計(Trade by Enterprise Characteristics。
本部において開催される。本年は、3 月 24 日から 26 日
以 下、TEC と い う。
) の 検 討 に も 本 格 的 に 取 り 組 み、
に開催され、筆者が出席した。WPTGS は、OECD 加盟
TEC プラスと称する拡張を展望するに至った。WPTGS
各国及び加盟候補国、関係強化国等の統計作成部局スタ
の上部委員会である OECD 統計・統計政策委員会は、
ッフ、OECD、国際通貨基金(以下、IMF という。)、国
TiVA や TEC に係るプロジェクトを、2015 年~ 2016 年
際連合、世界貿易機構(以下、WTO という。
)といった
の作業計画の最重要課題の一つとして位置付けている。
国際機関の統計専門家が一同に会し、国際財貨貿易統計
筆者は、2014 年 9 月まで OECD 統計局に勤務し、国
および国際サービス貿易統計に関する議論を行うフォー
際サービス貿易統計や TEC の整備に取り組んだほか、
ラムである。かつては、各々の統計ごと作業部会が存在
WPTGS の変革にその事務局(以下、OECD 事務局とい
したが、2008 年に統合され WPTGS となった。
う。)の側で関与する機会を得た。そこで本稿 1 では、
WPTGS では、統計作成に関する各国の経験を共有す
筆者自身の経験も踏まえ、TiVA 指標改善や TEC 整備を
るとともに、将来の課題について議論が行われる。ここ
中心に、WPTGS 会合の議論を整理して紹介したい。以
数年は、国際収支統計マニュアル第 6 版(以下、BPM6
下では、2.で TiVA や TEC の概要を説明した後、3.
という。
)や国際サービス貿易統計マニュアル 2010(以
において、我が国について TEC 類似データを推計し
下、MSITS2010 という。
)の適用が議論されており、折
TEC プ ラ ス の 検 証 を 行 う。 こ れ を 踏 ま え、 4. で
しも、MSITS2010 の統計作成者用ガイドが昨年末に公
WPTGS における TEC に係る議論を、5.では同じく
表されたこともあって、本年は、そうした議論に拍車が
TiVA に係る議論を整理する。6.では、結論に代え、
かかった(この点については付論1参照)
。ただ、2013
WPTGS への対処や、TiVA や TEC に係る今後の課題を
年に付加価値貿易(Trade in Value Added。以下、TiVA と
展望することとしたい。
いう。)指標の公表が始まってからは、同統計の整備・
改善が議論されており、年々、その比重が大きくなって
2.TiVA、TEC の概要
きている。
TiVA 指標は、企業活動のグローバリゼーションを的
(1)TiVA の意義と課題
TiVA は、経済のグローバリゼーションが進む中で、
確に把握・分析するツールとして開発されたが、同統計
は様々な基礎データを用いた推計であり、その精度には
国際貿易における各国の貢献を付加価値という視点から
向上の余地がある。そこで、OECD は、2014 年 3 月に
表章しようとするものである。OECD は、自身の国際産
1
本稿の作成にあたり、内閣府経済社会総合研究所・丸山総括政策研究官のほか、同研究所国民経済計算部の酒巻部長、多田企画調査課
長に有益なコメントを頂いた。また、ミクロデータの集計にあたり、同研究所・竹内政策調査員(現日本銀行)の協力を仰いだ。OECD
科学技術産業局エコノミスト・山野紀彦氏には、付加価値貿易指標の推計方法をご教示頂くとともに、今後の検討の方向性についてア
ドバイス頂いた。各位に感謝の意を表したい。ただ、本稿の責任は、全て筆者に帰するものである。また、本稿の意見は、筆者の意見
であって、経済社会総合研究所の意見を必ずしも反映したものではない。
- 49 -
業連関表を用いて TiVA 指標の開発に取り組んできたが、
たる。これに対し TiVA 指標では、輸出に関わった国々
2013 年 5 月、WTO と 共 同 で、2009 年 以 前(1995 年、
について、各々が生み出した付加価値のみが計上される
2000 年、2005 年、2008 年、2009 年)の計数を公表し、
ことから、そうした問題が解消されることになる。
TiVA データベースに掲載した(http://oe.cd/tiva)
。本年 5
例えば、図1に示すように、A国で中間財を生産し、
月には、2010 年、2011 年の暫定値の提供を行い、TiVA
B国において当該中間材を加工して最終消費地であるC
データベースにも反映したところである。本稿執筆時点
国に輸出する、といった典型的なケースを想定しよう。
では、TiVA データベースは、以下の項目を含み、61 の
国民経済計算や国際収支統計では輸出入金額の全てが計
国や地域(OECD 加盟国のほか、タイ、中国、インド、
上され、C国の貿易赤字を生み出すものとしてB国の輸
インドネシア、ブラジル、ロシア、南アフリカ、サウジ
出 110 のみが認識される。これに対し、TiVA 指標では、
アラビア等)を対象として、経済活動(産業)を 18 に
A国の付加価値 100、B国の付加価値 10 のみが計上さ
区分している。
れる。このように、A国からの輸出がB国で付加価値を
上乗せしてC国へ再輸出されているという、財貨の流れ
Ⅰ.相手国別の輸出総額、輸入総額、貿易収支
に沿ったイメージが計数にそのまま表わされる。この結
Ⅱ.輸出総額・国外最終需要に含まれる国内付加価値
果、C国の貿易赤字は、対B国の赤字が 100 減る一方、
Ⅲ.輸出中間財に含まれる国内付加価値、再輸出された
対A国の赤字が同額増加し、C国の貿易赤字の殆どがA
国により産み出された付加価値に起因するという実態が
輸入中間財
示されることになる。
Ⅳ.国内最終需要に含まれる国外付加価値
第二に、輸出品を製造するために海外から中間財を輸
Ⅴ.輸出総額に含まれる国内・国外サービスの価値
入するという GVC の実態を、国内付加価値、国外付加
TiVA 指標の意義については、以下の三点が指摘され
価値という概念を導入して的確に示すことである。国内
ることが多い(我が国の TiVA 指標の特徴については
付加価値、国外付加価値は、輸出品の価値のうち、自国
Box 1 を参照)。第一に、相手国別貿易収支が実態を反
の貢献分と外国の貢献分を区分するものである。一般に、
映した形になることである。すなわち、企業が生産コス
輸出に占める国内付加価値の割合は、国内でバリューチ
ト削減や効率引上げのため、国境を跨った生産ネットワ
ェーンが構築されている大国や資源国では高く、GVC
ーク、あるいはグローバルバリューチェーン(GVC)
に深く組み入れられた国では低くなる傾向がある(図
を構築し、中間財を頻繁に取引する動きが進むと、現行
2)
。一方、自国企業が GVC を構築して行き、海外で
の国民経済計算や国際収支統計の枠組みでは、輸出入の
付加価値を付けられた中間財の輸入を増やすようになる
金額が膨らんで行く。また、最終消費国では、中間財生
と、国内付加価値は徐々に低くなっていく。このように、
産国との貿易は計上されず、最終財の生産国(GVC の
TiVA を用いると、GVC における空間的・時間的な各国
最後に位置する国)に対する貿易赤字ばかりに焦点が当
の立ち位置が明らかになる。
図1 TiVA の概念図
<従来の貿易統計>
輸出総額
110ドル
輸出総額(中間財)
100ドル
<TiVA>
付加価値 10ドル
付加価値 100ドル
- 50 -
図2 輸出に占める国内付加価値の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
0%
ルクセンブルク
ハンガリー
スロバキア
チェコ
タイ
韓国
アイルランド
ベルギー
エストニア
ポルトガル
メキシコ
スロベニア
ギリシャ
フィンランド
ポーランド
中国
スウェーデン
スペイン
インド
イスラエル
アイスランド
英国
オーストリア
トルコ
カナダ
フランス
イタリア
デンマーク
ドイツ
ノルウェー
南アフリカ
スイス
オランダ
オーストラリア
ニュージーランド
米国
チリ
ロシア
インドネシア
日本
ブラジル
サウジアラビア
10%
2011年
1995年
出典)OECD 2015 国際産業連関表(暫定版)
図3 輸出に占めるサービスの割合
国内付加価値
国外付加価値
35%
35%
30%
30%
25%
25%
20%
20%
15%
15%
10%
10%
5%
5%
0%
0%
中国
韓国
日本
イタリア
2011年
ドイツ
フランス
英国
米国
中国
韓国
日本
1995年
イタリア
2011年
ドイツ
フランス
英国
米国
1995年
出典)OECD 2015 国際産業連関表(暫定版)
第三に、輸出におけるサービスの重要性を明らかにす
ービスのうち国外付加価値の割合が高まることになる。
ることである。国際収支統計におけるサービス貿易のウ
一方、TiVA 指標には課題もある。同指標は、様々な
ェイトは、国際貿易全体の 4 分の 1 に満たないと言われ
基礎データを用いた推計値であり、その精度に向上の余
るが、これは、サービス産業が国境を超えて提供したサ
地があると言われる。具体的には、TiVA 指標は、国際
ービスの部分のみを計上しているからである。これに対
産業連関表を基に推計されることから、産業連関表に特
し、TiVA では、サービス産業が国内の生産者に対して
有の技術仮定の問題を抱えており、特に、輸出財生産へ
提供したサービスの全体像を把握することができる。
の輸入中間財の投入比率を産業毎に決定して行く(産業
TiVA 指標をみると、輸出に占めるサービスの割合は、
毎に同一の係数を適用する)点が、実態を反映しないの
国内付加価値と国外付加価値を合せると、OECD 諸国の主
ではないか(実際には、例えば輸出企業と非輸出企業と
要国で 40%程度に達する
(図3)
。
当該割合は、
企業による
の間で輸入中間財の投入比率は大きく異なるのではない
サービス投入の度合や形態に対応して変化する。例えば
か ) と 指 摘 さ れ て い る。 こ う し た 状 況 下 OECD は、
サービスのアウトソーシングが進むと輸出に占めるサー
TiVA の推計方法を改善すべく、経済活動分類を超えた
ビスの割合が高まり、
オフショアリング
(アウトソーシン
企業の異質性(heterogeneity)を織り込むことを検討し
グを国外のサービス産業に対して行うこと)
が進むと、サ
始めたところである。
- 51 -
企業と中小企業に一つの産業を細分類する方法が検討さ
(2)TEC、TEC プラスの概要
TEC は、国際貿易を行う企業の特性(経済活動、規模、 れている。
所有形態等)別に計数を集計した統計であり、まさに、
企業の異質性を反映した国際貿易統計である。本統計は、 3.我が国についての TEC 類似データの推計、
TEC プラスの検証
OECD とユーロスタットが共同で整備を進めたものであ
り、現行の枠組みでは、国際貿易に携わる企業数、その
貿易金額各々について以下の区分を設け、マトリックス
(1)TEC 類似データの推計
表(縦の項目別・横の項目別の順)の形で OECD 加盟
我が国では、企業レジスターの運営が始まったのが
国等からデータを収集し、TEC データベースとして公
2013 年と最近のことであり、国際財貨貿易データとの
表している(http://oe.cd/tec)
。
リンクは未だ実現に至っていない。将来的には、そうし
たリンクの取り組みが期待されるが、現時点では、TEC
Ⅰ.経済活動別・企業規模別
統計が我が国の貿易・産業構造に関しどのような新たな
Ⅱ.輸出入金額トップ企業(トップ 5、
トップ 10 等)別・
視点を提供するのかを探り、これを踏まえ、TEC の意
経済活動別
義を確認することが重要であろう。そうした観点から、
Ⅲ.貿易相手国 / ゾーン別・主要経済活動別
筆者は、現在利用可能なミクロデータを用い TEC 類似
Ⅳ.主要経済活動別・貿易相手国数別
データを作成した。国際貿易や企業の特性を把握するた
Ⅴ.商品別・主要経済活動別
めの企業レベルのデータとして、経済産業省の企業活動
Ⅵ.所有形態(国内/外国資本)別・経済活動別(2014
基本調査を利用した。当該調査は標本調査であるが、国
年に導入2 )
際貿易に関しては十分なカバレッジがあるとみられる
(Box 2 参照)。
TEC 統計は、貿易企業の特性把握や、輸出入促進政
以下では、TEC の枠組みのうち、TEC プラスでも採
策のターゲットの特定等、経済・産業政策の立案に役立
用されている企業規模別、所有形態別、経済活動別に焦
つとされる。歴史的には、企業の異質性に着目する最近
点を当て、TEC 類似データの推計結果を他の OECD 加
の貿易論を理論的背景とし、各国の政府統計機関による
盟国と比較・整理する。
企業のプロファイリングやレジスターの充実に後押しさ
まず、企業規模別輸出金額をみると、輸出は、概して
れる形で整備が進んだ。ただ、地域的にみると、TEC
大企業に集中していることが分かる。ただ、イタリアや
整備の主体は欧州や北米の国々であり、我が国をはじめ、 トルコでは中堅・中小企業のウェイトが比較的重要であ
アジア太平洋地域の OECD 加盟国は、整備途上にある。
TEC 統計は、一般に、国際財貨貿易データと企業の
り、注目に値しよう。日本は、ドイツ、カナダ、米国同
様、大企業が輸出金額の大半を占める(図4)。
次に、企業の所有形態(外資企業ないし本邦企業、非
特性情報を、企業レベルでリンクすることにより作成さ
れる。実際、国際財貨貿易データを所管する税関当局と、 居住者が普通株式または議決権株式の 50%超を保有し
企業レジスターを運営・管理する政府統計機関が協力し
ている企業を外資企業と定義し、それ以外を本邦企業と
て作成する国が多い。OECD では、このアプローチで企
する)別にみると、欧州主要国では、輸出全体に占める
業の異質性を把握して行くことが TiVA 指標にも有用で
外資のシェアが高く(ドイツの 15%から英国の 45%ま
あるとの観点から、TiVA 指標改善を目的とする TEC の
で)
、外資企業が輸出市場で重要な存在であることが分
一層の整備(TEC データの項目を拡充した TEC プラス)
かる。ただ、企業数でみると、何れの国でも外資のシェ
を提案している。これを実現すべく、OECD は 2014 年
アが一桁台(ドイツ・イタリアが 2%、英国が 5%、フ
10 月に拡張供給使用表に関する専門家グループを立ち
ランスが 8%)に止まることから、外資の輸出企業は、
上げ、2016 年中を目途に、具体的方策を取り纏める方
概して大きいロットで輸出を行っている。輸出ロットが
針である。その内容は、議論の途上にあるが、現時点で
概ね企業規模に比例すると考えれば、外資の輸出企業に
は、輸入中間財比率に大きな違いがあると考えられる輸
は大企業が多いと言える。これに対し日本では、外資企
出企業と非輸出企業、外資企業と本邦企業、さらには大
業は欧州におけるほど重要ではない。外資の輸出シェア
2
現時点では、VI 表の計数を提供しているのは欧州の主要国に止まる。
- 52 -
図4 企業規模別輸出金額(2011 年データ)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
カナダ
フランス
ドイツ
従業員数
イタリア
トルコ
0-9人
10-49人
英国
米国
50-249人
日本
250人以上
出典)OECD・TEC データベース、筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
図5 外資企業による輸出企業数・輸出金額ウェイト(2011 年データ)
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
フランス
ドイツ
イタリア
輸出総額に占める外資企業分の割合
英国
日本
輸出企業に占める外資企業の割合
出典)OECD TEC データベース、筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
は、金額ベースと企業数ベースが同様の水準(各々 7%、
ウェイトが高いが、日本では、製造業等のウェイトが高
9%)であることから、欧州主要国との対比では、日本
いことが分かる(表1)。
この間、各々の国について、貿易金額と貿易企業数を
の外資輸出企業は比較的小規模であると推察される(図
対比してみると、日本以外の OECD 加盟国では、卸売・
5)。
国際貿易を経済活動別にみる際に重要なのは、貿易業
小売業等において、企業数のウェイトが金額のウェイト
者が、モノづくりに関与する製造業等(OECD の枠組み
より高くなっており、逆に製造業については、欧州主要
に従って鉱工業・電気ガス・水道を一括りにしたもの)
国で金額ウェイトが企業数ウェイトの 2 倍前後となる。
なのか、財貨の仲介を行う卸売・小売業等なのか、とい
この点を踏まえると、輸出入を行う欧州企業は、卸売・
う観点である(この点に関する WPTGS の議論について
小売業等では規模が小さい、逆に、製造業等では企業規
は付論2参照)。そうした区分に基づき貿易金額をみる
模が大きいと言える。他方、日本では、製造業等のウェ
と、日本以外の OECD 加盟国では、卸売・小売業等の
イトが、金額でも企業数でも高いことから、経済活動別
- 53 -
表1 経済活動別貿易企業数・貿易金額ウェイト(2011 年データ)
製造業等
企業数
卸売・小売業等
金額
企業数
その他
金額
企業数
金額
(輸出)
カナダ
41.6%
70.5%
28.8%
9.7%
29.6%
19.8%
フランス
28.6%
63.0%
47.0%
31.4%
24.4%
5.6%
ドイツ
21.3%
53.6%
50.9%
24.9%
27.7%
21.5%
イタリア
43.3%
79.2%
45.2%
17.9%
11.5%
3.0%
トルコ
42.9%
59.4%
44.1%
36.5%
13.0%
4.1%
英国
22.8%
50.6%
39.5%
34.3%
37.7%
15.1%
米国
28.6%
64.2%
46.3%
24.9%
25.1%
10.9%
日本
71.2%
73.3%
25.7%
25.8%
3.2%
0.8%
カナダ
21.7%
41.5%
37.0%
39.7%
41.3%
18.8%
フランス
21.3%
45.8%
57.8%
45.4%
20.9%
8.8%
ドイツ
13.4%
33.3%
53.0%
43.5%
33.6%
23.2%
イタリア
24.6%
49.9%
54.8%
45.2%
20.6%
4.8%
トルコ
34.3%
52.9%
47.6%
32.5%
18.1%
14.6%
英国
16.8%
34.4%
50.0%
50.0%
33.1%
15.7%
米国
22.0%
49.3%
58.7%
39.8%
19.3%
10.9%
日本
59.7%
51.1%
33.8%
47.5%
6.5%
1.4%
(輸入)
出典)OECD TEC データベース、筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
額のウェイトと輸入企業数のウェイトを勘案すると、欧
の企業規模の違いがあまりみられない。
最後に、経済活動別と所有形態別とでクロス分類して
州主要国では、輸入を行う外資企業は、大企業が中心と
みると、輸出(図6)については、英国やフランスでは、 みられる。これに対し日本では、外資企業は、輸入金額
外資が卸売・小売業等よりも製造業等において重要であ
のウェイトをみる限り、輸入市場において欧州の外資・
る。一方、イタリアやドイツでは、外資は製造業等と卸
輸入企業ほど重要ではない。他方、輸入企業数のウェイ
売・小売業等で同等の重要度である。これに対し日本で
トは欧州主要国と同等であることから、日本における輸
は、輸出金額でみると、製造業等、卸売・小売業等とも
入・外資企業は、欧州に比べると規模が小さいと推察さ
外資企業のウェイトが 10%に満たず、外資企業は、輸
れる。
本節のまとめとして、輸出と輸入の関係を整理すると、
出市場において欧州の外資・輸出企業ほど重要でない。
他方、輸出企業数のウェイトをみると、製造業等、卸売・
製造業等においては、英国では、外資企業が輸出で重要
小売業等とも、欧州と同等である。このことから、製造
であり輸入でも金額ウェイトが高く、対称的に日本では、
業等でも卸売・小売業等でも、欧州に比べると、外資・
外資企業は輸出でも輸入でも金額ウェイトが低い。この
輸出企業の規模が小さいと推察される。
ように、欧州の TEC データや、我が国の TEC 類似デー
輸入(図7)については、英国では、外資企業が製造
タで見る限りにおいては、GVC の議論で良く言われる
業等において重要な位置を占める一方、イタリアでは、
ように、輸出と輸入が連関している(輸出には輸入が必
むしろ卸売・小売業等で外資企業が重要である。輸入金
要である)ことを確認できる。
- 54 -
図6 経済活動別にみた外資企業による輸出企業数・輸出金額ウェイト(2011 年データ)
製造業等
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
フランス
ドイツ
イタリア
英国
輸出総額に占める外資企業分の割合
日本
輸出企業に占める外資企業の割合
卸売・小売業等
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
フランス
ドイツ
イタリア
輸出総額に占める外資企業分の割合
英国
日本
輸出企業に占める外資企業の割合
出典)OECD TEC データベース、筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
図7 経済活動別にみた外資企業による輸入企業数・輸入金額ウェイト(2011 年データ)
製造業等
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
フランス
ドイツ
イタリア
輸入総額に占める外資企業分の割合
英国
日本
輸入企業に占める外資企業の割合
卸売・小売業等
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
フランス
ドイツ
イタリア
輸入総額に占める外資企業分の割合
英国
日本
輸入企業に占める外資企業の割合
出典)OECD TEC データベース、筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
- 55 -
な違いがあるのか(OECD の想定に妥当性があるか)
、
(2)TEC プラスの検証
OECD では、輸出企業と非輸出企業、外資企業と本邦
企業、大企業と中小企業の間で、輸入中間財比率に大き
3
企業活動基本調査のミクロデータを用いて検証してみた。
その結果、確かに、輸入中間財のアウトプットに対する
な違いがあると想定 しており、そうした違いを TiVA
比率を、輸出企業と非輸出企業に分けて計算 4 すると、
に反映させることにより、同指標の精度改善を図る方針
両者の間にほぼ 10%の乖離があり、近年、その乖離が
である。筆者は、我が国の経済において本当にそのよう
拡大していることが確認できる(図8)。
図8 輸出企業・非輸出企業の輸入中間財比率
14%
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
2000 年
2005 年
2008 年
2009 年
輸出企業
2010 年
2011 年
2012 年
非輸出企業
出典)筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
また、外資企業と本邦企業に区分すると(図9)
、輸
ていないことから、今回は、検証することができなかっ
入中間財比率に 15%を超える乖離がある。この点、本
た(Box 2 参照)
。そのうえで、我が国にとって何か重
邦企業を外資比率で 3 つに区分してみたが、各々の間に
要かという観点では、外資企業・本邦企業間の輸入中間
大きな違いはみられず、外資比率 50%の閾値が決定的
財比率の乖離は大きいものの、輸出入市場における外資
に重要であることが確認できた。さらに、輸出・非輸出
企業の金額ウェイトの低さ(図5~図7)に鑑みると、
と、外資・本邦をクロスで分類集計すると(図 10)
、外
まずは、輸出・非輸出の区分にプライオリティーがある、
資の輸出企業と、本邦の非輸出企業の間には、20%以上
と言えるだろう。
これを前提として、輸出・非輸出企業間の輸入中間財
の乖離がある。
こうした結果から、後述する4.
(1)の OECD の
比率の乖離を経済活動別に計算してみた(図 11)
。全体
TEC プラス提案のうち、輸出・非輸出、外資・本邦の
では、卸売・小売業における乖離(経済活動分類 14、
区分を産業連関表あるいは供給使用表の経済活動分類の
13.4%)が最大であるが、製造業等の中では、電気機械
細分類として組み入れることについては、その重要性を
における乖離(経済活動分類 9、6.6%)が最大である。
確認できた。残念ながら、大企業と中小企業の区分の重
この点を踏まえると、電気機械をどう輸出と非輸出に区
要性については、企業活動基本調査が、従業員数 50 人
分するか、が我が国にとってプライオリティーの高い課
未満または資本金 3,000 万円未満の中小企業をカバーし
題になるであろう(Box 3 参照)。
3
先行研究として、中国のパイロットスタディー「The Global Value Chain Research Project Team of China (2013)」がある。当該スタディーは、
輸入中間財比率について、加工・貿易企業が 58.5%、非加工の貿易企業が 13.7%、非貿易企業が 3.1%と算出し、企業の特性毎に大き
な違いがあることを確認した。
4
輸入中間財比率は、企業活動基本調査における仕入高の「うち直接輸入額」を売上高で除して計算した。製造業等では、概ね仕入高が
中間財の投入金額に相当するものと考えられる。一方、卸売・小売業等では、最終製品の購入金額が多く含まれるとみられるが、この
点は、経済活動別の輸入中間財比率を検討する際に検討している(後述)。
- 56 -
図9 外資企業・本邦企業の輸入中間財比率
30%
25%
50 % > 外資比率
20%
20 % ≦ 外資比率 ≦ 50 %
15%
0% < 外資比率 <20 %
10%
5%
外資比率 = 0%
0%
2000年 2005年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
出典)筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
図 10 輸出・非輸出企業、外資・本邦企業別輸入中間財比率
35%
30%
外資の輸出企業
25%
20%
外資の非輸出企業
15%
本邦の輸出企業
10%
5%
本邦の非輸出企業
0%
2000年 2005年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
出典)筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
- 57 -
図 11 経済活動別にみた輸入中間財比率の輸出・非輸出企業間の乖離(2011 年)
16%
14%
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
TiVA の経済活動分類
1 農業、 狩猟業、 林業及び漁業
10 輸送用機械器具製造業
2 鉱業及び採石業
11 他に分類されない製造業、 再生業
3 食料品、 飲料及びたばこ製造業
12 電気、 ガス及び水供給業
4 織物、 繊維製品、 皮及び履物製造業
13 建設業
5 木材、 紙、 紙製品製造業及び印刷、 出版業
14 卸売 ・ 小売業並びにホテル及びレストラン
6 化学品及び非金属鉱物製品製造業
15 運輸、 倉庫、 郵便及び通信業
7 第 1 次金属 及び金属製品製造業
16 金融 ・ 保険業
8 他に分類されない機械器具製造業
17 不動産、 物品賃貸業及び事業サービス業
9 電気及び光学機器製造業
18 共同体、 社会及び個人サービス業
出典)筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
TiVA34 分類を含む)
、企業特性別(企業規模、所
4.WPTGS における TEC に係る議論
有形態、貿易企業・非貿易企業)
Ⅳ.輸入額、輸入中間財の割合、輸出額、輸出中間財
の割合の相手国別、企業特性別(企業規模、所有
(1)TEC プラス
OECD 事務局は、今次 WPTGS 会合において TEC プ
形態、貿易企業・非貿易企業)
OECD 事務局は、こうしたデータを、国際産業連関表
ラスの具体案を示し、以下の項目のデータを OECD 加
5
への企業規模、所有形態、貿易・非貿易企業、といった
盟国から試行的に収集することを提案した 。
Ⅰ.付加価値額、産出額、従業員数の経済活動別(ISIC
Rev.4 の二桁分類、TiVA34 分類を含む)
、企業特
区分の導入(表2参照)に利用し、これを通じて企業の
異質性を TiVA の推計に組み入れる方針である。
本提案をサポートする OECD 事務局のパイロットス
性別(企業規模、所有形態、貿易・非貿易企業)
タディーによれば、OECD 諸国について、企業規模や所
で区分
Ⅱ.輸入性向(仕入高に占める輸入額の比率)、輸出
有形態に応じ、輸入中間財比率(対売上、同スタディー
性向(産出高/売上高に対する輸出額の比率)の
では垂直的特化比率と呼称)に格差が存在し、メキシコ
経済活動別(ISIC Rev.4 の二桁分類、TiVA34 分
について、TEC データ等を投入産出表に組み込むと、
類を含む)
、企業特性別(企業規模、所有形態、
グローバル製造企業(国際市場で活動する外国資本の企
貿易企業・非貿易企業)
業)とそれ以外の企業の間で、輸出に占める国外付加価
Ⅲ.輸入額、輸入中間財の割合、輸出額、輸出中間財
の 割 合 の 経 済 活 動 別(ISIC Rev.4 の 二 桁 分 類、
値のシェアが大きく異なるという。メキシコ自身も、自
国の国際貿易における大企業の重要性を強調する分析結
5
TEC データ提供国にとっては、計 10 項目(I の貿易・非貿易企業、II、III、IV の企業特性別 3 種)が新規のもの。
- 58 -
表2 外資・国内企業の区分を導入した国際産業連関表
A国
産業 1
産業 2
産業 3
産業 1
外資 本邦 外資 本邦 外資 本邦 外 本
B国
産業 2
外 本
産業 3
外 本
産業 1
外 本
C国
産業 2
外 本
最終需要
産業 3 A国 B国 C国
外 本
外資
本邦
外資
A国 産業 2
本邦
外資
産業 3
本邦
外資
産業 1
本邦
外資
B国 産業 2
本邦
外資
産業 3
本邦
外資
産業 1
本邦
外資
C 国 産業 2
本邦
外資
産業 3
本邦
中間消費計
付加価値
産業 1
産出計
6
出典)OECD(筆者が邦訳 )
中 21 か国が、貿易・非貿易の区分が可能であるとし、
果を発表している。
上記3.で示した筆者の報告は、OECD 事務局のパイ
22 か国中 15 か国が所有形態別の区分が可能であるとし
ロットスタディーに並び立つものである。TEC プラス
ている。所有形態別区分については、これまで、TEC
のデータ収集項目が、3.
(2)で検討を行った項目と
において当該区分の導入が困難としてきた米国も、直接
整合的であることもあって、筆者の報告は、OECD 事務
投資統計とのリンクによる統計整備を検討しつつある。
局から「曲がり角の先にあるものを具体的に示してくれ
WPTGS 会合では、本アンケート結果や筆者の報告を
7
た。」と評価された 。ただ、筆者の研究は、直接輸入
含むパイロットスタディーを踏まえ、議論が行われた。
を集計したに止まり、国内中間財に含まれる国外付加価
付加価値貿易指標の公的統計としての位置づけに疑問を
値を計測していない。これを実現する一つの方法は、
持つ国からは、「TEC プラスが有用と判断されるかどう
TEC プラス類似統計等のミクロデータを我が国の産業
か、悩ましいところ」との反応も示されたが、データ収
連関表に組み入れることであるが、その方法論の検討は
集が試験的な性格のものであることもあって、TiVA に
今後の課題である(Box 3 はその第一歩との位置付け)。
関心の高い幾つかの国が支持を表明した。ただ、他の国
この間、OECD 事務局は、WPTGS の今後の取組対象
際機関からは、
「各国における BPM6 の導入作業が一段
に関し、OECD 加盟国に対する事前アンケートを行って
落するのにもう少し時間を要することから、TEC プラ
いるが、国際財貨貿易統計とビジネスレジスターのミク
スについては焦ることなく 1 年くらいをかけて検討して
ロデータリンクを行っている国は、34 か国中 22 か国に
はどうか。」とか、「財貨を中間財と最終財に区分する方
及んでいるほか、3 か国は実現に向けた検討を行ってい
法について国際的な議論が行われているところであり、
る。TEC プラスの企業特性別区分については、22 か国
当該議論の結果も踏まえるべき。
」といったコメントも
6
OECD では、基本価格を調整するための生産物に係る税金の加算・補助金の控除や、輸入金額に係る CIF の FOB への転換も想定して
いるが、本表においては捨象している。
7
なお、内容面では、会合中、「日本とは異なり外資企業は国際企業において重要な存在である」との参加者の言及が度々聞かれた。
- 59 -
計の計数が自国で公表した計数と異なることについて、
聞かれた。
どのように対外的に説明すれば良いか。
」といった意見
が出た。これに対し、OECD 事務局は、今後、TiVA に
(2)TEC のサービス貿易への拡張
OECD 事務局は、TEC の今後の方向として、サービ
係る推計方法の開示を進めて行くとする一方で、各国統
ス 貿 易 へ の 拡 張(Service TEC。 以 下、STEC と い う。)
計の計数の調整については、国際産業連関表が整合的な
を提案している。実際、EU では、サービス貿易統計と
基礎データを要求する以上、同データの不突合が完全に
企業レジスターのミクロデータリンクによる STEC 整備
解消されるまでは実施せざるを得ないと説明した。
その背景として OECD 事務局は、TiVA の基礎データ
のパイロットスタディーが進んでいるほか、北米でも、
同様の取り組みがみられる。こうした中、事前の加盟国
の非整合性について、相手国別データの不突合に止まら
アンケートでは、13 国が実現済、3 か国が計画中と回答
ず、貿易統計、国民経済計算、産業連関表を対象に、様々
している。ただ、STEC への企業特性別区分の導入につ
な角度から問題提起を行った(この点に関する WPTGS
いては、
所有形態別区分が可能とする国は 12 か国、貿易・
の議論については付論3参照)
。現状、国際貿易統計の
非貿易区分の導入が可能とする国は 11 か国に止まる。
相手国別データの不突合に加え、一国内において、これ
会合では、ユーロスタットが EU における STEC の検
らの統計相互間の不突合も存在しており、そうした非整
討状況を、オーストリアが自国の STEC 整備の現状を説
合的なデータを国際産業連関表に組み入れる際、不突合
明した。TEC は、税関データを利用すれば企業がほぼ
を RAS 法という統計的手法(行列計算)により国や産
悉皆的に把握されるのに対し、STEC では、国際サービ
業に割り振って行く処理が必要になるという。ただ、そ
ス貿易サーベイ等、他の基礎データに依存せざるを得え
のような処理を行ったとしても、輸入中間財比率(垂直
ず、悉皆的な把握は困難である。例えば、オーストリア
的特化比率)は比較的頑健(robust)であり、計数の調
では、調査の方法として、小規模企業を調査対象から外
整が TiVA 指標の信頼性を失わせることはない、という
すカットオフサーベイを採用しているが、そうした方法
のが OECD の主張である。
論について、サンプルバイアスが生じないかとの疑問が
国際貿易統計に係る相手国別データの不突合について
示された。オーストリアは、
「国際貿易サービスを行う
は、2 国間での具体的な検討が改善に向けたステップと
主体について、中小の研究開発企業が中心かと思ってい
なろう。しかし、今次 OECD アンケートでは、そうし
たところ、実際には大企業が中心であることが判明して
た検討に関心を持つ国は 8 か国に止まっている。また、
おり、カットオフにより大きな問題は生じない。」と説
OECD 事務局は、本会合の前日に 2 国間で貿易データの
明した。
不突合を検討する場を設けたが、これに応じて実際に検
討を行った国は、米国、カナダ、メキシコの 3 国に止ま
5.WPTGS における TiVA に係る議論
った。確かに、各国の統計作成者としては、国際貿易と
いう他国と関わる統計とはいえ、第一の目標は、それ自
体として有用な統計の作成であり、他国が作成する統計
(1)TiVA の位置付け
OECD は、2.に示したような TiVA 指標の経済分析・
との整合性確保は、ある意味副次的な目標と言える。不
政策上の意義を強調するが、公的統計における同指標の
突合の解消に向けた OECD 事務局の意気込みも理解で
位置付けについては、必ずしも OECD 加盟国間で共通
きるが、そうした作業に OECD 加盟国を積極的に参加
認識がある訳ではない。こうした状況下、WPTGS の検
させるには、TiVA に対する各国の関心を一層高め、各
討課題に係る議論では、TiVA の今後について様々な意
国の政策ニーズをさらに取り込んで行く仕組みが必要で
見が出た。まずは OECD 事務局から、TiVA を WPTGS
あろう。
の中心テーマに据え、その精度や有用性向上に資するよ
うな国際財貨サービス貿易統計の整備を議論したいとの
(2)TiVA の有用性向上
方向性が示された。これに対して、参加者からは、
「TiVA
OECD 事務局によれば、TiVA の有用性を向上させる
については、興味深いという点に異論はないが、解釈が
切り札は速報性の向上である。この点、現状 TiVA は 3
困難であるとの意見もあり、一概に TiVA だけを追求し
年程度のタイムラグで公表されており、これを短縮すべ
て良いものかどうか。
」
、
「推計方法を変更すると異なっ
く OECD 関係部局(統計局、科学技術産業局、貿易農
た計数が出てくるとすると、TiVA は公的な統計と言え
業局)における推計作業を効率化したとしても、現在の
るのか。」、「TiVA に用いられる国際財貨サービス貿易統
枠組みを維持したままでは、自ずとその度合いに限界が
- 60 -
ある。そこで OECD 事務局では、経済活動分類の数を
これらの点は、今次会合では特段の議論とはならなかっ
少なくしつつ、利用可能な国際貿易統計や国民経済計算
たが、本年 10 月 19 日に、WPTGS と WGIIS の共同ワー
のデータをインプットする等の工夫により、TiVA 速報
クショップが計画されているほか、次回の WPTGS 会合
を作成・公表する方針を示した(同事務局では当該プロ
にあたっても、明年 3 月 23 日に WGIIS との合同会合が
ジェクトを nowcasting と呼称)
。この点、そうした速報
計画されており、そうした際に具体的な議論が行われる
値の信頼性が問題となるが、前述した輸入中間財比率の
ことになろう。
頑健性を踏まえると、本速報公表後に基礎データがリバ
イズされたとしても速報値に一定の有用性がある、とい
6.今後の課題
うのが OECD 事務局の考え方である。本方針については、
OECD 事務局が、
「新たなデータ提供要請は行わない」
と断言したこともあって、参加者から特段の反対意見は
以上の整理を踏まえ、WPTGS への対処方法や、TEC
や TiVA の整備に係る課題を挙げて結論としたい。
示されず、今後、OECD 関係部局で具体的な取り組みを
まず、WPTGS への対処であるが、上記に整理した
TEC や TiVA に関する議論は、WPTGS の全てではないが、
行うこととなった。
TiVA の有用性向上のもう一つの鍵は、海外直接投資
今後とも、その比重が高まって行くであろう。もちろん、
統計とのリンクである。言うまでもなく、同統計は、国
統計作成部局とすれば、国際財貨貿易統計や、国際サー
際財貨サービス貿易統計と並ぶ、グローバリゼーション
ビス貿易統計自体を整備し分析の用に供して行くことが
に係る統計のもう一つの柱である。近年、企業のグロー
最も重要であり、そうした議論も続いている。しかし
バル化に伴い、直接投資収益(海外子会社等の直接投資
OECD 事務局からは、TiVA の基礎データ整備という観
企業からの利子・配当や再投資収益<海外子会社の内部
点からの提案が次々と示されて来る。中には、複雑な思
留保が配当され、同額が同時に再投資されたと擬制する
いでそうした提案を眺める国もあるが、積極的な支持を
もの>)として直接投資家に還元される資金が増加して
表明する国も少なくなく、WPTGS としては、そうした
いるが、そうしたフローは、研究開発やロイヤリティー
OECD の提案を少なくとも前向きに検討して行く体制に
等のサービスのフローと類似しているのではないか、と
ある。この点を踏まえると、我が国の国際財貨サービス
の問題提起がある。これが本当だとすれば、国際財貨サ
貿 易 統 計 に 関 連 し た 統 計 作 成 部 局 に お い て、TEC や
ービス貿易だけでなく、直接投資や配当・再投資収益を
TiVA に係る課題への理解を深め、OECD における議論
も併せて見ることによって初めて、企業のグローバル化
にキャッチアップして行くことが重要であろう。そうす
の全容を把握できると言えるだろう。また、TEC に導
ることによって初めて、OECD の提案に対し、是々非々
入した所有形態別の区分を TiVA にも反映することがで
の議論ができるのではないだろうか。
きれば、TiVA と直接投資の関係も分析可能となる。こ
そうした認識を前提に、今次 OECD の TEC プラスの
うした観点から、
OECD・WPTGS 事務局は、同国際投資
提案や、TiVA 指標改善プロジェクトについて、我が国
統計作業部会(Working Group of International Investment
へのインプリケーションを改めて考えてみたい。
Statistics。以下 WGIIS と呼ぶ)事務局との共同作業を開
始した。
まず、TEC プラスについては、3.(2)で示した通り、
我が国の経済を分析するにあたって有益なものと言えよ
本共同作業の具体的内容は、今後の議論により決定さ
う。また、実務的にも、企業活動基本調査のミクロデー
れようが、現時点においては、OECD の WPTGS・WGIIS
タを用いてある程度集計可能である。ただ、OECD が示
両事務局は、海外直接投資統計に関し次のような問題提
したフォームに沿って、過不足なくデータを集計して行
起を行っている。第一に、直接投資収益を TiVA に組み
くためには、サーベイデータの利用では不十分である。
入れるためには、利子・配当や再投資収益を経済活動分
この点、企業レジスターと国際財貨貿易データをリン
類別、相手国別に区分することが必要である。第二に、
クした計数の利用が必要不可欠になると考えられるが、
特別目的会社を通じた直接投資収益のトランジットを除
その理由は次の通りである。第一に、財貨を中間財と最
外するため、特別目的会社を特定し統計的に把握するこ
終財とに区分することに関しては、輸入品については、
とが必要である。第三に、直接投資企業における収益と
企業活動基本調査における製造業等の仕入高を中間財と
再投資収益の受払を同じ時期に計上することが必要であ
見做す等の方法で区分することが許容されようが、輸出
る。第四に、海外直接投資統計の経済活動分類と、産業
品についてはそうした見做しを行う基礎データが同調査
連関表の経済活動分類の整合性を確保する必要がある。
から得られない。多くの国では、財貨を最終財と中間財
- 61 -
に区分するにあたって国際財貨貿易統計を用い、特定の
当該報告から得られる情報と企業レジスターの情報をリ
HS 商品分類コードを中間財と見做すという方法が採ら
ンクするという方法も考えられる。仮に、そうした方法
れている。第二に、企業活動基本調査では、輸出入の相
が、EU 諸国のアプローチとの対比でどのような可能性
手国や商品分類を特定することができないことから、2. と制約を持つことになるかが明らかになると、我が国同
(2)に示した TEC の IV 表や V 表を作成するためにも、
国際財貨貿易統計を利用することが必要不可欠である。
様、国際決済報告を基礎データとしている国にとって、
大いに参考になるものと考えられる。
第三に、同調査は、従業員 50 人未満または資本金 3,000
最後に、付加価値貿易指標改善に向けた取り組みにつ
万円未満の小企業に関するデータないことから、特に企
いては、TEC プラス等で把握される企業の異質性を産
業規模別のデータ集計にあたって、国際財貨貿易統計と
業連関表に組み入れることが、筆者の研究上の課題であ
企業レジスターのミクロデータリンクによる計数作成が
り、我が国全体としても、重要な課題となって行くと考
望まれるところである。
えられる。現在 OECD では、TiVA 指標を算出する土台
次に、STEC については、将来的な課題とはいえ、近
となる国際産業連関表に、我が国の SNA ベースの産業
い将来、本稿で TEC 類似統計を試算したアプローチで
連関表を用いている。同表は、独立した輸入表を持たな
パイロットスタディーを試みることも考えられよう。そ
いことから、5 年に一度公表される産業連関表の輸入表
の後、STEC に正式に対応しようとするならば、我が国
を参考にしつつ、独自に輸入表を作成する必要がある。
では、国際サービス貿易の基礎データとして、国際サー
こうした中間年の産業連関表の枠組みにおいて、輸入中
ビス貿易サーベイではなく、国際決済に関する悉皆報告
間財比率のギャップを反映できるかどうかの検討も、視
(ただし報告下限金額は 3,000 万円)を用いていること
野に入れて行きたい。
から、TEC のミクロデータリンクの方法論を適用し、
- 62 -
に小さいことに起因している。ただ、趨勢的には、日本
(Box 1)我が国の TiVA 指標の特徴
の国内付加価値の割合は、1995 年から 10%程度低下し
ており、米国の低下テンポを上回っている。経済活動別
我が国は、「アジアの工場」と呼ばれる国々に対しグ
にみると、特に、繊維、化学、金属、電気機械といった
ロスベースで多額の貿易黒字を計上してきている。そう
産業において国内付加価値額が大きく低下した(図 13、
した国々に輸出した中間財には我が国の貢献が多く含ま
経済活動分類 4・6・7・9、TiVA 経済活動分類との対応
れているが、付加価値ベースでは、我が国の貢献分が完
については図 11 を参照)
。これらの産業に属する我が国
成品の消費国向けとして計上される(図1参照)
。この
の企業が、近年 GVC への関与を深めて来たことの現れ
ため、
「アジアの工場」に対する黒字が大幅に減少する。
と言える。
中国に至っては、付加価値ベースでは収支がほぼ均衡す
一方、輸出に占めるサービスの比率をみると、国外付
る。一方、完成品の消費地として重要である米国等への
加価値が近年増加しているものの、その水準は欧州主要
黒字が増加する。サウジアラビアやオーストラリアとい
国の半分程度に止まっている(図3)
。この点、ドイツ
った資源国については、グロスベースで多額の赤字を計
をはじめとする欧州主要国では、発展途上国へのオフシ
上しているが、我が国の付加価値が資源国の輸入品に含
ョアリングはもとより、国境を越えて研究や製品開発を
まれることから、付加価値ベースでは、赤字がやや減少
行うオープンイノベーションを進めて来たと言われてお
することになる(図 12)
。
り、我が国でもそうした動きが拡がれば、サービスの国
我が国の輸出に占める国内付加価値の割合(図2)は、 外付加価値の割合が増加して行くであろう。
資源の輸出シェアが高いロシアやインドネシアと拮抗す
このほか、OECD では、TiVA と雇用、労働者のスキ
るレベルであり、米国をも上回っている。米国や日本の
ルとの関係、TiVA と環境との関係を定量化して行く計
ような大きな経済では、輸出に占める国内付加価値比率
画であり、今後、我が国の経済についても、そうした分
が高くなる傾向があるが、これは国内に幅広い裾野産業
野で新な視点が与えられる可能性がある。
が展開しており、中間財を海外に依存する程度が相対的
図 12 国際財貨貿易統計、TiVA 指標でみた相手国別貿易収支(2011 年、100 万ドル)
40,000
30,000
20,000
10,000
0
-10,000
-20,000
-30,000
-40,000
-50,000
総輸出ベース貿易バランス
付加価値ベース貿易バランス
出典)OECD 2015 国際産業連関表(暫定版)
- 63 -
図 13 経済活動別の国内付加価値額の変化
100%
95%
90%
85%
80%
75%
70%
1
2
3
4
5
6
2011年
7
8
9
10
11
1995年
出典)OECD 2015 国際産業連関表(暫定版)
<企業活動基本調査の調査項目>
(Box 2)企業活動基本調査の概要と TEC の枠組
みとの相違
(1) 企業の名称及び所在地
(2) 資本金額又は出資金額
(3) 企業の設立形態及び設立時期
本稿作成にあたり筆者は、経済産業省・企業活動基本
(4) 直近 1 年間の組織再編行為の状況
調査の匿名データの利用申請を行い、当該ミクロデータ
(5) 企業の決算月
を集計することにより、TEC 類似データを作成した。
(6) 事業組織及び従業者数(事業組織別事業所数及び常
時従業者数、その他の従業者数)
当調査は、鉱業、製造業、卸売業、小売業、飲食業に該
当する業種の事業所を持つ企業のうち従業員 50 人以上
(7) 親会社、子会社・関連会社の状況(親会社の名称、
かつ資本金又は出資金 3,000 万円以上の会社を対象とす
所在地、業種、議決権所有割合、子会社・関連会社
る標本調査である。当調査のカバレッジをみると、有効
の所有状況、子会社・関連会社の増加・減少)
回答企業数は、経済センサスで確認された企業数の数パ
(8) 資産・負債及び純資産並びに投資(資産・負債及び
ーセントを占めるに止まるが、国際貿易については、当
純資産、関係会社への投資額等、固定資産の増減、
調査における 2011 年の輸出金額が同年の貿易統計にお
剰余金の配当状況)
ける輸出総額にほぼ相当する等、国際貿易に関しては、
(9) 事業内容(売上高及び費用等、費用の内訳、情報処
理・通信費、リース契約により使用している設備に
カバレッジは十分に高いと考えられる。
係る支払いリース料、売上高の内訳)
当調査項目は以下の通り詳細であり、TEC 類似デー
タ作成にあたり有用である。ただ、調査項目の性格から、 (10) 取引状況(売上高の取引状況、仕入高<モノ>の取
引状況、モノ以外のサービスに関する国際取引)
そうした利用に一定の制約もある。具体的には、輸出入
の相手先が国ではなく、アジア、中東、欧州、北米とい
(11) 事業の外部委託の状況(外部委託の実施状況、製造
った地域として特定されることから、TEC における貿
委託の委託金額、製造委託以外の業務の外部委託、
易相手国数別企業数(IV 表)を計算できないほか、輸
製造委託以外の外注費、業務委託費の金額)
出入が商品別に区分されていないことから、TEC にお
(12) 研究開発、能力開発(研究開発の取組み、研究開発
費及び研究開発投資、能力開発費)
ける商品別・経済活動別の輸出入金額・企業数(V 表)
を計算できない。
(13) 技術の所有及び取引状況(特許権等の所有、使用状
況、技術取引)
(14) 企業経営の方向(取締役の人数、委員会設置会社に
ついて、ストックオプション制度の実施状況)
- 64 -
ャップが製造業で最も大きい電気機械についてみると、
(Box 3)産出額の輸出企業分・非輸出企業分の
区分
産出額は、輸出企業分が 73%、非輸出企業分が 27%と
分れる。輸入中間財比率は、輸出企業が 9.1%、非輸出
企業が 2.5%で、2011 年の輸出産業の輸入中間財の金額
企業の異質性を産業連関表に組み入れる第一歩として、
は、2.3 兆円と計算される。
電気機械業の産出額を輸出企業分と非輸出企業分に区別
ただ、この方法は、企業活動基本調査が中小企業を含
してみた。2.で示した輸入中間財比率の乖離を反映さ
まないことから、輸出企業分のウェイトを高く置きすぎ
せるためには、まず、掛け合わせる対象である産出額を、
る可能性がある。そこで、第二の方法として、日本の各
輸出企業によるものと非輸出企業によるものとに区分す
都道府県を輸出県か非輸出県に分類し、各々の売上ウェ
る必要があるからである。今回は、その方法として、二
イトで電気機械全体の産出額を輸出企業分と非輸出企業
つの方法を試みた。
分とに分けることを試みた。各県の輸出性向(売上高に
第一の方法は、企業活動基本調査で輸出企業と非輸出
対する輸出額の割合)を計算し、例えば、輸出性向 10
企業とを区別し、その売上高比率で全体の電気機械の産
%を閾値として設定すると、22 都道府県が電気機械の
出額を輸出企業分と非輸出企業分に分け、それに、輸入
輸出県になり(図 14)
、電気機械の産出額は、輸出企業
中間財比率(売上全体に対する仕入・直接輸入の比率、
が 61%、非輸出企業が 39%と区分できる。これに輸入
BOX 2 の (10) のデータを用いて算定したもの)を乗じ
中間財比率を乗じると、2.0 兆円が輸出側の輸入中間財
るという計算方法である。例えば、輸入中間財比率のギ
の金額となる。
図 14 電気機械業の県別輸出性向(2009* 年データ)
60%
50%
40%
30%
20%
0%
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉
千葉
東京
神奈川
新潟
富山
石川
福井
山口
長野
岐阜
静岡
愛知
三重
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄
10%
輸出性向
輸出性向の国内平均
出典)筆者(企業活動基本調査ミクロデータを利用)
* 企業活動基本調査では、2009 年のみ県別の情報が利用可能。
- 65 -
との提案を行った。
(付論1)WPTGS インフォーマル検討グループ
の提案事項
(2)第二検討グループ 9
第二検討グループは、サービス貿易サーベイの報告者
国 際 サ ー ビ ス 貿 易 統 計 に つ い て は、BPM6 や
との関係強化を検討し、G20 データギャップ・イニシア
MSITS2010 の適用が各国で進むにつれて、幾つかの実
チブの仕組みをサービス貿易サーベイに適用することを
務 的 な 課 題 が 明 ら か に な っ て き た。 こ れ を 踏 ま え
念頭に、以下の提案を行った。
WPTGS は、前回会合において、インフォーマルな検討
1)精度の高い統計の必要性を OECD の貿易ウェブ
グループを三つ設け、基礎データの収集や集計方法に係
サイトに掲載し、各国の統計作成部局がデータ収集
る課題解決に向けた提案を行うこととなった。以下では、
の際、必要に応じこれを参照すること。
2)各国において大口の報告者と定例的な会合を開催
各検討グループの提案事項を整理する。
し、その際、パネルメンバーに OECD や多国籍企
(1)第一検討グループ
8
業を含めること。
第一検討グループは、加工用財貨および仲介貿易に関
3)特定の項目(加工用財貨、マーチャンティング、
する統計作成上の諸問題を検討し、以下の提案を行った。
研究開発等)に焦点を当て、関連する業界団体や大
第一に、国際サービス貿易サーベイの報告者の特定に
口の報告者とともに、国際的なワークショップを開
催すること。
あたり、付加価値税・税関データ、サーベイにおける報
告者の申告、国内販売に関する企業統計に依存しつつ、
報告者のチェックのために企業のプロファイリングを活
(3)第三検討グループ 10
用することである。米国では、2011 年より、国際サー
第三検討グループは、TiVA 推計のほか貿易交渉等で
ビス貿易の年次サーベイの中で、加工用財貨や仲介貿易
の利用を念頭に、より詳細な国際サービス貿易データの
の計数を報告できるかどうかについてボランタリーベー
提供について MSITS2010 の提言に沿って検討を行い、
スで回答を要請しており、その結果を踏まえ、データ報
以下の提案を行った。
第一に、
サービスの提供形態
(GATS〈General Agreement
告を義務化するか否かを決定する方針である。
第二に、データ収集にあたっての質問では、特に、財
on Trade in Services〉
Mode of Supply)
について、MSITS2010
貨の所有権の有無により取引を加工用財貨か仲介貿易に
に示されている簡便な方法(項目を機械的に四つの形態
分類する必要性を報告者に理解させることである。ドイ
に割り振る方法)でデータを試験的に集計することであ
ツをはじめ、幾つかの国では、報告者からの質問の共有
る。形態別にみると、第一形態(Mode 1、国境を越え
や、正しい報告に向けたフォローアップを行っている。
る取引)や 第二形態(Mode 2、海外における消費、旅
第三に、国際サービス貿易サーベイで捕捉されない部
行サービス等)は、国際サービス貿易統計の枠組みで把
分を税関データで推計できるよう、税関コードとの関係
握可能であるが、第三形態(Mode 3、営業拠点を通じ
付けを行うことである。現状では、そうした方法での推
てのサービス提供、例えば、海外支店を通じた金融サー
計では負のサービス金額が算出される等、精度上の問題
ビスや海外現地法人が提供する流通サービス)はその枠
があるが、スウェーデンでは、そうした問題を解決すべ
組みを超えるほか、第四形態(Mode 4、人の移動を通
く、税関コードの見直しを検討している。
じたサービス提供)については基礎データに制約がある
加工用財貨や仲介貿易については、複雑な取引事例や
とする国が多い。こうした状況下、提供形態別の区分を
分類上のボーダーラインとなる事例が多いことから、よ
行っている国は限定的である。ドイツでは、今後、提供
り詳細な国際的ガイドラインが必要との認識が示された。 形態別の国際サービス貿易の計数を試験的に作成・公表
OECD 事務局は、そうした事例・事項を OECD 事務局
し、統計ユーザーの反応をみて当該計数の有用性を判断
経由で国際貿易統計タスクフォースに提供してはどうか、 する計画である。
8
ドイツ、デンマーク、ベルギー、フランス、アイスランド、イスラエル、オランダ、スウェーデン、米国が構成メンバー。
フランスおよび英国が検討。
10
オーストラリア、チリ、チェコ共和国、ドイツ、オランダ、スペイン、スウェーデン、トルコ、米国が構成メンバー。
9
- 66 -
第二に、関係会社との取引と関係会社以外との取引の
15 参照)
。そうした観点から、OECD は、事前の加盟国
区分について、簡便な方法で試験的にデータを作成する
アンケートにおいて、卸内・小売業を透視する実現可能
ことである。米国が、海外子会社に関する統計の中で海
性を打診した。これに対し、2 か国が既に具体的計画を
外子会社を通じたサービスの提供に関する計数を収集す
持っており、7 か国が近い将来実現する方針と回答した。
るなど、サーベイを基礎データとする国においては、デ
例えば、米国は、経済センサスにおいて、卸売・小売業
ータ収集を検討できるが、国際決済報告を基礎データと
が輸出入を仲介する相手方の情報を収集することも検討
する国では、基礎データの利用可能性に係る制約が大き
している。ただ、カナダが指摘したように、輸入におい
いと指摘された。
ては、小売業が輸入した商品のうち家計等の消費者に供
第三に、データの秘匿性確保との関係で、ノイズ挿入
給されるもの(図 15 の一番下の例)については、製造
等の秘匿性を確保するための統計的手法を採用するほか、 業の輸出入の内容を把握するという観点では透視が不要
一定の期間が経過した後の秘匿データの提供や、TiVA
となる。
指標改善を目的として OECD 限りで秘匿データを提供
また、会合では、TEC が企業を捉えるべきか、ある
する方法を検討することである。秘匿性確保は、とりわ
いは企業グループを一体として捉えるべきか、という点
け 拡 張 国 際 収 支 サ ー ビ ス 項 目(Extended Balance of
も議論になった。この点、カナダが企業グループを対象
Payments Services。以下、EBOPS と呼ぶ。
)と相手国・
にして特性別統計の作成を検討し始めたとの報告を行っ
地域別のクロス分類を行う場合に問題になるが、その対
たほか、ユーロスタットでも、企業グループに属する中
策として、提供可能なクロス分類に、EBOPS、相手国・
小企業の扱いについて議論を行っていると説明した。確
地域別の各々の(クロスしない)分類を加えて提供する
かに、親会社のために財貨の輸出入を行う子会社は、上
方法が提案された。
記の卸小売りのケースと同様、透視すれば、真の貿易主
体である親会社の財貨の輸出入として把握することがで
(付論2)TEC における真の貿易主体の把握
きる。たとえ、そうした透視が実務的に困難であったと
しても、少なくとも、企業グループに属する中小企業と、
TEC では、3.
(1)で述べたように、輸出入に占め
独立した中小企業とを区別することができれば、分析上
る卸売・小売業等のウェイトが高く(表1参照)、製造
有用であろう。本件は、現時点では、具体的な処方箋を
業等の輸出入に係る真の姿が見えないとの指摘がある。
策定する段階には至っていないが、グローバリゼーショ
これを解決する方法として、いわば、卸売・小売業を透
ンに係る統計整備において、多国籍企業等の企業グルー
視(look through)して、卸売・小売業を通じた間接輸出・
プに関心が集まっていることに鑑みると、今後、実現の
間接輸入を製造業等に帰属させることが考えられる(図
方向で議論が発展して行く可能性もある。
図 15 輸出入における卸売・小売業の役割
(輸出)
(国境)
(間接輸出)
卸売・小売業
製造業
国外の
需要者
(直接輸出)
(輸入)
(直接輸入)
製造業
(間接輸入)
国外の
卸売業
小売業
消費者
- 67 -
供給者
再輸出のデータを保有している国は 10 か国に止まる。
(付論3)国際財貨サービス貿易統計の不突合解
消に関する議論
相手国別データの不突合は、国際サービス貿易統計で
も問題化している。OECD・WTO は、1995 年以来、共
同してサービス貿易の相手国別データの不突合解消に取
国際財貨貿易統計では、輸入が保険料や輸送費を含む
り組んでいるが、近年、両機関で TiVA を共同開発した
CIF で、輸出がこれらを含まない本船渡し価格 FOB で
こともあって、当該作業にさらに傾注している。今次会
計上されることから、取引相手国別データの不突合の要
合では、188 か国を対象とする共同作業の進捗状況が報
因となる。事前の加盟国アンケートでは、この問題の解
告された。両機関では、国際サービス貿易の相手国別デ
決に関し、11 か国が輸入を FOB でも作成することが可
ータを TiVA の推計で用いるため、サービス分類毎に、
能とした。もっとも、ドイツこそ、国際収支統計作成に
同指標が対象とする 61 か国とその他のマトリックス表
あたっての CIF から FOB への転換方法として、
輸送手段、 を作成している。今後、GDP や国の間の物理的距離と
仕向地、距離、商品といった区分毎に丁寧な調整を行う
いった様々な変数を用い回帰モデルにより同表を作成し
と説明したが、他の国は、固定比率を用いて輸送サービ
て行く方法で、推計精度を向上させて行く方向である。
スや保険サービスを取り除くとしており、これを相手国
この間、貿易データについては、相手国別データにお
別、商品別に行うことができる国は 10 に止まる。こう
いて HS と呼ばれる税関当局の商品分類が用いられてい
した状況下、OECD 事務局は、CIF と FOB の差額につ
るが、TiVA の推計では、これを産業分類(ISIC)に転
いて、モデルに基づく推計を行い、CIF 価格の 6.7%に
換している。今次 OECD アンケートでは、こうした転
相当するとの試算を報告した。この点、先行研究では、
換を各国において行うことができるかどうかを問うてい
3%~ 7%の範囲の試算値が報告されており、OECD の
るが、これに対し 15 か国が可能であり、2 か国が要請
試算は、先行研究と概ね整合的な結果となった。
されれば検討可能と回答している。
なお、香港のような、国境を越える財貨取引のハブと
そうした分類替えの問題は、国際サービス貿易統計で
なる国は、輸入した財貨を原形のまま輸出するといった
も生じるものであり、相手国別データについて、国際収
再輸出を活発に行っているが、これも、相手国別データ
支統計の分類を ISIC に転換している国は 4 か国、要請
の不突合の要因となる。この点、アンケートによれば、
されれば検討可能とする国は 4 か国に止まっている。
- 68 -
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